特許第6263524号(P6263524)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263524
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】化合物、発光材料および有機発光素子
(51)【国際特許分類】
   C07D 403/10 20060101AFI20180104BHJP
   H01L 51/50 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   C07D403/10CSP
   H05B33/14 A
【請求項の数】14
【全頁数】56
(21)【出願番号】特願2015-503044(P2015-503044)
(86)(22)【出願日】2014年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2014055005
(87)【国際公開番号】WO2014133121
(87)【国際公開日】20140904
【審査請求日】2017年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-41106(P2013-41106)
(32)【優先日】2013年3月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】516003621
【氏名又は名称】株式会社Kyulux
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】梶 弘典
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 創
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克明
(72)【発明者】
【氏名】大岩 元
(72)【発明者】
【氏名】若宮 淳志
(72)【発明者】
【氏名】福島 達也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 不律
(72)【発明者】
【氏名】村田 靖次郎
(72)【発明者】
【氏名】志津 功將
(72)【発明者】
【氏名】安達 千波矢
【審査官】 土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/049325(WO,A1)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0013173(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0072787(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0131939(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
H05B 33/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物。
【化1】
[一般式(1)において、Ar1は置換もしくは無置換のアリーレン基を表し、Ar2およびAr3は各々独立に置換もしくは無置換のアリール基を表す。R1〜R8は各々独立に水素原子または置換基を表すが、R1〜R8の少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基の窒素原子に結合する2つのベンゼン環が互いに連結していないジアリールアミノ基に限る)である。R1とR2、R2とR3、R3とR4、R5とR6、R6とR7、R7とR8は、それぞれ互いに結合して環状構造を形成していてもよい。]
【請求項2】
一般式(1)のR1〜R4の少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基の窒素原子に結合する2つのベンゼン環が互いに連結していないジアリールアミノ基に限る)であって、R5〜R8の少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基の窒素原子に結合する2つのベンゼン環が互いに連結していないジアリールアミノ基に限る)であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
一般式(1)のR3およびR6が置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基の窒素原子に結合する2つのベンゼン環が互いに連結していないジアリールアミノ基に限る)であることを特徴とする請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
一般式(1)のR1〜R8の少なくとも1つが置換もしくは無置換のジフェニルアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基の窒素原子に結合する2つのベンゼン環が互いに連結していないジアリールアミノ基に限る)であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項5】
一般式(1)のAr2およびAr3が各々独立に置換もしくは無置換のフェニル基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
一般式(1)のAr1が各々独立に置換もしくは無置換のフェニレン基、置換もしくは無置換のナフチレン基、または置換もしくは無置換のアントラセニレン基であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
下記一般式(2)で表される構造を有することを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【化2】
[一般式(2)において、R1〜R8およびR11〜R24は各々独立に水素原子または置換基を表すが、R1〜R8の少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基の窒素原子に結合する2つのベンゼン環が互いに連結していないジアリールアミノ基に限る)である。R1とR2、R2とR3、R3とR4、R5とR6、R6とR7、R7とR8、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R16とR17、R17とR18、R18とR19、R19とR20、R21とR22、R23とR24は、それぞれ互いに結合して環状構造を形成していてもよい。]
【請求項8】
一般式(2)のR1〜R4の少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基の窒素原子に結合する2つのベンゼン環が互いに連結していないジアリールアミノ基に限る)であって、R5〜R8の少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基の窒素原子に結合する2つのベンゼン環が互いに連結していないジアリールアミノ基に限る)であることを特徴とする請求項7に記載の化合物。
【請求項9】
一般式(2)のR3およびR6が置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基の窒素原子に結合する2つのベンゼン環が互いに連結していないジアリールアミノ基に限る)であることを特徴とする請求項8に記載の化合物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の化合物からなる発光材料。
【請求項11】
下記一般式(1)で表される構造を有する遅延蛍光体。
【化3】
[一般式(1)において、Ar1は置換もしくは無置換のアリーレン基を表し、Ar2およびAr3は各々独立に置換もしくは無置換のアリール基を表す。R1〜R8は各々独立に水素原子または置換基を表すが、R1〜R8の少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基(ただし、ジアリールアミノ基の窒素原子に結合する2つのベンゼン環が互いに連結していないジアリールアミノ基に限る)である。R1とR2、R2とR3、R3とR4、R5とR6、R6とR7、R7とR8は、それぞれ互いに結合して環状構造を形成していてもよい。]
【請求項12】
請求項10に記載の発光材料を含む発光層を基板上に有することを特徴とする有機発光素子。
【請求項13】
遅延蛍光を放射することを特徴とする請求項12に記載の有機発光素子。
【請求項14】
有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする請求項12または13に記載の有機発光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光材料として有用な化合物とそれを用いた有機発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの有機発光素子の発光効率を高める研究が盛んに行われている。特に、有機エレクトロルミネッセンス素子を構成する電子輸送材料、正孔輸送材料、発光材料などを新たに開発して組み合わせることにより、発光効率を高める工夫が種々なされてきている。その中には、トリアジン環とカルバゾール環を含む化合物を利用した有機エレクトロルミネッセンス素子に関する研究も見受けられ、これまでにも幾つかの提案がなされてきている。
【0003】
例えば特許文献1には、青色蛍光発光を示す化合物として、下記の一般式で表される化合物が記載されており、一対の電極間に発光層等を形成した発光素子に用いうることが記載されている。下記の一般式において、R11およびR12は水素原子、脂肪族炭化水素基、アリール基またはヘテロ環基であり、RおよびRは水素原子またはアミノ基を含まない置換基であり、Lは連結基であると規定されている。そして、R11およびR12は互いに結合してカルバゾール環を形成しうるものであり、下記の化合物Aを用いた発光素子が青色に発光することが記載されている。しかしながら、カルバゾール環にジアリールアミノ基が置換した化合物については記載も示唆もされていない。
【化1】
【0004】
特許文献2には、化合物Aやその類似化合物が電子輸送材料として有用であることが記載されている。特許文献3には、トリアジン環とカルバゾール環をアリーレン基で連結した化合物が電子輸送材料として有用であることが記載されている。特許文献4には、化合物Aやその類似化合物が発光層のホスト材料として有用であることが記載されている。しかしながら、特許文献2〜4には、これらの化合物のカルバゾール環をジアリールアミノ基で置換することについては記載も示唆もされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−193952号公報
【特許文献2】WO2005/076669号公報
【特許文献3】特開2009−21336号公報
【特許文献4】WO2012/015274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、トリアジン環とカルバゾール環を有する化合物を発光素子に用いることがこれまでにも提案されている。しかしながら、特許文献1〜4に記載されている一般式は極めて広範囲の化合物を包含するものであり、挙げられている例示化合物の構造も多種多様である。その一方で、発光材料としての有用性が記載されているのは特許文献1のみであり、実施例において発光材料としての有用性が具体的に確認されているのは数例であるに過ぎない。しかも、本発明者らの検討によれば、特許文献1において具体的に発光材料としての効果が確認されている上記の化合物Aは、発光効率の点で改善の余地がある。
