【実施例】
【0038】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1)
芯成分としてポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名「SA03」)を用い、鞘成分としてポリアセタール樹脂(三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、商品名「ユピタール」)を用いた。芯鞘比が芯:鞘=8:2になるようにした。
図6Aに示すような四葉型のノズル孔形状を有する複合紡糸ノズルを用いて、紡糸温度200℃にて溶融押出し、引取速度541m/分で引き取り、繊度7.8dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントは、155℃で、4.4倍に乾式延伸した。得られた延伸フィラメントに界面活性剤として炭素数12のアルキルリン酸エステルカリウム塩を1.0質量%付着させ、繊維長6mmに切断し、繊度2.2dtexの繊維(以下において、「C‐(PP/POM)」と記す。)を得た。
【0040】
得られた繊維は、
図7に示しているように、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。
【0041】
(実施例2)
鞘成分としてエチレン‐ビニルアルコール共重合体(EVOH樹脂、日本合成化学株式会社製、商品名「ソアノール」)を用いた以外は、実施例1と同様にして、繊維長6mm、繊度2.2dtexの繊維(以下において、「C‐(PP/EVOH)」と記す。)を得た。
【0042】
得られた繊維は、
図8に示しているように、断面形状が4つの凸部(突起)を有する4葉型であった。
【0043】
(実施例3)
ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名「SA01A」)を、四葉型のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度270℃にて溶融押出し、引取速度485m/分で引き取り、繊度7.8dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントは、155℃で、4.4倍に乾式延伸した。得られた延伸フィラメントを、コロナ放電処理機に通して、0.5kW/m
2/minの放電量でコロナ放電処理して親水化し、次いで、繊維仕上げ剤(界面活性剤)として炭素数12のアルキルリン酸エステルカリウム塩を1.0質量%付着させ、繊維長6mmに切断し、繊度2.2dtexの繊維(以下において、「C‐PPコロナ」と記す。)を得た。
【0044】
得られた繊維は、
図9に示しているように、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。
【0045】
(実施例4)
鞘成分にポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名「SA01A」)を用い、鞘成分樹脂に炭酸カルシウム粒子(平均粒子径0.57μm)を6質量%混合した以外は、実施例1と同様にして、繊維長6mm、繊度2.2dtexの繊維(以下において、「C‐PP‐Ca」と記す。)を得た。
【0046】
得られた繊維は、
図10に示しているように、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。
【0047】
(実施例5)
図6Bに示すような五角中空型のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いた以外は、実施例3と同様にして、繊維長6mm、繊度2.2dtexの繊維(以下において、「五角中空PPコロナ」と記す。)を得た。
【0048】
得られた繊維は、
図11に示しているように、繊維断面形状が5つの凸部(突起)を有する五角中空型であった。
【0049】
(比較例1)
円型のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いた以外は、実施例3と同様の方法で、円型断面を有し、繊維長6mm、繊度2.2dtexの繊維(以下において、「PPコロナ」と記す。)を得た。
【0050】
実施例1〜5及び比較例1の繊維の繊維物性を下記のように測定し、その結果を下記表1に示した。また、実施例1〜5及び比較例1の繊維のセメント硬化体のひび割れの自己治癒に対する効果を下記のマイクロスコープ観察及び透水試験により評価した。なお、表1には、繊維断面における突起の形状に関するデータも示した。
【0051】
(繊維物性)
<繊維強度、伸度>
JIS L 1015に準じ、引張試験機を用いて、試料の掴み間隔を20mmとし、繊維が切断したときの荷重値及び伸びを測定し、それぞれを繊維強度及び伸度とした。
<ヤング率>
