(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オイルが入れられた底付きシリンダの底面上にバルブスリーブを突設し、そのバルブスリーブの内部にロッドの下端部を摺動自在に挿入してバルブスリーブ内に圧力室を設け、前記ロッドの上部に設けられたばね座とシリンダの底面間に、シリンダとロッドを伸張する方向に付勢するリターンスプリングを組込み、前記シリンダの内周とバルブスリーブの外周間に形成されたリザーバ室の下部と前記圧力室の下部を連通する油通路を形成し、前記バルブスリーブの下端部内に前記圧力室の圧力がリザーバ室内の圧力より高くなると閉鎖して圧力室と油通路の連通を遮断する第1チェックバルブを設け、前記ロッドに押込み力が負荷された際に第1チェックバルブを閉じ、圧力室内のオイルを、その圧力室の上側部位に設けられたリーク流路からリザーバ室にリークさせて圧力室内のオイルによる油圧ダンパ作用によってロッドに負荷される押込み力を緩衝するようにし、エンジンの通常運転時およびスタータ・ジェネレータでのエンジン始動時のそれぞれにおいてベルトに張力を付与する油圧式オートテンショナにおいて、
前記リーク流路が、前記ロッドに形成された連通路を介して圧力室とリザーバ室を連通する第1リーク隙間と、その第1リーク隙間よりも流路抵抗が大きい第2リーク隙間からなり、前記連通路を前記第1チェックバルブより設定圧力が高くされた第2チェックバルブにより開閉自在とし、その第2チェックバルブのチェックボールを前記第1チェックバルブのチェックボールよりも比重が小さい材料で形成したことを特徴とする油圧式オートテンショナ。
前記ロッドとバルブスリーブの摺動面間にすきま量の異なる二つの円環状のリーク隙間を、すきま量の小さなリーク隙間が圧力室側に位置するよう軸方向に間隔をおいて設け、すきま量の大きなリーク隙間が第1リーク隙間とされ、すきま量の小さなリーク隙間が第2リーク隙間とされ、前記ロッドには第1リーク隙間と前記圧力室とを連通する連通路を設け、その連通路に前記第2チェックバルブを組み込んだ請求項1に記載の油圧式オートテンショナ。
前記ロッドに、その下端面で開口する軸方向孔部と、その軸方向孔部の上端に連通してロッドの外径面で開口する径方向孔部を有するリーク通路を設けて圧力室とリザーバ室とを連通し、そのリーク通路の軸方向孔部内に円柱状のコアを組み込み、そのコアの外径面と軸方向孔部の内径面間に形成された円環状のリーク隙間を前記第1リーク隙間とし、前記バルブスリーブとロッドの摺動面間に形成された円環状のリーク隙間を前記第2リーク隙間とし、前記軸方向孔部の下部を連通路として、その連通路に第2チェックバルブを組み込んだ請求項1に記載の油圧式オートテンショナ。
前記ロッドに、その下端面で開口する軸方向孔部と、その軸方向孔部の上端に連通してロッドの外径面で開口する径方向孔部を有するリーク通路を設けて圧力室とリザーバ室とを連通し、そのリーク通路の軸方向孔部内に円柱状のコアを組み込み、そのコアの外径面に形成された螺旋状のオリフィスを前記第1リーク隙間とし、前記バルブスリーブとロッドの摺動面間に形成された円環状のリーク隙間を前記第2リーク隙間とし、前記軸方向孔部の下部を連通路として、その連通路に第2チェックバルブを組み込んだ請求項1に記載の油圧式オートテンショナ。
前記第1チェックバルブのチェックボールを鋼製とし、前記第2チェックバルブのチェックボールをセラミックとした請求項1乃至4のいずれか1項に記載の油圧式オートテンショナ。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素の排出量を削減するため、車両の停止時にエンジンを停止し、アクセルペダルの踏み込みによる車両の発進時にエンジンを瞬時に始動させるISG(Integrated Starter Generator)のアイドルストップ機構が搭載されたエンジンが提案されている。
【0003】
