特許第6263387号(P6263387)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6263387カーボンナノホーンを含む緻密質材料及びその利用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263387
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】カーボンナノホーンを含む緻密質材料及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/52 20060101AFI20180104BHJP
   C04B 35/117 20060101ALI20180104BHJP
   C01B 32/18 20170101ALI20180104BHJP
   H01B 5/00 20060101ALI20180104BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20180104BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20180104BHJP
【FI】
   C04B35/52
   C04B35/117
   C01B32/18
   H01B5/00 N
   B82Y30/00
   B82Y40/00
【請求項の数】15
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-539711(P2013-539711)
(86)(22)【出願日】2012年10月19日
(86)【国際出願番号】JP2012077152
(87)【国際公開番号】WO2013058382
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年10月15日
(31)【優先権主張番号】特願2011-229423(P2011-229423)
(32)【優先日】2011年10月19日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】510191780
【氏名又は名称】株式会社環境・エネルギーナノ技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五井野 正
(72)【発明者】
【氏名】北村 都築
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−255503(JP,A)
【文献】 特開2007−270263(JP,A)
【文献】 特開2003−117398(JP,A)
【文献】 特開2008−235708(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/040067(WO,A1)
【文献】 特開2005−097046(JP,A)
【文献】 特開2009−238981(JP,A)
【文献】 特開2005−298767(JP,A)
【文献】 特開2011−088796(JP,A)
【文献】 Eriko Ban et al.,Carbon nanhorn doping in MgB2 wire prepared by suspension spinning,Advances in Superconductivity,日本,2005年,Vol.17th, No.Pt.2,p.1249-1253
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
B82Y 30/00
B82Y 40/00
C01B 32/18
H01B 5/00
H05K 9/00
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノホーンを含む焼結体の製造方法であって、
流体中のアーク放電により製造されたカーボンナノホーンを含む予備成形体を、1000℃以上の温度に加熱し加圧して焼結する焼結工程、を備える、製造方法。
【請求項2】
前記焼結工程は、放電プラズマ焼結法によって実施する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記焼結工程は、20kN以上の荷重で加圧して実施する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記焼結体は、前記カーボンナノホーンを70質量%以上含む、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記焼結体は、密度が、1.0g/cm3以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記カーボンナノホーンは、細孔容積が0.8cm3/g以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記カーボンナノホーンは、Na、K、Mg、Ca、Fe、Si及びClからなる群から選択される1又は2以上の元素に関し、以下に示す含有量で含んでいる、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
Na:0.003%以上0.3%以下
K:0.001%以上0.1%以下
Mg:0.0005%以上0.05%以下
Ca:0.004%以上0.4%以下
Fe:0.006%以上0.6%以下
Si:0.002%以上0.2%以下
Cl:0.004%以上0.4%以下
【請求項8】
前記カーボンナノホーンは、長さが30nm以下のカーボンナノホーンを含む、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記カーボンナノホーンは、金属を担持した前記カーボンナノホーンを含む、請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記焼結体は、セラミックス材料を含む、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記焼結体は、前記カーボンナノホーンのみを含む、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記カーボンナノホーンと他の材料とを水性媒体中で混合し、乾燥して、前記成形材料を準備する、請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
カーボンナノホーンを含む焼結体であって、
カーボンナノホーンを90質量%以上含有する、焼結体。
【請求項14】
カーボンナノホーンを含む焼結体であって、
カーボンナノホーンを95質量%以上含有する、焼結体。
【請求項15】
カーボンナノホーンを含む焼結体であって、
カーボンナノホーンを99質量%以上含有する、焼結体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、カーボンナノホーンを含む緻密質材料及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、単層もしくは多層のカーボンナノチューブや、カーボンナノホーン、フラーレン、ナノカプセルといった、ナノメートルスケールの微細構造を有する炭素物質が注目されている。これらの炭素物質は、ナノ構造黒鉛(グラファイト)物質として、新しい電子材料や触媒、光材料等への応用が期待されているものである。特にカーボンナノホーンは、燃料電池の電極材料やガス吸蔵材への実用化に最も近い物質として注目されている。
【0003】
一方、こうしたカーボンナノ材料の用途開発には、粉体であるカーボンナノ材料を成形して形状付与したり、他材料の複合化したりするなどが必要である。カーボンナノ材料への形状付与には、成形性や結合性、複合化にあたっては、他材料との混合性、成形性及び強度等が、複合材料を得るための基本的な課題となる。
【0004】
カーボンナノ材料の成形や複合化には、既にある程度の検討が試みられている(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2003/099717号公報
【特許文献2】WO2005/028100号公報
【特許文献3】特開2007−320802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、カーボンナノ材料は、一般に、形状異方性があり、疎水性でしかも凝集しやすいという問題がある。一方で、結合性がないという問題がある。さらに、均一分散性や他材料との親和性の問題がある。したがって、カーボンナノ材料は、成形や複合化による用途開発が期待されているものの実用化に向けては大きな課題があった。
【0007】
また、一般に用途に応じて一定以上の緻密質であることが求められることもあるが、緻密質材料を得るには、前提としてカーボンナノ材料が均質に存在している混合状態の原料混合物が求められる。
【0008】
そこで、本明細書では、カーボンナノ材料を含む緻密質材料及びその利用を提供することを一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題に鑑みて、本発明者らが新たに得たカーボンナノホーンを複合化に用いたところ、良好な成形及び複合化のための特性を有していることを見出した。また、こうした特性に基づき、このカーボンナノホーンを用いて緻密質な材料を取得できることを見出した。本明細書によれば、これらの知見に基づき以下の手段が提供される。
【0010】
(1)カーボンナノホーンを含む緻密質材料であって、
カーボンナノホーンを含む、所定の三次元形状を有する緻密質材料。
(2)焼成体である、(1)の記載の緻密質材料。
(3)密度が、1.0g/cm3以上である、(1)又は(2)に記載の緻密質材料。
(4)前記カーボンナノホーンは、細孔容積が0.8cm3/g以上である、(1)〜(3)のいずれかに記載の緻密質材料。
(5)前記カーボンナノホーンは、Na、K、Mg、Ca、Fe、Si及びClからなる群から選択される1又は2以上の元素に関し、以下に示す含有量で含んでいる、(1)〜(4)のいずれかに記載の緻密質材料。
Na:0.003%以上0.3%以下
K:0.001%以上0.1%以下
Mg:0.0005%以上0.05%以下
Ca:0.004%以上0.4%以下