上記方法で引張試験を行って、荷重−伸長曲線を描き、JIS L 1015に準じて、第1降伏点までの最大傾き量(初期引張抵抗度)を求め、初期引張抵抗度から見かけヤング率を求めた。
<繊維周長>
繊維を束ねて切断し、その繊維断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で倍率1000倍に拡大撮影し、得た画像データを、東洋紡績株式会社画像事業プロジェクト製の画像解析ソフト(商品名「Image Analyzer V20」)を用いて、画像処理を行い、繊維外周方向を約30点に分割し、2点間距離の足し合わせにより算出した。
【0052】
(自己治癒効果)
<使用材料>
試験体の作製には、以下のような材料を、W/Bが45%、S/Bが45%、SF/Bが15%、SP/Bが0.9%になるように配合し、繊維を2体積%なるように添加したモルタルを用いた。
セメント:早強ポルトランドセメント(宇部三菱セメント社製、比重3.14g/cm
3、比表面積4450cm
3/g)
細骨材:珪砂5号(ショーボンド建設社製、比重2.61g/cm
3、平均粒径180μm)
混和材:シリカフューム(エルケムジャパン社製、比重2.2g/cm
3、平均粒径0.15μm);高性能AE減水剤(BASFポゾリス社製、比重1.05g/cm
3、主成分ポリカルボン酸エーテル系化合物)
【0053】
<第一載荷試験>
上記のモルタルを用い、長さ85mm、幅85mm、厚さ25mmの試験体(セメント硬化体)を作製した。
図1に示すように、試験体1には4本のネジ鉄筋2(M6)を埋設した。平行するネジ鉄筋2の間の距離Dは40mmとした。打設後7日間、20℃の養生槽内で水中養成した(以下において、第一養生と記す。)。第一養生の後、万能試験機を用いて試験体1のネジ鉄筋2を引張る引張載荷試験(以下において、第一載荷試験と記す。)を行うことで、試験体1に300μm程度の幅のひび割れを導入した。第一載荷試験の引張の方向は
図1にて矢印で示した。ひび割れ導入後、試験体1の両側に金属プレート3を定着用ナット4で固定し、ひび割れ幅を保持した試験体10を得た。次いで、試験体10を再度20℃の水中で4週間(28日間)水中養生を行った(以下において、第二養生と記す)。第二養生期間中に自己治癒が進行していた。
【0054】
<第二載荷試験>
第二養生28日目以降に、第一載荷試験と同じ方法で第二載荷試験を行った。なお、各試験体において、第一載荷試験及び第二載荷試験における応力と変異の関係を
図3に示した。
図3A〜Fは、それぞれ、実施例1〜5、比較例1のデータを示している。
【0055】
<マイクロスコープ観察>
マイクロスコープを用いて、自己治癒物質の付着状況を観察することにより、自己治癒の進展を確認した。ひび割れ導入時(第二養生0日目)に、各試験体におけるひび割れをマイクロスコープで撮影し、最大ひび割れ幅の計測を行った。第二養生3日目、14日目及び28日目にもそれぞれ同様の観察を行い、ひび割れ表面部分への自己治癒物質の付着状況を確認した。マイクロスコープ観察結果(50倍)を
図4A〜Bに示した。
【0056】
<透水試験>
図2に示すようにひび割れ導入した試験体10を配置した小型透水試験機20を用いて透水試験を行い、上部ピペット11の単位水量の損失時間を記録し、透水係数を算出した。
図2において、矢印は純水の流れ方向を示している。透水試験は、第二養生0日目、3日目、14日目及び28日目に行い、透水係数の変化を調べ、水密性能を評価した。透水試験は、n=3で行った。第二養生の日数と平均透水係数の減少割合の関係を
図5に示した。
【0057】
<自己治癒物質平均付着幅>
試験体は、上記のモルタルを用い、40×40×160mmの角柱試験体を準備し、水中養生し、材齢7日において曲げ載荷によって破断したものを用いた。試験体片の浸漬開始から7日において、各試験体の破断面に現れている繊維を観察し、繊維周りへの自己治癒物質平均付着幅を以下の式で算出した。
自己治癒物質平均付着幅=(治癒後平均繊維直径−公称直径)/2
【0058】
<破断面観察>
上記第二載荷試験後の試験体の破断面を、マイクロスコープにより観察し、3D計測ソフトを用いて破断面の凹凸を計測した。凹凸の計測は、試験体の鉄筋の影響の少ない25×35mmの範囲で試験体の短辺方向に向かって5カ所行った。
【0059】
【表1】
【0060】
図3から、各々の繊維を含む試験体において、最大引張強度は1.5〜2.5MPaであることが分かった。また、最大引張強度到達後に、実施例3(
図3C)、実施例4(
図3D)及び実施例5(
図3E)の繊維を含む試験体では擬似ひずみ硬化挙動が見られた。また、第一載荷試験と第二載荷試験との強度比を見ると、実施例3の繊維を用いた場合最大引張強度が第一載荷試験と第二載荷試験で同程度であることが確認できた。
【0061】
図4A及び