【0007】
一方、特許文献1〜4には、発光効率をさらに改善するための手段について具体的な説明はなされていない。このため、発光材料としての発光効率と類似化合物の構造の関係は明らかになっているとは言えない。このため、特許文献1〜4に記載されている化合物に類似する化合物が、どのような発光特性を示すのかを正確に予測することは極めて困難である。
【0008】
本発明者らはこれらの従来技術の課題を考慮して、発光効率が高い化合物を提供することを目的として検討を進めた。また、発光材料として有用な化合物の一般式を導きだし、発光効率が高い有機発光素子の構成を一般化することも目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、本発明者らは、特定の構造を有する化合物群を合成することに成功するとともに、それらの化合物群が発光材料として優れた性質を有することを見出した。また、そのような化合物群の中に、遅延蛍光材料として有用なものがあることを見出し、発光効率が高い有機発光素子を安価に提供しうることを明らかにした。本発明者らは、これらの知見に基づいて、上記の課題を解決する手段として、以下の本発明を提供するに至った。
【0010】
[1] 下記一般式(1)で表される化合物。
【化2】
[一般式(1)において、Arは置換もしくは無置換のアリーレン基を表し、ArおよびArは各々独立に置換もしくは無置換のアリール基を表す。R〜Rは各々独立に水素原子または置換基を表すが、R〜Rの少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基である。RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとRは、それぞれ互いに結合して環状構造を形成していてもよい。]
[2] 一般式(1)のR〜Rの少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であって、R〜Rの少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であることを特徴とする[1]に記載の化合物。
[3] 一般式(1)のRおよびRが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であることを特徴とする[2]に記載の化合物。
[4] 一般式(1)のR〜Rの少なくとも1つが置換もしくは無置換のジフェニルアミノ基であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか1項に記載の化合物。
[5] 一般式(1)のArおよびArが各々独立に置換もしくは無置換のフェニル基であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の化合物。
[6] 一般式(1)のArが各々独立に置換もしくは無置換のフェニレン基、置換もしくは無置換のナフチレン基、または置換もしくは無置換のアントラセニレン基であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか1項に記載の化合物。
【0011】
[7] 下記一般式(2)で表される構造を有することを特徴とする[1]に記載の化合物。
【化3】
[一般式(2)において、R〜RおよびR11〜R24は各々独立に水素原子または置換基を表すが、R〜Rの少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基である。RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R16とR17、R17とR18、R18とR19、R19とR20、R21とR22、R23とR24は、それぞれ互いに結合して環状構造を形成していてもよい。]
[8] 一般式(2)のR〜Rの少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であって、R〜Rの少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であることを特徴とする[7]に記載の化合物。
[9] 一般式(2)のRおよびRが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であることを特徴とする[8]に記載の化合物。
【0012】
[10] [1]〜[9]のいずれか1項に記載の化合物からなる発光材料。
[11] 上記一般式(1)で表される構造を有する遅延蛍光体。
[12] [10]に記載の発光材料を含む発光層を基板上に有することを特徴とする有機発光素子。
[13] 遅延蛍光を放射することを特徴とする[12]に記載の有機発光素子。
[14] 有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする[12]または[13]に記載の有機発光素子。
【発明の効果】
【0013】
本発明の化合物は、発光材料として有用である。また、本発明の化合物の中には遅延蛍光を放射するものが含まれている。本発明の化合物を発光材料として用いた有機発光素子は、高い発光効率を実現しうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】有機エレクトロルミネッセンス素子の層構成例を示す概略断面図である。
図2】実施例1の化合物1の溶液と実施例2の化合物1の有機フォトルミネッセンス素子の発光スペクトルである。
図3】実施例1の化合物1の溶液の過渡減衰曲線である。
図4】実施例1の化合物2の溶液の吸収発光スペクトルである。
図5】実施例1の化合物2の溶液の過渡減衰曲線である。
図6】実施例1の化合物3の溶液の吸収発光スペクトルである。
図7】実施例1の化合物3の溶液の過渡減衰曲線である。
図8】実施例1の化合物4の溶液の吸収発光スペクトルである。
図9】実施例1の化合物4の溶液の過渡減衰曲線である。
図10】実施例1の化合物5の溶液の吸収発光スペクトルである。
図11】実施例1の化合物5の溶液の過渡減衰曲線である。
図12】比較例1の化合物Aの溶液の吸収発光スペクトルである。
図13】比較例1の化合物Aの溶液の過渡減衰曲線である。
図14】実施例2の化合物1の有機フォトルミネッセンス素子の発光スペクトルである。
図15】実施例3の化合物1の有機エレクトロルミネッセンス素子の発光スペクトルである。
図16】実施例3の化合物1と比較例2のIr(ppy)の有機エレクトロルミネッセンス素子の電流密度−電圧特性を示すグラフである。
図17】実施例3の化合物1と比較例2のIr(ppy)の有機エレクトロルミネッセンス素子の電流密度−外部量子効率特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様や具体例に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。また、本発明に用いられる化合物の分子内に存在する水素原子の同位体種は特に限定されず、例えば分子内の水素原子がすべてHであってもよいし、一部または全部がH(デューテリウムD)であってもよい。
【0016】
[一般式(1)で表される化合物]
本発明の化合物は、下記一般式(1)で表される構造を有することを特徴とする。
【化4】
【0017】
一般式(1)において、Arは置換もしくは無置換のアリーレン基を表す。アリーレン基を構成する芳香環は、単環であっても融合環であってもよく、具体例としてベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環を挙げることができる。アリーレン基の炭素数は6〜40であることが好ましく、6〜20であることがより好ましく、6〜14であることがさらに好ましい。アリーレン基の具体例として、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,2−フェニレン基、1,8−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基、2,6−ナフチレン基、1,4−ナフチレン基、1,3−ナフチレン基、9,10−アントラセニレン基、1,8−アントラセニレン基、2,7−アントラセニレン基、2,6−アントラセニレン基、1,4−アントラセニレン基、1,3−アントラセニレン基を挙げることができ、1,4−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,8−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基、1,4−ナフチレン基、1,3−ナフチレン基、9,10−アントラセニレン基が好ましい。これらの具体例の構造中に存在する水素原子は置換されていてもよい。
【0018】
一般式(1)において、ArおよびArは各々独立に置換もしくは無置換のアリール基を表す。アリール基を構成する芳香環は、単環であっても融合環であってもよく、具体例としてベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環を挙げることができる。アリール基の炭素数は6〜40であることが好ましく、6〜20であることがより好ましく、6〜14であることがさらに好ましい。アリール基の具体例として、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基を挙げることができ、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が好ましい。これらの具体例の構造中に存在する水素原子は置換されていてもよい。また、一般式(1)のArとArは同一であっても異なっていてもよい。同一であれば、合成が比較的容易であるという利点がある。
【0019】
Arのアリーレン基やArとArのアリール基は置換基を有していてもよいし、無置換であってもよい。置換基を2つ以上有する場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。置換基としては、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数3〜40のヘテロアリール基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、炭素数3〜20のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルキニル基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、炭素数1〜20の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜40の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜40の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。さらに好ましい置換基は、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルコキシ基、炭素数6〜15の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜12の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
【0020】
