特許第6263403号(P6263403)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263403
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】高強度コンクリートの調製方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/04 20060101AFI20180104BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20180104BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20180104BHJP
   C04B 24/02 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   C04B28/04
   C04B24/26 H
   C04B24/26 A
   C04B24/38 Z
   C04B24/02
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-19895(P2014-19895)
(22)【出願日】2014年2月5日
(65)【公開番号】特開2015-147691(P2015-147691A)
(43)【公開日】2015年8月20日
【審査請求日】2016年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081798
【弁理士】
【氏名又は名称】入山 宏正
(72)【発明者】
【氏名】米澤 敏男
(72)【発明者】
【氏名】青木 雅路
(72)【発明者】
【氏名】井上 和政
(72)【発明者】
【氏名】小島 正朗
(72)【発明者】
【氏名】辻 大二郎
(72)【発明者】
【氏名】松下 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】村上 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】閑田 徹志
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昇
(72)【発明者】
【氏名】依田 和久
(72)【発明者】
【氏名】橋本 学
(72)【発明者】
【氏名】木之下 光男
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 和秀
(72)【発明者】
【氏名】玉木 伸二
(72)【発明者】
【氏名】黒田 萌
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−270072(JP,A)
【文献】 特開2013−203635(JP,A)
【文献】 特開2015−020924(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 − 32/02
C08L 33/02
C08L 5/02
C08K 5/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低発熱ポルトランドセメント、水、細骨材、粗骨材及び下記の多機能混和剤を用いる高強度コンクリートの調製方法であって、低発熱ポルトランドセメント100質量部当たり下記の多機能混和剤を0.1〜1.5質量部の割合となるよう用いることを特徴とする高強度コンクリートの調製方法。
多機能混和剤:下記のA成分を20〜80質量%、下記のB成分を19.99〜79質量%及び下記のC成分を0.01〜1質量%(合計100質量%)の割合で含有してなる多機能混和剤。
A成分:分子中に下記の構成単位Dを40〜60モル%及び下記の構成単位Eを60〜40モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体。
構成単位D:マレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩からから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位E:分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上。
B成分:質量平均分子量が1000〜20000であり、且つ分散度が1.2〜6.0の水溶性デキストリン化合物。
C成分:ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノメチルハイドロキノン及びp−ベンゾキノンから選ばれる一つ又は二つ以上。
