(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような従来のガスセンサにおいて、固体電解質層の積層体(センサ素子)の外表面のうち、電極が形成されておらず固体電解質が露出している部分でも酸素イオンの移動が生じる場合があった。例えば、
図10のガスセンサ300において、固体電解質層306の上面のうち第3内部空所361の直上周辺の雰囲気(被測定ガス)と第3内部空所361内との間で、電極を介さずに固体電解質層306を酸素イオンが通過する場合があった。このような電極を介さない酸素イオンの移動は、高温下であったりセンサ素子の内外の酸素濃度差が大きいほど起こりやすい。そして、この酸素イオンの移動により、被測定ガス中の特定ガス濃度の検出精度が低下する場合があった。例えば、
図6のガスセンサ300において電極を介さない酸素イオンの移動が生じると、この酸素イオンの移動に基づいて電流Ip2にノイズが生じて、特定ガス濃度の検出精度が低下する場合があった。電流Ip2のように特定ガス濃度の検出に用いる電流は極微量の電流であることが多
いため、電極を介さない酸素イオンの移動による影響を受けやすい。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、センサ素子において、電極を介さずに測定電極設置空間と積層体の外部との間で酸素イオンが移動するのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明のセンサ素子は、
酸素イオン伝導性の固体電解質層を複数積層してなり、一端から被測定ガスを導入する被測定ガス流通部が内部に設けられた積層体と、
前記被測定ガス流通部の一部である測定電極設置空間に露出して形成された測定電極と、
前記積層体の外表面に配設された外側電極と、
前記測定電極設置空間の内周面のうち前記固体電解質層の露出部分の少なくとも一部を覆うように形成され、酸素を含む物質のうち1種類以上の物質の伝導性を有さない内側阻止層と、前記積層体の外表面における前記固体電解質層の露出部分のうち前記測定電極設置空間との距離が最小である最接近部の少なくとも一部を覆うように形成され、酸素を含む物質のうち1種類以上の物質の伝導性を有さない外側阻止層と、の少なくとも一方を有する阻止部と、
を備えたものである。
【0009】
このセンサ素子は、測定電極設置空間の内周面のうち固体電解質層の露出部分の少なくとも一部を覆うように形成された内側阻止層と、積層体の外表面における固体電解質層の露出部分のうち測定電極設置空間との距離が最小である最接近部の少なくとも一部を覆うように形成された外側阻止層と、の少なくとも一方を有する阻止部を備えている。そして、内側阻止層や外側阻止層は、酸素を含む物質のうち1種類以上の物質の伝導性(導電性ともいう)を有さない。こうすることで、固体電解質層の露出部分のうち阻止部で覆われた部分では酸素イオンの移動が抑制される。すなわち、測定電極や外側電極などの電極を介さずに測定電極設置空間と積層体の外部との間で酸素イオンが移動するのを抑制することができる。このような本発明のセンサ素子を用いたガスセンサでは、例えば、電極を介さない酸素イオンの移動に基づく測定電極−外側電極間の電流への影響を抑制することができ、被測定ガス中の特定ガス濃度の検出精度をより向上させることができる。なお、測定電極設置空間と積層体の外部との距離が小さいほど、測定電極設置空間と積層体の外部との間で電極を介さない酸素イオンの移動が起こりやすい。本発明のガスセンサでは、阻止部が外側阻止層を有する場合には、上記最接近部の少なくとも一部を覆うように外側阻止層を形成することで、電極を介さない酸素イオンの移動をより確実に抑制することができるようにしている。
【0010】
ここで、「酸素を含む物質」には、例えば、O
2,CO,CO
2,NOx,H
2Oなど化学式表記で酸素(O)を含む分子の他、化学式表記で酸素(O)を含むイオンなどを含む。「酸素を含むイオン」には、例えばO
2-やO
-などの酸素イオン(酸化物イオンともいう)を含む。また、内側阻止層や外側阻止層は、酸素を含む分子のうち1種類以上の分子の伝導性を有さないものとしてもよいし、酸素を含むイオンのうち1種類以上のイオンの伝導性を有さないものとしてもよいし、酸素を含む分子のうち1種類以上の分子の伝導性を有さず且つ酸素を含むイオンのうち1種類以上のイオンの伝導性を有さないものとしてもよい。また、内側阻止層と外側阻止層とで、伝導性を有さない物質の種類が異なっていてもよいし、同じであってもよい。なお、酸素を含む分子や酸素を含むイオン(酸素イオン以外)などの物質が固体電解質層の表面に到達すると、その物質から酸素イオンが生成されて固体電解質内を移動する場合がある。そのため、阻止層(内側阻止層や外側阻止層)が酸素イオンの伝導性を有さないものに限らず、酸素を含む物質の伝導性を有さないものであれば、上述した酸素イオンの移動を抑制する効果は得られる。なお、阻止部は、酸素を含む物質のうち被測定ガス中に存在する物質の1種類以上の伝導性を有しないものとすることが好ましい。こうすれば、電極を介さない酸素イオンの移動をより確実に抑制することができる。また、阻止部は、被測定ガス(被測定ガスの成分だけでなく被測定ガスの成分がイオン化したものも含む)と固体電解質の表面とを遮断する能力が高いものほど好ましい。具体的には、阻止部の気孔率は、8%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。また、外側阻止層は、前記積層体のうち前記被測定ガスに曝される部分に形成することが好ましい。被測定ガスに曝される部分は、電極を介さない酸素イオンの移動が起きやすいため、外側阻止層を設ける意義が高い。
【0011】
本発明のセンサ素子において、前記阻止部は前記外側阻止層を備えており、該外側阻止層は前記最接近部全体を覆っていてもよい。こうすれば、電極を介さない酸素イオンの移動を外側阻止層が抑制する効果がより高まる。
【0012】
本発明のセンサ素子において、前記阻止部が前記固体電解質層を覆う被覆面積Aと、前記測定電極設置空間の内周面のうち前記固体電解質層の露出面積Bとの面積比A/Bが0.3以上としてもよい。こうすれば、電極を介さない酸素イオンの移動を阻止部が抑制する効果がより高まる。面積比A/Bは、0.5以上とすることがより好ましい。電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果は、面積比A/Bが大きいほど高まる。ここで、被覆面積Aは、阻止部が外側阻止層と内側阻止層とを共に有する場合には、外側阻止層が固体電解質層を覆う面積と内側阻止層が固体電解質層を覆う面積との和である。また、露出面積Bは、内側阻止層で覆われた部分の面積も含む値である。また、外側阻止層が固体電解質層を覆う面積は、測定電極が固体電解質層を覆う面積以上であることが好ましい。同様に、内側阻止層が固体電解質層を覆う面積は、測定電極が固体電解質層を覆う面積以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のセンサ素子において、前記阻止部は前記内側阻止層を備えており、該内側阻止層の厚さは1μm〜30μmとすることが好ましい。内側阻止層の厚さを1μm以上とすることで、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果がより確実に得られる。また、内側阻止層の厚さを30μm以下とすることで、内側阻止層を固体電解質層上に比較的容易に形成することができる。同様に、前記阻止部が前記外側阻止層を備えている場合には、該外側阻止層の厚さは1μm〜30μmとすることが好ましい。