アルキル基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、より好ましくは炭素数1〜6であり、具体例としてメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基を挙げることができる。アルコキシ基は、直鎖状、分枝状、環状のいずれであってもよく、より好ましくは炭素数1〜6であり、具体例としてメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、イソプロピポキシ基を挙げることができる。置換基として採用しうるアリール基は、単環でも縮合環でもよく、具体例としてフェニル基、ナフチル基を挙げることができる。ヘテロアリール基も、単環でも縮合環でもよく、具体例としてピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、トリアジル基、トリアゾリル基、ベンゾトリアゾリル基を挙げることができる。これらのヘテロアリール基は、ヘテロ原子を介して結合する基であっても、ヘテロアリール環を構成する炭素原子を介して結合する基であってもよい。
【0021】
一般式(1)において、R〜Rは各々独立に水素原子または置換基を表す。ただし、R〜Rの少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基である。ここでいうジアリールアミノ基の2つのアリール基は同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。アリール基の定義と好ましい範囲については、上記のArおよびArのアリール基の説明を参照することができる。ジアリールアミノ基の2つのアリール基は、互いに連結していてもよい。互いに連結することにより例えばカルバゾール環を形成することができる。ジアリールアミノ基の具体例として、ジフェニルアミノ基、ジ(1−ナフチル)アミノ基、ジ(2−ナフチル)アミノ基、ジ(4−メチルフェニル)アミノ基、ジ(3−メチルフェニル)アミノ基、ジ(3,5−ジメチルフェニル)アミノ基、ジ(4−ビフェニル)アミノ基、9−カルバゾリル基を挙げることができる。
【0022】
一般式(1)では、R〜Rの少なくとも1つ以上が置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であることが必要とされる。好ましくは、R〜Rの1〜4つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基である場合であり、より好ましくは2〜4つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基である場合である。2つ以上が置換もしくは無置換のジアリールアミノ基である場合、複数の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基は互いに同一であっても異なっていてもよい。一般式(1)で表される化合物は、R〜Rの少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であって、R〜Rの少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であることが好ましい。なかでも、少なくともRおよびRが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であることが好ましい。
【0023】
ジアリールアミノ基の置換基としては、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数1〜20のアルキル置換アミノ基、炭素数12〜40のアリール置換アミノ基、炭素数2〜20のアシル基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数3〜40のヘテロアリール基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のカルバゾリル基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜10のアルキルスルホニル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、アミド基、炭素数2〜10のアルキルアミド基、炭素数3〜20のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルキニル基およびニトロ基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜40の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜40の置換もしくは無置換のヘテロアリール基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のジアルキルアミノ基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のカルバゾリル基である。さらに好ましい置換基は、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルコキシ基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のジアルキルアミノ基、炭素数12〜40の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、炭素数6〜15の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜12の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
【0024】
置換もしくは無置換のジアリールアミノ基以外のR〜Rは、すべてが水素原子であってもよいし、いずれか1つ以上が置換基であってもよい。2つ以上が置換基である場合、複数の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。そのような置換基として、例えばヒドロキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数1〜20のアルキルチオ基、炭素数1〜20のアルキル置換アミノ基、炭素数2〜20のアシル基、炭素数6〜40のアリール基、炭素数3〜40のヘテロアリール基、炭素数2〜10のアルケニル基、炭素数2〜10のアルキニル基、炭素数2〜10のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜10のアルキルスルホニル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、アミド基、炭素数2〜10のアルキルアミド基、炭素数3〜20のトリアルキルシリル基、炭素数4〜20のトリアルキルシリルアルキル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルケニル基、炭素数5〜20のトリアルキルシリルアルキニル基およびニトロ基等が挙げられる。これらの具体例のうち、さらに置換基により置換可能なものは置換されていてもよい。より好ましい置換基は、ハロゲン原子、シアノ基、炭素数1〜20の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜40の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜40の置換もしくは無置換のヘテロアリール基、炭素数1〜20のジアルキル置換アミノ基である。さらに好ましい置換基は、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルコキシ基、炭素数6〜15の置換もしくは無置換のアリール基、炭素数3〜12の置換もしくは無置換のヘテロアリール基である。
【0025】
一般式(1)におけるRとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとRは、それぞれ互いに結合して環状構造を形成していてもよい。環状構造は芳香環であっても脂肪環であってもよく、またヘテロ原子を含むものであってもよく、さらに環状構造は2環以上の縮合環であってもよい。ここでいうヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子からなる群より選択されるものであることが好ましい。形成される環状構造の例として、ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、イミダゾリン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、シクロヘキサジエン環、シクロヘキセン環、シクロペンタエン環、シクロヘプタトリエン環、シクロヘプタジエン環、シクロヘプタエン環などを挙げることができる。
【0026】
一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表される構造を有するものであることが好ましい。
【化5】
【0027】
一般式(2)において、R〜RおよびR11〜R24は各々独立に水素原子または置換基を表すが、R〜Rの少なくとも1つは置換もしくは無置換のジアリールアミノ基である。置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、R〜Rがとりうる置換基、R11〜R24がとりうる置換基については、一般式(1)の置換もしくは無置換のジアリールアミノ基、R〜Rがとりうる置換基、Ar〜Arのアリール基がとりうる置換基の説明と好ましい範囲を参照することができる。
【0028】
一般式(2)におけるRとR、RとR、RとR、RとR、RとR、RとR、R11とR12、R12とR13、R13とR14、R14とR15、R16とR17、R17とR18、R18とR19、R19とR20、R21とR22、R23とR24は、それぞれ互いに結合して環状構造を形成していてもよい。環状構造の説明と好ましい範囲については、一般式(1)の対応する記載を参照することができる。
【0029】
一般式(2)で表される化合物の好ましい一群として、R〜Rの少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基であって、R〜Rの少なくとも1つが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基である化合物群や、RおよびRが置換もしくは無置換のジアリールアミノ基である化合物群を挙げることができる。
【0030】
以下において、一般式(1)で表される化合物の具体例を例示する。ただし、本発明において用いることができる一般式(1)で表される化合物はこれらの具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。なお、下記の化合物例におけるPhはフェニル基を表す。
【0031】
【化6】
【0032】
【化7】
【0033】
【化8】
【0034】
【化9】
【0035】
一般式(1)で表される化合物の分子量は、例えば一般式(1)で表される化合物を含む有機層を蒸着法により製膜して利用することを意図する場合には、1500以下であることが好ましく、1200以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらに好ましく、800以下であることがさらにより好ましい。分子量の下限値は、一般式(1)で表される最小化合物の分子量である。
