特許第6263271号(P6263271)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 田辺三菱製薬株式会社の特許一覧

特許6263271心血管疾患の治療または予防に用いるためのコレステリルエステル転送タンパク質(CETP)阻害剤および当該阻害剤を含む医薬組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263271
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】心血管疾患の治療または予防に用いるためのコレステリルエステル転送タンパク質(CETP)阻害剤および当該阻害剤を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/506 20060101AFI20180104BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20180104BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   A61K31/506ZMD
   A61K9/48
   A61P3/06
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-550780(P2016-550780)
(86)(22)【出願日】2014年2月5日
(65)【公表番号】特表2017-505333(P2017-505333A)
(43)【公表日】2017年2月16日
(86)【国際出願番号】NL2014050068
(87)【国際公開番号】WO2015119495
(87)【国際公開日】20150813
【審査請求日】2016年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002956
【氏名又は名称】田辺三菱製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138900
【弁理士】
【氏名又は名称】新田 昌宏
(74)【代理人】
【識別番号】100176474
【弁理士】
【氏名又は名称】秋山 信彦
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・フォード
(72)【発明者】
【氏名】パトリック・ラウンド
(72)【発明者】
【氏名】ヨン・カステレイン
(72)【発明者】
【氏名】川口 敦弘
(72)【発明者】
【氏名】富安 晃一
(72)【発明者】
【氏名】岡 幸蔵
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−530443(JP,A)
【文献】 特開2007−119450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
9/00− 9/72
47/00−47/69
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心血管疾患に罹患したまたはリスクが高い対象の治療に用いるためのものであって、以下の式の化合物(以下:化合物A)またはその医薬的に許容される塩を含み、
【化1】
当該対象に投与する化合物Aの用量が1mg〜25mg/日の範囲であることを特徴とする、医薬組成物。
【請求項2】
投与を必要としている対象に投与する当該化合物の用量が5mg〜10mg/日の範囲であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
投与を必要としている対象に投与する当該化合物の用量が5mg/日または10mg/日である、請求項1または2のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項4】
当該化合物を、投与を必要としている対象に1、5、10、20、40、52、100または200週間投与する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
当該化合物を、投与を必要としている対象に少なくとも1週間、好ましくは少なくとも3週間投与する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
脂質異常症または混合型脂質異常症に罹患したまたはリスクが高い対象の治療に用いるための、請求項1〜5のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
単一単位剤形として製剤化する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
単一単位剤形が1mg〜25mgまたは5mg〜10mgの化合物Aを含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
単一単位剤形が5mgまたは10mgの化合物Aを含む、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
固体経口剤形として製剤化する、前請求項1〜9のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項11】
錠剤またはカプセルとして製剤化する、前請求項1〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心血管疾患、特に脂質異常症または混合型脂質異常症に罹患したまたはリスクが高い対象の治療に用いるための、コレステリルエステル転送タンパク質(CETP)阻害剤および当該CETP阻害剤を含む医薬品に関する。
【背景技術】
【0002】
前向き疫学研究により、低密度リポタンパクコレステロール(LDL−C)レベルと心血管疾患(CVD)リスクとの間に強い関連性が示されている(1)。その後、スタチン療法を応用してこれらアテローム生成性LDL−Cレベルを減少させることにより、CVD関連罹病率および死亡率は顕著に減少した:LDL−Cが1mmol/L減少するごとに、推定で、CVDイベントは22%減少し、全死因死亡率は10%減少した(2)。このような優れたメリットがあるにも関わらず、未解決の大きな疾患の負担は根強く残っており、患者個人と地球規模での医療費の両方に大きな影響を与えている(3)。患者において、この未解決のCVDリスクをさらに減少させるには、新規な治療法が必要である。
【0003】