【0014】
本発明のセンサ素子において、前記阻止部は、前記内側阻止層を備えており、該内側阻止層は、前記測定電極設置空間の内周面のうち前記最接近部に対向する部分の少なくとも一部を覆っていてもよい。上述したように、測定電極設置空間と積層体の外部との距離が小さい箇所ほど、測定電極設置空間と積層体の外部との間で電極を介さない酸素イオンの移動が起こりやすいため、最接近部に対向する部分の少なくとも一部を内側阻止層が覆うことで、電極を介さない酸素イオンの移動をより抑制することができる。なお、「前記測定電極設置空間の内周面のうち前記最接近部に対向する部分」とは、例えば、前記固体電解質層を介して前記最接近部の反対側の部分としてもよいし、前記積層体の外表面のうち前記最接近部の部分に垂直に該最接近部を前記測定電極設置空間の内周面に投影した部分としてもよい。この場合において、前記内側阻止層は、前記測定電極設置空間の内周面のうち前記最接近部に対向する部分を全て覆うものとしてもよい。こうすれば、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果がより高まる。
【0015】
本発明のセンサ素子において、前記阻止部は前記内側阻止層及び前記外側阻止層を有するものとしてもよい。こうすれば、内側阻止層と外側阻止層との一方のみを阻止層が有する場合と比較して、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果がより高まる。
【0016】
本発明のセンサ素子において、前記積層体は直方体であり、前記阻止部は前記外側阻止層を備えており、該外側阻止層は前記積層体の複数の外表面に形成されており、前記外側阻止層は、該外側阻止層が形成されている複数の前記外表面の各々に対して前記測定電極設置空間を垂直方向に投影した投影領域を全て覆っているものとしてもよい。積層体が直方体であり複数の外表面を有する場合、各外表面において測定電極設置空間を垂直方向に投影した投影領域は、その外表面のうち測定電極設置空間との距離が最も小さい領域となる。そのため、複数の外表面に外側阻止層を形成するにあたり、外側阻止層を形成した外表面についてはこの投影領域を全て覆うようにすることで、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果をより高めることができる。
【0017】
本発明のガスセンサは、上述したいずれかの態様の本発明のセンサ素子を備えたものである。そのため、本発明のガスセンサは、本発明のセンサ素子と同様の効果、例えば、電極を介さない酸素イオンの移動に基づく測定電極−外側電極間の電流への影響を抑制して、被測定ガス中の特定ガス濃度の検出精度をより向上させる効果が得られる。
【0018】
本発明のガスセンサにおいて、前記被測定ガス流通部には、前記被測定ガスの導入口から前記測定電極設置空間までの間に、第1内部空所,第2内部空所がこの順に形成されており、前記積層体の内部に形成され、前記被測定ガス中の特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガスが導入される基準電極と、前記測定電極設置空間に前記被測定ガスを導入し、前記測定電極及び前記外側電極を介して酸素の汲み出し又は汲み入れを行う際の電流に基づいて該被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する検出手段と、前記第1内部空所に面する固体電解質上に形成された内側主ポンプ電極と前記基準電極との間に生じる起電力に基づいて、前記積層体の外表面に配設された外側主ポンプ電極と該内側主ポンプ電極との間に制御電圧を印加して、該第1内部空所内の酸素濃度が所定の主ポンプ目標濃度になるよう該内側主ポンプ電極及び該外側主ポンプ電極を介して酸素の汲み出し又は汲み入れを行う主ポンプセルと、前記第2内部空所に面する固体電解質層上に形成された内側補助ポンプ電極と前記基準電極との間に生じる起電力に基づいて、前記積層体の外表面に配設された外側補助ポンプ電極と該内側補助ポンプ電極との間に制御電圧を印加して、該第2内部空所内の酸素濃度が所定の補助ポンプ目標濃度になるよう該内側補助ポンプ電極及び該外側補助ポンプ電極を介して酸素の汲み出し又は汲み入れを行う補助ポンプセルと、を備えたものとしてもよい。こうすることで、被測定ガスが第1内部空所を通過する際に被測定ガス中の酸素濃度を所定の主ポンプ目標濃度に調整し、さらに被測定ガスが第2内部空所を通過する際に被測定ガス中の酸素濃度を所定の補助ポンプ目標濃度に調整するため、測定電極設置空間内に到達する被測定ガスの酸素濃度を高精度に一定に保つことができる。これにより、被測定ガス中の特定ガス濃度の検出精度をより向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態の一例であるセンサ素子101を備えたガスセンサ100の概略構成について説明する。
図1は、ガスセンサ100の構成の一例を概略的に示した断面模式図である。このガスセンサ100は、被測定ガス中のNOx濃度を検出するセンサ素子101を備えている。
【0021】
センサ素子101は、それぞれがジルコニア(ZrO
2)等の酸素イオン伝導性固体電解質層からなる第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6との6つの層が、図面視で下側からこの順に積層された積層体を有する素子である。また、これら6つの層を形成する固体電解質は緻密な気密のものである。係るセンサ素子101は、例えば、各層に対応するセラミックスグリーンシートに所定の加工および回路パターンの印刷などを行った後にそれらを積層し、さらに、焼成して一体化させることによって製造される。
【0022】
センサ素子101の一端(
図1の左側)であって、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、緩衝空間12と、第2拡散律速部13と、第1内部空所20と、第3拡散律速部30と、第2内部空所40と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。
【0023】
ガス導入口10と、緩衝空間12と、第1内部空所20と、第2内部空所40と、第3内部空所61とは、スペーサ層5をくり抜いた態様にて設けられた上部を第2固体電解質層6の下面で、下部を第1固体電解質層4の上面で、側部をスペーサ層5の側面で区画されたセンサ素子101内部の空間である。
【0024】
第1拡散律速部11と、第2拡散律速部13と、第3拡散律速部30と、第4拡散律速部60とはいずれも、2本の横長の(図面に垂直な方向に開口が長手方向を有する)スリットとして設けられる。なお、ガス導入口10から第3内部空所61に至る部位を被測定ガス流通部とも称する。
【0025】
また、被測定ガス流通部よりも一端側から遠い位置には、第3基板層3の上面と、スペーサ層5の下面との間であって、側部を第1固体電解質層4の側面で区画される位置に基準ガス導入空間43が設けられている。基準ガス導入空間43には、NOx濃度の測定を行う際の基準ガスとして、例えば大気が導入される。