一般式(1)で表される化合物は、分子量にかかわらず塗布法で成膜してもよい。塗布法を用いれば、分子量が比較的大きな化合物であっても成膜することが可能である。
【0036】
本発明を応用して、分子内に一般式(1)で表される構造を複数個含む化合物を、発光材料として用いることも考えられる。
例えば、一般式(1)で表される構造中にあらかじめ重合性基を存在させておいて、その重合性基を重合させることによって得られる重合体を、発光材料として用いることが考えられる。具体的には、一般式(1)のAr〜Ar、R〜Rのいずれかに重合性官能基を含むモノマーを用意して、これを単独で重合させるか、他のモノマーとともに共重合させることにより、繰り返し単位を有する重合体を得て、その重合体を発光材料として用いることが考えられる。あるいは、一般式(1)で表される構造を有する化合物どうしをカップリングさせることにより、二量体や三量体を得て、それらを発光材料として用いることも考えられる。
【0037】
一般式(1)で表される構造を含む繰り返し単位を有する重合体の例として、下記一般式(3)または(4)で表される構造を含む重合体を挙げることができる。
【化10】
【0038】
一般式(3)および(4)において、Qは一般式(1)で表される構造を含む基を表し、LおよびLは連結基を表す。連結基の炭素数は、好ましくは0〜20であり、より好ましくは1〜15であり、さらに好ましくは2〜10である。連結基は−X11−L11−で表される構造を有するものであることが好ましい。ここで、X11は酸素原子または硫黄原子を表し、酸素原子であることが好ましい。L11は連結基を表し、置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のアリーレン基であることが好ましく、炭素数1〜10の置換もしくは無置換のアルキレン基、または置換もしくは無置換のフェニレン基であることがより好ましい。
一般式(3)および(4)において、R101、R102、R103およびR104は、各々独立に置換基を表す。好ましくは、炭素数1〜6の置換もしくは無置換のアルキル基、炭素数1〜6の置換もしくは無置換のアルコキシ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは炭素数1〜3の無置換のアルキル基、炭素数1〜3の無置換のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子であり、さらに好ましくは炭素数1〜3の無置換のアルキル基、炭素数1〜3の無置換のアルコキシ基である。
およびLで表される連結基は、Qを構成する一般式(1)の構造のAr〜Ar、R〜Rのいずれか、一般式(2)の構造のR〜R、R11〜R24のいずれかに結合することができる。1つのQに対して連結基が2つ以上連結して架橋構造や網目構造を形成していてもよい。
【0039】
繰り返し単位の具体的な構造例として、下記式(5)〜(8)で表される構造を挙げることができる。
【化11】
【0040】
これらの式(5)〜(8)を含む繰り返し単位を有する重合体は、一般式(1)の構造のAr〜Ar、R〜Rのいずれかにヒドロキシ基を導入しておき、それをリンカーとして下記化合物を反応させて重合性基を導入し、その重合性基を重合させることにより合成することができる。
【化12】
【0041】
分子内に一般式(1)で表される構造を含む重合体は、一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位のみからなる重合体であってもよいし、それ以外の構造を有する繰り返し単位を含む重合体であってもよい。また、重合体の中に含まれる一般式(1)で表される構造を有する繰り返し単位は、単一種であってもよいし、2種以上であってもよい。一般式(1)で表される構造を有さない繰り返し単位としては、通常の共重合に用いられるモノマーから誘導されるものを挙げることができる。例えば、エチレン、スチレンなどのエチレン性不飽和結合を有するモノマーから誘導される繰り返し単位を挙げることができる。
【0042】
[一般式(1)で表される化合物の合成方法]
一般式(1)で表される化合物は、既知の反応を組み合わせることによって合成することができる。例えば、以下のスキームにしたがって合成することが可能である。
【化13】
上式におけるAr〜Ar、R〜Rの説明については、一般式(1)における対応する記載を参照することができる。上式におけるpinはピナコラト基を表す。Xはハロゲン原子を表し、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子を挙げることができ、塩素原子、臭素原子が好ましい。
上記のスキームにおける反応は、公知のカップリング反応を応用したものであり、公知の反応条件を適宜選択して用いることができる。また、出発物質であるカルバゾール誘導体は、対応する臭化物をビス(ピナコラト)ジボロンと反応させる公知の合成法を利用して合成することが可能である。上記の反応や合成ルートの詳細については、後述の合成例を参考にすることができる。また、一般式(1)で表される化合物は、その他の公知の合成反応を組み合わせることによっても合成することができる。
【0043】
[有機発光素子]
本発明の一般式(1)で表される化合物は、有機発光素子の発光材料として有用である。このため、本発明の一般式(1)で表される化合物は、有機発光素子の発光層に発光材料として効果的に用いることができる。一般式(1)で表される化合物の中には、遅延蛍光を放射する遅延蛍光材料(遅延蛍光体)が含まれている。すなわち本発明は、一般式(1)で表される構造を有する遅延蛍光体の発明と、一般式(1)で表される化合物を遅延蛍光体として使用する発明と、一般式(1)で表される化合物を用いて遅延蛍光を発光させる方法の発明も提供する。そのような化合物を発光材料として用いた有機発光素子は、遅延蛍光を放射し、発光効率が高いという特徴を有する。その原理を、有機エレクトロルミネッセンス素子を例にとって説明すると以下のようになる。
【0044】
有機エレクトロルミネッセンス素子においては、正負の両電極より発光材料にキャリアを注入し、励起状態の発光材料を生成し、発光させる。通常、キャリア注入型の有機エレクトロルミネッセンス素子の場合、生成した励起子のうち、励起一重項状態に励起されるのは25%であり、残り75%は励起三重項状態に励起される。従って、励起三重項状態からの発光であるリン光を利用するほうが、エネルギーの利用効率が高い。しかしながら、励起三重項状態は寿命が長いため、励起状態の飽和や励起三重項状態の励起子との相互作用によるエネルギーの失活が起こり、一般にリン光の量子収率が高くないことが多い。一方、遅延蛍光材料は、項間交差等により励起三重項状態へとエネルギーが遷移した後、三重項−三重項消滅あるいは熱エネルギーの吸収により、励起一重項状態に逆項間交差され蛍光を放射する。有機エレクトロルミネッセンス素子においては、なかでも熱エネルギーの吸収による熱活性化型の遅延蛍光材料が特に有用であると考えられる。有機エレクトロルミネッセンス素子に遅延蛍光材料を利用した場合、励起一重項状態の励起子は通常通り蛍光を放射する。一方、励起三重項状態の励起子は、デバイスが発する熱を吸収して励起一重項へ項間交差され蛍光を放射する。このとき、励起一重項からの発光であるため蛍光と同波長での発光でありながら、励起三重項状態から励起一重項状態への逆項間交差により、生じる光の寿命(発光寿命)は通常の蛍光やりん光よりも長くなるため、これらよりも遅延した蛍光として観察される。これを遅延蛍光として定義できる。このような熱活性化型の励起子移動機構を用いれば、キャリア注入後に熱エネルギーの吸収を経ることにより、通常は25%しか生成しなかった励起一重項状態の化合物の比率を25%以上に引き上げることが可能となる。100℃未満の低い温度でも強い蛍光および遅延蛍光を発する化合物を用いれば、デバイスの熱で充分に励起三重項状態から励起一重項状態への項間交差が生じて遅延蛍光を放射するため、発光効率を飛躍的に向上させることができる。
【0045】
本発明の一般式(1)で表される化合物を発光層の発光材料として用いることにより、有機フォトルミネッセンス素子(有機PL素子)や有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)などの優れた有機発光素子を提供することができる。このとき、本発明の一般式(1)で表される化合物は、いわゆるアシストドーパントとして、発光層に含まれる他の発光材料の発光をアシストする機能を有するものであってもよい。すなわち、発光層に含まれる本発明の一般式(1)で表される化合物は、発光層に含まれるホスト材料の最低励起一重項エネルギー準位と発光層に含まれる他の発光材料の最低励起一重項エネルギー準位の間の最低励起一重項エネルギー準位を有するものであってもよい。
有機フォトルミネッセンス素子は、基板上に少なくとも発光層を形成した構造を有する。また、有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、陰極、および陽極と陰極の間に有機層を形成した構造を有する。有機層は、少なくとも発光層を含むものであり、発光層のみからなるものであってもよいし、発光層の他に1層以上の有機層を有するものであってもよい。そのような他の有機層として、正孔輸送層、正孔注入層、電子阻止層、正孔阻止層、電子注入層、電子輸送層、励起子阻止層などを挙げることができる。正孔輸送層は正孔注入機能を有した正孔注入輸送層でもよく、電子輸送層は電子注入機能を有した電子注入輸送層でもよい。具体的な有機エレクトロルミネッセンス素子の構造例を図1に示す。図1において、1は基板、2は陽極、3は正孔注入層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を表わす。
以下において、有機エレクトロルミネッセンス素子の各部材および各層について説明する。なお、基板と発光層の説明は有機フォトルミネッセンス素子の基板と発光層にも該当する。
【0046】
(基板)
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板に支持されていることが好ましい。この基板については、特に制限はなく、従来から有機エレクトロルミネッセンス素子に慣用されているものであればよく、例えば、ガラス、透明プラスチック、石英、シリコンなどからなるものを用いることができる。
【0047】
(陽極)
有機エレクトロルミネッセンス素子における陽極としては、仕事関数の大きい(4eV以上)金属、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが好ましく用いられる。このような電極材料の具体例としてはAu等の金属、CuI、インジウムチンオキシド(ITO)、SnO、ZnO等の導電性透明材料が挙げられる。また、IDIXO(In−ZnO)等非晶質で透明導電膜を作製可能な材料を用いてもよい。陽極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により、薄膜を形成させ、フォトリソグラフィー法で所望の形状のパターンを形成してもよく、あるいはパターン精度をあまり必要としない場合は(100μm以上程度)、上記電極材料の蒸着やスパッタリング時に所望の形状のマスクを介してパターンを形成してもよい。あるいは、有機導電性化合物のように塗布可能な材料を用いる場合には、印刷方式、コーティング方式等湿式成膜法を用いることもできる。この陽極より発光を取り出す場合には、透過率を10%より大きくすることが望ましく、また陽極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましい。さらに膜厚は材料にもよるが、通常10〜1000nm、好ましくは10〜200nmの範囲で選ばれる。
