(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(i)アクセッション番号DSM ACC3059(GT512muMAB 36A)、DSM ACC3058(GT512muMAB 27A)、またはDSM ACC3057(GT512muMAB 5F2D2)の下で寄託されたクローンによって産生されるまたは前記クローンから得ることができる抗体、
(ii)(i)の抗体のキメラ化形態である抗体、および
(iii)(i)の抗体のヒト化形態である抗体、
から成る群より選択されるものであり、CLDN6と結合するとともに、インビボでCLDN6を発現する腫瘍細胞の成長を阻害する、抗体。
アクセッション番号DSM ACC3059(GT512muMAB 36A)、DSM ACC3058(GT512muMAB 27A)、またはDSM ACC3057(GT512muMAB 5F2D2)の下で寄託されたハイブリドーマ。
前記腫瘍疾患が、卵巣がん、小細胞肺がん(SCLC)および非小細胞肺がん(NSCLC)を含む肺がん、胃がん、乳がん、肝がん、膵がん、皮膚がん、悪性黒色腫、頭頚部がん、肉腫、胆管がん、膀胱のがん、腎がん、結腸がん、回腸のがんを含む小腸がん、精巣胎芽性癌、胎盤性絨毛癌、子宮頸がん、精巣がん、子宮がん、胚細胞性腫瘍疾患、ならびにそれらの転移形態から成る群より選択される、請求項8〜請求項10のいずれか一項に記載の使用。
前記CLDN6が、配列表の配列番号:1の核酸配列または前記配列番号:1の核酸配列との間の同一性の程度が少なくとも90%である前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含む、請求項8〜請求項11のいずれか一項に記載の使用。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここに本発明者らは、腫瘍細胞の表面上のCLDN6への抗体結合が有意な腫瘍成長阻害を与えるのに十分であることを実証することにより、これらの知見を拡張する。CLDN6でトランスフェクトされた腫瘍細胞および非トランスフェクト異種移植片の腫瘍成長のインビボ評価により、CLDN6への抗体結合によって媒介されるCLDN6トランスフェクト細胞の腫瘍成長の特異的阻害が示された。さらに、CLDN6への抗体結合は、内因性にCLDN6を発現する腫瘍細胞のインビボでの腫瘍成長を阻害するのに十分であることも実証された。これは、CLDN6への抗体結合が腫瘍成長を阻害するのに有効であることの原理証明を確立するものであり、CLDN6を標的とすることによって腫瘍成長を阻害するように設計される治療抗体にとって、CLDN6が魅力的な標的であることの証拠を提供する。
【0010】
さらに、CLDN6への抗体結合が、インビボで、ヒトCLDN6陽性胚細胞性腫瘍細胞株の腫瘍成長を効率よく阻害することも実証され、これにより、精巣胚細胞性腫瘍などの胚細胞性腫瘍を標的とし、それらの死滅を誘導するための選択的治療剤としての、CLDN6への抗体結合の有用性が実証された。
【0011】
このように、本発明者らは、インビボでの腫瘍細胞の表面上のCLDN6への抗体結合が腫瘍成長の減衰をもたらすことの初めての直接的証拠を提供し、CLDN6への特異的結合が、腫瘍成長を減衰させる治療的介入をもたらすことを実証する。さらに、本発明者らは、インビボでの腫瘍細胞の表面上のCLDN6への抗体結合が、腫瘍患者の生存期間の延長および腫瘍患者の寿命の伸長をもたらすことの証拠を提供する。
【0012】
したがって本発明は、CLDN6を発現する細胞に関連する腫瘍疾患、特にがんおよびがん転移の、CLDN6に結合する抗体を用いた処置および/または防止に関する。本願は、腫瘍細胞の表面上のCLDN6への抗体の結合が、腫瘍の成長を阻害し、腫瘍患者の生存期間を延長し、腫瘍患者の寿命を伸長するのに十分であることを実証する。さらに、CLDN6への抗体の結合は、奇形癌または胎児性癌などのCLDN6陽性胚細胞性腫瘍、特に精巣の胚細胞性腫瘍の成長を阻害するのにも十分である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
1つの態様において、本発明は、インビボで腫瘍の成長を阻害する抗体に関し、ここで、腫瘍の細胞はクローディン6(CLDN6)を発現し、抗体はCLDN6に結合する能力を有する。1つの実施形態では、抗体が、CLDN6に結合することによって腫瘍の成長を阻害する。1つの実施形態では、抗体がCLDN6に特異的である。1つの実施形態では、抗体がモノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト抗体もしくはヒト化抗体であるか、抗体のフラグメントまたは合成抗体である。腫瘍は、卵巣がん、特に卵巣腺癌および卵巣奇形癌、小細胞肺がん(SCLC)および非小細胞肺がん(NSCLC)を含む肺がん、特に扁平上皮肺癌および腺癌、胃がん、乳がん、肝がん、膵がん、皮膚がん、特に基底細胞癌および扁平上皮癌、悪性黒色腫、頭頚部がん、特に悪性多形性腺腫、肉腫、特に滑膜肉腫および癌肉腫、胆管がん、膀胱のがん、特に移行上皮癌および乳頭癌、腎がん、特に明細胞腎細胞癌および乳頭状腎細胞癌を含む腎細胞癌、結腸がん、回腸のがんを含む小腸がん、特に小腸腺癌および回腸の腺癌、精巣胎芽性癌、胎盤性絨毛癌、子宮頸がん、精巣がん、特に精巣精上皮腫、精巣奇形腫および胎児性精巣がん、および子宮がん、ならびにそれらの転移形態から成る群より選択され得る。腫瘍は、奇形癌または胎児性癌などの胚細胞性腫瘍であり得る。胚細胞性腫瘍は精巣の胚細胞性腫瘍であり得る。
【0014】
さらなる一態様において、本発明は、(i)アクセッション番号DSM ACC3059(GT512muMAB 36A)、DSM ACC3058(GT512muMAB 27A)、またはDSM ACC3057(GT512muMAB 5F2D2)の下で寄託されたクローンによって産生されるまたは前記クローンから得ることができる抗体、(ii)(i)の下の抗体のキメラ化またはヒト化形態である抗体、(iii)(i)の下の抗体の特異性を有する抗体、および(iv)(i)の下の抗体の抗原結合部分または抗原結合部位を含む抗体、から成る群より選択される抗体に関する。(i)の下の抗体の抗原結合部分または抗原結合部位は、(i)の下の抗体の可変領域を含み得る。
【0015】
上述の態様のいずれかによる抗体は、放射性標識、細胞毒または細胞傷害性酵素などの少なくとも1つの治療エフェクター成分に取り付けられていてもよい。
【0016】
さらなる一態様において、本発明は、上述の態様のいずれかによる抗体を産生する能力を有するハイブリドーマに関する。
【0017】
さらなる一態様において、本発明は、アクセッション番号DSM ACC3059(GT512muMAB 36A)、DSM ACC3058(GT512muMAB 27A)、またはDSM ACC3057(GT512muMAB 5F2D2)の下に寄託されたハイブリドーマに関する。
【0018】
さらなる一態様において、本発明は、上述の態様のいずれかによる抗体を含む医薬組成物に関する。医薬組成物は、治療用または予防用腫瘍ワクチンの形態をとり得る。1つの実施形態では、医薬組成物が、腫瘍疾患の処置または防止に使用するための医薬組成物である。
【0019】
さらなる一態様において、本発明は、腫瘍疾患を有する患者または腫瘍疾患を発症する危険性がある患者を処置する方法であって、腫瘍の細胞がクローディン6(CLDN6)を発現し、CLDN6に結合する能力を有する抗体の投与を含む方法に関する。1つの実施形態では、抗体が、患者に投与されると、CLDN6に結合することによって、患者における腫瘍の成長を阻害する。1つの実施形態では、抗体が、放射性標識、細胞毒または細胞傷害性酵素などの少なくとも1つの治療エフェクター成分に取り付けられている。抗体は、CLDN6に特異的であり得る。抗体はモノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト抗体もしくはヒト化抗体であるか、抗体のフラグメントまたは合成抗体であり得る。1つの実施形態では、本方法が、上述の態様のいずれかによる医薬組成物の投与を含む。
【0020】
上述の態様のいずれにおいても、腫瘍疾患は、卵巣がん、特に卵巣腺癌および卵巣奇形癌、小細胞肺がん(SCLC)および非小細胞肺がん(NSCLC)を含む肺がん、特に扁平上皮肺癌および腺癌、胃がん、乳がん、肝がん、膵がん、皮膚がん、特に基底細胞癌および扁平上皮癌、悪性黒色腫、頭頚部がん、特に悪性多形性腺腫、肉腫、特に滑膜肉腫および癌肉腫、胆管がん、膀胱のがん、特に移行上皮癌および乳頭癌、腎がん、特に明細胞腎細胞癌および乳頭状腎細胞癌を含む腎細胞癌、結腸がん、回腸のがんを含む小腸がん、特に小腸腺癌および回腸の腺癌、精巣胎芽性癌、胎盤性絨毛癌、子宮頸がん、精巣がん、特に精巣精上皮腫、精巣奇形腫および胎児性精巣がん、および子宮がん、ならびにそれらの転移形態から成る群より選択され得る。
【0021】
上述の態様のいずれにおいても、腫瘍疾患は、胚細胞性腫瘍疾患、例えば奇形癌または胎児性癌を特徴とする疾患であり得る。胚細胞性腫瘍疾患は精巣の胚細胞性腫瘍疾患であり得る。
【0022】
上述の態様のいずれにおいても、CLDN6は、配列表の配列番号:1に従う核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含むことができ、かつ/または配列表の配列番号:2に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むことができる。
【0023】
本明細書で述べる抗体は、CLDN6に結合する能力を有し、好ましくは、CLDN6を発現する細胞の表面と会合しているCLDN6に結合する能力を有する。好ましくは、本抗体は、CLDN3に(特にそれがCLDN3を発現する細胞の表面と会合している場合には)結合する能力を実質的に有さず、かつ/またはCLDN4に(特にそれがCLDN4を発現する細胞の表面と会合している場合には)結合する能力を実質的に有さない。好ましくは、本抗体は、CLDN9に(特にそれがCLDN9を発現する細胞の表面と会合している場合には)結合する能力を実質的に有さない。最も好ましくは、本抗体はCLDN6以外のCLDNタンパク質に(特にそれらが前記CLDNタンパク質を発現する細胞の表面と会合している場合には)結合する能力を実質的に有さず、CLDN6に特異的である。好ましくは、前記CLDNタンパク質を発現する前記細胞は無傷細胞、特に透過処理されていない細胞であり、細胞の表面と会合している前記CLDNタンパク質は天然(すなわち非変性)立体配座を有する。好ましくは本抗体は、天然立体配座をとっているCLDN6の1またはそれ以上のエピトープに結合する能力を有する。
【0024】
特定の好ましい実施形態では、本明細書で述べる抗体が、生細胞の表面に存在するCLDN6の天然エピトープ、例えば配列番号:3、配列番号:4または配列番号:5の天然エピトープに結合する。さらなる好ましい実施形態では、本抗体はCLDN6発現腫瘍細胞に特異的であり、CLDN6を発現しない腫瘍細胞には結合しない。好ましくは、本明細書で述べる抗体は、CLDN6に特異的に結合する。
【0025】
1つの実施形態では、本明細書で述べる抗体が、CLDN6の細胞外部分内に位置するエピトープに結合する能力を有し、ここでCLDN6の前記細胞外部分は、好ましくは、配列番号:3、配列番号:4または配列番号:5のアミノ酸配列、より好ましくは配列番号:5のアミノ酸配列を含む。好ましくは、本抗体は、配列番号:5のアミノ酸配列内に位置するエピトープに結合する能力を有する。
【0026】
1つの実施形態において、本抗体は、配列番号:3、配列番号:4または配列番号:5のアミノ酸配列、より好ましくは配列番号:5のアミノ酸配列を有するペプチド、または免疫学的に等価なペプチド、または前記ペプチドを発現する核酸もしくは宿主細胞で動物を免疫する工程を含む方法によって得ることができる。
【0027】
異なる実施形態では、抗体が結合することのできるCLDN6が、配列番号:2のアミノ酸配列または配列番号:6のアミノ酸配列を有する。抗体が、配列番号:2のアミノ酸配列を有するCLDN6に結合する能力および配列番号:6のアミノ酸配列を有するCLDN6に結合する能力を有することは、特に好ましい。
【0028】
好ましい実施形態では、本明細書で述べる抗体が、以下の活性の1またはそれ以上を有する:(i)CLDN6を発現する細胞の死滅、(ii)CLDN6を発現する細胞の増殖の阻害、(iii)CLDN6を発現する細胞のコロニー形成の阻害、および(iv)CLDN6を発現する細胞の転移の阻害。細胞の死滅、細胞の増殖の阻害および/または細胞のコロニー形成の阻害は、腫瘍成長を阻害するため(これには、腫瘍成長を停止させかつ/または防止すること、腫瘍成長を遅延させること、および/または既存の腫瘍のサイズを縮小させることが含まれる)に治療的に利用することができ、したがって、がん、がん転移および/またはがん細胞の転移拡大を処置または防止するために治療的に利用することができる。
【0029】
好ましくは、本明細書で述べる抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)媒介性溶解、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)媒介性溶解、アポトーシス、同型接着、および/または食作用を誘導することによって、好ましくはCDC媒介性溶解および/またはADCC媒介性溶解を誘導することによって、細胞の死滅を媒介する。
【0030】
好ましくは、細胞のADCC媒介性溶解はエフェクター細胞(これは、特定の実施形態では、単球、単核球、NK細胞およびPMNから成る群より選択される)の存在下で起こり、食作用はマクロファージによるものである。
【0031】
CLDN6を発現する細胞、好ましくはがん細胞の増殖を阻害または低減する活性は、ブロモデオキシウリジン(5−ブロモ−2−デオキシウリジン、BrdU)を使用するアッセイにおいて、CLDN6発現がん細胞の増殖を決定することによって、インビトロで測定することができる。BrdUはチミジンの類似体である合成ヌクレオシドであり、DNA複製時にチミジンの代わりに(細胞周期のS期において)複製細胞の新たに合成されたDNAに組み込まれ得る。組み込まれた化学物質を、例えばBrdUに特異的な抗体を使って検出することにより、DNAを活発に複製していた細胞が示される。
【0032】
CLDN6を発現する細胞、好ましくはがん細胞のコロニー形成を阻害または低減する活性は、クローン原性アッセイにおいてインビトロで測定することができる。クローン原性アッセイは、細胞の生存および増殖に対する特定作用剤の有効性を試験するための微生物学的技術である。これは、増殖腫瘍細胞に対する薬剤または放射線の効果を決定するために、がんの研究室においてよく使用されている。実験は3つの主要な工程、すなわち(i)細胞、特にがん細胞の試料に処置を適用する工程、(ii)組織培養容器に細胞をプレーティングする工程、および(iii)細胞を成長させる工程を伴う。生じたコロニーを固定し、染色し、計数する。コロニー形成は、個々の腫瘍細胞が器官に定着した場合の転移の形成に関して重要である。抗体の阻害活性は転移形成の抑制に関する抗体の潜在能力を示す。クローン原性アッセイにおいてコロニー形成を阻害または低減する活性を有する抗体は、がん細胞(特に本明細書において言及するがん型のがん細胞)の転移および転移拡大を処置または防止するのに、とりわけ有用である。
【0033】
好ましい実施形態では、本明細書で述べる抗体が、CLDN6をその天然立体配座で保有している細胞に対して、1またはそれ以上の免疫エフェクター機能を示し、ここで、その1またはそれ以上の免疫エフェクター機能は、好ましくは、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)、アポトーシスの誘導、および増殖の阻害から成る群より選択され、好ましくはエフェクター機能がADCCおよび/またはCDCである。
【0034】
好ましくは、本明細書で述べる抗体によって発揮される腫瘍成長阻害または免疫エフェクター機能は、CLDN6への、好ましくはCLDN6の細胞外部分内に位置するエピトープへの、前記抗体の結合によって誘導され、CLDN6の前記細胞外部分は、好ましくは配列番号:3、配列番号:4または配列番号:5のアミノ酸配列、より好ましくは配列番号:5のアミノ酸配列を含む。
【0035】
本発明によれば、CLDN6を発現する細胞は、好ましくは、CLDN6とその細胞表面との会合を特徴とする。CLDN6を発現する細胞、またはCLDN6とその細胞表面との会合もしくはCLDN6をその天然立体配座で保有することを特徴とする細胞は、好ましくは、腫瘍細胞、例えばがん細胞、好ましくは本明細書で述べるがんからのがん細胞である。
【0036】
本明細書で述べる抗体は、標的細胞傷害性、すなわち腫瘍細胞の死滅に備えるために、1またはそれ以上の治療エフェクター成分、例えば放射性標識、細胞毒、治療用酵素、アポトーシスを誘導する作用剤などに取り付けることができる。
【0037】
1つの実施形態では、本明細書で述べる抗体が、(i)CLDN6を発現する細胞に結合し、かつ(ii)CLDN6を発現しない細胞には結合しない。本明細書で述べる抗体は、好ましくは、(i)CLDN6を発現する細胞の死滅を媒介し、かつ/またはCLDN6を発現する細胞の増殖を阻害し、(ii)CLDN6を発現しない細胞の死滅は媒介せず、かつ/またはCLDN6を発現しない細胞の増殖は阻害しない。
【0038】
1つの実施形態において、本明細書で述べる抗体は、以下の性質の1またはそれ以上を特徴とすることができる:
a)CLDN6に対する特異性;
b)約100nMまたはそれ以下、好ましくは約5〜10nMまたはそれ以下、より好ましくは約1〜3nMまたはそれ以下の、CLDN6への結合親和性;
c)CLDN6を発現する腫瘍細胞を枯渇させる能力;
d)CLDN6を発現する腫瘍細胞の増殖を停止または遅延させる能力;
e)CLDN6を発現する腫瘍細胞を有する対象の生存期間を延長する能力。
【0039】
1つの実施形態では、本明細書で述べる抗体が、腫瘍細胞成長を低減し、かつ/または腫瘍細胞死を誘導し、それゆえに腫瘍阻害効果または腫瘍破壊効果を有する。
【0040】
本明細書で述べる好ましい抗体は、以下の名称とアクセッション番号を有する、DSMZ(Inhoffenstr.7B,38124 ブラウンシュヴァイク(Braunschweig),ドイツ)に寄託されたハイブリドーマ細胞によって産生される抗体、またはそのハイブリドーマ細胞から得ることができる抗体である:
1.2010年4月13日に寄託された、GT512muMAB 36A、アクセッション番号DSM ACC3059;
2.2010年4月13日に寄託された、GT512muMAB 27A、アクセッション番号DSM ACC3058;または
3.2010年4月13日に寄託された、GT512muMAB 5F2D2、アクセッション番号DSM ACC3057。
【0041】
本発明の抗体を、本明細書では、抗体の名称に言及することによって、かつ/またはその抗体を産生するクローン(例えばmuMAB 36A)に言及することによって、指定する。
【0042】
さらなる好ましい抗体は、上述のハイブリドーマによって産生される抗体および上述のハイブリドーマから得ることができる抗体の特異性を有するもの、特に上述のハイブリドーマによって産生される抗体および上述のハイブリドーマから得ることができる抗体と同一のまたは高度に相同な抗原結合部分または抗原結合部位、特に可変領域を含むものである。好ましい抗体は、上述のハイブリドーマによって産生される抗体および上述のハイブリドーマから得ることができる抗体の領域と同一のまたは高度に相同なCDR領域を有するものであると考えられる。「高度に相同」とは、1〜5、好ましくは1〜4、例えば1〜3個または1もしくは2個の置換がなされ得ることと考えられる。特に好ましい抗体は、上述のハイブリドーマによって産生される抗体および上述のハイブリドーマから得ることができる抗体のキメラ化またはヒト化形態である。
【0043】
本発明はまた、本明細書で述べる抗体を産生するハイブリドーマ細胞などの細胞に関する。
【0044】
好ましいハイブリドーマ細胞は、以下の名称とアクセッション番号の1つを有する、DSMZ(Inhoffenstr.7B,38124 ブラウンシュヴァイク(Braunschweig),ドイツ)に寄託されているものである:
1.2010年4月13日に寄託された、GT512muMAB 36A、アクセッション番号DSM ACC3059;
