特許第6263534号(P6263534)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6263534ガラス基板の製造方法、ガラス基板、および、ディスプレイ用パネル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263534
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法、ガラス基板、および、ディスプレイ用パネル
(51)【国際特許分類】
   C03C 15/00 20060101AFI20180104BHJP
   C03C 19/00 20060101ALI20180104BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20180104BHJP
   G02F 1/1333 20060101ALI20180104BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   C03C15/00 Z
   C03C19/00 Z
   G09F9/30 310
   G02F1/1333 500
   H05B33/02
【請求項の数】10
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-528306(P2015-528306)
(86)(22)【出願日】2014年7月23日
(86)【国際出願番号】JP2014069436
(87)【国際公開番号】WO2015012307
(87)【国際公開日】20150129
【審査請求日】2016年8月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-153851(P2013-153851)
(32)【優先日】2013年7月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111187
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 秀忠
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】朴 永太
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−275167(JP,A)
【文献】 特開2012−140292(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/092764(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/128673(WO,A1)
【文献】 特開2012−171831(JP,A)
【文献】 特開2001−206734(JP,A)
【文献】 特開2008−120638(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00−23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイ用のガラス基板の製造方法であって、
ガラス基板を製造する製造工程と、
前記ガラス基板の一方の主表面であるガラス表面に凹凸を形成する表面処理を行う表面処理工程と、
を有し、
前記表面処理工程では、
前記ガラス表面に、その粗さ曲線の平均線からの高さが1nm以上である凸部が分散して形成され、
一辺の長さが1μmの正方形の形状を有し前記ガラス表面の一部を占める矩形領域に関して、任意の前記矩形領域の面積に占める前記凸部の面積の比率である凸部面積比率が0.5%〜10%となるように、前記表面処理が行われ、
正方形の形状を有する少なくとも100個の分割領域に前記矩形領域が均等に分割される場合において、前記矩形領域に含まれる前記分割領域の数に占める、前記凸部を有する前記分割領域の数の比率である凸部含有比率が80%以上となるように、前記表面処理が行われ
前記ガラス基板は、アルカリ成分として、R’2O(R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。)を0質量%〜2.0質量%含み、
前記ガラス表面と反対側の前記主表面は、半導体素子が形成されるデバイス面であり、
前記半導体素子は、配線の最小線幅が4μm未満であり、ゲート絶縁膜の膜厚が100nm未満であるTFTである、
ガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記凸部面積比率は、0.75%〜7.0%である、
請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記凸部含有比率は、90%以上である、
請求項1または2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記表面処理は、ケミカルエッチング処理である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
前記デバイス面は、低温ポリシリコン半導体または酸化物半導体が形成される面である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス基板は、Si、AlおよびBを組成として含むボロアルミノシリケートガラスからなる、
請求項1〜5のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項7】
ディスプレイ用のガラス基板であって、
前記ガラス基板の一方の主表面であるガラス表面に、その粗さ曲線の平均線からの高さが1nm以上である凸部が分散して形成され、
一辺の長さが1μmの正方形の形状を有し前記ガラス表面の一部を占める矩形領域に関して、任意の前記矩形領域の面積に占める前記凸部の面積の比率である凸部面積比率が0.5%〜10%であり、
正方形の形状を有する少なくとも100個の分割領域に前記矩形領域が均等に分割される場合において、前記矩形領域に含まれる前記分割領域の数に占める、前記凸部を有する前記分割領域の数の比率である凸部含有比率が80%以上であり、
アルカリ成分として、R’2O(R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。)を0質量%〜2.0質量%含み、
前記ガラス表面と反対側の前記主表面は、半導体素子が形成されるデバイス面であり、
前記半導体素子は、配線の最小線幅が4μm未満であり、ゲート絶縁膜の膜厚が100nm未満であるTFTである、
ガラス基板。
【請求項8】
前記デバイス面は、低温ポリシリコン半導体または酸化物半導体が形成される面である、
請求項7に記載のガラス基板。
【請求項9】
Si、AlおよびBを組成として含むボロアルミノシリケートガラスからなる、
請求項7または8に記載のガラス基板。
【請求項10】
