特許第6263574号(P6263574)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6263574ブレージングシート及びその製造方法並びにアルミニウム構造体のろう付方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263574
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】ブレージングシート及びその製造方法並びにアルミニウム構造体のろう付方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20180104BHJP
   B23K 35/22 20060101ALI20180104BHJP
   B23K 35/28 20060101ALI20180104BHJP
   B23K 35/14 20060101ALI20180104BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20180104BHJP
   B23K 1/19 20060101ALI20180104BHJP
   B23K 31/02 20060101ALI20180104BHJP
   B23K 101/14 20060101ALN20180104BHJP
   B23K 103/10 20060101ALN20180104BHJP
【FI】
   C22C21/00 E
   C22C21/00 D
   C22C21/00 J
   B23K35/22 310E
   B23K35/28 310B
   B23K35/14 F
   B23K1/00 S
   B23K1/19 D
   B23K1/19 E
   B23K1/19 G
   B23K31/02 310B
   B23K101:14
   B23K103:10
【請求項の数】12
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-107426(P2016-107426)
(22)【出願日】2016年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-214610(P2017-214610A)
(43)【公開日】2017年12月7日
【審査請求日】2017年7月24日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 泰永
(72)【発明者】
【氏名】迫田 正一
(72)【発明者】
【氏名】福元 敦志
【審査官】 瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/056306(WO,A1)
【文献】 特開2002−273598(JP,A)
【文献】 特開2013−233552(JP,A)
【文献】 特開2015−030861(JP,A)
【文献】 特開2014−176892(JP,A)
【文献】 特開2013−220434(JP,A)
【文献】 特表2015−528852(JP,A)
【文献】 特開2004−025297(JP,A)
【文献】 特開2017−029989(JP,A)
【文献】 特開2016−215248(JP,A)
【文献】 特開2017−018996(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00
B23K 1/00
B23K 1/19
B23K 31/02
B23K 35/14
B23K 35/22
B23K 35/28
B23K 101/14
B23K 103/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガス雰囲気中においてフラックスを使用して行うろう付及びフラックスを使用せずに行うろう付の両方に適用可能なブレージングシートであって、
Mn:0%(質量%、以下同じ)超1.8%以下のMnを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム材よりなる心材と、
Mg:0.40〜3.0%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、上記心材上に積層された中間材と、
Si:6.0〜13.0%を含有し、Mg:0.050%未満に規制され、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、上記中間材上に積層されたろう材とを有し、
上記中間材中のMg含有量をM[%]、上記中間材の厚さをti[μm]、上記ろう材の厚さをtf[μm]としたときに、下記式(1)の関係を満たしている、ブレージングシート。
f≧10.15×ln(M×ti)+3.7 ・・・(1)
【請求項2】
上記ろう材は、更に、Bi:0.004〜0.20%を含有している、請求項1に記載のブレージングシート。
【請求項3】
上記中間材は、更に、Si:3.0〜12.0%を含有している、請求項1または2に記載のブレージングシート。
【請求項4】
上記中間材は、更に、Zn:0.90〜6.0%を含有している、請求項1または2に記載のブレージングシート。
【請求項5】
上記中間材は、更に、Bi:0.050〜0.30%を含有している、請求項1〜4のいずれか1項に記載のブレージングシート。
【請求項6】
上記心材は、Mg:0.20〜0.80%を含有するアルミニウム合金から構成されている、請求項1〜5のいずれか1項に記載のブレージングシート。
【請求項7】
上記心材は、Si:1.2%以下、Fe:1.0%以下、Cu:1.5%以下、Zn:0.8%以下、Ti:0.2%以下、Zr:0.5%以下のうち1種または2種以上を更に含有している、請求項1〜6のいずれか1項に記載のブレージングシート。