【請求項2】
多機能混和剤が、A成分を20.5〜79.9質量%、B成分を20.05〜79質量%、C成分を0.05〜0.5質量%(合計100質量%)の割合で含有してなるものである請求項1記載の高強度コンクリートの調製方法。
【請求項3】
多機能混和剤のB成分が、質量平均分子量が1500〜15000であり、且つ分散度が3.0〜5.5の水溶性デキストリン化合物である請求項1又は請求項2記載の高強度コンクリートの調製方法。
【請求項4】
多機能混和剤のC成分が、ハイドロキノン及び/又はp−ベンゾキノンである請求項1〜請求項3のいずれか一項記載の高強度コンクリートの調製方法。
【請求項5】
多機能混和剤を固形分濃度10〜50質量%の水溶液として用いる請求項1〜請求項4のいずれか一項記載の高強度コンクリートの調製方法。
【請求項6】
低発熱ポルトランドセメントが中庸熱ポルトランドセメントである請求項1〜請求項5のいずれか一項記載の高強度コンクリートの調製方法。
【請求項7】
水/セメント比が15〜40%である請求項1〜請求項6のいずれか一項記載の高強度コンクリートの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高強度コンクリートの調製方法、高強度コンクリート及び硬化体に関する。高強度コンクリートは、日本建築学会編JASS5において、設計基準強度が36N/mmを超えるコンクリートと定義されており、高層・超高層建築物に採用されている。かかる高強度コンクリートには特有の問題があり、コンクリートの水和熱による高温履歴によって強度増進が停滞すること、すなわち長期強度が伸び悩むことが指摘され、また高強度コンクリートは単位セメント量が多く、水/セメント比が低いので、コンクリートの粘性が高くなって流動性が低下し、施工性の確保が難しくなることが指摘されていて、そのため高強度コンクリートの調製には、低発熱ポルトランドセメント、すなわち中庸熱ポルトランドセメントや低熱ポルトランドセメントが使用されている。施工性をも改善するために、低発熱ポルトランドセメントにシリカフューム微粉末を混入したシリカフュームプレミックスセメントを用いることも行なわれているが、本発明は、シリカフュームプレミックスセメントよりも低コストの低発熱ポルトランドセメントを用いる高強度コンクリートの調製方法、該調製方法によって得られる高強度コンクリート及び該高強度コンクリートを硬化させて得られる硬化体に関する。
【背景技術】
【0002】
低発熱ポルトランドセメントを用いて高強度コンクリートを調製しても、依然として、1)調製時のコンクリートの粘性が高く、また調製後の経時的な流動性低下(コンクリートの粘性が経時的に高くなる)が著しく、2)高温履歴によって得られる硬化体の長期強度の増進が停滞し、長期の圧縮強度(例えば材齢91日)の増進が低いことが指摘されている。コンクリートの水和反応による発熱を抑える添加剤として、デキストリンやタンニン酸等が知られているが(例えば特許文献1〜5参照)、これらの従来技術では、前記した1)及び2)の問題を同時に且つ充分に解決することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭59−30743号公報
【特許文献2】特開昭63−117941号公報
【特許文献3】特開平1−242447号公報
【特許文献4】特開平6−298560号公報
【特許文献5】特開2003−34564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、低発熱ポルトランドセメントを用いて高強度コンクリートを調製しても、依然として、1)調製時のコンクリートの粘性が高く、また調製後の経時的な流動性低下(コンクリートの粘性が経時的に高くなる)が著しく、2)コンクリートが水和反応により硬化する過程で発熱により温度上昇する熱履歴を受けると、得られる硬化体の長期強度(材齢91日の圧縮強度)の増進が低下する、という以上の1)及び2)の問題を同時に且つ充分に解決できる高強度コンクリートの調製方法、該調製方法によって得られる高強度コンクリート及び該高強度コンクリートを硬化させて得られる硬化体を提供する処にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
しかして本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、低発熱ポルトランドセメントを用いる高強度コンクリートの調製において、 特定の3成分を特定割合で含有する一液型の特定の多機能混和剤を、低発熱ポルトランドセメントに対して特定割合となるよう用いる方法が正しく好適であることを見出した。
【0006】
