特許第6263319号(P6263319)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263319
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】触媒担持用基材及び触媒担体
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/04 20060101AFI20180104BHJP
   B01J 23/86 20060101ALI20180104BHJP
   B01J 23/745 20060101ALI20180104BHJP
   B01J 32/00 20060101ALI20180104BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20180104BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20180104BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   B01J35/04 321A
   B01J23/86 AZAB
   B01J23/745 A
   B01J32/00
   B01D53/86 222
   B01D53/86 280
   B01D53/94 222
   B01D53/94 280
   F01N3/28 301P
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-544512(P2017-544512)
(86)(22)【出願日】2016年10月4日
(86)【国際出願番号】JP2016079533
(87)【国際公開番号】WO2017061439
(87)【国際公開日】20170413
【審査請求日】2017年10月20日
(31)【優先権主張番号】特願2015-198746(P2015-198746)
(32)【優先日】2015年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】306032316
【氏名又は名称】新日鉄住金マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【弁理士】
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【弁理士】
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】稲熊 徹
(72)【発明者】
【氏名】川副 慎治
(72)【発明者】
【氏名】津村 康浩
(72)【発明者】
【氏名】紺谷 省吾
(72)【発明者】
【氏名】糟谷 雅幸
(72)【発明者】
【氏名】大水 昌文
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−157272(JP,A)
【文献】 特開平04−156945(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/121910(WO,A1)
【文献】 特開2006−223925(JP,A)
【文献】 特表2008−540179(JP,A)
【文献】 特開2008−264596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
B01D 53/94
F01N 3/00 − 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の平箔と波箔とを積層したハニカム体を含む排ガス浄化用の触媒担持用基材において、
前記波箔は、前記ハニカム体の軸方向の前後で波の位相が互いに異なるオフセット部を有しており、このオフセット部のうち少なくともガス入側に向かって露出する露出端面には酸化皮膜が形成されており、
この酸化皮膜は、第1のアルミナを30質量%以上99.9質量%以下含み、残部が第2のアルミナ、Fe酸化物及びCr酸化物のうち少なくとも1種からなり、前記第1のアルミナはα-アルミナからなり、前記第2のアルミナはγ、θ、χ、δ、η及びκアルミ
ナのうち少なくとも1種類以上からなることを特徴とする触媒担持用基材。
【請求項2】
前記酸化皮膜に含まれるFeの含有量は0.1質量%以上7質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の触媒担持用基材。
