(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アクリル樹脂(B)の各モノマー成分の量が、当該樹脂の全モノマー成分の固形分質量を基準として、スチレン(b1)が15〜25質量%、(メタ)アクリル酸(b2)が1〜10質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b3)が40〜58質量%である、請求項1または2に記載の亜鉛系めっき鋼板用表面処理剤。
前記亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層が、亜鉛および不可避的不純物のほかに、60質量%以下のAl、10質量%以下のMg、2質量%以下のSiのうちの1種以上を含有していてもよい組成である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の亜鉛系めっき鋼板用表面処理剤。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は建材、自動車、家電製品等の広い用途へ適用されている。
【0003】
一般的に、亜鉛系めっき鋼板表面に表面処理剤により被膜を設け、耐食性など付与する技術として、クロム酸、重クロム酸またはそれらの塩を主成分として含有する処理液によりクロメート処理を施す方法、リン酸塩処理を施す方法、無機金属被膜処理を施す方法、有機樹脂被膜処理を施す方法などが知られており、実用化されている。
【0004】
主として無機成分を用いる技術としては、特許文献1に、バナジウム化合物と、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガンおよびセリウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物とを含有する金属表面処理剤が挙げられている。また、特許文献2に、塩基性ジルコニウム化合物、バナジル含有化合物、リン酸化合物、コバルト化合物、有機酸および水を含有する処理液を用いた複合被膜処理亜鉛含有めっき鋼材が挙げられている。
【0005】
主として有機樹脂被膜処理を使用する技術としては、特許文献3に、アニオン性水分散樹脂にケイ酸アルカリ金属塩とからなる金属材料用表面処理剤、特許文献4に、炭酸ジルコニウムアンモニウム、4価のバナジウム化合物、有機ホスホン酸、アニオン性水分散性アクリル樹脂からなる表面処理剤が開示されている。
【0006】
また、耐食性に優れた亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板に表面処理剤により被膜を設け、耐食性などを向上させる技術として、特許文献5に、Zn−Al−Mg−Si合金めっき上にジルコニウム化合物、バナジウム化合物からなる被膜を設けた亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板が、特許文献6に、Zn−Al合金めっき上に、バナジウム化合物、リン酸化合物、金属成分、特定のモノマー成分で構成されるアクリル樹脂からなる亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの技術は平面部耐食性、加工部耐食性、上塗り塗料との密着性、耐黒変性に劣り、特に、構造用接着剤との接着性において満足するものではなく、実用化において問題を抱えている。このため幅広い用途において総合的に満足できる亜鉛系めっき鋼板の表面処理剤開発が強く要求されているのである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明で用いる水系表面処理剤は炭酸ジルコニウム化合物(A)を一原料とする。炭酸ジルコニウム化合物(A)は、被膜を形成するときに炭酸イオンが外れ、ジルコニウム同士が酸素を介して結合し、高分子量化することで被膜のバリア性が高まる。また、炭酸ジルコニウム化合物は、アクリル樹脂(B)と架橋反応を起こし、被膜のバリア性を高めることが可能である。炭酸ジルコニウム化合物(A)の種類は特に限定されず、例えば、炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、炭酸ジルコニウムカリウム、炭酸ジルコニウムナトリウムなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。なかでも、耐食性が優れる点で炭酸ジルコニウム、および炭酸ジルコニウムアンモニウムが好ましい。
【0015】
