(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ボルトの頭部に係合させたときに、前記工具を下方から支持し、前記クレーン本体の旋回とともに前記クレーン本体の旋回方向に前記工具を案内する工具案内部を更に備える、請求項1〜7のいずれかに記載のタワークレーン。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このようなタワークレーンでは、旋回ベアリングを介してクレーン本体とクレーンポストとを締結する上述のボルトが緩んでいないかを定期的に点検する必要がある。その方法の一つに増し締めがある。しかしながら、これらのボルトはクレーンポストの上部付近という高所に配置されているために、これらのボルトの増し締めを行うためには、点検者が高所において力作業を行う必要がある。
【0005】
そこで、本発明は、タワークレーンに取り付けられたボルトを簡易に増し締めするタワークレーン及びその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、本発明のタワークレーンは、クレーンポストと、前記クレーンポストに固定された内輪、及び、前記内輪に対して回転自在に設けられた外輪を有する旋回ベアリングと、複数のボルトによって前記外輪と固定されたクレーン本体と、前記クレーンポストに着脱可能に支持された工具当接部とを備え、前記複数のボルトのうちの一つのボルトの頭部に工具を係合させた状態で前記クレーン本体を旋回させたときに、前記工具が前記工具当接部に当接するように構成されることを特徴とする。
【0007】
上記の構成によれば、ボルトの頭部に工具を係合させた状態でクレーン本体を旋回させて、クレーン本体とともに旋回させた前記工具を、クレーンポストに固定された工具当接部に当接させる。これにより、工具にボルトの軸心回りのトルクが付与されるため、クレーン本体を旋回させることによってボルトの増し締めを行うことができる。従って、点検者は、タワークレーンに取り付けられたボルトを、高所で高トルクを必要とする力作業を行うことなく、簡易に増し締めすることができる。
【0008】
上記タワークレーンにおいて、前記クレーン本体は、作動油を吐出する油圧ポンプと、前記作動油が供給されて、前記クレーンポストに対して前記クレーン本体を旋回させる油圧モータと、前記工具が前記工具当接部に当接することにより前記ボルトが増し締めされる方向に、前記油圧モータを回転駆動させるための増締駆動ラインと、前記増締駆動ラインの作動油が設定圧を超えたときに前記増締駆動ラインの作動油を逃すための逃し機構とを含んでもよい。この構成によれば、クレーン本体旋回用の油圧モータを利用することにより、ボルトの増し締めを行うことができる。また、逃し機構が、増締駆動ラインの作動油が設定圧を超えたときに増締駆動ラインの作動油を逃すため、工具当接部と工具との間に作用する力、すなわち、工具によってボルトの軸心回りに生じるトルクが必要以上に大きくなって、ボルトが破損してしまうのを防ぐことができる。
【0009】
上記タワークレーンにおいて、逃し機構は、前記設定圧を通常設定圧と増締時設定圧に調整可能であって、前記増締時設定圧は、前記工具が前記工具当接部に当接することによって前記ボルトの軸心回りに付与されるトルクが、前記ボルトの規定トルクと一致する圧力であってもよい。この構成によれば、クレーン本体とともに旋回した工具が工具当接部に当接して、増締駆動ラインの作動油の圧力が上昇していき、該作動油の圧力が増締時設定圧を超えたときに作動油を逃す。このとき、前記工具が前記工具当接部に当接することによって前記ボルトの軸心回りに付与されるトルクが、前記ボルトの規定トルクと一致するので、クレーン本体を旋回させるだけで、規定トルクでのボルトの増し締めを行うことができる。
【0010】