図7は、エンジン補機駆動とエンジン始動を両立するISGのアイドルストップ機構が搭載されたエンジンのベルト伝動装置を示し、クランクシャフト51に取り付けられたクランクシャフトプーリP
1と、ISGのスタータ・ジェネレータ52の回転軸に取り付けられたスタータ・ジェネレータプーリP
2と、ウォータポンプ等の補機53の回転軸に取り付けられた補機プーリP
3間にベルト54を掛け渡し、エンジンの通常運転時、
図7(a)に示すように、クランクシャフトプーリP
1の矢印で示す方向の回転によりスタータ・ジェネレータ52および補機53を駆動し、スタータ・ジェネレータ52をジェネレータとして機能させるようにしている。
【0004】
一方、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジンの始動時、
図7(b)に示すように、スタータ・ジェネレータプーリP
2の矢印で示す方向の回転によりクランクシャフトプーリP
1を回転させて、スタータ・ジェネレータ52をスタータとして機能させるようにしている。
【0005】
上記のようなベルト伝動装置においては、クランクシャフトプーリP
1とスタータ・ジェネレータプーリP
2にわたるベルト部54aにテンションプーリ55を設け、そのテンションプーリ55を回転自在に支持する揺動可能なプーリアーム56に油圧式オートテンショナAの調整力を付与してテンションプーリ55がベルト54を押圧する方向にプーリアーム56を付勢し、ベルト54の張力変化を油圧式オートテンショナAにより吸収するようにしている。
【0006】
油圧式オートテンショナAとして、特許文献1や特許文献2に記載されたものが従来から知られている。この油圧式オートテンショナにおいては、シリンダの底面上に突設されたバルブスリーブ内にロッドの下端部を摺動自在に挿入して、バルブスリーブ内に圧力室を形成し、上記ロッドの上端部に設けられたばね座とシリンダの底面間にリターンスプリングを組み込んで、ロッドとバルブスリーブを伸長する方向に付勢している。
【0007】
また、シリンダの内周とバルブスリーブの外周間に密閉されたリザーバ室を設け、そのリザーバ室の下部と上記圧力室の下部をシリンダの底面部に形成された油通路で連通し、バルブスリーブの下端部内にはチェックバルブを組込み、ロッドに押込み力が負荷され、圧力室の圧力がリザーバ室の圧力より高くなった際、チェックバルブを閉鎖して油通路と圧力室の連通を遮断するようにしている。
【0008】
上記の構成からなる油圧式オートテンショナは、ばね座の上面に設けられた連結片を
図7(a)に示すエンジンブロックに回動自在に連結し、シリンダの下面に設けられた連結片をプーリアーム56に連結して、ベルト54からテンションプーリ55およびプーリアーム56を介してロッドに押込み力が負荷された際に、チェックバルブを閉じ、圧力室内に封入されたオイルをバルブスリーブとロッドの摺動面間に形成されたリーク隙間に流動させ、その流動時のオイルの粘性抵抗により圧力室内に油圧ダンパ力を発生させて上記押込み力を緩衝するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、従来の油圧式オートテンショナにおいては、ロッドに押込み力が負荷された際、圧力室内のオイルをバルブスリーブとロッドの摺動面間に形成された単一のリーク隙間からリークさせる構成であるため、エンジンの通常運転時およびスタータ・ジェネレータ52でのエンジン始動時のそれぞれにおいてベルト54に適正な張力を付与することができない。
【0011】
すなわち、リーク隙間をエンジンの通常運転時におけるベルトの張力変動を吸収可能な大きさに設定すると、リーク隙間が大きいため、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジンの始動時にロッドが大きく押し込まれてベルト54に弛みが生じ、ベルト54とプーリP
1乃至P