【0048】
(陰極)
一方、陰極としては、仕事関数の小さい(4eV以下)金属(電子注入性金属と称する)、合金、電気伝導性化合物およびこれらの混合物を電極材料とするものが用いられる。このような電極材料の具体例としては、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、リチウム、マグネシウム/銅混合物、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、インジウム、リチウム/アルミニウム混合物、希土類金属等が挙げられる。これらの中で、電子注入性および酸化等に対する耐久性の点から、電子注入性金属とこれより仕事関数の値が大きく安定な金属である第二金属との混合物、例えば、マグネシウム/銀混合物、マグネシウム/アルミニウム混合物、マグネシウム/インジウム混合物、アルミニウム/酸化アルミニウム(Al)混合物、リチウム/アルミニウム混合物、アルミニウム等が好適である。陰極はこれらの電極材料を蒸着やスパッタリング等の方法により薄膜を形成させることにより、作製することができる。また、陰極としてのシート抵抗は数百Ω/□以下が好ましく、膜厚は通常10nm〜5μm、好ましくは50〜200nmの範囲で選ばれる。なお、発光した光を透過させるため、有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極または陰極のいずれか一方が、透明または半透明であれば発光輝度が向上し好都合である。
また、陽極の説明で挙げた導電性透明材料を陰極に用いることで、透明または半透明の陰極を作製することができ、これを応用することで陽極と陰極の両方が透過性を有する素子を作製することができる。
【0049】
(発光層)
発光層は、陽極および陰極のそれぞれから注入された正孔および電子が再結合することにより励起子が生成した後、発光する層であり、発光材料を単独で発光層に使用しても良いが、好ましくは発光材料とホスト材料を含む。発光材料としては、一般式(1)で表される本発明の化合物群から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子および有機フォトルミネッセンス素子が高い発光効率を発現するためには、発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、発光材料中に閉じ込めることが重要である。従って、発光層中に発光材料に加えてホスト材料を用いることが好ましい。ホスト材料としては、励起一重項エネルギー、励起三重項エネルギーの少なくとも何れか一方が本発明の発光材料よりも高い値を有する有機化合物を用いることができる。その結果、本発明の発光材料に生成した一重項励起子および三重項励起子を、本発明の発光材料の分子中に閉じ込めることが可能となり、その発光効率を十分に引き出すことが可能となる。もっとも、一重項励起子および三重項励起子を十分に閉じ込めることができなくても、高い発光効率を得ることが可能な場合もあるため、高い発光効率を実現しうるホスト材料であれば特に制約なく本発明に用いることができる。本発明の有機発光素子または有機エレクトロルミネッセンス素子において、発光は発光層に含まれる本発明の発光材料から生じる。この発光は蛍光発光および遅延蛍光発光の両方を含む。但し、発光の一部或いは部分的にホスト材料からの発光があってもかまわない。
ホスト材料を用いる場合、発光材料である本発明の化合物が発光層中に含有される量は0.1重量%以上であることが好ましく、1重量%以上であることがより好ましく、また、50重量%以下であることが好ましく、20重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。
発光層におけるホスト材料としては、正孔輸送能、電子輸送能を有し、かつ発光の長波長化を防ぎ、なおかつ高いガラス転移温度を有する有機化合物であることが好ましい。
【0050】
(注入層)
注入層とは、駆動電圧低下や発光輝度向上のために電極と有機層間に設けられる層のことで、正孔注入層と電子注入層があり、陽極と発光層または正孔輸送層の間、および陰極と発光層または電子輸送層との間に存在させてもよい。注入層は必要に応じて設けることができる。
【0051】
(阻止層)
阻止層は、発光層中に存在する電荷(電子もしくは正孔)および/または励起子の発光層外への拡散を阻止することができる層である。電子阻止層は、発光層および正孔輸送層の間に配置されることができ、電子が正孔輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。同様に、正孔阻止層は発光層および電子輸送層の間に配置されることができ、正孔が電子輸送層の方に向かって発光層を通過することを阻止する。阻止層はまた、励起子が発光層の外側に拡散することを阻止するために用いることができる。すなわち電子阻止層、正孔阻止層はそれぞれ励起子阻止層としての機能も兼ね備えることができる。本明細書でいう電子阻止層または励起子阻止層は、一つの層で電子阻止層および励起子阻止層の機能を有する層を含む意味で使用される。
【0052】
(正孔阻止層)
正孔阻止層とは広い意味では電子輸送層の機能を有する。正孔阻止層は電子を輸送しつつ、正孔が電子輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔の再結合確率を向上させることができる。正孔阻止層の材料としては、後述する電子輸送層の材料を必要に応じて用いることができる。
【0053】
(電子阻止層)
電子阻止層とは、広い意味では正孔を輸送する機能を有する。電子阻止層は正孔を輸送しつつ、電子が正孔輸送層へ到達することを阻止する役割があり、これにより発光層中での電子と正孔が再結合する確率を向上させることができる。
【0054】
(励起子阻止層)
励起子阻止層とは、発光層内で正孔と電子が再結合することにより生じた励起子が電荷輸送層に拡散することを阻止するための層であり、本層の挿入により励起子を効率的に発光層内に閉じ込めることが可能となり、素子の発光効率を向上させることができる。励起子阻止層は発光層に隣接して陽極側、陰極側のいずれにも挿入することができ、両方同時に挿入することも可能である。すなわち、励起子阻止層を陽極側に有する場合、正孔輸送層と発光層の間に、発光層に隣接して該層を挿入することができ、陰極側に挿入する場合、発光層と陰極との間に、発光層に隣接して該層を挿入することができる。また、陽極と、発光層の陽極側に隣接する励起子阻止層との間には、正孔注入層や電子阻止層などを有することができ、陰極と、発光層の陰極側に隣接する励起子阻止層との間には、電子注入層、電子輸送層、正孔阻止層などを有することができる。阻止層を配置する場合、阻止層として用いる材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーの少なくともいずれか一方は、発光材料の励起一重項エネルギーおよび励起三重項エネルギーよりも高いことが好ましい。
【0055】
(正孔輸送層)
正孔輸送層とは正孔を輸送する機能を有する正孔輸送材料からなり、正孔輸送層は単層または複数層設けることができる。
正孔輸送材料としては、正孔の注入または輸送、電子の障壁性のいずれかを有するものであり、有機物、無機物のいずれであってもよい。使用できる公知の正孔輸送材料としては例えば、トリアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、イミダゾール誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体およびピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、スチルベン誘導体、シラザン誘導体、アニリン系共重合体、また導電性高分子オリゴマー、特にチオフェンオリゴマー等が挙げられるが、ポルフィリン化合物、芳香族第3級アミン化合物およびスチリルアミン化合物を用いることが好ましく、芳香族第3級アミン化合物を用いることがより好ましい。
【0056】
(電子輸送層)
電子輸送層とは電子を輸送する機能を有する材料からなり、電子輸送層は単層または複数層設けることができる。
電子輸送材料(正孔阻止材料を兼ねる場合もある)としては、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有していればよい。使用できる電子輸送層としては例えば、ニトロ置換フルオレン誘導体、ジフェニルキノン誘導体、チオピランジオキシド誘導体、カルボジイミド、フレオレニリデンメタン誘導体、アントラキノジメタンおよびアントロン誘導体、オキサジアゾール誘導体等が挙げられる。さらに、上記オキサジアゾール誘導体において、オキサジアゾール環の酸素原子を硫黄原子に置換したチアジアゾール誘導体、電子吸引基として知られているキノキサリン環を有するキノキサリン誘導体も、電子輸送材料として用いることができる。さらにこれらの材料を高分子鎖に導入した、またはこれらの材料を高分子の主鎖とした高分子材料を用いることもできる。
【0057】
有機エレクトロルミネッセンス素子を作製する際には、一般式(1)で表される化合物を発光層に用いるだけでなく、発光層以外の層にも用いてもよい。その際、発光層に用いる一般式(1)で表される化合物と、発光層以外の層に用いる一般式(1)で表される化合物は、同一であっても異なっていてもよい。例えば、上記の注入層、阻止層、正孔阻止層、電子阻止層、励起子阻止層、正孔輸送層、電子輸送層などにも一般式(1)で表される化合物を用いてもよい。これらの層の製膜方法は特に限定されず、ドライプロセス、ウェットプロセスのどちらで作製してもよい。
【0058】
以下に、有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる好ましい材料を具体的に例示する。ただし、本発明において用いることができる材料は、以下の例示化合物によって限定的に解釈されることはない。また、特定の機能を有する材料として例示した化合物であっても、その他の機能を有する材料として転用することも可能である。なお、以下の例示化合物の構造式におけるR、R〜R10は、各々独立に水素原子または置換基を表す。nは3〜5の整数を表す。
【0059】
まず、発光層のホスト材料としても用いることができる好ましい化合物を挙げる。
【0060】
【化14】
【0061】
【化15】
【0062】
【化16】
【0063】
【化17】
【0064】
【化18】
【0065】
次に、正孔注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0066】
【化19】
【0067】
次に、正孔輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0068】
【化20】
【0069】
【化21】
【0070】
【化22】
【0071】
【化23】
【0072】
【化24】
【0073】
【化25】
【0074】
次に、電子阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0075】
【化26】
【0076】
次に、正孔阻止材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0077】
【化27】
【0078】
次に、電子輸送材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0079】
【化28】
【0080】
【化29】
【0081】
【化30】
【0082】