すなわち本発明は、低発熱ポルトランドセメント、水、細骨材、粗骨材及び下記の多機能混和剤を用いる高強度コンクリートの調製方法であって、低発熱ポルトランドセメント100質量部当たり下記の多機能混和剤を0.1〜1.5質量部の割合となるよう用いることを特徴とする高強度コンクリートの調製方法に係る。また本発明は、かかる調製方法によって得られる高強度コンクリートに係る。更に本発明はかかる高強度コンクリートを硬化させて得られる硬化体に係る。
【0007】
多機能混和剤:下記のA成分を20〜80質量%、下記のB成分を19.99〜79質量%及び下記のC成分を0.01〜1質量%(合計100%)の割合で含有してなる多機能混和剤。
【0008】
A成分:分子中に下記の構成単位Dを40〜60モル%及び下記の構成単位Eを60〜40モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体。
【0009】
構成単位D:マレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩からから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上
構成単位E:分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位から選ばれる一つ又は二つ以上。
【0010】
B成分:質量平均分子量が1000〜20000であり、且つ分散度が1.2〜6.0の水溶性デキストリン化合物。
【0011】
C成分:ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノメチルハイドロキノン及びp−ベンゾキノンから選ばれる一つ又は二つ以上。
【0012】
本発明に係る高強度コンクリートの調製方法(以下、本発明の調製方法という)に供する多機能混和剤は、A成分、B成分及びC成分の3成分からなるものである。A成分は、主に分散成分としての役割を担うものであって、分子中に構成単位Dを40〜60モル%及び構成単位Eを60〜40モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体であり、好ましくは構成単位Dを45〜55モル%及び構成単位Eを55〜45モル%(合計100モル%)の割合で有する質量平均分子量2000〜80000の水溶性ビニル共重合体である。本発明において、A成分の水溶性ビニル共重合体の質量平均分子量はGPC法(ゲル浸透クロマトグラフ法、以下同じ)で測定したポリエチレングリコール換算の質量平均分子量である。
【0013】
構成単位Dはマレイン酸から形成された構成単位及びマレイン酸塩から形成された構成単位から選ばれるものであり、構成単位Eは分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−メチル−ポリオキシエチレンから形成された構成単位及び分子中に15〜80個のオキシエチレン単位で構成されたポリオキシエチレン基を有するα−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンから形成された構成単位の中から選ばれるものである。
【0014】
以上説明したA成分の水溶性ビニル共重合体それ自体は公知の方法で合成できる。これには例えば、特開昭58−38380号公報や特開2012−51737号公報等に記載されているような方法が挙げられる。
【0015】
B成分は主に強度増進成分としての役割を担うものであり、質量平均分子量が1000〜20000、好ましくは1500〜15000の水溶性デキストリン化合物である。本発明において、水溶性デキストリン化合物の質量平均分子量は水系のGPC法(ゲル浸透クロマトグラフ法、以下同じ)で測定したポリエチレングリコール換算の質量平均分子量である。かかる水溶性デキストリン化合物はGPC法で測定した分子量分布曲線における分散度(質量平均分子量Mw/数平均分子量Mnの比)が1.2〜6.0、好ましくは3.0〜5.5のものを用いる。分散度が大き過ぎると、本発明の所期の効果が得られない。このような分散度の小さい水溶性デキストリン化合物は公知の合成方法(例えば、特開2008−222822号公報に記載の合成方法)で製造されるが、食品添加物の分野では通常は粉末品として市販されているものを用いることもできる。本発明の特徴の一つは、前記したような特定の水溶性デキストリン化合物を、多機能混和剤の主に強度増進成分として用いたときに、所期の優れた特性が発揮されることを見出したことにある。かかる特性が発揮される理由は必ずしも明らかでないが、前記したような特定の水溶性デキストリン化合物が、コンクリートを調製するときにセメント粒子に吸着されて適度の分散性を付与する作用を示すと同時に、セメントの初期の段階における水和反応速度をコントロールして中長期の水和反応率を高めることにより、結果として高強度の硬化体が得られるものと推察される。
