(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電極は、前記貫通孔の中心軸に直交する方向における断面形状が長方形であり、かつ、前記貫通孔の中心軸に直交する平面における水平方向の寸法が500mm以上である、
請求項1から6のいずれか1項に記載のガラス熔解装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、熔解槽の外側から内側へ向かって電極を押し込む際に、電極と耐熱レンガとの間に働く摩擦力に起因して、電極の周囲の耐熱レンガが、熔解槽中の熔融ガラスに向かって電極と共に移動してしまうことがある。特に、電極の上方に積層されている耐熱レンガは、このような移動により熔融ガラス中に落下しやすい。これにより、熔解槽からの熔融ガラスの漏洩、および、熔解槽の崩壊が誘発され、熔解槽が使用不能になるおそれがある。
【0006】
本発明の目的は、電極を備える熔解槽の寿命を長期化することができるガラス熔解装置、および、ガラスシート製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガラス熔解装置は、熔解槽と、少なくとも一対の電極と、第1耐火物と、第2耐火物と、係止部材とを備える。熔解槽は、複数の耐火物が積層されて構成される。電極は、熔解槽の側壁に形成された貫通孔に設置される。第1耐火物は、鉛直方向に電極と隣り合う耐火物である。第2耐火物は、水平方向に第1耐火物と隣り合う耐火物である。係止部材は、少なくとも1つの第1耐火物に取り付けられ、第2耐火物に第1耐火物を係止するための部材である。
【0008】
このガラス熔解装置は、熔解槽に投入されたガラス原料を熔解して、熔融ガラスを生成するための装置である。電極は、熔解槽中の熔融ガラスを通電により加熱するために用いられる。熔融ガラスの通電時において、電極の一方の端部は、熔解槽中において高温の熔融ガラスと接している。熔融ガラスと接している電極の端部は、徐々に浸食されて短くなる。そのため、定期的に、熔解槽の外側から内側に向かって電極を押し込んで、電極を移動させる必要がある。電極を押し込む際に、電極と第1耐火物との間に働く摩擦力に起因して、第1耐火物に、熔解槽中の熔融ガラスに向かう力が作用する。しかし、第1耐火物は、係止部材によって第2耐火物に係止されているので、第1耐火物が熔融ガラスに向かって移動することが抑制される。第1耐火物が熔融ガラスに向かって移動すると、第1耐火物が熔解槽から抜け落ちて、第1耐火物が熔融ガラス中に落下する可能性がある。これにより、熔解槽からの熔融ガラスの漏洩、および、熔解槽の崩壊が誘発され、熔解槽が使用不能になるおそれがある。そのため、電極の移動に伴う第1耐火物の移動を係止部材によって抑制することで、熔解槽からの熔融ガラスの漏洩、および、熔解槽の崩壊を防止して、熔解槽の寿命を長期化することができる。
【0009】
また、ガラス熔解装置は、電極移動機構をさらに備えることが好ましい。電極移動機構は、熔解槽の外側から内側に向かって電極を押圧して電極を移動させる機構である。
【0010】
また、係止部材は、嵌入部と、突出部とを有し、かつ、第1耐火物に着脱可能であることが好ましい。嵌入部は、第1耐火物の表面に形成された凹部に嵌め込まれる。突出部は、第1耐火物の表面から突出し、第2耐火物と接する。
【0011】
このガラス熔解装置では、係止部材は、例えば、第1耐火物に対する取り付けおよび取り外しが可能なピンである。電極を熔融ガラスに向かって押し込む際に、熔融ガラスに向かう力が第1耐火物に作用しても、第1耐火物の突出部の移動は、突出部と接する第2耐火物によって止められる。そのため、電極の移動に伴う第1耐火物の移動が、係止部材によって抑制される。
【0012】
また、電極は、複数の導電性要素が積層されて構成されることが好ましい。
【0013】
また、第2耐火物は、さらに、電極の少なくとも1つの導電性要素と隣り合っていることが好ましい。
【0014】
このガラス熔解装置では、第2耐火物は、例えば、熔解槽の側壁の上端から下端まで連続した一体物となっている耐熱レンガである。このような第2耐火物は、係止部材を介して第1耐火物を強固に係止することができるので、電極の移動に伴う第1耐火物の移動が効果的に抑制される。
【0015】