上記タワークレーンにおいて、前記クレーン本体は、前記油圧ポンプと前記油圧モータの間に配置された旋回コントロール弁を含み、前記増締駆動ラインは、前記油圧ポンプと前記旋回コントロール弁とを接続する供給ラインと、前記旋回コントロール弁と前記油圧モータとを接続する右旋回ライン及び左旋回ラインのどちらか一方を含み、前記逃し機構は、前記供給ラインから分岐する逃しラインに設けられたリリーフ弁を含んでもよい。この構成によれば、右旋回ラインと左旋回ラインとの間に設けられたリリーフ弁の設定圧を変更することなく、増締駆動ラインの設定圧を増締時設定圧に変更することができる。
【0011】
上記タワークレーンにおいて、前記リリーフ弁は、ベントラインを通じて前記右旋回ライン又は前記左旋回ラインの旋回時負荷圧力が導かれる圧力補償用の第1リリーフ弁であり、前記逃し機構は、前記ベントラインの上限圧を決定する第2リリーフ弁であって、設定圧が前記通常設定圧と前記増締時設定圧のどちらかに調整される第2リリーフ弁を含んでもよい。この構成によれば、従来の設備構成を変更することなく、従来より備わっているリリーフ弁の設定圧力を調節するだけで、増締駆動ラインの設定圧を増締時設定圧に変更することができる。
【0012】
上記タワークレーンにおいて、前記リリーフ弁は、ベントラインを通じて前記右旋回ライン又は前記左旋回ラインの旋回時負荷圧力が導かれる圧力補償用の第1リリーフ弁であり、前記逃し機構は、設定圧が前記通常設定圧に設定された第2リリーフ弁と、設定圧が前記増締時設定圧に設定された第3リリーフ弁と、前記ベントラインを前記第2リリーフ弁と前記第3リリーフ弁のどちらに接続するかを切り換える切換弁とを含んでもよい。この構成によれば、ベントラインに接続されたリリーフ弁の設定圧を調整する必要がなく、切換弁を切り換えるだけで増締駆動ラインの設定圧を増締時設定圧に変更することができる。
【0013】
上記タワークレーンにおいて、前記逃しラインは、第1逃しラインであり、前記リリーフ弁は、前記供給ラインの上限圧を決定する第1リリーフ弁であり、前記供給ラインからは、第2逃しラインが分岐していて、この第2逃しラインに、ベントラインを通じて前記右旋回ライン又は前記左旋回ラインの旋回時負荷圧力が導かれる圧力補償用の第2リリーフ弁が設けられていてもよい。この構成によれば、従来の設備構成を変更することなく、従来より備わっているリリーフ弁の設定圧力を調節するだけで、増締駆動ラインの設定圧を増締時設定圧に変更することができる。
【0014】
上記タワークレーンにおいて、前記ボルトの頭部に係合させたときに、前記工具を下方から支持し、前記クレーン本体の旋回とともに前記クレーン本体の旋回方向に前記工具を案内する工具案内部を更に備えてもよい。この構成によれば、クレーン本体の旋回時及び非旋回時に、ボルトの頭部への工具の係合状態を保持することができる。
【0015】
上記タワークレーンにおいて、前記ボルトは、前記外輪の下方から鉛直方向に差し込まれたものであって、前記クレーンポストは、前記ボルトの頭部と対向する上面を有し、前記ボルトの頭部に係合させる工具は、前記クレーンポストの上面と前記ボルトの頭部との間の隙間に挿入可能な厚さのめがねレンチを積層したものであってもよい。この構成によれば、クレーンポストの上面とボルトの頭部との間の隙間が狭い場合であっても、工具当接部と当接することにより受ける力に耐えられる強度を工具に確保することができる。
【0016】
また、前記課題を解決するために、本発明のボルトの増し締め方法は、クレーンポスト上に配置された旋回ベアリングの外輪とクレーン本体とを固定するボルトの増し締め方法であって、前記クレーンポストに工具当接部を固定する工程と、前記ボルトの頭部に工具を係合させる工程と、前記クレーン本体を旋回させて前記工具を前記工具当接部に当接させることにより、前記工具に前記ボルトの軸心回りのトルクを付与する工程と、を含むことを特徴とする。
【0017】
上記の方法によれば、ボルトの頭部に工具を係合させた状態でクレーン本体を旋回させて、クレーン本体とともに旋回させた前記工具を、クレーンポストに固定された工具当接部に当接させる。これにより、工具にボルトの軸心回りのトルクが付与されるため、クレーン本体を旋回させることによってボルトの増し締めを行うことができる。従って、点検者は、タワークレーンに取り付けられたボルトを、高所で高トルクを必要とする力作業を行うことなく、簡易に増し締めすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、タワークレーンに取り付けられたボルトを簡易に増し締めするタワークレーン及びその方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