次に、電子注入材料として用いることができる好ましい化合物例を挙げる。
【0083】
【化31】
【0084】
さらに添加可能な材料として好ましい化合物例を挙げる。例えば、安定化材料として添加すること等が考えられる。
【0085】
【化32】
【0086】
上述の方法により作製された有機エレクトロルミネッセンス素子は、得られた素子の陽極と陰極の間に電界を印加することにより発光する。このとき、励起一重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長の光が、蛍光発光および遅延蛍光発光として確認される。また、励起三重項エネルギーによる発光であれば、そのエネルギーレベルに応じた波長が、りん光として確認される。通常の蛍光は、遅延蛍光発光よりも蛍光寿命が短いため、発光寿命は蛍光と遅延蛍光で区別できる。
一方、りん光については、本発明の化合物のような通常の有機化合物では、励起三重項エネルギーは不安定で熱等に変換され、寿命が短く直ちに失活するため、室温では殆ど観測できない。通常の有機化合物の励起三重項エネルギーを測定するためには、極低温の条件での発光を観測することにより測定可能である。
【0087】
本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。本発明によれば、発光層に一般式(1)で表される化合物を含有させることにより、発光効率が大きく改善された有機発光素子が得られる。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子は、さらに様々な用途へ応用することが可能である。例えば、本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子を用いて、有機エレクトロルミネッセンス表示装置を製造することが可能であり、詳細については、時任静士、安達千波矢、村田英幸共著「有機ELディスプレイ」(オーム社)を参照することができる。また、特に本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子は、需要が大きい有機エレクトロルミネッセンス照明やバックライトに応用することもできる。
【実施例】
【0088】
以下に合成例および実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下に示す材料、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、発光特性の評価は、ソースメータ(ケースレー社製:2400シリーズ)、半導体パラメータ・アナライザ(アジレント・テクノロジー社製:E5273A)、光パワーメータ測定装置(ニューポート社製:1930C)、光学分光器(オーシャンオプティクス社製:USB2000)、分光放射計(トプコン社製:SR−3)およびストリークカメラ(浜松ホトニクス(株)製C4334型)を用いて行った。
【0089】
(合成例1) 化合物1の合成
【化33】
【0090】
カルバゾール(中間体1)(25.7g、150mmol:ナカライテスク(株)製)、ベンジルクロライド(58.4g、454.5mmol:和光純薬工業(株)製)および水酸化カリウム(41.1g、714.3mmol:ナカライテスク(株)製)のテトラヒドロフラン(250mL:関東化学(株)製)溶液をアルゴン雰囲気下で34時間還流した。次に、室温で放冷後、反応液に水(250mL)とジクロロメタン(200mL)を加えて分液した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒をエバポレーターで留去し、ヘキサンから再結晶を行い、中間体2を白色結晶として得た(30.67g、収率77%)。中間体2(5.1g、19.8mmol)、過ヨウ素酸カリウム(3.6g、16.9mmol:ナカライテスク(株)製)、ヨウ化カリウム(4.4g、32.4mmol:ナカライテスク(株)製)および硫酸(3.1g、31.3mmol:ナカライテスク(株)製)のエタノール(700mL、和光純薬工業(株)製)溶液をアルゴン雰囲気下、遮光下で13時間、55℃で加熱した。次に、室温で放冷後、エタノールをエバポレーターで留去し、残渣にジクロロメタン(300mL)と水(200mL)を加えて分液した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒をエバポレーターで留去し、酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒から再結晶を行い、中間体3を白色結晶として得た(9.65g、収率95%)。
中間体3(4.3g、8.5mmol)、ジフェニルアミン(3.2g、18.7mmol:ナカライテスク(株)製)、テトラフルオロホウ酸トリ−tert−ブチルホスフィン(0.40g、0.22mmol:シグマアルドリッチ製)、ナトリウム−tert−ブトキシド(2.8g、29.2mmol:東京化成工業(株)製)およびトリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)パラジウム(0)(0.056g、0.054mmol)のトルエン(200mL:関東化学(株)製)溶液をアルゴン雰囲気下で1時間、80℃で加熱した。次に、室温で放冷後、反応液にトルエン(250mL)と水(200mL)を加えて分液した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒をエバポレーターで留去し、酢酸エチルとヘキサンの混合溶媒から再結晶を行い、中間体4を黒緑色固体として得た(4.24g、収率84%)。
中間体4(3.0g、5.1mmol)アニソール(16mL:シグマアルドリッチ製)溶液を、無水塩化アルミニウム(III)(5.0g、37.8mmol:和光純薬工業(株)製)アニソール(4.7mL:シグマアルドリッチ製)懸濁液に氷冷下で滴下した後、21時間、60℃で加熱した。次に、室温で放冷後、反応液にジクロロメタン(100mL)と水(50mL)を加えて分液し、有機層を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(50mL)、飽和食塩水(50mL)で洗った。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒をエバポレーターで留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン40%ヘキサン60%)で精製し、中間体5を黒緑色固体として得た(2.23g、収率76%)。
【0091】
【化34】
【0092】
マグネシウム(4.1g、172.8mmol:和光純薬工業(株)製)にテトラヒドロフラン (15mL)を加え、撹拌しながらジブロモエタン(0.29g、0.0015mmol:和光純薬工業(株)製)を加えた。ここにブロモベンゼン(26.2g、166.8mmol:ナカライテスク(株)製)を室温にて滴下した後、アルゴン雰囲気下で3時間還流した。室温で放冷後、この溶液をシアヌル酸クロリド(中間体6)(8.2g、44.3mmol:東京化成工業(株)製)テトラヒドロフラン(50mL)溶液中に、氷冷下で滴下した後、アルゴン雰囲気下で18時間、35℃に加熱した。室温で放冷後、ジクロロメタン(100mL)、水(40mL)を加え分液した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒をエバポレーターで留去した。残渣の一部(1.35g)をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン20%、ヘキサン80%)で精製し、中間体7を白色固体として得た(1.128g)。
【0093】
【化35】
【0094】
中間体5(2.01g、4.0mmol)、p−ブロモヨードベンゼン(中間体8)(1.37g、4.8mmol:和光純薬工業(株)製)、塩化リチウム(0.15g、7.2mmol:和光純薬工業(株))、炭酸セシウム(1.68g、5.1mmol:東京化成工業(株)製)およびヨウ化銅(0.11g、0.58mmol:関東化学(株)製)ジメチルホルムアミド(35mL:和光純薬工業(株)製)懸濁液をアルゴン雰囲気下で38時間、150℃に加熱した。次に、室温まで放冷後、反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(30mL)、ジクロロメエタン(100mL)を入れ分液した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン20%、ヘキサン80%)で精製し、中間体9を白色結晶として得た(1.9g、収率71%)。
トリシクロヘキシルホスフィン(0.053g、0.19mmol:strem chemicals製)、トリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)パラジウム(0)(0.043g、0.041mmol)1,4−ジオキサン(15mL:和光純薬工業(株)製)溶液を、室温で30分撹拌した。これに化合物9(1.64g、2.5mmol)、ビス(ピナコラート)ジボロン(0.70g、2.8mmol:和光純薬工業(株)製)、および酢酸カリウム(0.53g、11.0mmol和光純薬工業(株)製)を入れ、アルゴン雰囲気下で18時間、80℃に加熱した。次に、室温まで放冷後、反応液に水(5mL)、トルエン(20mL)を入れ分液した。有機層を飽和食塩水(10mL)で洗った後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒をエバポレーターで留去し、中間体10を含む混合物を得た(1.6g)。
中間体10を含む混合物(1.6g)、2−クロロ−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン(0.0787g、2.9mmol)、リン酸カリウム(1.0g、4.7mmol)、トリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)パラジウム(0)(0.014g、0.014mmol)および2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(0.027g、0.067mmol)をトルエン(5mL)水(0.5mL)混合溶媒中に溶解させ、100℃で2時間加熱した。室温まで放冷後、反応液をジクロロメタンで薄め、シリカゲルカラム中を通した。この溶液をエバポレーターで留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン20%、ヘキサン80%)で精製した後、ジクロロメタン、ヘキサン混合溶媒から2回再結晶を行い、化合物1を黄色結晶として得た(0.98g)。さらに、この結晶を昇華精製し、化合物1を黄色固体として得た(0.70g)。
mp265℃; 1H-NMR(300MHz Acetone D6):δ9.143(d, J=8.7Hz, 2H)、8.931(dd, J1=8.0Hz, J2=1.4Hz,4H)、8.003(d, J=8.7, 2H)、7.944(d, J=1.8Hz, 2H)、7.733-7.650(m, 6H)、7.628(s, 2H)、7.311(d, J=2.4Hz, 2H)、7.278-7.212(m,10H)、7.072-6.930(m,10H)
【0095】
(合成例2) 化合物2の合成
【化36】
【0096】
