(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6263305
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】医療用シート
(51)【国際特許分類】
A61L 31/04 20060101AFI20180104BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20180104BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20180104BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
A61L31/04 110
A61L31/14
A61L27/16
A61L27/50
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-148740(P2017-148740)
(22)【出願日】2017年8月1日
【審査請求日】2017年8月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516357775
【氏名又は名称】株式会社多磨バイオ
(74)【代理人】
【識別番号】100116850
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 隆行
(74)【代理人】
【識別番号】100165847
【弁理士】
【氏名又は名称】関 大祐
(72)【発明者】
【氏名】澤田 誠
(72)【発明者】
【氏名】星野 清治
【審査官】
常見 優
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−504330(JP,A)
【文献】
特開2006−230639(JP,A)
【文献】
特開2007−020590(JP,A)
【文献】
特許第5505752(JP,B2)
【文献】
特許第4445697(JP,B2)
【文献】
日本機械学会関東支部ブロック合同講演会 2007さいたま/第3回埼玉ブロック大会 講演論文集, 2007,09.21, p. 211-212
【文献】
表面科学, 2011, Vol. 32, No. 9, p. 551-556
【文献】
Neurological Surgery, 2004, Vol. 32, No. 4, p. 339-344
【文献】
材料の科学と工学, 2009, Vol. 46, No. 4, p. 169-173
【文献】
理研シンポジウム第18回「マイクロファブリケーション研究の最新動向」, 2006, p. 74-77
【文献】
Applied Surface Science, 2014, Vol. 314, p. 670-678
【文献】
Surface & Coatings Technology, 2011, Vol. 206, p. 841-844
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
A61F 2/00− 4/00
13/00−13/84
15/00−17/00
A61B13/00−18/28
A61M25/00−99/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗面化部を有する第1の面(5)と,第1の面(5)反対に位置する第2の面(7)を有し,ポリテトラフルオロエチレンを含む医療用シート(1)であって,
前記粗面化部(3)は,表面粗さの値であるRz値が8以上14以下であり,Ra値が0.65以上1.5以下であり,
前記粗面化部(3)のb値であるb1値と,第2の面(7)のb値であるb2値の差をΔbとしたときに,Δbが2以上11以下である,医療用シート。
【請求項2】
請求項1に記載の医療用シートであって,前記粗面化部(3)はイオン衝撃部により改質された部分である,医療用シート。
【請求項3】
請求項1に記載の医療用シートであって,前記粗面化部(3)は第1の面(5)の一部である,医療用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,医療用シートに関する。より詳しく説明すると,本発明は,生体補修材料や人工膜等に利用することができる医療用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
特許4445697号公報及び特許5505752号公報には,生体修復材料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4445697号公報