本発明で用いる水系表面処理剤はアクリル樹脂(B)を一原料とする。アクリル樹脂は、上記炭酸ジルコニウム(A)と規則的な配列により高分子量化し、難溶性のジルコニウム被膜に有機系被膜が通常有する特性を付与すると考えられる。特に、規則的な配列により高分子量化した被膜にはアクリル樹脂を構成するモノマー成分由来の特性が付与されており、構造用接着剤との接着性に必要な性能を発現することが可能となる。アクリル樹脂(B)の含有量は表面処理剤の全固形分に対し20〜60質量%であることが好適である。より好ましくは20〜40質量%である。20質量%未満の場合、密着性が低下し、60質量%を超えた場合、耐食性が低下する。
【0016】
アクリル樹脂(B)は、少なくともスチレン(b1)と、(メタ)アクリル酸(b2)と、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b3)と、アクリロニトリル(d4)とを含むモノマー成分を共重合することから得られた樹脂であって、アクリロニトリル(b4)の量が、当該樹脂の全モノマー成分の固形分質量を基準として、20〜38質量%であり、且つ、ガラス転移温度が−12〜15℃の水溶性樹脂および水系エマルション樹脂である。ここで、アクリロニトリル(b4)以外の、原料である当該モノマー成分(組成物)は、当該全モノマー成分の全質量に対し、スチレン(b1)を15〜25質量%、(メタ)アクリル酸(b2)を1〜10質量%、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b3)を40〜58質量%含有することが好適である。
【0017】
スチレン(b1)は耐食性と密着性を高める効果があるため、15〜25質量%含有することが好ましく、より好ましくは17〜23質量%である。15質量%未満では耐食性と密着性が低下し、25質量%を超えると被膜が硬くなり、加工部耐食性が低下する。
【0018】
(メタ)アクリル酸(b2)は樹脂の鋼板に対する被膜の密着性向上の効果があり、1〜10質量%含有することが好ましく、より好ましくは2〜6質量%である。1質量%未満の場合、密着性が低下し、10質量%を超えると耐食性および耐水性が低下する。
【0019】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b3)は、樹脂被膜の加工性向上の効果があり、40〜58質量%含有することが好ましく、より好ましくは40〜55質量%である。40質量%未満の場合、加工部耐食性が低下し、58質量%を超えた場合、平面部耐食性が低下する。(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b3)の種類は限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−メチルヘキシル、およびこれらの異性体などが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。なかでも、耐食性が優れる点でアクリル酸エチル、およびアクリル酸ブチルが好ましい。
【0020】
アクリロニトリル(b4)は構造用接着剤との接着性を高める効果があり、20〜38質量%含有し、好ましくは20〜35質量%である。20質量%以上とすることで、接着性を向上させることができる。他方、38質量%を超えた場合、耐水性が低下し、耐食性が低下する。
【0021】
アクリル樹脂(B)は、計算されるガラス転移温度が−12〜15℃である。ガラス転移温度が−12℃以上の場合、耐食性を向上させることができる。他方、15℃を超えると接着性が低下する。なお、ガラス転移温度は以下の式にて算出され、式中、iは1以上の整数であり、Wiはiホモポリマーの質量分率、TgiはiホモポリマーのTg(K)を示す。
【0023】
アクリル樹脂(B)は、少なくともスチレン(b1)と(メタ)アクリル酸(b2)と(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b3)とアクリロニトリル(b4)とが適切な量で共重合されていれば、他のビニル基含有モノマーを原料モノマーとして用いることも可能である。