2.2010年4月13日に寄託された、GT512muMAB 27A、アクセッション番号DSM ACC3058;または
3.2010年4月13日に寄託された、GT512muMAB 5F2D2、アクセッション番号DSM ACC3057。
【0045】
本発明はまた、本明細書で述べる抗体またはそのパーツ、例えば抗体鎖をコードする遺伝子または核酸配列を含む核酸に関する。これらの核酸は、ベクター、例えばプラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、または遺伝子工学において従来から使用されている他のベクターに含まれ得る。ベクターは、さらなる遺伝子、例えば適切な宿主細胞における適切な条件下でのベクターの選択を可能にするマーカー遺伝子なども含み得る。さらに、ベクターは、適切な宿主におけるコード領域の適正な発現を可能にする発現制御エレメントを含み得る。そのような制御エレメントは当業者に知られており、プロモータ、スプライスカセットおよび翻訳開始コドンを含み得る。
【0046】
好ましくは、本発明の核酸は、真核細胞または原核細胞における発現を可能にする発現制御エレメントに作動可能に取り付けられる。真核細胞または原核細胞における発現を確実にする制御エレメントは当業者に周知である。
【0047】
核酸分子を構築するための方法、核酸分子を含むベクターを構築するための方法、適切に選ばれた宿主細胞にベクターを導入するための方法、または核酸分子の発現を引き起こすまたは達成するための方法は、当分野において周知である。
【0048】
本発明のさらなる態様は、本明細書において開示する核酸またはベクターを含む宿主細胞に関する。
【0049】
1つの態様において、本発明は、本明細書で述べる抗体または抗体の組合せを含む組成物、例えば医薬組成物および診断組成物/キットを提供する。本発明の医薬組成物は医薬的に許容される担体を含んでもよく、場合により1またはそれ以上のアジュバント、安定剤などを含んでもよい。特定の実施形態では、組成物が、異なるエピトープに結合する抗体の組合せ、または異なる機能的特徴を有する(例えばCDCおよび/またはADCCを誘導する)抗体の組合せを含む。
【0050】
1つの実施形態では、本発明の医薬組成物が、治療用または予防用抗腫瘍ワクチンである。
【0051】
1つの態様において、本発明は、腫瘍疾患を有する患者または腫瘍疾患を発症する危険性がある患者を処置するための治療方法および予防方法を提供する。1つの態様において、本発明は、腫瘍成長を阻害するための方法を提供する。1つの態様において、本発明は、腫瘍細胞死を誘導するための方法を提供する。これらの態様は、本明細書で述べる抗体または組成物の患者への投与を伴い得る。
【0052】
本発明はまた、2またはそれ以上の抗CLDN6抗体の同時投与または逐次投与も含み、その場合、好ましくは、前記抗体の少なくとも1つがキメラ抗CLDN6抗体であり、かつ少なくとも1つのさらなる抗体がヒト抗CLDN6抗体であって、それらの抗体はCLDN6の同じエピトープまたは異なるエピトープに結合する。好ましくは、まず最初に本発明のキメラCLDN6抗体を投与し、次いでヒト抗CLDN6抗体を投与するが、この場合、ヒト抗CLDN6抗体は、好ましくは長期間にわたって、すなわち維持療法として投与される。
【0053】
本明細書で述べる抗体または組成物は、細胞の成長が阻害されかつ/または細胞が死滅するように細胞を有効量の抗体または組成物と接触させることによって、CLDN6を発現する腫瘍細胞の成長を阻害しかつ/またはCLDN6を発現する腫瘍細胞を選択的に死滅させ、そこで腫瘍成長を阻害するための様々な方法において、使用することができる。1つの実施形態において、本方法には、場合によりエフェクター細胞の存在下での、例えばCDC、アポトーシス、ADCC、食作用による、またはこれらの機序の2またはそれ以上の組合せによる、CLDN6を発現する腫瘍細胞の死滅が含まれる。
【0054】
本明細書で述べる抗体または組成物は、CLDN6を発現する細胞が関わる腫瘍疾患を、そのような疾患に罹患している患者またはそのような疾患を発症する危険性がある患者に本抗体または組成物を投与することによって処置および/または防止するために使用することができる。
【0055】
本発明は、腫瘍疾患の予防的および/または治療的処置、すなわち腫瘍疾患を有する患者または腫瘍疾患を発症する危険性がある患者を処置するための予防的および/または治療的処置を伴い得る。1つの態様において、本発明は、本明細書で述べる抗体および組成物の1またはそれ以上の投与を含む、腫瘍成長を阻害するための方法を提供する。
【0056】
好ましくは、本明細書で述べる抗体および組成物は、組織または器官が腫瘍を含まなくても細胞がCLDN6を発現するような組織または器官、例えば胎盤組織または胎盤には、治療活性物質、特に抗体が送達されないか実質的に送達されないような方法で投与される。この目的のために、本明細書で述べる作用剤および組成物を、局所的に投与することができる。
【0057】
1つの態様において、本発明は、本明細書で述べる処置方法において使用するための、本明細書で述べる抗体を提供する。1つの実施形態において、本発明は、本明細書で述べる処置方法において使用するための、本明細書で述べる医薬組成物を提供する。
【0058】
本明細書で述べる処置は、外科的切除および/または放射線および/または従来の化学療法と併用することができる。
【0059】
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0061】
本明細書および以下の特許請求の範囲の全体を通して、文脈上別段の必要がある場合を除き、「を含む(comprise)」という用語とその異形(例えば「comprise」および「comprising」)は、明示した要素、整数もしくは工程または要素、整数もしくは工程の群の包含を含意するが、他の要素、整数もしくは工程または要素、整数もしくは工程の群の除外を含意するわけではない(ただし、いくつかの実施形態では、そのような他の要素、整数もしくは工程または要素、整数もしくは工程の群が排除されることもあり得る)と理解されるであろう。すなわち、主題は、明示した要素、整数もしくは工程または要素、整数もしくは工程の群の包含にある。本発明の説明に関連して(とりわけ特許請求の範囲に関連して)使用される「ある(aおよびan)」ならびに「その(the)」という用語ならびに類似する言及は、別段の表示が本明細書にある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、単数と複数の両方を包含すると解釈されるものとする。本明細書における値の範囲の列挙は、その範囲に含まれる個々の値について個別に言及する簡略な方法として機能することを意図しているに過ぎない。別段の表示が本明細書にある場合を除き、個々の値は、あたかもそれが本明細書において個別に列挙されているかのように、本明細書に組み込まれる。本明細書で述べる方法はすべて、本明細書において別段の表示がある場合または文脈上明らかに矛盾する場合を除き、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書に掲載するありとあらゆる実施例または例示的表現(例えば「など」)の使用は、本発明をより良く例示しようとしたものに過ぎず、別途特許請求の範囲に記載する本発明の範囲に限定を課すものではない。特許請求の範囲には記載のない何らかの要素であって、しかも本発明の実施に欠かすことができないものを示していると解釈すべき文言は、本明細書にはない。
【0062】
クローディンは、密着結合の最も重要な構成成分であるタンパク質のファミリーであり、密着結合では、クローディンが、上皮の細胞間の細胞間隙における分子の流れを制御する傍細胞バリアを確立する。クローディンは膜を4回貫通する膜貫通タンパク質であり、N末端とC末端はどちらも細胞質内に位置する。第1細胞外ループは平均53アミノ酸から成り、第2細胞外ループは24アミノ酸前後から成る。CLDN6とCLDN9は最も類似するCLDNファミリーのメンバーである。
【0063】
本明細書で使用される「CLDN」という用語はクローディンを意味し、これには、CLDN6、CLDN9、CLDN4およびCLDN3が含まれる。好ましくはCLDNはヒトCLDNである。
【0064】
「CLDN6」という用語は、好ましくは、ヒトCLDN6に関し、特に、(i)配列表の配列番号:1に従う核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列、および/または(ii)配列表の配列番号:2または配列番号:6に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体、を含むタンパク質に関する。CLDN6の第1細胞外ループは、好ましくは、配列番号:2に示すアミノ酸配列または配列番号:6に示すアミノ酸配列のアミノ酸28〜80、より好ましくはアミノ酸28〜76、例えば配列番号:3に示すアミノ酸配列を含む。CLDN6の第2細胞外ループは、好ましくは、配列番号:2に示すアミノ酸配列または配列番号:6に示すアミノ酸配列のアミノ酸138〜160、好ましくはアミノ酸141〜159、より好ましくはアミノ酸145〜157、例えば配列番号:5に示すアミノ酸配列を含む。前記第1および/または第2細胞外ループは、好ましくは、CLDN6の細胞外部分を形成する。
【0065】
「CLDN9」という用語は、好ましくは、ヒトCLDN9に関し、特に、配列表の配列番号:7に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。CLDN9の第1細胞外ループは、好ましくは、配列番号:7に示すアミノ酸配列のアミノ酸28〜76を含む。CLDN9の第2細胞外ループは、好ましくは、配列番号:7に示すアミノ酸配列のアミノ酸141〜159を含む。前記第1および/または第2細胞外ループは、好ましくは、CLDN9の細胞外部分を形成する。
【0066】
「CLDN4」という用語は、好ましくは、ヒトCLDN4に関し、特に、配列表の配列番号:8に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。CLDN4の第1細胞外ループは、好ましくは、配列番号:8に示すアミノ酸配列のアミノ酸28〜76を含む。CLDN4の第2細胞外ループは、好ましくは、配列番号:8に示すアミノ酸配列のアミノ酸141〜159を含む。前記第1および/または第2細胞外ループは、好ましくは、CLDN4の細胞外部分を形成する。
【0067】
「CLDN3」という用語は、好ましくは、ヒトCLDN3に関し、特に、配列表の配列番号:9に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含むタンパク質に関する。CLDN3の第1細胞外ループは、好ましくは、配列番号:9に示すアミノ酸配列のアミノ酸27〜75を含む。CLDN3の第2細胞外ループは、好ましくは、配列番号:9に示すアミノ酸配列のアミノ酸140〜158を含む。前記第1および/または第2細胞外ループは、好ましくは、CLDN3の細胞外部分を形成する。
【0068】
上述のCLDN配列には、前記配列の任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、立体配座、アイソフォーム、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものが含まれる。対立遺伝子変異体は遺伝子の通常の配列の改変に関係し、その意義は不明であることが多い。完全な遺伝子配列決定を行うと、所与の遺伝子について、しばしば、数多くの対立遺伝子変異体が同定される。種ホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列が起源とするものとは異なる種を起源とする核酸またはアミノ酸配列である。「CLDN」という用語は、(i)CLDNスプライス変異体、(ii)CLDNの翻訳後修飾変異体、特にグリコシル化(例えばNグリコシル化)状態が異なっている変異体を含む、(iii)CLDN立体配座変異体、(iv)CLDNがん関連変異体およびCLDN非がん関連変異体を包含するものとする。好ましくは、CLDNはその天然立体配座で存在する。
【0069】
「部分」という用語は断片を指す。アミノ酸配列またはタンパク質などの特定の構造に関して、その「部分」という用語は、前記構造の連続的または不連続的断片を示し得る。好ましくは、アミノ酸配列の部分は、前記アミノ酸配列のアミノ酸の少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも90%を含む。好ましくは、部分が不連続断片である場合、前記不連続断片は、ある構造の2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上のパーツから構成され、各パーツはその構造の連続エレメントである。例えば、アミノ酸配列の不連続断片は、前記アミノ酸配列の2、3、4、5、6、7、8、またはそれ以上の、好ましくは4以下のパーツから構成されることができ、この場合、各パーツは、好ましくは、前記アミノ酸配列の少なくとも5連続アミノ酸、少なくとも10連続アミノ酸、好ましくは少なくとも20連続アミノ酸、好ましくは少なくとも30連続アミノ酸を含む。
【0070】
「パーツ」および「フラグメント」という用語は、本明細書では可換的に使用され、連続エレメントを指す。例えば、アミノ酸配列またはタンパク質などの構造のパーツとは、前記構造の連続エレメントを指す。ある構造の部分、パーツまたはフラグメントは、好ましくは、前記構造の1またはそれ以上の機能的性質を含む。例えば、エピトープまたはペプチドの部分、パーツまたはフラグメントは、好ましくは、それが由来するエピトープまたはペプチドと免疫学的に等価である。
【0071】
本発明に関して「CLDNの細胞外部分」という用語は、細胞の細胞外間隙に面していて、好ましくは前記細胞の外側から、例えば細胞の外側に位置する抗体などによってアクセス可能である、CLDNのパーツを指す。好ましくは、この用語は、1またはそれ以上の細胞外ループもしくはそのパーツまたはCLDNの他の任意の細胞外パーツ(好ましくは前記CLDNに特異的なもの)を指す。好ましくは前記パーツは、少なくとも5、少なくとも8、少なくとも10、少なくとも15、少なくとも20、少なくとも30、もしくは少なくとも50アミノ酸またはそれ以上を含む。
【0072】
本発明によれば、細胞によって発現されるCLDNは、好ましくは、前記細胞の表面と会合している。「細胞の表面と会合しているCLDN」という用語は、CLDNが前記細胞の形質膜と会合し、前記細胞の形質膜に位置していることを意味し、この場合、CLDNの少なくとも1パーツ、好ましくは細胞外部分は、前記細胞の細胞外間隙に面していて、前記細胞の外側から、例えば細胞の外側に位置する抗体によって、アクセス可能である。会合は直接的であっても間接的であってもよい。例えば会合は、1またはそれ以上の膜貫通ドメイン、1またはそれ以上の脂質アンカー、および/または細胞の形質膜の外葉上に見いだすことができる他の任意のタンパク質、脂質、糖、もしくは他の構造との相互作用によるものであり得る。例えば、細胞の表面と会合しているCLDNは、細胞外部分を有する膜貫通タンパク質、すなわち内在性膜タンパク質であるか、または膜貫通タンパク質である別のタンパク質との相互作用によって細胞の表面と会合しているタンパク質であることができる。
【0073】
CLDN6は、それが細胞の表面に位置し、かつ細胞に添加されたCLDN6特異的抗体による結合にアクセス可能であるならば、前記細胞の表面と会合している。CLDN6が細胞によって発現される場合、前記細胞の表面と会合しているCLDN6は、発現したCLDN6のたんなる一部分であってもよいと理解すべきである。
【0074】
「CLDNを保有している細胞」という用語は、好ましくは、前記細胞がCLDNをその表面に保有していること、すなわちCLDNが前記細胞の表面と会合していることを意味する。
【0075】
「細胞表面」または「細胞の表面」は、当分野におけるその通常の意味に従って使用され、それゆえにタンパク質および他の分子による結合のためにアクセス可能な細胞の外側を含む。
【0076】
「細胞の表面上に発現されるCLDN」という表現は、細胞によって発現されるCLDNが前記細胞の表面と会合した状態で見いだされることを意味する。
【0077】
本発明によれば、発現および会合のレベルが胎盤細胞または胎盤組織における発現および会合と比較して低いのであれば、CLDN6は、細胞において実質的に発現されておらず、細胞表面と実質的に会合していない。好ましくは、発現および会合のレベルは、胎盤細胞または胎盤組織における発現および会合の10%未満、好ましくは5%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%または0.05%未満であるか、それよりさらに低い。好ましくは、発現および会合のレベルが、胎盤組織以外の非腫瘍形成性、非がん性組織における発現および会合のレベルを2倍まで、好ましくは1.5倍までしか上回らず、好ましくは前記非腫瘍形成性、非がん性組織における発現および会合のレベルを上回らないのであれば、CLDN6は、細胞において実質的に発現されておらず、細胞表面と実質的に会合していない。好ましくは、発現または会合のレベルが検出限界未満であり、かつ/または発現もしくは会合のレベルが低すぎて、細胞に添加されたCLDN6特異的抗体による結合が可能にならないのであれば、CLDN6は、細胞において実質的に発現されておらず、細胞表面と実質的に会合していない。
【0078】
本発明によれば、発現および会合のレベルが、胎盤組織以外の非腫瘍形成性、非がん性組織における発現および会合のレベルを好ましくは2倍以上、好ましくは10倍、100倍、1000倍または10000倍以上、上回っているのであれば、CLDN6は、細胞において発現されており、細胞表面と会合している。好ましくは、発現および会合のレベルが検出限界を上回り、かつ/または発現および会合のレベルが、細胞に添加されたCLDN6特異的抗体による結合が可能になるほど十分に高ければ、CLDN6は、細胞において発現されており、細胞表面と会合している。好ましくは、細胞において発現されるCLDN6は、前記細胞の表面上に発現されるか、または前記細胞の表面上に露出している。
【0079】
「ラフト」という用語は、細胞の形質膜の外葉領域に位置する、スフィンゴ脂質とコレステロールに富む膜マイクロドメインを指す。そのようなドメイン内で会合する特定タンパク質の能力、および「凝集体」または「巣状凝集体」を形成するそれらの能力は、それらのタンパク質の機能を生じさせることができる。例えば、そのような構造体中にCLDN6分子が移行すると、本発明の抗体が結合した後に、形質膜において高密度のCLDN6抗原−抗体複合体が生じる。そのような高密度のCLDN6抗原−抗体複合体は、CDC時に補体系の効率的な活性化を可能にすることができる。
【0080】
「抗体」という用語は、ジスルフィド結合によって相互に結びつけられた少なくとも2本の重(H)鎖と2本の軽(L)鎖を含む糖タンパク質を指し、その抗原結合部分を含む任意の分子を包含する。「抗体」という用語には、モノクローナル抗体およびそのフラグメントまたは誘導体が含まれ、限定するわけではないが、ヒトモノクローナル抗体、ヒト化モノクローナル抗体、キメラモノクローナル抗体、一本鎖抗体、例えばscFv、およびFabフラグメントやFab'フラグメントなどの抗原結合性抗体フラグメントなどを含むと共に、あらゆる組換え形態の抗体、例えば原核生物において発現される抗体、非グリコシル化抗体、ならびに本明細書で述べる任意の抗原結合性抗体フラグメントおよび誘導体も含まれる。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVHと略す)と重鎖定常領域とから構成される。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVLと略す)と軽鎖定常領域とから構成される。VH領域およびVL領域は、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性領域と、それらの間に挿入された、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域とに、さらに細分することができる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に向かって以下の順序で配置された、3つのCDRと4つのFRから構成される:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含んでいる。抗体の定常領域は、免疫系の様々な細胞(例えばエフェクター細胞)および古典的補体系の第1成分(C1q)を含む、宿主の組織または因子への免疫グロブリンの結合を媒介し得る。