また、ガラス熔解装置は、耐火物移動機構をさらに備えることが好ましい。耐火物移動機構は、熔解槽の外側から内側に向かって、電極の上方に配置される第1耐火物を押圧して第1耐火物を移動させる機構である。
【0016】
このガラス熔解装置では、熔融ガラスの液面が電極の上端より上方にある場合、電極の上方に配置される第1耐火物は、熔解槽中において高温の熔融ガラスと接するので、徐々に浸食されて短くなる。電極の上方に配置される第1耐火物が短くなると、電極の上面が熔融ガラスに接するようになるので、熔融ガラスによる電極の侵食が促進される。そのため、耐火物移動機構を用いて、熔融ガラスに向かって第1耐火物を移動させることで、電極の侵食を抑制することができる。
【0017】
また、電極は、貫通孔の中心軸に直交する方向における断面形状が長方形であり、かつ、貫通孔の中心軸に直交する平面における水平方向の寸法が500mm以上であることが好ましい。
【0018】
また、第1耐火物と電極との間の隙間である第1隙間の寸法は、少なくとも1.0mmであり、かつ、第3耐火物と電極との間の隙間である第2隙間の寸法は、少なくとも1.0mmであることが好ましい。第3耐火物は、水平方向に電極と隣り合う耐火物である。
【0019】
本発明に係るガラスシート製造方法は、熔解方法と成形方法とを備える。熔解方法では、熔解槽にガラス原料が投入され、少なくとも一対の電極を用いてガラス原料が加熱されて熔融ガラスが生成される。熔解槽は、複数の耐火物が積層されて構成される。電極は、熔解槽の側壁に形成された貫通孔に設置される。成形方法では、オーバーフローダウンドロー法によって熔融ガラスからガラスシートが成形される。熔解槽は、第1耐火物と、第2耐火物と、係止部材とを有する。第1耐火物は、鉛直方向に電極と隣り合う耐火物である。第2耐火物は、水平方向に第1耐火物と隣り合う耐火物である。係止部材は、少なくとも1つの第1耐火物に取り付けられ、第2耐火物に第1耐火物を係止するための部材である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るガラス熔解装置、および、ガラスシート製造方法は、電極を備える熔解槽の寿命を長期化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(1)ガラス基板の製造方法の概要
本発明の実施形態であるガラス熔解装置について、図面を参照しながら説明する。最初に、ガラス基板の製造方法の概要を説明する。この製造方法によって製造されるガラス基板は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイおよび有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に用いられる。ガラス基板は、太陽電池パネルの製造にも用いられる。ガラス基板は、例えば、0.2mm〜0.8mmの厚みを有し、かつ、縦680mm〜2200mmおよび横880mm〜2500mmの寸法を有する。ガラス基板は、例えば、次の組成(a)〜(j)を有する。
【0023】
(a)SiO
2:50質量%〜70質量%、
(b)Al
2O
3:10質量%〜25質量%、
(c)B
2O
3:5質量%〜18質量%、
(d)MgO:0質量%〜10質量%、
(e)CaO:0質量%〜20質量%、
(f)SrO:0質量%〜20質量%、
(g)BaO:0質量%〜10質量%、
(h)RO:5質量%〜20質量%(Rは、Mg、Ca、SrおよびBaから選択される少なくとも1種である。)、
(i)R’
2O:0質量%〜2.0質量%(R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。)、
(j)SnO
2、Fe
2O
3およびCeO
2から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物。
【0024】
なお、上記の組成を有するガラスは、0.1質量%未満の範囲で、その他の微量成分の存在が許容される。
【0025】
ガラス基板は、フロート法およびダウンドロー法等により成形される。オーバーフローダウンドロー法を用いるFPD用のガラス基板の製造工程について説明する。