半導体素子が形成されたガラス基板であるディスプレイ用パネルであって、
前記ガラス基板の一方の主表面であって、その粗さ曲線の平均線からの高さが1nm以上である凸部が分散して形成される第1主表面と、
前記第1主表面と反対側の前記主表面であって、半導体素子が形成される第2主表面と、
を備え、
一辺の長さが1μmの正方形の形状を有し前記第1主表面の一部を占める矩形領域に関して、任意の前記矩形領域の面積に占める前記凸部の面積の比率である凸部面積比率が0.5%〜10%であり、
正方形の形状を有する少なくとも100個の分割領域に前記矩形領域が均等に分割される場合において、前記矩形領域に含まれる前記分割領域の数に占める、前記凸部を有する前記分割領域の数の比率である凸部含有比率が80%以上であり、
前記ガラス基板は、アルカリ成分として、R’2O(R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。)を0質量%〜2.0質量%含み、
配線の最小線幅が4μm未満であり、ゲート絶縁膜の膜厚が100nm未満である回路を有するTFTパネルである、
ディスプレイ用パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法、ガラス基板、および、ディスプレイ用パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置等のフラットパネルディスプレイの製造には、ガラス基板が用いられる。フラットパネルディスプレイの製造工程において、ガラス基板表面にTFT(Thin Film Transistor)等の半導体素子を形成するために、ガラス基板は、半導体製造装置の反応容器内のサセプタに載置されて、成膜処理される。ガラス基板に複数種類の薄膜を形成するため、成膜処理は、複数の半導体製造装置によって複数回行われる。成膜処理が行われる度に、ガラス基板はサセプタから取り外される。このとき、ガラス基板を載置するサセプタの金属表面と、ガラス基板表面との間において、摩擦による静電気、すなわち、剥離帯電が発生して、ガラス基板に静電気が蓄積される。このため、複数回の成膜処理が行われたガラス基板は、大量の静電気を蓄積している。
【0003】
特に、液晶表示装置に用いられる無アルカリガラスからなるガラス基板は、その表面が帯電されやすく、静電気が除去されにくい。そして、剥離帯電の発生が繰り返されると、ガラス基板は、サセプタの金属表面に対して、静電気によって貼り付きやすくなる。これにより、ガラス基板をサセプタから取り外す際に、ガラス基板に過度な力を与えることでガラス基板を破損させてしまう場合がある。また、剥離帯電によって蓄積された静電気に起因する電圧は、ガラス基板表面に形成される半導体素子を破壊してしまう場合がある。さらに、ガラス基板の静電気の帯電によって、塵および埃等の微小な異物が、ガラス基板表面に付着してしまう場合がある。
【0004】
このような状況の下、フラットパネルディスプレイの製造工程における、表面の帯電が発生しにくいガラス基板の製造が提案されている。例えば、特許文献1(特開2005−255478号公報)に開示されるガラス基板は、電極線や各種デバイスが形成される表面であるデバイス面と、デバイス面の反対側の表面である粗面化面とを有する。粗面化面は、物理的研磨または化学処理により凹凸が形成されて粗面化された面であり、0.3nm〜10nmの算術平均粗さRaを有する。粗面化面の粗面化処理によって、ガラス基板の帯電が抑制される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラス基板の粗面化された表面は、微小な凹凸形状を有している。また、ガラス基板と、ガラス基板が載置されるテーブルとの接触面積が小さいほど、剥離帯電が発生しにくい。そのため、ガラス基板表面の粗さ曲線の凸部の数が多いほど、ガラス基板とテーブルとの接触面積がより小さくなるので、ガラス基板の帯電がより効果的に抑制される。しかし、ガラス基板表面の粗面化の程度を表すパラメータの一種であるRaは、ガラス基板表面の粗さ曲線の凸部の数と相関関係を有さない。そのため、Raが所定の範囲になるようにガラス基板表面を粗面化した場合でも、ガラス基板の帯電が充分に抑制されない可能性がある。
【0006】
また、ガラス基板表面全体に凸部が均一に分散していない場合、ガラス基板表面は、多数の凸部が集中的に形成されている領域と、凸部がほとんど形成されていない領域とを有する。凸部がほとんど形成されていない領域は、テーブルとの接触面積が局所的に大きい領域であるので、剥離帯電が発生しやすい領域である。そのため、ガラス基板表面における凸部の分布が偏っている場合、ガラス基板は、帯電が充分に抑制されない領域を有するおそれがある。従って、ガラス基板表面全体の帯電を充分に抑制して、ガラス基板の品質を向上させるためには、ガラス基板表面に凸部が均一に分散している必要がある。
【0007】
本発明の目的は、表面の帯電が効果的に抑制されるガラス基板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るガラス基板の製造方法は、ガラス基板を製造する製造工程と、ガラス基板の一方の主表面であるガラス表面に凹凸を形成する表面処理を行う表面処理工程とを有する、ディスプレイ用のガラス基板の製造方法である。表面処理工程では、ガラス表面に、その粗さ曲線の平均線からの高さが1nm以上である凸部が分散して形成される。表面処理工程では、凸部面積比率が0.5%〜10%となるように、表面処理が行われる。凸部面積比率は、任意の矩形領域の面積に占める凸部の面積の比率である。矩形領域は、一辺の長さが1μmの正方形の形状を有し、ガラス表面の一部を占める領域である。表面処理工程では、正方形の形状を有する少なくとも100個の分割領域に矩形領域が均等に分割される場合において、凸部含有比率が80%以上となるように、表面処理が行われる。凸部含有比率は、矩形領域に含まれる分割領域の数に占める、凸部を有する分割領域の数の比率である。
【0009】
このガラス基板の製造方法において、凸部含有比率は、ガラス基板表面における凸部の分布の偏りの程度を表す指標である。凸部含有比率が大きいほど、凸部の分布の偏りがより小さく、ガラス基板表面に凸部がより均一に分散している。凸部含有比率が小さいほど、凸部の分布の偏りがより大きく、ガラス基板表面に凸部がより不均一に分散している。ガラス基板をテーブルに載置する場合、凸部の分布の偏りが小さいほど、ガラス基板表面とテーブル表面とが接触する領域の面積がより小さくなりやすいので、ガラス基板の帯電がより抑制される。すなわち、このガラス基板の製造方法は、凸部含有比率が80%以上となるようにガラス基板の表面処理を行うことで、ガラス基板の帯電を効果的に抑制することができる。
【0010】
また、凸部面積比率は、0.75%〜7.0%であることが好ましい。
【0011】
また、凸部含有比率は、90%以上であることが好ましい。
【0012】
また、表面処理は、ケミカルエッチング処理であることが好ましい。