3の接触部で滑りが生じ、ベルト寿命の低下やスタータ・ジェネレータ52によるエンジン始動不良が生じる可能性がある。
【0012】
一方、リーク隙間をスタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジンの始動時におけるベルト54の張力変動を吸収可能な大きさに設定すると、リーク隙間が小さいために、エンジンの通常運転時におけるベルト54の張力が高くなり過ぎてベルト54が過張力となり、ベルト54やプーリP
1乃至P
3を回転自在に支持する軸受が損傷し易くなり、燃料の消費が多くなるという問題が生じる。
【0013】
この発明の課題は、エンジンの通常運転時およびスタータ・ジェネレータでのエンジン始動時のそれぞれにおいて適正な張力をベルトに付与することができるようにした油圧式オートテンショナを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、この発明においては、オイルが入れられた底付きシリンダの底面上にバルブスリーブを突設し、そのバルブスリーブの内部にロッドの下端部を摺動自在に挿入してバルブスリーブ内に圧力室を設け、前記ロッドの上部に設けられたばね座とシリンダの底面間に、シリンダとロッドを伸張する方向に付勢するリターンスプリングを組込み、前記シリンダの内周とバルブスリーブの外周間に形成されたリザーバ室の下部と前記圧力室の下部を連通する油通路を形成し、前記バルブスリーブの下端部内に前記圧力室の圧力がリザーバ室内の圧力より高くなると閉鎖して圧力室と油通路の連通を遮断する第1チェックバルブを設け、前記ロッドに押込み力が負荷された際に第1チェックバルブを閉じ、圧力室内のオイルを、その圧力室の上側部位に設けられたリーク流路からリザーバ室にリークさせて圧力室内のオイルによる油圧ダンパ作用によってロッドに負荷される押込み力を緩衝するようにした油圧式オートテンショナにおいて、前記リーク流路が、前記ロッドに形成された連通路を介して圧力室とリザーバ室を連通する第1リーク隙間と、その第1リーク隙間よりも流路抵抗が大きい第2リーク隙間からなり、前記連通路を前記第1チェックバルブより設定圧力が高くされた第2チェックバルブにより開閉自在とし、その第2チェックバルブのチェックボールを前記第1チェックバルブのチェックボールよりも比重が小さい材料で形成した構成を採用したのである。
【0015】
上記の構成からなる油圧式オートテンショナにおいて、ISGのアイドルストップ機構が搭載されたエンジンの補機駆動用ベルト伝動装置におけるベルトの張力調整に際しては、エンジンブロック等のテンショナ取付け対象にロッド先端のばね座を連結し、シリンダをプーリアームに連結して、そのプーリアームに支持されたテンションプーリがクランクシャフトプーリとモータ・ジェネレータプーリ間のベルト部を押圧する方向にプーリアームを付勢し、ベルトを緊張させる。
【0016】
上記のようなベルト伝動装置への油圧式オートテンショナの組込み状態において、エンジンの通常運転状態でベルトの張力が強くなり、そのベルトからロッドに押込み力が負荷されると、圧力室内の圧力が高くなり、第1チェックバルブが閉鎖して、圧力室内のオイルは流路抵抗の小さな第1リーク隙間からリザーバ室にリークし、第1リーク隙間を流れるオイルの粘性抵抗により圧力室内に油圧ダンパ力が発生し、その油圧ダンパ力によって上記押込み力が緩衝され、ベルトは適正張力に保持される。
【0017】
一方、スタータ・ジェネレータの駆動によるエンジン始動時、ベルトの張力は急激に大きくなって圧力室の圧力が急激に上昇する。この時、第1チェックバルブが閉鎖し、その第1チェックバルブの閉鎖後、第2チェックバルブが閉鎖して連通路を閉じ、圧力室と第1リーク隙間の連通を遮断する。
【0018】
このため、圧力室のオイルは第2リーク隙間からリザーバ室にリークする。その第2リーク隙間の流路抵抗は大きいため、圧力室での圧力低下が少なく、圧力室での油圧ダンパ作用によりロッドの押し込みが抑制されてベルトはクランクシャフトを駆動するのに必要なベルト張力に保持され、ベルトとプーリ間のスリップが防止される。