図4Bのマイクロスコープ写真から、各々の繊維を含む試験体において、ひび割れ部分に、自己治癒物質が析出し、ひび割れが閉塞することが確認できた。特に、実施例2、実施例3及び実施例4の繊維を用いた試験体では、3日目の時点で、ひび割れ表面がほぼ閉塞することが確認できた。実施例1及び実施例5の繊維を用いた試験体でも、14日目の段階で、ひび割れ表面がほぼ閉塞することが確認できた。
【0062】
図5から、各々の繊維を含む試験体において、経時変化に伴い透水係数が減少していることが分かった。特に、実施例1〜5の繊維を用いた試験体では、比較例1の繊維を用いた試験体より、透水係数がより低減していた。実施例の繊維の方が、比較例の繊維より、セメント硬化体のひび割れの自己治癒を促進する効果が高いことが分かった。
【0063】
破断面観察の結果、実施例3は破断面の凹凸性状が複雑であった。このことから、細かなひび割れであったことが確認できた。実施例1は繊維強度及びヤング率が低かったからか、破断面の凹凸性状は比較的平滑であった。
【0064】
(実施例6)
ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名「SA01A」)を
図6Aに示すような四葉型のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度270℃にて溶融押出し、引取速度839m/分で引き取り、繊度4dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントは、150℃で、3.6倍に乾式延伸した。得られた延伸フィラメントに、繊維仕上げ剤(界面活性剤)として実施例1で用いたものよりもセメントとの親和性が高い別のリン酸エステル系界面活性剤を1.0質量%付着させ、繊維長6mmに切断し、繊度1.1dtexの繊維を得た。得られた繊維は、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。
【0065】
(実施例7)
引取速度を428m/分にし、紡糸フィラメント(未延伸糸)の繊度を7.8dtexにし、延伸倍率を4.4倍にした以外は、実施例6と同様にして、繊維長6mm、繊度2.2dtexの繊維を得た。得られた繊維は、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。
【0066】
(実施例8)
繊維長を10mmになるように切断した以外は、実施例7と同様にして繊維を得た。得られた繊維は、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。
【0067】
(実施例9)
引取速度を364m/分とし、紡糸フィラメント(未延伸糸)の繊度を10.4dtexとし、延伸倍率を4.4倍とした以外は、実施例6と同様にして、繊維長6mm、繊度3.3dtexの繊維を得た。得られた繊維は、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。
【0068】
(実施例10)
図6Cに示すような八葉型のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用い、引取速度を857m/分とし、紡糸フィラメント(未延伸糸)の繊度を7.8dtexとし、延伸倍率を4.4倍とした以外は、実施例6と同様にして、繊維長6mm、繊度2.2dtexの繊維を得た。得られた繊維は、
図12に示しているように、繊維断面形状が8つの凸部(突起)を有する八葉型であった。
【0069】
(実施例11)
図6Dに示すようなUFO型のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用い、引取速度を830m/分とし、紡糸フィラメント(未延伸糸)の繊度を7.8dtexとし、延伸倍率を4.4倍とした以外は、実施例6と同様にして、繊維長6mm、繊度2.2dtexの繊維を得た。得られた繊維は、
図13に示しているように、繊維断面形状が2つの凸部(突起)を有するUFO型(トライパス型)であった。
【0070】
(実施例12)
図6Eに示すようなH型のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用い、引取速度を1344m/分とし、紡糸フィラメント(未延伸糸)の繊度を7.8dtexとし、延伸倍率を4.4倍とした以外は、実施例6と同様にして、繊維長6mm、繊度2.2dtexの繊維を得た。得られた繊維は、
図14に示しているように、繊維断面形状が4つの凸部(突起)を有するH型であった。
【0071】
(実施例13)
繊維仕上げ剤(界面活性剤)として実施例1で用いたものと同様のものを用いた以外は、実施例7と同様にして、繊維長6mm、繊度2.2dtexの繊維を得た。得られた繊維は、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。