LDL−Cを減少させ、HDL−Cレベルを増大させる新しいアプローチの1つは、コレステロールエステル転送タンパク質(CETP)を阻害することである。CETPは、主に肝臓および脂肪組織により分泌される血漿タンパク質である。CETPは、トリグリセリドと引き換えに、コレステリルエステルの、HDLからアポリポ蛋白B(アポB)含有粒子(主にLDLおよびVLDL)への転送を仲介し、従って、(V)LDL中のコレステロールが有利になるようにHDL中のコレステロール含有量を減少させる。従って、CETPを阻害することにより、コレステリルエステルはHDL−C中に保持され、アテローム生成性アポBフラクションのコレステロール含有量は減少すると仮定されている。
【0004】
CETPを阻害することにより心血管疾患の病的状態が減少する可能性を支持する証拠があるにも関わらず、CETP阻害剤の臨床開発は容易ではなかった。第3相臨床試験に進んだ最初の化合物はトルセトラピブであり、60mgで投与された。トルセトラピブにより、HDL−Cは72%増大し、LDL−Cは25%減少することが示されたが、その後、アトルバスタチンと組み合わせた場合に、アトルバスタチン単独と比較して、心血管系イベントおよび死亡が予想外に増加したことを含め、安全上の懸念から、開発は取り下げられた(11)。
【0005】
これらのイベントのメカニズムは十分にはわかっていないものの、それらは、血圧の上昇、電解質の変化(ナトリウムおよび重炭酸の増加、並びにカリウムの減少)、およびアルドステロンの増加のような、鉱質コルチコイド作用と合致する、トルセトラピブの的外れな効果に起因していた可能性がある、という証拠が増えている(11,12,13,14,15)。トルセトラピブによりエンドセリン−1の発現が増大する、という動物実験の証拠もいくつかあり、ILLUMINATE試験においてがん死亡が明らかに(有意でない)増加した一因になっていたと仮定されている(16,17)。このような観察には、比較的高用量のトルセトラピブが関連していた可能性がある。
【0006】
続いて、別のCETP阻害剤であるダルセトラピブが第2b相臨床試験に入った。ダルセトラピブは、HDL−Cを30〜40%増大させ、LDL−C濃度にわずかに影響を与える弱い阻害剤であることが示されたが、トルセトラピブの的外れな効果を示すようには見えなかった(18,19,20)。最近、ダルセトラピブの開発も、当該薬物が600mgで投与された第3相試験において効果がなかったことを理由に打ち切られた。有効性の欠如には、おそらく、CETP阻害がわずかであることが関連していたのであろう(18)。
【0007】
現在、さらに2つのCETP阻害剤であるアナセトラピブおよびエバセトラピブ(evacetrapib)が第3相臨床試験にある。第2相試験のデータから、いずれも鉱質コルチコイド作用のないCETP阻害剤であることが示唆されている。絶食した健康な対象では、1日1回、200mgのアナセトラピブにより、HDL Cは97%増大し、LDL−Cは36%減少することが示され(21)、患者では、1日1回、150mgのアナセトラピブにより、HDL Cが139%増大し、LDL−Cが40%減少することが示された(22)。エバセトラピブ(患者における、1日1回、500mgの単剤療法)により、HDL−Cは129%増大し、LDL−Cは36%減少することが示された(23)。
【0008】
現在進行中の第3相試験では、1日1回、100mg用量のアナセトラピブが臨床的に評価されている一方、エバセトラピブについては、1日1回、130mg用量が評価されている。そのような比較的高用量の活性成分は、いくつかの問題をもたらし得る。
【0009】
上記のCETP阻害剤は比較的多量に投与しなければならないという事実があることから、錠剤またはカプセルのような固体経口剤形は比較的大きくなるであろう。このことは、そのような錠剤およびカプセルの飲み込みに関する問題をもたらす。代わりに、より小さな錠剤またはカプセルを複数投与することを選択してもよいが、これには、患者のコンプライアンスおよびコストにマイナスの影響がある。
【0010】
現在のCETP阻害剤を用いるさらなる欠点は、CETP阻害をもたらすには比較的高用量を用いなければならないことから、より多くかつより強い副作用が起こり得ることである。このことは、患者の身体的健康と患者のコンプライアンスの両方にマイナスの影響を与え得る。その上、既知のCETP阻害剤はバイオアベイラビリティが低いことから、対象間で薬物動態にばらつきが生じ得る。その上、既知のCETP阻害剤(例えばアナセトラピブ)が有効であるには比較的高用量が必要とされることから、これらのCETP阻害剤が体外に排泄されるには数年を要するであろう(参考文献 The American Journal of Cardiology available online 4 October 2013: Evaluation of Lipids, Drug Concentration, and Safety Parameters Following Cessation of Treatment With the Cholesteryl Ester Transfer Protein Inhibitor Anacetrapib in Patients With or at High Risk for Coronary Heart Disease Antonio M. Gotto Jr. et al.)。
【0011】
従って、上記の欠点を示さない、強力かつ耐容性の良好なCETP阻害剤およびその医薬組成物を提供する必要性が残っている。
【発明の詳細な説明】
【0012】
発明の概要
本発明の第1の態様は、心血管疾患に罹患したまたはリスクが高い対象の治療に用いるためのものであって、当該対象に投与する化合物Aの用量が1〜25mg/日の範囲である、以下の化合物(以下、化合物Aという)またはその医薬的に許容される塩に関する。
【化1】
【0013】
本発明の第2の態様は、心血管疾患に罹患したまたはリスクが高い対象の治療に用いるための医薬組成物であって、医薬的に許容される賦形剤と一緒に、治療的有効量の化合物Aまたはその医薬的に許容される塩を含む組成物に関する。本発明の医薬組成物により対象に投与する化合物Aの用量は、好ましくは約1〜25mg/日の範囲である。
【0014】
臨床研究により、化合物Aが強力なCETP阻害剤であることが示されている。他の既知のCETP阻害剤と比較して、化合物Aは、ほぼ完全なCETP阻害をもたらすのに、比較的低用量しか必要とされない。典型的には、ほぼ完全なCETP阻害をもたらすには、化合物Aを1日1回、2.5mgもの低用量で反復投与するだけで十分であることが証明されている。これらの用量は、他のCETP阻害剤で用いなければならないものより大幅に低い。
【0015】