【0013】
また、ガラス表面と反対側の主表面は、半導体素子が形成されるデバイス面であることが好ましい。
【0014】
また、デバイス面は、低温ポリシリコン半導体または酸化物半導体が形成される面であることが好ましい。
【0015】
また、ガラス基板は、Si、AlおよびBを組成として含むボロアルミノシリケートガラスからなることが好ましい。
【0016】
本発明に係るガラス基板は、ガラス基板の一方の主表面であるガラス表面に、その粗さ曲線の平均線からの高さが1nm以上である凸部が分散して形成される。ガラス基板の凸部面積比率は、0.5%〜10%である。凸部面積比率は、任意の矩形領域の面積に占める凸部の面積の比率である。矩形領域は、一辺の長さが1μmの正方形の形状を有し、ガラス表面の一部を占める領域である。正方形の形状を有する少なくとも100個の分割領域に矩形領域が均等に分割される場合において、ガラス基板の凸部含有比率は、80%以上である。凸部含有比率は、矩形領域に含まれる分割領域の数に占める、凸部を有する分割領域の数の比率である。ガラス表面と反対側の主表面は、半導体素子が形成されるデバイス面である。
【0017】
また、デバイス面は、低温ポリシリコン半導体または酸化物半導体が形成される面であることが好ましい。
【0018】
また、ガラス基板は、Si、AlおよびBを組成として含むボロアルミノシリケートガラスからなることが好ましい。
【0019】
本発明に係るディスプレイ用パネルは、半導体素子が形成されたガラス基板である。ディスプレイ用パネルは、第1主表面と、第2主表面とを備える。第1主表面は、ガラス基板の一方の主表面であって、その粗さ曲線の平均線からの高さが1nm以上である凸部が分散して形成される。第2主表面は、第1主表面と反対側の主表面であって、半導体素子が形成される。ディスプレイ用パネルの凸部面積比率は、0.5%〜10%である。凸部面積比率は、任意の矩形領域の面積に占める凸部の面積の比率である。矩形領域は、一辺の長さが1μmの正方形の形状を有し、ガラス表面の一部を占める領域である。正方形の形状を有する少なくとも100個の分割領域に矩形領域が均等に分割される場合において、ディスプレイ用パネルの凸部含有比率は、80%以上である。凸部含有比率は、矩形領域に含まれる分割領域の数に占める、凸部を有する分割領域の数の比率である。
【0020】
また、ディスプレイ用パネルは、配線の最小線幅が4μm未満であり、ゲート絶縁膜の膜厚が100nm未満である回路を有するTFTパネルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るガラス基板の製造方法によって製造されるガラス基板は、表面の帯電が効果的に抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係るガラス基板の断面図である。
図2】実施形態に係るガラス基板の製造方法を示すフローチャートである。
図3】浸水式エッチング装置の概略図である。
図4】ガラス基板の粗面化面に形成される凸部を示す図である。
図5】粗面化面に形成される凸部の分布の一例を示す図である。
図6】粗面化面の矩形領域に含まれる分割領域を示す図である。
図7】変形例Bにおける、ドライエッチング装置の一例を示す図である。
図8】変形例Bにおける、ウエットエッチング装置の一例を示す図である。
図9】実施例における、ガラス基板の帯電性を評価するための装置の概略図である。
図10】実施例における、フッ酸浸水エッチング処理が行われたガラス基板表面の凸部の分布の一例を表す図である。
図11】実施例における、酸化セリウム系研磨処理が行われたガラス基板表面の凸部の分布の一例を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(1)ガラス基板の製造方法の概略
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態で用いられるガラス基板の製造方法によって製造されるガラス基板10は、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイおよび有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ(FPD)の製造に用いられる。ガラス基板10は、太陽電池パネルの製造にも用いられる。ガラス基板10は、例えば、0.2mm〜0.8mmの厚みを有し、かつ、縦680mm〜2200mmおよび横880mm〜2500mmのサイズを有する。
【0024】
図1は、ガラス基板10の断面図である。ガラス基板10は、一方の主表面である素子形成面12と、他方の主表面である粗面化面14とを有する。素子形成面12は、FPDの製造工程において、TFT等の半導体素子が形成される面である。素子形成面12は、例えば、低温ポリシリコン半導体または酸化物半導体が形成される面であり、低温ポリシリコン薄膜、ITO(Indium Thin Oxide)薄膜、および、カラーフィルタ等からなる複数層の薄膜が形成される面である。高精細・高解像度向けのディスプレイ用TFTパネルでは、TFTのゲート絶縁膜の厚みは、100nm未満である。例えば、ゲート絶縁膜の厚みが5nm〜20nmであるTFTパネルの開発・製造も進められている。このようなTFTパネルでは、ゲート絶縁膜だけでなく、半導体素子を形成する各層の膜厚も薄い。そのため、素子形成面12は、Ra(算術平均粗さ:JIS B 0601:2001)が1.5nm以下、好ましくは1.0nm以下である滑らかな面である。素子形成面12にTFTが形成されたガラス基板10は、好ましくは、配線の最小線幅が4μm未満であり、ゲート絶縁膜の膜厚が100nm未満である回路を有する。
【0025】
粗面化面14は、後述するように、ガラス基板10の製造工程において、エッチング処理によって微小な凹凸が形成される面である。エッチング処理は、例えば、ドライエッチング処理およびウエットエッチング処理である。本実施形態では、粗面化面14は、ウエットエッチング処理の一種である浸水式エッチング(ディップエッチング)処理により凹凸が形成される。浸水式エッチング処理では、ガラス基板10全体を、エッチング液が貯留されているエッチング液槽に浸漬する。これにより、ガラス基板10の素子形成面12および粗面化面14の両方が粗面化される。浸水式エッチング処理においてガラス基板10の粗面化面14のみを粗面化する場合、素子形成面12に保護フィルムを貼り付けたガラス基板10をエッチング液槽に浸漬する。
【0026】
なお、粗面化面14は、所望の表面状態を形成することができれば、エッチング処理以外の表面処理により凹凸が形成されてもよい。例えば、粗面化面14は、テープ研磨、ブラシ研磨、パッド研磨、砥粒研磨、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等の物理研磨によって凹凸が形成されてもよい。
【0027】
ガラス基板10の一例として、以下の組成を有するガラスが挙げられる。