【0081】
「ヒト化抗体」という用語は、非ヒト種からの免疫グロブリンに実質的に由来する抗原結合部位を有する分子であって、分子の残りの免疫グロブリン構造はヒト免疫グロブリンの構造および/または配列に基づく分子を指す。抗原結合部位は、定常ドメインに融合された完全な可変ドメインを含むか、または可変ドメイン内の適当なフレームワーク領域に移植された相補性決定領域(CDR)だけを含み得る。抗原結合部位は、野生型であってもよいし、1またはそれ以上のアミノ酸置換によって修飾(例えば、より密接にヒト免疫グロブリンに似るように修飾)されていてもよい。ヒト化抗体のいくつかの形態では、CDR配列がすべて保存されている(例えばマウス抗体からの6つのCDRをすべて含むヒト化マウス抗体)。別の形態は、もとの抗体と比較して改変された1またはそれ以上のCDRを有する。
【0082】
「キメラ抗体」という用語は、重鎖および軽鎖のアミノ酸配列のそれぞれの一部分が、特定の種に由来するまたは特定のクラスに属する抗体内の対応する配列と相同であり、鎖の残りのセグメントは、別の抗体内の対応する配列に相同である抗体を指す。典型的には、軽鎖および重鎖の両方の可変領域が哺乳動物の1つの種に由来する抗体の可変領域を模倣し、定常部分は別の種に由来する抗体の配列に相同である。そのようなキメラ形態の明らかな利点の1つは、容易に入手できる非ヒト宿主生物からのB細胞またはハイブリドーマを、例えばヒト細胞調製物に由来する定常領域と組み合わせて使用することにより、可変領域を現在公知の供給源から好都合に引き出すことができるという点である。この可変領域は調製の容易さという利点を有し、その特異性は供給源に影響されないが、一方、定常領域はヒトであるので、抗体を注射したときに、非ヒト供給源からの定常領域の場合よりも、ヒト対象からの免疫応答を惹起する可能性が低い。ただし、前記の定義は、この特定例に限定されるわけではない。
【0083】
抗体の「抗原結合部分」(または単に「結合部分」)という用語は、抗原に特異的に結合する能力を保持している、抗体の1またはそれ以上のフラグメントを指す。完全長抗体のフラグメントが抗体の抗原結合機能を果たし得ることは示されている。抗体の「抗原結合部分」という用語に包含される結合フラグメントの例には、(i)VL、VH、CLおよびCHドメインから成る一価フラグメントである、Fabフラグメント;(ii)ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントである、F(ab')
2フラグメント;(iii)VHドメインとCHドメインから成るFdフラグメント;(iv)抗体の1本の腕のVLドメインとVHドメインから成るFvフラグメント;(v)VHドメインから成るdAbフラグメント(Wardら,(1989)Nature 341:544−546);(vi)単離された相補性決定領域(CDR)、ならびに(vii)場合により合成リンカーによって接合されていてもよい2またはそれ以上の単離されたCDRの組合せが含まれる。さらに、Fvフラグメントの2つのドメインであるVLおよびVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、組換え法を使用して、VL領域とVH領域とが対合して一価分子を形成する一本鎖タンパク質(これは一本鎖Fv(scFv)として知られている;例えば、Birdら(1988)Science 242:423−426;およびHustonら(1988)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)85:5879−5883参照)としてそれらを作製することを可能にする合成リンカーによって、それらを接合することもできる。そのような一本鎖抗体も、抗体の「抗原結合部分」という用語に包含されることが意図されている。さらなる例は、(i)免疫グロブリンヒンジ領域ポリペプチドに融合された結合ドメインポリペプチド、(ii)ヒンジ領域に融合された免疫グロブリン重鎖CH2定常領域、および(iii)CH2定常領域に融合された免疫グロブリン重鎖CH3定常領域を含む、結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質である。結合ドメインポリペプチドは、重鎖可変領域または軽鎖可変領域であることができる。結合ドメイン免疫グロブリン融合タンパク質は、米国特許出願公開第2003/0118592号および同第2003/0133939号に、さらに開示されている。これらの抗体フラグメントは当業者に公知の従来技術を用いて得られ、フラグメントは無傷抗体と同じ方法で有用性に関してスクリーニングされる。
【0084】
本発明に記載する抗体は、受動抗腫瘍免疫療法に有用であり、標的細胞傷害、すなわち腫瘍細胞の死滅をもたらすために、治療エフェクター成分、例えば放射性標識、がん治療に適したシスプラチン、メトトレキサート、アドリアマイシンなどの化学療法剤、細胞毒、治療用酵素、アポトーシスを誘導する作用剤などに取り付けられていてもよいし、取り付けられていなくてもよい。
【0085】
好ましくは、本明細書で述べる抗体は、補体依存性細胞傷害(CDC)媒介性溶解、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)媒介性溶解、アポトーシス、同型接着および/または食作用を誘導することによって、好ましくはCDC媒介性溶解および/またはADCC媒介性溶解を誘導することによって、細胞の死滅を媒介する。本明細書で述べる抗体は、好ましくは、免疫系の構成成分と、好ましくはADCCまたはCDCを介して、相互作用する。しかし本発明の抗体は、単に細胞表面上の腫瘍抗原に結合し、よって例えば細胞の増殖をブロックすることによっても、効果を発揮し得る。
【0086】
ADCCは、本明細書で述べるエフェクター細胞、特にリンパ球の細胞死滅能力を表し、これは、好ましくは標的細胞が抗体によって印付けられることを必要とする。
【0087】
ADCCは、好ましくは、抗体が腫瘍細胞上の抗原に結合し、抗体Fcドメインが免疫エフェクター細胞の表面上のFc受容体(FcR)と係合した場合に起こる。Fc受容体のファミリーはいくつか同定されており、特定細胞集団は規定されたFc受容体を特徴的に発現する。ADCCは、様々な程度の即時腫瘍破壊を直接誘導するための機序であって、抗原提示および腫瘍に対するT細胞応答の誘導にもつながるものであるとみなすことができる。好ましくは、ADCCのインビボでの誘導は、腫瘍に対するT細胞応答と、宿主由来の抗体応答とにつながるであろう。
【0088】
CDCは、抗体によって導くことができるもう一つの細胞死滅方法である。IgMは補体活性化にとって最も有効なアイソタイプである。IgG1およびIgG3も、古典的補体活性化経路を介してCDCを導くのに、どちらも非常に有効である。好ましくは、このカスケードでは、抗原−抗体複合体の形成が、関与する抗体分子(例えばIgG分子)のC
H2ドメイン上の、ごく近接した、複数のC1q結合部位を曝露させる(C1qは補体C1の3つのサブコンポーネントの1つである)。好ましくは、曝露されたこれらのC1q結合部位が、それまでは低親和性であったC1q−IgG相互作用を、アビディティの高いものへと転化させ、それが一連の他の補体タンパク質が関与する事象のカスケードの引き金を引き、エフェクター細胞走化性/活性化因子であるC3aおよびC5aのタンパク質分解的放出につながる。好ましくは補体カスケードは、細胞内外への水および溶質の自由な通行を促進する細胞膜中の細孔を作り出し、アポトーシスにつながり得る、膜侵襲複合体の形成で終了する。
【0089】
「抗体」という用語には、「二重特異性分子」、すなわち2つの異なる結合特異性を有する分子が含まれる。例えばこの分子は、(a)細胞表面抗原と(b)エフェクター細胞の表面上のFc受容体とに結合し、またはそれらと相互作用し得る。「抗体」という用語には、「多重特異性分子」または「ヘテロ特異性分子」、すなわち3つ以上の異なる結合特異性を有する分子も含まれる。例えばこの分子は、(a)細胞表面抗原と、(b)エフェクター細胞の表面上のFc受容体と、(c)少なくとも1つの他の構成成分とに結合し、またはそれらと相互作用し得る。したがって本発明には、CLDN6と、エフェクター細胞上のFc受容体などといった他の標的とに対する、二重特異性、三重特異性、四重特異性および他の多重特異性分子が含まれるが、これらに限定されるわけではない。「抗体」という用語には、「二重特異性抗体」も含まれ、これにはダイアボディも含まれる。ダイアボディは、VHドメインとVLドメインとが1本のポリペプチド鎖上に発現されるが、同じ鎖上の2つのドメインの間の対合を可能にするには短すぎるリンカーを使用することにより、前記ドメインが別の鎖の相補的ドメインと対合して2つの抗原結合部位を生じさせることを強いる、二価の二重特異性抗体である(例えばHolliger,P.ら(1993)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.USA)90:6444−6448;Poljak,R.J.ら(1994)Structure 2:1121−1123参照)。
【0090】
「抗体」には、「ヘテロ抗体」(この用語は、一つに連結された2またはそれ以上の抗体、その誘導体、または抗原結合領域であって、そのうちの少なくとも2つが異なる特異性を有するものを指す)も含まれる。これらの異なる特異性には、エフェクター細胞上のFc受容体に対する結合特異性、および標的細胞(例えば腫瘍細胞)上の抗原またはエピトープに対する結合特異性が含まれる。
【0091】
「標的細胞」とは、本発明の抗体が標的にすることのできる、対象(例えばヒトまたは動物)中の任意の望ましくない細胞を意味するものとする。好ましい実施形態では、標的細胞が、CLDN6を発現する細胞である。CLDN6を発現する細胞には、典型的には、腫瘍細胞が含まれる。
【0092】
本明細書で使用される「エフェクター細胞」という用語は、免疫応答の認識相および活性化相ではなく、免疫応答のエフェクター相に関与する免疫細胞を指す。例示的な免疫細胞には、骨髄系またはリンパ系起源の細胞、例えばリンパ球(例えばB細胞および細胞溶解性T細胞(細胞傷害性Tリンパ球;CTL)を含むT細胞)、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞、マクロファージ、単球、好酸球、好中球、多形核細胞、顆粒球、マスト細胞、および好塩基球が含まれる。いくつかのエフェクター細胞は、特異的Fc受容体を発現し、特異的免疫機能を実行する。好ましい実施形態では、エフェクター細胞が抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)を誘導する能力を有し、例えば好中球はADCCを誘導する能力を有する。例えばFcRを発現する単球、マクロファージは、標的細胞を特異的に死滅させることおよび抗原を免疫系の他の構成成分に提示すること、または抗原を提示する細胞に結合することに関与する。別の実施形態では、エフェクター細胞が、標的抗原、標的細胞、または微生物を貪食することができる。エフェクター細胞上での特定のFcRの発現は、サイトカインなどの体液性因子によって調節することができる。例えば、FcγRIの発現はインターフェロンγ(IFN−γ)によって上方調節されることが見いだされている。この強化された発現は、標的に対するFcγRI担持細胞の細胞傷害活性を増大させる。エフェクター細胞は、標的抗原または標的細胞を貪食または溶解することができる。
【0093】
本明細書で述べる抗体はヒト抗体であり得る。本明細書で使用される「ヒト抗体」という用語は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列に由来する可変領域と定常領域を有する抗体を含むことが意図されている。本発明のヒト抗体は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム突然変異誘発もしくは部位特異的突然変異誘発によって、またはインビボでの体細胞突然変異によって導入される突然変異)を含み得る。
【0094】
本明細書で述べる抗体はモノクローナル抗体であり得る。本明細書で使用される「モノクローナル抗体」という用語は、単一分子組成の抗体分子の調製物を指す。モノクローナル抗体は、特定のエピトープに対する単一の結合特異性および親和性を示す。1つの実施形態では、不死化細胞と融合させた非ヒト動物(例えばマウス)から得られたB細胞を含むハイブリドーマによって、モノクローナル抗体が産生される。
【0095】
本明細書で述べる抗体は組換え抗体であり得る。本明細書で使用される「組換え抗体」という用語には、(a)免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックまたはトランスクロモソーマルである動物(例えばマウス)またはそこから調製されたハイブリドーマから単離された抗体、(b)抗体を発現するように形質転換された宿主細胞から、例えばトランスフェクトーマから、単離された抗体、(c)組換えコンビナトリアル抗体ライブラリから単離された抗体、および(d)免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列へのスプライシングを伴う他の任意の手段によって調製され、発現され、創製され、または単離された抗体など、組換え手段によって調製され、発現され、創製され、または単離された、あらゆる抗体が含まれる。
【0096】
本明細書で使用される「トランスフェクトーマ」という用語には、CHO細胞、NS/0細胞、HEK293細胞、HEK293T細胞、植物細胞、または酵母細胞を含む真菌などの、抗体を発現する組換え真核生物宿主細胞が含まれる。
【0097】
本明細書にいう「異種抗体」は、そのような抗体を産生するトランスジェニック生物との関連において定義される。この用語は、トランスジェニック生物から成るのではない生物に見いだされるものに対応するアミノ酸配列またはコード核酸配列を有し、一般にトランスジェニック生物以外の種に由来する抗体を指す。
【0098】
本明細書にいう「ヘテロハイブリッド抗体」は、異なる生物起源の軽鎖と重鎖とを有する抗体を指す。例えば、マウス軽鎖と会合したヒト重鎖を有する抗体は、ヘテロハイブリッド抗体である。
【0099】
本発明には、本明細書で述べるすべての抗体およびその誘導体が含まれ、それらは、本発明においては、「抗体」という用語で包含される。「抗体誘導体」という用語は、抗体の任意の修飾形態、例えば抗体と別の作用剤または別の抗体もしくは抗体フラグメントとのコンジュゲートを指す。
【0100】
本明細書で述べる抗体は、好ましくは単離されている。本明細書にいう「単離された抗体」は、異なる抗原特異性を有する他の抗体を実質的に含まない抗体を指すことが意図されている(例えば、CLDN6に特異的に結合する単離された抗体は、CLDN6以外の抗原に特異的に結合する抗体を実質的に含まない)。しかし、ヒトCLDN6のエピトープ、アイソフォームまたは変異体に特異的に結合する単離された抗体は、他の関連抗原、例えば他の種からの関連抗原(例えばCLDN6種ホモログ)に対して交差反応性を有し得る。さらにまた、単離された抗体は、他の細胞材料および/または化学物質を実質的に含まないものであり得る。本発明の1つの実施形態では、「単離された」モノクローナル抗体の組合せは、異なる特異性を有し、明確に定義された組成で組み合わされている抗体に関する。
【0101】
本発明によれば、抗体は、それがあらかじめ定められた標的に対して有意な親和性を有し、標準的アッセイにおいて前記あらかじめ定められた標的に結合するのであれば、前記あらかじめ定められた標的に結合する能力を有する。「親和性」または「結合親和性」は、多くの場合、平衡解離定数(K
D)によって測定される。好ましくは、「有意な親和性」という用語は、10
−5M以下、10
−6M以下、10
−7M以下、10
−8M以下、10
−9M以下、10
−10M以下、10
−11M以下、または10
−12M以下の解離定数(K
D)での、あらかじめ定められた標的への結合を指す。
【0102】
抗体は、それが標的に対して有意な親和性を有さず、標準的アッセイにおいて前記標的に有意に結合しないのであれば、前記標的に結合する能力を(実質的に)有さない。好ましくは、抗体は、それが、無傷細胞の表面上に発現された標的への前記抗体の結合を決定するフローサイトメトリ分析(FACS分析)において、前記標的に検出可能な程度に結合しないのであれば、前記標的に結合する能力を(実質的に)有さない。好ましくは、抗体は、最大2、好ましくは10、より好ましくは20、特に50または100μg/mlまたはそれ以上の濃度で存在するのであれば、前記標的に検出可能な程度に結合しない。好ましくは、抗体は、それが、その抗体が結合する能力を有するあらかじめ定められた標的への結合に関するK
Dより少なくとも10倍、100倍、10
3倍、10
4倍、10
5倍、または10
6倍高いK
Dで、ある標的に結合するのであれば、その標的に対して有意な親和性を有さない。例えば、その抗体が結合する能力を有する標的への抗体の結合に関するK
Dが10
−7Mであるとすると、その抗体が有意な親和性を有さない標的への結合に関するK
Dは、少なくとも10
−6M、10
−5M、10
−4M、10
−3M、10
−2M、または10
−1Mであるだろう。
【0103】
好ましくは、本発明の抗体は、あらかじめ定められた標的、特にCLDN6に、特異的に結合する能力を有する。
【0104】
抗体は、それが、あらかじめ定められた標的に結合する能力を有すると同時に、他の標的に結合する能力を有さないのであれば、すなわち他の標的に対する有意な親和性を有さず、標準的アッセイにおいて他の標的に有意に結合しないのであれば、前記あらかじめ定められた標的に特異的である。本発明によれば抗体は、それが、CLDN6に結合する能力を有するが、他の標的、特にCLDN6以外のクローディンタンパク質、例えばCLDN9、CLDN4、CLDN3およびCLDN1などに結合する能力を(実質的に)有さないのであれば、CLDN6に特異的である。好ましくは、抗体は、それが、CLDN6以外のクローディンタンパク質、例えばCLDN9、CLDN4、CLDN3およびCLDN1への親和性および結合が、クローディンとは無関係なタンパク質、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、カゼイン、ヒト血清アルブミン(HSA)または非クローディン膜貫通タンパク質、例えばMHC分子またはトランスフェリン受容体、または他の任意の指定されたポリペプチドへの親和性または結合を有意に上回らないのであれば、CLDN6に特異的である。好ましくは、抗体は、それが、特異的でない標的への結合に関するK
Dより少なくとも10倍、100倍、10
3倍、10
4倍、10
5倍、または10
6倍低いK
Dで、あらかじめ定められた標的に結合するのであれば、前記あらかじめ定められた標的に特異的である。例えば、特異的な標的への抗体の結合に関するK
Dが10
−7Mであるとすると、特異的でない標的への結合に関するK
Dは、少なくとも10
−6M、10
−5M、10
−4M、10
−3M、10
−2M、または10
−1Mであるだろう。
【0105】
標的への抗体の結合は、任意の適切な方法を使って実験的に決定することができる:例えばBerzofskyら「Antibody−Antigen Interactions」In Fundamental Immunology,Paul,W.E.,Ed.,Raven Press New York,NY(1984)、Kuby,Janis Immunology,W.H.Freeman and Company New York,NY(1992)、および本明細書で述べる方法を参照のこと。親和性は従来の技術を使って、例えば平衡透析によって;またはBIAcore2000計器を使用し、製造者が概説する一般的手順を使って;または放射性標識標的抗原を使用し、ラジオイムノアッセイによって;または当業者に知られる他の方法によって、容易に決定することができる。親和性データは、例えばScatchardら,Ann N.Y.Acad.ScL,51:660(1949)の方法によって分析し得る。特定の抗体−抗原相互作用の親和性測定値は、例えば塩濃度、pHなど、異なる条件下で測定すれば、変動し得る。したがって親和性および他の抗原結合パラメータ、例えばK