Fe:0.006%以上0.6%以下
Si:0.002%以上0.2%以下
Cl:0.004%以上0.4%以下
(6)前記カーボンナノホーンは、長さが30nm以下のカーボンナノホーンを主体とする、(1)〜(5)のいずれかに記載の緻密質材料。
(7)金属を担持した前記カーボンナノホーンを含む、(1)〜(6)のいずれかに記載の緻密質材料。
(8)さらに、セラミックス材料を含む、(1)〜(7)のいずれかに記載の緻密質材料。
(9)実質的にカーボンナノホーンのみを含む、(1)〜(7)のいずれかに記載の緻密質材料。
(10) (1)〜(9)のいずれかに記載の緻密質材料を含む、電磁波シールド材。
(11)カーボンナノホーンを含む緻密質材料の製造方法であって、
流体中のアーク放電により製造されたカーボンナノホーンを含む成形材料を準備し、
前記成形材料を、加圧下で加熱し成形し、(1)〜(9)のいずれかに記載の緻密質材料を製造する、製造方法。
(12)前記カーボンナノホーンと他の材料とを水性媒体中で混合し、乾燥して、前記成形材料を準備する、(11)に記載の製造方法。
(13) 前記成形材料を20kN以上で加圧し、1000℃以上で加熱する、(11)又は(12)に記載の製造方法。
る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の装置の一例の概要を模式的に示す図である。
図2】本発明における陰極の一例を示す図である。
図3】本発明の装置の第2実施例の概要を模式的に示す図である。
図4】本発明の装置の第3実施例の概要を模式的に示す図である。
図5】本発明の装置の第4実施例の概要を模式的に示す図である。
図6】実施例のカーボンナノホーンの粒度分布を示す対数グラフである。
図7】実施例のカーボンナノホーンのTEM明視野像を示す図である。
図8】実施例のカーボンナノホーンのTEM明視野像を示す図である。
図9】実施例のカーボンナノホーンのTEM明視野像を示す図である。
図10】実施例のカーボンナノホーンのTEM明視野像を示す図である。
図11】電磁波シールド特性の評価結果を示す図である。
図12】電磁波シールド特性の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書は、カーボンナノホーンを含む緻密質材料(以下、本緻密質材料という。)に関する。本明細書に開示される緻密質材料によれば、高い密度を備え、良好な形状維持性を備えているので、カーボンナノホーンの特性に応じた用途に適用出来る。本緻密質材料は、親水性で大きな細孔容積を備えるカーボンナノホーンを用いるため、取り扱い性に優れるとともに、カーボンナノホーン構造を利用した用途により性能を発揮できると考えられる。
【0013】
また、本明細書に開示されるカーボンナノ材料は、流体中でのアーク放電により合成されうる。こうした製造方法によれば、流体中でアーク放電を発生させ、このアーク放電発生領域に不活性気体を導入することによって、効率よく黒鉛から炭素蒸気を生成することができる。また、炭素蒸気から単層カーボンナノホーンを含むカーボンナノ材料を生成することができる。さらに、不活性気体の導入によってアーク放電発生領域の、例えば放電される電子量や、アーク放電による発熱領域、発熱温度や圧力といったエネルギープロファイルを制御することができるため、生成されるカーボンナノ材料が再び蒸発することを防ぐことができる。さらに、流体を撹拌することで、生成されるカーボンナノ材料をアーク放電発生領域から遠ざけ、カーボンナノ材料が再び蒸発することを防ぐだけでなく、カーボンナノ材料同士が凝集することを防ぐことができる。また、対向する陰極の電極断面積を黒鉛陽極の電極断面積よりも大きくすることによって、アーク放電発生領域のエネルギープロファイルを制御することができるため、効率的に大量のカーボンナノ材料を生成することができる。
【0014】
この方法は、種々のカーボンナノ材料を製造することができるだけでなく、単層カーボンナノ材料と多層カーボンナノ材料とを容易に分離することができる。また、アーク放電を停止することなく、生成されたカーボンナノ材料を回収することができる。これによって、連続的にカーボンナノ材料を製造および回収することができる。
【0015】
なお、本明細書において「カーボンナノ材料」とは、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンファイバー、カーボンコイル、フラーレン、ナノグラフェン、グラフェンナノリボン、ナノグラファイト、ナノダイアモンドを含む全てのカーボン材料を含む。また、単層であっても多層であってもよい。また、ここでいう「ナノ」とは、一般的にはナノメートルスケールのサイズをいうが、実際にはマイクロメートルスケールのサイズにまで膨らんだカーボン材料もカーボンナノ材料と呼ぶことができる。本明細書に開示されるカーボンナノ材料の製造方法および装置は、特に単層カーボンナノホーンの製造に好適である。
【0016】
本明細書において「%」は、特に断りのない限り質量%を意味している。
【0017】
本明細書において「放電」とは、電極間にかかる電位差によって電極間に存在するガスに絶縁破壊が生じ、電子が放出され電流が流れることである。このとき放出される電流を放電電流と呼ぶことができる。放電には、例えば、火花放電、コロナ放電、ガス分子が電離してイオン化が起こり、プラズマを生み出しその上を電流が走る現象である。そのため、プラズマアーク放電と呼ぶこともできる。この途中の空間ではガスが励起状態になり高温と閃光を伴う。アーク放電は、高電流の状態であれば常温でも発生することができるうえ、真空状態を必ずしも必要としないため、好適である。
【0018】
本明細書において「陽極」及び「陰極」とは、電気伝導性を有する可能性のある電極をいう。例えば、電極には金属、セラミックス、炭素を含む材料を用いることができる。また電極は、金属、セラミックス、炭素から選択された1種類もしくは複数の材料から形成されていてもよい。電極表面の一部分もしくは全部に添加物が散布されていてもよいし、塗布されていてもよいし、メッキまたはコートされていてもよい。こうした各種の電極材料は当業者であれば適宜従来技術を参照して取得することができる。好適には、アーク放電による陰極の消耗を防ぐため、電極のうち、少なくとも陰極は金属やセラミックス材料によって形成されることが好ましい。
【0019】
本明細書において「黒鉛」とは、炭素を含む材料をいう。本明細書では炭素を含む陽極を黒鉛陽極と呼ぶ。黒鉛陽極はアーク放電を発生させるための電極であると同時に、生成目的のカーボンナノ粒子の原料とすることができる。その場合には、消耗する黒鉛陽極を繰り返し交換できるように設計することが好ましい。また、陽極に黒鉛を用いない場合には、電極とは別に、カーボンナノ材料の原料としての黒鉛を準備する。電極に黒鉛を含まない場合には、電極の消耗を防ぐことができ、低コストでカーボンナノ材料を製造することができる。なお、黒鉛は、どのような形態であってもよく、板状等の適切な形状を適宜選択することができる。また、陽極に黒鉛陽極を用いるか、電極とは別の黒鉛を準備するかは、適宜装置の設計に応じて選択することができる。本実施形態では、陽極に黒鉛陽極を用いるものとして説明する。
【0020】
黒鉛は炭素単体でもよいが、添加物を含有もしくは内蔵されていてもよい。または、黒鉛表面の一部分もしくは全部に添加物が散布されていてもよいし、塗布されていてもよいし、メッキまたはコートされていてもよい。例えば、添加物として鉄やニッケルなどの金属を用いた場合、カーボンナノホーンに金属ナノ粒子を内包、すなわち、閉じた短い単層カーボンナノチューブが球状に凝集しているナノ粒子であるカーボンナノホーン粒子の中心付近に、金属ナノ粒子を入れることが可能である。また、Ptなどの金属をコーティンしてあってもよい。Ptは導電性や触媒活性に優れており、こうした陽極を用いることで貴金属が複合化されたカーボンナノ材料を得ることができる。こうした各種の炭素を含む材料は当業者であれば適宜従来技術を参照して取得することができる。
【0021】
本明細書において「水性媒体」とは、水を含む液性媒体であって、撹拌流動性を有する物質をいう。特に、アーク放電の発生温度以下で撹拌流動性のある水性液体であることが好ましい。例えば、水、又は水を含む混液、シリコーンオイル、油、水溶液、液体ヘリウム、液体窒素等を用いることもできる。その中でも水は安価で、かつ入手も容易であり、取り扱いも容易であるため好適である。さらに、水媒質は、アーク放電下では通常状態の水よりもクラスタ構造が小さくなり、酸化還元電位を高くすることができる。水媒質のクラスタ構造の縮小と酸化還元電位の上昇によって、カーボンナノ粒子の形成を促進することができる。
【0022】
本明細書において「不活性ガス」とは、化学反応性に乏しい気体をいう。例えば、不活性ガスは、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンからなる第18族元素(希ガス)や、ヒドラジン、窒素ガス、炭酸ガス、水素ガス、もしくはこれらの混合ガスを含んでいる。その中でも窒素ガスが安価で、かつ入手も容易であるため好適である。不活性ガスは、アーク放電発生領域に気体として導入することができれば、気体として貯蔵していてもよいし、液体から取得してもよいし、固体から取得してもよい。こうした各種の不活性物質は当業者であれば適宜従来技術を参照して取得することができる。
【0023】
以下、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら説明する。図1は、本緻密質材料の製造に好適なカーボンナノホーンの製造方法に好適な装置の一例を模式的に表す図である。図2は陰極に不活性気体を導入するための導入路を形成した一例を示す図である。以下、最初にカーボンナノホーンについて説明する。
【0024】
(カーボンナノホーン)
本明細書に開示されるカーボンナノホーン(以下、本カーボンナノホーンという。)は、円錐状の形態を有し、頂点部は炭素5員環を含み、他の筒部は炭素6員環を主体とする構造を取ることができる。本カーボンナノホーンは、良好な分散性等を有しており、本緻密質材料のカーボンナノホーンとして用いることができ、以下の特徴を有し、以下に説明する製造方法によって製造されうる。
【0025】
本カーボンナノホーンは、後述するように、緻密質成形体を取得することができるとともに、その緻密質成形体は、良好な電磁波シールド特性を発揮することができる。このため、本カーボンナノホーンは、電磁波シールド材のための有用な材料である。