【0016】
C成分は主に保存安定成分としての役割を担うものであり、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、モノメチルハイドロキノン及びp−ベンゾキノンの中から選ばれるものである。これらは、水に中性〜アルカリ性の領域で溶解する重合禁止剤又は酸化劣化防止剤として知られる公知の化合物である。多機能混和剤を一液型混和剤として使用するためには、それを構成する各成分が長期間に亘って化学的に安定であることが重要である。特に前記したB成分が共存すると、加熱、pHの変化、雑菌等の影響を受けて一液型混和剤が変質したり、腐敗したりするという問題があり、この問題を改善するためにはC成分が不可欠なのである。C成分としては、なかでもハイドロキノン及び/又はp−ベンゾキノンが好ましく、これらを用いると、一液型混和剤を長期間保存しても化学的に安定な品質を保つことができる。
【0017】
以上説明した本発明の調製方法で用いる多機能混和剤は、いずれも前記したA成分、B成分及びC成分の3成分からなり、A成分を20〜80質量%、B成分を19.99〜79質量%及びC成分を0.01〜1質量%(合計100%)の割合で含有してなるものであるが、好ましくはA成分を20.5〜79.9質量%、B成分を20.05〜79質量%及びC成分を0.05〜0.5質量%(合計100%)の割合で含有してなる一液型の多機能混和剤である。かかる多機能混和剤は、固形分濃度10〜50質量%の水溶液として用いるのが好ましく、固形分濃度20〜40質量%の水溶液として用いるのがより好ましい。A成分、B成分及びC成分の割合が前記の範囲から外れると、一液型の多機能混和剤としての品質の保存安定性が低下するのみならず、調製したコンクリートのスランプロスが大きくなって作業性が低下したり、凝結時間が長くなり過ぎたり、得られる硬化体の圧縮強度が低くなったり、硬化する過程で発熱により温度上昇する熱履歴を受けたときに硬化体の圧縮強度が低下したりする。調製したコンクリートについてのこれらの問題は、調製時の温度が、例えば15〜45℃の温度で、なかでも夏期の20〜40℃の温度で練り混ぜたときに顕著となる。
【0018】
本発明の調製方法に供する多機能混和剤の使用量(固形分としての使用量)は、低発熱ポルトランドセメント100質量部当たり0.1〜1.5質量部の割合となるようにするが、0.15〜0.8質量部の割合となるようにするのが好ましい。
【0019】
本発明の調製方法に供する低発熱ポルトランドセメントは、普通ポルトランドセメントに比較して水和反応にともなう発熱速度及び発熱量が小さくなるように調製したポルトランドセメントである。低発熱ポルトランドセメントはクリンカーの組成を変えることによって調製されるセメントであり、これには中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、また特殊セメントとして高ビ―ライト系の低熱高強度ポルトランドセメント等が挙げられる。本発明の調製方法においてその種類が特に制限されるものではないが、低発熱ポルトランドセメントとしては、建築材料として高強度向けに汎用されているJIS−R5210に適合する中庸熱ポルトランドセメントが好ましい。
【0020】
本発明の調製方法に供する細骨材としては、公知の川砂、砕砂、山砂等が挙げられ、また粗骨材としては、これも公知の川砂利、砕石、軽量骨材等が挙げられる。
【0021】
本発明の調製方法において、水/セメント比(質量比)は特に制限されないが、15〜40%に調製するのが好ましく、17〜35%に調製するのがより好ましい。水/セメント比が40%より大きいと、得られる硬化体に高強度が得られ難くなり、逆に15%より小さいと、調製したコンクリートの粘性が大きくなって流動性が低下し、施工性が著しく低下する。
【0022】
本発明の調製方法では、本発明の効果を損なわない範囲内で、AE(空気連行)剤、消泡剤、防水剤、防錆剤等の他の添加剤を併用することができる。
【0023】
本発明の調製方法では、以上説明した低発熱ポルトランドセメント、水、細骨材、粗骨材、及び多機能混和剤を公知の方法で練り混ぜることにより調製することができる。具体的には、低発熱ポルトランドセメント、水の一部、細骨材及び粗骨材をミキサーで混練する一方で、前記した多機能混和剤と必要に応じてAE調節剤を水の残部で希釈して、しかる後に双方を練り混ぜる方法で調製することができる。この場合、多機能混和剤は予め、固形分濃度が10〜50質量%の水溶液に調製した一液型の多機能混和剤として用いるのが取扱い上の簡便性及び練り混ぜ混合物の均一性を図る上で好ましく、特に生コンクリートプラントにおいては一液型の多機能混和剤の貯蔵や計量が効率的に行える利点がある。