【0019】
上記のように、スタータ・ジェネレータの駆動によるエンジン始動時、ベルトの張力が急激に上昇するため、圧力室に大きな圧力を急激に発生させる必要がある。その必要な圧力や圧力発生までに要する時間はエンジン性能によって相違する。そのため、第2チェックバルブにおけるチェックボールが、一般的に採用される比重の大きい鋼製のものであると、第2チェックバルブの閉鎖に時間を要し、ベルトのスリップによって異音が発生し、最悪の場合、エンジンを再始動することができなくなるという不具合が生じる可能性がある。
【0020】
しかし、この発明に係る油圧式オートテンショナにおいては、第2チェックバルブのチェックボールを第1チェックバルブのチェックボールよりも比重が小さい材料で形成しているため、圧力室の圧力変動に対する第2チェックバルブの応答性がよく、ベルト張力が急激に大きくなると、第2チェックバルブは瞬時に閉鎖状態となり、上記のような不具合が発生することはない。
【0021】
ここで、第1チェックバルブにおけるチェックボールが鋼製とされる場合、第2チェックバルブのチェックボールはセラミックとする。セラミックとして、炭化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、窒化アルミニウムを採用することができる。
【0022】
第1リーク隙間および第2リーク隙間の形成に際し、ロッドとバルブスリーブの摺動面間にすきま量の異なる二つの円環状のリーク隙間を、すきま量の小さなリーク隙間が圧力室側に位置するよう軸方向に間隔をおいて設け、すきま量の大きなリーク隙間を第1リーク隙間とし、すきま量の小さなリーク隙間を第2リーク隙間としてもよい。この場合、ロッドに第1リーク隙間と圧力室とを連通する連通路を設け、その連通路に前記第2チェックバルブを組み込むようにする。
【0023】
また、ロッドに、その下端面で開口する軸方向孔部と、その軸方向孔部の上端に連通してロッドの外径面で開口する径方向孔部を有するリーク通路を設けて圧力室とリザーバ室とを連通し、そのリーク通路の軸方向孔部内に円柱状のコアを組み込み、そのコアの外径面と軸方向孔部の内径面間に形成された円環状のリーク隙間を前記第1リーク隙間とし、前記バルブスリーブとロッドの摺動面間に形成された円環状のリーク隙間を前記第2リーク隙間としてもよい。この場合、軸方向孔部の下部を連通路として、その連通路に第2チェックバルブを組み込むようにする。
【0024】
さらに、ロッドに、その下端面で開口する軸方向孔部と、その軸方向孔部の上端に連通してロッドの外径面で開口する径方向孔部を有するリーク通路を設けて圧力室とリザーバ室とを連通し、そのリーク通路の軸方向孔部内に円柱状のコアを組み込み、そのコアの外径面に形成された螺旋状のオリフィスを前記第1リーク隙間とし、前記バルブスリーブとロッドの摺動面間に形成された円環状のリーク隙間を前記第2リーク隙間としてもよい。この場合、上述のように、軸方向孔部の下部を連通路として、その連通路に第2チェックバルブを組み込むようにする。
【発明の効果】
【0025】
この発明においては、上記のように、圧力室内の圧力上昇時に、その圧力室のオイルをリザーバ室にリークさせるリーク流路を、流路抵抗の異なる第1および第2の二つのリーク隙間で形成し、流路抵抗の小さな一方の第1リーク隙間を、圧力室の圧力変動により開閉し、第1チェックバルブより設定圧力が高くされた第2チェックバルブで開閉可能としたことにより、エンジンの通常運転時およびスタータ・ジェネレータでのエンジン始動時のそれぞれにおいてベルトに適正な張力を付与することができる。
【0026】