D、IC
50の測定は、好ましくは、抗体および抗原の標準化された溶液と、標準化された緩衝液を使ってなされる。
【0106】
本明細書にいう「アイソタイプ」は、重鎖定常領域遺伝子によってコードされる抗体クラス(例えばIgMまたはIgG1)を指す。本発明の抗体には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体が含まれ、IgG2a(例えばIgG2a,κ,λ)、IgG2b(例えばIgG2b,κ,λ)、IgG3(例えばIgG3,κ,λ)およびIgM抗体が含まれる。ただし、IgG1、IgA1、IgA2、分泌型IgA、IgD、およびIgE抗体を含む他の抗体アイソタイプも、本発明によって包含される。
【0107】
本明細書にいう「アイソタイプスイッチ」は、抗体のクラスまたはアイソタイプが、あるIgクラスから他のIgクラスの1つに変化する現象を指す。
【0108】
本明細書で使用される「天然に生じる」という用語が、ある物体に適用される場合、これは、その物体を自然界に見いだすことができるという事実を指す。例えば、自然界にある供給源から単離することができる生物(ウイルスを含む)中に存在し、かつ実験室において人間によって意図的に改変されていないポリペプチドまたはポリヌクレオチド配列は、天然に生じるものである。
【0109】
本明細書で使用される「再編成された」という用語は、Vセグメントが、それぞれ基本的に完全なVHまたはVLドメインをコードするような配置で、D−JまたはJセグメントに直接隣接して位置している、重鎖または軽鎖免疫グロブリン遺伝子座の構成を指す。再編成された免疫グロブリン(抗体)遺伝子の遺伝子座は、生殖細胞系DNAとの比較によって同定することができ;再編成された遺伝子座は、少なくとも1つの組換えられたヘプタマー/ノナマー相同性エレメントを有するであろう。
【0110】
Vセグメントに関して本明細書で使用される「再編成されていない」または「生殖細胞系構成」という用語は、VセグメントがDまたはJセグメントに直接隣接するように組換えられていない構成を指す。
【0111】
本発明によれば、抗体は、マウス、ラット、ウサギ、モルモットおよびヒトを含む(ただしこれらに限るわけではない)様々な種に由来し得る。抗体には、1つの種、好ましくはヒトに由来する抗体定常領域が別の種に由来する抗原結合部位と組み合わされているキメラ分子も含まれる。さらにまた、抗体には、非ヒト種に由来する抗体の抗原結合部位がヒト起源の定常領域およびフレームワーク領域と組み合わされているヒト化分子も含まれる。
【0112】
抗体は、従来のモノクローナル抗体法、例えばKohler and Milstein,Nature 256:495(1975)の標準的体細胞ハイブリダイゼーション技術を含む、様々な技術によって作製することができる。体細胞ハイブリダイゼーション手順は好ましいが、原理的に、モノクローナル抗体を作製するための他の技術、例えばBリンパ球のウイルス形質転換もしくはがん性形質転換、または抗体遺伝子のライブラリを用いるファージディスプレイ技術も使用することができる。
【0113】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製するための好ましい動物系は、マウスの系である。マウスにおけるハイブリドーマ作製は、十分に確立された手順である。免疫プロトコールと、融合用の免疫脾細胞を単離するための技術は、当分野において公知である。融合パートナー(例えばマウス骨髄腫細胞)および融合手順も公知である。
【0114】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを調製するための他の好ましい動物系は、ラットおよびウサギの系である(例えばSpieker−Poletら,米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)92:9348(1995)に記載されている。Rossiら,Am.J.Clin.Pathol.124:295(2005)も参照のこと)。
【0115】
さらにもう一つの好ましい実施形態では、CLDN6に対するヒトモノクローナル抗体を、マウス系ではなくヒト免疫系のパーツを保有するトランスジェニックまたはトランスクロモソーマルマウスを使って生成させることができる。これらのトランスジェニックおよびトランスクロモソーマルマウスには、それぞれHuMAbマウスおよびKMマウスとして知られるマウスが含まれ、これらを本明細書では集合的に「トランスジェニックマウス」という。そのようなトランスジェニックマウスにおけるヒト抗体の作製は、国際公開第2004/035607号においてCD20に関して詳述されているように、実施することができる。
【0116】
モノクローナル抗体を生成させるためのさらにもう一つの戦略は、所定の戦略の抗体を産生するリンパ球から抗体をコードする遺伝子を直接単離することである。例えばBabcockら,1996;A novel strategy for generating monoclonal antibodies from single,isolated lymphocytes producing antibodies of defined strategyを参照のこと。組換え抗体工学の詳細については、Welschof and Kraus,Recombinant antibodies for cancer therapy ISBN−0−89603−918−8およびBenny K.C.Lo Antibody Engineering ISBN 1−58829−092−1も参照のこと。
【0117】
CLDN6に対する抗体を生成させるために、上述のように、CLDN6配列に由来する担体コンジュゲートペプチド、組換え発現されたCLDN6抗原もしくはそのフラグメントの濃縮調製物、および/またはCLDN6もしくはそのフラグメントを発現する細胞で、マウスを免疫することができる。あるいは、完全長ヒトCLDN6またはそのフラグメントをコードするDNAでマウスを免疫することもできる。CLDN6抗原の精製調製物または濃縮調製物を使った免疫が抗体をもたらさない場合は、免疫応答を促進するために、CLDN6を発現する細胞、例えば細胞株で、マウスを免疫することもできる。
【0118】
免疫応答は、免疫プロトコールの経過中に、尾静脈または後眼窩からの採血によって得られる血漿および血清試料を使って監視することができる。融合には、十分な力価の抗CLDN6免疫グロブリンを有するマウスを使用することができる。特異的抗体を分泌するハイブリドーマの割合を高めるために、犠死および脾切除の3〜5日前に、CLDN6発現細胞の腹腔内または静脈内投与で、マウスを追加免疫することができる。
【0119】
CLDN6に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを生成させるために、免疫マウスから得られるリンパ節、脾臓または骨髄から細胞を単離し、それらを、マウス骨髄腫細胞株などの適当な不死化細胞株と融合させることができる。次に、その結果生じたハイブリドーマを、抗原特異的抗体の産生に関してスクリーニングすることができる。次に、個々のウェルを、抗体分泌ハイブリドーマについて、ELISAによってスクリーニングすることができる。CLDN6発現細胞を使用する免疫蛍光法およびFACS分析により、CLDN6に対して特異性を有する抗体を同定することができる。抗体分泌ハイブリドーマを再びプレーティングし、再びスクリーニングして、抗CLDN6モノクローナル抗体に関して依然として陽性であれば、限界希釈法によってサブクローニングすることができる。次に、安定なサブクローンをインビトロで培養することで、特性付けのために組織培養培地中で抗体を生成させることができる。
【0120】
本発明の抗体は、例えば、当分野ではよく知られているとおり、組換えDNA技術と遺伝子トランスフェクション法の組合せを使って、宿主細胞トランスフェクトーマにおいて作製することもできる(Morrison,S.(1985)Science 229:1202)。
【0121】
例えば、1つの実施形態では、国際公開第第87/04462号、国際公開第第89/01036号および欧州特許第338841号に開示されているGS遺伝子発現系または当分野において周知の他の発現系によって使用されるような真核生物発現プラスミドなどの発現ベクターに、対象とする1または複数の遺伝子(例えば抗体遺伝子)をライゲーションすることができる。クローン化された抗体遺伝子を有する精製プラスミドを、CHO細胞、NS/0細胞、HEK293T細胞またはHEK293細胞などの真核生物宿主細胞、あるいは植物由来細胞、真菌または酵母細胞のような他の真核細胞に導入することができる。これらの遺伝子を導入するために使用される方法は、当分野で記述されている方法、例えば電気穿孔、リポフェクチン、リポフェクタミンその他であることができる。宿主細胞へのこれらの抗体遺伝子の導入後に、抗体を発現する細胞を同定し、選択することができる。これらの細胞はトランスフェクトーマに相当し、その後、それらを発現レベルに関して増幅させ、抗体を生産するためにスケールアップすることができる。組換え抗体は、これらの培養上清および/または細胞から単離し、精製することができる。
【0122】
あるいは、クローン化した抗体遺伝子を、微生物、例えば大腸菌などの原核細胞を含む他の発現系において発現させることもできる。さらにまた、抗体は、トランスジェニック非ヒト動物において、例えばヒツジおよびウサギからの乳、もしくはニワトリの卵において、またはトランスジェニック植物において生産することもできる;例えば、Verma,R.ら(1998)J.Immunol.Meth.216:165−181;Pollockら(1999)J.Immunol.Meth.231:147−157;およびFischer,Rら(1999)Biol.Chem.380:825−839参照。
【0123】
マウスモノクローナル抗体は、毒素または放射性同位体で標識した場合、ヒトにおける治療用抗体として使用することができる。非標識マウス抗体は、反復適用した場合、ヒトにおいて高度に免疫原性であり、治療効果の低下につながる。主たる免疫原性は重鎖定常領域によって媒介される。ヒトにおけるマウス抗体の免疫原性は、それぞれの抗体をキメラ化またはヒト化すれば、低減するまたは完全に回避することができる。キメラ抗体は、その異なる部分が異なる動物種に由来する抗体、例えばマウス抗体に由来する可変領域とヒト免疫グロブリン定常領域とを有する抗体である。抗体のキメラ化は、(例えばKrausら,in Methods in Molecular Biology series,Recombinant antibodies for cancer therapy ISBN−0−89603−918−8で述べられているように)マウス抗体の重鎖および軽鎖の可変領域をヒト重鎖および軽鎖の定常領域と接合することによって達成される。好ましい実施形態では、ヒトκ軽鎖定常領域をマウス軽鎖可変領域に接合することによって、キメラ抗体を生成させる。同じく好ましい実施形態では、ヒトλ軽鎖定常領域をマウス軽鎖可変領域に接合することによって、キメラ抗体を生成させることができる。キメラ抗体を生成させるための好ましい重鎖定常領域は、IgG1、IgG3およびIgG4である。キメラ抗体を生成させるための他の好ましい重鎖定常領域は、IgG2、IgA、IgDおよびIgMである。
【0124】
抗体は、主として6つの重鎖および軽鎖相補性決定領域(CDR)中に位置するアミノ酸残基を介して、標的抗原と相互作用する。この理由から、CDR内のアミノ酸配列はCDR外の配列よりも個々の抗体間で多様である。CDR配列は大半の抗体−抗原相互作用を担っているので、異なる性質を有する異なる抗体からのフレームワーク配列上に移植された特定の天然に生じる抗体からのCDR配列を含んでいる発現ベクターを構築することにより、前記特定の天然に生じる抗体の性質を模倣する組換え抗体を発現させることが可能である(例えば、Riechmann,L.ら(1998)Nature 332:323−327;Jones,P.ら(1986)Nature 321:522−525;およびQueen,C.ら(1989)米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)86:10029−10033参照)。そのようなフレームワーク配列は、生殖細胞系抗体遺伝子配列を含む公的DNAデータベースから入手することができる。これらの生殖細胞系配列は、B細胞成熟の間にV(D)J接合によって形成される完全に組み立てられた可変遺伝子を含まないので、成熟抗体遺伝子配列とは異なるであろう。生殖細胞系遺伝子配列はまた、可変領域の全域にわたって、個々の位置でも、高親和性二次レパートリー抗体の配列とは異なるであろう。例えば、体細胞突然変異は、フレームワーク領域1のアミノ末端部分およびフレームワーク領域4のカルボキシ末端部分では比較的低頻度である。さらにまた、多くの体細胞突然変異は抗体の結合特性をあまり変化させない。このため、もとの抗体の結合特性と類似する結合特性を有する無傷組換え抗体を再現するために特定抗体のDNA配列全体を得る必要はない(国際公開第99/45962号参照)。CDR領域にまたがる部分重鎖および軽鎖配列は、典型的には、この目的にとって十分である。組換えられた抗体可変遺伝子にはどの生殖細胞系V(variable)遺伝子セグメントとJ(joining)遺伝子セグメントとが寄与したかを、部分配列を使って決定する。次に、生殖細胞系配列を使用して可変領域の欠けている部分を充填する。重鎖および軽鎖リーダー配列はタンパク質成熟の間に切断され、最終的な抗体の性質には寄与しない。欠けている配列を付加するために、クローン化されたcDNA配列を、ライゲーションまたはPCR増幅によって、合成オリゴヌクレオチドと組み合わせることができる。あるいは、可変領域全体を一組の短いオーバーラップしたオリゴヌクレオチドとして合成し、PCR増幅によって一つにすることで、完全な合成可変領域クローンを創製することもできる。この工程には、特定の制限部位の排除もしくは組み入れ、または特定コドンの最適化などといった、一定の利点がある。
【0125】
天然配列と同じアミノ酸コード能力を有する合成V配列を創製するために、ハイブリドーマからの重鎖および軽鎖転写産物のヌクレオチド配列を使って、オーバーラップする一組の合成オリゴヌクレオチドを設計する。合成重鎖およびκ鎖配列は、次の3つの点で、天然配列とは異なることができる:オリゴヌクレオチド合成およびPCR増幅を容易にするために、一続きの反復ヌクレオチド塩基を中断させる;最適な翻訳開始部位をコザック規則(Kozak,1991,J.Biol.Chem.266:19867−19870)に従って組み込む;およびHindIII部位を翻訳開始部位の上流に工作する。
【0126】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域の両方について、最適化されたコード鎖配列および対応する非コード鎖配列を、対応する非コードオリゴヌクレオチドのほぼ中間点で、30〜50ヌクレオチドに分割する。したがって、各々の鎖について、オリゴヌクレオチドを150〜400ヌクレオチドのセグメントにわたるオーバーラップする二本鎖のセットにアセンブルすることができる。次に、そのプールを鋳型として使用することで、150〜400ヌクレオチドのPCR増幅産物を作製する。典型的には、1つの可変領域オリゴヌクレオチドセットを2つのプールに分割し、それらを別々に増幅して、2つのオーバーラップPCR産物を生成させる。次に、これらのオーバーラップ産物をPCR増幅によって一つにすることで、完全な可変領域を形成させる。また、発現ベクター構築物に容易にクローニングすることができるフラグメントを生成させるために、重鎖または軽鎖定常領域のオーバーラップフラグメントをPCR増幅に含めることも望ましいと考えられる。
【0127】
再構築されたキメラ化またはヒト化重鎖および軽鎖可変領域を、次に、クローン化したプロモータ、リーダー、翻訳開始、定常領域、3'非翻訳、ポリアデニル化および転写終結配列と組み合わせることで、発現ベクター構築物を形成させる。重鎖および軽鎖発現構築物を組み合わせて単一のベクターに入れるか、宿主細胞に同時トランスフェクトするか、逐次的にトランスフェクトするか、または別々にトランスフェクトしてからそれらを融合させることで、両方の鎖を発現する宿主細胞を形成させることができる。ヒトIgGκ用発現ベクターの構築において使用するためのプラスミドを説明する。PCR増幅したV重鎖およびVκ軽鎖cDNA配列を使って完全な重鎖および軽鎖ミニ遺伝子を再構築することができるように、プラスミドを構築することができる。これらのプラスミドは、完全ヒトまたはキメラIgG1κまたはIgG4κ抗体を発現させるために使用することができる。他の重鎖アイソタイプを発現させるために、またはλ軽鎖を含む抗体を発現させるために、同様のプラスミドを構築することができる。
【0128】
したがって、本発明のもう一つの態様では、本明細書で述べる抗CLDN6抗体の構造特徴を使って、CLDN6への結合などといった、本発明の抗体の少なくとも1つの機能特性を保持している、構造的に関連したヒト化抗CLDN6抗体が創製される。より具体的には、マウスモノクローナル抗体の1またはそれ以上のCDR領域を、組換えによって公知のヒトフレームワーク領域およびCDRと組み合わせることで、さらなる組換え操作されたヒト化抗CLDN6抗体を創製することができる。
【0129】
CLDN6に結合する抗体の能力は、実施例で述べるような標準的な結合アッセイ(例えばELISA、ウエスタンブロット法、免疫蛍光法およびフローサイトメトリ分析)を用いて決定することができる。
【0130】
「エピトープ」という用語は、分子中の抗原性決定基、すなわち免疫系によって認識される(例えば抗体によって認識される)分子中のパーツを指す。例えば、エピトープは、免疫系によって認識される、抗原上の孤立した三次元部位である。本発明においては、エピトープは、好ましくはCLDNタンパク質に由来する。エピトープは通常、アミノ酸または糖側鎖などといった分子の化学的に活性な表面基群から成り、通常は特異的な三次元構造特徴、ならびに特異的な電荷特徴を有する。立体配座エピトープと非立体配座エピトープは、変性溶媒の存在下では前者への結合が失われるが、後者への結合は失われないという点で識別される。CLDNなどのタンパク質のエピトープは、好ましくは前記タンパク質の連続部分または不連続部分を含み、好ましくは5〜100、好ましくは5〜50、より好ましくは8〜30、最も好ましくは10〜25アミノ酸長である。例えば、エピトープは、好ましくは、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、または25アミノ酸長であり得る。
【0131】
本明細書で使用される「不連続エピトープ」という用語は、タンパク質の一次配列内の少なくとも2つの別々の領域から形成されるタンパク質抗原上の立体配座エピトープを意味する。
【0132】
本発明によれば、「結合」という用語は、好ましくは特異的結合に関する。「特異的結合」とは、抗体などの作用剤が、それが特異的であるエピトープなどの標的に対して、別の標的への結合との比較で、より強く結合することを意味する。ある作用剤が、第一標的に、第二標的に関する解離定数(K
D)よりも低い解離定数で結合する場合、その作用剤は、第二標的との比較で、第一標的に、より強く結合する。好ましくは、作用剤が特異的に結合する標的に関する解離定数(K
D)は、その作用剤が特異的には結合しない標的に関する解離定数(K
D)よりも、10
2倍、10
3倍、10
4倍、10
5倍、10
6倍、10
7倍、10
8倍以上、10
9倍、または10
10倍以上低い。
【0133】
本明細書で使用される「核酸」という用語は、デオキシリボ核酸(DNA)およびリボ核酸(RNA)を含むことが意図されている。核酸は、本発明によれば、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換え生産された分子および化学合成された分子を含む。本発明によれば、核酸は、一本鎖または二本鎖の線状分子または共有結合で環状に閉じた分子として、存在し得る。
【0134】
本発明に従って述べる核酸は、好ましくは単離されている。「単離された核酸」という用語は、本発明によれば、核酸が(i)例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、インビトロで増幅されたこと、(ii)クローニングによって組換え生産されたこと、(iii)例えば切断とゲル電気泳動分画によって、精製されたこと、または(vi)例えば化学合成によって、合成されたこと、を意味する。単離された核酸は、組換えDNA技術による操作に利用することができる核酸である。