かかるビニル基含有モノマーとしては特に限定するものではないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、エトキシ−ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アリルエーテル、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、アクリルアミド、アリルアルコール、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、桂皮酸、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルグリシジルエーテル、グリシジル(メタ)アクリレート、2−(1−アジリジニル)エチルアクリレート、イミノールメタクリレート、アクリロイルモルホリン、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、酪酸ビニル、アクリル酸ビニル、ビニルトルエン、ケイ皮酸ニトリル、(メタ)アクリロキシエチルフォスフェート、およびビス−(メタ)アクリロキシエチルフォスフェートなど挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。これらの中でも、エマルションの安定性に優れる点から、2−ヒドロキシエチルアクリレート、4ーヒドロキシブチルアクリレート、エトキシ−ジエチレングリコールアクリレートおよびアクリルアミドが好ましい。
【0024】
本発明に用いられる重合体の重合方法は特に限定するものではないが、懸濁重合、乳化重合、および溶液重合法が挙げられる。また、共重合するに際して溶媒、および重合開始剤を用いることも可能である。重合開始剤としては、特に制限されるものではないが、アゾ系化合物や過酸化物系化合物等のラジカル重合開始剤を用いることができ、樹脂の全固形分に対し、0.1〜10質量%の使用が好ましい。反応温度は通常室温から200℃、好ましくは40〜150℃、反応時間は、30分間〜8時間、好ましくは2〜4時間程度であることが好適である。
【0025】
本発明に用いる水系表面処理剤は2〜4価のバナジウム化合物(C)を一原料とする。バナジウム化合物は2〜5価のバナジウム化合物がある。バナジウム化合物は腐食環境下で優先的に溶出し、めっき成分の溶解によるpH上昇を抑制するため、耐食性向上に効果がある。バナジウムの酸化数はいずれでも同様に効果的であるが、5価のバナジウムは溶解性が高いため、2〜4価のバナジウム化合物を用いる必要がある。
【0026】
これら2〜4価のバナジウム化合物(C)は、炭酸ジルコニウム化合物(A)をZr、バナジウム化合物(C)をV換算したときの質量比〔(V)/(Zr)〕が0.07〜0.69であり、好ましくは0.14〜0.56である。〔(V)/(Zr)〕が0.07以上の場合、加工部耐食性を向上させることができる。他方、〔(V)/(Zr)〕が0.69を超える場合は、上塗り塗装性が低下するため好ましくない。
【0027】
2〜4価のバナジウム化合物(C)の種類は特に限定されず、例えば五酸化バナジウム(V
2O
5)、メタバナジン酸(HVO
3)、メタバナジン酸アンモニウム、メタバナジン酸ナトリウム、オキシ三塩化バナジウム(VOCl
3)等の5価のバナジウム化合物を還元剤で2〜4価に還元したもの、三酸化バナジウム(V
2O
3)、二酸化バナジウム(VO
2)、オキシ硫酸バナジウム(VOSO
4)、オキシ蓚酸バナジウム[VO(COO)
2]、(バナジウムオキシアセチルアセトネート[VO(OC(CH
3)=CHCOCH
3))
2]、バナジウムアセチルアセトネート[V(OC(CH
3)=CHCOCH
3))
3]、三塩化バナジウム(VCl
3)、リンバナドモリブデン酸{H
15−X[PV
12−xMo
xO
40]・nH
2O(6<x<12,n<30)}、硫酸バナジウム(VSO
4・8H
2O)、ニ塩化バナジウム(VCl
2)、酸化バナジウム(VO)等の酸化数4〜2価のバナジウム化合物等が挙げられる。
【0028】
本発明に用いる水系表面処理剤はリン化合物(D)を一原料とする。リン化合物(D)は、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき被膜を一部溶解し、リン酸塩を形成すると考えられる。このリン酸塩は主にリン酸亜鉛として形成し、めっき被膜表面を不動態化するため耐食性に優れるとともに、密着性を向上させる。特に、リン化合物(D)の少なくとも一部が、無機リン酸及び/又はその塩であることが、構造用接着剤との接着性向上の観点から好ましい。尚、塩(下記に記載の塩も含む)における対カチオンとしては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウムを挙げることができる。
【0029】