【特許文献2】特許5505752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の公報に記載された生体修復材料は,イオン衝撃がされている面とそうでない面との区別がつきにくかった。生体修復材料や人工膜は,生体内に埋入等される。このため,着色料を用いることは難しく,また組成が変わると改めて承認を取り直す必要がある。このため,イオン衝撃が施された面(部分)と,イオン衝撃が施されていな面(部分)とを区別できる医療用シートが望まれた。さらには,医療用シートを用いて人工血管を作成した際に,血管内皮細胞が定着しやすいものが望まれた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は,基本的には,ePTFE(延伸ポリテトラフルオロエチレン)などの樹脂シートの一方の面の全体又は一部にイオン衝撃などにより粗面化処理を行った後に加熱処理を施すことで,粗面化処理を施した部分のみが物性を変えずに変色するという知見に基づく。また,本発明は,イオン衝撃を行う際に,イオン衝撃装置の真空度を一定の値に維持し続け,イオン衝撃を連続的に行うことで,イオン衝撃の効果を高め,高い粗面化を達成できるという知見に基づく。
【0006】
本発明は,医療用シートに関する。この医療用シートは,粗面化部3を有する第1の面5と,第1の面5反対に位置する第2の面7を有し,ポリテトラフルオロエチレンを含む医療用シート1である。
そして,粗面化部3は,表面粗さの値であるRz値が8以上14以下であり,Ra値が0.65以上1.5以下である。粗面化部3はイオン衝撃部により改質された部分であることが好ましい。粗面化部3は,第1の面5の一部であってもよいし,第1の面5の全体であってもよい。粗面化部3のb値であるb
1値と,第2の面7のb値であるb
2値の差をΔbとしたときに,Δbが2以上11以下であるものが好ましい。
【0007】
本発明は,医療用シートの製造方法をも提供する。この方法は,ポリテトラフルオロエチレンを含むシートの第1の面5の全部又は一部をイオン衝撃により粗面化処理し,粗面化部5を形成する粗面化工程を含む医療用シートの製造方法である。そして,イオン衝撃は,10
−7気圧以上10
−1気圧以下の真空度にて連続的に行われる。この方法は,粗面化工程を経たポリテトラフルオロエチレンを含むシートを加熱し,医療用シートを得る加熱工程をさらに含むものが好ましい。粗面化部3は,表面粗さの値であるRz値が8以上14以下であり,Ra値が0.65以上1.5以下であるものが好ましい。加熱工程の例は,60℃以上300℃以下の温度で10秒以上10分以下シートを加熱する工程である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば,イオン衝撃が施された面(部分)と,粗面化処理が施されていな面(部分)を区別できる医療用シートを製造できる医療用シートや,区別できる医療用シートを提供できる。また,この医療用シートを用いて人工血管を作成したところ,血管内皮細胞が定着しやすいものであった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は,本発明の医療用シートを示す概念図である。
図1(a)は,第1の面を示し,
図1(b)は第2の面を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下,図面を用いて本発明を実施するための形態について説明する。本発明は,以下に説明する形態に限定されるものではなく,以下の形態から当業者が自明な範囲で適宜修正したものも含む。
【0011】
本発明は,医療用シートに関する。医療用シートは,生体組織への癒着性・接着性が高い部分と,低い部分を有し,医療において用いることができるシートを意味する。このシートは,例えば,特定の組織を癒着させる一方,反対の面は組織とは癒着しないといった用い方をすることができる。また,この医療用シートを丸めることで,人工血管を得ることもできる。さらにこの医療用シートは,所定の形状に裁断等することで,人工弁や各種の移植に用いることができる。医療用シートは,特許4445697号公報に記載された生体修復材料であってもよいし,特許5505752号公報に記載された人工硬膜や筋肉に対する接着性を有する補填材料であってもよい。これら最も好ましい材料は,大きさが7.5cm×10.0cm〜26.0cm×34.0cmの範囲の楕円形状である。円形,四角形,三角形,及び特別に適合するように作られた形状のような,他の平面形状もまた本発明の使用に想定される。形状とは無関係に,適した移植可能なシート材料の大きさの範囲は小さくて1.0cm×1.0cmから大きくて50.0cm×50.0cmであり,5.0cm×5.0cm〜40.0cm×40.0cmの大きさの小片が好ましく,7.0cm×7.0cm〜20.0cm×20.0cmの範囲の小片であってもよい。
【0012】
図1に示されるように,この医療用シート1は,粗面化部3を有する第1の面5と,第1の面5の反対に位置する第2の面7を有し,ポリテトラフルオロエチレンを含む医療用シート1である。