その上、臨床研究により、化合物Aの耐容性は良好であり、深刻な副作用をもたらさないことも示されている。例えば、血圧または心拍数に臨床的に意義のある影響は観察されておらず、化合物Aが血清電解質またはアルドステロン濃度に影響を与えるようにも見えない。臨床研究により、化合物Aは、食事の影響を受けず、また、請求項に係る用量で、投与を中止した時に、長期にわたる残留効果を示さないことも示されている。
【0016】
本発明の第3の態様は、医薬組成物それ自体、すなわち1〜25mgの化合物Aまたはその医薬的に許容される塩、および医薬的に許容される賦形剤を含む組成物に関する。
【0017】
本発明の第4の態様は、そのような組成物の調製方法に関する。
【0018】
定義
本明細書で用いられる用語「医薬組成物」は、その慣習の意味を持ち、医薬的に許容される組成物を指す。
【0019】
本明細書で用いられる用語「医薬的に許容される」は、その慣習の意味を持ち、正しい医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、および問題のある他の合併症なしに、哺乳類、特にヒトの組織と接触させるのに適しており、妥当なリスク・ベネフィット比に見合う、化合物、物質、組成物および/または剤形を指す。
【0020】
本明細書で用いられる用語「治療的有効量」は、その慣習の意味を持ち、哺乳類において所望の効果をもたらすのに有効な量または濃度、例えば、哺乳類、特にヒトに影響を与える疾患または病状の症状を低減、除去、治療、予防または制御するのに有効な量または濃度を指す。
【0021】
用語「制御する」は、哺乳類に影響を与える疾患および病状の進行が、減速、中断、停止または終了し得る全ての過程を指すことを意図している。しかしながら、「制御する」は、必ずしも全ての疾患および病状の症状を完全に除去することを示すものではなく、予防的治療を含むことを意図している。
【0022】
本明細書で用いられる用語「賦形剤」は、その慣習の意味を持ち、顆粒、固体または液体経口投与製剤を調製するのに製薬技術で一般的に用いられる医薬的に許容される成分を指す。
【0023】
本明細書で用いられる用語「塩」は、その慣習の意味を持ち、化合物Aの酸付加物および塩基性塩(base salt)を含む。
【0024】
用語「リスクが高い」は、その慣習の意味を持ち、LDL−コレステロールレベルが2.6mmol/lを上回っており、低レベルの対象と比較して、高リスクの心血管系イベントに暴露されているような対象、好ましくはヒト(ここに、男性または女性の個体)の状況を指す。
【0025】
本明細書で用いられる用語「治療」は、その慣習の意味を持ち、治癒的、緩和的および予防的治療を指す。
【0026】
用語「心血管疾患」は、その慣習の意味を持ち、動脈硬化、末梢血管疾患、脂質異常症、混合型脂質異常症 ベータリポタンパク血症、低アルファリポタンパク血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、家族性高コレステロール血症、狭心症、虚血、心虚血、脳卒中(stroke,cerebral stroke)、心筋梗塞、再灌流傷害、血管形成術後の再狭窄、高血圧および脳梗塞を含む。
【0027】
用語「単位剤形」は、その慣習の意味を持ち、対象、好ましくはヒトに投与すると有効である可能性があり、容易に取り扱いおよび包装することができ、治療薬、すなわち化合物Aを含む物理的および化学的に安定な単位用量としてとどまる剤形を指す。
【0028】
発明の詳細な説明
本発明の第1の態様は、心血管疾患に罹患したまたはリスクが高い対象、好ましくはヒトの治療に用いるためのものであって、当該対象に投与する化合物Aの用量が約1〜25mg/日の範囲である、以下の化合物(以下、化合物Aという)またはその医薬的に許容される塩に関する。
【化2】
【0029】
化合物Aそれ自体は、既に欧州特許出願第EP1730152号に記載されており、多くのCETP阻害剤の中のCETP阻害剤の1つとして同定された。驚くべきことに、現在では、EP 1730152に記載されているあるいは臨床的に用いられている他のCETP阻害剤と比較して、化合物Aの薬力学的および薬物動態的特性は群を抜いて良好であり、特に、化合物Aのバイオアベイラビリティは、他の既知のCETP阻害剤より驚くほど優れていることが見いだされている。化合物Aは、約1〜25mg/日、好ましくは1〜10mg以下/日の比較的低用量で、有効に臨床的に用い得ることも見いだされている。そのような用量は、好ましくは、化合物Aおよび賦形剤を含む医薬組成物として投与する。先行技術は、CETP阻害剤がそのような低用量で有効に用い得ることを開示または示唆していない。この点についてアナセトラピブおよびエバセトラピブを引き合いに出すと、いずれも、臨床設定において、1日1回、100mgを超える用量が必要とされた。
【0030】
好ましくは約5〜10(10まで。10も含む)mg/日用量の化合物A、代わりに、約5mg用量の化合物A、約10mg用量の化合物A、または約25mg用量の化合物Aを用いる。
【0031】
臨床研究により、化合物Aを投与した対象において、請求項に係る約1〜25mg/日の用量範囲内で、ほぼ完全なCETP阻害、HDL−コレステロール濃度の有意な増大、およびLDL−コレステロールレベルの顕著な減少をもたらし得ることが示されている。臨床研究により、これらの効果は、化合物Aを単回投与した後に既に生じていることも示されている。
【0032】
しかしながら、化合物Aを必要としている対象に、1日1回、約1〜25mg用量、好ましくは1日1回、約5〜10mg用量を、長期間投与することが好ましい。好ましくは、化合物Aを必要としている対象は、約1〜25mg、好ましくは約5〜10mgの1日用量を、1、5、10、20、40 52、100または200週間投与される。
【0033】
投与を必要としている対象、すなわち心血管疾患に罹患した人または心血管疾患のリスクが高い人に、1〜25mg/日用量を、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも3週間投与することは特に好ましい。
【0034】
臨床研究により、約1〜25mg/日、好ましくは約5〜10mg/日の比較的低用量の化合物Aで、深刻な有害影響は見られなかったことも示されている。例えば、血圧または心拍数に臨床的に意義のある影響は観察されておらず、請求項に係る用量で、化合物Aが、血清電解質またはアルドステロン濃度等に、的外れな効果を与えるようにも見えない。化合物Aは、請求項に係る1日用量で、食事の影響を受けず、また、請求項に係る用量で、投与を中止した時に、薬物が不完全に排出されることに起因する長期にわたる残留効果を示さないことも示されている。