図1に、本発明の第1実施形態に係るタワークレーン1のボルト取付け部分の側面断面図を示す。この実施形態において、タワークレーン1は、デッキクレーンであって、船舶の甲板上に起立して設けられたクレーンポスト10と、クレーンポスト10上に設けられた旋回ベアリング20と、旋回ベアリング20を介して回転自在に支持されたクレーン本体30とを備えている。
【0021】
旋回ベアリング20は、クレーンポスト10に固定された内歯車である内輪21、内輪21に対して回転自在に設けられた外輪22、及び、内輪21の外周面と外輪22の内周面との間で転走する多数の転動体23を有する。
【0022】
クレーン本体30は、その底部にベースプレート31を有している。旋回ベアリング20は、クレーンポスト10とベースプレート31との間に配置されている。クレーンポスト10と旋回ベアリング20の内輪21とは、内輪21の周に沿って、クレーンポスト10の上端部11の下方から鉛直方向に差し込まれた複数のボルト25で固定されている。また、ベースプレート31と旋回ベアリング20の外輪22とは、外輪22の周に沿って、外輪22の下方から鉛直方向に差し込まれた複数のボルト26で固定されている。
【0023】
クレーン本体30は、その内部に、クレーンポスト10に対してクレーン本体30を旋回させるための油圧モータ33(
図4参照)と、油圧モータ33の回転速度を減じて出力する減速機(図示せず)を備える。減速機は、ベースプレート31に固定されており、油圧モータ33の動力を減速して出力する回転軸(図示せず)を有する。回転軸は、ベースプレート31に形成された挿通孔を通って、ベースプレート31の下方に突出している。回転軸におけるクレーンポスト10とベースプレート31との間の部分には、内輪21の内周の歯と噛合するピニオン32が固定されている。
【0024】
油圧モータ33を駆動して回転軸を介してピニオン32を回転させると、ピニオン32は、該ピニオン32に噛合しており、クレーンポスト10に固定された内輪21から反力を受ける。その結果、回転軸及び減速機を介してピニオン32に固定されたクレーン本体30が、クレーンポスト10に対して旋回する。
【0025】
タワークレーン1は、複数のボルト26のうちの一つのボルト26の頭部に工具Wを係合させた状態でクレーン本体30を旋回させたときに、工具Wが当接するように構成される工具当接部40を更に備える。
【0026】
工具Wは、ボルト26の頭部に係合させてボルト26の軸心回りに回転させることによって、ボルト26の締付けを可能にする器具である。工具Wは、
図3に示すように、ボルト26の頭部に係合させる係合部Waと、工具Wをボルト26に係合させたときにボルト26の軸心に垂直な方向に延びる柄部Wbとを有する。柄部Wbは、ボルト26の頭部に工具Wを係合させた状態でクレーン本体30を旋回させたときに、工具当接部40に当接する。これにより、工具Wがボルト26の回転軸回りにトルクを付与する。工具Wは、例えば、めがねレンチ、片口スパナ、ボックスレンチ、トルクレンチなどのレンチである。
【0027】
例えば、
図1に示すように、クレーンポスト10がボルト26の頭部と対向する上面を有する場合があり、クレーンポスト10の上面とボルト26の頭部との間の隙間が狭いために、既存のトルクレンチやボックスレンチが係合することができないことがある。このような場合、工具Wは、クレーンポスト10の上面とボルト26の頭部との間の隙間に挿入可能な厚さのめがねレンチw
1,w
2,w
3を積層したものであってもよい。すなわち、前記隙間に挿入可能な薄形のめがねレンチw
1,w
2,w
3を、1つずつ柄部が重なるようにボルト26の頭部に係合していき、複数(
図1及び
図2では一例として3つ)のめがねレンチw
1,w
2,w