図1は、ガラス基板の製造工程を表すフローチャートの一例である。ガラス基板の製造工程は、主として、熔解工程(ステップS10)と、清澄工程(ステップS20)と、攪拌工程(ステップS30)と、成形工程(ステップS40)と、徐冷工程(ステップS50)と、切断工程(ステップS60)と、端面加工工程(ステップS70)とからなる。
図2は、熔解工程S10から切断工程S60までを行うガラス基板製造装置100の模式図である。ガラス基板製造装置100は、熔解装置101と、清澄装置102と、攪拌装置103と、成形装置104と、切断装置105とから構成される。熔解装置101は、本実施形態のガラス熔解装置である。次に、熔解工程S10から端面加工工程S70までの各工程について説明する。
【0026】
熔解工程S10では、熔解装置101によって、バーナー等の加熱手段によりガラス原料が熔解され、1500℃〜1600℃の高温の熔融ガラス90が生成される。ガラス原料は、所望の組成のガラスを実質的に得ることができるように調製される。ここで、「実質的に」とは、0.1質量%未満の範囲で、その他の微量成分の存在が許容されることを意味する。
【0027】
清澄工程S20では、清澄装置102によって、熔解工程S10で生成された熔融ガラス90をさらに昇温させることで、熔融ガラス90の清澄が行われる。清澄装置102において、熔融ガラス90の温度は、1600℃〜1800℃、好ましくは1650℃〜1750℃に上昇させられる。清澄装置102では、熔融ガラス90に含まれるO
2、CO
2およびSO
2の微小な泡が、ガラス原料に含まれるSnO
2等の清澄剤の還元により生じたO
2を吸収して成長し、熔融ガラス90の液面に浮上する。
【0028】
攪拌工程S30では、攪拌装置103によって、清澄工程S20で清澄された熔融ガラス90が攪拌され、化学的および熱的に均質化される。攪拌装置103では、熔融ガラス90は鉛直方向に流れながら、軸回転するスターラーによって攪拌され、攪拌装置103の底部に設けられた流出口から下流工程に送られる。また、攪拌工程S30では、ジルコニアリッチの熔融ガラス90等、熔融ガラス90の平均的な比重と異なる比重を有するガラス成分が攪拌装置103から除去される。
【0029】
成形工程S40では、成形装置104によって、オーバーフローダウンドロー法によって、攪拌工程S30で攪拌された熔融ガラス90からガラスリボン91が成形される。具体的には、成形セルの上部から溢れて分流した熔融ガラス90が、成形セルの側壁に沿って下方へ流れ、成形セルの下端で合流することでガラスリボン91が連続的に成形される。熔融ガラス90は、成形工程S40に流入する前に、オーバーフローダウンドロー法による成形に適した温度、例えば、1200℃まで冷却される。
【0030】
徐冷工程S50では、成形装置104によって、成形工程S40で連続的に生成されたガラスリボン91が、歪みおよび反りが発生しないように温度制御されながら、徐冷点以下まで徐冷される。
【0031】
切断工程S60では、切断装置105によって、徐冷工程S50で徐冷されたガラスリボン91が所定の長さごとに切断される。切断工程S60では、さらに、所定の長さごとに切断されたガラスリボン91が、所定の寸法に切断されて、ガラス基板が得られる。
【0032】
端面加工工程S70では、切断工程S60で得られたガラス基板の端部が研磨および研削される。
【0033】
なお、端面加工工程S70の後に、ガラス基板の洗浄工程および検査工程が行われる。最終的に、ガラス基板は梱包されて、FPDの製造業者に出荷される。FPD製造業者は、ガラス基板の表面にTFT等の半導体素子を形成して、FPDを製造する。
【0034】
(2)熔解装置の構成
熔解工程S10で用いられる熔解装置101の構成について説明する。
図3は、熔解装置101の模式図である。熔解装置101は、熔解槽11と、複数対の電極12と、複数のバーナー13と、流出管14とを備える。
図3において、熔解装置101は、3対の電極12と、3つのバーナー13とを備えるが、電極12の対の数、および、バーナー13の数は、熔解槽11の寸法に応じて、任意の数であってもよい。
【0035】