【0026】
大気導入層48は、多孔質アルミナからなり、基準ガス導入空間43に露出している層である。この大気導入層48には基準ガス導入空間43を通じて基準ガスが導入されるようになっている。また、大気導入層48は、基準電極42を被覆するように形成されている。この大気導入層48は、基準ガス導入空間43内の基準ガスに対して所定の拡散抵抗を付与しつつこれを基準電極42に導入する。なお、大気導入層48は、基準電極42よりもセンサ素子101の他端側(
図1の右側)でのみ基準ガス導入空間43に露出するように形成されている。このため、例えば基準ガス導入空間43が
図1における基準電極42の真上まで形成されているような場合と比較して、基準ガス導入空間43から基準電極42までの基準ガスの経路が長くなり、大気導入層48によって基準ガスに所定の高い拡散抵抗を付与しやすくなっている。ここで、基準ガスに付与される拡散抵抗が高いほど、基準電極42に到達する基準ガスに含まれる酸素の量が少なくなる。そのため、所定の高い拡散抵抗を付与することで、基準電極42を用いて被測定ガス流通部内の酸素濃度(酸素分圧)を測定するにあたり、被測定ガス流通部内のわずかな酸素濃度の変化を検出しやすくなり、検出感度を向上させることができる。また、例えば基準ガス導入空間43が
図1における基準電極42の真上まで形成されているような場合には、基準ガスによって基準電極42が被毒しやすくなるが、本実施形態ではこれを防止することができる。なお、以上のような効果は得られなくなるが、基準電極42が基準ガス導入空間43の
図1における真下に形成されていてもよい。
【0027】
基準電極42は、第3基板層3の上面と第1固体電解質層4とに挟まれる態様にて形成される電極であり、上述のように、その周囲には、基準ガス導入空間43につながる大気導入層48が設けられている。なお、基準電極42は、第3基板層3の上面に直に形成されており、第3基板層3の上面に接する部分以外が大気導入層48に覆われている。また、後述するように、基準電極42を用いて第1内部空所20内,第2内部空所40内,第3内部空所61内の酸素濃度(酸素分圧)を測定することが可能となっている。
【0028】
被測定ガス流通部において、ガス導入口10は、外部空間に対して開口してなる部位であり、該ガス導入口10を通じて外部空間からセンサ素子101内に被測定ガスが取り込まれるようになっている。第1拡散律速部11は、ガス導入口10から取り込まれた被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。緩衝空間12は、第1拡散律速部11より導入された被測定ガスを第2拡散律速部13へと導くために設けられた空間である。第2拡散律速部13は、緩衝空間12から第1内部空所20に導入される被測定ガスに対して、所定の拡散抵抗を付与する部位である。被測定ガスが、センサ素子101外部から第1内部空所20内まで導入されるにあたって、外部空間における被測定ガスの圧力変動(被測定ガスが自動車の排気ガスの場合であれば排気圧の脈動)によってガス導入口10からセンサ素子101内部に急激に取り込まれた被測定ガスは、直接第1内部空所20へ導入されるのではなく、第1拡散律速部11、緩衝空間12、第2拡散律速部13を通じて被測定ガスの濃度変動が打ち消された後、第1内部空所20へ導入されるようになっている。これによって、第1内部空所20へ導入される被測定ガスの濃度変動はほとんど無視できる程度のものとなる。第1内部空所20は、第2拡散律速部13を通じて導入された被測定ガス中の酸素分圧を調整するための空間として設けられている。係る酸素分圧は、主ポンプセル21が作動することによって調整される。
【0029】
主ポンプセル21は、第1内部空所20に面する第2固体電解質層6の下面のほぼ全面に設けられた天井電極部22aを有する内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6の上面の天井電極部22aと対応する領域に外部空間に露出する態様にて設けられた外側ポンプ電極23と、これらの電極に挟まれた第2固体電解質層6とによって構成されてなる電気化学的ポンプセルである。
【0030】
内側ポンプ電極22は、第1内部空所20を区画する上下の固体電解質層(第2固体電解質層6および第1固体電解質層4)、および、側壁を与えるスペーサ層5にまたがって形成されている。具体的には、第1内部空所20の天井面を与える第2固体電解質層6の下面には天井電極部22aが形成され、また、底面を与える第1固体電解質層4の上面には底部電極部22bが直に形成され、そして、それら天井電極部22aと底部電極部22bとを接続するように、側部電極部(図示省略)が第1内部空所20の両側壁部を構成するスペーサ層5の側壁面(内面)に形成されて、該側部電極部の配設部位においてトンネル形態とされた構造において配設されている。
【0031】
内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23とは、多孔質サーメット電極(例えば、Auを1%含むPtとZrO
2とのサーメット電極)として形成される。なお、被測定ガスに接触する内側ポンプ電極22は、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0032】
主ポンプセル21においては、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に所望のポンプ電圧Vp0を印加して、内側ポンプ電極22と外側ポンプ電極23との間に正方向あるいは負方向にポンプ電流Ip0を流すことにより、第1内部空所20内の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間の酸素を第1内部空所20に汲み入れることが可能となっている。
【0033】
また、第1内部空所20における雰囲気中の酸素濃度(酸素分圧)を検出するために、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、基準電極42によって、電気化学的なセンサセル、すなわち、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80が構成されている。
【0034】
主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80における起電力V0を測定することで第1内部空所20内の酸素濃度(酸素分圧)がわかるようになっている。さらに、起電力V0が一定となるように可変電源25のポンプ電圧Vp0をフィードバック制御することでポンプ電流Ip0が制御されている。これによって、第1内部空所内20内の酸素濃度は所定の一定値に保つことができる。
【0035】
第3拡散律速部30は、第1内部空所20で主ポンプセル21の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第2内部空所40に導く部位である。
【0036】