【0028】
(a)SiO2:50質量%〜70質量%、
(b)Al23:10質量%〜25質量%、
(c)B23:5質量%〜18質量%、
(d)MgO:0質量%〜10質量%、
(e)CaO:0質量%〜20質量%、
(f)SrO:0質量%〜20質量%、
(g)BaO:0質量%〜10質量%、
(h)RO:5質量%〜20質量%(Rは、Mg、Ca、SrおよびBaから選択される少なくとも1種である。)、
(i)R’2O:0質量%〜2.0質量%(R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。)、
(j)SnO2、Fe23およびCeO2から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物。
【0029】
なお、上記の組成を有するガラスは、0.1質量%未満の範囲で、その他の微量成分の存在が許容される。
【0030】
ガラス基板10は、フロート法およびダウンドロー法等により成形される。本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法を用いるFPD用のガラス基板10の製造工程について説明する。図2は、ガラス基板10の製造工程を表すフローチャートの一例である。ガラス基板10の製造工程は、主として、熔解工程(ステップS10)と、清澄工程(ステップS20)と、攪拌工程(ステップS30)と、成形工程(ステップS40)と、徐冷工程(ステップS50)と、採板工程(ステップS60)と、切断工程(ステップS70)と、粗面化工程(ステップS80)と、端面加工工程(ステップS90)とからなる。熔解工程S10と、清澄工程S20と、攪拌工程S30と、成形工程S40と、徐冷工程S50と、採板工程S60と、切断工程S70とは、ガラス原料からガラス基板10が製造される基板製造工程である。粗面化工程S80は、ガラス基板10の粗面化面14がエッチング処理により粗面化される表面処理工程である。次に、各工程の概略の一例を説明する。
【0031】
熔解工程S10では、熔解槽において、バーナー等の加熱手段によりガラス原料が熔解され、1500℃〜1600℃の高温の熔融ガラスが生成される。ガラス原料は、所望の組成のガラスを実質的に得ることができるように調製される。ここで、「実質的に」とは、0.1質量%未満の範囲で、その他の微量成分の存在が許容されることを意味する。熔融ガラスは、熔解槽の底部に設けられた流出口から下流工程に送られる。
【0032】
清澄工程S20では、清澄槽において、熔解工程S10で生成された熔融ガラスをさらに昇温させることで、熔融ガラスの清澄が行われる。清澄槽において、熔融ガラスの温度は、1600℃〜1750℃、好ましくは1650℃〜1700℃に上昇させられる。清澄槽では、熔融ガラスに含まれるO2、CO2およびSO2の微小な泡が、ガラス原料に含まれるSnO2等の清澄剤の還元により生じたO2を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に浮上する。
【0033】
攪拌工程S30では、攪拌槽において、清澄工程S20で清澄された熔融ガラスが攪拌され、化学的および熱的に均質化される。攪拌槽では、熔融ガラスは鉛直方向に流れながら、軸回転するスターラーによって攪拌され、攪拌槽の底部に設けられた流出口から下流工程に送られる。また、攪拌工程S30では、ジルコニアリッチの熔融ガラス等、熔融ガラスの平均的な比重と異なる比重を有するガラス成分が攪拌槽から除去される。
【0034】
成形工程S40では、オーバーフローダウンドロー法によって、攪拌工程S30で攪拌された熔融ガラスからガラスリボンが成形される。具体的には、成形セルの上部から溢れて分流した熔融ガラスが、成形セルの側壁に沿って下方へ流れ、成形セルの下端で合流することでガラスリボンが連続的に成形される。熔融ガラスは、成形工程S40に流入する前に、オーバーフローダウンドロー法による成形に適した温度、例えば、1200℃まで冷却される。
【0035】
徐冷工程S50では、成形工程S40で連続的に生成されたガラスリボンが、歪みおよび反りが発生しないように温度制御されながら、徐冷点以下まで徐冷される。
【0036】
採板工程S60では、徐冷工程S50で徐冷されたガラスリボンが、所定の長さごとに切断される。
【0037】
切断工程S70では、採板工程S60で所定の長さごとに切断されたガラスリボンが、所定の大きさに切断されて、ガラス基板10が得られる。
【0038】
粗面化工程S80では、後述するように、切断工程S70で得られたガラス基板10の粗面化面14の表面粗さを増加させる表面処理が行われる。
【0039】
端面加工工程S90では、粗面化工程S80で粗面化面14が表面処理されたガラス基板10の端部を研磨および研削する。
【0040】
なお、端面加工工程S90の後に、ガラス基板10の洗浄工程および検査工程が行われる。最終的に、ガラス基板10は梱包されて、FPDの製造業者に出荷される。FPD製造業者は、ガラス基板10の素子形成面12aにTFT等の半導体素子を形成して、FPDを製造する。
【0041】
(2)粗面化工程の詳細
粗面化工程S80で行われる、粗面化面14の表面処理について説明する。図3は、ガラス基板10の浸水式エッチング処理を行う浸水式エッチング装置20の概略図である。浸水式エッチング装置20は、複数のガラス基板10を収容可能なカセット22と、カセット22を搬送する搬送機構(図示せず)と、エッチング液槽24とを備えている。エッチング液槽24は、必要に応じて、超音波機構および温度調節機構を備えている。超音波機構は、ガラス基板10がエッチング液26に浸漬された状態で、超音波によりガラス基板10を洗浄し、かつ、ガラス基板10表面のエッチング処理を促進する。温度調節機構は、エッチング液26の温度を調節する。浸水式エッチング装置20は、さらに、エッチング液槽24にエッチング液26を供給するタンク(図示せず)を備えている。
【0042】
複数のガラス基板10を収容したカセット22は、搬送機構によって搬送され、エッチング液槽24に貯留されたエッチング液26に浸漬される。エッチング液26に浸漬されたガラス基板10は、その後、純水、超純水または機能水等の液体に、順次、浸漬されて洗浄される。エッチング液26は、例えば、フッ化水素(HF)の溶液である。純水および超純水は、例えば、イオン交換処理、EDI(Electrodeionization)処理、逆浸透膜によるフィルタ処理、および、脱炭酸ガス装置を通した脱炭酸ガス処理を施した、純水または超純水である。機能水は、例えば、アンモニア水素水である。
【0043】
本実施形態において、エッチング液26として用いられるフッ化水素(HF)溶液の濃度は、例えば、200ppm〜1500ppmであり、エッチング液26の温度は、例えば、20℃〜30℃の範囲に維持される。ガラス基板10がエッチング液26に浸漬される時間は、60秒〜180秒であり、好ましくは100秒〜120秒である。
【0044】
(3)粗面化面の詳細