【請求項3】
前記酸化皮膜に含まれるCrの含有量は0.1質量%以上4質量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒担持用基材。
【請求項4】
前記酸化皮膜の膜厚は、100nm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の触媒担持用基材。
【請求項5】
前記ハニカム体はステンレス箔からなり、少なくともFe,Cr,およびAlが含有されており、
前記ハニカム体の前記ステンレス箔及び前記酸化皮膜に含まれるCrの総和量は、9質量%以上30質量%以下であり、
前記ハニカム体の前記ステンレス箔及び前記酸化皮膜に含まれるAlの総和量は、1.5質量%以上13質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一つに記載の触媒担持用基材。
【請求項6】
請求項1乃至5のうちいずれか一つに記載の触媒担持用基材と、
前記平箔及び前記波箔に担持された触媒と、を有することを特徴とする触媒担体。
【請求項7】
ディーゼル排ガスを浄化する浄化装置に用いられることを特徴とする請求項6に記載の触媒担体。
【請求項8】
ガソリンの燃焼排ガスを浄化する浄化装置に用いられることを特徴とする請求項6に記載の触媒担体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガスを浄化するために用いられる触媒担持用基材などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼル排ガスに含まれるNOxを無害化する装置の1つとして、尿素SCR(Selective Catalytic Reduction;以下SCRと略記)が実用化されている。
【0003】
SCRは、SCR反応器の入口側で噴射された尿素水を、排ガスの持つ熱で加水分解してアンモニアを生成し、SCR反応器内のSCR触媒で、排ガス中の窒素酸化物(NOx)とアンモニアとを還元反応させて、窒素と水とにして無害化するものである。
【0004】
また、SCRの上流側には、ディーゼルパティキュレートマター(以下、PMという)を捕捉するDPF(Diesel particulate filter)、未燃燃料を酸化するDOC(Diesel Oxidation Catalyst)が接続されており、SCR反応器を通る排ガスの温度は、低負荷時(エンジンスタート時など)の200℃からDPF再生時の600℃と広範囲に変化する。
【0005】
ここで、近年触媒が担持されたハニカム構造の触媒担体をSCR、DOC等に適用することが検討されている。触媒担体として、帯状をなす金属製の波箔と平箔が多層に巻き付けられてロール状をなすハニカム構造体が、外筒内に挿入されると共に、該波箔と平箔に触媒物質が付着せしめられた排気ガス浄化用の触媒担体において、該波箔は、巻き付けられた軸方向の前後で、位相が異なる多数のフィン(つまり、オフセット構造)を有することを特徴とする排気ガス浄化用の触媒担体が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4719180号明細書
【特許文献2】特開2007−14831号公報
【特許文献3】特開2007−203256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者は、上述のオフセット構造を有する触媒担体をSCR、DOCに適用して排ガス浄化試験を行ったところ、各フィンのガス入側端面が欠損していることを発見した。DOCに流入する排ガスにはPMが含まれているため、このPMを含む排ガスが各フィンのガス入側端面に衝突することで、触媒が減損又は剥離するとともに、この欠損箇所を起点として風食領域が拡大したものと考えられる。また、SCRの場合、加水分解されたアンモニアの中に尿素由来の固形物が含まれていることがあり、この固形物を含む排ガスがフィンの入側端面に衝突することで、触媒が減損又は剥離するとともに、この欠損箇所を起点として風食領域が拡大したものと考えられる。
【0008】
ガソリンを燃焼させて走行エネルギを生成する車両の排ガスにもパーティクルが含まれており、この排ガスを浄化する浄化装置に上述のオフセット構造を有する触媒担体を適用した場合にも、上述の風食の問題が生じる。
【0009】
オフセット構造が設けられていない触媒担体を上述の用途に適用した場合には、風食の懸念される個所が触媒担体の入側端面のみに限定される。これに対して、オフセット構造を有する触媒担体の場合には、多数あるフィンの入側端面の全てが風食されるため、オフセット構造が設けられていない場合と比べて、触媒担体が早期に劣化する。