また、第2チェックバルブのチェックボールを第1チェックバルブのチェックボールより比重の小さい材料で形成したことにより、第2チェックバルブの応答性を高めることができ、スタータ・ジェネレータによるエンジン始動時に比較的大きな油圧ダンパ力を瞬時に発生させることができる。その結果、ベルトのスリップによる異音の発生を防止し、ベルトおよびプーリの摩耗による寿命の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すように、シリンダ1は底部を有し、その底部の下面に
図7のプーリアーム56に連結される連結片2が設けられている。
【0029】
連結片2には、一側面から他側面に貫通する軸挿入孔2aが設けられ、その軸挿入孔2a内に筒状の支点軸2bとその支点軸2bを回転自在に支持する滑り軸受2cとが組み込まれ、上記支点軸2b内に挿通されてプーリアーム56にねじ係合されるボルトの締め付けにより支点軸2bが固定され、連結片2がプーリアーム56に回動自在の取付けとされる。
【0030】
シリンダ1の底面には、スリーブ嵌合孔3が設けられ、そのスリーブ嵌合孔3内に鋼製のバルブスリーブ4の下端部が圧入されている。バルブスリーブ4内にはロッド5の下部が摺動自在に挿入され、そのロッド5の挿入によって、バルブスリーブ4内には上記ロッド5の下側に圧力室6が設けられている。
【0031】
ロッド5のシリンダ1の外部に位置する上端部にはばね座7が固定され、そのばね座7とシリンダ1の底面間に組込まれたリターンスプリング8は、シリンダ1とロッド5が相対的に伸張する方向に付勢している。
【0032】
ばね座7の上端にはエンジンブロックに連結される連結片9が設けられている。連結片9には一側面から他側面に貫通するスリーブ挿入孔9aが形成され、そのスリーブ挿入孔9a内にスリーブ9bと、そのスリーブ9bを回転自在に支持する滑り軸受9cとが組み込まれ、上記スリーブ9b内に挿通されるボルトによって連結片9がエンジンブロックに回転自在に連結される。
【0033】
ばね座7は成形品からなり、その成形時にシリンダ1の上部外周を覆う筒状のダストカバー10と、リターンスプリング8の上部を覆う筒状のスプリングカバー11とが同時に成形されて、ばね座7に一体化されている。
【0034】
ここで、ばね座7は、アルミのダイキャスト成形品であってもよく、あるいは、熱硬化性樹脂等の樹脂の成形品であってもよい。
【0035】
スプリングカバー11は、ばね座7の成形時にインサート成形される筒体12によって外周の全体が覆われている。筒体12は、鋼板のプレス成形品からなる。
【0036】
シリンダ1の上側開口部内にはシール部材としてのオイルシール13が組込まれ、そのオイルシール13の内周が筒体12の外周面に弾性接触して、シリンダ1の上側開口を閉塞し、シリンダ1の内部に充填されたオイルの外部への漏洩を防止し、かつ、ダストの内部への侵入を防止している。
【0037】
上記オイルシール13の組み込みにより、シリンダ1とバルブスリーブ4との間に密閉されたリザーバ室14が形成される。リザーバ室14と圧力室6は、スリーブ嵌合孔3とバルブスリーブ4の嵌合面間に形成された油通路15およびスリーブ嵌合孔3の底面中央部に形成された円形凹部からなる油溜り16を介して連通している。
【0038】
バルブスリーブ4の下端部内には第1チェックバルブ17が組み込まれている。第1チェックバルブ17は、バルブスリーブ4の下端部内に圧入されたバルブシート17aの弁孔17bを圧力室6側から開閉する鋼製のチェックボール17cと、そのチェックボール17cを弁孔17bに向けて付勢するスプリング17dと、上記チェックボール17cの開閉量を規制するリテーナ17eとからなっている。
【0039】
第1チェックバルブ17は、圧力室6内の圧力がリザーバ室14内の圧力より高くなると、チェックボール17cが弁孔17bを閉じ、圧力室6と油通路15の連通が遮断して、圧力室6内のオイルが油通路15を通ってリザーバ室14に流れるのを防止する。
【0040】
図1および