粗面化工程S80において表面処理された粗面化面14について説明する。粗面化面14は、粗面化工程S80のエッチング工程によって、微小な凹凸が形成される面である。
【0045】
粗面化面14は、凸部が分散して形成されている面である。凸部は、粗面化面14の粗さ曲線の平均線からの高さが1nm以上の部分である。粗面化工程S80において、粗面化面14は、凸部面積比率が0.5%〜10%となるように表面処理される。凸部面積比率は、任意の矩形領域の面積に占める凸部の面積の比率である。矩形領域は、一辺の長さが1μmの正方形の形状を有し、粗面化面14の一部を占める領域である。すなわち、粗面化面14に含まれる任意の1μm四方の正方形の領域は、凸部を有している。
【0046】
図4は、粗面化面14に形成される凸部を示す図である。図4は、粗面化面14の表面プロファイル形状を一次元的に示す図である。図4では、粗面化面14の粗さ曲線の平均線が、平均基準線mとして示されている。図4では、平均基準線mからの高さが1nm以上である凸部が、ハッチングされた領域zとして示されている。あるポイントにおける平均基準線mからの高さは、そのポイントが平均基準線mより上方にある場合は正の値であり、そのポイントが平均基準線mより下方にある場合は負の値である。平均基準線mは、平均基準線mを基準とする表面プロファイル形状の各ポイントでの高さを合計した値が0となる高さに位置している。
【0047】
次に、凸部面積比率の測定方法について説明する。ガラス基板10の粗面化面14の凹凸は、例えば、原子間力顕微鏡を用いてノンコンタクトモードで計測される。粗面化面14の計測では、算術平均粗さRaが1nm未満のような面粗さの小さい表面を測定できるように、原子間力顕微鏡の計測条件が調整される。計測条件の一例として、スキャンエリアは1μm角であり、スキャンレートは0.8Hzであり、サーボゲインは1.5であり、サンプリングは256ポイント×256ポイントであり、セットポイントは自動設定である。
【0048】
図5は、原子間力顕微鏡を用いて計測された、粗面化面14に含まれる1μm×1μm(256ポイント×256ポイント)の正方形の領域に形成される凸部の分布の一例を示す図である。図5では、平均基準線mからの高さが1nm以上である凸部が白い領域として示されている。凸部の面積は、例えば、粗面化面14の表面プロファイル形状を二次元的に示す画像から、平均基準線mからの高さが1nm以上である画素の数をカウントすることにより求められる。
【0049】
図5において白い領域で示されている凸部が、1μm×1μmの正方形の領域に占める面積比率である凸部面積比率は、0.5%〜10%の範囲内にある。凸部面積比率を0.5%〜10%とするのは、以下の理由による。物体間における電荷の移動は、物体と物体との間の距離が、0.8nm未満であるときに生じやすいといわれている。そのため、ガラス基板10と、ガラス基板10が載置されるテーブル等の支持体との間の距離が1nm以下である場合、支持体からガラス基板10に電荷が移動して、ガラス基板10が帯電することがある。
【0050】
本実施形態では、凸部面積比率が0.5%以上となるように粗面化面14を表面処理して、ガラス基板10とテーブルとの間の距離を十分に保持することで、ガラス基板10の帯電が抑制される。凸部面積比率が0.5%未満である場合には、粗面化面14に形成される凸部の周囲の部分がテーブル表面と接触しやすくなるため、凸部がガラス基板10を十分に支持することができない。そのため、ガラス基板10とテーブル表面との間の距離を十分に保持できず、ガラス基板10が帯電する。一方、凸部面積比率が10%を超える場合には、粗面化面14に形成される凸部とテーブル表面との接触点が増え、粗面化面14とテーブル表面との間で電荷が移動しやすくなるため、ガラス基板10の帯電量が増加する。また、凸部面積比率が10%を超えるようにエッチング処理を行う場合、粗面化面14に微小な凹凸を目標どおりに形成することが難しい。そのため、ガラス基板10の表面品質が十分に確保できず、粗面化面14にキズ等の欠陥が生じやすい。例えば、粗面化面14に形成されている潜在的な微小キズが、表面処理により増幅されるおそれがある。従って、エッチング処理された粗面化面14の凸部面積比率は、0.5%〜10%であり、好ましくは0.75%〜7.0%であり、より好ましくは1.2%〜4.0%である。
【0051】
なお、ガラス基板10の帯電を抑制するために、従来、粗面化面14のRaを0.3nm〜1.5nmとする表面処理が行われている。しかし、粗面化面14のRaが0.3nm〜1.5nmであっても、粗面化面14の凸部面積比率が0.5%〜10%であるとは限らない。逆に、粗面化面14の凸部面積比率が0.5%〜10%であっても、粗面化面14のRaが0.3nm〜1.5nmであるとは限らない。すなわち、Raと凸部面積比率とは、互いに無関係なパラメータである。
【0052】
従って、粗面化面14のRaは、ガラス基板10の帯電を抑制する効果を示す指標として十分ではない。本実施形態では、この点を考慮して、粗面化面14の凸部面積比率が0.5%〜10%となるように、粗面化面14の表面処理が行われる。
【0053】
さらに、本実施形態では、凸部含有比率が80%以上となるように、粗面化面14の表面処理が行われる。凸部含有比率は、正方形の形状を有する少なくとも100個の分割領域に、矩形領域が均等に分割される場合において、矩形領域に含まれる分割領域の数に占める、凸部を有する分割領域の数の比率である。
【0054】
図6は、粗面化面14の矩形領域に含まれる分割領域を示す図である。図6に示される矩形領域は、1μm×1μmの正方形の領域である。分割領域は、正方形の矩形領域を、横方向に均等に10分割し、縦方向に均等に10分割した場合における、分割された各領域である。図6では、矩形領域を分割する線、すなわち、隣り合う分割領域の間の境界線が、実線で示されている。分割領域は、0.1μm×0.1μmの正方形の領域である。1μm四方の矩形領域は、100個の0.1μm四方の分割領域を有している。
【0055】
凸部含有比率は、矩形領域に含まれる分割領域の数に占める、凸部を有する分割領域の数の比率である。図6では、矩形領域に含まれる分割領域の数は、100である。凸部を有する分割領域は、凸部を含む分割領域、または、凸部の一部を含む分割領域である。図6には、凸部の例が、ハッチングされた領域として示されている。図6において、凸部c1は、分割領域r1に完全に含まれ、凸部c2は、3つの分割領域r2,r3,r4に跨っている。この場合、分割領域r1,r2,r3,r4は、すべて、凸部を有する分割領域である。凸部含有比率の値は、矩形領域に含まれる分割領域の数が100である場合、凸部を有する分割領域の数と等しい。すなわち、凸部含有比率が80%以上である場合、凸部を有する分割領域の数は80以上である。
【0056】