図1は,本発明の医療用シートを示す概念図である。
図1(a)は,第1の面を示し,
図1(b)は第2の面を示す。粗面化部3とは,第2の面に比べて表面粗さが粗い部分を意味する。粗面化部3はイオン衝撃により改質された部分であってもよい。粗面化部3は,第1の面5全体であってもよいし,第1の面の特定の部分であってもよい。第1の面の特定の部分のみを粗面化したい場合は,例えば,粗面化しない部分をマスクした状態で,粗面化処理を施せばよい。粗面化部3は表面粗さの値であるRz値が8以上14以下(好ましくは,9以上13以下,又は9.5以上12.5以下,又は10以上12以下)であり,Ra値が0.65以上1.5以下(好ましくは0.7以上1.4以下,又は0.8以上1.3以下)であってもよい。これらの値は,JIS B 0601−2001に準拠して求めればよい。
【0013】
このような表面粗さを有する医療用シートは,加熱処理を行うことで,粗面化部とそうでない部分との変色の程度が異なるので,粗面化部とそうでない部分とを有する医療用シートを得ることができる。また,後述するように,上記の表面粗さを有する医療用シートを用いて人工血管を製造した場合,血管内皮細胞が定着しやすいものであった。
【0014】
この医療用シートは,粗面化部とそうでない部分とを色味の違いに基づいて目視により判別できるものであることが好ましい。
【0015】
Lab表色法は,JIS Z8730に規定される三刺激値X,Y,Zを用いて下記式から求められる。
【0016】
L=10Y
1/2 …(1)
a=17.5(1.02X−Y)/Y
1/2 …(2)
b=7.0(Y−0.847Z)/Y
1/2 …(3)
L:ハンター(R. S. Hunter)の色差式における明度指数。
a,b:ハンターの色差式における色座標。
X,Y,Z:X,Y,Z表色示における三刺激値X,Y,Zの値。
【0017】
上記Lab表色のうち,Lは明度を表し,一般的には100〜0までの値である。明度とは色の明暗の状況,即ち明るさの度合をいう。このL値が大きいほど明るいことを意味する。
【0018】
また,a,bは色彩を表し,a値は赤−緑方向,b値は黄−青方向を表す。従って,a値が大きくなると赤味が強くなり,小さくなると緑味が強くなり,b値が大きくなると黄味が強くなり,小さくなると青味が強くなる。
【0019】
そして,この医療用シートは,粗面化部3のb値であるb1値と,第2の面7のb値であるb2値の差をΔbとしたときに,Δbが2以上11以下である。Δbは,通常b1値−b2値により求められる。Δbが4以上10以下であってもよいし,Δbが5以上,9.5以下でもよいし,Δbが6以上,9.5以下でもよいし,Δbが6以上,9以下でもよいし,Δbが7以上,8.5以下でもよい。このように本発明の医療用シートは,粗面化部が黄色味かかるので,粗面化部を有する面と,粗面化部を有していない面と区別することができる(なお,両面共に部分的に粗面化部を有していて,粗面化部の色味により粗面化部か否かを判断できるものであってもよい)。
【0020】
この医療用シートは,粗面化部が,若干赤みがかった色を呈することによっても区別することができる。特に,黄色系の蛍光灯のもとで,粗面化部を判別するためには,赤みがかった色味と,緑がかった色味とで区別を行うことができる。従来の医療用シートは,若干緑がかった色味をしていた。一方,本発明の医療用シートは若干赤みがかった色を呈した。この医療用シートは,粗面化部3のa値であるa1値と,第2の面7のa値であるa2値の差をΔaとしたときに,Δaが0.1以上1以下であることが好ましい。Δaは,通常a1値−a2値により求められる。Δaが0.15以上0.9以下であってもよいし,Δaが0.2以上,0.5以下でもよい。
【0021】
ポリテトラフルオロエチレンの例は,延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)である。延伸ポリテトラフルオロエチレンの例は,米国特許第3953566号及び第4187390号に従って作られた,延伸多孔質ポリテトラフルオロエチレンである。なお,実施例では,基本的には,延伸ポリテトラフルオロエチレンを用いて実験を行った。一方,実施例で実証された効果は,ポリテトラフルオロエチレン系のシート全般に有効であると考えられる。
【0022】
次に本発明は,医療用シートの製造方法に関する。この方法は,
ポリテトラフルオロエチレンを含むシートの第1の面5の全部又は一部を粗面化し粗面化部5を形成する粗面化工程を含む。そして,粗面化工程は,10
−7気圧以上10
−1気圧以下の真空度にて連続的にイオン衝撃を行う。この方法は,粗面化工程を経たポリテトラフルオロエチレンを含むシートを加熱し,医療用シートを得る加熱工程と,を含んでもよい。従来,シートの表面を有機溶媒で洗浄していた。一方,シートの表面を有機溶媒で洗浄すると,有機溶媒がシート表面に残留し,シート表面に有機溶媒に由来する化合物が付着していた。このため,本発明は,シートの切断や,シートを粗面化する作業をクリーンルーム内で行い,シート表面を有機溶媒で洗浄しないことが好ましい。イオン衝撃は,後述のとおり,真空チャンバ内で連続的に行うものが好ましい。