【0026】
(親水性)
本カーボンナノホーンは、水性媒体中で合成されることから、理論的に明らかではないが、親水性を有している。すなわち、従来のカーボンナノホーンと比較して水に対する良好な分散性を有している。例えば、10質量%以上100質量%以下の濃度範囲で水及びメタノール若しくはエタノールにおいて均一分散状態を形成することができる。この分散状態を1時間から8時間程度は維持することができる。また、超音波15分処理すると、さらに長時間安定に分散状態を維持できることがわかっている。
【0027】
本カーボンナノホーンは、以下に説明する製造方法において泡状体として取得され得る。当該泡状体は、本カーボンナノホーンとガスと水性媒体とを含んでいる。ガスは、製造工程において用いられる不活性ガスが含まれていてもよいが、特に限定されない。また、水性媒体は、製造工程で用いられる水性媒体が含まれていてもよいが、特に限定されない。本泡状体は、本製造方法において、水性媒体上に集積される。こうした泡状体は、必要に応じて固液分離、乾燥が可能である。
【0028】
(細孔容積)
本カーボンナノホーンは、親水性を有し、細孔容積が0.8cm3/g以上であってもよい。細孔容積は、ガス吸着法をBJH法による細孔分布計算結果から求めることができる。ガスは、窒素ガスを用いることができる。より具体的には、定容法を用いて窒素による吸着脱離等温線を測定することによって求めることができる。好ましくは、細孔容積は、0.9以上であり、より好ましくは1.0以上である。上限は特に限定しないが、1.2以下程度とすることができる。細孔容積の大きさは、カーボンナノホーンが高密度に凝集又は集積されたことを意味している。細孔容積は、吸着能力、触媒能力、内包能力等に関連し、細孔容積の大きさは、こうした能力の大きさを意味している。
【0029】
(金属元素等の含有量)
本カーボンナノホーンは、Na、K、Mg、Ca、Fe、Si及びClからなる群から選択される1又は2以上の元素に関し、以下に示す含有量で含んでいることが好ましい。
Na:0.003%以上0.3%以下
K:0.001%以上0.1%以下
Mg:0.0005%以上0.05%以下
Ca:0.004%以上0.4%以下
Fe:0.006%以上0.6%以下
Si:0.002%以上0.2%以下
Cl:0.004%以上0.4%以下
【0030】
こうした組成のカーボンナノホーンによれば、カーボンナノホーンの特性を発揮しやすいと考えられる。上記各元素についてのより好ましい濃度範囲は以下に示すとおりである。
Na:0.015%以上0.12%以下
K:0.005%以上0.04%以下
Mg:0.0025%以上0.02%以下
Ca:0.02%以上0.16%以下
Fe:0.03%以上0.24%以下
Si:0.01%以上0.08%以下
Cl:0.02%以上0.16%以下
【0031】
さらに、好ましい濃度範囲は以下の通りである。
Na:0.015%以上0.06%以下
K:0.005%以上0.02%以下
Mg:0.0025%以上0.01%以下
Ca:0.02%以上0.08%以下
Fe:0.03%以上0.12%以下
Si:0.01%以上0.04%以下
Cl:0.02%以上0.08%以下
【0032】
なお、Na及びKは、原子吸光法で測定することが好ましく、Mg、Ca、Fe及びSiは、ICP発光分光分析法により測定することが好ましく、Clは、燃焼吸収−IC法により測定することが好ましい。
【0033】
(大きさ及び形状)
本カーボンナノホーンは、その平均長さが30nm以下であってもよい。本カーボンナノホーンの透過電子顕微鏡像によれば、これらは、平均長さが30nm以下である。本カーボンナノホーンは、一定範囲の径を有する凝集体を形成している。凝集形状は、従来のダリア状ではない。一次粒子としてのカーボンナノホーンが不規則に凝集して平均凝集径25nm以上70nm以下の二次粒子を形成している。好ましくは、40nm以上60nm以下である。
【0034】
(ラマンスペクトル)
本カーボンナノホーンは、そのラマンスペクトルにおいて、グラファイト由来のGバンドを確認することができる。
【0035】
(示差熱分析)
本カーボンナノホーンは、示差熱分析において、燃焼ピーク(発熱ピーク)を有することができる。燃焼ピークは1つであってもよいが、2以上であってもよい。一つの燃焼ピークはその温度が430℃以上530℃以下であってもよい。また、他の一つの燃焼ピークはその温度470℃以上740℃以下であってもよい。
【0036】
さらに、本カーボンナノホーンは、以下の特性が認められる。
【0037】
本カーボンナノホーンは、理論的に必ずしも明らかではないが、水性媒体中においてその場形成した不活性ガスキャビティでアーク放電の発生を経て炭素材料から得られるため、従来のカーボンナノチューブやカーボンナノホーンなどに代表されるカーボンナノ材料と共通する性質のほか異なる特性を有している。
【0038】
本カーボンナノホーンは、従来の導電性材料としてのカーボンナノチューブの導電性を低下させる性質がある。すなわち、従来のカーボンナノチューブよりも導電性が低い傾向がある。例えば、カーボンナノチューブのバッキーペーパーに対して本カーボンナノホーンを浸潤させたとき、カーボンナノチューブのみからなるバッキーペーパーよりも、そのシート抵抗(Ω/sq)及び表面抵抗(Ωcm)を増大させる。また、その導電性(S/cm)を低下させる。カーボンナノチューブに本カーボンナノホーンを混合してバッキーぺーパーを作製すると、カーボンナノチューブのみからなるバッキーペーパーと比べて、本カーボンナノホーン浸潤バッキーペーパーと同様の傾向が得られる。したがって、本カーボンナノホーンは、導電性の調節材料に用いることができる。
【0039】
また、本カーボンナノホーンは、例えば、カーボンナノチューブ層に浸潤することで、カーボンナノチューブ層の形態保持性、機械的強度を向上させる特性を有している。すなわち、補強材料、特にカーボンナノチューブに対する補強材料として有用である。
【0040】
さらに、本カーボンナノホーンは、摩擦材料として有用である。本カーボンナノホーンは、通常グラファイトやカーボンナノチューブは、潤滑材料として用いられている。これに対して、本カーボンナノホーンは、固体表面の摩擦係数を増大させる特性を有している。
【0041】
本カーボンナノホーンは、さらに以下の特徴を有していてもよい。例えば、各種酸化剤を用いて酸化による開孔処理がさらになされていてもよい。また、酸化に加えて、各種の有機官能基などが付与されていてもよい。
【0042】
本カーボンナノホーンを含むカーボンナノ材料は、そのカーボンナノホーンに由来して、種々の用途に利用できる。例えば、燃料電池の電極(負極など)材料、Liイオン電池の材料、二次電池の電極(負極など)材料、吸着材、DDSのための担体、触媒又はその担体として有用である。さらに、本カーボンナノホーンは、ナノコンポジット、デンドリマー、ナノワイヤー、ナノポア薄膜(多孔質薄膜)、ナノカンチレバー、ナノガラス、酸化物ナノシート、LB膜材料、ナノハイブリッド、導電性インク、導電性フィルム、電磁波吸収体、電気二重層キャパシタ、水素貯蔵材料、電波吸収体、電極材、センター等に利用可能である。さらにまた、本カーボンナノホーンは、植物(切り花を含む)に供給する水に添加することで植物の鮮度保持や開花状態を延長させることができ、植物の鮮度保持剤や開花延長剤に用いることができる。水に対する添加量は、植物の種類、時期、状態等を考慮して適宜設定することができる。
【0043】
さらに、本明細書に開示されるカーボンナノ材料は、導電性ポリマー材料、ナノカーボン塗料材料、電子放出材料、電界放出平面デイスプレー材料、導電性ゴム、導電性ペースト、メタン貯蔵材料、フッソガス貯蔵材料、高透過性シールド、磁性ナノ粒子、生体材料、生体診断材料、抗菌材料、微生物殺滅材料、菌糸体生育材料、抗酸化物質材料、植物活性材料、バイオセンサー材料、有機半導体材料、導電性複合体、放射性希ガス貯蔵、人工筋肉材料、人工関節材料、固定軸受け材料、摩擦調整材料、ナノ用具、超コンデンサ、磁気ナノ材料、バッテリ、ナノバランス、ナノピンセット、データストレージ、分子量子細線、破棄リサイクル、ドーピング、太陽貯蔵、電磁気シールド、透析フィルター、防熱、ナノ強化複合体、ナノ作動装置、FETと単一電子トランジスタ、ナノリソグラフィ、ナノエレクトロニクス、防護服やその他の材料の強化材、ポリマーの強化材、航空電子部品、衝突保護材料、溶接電極材料、フライホイールに用いることができる。また、本カーボンナノ材料は、エッチング装置、スパッタリング装置、CVD装置等の構成材料並びにこれらの真空プロセス装置の構成部材料に用いることも可能である。
【0044】
(カーボンナノ材料の製造方法)
本カーボンナノホーンを含むカーボンナノ材料の製造方法は、アーク放電を発生させる工程と、不活性気体をアーク放電の発生領域に導入する工程と、を含んでいる。より詳細には、水中アーク放電によって黒鉛陽極から炭素蒸気を生成し、炭素蒸気からカーボンナノホーンを含むカーボンナノ材料を製造する。それぞれの工程を以下に詳述する。
【0045】
(アーク放電を発生させる工程)
本明細書に開示されるアーク放電発生領域を形成する工程は、陰極と陽極との間に電圧を印加してこれら電極間に存在する流体にアーク放電発生領域を形成する工程とすることができる。この工程によれば、アーク放電発生領域に準備された炭素をアーク放電によって蒸発させることによって、カーボンナノ材料の素となる炭素蒸気を生成させることができる。
【0046】
本工程では、陰極と陽極との間に電圧を印加すると、電極間に放電電流を流してアーク放電を生じさせることができる。アーク放電の発生のための電圧の印加時間は特に限定されないが、短時間であれば、生成されるカーボンナノ材料が再び蒸発することを防ぐことができるため好ましい。短時間のアーク放電を繰り返し実行することで、大量のカーボンナノ材料を製造することができる。また、印加する電圧は、直流電圧であっても交流電圧であってもよいが、直流電圧または直流パルス電圧を印加してアーク放電を発生させることが好ましい。印加する電圧は、電圧20Vで電流100A以上であることが好ましい。100A未満ではカーボンナノ材料の生成量が低下するためである。より好ましくは140A以上の直流電圧が好適である。
【0047】