凸部含有比率は、粗面化面14に形成される凸部の分布の偏りの程度を表す指標である。凸部含有比率が大きいほど、凸部の分布の偏りがより小さく、粗面化面14全体に凸部がより均一に分散している。凸部含有比率が小さいほど、凸部の分布の偏りがより大きく、粗面化面14全体に凸部がより不均一に分散している。凸部の分布の偏りが小さいほど、ガラス基板10が載置されるテーブルの表面と、ガラス基板10の粗面化面14とが接触する領域の面積がより小さくなりやすいので、ガラス基板10の帯電がより抑制される。従って、エッチング処理された粗面化面14の凸部含有比率は、80%以上であり、好ましくは90%以上であり、より好ましくは95%以上である。
【0057】
(4)特徴
FPDの製造工程において、ガラス基板10の素子形成面12には、TFT等の半導体素子、具体的には、ポリシリコン薄膜およびITO薄膜等からなる複数層の薄膜が形成される。素子形成面12に成膜処理が行われる度に、ガラス基板10は、半導体製造装置の反応容器内のサセプタから取り外される。このとき、ガラス基板10を載置するサセプタの金属表面と、ガラス基板10の粗面化面14との間において、剥離帯電が発生する。剥離帯電によってガラス基板10に静電気が蓄積されると、ガラス基板10の粗面化面14は、サセプタの金属表面に対して、静電気によって貼り付きやすくなる。これにより、ガラス基板10をサセプタから取り外す際に、ガラス基板10に過度な力を与えることでガラス基板10を破損させてしまう場合がある。また、剥離帯電によって蓄積された静電気に起因する電圧は、ガラス基板10の素子形成面12に形成された半導体素子等を破壊してしまう場合がある。また、液晶パネル製造工程において、TFTパネルまたはCFパネルに静電気が帯電した状態で、TFTパネルとCFパネルとが貼り合わせられて液晶が注入されると、製造された液晶パネルの表示にムラが生じる場合がある。そのため、FPDの製造工程では、ガラス基板10の帯電を抑制することが重要である。
【0058】
本実施形態に係るガラス基板の製造方法によって製造されるガラス基板10は、エッチング処理によって粗面化された粗面化面14を有している。エッチング処理では、粗面化面14は、凸部面積比率が0.5%〜10%となり、かつ、凸部含有比率が80%以上、好ましくは90%以上となるように表面処理される。
【0059】
粗面化面14の凸部面積比率が0.5%〜10%であるため、ガラス基板10をテーブルに載置した場合、粗面化面14に形成されている凸部によってガラス基板10が支持される。これにより、粗面化面14とテーブル表面との接触面積が小さくなり、かつ、ガラス基板10とテーブルとの間の距離が十分に保持されるので、ガラス基板10の帯電が効果的に抑制される。
【0060】
また、粗面化面14の凸部含有比率が80%以上であるため、粗面化面14に形成されている凸部は、粗面化面14全体に均一に分散している。これにより、粗面化面14における凸部の分布の偏りが小さく、ガラス基板10が載置されるテーブルの表面と、ガラス基板10の粗面化面14とが接触する領域の面積が小さいので、ガラス基板10の帯電が効果的に抑制される。
【0061】
従って、本実施形態に係るガラス基板の製造方法では、凸部面積比率が0.5%〜10%となり、かつ、凸部含有比率が80%以上となるように粗面化面14を表面処理することにより、ガラス基板10の剥離帯電が効果的に抑制される。そのため、FPDの製造工程において、ガラス基板10の破損、および、ガラス基板10の表面に形成された半導体素子等の破壊を効果的に抑制することができる。また、ガラス基板10の静電気の帯電に起因してガラス基板10の表面にパーティクルが付着することが抑制され、パーティクルの付着によるカラーフィルタ剥がれ、および、配線電極剥がれを抑制することができる。パーティクルは、例えば、塵や埃等の微小な異物である。
【0062】
また、本実施形態に係るガラス基板の製造方法は、粗面化面14の表面処理によって、ガラス基板10の帯電が抑制されるので、半導体製造装置を用いて成膜等の処理が行われるガラス基板10に好適に用いることができ、特に、ガラス基板10に塵および埃等の異物が付着しないことが望ましいカラーフィルタ形成用ガラス基板に好適に用いることができる。
【0063】
また、本実施形態に係るガラス基板の製造方法は、ガラス基板10の素子形成面12に、膜厚が100nm未満であるゲート絶縁膜を備えるTFTが形成されるガラス基板に好適に用いることができる。近年、高精細・高解像度ディスプレイ用パネルは、ゲート絶縁膜を主として、半導体素子に含まれる各層の膜厚が薄くなってきている。画素ピッチを狭くして、表示切替を速くするために、ゲート絶縁膜を薄くすることが求められている。また、ディスプレイ用パネルの省電力化のため、ゲート電圧を小さくできる観点から、ゲート絶縁膜の膜厚は薄くなってきている。高精細・高解像度ディスプレイ用パネルにおけるこのような薄膜化の一例として、ゲート絶縁膜の膜厚を100nm未満にすることが行われている。ゲート絶縁膜の膜厚は、従来は100nmを超えていたが、近年では、50nm未満、さらには20nm未満の膜厚のゲート絶縁膜を用いるパネルも製造されている。ゲート絶縁膜をこのように薄くすることが可能となったのは、ゲート絶縁膜の品質が向上してきたためである。また、TFT配線の最小線幅が4μm未満であるパネルが製造されている。例えば、1μm〜3μmの線幅回路を有するパネルが製造されている。しかし、ガラス基板10の帯電によってゲート絶縁膜で放電が起きてゲート絶縁膜が損傷する等、半導体素子の静電破壊という問題が生じるようになった。そのため、ゲート絶縁膜が100nm未満であり、かつ、最小線幅が4μm未満であるTFTが形成されたディスプレイ用パネルに用いられるガラス基板10として、本実施形態に係るガラス基板の製造方法によって製造されるガラス基板10が有用である。
【0064】
また、本実施形態に係るガラス基板の製造方法によって製造されるガラス基板10は、静電気の帯電を防止する効果だけではなく、パネル製造工程に使用されるステージとガラス基板10との間の貼り付きを防止する効果も有する。ガラス基板10の粗面化面14が均一に粗面化されると、粗面化面14とステージ表面との間に空気の通り道が均一に形成される。これにより、ステージに載置されているガラス基板10を持ち上げる際に、ガラス基板10に局所的な力が加わりにくくなり、ガラス基板10の割れを抑制することができる。
【0065】
また、本実施形態では、ガラス基板10の浸水式エッチング処理によって、素子形成面12および粗面化面14の両方が粗面化される。これにより、粗面化面14の帯電だけでなく、素子形成面12の帯電も効果的に抑制される。なお、ガラス基板10の素子形成面12には、TFT等の半導体素子が形成されるので、素子形成面12は、半導体素子の形成が阻害されない程度に粗面化されることが好ましい。具体的には、粗面化された素子形成面12は、1.5nm未満、好ましくは1.0nm未満の算術平均粗さRaを有することが好ましい。
【0066】
(5)変形例