第2内部空所40は、あらかじめ第1内部空所20において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第3拡散律速部30を通じて導入された被測定ガスに対して、さらに補助ポンプセル50による酸素分圧の調整を行うための空間として設けられている。これにより、第2内部空所40内の酸素濃度を高精度に一定に保つことができるため、係るガスセンサ100においては精度の高いNOx濃度測定が可能となる。
【0037】
補助ポンプセル50は、第2内部空所40に面する第2固体電解質層6の下面の略全体に設けられた天井電極部51aを有する補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23(外側ポンプ電極23に限られるものではなく、センサ素子101の外側の適当な電極であれば足りる)と、第2固体電解質層6とによって構成される、補助的な電気化学的ポンプセルである。
【0038】
係る補助ポンプ電極51は、先の第1内部空所20内に設けられた内側ポンプ電極22と同様なトンネル形態とされた構造において、第2内部空所40内に配設されている。つまり、第2内部空所40の天井面を与える第2固体電解質層6に対して天井電極部51aが形成され、また、第2内部空所40の底面を与える第1固体電解質層4の上面には、底部電極部51bが直に形成され、そして、それらの天井電極部51aと底部電極部51bとを連結する側部電極部(図示省略)が、第2内部空所40の側壁を与えるスペーサ層5の両壁面にそれぞれ形成されたトンネル形態の構造となっている。なお、補助ポンプ電極51についても、内側ポンプ電極22と同様に、被測定ガス中のNOx成分に対する還元能力を弱めた材料を用いて形成される。
【0039】
補助ポンプセル50においては、補助ポンプ電極51と外側ポンプ電極23との間に所望の電圧Vp1を印加することにより、第2内部空所40内の雰囲気中の酸素を外部空間に汲み出し、あるいは、外部空間から第2内部空所40内に汲み入れることが可能となっている。
【0040】
また、第2内部空所40内における雰囲気中の酸素分圧を制御するために、補助ポンプ電極51と、基準電極42と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81が構成されている。
【0041】
なお、この補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81にて検出される起電力V1に基づいて電圧制御される可変電源52にて、補助ポンプセル50がポンピングを行う。これにより第2内部空所40内の雰囲気中の酸素分圧は、NOxの測定に実質的に影響がない低い分圧にまで制御されるようになっている。
【0042】
また、これとともに、そのポンプ電流Ip1が、主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80の起電力の制御に用いられるようになっている。具体的には、ポンプ電流Ip1は、制御信号として主ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル80に入力され、その起電力V0が制御されることにより、第3拡散律速部30から第2内部空所40内に導入される被測定ガス中の酸素分圧の勾配が常に一定となるように制御されている。NOxセンサとして使用する際は、主ポンプセル21と補助ポンプセル50との働きによって、第2内部空所40内での酸素濃度は約0.001ppm程度の一定の値に保たれる。
【0043】
第4拡散律速部60は、第2内部空所40で補助ポンプセル50の動作により酸素濃度(酸素分圧)が制御された被測定ガスに所定の拡散抵抗を付与して、該被測定ガスを第3内部空所61に導く部位である。第4拡散律速部60は、第3内部空所61に流入するNOxの量を制限する役割を担う。
【0044】
第3内部空所61は、あらかじめ第2内部空所40において酸素濃度(酸素分圧)が調整された後、第4拡散律速部60を通じて導入された被測定ガスに対して、被測定ガス中の窒素酸化物(NOx)濃度の測定に係る処理を行うための空間として設けられている。NOx濃度の測定は、主として、第3内部空所61において、測定用ポンプセル41の動作により行われる。
【0045】
測定用ポンプセル41は、第3内部空所61内において、被測定ガス中のNOx濃度の測定を行う。測定用ポンプセル41は、第3内部空所61に面する第1固体電解質層4の上面に直に設けられた測定電極44と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4とによって構成された電気化学的ポンプセルである。測定電極44は、多孔質サーメット電極である。測定電極44は、第3内部空所61内の雰囲気中に存在するNOxを還元するNOx還元触媒としても機能する。
【0046】
測定用ポンプセル41においては、測定電極44の周囲の雰囲気中における窒素酸化物の分解によって生じた酸素を汲み出して、その発生量をポンプ電流Ip2として検出することができる。
【0047】
また、測定電極44の周囲の酸素分圧を検出するために、第1固体電解質層4と、測定電極44と、基準電極42とによって電気化学的なセンサセル、すなわち、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82が構成されている。測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された起電力V2に基づいて可変電源46が制御される。
【0048】
第2内部空所40内に導かれた被測定ガスは、酸素分圧が制御された状況下で第4拡散律速部45を通じて第3内部空所61の測定電極44に到達することとなる。測定電極44の周囲の被測定ガス中の窒素酸化物は還元されて(2NO→N
2+O
2)酸素を発生する。そして、この発生した酸素は測定用ポンプセル41によってポンピングされることとなるが、その際、測定用ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル82にて検出された制御電圧V2が一定となるように可変電源46の電圧Vp2が制御される。測定電極44の周囲において発生する酸素の量は、被測定ガス中の窒素酸化物の濃度に比例するものであるから、測定用ポンプセル41におけるポンプ電流Ip2を用いて被測定ガス中の窒素酸化物濃度が算出されることとなる。
【0049】
また、測定電極44と、第1固体電解質層4と、第3基板層3と、基準電極42とを組み合わせて、電気化学的センサセルとして酸素分圧検出手段を構成するようにすれば、測定電極44の周りの雰囲気中のNOx成分の還元によって発生した酸素の量と基準大気に含まれる酸素の量との差に応じた起電力を検出することができ、これによって被測定ガス中のNOx成分の濃度を求めることも可能である。
【0050】
また、第2固体電解質層6と、スペーサ層5と、第1固体電解質層4と、外側ポンプ電極23と、基準電極42とから電気化学的なセンサセル83が構成されており、このセンサセル83によって得られる起電力Vrefによりセンサ外部の被測定ガス中の酸素分圧を検出可能となっている。
【0051】
このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21と補助ポンプセル50とを作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。したがって、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができるようになっている。