アルゴン雰囲気下、中間体6(1.20g、2.40mmol)、1−ブロモ−4−ヨード−2−メチルベンゼン(中間体11)(852mg、2.88mmol)、L−プロリン(110mg、0.96mmol:和光純薬工業(株)製)、炭酸カリウム(1.68g、4.80mmol:和光純薬工業(株)製)およびヨウ化銅(91.4mg、0.48mmol:和光純薬工業(株)製)ジメチルホルムアミド(2.4mL:和光純薬工業(株)製)懸濁液をアルゴン雰囲気下で48時間、110℃に加熱した。次に、室温まで放冷後、反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(30mL)、ジクロロメエタン(100mL)を入れ分液した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン20%、ヘキサン80%)で精製し、中間体12を淡黄色結晶として得た(1.43g、収率89%)
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ7.75-7.73 (m, 3H),7.45(d, J = 2.4 Hz, 1H), 7.31-7.27 (m, 3H),7.23-7.18 (m, 10H), 7.06 (d, J= 7.8 Hz, 8H),6.93 (t, J = 7.5 Hz, 4H), 2.50 (s, 3H)
【0097】
アルゴン雰囲気下、中間体12(1.20g、1.79mmol)をシクロペンチルメチルエーテル(17mL:和光純薬工業(株)製)に溶解させ0℃に冷却した。これにn−ブリルリチウムのヘキサン溶液(1.6M、1.23mL、1.97mmol:和光純薬工業(株)製)を滴下し、0℃で1.5時間撹拌した。この溶液にトリブチルスズクロリド(699mg、2.15mmol:シグマアルドリッチ製)を滴下し、10時間、室温で撹拌した。反応液に水(30mL)、トルエン(30mL)を入れ分液した。有機層を飽和食塩水(20mL)で洗った後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒をエバポレーターで留去し、中間体13を含む混合物を得た(1.4g)。この混合物は、精製をせずに次の反応に用いた。
【0098】
アルゴン雰囲気下、中間体13を含む混合物(1.4g)、中間体14(574mg、2.15mmol)、フッ化セシウム(599mg、3.94mmol:和光純薬工業(株)製)、トリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)パラジウム(0)(27.9mg、0.027mmol)および2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル(52.4mg、0.11mmol:シグマアルドリッチ製)を1,4−ジオキサン(1.8mL:和光純薬工業(株)製)に溶解させ、80℃で16時間加熱した。室温まで放冷後、反応液をジクロロメタンで薄め、シリカゲルカラム中を通した。この溶液をエバポレーターで留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン20%、ヘキサン80%)で精製した後、ジクロロメタン、ヘキサン混合溶媒から再結晶を行い、化合物2を黄色結晶として得た(0.90g、61%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ8.78 (d, J = 6.6 Hz, 4H), 8.60 (d, J = 8.4 Hz, 1H), 7.79 (d, J = 6.6 Hz, 2H), 7.67-7.56 (m, 8H), 7.27-7.24 (m, 4H), 7.24-7.18 (m, 8H), 7.09 (d, J = 8.4 Hz, 8H), 6.95 (t, J = 7.5 Hz, 4H), 2.98 (s, 3H)
【0099】
(合成例3) 化合物3の合成
【化37】
【0100】
アルゴン雰囲気下、中間体6(1.20g、2.40mmol)、2−ブロモ−5−ヨード−1,3−ジメチルベンゼン(中間体15)(893mg、2.88mmol)、L−プロリン(110mg、0.96mmol:和光純薬工業(株)製)、炭酸カリウム(1.68g、4.80mmol:和光純薬工業(株)製)およびヨウ化銅(91.4mg、0.48mmol:和光純薬工業(株)製)ジメチルホルムアミド(2.4mL:和光純薬工業(株)製)懸濁液をアルゴン雰囲気下で48時間、110℃に加熱した。次に、室温まで放冷後、反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(30mL)、ジクロロメエタン(100mL)を入れ分液した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン20%、ヘキサン80%)で精製し、中間体16を淡黄色結晶として得た(1.49g、収率91%)
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ7.75 (s, 2H), 7.31-7.27(m, 4H), 7.23-7.16 (m, 10H), 7.06 (d, J = 7.8 Hz, 8H), 6.93 (t, J = 7.2 Hz, 4H), 2.52 (s, 6H)
【0101】
アルゴン雰囲気下、中間体16(1.22g、1.79mmol)をシクロペンチルメチルエーテル(17mL:和光純薬工業(株)製)に溶解させ0℃に冷却した。これにn−ブリルリチウムのヘキサン溶液(1.6M、1.23mL、1.97mmol:和光純薬工業(株)製)を滴下し、0℃で1.5時間撹拌した。この溶液にトリブチルスズクロリド(699mg、2.15mmol:シグマアルドリッチ製)を滴下し、10時間、室温で撹拌した。反応液に水(30mL)、トルエン(30mL)を入れ分液した。有機層を飽和食塩水(20mL)で洗った後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。溶媒をエバポレーターで留去し、中間体17を含む混合物を得た(1.4g)。この混合物は、精製をせずに次の反応に用いた。
【0102】
アルゴン雰囲気下、中間体17を含む混合物(1.4g)、中間体7(574mg、2.15mmol)、フッ化セシウム(599mg、3.94mmol:和光純薬工業(株)製)、トリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)パラジウム(0)(27.9mg、0.027mmol)および2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニル(52.4mg、0.11mmol:シグマアルドリッチ製)を1,4−ジオキサン(1.8mL:和光純薬工業(株)製)に溶解させ、80℃で16時間加熱した。室温まで放冷後、反応液をジクロロメタンで薄め、シリカゲルカラム中を通した。この溶液をエバポレーターで留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン20%、ヘキサン80%)で精製した後、ジクロロメタン、ヘキサン混合溶媒から再結晶を行い、化合物3を黄色結晶として得た(0.87g、58%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ8.75 (d, J = 7.8 Hz, 4H), 7.79 (d, J = 1.8 Hz, 2H), 7.64 (t, J = 7.2 Hz, 2H), 7.59 (t, J = 7.5 Hz, 4H), 7.48 (d, J = 8.4 Hz, 2H), 7.43 (s, 2H), 7.28-7.24 (m, 2H), 7.22 (t, J = 8.1 Hz, 8H), 7.09 (d, J = 8.4 Hz, 8H), 6.94 (t, J = 7.5 Hz, 4H), 2.44 (s, 6H)
【0103】
(合成例4) 化合物4の合成
【化38】
【0104】
アルゴン雰囲気下0℃で、NaH(40%のミネラルオイル含有、63.3mg、2.64mmol:和光純薬工業(株)製)とジメチルホルムアミド(2.4mL:和光純薬工業(株)製)の懸濁液に、中間体6(1.20g、2.40mmol)を加え、30分間撹拌した。この溶液に4−ブロモ−1−フルオロ−2−メチルベンゼン(中間体18)(2.25g、12.0mmol)を加え、48時間、150℃に加熱した。次に、室温まで放冷後、反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(30mL)、ジクロロメエタン(100mL)を入れ分液した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン20%、ヘキサン80%)で精製し、中間体19を淡黄色結晶として得た(1.49g、収率93%)
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ7.77 (s, 2H), 7.66-7.61(m, 1H), 7.54-7.49 (m 1H), 7.28-7.14 (m, 13H),7.07 (d, J = 7.8 Hz, 8H), 6.93 (t, J = 7.5 Hz, 4H), 2.07 (s, 3H)
【0105】
アルゴン雰囲気下、トリシクロヘキシルホスフィン(30.8mg、0.11mmol:strem chemicals製)、トリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)パラジウム(0)(27.9mg、0.027mmol)1,4−ジオキサン(10mL:和光純薬工業(株)製)溶液を、室温で30分撹拌した。これに中間体19(1.20g、1.79mmol)、ビス(ピナコラート)ジボロン(546mg、2.15mmol:東京化成工業(株)製)、および酢酸カリウム(351mg、3.58mmol和光純薬工業(株)製)を入れ、18時間、80℃に加熱した。次に、室温まで放冷後、反応液に水(5mL)、トルエン(20mL)を入れ分液した。有機層を飽和食塩水(10mL)で二回洗った後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒をエバポレーターで留去し、中間体20を含む混合物を得た(1.5g)。この混合物は、精製をせずに、次の反応に用いた。
【0106】
アルゴン雰囲気下、中間体20を含む混合物(1.5g)、中間体7(574mg、2.15mmol)、リン酸カリウム(758mg、3.58mmol:和光純薬工業(株)製)、トリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)パラジウム(0)(27.9mg、0.027mmol)および2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(45.2mg、0.11mmol:和光純薬工業(株)製)をトルエン(1.0mL)水(0.1mL)混合溶媒中に溶解させ、100℃で16時間加熱した。室温まで放冷後、反応液をジクロロメタンで薄め、シリカゲルカラム中を通した。この溶液をエバポレーターで留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン20%、ヘキサン80%)で精製した後、ジクロロメタン、ヘキサン混合溶媒から再結晶を行い、化合物4を黄色結晶として得た(0.84g、57%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3):δ8.88 (s, 1H), 8.85-8.76 (m, 5H), 7.81 (s, 2H), 7.67-7.58 (m, 8H), 7.24-7.6.94 (m, 23H), 2.29 (s, 3H)