3を一体とすることによって、工具当接部40と当接することにより受ける力に耐えられる強度を工具Wに確保することができる。
【0028】
工具当接部40は、クレーンポスト10の側壁12に設けられた支持部13に着脱可能に支持されている。この実施形態において、支持部13は、例えば、クレーンポスト10の側面に設けられた鉛直方向に延びる昇降用梯子である。支持部13は、互いに対向する2枚の平行な側板13a,13bを有する。2枚の側板13a,13bは、所定の間隔だけ離れている。また、2枚の側板13a,13bは、それらから等距離にある平面が、クレーン本体30の旋回の中心軸を通るように配置される。
【0029】
工具当接部40は、
図2に示すように、支持部13の側板13a,13bとの間を架け渡すように形成された、横断面がコ字形状をなす架け渡し部分40aと、架け渡し部分40aから鉛直上方に延びる円柱状の当接部分40bとを有している。当接部分40bは、ボルト26の頭部に工具Wを係合させた状態でクレーン本体30を旋回させたときに工具Wの柄部Wbが当たるように、少なくともクレーン本体30を旋回させたときの柄部Wbの移動面(この実施形態では、ボルト26の軸心に垂直な平面であって、ボルト26の頭部を通る平面)を横切るように延びている。
【0030】
タワークレーン1は、工具Wをボルト26の頭部に係合させてクレーン本体30の旋回させたときに、クレーン本体30の旋回方向に工具Wを案内する第1工具案内部42及び第2工具案内部44を更に備える。第1工具案内部42及び第2工具案内部44により、クレーン本体30の旋回時及び非旋回時に、ボルト26の頭部への工具Wの係合状態を保持することができる。
【0031】
第1工具案内部42は、
図2に示すように、支持部13の側板13a,13bに平行な2枚の板状部42a,42bと、クレーン本体30の旋回の中心軸に垂直な上向きの主面を有する1枚の板状部42cとでなる横断面がコ字形状をなす部材である。板状部42cの長手方向の長さは、支持部13の側板13a,13b間の間隔と略々同じであり、支持部13の側板13a,13bとの間を架け渡すことができるように形成されている。
図1及び
図2に示すように、板状部42aは、支持部13の側板13aに、板状部42bは、支持部13の側板13bに、それぞれ通しボルトで固定されている。
【0032】
工具Wをボルト26の頭部に係合させたときに、板状部42cの前記主面が工具Wの柄部Wbの一部に下方から接することによって、工具Wが支持される。また、第1工具案内部42は、工具Wをボルト26の頭部に係合させた状態でクレーン本体30を旋回させたときに、工具Wを支持しつつ、クレーン本体30の旋回方向に板状部42cの前記主面上をスライドするように、工具Wを案内する。
【0033】
第2工具案内部44は、
図2に示すように、支持部13の側板13a,13bに平行な2枚の板状部44a,44bと、クレーン本体30の旋回の中心軸に垂直な下向きの主面を有する1枚の板状部44cとでなる横断面がコ字形状をなす部材である。板状部44cの長手方向の長さは、支持部13の側板13a,13b間の間隔と略々同じであり、支持部13の側板13a,13bとの間を架け渡すことができるように形成されている。
図1及び
図2に示すように、板状部44aは、支持部13の側板13aに、板状部44bは、支持部13の側板13bに、それぞれ通しボルトで固定されている。
【0034】
工具Wをボルト26の頭部に係合させたときに、板状部44cの前記主面が工具Wの柄部Wbの一部に上方から接することによって、工具Wが支持される。また、第2工具案内部44は、工具Wをボルト26の頭部に係合させた状態でクレーン本体30を旋回させたときに、工具Wを支持しつつ、クレーン本体30の旋回方向に板状部44cの前記主面上をスライドするように、工具Wを案内する。第2工具案内部44は、工具Wをボルトに係合させるときや回転させたときに柄部Wbが上側に傾くのを防止することができればよく、第2工具案内部44と工具Wとは、必ずしも接している必要はない。
【0035】