【0135】
核酸は、本発明によれば、単独で、または他の核酸(これは同種であっても異種であってもよい)と組み合わされて存在し得る。好ましい実施形態では、核酸が、前記核酸に対して同種であっても異種であってもよい発現制御配列に機能的に連結されており、ここで、「同種」という用語は、核酸が天然でもその発現制御配列に機能的に連結されていることを意味し、「異種」という用語は、核酸が天然ではその発現制御配列に機能的に連結されていないことを意味する。
【0136】
RNAおよび/またはタンパク質もしくはペプチドを発現する核酸などの核酸と発現制御配列は、それらが、前記核酸の発現または転写が前記発現制御配列の制御下または影響下にあるように互いに共有結合されているのであれば、互いに「機能的に」連結されている。核酸が機能的タンパク質に翻訳されるものであって、発現制御配列がコード配列に機能的に連結されているのであれば、前記発現制御配列の誘導は、コード配列におけるフレームシフトを引き起こすことなく、または前記コード配列が所望のタンパク質もしくはペプチドに翻訳され得ない事態を引き起こすことなく、前記核酸の転写をもたらす。
【0137】
「発現制御配列」または「発現制御エレメント」という用語は、本発明によれば、プロモータ、リボソーム結合部位、エンハンサー、および遺伝子の転写またはmRNAの翻訳を調節する他の制御エレメントを含む。本発明の特定の実施形態では、発現制御配列を調節することができる。発現制御配列の正確な構造は種または細胞型に応じて異なり得るが、一般的には、TATAボックス、キャップ配列、CAAT配列等々の、それぞれ転写および翻訳の開始に関与する5'非転写配列ならびに5'および3'非翻訳配列を含む。より具体的には、5'非転写発現制御配列は、機能的に連結された核酸の転写制御のためのプロモータ配列が含まれているプロモータ領域を含む。発現制御配列は、エンハンサー配列または上流活性化配列も含み得る。
【0138】
本発明によれば、「プロモータ」または「プロモータ領域」という用語は、発現される核酸配列に対して上流(5'側)に位置し、RNAポリメラーゼのための認識および結合部位を提供することによって配列の発現を制御する核酸配列に関する。「プロモータ領域」は、遺伝子の転写の調節に関与するさらなる因子のためのさらなる認識および結合部位を含み得る。プロモータは、原核生物遺伝子または真核生物遺伝子の転写を制御し得る。さらにまた、プロモータは「誘導的」であることができ、誘導剤に応答して転写を開始し得るか、または転写が誘導剤によって制御されない場合には、「構成的」であり得る。誘導的プロモータの制御下にある遺伝子は、誘導剤が存在しなければ、発現されないか、またはわずかしか発現されない。誘導剤の存在下では、遺伝子のスイッチが入って作動するか、または転写のレベルが上昇する。これは、一般に、特異的転写因子の結合によって媒介される。
【0139】
本発明において好ましいプロモータには、SP6、T3およびT7ポリメラーゼ用のプロモータ、ヒトU6 RNAプロモータ、CMVプロモータ、およびそれらの人工ハイブリッドプロモータ(例えばCMV)であって、1または複数のパーツが、例えばヒトGAPDH(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)などの他の細胞タンパク質の遺伝子のプロモータの1または複数のパーツに融合されていて、追加の1または複数のイントロンを含むまたは含まないものが含まれる。
【0140】
本発明によれば、「発現」という用語は、その最も一般的な意味で使用され、RNAの生産またはRNAとタンパク質/ペプチドの生産を含む。この用語は核酸の部分的発現も含む。さらにまた、発現は一過性にまたは安定に行われ得る。本発明によれば、発現という用語には、「異状発現」または「異常発現」も含まれる。
【0141】
「異状発現」または「異常発現」とは、本発明によれば、基準と比較して、好ましくは非腫瘍形成性正常細胞または健常個体における状態と比較して、発現が改変されていること、好ましくは増加していることを意味する。発現の増加とは、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%またはそれ以上の増加を指す。1つの実施形態では、発現が疾患組織にのみ見いだされ、健常組織における発現は抑止されている。
【0142】
好ましい実施形態において、核酸分子は、本発明によれば、適宜、その核酸の発現を制御するプロモータと共に、ベクター中に存在する。「ベクター」という用語は、本明細書ではその最も一般的な意味で使用され、核酸用の任意の中間媒体であって、該核酸が例えば原核細胞および/または真核細胞に導入され、適宜、ゲノム内に組み込まれることを可能にするものを含む。この種のベクターは、好ましくは、細胞内で複製および/または発現される。ベクターは、プラスミド、ファージミド、バクテリオファージまたはウイルスゲノムを含む。本明細書で使用される「プラスミド」という用語は、一般に、染色体DNAとは独立して複製することができる、染色体外遺伝物質の構築物、通常は環状DNA二本鎖に関する。
【0143】
抗体発現用のベクターとして、抗体の重鎖と軽鎖が異なるベクター内に存在するベクター型または重鎖と軽鎖が同じベクター内に存在するベクター型のいずれかを使用することができる。
【0144】
特定の核酸配列およびアミノ酸配列、例えば配列表に示すものに関して本明細書で与える教示は、前記特定配列と機能的に等価な配列、例えば特定アミノ酸配列の性質と同じまたは類似する性質を示すアミノ酸配列、および特定核酸配列によってコードされるアミノ酸配列の性質と同じまたは類似する性質を示すアミノ酸配列をコードする核酸配列をもたらす、前記特定配列の修飾体とも関連づけられるように解釈されるべきである。
【0145】
同様に、特定抗体または特定抗体を産生するハイブリドーマに関して本明細書で与える教示は、特定抗体のアミノ酸配列および/または核酸配列と比較して修飾されているが機能的には等価であるアミノ酸配列および/または核酸配列を特徴とする抗体にも関連づけられるように解釈されるべきである。1つの重要な性質は、抗体のその標的への結合を保持すること、または抗体のエフェクター機能を持続させることである。好ましくは、特定配列と比較して修飾されている配列は、それが抗体内の前記特定配列と置き換わったときに、標的への前記抗体の結合を保持し、好ましくは、CDC媒介性溶解またはADCC媒介性溶解などといった、本明細書で述べる前記抗体の機能を保持している。
【0146】
特にCDR、超可変領域および可変領域の配列が、標的に結合する能力を失わずに修飾され得ることは、当業者には理解されるであろう。例えば、CDR領域は、本明細書において特定される抗体の領域に同一であるか、または高度に相同であるだろう。「高度に相同」という文言から、CDR内では1〜5、好ましくは1〜4、例えば1〜3または1もしくは2個の置換を行い得ると考えられる。加えて、超可変領域および可変領域は、それらが本明細書で具体的に開示する抗体の領域と実質的相同性を示すように修飾し得る。
【0147】
本明細書で述べる特定核酸には、特定の宿主細胞または宿主生物におけるコドン使用頻度を最適化する目的で修飾された核酸も含まれると理解すべきである。生物間でのコドン使用頻度の相違は、異種遺伝子発現に関する様々な問題につながり得る。もとの配列の1またはそれ以上のヌクレオチドを変化させることによるコドン最適化は、核酸を発現させる同種または異種宿主における前記核酸の発現の最適化、特に翻訳効率の最適化をもたらすことができる。例えば、抗体の定常領域および/またはフレームワーク領域をコードする、ヒト由来の核酸を、本発明に従って、例えばキメラ抗体またはヒト化抗体を調製するために使用する場合には、前記核酸を、コドン使用頻度を最適化する目的で修飾することが、おそらく好ましいだろうし、前記核酸(場合によっては、異種核酸、例えば本明細書で述べるような他の生物に由来する核酸に融合されているもの)を、マウスまたはハムスターなどといったヒトとは異なる生物からの細胞中で発現させる場合には、特にそうである。例えば、ヒト軽鎖および重鎖定常領域をコードする核酸配列は、最適化されたコドン使用頻度をもたらすヌクレオチド置換を、1またはそれ以上、好ましくは少なくとも1、2、3、4、5、10、15、20、かつ好ましくは最大10、15、20、25、30、50、70もしくは100またはそれ以上含むように修飾することができる。そのようなヌクレオチド置換は、好ましくは、コードされるアミノ酸配列の変化をもたらさないヌクレオチドの置換に関するか、またはそれぞれヒト軽鎖および重鎖定常領域をコードする他の核酸配列内の対応する位置における対応する置換に関する。
【0148】
好ましくは、特定核酸配列と、前記特定核酸配列と比較して修飾された核酸配列または前記特定核酸配列の変異体である核酸配列との間の同一性の程度は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに一層好ましくは少なくとも90%、最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%であるだろう。CLDN6核酸変異体についていえば、同一性の程度は、好ましくは、少なくとも約300、少なくとも約400、少なくとも約450、少なくとも約500、少なくとも約550、少なくとも約600または少なくとも約630ヌクレオチドの領域に対して与えられる。好ましい実施形態では、同一性の程度が、配列表に示す核酸配列などの参照核酸配列の全長に対して与えられる。好ましくは、2つの配列は、互いにハイブリダイズして安定な二重鎖を形成する能力を有し、そのハイブリダイゼーションは、好ましくは、ポリヌクレオチド間の特異的ハイブリダイゼーションを可能にする条件(ストリンジェントな条件)下で実施される。ストリンジェントな条件は、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual,J.Sambrookら,Editors,2nd Edition,Cold Spring Harbor Laboratory press,Cold Spring Harbor,New York,1989またはCurrent Protocols in Molecular Biology,F.M.Ausubelら,Editors,John Wiley&Sons,Inc.,New Yorkに記載されており、例えば、ハイブリダイゼーション緩衝液(3.5×SSC、0.02%Ficoll、0.02%ポリビニルピロリドン、0.02%ウシ血清アルブミン、2.5mM NaH
2PO
4(pH7)、0.5%SDS、2mM EDTA)中、65℃でのハイブリダイゼーションを指す。SSCは、0.15M塩化ナトリウム/0.15Mクエン酸ナトリウム、pH7である。ハイブリダイゼーション後、DNAが転写された膜を、例えば2×SSC中、室温で洗浄し、次に0.1〜0.5×SSC/0.1×SDS中、68℃までの温度で洗浄する。
【0149】
例えば核酸配列およびアミノ酸配列に関して、本発明における「変異体」という用語には、任意の変異体、特に突然変異体、スプライス変異体、立体配座、アイソフォーム、対立遺伝子変異体、種変異体および種ホモログ、特に天然に存在するものが含まれる。対立遺伝子変異体は遺伝子の正常配列の改変に関係し、その意義は不明であることが多い。完全な遺伝子配列決定を行うと、所与の遺伝子について、しばしば、数多くの対立遺伝子変異体が同定される。種ホモログは、所与の核酸またはアミノ酸配列が起源とするものとは異なる種を起源とする核酸またはアミノ酸配列である。
【0150】
核酸分子に関して、「変異体」という用語には、縮重核酸配列が含まれ、ここで、縮重核酸とは、本発明によれば、遺伝暗号の縮重ゆえに参照核酸とはコドン配列が異なっている核酸である。
【0151】
さらに、本発明によれば、特定核酸配列の「変異体」には、1または複数の、例えば少なくとも2、少なくとも4、または少なくとも6個の、かつ好ましくは最大3、最大4、最大5、最大6、最大10、最大15、または最大20個の、ヌクレオチドの置換、欠失および/または付加を含む核酸配列が含まれる。
【0152】
本発明に関して、アミノ酸配列の「変異体」は、アミノ酸挿入変異体、アミノ酸欠失変異体および/またはアミノ酸置換変異体を含む。
【0153】
挿入を有するアミノ酸配列変異体の場合、1またはそれ以上のアミノ酸残基が、アミノ酸配列中の特定の部位に挿入されるが、ランダム挿入とその結果生じる産物の適当なスクリーニングも考えられる。
【0154】
アミノ酸欠失変異体は、配列からの1またはそれ以上のアミノ酸の除去を特徴とする。
【0155】
アミノ酸置換変異体は、配列中の少なくとも1つの残基が除去され、その代わりに別の残基が挿入されていることを特徴とする。相同タンパク質またはペプチド間で保存されていないアミノ酸配列中の位置での修飾、および/またはアミノ酸を類似する性質を有する別のアミノ酸で置き換えることは、好ましい。
【0156】
好ましくは、タンパク質変異体中のアミノ酸変化は、保存的アミノ酸変化、すなわち同じように荷電しているアミノ酸または同じように非荷電であるアミノ酸の置換である。
【0157】
好ましくは、特定アミノ酸配列と、前記特定アミノ酸配列と比較して修飾されているアミノ酸配列または前記特定アミノ酸配列の変異体であるアミノ酸配列との間の(例えば実質的な相同性を示すアミノ酸配列間の)類似性、好ましくは同一性の程度は、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、さらに一層好ましくは少なくとも90%、または最も好ましくは少なくとも95%、96%、97%、98%または99%であるだろう。CLDN6ポリペプチド変異体についていえば、類似性または同一性の程度は、好ましくは少なくとも約100、少なくとも約120、少なくとも約140、少なくとも約160、少なくとも約180、少なくとも約200、少なくとも約210アミノ酸の領域に対して与えられる。好ましい実施形態では、類似性または同一性の程度が、配列表に示すアミノ酸配列などの参照アミノ酸配列の全長に対して与えられる。
【0158】
「配列類似性」は、同一であるかまたは保存的アミノ酸置換に相当するアミノ酸のパーセンテージを示す。2つのポリペプチド配列または核酸配列の間の「配列同一性」は、それらの配列の間で同一であるアミノ酸またはヌクレオチドのパーセンテージを示す。
【0159】
「同一性パーセンテージ」という用語は、最良アラインメント後に得られる、比較しようとする2つの配列間で同一であるヌクレオチドまたはアミノ酸残基のパーセンテージを表するものとし、このパーセンテージは純粋に統計的であり、2つの配列間の相違はそれらの全長にわたってランダムに分布する。2つのヌクレオチド配列またはアミノ酸配列の間の配列比較は、従来どおり、それらを最適に整列した後にこれらの配列を比較することによって実施され、前記比較は、配列類似性を有する局所領域を同定し、比較するために、セグメントごとにまたは「比較ウインドウ」ごとに実施される。比較のための配列の最良アラインメントは、手作業で行われる他、Smith and Waterman,1981,Ads App.Math.2,482の局所相同性アルゴリズムによって、Neddleman and Wunsch,1970,J.Mol.Biol.48,443の局所相同性アルゴリズムによって、Pearson and Lipman,1988,米国科学アカデミー紀要(Proc.Natl Acad.Sci.USA)85,2444の類似性検索法によって、またはこれらのアルゴリズムを用いたコンピュータプログラム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.のGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST NおよびTFASTA)によっても行われ得る。
【0160】
同一性パーセンテージは、比較される2つの配列間で同一な位置の数を決定し、その数を比較した位置の数で除し、これら2つの配列間の同一性パーセンテージが得られるように、得られた結果に100を乗じることによって算定される。
【0161】
「保存的置換」は、例えば、関与する残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性および/または両親媒性の類似性に基づいて行い得る。例えば:(a)非極性(疎水性)アミノ酸には、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニンが含まれ;(b)極性中性アミノ酸には、グリシン、セリン、トレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンが含まれ;(c)正電荷(塩基性)アミノ酸には、アルギニン、リジンおよびヒスチジンが含まれ;(d)負電荷(酸性)アミノ酸には、アスパラギン酸およびグルタミン酸が含まれる。置換は、典型的には、(a)〜(d)の群内で行い得る。加えて、グリシンとプロリンは、αへリックスを破壊するそれらの能力に基づいて互いに置換され得る。いくつかの好ましい置換は、以下の群内で行われ得る:(i)SとT;(ii)PとG;ならびに(iii)A、V、LおよびI。遺伝暗号ならびに組換え技術および合成DNA技術が公知であることから、当業者は、保存的アミノ酸変異体をコードするDNAを容易に構築することができる。
【0162】
本発明には、本明細書で述べる核酸配列、アミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質、特に抗体の誘導体が含まれる。
【0163】
「誘導体」という用語は、ヌクレオチド塩基上、糖上、またはリン酸基上での、核酸の任意の化学的誘導体化を含む。「誘導体」という用語は、天然には存在しないヌクレオチドおよびヌクレオチド類似体を含有する核酸も含む。好ましくは、核酸の誘導体化は、その安定性を増大させる。
【0164】
本発明によれば、タンパク質およびペプチドの「誘導体」は、タンパク質およびペプチドの修飾形態である。そのような修飾には任意の化学的修飾が含まれ、そのような修飾は、糖質、脂質および/またはタンパク質もしくはペプチドなどといった、タンパク質またはペプチドに関連する任意の分子の、1または複数の置換、欠失、および/または付加を含む。「誘導体」という用語は、前記タンパク質およびペプチドのあらゆる機能的化学等価物にも及ぶ。好ましくは修飾ペプチドは、増加した安定性および/または増加した免疫原性を有する。
【0165】
本発明によれば、核酸配列、アミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質の変異体、誘導体、修飾形態、フラグメント、パーツまたは部分は、好ましくは、それぞれ、それが由来する核酸配列、アミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質の機能特性を有する。そのような機能特性は、抗体または抗体標的、特にCLDN6などといった、ペプチドまたはタンパク質との相互作用、核酸の選択的結合、および酵素活性を含む。1つの実施形態では、核酸配列、アミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質の変異体、誘導体、修飾形態、フラグメント、パーツまたは部分が、それぞれ、それが由来する核酸配列、アミノ酸配列、ペプチドまたはタンパク質と免疫学的に等価である。1つの実施形態では、機能特性は免疫学的特性である。
【0166】
本発明によれば、細胞は、好ましくは無傷細胞、すなわち、酵素、細胞小器官、または遺伝物質などといったその正常細胞内構成成分を放出していない無傷の膜を有する細胞である。無傷細胞は、好ましくは生細胞、すなわち、その正常な代謝機能を保有する能力を有する生きている細胞である。好ましくは、細胞はヒト細胞である。
【0167】
「細胞」は、「宿主細胞」であり得る。本明細書にいう「宿主細胞」とは、組換え核酸が導入されている細胞を指すことが意図されている。
【0168】