【0052】
さらに、センサ素子101は、固体電解質の酸素イオン伝導性を高めるために、センサ素子101を加熱して保温する温度調整の役割を担うヒータ部70を備えている。ヒータ部70は、ヒータ電極71と、ヒータ72と、スルーホール73と、ヒータ絶縁層74と、圧力放散孔75と、リード線76とを備えている。
【0053】
ヒータ電極71は、第1基板層1の下面に接する態様にて形成されてなる電極である。ヒータ電極71を外部電源と接続することによって、外部からヒータ部70へ給電することができるようになっている。
【0054】
ヒータ72は、第2基板層2と第3基板層3とに上下から挟まれた態様にて形成される電気抵抗体である。ヒータ72は、リード線76及びスルーホール73を介してヒータ電極71と接続されており、該ヒータ電極71を通して外部より給電されることにより発熱し、センサ素子101を形成する固体電解質の加熱と保温を行う。
【0055】
また、ヒータ72は、第1内部空所20から第3内部空所61の全域に渡って埋設されており、センサ素子101全体を上記固体電解質が活性化する温度に調整することが可能となっている。
【0056】
ヒータ絶縁層74は、ヒータ72の上下面に、アルミナ等の絶縁体によって形成された多孔質アルミナからなる絶縁層である。ヒータ絶縁層74は、第2基板層2とヒータ72との間の電気的絶縁性、および、第3基板層3とヒータ72との間の電気的絶縁性を得る目的で形成されている。
【0057】
圧力放散孔75は、第3基板層3を貫通し、基準ガス導入空間43に連通するように設けられてなる部位であり、ヒータ絶縁層74内の温度上昇に伴う内圧上昇を緩和する目的で形成されてなる。
【0058】
さらに、センサ素子101は、阻止部65を備えている。この阻止部65は、第3内部空所61内に形成された内側阻止層66と、第2固体電解質層6の
図1における上面に形成された外側阻止層67と、を有している。
【0059】
内側阻止層66及び外側阻止層67は、外側電極23や測定電極44などの電極を介さずに酸素イオンが積層体(第2固体電解質層6)内を移動するのを抑制するためのものである。内側阻止層66及び外側阻止層67は、酸素を含む物質のうち1種類以上の物質の伝導性を有さないものであり、例えばアルミナ,石英ガラス,ソーダガラス,シリカ,ムライト,窒化ケイ素,炭化ケイ素などにより形成されている。なお、「酸素を含む物質」には、例えば、O
2,CO,CO
2,NOx,H
2Oなど化学式表記で酸素(O)を含む分子の他、化学式表記で酸素(O)を含むイオンなどを含む。「酸素を含むイオン」には、例えばO
2-やO
-などの酸素イオン(酸化物イオンともいう)を含む。内側阻止層66及び外側阻止層67は、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果が高まるため、気孔率が小さいほど、厚みが厚いほど好ましい。具体的には、阻止部65の気孔率は、0%以上8%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。内側阻止層66及び外側阻止層67の厚さは、1μm〜30μmとすることが好ましい。厚さを1μm以上とすることで、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果がより確実に得られる。また、厚さを30μm以下とすることで、内側阻止層66や外側阻止層67を固体電解質層上に比較的容易に形成することができる。なお、内側阻止層66と外側阻止層67とは同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。また、気孔率や厚さなどもそれぞれ同じでもよいし異なっていてもよい。
【0060】
内側阻止層66及び外側阻止層67が形成される位置について詳細に説明する。
図2は、
図1のA−A断面図であり、
図3は、
図2のB視図である。内側阻止層66は、第3内部空所61の内周面のうち固体電解質層(第1,第2固体電解質層4,6及びスペーサ層5)の露出部分の少なくとも一部を覆うように形成されている。また、外側阻止層67は、第2固体電解質層6の外表面の1つである
図1の上面において、内側阻止層66と対向するように形成されている。
【0061】
そして、外側阻止層67は、センサ素子101の外表面における固体電解質層の露出部分のうち第3内部空所61との距離が最小である第2固体電解質層6の最接近部6aの全体を覆い、さらに最接近部6aの周辺も覆うように形成されている。ここで、センサ素子101は直方体であるため、センサ素子101の外表面として、第1面101a(
図2における上面),第2面101b(
図2における下面),第3面101c(
図2における左側面),第4面101d(
図2における右側面),第5面101e(
図3における左端面),第6面101f(
図3における右端面)、の6面を有している。本実施形態では、第3内部空所61から第1面〜第6面101a〜101fまでの距離をそれぞれ距離X1〜X6とすると、第3内部空所61から第1面101aまでの距離X1が最小となるように形成されている。そこで、この第1面101aのうち、第3内部空所61との距離が最小である部分を最接近部6aとして、この最接近部6aを覆うように外側阻止層67が形成されている。なお、最接近部6aは、第3内部空所61を第1面101aに対して垂直に投影したときの投影面でもある。
【0062】
また、内側阻止層66は、第3内部空所61の内周面のうち最接近部6aに対向する部分(すなわち第3内部空所61の天井面である第2固体電解質層6の下面)の略全体を覆っている。換言すると、内側阻止層66を第1面101aに対して垂直に投影したときの投影面は、最接近部6aと略一致する。
【0063】
そして、阻止部65は、阻止部65が固体電解質層を覆う被覆面積Aと、第3内部空所61の内周面のうち固体電解質層の露出面積Bとの面積比A/Bが0.3以上となるように形成されている。なお、阻止部65が固体電解質層を覆う被覆面積Aとは、内側阻止層66が固体電解質層を覆う面積と、外側阻止層67が固体電解質層を覆う面積との和である。また、露出面積Bは、内側阻止層66で覆われた部分の面積も含む値である。すなわち、露出面積Bは、内側阻止層66を無視した場合における、第3内部空所61の内周面のうち固体電解質層の露出面積である。本実施形態では、第3内部空所61に形成されているのは内側阻止層66と測定電極44とであるため、第3内部空所61の内周面(6つの面)のうち測定電極44に覆われていない部分の面積が露出面積Bとなる。この面積比A/Bが大きいほど、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果が高まる。なお、面積比A/Bは0.5以上とすることがより好ましい。また、内側阻止層66が固体電解質層を覆う面積は、測定電極44が固体電解質層を覆う面積以上であることが好ましい。同様に、外側阻止層67が固体電解質層を覆う面積も、測定電極44が固体電解質層を覆う面積以上であることが好ましい。内側阻止層66や外側阻止層67が固体電解質層を覆う面積を測定電極44が固体電解質層を覆う面積以上とすることで、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果が十分なものになりやすい。