第1工具案内部42及び第2工具案内部44により、ボルト26の軸心に垂直な平面であって、ボルト26の頭部を通る平面から柄部Wbが逸脱しないように、工具Wを回転させることができる。第1工具案内部42及び第2工具案内部44は、支持部13に固定するための通しボルトを通す孔を縦長のスリットにするなどして、工具Wに接する主面の高さ位置を調節できるように構成されてもよい。あるいは、第2工具案内部44は、工具Wと板状部42c,44cとの間に板状の部材を挟んで、間接的に工具Wを支持及び案内するように構成されてもよい。
【0036】
この実施形態に係るタワークレーン1では、ボルト26の頭部に工具Wを係合させた状態でクレーン本体30を旋回させると、クレーン本体30とともに旋回させた前記工具Wが、クレーンポスト10に固定された工具当接部40に当接して、
図3の矢印fの方向に工具Wは力を受ける。これにより、
図3の矢印tの方向に、ボルト26の軸心回りにトルクが付与されるため、クレーン本体30を旋回させることによってボルト26の増し締めを行うことができる。従って、点検者は、タワークレーン1に取り付けられたボルト26を、高所で高トルクを必要とする力作業を行うことなく、簡易に増し締めすることができる。
【0037】
しかしながら、クレーン本体30の回転軸まわりのトルクが大きすぎると、工具当接部40と工具Wとの間に作用する力、すなわち、工具Wによってボルト26の軸心回りに生じるトルクが必要以上に大きくなり、ボルト26の破損につながってしまう。従って、ボルト26の軸心回りに付与されるトルクが、ボルト26の増し締めの規定トルクとなるように、クレーン本体30の回転軸まわりの最大トルクを調整することが望ましい。
【0038】
この実施形態に係るタワークレーン1は、
図4に示すような、クレーン本体30の回転軸まわりの最大トルクを調整することができる油圧駆動システム60を有している。以下では、
図4を参照して、この実施形態のクレーン本体30が有する油圧駆動システム60を説明する。
【0039】
油圧駆動システム60は、作動油を吐出する油圧ポンプ61と、作動油が供給されて、クレーンポスト10に対してクレーン本体30を旋回させる油圧モータ33とを含む。また、油圧駆動システム60は、油圧ポンプ61と油圧モータ33の間に配置された旋回コントロール弁63を含む。
【0040】
油圧ポンプ61の吐出口61aは、
図4に示すように、供給ライン62により旋回コントロール弁63と接続されている。旋回コントロール弁63は、右旋回ライン64及び左旋回ライン65により油圧モータ33と接続されている。また、旋回コントロール弁63は、タンクライン66によりタンク67と接続されている。
【0041】
本実施形態では、
図3に示すように、クレーン本体30が右旋回(時計回り)に旋回したときに、ボルト26の頭部に係合した工具Wが工具当接部40に当接する。すなわち、供給ライン62及び右旋回ライン64は、ボルト26が増し締めされる方向に油圧モータ33を回転駆動させるための増締駆動ライン90を構成する。ただし、
図3とは逆に、クレーン本体30が左旋回(反時計回り)に旋回したときに、ボルト26の頭部に係合した工具Wが工具当接部40に当接してもよい。すなわち、供給ライン62及び左旋回ライン65が、増締駆動ライン90を構成してもよい。
【0042】
旋回コントロール弁63は、中立位置と第1作動位置(
図4の左側位置)の間および中立位置と第2作動位置(
図4の右側位置)の間で移動する3位置弁である。旋回コントロール弁63が、中立位置から第1作動位置へ移動すると、供給ライン62が右旋回ライン64と連通するとともに、左旋回ライン65がタンクライン66と連通する。また、旋回コントロール弁63が、中立位置から第2作動位置へ移動すると、供給ライン62が左旋回ライン65と連通するとともに、右旋回ライン64がタンクライン66と連通する。
【0043】
右旋回ライン64と左旋回ライン65との間には、旋回用リリーフ弁72a,72bが設けられている。旋回用リリーフ弁72a,72bは、カウンタバランス機構に内蔵されている。旋回用リリーフ弁72a,72bは、右旋回ライン64及び左旋回ライン65のうちの一方のラインの圧力が過度に上昇したときに、他方のラインに圧油をリリーフするための弁である。