【0023】
粗面化工程における粗面化処理の例は,イオン注入(イオン衝撃),プラズマ処理,コロナ処理,UV処理,ケミカルブラスト及びサンドブラストである。この製造方法は,粗面化部3について,表面粗さの値であるRz値が8以上14以下であり,Ra値が0.65以上1.5以下であってもよい。つまり,従来の医療用シートよりやや表面を粗くした状態で,次の加工工程を行うことが好ましい。イオン注入については,例えば,従来のイオン注入法においてイオン衝撃中の真空チャンバ内(イオン衝撃装置内)の真空度を一定の範囲に保ち,連続的にイオン衝撃を行うこと,及びx軸方向及びy軸方向のイオン衝撃量を制御することにより,好ましい表面粗さを達成できる。イオン密度(ドース量φ)の例は,1×10
13イオン/cm
2以上1×10
16イオン/cm
2以下であり,1×10
14イオン/cm
2以上1×10
15イオン/cm
2以下でもよい。イオンの加速電圧の例は,30keV以上2000keV以下であり,70keV以上300keV以下でもよいし,100keV以上250keV以下でもよい。イオン照射時間の例は,1分以上5時間以下であり,10分以上2時間以下でもよいし,30分以上1時間以下でもよい。
【0024】
チャンバ内の真空度の例は,10
−7気圧以上10
−1気圧以下であり,10
−6気圧以上10
−2気圧以下でもよいし,10
−5気圧以上5×10
−3気圧以下でもよいし,10
−4気圧以上10
−3気圧以下でもよい。真空系自体は公知であり,真空チャンバと真空チャンバに接続されたポンプとを含む真空系を用いることで,所望の真空度を達成できる。適切に排気を行いつつイオン衝撃を行うことで,イオン衝撃を連続的に行うことができる。これにより良好な表面粗さを達成できたと考えられる。また,イオン照射量をx軸方向及びy軸方向で均一となるように制御することが好ましい。このためには,イオン照射用のノズルの位置や方向を制御すればよい。このようにすると,好ましい表面粗さを達成できる。例えば,このような状態に表面粗さを制御した後に,加熱処理を行うことで,医療用シートをより黄色みがからせることができる。
【0025】
PTFEの表面改質の例は,O
2やArガスを利用して、基材表面に官能基の導入や表面のエッチングを行う手法,有機モノマーをプラズマ下で重合させ,基材表面に薄膜を形成させるプラズマ重合法である。
【0026】
加熱工程が,60℃以上300℃以下の温度で10秒以上1時間以下シートを加熱する工程であってもよい。加熱温度は,例えば,60℃以上150℃以下でもよく,100℃以上130℃以下でもよい。特にエチレンオキシドガス(EOG)滅菌を行う場合は,60℃以上100℃以下でもよく,65℃以上80℃以下でもよい。また,加熱温度は,110℃以上140℃以下でもよいし,110℃以上130℃以下でもよい。加熱時間は,加熱温度に合わせて適宜調整すればよく,10分以上45分以下でもよいし,15分以上30分以下でもよいし,20秒以上5分以下でもよいし,40秒以上2分以下でもよい。加熱工程を経たシートを冷却した後,粗面化部3のb値であるb1値と,第1の面5反対に位置する第2の面7のb値であるb2値の差をΔbとしたときに,Δbが2以上11以下となるようにシートを加熱することが好ましい。
【実施例1】
【0027】
クリーンルーム内で,ゴア社製ePTFEであるゴアテックス(登録商標)を10cm×10cmに切り取りePTFEシートを得た。ePTFEシートの表面を有機溶媒で洗浄せず,イオン注入装置を用いて,ePTFEシートにイオン衝撃を施し,表面を改質した。イオン衝撃の条件は以下の通りであった。
イオン:Ar
+
エネルギー:150KeV
イオン密度:5×10
14イオン/cm
2
【0028】
イオン衝撃を行う間,イオン注入装置内の真空度を10
−5気圧以上10
−4気圧に維持した。また,イオン衝撃がシートのx軸方向及びy軸方向で均一となるように,イオンの照射量を調整した。
【0029】
表面を改質したePTFEシートをオートクレーブ(120℃)にて,20分間加熱処理を行った。オートクレーブによる加熱後常温になるまでePTFEシートを静置した。このようにして医療用シートを得た。
【0030】
[参考例1]
オートクレーブによる加熱を行わなかった以外は,実施例1と同様にして医療用シートを得た(参考例1)。
【0031】
得られた医療用シートの表面粗さを測定した。表面粗さは,オリンパス社製3D測定レーザー顕微鏡OLYMPUS OLS4000を用いた。得られた結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