図2に示すように、バルブスリーブ4内に位置するロッド5の下端部には、二つの大径部5a、5bが上下に設けられ、その上部大径部5aの外径は下部大径部5bの外径より小径とされている。
【0041】
図2に示すように、上部大径部5aの外径面とバルブスリーブ4の内径面間には円環状のリーク隙間が形成され、そのリーク隙間が第1リーク隙間21とされている。一方、下部大径部5bとバルブスリーブ4の摺動面間には円環状のリーク隙間が形成され、そのリーク隙間が第2リーク隙間22とされている。
【0042】
第1リーク隙間21と第2リーク隙間22はすきま量の相違から、第1リーク隙間21の流路抵抗が第2リーク隙間22の流路抵抗より小さくなっている。第1リーク隙間21および第2リーク隙間22のそれぞれは、圧力室6内のオイルがそれぞれのリーク隙間21、22に沿ってリークする際の粘性抵抗により圧力室6内に油圧ダンパ作用を生じさせるようになっている。
【0043】
第1リーク隙間21は、オイルのリークによって生じる油圧ダンパ作用によって
図7(a)に示すエンジンの通常運転時におけるベルト54の張力変動を吸収可能とする大きさに設定されている。一方、第2リーク隙間22は、
図7(b)に示すスタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジン始動時にロッド5が急激に押し込まれることのない大きさに設定されている。
【0044】
ロッド5の下端部には、圧力室6と第1リーク隙間21を連通する連通路23が形成されている。連通路23は、ロッド5の下端面から軸方向に延びる軸方向孔部23aと、その軸方向孔部23aに交差して上部大径部5aの下部外径面で開口する径方向孔部23bとからなり、上記軸方向孔部23a内に第2チェックバルブ25が組み込まれている。
【0045】
第2チェックバルブ25は、軸方向孔部23aに形成されたテーパ状のシート面24に対して接触離反自在とされたチェックボール26と、そのチェックボール26をシート面24から離反する方向に向けて付勢するスプリング27とからなり、軸方向孔部23aの下端部内にはチェックボール26を開放状態に保持するストッパリング28が圧入されている。
【0046】
第2チェックバルブ25は、圧力室6内の圧力が高圧になるとチェックボール26がシート面24に接触して連通路23を閉鎖し、圧力室6と第1リーク隙間21の連通を遮断するようになっている。この第2チェックバルブ25の設定圧は第1チェックバルブ17の設定圧より高く、第1チェックバルブ17の閉鎖後、圧力室6内の圧力がさらに上昇すると作動するようになっている。
【0047】
第2チェックバルブ25におけるチェックボール26は、第1チェックバルブ17におけるチェックボール17cより比重の小さなセラミックにより形成されている。セラミックとして、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si
3N
4)、アルミナ(Al
2O
3)、窒化アルミニウム(AlN)等を挙げることができ、いずれのセラミックを採用してもよい。
【0048】
バルブスリーブ4の内径面における上端部には環状溝29が形成され、その環状溝29内に止め輪30が組み込まれている。止め輪30の内周部はバルブスリーブ4の内径面より内方に位置し、その止め輪30の内周部に対する上部大径部5aの上端面の当接によってロッド5はバルブスリーブ4から抜け出るのが防止される。
【0049】
実施の形態で示す油圧式オートテンショナは上記の構成からなり、
図7に示すアイドルストップ機構が搭載されたエンジンの補機駆動用ベルト伝動装置への組込みに際しては、シリンダ1の閉塞端に設けられた連結片2をプーリアーム56に連結し、かつ、ばね座7の連結片9をエンジンブロックに連結して、そのプーリアーム56に調整力を付与する。
【0050】
上記のようなベルト54の張力調整状態において、エンジンの通常運転状態において、補機53の負荷変動等によってベルト54の張力が変化し、上記ベルト54の張力が弱くなると、リターンスプリング8の押圧によりシリンダ1とロッド5が伸張する方向に相対移動してベルト54の弛みが吸収される。