リン化合物(D)は、炭酸ジルコニウム化合物(A)をZr、リン化合物(D)をP換算したときの質量比〔(P)/(Zr)〕が0.04〜0.58であり、好ましくは0.07〜0.29である。〔(P)/(Zr)〕が0.04以上の場合、加工部耐食性を向上させることができる。他方、〔(P)/(Zr)〕が0.58を超える場合は、耐黒変性が低下するため好ましくない。
【0030】
本発明に用いるリン化合物(D)は、例えば、リンを含有する酸基を有する無機酸アニオンとしては、例えば、オルトリン酸、メタリン酸、縮合リン酸、ピロリン酸、トリポリリン酸、テトラリン酸、ヘキサメタリン酸等の無機酸の少なくとも1個の水素が遊離した無機酸アニオンおよびそれらの塩類を挙げることができ、リンを含有する酸基を有する有機酸アニオンとしては、例えば、1−ヒドロキシメタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシプロパン−1,1−ジホスホン酸、1−ヒドロキシエチレン−1,1−ジホスホン酸、2−ヒドロキシホスホノ酢酸、アミノトリ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミン−N,N,N´,N´−テトラ(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミン−N,N,N´,N´−テトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミン−N,N,N´,N´´,N´´−ペンタ(メチレンホスホン酸)、2−ホスホン酸ブタン−1,2,4−トリカルボン酸、イノシトールヘキサホスホン酸、フィチン酸等の有機ホスホン酸、有機リン酸等の少なくとも1個の水素が遊離した有機酸アニオンおよびそれらの塩類を挙げることができる。
【0031】
本発明に用いる水系表面処理剤はコバルト化合物(E)を一原料とする。一般的に、亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき被膜は腐食環境下でアルミニウム、およびマグネシウムが犠牲防食効果を発現するため、めっき被膜中の亜鉛が酸素欠乏状態で酸化する黒変現象がみられる。これはめっき被膜の溶解し易い部分に起こりやすい現象であり、コバルト化合物がこの部分に置換析出することにより優れた耐黒変性を付与することが可能であると考えられる。
【0032】
コバルト化合物(E)は、炭酸ジルコニウム化合物(A)をZr、コバルト化合物(E)をCo換算したときの質量比〔(Co)/(Zr)〕が0.005〜0.08であり、好ましくは0.009〜0.038である。〔(Co)/(Zr)〕が0.005以上の場合、加工部耐食性、および耐黒変性を向上させることができる。他方、〔(Co)/(Zr)〕が0.08を超える場合は、耐食性が低下する。コバルト化合物(E)の種類は特に限定されず、硫酸コバルト、硝酸コバルトおよび炭酸コバルトなどを挙げることができる。
【0033】
本発明に用いる水系表面処理剤のpHは8〜11である。より好ましくは8.5〜10である。また、pHの測定方法は限定されるものではないが、例えば、東亜ディーケーケー株式会社製(HM−30R)、測定温度25℃で測定することが可能である。pHが8未満となると炭酸ジルコニウム化合物(A)を安定的に溶解できず、耐食性が低下する。一方、11を超えるとめっき被膜を激しく溶解し、耐食性が低下する。加えて、pHが当該範囲内であると、当該剤の安定性にも寄与する。pHの調整剤は特に限定されず、アンモニア、炭酸グアニジン、炭酸、酢酸、フッ化水素酸などが挙げられる。
【0034】
また、本発明に用いる水系表面処理剤は耐傷付き性向上を目的に潤滑剤(F)を添加することが可能である。潤滑剤(F)の配合量は表面処理剤の全固形分に対し、1〜8質量%であることが好適である。潤滑剤(F)の配合量が1質量%未満では、耐傷付き性の向上が得られない。また、8質量%を超える場合は、塗装密着性が低下する恐れがあるため好ましくない。
【0035】
また、潤滑剤(F)としては、質量平均粒径0.1〜5.0μmのものが好ましい。また、重量平均粒経の測定方法は限定されるものではないが、例えば、日機装株式会社製(レーザー回折散乱式粒度分布測定装置MICROTRAC HRA−X100)で測定することが可能である。質量平均粒径が0.1μm未満では、凝集しやすく安定性に劣るため好ましくない。また、質量平均粒径が5.0μmを超える場合は、分散安定性が低下するため好ましくない。
【0036】
本発明に用いる水系表面処理剤は、均一な被膜を得るための濡れ性向上剤と呼ばれる界面活性剤や増粘剤、溶接性向上のための導電性物質、意匠性向上のための着色顔料や艶消し材料、造膜性向上のための溶剤等を、本発明の効果を損なわない限り添加しても構わない。