【0010】
ここで、特許文献2には、ステンレス箔を加工してなるメタルハニカム基材に触媒層が形成された触媒コンバータであって、前記ステンレス箔同士の接合部が拡散接合からなり、前記ステンレス箔の表面に前駆体皮膜が形成されており、該前駆体皮膜が酸化物から構成されており、該酸化物が結晶構造による分類でα、γ、θ、χ、δ、η、κアルミナの内、少なくとも1 種類以上のアルミナを含有しており、触媒層にアルカリ金属成分を含有していることを特徴とする優れた高温耐酸化性を有する排気ガス浄化用触媒コンバータが開示されている。
【0011】
しかしながら、この特許文献2は、触媒層にアルカリ金属成分を含む助触媒が担持されている場合に、ステンレス箔の高温耐酸化性が低下し、基材の高温での耐久性が低下することを課題としており、上述の風食については何ら考慮されていない。
【0012】
また、特許文献3には、ステンレス箔を加工してなるメタルハニカム基材と、ステンレス箔上に形成した触媒層から構成される排気ガス浄化用触媒コンバータであって、前記ステンレス箔は少なくともFe、Cr、及びAlを含有し、前記ステンレス箔の表面にはステンレス箔成分が酸化してできた酸化物皮膜を有し、該酸化物皮膜の含有するFeの濃度が酸化物に対する質量%で0.1%以上7%以下であることを特徴とする排気ガス浄化用触媒コンバータが開示されている。
【0013】
しかしながら、この特許文献3は、900℃を超える環境下で排気ガス浄化用触媒コンバータを使用する際の触媒層の熱劣化を抑制することを課題としており、特許文献2と同様に風食については何ら考慮されていない。
【0014】
そこで、本願発明は、触媒担体に設けられたオフセット構造の各ガス入側端面を風食から保護することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本願発明は、(1)金属製の平箔と波箔とを積層したハニカム体を含む排ガス浄化用の触媒担持用基材において、前記波箔は、前記ハニカム体の軸方向の前後で波の位相が互いに異なるオフセット部を有しており、このオフセット部のうち少なくともガス入側に向かって露出する露出端面を含む所定範囲に酸化皮膜が形成されており、この酸化皮膜は、第1のアルミナを30質量%以上99.9質量%以下含み、残部が第2のアルミナ、Fe酸化物及びCr酸化物のうち少なくとも1種からなり、前記第1のアルミナはα-アルミナからなり、前記第2のアルミナはγ、θ、χ、δ、η及びκアルミナのうち少なくとも1種類以上からなり、前記所定範囲は、前記露出端面からガスの流れる方向に向かって少なくとも2mmの範囲であることを特徴とする。
【0016】
(2)前記酸化皮膜に含まれるFeの含有量は0.1質量%以上7質量%以下であることを特徴とする(1)に記載の触媒担持用基材。
【0017】
(3)前記酸化皮膜に含まれるCrの含有量は0.1質量%以上4質量%以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の触媒担持用基材。
【0018】
(4)前記酸化皮膜の膜厚は、100nm以上10μm以下であることを特徴とする(1)乃至(3)のうちいずれか一つに記載の触媒担持用基材。
【0019】
(5)前記ハニカム体はステンレス箔からなり、少なくともFe,Cr,およびAlが含有されており、前記ハニカム体の前記ステンレス箔及び前記酸化皮膜に含まれるCrの総和量は、9質量%以上30質量%以下であり、前記ハニカム体の前記ステンレス箔及び前記酸化皮膜に含まれるAlの総和量は、1.5質量%以上13質量%以下であることを特徴とする(1)乃至(4)のうちいずれか一つに記載の触媒担持用基材。
【0020】
(6)(1)乃至(5)のうちいずれか一つに記載の触媒担持用基材と、前記平箔及び前記波箔に担持された触媒と、を有することを特徴とする触媒担体。
【0021】
(7)ディーゼル排ガスを浄化する浄化装置に用いられることを特徴とする(6)に記載の触媒担体。
【0022】
(8)ガソリンの燃焼排ガスを浄化する浄化装置に用いられることを特徴とする(6)に記載の触媒担体。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、α-アルミナを多量に含む酸化皮膜によって、触媒担体に設けられたオフセット構造の各ガス入側端面を風食から保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】触媒担体の概略図である。