さらに、陽極に黒鉛を含む黒鉛陽極を用いることで、電極と炭素材料を一体化することができるため、装置構成を簡易に設計することができる。またこの場合、アーク放電は、陰極の電極断面積が黒鉛陽極の断面積より大きい状態で電圧を印加することにより発生させることが好ましい。これにより、アーク放電発生領域のエネルギープロファイルを制御し、生成されるカーボンナノ材料が再び蒸発することを防ぐことができる。陰極の電極断面積が黒鉛陽極の電極断面積の1.5倍以上であるとより好適である。また、黒鉛陽極と陰極の隙間は、1mm以上2mm以下であることが好ましい。隙間がこの範囲であることによって、効率的にアーク放電を発生させることができる。隙間が1mm未満もしくは2mmを超えるとアーク放電が不安定となるためである。黒鉛陽極と陰極の隙間が1mm以上2mm以下を維持するために、陰極を支持する支持部もしくは黒鉛陽極を支持する支持部が駆動可能に設置されていることが好ましい。さらに好適には、自動制御によって黒鉛陽極と陰極の隙間が調整可能であると好ましい。これは、時間とともにアーク放電によって黒鉛陽極が消耗して陰極との隙間が開き、アーク放電が不安定になるためである。
【0048】
アーク放電は流体中に発生させることが好ましい。あるいは、流体の近傍でアーク放電を発生させることが好ましい。こうすることでアーク放電によって発生する炭素蒸気を速やかに流体で冷却してカーボンナノ材料を生成させることができる。このためには、対向する電極間の空間が流体内にあるように電極が配置されるほか、こうした空間からアーク放電中に流体あるいはその気化体が完全には排除されないように不活性ガスの導入経路等を構成することが好ましい。また、流体は、生成させたカーボンナノ材料を搬送することもできる。本明細書において「流体」とは、撹拌流動性を有する物質をいう。特に、アーク放電の発生温度以下で撹拌流動性のある媒質液体であることが好ましい。例えば、アーク放電の発生温度以下で撹拌流動性のある媒質液体であれば、水、又は水を含む混液、シリコーンオイル、油、水溶液、液体ヘリウム、液体窒素等を用いることもできる。その中でも水は安価で、かつ入手も容易であり、取り扱いも容易であるため好適である。さらに、水媒質は、アーク放電下では通常状態の水よりもクラスタ構造が小さくなり、酸化還元電位を高くすることができる。水媒質のクラスタ構造の縮小と酸化還元電位の上昇によって、カーボンナノ材料の形成を促進することができる。
【0049】
図1は、本発明の一実施形態であるカーボンナノ材料の製造装置、特にカーボンナノホーンの製造に適した製造装置を示す。図1(a)に示すように、流体槽10は、黒鉛陽極12と陰極14とが隙間34を隔てて対向するように備えている。なお、陰極14と黒鉛陽極12の形状と配置は限定しないが、重力に対して垂直に対向して配置されていれば、後述する陰極14の回動による流体の撹拌が容易であるだけでなく、アーク放電が安定するため好適である。また、流体槽10は流体20を保持可能に形成されており、ガラス、セラミックス、金属、樹脂などからなる容器を用いることができる。流体槽10は、断熱構造を有する容器であってもよい。また、流体槽10は、密閉可能であることが好ましい。流体槽を密閉するために、例えば蓋11を備えていてもよい。流体槽が密閉可能であることによって、不活性気体が導入されると流体槽内の圧力が増大し、高圧条件下によってカーボンナノ材料の生成が促進されるためである。すなわち、流体槽が密閉容器であることによってアーク放電発生領域のエネルギープロファイルを制御することができる。流体槽が密閉可能である場合には、流体槽内の圧力を調節する機構をさらに備えていてもよい。例えば、流体槽内の圧力を調節するための圧力調整弁や圧力調整装置を備えていることが好ましい。これにより、流体槽内の圧力を制御することが可能になり、アーク放電発生領域のエネルギープロファイルを制御することができる。また、黒鉛陽極12を電源22の+極26に接続し、陰極14を電源22の−極24に接続することによって、黒鉛陽極12と陰極14との間に電圧を印加することができる。このときの電極間にかかる電位差によって隙間34に存在する気体もしくは液体に絶縁破壊が生じ、隙間34に電子を流す(放電)ことができる。
【0050】
陰極14と黒鉛陽極12とは、対向する端部がいずれも流体20中に露出されていることが好ましい。この端部間に形成される隙間34がアーク放電発生領域となるが、両端部が流体20に露出されている結果、アーク放電発生領域は流体20中に形成されることになる。
【0051】
また、図1(b)に示すように、アーク放電発生領域である隙間34を取り囲むように区画を形成する外壁42を設けてもよい。外壁42は、本実施形態では陰極14の外周を包囲する略円筒状となっている。これによって、黒鉛陽極12近傍への放電の指向性を高め、より効果的にアーク放電を発生することができる。また、外壁42は、外壁42の位置を調整可能にするための駆動手段に連結されていてもよい。外壁42の位置が調整可能であることによってアーク放電発生領域である隙間34のエネルギープロファイルを制御することができる。すなわち、カーボンナノ材料の生成量を制御することができる。なお、外壁42は、例えば金属、セラミック、タングステン、黒鉛等の公知の材料を用いることができるが、好適には導電性を有する黒鉛や鉄、アルミを用いることが好ましい。特に外壁42には電気陰性度の高い黒鉛が最良である。外壁42に、黒鉛を用いることで、電極間に電圧を印加したときに区画内部への電子の放出量が増大し、隙間34の温度が効率的に上昇するためである。また、外壁42の内面に凹凸が施されていると、表面積が増大することによって区画内に放出される電子量が増大し、アーク放電が安定して発生するため好ましい。
【0052】
(不活性気体を導入する工程)
本実施形態における不活性気体を導入する工程は、流体中のアーク放電発生領域に不活性気体を導入する工程とすることができる。この工程によれば、陰極からの電子の放出を促進するとともに、アーク放電発生領域で一時的に発生するカーボンナノ材料の中間体の発生を促進することができる。不活性気体をアーク放電発生領域に導入することによって、不活性気体の一部が解離し、荷電粒子が発生する。この荷電粒子がアーク放電発生領域の導電率を高め、放電を生じやすくすることができる。さらに不活性気体はアーク放電により加熱され、分子振動励起や、解離、電離が進行しプラズマ状態が形成する。こうした活性状態のエネルギープロファイル下で高エンタルピーとなった不活性気体は膨張し、ジュール加熱により推進エネルギーが得られ、陰極からの電子放出が加速することによって、多くの黒鉛蒸気を発生することができる。
【0053】
また、流体中の不活性気体をアーク放電発生領域に導入することで、アーク放電によって発生した炭素蒸気を不活性気体に取り込み、アーク放電発生領域外の流体中に拡散することができる。不活性気体がバブル状に水中を拡散すると同時に、不活性気体に含まれた炭素蒸気を流体で急冷して、カーボンナノ材料を生成させることができる。このとき生成したカーボンナノ材料は、流体表面付近に浮遊する。アーク放電発生領域に復帰することがないため、再度の炭素蒸気化は免れる。また、アーク放電発生領域で生成したカーボンナノ材料やその中間体も不活性気体に取り込まれてアーク放電発生領域外の流体へと拡散されてカーボンナノ材料として流体表面に浮遊されるため、再度の炭素蒸気化が免れている。これらの結果により炭素蒸気から一旦生成したカーボンナノ材料が再び蒸発して炭素蒸気となることを抑制して、カーボンナノ材料の収量を高めることができる。
【0054】
さらに、本明細書の開示によれば、流体の加圧下に前記アーク放電発生領域に準備された炭素材料から炭素蒸気を発生させることが好ましい。流体を加圧するには、例えば、流体槽を密閉状態とするなど、流体が加圧可能な状態と密閉されていれば、流体槽内への不活性気体の導入によって流体槽内の圧力が増大し、高圧条件下とすることができる。こうした流体加圧下においては、炭素蒸気の速やかな冷却と自己組織化の促進により、カーボンナノ材料を効率的に生成することができる。また、流体の加圧下でのアーク放電によれば、アーク放電発生領域にあるいはその近傍に流体を積極的に存在あるいは近接させることができる。このため、アーク放電発生領域、流体が実質的に存在しえない場合であっても、流体が加圧されていれば、炭素蒸気が速やかに流体に接触して冷却されることになる。
【0055】
黒鉛陽極には、炭素蒸気が冷却されることによって生成したカーボンナノ材料が付着堆積する。一部の付着堆積物は、アーク放電から受ける圧力や送り込まれる不活性気体の流圧によって隔壁から剥離され、流体に沈殿堆積され、結果として流体表面に浮遊するカーボンナノ材料とは分離される。
【0056】
また、アーク放電発生領域に導入する不活性気体の流量や流路を制御することによって、アーク放電発生領域の規模や、アーク放電発生領域のエネルギープロファイル、例えば放電される電子量や圧力を制御することができる。従って、黒鉛陽極近傍に所定流量の不活性気体を導入することによって、アーク放電による発熱領域及び発熱温度を制御することができる。このため、効果的に炭素蒸気を発生させることができる。上記の不活性気体の所定流量は、1分あたり15リットル以上であれば、効率的にカーボンナノ材料が生成されるため好ましい。さらに、不活性気体の流量は1分あたり20リットル以上25リットル以下であれば、より好適である。20リットル未満であると電極間反応のみでカーボンナノ材料の収率が低下し、25リットルを超えると窒素ガスが過多となり、気泡にカーボンナノ材料が混入したまま水面上に浮遊し、大気中に放出されやすくなるためである。
【0057】
図1(a)に示すように、例えばアーク放電発生領域である隙間34に不活性気体を導入する方法としては、不活性気体をボンベ28から、供給路16を経て隙間34に送り込ませる方法を採ることができる。生成した炭素蒸気等を確実にアーク放電発生領域外の流体中に拡散させる、電極への付着物を抑制するには、アーク放電を発生させるのに先立って予め不活性な気体を送り込ませることが好ましい。
【0058】
なお、本明細書において「不活性気体」とは、化学反応性に乏しい気体をいう。例えば、不活性気体は、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンからなる第18族元素(希ガス)や、ヒドラジン、窒素ガス、炭酸ガス、水素ガス、もしくはこれらの混合ガスを含んでいる。その中でも窒素ガスが安価で、かつ入手も容易であるため好適である。不活性気体は、アーク放電発生領域に気体として導入することができれば、気体として貯蔵していてもよいし、液体から取得してもよいし、固体から取得してもよい。こうした各種の不活性物質は当業者であれば適宜従来技術を参照して取得することができる。