【0037】
水系表面処理剤は、上記した成分を脱イオン水、蒸留水などの水中で混合することにより得られる。水系表面処理液の固形分割合は適宜選択すればよい。また、水系表面処理剤には、必要に応じてアルコール、ケトン、セロソルブ系の水溶性溶剤、界面活性剤、消泡剤、レベリング剤、防菌防カビ剤などを添加しても良い。これらを添加することにより、表面処理剤の乾燥性、塗布外観、作業性、意匠性が向上する。ただし、これらは本発明で得られる品質を損なわない程度に添加することが重要であり、添加量は多くても水系表面処理液の全固形分に対して5質量%未満である。
【0038】
次に、本発明の水系表面処理剤の処理方法について説明する。
【0039】
本発明においては、亜鉛系めっき鋼板の表面に水系表面処理剤を塗布・加熱乾燥することにより、片面当たりのZr付着量が8〜700mg/m
2の表面処理被膜を有することが好適である。Zr付着量が8mg/m
2以上の場合、耐食性を向上させることができる。他方、700mg/m
2を超える場合、耐食性など性能が飽和する。より好ましくは、50〜350mg/m
2である。
【0040】
水系表面処理剤を塗布する方法としては、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー塗布法などが挙げられ、処理される形状などによって適宜最適な方法が選択される。より具体的には、例えば、形状がシート状であればロールコート法、バーコート法またはスプレー塗布法を選択できる。スプレー塗布法は、水系表面処理剤をスプレーしてロール絞りや気体を高圧で吹きかけて塗布量を調整する方法である。成型品とされている場合であれば、表面処理液に浸漬して引き上げ、場合によっては圧縮エアーで余分な水系表面処理剤を吹き飛ばして塗布量を調整する方法などが選択される。
【0041】
水系表面処理剤を、加熱乾燥する際の加熱温度(最高到達板温、PMT)は、通常60〜200℃であり、80〜180℃であることがより好ましい。加熱温度が60℃以上であれば被膜中に主溶媒である水分が残存しないため、また、加熱温度が200℃以下であれば樹脂の分解が起こらないため、耐食性低下などの問題を生じることがない。また、加熱時間は、使用される形状などによって適宜最適な条件が選択される。なお、生産性などの観点からは、0.1〜60秒が好ましく、1〜30秒がより好ましい。
【0042】
本発明の表面処理剤で表面処理被膜を形成した亜鉛系めっき鋼板は耐食性、上塗り塗料との密着性、耐黒変性、および構造用接着剤との接着性の全てを満足する。この理由は以下のように推測されるが、本発明はかかる推測に縛られるものではない。本発明に用いる水系金属表面処理剤を用いて形成される被膜は、炭酸ジルコニウム化合物とアニオン性アクリル樹脂にてバリア被膜を形成する。炭酸ジルコニウム化合物は乾燥過程で炭酸が揮発し、残ったジルコニウムが高分子化して難溶性の被膜を形成する。この過程でジルコニウムの1部(−Zr−OH基)が金属表面とZr−O−M結合(M: 亜鉛系めっき)を形成することにより、めっきとの密着性に優れ、著しいバリア効果を発揮すると推定される。また、ジルコニウムとアニオン性アクリル樹脂が規則的な配列により高分子量化し、難溶性のジルコニウム被膜に有機系被膜が通常有する特性を付与すると考えられる。
【0043】
特に、規則的な配列により高分子量化した被膜にはアクリル樹脂を構成するモノマー成分由来の特性が付与されており、特に構造用接着剤との接着性に必要な性能を発現することが可能となる。一方、バナジウム化合物は、腐食環境下で溶出して作用するインヒビター成分と考えられる。つまり、腐食環境下で溶出し、めっき被膜のpH上昇を遅らせる効果がある。この過程で亜鉛系めっきが酸化膜を形成する犠牲防食効果により長期にわたって優れた耐食性を維持することが可能となる。また、リン化合物は金属表面と接触した際に金属をエッチングして、溶解してきた金属と難溶性の金属塩を形成する。あるいは金属の腐食が起きた時に、金属イオンを補足して金属塩を形成し、それ以上の腐食を抑制するものと考えられる。さらに、コバルト化合物は処理液中でイオンとして存在し、金属と接触した際に、金属表面に置換析出する。酸素欠乏による黒変現象は明確になっていないが、コバルト化合物による金属表面の改質で優れた黒変性を発現することが可能である。
【0044】
本発明の表面処理剤によって形成される被膜と良好な接着性を示す接着剤は、特に限定されないが、例えばシリコン系(アクリル変性、エポキシ変性を含む)、エポキシ系、アクリル樹脂系、フェノール系、ウレタン系、酢酸ビニル系、シアノアクリレート系、スチレンーブタジエンゴム系等を挙げることができる。また、各種接着剤を用いて、被膜を設けた亜鉛系めっき鋼板と接着剤を介して接着される材料は、特に限定されず、例えば、鋼板、モルタル、フロートガラス、陶磁器質タイル、およびMDF(中密度繊維板)などが挙げられる。