【0035】
約1〜25mg/日用量、好ましくは約5〜10mg用量の化合物Aは、動脈硬化、末梢血管疾患、脂質異常症、混合型脂質異常症、高ベータリポタンパク血症、低アルファリポタンパク血症、高コレステロール血症、高トリグリセリド血症、家族性高コレステロール血症、狭心症、虚血、心虚血、脳卒中(stroke,cerebral stroke)、心筋梗塞、再灌流傷害、血管形成術後の再狭窄、高血圧および脳梗塞のような心血管疾患に罹患したまたはリスクが高い人の治療に用いるのに特に適している。
【0036】
CETP活性の顕著な減少、LDL−コレステロール血漿濃度の顕著な減少、並びにHDL−コレステロール血漿濃度の有意な増大、副作用および食事の影響がないことを考慮すると、約1〜25mg、好ましくは1〜10mgの1日用量の化合物Aは、混合型脂質異常症、脂質異常症、または特に一次脂質異常症に罹患したまたはリスクが高い患者の治療に用いるのに特に適しているように見える。
【0037】
化合物Aそれ自体の他に、その医薬的に許容される塩を用いることもある。化合物Aの医薬的に許容される塩としては、好ましくは、カルシウム、カリウムまたはナトリウム塩のような、その酸付加物および塩基性塩が挙げられる。適切な塩に関する総説については、StahlおよびWermuthによる「Handbook of Pharmaceutical Salts: Properties, Selection, and Use」(Wiley-VCH, Weinheim, Germany, 2002)を参照されたい。
【0038】
化合物Aの医薬的に許容される塩は、必要に応じて、化合物Aの溶液と、所望の酸または塩基とを混合することにより容易に調製してもよい。塩は溶液から沈殿することがあり、ろ過により集めるか、あるいは溶媒を蒸発することにより回収してもよい。塩におけるイオン化度は、完全にイオン化しているものからほとんどイオン化していないものまで様々である。
【0039】
本発明は、当該心血管疾患に罹患したまたはリスクが高い対象の治療に用いるための、化合物Aの医薬的に許容される溶媒和物、およびそのような溶媒和物を含む医薬組成物にも関する。
【0040】
本発明の範囲内にある他のものは、いわゆる化合物Aの「プロドラッグ」である。従って、それ自体はほとんどまたは全く薬理学的活性がなくてもよい化合物Aの特定の誘導体が、体内に投与されると、所望のCETP阻害活性を有する化合物Aに変換されることがある。そのような誘導体は、本発明の文脈において「プロドラッグ」と称される。本発明に沿ったプロドラッグは、例えばH.Bundgaardによる「Design of Prodrugs」(Elsevier, 1985)に記載されているように、化合物A中に存在する適切な機能性を、当業者に「プロ部分(pro−moiety)」として知られている特定の部分と置き換えることにより作り出すことができる。
【0041】
化合物Aの請求項に係る用量は、好ましくは、投与を必要としている対象に経口投与する。好ましくは、化合物Aは医薬組成物を用いて投与する。経口投与には、化合物が胃腸管に入るように、飲み込みが伴うことがある。代わりに、化合物Aが口から直接血流に入る場合は、バッカルまたは舌下投与を用いることもある。下記のように、経口投与を容易にする医薬品を開発してもよい。
【0042】
本発明の第2の態様は、心血管疾患に罹患したまたはリスクが高い対象の治療に用いるための医薬組成物であって、医薬的に許容される賦形剤と一緒に、治療的有効量の化合物Aまたはその医薬的に許容される塩を含む組成物に関する。化合物Aおよびその医薬塩(pharmaceutical salt)またはプロドラッグは上記のようであってもよい。
【0043】
本発明の医薬組成物により対象に投与する化合物Aの用量は、好ましくは約1〜25mg/日、より好ましくは約5〜10mg/日の範囲である。代わりに、約5mg用量の化合物A、約10mg用量の化合物A、または約25mg用量の化合物Aを用いる。
【0044】
既に上記されているように、臨床研究によって、そのような比較的低用量の化合物Aにより、CETP活性の顕著な減少、LDL−コレステロール血漿濃度の顕著な減少、およびHDL−コレステロール血漿濃度の有意な増大がもたらされることが示されている。その上、そのような用量で、深刻な有害影響は生じておらず、食事の影響は観察されておらず、化合物Aは、投与を中止した時に、長期にわたる残留効果を示さないことも示されている。
【0045】
本発明に従って用いるための医薬組成物は、好ましくは、投与を必要としている対象に、1、5、10、20、40、52、100または200週間投与する。投与を必要としている対象に、医薬組成物を、少なくとも1週間、好ましくは少なくとも3週間投与することは特に好ましい。
【0046】
本発明の好ましい態様において、医薬組成物は、単一単位剤形(single unit dosage form)として製剤化する。単一単位剤形は、好ましくは、錠剤またはカプセルのような固体経口剤形である。好ましくは、単一単位剤形は、約1〜25mgの化合物A、好ましくは約5〜10mgの化合物Aを含む。約1〜25mg、好ましくは約5〜10mgの化合物Aを含む、錠剤またはカプセルのような固体経口剤形を用いることは特に好ましい。
【0047】
本発明の文脈において用いてもよい固体経口剤形としては、錠剤およびカプセルの他に、特に、カプレット、トローチ、丸薬、ミニ錠剤(mini−tablet)、ペレット、ビーズ、およびサシェで包装された顆粒が挙げられる。本発明の医薬品に用いてもよい液体経口剤形としては、これらに限定されないが、飲料(drink,beverage)、溶液および乳濁液が挙げられる。
【0048】
本発明に用いるための医薬組成物は、化合物Aの他に、賦形剤、すなわち、顆粒、固体または液体経口投与製剤を調製するための製薬技術で一般的に用いられる医薬的に許容される成分も含む。
【0049】
賦形剤の種類の例としては、これらに限定されないが、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動促進剤、増量剤および希釈剤が挙げられる。当業者は、顆粒および/または固体経口剤形の特定の所望の特性に関して、日常の実験により、過度な負担なしに、1つ以上の前記の賦形剤を選択してもよい。用いる各賦形剤の量は、当該技術分野で慣習の範囲内で変えてもよい。以下の参考文献は全て参照により本明細書に引用され、経口剤形を製剤化するのに用いるための技術および賦形剤を開示している。「The Handbook of Pharmaceutical Excipients」, 4th edition, Rowe et al., Eds., American Pharmaceuticals Association (2003)、および「Remington: The Science and Practice of Pharmacy」, 20th edition, Gennaro, Ed., Lippincott Williams & Wilkins (2000)を参照のこと。