【0064】
次に、こうしたガスセンサ100のセンサ素子101の製造方法の一例を以下に説明する。まず、ジルコニアなどの酸素イオン伝導性固体電解質をセラミックス成分として含む6枚の未焼成のセラミックスグリーンシートを用意する。このグリーンシートには、印刷時や積層時の位置決めに用いるシート穴や必要なスルーホール等を予め複数形成しておく。また、スペーサ層5となるグリーンシートには被測定ガス流通部となる空間を予め打ち抜き処理などによって設けておく。第1固体電解質層4となるグリーンシートにも、同様に基準ガス導入空間43となる空間を設けておく。そして、第1基板層1と、第2基板層2と、第3基板層3と、第1固体電解質層4と、スペーサ層5と、第2固体電解質層6のそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに種々のパターンを形成するパターン印刷・乾燥処理を行う。形成するパターンは、具体的には、例えば上述した各電極や各リード線、大気導入層48,ヒータ部70,阻止部65などのパターンである。パターン印刷は、それぞれの形成対象に要求される特性に応じて用意したパターン形成用ペーストを、公知のスクリーン印刷技術を利用してグリーンシート上に塗布することにより行う。乾燥処理についても、公知の乾燥手段を用いて行う。パターン印刷・乾燥が終わると、各層に対応するグリーンシート同士を積層・接着するための接着用ペーストの印刷・乾燥処理を行う。そして、接着用ペーストを形成したグリーンシートをシート穴により位置決めしつつ所定の順序に積層して、所定の温度・圧力条件を加えることで圧着させ、一つの積層体とする圧着処理を行う。こうして得られた積層体は、複数個のセンサ素子101を包含したものである。その積層体を切断してセンサ素子101の大きさに切り分ける。そして、切り分けた積層体を所定の焼成温度で焼成し、センサ素子101を得る。このようにしてセンサ素子101を得ると、所定のハウジングに収容してガスセンサ100の本体(図示せず)に組み込むことで、ガスセンサ100が得られる。
【0065】
以上説明したガスセンサ100では、センサ素子101の内側阻止層66及び外側阻止層67が酸素を含む物質のうち1種類以上の伝導性を有さないことで、積層体の表面のうち内側阻止層66や外側阻止層67に覆われている部分では酸素イオンの移動が抑制される。例えば、外側阻止層67が酸素イオンの伝導性を有さない場合には、積層体の表面のうち外側阻止層67が覆っている部分では、外部と積層体内部との間での酸素イオンの移動が抑制される。内側阻止層66が酸素イオンの伝導性を有さない場合には、積層体の表面のうち内側阻止層66が覆っている部分では、第3内部空所61と積層体内部との間での酸素イオンの移動が抑制される。また、酸素イオンの伝導性を有さない場合に限らず、内側阻止層66や外側阻止層67が酸素を含む物質の1種類以上の伝導性を有しなければ、同様に酸素イオンの移動を抑制する効果が得られる。積層体の表面に酸素イオン以外の酸素を含む物質が到達すると、この物質から酸素イオンが生成される場合があるが、これを抑制できるためである。このように、内側阻止層66及び外側阻止層67を有することで、測定電極44や外側ポンプ電極23などの電極を介さずに第3内部空所61と積層体の外部との間で酸素イオンが移動するのを抑制するのである。
【0066】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の第1基板層1,第2基板層2,第3基板層3,第1固体電解質層4,スペーサ層5及び第2固体電解質層6が本発明の積層体に相当し、測定電極44が測定電極に相当し、第3内部空所61が測定電極設置空間に相当し、外側ポンプ電極23が外側電極,外側主ポンプ電極,外側補助ポンプ電極に相当し、測定用ポンプセル41が検出手段に相当し、内側阻止層66及び外側阻止層67を有する阻止部65が阻止部に相当する。また、基準電極42が基準電極に相当し、内側ポンプ電極22が内側主ポンプ電極に相当し、主ポンプセル21が主ポンプセルに相当し、補助ポンプ電極51が内側補助ポンプ電極に相当し、補助ポンプセル50が補助ポンプセルに相当する。なお、本実施形態では、センサ素子101を備えたガスセンサ100についても説明することにより、本発明のガスセンサの一例も明らかにしている。
【0067】
以上詳述した本実施形態のセンサ素子101によれば、第3内部空所61の内周面のうち固体電解質層の露出部分の少なくとも一部を覆うように形成された内側阻止層66と、積層体の外表面における固体電解質層の露出部分のうち第3内部空所61との距離が最小である最接近部6aの少なくとも一部を覆うように形成された外側阻止層67と、を有する阻止部65を備えている。そして、内側阻止層66や外側阻止層67は、酸素を含む物質のうち1種類以上の物質の伝導性を有さない。こうすることで、固体電解質層の露出部分のうち阻止部65で覆われた部分では酸素イオンの移動が抑制される。すなわち、測定電極44や外側ポンプ電極23などの電極を介さずに第3内部空所61と積層体の外部との間で酸素イオンが移動するのを抑制することができる。ここで、このような電極を介さない酸素イオンの移動が生じると、これに基づいて例えばポンプ電流Ip2にノイズが生じる。上述したように、ガスセンサ100は、被測定ガス中のNOx濃度をポンプ電流Ip2に基づいて検出することができるが、このポンプ電流Ip2にノイズが生じると、ポンプ電流Ip2がNOx濃度を正確に反映しない値となり、検出精度が低下する。本実施形態のガスセンサ100では、このような電極を介さない酸素イオンの移動を阻止部65で抑制することで、ポンプ電流Ip2への影響を抑制することができ、被測定ガス中のNOx濃度の検出精度をより向上させることができる。なお、第3内部空所61と積層体の外部との距離が小さい箇所ほど、第3内部空所61とセンサ素子101の外部との間で電極を介さない酸素イオンの移動が起こりやすい。本実施形態のガスセンサ100では、積層体の外表面における固体電解質層の露出部分のうち第3内部空所61との距離が最小である最接近部6aの少なくとも一部を覆うように外側阻止層67を形成することで、電極を介さない酸素イオンの移動をより確実に抑制することができる。
【0068】
また、外側阻止層67は最接近部6a全体を覆っているため、電極を介さない酸素イオンの移動を外側阻止層67が抑制する効果がより高まる。
【0069】
さらに、阻止部65が固体電解質層を覆う被覆面積Aと、第3内部空所61の内周面のうち固体電解質層の露出面積Bとの面積比A/Bが0.3以上であるため、電極を介さない酸素イオンの移動をより抑制することができる。
【0070】
さらにまた、阻止部65の気孔率を5%以下とすることで、電極を介さない酸素イオンの移動をより抑制することができる。
【0071】
そしてまた、内側阻止層66は、第3内部空所61の内周面のうち最接近部6aに対向する部分(第2固体電解質層6を介して最接近部6aの反対側の部分)の全体を覆っている。ここで、上述したように、第3内部空所61と積層体の外部との距離が小さい箇所ほど、電極を介さない酸素イオンの移動が起こりやすい。そのため、最接近部6aに対向する部分を内側阻止層が覆うことで、電極を介さない酸素イオンの移動をより抑制することができる。