【0045】
表面処理剤を適用する亜鉛系めっき鋼板は、特に限定されず、公知のめっき方法等で亜鉛含有めっき被膜が形成された鋼板であればよい。めっき方法としては、例えば、溶融めっき、電気めっき等が挙げられる。亜鉛系めっき鋼板としては、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム−シリコン合金めっき鋼板、合金化溶融めっき鋼板等を挙げることができる。めっき付着量は特に制限されず、使用環境や用途に応じて決めればよい。ここで、亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき層は、亜鉛および不可避的不純物のほかに、60質量%以下のAl、10質量%以下のMg、2質量%以下のSiのうちの1以上を含有していてもよい組成のものであってもよい。ここで、不可避的不純物とは、製造工程などで不可避的に混入する不純物を意味し、例えば、Pb、Cd、Sb、Cu、Fe、Ti、Ni、B、Zr、Hf、Sc、Sn、Be、Co、Cr、Mn、Mo、P、Nb、V、Bi、そして更に、La、Ce、Y等の3族元素等が挙げられる。これら不可避的不純物元素の合計は0.5質量%程度以下であることが好ましい。
【実施例】
【0046】
次に実施例および比較例によって本発明を説明するが、本実施例は単なる一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。実施例、比較例において作製した試験片についての評価方法は次の通りである。
【0047】
1.素材
使用しためっき鋼材を以下に記す。
M1:溶融Znめっき(めっき付着量 90g/m
2)
M2:溶融11%Al−3%Mg−0.2%Si−Znめっき
(めっき付着量 90g/m
2)
M3:電気Znめっき(めっき付着量 20g/m
2)
M4:電気11%Ni−Znめっき(めっき付着量 20g/m
2)
M5:溶融55%Al−1.6%Si−Znめっき
(めっき付着量 90g/m
2)
【0048】
2.処理剤
(1)処理剤成分
使用した炭酸ジルコニウム化合物(A)およびその他のジルコニウム化合物を以下に記す。
A1:炭酸ジルコニウムカリウム
A2:炭酸ジルコニウムアンモニウム
A3:ジルコンフッ化アンモニウム
【0049】
表1に略号を示した、スチレン(b1)、(メタ)アクリル酸(b2)、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(b3)と、アクリロニトリル(b4)、これらの単量体と共重合可能である不飽和単量体(b5)を、表2に示す比率で使用して表3に示すB1〜B38の重合体を得た。表2の右端のTgは各重合体のガラス転移温度である。尚、不飽和単量体(b5)は、2−ヒドロキシエチルアクリレート、4ーヒドロキシブチルアクリレート、エトキシ−ジエチレングリコールアクリレートおよびアクリルアミドから適宜選択した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
使用した2〜4価のバナジウム化合物(C)を以下に記す。
C1:バナジウムアセチルアセトネート
C2:オキシ蓚酸バナジウム
【0053】
使用したリン化合物(D)を以下に記す。
D1:リン酸
D2:1−ヒドロキシエタン−1,1−ジホスホン酸
【0054】
使用したコバルト化合物(E)を以下に記す。
E1:炭酸コバルト
E2:硝酸コバルト
【0055】
<処理剤の調製>
表3Aおよび表3Bに実施例および比較例の処理液の組成を示した。処理液は予め用意した一定量の脱イオン水に対してプロペラ攪拌機を用いて液を攪拌しながら、各成分を順次添加し、固形分濃度が15質量%となるように調製した。pHの調整剤としては、炭酸およびアンモニアを用いた。尚、リン化合物(D)としてD1とD2とを併用する場合、処理液においてPに換算したときの質量が、D1:D2=85:15となるように調製した。
【0056】
3.処理方法
(1)脱脂
日本パーカライジング(株)製アルカリ脱脂剤ファインクリーナーE6406(20g/L建浴、60℃、10秒スプレー、スプレー圧50kPa)で素材を脱脂した後、スプレー水洗を10秒間行った。
(2)処理液の塗布および乾燥