熔解槽11は、複数の耐火物が積層されて構成されている。耐火物は、例えば、耐熱レンガである。熔解槽11は、耐火物により構成された側壁21で囲まれた内部空間を有する。熔解槽11の内部空間は、下部空間11aと上部空間11bとから構成される。下部空間11aは、加熱により熔融されたガラス原料である熔融ガラス90が貯留される空間である。上部空間11bは、下部空間11aの上方にある気相空間であり、ガラス原料が投入されて加熱される空間である。熔解槽11は、ある一対の電極12の一方を保持する側壁21と、他方を保持する側壁21とからなる、互いに対向する一対の電極保持側壁22を有する。熔解槽11は、側壁21の上端面に鉛直方向下方の力を加えることで、床面に固定されている。
図3において、上部空間11bの側壁21は省略されている。
【0036】
電極12は、電極保持側壁22を構成する耐火物によって保持されている。下部空間11aにおいて、ある一対の電極12同士は、熔融ガラス90を介して対向している。
図3には、それぞれの対の一方の電極12が示され、他方の電極12が省略されている。それぞれの対の一方の電極12は正電極となり、他方の電極12は負電極となって、熔融ガラス90に電流が流される。熔融ガラス90の通電によって、熔融ガラス90は、ジュール熱を発して、熔融ガラス90自身を加熱する。熔解槽11では、熔融ガラス90は、通電加熱によって、例えば、1500℃以上に加熱される。
【0037】
バーナー13は、上部空間11bにおいて、電極保持側壁22に取り付けられている。バーナー13は、燃料と酸素等とが混合された燃焼ガスを燃焼させて、上部空間11bにおいて火炎を生成する。バーナー13によって生成された火炎は、上部空間11bの側壁21を加熱する。熔融ガラス90の液面に存在するガラス原料は、高温の側壁21からの輻射熱、および、上部空間11bの高温の気体によって加熱されて熔解する。熔解したガラス原料は、その下方の熔融ガラス90に熔けて行く。
【0038】
流出管14は、熔解槽11の側壁21の底部に取り付けられる管である。流出管14は、下部空間11aに貯留されている熔融ガラス90を、熔解槽11から流出させるための管である。流出管14は、熔融ガラス90を熔解装置101から清澄装置102に送る。
【0039】
(3)電極保持側壁および電極の詳細な構成
図4は、熔解槽11の電極保持側壁22と、電極保持側壁22によって保持されている電極12との配置を示す図である。
図5は、電極保持側壁22の厚さ方向における、電極保持側壁22の断面図である。
図4および
図5において、電極12に取り付けられるコネクタ等は省略されている。
図5は、電極12の磨耗、および、電極12の押し込みを示す図である。
図5において、点線は、押し込む前の電極12の位置を示す。
【0040】
電極12は、複数の棒状の電極要素15を束ねた複合体である。電極要素15は、互いに密着している。電極要素15は、酸化スズまたはモリブデン等の耐熱性を有する導電性材料で成形されている。電極要素15のそれぞれは、熔融ガラス90を通電させる電極として機能する。
図4では、鉛直方向に4行、水平方向に3列、合計12本の電極要素15から構成される電極12が示されている。しかし、電極12を構成する電極要素15の数、鉛直方向の行数および水平方向の列数には制限はない。電極12は、1つの電極要素15のみから構成されてもよい。
【0041】
図4に示されるように、電極12は、直方体の形状を有している。電極12は、電極保持側壁22に形成される貫通孔23の内部に設置されている。貫通孔23は、熔解槽11の外部空間と、熔解槽11の内部空間の下部空間11aとを連通する。貫通孔23の内部において、電極12は、その下方に配置されている耐火物の上に載せられて支持されている。電極12は、貫通孔23の中心軸に沿って、熔解槽11の外部空間から、熔解槽11の下部空間11aに向かって延びている。貫通孔23の中心軸の方向は、
図5に示される矢印の方向である。また、電極12は、
図5に示されるように、貫通孔23の中心軸に沿って、下部空間11aの側にある端面である先端面12aと、熔解槽11の外部空間の側にある端面である後端面12bとを有する。電極12の先端面12aおよび後端面12bは、長方形の形状を有している。貫通孔23の断面も、長方形の形状を有している。電極12の上面、下面、および、先端面12aおよび後端面12bを除く一対の側面は、電極保持側壁22を構成する耐火物と隣り合っている。電極12は、これらの耐火物によって囲まれて保持されている。
【0042】
以下、