【0059】
アーク放電によって各電極に付着した不純物を除くために、例えば、陰極の電極断面積が黒鉛陽極の断面積より大きい状態でアーク放電を発生することによって、アーク放電発生領域にローレンツ力としての推進力が得られ、電極の放電発生領域近傍に固着する不純物を噴射によって剥離することができる。さらに、電極に付着した不純物や生成したカーボンナノ材料を取り除くために、アーク放電発生領域へ導入する不活性気体の流圧を用いてもよいし、黒鉛陽極と陰極のいずれかもしくは両方が回転振動することによって流体を撹拌してもよい。
【0060】
例えば、図1(a)に示すように、陰極14と黒鉛陽極12とがそれぞれ回動可能になるように、それぞれに回転装置36と回転装置38が設置されていてもよい。回転装置36は陰極14を、回転装置38は黒鉛陽極12を連続もしくは周期的に回転することができる。さらに、陰極14及び黒鉛陽極12の角度を調整した状態で回動することもできる。例えば、電極の角度を0.5度あるいは1度傾斜した状態で回転することができるように設置されていてもよい。これにより、電極に振動を伴う回転を与えることができ、効果的にカーボンナノ材料の堆積防止もしくは堆積したカーボンナノ材料の除去を行うことができる。なお、電極を傾斜して回転する場合は、アーク放電中よりも、アーク放電後の堆積物除去のために回転運動を実行させるほうが、アーク放電の安定性を阻害しないため好ましい。
【0061】
また、黒鉛陽極や陰極に限らず、撹拌子を用いて流体を撹拌してもよい。好適には、陰極の電極断面積が黒鉛陽極の断面積より大きい状態で、黒鉛陽極と陰極が回転振動するとともに、不活性気体の流圧によって炭素蒸気を流体中に送り出すことが好ましい。さらに、アーク放電を発生させる前から不活性な気体を送り込ませることが好ましい。
【0062】
なお、生成されるカーボンナノ材料が再び蒸発することを防ぐために、炭素蒸気を不活性気体と共に流体中に送り出す間はアーク放電を停止してもよい。また、アーク放電を停止した場合でも、電極に付着したカーボンナノ材料を剥離するために、継続して不活性気体を送り出してもよい。同様に、継続して陰極が回転振動してもよい。これによって、流体中に送り出されるカーボンナノ材料を分散することができるだけでなく、カーボンナノ材料同士の凝集や流体槽や電極へのカーボンナノ材料の付着を防ぐことができ、従って大量のカーボンナノ材料を得ることができる。
【0063】
図1(a)に示すように、炭素蒸気を不活性気体と共にアーク放電発生領域以外の流体中に送り出す方法としては、陰極14の電極断面積が黒鉛陽極12の断面積より大きくなるように設計する方法を採ることができる。また、不活性気体をボンベ28から供給路16を経て、アーク放電発生領域である隙間34に送り込ませる方法を採ることができる。陰極14を支持する支持部18は水平方向に回動することができるように設計してもよい。さらに支持部18は、ボンベ28から送り出される不活性気体をアーク放電発生領域である隙間34に供給するための供給路16を支持することができる。すなわち、不活性気体をアーク放電発生領域に供給しながら、不活性気体をアーク放電発生領域外の流体中に拡散することができる。
【0064】
図2の(a)に示すように、陰極14の近傍に効率的に不活性気体を導入するために、陰極14の内部を貫通する1又は2以上の導入路40を形成してもよい。図2の(b)に示すように、例えば導入路40の形状は、陰極14の外周側に形成された1又は2以上の通気溝であってもよい。また、それぞれの導入路は図示するように垂直でなくてもよい。例えば、導入路は陰極14の外周に沿うあるいは内部を貫通するらせん状に形成されていてもよい。陰極14が重力に対して垂直で、かつ導入路40がらせん状に形成されていることによって、安定的に不活性気体を渦流としてアーク放電発生領域に導入することができ、アーク放電によるピンチ効果によって、プラズマを渦中心に集約することができるため好ましい。さらに、アーク放電発生領域である隙間34や陰極14、黒鉛陽極12の周囲に壁(反応壁)を設けることは、高温の炭素蒸気による電極の変形を弱めることができるため好ましい。なお、図には陰極14にそれぞれ導入路40として3箇所の溝もしくは孔を図示しているが、導入路40は1個であってもよく、2個又は3個以上であってもよい。なお、導入路40を形成する場合において、陰極14の形状、および、導入路40の形状や数は限定しない。設計事項の範囲で適宜変更することができる。
【0065】
アーク放電の発生を繰り返すことによって高温の炭素蒸気が連続的に発生するため、流体が少ない場合には、流体温度が上昇してしまう可能性がある。流体温度の上昇によって、炭素蒸気を急冷できなくなり、カーボンナノ材料の生成量が低下、もしくはカーボンナノ材料の構造に欠陥が生じる可能性がある。そのため、流体温度を調節する工程を備えることが好ましい。例えば、流体の温度を一定温度に維持するために、冷却機構を備えてもよいし、放冷時間を設けてもよいし、流体の補充や入れ替えを行ってもよいし、液体窒素を含む低温の流体を用いてもよい。また、炭素蒸気を送り出す部位の局部的な流体温度の上昇を防ぐために、流体槽中の流体を撹拌する工程を備えてもよい。流体槽中の流体を撹拌する場合には、電極によって撹拌することができるように黒鉛陽極及び陰極を回動可能に設計してもよいし、不活性気体の流圧を用いて撹拌してもよいし、撹拌子を用いてもよい。こうした流体の温度制御方法は当業者であれば適宜従来技術を参照して取得することができる。
【0066】
アーク放電を発生させる工程と、不活性気体をアーク放電の発生領域に導入する工程とによって生成したカーボンナノ材料を回収する工程を以下に詳述する。
【0067】
(カーボンナノ材料を回収する工程)
本実施形態におけるカーボンナノ材料を回収する工程は、炭素蒸気が急冷されることによって生成したカーボンナノ材料を回収するための工程である。本工程では、カーボンナノ材料の生成後に、全ての流体からカーボンナノ材料を回収してもよいが、前記流体中のカーボンナノ材料を含む流体画分を吸引し、固液分離手段によりカーボンナノ材料と流体とを分離してもよい。ここで流体画分とは、流体の一部分を示す。例えば流体の一部分を吸引してカーボンナノ材料を回収し、残った流体を再び流体槽に戻すことを繰り返してもよい。上記の方法によれば、流体中のカーボンナノ材料を含む画分を選択的に吸引するものであるため、流体槽中の全ての流体を取り出す必要がない。すなわち、アーク放電の発生からカーボンナノ材料の回収までを、連続的に実行することができる。これによって、煩雑な操作を必要とせずにカーボンナノ材料を大量生産することができる。
【0068】
また、カーボンナノ材料を含有する流体画分としては、流体表面付近の流体が挙げられる。この流体画分には、浮遊するカーボンナノ材料を含有し、これらの画分から単層カーボンナノ材料を得ることができる。また、流体表面と底部の中間の流体画分が挙げられる。この流体画分も浮遊するカーボンナノ材料を含有しており、単層ナノカーボン粒子を得ることができる。また、流体槽の底部近傍の流体画分も挙げられる。この流体画分には、沈殿堆積したカーボンナノ材料を含有しており、当該画分から、多層カーボンナノ材料を得ることができる。すなわち、吸引する流体画分の選択により、換言すれば、流体槽中の吸引する箇所を選択することによって、効率的に単層カーボンナノ材料と多層カーボンナノ材料を分離して得ることができる。特に、浮遊するカーボンナノ材料から単層カーボンナノホーンを得ることができ、沈殿堆積するカーボンナノ材料から多層カーボンナノホーンを得ることができる。
【0069】
固液分離手段は、特に限定しないで、ろ過、遠心分離等、公知の手段を用いることができる。本方法では、カーボンナノ材料は、浮遊したり沈降したりしているため、ろ過により固液分離することが好ましい。ろ過の方法としては、ろ過膜を用いる方法であってもよいし、吸着を利用した方法であってもよい。また、流体を蒸発させることによってカーボンナノ材料を取り出す、熱時ろ過であってもよい。ろ過膜を用いたろ過としては、重力による自然ろ過の他に、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過を用いることができる。また、ろ過膜としては、ろ紙、セルロース、ガラス繊維フィルター、メンブランフィルター、ろ過板、綿栓、砂などを用いることができる。特に、微粒子や不純物で濃縮された流体を連続的に排出することが可能な、限外ろ過膜法(UF法)を用いることが好ましい。さらに、UF法によってカーボンナノ材料を精製する場合に、粒径に応じた複数のろ過膜(例えば中空糸膜)を用いてもよい。粒径に応じた複数のろ過膜を用いることによって、容易にカーボンナノ材料を粒径に応じて分画分離し、精製することができる。
【0070】
さらに、分離されたカーボンナノ材料を乾燥することによって、カーボンナノ材料を得ることができる。流体中のカーボンナノ材料は、固液分離の一工程として乾燥されてもよいし、固液分離後に別に乾燥されてもよい。乾燥方法は特に問わないで、公知の各種方法を採用できる。例えば、高温条件下にて流体を蒸発する方法でもよいし、真空を利用してもよいし、飽和水蒸気量以下の水分を含有する気体中に置いて除水する方法でもよい。また、化学反応によって脱水してもよい。本実施形態では、カーボンナノ材料を乾燥によって精製するために、熱変性や化学変性を考慮し、スプレードライを用いることが好ましい。
【0071】
図1(a)に示すように、例えば、フィルター30に接続される吸引管32の先端が、流体20に浸るように構成してもよい。吸引管32の先端は流体20の流体中、又は流体面近傍に配することによって、浮遊するカーボンナノ材料をフィルター30に吸引することができる。また、吸引管32を垂直方向に伸縮可能に設計して、吸引管32の先端を流体槽10の底面近傍に配する事によって、沈殿体積するカーボンナノ材料を吸引することができるようにしてもよい。吸引されたカーボンナノ材料は、フィルター30によって流体と分離することができる。次いで、流体から分離したカーボンナノ材料をスプレードライによって乾燥することによって、精製されたカーボンナノ材料を得ることができる。
【0072】