「トランスジェニック動物」という用語は、1またはそれ以上の導入遺伝子、好ましくは重鎖および/もしくは軽鎖導入遺伝子、または導入染色体(動物の天然ゲノムDNAに組み込まれているものまたは組み込まれていないもの)を含むゲノムを有し、好ましくは導入遺伝子を発現する能力を有する動物を指す。例えば、トランスジェニックマウスは、そのマウスが、CLDN6抗原および/またはCLDN6を発現する細胞で免疫された場合に、ヒト抗CLDN6抗体を産生するように、ヒト軽鎖導入遺伝子と、ヒト重鎖導入遺伝子またはヒト重鎖導入染色体のいずれかとを有することができる。ヒト重鎖導入遺伝子は、トランスジェニックマウス、例えばHCo7またはHCol2マウスなどのHuMAbマウスの場合のように、マウスの染色体DNAに組み込むか、またはヒト重鎖導入遺伝子を、国際公開第02/43478号に記載されているトランスクロモソーマル(例えばKM)マウスの場合のように、染色体外に維持することができる。そのようなトランスジェニックおよびトランスクロモソーマルマウスは、V−D−J組換えおよびアイソタイプスイッチを受けることにより、CLDN6に対するヒトモノクローナル抗体の多数のアイソタイプ(例えばIgG、IgAおよび/またはIgE)を産生する能力を有し得る。
【0169】
本発明によれば、「治療エフェクター成分」という用語は、治療効果を発揮し得る任意の分子を意味する。本発明によれば、治療エフェクター分子は、好ましくは、CLDN6を発現する細胞へと選択的に誘導され、治療エフェクター分子には、抗がん剤、放射性同位体、毒素、細胞分裂阻害薬または細胞溶解薬などが含まれる。抗がん剤は、例えば、アミノグルテチミド、アザチオプリン、ブレオマイシン硫酸塩、ブスルファン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、シクロホスファミド、シクロスポリン、シタラビジン(cytarabidine)、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビン(daunorubin)、ドキソルビシン、タキソール、エトポシド、フルオロウラシル、インターフェロン−α、ロムスチン、メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトタン、プロカルバジンHCl、チオグアニン、ビンブラスチン硫酸塩およびビンクリスチン硫酸塩を含む。他の抗がん剤は、例えばGoodman and Gilman,"The Pharmacological Basis of Therapeutics",8th Edition,1990,McGraw−Hill,Inc.、特にChapter 52(Antineoplastic Agents (Paul Calabresi and Bruce A.Chabner)に記載されている。毒素は、アメリカヤマゴボウ抗ウイルスタンパク質、コレラ毒素、百日咳毒素、リシン、ゲロニン、アブリン、ジフテリア外毒素またはシュードモナス外毒素などのタンパク質であり得る。毒素残基は、コバルト−60などの高エネルギー放出放射性核種であってもよい。
【0170】
本明細書にいう「低減する」または「阻害する」とは、レベル(例えば細胞の増殖のレベル)の全体的低下、好ましくは5%またはそれ以上、10%またはそれ以上、20%またはそれ以上、より好ましくは50%またはそれ以上、最も好ましくは75%またはそれ以上の全体的低下を引き起こす能力を意味する。「阻害する」という用語またはそれに類する表現には、完全な阻害または本質的に完全な阻害、すなわちゼロへの低減または本質的にゼロへの低減が含まれる。
【0171】
「増加する」または「強化する」などの用語は、好ましくは、少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも80%、最も好ましくは少なくとも100%程度の増加または強化に関する。
【0172】
「免疫学的に等価」という用語は、免疫学的に等価なアミノ酸配列などの免疫学的に等価な分子が、例えば体液性免疫応答および/または細胞性免疫応答の誘導、誘導される免疫反応の強さおよび/または持続時間、もしくは、誘導される免疫反応の特異性などといった免疫学的効果のタイプに関して、同じまたは本質的に同じ免疫学的性質を示し、かつ/または同じまたは本質的に同じ免疫学的効果を発揮することを意味する。本発明において、「免疫学的に等価な」という用語は、好ましくは、免疫に使用されるペプチドもしくはペプチド変異体または抗体の免疫学的効果または性質に関して使用される。具体的な免疫学的性質の一つは、抗体に結合し、適切な場合には、免疫応答を(好ましくは抗体の生成を刺激することによって)生じさせる能力である。例えばアミノ酸配列は、対象の免疫系に曝露されたときに、前記アミノ酸配列が、参照アミノ酸配列(例えばCLDN6のパーツを形成する参照アミノ酸配列)と反応する特異性を有する免疫反応(好ましくは抗体)を誘導するのであれば、参照アミノ酸配列と免疫学的に等価である。
【0173】
本発明において、「免疫エフェクター機能」という用語には、腫瘍の播種および転移の阻害を含む腫瘍成長の阻害および/または腫瘍発生の阻害をもたらす、免疫系の構成成分が媒介する任意の機能が含まれる。好ましくは、免疫エフェクター機能は腫瘍細胞の死滅をもたらす。好ましくは、本発明における免疫エフェクター機能は、抗体が媒介するエフェクター機能である。そのような機能は、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)、腫瘍関連抗原(例えばCLDN6)を保有する細胞におけるアポトーシスの(例えば表面抗原への抗体の結合による)誘導、および/または腫瘍関連抗原を保有する細胞の増殖の阻害、好ましくはADCCおよび/またはCDCを含む。したがって、1またはそれ以上の免疫エフェクター機能を媒介する能力を有する抗体は、好ましくは、CDC媒介性溶解、ADCC−媒介性溶解、アポトーシス、同型接着、および/または食作用を誘導することによって、好ましくはCDC媒介性溶解および/またはADCC媒介性溶解を誘導することによって、細胞の死滅を媒介することができる。抗体は、単に腫瘍細胞表面上の腫瘍関連抗原に結合することによっても、効果を発揮し得る。例えば抗体は、ただ単に腫瘍細胞表面上の腫瘍関連抗原に結合することによって、腫瘍関連抗原の機能をブロックし、またはアポトーシスを誘導し得る。
【0174】
本明細書で述べる抗体、組成物および方法は、腫瘍疾患、例えばCLDN6を発現する腫瘍細胞の存在を特徴とする疾患を有する対象を処置するために、使用することができる。処置および/または防止することができる腫瘍疾患の例には、本明細書で述べるものを含めて、CLDN6を発現するすべてのがんおよび腫瘍実体が包含される。
【0175】
本明細書で述べる抗体、組成物および方法は、本明細書で述べる疾患を防止するための免疫またはワクチン接種にも使用し得る。
【0176】
本発明によれば、「疾患」という用語は、がん、特に本明細書で述べるがんの形態を含む、任意の病的状態を指す。
【0177】
「CLDN6を発現する細胞が関わる疾患」とは、本発明によれば、疾患組織または疾患器官の細胞におけるCLDN6の発現が、好ましくは、健常組織または健常器官における状態と比較して増大していることを意味する。増大とは、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%またはさらにそれ以上の増大を指す。1つの実施形態では、発現が疾患組織においてのみ見いだされ、健常組織における発現は抑止されている。本発明によれば、CLDN6を発現する細胞が関わる疾患またはCLDN6を発現する細胞に関連する疾患には、がん疾患などの腫瘍疾患が含まれる。さらに、本発明によれば、がん疾患などの腫瘍疾患は、好ましくは、腫瘍細胞またはがん細胞がCLDN6を発現するものである。
【0178】
本発明によれば、「腫瘍」または「腫瘍疾患」という用語は、細胞(新生物細胞または腫瘍細胞と呼ばれるもの)の異常な成長によって形成される腫脹または病巣を指す。「腫瘍細胞」とは、急速で制御されない細胞増殖によって成長し、新しい成長を開始させた刺激が途絶えた後も成長し続ける異常細胞を意味する。腫瘍は、構造的組織化および正常組織との機能的協調の部分的または完全な欠如を示し、通常は、異質な組織塊(これは、良性、前悪性または悪性のいずれかであり得る)を形成する。
【0179】
良性腫瘍は、がんの悪性形質の3つすべてを欠いている腫瘍である。したがって、定義上、良性腫瘍は、無制限の攻撃的成長をすることがなく、周囲組織に侵入することがなく、非隣接組織に拡がる(転移する)ことがない。良性腫瘍のよくある例には、色素性母斑および子宮類線維腫が含まれる。
【0180】
「良性」という用語は軽度で非進行性の疾患を含意し、事実、多くの種類の良性腫瘍は健康にとって無害である。しかし、がんの侵入性を欠いているという理由で「良性腫瘍」と定義される新生物の中には、それでもなお、健康に負の影響を与え得るものもある。その例には、「マス効果」(血管などの重要臓器の圧迫)を生じる腫瘍、または一定のホルモンを過剰産生し得る内分泌組織の「機能的」腫瘍(例には甲状腺腺腫、副腎皮質腺腫、および下垂体腺腫が含まれる)が含まれる。
【0181】
良性腫瘍は、典型的には、悪性的に振る舞うそれらの能力を阻害する外表面で囲まれている。いくつかの例では、一定の「良性」腫瘍が、将来的に悪性がんを発生させることがあり、これは、腫瘍の新生物細胞の亜集団における、さらなる遺伝子変化に起因するものである。この現象の顕著な一例が管状腺腫であり、これは、結腸がんへの重要な前駆体である一般的なタイプの結腸ポリープである。管状腺腫中の細胞は、しばしばがんへと進行する大半の腫瘍と同様に、細胞の成熟および外観に、異形成と総称される一定の異常を示す。これらの細胞異常は、稀にしかがん化しないまたは決してがん化しない良性腫瘍には見られないが、孤立した塊を形成しない他の前がん組織異常(例えば子宮頸部の前がん病変)には見られる。権威ある専門家の中には、異形成腫瘍を「前悪性」と呼び、「良性」という用語は稀にしかがんを発生させないまたは決してがんを発生させない腫瘍のためにとっておくことを好む人々もいる。
【0182】
新生物は、新形成の結果としての異常な組織塊である。新形成(neoplasia:ギリシャ語で新しい成長の意)は、細胞の異常な増殖である。細胞の成長は、それを取り囲む正常組織の成長を上回り、それら正常組織と協調しない。刺激が途絶えた後でさえ、同じく過剰な成長が持続する。これは通常、しこりまたは腫瘍を引き起こす。新生物は良性、前悪性または悪性であり得る。
【0183】
「腫瘍の成長」または「腫瘍成長」は、本発明によれば、そのサイズを増加しようとする腫瘍の性向、および/または増殖しようとする腫瘍細胞の性向に関する。
【0184】
好ましくは「腫瘍疾患」は、本発明によれば、がん疾患、すなわち悪性疾患であり、腫瘍細胞はがん細胞である。好ましくは、「腫瘍疾患」はCLDN6を発現する細胞を特徴とし、腫瘍細胞はCLDN6を発現する。
【0185】
がん(医学用語:悪性新生物)は、一群の細胞が制御されない成長(正常範囲を超えて分裂)、侵入(隣接する組織への貫入とその破壊)、および時には転移(リンパまたは血液を介した身体の他の場所への拡大)を示す疾患の一種である。これら3つの悪性形質により、がんは、自己限定性で侵入も転移もしない良性腫瘍と区別される。大半のがんは腫瘍を形成するが、白血病のように腫瘍を形成しないものもある。
【0186】
CLDN6を発現する細胞は、好ましくは、腫瘍細胞またはがん細胞、好ましくは本明細書で述べる腫瘍およびがんの腫瘍細胞またはがん細胞である。好ましくは、そのような細胞は、胎盤細胞以外の細胞である。
【0187】
がんは、その腫瘍に似ている細胞のタイプによって、それゆえにその腫瘍の起源であると推定される組織によって分類される。これらは、それぞれ組織学および場所である。
【0188】
「がん」という用語は、本発明によれば、白血病、精上皮腫、黒色腫、奇形腫、リンパ腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、直腸がん、子宮内膜がん、腎がん、副腎がん、甲状腺がん、血液がん、皮膚がん、脳のがん、子宮頸がん、腸のがん、肝がん、結腸がん、胃がん、腸がん、頭頚部がん、胃腸がん、リンパ節がん、食道がん、直腸結腸がん、膵がん、耳鼻咽喉科(ENT)がん、乳がん、前立腺がん、子宮のがん、卵巣がんおよび肺がん、ならびにそれらの転移を含む。その例は、肺癌、乳癌、前立腺癌、結腸癌、腎細胞癌、子宮頸癌、または上述のがんタイプまたは腫瘍の転移である。がんという用語は、本発明によれば、がん転移も含む。
【0189】
好ましい腫瘍疾患またはがんは、本発明によれば、卵巣がん、特に卵巣腺癌および卵巣奇形癌、小細胞肺がん(SCLC)および非小細胞肺がん(NSCLC)を含む肺がん、特に扁平上皮肺癌および腺癌、胃がん、乳がん、肝がん、膵がん、皮膚がん、特に基底細胞癌および扁平上皮癌、悪性黒色腫、頭頚部がん、特に悪性多形性腺腫、肉腫、特に滑膜肉腫および癌肉腫、胆管がん、膀胱のがん、特に移行上皮癌および乳頭癌、腎がん、特に明細胞腎細胞癌および乳頭状腎細胞癌を含む腎細胞癌、結腸がん、回腸のがんを含む小腸がん、特に小腸腺癌および回腸の腺癌、精巣胎芽性癌、胎盤性絨毛癌、子宮頸がん、精巣がん、特に精巣精上皮腫、精巣奇形腫および胎児性精巣がん、および子宮がん、ならびにそれらの転移形態から成る群より選択される。
【0190】
特に好ましい腫瘍疾患またはがんは、本発明によれば、卵巣がん、肺がん、転移性卵巣がんおよび転移性肺がんから成る群より選択される。好ましくは卵巣がんは卵巣癌または卵巣腺癌である。好ましくは、肺がんは癌または腺癌であり、好ましくは細気管支がん、例えば細気管支癌または細気管支腺癌である。1つの実施形態において、腫瘍細胞は、そのようながんの細胞である。転移性卵巣がんには転移性卵巣癌および転移性卵巣腺癌が含まれ、転移性肺がんには転移性肺癌、転移性肺腺癌、転移性細気管支癌、および転移性細気管支腺癌が含まれる。
【0191】
主な肺がんのタイプは、小細胞肺癌(SCLC)および非小細胞肺癌(NSCLC)である。非小細胞肺癌には3つの主たるサブタイプ、すなわち肺扁平上皮癌、腺癌、および大細胞肺癌がある。腺癌は肺がんの約10%を占める。このがんは通常、肺の末梢に見られ、小細胞肺がんおよび扁平上皮肺がん(どちらも、より中央に位置する傾向がある)とは対照的である。
【0192】
皮膚がんは皮膚上の悪性成長である。最も一般的な皮膚がんは基底細胞がん、扁平上皮がん、および黒色腫である。悪性黒色腫は重篤なタイプの皮膚がんである。これは、メラノサイトと呼ばれる色素細胞の制御されない成長によるものである。
【0193】
本発明によれば、「癌」とは、上皮細胞由来の悪性腫瘍である。この群は、一般的な形態の乳がん、前立腺がん、肺がんおよび結腸がんを含む最も一般的ながんを表す。
【0194】
「細気管支癌」は、終末細気管支の上皮に由来すると考えられる肺の癌であって、この癌では、新生物組織が肺胞壁に沿って延び、肺胞内で小塊に成長する。細胞の一部および肺胞中の物質にムチンが認められる場合があり、これには剥離細胞も含まれている。
【0195】
「腺癌」は、腺組織に起源を有するがんである。この組織は、上皮組織として知られる、さらに大きな組織カテゴリの一部でもある。上皮組織には、皮膚、腺、ならびに身体の腔および器官を裏打ちする他の様々な組織が含まれる。上皮は、発生学的には、外胚葉,内胚葉および中胚葉に由来する。細胞が分泌性を有する限り、腺癌と分類されるために細胞が腺の一部である必要は、必ずしもない。この形態の癌はヒトを含む一部の高等哺乳動物において発生し得る。高分化型腺癌はそれらが由来する腺組織に似ている傾向にあるが、低分化型はそうではない場合がある。病理学者は、生検からの細胞を染色することによって、その腫瘍が腺癌であるか、他の何らかのタイプのがんであるかを決定することになる。腺癌は、体内での腺の遍在性ゆえに、身体の多くの組織に生じ得る。各腺は同じ物質を分泌するわけではないだろうが、細胞に外分泌機能がある限り、それは腺性であるとみなされ、その悪性形態は、それゆえに腺癌と呼ばれる。悪性腺癌は他の組織に侵入し、転移するのに十分な時間が与えられれば、しばしば転移する。卵巣腺癌は最も一般的なタイプの卵巣癌である。これには、漿液性および粘液性腺癌、明細胞腺癌ならびに類内膜腺癌が含まれる。
【0196】
「嚢胞腺癌」は、卵巣がんの一タイプで、表層上皮性・間質性腫瘍の悪性形態である。
【0197】
表層上皮性・間質性腫瘍は、卵巣表層上皮(変性した腹膜)または異所性の子宮内膜組織もしくはファロピウス管(卵管)組織に由来する考えられる卵巣新生物の一種である。この群の腫瘍は、全卵巣腫瘍の大半を占める。
【0198】
「絨毛癌」は、通常は胎盤の、悪性栄養膜高侵襲性がんである。これは、肺への早期血行性拡大を特徴とする。
【0199】
腎細胞癌は、腎細胞がんまたは腎細胞腺癌としても知られ、近位曲尿細管(血液をろ過して老廃物を除去する腎臓内の極めて小さな管)の内層を起源とする腎臓がんである。腎細胞癌は、成人では群を抜いて最も一般的なタイプの腎臓がんであり、すべての尿生殖器腫瘍の中で最も致死的である。腎細胞癌の明確に異なるサブタイプは、明細胞腎細胞癌および乳頭状腎細胞癌である。明細胞腎細胞癌は最も一般的な形態の腎細胞癌である。顕微鏡で見ると、明細胞腎細胞癌を構成する細胞は、ごく薄い色または透明に見える。乳頭状腎細胞癌は2番目に一般的なサブタイプである。これらのがんは、腫瘍の大半とはいわないまでも一部において、小指様の突起(乳頭と呼ばれる)を形成する。
【0200】
肉腫は、結合組織細胞または間葉細胞に由来する悪性腫瘍である。これは上皮起源である癌とは対照的である。滑膜肉腫は稀な形態のがんであり、通常は、腕または脚の関節近くに発生する。これは軟部組織肉腫の一つである。
【0201】
胚細胞性腫瘍は、胚細胞に由来する新生物である。胚細胞性腫瘍はがん性腫瘍または非がん性腫瘍であることができる。胚細胞は通常、性腺(卵巣および精巣)の内部に見いだされる。性腺外(例えば頭部、口内、頚部、骨盤;胎児、乳児および幼児では、身体の正中線上、特に尾骨の先端に見いだされることが最も多い)を起源とする胚細胞性腫瘍は、胚発生時の間違いに起因する先天性異常であり得る。
【0202】
胚細胞性腫瘍を2種類に大別すると精上皮腫と非精上皮腫であり、非精上皮腫には、奇形癌、胎児性癌、卵黄嚢腫瘍、絨毛癌および分化型奇形腫が含まれる。非精上皮腫からの細胞株は大半が胎児性癌と等価である。すなわちそれらは、一部はレチノイン酸などの分化誘導因子に応答し得るものの、ほとんどすべてが、基礎条件下では分化しない幹細胞から構成される。
【0203】
奇形癌とは、奇形腫と胎児性癌もしくは絨毛癌またはその両方との混合物である胚細胞性腫瘍を指す。この種の混合胚細胞性腫瘍は、単に、胎児性癌または絨毛癌の要素を伴う奇形腫として知られることもあるし、奇形腫構成成分を無視して、単にその悪性構成成分、すなわち胎児性癌および/または絨毛癌だけに言及することで知られることもある。
【0204】
リンパ腫および白血病は、造血(血液形成)細胞に由来する悪性疾患である。
【0205】
芽細胞性腫瘍または芽細胞腫は、未熟組織または胚性組織に似た腫瘍(通常は悪性)である。これらの腫瘍の多くは、小児において最も一般的である。
【0206】
「転移」とは、そのもとの部位から身体の別のパーツへのがん細胞の拡がりを意味する。転移の形成は非常に複雑な過程であり、原発性腫瘍からの悪性細胞の脱離、細胞外マトリックスへの侵入、体腔および脈管に入るための内皮基底膜の貫入、そして次に、血液による輸送後の、標的器官の浸潤に依存する。最後に、標的部位における新たな腫瘍、すなわち続発性腫瘍または転移性腫瘍の成長は、血管新生に依存する。腫瘍転移はしばしば原発性腫瘍の除去後にも起こるが、これは、腫瘍細胞または腫瘍構成成分が残存していて、転移能を発生させ得るからである。1つの実施形態において、「転移」という用語は、本発明によれば、「遠隔転移」に関し、これは原発性腫瘍および所属リンパ節系から離れている転移に関する。
【0207】
続発性腫瘍または転移性腫瘍の細胞は、もとの腫瘍における細胞に似ている。これは、例えば、卵巣がんが肝臓に転移した場合、続発性腫瘍は異常な肝細胞ではなく異常な卵巣細胞で構成されることを意味する。肝臓における腫瘍は、その場合、肝がんではなく転移性卵巣がんと呼ばれる。
【0208】
卵巣がんの場合、転移は、次の方法で起こり得る:直接的接触または拡張による方法。これは、卵巣の近くまたは周囲に位置する隣接組織または隣接器官、例えばファロピウス管、子宮、膀胱、直腸などに侵入することができる;腹腔への播種または脱落による方法。これは、卵巣がんが拡がる最も一般的な方法である。がん細胞は卵巣塊の表面を突き破り、肝臓、胃、結腸または横隔膜などの腹部内の他の構造体へと「落ちる」;卵巣塊を離脱してリンパ管に侵入し、次に身体の他の領域または肺もしくは肝臓などといった遠隔器官へと移動する方法;卵巣塊を離脱して血液系に侵入し、身体の他の領域または遠隔器官へと移動する方法。