【0024】
本発明に係る高強度コンクリートは、以上説明した本発明の調製方法によって得られるものである。また本発明に係る硬化体は、本発明に係る高強度コンクリートを硬化させて得られるものである。硬化の方法は特に限定されず、これには公知の方法が適用できる。本発明に係る硬化体の具体的な形態としては、小型或いは薄型の硬化体はもちろんのこと、特に水和熱による温度上昇により高温履歴を受ける建築用途の大型RC柱や大型鋼管コンクリート柱、更には土木用マスコンクリート等の大型の硬化体が挙げられる。
【発明の効果】
【0025】
以上説明した本発明には、低発熱ポルトランドセメントを用いて高強度コンクリートを調製しても、依然として、1)調製時のコンクリートの粘性が高く、また調製後の経時的な流動性低下(コンクリートの粘性が経時的に高くなる)が著しく、2)コンクリートが水和反応により硬化する過程で発熱により温度上昇する熱履歴を受けると、得られる硬化体の長期強度(材齢91日の圧縮強度)の増進が低下する、という以上の1)及び2)の問題を同時に且つ充分に解決できるという効果がある。
【0026】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明が該実施例に限定されるというものではない。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【実施例】
【0027】
試験区分1(A成分としての水溶性ビニル共重合体の合成)
・A成分としての水溶性ビニル共重合体(a−1)の合成
無水マレイン酸98g(1.0モル)及びα−アリル−ω−メチル−ポリ(n=33)オキシエチレン1520g(1.0モル)を反応容器に仕込み、徐々に加温して攪拌しながら均一に溶解した後、反応容器内の雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水中にて83℃に保ち、過酸化ベンゾイル2gを投入してラジカル重合反応を開始した。更に過酸化ベンゾイル3gを分割投入し、ラジカル重合反応を4時間継続して行なった。得られた共重合体に水を加えて加水分解し、水溶性ビニル共重合体(a−1)の40%水溶液を得た。水溶性ビニル共重合体(a−1)を分析したところ、マレイン酸から形成された構成単位/α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=33)オキシエチレンから形成された構成単位=50/50(モル比)の割合で有する質量平均分子量42000(GPC法、ポリエチレングリコール換算)の水溶性ビニル共重合体であった。
【0028】
水溶性ビニル共重合体(a−2)、(ar−1)及び(ar−2)の合成
水溶性ビニル共重合体(a−1)の合成と同様にして、水溶性ビニル共重合体(a−2)、(ar−1)及び(ar−2)を合成した。
【0029】
・A成分としての水溶性ビニル共重合体(a−3)の合成
α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=30)オキシエチレン1370g(1.0モル)、マレイン酸116g(1.0モル)及び水1760gを反応容器に仕込み、撹拌しながら均一に溶解した後、雰囲気を窒素置換した。反応系の温度を温水浴にて60℃に保ち、過硫酸ナトリウムの20%水溶液8gを加えてラジカル重合反応を開始した。更に過硫酸ナトリウムの20%水溶液5gを加え、ラジカル重合反応を5時間継続して行なった。得られた共重合体に48%水酸化ナトリウム水溶液167g(2.0モル)を加えて中和し、水を390g加えて、水溶性ビニル共重合体(a−3)の40%水溶液を得た。水溶性ビニル共重合体(a−3)を分析したところ、マレイン酸ナトリウムから形成された構成単位/α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=30)オキシエチレンから形成された構成単位=50/50(モル比)の割合で有する質量平均分子量51600(GPC法、ポリエチレングリコール換算)の水溶性ビニル共重合体であった。
【0030】
水溶性ビニル共重合体(ar−3)〜(ar−5)の合成
水溶性ビニル共重合体(a−3)の合成と同様にして、水溶性ビニル共重合体(ar−3)〜(ar−5)を合成した。以上で合成した各水溶性ビニル共重合体の内容を表1にまとめて示した。
【0031】
【表1】
【0032】
表1において、
質量平均分子量:GPC法、ポリエチレングリコール換算
D−1:マレイン酸
D−2:マレイン酸ナトリウム
E−1:α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=33)オキシエチレン