カーボンナノ材料の製造装置は、図1に示す実施形態に限定されるものでなく、種々の実施形態を採ることができる。図3には、別の実施形態のカーボンナノ材料の製造装置を示す。この実施形態では、図1における陰極14の周辺に、外壁42aを形成したものであり、図1で示されるのと同一部材については説明を省略する。図3に示す装置は、陰極14を支持する支持部18の外側に間隔を隔てて外壁42aを有しており、支持部18と外壁42aの間には不活性気体を導入するための供給路16bが形成されている。外壁42aは、本実施形態では、陰極14の外周を包囲する略円筒状となっており、外壁42aの内側の供給路16bを外壁42aの外部と遮断して、供給路16bにのみ不活性気体を流通させるようになっている。供給路16bには、不活性気体が導入されるようになっている。外壁42aを備えて不活性気体の流通を流体内において規制することで、アーク放電の発生中に供給路16bに導入された不活性気体の黒鉛陽極12近傍への指向性を高め、より効果的に不活性気体を黒鉛陽極12近傍へ到達させることができるようになる。この結果、気泡の意図しないあるいはランダムな分散や拡散を抑えることができ、液面への気泡の上昇によるカーボンナノ材料の拡散を回避して、カーボンナノ材料の回収を容易化又は回収率を向上させることができる。また、外壁42aの下部、すなわち、不活性気体の出口近傍の形状を電極等の形状や配置に応じて適宜変更することで、不活性気体の電極近傍への指向性や到達状態を調節することもできる。例えば、出口近傍部分を出口側に広がるように形成することもできるし、鉛直下方を指向するように形成することもできる。出口近傍部分の形状を必要に応じて適宜変更可能に形成することもできる。このように、外壁42aを備えることで、不活性気体の流通状態を調節して、黒鉛陽極12等に対する指向性、到達状態、ひいてはカーボンナノ材料の生成量や収率を最適化できるようになる。
【0073】
図4には、さらに他の実施形態のカーボンナノ材料の製造装置を示す。本実施形態では、図1における陰極14から黒鉛陽極12の先端部までを取り囲むように、外壁42bを形成したものである。図1において示されるのと同一部材については説明を省略する。図4に示す装置は、陰極14を支持する支持部18の外側に間隔を隔てて外壁42bを有しており、支持部18と外壁42bの間には不活性気体を導入するための供給路16cが形成されている。供給路16cには、不活性気体が導入されるようになっている。また、外壁42bの不活性気体の出口側は任意の高さに設置することができるが、その下部(出口側端縁)が黒鉛陽極12の先端を取り囲むように延びていてもよい。例えば、図4に示す実施形態では、外壁42bはアーク放電発生領域たる隙間34を取り囲むように配されている。さらに、外壁42bの形状は下部に向かうほど包囲される内部形状が小さくなるように、中空の切頭円錐形状を有している。また、外壁42bの少なくとも内部がらせん状に溝加工されていてもよい。したがって、例えば、外壁42b自体をジャバラ状に形成することで内部にらせん状の溝部を備えるようになっていてもよい。アーク放電の発生中に、不活性気体がらせん状に供給路16cを流通しかつ噴射されることにより、不活性気体の回転気流効果によって回転磁場を発生することができる。回転磁場は、さらに、既に説明したように電極を回転させることによってより容易に発生させることができる。このとき、不活性気体の供給量や電極回転数によって回転磁場を制御することができ、プラズマの形状を可変制御することができる。これによって、アーク放電発生領域のエネルギープロファイルを制御することができ、より効率的にカーボンナノ材料を合成することができる。
【0074】
図5には、さらに他の実施形態のカーボンナノ材料の製造装置を示す。本実施形態の装置は、黒鉛陽極を使用せずにカーボンナノ材料を製造するものである。例えば、両電極はタングステンやセラミック、モリブデン等の電極材料を用いることができる。図5に示すように、本実施形態の装置は、陽極50と、陽極50を取り囲むとともに、陽極50の先端(下端)のやや先の領域を指向して先細り状に収束するノズル部を有する陰極52とを備えている。なお、陽極50の先端のやや先の領域は、アーク放電発生領域となることが意図されている。陽極50とそれを包囲する陰極52との間には不活性気体の供給路58が形成されている。また、陰極52の周囲を取り囲むように外壁54が形成されていてもよい。さらに、外壁54と陰極52の間には不活性気体の供給路60が形成されていてもよい。
【0075】
こうした電極50、52の下部には、所定距離を隔てて黒鉛板56を配置させる。電極50、52と黒鉛板56の隙間34bはアーク放電発生領域とされている。黒鉛板56と陽極50の距離は、陽極50と陰極52に電圧を印加して炭素蒸気を形成可能な範囲であればよく、特に限定されないが、例えば、5mm程度とすることができる。本実施形態の装置によれば、黒鉛陽極を用いた場合よりも電極の消耗や電極に堆積する不純物によるアーク放電不良が軽減し、より安定した大量のカーボンナノ材料を合成することができる。また、安価な黒鉛板を用いることで、カーボンナノ材料の生成に係るコストを低下することができる。なお、本実施形態の陽極50と陰極52は、重力に対し垂直方向に対向されていなくてもよく、種々の方向性で備えられる。
【0076】
以上のことから、本明細書に開示されるカーボンナノ材料の製造方法によれば、流体中に配置された陰極と陽極との間に電圧を印加してこれら電極間にアーク放電発生領域を形成する工程と、前記流体の加圧下に前記アーク放電発生領域に準備された炭素材料から炭素蒸気を発生させるとともに前記アーク放電発生領域に不活性気体を導入する工程と、を含むことができる。また、前記陰極は前記陽極に対向して配置されていてもよい。また、前記陽極は黒鉛陽極を用いることができる。さらに、前記流体は、水を含む前記アーク放電の発生温度以下で撹拌流動性のある媒質液体を用いることができる。さらにまた、前記流体に浮遊するカーボンナノ材料が、単層カーボンナノホーンであってもよい。
【0077】
また、前記アーク放電は、電極に直流電圧または直流パルス電圧を印加することにより発生させることができる。さらに、前記アーク放電は、前記陰極の電極断面積が前記黒鉛陽極の電極断面積より大きい状態で電圧を印加することにより発生させることができる。さらにまた、前記黒鉛陽極が、添加物を含有もしくは内蔵、または、添加物が表面の一部分もしくは全部に散布、塗布、メッキまたはコートされていてもよい。また、前記黒鉛陰極が、水平方向に回転振動を加える工程をさらに備えることができる。上記の製造方法は、前記流体中に送り出されるカーボンナノ材料を分散させる工程と、前記炭素蒸気を送り出す部位の局部的な流体温度の上昇を防ぐための流体槽の流体を撹拌する工程と、前期流体の温度を一定温度に維持するため前記流体温度を調整する工程と、をさらに備えることができる。前記黒鉛陽極と前記陰極は、重力に対して垂直に対向して配置されていてもよい。上記の製造方法は、前記炭素蒸気から生成した前記カーボンナノ材料を前記流体から回収する工程をさらに備えることができる。
【0078】
前記カーボンナノ材料を回収する工程は、前記カーボンナノ材料を含む流体を吸引する工程と、ろ過膜によって前記流体から前記カーボンナノ材料を分離する工程と、分離された前記カーボンナノ材料を乾燥する工程と、を含んでもよい。
【0079】
前記不活性気体が、窒素、アルゴン、ヘリウムを含む希ガス及びヒドラジンからなる群から選択される1種又は2種以上を含むガスであってもよい。また、前記流体に浮遊するカーボンナノ材料が、単層カーボンナノホーンであってもよい。前記アーク放電は、電極に直流電圧または直流パルス電圧を印加することにより発生されるものであってもよい。さらに、前記アーク放電は、前記陰極の電極断面積が前記黒鉛陽極の電極断面積より大きい状態で電圧を印加することにより発生させるものであってもよい。さらにまた、前記黒鉛陽極が、添加物を含有もしくは内蔵、または、添加物が表面の一部分もしくは全部に散布、塗布、メッキまたはコートされているものであってもよい。また、前記黒鉛陰極が、水平方向に回転振動を加える工程をさらに備えていてもよい。前記流体中に送り出されるカーボンナノ材料を分散させる工程と、前記炭素蒸気を送り出す部位の局部的な流体温度の上昇を防ぐための流体槽の流体を撹拌する工程と、を備えていてもよい。さらに、前期流体の温度を一定温度に維持するため前記流体温度を調整する工程と、をさらに備えていてもよい。また、前記黒鉛陽極と前記陰極は、重力に対して垂直に対向して配置されていてもよい。さらに、前記炭素蒸気から生成した前記カーボンナノ材料を前記流体から回収する工程を備えていてもよい。さらにまた、前記カーボンナノ材料を回収する工程は、前記カーボンナノ材料を含む流体を吸引する工程と、ろ過膜によって前記流体から前記カーボンナノ材料を分離する工程と、分離された前記カーボンナノ材料を乾燥する工程と、
を含んでいてもよい。
【0080】
本明細書に開示されるカーボンナノ材料の製造装置は、一部が流体に浸漬される陰極と、前記陰極の前記流体に浸漬される部位に前記流体中において間隔を隔てて配置されている陽極と、前記陰極と前記陽極の間に電圧を印加しアーク放電発生領域を形成する機構と、前記アーク放電発生領域に不活性気体を導入させる機構と、を備えることができる。
【0081】
前記陽極が黒鉛陽極であり、前期陰極と対向して配置されていてもよい。
【0082】
前記黒鉛陽極と前記陰極との隙間が1mm以上2mm以下であってもよい。
【0083】
前記陰極が水平方向に回転振動することができる。
【0084】
前記カーボンナノ材料を回収する機構は、前記カーボンナノ材料を含む前記流体を吸引する機構と、前記流体から前記カーボンナノ材料を分離する機構と、分離した前記カーボンナノ材料を乾燥する機構と、を含んでもよい。
【0085】
前記陰極は、前記不活性気体の導入路を有することができる。
【0086】
(本緻密質材料の製造方法)
本緻密質材料の製造方法は、例えば、既に説明した流体中のアーク放電により製造されたカーボンナノホーンを含む成形材料を準備し、前記成形材料を、加圧下で加熱し成形し、本緻密質材料を製造することを含んでいる。
【0087】
この製造方法によれば、緻密質なカーボンナノホーンの成形体あるいは他の材料との複合体を効果的に製造することができる。
【0088】
(成形材料の準備)