図4に示されるように、電極12の上面と隣り合う耐火物を上耐火物31、電極12の下面と隣り合う耐火物を下耐火物32、先端面12aおよび後端面12bを除く電極12の側面と隣り合う耐火物を側耐火物33と呼ぶ。電極12の下面は、下耐火物32の上面と接し、電極12は、下耐火物32によって支持されている。下耐火物32は、さらに、他の耐火物の上に載せられている。電極12の側面と、側耐火物33の側面との間にも、隙間が形成されている。電極12の先端面12aは、熔解槽11の下部空間11aにおいて、熔融ガラス90と接している。一対の電極12は、この状態で、外部電源(図示せず)から電流が供給される。
【0043】
電極12の先端面12aは、高温の熔融ガラス90と接しているので、熔融ガラス90によって徐々に浸食されて摩耗する。電極12は、周囲の耐火物によって保持されているので、貫通孔23の中心軸に沿って、磨耗した電極12を熔融ガラス90に向かって押し込んで電極12を移動させることで、下部空間11aにおける電極12の先端面12aの水平方向の位置を一定にすることができる。すなわち、電極12が摩耗した場合、
図5に示されるように、摩耗した分だけ、熔融ガラス90に向かって電極12を下耐火物32の上面に沿って移動させる。電極12の先端面12aの位置を一定にすることにより、電極12は、熔融ガラス90を安定的に通電加熱することができる。
【0044】
また、電極12は、
図6に示されるように、継ぎ足し用の電極である継ぎ足し電極16と接続させることができる。
図6は、
図5に示される電極12に継ぎ足し電極16を接続した状態を示す図である。継ぎ足し電極16は、電極12と同じ形状および構成を有している。すなわち、継ぎ足し電極16は、複数の継ぎ足し電極要素17を束ねた複合体である。なお、継ぎ足し電極16を構成する継ぎ足し電極要素17の数、鉛直方向の行数および水平方向の列数に制限はないが、電極12を構成する電極要素15と同じであることが好ましい。継ぎ足し電極16は、
図6に示されるように、先端面16aおよび後端面16bを有し、電極12の後端面12bは、継ぎ足し電極16の先端面16aと密着している。そのため、電極12は、継ぎ足し電極16と電気的に接続される。すなわち、電極12および継ぎ足し電極16は、それぞれ、電極12と継ぎ足し電極16とが一体となった電極を構成する。継ぎ足し電極16は、電極12と同様に、電極保持側壁22を構成する耐火物と隣り合っており、これらの耐火物によって保持されている。
【0045】
電極12および継ぎ足し電極16は、電極移動機構41によって移動可能となっている。電極移動機構41は、電極12の後端面12b、または、継ぎ足し電極16の後端面16bを、熔融ガラス90に向かって押し込むための機構である。
図7は、電極移動機構41の模式図である。電極移動機構41は、押さえ板41aと、押さえ軸41bと、バネ41cとを有する。押さえ板41aは、電極12の後端面12b、または、継ぎ足し電極16の後端面16bに取り付けられる。
図7では、押さえ板41aは、継ぎ足し電極16の後端面16bに取り付けられている。押さえ板41aの背面には、押さえ軸41bがバネ41cを介して取り付けられている。押さえ軸41bは、床面に固定された圧力ジャッキ(図示せず)に連結されている。圧力ジャッキが、押さえ軸41bに荷重を負荷することによって、押さえ軸41bが、バネ41cを介して押さえ板41aを熔融ガラス90に向かって押す。継ぎ足し電極16は、バネ41cの弾性力による
図7に示される力Fを受けて、電極12と共に、熔融ガラス90に向かって移動する。なお、バネ41cは、ゴム等の弾性体であってもよい。
【0046】
電極12および継ぎ足し電極16を保持する耐火物の一つである上耐火物31は、係止ピン51が取り付けられている。係止ピン51は、上耐火物31に対して取り付けおよび取り外しが可能な金属部材である。
図8は、係止ピン51の外観図である。
図9は、係止ピン51が取り付けられた上耐火物31を有する電極保持側壁22の一部の外観図である。
図10は、
図9に示される電極保持側壁22の上面図である。
図11は、
図9に示される電極保持側壁22の正面図である。
【0047】
図9に示されるように、上耐火物31は、水平方向において、一対の係止耐火物34と隣り合っている。係止耐火物34は、上耐火物31と隣接する耐火物である。上耐火物31は、係止耐火物34と比べて、熔解槽11の外側に向かって突出している。すなわち、