図2】波箔の一部における展開図である。
図3】軸方向において隣り合うフィンの斜視図である。
図4】触媒担体の製造方法を説明するための工程図である。
図5】フィンが傾斜方向に配列されたオフセット構造の変形例である。
図6】波箔の一部を下に屈曲させたオフセット構造の変形例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に本実施形態を図面に基づき説明する。図1は、軸方向から視た触媒担体の概略図である。紙面に対する法線方向が軸方向に対応し、紙面に沿った方向が径方向に対応している。図2は波箔の一部における展開図である。白抜きの矢印は排ガスの流れる方向(上述の軸方向に相当する)に対応しており、ハッチングで示す箇所はフィンFの天面に相当する。図3は軸方向において互いに隣り合うフィンFの斜視図である。
【0026】
触媒担体1は、ハニカム体10と、外筒20とから構成され、排ガス浄化用の触媒コンバータとして使用される。触媒担体1は、ディーゼル排ガスに含まれるNOxを無害化する浄化装置に用いることができる。より具体的には、ディーゼル排ガス処理設備に設けられる、DOC、SCRとして用いることができる。DOCとしての触媒担体1は、排ガス中に含まれる未燃焼ガスのうち炭化水素を水と二酸化炭素に酸化し、一酸化炭素を二酸化炭素に酸化し、一酸化窒素を二酸化窒素に酸化する。なお、二酸化窒素は非常に酸化力の強いガスであるため、DOCの下流に配置されるDPFに堆積したPMと接触して、PMを燃焼させる。
【0027】
SCRとしての触媒担体1は、DPFから排出された排ガスに含まれる窒素酸化物とアンモニアとの化学反応を促進して、これらを窒素及び水に還元させる。アンモニアは、尿素水タンクからインジェクターを介して尿素水をSCRの上流側に吹き込み、排ガスの熱で加水分解させることにより生成される。
【0028】
ハニカム体10は、波箔30と平箔40とを重ね合わせて軸周りに巻き回すことで構成されている。ハニカム体10の径方向断面は、円形に形成されている。波箔30及び平箔40には、触媒担持用のステンレス箔を用いることができる。このステンレス箔の成分系について後述する。
【0029】
図2の展開図を参照して、波箔30はオフセット構造に形成されている。ここで、オフセット構造とは、軸方向において隣り合うフィンFの位相が互いに異なる構造のことであり、本実施形態では軸方向に並ぶフィンFが互い違いとなるように千鳥状に配列されている。ただし、オフセット構造は、千鳥状に限定されるものではなく、後述するように軸方向において隣り合うフィンFの位相が互いに異なる他の構造も含まれる。また、オフセット構造は、波箔30の全体に形成されていてもよいし、波箔30の一部にだけ形成されていてもよい。このように、波箔30をオフセット構造に形成することにより、波箔30に接触する排ガスが増加して、触媒担体1の浄化性能を高めることができる。
【0030】
個々のフィンFは、天面101と、天面101の両端から延びる一対の左側斜辺102,右側斜辺103とを備えており、これらの左側斜辺102,右側斜辺103は天面101から離隔するに従って末広がりとなる方向に傾斜している。つまり、フィンFは、軸方向視において台形状に形成されている。
【0031】
軸方向において隣り合うフィンFの天面101は、互いに部分的に接続されている。ハニカム体10の周方向において隣り合うフィンFは、連設部104を介して互いに接続されている。具体的には、隣接する一方のフィンFにおける右側斜辺103と他方のフィンFにおける左側斜辺102との下端部を繋ぐことで、周方向において隣り合うフィンFを互いに接続することができる。これにより、千鳥状に配列されたフィンFを含む波箔30が一枚の板材となるため、剛性を高めることができる。
【0032】
ここで、触媒担体1をディーゼル排ガス処理設備に設けられるDOC、SCR等に適用した場合に生じる風食の問題を回避するために、本実施形態では、各フィンFのガス入側端面、つまり、ガス入側に向かって露出する露出端面を含む所定範囲Tに酸化皮膜を形成している。所定範囲Tは、露出端面から少なくとも2mmである。酸化皮膜の形成領域が2mmより小さくなると、風食が起こり易くなる。図3の部分斜視図では、酸化皮膜が形成されている領域をハッチングで示している。なお、少なくとも2mmであるから、所定範囲Tは2mm超であってもよい。また、酸化皮膜は、平箔40におけるガス入側に向かって露出する露出端面を含む所定範囲Tにも形成されている。所定範囲Tについては、説明を繰り返さない。