処理液をバーコーター塗布し、熱風循環型オーブンを用いて乾燥した。目標Zr付着量となるよう、処理液の濃度調整およびバーコーターの番手を適宜選択した。尚、Zr付着量は蛍光X線分析装置ZSX−PrimusII(株式会社リガク製)にて測定した。
【0057】
以下に、評価項目および試験方法を示す。また、評価結果を表4Aおよび表4Bに示す。
・耐食性
平板および高さ7mmのエリクセン加工を施した試験片に対しJIS Z 2371に準拠する塩水噴霧試験を所定時間まで実施した。耐食性は、塩水噴霧試験後の白錆発生面積率にて判定した。
耐食性の評価基準を以下に示す。
平板試験片(塩水噴霧試験 240時間後)
◎:白錆0%
○:白錆0%超5%以下
○-:白錆5%超15%以下
△:白錆15%超30%以下
×:白錆30%超
エリクセン加工試験片(塩水噴霧試験 72時間後)
◎:白錆0%
○:白錆0%超15%以下
○-:白錆15%超30%以下
△:白錆30%超50%以下
×:白錆50%超
【0058】
・耐黒変性
恒温恒湿試験機を使用して、70℃×RH85%の雰囲気下で試験片を144時間静置した後の外観を目視観察した。
耐黒変性の評価基準を以下に示す。
◎:全く変化なし
○:殆ど変化が認められない
○-:端に若干変色が認められる
△:若干変色が認められる
×:明らかな変色が認められる
【0059】
・塗装密着性
試験片にバーコーターを用いてアミラック1000白(関西ペイント社製)を塗布し、125℃で20分間加熱乾燥して20μmの乾燥膜厚を得た。続いて、沸騰水中に30分間浸漬し、取り出した後に24時間自然放置した。その後、カッターナイフを用いて1mm、100マスの碁盤目加工を施し、テープ剥離試験により、塗膜残存数を求めた。
塗装密着性の評価基準を以下に示す。
◎:残存数100個
○:残存数98個以上100個未満
△:残存数50個以上98個未満
×:残存数50個未満
【0060】
<処理剤の安定性>
処理剤を温度40℃の恒温槽に3か月放置し、液外観を観察した。
評価基準を以下に示す。
◎:ほとんど変化なし
○:若干の濁りあり
△:沈殿あり
×:ゲル化、多量の沈殿あり
【0061】
・接着性評価
各種接着剤を用いて、亜鉛系めっき鋼板同士或いは亜鉛系めっき鋼板と他素材との接着性を評価方法1〜4により実施した。接着剤および評価方法2で使用した他素材試験片を以下に示す。
A:エポキシ系(コニシ製、E2300J)
他素材試験片:モルタル試験片
B:アクリル系(電気化学工業製、ハードロック8)
他素材試験片:モルタル試験片
C:シリコン系(東レダウコーニング製、PV8303)
他素材試験片:フロートガラス
D:シリコン系(セメダイン製、PM210)
他素材試験片:陶磁器質タイル、フロートガラス
E:シリコン系(セメダイン製、スーパーX No.8008)
他素材試験片;フロートガラス
F:フェノール系(セメダイン製、110)
他素材試験片:なし
G:ウレタン系(セメダイン製、UM700)
他素材試験片:MDF(中密度繊維板)
H:酢酸ビニル系(コニシ製、CH18)
他素材試験片:MDF(中密度繊維板)
I:クロロプレンゴム系(セメダイン製、575F)
他素材試験片:MDF(中密度繊維板)
評価方法1:試験片(25±0.5mm×100±×1.6mm厚)2枚を接着剤で接着部分(25±0.5mm×12.5±0.5mm)としたラップシアー試験体を作製し、所定時間養生した後、1次接着性を評価した。
評価方法2:試験片(25±0.5mm×100±0.5mm×1.6mm厚)と他素材試験片(25±0.5mm×100±0.5mm×任意厚)を接着剤で接着部分(25±0.5mm×12.5±0.5mm)としたラップシアー試験体を作製し、所定時間養生した後、1次接着性を評価した。
評価方法3:評価方法1の試験体を養生後、50℃、85%で所定時間経過後、2次接着性を評価した。
評価方法4:評価方法1の試験体を養生後、85℃、85%で所定時間経過後、2次接着性を評価した。
接着性は引張せん断荷重と凝集破壊率を評価した。引張せん断荷重は、引張り速度:100mm/min、室温:25℃で行い、無処理の試験片との引張せん断荷重比(試験材の引張せん断荷重/無処理材の引張せん断荷重)で評価した。引張せん断荷重の評価基準を以下に示す。
◎:1.1以上
○:1.0超〜1.1未満
△:1.0(無処理の試験片と同等)
×:1.0未満
また、引張せん断試験後における亜鉛系めっき鋼板側の接着剤の残存面積(凝集破壊率)を、無処理材と比較し評価した。凝集破壊率の評価基準を以下に示す。
◎:接着剤の残存面積が明らかに増加
○:接着剤の残存面積が増加
△:無処理材と同等
×:接着剤の残存面積が低下
【0062】
【表3A】
【0063】
【表3B】
【0064】
【表4A】
【0065】
【表4B】