以上、本発明に係るガラス基板の製造方法について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良および変更が施されてもよい。なお、本発明は、半導体素子が表面に形成されるガラス基板だけでなく、カラーフィルタが表面に形成されるガラス基板にも効果を奏する。
【0067】
(5−1)変形例A
本実施形態では、浸水式エッチング処理により、ガラス基板10の粗面化面14が粗面化されるが、浸水式エッチング処理の前に、粗面化面14の洗浄処理が行われてもよい。洗浄処理は、例えば、大気圧プラズマ洗浄処理である。大気圧プラズマ洗浄処理では、例えば、窒素および酸素の混合ガスである空気、および、アルゴンから生成される、プラズマ状態で活性化されたガスが用いられる。
【0068】
大気圧プラズマ洗浄処理では、プラズマ状態で活性化されたガスを、ガラス基板10の粗面化面14に吹き付けることにより、粗面化面14に付着している有機物の薄膜が除去される。有機物の薄膜は、後のエッチング処理において、マスクとして機能する。そのため、エッチング処理の前に、粗面化面14から有機物の薄膜を除去して、有機物の薄膜がマスクとして機能しないように、粗面化面14の洗浄処理を行ってもよい。
【0069】
大気圧プラズマ洗浄処理により洗浄された粗面化面14は、有機物の薄膜が除去されて親水性を有している。洗浄された粗面化面14における水の接触角は、10度以下になることが好ましく、5度以下になることがより好ましい。水の接触角は、粗面化面14の洗浄時間、または、粗面化面14に吹き付けられるガスの流量を制御することで調節することができる。
【0070】
なお、粗面化面14の洗浄工程において、プラズマ洗浄処理を行う代わりに、オゾンガスの吹き付け処理、および、紫外線の照射処理を行うことにより、有機物の薄膜を除去することもできる。洗浄工程では、少なくとも、有機物を酸化または改質させることにより、有機物の薄膜が除去されればよい。なお、エッチング工程での表面処理の前に行う洗浄工程は、必須の工程ではなく、表面処理される粗面化面14の清浄度が高ければ行う必要はない。
【0071】
(5−2)変形例B
本実施形態では、ウエットエッチング処理は、浸水式エッチング処理であるが、ロールエッチング処置およびシャワーエッチング処置等でもよい。ロールエッチング処理およびシャワーエッチング処理では、浸水式エッチング処理と比べて、粗面化面14がエッチャントと接する時間である接液時間が短く、かつ、接液時間を制御しにくい。そのため、ロールエッチング処理およびシャワーエッチング処理では、浸水式エッチング処理の場合よりもエッチャントに含まれるフッ化水素の濃度を高くすることが好ましく、かつ、フッ化水素の濃度を調節することにより粗面化面14に形成される凸部の分散を制御することが好ましい。ロールエッチング処理およびシャワーエッチング処理の場合、エッチャントに含まれるフッ化水素の濃度は、2000ppm〜8000ppmであることが好ましい。
【0072】
また、ウエットエッチング処理を行う前に、ガラス基板10の洗浄処理を行ってもよい。洗浄処理によって、ガラス基板10の表面に付着している有機物が除去される。ウエットエッチング処理は、ドライエッチング処理と比較して、有機物の影響を受けにくい。しかし、ウエットエッチング処理の前に洗浄処理を行うことによって、ガラス基板10の粗面化面14に形成される凸部の分散を制御することができ、粗面化面14全体に凸部を均一に形成することができる。
【0073】
(5−3)変形例C
本実施形態では、ガラス基板10全体をエッチング液に浸漬する浸水式エッチング処理により、ガラス基板10の素子形成面12および粗面化面14の両方が粗面化されるが、粗面化面14のみが粗面化されてもよい。粗面化面14のみを粗面化するエッチング処理としては、ドライエッチング処理およびウエットエッチング処理等のケミカルエッチング処理がある。ケミカルエッチング処理では、フッ素系のエッチャントが用いられ、特に、フッ化水素を含むエッチャントが用いられることが好ましい。
【0074】
図7は、ドライエッチング装置の一例を示す図である。ドライエッチング装置30は、主として、エッチングノズル31と搬送ローラ32とを備える。ガラス基板10は、搬送ローラ32により搬送される。ガラス基板10の粗面化面14は、搬送ローラ32と接触する表面である。エッチングノズル31は、ガラス基板10の幅方向に延びるスリット状のノズルである。エッチングノズル31は、搬送されるガラス基板10の粗面化面14に、エッチャントを吹き付ける。エッチャントは、例えば、プラズマ状態のキャリアガス中に、四フッ化炭素および水の混合ガスを通過させることにより生成される、気体のフッ化水素である。キャリアガスとしては、窒素およびアルゴン等が用いられる。
【0075】
図8は、ウエットエッチング装置の一例を示す図である。ウエットエッチング装置40は、主として、搬送ローラ42と、粗面化ローラ44と、接触ローラ46と、エッチャント槽48とを備える。ガラス基板10は、搬送ローラ42および粗面化ローラ44により搬送される。ガラス基板10の粗面化面14は、搬送ローラ42および粗面化ローラ44と接触する表面である。粗面化ローラ44の外周面は、スポンジで構成される。粗面化ローラ44の外周面の一部は、エッチャント槽48に貯留されているエッチング液49に浸漬されている。エッチング液49は、例えば、フッ化水素酸である。粗面化ローラ44の表面は、エッチング液49を吸収する。そのため、粗面化ローラ44に吸収されたエッチング液49は、ガラス基板10の粗面化面14と接触するので、エッチング液49が粗面化面14に塗布される。粗面化面14に塗布されるエッチング液49の量を調節するために、粗面化ローラ44に吸収されたエッチング液49の一部は、粗面化ローラ44の表面を押圧する接触ローラ46によって絞り取られる。また、ガラス基板10の素子形成面12にエアー等を吹き付けることにより、ガラス基板10の粗面化面14と粗面化ローラ44との接触する圧力を高く保つことができる。
【0076】
エッチング工程では、ガラス基板10の搬送速度を調整することによって、エッチング処理に要する時間を調整し、また、粗面化面14に付着するエッチャントの量を調整することができる。エッチング工程が行われる前に、ガラス基板10の粗面化面14は、洗浄工程において有機物の薄膜が除去されているので、粗面化面14は均一にエッチングされる。粗面化面14のみをエッチングすることで、素子形成面12を、ダウンドロー法により形成された面として、0.2nm以下のRaを有する極めて滑らかな面とすることができる。
【0077】
(5−4)変形例D
図8では、ガラス基板10の粗面化面14のウエットエッチング処理の例として、粗面化ローラ44を用いて粗面化面14にエッチング液を塗布するローラエッチング処理について説明した。しかし、粗面化面14のウエットエッチング処理は、例えば、シャワーエッチング処理であってもよい。
【0078】
シャワーエッチング処理では、ガラス基板10の粗面化面14に、エッチング液の微小な液滴が吹き付けられる。これにより、エッチング液が粗面化面14に均一に付着して、粗面化面14が粗面化される。
【実施例】