【0044】
また、右旋回ライン64と左旋回ライン65には、旋回用ダブルカウンタバランス弁71が設けられている。旋回用ダブルカウンタバランス弁71は、右旋回ライン64と左旋回ライン65から分岐するパラレルライン77a,77bと、そのパラレルライン77a,77bに設けられた弁71a,bを有し、他方の旋回ラインの圧力で作動するように構成されている。また、旋回用ダブルカウンタバランス弁71は、旋回用リリーフ弁72a,72bと同様、カウンタバランス機構に内蔵されている。旋回用ダブルカウンタバランス弁71は、タワークレーン1を備える船舶が傾斜したときに対応するためのものである。
【0045】
また、右旋回ライン64及び左旋回ライン65は、タンクライン78によってタンク67と接続されており、それらのタンクライン78には、チェック弁73がそれぞれ設けられている。
【0046】
また、油圧駆動システム60は、上述した増締駆動ライン90の作動油が設定圧Psを超えたときに増締駆動ライン90の作動油を逃すための逃し機構80を有する。設定圧Psは、通常設定圧P
1と増締時設定圧P
2に調整可能である。通常設定圧P
1は、タワークレーン1が荷役作業に従事する際に、通常設定されている圧力である。また、増締時設定圧P
2は、工具Wが工具当接部40に当接することによってボルト26の軸心回りに付与されるトルクが、ボルト26の規定トルクと一致する圧力である。
【0047】
この実施形態において、逃し機構80は、供給ライン62から分岐する逃しライン91に設けられた第1リリーフ弁81を含む。第1リリーフ弁81は、第1リリーフ弁81のベントポート81aに接続されたベントライン82を通じて、右旋回ライン64又は左旋回ライン65の旋回時負荷圧力が導かれ、油圧モータ33への供給流量を一定に保つための圧力補償用のリリーフ弁である。
【0048】
より詳しくは、旋回コントロール弁63からは、油圧モータ33のブレーキ解除用シリンダ74までブレーキライン85が延びており、このブレーキライン85にベントライン82が接続されている。また、ベントライン82には、絞り87が設けられている。
【0049】
旋回コントロール弁63は、中立位置に位置するときは、ブレーキライン85が、絞り87及びチェック弁86を介して、タンクライン66と連通する。旋回コントロール弁63が、中立位置から第1作動位置へ移動すると、ブレーキライン85が、右旋回ライン64と連通する。これにより、ベントライン82に右旋回ライン64から旋回時負荷圧力が導かれる。旋回コントロール弁63が、中立位置から第2作動位置へ移動すると、ブレーキライン85が、左旋回ライン65と連通する。これにより、ベントライン82に左旋回ライン65から旋回時負荷圧力が導かれる。
【0050】
また、逃し機構80は、ベントライン82の上限圧を決定する第2リリーフ弁83を含む。ベントライン82からは、絞り87より第1リリーフ弁81側で分岐ライン84が分岐しており、この分岐ライン84に第2リリーフ弁83が接続されている。また、第2リリーフ弁83は、タンク67にも接続されている。すなわち、第2リリーフ弁83の設定圧が、ベントライン82の上限圧である。また、第2リリーフ弁83の設定圧は、増締駆動ライン9(供給ライン62)の作動油の設定圧Psでもある。第2リリーフ弁83の設定圧は、通常設定圧P
1と増締時設定圧P
2のどちらかに調整される。
【0051】
逃し機構80の第2リリーフ弁83では、通常、設定圧Psは通常設定圧P
1に調整されており、定期点検におけるボルト26の増し締めを行う際に、第2リリーフ弁83を調整して、設定圧Psを通常設定圧P
1から増締時設定圧P
2に変更する。これにより、工具Wが工具当接部40に当接することによってボルト26の軸心回りに付与されるトルクが、ボルト26の規定トルクと一致させることができる。
【0052】
より詳しくは、設定圧Psを増締時設定圧P