【0050】
本発明の第3の態様は、約1〜25mgの化合物Aまたはその医薬的に許容される塩、および医薬的に許容される担体を含む医薬組成物それ自体に関する。好ましくは、医薬組成物は、5〜10mgの化合物Aまたはその医薬的に許容される塩を含む。
【0051】
化合物A、並びにその医薬的に許容される塩および可能なプロドラッグは、上記の形態であってもよい。
【0052】
医薬組成物は、好ましくは、上記の単一の単位剤形として製剤化する。より好ましくは、組成物は、液体経口剤形または固体経口剤形、最も好ましくは錠剤またはカプセルとして製剤化する。
【0053】
好ましい態様において、医薬組成物は、約1〜25mg、好ましくは5〜10mgの化合物Aまたはその医薬的に許容される塩を含む錠剤またはカプセルを含む。
【0054】
本発明の第4の態様は、上記の医薬組成物の調製方法に関する。化合物Aの医薬組成物は、当業者に周知の方法により調製してもよい。
【0055】
本発明はさらに、以下の非限定例を用いて説明されるであろう。
【実施例】
【0056】
以下の実施例において、化合物Aは、インビトロアッセイ、エクスビボおよび臨床的に検討した。化合物Aの合成については、国際特許出願WO 2005095409に記載されている方法を用いた。
【0057】
実施例1:インビトロおよびエクスビボ
インビトロアッセイの実験方法
(a)ヒト血漿の調製
ヒト血液を、健常男性ボランティアから得て、抗凝固剤として0.1%EDTAを用いて、3,000rpmにて遠心分離した。ヒト血漿をプールし、次いでH標識HDLの調製に用いるか、あるいはCETPアッセイ用に使用するまで−80℃で保存した。H標識HDLは、ヒト血漿を用いて、GlennおよびMelton(Methods in enzymology. 263; 339-351, 1996)により記載されているように調製した。血漿の比重を比重計により測定し、密度を、固体KBrを加えることにより1.125g/mLに調整した。100,000rpmにて12℃で4時間遠心分離(ローター:100.4,Optima TLX,Beckman)した後、d>1.125g/mLフラクションを、4Lのトリス生理食塩水−EDTA緩衝液(TSE;50mmol/L トリス,150mmol/L NaCl,2mmol/L EDTA,pH7.4)に対して4℃で18時間透析した。[1,2−H(N)]−コレステロール(37MBq/mL)を、2μCi/mLの量で、透析した血漿フラクションに加えた。チューブをNガス流下でしっかりと密封し、穏やかに撹拌しながら、37℃で18時間インキュベートし、放射標識コレステロールを内因性LCATによりエステル化させた。インキュベートした血漿フラクションを固体KBrによりd=1.21g/mLに調整し、100,000rpmにて12℃で5時間遠心分離した。H標識HDLフラクションを、2LのTSEに対して4℃で18時間透析した。H標識HDLの放射能を液体シンチレーションカウンター内で測定した。H標識HDLは、使用するまで4℃で保存した。
【0058】
(b)CETPアッセイ
CETP活性は、ドナーであるHDLからアクセプターであるVLDL/LDLへのH標識CEの転送割合として決定した。ヒト血漿(94μL)を、DMSO(1μL)に溶解した化合物と37℃で24時間プレインキュベートし、次いで5μLのH標識HDLと4℃または37℃で4時間インキュベートした。100μLのタングストリン酸/MgCl試薬(Wako pure chemical)を加えて、apoB含有リポ蛋白を沈殿させた。3,000rpmにて室温で10分間遠心分離した後、上清の放射能を液体シンチレーションカウンター内で測定した。CETP活性を、以下のように、37℃でインキュベートしたサンプルと4℃でインキュベートしたサンプルとの間の放射能の差として決定した:%阻害=100−{dpm(4℃でのDMSO−37℃での試験化合物)/dpm(4℃でのDMSO−37℃でのDMSO)}×100。CETP活性の50%阻害濃度(IC50)を推定した。
【0059】
エクスビボアッセイの実験方法
(a)化合物の投与および血液の採取
シリアンゴールデンハムスターは、1週間順化させた後、実験に用いた。一晩絶食させた後、動物に、10mL/kgの量で化合物を含む0.5%カルボキシメチルセルロースナトリウム懸濁液を経口投与した。投与3時間後に、血液を、エーテル深麻酔下で腹部大動脈から採取した。血清を調製するために、採取した血液を、凝固活性剤(clot activator)を入れたプラスチックチューブに移し、室温で15分間静置し、遠心分離した。血清CETP活性を直ちに測定した。
【0060】
(b)エクスビボでの血清CETP活性の測定
血清95μLを、1.5mM 5,5’−ジチオ−ビス(2−ニトロ安息香酸)を含む0.1mM リン酸ナトリウム緩衝生理食塩水(pH7.0)5μLを入れた2枚の96ウェルV底プレートに加えた。一方のプレートは4℃でインキュベートし、もう一方は37℃でインキュベートした。18時間インキュベートした後、アポリポ蛋白B含有リポ蛋白を沈殿させるために、各サンプルを100μLの試薬と混合し(タングストリン酸/MgCl試薬、Wako pure chemical)、室温で10分間静置し、遠心分離した。上清中の総コレステロール(TC)および遊離コレステロール(FC)は、市販キット(Cholesterol E−test wakoおよびFree Cholesterol E−test wako;Wako pure chemical)を用いて測定した。コレステリルエステル(CE)は、TCからFCを引くことにより算出した。CETP活性は以下の式により決定した:
CETP活性=[CETP転送]*/[4℃でインキュベートしたサンプルにおけるCE値]
*CETP転送=[4℃でインキュベートしたサンプルにおけるCE値]−[37℃でインキュベートしたサンプルにおけるCE値]
【0061】
【表1】

【0062】
実施例2:化合物Aまたはプラセボを複数回投与された被験者の二重盲検ランダム化試験
研究デザイン