【0072】
そしてまた、阻止部65は、内側阻止層66と外側阻止層67とを共に有するため、一方のみを有する場合と比較して、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果がより高まる。
【0073】
そしてまた、被測定ガス流通部には第1内部空所20,第2内部空所40,第3内部空所61が形成され、被測定ガスが第1内部空所を通過する際に主ポンプセル21が被測定ガス中の酸素濃度を所定の主ポンプ目標濃度に調整し、さらに被測定ガスが第2内部空所を通過する際に補助ポンプセル50が被測定ガス中の酸素濃度を所定の補助ポンプ目標濃度に調整する。このため、第3内部空所61に到達する被測定ガスの酸素濃度を高精度に一定に保つことができる。これにより、被測定ガス中の特定ガス濃度の検出精度をより向上させることができる。
【0074】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施しうることは言うまでもない。
【0075】
例えば、上述した実施形態では、阻止部65は内側阻止層66と外側阻止層67とを共に備えるものとしたが、いずれか一方のみを備えるものとしてもよい。こうしても、内側阻止層66と外側阻止層67との一方により、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制することはできる。
【0076】
上述した実施形態では、内側阻止層66は、第3内部空所61の内周面のうち最接近部6aと対向する部分の全面を覆うものとしたが、最接近部6aと対向する部分の少なくとも一部を覆うものとしてもよい。また、第3内部空所61の内周面のうち最接近部6aと対向する部分以外についても内側阻止層66が覆うものとしてもよいし、第3内部空所61の内周面のうち最接近部6aと対向する部分以外のみを内側阻止層66が覆うものとしてもよい。ただし、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果を高めるためには、最接近部6aと対向する部分の少なくとも一部を内側阻止層66が覆うことが好ましい。なお、内側阻止層66は、第3内部空所61の内周面のうち、固体電解質層が露出していない箇所を覆う必要はない。例えば、第3内部空所61の内周面のうち最接近部6aと対向する部分の一部に固体電解質層が露出していない部分がある場合には、そのような箇所を除いて最接近部6aと対向する部分の一部又は全てを覆うものとすればよい。特に、測定電極44などの電極が形成されている箇所は覆わないことが好ましい。同様に、外側阻止層67も、固体電解質層が露出していない箇所を覆う必要はなく、外側ポンプ電極23などの電極が形成されている箇所は覆わないことが好ましい。
【0077】
上述した実施形態では、外側阻止層67は、最接近部6a全体を覆い、さらにその周辺も覆うものとしたが、これに限られない。例えば、第1面101aのうち、
図1〜3に示した外側阻止層67から離間した箇所を覆う外側阻止層をさらに設けてもよい。あるいは、外側阻止層67は最接近部6a全体のみを覆うものとしてもよいし、最接近部6aの少なくとも一部を覆うものとしてもよい。ただし、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果を高めるためには、最接近部6a全体を外側阻止層67が覆うことが好ましい。また、最接近部6aの存在する第1面101a以外の1以上の面についても外側阻止層67が覆うものとしてもよい。
図4に、変形例のガスセンサ100の斜視図を示す。
図4では、上述した外側阻止層67の他に、第4面101dの一部を覆う外側阻止層67dをさらに設けている。このように、外側阻止層67が固体電解質層の露出部分を覆う面積が増えるほど、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果は高まる。なお、図示するように、外側阻止層67dは、第3内部空所61を第4面101dに垂直に投影したときの投影領域6dを全て覆い、さらにその周辺も覆うように形成されている。このように、最接近部6aを有する面(第1面101a)以外の外表面にも外側阻止層を形成する場合、外側阻止層が形成されている複数の外表面の各々(
図4では第1面101a及び第4面101d)に対して第3内部空所61を垂直方向に投影した投影領域(
図4では最接近部6a及び投影領域6d)の全てを外側阻止層が覆うようにすることが好ましい。こうすれば、外側阻止層が形成されている複数の外表面の各々について、外表面のうち第3内部空所61との距離が最も小さい領域(投影領域)を覆うことができるため、電極を介さない酸素イオンの移動を抑制する効果をより高めることができる。
【0078】
上述した実施形態では、
図2,3に示した距離X1〜X6のうち距離X1が最小であるものとしたが、これに限られない。例えば、距離X4が最小であってもよい。この場合には、
図4における投影領域6dが最接近部となるため、外側阻止層は少なくとも投影領域6dの一部を覆うように形成すればよい。また、例えば距離X1〜X6のうち距離X3と距離X4とが等しく共に最小であるときには、第3内部空所61を第3面101cに垂直に投影したときの投影領域と投影領域6dとが共に最接近部となるため、外側阻止層は少なくともこれらの一方の少なくとも一部を覆うように形成すればよい。なお、「最接近部」は、上述したように、センサ素子101の外表面における「固体電解質層の露出部分のうち」第3内部空所61との距離が最小である部分である。そのため、例えば
図2,
図3における外側阻止層67と同じ位置に電極が形成されているような場合には、第一面101aのうちその電極で覆われている部分は「固体電解質層の露出部分」ではないため、その部分は最接近部とはしない。この場合、その電極の周辺における固体電解質層の露出部分と第3内部空所61との距離が距離X2〜X6よりも小さければ、その電極の周辺の露出部分が最接近部となる。ガス導入口10のように、固体電解質層が表面に存在しない部分についても、同様に最接近部とはしない。
【0079】
上述した実施形態では、主ポンプセル21は、外側ポンプ電極23と、内側ポンプ電極22と、第2固体電解質層6とによって構成されるものとしたが、外側ポンプ電極23の代わりに、センサ素子101の外側に設けられた他の電極(外側主ポンプ電極)を用いてもよい。同様に、補助ポンプセル50は、補助ポンプ電極51と、外側ポンプ電極23と、第2固体電解質層6とによって構成されるものとしたが、外側ポンプ電極23の代わりに、センサ素子101の外側に設けられた他の電極(以下、外側補助ポンプ電極)を用いてもよい。
【0080】
上述した実施形態では、内側ポンプ電極22は、天井電極部22a,底部電極部22b及び側部電極部からなるトンネル形態の電極としたが、例えば天井電極部22aのみからなるものとしたり底部電極部22bのみからなるものとしたりするなど、トンネル形態に限られない。同様に、補助ポンプ電極51についても、トンネル形態に限られるものではない。
【0081】
上述した実施形態では、ガスセンサ100のセンサ素子101は第1内部空所20,第2内部空所40,第3内部空所61を備えるものとしたが、これに限られない。例えば、第2内部空所40を備えないものとしてもよい。この場合の変形例のガスセンサ100の模式断面図を