E−2:α−アリル−ω−メチル−ポリ(n=68)オキシエチレン
E−3:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=30)オキシエチレン
E−4:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=105)オキシエチレン
E−5:α−アリル−ω−ヒドロキシ−ポリ(n=9)オキシエチレン
【0033】
試験区分2(B成分としての水溶性デキストリン化合物の水溶液の調製)
食品添加物として市販されている多くのデキストリン化合物についてGPC法による分子量及び分散度の測定分析を行い、これらのなかから分子量及び分散度が異なる複数のデキストリン化合物を用意し、それらの固形分濃度40%の水溶液(室温で完全溶解)を調製した。用意した複数の水溶性デキストリン化合物(b−1)〜(b−4)及び(br−1)〜(br−3)の内容を表2にまとめて示した。
【0034】
【表2】
【0035】
表2において、
分子量:GPC法によるポリエチレングリコール換算の質量平均分子量又は数平均分子量
分散度:質量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した数値(Mw/Mn)
【0036】
試験区分3(多機能混和剤の30%水溶液の調製及び評価)
・多機能混和剤(P−1)の30%水溶液の調製
A成分として前記の水溶性ビニル共重合体(a−1)の水溶液(固形分濃度40%)600部、B成分として前記の水溶性デキストリン化合物(b−1)の水溶液(固形分濃度40%)490部、C成分としてハイドロキノン0.5部及び水364部を2リットルのフラスコ容器に投入して混合し、A成分、B成分及びC成分の3成分からなる多機能混和剤(P−1)の30%水溶液を調製した。
【0037】
・多機能混和剤(P−2)〜(P−12)及び(R−1)〜(R−15)の調製
多機能混和剤(P−1)の30%水溶液の調製と同様にして、多機能混和剤(P−2)〜(P−12)及び(R−1)〜(R−15)の各30%水溶液を調製した。調製した各多機能混和剤の内容を表3にまとめて示した。
【0038】
・多機能混和剤の安定性の評価
調製した多機能混和剤(P−1)〜(P−12)及び(R−1)〜(R−15)の各30%水溶液を、100ml容量のメスシリンダーに入れ、室温で2ヶ月間放置した後に目視判定し、下記の基準で評価した。結果を表3にまとめて示した。
評価基準
○:均一透明である。
×:分離又は濁りが認められる。
【0039】
【表3】
【0040】
表3において、
a−1〜a−3,ar−1〜ar−5:表1に記載の水溶性ビニル共重合体
b−1〜b−4,br−1〜br−3:表2に記載の水溶性デキストリン化合物
*1:タンニン酸
*2:デンプン
*3:ブドウ糖
*4:グルコン酸
c−1:ハイドロキノン
c−2:ハイドロキノンモノメチルエーテル
c−3:モノメチルハイドロキノン
c−4:p−ベンゾキノン
【0041】
試験区分4(高強度コンクリートの調製及び評価)
実施例1〜12
試験区分3で調製した表3に記載の多機能混和剤の30%水溶液を用いて、表4に記載の配合条件1で、50リットルのパン型強制練りミキサーに、中庸熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、密度=3.21g/cm)、細骨材(岩瀬産砕砂、密度=2.64g/cm)、練り混ぜ水(水道水)、多機能混和剤(P−1)の30%水溶液及び空気量調整剤(竹本油脂社製のAE剤、商品名AE300)の各所定量を順次投入してスラリーが均一となるまで練り混ぜた。次に、粗骨材(岩瀬産砕石、密度=2.66g/cm)を投入して30秒間練り混ぜ、目標スランプフローが65±5cm、目標空気量が3.0±0.5%の実施例1の高強度コンクリートを調製した。同様にして、実施例2〜12の高強度コンクリートを調製した。練り混ぜ時の温度はいずれも30℃で行なった。
【0042】
実施例13〜24
実施例1〜12と同様にして、但し表4に記載の配合条件2で、目標スランプフローが65±5cm、目標空気量が3.0±0.5%の実施例13〜24の高強度コンクリートを調製した。練り混ぜ時の温度はいずれも30℃で行なった。
【0043】
実施例25〜28
実施例1〜12と同様にして、但し表4に記載の配合条件3で、目標スランプフローが70±5cm、目標空気量が2.0%以下の実施例25〜28の高強度コンクリートを調製した。練り混ぜ時の温度はいずれも20℃で行なった。実施例1〜28で調製した高強度コンクリートの内容を表5にまとめて示した。
【0044】
比較例1〜34