図10に示されるように、熔解槽11の電極保持側壁22の厚み方向において、上耐火物31の寸法は、係止耐火物34の寸法よりも大きい。以下、係止耐火物34の側面と対向する上耐火物31の側面の一部であって、係止耐火物34の側面と接していない表面を、突出表面31aと呼ぶ。上耐火物31の突出表面31aには、凹部31bが形成されている。
【0048】
係止ピン51は、
図8に示されるように、嵌入部52と突出部53とから構成される。嵌入部52は、上耐火物31の凹部31bに嵌入される部分である。突出部53は、上耐火物31の凹部31aから突出する部分である。嵌入部52は、円柱形状を有し、突出部53は、板形状を有している。
【0049】
図9〜11に示されるように、係止ピン51が上耐火物31に取り付けられている状態において、嵌入部52は、上耐火物31の凹部31aの中に嵌入され、突出部53は、上耐火物31の突出表面31aから突出している。なお、
図9〜11に示されるように、嵌入部52の一部は、上耐火物31の突出表面31aから突出していてもよい。係止ピン51の突出部53は、
図10に示されるように、熔解槽11の外表面の一部である、係止耐火物34の表面と接している。
【0050】
なお、本実施形態において、電極12は、貫通孔23の中心軸に直交する方向における断面形状が長方形である。電極12は、
図11に示されるように、貫通孔23の中心軸に直交する平面における水平方向の寸法W1が500mm以上である。また、上耐火物31は、
図11に示されるように、貫通孔23の中心軸に直交する方向における断面形状が長方形である。上耐火物31は、
図11に示されるように、貫通孔23の中心軸に直交する平面における水平方向の寸法W2が、電極12の水平方向の寸法W1と等しい。同様に、下耐火物32も、貫通孔23の中心軸に直交する方向における断面形状が長方形であり、貫通孔23の中心軸に直交する平面における水平方向の寸法が、電極12の水平方向の寸法W1と等しい。
【0051】
(4)特徴
本実施形態の熔解装置101は、熔解槽11に貯留されている熔融ガラス90を通電加熱するために、電極12を用いる。熔融ガラス90を通電加熱している際に、電極12の先端面12aは、熔解槽11の下部空間11aにおいて熔融ガラス90と接している。高温の熔融ガラス90と接している電極12の先端面12aは、徐々に浸食されて短くなる。そのため、定期的に、電極移動機構41を用いて、熔解槽11の外側から内側に向かって電極12または継ぎ足し電極16を押し込んで、電極12の先端面12aの位置を移動させる必要がある。これにより、電極12の先端面12aの位置が一定となり、熔融ガラス90を安定的に通電加熱することができる。
【0052】
電極移動機構41を用いて電極12または継ぎ足し電極16を押し込む際に、電極12または継ぎ足し電極16と、上耐火物31との間に働く摩擦力に起因して、上耐火物31に、熔融ガラス90に向かう力が作用することがある。すなわち、電極12または継ぎ足し電極16と共に熔融ガラス90に向かって移動しようとする力が、上耐火物31に働くことがある。
【0053】
しかし、電極保持側壁22の上耐火物31は、係止ピン51によって係止耐火物34に係止されている。すなわち、
図10および
図11に示されるように、上耐火物31に取り付けられている係止ピン51の嵌入部52の一部および突出部53は、係止耐火物34の表面と接しているので、熔融ガラス90に向かって移動しようとする力が上耐火物31に作用したとしても、係止耐火物34と接している係止ピン51は、熔融ガラス90に向かう上耐火物31の移動を阻止する。そのため、電極移動機構41による電極12または継ぎ足し電極16の移動時において、上耐火物31が熔融ガラス90に向かって移動することが抑制される。
【0054】
上耐火物31が電極12と共に熔融ガラス90に向かって移動すると、熔解槽11の電極保持側壁22から上耐火物31が抜け落ちて、上耐火物31が熔融ガラス90中に落下する可能性がある。これにより、熔解槽11からの熔融ガラス90の漏洩、および、熔解槽11の崩壊が誘発され、熔解槽11が使用不能になるおそれがある。そのため、電極12の移動に伴う上耐火物31の移動を係止ピン51によって阻止することで、熔解槽11からの熔融ガラス90の漏洩、および、熔解槽11の崩壊を防止して、熔解槽11の寿命を長期化することができる。