図5に示す。図示するように、この変形例のガスセンサ100では、第2固体電解質層6の下面と第1固体電解質層4の上面との間には、ガス導入口10と、第1拡散律速部11と、第1内部空所20と、第4拡散律速部60と、第3内部空所61とが、この順に連通する態様にて隣接形成されてなる。また、上述した実施形態と異なり、ガスセンサ100が補助ポンプセル50,補助ポンプ制御用酸素分圧検出センサセル81を備えていない。このような構成を有するガスセンサ100においては、主ポンプセル21を作動させることによって酸素分圧が常に一定の低い値(NOxの測定に実質的に影響がない値)に保たれた被測定ガスが測定用ポンプセル41に与えられる。そして、被測定ガス中のNOxの濃度に略比例して、NOxの還元によって発生する酸素が測定用ポンプセル41より汲み出されることによって流れるポンプ電流Ip2に基づいて、被測定ガス中のNOx濃度を知ることができる。そして、このような構成のガスセンサであっても、上述した実施形態と同様に阻止部65を設けることで、本実施形態と同様に、電極を介さない酸素イオンの移動を阻止部65で抑制してポンプ電流Ip2への影響を抑制することができ、被測定ガス中のNOx濃度の検出精度をより向上させることができる。
【0082】
上述した実施形態では、本発明のセンサ素子を、可変電源25,46,52などを備えたセンサ素子101に具体化した例を示したが、本発明のセンサ素子は、これら可変電源25,46,52や外部配線などの構成を除いた、センサ素子101単体として具体化してもよい。
【実施例】
【0083】
[実施例1]
上述した製造方法により
図1〜3に示したセンサ素子101を10個製造し、実施例1とした。実施例1の内側阻止層66及び外側阻止層67は、材質がアルミナであり、気孔率は5%、厚さは5μmとした。また、測定電極44が固体電解質層を覆う面積は0.4mm
2とし、第3内部空所61の内周面うち固体電解質層の露出面積Bは1.4mm
2とし、内側阻止層66が固体電解質層を覆う面積は0.7mm
2とし、外側阻止層67が固体電解質層を覆う面積は0.4mm
2とした。この結果、阻止部65が固体電解質層を覆う被覆面積Aは1.1mm
2であり、面積比A/Bは0.8であった。
[実施例2,3,比較例1]
【0084】
阻止部65が外側阻止層67のみを備える点(面積比A/B=0.4/1.4=0.3)以外は、実施例1と同様のセンサ素子を10個製造し、実施例2とした。阻止部65が内側阻止層66のみを備える点(面積比A/B=0.7/1.4=0.5)以外は、実施例1と同様のセンサ素子を10個製造し、実施例3とした。阻止部65を備えない点(面積比A/B=0)以外は、実施例1と同様のセンサ素子を10個製造し、比較例1とした。
【0085】
[評価試験1]
実施例1〜3,比較例1のセンサ素子を所定の雰囲気中(窒素濃度=79%,酸素濃度=18%,NOx濃度=0%,水分=3%)にてヒータにより通常駆動時の温度(800℃)に保ち、NOx信号オフセット値(測定用ポンプセル41のポンプ電流Ip2)を測定した。測定は、実施例1〜3,比較例1についてそれぞれ10個の素子について行った。測定した10個の電流値の最大値,最小値,平均値をそれぞれ測定した。結果を
図6に示す。図示するように、阻止部65を備えている実施例1〜3は、いずれも比較例1と比べてNOx信号オフセット値が低い傾向にあった。また、実施例1〜3を比較すると、内側阻止層66と外側阻止層67とを共に備える実施例1が最もNOx信号オフセット値が低い傾向にあり、次いで外側阻止層67と内側阻止層66のいずれか一方を備える実施例2,3のNOx信号オフセット値が低い傾向にあった。なお、大気中でのNOx信号オフセット値は理論的には0μAであり、数値が高いほどNOx濃度とは無関係の要因によりポンプ電流Ip2が流れていることを意味する。実施例1〜3では、阻止部65を備えることで電極を介さない酸素イオンの移動が抑制されていることにより、NOx信号オフセット値が小さくなっていると考えられる。
【0086】
[比較例2,実施例4,5]
比較例1と同じセンサ素子(面積比A/B=0)を6個製造し、比較例2とした。実施例3と同じセンサ素子(面積比A/B=0.5)を6個製造し、実施例4とした。内側阻止層66の面積を0.4mm
2(面積比A/B=0.4/1.4=0.3)とした点以外は、実施例3と同様のセンサ素子を6個製造し、実施例5とした。
【0087】
[評価試験2]
実施例4,5,比較例2のセンサ素子について、評価試験1と同様の条件でNOx信号オフセット値を測定した。結果を
図7に示す。なお、
図7には実施例1の結果も合わせて示した。図示するように、面積比A/Bが大きいほどNOx信号オフセット値が低い傾向にあった。面積比A/Bが0.3以上の実施例1,4,5ではNOx信号オフセット値が比較例2と比べて低い傾向にあり、0.5以上ではNOx信号オフセット値がさらに低い傾向にあった。
【0088】
[評価試験3]
実施例2のセンサ素子について、阻止部65(外側阻止層67)の厚み及び気孔率を種々変えた場合のNOx信号オフセット値を調べた。結果を
図8に示す。
図8の曲線は、NOx信号オフセット値が0.03μAとなるときの厚みと気孔率との対応をプロットしたものであり、曲線よりも下側の領域ではNOx信号オフセット値が0.03μA以下となり良好な結果が得られることを意味する。図示するように、気孔率が小さいほど、厚みが薄くとも良好な結果が得られた。例えば阻止部65の気孔率を9%とした場合には、厚みが25μm以上のときに良好な結果が得られた。また、阻止部65の気孔率を5%以下とすることで、厚みが5μm以上の範囲で良好な結果が得られた。
【0089】
[評価試験4]
実施例2,比較例1のセンサ素子について、耐久性能を評価した。具体的には、まず、大気中にてヒータによりセンサ素子を通常駆動時の温度(800℃)に保ち、その状態で所定の耐久時間だけ経過させた。次に、耐久時間経過後のセンサ素子におけるNOx濃度の測定に用いる信号の値(測定用ポンプセル41のポンプ電流Ip2)を、NOx濃度が500ppmの雰囲気中(窒素濃度=96.95%,酸素濃度=0%,NOx濃度=500ppm,水分=3%)で測定した。この信号の値の測定を、耐久時間を0時間,1000時間,2000時間,3000時間と変化させて各々の耐久時間について行った。結果を
図9に示す。なお、
図9では、耐久時間が0時間のときの実施例2,比較例1の各々の信号の値を基準値として、基準値からの信号変化率と耐久時間との関係を示している。また、信号変化率が絶対値の大きい負の値であるほど、時間経過によるNOx濃度の検出感度の低下が大きい(耐久性能が低い)ことを意味する。
図9からわかるように、実施例2は、比較例1と比べて耐久時間が増大しても信号変化率があまり減少せず、信号変化率の絶対値が小さい(信号変化率が0%に近い)傾向にあった。実施例2では、阻止部65(外側阻止層67)を備えることでポンプ電流Ip2のノイズなどの不要な電流が抑制されていることから、比較例1と比べて電極にかかる負担が小さくなり耐久性能が向上していると考えられる。
【0090】
本出願は、2012年12月10日に出願された日本国特許出願第2012−269569号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。