【0209】
本発明によれば、転移性卵巣がんには、ファロピウス管におけるがん、腹部の器官におけるがん、例えば腸におけるがん、子宮におけるがん、膀胱におけるがん、直腸におけるがん、肝臓におけるがん、胃におけるがん、結腸におけるがん、横隔膜におけるがん、肺におけるがん、腹部または骨盤(腹膜)の内層におけるがん、および脳におけるがんが含まれる。同様に、転移性肺がんとは、肺から体内の遠隔部位および/またはいくつかの部位に拡がったがんを指し、これには、肝臓におけるがん、副腎におけるがん、骨におけるがん、および脳におけるがんが含まれる。
【0210】
再燃または再発は、ある人が、過去に罹患した状態に再び罹患した場合に起こる。例えば、ある患者が腫瘍疾患を患い、前記疾患の処置を受けて成功したことがあり、再び前記疾患を発症した場合、前記新たに発症した疾患は再燃または再発とみなされ得る。ただし、本発明によれば、腫瘍疾患の再燃または再発は、もとの腫瘍疾患の部位でも起こり得るものの、必ずしも、もとの腫瘍疾患の部位で起こるとは限らない。したがって例えば、ある患者が卵巣腫瘍を患い、処置を受けて成功したことがある場合、再燃または再発は卵巣腫瘍の発生、または卵巣とは異なる部位での腫瘍の発生であり得る。腫瘍の再燃または再発には、腫瘍がもとの腫瘍の部位に発生する状況だけでなく、もとの腫瘍の部位とは異なる部位に発生する状況も含まれる。好ましくは、患者が処置を受けたもとの腫瘍は原発性腫瘍であり、もとの腫瘍の部位とは異なる部位にある腫瘍は、続発性または転移性腫瘍である。
【0211】
「処置する」とは、対象における腫瘍を防止または排除するか、腫瘍のサイズまたは腫瘍の数を低減すること;対象における腫瘍の成長を停止または遅延させること;対象における新しい腫瘍の発生または腫瘍転移を阻害するか遅延させること;現在がんを有しているまたは過去にがんを有していた対象における症状および/または再発の頻度または重症度を減少させること;および/または対象の寿命を伸長、すなわち増加させることを目的として、本明細書で述べる化合物または組成物を対象に投与することを意味する。
【0212】
特に「疾患の処置」という用語には、疾患またはその症状を治療すること、その持続時間を短縮すること、改善させること、防止すること、その進行または悪化を減速させまたは阻害すること、あるいはその発症を防止しまたは遅延させることが含まれる。
【0213】
「危険性がある」とは、母集団と比較して、腫瘍疾患、特にがんが発生する可能性が通常より高いと同定された対象、すなわち患者を意味する。加えて、腫瘍疾患、特にがんを有していた対象または現在有している対象は、がんが発生する危険性が増加している対象であり、したがって、対象はがんを発生させ続ける可能性がある。腫瘍を現在有している対象または腫瘍を有していた対象は、腫瘍転移の危険性も増加している。
【0214】
「免疫療法」という用語は、特異的免疫反応が関わる処置に関する。本発明において、「防御する」、「防止する」、「予防的」、「防止的」または「防御的」などの用語は、個体における腫瘍の発生および/または増殖の防止もしくは処置またはその両方、特に対象が腫瘍を発生させる可能性を最小限に抑えること、または腫瘍の発生を遅延させることに関する。例えば、上述のように腫瘍の危険性がある人は、腫瘍を防止するための治療の候補であるだろう。
【0215】
免疫療法の予防的施行、例えば本発明の組成物の予防的投与は、好ましくは、腫瘍成長の発生から受容者を防御する。免疫療法の治療的施行、例えば本発明の組成物の治療的投与は、腫瘍の進行/成長の阻害につながり得る。これは、腫瘍の進行/成長の減速、特に、好ましくは腫瘍の排除につながる、腫瘍の進行の分断を含む。
【0216】
「インビボで」という用語は、対象内での状況に関する。
【0217】
「対象」、「個体」または「患者」という用語は可換的に使用され、脊椎動物、好ましくは哺乳動物に関する。例えば、本発明において哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマなどの家畜、マウス、ラット、ウサギ、モルモットなどの実験動物、ならびに動物園の動物などといった飼育下の動物である。本明細書で使用される「動物」という用語にはヒトも含まれる。「対象」という用語には、患者、すなわち疾患(好ましくはCLDN6の発現に関連する疾患、好ましくはがんなどの腫瘍疾患)を有する動物(好ましくはヒト)も含めることができる。
【0218】
免疫用またはワクチン接種用の組成物の一部として、好ましくは本明細書で述べる1またはそれ以上の作用剤が、免疫応答を誘導するためのまたは免疫応答を増加させるための1またはそれ以上のアジュバントと一緒に投与される。「アジュバント」という用語は、免疫応答を延長または強化または加速する化合物に関する。本発明の組成物は、好ましくは、アジュバントを添加しなくても、その効果を発揮する。それでもなお、本願の組成物は任意の公知アジュバントを含有し得る。アジュバントは、油エマルション(例えばフロイントアジュバント)、ミネラル化合物(例えばミョウバン)、細菌産物(例えば百日咳菌毒素)、リポソーム、および免疫刺激複合体など、不均一な一群の化合物を含む。アジュバントの例は、モノホスホリルリピドA(MPL SmithKline Beecham)である。QS21(SmithKline Beecham)、DQS21(SmithKline Beecham;国際公開第96/33739号)、QS7、QS17、QS18、およびQS−L1(Soら,1997,Mol.Cells 7:178−186)などのサポニン、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、ビタミンE、モンタナイド、ミョウバン、CpGオリゴヌクレオチド(Kriegら,1995,Nature 374:546−549)、ならびにスクアレンおよび/またはトコフェロールなどの生物学的に分解可能な油から調製された種々の油中水型エマルション。
【0219】
本発明によれば、「試料」は、本発明において有用である任意の試料、特に体液を含む組織試料および/または細胞試料などの生物学的試料であることができ、パンチ生検を含む組織生検や、血液、気管支吸引液、喀痰、尿、糞便または他の体液の採取などといった、従来の方法で得ることができる。本発明によれば、「試料」という用語には、加工された試料、例えば生物学的試料の画分または単離物、例えば核酸およびペプチド/タンパク質単離物なども含まれる。
【0220】
患者の免疫応答を刺激する他の物質も投与し得る。例えばワクチン接種では、サイトカインを、リンパ球に対するその調節特性ゆえに、使用することができる。そのようなサイトカインは、例えば、ワクチンの防御作用を増加させることが示されているインターロイキン−12(IL−12)(Hall(1995)Science 268:1432−1434)、GM−CSFおよびIL−18を含む。
【0221】
免疫応答を強化し、それゆえにワクチン接種において使用し得る化合物は、いくつも知られている。前記化合物は、タンパク質または核酸の形態で提供される共刺激分子、例えばB7−1およびB7−2(それぞれCD80およびCD86)を含む。
【0222】
本発明の治療活性化合物は、注射または注入による投与を含む任意の従来経路で投与され得る。投与は、例えば、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、皮下または経皮的に行われ得る。好ましくは、抗体は、肺エアロゾルによって治療的に投与される。
【0223】
さらなる1つの実施形態では、本発明の抗体を、胎盤を横切るそれらの輸送が防止または低減されるように製剤化することができる。これは、当分野で公知の方法によって、例えば抗体のPEG化によって、またはF(ab)2'フラグメントの使用によって、行うことができる。さらに、Cunningham−Rundles C,Zhuo Z,Griffith B,Keenan J.(1992)Biological activities of polyethylene−glycol immunoglobulin conjugates.Resistance to enzymatic degradation.J.Immunol.Methods,152:177−190およびLandor M.(1995)Maternal−fetal transfer of immunoglobulins,Ann.Allergy Asthma Immunol.74:279−283も参照することができる。
【0224】
本発明の組成物は有効量で投与される。「有効量」とは、単独で、またはさらなる投薬と一緒に、所望の反応または所望の効果を達成する量を指す。特定の疾患または特定の状態を処置する場合、所望の反応とは、好ましくは、その疾患の経過の阻害に関する。これは、疾患の進行を遅くすること、特に疾患の進行を中断することまたは反転させることを含む。疾患または状態の処置における所望の反応は、前記疾患または前記状態の発症の遅延または発症の防止でもあり得る。
【0225】
本発明の組成物の有効量は、処置すべき状態、疾患の重症度、年齢、生理的条件、サイズおよび体重を含む患者の個体パラメータ、処置の継続期間、併用療法(存在する場合)のタイプ、具体的投与経路などといった因子に依存するであろう。したがって、投与される本発明の組成物の用量は、種々のそのようなパラメータに依存し得る。患者における反応が初回用量では不十分な場合は、より高い用量(またはより局所的な異なる投与経路によって達成される、事実上、より高い用量)を使用し得る。
【0226】
本発明の医薬組成物は、好ましくは滅菌されており、所望の反応または所望の効果を生成させるために、有効量の治療活性物質を含有する。
【0227】
本発明の医薬組成物は、一般に、医薬適合量で、かつ医薬適合調製物に入れて、投与される。「医薬適合(性)」とは、医薬組成物の活性構成成分の作用と相互作用しない無毒性材料を指す。この種の調製物は、通常、塩類、緩衝物質、保存剤、担体、補助免疫強化物質、例えばCpGオリゴヌクレオチドなどのアジュバント、サイトカイン、ケモカイン、サポニン、GM−CSFおよび/またはRNAなど、そして適宜、他の治療活性化合物を含有し得る。医薬品に使用する場合、塩類は医薬適合性であるべきである。ただし、医薬適合性でない塩類を、医薬適合性塩を調製するために使用することはでき、医薬適合性でない塩類も本発明に含まれる。薬理学的および医薬的に適合するこの種の塩類は、限定するわけではないが、以下の酸から調製されたものを含む:塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、マレイン酸、酢酸、サリチル酸、クエン酸、ギ酸、マロン酸、コハク酸など。医薬適合性塩は、ナトリウム塩、カリウム塩またはカルシウム塩などのアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩としても調製され得る。
【0228】
本発明の医薬組成物は医薬適合性担体を含み得る。「担体」という用語は、適用を容易にするために活性構成成分が混合される天然または合成の有機または無機構成成分を指す。本発明によれば、「医薬適合性担体」という用語には、患者への投与に適した1またはそれ以上の適合性固形または液状充填剤、希釈剤または封入物質が含まれる。本発明の医薬組成物の構成成分は、通常は、所望の医薬効力を実質的に損なうような相互作用が起こらないようなものである。
【0229】
本発明の医薬組成物は、塩中の酢酸、塩中のクエン酸、塩中のホウ酸、および塩中のリン酸などといった、適切な緩衝物質を含有し得る。
【0230】
医薬組成物は、適宜、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール、パラベンおよびチメロサールなどの適切な保存剤も含有し得る。
【0231】
医薬組成物は通常は均一な剤形で提供され、自体公知の方法で調製され得る。本発明の医薬組成物は、例えばカプセル剤、錠剤、口中錠、溶液、懸濁液、シロップ剤、エリキシル剤の形態、またはエマルションの形態をとり得る。
【0232】
非経口投与に適した組成物は、通常、好ましくは受容者の血液と等張な、活性化合物の滅菌水性または非水性調製物を含む。適合性担体および適合性溶媒の例は、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液である。加えて、通常は滅菌された固定油が、溶液または懸濁液の媒質として使用される。
以下、参考形態の例を付記する。
<1>
インビボで腫瘍の成長を阻害する抗体であって、腫瘍の細胞がクローディン6(CLDN6)を発現し、抗体がCLDN6に結合する能力を有する抗体。
<2>
前記抗体がCLDN6への結合によって前記腫瘍の成長を阻害する、<1>に記載の抗体。
<3>
前記抗体はCLDN6に特異的である、<1>または<2>に記載の抗体。
<4>
前記抗体は、モノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト抗体またはヒト化抗体であるか、抗体のフラグメントまたは合成抗体である、<1>〜<3>のいずれか一に記載の抗体。
<5>
前記腫瘍が、卵巣がん、特に卵巣腺癌および卵巣奇形癌、小細胞肺がん(SCLC)および非小細胞肺がん(NSCLC)を含む肺がん、特に扁平上皮肺癌および腺癌、胃がん、乳がん、肝がん、膵がん、皮膚がん、特に基底細胞癌および扁平上皮癌、悪性黒色腫、頭頚部がん、特に悪性多形性腺腫、肉腫、特に滑膜肉腫および癌肉腫、胆管がん、膀胱のがん、特に移行上皮癌および乳頭癌、腎がん、特に明細胞腎細胞癌および乳頭状腎細胞癌を含む腎細胞癌、結腸がん、回腸のがんを含む小腸がん、特に小腸腺癌および回腸の腺癌、精巣胎芽性癌、胎盤性絨毛癌、子宮頸がん、精巣がん、特に精巣精上皮腫、精巣奇形腫および胎児性精巣がん、子宮がん、胚細胞性腫瘍、特に奇形癌または胎児性癌、好ましくは精巣の胚細胞性腫瘍、ならびにそれらの転移形態から成る群より選択される、<1>〜<4>のいずれか一に記載の抗体。
<6>
(i)アクセッション番号DSM ACC3059(GT512muMAB 36A)、DSM ACC3058(GT512muMAB 27A)、またはDSM ACC3057(GT512muMAB 5F2D2)の下で寄託されたクローンによって産生されるまたは前記クローンから得ることができる抗体、
(ii)(i)の下の抗体のキメラ化またはヒト化形態である抗体、
(iii)(i)の下の抗体の特異性を有する抗体、および
(iv)(i)の下の抗体の抗原結合部分または抗原結合部位を含み、(i)の下の抗体の抗原結合部分または抗原結合部位が、好ましくは(i)の下の抗体の可変領域を含む抗体、
から成る群より選択される抗体。
<7>
少なくとも1つの治療エフェクター成分に取り付けられた<1>〜<6>のいずれか一に記載の抗体であって、前記治療エフェクター成分が、好ましくは、放射性標識、細胞毒または細胞傷害性酵素である抗体。
<8>
<1>〜<7>のいずれか一に記載の抗体を産生する能力を有するハイブリドーマ。
<9>
アクセッション番号DSM ACC3059(GT512muMAB 36A)、DSM ACC3058(GT512muMAB 27A)、またはDSM ACC3057(GT512muMAB 5F2D2)の下で寄託されたハイブリドーマ。
<10>
好ましくは治療用または予防用腫瘍ワクチンの形態にある、<1>〜<7>のいずれか一に記載の前記抗体を含む医薬組成物。
<11>
腫瘍疾患の処置または防止に使用するための、<10>に記載の医薬組成物。
<12>
腫瘍疾患を有する患者または腫瘍疾患を発症する危険性がある患者を処置する方法であって、前記腫瘍の細胞がクローディン6(CLDN6)を発現し、前記方法がCLDN6に結合する能力を有する抗体の投与を含む方法。
<13>
前記抗体が、患者に投与されたときに、CLDN6への結合によって、患者における腫瘍の成長を阻害する、<12>に記載の方法。
<14>
前記抗体が少なくとも1つの治療エフェクター成分に取り付けられており、前記治療エフェクター成分が、好ましくは、放射性標識、細胞毒または細胞傷害性酵素である、<12>または<13>に記載の方法。
<15>
前記抗体がCLDN6に特異的である、<12>〜<14>のいずれか一に記載の方法。
<16>
前記抗体がモノクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト抗体またはヒト化抗体であるか、抗体のフラグメントまたは合成抗体である、<12>〜<15>のいずれか一に記載の方法。
<17>
前記方法が、<10>または<11>に記載の医薬組成物の投与を含む、<12>〜<16>のいずれか一に記載の方法。
<18>
前記腫瘍疾患が、卵巣がん、特に卵巣腺癌および卵巣奇形癌、小細胞肺がん(SCLC)および非小細胞肺がん(NSCLC)を含む肺がん、特に扁平上皮肺癌および腺癌、胃がん、乳がん、肝がん、膵がん、皮膚がん、特に基底細胞癌および扁平上皮癌、悪性黒色腫、頭頚部がん、特に悪性多形性腺腫、肉腫、特に滑膜肉腫および癌肉腫、胆管がん、膀胱のがん、特に移行上皮癌および乳頭癌、腎がん、特に明細胞腎細胞癌および乳頭状腎細胞癌を含む腎細胞癌、結腸がん、回腸のがんを含む小腸がん、特に小腸腺癌および回腸の腺癌、精巣胎芽性癌、胎盤性絨毛癌、子宮頸がん、精巣がん、特に精巣精上皮腫、精巣奇形腫および胎児性精巣がん、子宮がん、胚細胞性腫瘍疾患、特に奇形癌または胎児性癌、好ましくは精巣の胚細胞性腫瘍疾患、ならびにそれらの転移形態から成る群より選択される、<11>に記載の医薬組成物または<12>〜<17>のいずれか一に記載の方法。
<19>
CLDN6が、配列表の配列番号:1に従う核酸配列または前記核酸配列の変異体を含む核酸によってコードされるアミノ酸配列を含む、<1>〜<7>のいずれか一に記載の抗体、<10>、<11>および<18>のいずれか一に記載の医薬組成物、または<12>〜<18>のいずれか一に記載の方法。
<20>
CLDN6が、配列表の配列番号:2に従うアミノ酸配列または前記アミノ酸配列の変異体を含む、<1>〜<7>および<19>のいずれか一に記載の抗体、<10>、<11>、<18>および<19>のいずれか一に記載の医薬組成物、または<12>〜<19>のいずれか一に記載の方法。
【0233】
本発明を図面と以下の実施例によって詳しく説明するが、これらは例示を目的として使用されているに過ぎず、限定を意図していない。これらの説明と実施例により、当業者は、本発明に同様に含まれるさらなる実施形態に到達することができる。
【実施例】
【0234】
ここで使用される技術および方法は、本明細書で説明されるか、または自体公知の方法で、例えばSambrookら,Moelcular Cloning:A Laboratory Manual,2nd Edition(1989)Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.などに記載されているように行われる。すべての方法は、キットおよび試薬の使用を含めて、具体的表示がある場合を除き、製造者の情報に従って実行される。
【0235】
実施例1:材料および方法
A.CLDN6に対するマウス抗体の生成
a.完全長CLDN6およびCLDN6フラグメントをコードする発現ベクターの生成
完全長CLDN6(配列番号:2)をコードする非天然コドン最適化DNA配列(配列番号:10)を、化学合成によって調製し(GENEART AG,ドイツ)、pcDNA3.1/myc−Hisベクター(インビトロジェン(Invitrogen),米国)にクローニングすることにより、ベクターp3953を得た。停止コドンの挿入により、ベクターがコードするmyc−Hisタグに融合することなく、CLDN6タンパク質を発現させることが可能になった。市販の抗CLDN6抗体(ARP,01−8865;R&D Systems,MAB3656)を用いるウエスタンブロット分析、フローサイトメトリ分析および免疫蛍光分析によって、CLDN6の発現を調べた。
【0236】
加えて、CLDN6の推定細胞外ドメイン2(EC2)フラグメント(配列番号:5)を、N末端Igκリーダー由来のシグナルペプチドおよびそれに続く正しいシグナルペプチダーゼ切断部位(配列番号:12)を確保するための4つの追加アミノ酸との融合物としてコードしているコドン最適化DNA配列(配列番号:11)を調製し、pcDNA3.1/myc−Hisベクターにクローニングすることにより、ベクターp3974を得た。免疫に先だって、一過性にトランスフェクトしパラホルムアルデヒド(PFA)固定したCHO−K1細胞での免疫蛍光顕微鏡法により、市販の抗myc抗体(Cell Signaling,MAB2276)を使って、EC2フラグメントの発現を確認した。