【0051】
ここで、シリンダ1とロッド5が伸張する方向に相対移動するとき、圧力室6内の圧力はリザーバ室14内の圧力より低くなるため、第1チェックバルブ17が開放する。このため、リザーバ室14内のオイルは油通路15から油溜り16を通って圧力室6内にスムーズに流れ、シリンダ1とロッド5は伸張する方向にスムーズに相対移動してベルト54の弛みを直ちに吸収する。
【0052】
一方、ベルト54の張力が強くなると、ベルト54から油圧式オートテンショナのシリンダ1とロッド5を収縮させる方向の押込み力が負荷される。このとき、圧力室6内の圧力はリザーバ室14内の圧力より高くなるため、第1チェックバルブ17のチェックボール17cが弁孔17bを閉鎖する。
【0053】
また、第2チェックバルブ25のチェックボール26は、第1チェックバルブ17が完全に閉鎖した後において、圧力室6内の圧力上昇により上昇動してストッパリング28から離反するが、シート面24に接触する位置まで上昇動することはなく、開放状態に保持される。
【0054】
ストッパリング28に対するチェックボール26の移動により、圧力室6内のオイルは連通路23に流れ、第1リーク隙間21を流通してリザーバ室14にリークし、上記第1リーク隙間21を流動するオイルによって圧力室6内に油圧ダンパ力が発生する。その油圧ダンパ力により、油圧式オートテンショナに負荷される上記押込み力が緩衝される。
【0055】
このとき、第1リーク隙間21は、エンジンの通常運転時におけるベルト54の張力変動を吸収可能な大きさに設定されているため、エンジンの通常運転時におけるベルト54の張力が高くなり過ぎることはなく、適正張力に保持される。
【0056】
一方、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジン始動時、ベルト54の張力は急激に大きくなってロッド5に対する押込み力が強くなり、圧力室6の圧力が急激に上昇する。このとき、第1チェックバルブ17は閉鎖すると共に、第2チェックバルブ25のチェックボール26が上昇して、
図4に示すように、シート面24と接触し、閉鎖状態となる。
【0057】
第2チェックバルブ25の閉鎖により、連通路23は圧力室6と第1リーク隙間21の連通を遮断する状態となるため、圧力室6内のオイルは
図4の矢印で示すように、第2リーク隙間22から第1リーク隙間21内に流れてリザーバ室14内にリークする。
【0058】
このとき、第2リーク隙間22の流路抵抗は第1リーク隙間21より大きいため、圧力室6内のオイルは第2リーク隙間22内をゆっくりと流動する。このため、圧力室6での急激な圧力低下がなく、その圧力室6内の油圧ダンパ作用によってロッド5の押し込みが抑制され、ベルト54はクランクシャフト51を駆動するのに必要なベルト張力に保持され、ベルト54とプーリP
1乃至P
3間のスリップが防止される。
【0059】
上記のように、スタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジン始動時、ベルト54の張力が急激に上昇するため、圧力室6に大きな圧力を瞬時に発生させる必要がある。
【0060】
ここで、圧力発生までに要する時間はエンジン性能によって相違する。そのため、第2チェックバルブ25におけるチェックボール26が一般的に採用される比重の大きい鋼製のものであると、第2チェックバルブ25の閉鎖に時間を要し、ベルトに適正な張力を付与することができなくなって、ベルト54がスリップし、異音が発生したり、あるいは、エンジンを再始動することができなくなる可能性がある。
【0061】