臨床研究は、18〜55歳の白人男性被験者5群における反復投与試験であった。各被験者は、1日目に化合物A/プラセボを単回経口投与され、続いて、8〜35日目(5mgの化合物A/プラセボ−群1)または8〜28日目(1、2.5、10および25mgの化合物A/プラセボ−群2〜5)に1日1回投与された。用量は全て、治験実施医療機関で標準的な朝食の後に投与した。各用量群の被験者は、化合物A10対プラセボ2の比で試験治療に割り付けた。薬物動態および薬力学(CETP活性、CETP濃度、HDL−C、LDL−C、総コレステロール、トリグリセリド)を評価するための血液サンプルは、各投与前、および最終投与336時間後まで試験を通して周期的に採取した。二次薬力学的エンドポイント(アポリポ蛋白A1、A2、BおよびE、HDL2−C、HDL3−C、リン脂質、HDL−遊離コレステロール[HDL−FC]、HDL−コレステリルエステル[HDL−CE]、HDL−リン脂質[HDL−PL]、HDL−トリグリセリド[HDL−TG]、並びにLDL粒子サイズを含む)は、最終投与日まで周期的に測定した。尿は、薬物動態用に、投与前、並びに初回および最終投与72時間後まで周期的に採取した。有害事象、血圧および脈拍数、ECG、実験室での安全性試験(アルドステロンを含む)、並びに健康診断を含む安全性評価は、両試験を通して実施した。
【0063】
解析方法
化合物Aの血漿および尿濃度は、妥当性が認められている(validated)液体クロマトグラフィー/タンデム質量分析(LC/MS/MS)法を用いて測定した。両アッセイの定量の下限(LLQ)は0.500ng/mLであった。CETPの血漿濃度は、妥当性が認められている酵素結合免疫吸着検査法(ELISA)を用いて測定し、定量の下限(LLQ)は0.500μg/mLであった。CETP活性は、ドナーであるHDLからアクセプターであるVLDL/LDLへの[H]標識CEの転送割合として決定した。[H]CE標識HDLをヒト血漿に加え、37℃で4時間インキュベートした。非HDLリポ蛋白を沈殿させ、HDLから分離し、上清中の放射能量を定量した。CETP活性を、37℃でインキュベートしたサンプルと4℃でインキュベートしたサンプルとの間の放射能の差として決定した。HDL−CおよびLDL−Cは、Modular analyser(Roche Diagnostics)を用いて、均一酵素比色分析により測定した。総コレステロールおよびトリグリセリドは、それぞれ、Modular analyser(コレステロールオキシダーゼ・ペルオキシダーゼ−ペルオキシダーゼ アミノフェナゾン フェノール[CHOP−PAP])法、およびグリセロールリン酸オキシダーゼ[GPO−PAP]法を用いて、均一酵素アッセイにより測定した。ApoA1、ApoA2、ApoBおよびApoEは、Rolf Greiner Biochemica(ドイツ)の試薬およびSiemens(ドイツ)のN−アポ蛋白標準血清を用いて、免疫比濁法により測定した。LDL粒子サイズは勾配ゲル電気泳動により決定した。HDLフラクションは、超遠心分離/沈殿を組み合わせた方法(ベータ定量法)により分離した。次いで、さらに超遠心することにより、HDL−2とHDL−3フラクションを分離した。HDL、HDL−2およびHLD−3フラクション中の総コレステロール、HDLフラクション中の遊離コレステロール、HDLフラクション中のトリグリセリド、並びに血漿およびHDL−フラクション中のリン脂質は、酵素法およびDiasys Diagnostics(ドイツ)の試薬を用いて測定した。測定はOlympus AU600 automatic analyzerで実施し、Roche Diagnostics(総コレステロール、トリグリセリド)およびDiasys Diagnostics(遊離コレステロール、リン脂質)の二次標準をそれぞれ用いて校正した。エステル型コレステロールは、総コレステロールと遊離コレステロールとの間の差として算出した。
【0064】
統計解析
試験のサンプルサイズは、統計的検出力よりはむしろ、実務的な考慮事項に基づいて選択した。各群の被験者数は、各試験の主要目的を評価するのに十分であると考えられた。被験者は、コンピューターで生成したランダム化コードを用いて、各群内で化合物Aまたはプラセボに割り付けた。薬物動態パラメーターは、WinNonlin software version 4.1(Pharsight Corporation,USA)を用いて、非コンパートメント法により決定した。全てのデータをリストアップし、記述統計学を用いて治療群ごとに要約した。本試験では、ANOVAモデルを用いて、化合物Aの各用量レベルでのベースラインからの最大パーセント変化を、プールしたプラセボと比較した。統計解析は全て、SAS version 6.12以上(SAS Institute Inc.USA)を用いて実施した。
【0065】
薬物動態の結果
本試験では、血漿濃度は、1〜25mgを単回投与した後、用量におよそ比例して増大するように見えたものの、定常状態では非比例性が観察された:用量が25倍増大すると、Cmin,ss、AUC0−tau,ssおよびCmaxssはそれぞれ、7倍、9倍および12倍増大する。Tmaxは用量と無関係であり、中央値は投与4〜6時間後であった。単回および複数回投与した後のばらつきはわずかであり、Cmax、CminおよびAUCパラメーターのCVは≦33%であった。トラフ濃度の目視検査は、化合物Aが、連日投与の1〜2週間以内に定常状態に近づいたことを示唆している。化合物Aを最終投与した後の平均終末相半減期は121〜151時間であり、用量と無関係であった。類似の半減期は、5〜25mgの化合物Aの単回投与と複数回投与との間でそれぞれ観察された。化合物Aは、1日1回投与で用量依存的に蓄積し、1mgでの約6倍から25mgでの2倍まで増大した。
【0066】
薬力学の結果
ベースラインの薬力学的パラメーターは、試験の治療群間で良くバランスがとれていた。化合物Aは、単回および反復投与した後のいずれも、用量依存的に、CETP活性を強く阻害した。ほぼ完全なCETP阻害は、化合物Aを1日1回、2.5、5、10〜25mg反復投与した後に観察された(〜92〜99%)(表1)。このレベルの阻害は、反復投与期間を通して維持され、各投与の最大の効果は、1日1回投与の1週間以内にもたらされた。最終投与した後の阻害期間は用量に依存し、活性は、最低用量(1mg)の後では、2週間までにベースラインレベルに近づいたが、10および25mgを投与した後では、2週間時点でも依然としてベースラインを約50%下回っていた。CETP活性は、化合物Aの投与により減少したものの、CETP濃度は、単回および複数回投与した後のいずれも、用量依存的に増大した。CETP濃度は、化合物Aを1日1回、10mgおよび25mg投与した3週間後、ベースラインから2.5〜2.8倍増大した。CETP濃度は、血漿薬物濃度と並行して減少した。化合物Aの投与を中止した後、1mgおよび5mgの化合物Aの後では、濃度は2週間以内にベースライン値に近づいたのに対して、10mgおよび25mgの化合物Aの後では、濃度は2週間時点でも依然としてベースラインより約1.4倍高かった。CETP活性およびCETP濃度の最大パーセント変化は、化合物Aの全ての用量レベル(1〜25mg)で、プラセボと比べて統計的に有意な差があった(p<0.0001)。