【0237】
b.CLDN6を安定に発現する細胞株の生成
ベクターp3953を使用し、標準的技術によって、CLDN6を安定に発現するHEK293およびP3X63Ag8U.1細胞株を生成させた。
【0238】
c.免疫
muMAB 5F2D2:0日目、16日目および36日目に、Balb/cマウスを、25μgのp3974プラスミドDNAで、4μlのPEI−マンノース(PEI−Man;PolyPlus Transfectionのin vivo−jetPEI(商標)−Man)(5%グルコースを含むH
2O中の150mM PEI−Man)と共に、腹腔内注射によって免疫した。48日目および62日目に、CLDN6を安定に発現するようにp3953ベクターでトランスフェクトされた2×10
7個のP3X63Ag8U.1骨髄腫細胞で、腹腔内注射により、マウスを免疫した。62日目に投与された細胞は、注射前に、3000radを照射したものであった。
【0239】
muMAB 27A:CLDN6を安定に発現するようにp3953ベクターでトランスフェクトされた2×10
7個のP3X63Ag8U.1骨髄腫細胞で、腹腔内注射により、0日目および13日目に、Balb/c マウスを免疫した。腫瘍を発生させたマウスを、p3953ベクターで安定にトランスフェクトされた2×10
7個のHEK293細胞で、腹腔内注射により、21日目に、追加免疫した。3日後に、マウスを犠死させ、脾細胞を調製した。5×10
7個の脾細胞を、別のBalb/cマウスに、静脈内注射によって移植した。35日目、49日目、67日目および104日目に、移植マウスを、p3953ベクターで安定にトランスフェクトされた2×10
7個のP3X63Ag8U.1骨髄腫細胞で、HPLC精製されたホスホロチオエート修飾CpGオリゴデオキシヌクレオチド(PTO−CpG−ODN)(50μg;5'−TCCATGACGTTCCTGACGTT;Eurofins MWG オペロン バイオテクノロジー(Operon),ドイツ)と共に、腹腔内注射によって免疫した。投与前に、細胞をマイトマイシンC(5μg/ml,シグマアルドリッチ(Sigma−Aldrich),M4287)で処理した。
【0240】
muMAB 36A:0日目、16日目および36日目に、C57BL/6マウスを、25μgのp3974プラスミドDNAで、4μlのPEI−マンノース(PEI−Man;PolyPlus Transfectionのin vivo−jetPEI(商標)−Man)(5%グルコースを含むH
2O中の150mM PEI−Man)と共に、腹腔内注射によって免疫した。55日目、69日目および85日目に、CLDN6を安定に発現するようにp3953ベクターでトランスフェクトされた2×10
7個のP3X63Ag8U.1骨髄腫細胞で、腹腔内注射により、マウスを免疫した。85日目には、細胞を、HPLC精製されたPTO−CpG−ODN(PBS中50μg;5'−TCCATGACGTTCCTGACGTT;Eurofins MWG オペロン バイオテクノロジー(Operon),ドイツ)と一緒に投与した。
【0241】
マウスの血清におけるCLDN6に対する抗体の存在は、CLDN6とGFPをコードする核酸で同時トランスフェクトしたCHO−K1細胞を使って、免疫蛍光顕微鏡法によって監視した。この目的のために、トランスフェクションの24時間後に、PFA固定細胞または非固定細胞を、免疫マウスからの血清の1:100希釈液と共に、室温(RT)で45分間インキュベートした。細胞を洗浄し、Alexa555標識抗マウスIg抗体(Molecular Probes)と共にインキュベートし、蛍光顕微鏡法に付した。
【0242】
モノクローナル抗体を生成させるために、検出可能な抗CLDN6免疫応答を伴うマウスを、脾摘出の4日前に、p3953ベクターで安定にトランスフェクトされた2×10
7個のHEK293細胞の腹腔内注射によって追加免疫した。
【0243】
d.CLDN6に対するマウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの生成
免疫マウスから単離された6×10
7個の脾細胞を、マウス骨髄腫細胞株P3X63Ag8.653(ATCC,CRL1580)の細胞3×10
7個と、PEG1500(Roche,CRL10783641001)を使って融合した。細胞を平底マイクロタイタープレートに1ウェルあたり約5×10
4細胞の密度で播種し、10%熱不活化ウシ胎児血清、1%ハイブリドーマ融合およびクローニング用添加剤(HFCS,Roche,CRL11363735)、10mM HEPES、1mMピルビン酸ナトリウム、4.5%グルコース、0.1mM2−メルカプトエタノール、1×ペニシリン/ストレプトマイシンおよび1×HATサプリメント(インビトロジェン(Invitrogen),CRL21060)を含有するRPMI選択培地中で約2週間培養した。10〜14日後に、抗CLDN6モノクローナル抗体について、個々のウェルをフローサイトメトリによってスクリーニングした。抗体分泌ハイブリドーマを限界希釈法によってサブクローニングし、抗CLDN6モノクローナル抗体について再び試験した。安定なサブクローンを培養することで、特性付けのために、組織培養培地中に少量の抗体を生成させた。親細胞の反応性を保持しているクローン(フローサイトメトリによって試験した)を各ハイブリドーマから少なくとも1つは選択した。各クローンにつき9バイアル細胞バンクを作成し、液体窒素中で保存した。
【0244】
B.フローサイトメトリ
CLDN6および他のクローディンへのモノクローナル抗体の結合を調べるために、HEK293T細胞を、対応するクローディンコードプラスミドで一過性にトランスフェクトし、発現をフローサイトメトリで分析した。トランスフェクト細胞と非トランスフェクト細胞を識別するために、HEK293T細胞をレポーターとしての蛍光マーカーで同時トランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後に、細胞を0.05%トリプシン/EDTAで収穫し、FACS緩衝液(2%FCSおよび0.1%アジ化ナトリウムを含有するPBS)で洗浄し、FACS緩衝液中に、2×10
6細胞/mlの濃度で再懸濁した。100μlの細胞懸濁液を、表示した濃度の適当な抗体と共に、4℃で30分間インキュベートした。市販のマウス抗クローディン抗体である抗CLDN6(R&D,CRL MAB3656)、抗CLDN3(R&D,MAB4620)および抗CLDN4(R&D,MAB4219)を陽性対照とし、一方、マウスIgG2b(Sigma,CRL M8894)をアイソタイプ対照とした。細胞をFACS緩衝液で3回洗浄し、アロフィコシアニン(APC)コンジュゲート抗マウスIgG1+2a+2b+3a特異的二次抗体(Dianova,CRL115−135−164)と共に、4℃で30分間インキュベートした。細胞を2回洗浄し、FACS緩衝液に再懸濁した。BD FACSArrayを使ったフローサイトメトリで結合を分析した。垂直軸上の抗体結合に対して、蛍光マーカーの発現を水平軸上にプロットした。
【0245】
CLDN6を内因性に発現する細胞株へのモノクローナル抗体の結合も、同様の方法で分析した。
【0246】
C.免疫ブロット分析
NEC8細胞を、CLDN6、3、4および9発現について、免疫ブロット分析によって分析した。陽性対照としてHEK293T細胞をCLDN6、3、4、9で一過性にトランスフェクトするか、陰性対照としてモックプラスミドでトランスフェクトした。細胞をレムリ緩衝液中に収穫し、溶解し、SDS−PAGEに付した。ゲルをブロットし、抗CLDN3(インビトロジェン(Invitrogen),34−1700)、抗CLDN4(インビトロジェン(Invitrogen),32−9400)、抗CDLN6(ARP,01−8865)または抗CLDN9(サンタクルーズ バイオテクノロジー(Santa Cruz),sc−17672)抗体で、それぞれ染色した。ペルオキシダーゼ標識二次抗体と共にインキュベートした後、ブロットをECL試薬で発色させ、LAS−3000イメージャー(富士フイルム)を使って可視化した。
【0247】
D.CDC分析
抗CLDN6抗体と共にインキュベートした標的細胞へのヒト補体の添加後に、非溶解細胞における細胞内ATPの含有量を測定することによって、補体依存性細胞傷害(CDC)を決定した。超高感度な分析方法として、ルシフェラーゼの生物発光反応をATPの測定に使用した。
【0248】
CLDN6で安定にトランスフェクトされたCHO−K1細胞(CHO−K1−CLDN6)を、0.05%トリプシン/EDTAで収穫し、X−Vivo15培地(ロンザ(Lonza),BE04−418Q)で2回洗浄し、X−Vivo15培地に1×10
7細胞/mlの濃度で懸濁した。250μlの細胞懸濁液を0.4cmエレクトロポレーションキュベットに移し、ルシフェラーゼをコードするインビトロ転写RNA(ルシフェラーゼIVT RNA)7μgと混合した。細胞を、Gene Pulser Xcell(バイオ・ラッド(Bio Rad))を使って、200Vおよび300μFでのエレクトロポレーションに付した。エレクトロポレーション後に、細胞を、10%(v/v)FCS、1%(v/v)ペニシリン/ストレプトマイシンおよび1.5mg/ml G418を含有する予温したGlutaMax−I入りD−MEM/F12(1:1)培地(インビトロジェン(Invitrogen),31331−093)2.4mlに懸濁した。1ウェルにつき50μlの細胞懸濁液を白色96ウェルPPプレートに播種し、37℃および7.5%CO
2でインキュベートした。エレクトロポレーションの24時間後に、60%RPMI(20mM HEPESを含有するもの)および40%ヒト血清(6人の健常ドナーから得られた血清プール)中のモノクローナルマウス抗CLDN6抗体50μlを、表示した濃度で細胞に加えた。全溶解対照にはPBS中の8%(v/v)Triton X−100を1ウェルにつき10μlずつ加え、一方、最大生細胞対照および実試料にはPBSを1ウェルにつき10μlずつ加えた。37℃および7.5%CO
2における80分のインキュベーション後に、1ウェルにつき50μlのルシフェリン混合物(ddH
2O中の3.84mg/ml D−ルシフェリン、0.64U/ml ATPaseおよび160mM HEPES)を加えた。プレートを暗所、室温で45分間インキュベートした。ルミノメーター(Infinite M200,TECAN)を使って生物発光を測定した。結果は積分されたデジタルの相対発光量(RLU)として与えられる。
【0249】
特異的溶解は次のように算定される:
【数1】
【0250】
E.ADCC分析
キメラ化モノクローナル抗CLDN6抗体を、内因性にCLDN6を発現するNEC8細胞およびCLDN6ノックダウンを有するNEC8細胞(NEC8 LVTS2 54)に対する抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)を誘導するその能力について、ルシフェラーゼに基づくアッセイ系で分析した。
【0251】
NEC8またはNEC8 LVTS2 54標的細胞を0.05%トリプシン/EDTAで収穫し、X−Vivo15培地で2回洗浄し、Gene Pulser Xcell(バイオ・ラッド(Bio Rad))を使って、2.5×10
6細胞に7μgのルシフェラーゼIVT RNAをエレクトロポレーションした(200V、400μF)。エレクトロポレーション後に、細胞を、2.4mlの、10%FCSを含有する予温したRPMIに懸濁した。1ウェルにつき50μlの細胞懸濁液(5×10
4細胞)を白色96ウェルPPプレートに播種し、37℃、5%CO
2で6時間インキュベートした。Ficoll(Ficoll−Paque(商標)Plus、GE Healthcare、17−1440−03)を使って、健常ドナーの血液から、ヒト末梢血単核球(PBMC)を濃縮した。5%熱不活化ヒト血清を補足したX−Vivo15(ロンザ(Lonza),BE04−418Q)にPBMCを懸濁し、37℃および5%CO
2でインキュベートした。2〜4時間のインキュベーション後に、上清にナチュラルキラー(NK)細胞が濃縮された。PBS中に表示の濃度で希釈した抗体25μlをNEC8細胞に加えた。濃縮されたNK細胞を20:1(エフェクター細胞対標的細胞)の比で加え、試料を37℃および5%CO
2で24時間インキュベートした。「CDC」で説明したようにルシフェラーゼを使って細胞内ATPの含有量を測定することにより、細胞の溶解を決定した。
【0252】
F.早期処置アッセイ
早期抗体処置のために、PBS200μl中のHEK293−CLDN6細胞(CLDN6を安定に発現するHEK293細胞)5×10
6個を、無胸腺ヌードFoxn1
nuマウスの側腹部に皮下接種した。HEK293モック細胞を陰性対照として使用した。各実験群は8匹の6〜8週齢雌マウスから成った。(それぞれHEK293−CLDN6細胞またはHEK293モック細胞が移植されたマウスの場合、食塩水対照群は、10匹のマウスからなった)。接種の3日後に、週に2回、静脈内注射と腹腔内注射を交互に行うことにより、200μgの精製マウスモノクローナル抗体muMAB 5F2D2、27Aおよび36Aを、46日間適用した。PBSで処置した実験群を陰性対照とした。腫瘍体積(TV=(長さ×幅
2)/2)を隔週ごとに監視した。TVはmm
3の単位で表され、経時的な腫瘍成長曲線の構築を可能にする。腫瘍が1500mm
3を上回る体積に到達したら、マウスを屠殺した。
【0253】
実施例2:本発明に従って得られた抗体のクローディンへの結合
ヒトCLDN6、3、4および9へのマウスモノクローナル抗体muMAB 5F2D2、27Aおよび36Aの結合を、対応するヒトクローディンを一過性に発現するHEK293T細胞を使って、フローサイトメトリによって分析した。非トランスフェクト(Q3集団)細胞とトランスフェクト(Q4集団)細胞とを識別するために、HEK293Tを蛍光マーカーで同時トランスフェクトした。使用した抗体濃度は、CLDN6への結合を飽和させる濃度(25μg/ml)であった。ヒトCLDN6、3、4および9の発現を、ヒトクローディン6(R&D Systems,MAB3656)、ヒトクローディン3(R&D Systems,MAB4620)およびヒトクローディン4(R&D Systems,MAB 4219)に対する市販のモノクローナル抗体で確認した。
【0254】
muMAB 5F2D2、27Aおよび36A抗体は、CLDN6を発現する細胞への強い結合を示すと同時に、CLDN3またはCLDN4を発現する細胞には結合しなかった;
図1参照。
【0255】
muMAB 5F2D2、27Aおよび36A抗体を、異なる濃度(0.01、0.1、1、10、100、1000、10000および25000ng/ml)で、ヒトCLDN6、CLDN3、CLDN4またはCLDN9を一過性に発現するHEK293T細胞と共にインキュベートした。結合をフローサイトメトリによって検出した:
図2、3および4参照。y軸は、抗体によって結合された細胞(Q2集団)のパーセンテージを表し、x軸は、使用した抗体の濃度を表す。
【0256】
muMAB 5F2D2は、ヒトCLDN6への強い結合と、ヒトCLDN9への弱い結合を示した。muMAB 27Aは、ヒトCLDN6への強い結合と、ヒトCLDN9への極めて弱い結合を示した。muMAB 36Aは、ヒトCLDN6への強い結合を示し、ヒトCLDN9への結合は事実上示さなかった。どの抗体もヒトCLDN3または4とは相互作用しなかった。
【0257】
相対的親和性を決定するために、HEK293細胞の表面上に安定に発現されるヒトCLDN6への抗CLDN6抗体の結合を、フローサイトメトリで分析した。飽和結合実験において、抗体の濃度をFACSシグナル(蛍光強度の中央値)に対してプロットした;
図5参照。EC50(平衡時に結合部位の半分に結合する抗体濃度)を非線形回帰によって算定した。結果は、抗体が特徴的な結合パターンを有することを示している。muMAB 5F2D2および27Aが低いEC50値(EC50 350〜450ng/ml)を示し、結合の飽和が低濃度で達成されたのに対し、muMAB 36Aは、最も高い濃度でさえ、結合の飽和を示さなかった。
【0258】
実施例3:本発明に従って得られる抗体のエフェクター機能
ルシフェラーゼ依存的アッセイを使って非溶解細胞内の内因性ATPを検出することにより、抗CLDN6抗体のCDC活性を分析した。この目的のために、ヒトCLDN6を安定に発現するCHO−K1細胞を、様々な濃度のmuMAB 5F2D2、27Aもしくは36Aまたは内部対照としての抗CLDN6(R&D Systems,MAB3656)で処理した。
【0259】
muMAB 5F2D2は用量依存的にCDC活性を示した;
図6参照。muMAB 27Aが用量依存的CDC活性を示したのに対し、muMAB 36AはインビトロでCDCを誘導することができなかった;
図7参照。
【0260】
内因性にCLDN6を発現するNEC8細胞およびNEC8 LVTS2 54(CLDN6ノックダウン)細胞に対する抗体依存性細胞性細胞傷害(ADCC)を誘導するキメラ抗CLDN6抗体chimAB 5F2D2の能力を決定した;
図8参照。キメラ抗CLDN6抗体chimAB 5F2D2および陽性対照ハーセプチンは、二人の異なるドナーのエフェクター細胞によるNEC8細胞に対するADCCを、用量依存的に誘導した。NEC8 LVTS2 54細胞(CLDN6ノックダウン)に対するADCCを誘導する効率は、chimAB 5F2D2では、NEC8親細胞と比較して著しく低下したことから、chimAB 5F2D2の標的特異性が証明された。
【0261】
実施例4:本発明に従って得られる抗体の治療効力
muMAB 5F2D2の治療効果を、安定にトランスフェクトされたHEK293−CLDN6異種移植片およびHEK293モック異種移植片を無胸腺ヌードFoxn1
nuマウスに移植する早期処置異種移植モデルにおいて調べた。
【0262】
muMAB 5F2D2は、ヒトCLDN6を安定に発現するHEK293細胞が移植されたマウスにおいて、特異的かつ強力な腫瘍成長阻害を示した;
図9参照。muMAB 5F2D2は、モック対照細胞が移植されたマウスにおける腫瘍成長に対して効果がなかった。別の食塩水対照マウス群には、ビヒクルとしてのPBSを、適用した抗体と等価な注射体積で与えた。
【0263】
加えて、クラスカル・ウォリス検定により、muMAB 5F2D2による処置後、28日目(およびそれ以降)は、腫瘍体積が有意に減少することが示された;
図10参照。さらに、モノクローナルマウス抗CLDN6抗体muMAB 5F2D2で処置されたマウスは、PBS対照群と比較して生存期間の延長を示した。対照群としてHEK293モック細胞が移植されたマウスでは、抗体依存的効果は観察されなかった;
図11参照。
【0264】
同様に、早期処置異種移植モデルにおけるmuMAB 27AおよびmuMAB 36Aの試験は、ヒトCLDN6を安定に発現するHEK293細胞が移植されたマウスにおける特異的かつ強力な腫瘍成長阻害を示した:
図12および13参照。さらに、muMAB 27Aおよび36Aは、移植マウスの生存期間を延長するのに有効であった;
図14参照。
【0265】
実施例5:胚細胞性腫瘍におけるがん標的としてのCLDN6
NEC8細胞におけるCLDN3、4、6および9発現を免疫ブロット分析によって調べた。精巣胚細胞性腫瘍細胞株NEC8は、CLDN6の発現だけを示し(A)、CLDN3、4または9の発現は、それぞれ示さなかった(B);
図15参照。使用した抗CLDN3、4および9抗体の特異性は、対応するヒトクローディンをコードする発現ベクターで一過性にトランスフェクトされたHEK293T細胞を使って、ウエスタンブロットによって調べた。
【0266】
NEC8細胞におけるCLDN6の表面発現をフローサイトメトリを使って分析した。市販の抗CLDN6抗体(R&D Systems,MAB3656)により、NEC8細胞上のCLDN6の発現が検出された;
図16参照。マウスIgG2b(Sigma,CRL M8894)をアイソタイプ対照として使用した。
【0267】
腫瘍細胞株NEC8が移植されたマウスを用いる早期処置異種移植モデルにおけるmuMAB 5F2D2の治療効果を調べた。食塩水対照群と比較して、muMAB 5F2D2は、ヒトCLDN6を内因性に発現するNEC8細胞が移植されたマウスにおける特異的かつ強力な腫瘍成長阻害を示した;
図17参照。クラスカル・ウォリス検定は、muMAB 5F2D2による処置後、21日目および42日目に、腫瘍体積が減少したことを示している;
図18参照。