【0055】
また、本実施形態の熔解装置101では、係止ピン51は、上耐火物31に対する取り付けおよび取り外しが可能な部材である。そのため、係止ピン51は、容易に交換可能である。
【0056】
また、本実施形態の熔解装置101では、上耐火物31の突出表面31aに凹部31aを形成するだけで、係止ピン51を上耐火物31に容易に取り付けることができる。また、係止ピン51を使用するためには、上耐火物31の形状は、直方体でよい。そのため、電極12の移動に伴う上耐火物31の移動を抑制するために、上耐火物31の形状を、直方体以外の形状に変更する必要がない。一般的に、上耐火物31の形状が単純であるほど、上耐火物31の成形に要する費用が抑えられる。従って、熔解装置101は、上耐火物31を係止耐火物34に係止するために係止ピン51を使用することで、低コストで、電極12の移動に伴う上耐火物31の移動を抑制することができる。
【0057】
(5)変形例
以上、本発明に係るガラス熔解装置について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良および変更が施されてもよい。
【0058】
(5−1)変形例A
本実施形態では、
図4および
図9に示されるように、水平方向において上耐火物31と隣り合う係止耐火物34は、鉛直方向において、上耐火物31と同じ寸法を有している。すなわち、係止耐火物34は、上耐火物31の下方に配置される電極12と接していない。しかし、係止耐火物34は、熔解槽11の電極保持側壁22の上端から下端まで連続した一体物となっている耐熱レンガであってもよい。
図12は、本変形例に係る電極保持側壁122の外観図である。電極保持側壁122は、電極112の上方に配置される上耐火物131と、水平方向において上耐火物131に隣接している係止耐火物134とを有している。
【0059】
本変形例において、係止耐火物134は、電極保持側壁122の上端から下端まで延びている。すなわち、
図12に示されるように、係止耐火物134は、上耐火物131と、電極112と、電極112の下方に配置される下耐火物132と隣り合っている。電極112は、複数の棒状の電極要素115を束ねた複合体である。上耐火物131は、係止ピン151によって係止耐火物134に係止されている。係止耐火物134の質量は大きいため、係止耐火物134は、係止ピン151を介して上耐火物131を強固に係止することができる。従って、本変形例では、電極112の移動に伴う上耐火物131の移動が効果的に抑制される。
【0060】
なお、本変形例において、係止耐火物134は、電極保持側壁122の上端から下端まで延びている必要はなく、例えば、係止耐火物134は、上耐火物131と隣接し、かつ、電極112の少なくとも1つの電極要素115と隣り合っていてもよい。
【0061】
(5−2)変形例B
本実施形態では、熔解装置101は、電極12または継ぎ足し電極16を熔融ガラス90に向かって押し込むための電極移動機構41を備えている。しかし、熔解装置101は、上耐火物31等の耐火物を熔融ガラス90に向かって押し込むための耐火物移動機構をさらに備えてもよい。
【0062】
本実施形態の熔解装置101では、
図5〜7に示されるように、熔融ガラス90の液面が電極12の上端より上方にある場合、電極12の上方に配置される上耐火物31は、熔解槽11の下部空間11aにおいて高温の熔融ガラス90と接するので、徐々に浸食される。上耐火物31が侵食されると、電極12の上面が熔融ガラス90に接するようになるので、熔融ガラス90による電極12の侵食が促進される。そのため、耐火物移動機構を用いて、熔融ガラス90に向かって上耐火物31を移動させて、下部空間11aにおける上耐火物31の端面の位置を一定にすることで、電極12の侵食を抑制することができる。なお、耐火物移動機構は、上耐火物31以外の耐火物を熔融ガラス90に向かって押し込む機構であってもよい。
【0063】