【0033】
この酸化皮膜は、α-アルミナを30質量%以上99.9質量%以下含んでおり、残部が第2のアルミナ、Fe酸化物及びCr酸化物のうち少なくとも1種類からなり、触媒担持用のステンレス箔に特殊な熱処理(以下、特殊熱処理と称する)を施すことにより形成される。第2のアルミナは、γ、θ、χ、δ、η、κアルミナのうち少なくとも1種類以上からなる。
【0034】
本発明のハニカム体の波箔、平箔を構成するステンレス箔の板厚は5μm以上200μm以下である。5μm以上であると機械強度が実用レベルであり、200μm以下では熱容量が小さくなり、ライトオフ特性が良好になる。
さらに本発明のハニカム体の波箔、平箔を構成するステンレス箔には少なくともFe,Cr,及びAlが含有されている。含有されたAlはステンレス箔表面にα-アルミナ等を形成するために利用される。
【0035】
ステンレス箔内、および、α-アルミナ等として酸化皮膜に含有される全Al量の望ましい範囲は質量%で1.5%以上13%以下である。1.5%未満であるとステンレス箔に含まれるAlがα-アルミナの生成に消費され、ステンレス箔内のAlが枯渇してしまうことがある。この場合には、ステンレス箔が異常酸化してボロボロになってしまうため、1.5%以上が望ましい。13%を超えると、ステンレス箔の靭性が著しく低下し、排気ガスの圧力や振動によって箔の欠けや亀裂が発生して、構造信頼性が損なわれる。したがって、酸化皮膜とステンレス箔に含有する全Al濃度の最大値は13%以下が好ましい。
【0036】
ステンレス箔内、および、酸化皮膜に含有される全Cr量の望ましい範囲は質量%で9%以上30質量%以下である。9%未満であるとα-アルミナを安定にして、耐酸化性を向上させる効果が不十分となるおそれがある。また、30%を超えると鋼が脆くなり、冷間圧延や加工に耐えなくなる。
【0037】
ステンレス箔には、更に、Ti,Zr,Nb,Hf、Mg,Ca,Ba,Y及び希土類元素の少なくとも1種が含まれていてもよい。
【0038】
Ti,Zr,Nb,Hfは、上述のα-アルミナを含む酸化皮膜とステンレス箔との間に下地層として形成される別の酸化皮膜の酸素透過性を低下させ、酸化速度を著しく減少させる効果がある。しかしながら、合計で2.0%を超えると箔中に金属間化合物の析出が増えて箔を脆くするため、それらの合計は2.0%以下であることが好ましい。
【0039】
Mg,Ca,Baもアルミナに固溶し、ステンレス箔の高温耐酸化性を向上させる場合がある。合計で0.01%を超えると箔の靭性が低下するため、0.01%以下であることが好ましい。
【0040】
Y、希土類元素は、酸化皮膜の密着性を確保する元素として添加することができる。但し、合計で0.5%を超えると箔中に金属間化合物の析出が増加し、靭性が低下するので0.5%以下であることが好ましい。
【0041】
ステンレス箔には、更に、不可避的不純物として、C,Si及びMnが含まれる。
【0042】
Cは、ステンレス箔の靭性、延性、耐酸化性に悪影響するので、低いほうが望ましいが、本発明においては0.1%以下であれば実害が許容できるので、上限は0.1%であることが望ましい。
【0043】
Siは、ステンレス箔の靭性、延性を低下させ、一般には耐酸化性を向上させるが、2%を超えると効果が少なくなるばかりでなく、靱性が低下する問題を生じる。したがって2%以下が好ましい。
【0044】
Mnは2%を超えて含有すると、ステンレス箔の耐酸化性が劣化するので、その上限は2%であることが好ましい。
【0045】
酸化皮膜の成分限定理由について述べる。
α-アルミナは、Alの分子式で表され、代表的なコランダム結晶構造(六方晶)を有しており、排ガスに含まれるパーティクルに対して優れた耐風食性を発揮する。このため、酸化皮膜に含まれるα-アルミナの下限値は30質量%とした。一方、ステンレス箔に特殊熱処理を施すと、γ、θ、χ、δ、η、κアルミナのうち少なくとも1種からなる第2のアルミナ、Fe酸化物及びCr酸化物のうち少なくとも1種以上が必然的に形成されるため、酸化皮膜の全てをα-アルミナによって形成することはできない。このため、酸化皮膜に含まれるα-アルミナの上限値は99.9質量%とした。さらに、α-アルミナが40%以上であると、酸化皮膜の硬度が増加し、より優れた耐風食性を得られる。このため、より好ましい下限値は40%である。また、上限値が99.5%以下であると、酸化皮膜の靭性が向上して亀裂や剥離が発生しにくくなるので、より好ましい上限値は99.5%とした。
【0046】