成形材料を、カーボンナノホーンを用いて製造する。具体的には、実質的に本カーボンナノホーンのみを用いて成形材料とするか、他の材料と混合して成形材料とする。本カーボンナノホーンは、形状異方性がなく、適度な親水性を有するほか、良好な混合性を有しているとともに、適度な結合性を有している。さらに、他の材料との均一分散性や親和性も有している。このため、成形に適した成形材料を調製することができる。また、成形材料の調製も容易になっている。
【0089】
カーボンナノホーン以外の他の材料を含む成形材料は、カーボンナノホーンと他の材料とを乾式又は湿式で混合して製造することができる。乾式の場合には、ボールミルなど公知の乾式混合装置を用いることができ、湿式の場合においても、適当な媒体を用いて、公知の湿式混合装置を用いることができる。湿式における混合溶媒は、水性媒体であっても非水媒体であってもよいが、水性媒体を用いると、他の材料と良好な混合性が得られることが多いほか、コスト的にも環境的にも問題を低減できる。また、本明細書に開示されるカーボンナノホーン、すなわち、本カーボンナノホーンを用いることで水性媒体での混合が容易に実現できる。また、疎水性媒体を用いても、良好な混合性を実現できる。湿式の場合には、十分に混合後、そのままスラリーとして成形材料とすることができるほか、乾燥して、固形の成形材料としてもよい。
【0090】
カーボンナノホーンと他の材料との複合化にあたっては、公知の材料を他の材料として用いることができる。他の材料としては、無機材料等が挙げられる。例えば、各種セラミックス材料、金属材料、ガラス材料が挙げられる。
【0091】
これらの他の材料は、カーボンナノホーンとの混合性を考慮した粒経等に制御されたものを用いることが好ましい。
【0092】
また、他の材料を含む成形材料においては、カーボンナノホーン量を適宜決定することができる。例えば、カーボンナノホーン含有量を、0.1質量%以上99.9質量%以下とすることができる。カーボンナノホーン含有量は、成形材料の用途や求める特性に応じて適宜設定できる。
【0093】
セラミックス材料としては、特に限定しないが、例えば、アルミナ、セリア、ジルコニア、マグネシアなど典型的な酸化物セラミックスほか、複合酸化物セラミックス、窒化物セラミックス、炭化物セラミックス等が挙げられる。
【0094】
ガラス材料としては、特に限定しないが、例えば、ソーダガラス、鉛クリスタルガラス、硼珪酸ガラス(耐熱ガラス)、超耐熱ガラス、フロートガラス、強化ガラス、フロストガラス、型板ガラス(型ガラス)、サンゴバンガラス 、カラードアンティーク、鏡、熱線吸収ガラス、反射防止処理ガラス(ノングレアS)、低反射ガラス、高透過ガラス、耐熱ガラス板、網入りガラス、チェッカーガラス、モールガラス、セラミックプリントガラス、ステンドグラス風装飾ガラスが挙げられる。
【0095】
金属材料としては、特に限定しないが、例えば、金、銀、プラチナ、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウム、オスミニウム、卑金属、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アルミニウム、亜鉛等が挙げられる。
【0096】
こうした成形材料を、加圧下で加熱して所定の三次元形状を付与する。こうした加圧加熱は、一般的なセラミックスの成形に用いられる公知の焼結装置を適宜選択して用いることができる。例えば、放電プラズマ焼結法などを用いることができる。
【0097】
本緻密質材料を得るための加圧及び加熱条件は、適宜設定することができる。例えば、加圧時の荷重として15kNとすることが好ましく、20kN以上とすることがより好ましい。こうした加圧条件であると、密度が高い、カーボンナノホーンのみを用いる場合であっても、1.0g/cm3以上の緻密質成形体を得ることができる。上限も適宜設定できるが、50kN以下であることが好ましく、また40kNであることが好ましい。加熱温度も、適宜設定されうるが、1000℃以上であることが好ましく、より好ましくは1200℃以上であり、さらに好ましくは1400℃以上である。カーボンナノホーンのみを用いる場合には、1800℃以上であることが好ましく、2000℃程度であることがより好ましい。
【0098】
(本緻密質材料)
本緻密質材料は、親水性を有するカーボンナノホーンを含む、所定の三次元形状を有する緻密質複合材料である。本緻密質材料は、用いるカーボンナノホーンの特性や、他の複合材料の特性に特徴付けられ、しかも緻密質であることに特徴付けられる特性を発揮し、各種用途に用いることができる。
【0099】
本緻密質材料は、典型的には、密度が、1.0g/cm3以上とすることができる。こうした密度は、カーボンナノホーンのみでも実現できる。カーボンナノホーンのみの場合、密度は、1.1g/cm3以上であることがより好ましく、さらに好ましくは1.2g/cm3以上である。また、他材料との複合材料の場合には、セラミックス材料、金属材料、ガラス材料との各種他材料の比重等やカーボンナノホーンの配合量にもよるが、通常は、他材料のみからなる緻密質材料を軽量化できる。
【0100】
なお、本緻密質材料に用いるカーボンナノホーンは、以下の特徴を有することができる。
(1)細孔容積が0.8cm3/g以上
(2)Na、K、Mg、Ca、Fe、Si及びClからなる群から選択される1又は2以上の元素に関し、以下に示す含有量で含んでいる。
(3)Na:0.003%以上0.3%以下
K:0.001%以上0.1%以下
Mg:0.0005%以上0.05%以下
Ca:0.004%以上0.4%以下
Fe:0.006%以上0.6%以下
Si:0.002%以上0.2%以下
Cl:0.004%以上0.4%以下
(4)長さが30nm以下のカーボンナノホーンを主体とする
(5)タングステン、プラチナ、チタン、コバルト、ニッケル、マンガン等の各種金属を担持する。
【0101】
本緻密質材料は、良好な電磁波シールド特性を有することができる。電磁波シールド特性を考慮すると、本カーボンナノホーンの含有量はより高いことが好ましい。特に限定するものではないが、例えば、3%以上であることが好ましく、より好ましくは、5%以上であり、さらに好ましくは10%以上であり、一層好ましくは、15%以上であり、より一層好ましくは20%以上であり、さらに一層好ましくは25%以上である。また、より好ましくは25%以上であり、さらに好ましくは30%以上であり、一層好ましくは35%以上である。また、より好ましくは40%以上であり、さらに好ましくは45%以上であり、一層好ましくは50%以上である。また、より好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは60%以上であり、一層好ましくは65%以上である。また、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは75%以上であり、一層好ましくは80%以上である。また、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、一層好ましくは95%以上であり、より一層好ましくは98%以上であり、さらに一層好ましくは99%以上である。
【0102】
例えば、本カーボンナノホーンを例えば、99%以上、好ましくは99.5%以上含み、厚さが約1mmの(約0.8mm以上約1.2mm以下)のシート状成形体にあっては、広い周波数域(0.1以上1000MHz以下、長波(LF、100以上300KHz以下)、中波(MF、0.3以上3MHz以下)、短波(HF、3以上300MHz以下)、超短波(VHF、30以上300MHz以下)及び極超短波(UHF、300MHz以上)において、30dBを超える、好ましくは40dB以上の電磁波シールド効果を発揮できる。炭素材料を含む緻密質体によってかかる電磁波シールド特性は従来得がたいものであった。また、本カーボンナノホーンを含有する緻密質材料は、99.5%以上からなる緻密質材料は、タングステン(W)を3%と本カーボンナノホーン97%とを含む緻密質材料よりも優れた電磁波シールド特性を有している。
【0103】
なお、電磁波シールド特性は、公知のKEC法(関西電子工業振興センター(KFC)による)に準じて行うことができる。測定周波数は、10MHz以上1000MHzであり、発信部と受信部との距離は10mmとし、約20℃、65%RHとして行う。
【0104】
本明細書に開示されるカーボンナノホーンの緻密質材料は、以上のような良好な電磁波シールド特性を有するため、電波吸収体、電磁波吸収体、電線被膜及び同軸ケーブル被膜などに用いることができる。したがって、本緻密質材料を含む電磁波シールド材も提供される。
【実施例】
【0105】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。以下の実施例では、本発明の製造方法によるカーボンナノホーンの製造を説明する。
【実施例1】
【0106】
本実施例は、図1の装置に好適な例として説明する。水深約30cmの流体槽に黒鉛陽極と陰極を1mm離した状態で重力に対して垂直に対向するように設置する。黒鉛陽極は直径3mm、長さ100mmの円筒形状で、炭素純度99.999%で1.5グラムのカーボンロッドを用いた。流体槽に20リットルの水道水を満たしたのち、流体槽に蓋をして密閉した。黒鉛陽極と陰極に20V、60Aの直流電圧を印加し、陰極内の導入路に規定値(20〜25リットル/分)の窒素ガスを導入し、粒子を生成した。この間、黒鉛陽極と陰極の間が1mmを維持するように、陰極を支持する支持部を自動制御することによって調整した。流体槽中の水面付近の水をポンプにて経時的に吸引し、UFろ過膜を通して、水と粒子をろ別した。ろ別した粒子をスプレードライにて乾燥し、精製された粒子を得た。粒子を電子顕微鏡にて観察し、単層カーボンナノホーンが多く含まれることを確認した。カーボンロッドが80%消費する時間はおよそ30秒程度であり、1分あたり1.4グラム程度のカーボンナノホーンが得られた。
【0107】
得られたカーボンナノホーンの粒度分布を測定した。図6には、非イオン界面活性剤であるニューコール740(60%濃度)を用いてカーボンナノ材料を分散させたときの、粒度分布の測定結果を示す。粒径の分散は正規分布として表される。本実施例で得られたカーボンナノホーンの粒子分布は、10%累積径は0.0712μm、90%累積径は0.4675μmであり、累積中位径(50%)は0.1539μm、平均径0.0834μm、標準偏差0.1357であった。一方、界面活性剤を用いない場合には、正規分布に従わず、10%累積径は0.1227μm、90%累積径は4.9431μmであり、累積中位径(50%)は0.3493μm、平均径0.1093μm、標準偏差0.5373であった。