また、耐火物移動機構は、上耐火物31を交換するために使用することができる。この場合、上耐火物31の外側にさらに耐火物が設置される。上耐火物31の外側に設置された耐火物は、上耐火物31と接続される継ぎ足し耐火物である。耐火物移動機構によって継ぎ足し耐火物を熔融ガラス90に向かって押し込むと、上耐火物31および継ぎ足し耐火物が熔融ガラス90に向かって移動する。最終的に、上耐火物31が侵食によって消滅すると、継ぎ足し耐火物が上耐火物31となる。
【0064】
また、上耐火物31が熔融ガラス90により侵食され、上耐火物31の厚みが所定の値未満になった場合に、継ぎ足し耐火物を設置して熔融ガラス90に向かって押し込み、上耐火物31を移動させて熔融ガラス90中に落としてもよい。これにより、耐火物移動機構を用いて上耐火物31を交換することができる。
【0065】
(5−3)変形例C
本実施形態では、電極12の上方に配置される上耐火物31は、係止ピン51が取り付けられている。しかし、電極12の下方に配置される下耐火物32にも、係止ピン51が取り付けられてもよい。下耐火物32は、上耐火物31と比べて質量が大きいので、電極12の移動に伴って移動しにくいが、電極12と接しているので、電極12と下耐火物32との間の摩擦力の影響を受けやすい。そのため、下耐火物32にも係止ピン51を取り付けることで、電極12の移動に伴う下耐火物32の移動が抑制される。これにより、熔解装置101は、熔解槽11からの熔融ガラス90の漏洩、および、熔解槽11の崩壊を防止して、熔解槽11の寿命を長期化することができる。
【0066】
(5−4)変形例D
本実施形態では、電極12の後端面12bおよび継ぎ足し電極16の先端面16aは、平面であるが、互いに対向する凹部が設けられもよい。
図13は、貫通孔23の中心軸に沿った方向における、電極12および継ぎ足し電極16の断面図である。
図13に示されるように、電極12の後端面12bには、凹部12cが形成され、継ぎ足し電極16の先端面16aには、凹部16cが形成されている。電極12の凹部12cと、継ぎ足し電極16の凹部16cとによって囲まれる空間には、酸化スズで成形された棒状の連結部材18が設置されている。連結部材18は、電極12の後端面12bと継ぎ足し電極16の先端面16aとの間の位置ずれを防止する。
【0067】
従って、本変形例では、電極12と継ぎ足し電極16との間の位置ずれによる接続抵抗の上昇を抑制して、熔融ガラス90を安定的に通電することができるので、熔解装置101を用いて安定的に熔融ガラス90を製造することができる。
【0068】
また、本変形例では、電極12の後端面12bに凹部が形成され、かつ、継ぎ足し電極16の先端面16aに凸部が形成されてもよい。この場合、後端面12bの凹部と、先端面16aの凸部とが嵌合することで、電極12と継ぎ足し電極16との間の位置ずれが防止される。なお、電極12の後端面12bに凸部が形成され、かつ、継ぎ足し電極16の先端面16aに凹部が形成されてもよい。
【0069】
(5−5)変形例E
本実施形態では、電極12の側面と側耐火物33の側面との間に隙間が形成されているが、さらに、電極12の上面と上耐火物31の下面との間にも隙間が形成されていてもよい。
【0070】
図14は、本変形例における、電極保持側壁22の一部の外観図である。
図14に示されるように、上耐火物31は、貫通孔23の中心軸に直交する平面における水平方向の寸法が、電極12より大きい。上耐火物31は、一番上方に設置されている一対の側耐火物33によって支持されている。そのため、電極12の上面が上耐火物31の下面より鉛直方向下方に位置するように電極12を設置することで、電極12と上耐火物31との間に隙間を形成することができる。
【0071】
本変形例では、上耐火物31と電極12との間の隙間である第1隙間の寸法は、少なくとも1.0mmであり、かつ、側耐火物33と電極12との間の隙間である第2隙間の寸法は、少なくとも1.0mmであることが好ましい。第1隙間および第2隙間を形成することで、電極移動機構41を用いて継ぎ足し電極16を押し込む際において、継ぎ足し電極16および電極12の表面と、上耐火物31および側耐火物33の表面との間の摩擦力に起因して、継ぎ足し電極16および電極12を熔融ガラス90に向かって移動させることが困難になることが抑制される。
【0072】
なお、第1隙間および第2隙間に流入した熔融ガラス90は、冷却されて粘度が高くなるので、熔融ガラス90が第1隙間および第2隙間を通過して熔解槽11の外部に漏れ出すことはない。