酸化皮膜に含まれるFeの含有量は、好ましくは、0.1質量%以上7質量%以下である。Feの含有量が0.1%未満であると、酸化皮膜の靭性が低下して亀裂や剥離が発生しやすくなるため、Feの含有量は0.1%以上とした。Feの含有量が7%を超えると、触媒層へFeが溶出して、浄化性能が著しく低下する場合があるため7%以下にした。
【0047】
酸化皮膜に含まれるCrの含有量は、好ましくは、0.1質量%以上4質量%以下である。Crの含有量が0.1%未満であると、酸化皮膜の靭性が低下して亀裂や剥離が発生しやすくなるため、Crの含有量は0.1%以上とした。Crの含有量が4%を超えると、触媒層へCrが溶出して、浄化性能が著しく低下する場合があるため4%以下にした。
【0048】
次に、図4の工程図を参照しながら、特殊熱処理を含む本実施形態の触媒担体の製造方法について説明する。工程S1において、帯状に延びるステンレス箔にプレス加工を施して凹凸を形成し、これを平箔と重ね合わせた状態で所定の軸周りに巻き回すことでハニカム体10を製造する。
【0049】
工程S2において、このハニカム体10をステンレスからなる筒状の外筒20に内挿し、これらのハニカム体10及び外筒20の接着予定部にロウ材を塗布する。工程S3において、ロウ材が塗布されたハニカム体10及び外筒20を真空雰囲気下で熱処理して、ロウ材を固着させる。
【0050】
工程S4において特殊熱処理を行う。この特殊熱処理は、外筒20に内挿されたハニカム体10を特定の雰囲気、温度条件下で、ハニカム体10の入側端部から出側端部に向かってガスを流すことで実施される。特定の雰囲気とは、酸素分圧が10Paから大気圧程度の雰囲気、或いは水蒸気露点を制御した酸化性雰囲気のことであり、雰囲気温度は850℃から1300℃に制御されている。ここで、雰囲気温度が850℃未満に低下すると、α-アルミナの含有量を30質量%以上に高めることができない。
【0051】
ガスにはこの特定の雰囲気中のガスをそのまま用いることができる。ガスの流速はハニカム体当たりのSV(Space velocity)値として0.1(1/h)から100(1/h)が望ましい。SV値が0.1(1/h)未満になると、各フィンFの入り側端面に形成された酸化皮膜に含まれるα-アルミナの含有量が30質量%未満に低下するおそれがある。つまり、α-アルミナの含有量を30質量%以上に高めるためには、雰囲気温度を850度以上に設定すること、SV値を0.1(1/h)以上に設定することが必要である。これらの条件のうちいずれか一方を満足しない場合には、α-アルミナの含有量が30質量%に到達しないことを、本発明者等は実験的に確認している。また、SV値が100(1/h)超になると、α-アルミナの含有量を高める効果が飽和する。
【0052】
ハニカム体10の各流路に流入したガスは、各フィンFの入側端面に衝突しながら、ハニカム体10の出側端面に向かって移動する。この際、ガスに接触した各フィンFの壁面は全て酸化されるが、各フィンFの入側端面には直接ガスが衝突するため、他の壁面とは異なる成分の酸化皮膜、つまり、α-アルミナを30質量%以上含む耐風食性に優れた酸化皮膜が形成される。一方、ガス出側端面に形成される酸化皮膜は必ずしも本発明の酸化皮膜でなくてもよく、例えば、α-アルミナの含有率が10%以上30%未満であっても問題は無い。
【0053】
ここで、酸化皮膜の厚みは、前述のガスを流す時間を調節することによって変えることができる。酸化皮膜の厚みは、好ましくは、100nm以上10μm以下である。酸化皮膜の厚みが100nm未満になると、フィンFの入側端面を風食から保護する効果が低下する。酸化皮膜の厚みが10μmを超えると、酸化皮膜が割れやすくなり、剥離などのトラブルが発生する確率が増加するデメリットがある。
【0054】
このように、本実施形態では、ハニカム体10を加熱雰囲気に晒すとともに、この雰囲気中のガスをハニカム体10の入側端面から吹き込むことで酸化処理を行っているため、各フィンFの入側端面を含む所定範囲Tにα-アルミナを30質量%以上含む耐風食性に優れた酸化皮膜を形成することができる。なお、工程S1から工程S4を実施することによって製造されたハニカム体10及び外筒20が特許請求の範囲に記載の触媒担持用基材に相当する。
【0055】
工程5において、各フィンFの入側端面を含む所定範囲Tに酸化皮膜が形成されたハニカム体10及び外筒20を触媒浴に浸漬させ、触媒担体1を製造する。
【0056】
実施例を示して本発明についてより具体的に説明する。
(実施例1)