2に調整することによって、クレーン本体30を旋回させる最大トルクが決定する。この最大トルクが、クレーン本体30を無負荷で旋回させるためのトルクと、ボルト26を規定トルクで回転させるためのトルクの合計に相当する。逆にいえば、ボルト26の規定トルクと工具当接部40とボルト26の軸心との距離及び工具当接部40とクレーン本体30の旋回軸との距離から、増締のためにクレーン本体30の旋回に必要となる最大トルクが決定され、この最大トルクから増締時設定圧P
2が決定されている。
【0053】
<増締方法の説明>
次に、点検者がタワークレーン1を用いてボルト26を増し締めする手順について説明する。
【0054】
まず、点検者は、第2リリーフ弁83を調整して、設定圧Psを通常設定圧P
1から増締時設定圧P
2に変更する。次に、点検者は、クレーンポスト10の支持部13に工具当接部40を固定する。その後、点検者は、工具Wの柄部Wbがクレーン本体30の径方向に延びるように、工具Wの係合部Waをボルト26の頭部に係合させる。最後に、点検者は、油圧モータ33を駆動させてクレーン本体30を旋回させ、工具Wを工具当接部40に当接させることにより、ボルト26の軸心回りにトルクを付与する。
【0055】
ただし、設定圧Psを通常設定圧P
1から増締時設定圧P
2に変更する工程は、増締のために油圧モータ33を駆動する前であればよく、例えば、支持部13に工具当接部を固定する工程の後であってもよい。
【0056】
こうして、点検者は、複数のボルト26のうちの一つのボルト26について、規定トルクでの増締を行うことができる。この作業と同じことを他のボルトについても順次行うことで、全てのボルト26について増締を行うことができる。
【0057】
以上の説明のように、クレーン本体30の旋回用の油圧モータ33を利用することにより、ボルト26の増し締めを行うことができる。また、逃し機構80が、増締駆動ライン90の作動油の圧力が増締時設定圧P
2を超えたときに作動油を逃すため、クレーン本体30の回転軸まわりの最大トルクを制限することができる。これにより、工具当接部40と工具Wとの間に作用する力、すなわち、工具Wによってボルト26の軸心回りに生じるトルクが必要以上に大きくなって、ボルト26が破損してしまうのを防ぐことができる。
【0058】
また、増締時設定圧P
2は、工具Wが工具当接部40に当接することによってボルト26の軸心回りに付与されるトルクが、ボルト26の規定トルクと一致する圧力であるので、増締駆動ライン90の作動油の設定圧Psを増締時設定圧P
2に調整することにより、クレーン本体30を旋回させるだけで、規定トルクでのボルト26の増し締めを行うことができる。
【0059】
さらに、この実施形態では、従来の設備構成を変更することなく、従来より備わっているリリーフ弁の設定圧力を調節するだけで、増締駆動ライン90の設定圧Psを増締時設定圧P
2に変更することができる。
【0060】
<第2実施形態>
次に、
図5を参照して、第1実施形態とは異なる逃し機構100を含む第2実施形態に係るタワークレーン1について説明する。
【0061】
この実施形態において、逃し機構100は、第1実施形態と同様、供給ライン62から分岐する逃しライン91に設けられた第1リリーフ弁81を含み、第1リリーフ弁81のベントポート81aに接続されたベントライン82は、絞り87を介して旋回コントロール弁63に接続している。
【0062】
また、逃し機構100は、更に、設定圧Psが通常設定圧P
1に設定された第2リリーフ弁101と、設定圧Psが増締時設定圧P
2に設定された第3リリーフ弁102と、ベントライン82を第2リリーフ弁101と第3リリーフ弁102のどちらに接続するかを切り換える切換弁103とを含む。
【0063】
第1リリーフ弁81のベントポート81aに接続されたベントライン82からは、分岐ライン104が分岐しており、この分岐ライン104に切換弁103が接続されている。また、第2リリーフ弁101及び第3リリーフ弁102は、それぞれタンク67に接続されている。
【0064】
切換弁103は、これに限定されないが、手動操作切換弁である。手動操作により切換弁103を第2リリーフ弁101に接続させると、増締駆動ライン9(供給ライン62)の作動油の設定圧Psが、通常設定圧P