【0067】
HDL−C濃度は、複数回投与した後、用量依存的に増大した。1日1回、2.5〜25mg用量の化合物Aは、HDL−Cを、ベースラインから約96%〜最大140%まで顕著に増大させた。LDL−C濃度は用量依存的に減少し、1日1回、2.5〜25mgの化合物Aの後、ベースラインから最大で約40%〜53%減少した。ベースラインからの最大パーセント変化は、HDL−Cについては1日1回、5〜25mg用量の化合物Aの後に、LDL Cについては10および25mgの後に、プラセボと比べて統計的に有意な差があった(p<0.0001)。HDL−CおよびLDL−C濃度は、化合物Aの投与を中止した後、CETP阻害が減少するのと一致して、ベースラインに戻り始めた。用量に依存して、アポA−1、アポE、HDL2−CおよびHDL3−Cは増大、アポB濃度は減少を示す傾向があった。これら全ての変数でばらつきは大きかったにも関わらず、データは、最大の効果が、1日1回、5〜10mg用量の化合物Aでもたらされていた可能性があることを示唆している。用量に依存した傾向はアポA2またはリン脂質にはなかったが、1〜10mgの用量範囲では、用量に依存して、HDL−FC、HDL−CEおよびHDL−PLは増大、HDL−TGは減少し、25mgの化合物Aではさらなる変化は認められなかった。LDL粒子サイズに特筆すべき変化はなかった。さらに、食事、年齢、性別または民族が、薬力学的変数に対して関連する影響があるという証拠は全くなかった。
【0068】
安全性
1日1回、25mg以下の反復投与は、全ての被験者において耐容性良好であった。深刻な有害事象はなく、有害事象を理由に脱落した被験者はいなかった。血圧または心拍数、ECG変数、健康診断または実験室での安全性試験に、臨床的に意義のある影響はなかった。特に、化合物Aは、血清電解質またはアルドステロン濃度に影響を与えなかった。
【0069】
【表2】

値は平均値(SD)である。
群1は、1日目および8〜42日目に、5mgの化合物A/プラセボを投与された。
群2〜5は、1日目および8〜35日目に、1、2.5、10および25mgの化合物A/プラセボを投与された。
【0070】
化合物Aの化学名および式
【化3】

{4−[(2−{[3,5−ビス(トリフルオロメチル)ベンジル][(2R,4S)−1−(エトキシカルボニル)−2−エチル−6−(トリフルオロメチル)−1,2,3,4−テトラヒドロキノリン−4−イル]アミノ}ピリミジン−5−イル)オキシ]ブタン酸}
【0071】
参考文献
1. The Emerging Risk Factors Collaboration. Major lipids, apolipoproteins, and risk of vascular disease. JAMA. 2009;302:1993-2000.
2. Cholesterol Treatment Trialists (CTT) Collaboration. Efficacy and safety of more intensive lowering of LDL cholesterol: a meta-analysis of data from 170000 participants in 26 randomised trials. Lancet. 2010;13:1670-1681.
3. Roger VL, Go AS, Lloyd-Jones DM et al. Heart disease and stroke statistics - 2012 Update: A report from the American Heart Association. Circulation. 2012;125:e12-e230.
4. Johannsen TH, Frikke-Schmidt R, Schou J, Nordestgaard BG, Tybjaerg-Hansen A. Genetic inhibition of CETP, ischemic vascular disease and mortality, and possible adverse effects. J Am Coll Cardio. 2012;60:2041-2048.
5. Voight BF, Peloso GM, Orho-Melander M et al. Plasma HDL cholesterol and risk of myocardial infarction: a mendelian randomisation study. Lancet. 2012;380:572-580.
6. Thompson A, Di Angelantonio E, Sarwar N, Erqou S, Saleheen D, Dullaart RPF, Keavney B, Ye Z, Danesh J. JAMA. 2008;299:2777-2788.
7. Ridker PM, Pare G, Parker AN, Zee RYL, Miletich JP, Chasman DI. Circ Cardiovasc Genet. 2009;2:26-33.
8. Okamoto H, Yonemori F, Wakitani K, Minowa T, Maeda K, Shinkai H. A cholesteryl ester transfer protein inhibitor attenuates atherosclerosis in rabbits. Nature. 2000;406:203-207.
9. Barter PJ, Rye KA. Cholesteryl ester transfer protein inhibition as a strategy to reduce cardiovascular risk. J Lipid Res. 2012;53:1755-1766.
10. Bochem AE, Kuivenhoven JA, Stroes ESG. The promise of cholesteryl ester transfer protein (CETP) inhibition in the treatment of cardiovascular disease. Curr Pharm Des. 2013;19:3143-3149.