酸化皮膜に含まれるα-アルミナの含有量を調整して、それぞれの触媒担体について耐風食性を評価した。各種の触媒担体をディーゼル排ガス処理設備に設けられるDOCに適用し、20万(km)相当の走行試験を行った後に、触媒担体の風食性、浄化性能を評価した。風食性については、試験前後の触媒担体の重量を比較し、重量減少が1質量%以下の場合には風食性が良好であるとして○で評価し、1.0質量%超の場合には風食性が不良であるとして×で評価した。
【0057】
浄化性能については、初期性能に対する最終性能の劣化率で評価し、劣化率が30%以下の場合には、浄化性能の劣化が極めて小さいとして○で評価し、劣化率が30%超40%未満の場合には浄化性能の劣化が小さいとして△で評価し、劣化率が40%以上の場合には、浄化性能の劣化が大きいとして×で評価した。初期性能は、触媒温度が900℃になっている間の累積時間が1時間になった時に測定した浄化性能とした。浄化性能はCO、HC、NOxの浄化率で測定した。最終性能は、触媒温度が900℃になっている間の累積時間が500時間になった時に測定した浄化性能とした。表1は、これらの試験結果を纏めた表であり、添加元素の欄に記載した「REM」はミッシュメタルの略である。
【表1】
【0058】
比較例1,6はオフセット構造を有しないため、浄化性能の評価が×になった。比較例2,7は、各フィンFのガス入側端面にα−アルミナを含む酸化皮膜を形成するための特殊熱処理を施さなかったため、風食性の評価が×になった。比較例3,4,8,9は、特殊熱処理における加熱温度が850℃未満であるため、ガス入側端面の酸化皮膜に含まれるα−アルミナの含有量が30質量%未満となり、風食性の評価が×になった。また、比較例3,4,8,9は、各フィンFのガス入側端面に形成された酸化皮膜に含まれるFe及びCrがそれぞれ7質量%超及び4質量%超になったため、浄化性能の評価が△になった。比較例5,10は、SV値が0.1(1/h)未満であるため、ガス入側端面の酸化皮膜に含まれるα−アルミナの含有量が30質量%未満となり、風食性の評価が×になった。比較例5、10は、各フィンFのガス入側端面に形成された酸化皮膜に含まれるFe及びCrがそれぞれ7質量%超及び4質量%超になったため、浄化性能の評価が△になった。
【0059】
(変形例1)
上述の実施形態では、工程S3のロウ付け処理の後に工程S4の特殊熱処理を実施したが、本発明はこれに限るものではなく、工程S4の前に、酸素分圧10−2Pa程度の真空中や、水素、一酸化炭素等の還元雰囲気中で焼成して、ステンレス箔の表面状態を特殊熱処理の前に整えておいてもよい。これにより、上述の酸化皮膜の付与を効率的に実施できる場合がある。
【0060】
(変形例2)
上述の実施形態では、各フィンFを千鳥状に配置したが、本発明はこれに限るものではなく、軸方向の前後で波の位相が異なるオフセット構造を備えていれば他の構成であってもよい。例えば、図5に図示するように、軸方向に対して傾斜する傾斜方向にフィンFを並設したオフセット構造を有する波箔にも本願発明は適用することができる。この場合、各フィンFのガス入り側の端面(露出端面に相当する)に耐風食性に優れた酸化皮膜を形成することができる。また、図6に図示する波箔にも本願発明は適用することができる。すなわち、波箔に一対のスリットSを形成し、これらの一対のスリットSに挟まれた領域を下方に押し下げることにより、上に凸のフィンF1及び下に凸のフィンF2を形成したオフセット構造にも本願発明は適用することができる。この場合、フィンF1のガス入り側端面と、フィンF2のガス入り側端面とに耐風食性に優れた酸化皮膜を形成することができる。
【0061】
(変形例3)
上述の実施形態では、触媒担体1をディーゼル排ガスを浄化する浄化装置に用いる例について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、ガソリンの燃焼排ガスを浄化する浄化装置にも適用することができる。
【0062】
(変形例4)
平箔40には間欠的に複数の開口部が形成されていてもよい。ハニカム体10の各流路に流入した排ガスは各開口部を通過して隣接する別の流路に分岐流入するため、乱流が発生し易くなり、排ガスの浄化性能を高めることができる。また、特殊熱処理を実施した際に各開口部をガスが通過して、これらの開口部における主として下流側の縁の部分にα-アルミナを30質量%以上含む上述の本願発明の酸化皮膜を形成することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 触媒担体
10 ハニカム体
20 外筒
30 波箔
40 平箔
F フィン
図1
図2
図3
図4
図5
図6