1に調整される。また、手動操作により切換弁103を第3リリーフ弁102に接続させると、増締駆動ライン9(供給ライン62)の作動油の設定圧Psが、増締時設定圧P
2に調整される。切換弁103は、電磁切換弁であってもよい。
【0065】
逃し機構100では、通常、切換弁103が第2リリーフ弁101に接続されており、設定圧Psは通常設定圧P
1に調整されている。定期点検におけるボルト26の増し締めを行う際に、切換弁103を第3リリーフ弁102に接続させて、設定圧Psを通常設定圧P
1から増締時設定圧P
2に変更する。これにより、工具Wが工具当接部40に当接することによってボルト26の軸心回りに付与されるトルクが、ボルト26の規定トルクと一致させることができる。また、この実施形態では、第1リリーフ弁81のベントポート81aに接続されたリリーフ弁である第2リリーフ弁101及び第3リリーフ弁102の設定圧を調整する必要がなく、切換弁103を切り換えるだけで、増締駆動ライン90の設定圧Psを増締時設定圧P
2に変更することができる。
【0066】
<第3実施形態>
次に、
図6を参照して、第1実施形態とは異なる逃し機構110を含む第3実施形態に係るタワークレーン1について説明する。
【0067】
この実施形態において、逃し機構110は、供給ライン62から分岐する第1逃しライン112に設けられた、供給ライン62の上限圧を決定する第1リリーフ弁111を含む。また、この実施形態においても、油圧駆動システム60は、第1実施形態と同様に、供給ライン62から分岐する逃しライン(この実施形態では、「第2逃しライン」という。)91に設けられたリリーフ弁(この実施形態では、「第2リリーフ弁」という。)81を含むが、この実施形態では、第2リリーフ弁81は、逃し機構110に含まれない。
【0068】
逃し機構110の第1リリーフ弁111では、通常、設定圧Psは通常設定圧P
1に調整されており、定期点検におけるボルト26の増し締めを行う際に、第1リリーフ弁111を調整して、設定圧Psを通常設定圧P
1から増締時設定圧P
2に変更する。これにより、旋回時負荷圧力が導かれる圧力補償用の第2リリーフ弁81で設定圧を調整することなく、工具Wが工具当接部40に当接することによってボルト26の軸心回りに付与されるトルクが、ボルト26の規定トルクと一致させることができる。また、この実施形態では、従来の設備構成を変更することなく、従来より備わっているリリーフ弁の設定圧力を調節するだけで、増締駆動ライン90の設定圧Psを増締時設定圧P
2に変更することができる。
【0069】
<その他の実施形態>
上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0070】
タワークレーン1は、陸上に設けられたものであってもよい。上で説明された工具Wの形状や種類は、一例にすぎず、これらに限定されない。また、工具当接部、第1工具案内部、第2工具案内部、支持部の形状や支持方法なども、上記実施形態で説明されたものに限られない。例えば、工具Wは、タワークレーンに取り付けられており、鉛直方向に差し込まれたボルトの頭部に係合されるものであって、工具当接部を当接させてトルクを付与させることができるものであればよい。また、上記実施形態では、増し締めの対象とされたボルトは、外輪の下方から鉛直方向に差し込まれたものであったが、これに限定されず、上方から鉛直方向に差し込まれたものであってもよい。
【0071】
上記実施形態は、油圧駆動システムによってクレーン本体を旋回させるタワークレーンであるが、これに限らず、電気モータ駆動で旋回するようなタワークレーンであってもよい。また、逃し機構は、旋回用リリーフ弁であってもよい。ただし、旋回用リリーフ弁は、直動型のリリーフ弁であり、供給ラインから分岐するラインに設けられたリリーフ弁は、直動型のリリーフ弁よりも圧力調整しやすいバランスピストン型のリリーフ弁であることが一般的である。このため、逃し機構は、増締駆動ラインの作動油の圧力調整、すなわち、クレーン本体の回転軸まわりのトルク調整がしやすくなるように、供給ラインから分岐するラインに設けられたリリーフ弁を含むものであることが好ましい。