【0107】
(合成例5) 化合物5の合成
【化39】
【0108】
アルゴン雰囲気下0℃で、NaH(40%のミネラルオイル含有、63.3mg、2.64mmol:和光純薬工業(株)製)とジメチルホルムアミド(2.4mL:和光純薬工業(株)製)の懸濁液に、中間体6(1.20g、2.40mmol)を加え、30分間撹拌した。この溶液に5−ブロモ−2−フルオロ−1,3−ジメチルベンゼン(中間体21)(4.85g、24.0mmol)を加え、48時間、150℃に加熱した。次に、室温まで放冷後、反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液(30mL)、ジクロロメエタン(100mL)を入れ分液した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン20%、ヘキサン80%)で精製し、中間体22を淡黄色結晶として得た(1.44g、収率88%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ7.78 (s, 2H), 7.44(s, 2H), 7.24-7.22 (m 8H),7.07 (d, J = 7.8 Hz, 8H), 6.93 (t, J = 7.2 Hz, 4H), 6.82 (d, J = 9.0 Hz, 2H), 1.93 (s, 6H)
【0109】
アルゴン雰囲気下、トリシクロヘキシルホスフィン(30.8mg、0.11mmol:strem chemicals製)、トリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)パラジウム(0)(27.9mg、0.027mmol)1,4−ジオキサン(10mL:和光純薬工業(株)製)溶液を、室温で30分撹拌した。これに中間体22(1.20g、1.79mmol)、ビス(ピナコラート)ジボロン(546mg、2.15mmol:東京化成工業(株)製)、および酢酸カリウム(351mg、3.58mmol和光純薬工業(株)製)を入れ、18時間、80℃に加熱した。次に、室温まで放冷後、反応液に水(5mL)、トルエン(20mL)を入れ分液した。有機層を飽和食塩水(10mL)で二回洗った後、無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。溶媒をエバポレーターで留去し、中間体23を含む混合物を得た(1.5g)。この混合物は、精製をせずに、次の反応に用いた。
【0110】
アルゴン雰囲気下、中間体23を含む混合物(1.5g)、中間体7(574mg、2.15mmol)、リン酸カリウム(758mg、3.58mmol:和光純薬工業(株)製)、トリス(ジベンジリデンアセトン)(クロロホルム)パラジウム(0)(27.9mg、0.027mmol)および2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,6’−ジメトキシビフェニル(45.2mg、0.11mmol:和光純薬工業(株)製)をトルエン(1.0mL)水(0.1mL)混合溶媒中に溶解させ、100℃で16時間加熱した。室温まで放冷後、反応液をジクロロメタンで薄め、シリカゲルカラム中を通した。この溶液をエバポレーターで留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン20%、ヘキサン80%)で精製した後、ジクロロメタン、ヘキサン混合溶媒から再結晶を行い、化合物5を黄色結晶として得た(0.88g、60%)。
1H NMR (600 MHz, CDCl3): δ8.82 (d, J = 6.6 Hz, 4H), 8.66 (s, 2H), 7.82 (s, 2H), 7.67-7.58 (m, 8H), 7.22 (t, J = 8.1 Hz, 8H), 7.10 (d, J = 7.8 Hz, 8H), 6.97-6.85 (m, 6H), 2.14 (s, 6H)
【0111】
(実施例1) 有機フォトルミネッセンス素子の作製と評価(溶液)
Ar雰囲気のグローブボックス中で化合物1のトルエン溶液(濃度10−5mol/L)を調製し、370nm励起光による発光スペクトルを測定した。結果を図2に示す。また、Arでバブリングして発光波長550nmの過渡減衰曲線を300Kで測定した結果を図3に示す(τ1=14.3ns、τ2=3.3μs)。この過渡減衰曲線は、化合物に励起光を当てて発光強度が失活してゆく過程を測定した発光寿命測定結果を示すものである。通常の一成分の発光(蛍光もしくはリン光)では発光強度は単一指数関数的に減衰する。これは、グラフの縦軸がセミlog である場合には、直線的に減衰することを意味している。化合物1の過渡減衰曲線では、観測初期にこのような直線的成分(蛍光)が観測されているが、それ以降は直線性から外れる成分が現れている。これは遅延成分の発光であり、初期の成分と加算される信号は、長時間側に裾をひくゆるい曲線になる。このように発光寿命を測定することによって、化合物1は蛍光成分のほかに遅延成分を含む発光体であることが確認された。フォトルミネッセンス量子収率は、Oバブリングで26%、バブリングなしで48%、Nバブリングで65%であった。
また、化合物2のトルエン溶液(濃度10−5mol/L)を調製し、吸収発光スペクトルを測定した結果を図4に示す。また、ArバブリングなしとArバブリングありの条件下で測定したピーク発光波長の過渡減衰曲線を図5に示す。Arバブリングありの条件下での測定において遅延蛍光が認められた。フォトルミネッセンス量子収率は、Arバブリングなしで47%、Arバブリングありで84%であった。
また、化合物3のトルエン溶液(濃度10−5mol/L)を調製し、吸収発光スペクトルを測定した結果を図6に示す。また、ArバブリングなしとArバブリングありの条件下で測定したピーク発光波長の過渡減衰曲線を図7に示す。Arバブリングありの条件下での測定において遅延蛍光が認められた。フォトルミネッセンス量子収率は、Arバブリングなしで11%、Arバブリングありで42%であった。
また、化合物4のトルエン溶液(濃度10−5mol/L)を調製し、吸収発光スペクトルを測定した結果を図8に示す。また、ArバブリングなしとArバブリングありの条件下で測定したピーク発光波長の過渡減衰曲線を図9に示す。Arバブリングありの条件下での測定において遅延蛍光が認められた。フォトルミネッセンス量子収率は、Arバブリングなしで31%、Arバブリングありで60%であった。
また、化合物5のトルエン溶液(濃度10−5mol/L)を調製し、吸収発光スペクトルを測定した結果を図10に示す。また、ArバブリングなしとArバブリングありの条件下で測定したピーク発光波長の過渡減衰曲線を図11に示す。Arバブリングありの条件下での測定において遅延蛍光が認められた。フォトルミネッセンス量子収率は、Arバブリングなしで15%、Arバブリングありで53%であった。
【0112】
(比較例1)
化合物1のかわりに下記の化合物Aを用いて実施例1と同じ方法によりトルエン溶液を調製した。吸収発光スペクトルを図12に示す。また、実施例1と同じ条件にて得た過渡減衰曲線を図13に示す。遅延蛍光は認められなかった。
【化40】
【0113】
(実施例2) 有機フォトルミネッセンス素子の作製と評価(薄膜)
石英基板上に真空蒸着法にて、真空度10−4Pa以下の条件にて化合物1の薄膜を50nmの厚さで形成して有機フォトルミネッセンス素子とした。作製した有機フォトルミネッセンス素子について、330nm励起光による発光スペクトルを測定した結果を図2に示す。
石英基板上に真空蒸着法にて、真空度10−4Pa以下の条件にて化合物1とCBPとを異なる蒸着源から蒸着し、化合物1の濃度が6.0重量%である薄膜を100nmの厚さで形成して有機フォトルミネッセンス素子とした。作製した有機フォトルミネッセンス素子について、330nm励起光による発光スペクトルを測定した結果を図14に示す。
【0114】
(実施例3) 有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
膜厚50nmのインジウム・スズ酸化物(ITO)からなる陽極が形成されたガラス基板上に、各薄膜を真空蒸着法にて、真空度10−4Pa以下で積層した。まず、ITO上にα−NPDを100nmの厚さに形成した。次に、化合物1とCBPを異なる蒸着源から共蒸着し、40nmの厚さの層を形成して発光層とした。この時、化合物1の濃度は6.0重量%とした。次に、BAlqを30nmの厚さに形成し、さらに8−ヒドロキシキノリノァートリチウム(Liq)を1nm真空蒸着し、次いでアルミニウム(Al)を80nmの厚さに蒸着することにより陰極を形成し、有機エレクトロルミネッセンス素子1とした。
α−NPDのかわりにTAPCを用いた点だけを変更して、同様の手順により有機エレクトロルミネッセンス素子2を作製した。
α−NPDのかわりにTAPCを用いるとともに、BAlqのかわりにBmPyPhBを用いた点だけを変更して、同様の手順により有機エレクトロルミネッセンス素子3を作製した。
作製した有機エレクトロルミネッセンス素子の発光スペクトルを図15に示す。素子1〜3ともに発光スペクトルは重なり合った。図16に電流密度−電圧特性を示し、図17に電流密度−外部量子効率特性を示す。
また、α−NPDのかわりにTAPCを用いるとともに、化合物1の濃度を6.0重量%から9.0重量%とした点だけを変更して、素子1と同様の手順により有機エレクトロルミネッセンス素子4を作製した。この素子4は、外部量子効率29.6%を達成した。
素子1〜4はいずれも高い外部量子効率を達成している。仮に発光量子効率が100%の蛍光材料を用いてバランスの取れた理想的な有機エレクトロルミネッセンス素子を試作したとすると、光取り出し効率が20〜30%であれば、蛍光発光の外部量子効率は5〜7.5%となる。この値が一般に、蛍光材料を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子の外部量子効率の理論限界値とされている。本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子1〜4は、理論限界値を超える高い外部量子効率を実現している点で極めて優れている。
【0115】
(比較例2) 有機エレクトロルミネッセンス素子の作製と評価
実施例3における素子1の作製において用いた化合物1のかわりにIr(ppy)を用いた点だけを変更して比較用の有機エレクトロルミネッセンス素子(比較素子)を作製した。作製した比較素子の電流密度−電圧特性を図16に示し、電流密度−外部量子効率特性を図17に示す。図から明らかなように、比較素子よりも素子1〜4の外部量子効率の方がかなり大きいことが確認された。また、電流効率に関しても、比較素子よりも素子1〜4の外部量子効率の方がかなり高いことが確認された。
【0116】
【化41】
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の化合物は発光材料として有用である。このため本発明の化合物は、有機エレクトロルミネッセンス素子などの有機発光素子用の発光材料として効果的に用いられる。本発明の化合物の中には、遅延蛍光が放射するものも含まれているため、発光効率が高い有機発光素子を提供することも可能である。このため、本発明は産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0118】
1 基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 陰極
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17