【0072】
(実施例14)
芯成分として、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名「SA01A」)を用いた。鞘成分として、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名「SA01A」)と、マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱化学株式会社製、商品名「モディック」、品番「P908」、酸価度:12.8)と、マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱化学株式会社製、商品名「モディック」、品番「P555」、酸価度:0.4)を、質量比が61.2:6.8:32になるように混合した樹脂混合物を用いた。
図6Aに示すような四葉型のノズル孔形状を有する複合紡糸ノズルを用いて、芯鞘比が8:2になるようし、芯成分は紡糸温度270℃で、鞘成分は紡糸温度270℃で溶融紡糸し、引取速度485m/minで引き取り、繊度7.8dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントは、155℃で、4倍に乾式延伸した。得られた延伸フィラメントに繊維処理剤として、実施例1で用いたものよりもセメントとの親和性が高い別のリン酸エステル系界面活性剤を1.0質量%付着させ、繊維長6mmに切断し、繊度2.2dtexの繊維を得た。得られた繊維は、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。
【0073】
(参考例1)
参考例1としてビニロン繊維(ユニチカ社製、商品名「22A」、繊度2.2dtex、繊維長6mm)を用いた。
【0074】
実施例6〜13及び参考例1の繊維の繊維物性を上記のように測定・観察し、その結果を下記表2及び表3に示した。なお、表2及び表3には、繊維断面における突起の形状に関するデータも示した。
【0075】
【表2】
【0076】
【表3】
【0077】
実施例6〜13及び参考例1の繊維を用い、上述したとおり、第一載荷試験を行い、その結果を
図15に示した。
図15のA〜Iは、それぞれ、実施例6〜13、参考例1のデータを示している。
図15から、実施例の繊維を含む全ての試験体において、最大引張強度は1.5〜2.5MPaであることが分かった。
【0078】
実施例6〜14の繊維のセメント硬化体のひび割れの自己治癒に対する効果を第二養生期間中の自己治癒物質の付着状況を上記のようにマイクロスコープを用いて観察することにより評価した。その結果を
図17〜
図19に示した。
【0079】
図17〜
図19のマイクロスコープ写真から、実施例6〜14の繊維を含む試験体において、ひび割れ部分に、自己治癒物質が析出し、ひび割れが閉塞することが確認できた。特に、実施例6〜11、13及び14の繊維を用いた試験体では、3日目の時点で、ひび割れ表面がほぼ閉塞することが確認できた。
【0080】
実施例6〜14及び参考例1の繊維のセメント硬化体のひび割れの自己治癒に対する効果を上記のように透水試験により評価した。透水試験は、第二養生0日目、3日目、14日目、28日目及び90日目に行い、第二養生の日数と平均透水係数の減少割合の関係を
図20に示した。
【0081】
図20から、実施例6〜14の繊維を含む試験体において、経時変化に伴い透水係数が減少していることが分かった。特に、実施例6、7、9、10、13及び14の繊維を用いた試験体では、実施例8、11、12及び参考例1の繊維を用いた試験体より、透水係数がより低減していた。アスペクト比が250〜500の範囲内の実施例の繊維の方が、セメント硬化体のひび割れの自己治癒を促進する効果が高いことが分かった。また、突起が繊維の中心付近から放射状に形成されている実施例の繊維の方が、セメント硬化体のひび割れの自己治癒を促進する効果が高いことが分かった。
【0082】
(実施例15)
ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名「SA01A」)を、四葉型のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、紡糸温度270℃にて溶融押出し、引取速度123m/分で引き取り、繊度50dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントは、155℃で、5倍に乾式延伸した。得られた延伸フィラメントを、コロナ放電処理機に通して、0.5kW/m
2/minの放電量でコロナ放電処理して親水化し、次いで、繊維仕上げ剤(界面活性剤)として実施例1で用いたものよりもセメントとの親和性が高い別のリン酸エステル系界面活性剤を1.0質量%付着させ、繊維長6mmに切断し、繊度10.5dtexの繊維を得た。得られた繊維は、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。繊維周長は、214.7μmであった。