【0108】
以上のように、従来のアーク放電によるカーボンナノ材料の製造方法に比べて、1台の装置で大量(20〜100倍以上)のカーボンナノ材料を得ることができた。さらに、大型の設備が必要とせず、1台の装置当たり0.25m2と省スペース化を図ることができる。すなわち、低コストかつ効率よくカーボンナノ材料を製造することができる。また、粒度分布が正規分布に従った、粒径の揃ったカーボンナノ材料を製造することができる。
【実施例2】
【0109】
本実施例は、第1実施例とは異なるサイズの黒鉛陽極を用いてカーボンナノ材料を製造した。同一の部材及び操作については説明を省略する。本実施例では、黒鉛陽極は、直径6.8mm、長さ100mmの円筒形状で、炭素純度99.999%のカーボンロッドを用いた。陰極には、窒素ガスの導入路を形成した、直径12.3mmのカーボンロッドを用いた。流体槽に黒鉛陽極と陰極を1mm離した状態で対向して設置し、純水を満たした後、窒素ガス導入下(20〜25リットル/分)で140Aの直流電圧を印加してカーボンナノ材料を生成した。生成したカーボンナノ材料をろ別した結果、第1実施例の3〜4倍程度のカーボンナノホーンが得られた。
【0110】
以上のように、陰極と陽極の両方に黒鉛を含んでいてもカーボンナノ材料を製造することができる。さらに印加する電流量によって、アーク放電発生領域のエネルギープロファイルを制御することができる。これによって、カーボンナノ材料を効率的に大量に合成することができる。
【実施例3】
【0111】
本実施例では、実施例1に準じて製造したカーボンナノ材料(カーボンナノホーン)につき、純度、細孔容積、熱重量、ラマン分光分析及びTEM観察による各評価を以下のとおり行った。
【0112】
(1)純度
カーボンナノ材料中のNa、K、Mg、Ca、Fe、Si及びClを測定した。なお、Na、Kについては原子吸光法、Mg、Ca、Fe、Siについては、ICP発光分光分析法、Clについては燃焼吸収−IC法により測定した。結果を表1に示す。
【0113】
【表1】
【0114】
表1に示すように、カーボンナノ材料には、微量の金属元素等を含んでいた。これらの金属元素は、水槽中の水に含まれる金属元素等に由来していると考えられた。
【0115】
(2)細孔容積
窒素吸着法によった。試料は、120℃で5時間真空脱気して前処理後、定容法を用いて窒素により吸着脱離等温線を測定した。測定装置は、BELSORP-mini(日本BEL株式会社製)を用いた。なお、吸着温度:77K、飽和蒸気圧:実測、吸着質:窒素、吸着質断面積:0.162m2とした。細孔容積はBJH法により算出した。結果を表2に示す。
【0116】
表2に示すように、細孔容積は1.08cm3/gであった。特に、細孔容積が大きく、触媒、吸着材、担体等、カーボンナノホーンの構造を利用した各種用途に好適に用いうることがわかった。
【0117】
【表2】
【0118】
(3)熱重量示差熱同時測定
室温から1400℃の温度範囲における試料の重量変化及び熱変化を測定した。なお、セル:Pt、試料量:約3g、昇温速度:10℃/分、雰囲気:空気200ml/分とし、熱重量示差熱同時測定装置TG/DTA300(セイコー電子株式会社製)を用いて測定した。結果を表3に示す。
【0119】
【表3】
【0120】
表3に示すように、カーボンナノ材料は発熱を伴った二段階の重量減少が観察された。燃焼ピークは、503℃及び649℃であった。
【0121】
(4)ラマン分光分析
以下の条件でラマン分光分析を行ったところ、グラファイト構造に由来する1590cm-1近傍のGバンドを検出した。なお、測定条件は以下の通りとした。
レーザー波長:532nm、レーザー出力:1%、倍率(対物レンズ):10倍、スリット100μmピンホール、測定波数範囲:4000〜200cm-1付近、露光時間:30秒、露光回数:10回
【0122】
(形状、大きさ)
カーボンナノ材料を、TEMにて観察した。TEM観察条件は、加速電圧:120kVとし、Philips社製CM20FEGにより測定した。結果を図7図10に示す。図7図10に示すように、カーボンナノ材料は、個々のカーボンナノホーンが凝集した二次粒子を構成しており、その大きさは約40nm以上60nm以下程度であった。また、個々のカーボンナノホーンの長さは、30nm以下がほとんどであることがわかった。
【実施例4】
【0123】
10mlの水に対して実施例3で得たカーボンナノホーンを10mgの割合で添加し混合し分散させた液に、開花した花を有する切り花の茎を浸漬して。経時的な変化を観察した。なお、観察途中において、水は交換しなかった。なお、比較例として、カーボンナノホーンを加えない水を同様に開花した同一種の切り花の茎に浸漬した。結果は以下に示す通りであった。
【0124】
浸漬当日:カーボンナノホーンを含む水と含まない水とに浸漬した切り花の開花状態に変化なし
1日経過後:カーボンナノホーンを含む水に浸漬した切り花の花弁は浸漬当日とほとんど変化がない一方、カーボンナノホーンを含まない水に浸漬した比較例の切り花の花弁がしぼんできた。
3日経過後:カーボンナノホーンを含む水に浸漬した切り花の花弁は浸漬当日とほとんど変化がない一方、カーボンナノホーンを含まない水に浸漬した比較例の切り花の花弁は一層縮んできた。
4日経過後:カーボンナノホーンを含む水に浸漬した切り花の花弁は、ややしおれてきたが、しぼむほどでなかった。これに対して、カーボンナノホーンを含まない水に浸漬した比較例の切り花の花弁は一層縮んできた。
【0125】
以上の結果から、本発明のカーボンナノホーンを植物に供給する水に添加することで、植物の鮮度保持、開花状態の延長など、植物の活性を維持できることがわかった。
【実施例5】
【0126】
本実施例では、実施例1で得たカーボンナノホーンを用いて緻密質成形体を作製した。また、タングステンを所定厚みでメッキした黒鉛を陰極に用いる以外は、実施例1と同様の条件で合成したタングステン担持カーボンナノホーンを用いて成形体を作製した。作製条件及び作製した成形体の評価結果を以下の表に示す。なお、アルミナは、α−アルミナ(市販品)を用いた。
【0127】
加圧加熱装置としては、住石放電プラズマ焼結機SPS−515S(最大成形荷重50kN、最大パルス電流出力、1500A,SPSシンテックス株式会社製)及び同SPS−3.20S(最大成形圧力200kN、最大パルス電流出力8000A)を用いた。これらは、直径15mm及び30mmのペレットの作製にそれぞれ用いた。
【0128】
成形材料のアルミナとの混合条件(混合比、アルミナ:カーボンナノホーン=97:3(質量%)は、遊星型ボールミルP−5型(フリッチュ製)を用い、アルミナ製ポット内で分散媒としてn−ヘキサンを用いて湿式混合した。混合後、50℃の乾燥機内で2時間乾燥した。なお、単一材料の成形材料は、そのまま試験に供した。
【0129】
なお、焼結雰囲気は、真空とし、冷却は、通電及び加圧オフ後、ペレット温度が250℃に到達した時点で大気開放した。
【0130】
【表4】
【0131】
表4に示すように、カーボンナノホーン単体でも、密度が1を超える良好な密度の成形体を得ることができた。さらに、アルミナとの複合材料も、良好な成形性と密度とを呈した。さらに、タングステンを担持させたカーボンナノホーンも良好な成形性と密度を呈した。これらの結果は、原料として用いたカーボンナノホーンの特性によるものであると推測された。こうした成形性及び密度から、カーボンナノホーンの各種用途への適用可能性が拡大されると考えられる。
【実施例6】
【0132】
本実施例では、実施例5で得たカーボンナノホーン単独緻密質成形体(15mm径)、アルミナ含有カーボンナノホーン緻密質成形体(30mm径)に加えて実施例1で得たカーボンナノホーンとタングステンとを用いた緻密質成形体を作製し、電磁波シールド特性を評価した。また、参考例として市販のアルミナ焼結成形体を用いた。
【0133】
(タングステン含有カーボンナノホーン成形体)
実施例1で作製したカーボンナノホーン97wt%、タングステン3wt%として、実施例5と同様に混合した。粉末充填量(サンプル量)を0.44gとし、真空下20MPa、昇温条件:119分(1050℃〜)、最高温度(2000℃)保持時間を20分とし、通電及び加圧オフ後に自然冷却し、ペレット温度が250℃に到達した時点で大気開放冷却した。得られた成形体(直径15mm)は、直径15.34mm、厚さ:1.97mm、密度:1.21g/cm3であった。
【0134】
電磁波シールド特性は、KEC法に準じ、成形体試料の大きさを考慮して以下の方法で行った。すなわち、200mm×236mmで、厚さ1mmのアルミ板と、当該アルミ板の中央に15mm径又は30mm径の孔加工をしたものを準備し、孔無しアルミ板、孔加工アルミ板、及び孔加工アルミ板の孔加工部に成形体試料を配置した3種の状態で、試験を行った。また、測定条件は、20℃、65%RHであった。結果を表5(15m径成形体)及び表6(30mm成形体)及び図11、12に示す。
【0135】
【表5】
【0136】
【表6】
【0137】
表5、6及び図11、12に示すように、焼結して得られた緻密質試料は、優れた電磁波シールド特性を広い周波数域にわたって有していた。全周波数域の平均において、カーボンナノホーンのみの成形体では240%、タングステン含有成形体では195%、アルミナ含有成形体では267%であった。すなわち、タングステンを3%、本カーボンナノホーンを97%とした緻密質成形体も、依然として良好な電磁波シールド特性を維持ことができている。また、アルミナに3%本カーボンナノホーンを添加するのみで、高い電磁波シールド特性を発揮させることができている。以上のことから、本カーボンナノホーンは、優れた電磁波シールド材を得ることができる材料であるとともに、本カーボンナノホーンを含む本緻密質材料は、良好な電磁波シールド材であることがわかった。さらに、本緻密質材料を含む電磁波シールド材を提供できることがわかった。
【0138】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0139】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図11
図12