11. Barter PJ, Caulfield M, Eriksson M et al. Effects of torcetrapib in patients at high risk for coronary events. N Engl J Med. 2007;357:21009-2122.
12. Kastelein JJP, van Leuven SI, Burgess L et al. Effect of torcetrapib on carotid atherosclerosis in familial hypercholesterolemia. N Engl J Med. 2007;356:1620-1630.
13. Nicholls SJ, Tuzcu EM, Brennan DM, Tardif J-C, Nissen SE. Cholesteryl ester transfer protein inhibition, high-density lipoprotein raising, and progression of coronary atherosclerosis. Insights from ILLUSTRATE (Investigation of Lipid Level Management Using Coronary Ultrasound to Assess Reduction of Atherosclerosis by CETP Inhibition and HDL Elevation). Circulation. 2008;118:2506-2514.
14. Vergeer M, Bots ML, van Leuven SI, Basart DC, Sijbrands EJ, Evans GW, Grobbee DE, Visseren FL, Stalenhoef AF, Stroes ES, Kastelein JJP. Cholesteryl ester transfer protein inhibitor torcetrapib and off-target toxicity: pooled analysis of the rating atherosclerotic disease change by imaging with a new CETP inhibitor (RADIANCE) trials. Circulation. 2008;118:2515-2522.
15. Forrest MJ, Bloomfield D, Briscoe RJ et al. Torcetrapib-induced blood pressure elevation is independent of CETP inhibition and is accompanied by increasing circulating levels of aldosterone. Br J Pharmacol. 2008;154:1465-1473.
16. Simic B, Hermann M, Shaw SG et al. Torcetrapib impairs endothelial function in hypertension. Eur Heart J. 2012;33:1615-1624.
17. Barter PJ, Rye K-A, Beltangady MS et al. Relationship between atorvastatin dose and the harm caused by torcetrapib. J Lipid Res. 2012;53:2436-2442.
18. Schwartz GG, Olsson AG, Abt M et al. Effects of dalcetrapib in patients with recent acute coronary syndrome. N Engl J Med. 2012;367:2089-2099.
19. Stein EA, Stroes ES, Steiner G, et al. Safety and tolerability of dalcetrapib. Am J Cardiol. 2009;104:82-91.
20. Luescher TF, Taddei S, Kaski JC, et al. Vascular effects and safety of dalcetrapib in patients with or at risk of coronary heart disease: the dal-VESSEL randomized clinical trial. Eur Heart J. 2012;33:857-65.
21. Krishna R, Bergman AJ, Fallon et al. Multiple-dose pharmacodynamics and pharmacokinetics of anacetrapib, a potent cholesteryl ester transfer protein (CETP) inhibitor, in healthy subjects. Clin Pharmacol Ther. 2008;84:679-683.
22. Bloomfield D, Carlson GL, Aditi Sapre BS et al. Efficacy and safety of the cholesteryl ester transfer protein inhibitor anacetrapib as monotherapy and coadministered with atorvastatin in dyslipidemic patients. Am Heart J. 2009;157:352-360.
23. Nicholls SJ, Brewer HB, Kastelein JJP et al. Effects of the CETP inhibitor evacetrapib administered as monotherapy or in combination with statins on HDL and LDL cholesterol. JAMA. 2011;306:2099-2109.
24. Dansky HM, Bloomfield D, Gibbons P et al. Efficacy and safety after cessation of treatment with the cholesteryl ester transfer protein inhibitor anacetrapib (MK-0859) in patients with primary hypercholesterolemia or mixed hyperlipidemia. Am Heart J. 2011;162:708-716.
25. Florvall G, Basu S, Larsson A. Apolipoprotein A1 is a stronger prognostic marker than HDL and LDL cholesterol for cardiovascular disease and mortality in elderly men. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2006;61:1262-1266.
26. Walldiius G, Jungner I. Rationale for using apolipoprotein B and apolipoproteins A-1 as indicators of cardiac risk and as targets for lipid-lowering therapy. Eur Heart J. 2005;26:210-212.
27. Barter PJ, Ballantyne CM, Carmena R et al. Apo B versus cholesterol in estimating cardiovascular risk and in guiding therapy: report of the thriy-person/ten-country panel. J Intern Med. 2006;259:247-258.
28. Nordestgaard BG, Chapman MJ, Ray K et al. Lipoprotein(a) as a cardiovascular risk factor: current status. Eur Heart J. 2010;31:2844-2853.
29. Kamstrup PR, Tybjaerg-Hansen A, Nordestgaard BG. Lipoprotein(a) and risk of myocardial infarction - genetic epidemiologic evidence of causality. Scand J Clin Lab Invest. 2011;71:87-93.
30. The Emerging Risk Factors Collaboration. Lipoprotein(a) concentration and the risk of coronary heart disease, stroke and nonvascular mortality. JAMA. 2009;302:412-423.
31. Kamstrup PR, Benn M, Tybjaerg-Hansen A, Nordestgaard BG. Extreme lipoprotein(a) levels and risk of myocardial infarction in the general population: The Copenhagen city heart study. Circulation. 2008;117:176-184.
32. Thanassoulis G, Campbell CY, Owens DS et al. Genetic associations with valvular calcification and aortic stenosis. N Engl J Med. 2013;368:503-512.
33. Jaeger BR, Richter Y, Nagel E et al. Longitudinal cohort study on the effectiveness of lipid apheresis treatment to reduce high lipoprotein(a) levels and prevent major adverse coronary events. Nat Clin Pract Cardiovasc Med. 2009;6:229-239.
34. Krishna, Garg A, Panebianco D et al. Single-dose pharmacokinetics and pharmacodynamics of anacetrapib, a potent cholesteryl ester transfer protein (CETP) inhibitor, in healthy subjects. Br J Clin Pharmacol. 2009;68:535-545.