【0079】
本発明に係るガラス基板の製造方法の実施例として、複数のガラス基板に対して、互いに異なる条件下でウエットエッチング処理による表面処理を行い、表面処理されたガラス基板表面である粗面化面の凸部面積比率、凸部含有比率および帯電性を測定した。測定に用いられたガラス基板は、730mm×920mmのサイズを有し、0.5mmの厚さを有する。測定に用いられたガラス基板は、Si、AlおよびBを組成として含むボロアルミノシリケートガラスからなる。測定に用いられたガラス基板は、アルカリ成分として、R’2O(R’は、Li、NaおよびKから選択される少なくとも1種である。)を0質量%〜2.0質量%含む。
【0080】
最初に、ガラス基板の粗面化面を、大気圧プラズマ洗浄装置を用いて洗浄した。洗浄工程では、プラズマ状態のアルゴンガスを、毎分所定の量、粗面化面に吹き付けて、ガラス基板の表面を洗浄した。これにより、ガラス基板の表面に付着している有機物が除去される。ウエットエッチング処理は、ドライエッチング処理と比較して、有機物の影響を受けにくい。しかし、ウエットエッチング処理の前に洗浄処理を行うことによって、ガラス基板の粗面化面に形成される凸部の分散を制御することができ、粗面化面全体に凸部を均一に形成することができる。
【0081】
次に、洗浄した粗面化面を、ウエットエッチング処理により表面処理した。ウエットエッチング処理では、図3に示されるように、フッ酸浸水エッチング処理が行われた。
【0082】
次に、表面処理された粗面化面を有するガラス基板から、一辺が50mmである正方形の試料を切り出して、エッチング処理されたガラス基板の評価を行った。具体的には、切り出した各試料の粗面化面を、原子間力顕微鏡(ParkSystems社製、モデルXE−100)を用いて、ノンコンタクトモードで計測した。計測の前に、算術平均粗さRaが1nm未満のような面粗さの小さい表面凹凸を計測するために、原子間力顕微鏡の測定条件の調整を行った。スキャンエリアを1μm×1μm(サンプリング数は256ポイント×256ポイント)に設定し、スキャンレートを0.8Hzに設定し、ノンコンタクトモードにおけるサーボゲインを1.5に設定した。セットポイントは自動設定とした。この計測により、ガラス基板の粗面化面に形成された凹凸に関する2次元の表面プロファイル形状が得られた。表面プロファイル形状から、粗面化面の凹凸に関するヒストグラムを得て、粗面化面の平均基準線からの高さが1nm以上の位置でスライスして、平均基準線からの高さが1nm以上である画素数をカウントすることにより、凸部面積比率を求めた。また、1μm×1μmの正方形のスキャンエリアを、10×10に均等に分割して、100個の分割領域を設定した。そして、表面プロファイル形状から、凸部を有する分割領域の数をカウントすることにより、凸部含有比率を求めた。
【0083】
次に、ガラス基板の帯電性を評価した。帯電性の評価は、温度25℃および湿度60%に制御されたクリーンブース内で行った。
【0084】
図9は、ガラス基板の帯電性を評価する装置の概略図である。最初に、ガラス基板10を基板テーブル50に載せて昇降ピン52で支持した。次に、基板テーブル50の載置面に対して昇降ピン52を下降させることにより、ガラス基板10を下降させて基板テーブル50に載置した。基板テーブル50は、アルミニウム製テーブルをアルマイト処理した表面を有している。次に、図示されない吸引装置で基板テーブル50の載置面に設けられた吸引口からガラス基板10を吸引した。次に、ガラス基板10の吸引を終了して、昇降ピン52を上昇させた。
【0085】
上述したガラス基板の下降、吸引、吸引終了および上昇の工程を1サイクルとした場合、ガラス基板の帯電性を評価するために、50サイクルを繰り返した。その後、ガラス基板の帯電量を計測した。帯電量の計測は、ガラス中央部のガラス表面の電位を計測することで代用した。帯電量の計測は、表面電位計(オムロン社製ZJ−SD)を用いた。表面電位計は、ガラス基板の粗面化面の反対側の面から高さ10mmの位置に設置した。また、基板テーブルの載置面に設けられた吸引口の吸引力を、0.6MPaに設定した。
【0086】
下記の表1には、実施例1〜3、比較例1〜3からなる6枚のガラス基板に関して、表面処理方法、表面処理条件、凸部面積比率、凸部含有比率および帯電性の評価が示されている。
【0087】
表1において、「表面処理方法」は、ガラス基板10の粗面化面14のエッチング処理の方法を表す。実施例1〜3では、フッ酸を用いるウエットエッチング処理を行い、比較例1〜3では、酸化セリウム研磨剤を用いる研磨処理を行った。表1において、「表面処理条件」は、実施例1〜3の場合では、フッ酸の濃度を表し、比較例1〜3の場合では、研磨時間を表す。表1において、「帯電性」は、ガラス基板表面の帯電量の評価において、ガラス基板表面の最大帯電量の絶対値が小さい順に、「◎」、「○」、「△」および「×」で表される。
【0088】
【表1】
【0089】
表1によると、実施例1〜3のフッ酸浸水エッチング処理では、すべての実施例において、90%以上の凸部含有比率が得られた。一方、比較例1〜3の酸化セリウム研磨処理では、フッ酸浸水エッチング処理と同程度の凸部面積比率が得られたが、最大で62%の凸部含有比率が得られた。すなわち、フッ酸浸水エッチング処理が行われたガラス基板表面の凸部含有比率は、酸化セリウム研磨処理が行われたガラス基板表面の凸部含有比率より高かった。
【0090】
また、表1によると、凸部含有比率が大きいほど、ガラス基板の帯電性が改善される傾向が示された。すなわち、ガラス基板表面における凸部の分布の偏りが少ないほど、ガラス基板の剥離帯電が抑制されることが確認された。
【0091】
図10は、フッ酸浸水エッチング処理が行われたガラス基板表面の凸部の分布の一例を表す。図11は、酸化セリウム研磨処理が行われたガラス基板表面の凸部の分布の一例を表す。図10および図11では、凸部が白い領域として示されている。図10および図11には、隣り合う分割領域の間の境界線が実線で示されている。
【0092】
図10および図11に示されるように、フッ酸浸水エッチング処理では、ガラス基板表面全体に凸部が一様に分布するように、ガラス基板の表面処理が行われた。一方、酸化セリウム研磨処理では、ガラス基板表面全体における凸部の分布が偏るように、ガラス基板の表面処理が行われた。図10において、ガラス基板表面の凸部面積比率は3.12%であり、ガラス基板表面の凸部含有比率は96%であった。図11において、ガラス基板表面の凸部面積比率は3.23%であり、ガラス基板表面の凸部含有比率は58%であった。
【符号の説明】
【0093】
10 ガラス基板
12 素子形成面(第2主表面)
14 粗面化面(第1主表面)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0094】
【特許文献1】特開2005−255478号公報
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