【0083】
(実施例16)
繊維長を12mmに切断した以外は、実施例15と同様にして、繊度10.5dtexの繊維を得た。得られた繊維は、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。
【0084】
(実施例17)
芯成分として、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名「SA03」)を用いた。鞘成分として、ポリプロピレン樹脂(日本ポリプロ株式会社製、商品名「SA03」)と、マレイン酸変性ポリプロピレン(三菱化学株式会社製、商品名「モディック」、品番「P908」、酸価度:12.8)を、質量比が68.8:31.2になるように混合した樹脂混合物を用いた。
図6Aに示すような四葉型のノズル孔形状を有する紡糸ノズルを用いて、芯鞘比が8:2になるようし、芯成分は紡糸温度230℃で、鞘成分は紡糸温度230℃で溶融紡糸し、引取速度344m/minで引き取り、繊度が11dtexの紡糸フィラメント(未延伸糸)を作製した。得られた紡糸フィラメントは、155℃で、5.3倍に乾式延伸した。得られた延伸フィラメントに繊維処理剤として、実施例1で用いたものよりもセメントとの親和性が高い別のリン酸エステル系界面活性剤を1.0質量%付着させ、繊維長6mmに切断し、繊度2.2dtexの繊維を得た。得られた繊維は、断面形状が4つの凸部(突起)を有する四葉型であった。繊維周長は、101.8μmであった。
【0085】
実施例1〜17の繊維の繊度及び繊維長に基づいてアスペクト比を算出し、その結果を下記表4及び表5に示した。表4及び表5には、繊度、繊維径及び繊維長のデータも併せて示した。
【0086】
【表4】
【0087】
【表5】
【0088】
実施例の繊維は、セメント硬化体のひび割れを自己治癒しており、アスペクト比が150〜600の範囲であった。
【0089】
実施例14〜17の繊維を用い、上述したとおり、第一載荷試験を行い、その結果を
図21に示した。
図21A〜
図21Dは、それぞれ、実施例14〜17のデータを示している。
図21から、実施例14、16〜17の繊維を含む全ての試験体において、最大引張強度は1.5〜2.5MPaであることが分かった。実施例15の方は、他の実施例に対し、最大引張強度が低かった。アスペクト比が250〜500の範囲内の実施例の繊維の方が、セメント硬化体にひび割れが形成されても微細なひび割れにすることができることが確認できた。
【0090】
実施例15〜17の繊維のセメント硬化体のひび割れの自己治癒に対する効果を上記のように透水試験により評価した。透水試験は、実施例15及び実施例16の繊維を用いた場合は、第二養生0日目、3日目及び14日目に行い、実施例17の繊維を用いた場合は、第二養生0日目、3日目、14日目及び28日目に行った。第二養生の日数と平均透水係数の減少割合の関係を
図22に示した。
【0091】
図22から、実施例15〜17の繊維を含む試験体において、経時変化に伴い透水係数が減少していることが分かり、セメント硬化体のひび割れの自己治癒されていることが確認できた。
【0092】
実施例15〜17の繊維のセメント硬化体のひび割れの自己治癒に対する効果を第二養生の0、3、7、14、28日間の自己治癒物質の付着状況を上記のようにマイクロスコープを用いて観察することにより評価した。
【0093】
マイクロスコープにより観察した結果、第二養生7日目において、実施例15〜17の繊維を含む試験体について、ひび割れ部分に自己治癒物質が析出し、ひび割れが閉塞することが確認できた。
【0094】
本発明のひび割れ自己治癒用合成繊維について、降雨など乾湿状態が繰り返される屋外環境を考慮し、乾湿が繰り返す環境下(水分が間欠的に付与される環境下)におけるセメント硬化体のひび割れ自己治癒性状を確認するため、以下の乾湿繰り返し試験を行い、マイクロスコープ観察によって評価した。
【0095】
<乾湿繰り返し試験>
まず、実施例3のひび割れ自己治癒用合成繊維を用いて、上述した方法と同様の方法でモルタルの試験体(セメント硬化体)を作製した。該試験体を用い、上述した方法と同様の方法でひび割れ幅(20〜150μm)を保持した試験体を得た。次に、乾燥状態として40℃のオーブンで42時間放置し、湿潤状態として20℃の水中で6時間浸漬を行い、これを乾湿繰り返しの1サイクルとした。これを7サイクル(14日間に相当)まで継続して行った。7サイクル後の試験体のひび割れ部分をマイクロスコープで観察した。
【0096】
実施例3のひび割れ自己治癒用合成繊維を含有する試験体(セメント硬化体)は、ひび割れ部分に自己治癒物質が析出し、ひび割れ幅が50μm程度までのひび割れは閉塞することが確認できた。