しかし、第2チェックバルブ25におけるチェックボール26は比重の小さなセラミックにより形成されているため、圧力室6の圧力変動に対する第2チェックバルブ25の応答性がよく、ベルト張力が急激に大きくなると、第2チェックバルブ25のチェックボール26はシート面24に瞬時に着座して連通路23を直ちに閉鎖する。このため、上記のような不具合が発生することはない。
【0062】
図5は、この発明に係る油圧式オートテンショナの他の実施の形態を示す。この実施の形態においては、ロッド5に圧力室6とリザーバ室14を連通するリーク通路31を設け、そのリーク通路31を、段付き孔からなる軸方向孔部32と、その軸方向孔部32の上端に連通してロッド5の外径面で開口する径方向孔部33で形成し、上記軸方向孔部32の中間孔部32a内に円柱状のコア34を組み込み、そのコア34の外径面と中間孔部32aの内径面間に形成された円環状のリーク隙間を第1リーク隙間21としている。
【0063】
また、軸方向孔部32の連通路としての下側大径孔部32b内に第2チェックバルブ25を組込み、その第2チェックバルブ25を、軸心上に弁孔36が形成された筒状の弁座35と、上記弁孔36の下端に形成されたテーパ状のシート面37に対して接触離反自在に設けられたチェックボール38と、そのチェックボール38をシート面37から離反する方向に付勢するスプリング39とで形成し、上記チェックボール38をロッド5の下側大径孔部32b内に圧入した連通孔41を有するキャップ状のリテーナ40によって開放状態に保持するようにしている。
【0064】
さらに、ロッド5を軸方向の全長にわたって同一外径の円筒状とし、その円筒状ロッド5をバルブスリーブ4の内周上端部に形成された小径孔部4a内に摺動自在に挿入して、その摺動面間に形成された円環状のリーク隙間を第2リーク隙間22としている。
【0065】
さらに、また、ロッド5の下端部外周に環状溝42を設け、その環状溝42に止め輪43を取り付けて、小径孔部4aの下端面に対する止め輪43の当接によりロッド5を抜止めしている。
【0066】
ここで、第2チェックバルブ25におけるチェックボール38は、
図2に示すチェックボール26と同様に、セラミックから形成されている。
【0067】
他の構成は
図1に示す油圧式オートテンショナと同一であるため、ここでは、バルブスリーブ4とロッド5の関係のみを示している。
【0068】
図5に示す油圧式オートテンショナにおいては、
図7(a)に示すエンジンの通常運転状態において、ベルト54からロッド5に押込み力が負荷された際、圧力室6内のオイルをリーク通路31および流路抵抗の小さな第1リーク隙間21からリザーバ室14にリークさせ、第1リーク隙間21を流れるオイルの粘性抵抗により圧力室6内に油圧ダンパ力を発生させて、その油圧ダンパ力により上記押込み力を緩衝し、ベルト54を適正張力に保持するようにしている。
【0069】
また、
図7(b)に示すスタータ・ジェネレータ52の駆動によるエンジン始動時、ベルト54からロッド5に負荷される大きな押込み力により、第2チェックバルブ25を閉鎖させて、圧力室6内のオイルを流路抵抗の大きな第2リーク隙間22からリザーバ室14にリークさせ、第2リーク隙間22を流れるオイルの粘性抵抗により圧力室6内の急激な圧力の低下を抑制し、ロッド5が大きく押し込まれるのを防止して、ベルト54をクランクシャフト51を駆動するのに必要なベルト張力に保持している。
【0070】
図5に示す例においても、第2チェックバルブ25におけるチェックボール38をセラミックとしているため、圧力室6の圧力変動に対する第2チェックバルブ25の応答性がよく、ベルト張力が急激に大きくなると、第2チェックバルブ25のチェックボール38はシート面37に瞬時に着座して連通路としての下側大径孔部32bを直ちに閉鎖し、ベルト54を確実に適正張力に保持する。
【0071】
図5では、コア34の外径面と中間孔部32aの内径面間に形成された円環状のリーク隙間を第1リーク隙間21としたが、
図6に示すように、コア34の外径面に螺旋状のオリフィスを形成し、そのオリフィスを第1リーク隙間21としてもよい。