得られた医療用シートの色調を測定した。色調の測定には,コニカミノルタ社製分光測色計を用いた。得られた結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】
目視により観察したところ,イオン衝撃を施した部分は,参考例1のものにくらべ明らかに黄色みがかっており,イオン衝撃の有無を明確に区別できる状態となっていた。
【0036】
[実施例2]
オートクレープの温度を130℃をとした以外は実施例1と同様にして医療用シートを得た。
【0037】
[実施例3]
オートクレープの時間を3分をとした以外は実施例1と同様にして医療用シートを得た。
【0038】
[実施例4]
ePTFEシートの代わりに,PTFEシートを用いた以外は実施例1と同様にして医療用シートを得た。
【0039】
[実施例5]
粗面化処理部を部分的とした以外は実施例1と同様にして医療用シートを得た。
【0040】
[実施例6]
イオン注入の代わりにサンドブラストを用いた以外は実施例1と同様にして医療用シートを得た。
【0041】
[実施例7]
イオン注入の代わりにプラズマエッチングを施した以外は実施例1と同様にして医療用シートを得た。
【0042】
[実施例8]
オートクレープの代わりに70℃のEOG滅菌を施した以外は,実施例1と同様にして医療用シートを得た。
【0043】
[実施例9]
ゴア社製ePTFEであるゴアテックス(登録商標)の代わりに,住友電工社製ポアフロン(登録商標)を用いた以外は,実施例1と同様にして医療用シートを得た。
【0044】
実施例2〜7及び9のものは,実施例1のものに近いほど黄色みがかっていたが,実施例1のものが最も黄色が強く処理の有無を明確に把握できた。実施例8のものは,参考例1のものに比べて若干黄色みがみられ,注意して観察することにより,処理の有無を把握することができた。また,実施例1におけるイオン衝撃条件を種々変えて同様の実験を行ったところ,上記の実施例1〜9及び参考例1と同様の傾向を示した。
【0045】
[比較例1]
特許4445697号公報の実施例について,実際に行われた条件に従って医療用シートを作成した。
延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)の表面を有機溶媒で洗浄した。その後,200KeVにてイオンビームを照射(Ne
+, 150keV, 5×10
14 ions/cm
2)した。イオン衝撃を行うたびに真空度が落ちるため,イオン衝撃とイオン衝撃を中止して排気を行う作業を繰り返した。また,イオン衝撃の方向面での均一性を調整しなかった。得られた医療用シートの色調を測定した。色調の測定には,コニカミノルタ社製分光測色計を用いた。
【0046】
比較例1において得られた医療用シートの表面粗さは,Rz値が平均値5(標準偏差0.5)であり,Ra値が平均値0.52(標準偏差0.05)であった。このシートは,イオンビームを照射した面と照射しない面との色味を区別することができなかった。このシートの粗面化部分のb値の平均は負の値であると考えられる。
【0047】
[実施例10]
比較例1において得られた医療用シートをオートクレープ(120℃)にて,20分間加熱処理を行った。オートクレープによる加熱後常温になるまでePTFEシートを静置した。このようにして医療用シートを得た。目視により観察したところ,イオン衝撃を施した部分は,比較例2のものにくらべ若干識別できるように色味がついていた。このシートのb値は2〜3程度であった。
【0048】
上記した実施例,参考例及び比較例におけるシートを用い,内径が4mm,6mmの人工血管(医療用チューブ)を作成した。作成した人工血管にヒト全血を1,2,4,8,24,48時間流入した際の血液の凝固成分を観察した。その結果,実施例1のものは,極めて早期に血栓膜が形成され,その血栓膜の上に血管内皮細胞が定着し良好な人工血管であった。一方,比較例1のものは,血液の漏れ等はなく人工血管として機能するものの,血管内皮細胞が定着するまで長時間かかった。それ以外の実施例や参考例は,実施例1と比較例1の間の性能を発揮した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は,医療機器の分野で利用されうる。
【符号の説明】
【0050】
1 医療用シート, 3 粗面化部, 5 第1の面, 7 第2の面
【要約】
【解決課題】 イオン衝撃が施された面(部分)と,イオン衝撃が施されていな面(部分)とを区別できる医療用シートを提供する
【解決手段】 粗面化部3のb値であるb1値と,第2の面7のb値であるb2値の差をΔbとしたときに,Δbが2以上11以下である医療用シート,並びにポリテトラフルオロエチレンを含むシートの第1の面5の全部又は一部をイオン衝撃により粗面化処理し,粗面化部5を形成する粗面化工程を含む医療用シートの製造方法であって,
イオン衝撃は,10
−7気圧以上10
−1気圧以下の真空度にて連続的に行われる,方法。
【選択図】
図1