表4に記載の配合条件で、対応する実施例と同様にして、比較例1〜34の高強度コンクリートを調製した。比較例1〜34で調製した高強度コンクリートの内容を表7にまとめて示した。
【0045】
【表4】
【0046】
表4において、
*5:中庸熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、密度=3.21g/cm、ブレーン値3750cm/g)
*6:低熱ポルトランドセメント(太平洋セメント社製、密度=3.22g/cm、ブレーン値3440cm/g)
細骨材:(岩瀬産細砂、密度=2.64g/cm
粗骨材:(岩瀬産砕石、密度=2.66g/cm
【0047】
・高強度コンクリートの物性評価
調製した各例の高強度コンクリートについて、練り混ぜ直後と60分静置後のスランプフロー、Lフロー初速度及び空気量を、またスランプフロー及びLフロー初速度については残存率を、更に得られた硬化体について、標準水中養生供試体の圧縮強度及び高温履歴供試体の圧縮強度を下記のように求め結果を表5〜表8にまとめて示した。
【0048】
・スランプフロー(cm):練り混ぜ直後及びそれから60分間練り舟に静置した高強度コンクリートについて、JIS−A1150に準拠して測定した。
・スランプフロー残存率(%):(60分間静置後のスランプフロー/練り混ぜ直後のスランプフロー)×100で求めた。
・Lフロー初速度(cm/s):練り混ぜ直後及びそれから60分間練り舟に静置した高強度コンクリートについて、Lフロー試験器(日本建築学会の「高流動コンクリートの材料・調合・製造・施工指針(案)・同解説」に記載のもの)を用いて測定した。Lフロー初速度はLフロー試験器の流れ始動面より5cmから10cmの間の流動速度とした。スランプフローが同一である場合、Lフロー初速度の大きいものが粘性が低いことを示す。
・Lフロー初速度残存率(%):(60分間静置後のLフロー初速度/練り混ぜ直後のLフロー初速度)×100で求めた。
・空気量(容量%):練り混ぜ直後及びそれから60分間練り舟に静置したコンクリートについて、JIS−A1128に準拠して測定した。
・標準水中養生供試体の圧縮強度(N/mm):練り混ぜて調製した各例の高強度コンクリートを直径10cm×高さ20cmの円柱モールドに充填し、20℃の水中で所定の材齢まで水中養生した供試体について、JIS−A1108に準拠し、材齢28日と91日で測定した。
・高温履歴供試体の圧縮強度(N/mm):練り混ぜて調製した各例の高強度コンクリートを直径10cm×高さ20cmの円柱モールドに充填し、内寸が500mm×500mm×400mmの周囲6面を断熱材(厚さ約30cmの発砲スチレン)で覆った簡易断熱箱に前記の円柱モールド9本を静置した。中心位置の円柱モールド1本に熱電対を設置して内部の温度上昇履歴を測定しつつ、所定の材齢まで高温履歴(最高温度は40〜60℃)の負荷を継続した高温履歴供試体について、JIS−A1108に準拠し、材齢28日で測定した。


















【0049】
【表5】













【0050】
【表6】












【0051】
【表7】










【0052】
【表8】
【0053】
表5〜表8において、
配合条件:表4に記載の配合条件
多機能混和剤:表3に記載した多機能混和剤(試験区分3で調製した多機能混和剤の30%水溶液を用いた)
多機能混和剤の使用量:低発熱ポルトランドセメント100質量部当たりの多機能混和剤の添加質量部(固形分換算の添加質量部)
*7:各実施例の標準水中養生供試体の圧縮強度(材齢28日又は91日)から相当する配合条件の多機能混和剤を用いなかった比較例(表3の混和剤R−1を用いた比較例1、16、31)の標準水中養生供試体の圧縮強度(材齢28日又は91日)を差し引いた値。
*8:各実施例の高温履歴供試体の圧縮強度(材齢28日)から相当する配合条件の多機能混和剤を用いなかった比較例(表3の混和剤R−1を用いた比較例1、16、31)の高温履歴供試体の圧縮強度(材齢28日)を差し引いた値。
*9:目標とする流動性の高強度コンクリートが得られなかったので測定しなかった。
*10:多機能混和剤の水溶液に沈殿又は濁りが生じていたので使用せず、測定しなかった。
【0054】
表5〜表8の結果からも明らかなように、本発明の調製方法によると、良好な流動性を有し、かかる流動性の経時的な低下が少ない高強度コンクリートを調製でき、同時に得られる硬化体は標準水中養生試験体では材齢28日及び材齢91日において、圧縮強度が高く、顕著な強度増進効果が得られていて更に高温履歴供試体においても優れた強度増進効果が得られている。かかる効果は低発熱ポルトランドセメントとして中庸熱ポルトランドセメントを用いた場合より顕著になっている。