【請求項8】
上記ブレージングシートは、Mg:0.050%未満、Si:0.050%未満に規制されたアルミニウム材からなり、上記中間材と上記ろう材との間及び/または上記ブレージングシートの最表面に配置されたMg拡散抑制層を更に有しており、上記ろう材の厚さを100%としたときの上記Mg拡散抑制層の厚さの合計値が15%以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載のブレージングシート。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のブレージングシートの製造方法であって、
上記心材と、上記心材上に積層された中間材と、上記中間材上に積層されたろう材とを備えた積層構造のクラッド板を準備し、
該クラッド板を酸またはアルカリによりエッチングする、ブレージングシートの製造方法。
【請求項10】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のブレージングシートを有するアルミニウム構造体のろう付方法であって、
上記ブレージングシートを含む上記アルミニウム構造体と、該アルミニウム構造体における被接合部の一部に塗布されたフッ化物系フラックスとを有する被処理物を組み立て、
不活性ガス雰囲気中において上記被処理物をろう付する、アルミニウム構造体のろう付方法。
【請求項11】
上記ろう付を行う前の上記アルミニウム構造体は、上記ブレージングシートから構成され、上記ろう材同士が当接している当接部を備えた中空部材を有している、請求項10に記載のアルミニウム構造体のろう付方法。
【請求項12】
予め、上記ブレージングシートを酸またはアルカリによりエッチングし、
当該ブレージングシートを用いて上記被処理物を組み立てる、請求項10または11に記載のアルミニウム構造体のろう付方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレージングシート及びその製造方法並びにこのブレージングシートを有するアルミニウム構造体のろう付方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、熱交換器や機械用部品などのアルミニウム製品は、アルミニウム材(アルミニウム及びアルミニウム合金を含む。以下同じ。)からなる多数の部品を有している。これらの部品は、心材と、心材の少なくとも一方の面上に設けられたろう材とを有するブレージングシートによりろう付されていることが多い。アルミニウム材のろう付方法としては、接合部の表面にフラックスを塗布してろう付を行うフラックスろう付法が多用されている。
【0003】
フラックスろう付法においては、予め、アルミニウム材表面の酸化皮膜を破壊する作用を有するフラックスが接合部に塗布される。そして、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中で被処理物を加熱することにより、ろう付が行われる。フラックスとしては、KF(フッ化カリウム)、AlF3(フッ化アルミニウム)、CsF(フッ化セシウム)、LiF(フッ化リチウム)等を含むフッ化物系フラックスが用いられている。
【0004】
しかし、フラックスろう付法においては、ろう付が完了した後に、フラックスやその残渣がアルミニウム製品の表面に付着する。アルミニウム製品の用途によっては、これらのフラックスやその残渣が問題を起こすことがある。例えば、電子部品が搭載される熱交換器においては、その製造時にフラックス残渣により表面処理性が悪化するなどの問題が発生するおそれがある。また、熱交換器の使用中に、冷媒通路にフラックス等に起因する目詰まりが発生するなどの問題が生じるおそれもある。さらに、フラックスやその残渣を除去するためには、酸洗処理を行う必要があり、近年では、当該処理のコスト負担が問題視されている。
【0005】
そこで、フラックスの使用に伴う上記の問題を回避するため、接合部の表面にフラックスを塗布せずにろう付を行う、いわゆるフラックスレスろう付法が提案されている。フラックスレスろう付法においては、Mgを含むろう材を有するブレージングシート(例えば、特許文献1)が用いられる。Mgは、ろう付加熱時にブレージングシートの表面においてスピネル型の酸化物(MgAl24)を形成する。この酸化物が接合部に存在する酸化皮膜を脆弱化することにより、フラックスを用いることなくろう付を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−73519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、フラックスレスろう付法は、フラックスろう付法に比べて、被処理物の形状や構造、及びろう付接合を形成する位置によってはろう付接合の品質が悪化しやすいという問題がある。例えば、フラックスレスろう付法により中空構造体のろう付を行う場合、加熱によって生じたろうが中空構造体の内部へ引き込まれ、中空構造体の外表面においてフィレット切れ等の接合不良が発生するおそれがある。
【0008】
フラックスレスろう付法によるフラックス残渣の低減という利点を活かしつつろう付性を改善するためには、例えば、ろう付性が悪化し易い箇所に部分的にフラックスを塗布する方法が考えられる。ところが、一般的なフッ化物系フラックスにおいては、フラックス中のKFやAlF3とろう材中のMgとが反応することにより、フラックスの機能が著しく低下するという問題がある。また、MgがKF等と反応した場合、フラックスによるろう付性向上の効果が低下するだけではなく、KF等との反応により生成した固形化合物が粉じんとなって作業環境を悪化させる問題も生ずる。
【0009】
このような背景から、フラックスが部分的に塗布されたアルミニウム構造体のろう付性を向上させることができるブレージングシート、つまり、フラックスろう付と、フラックスレスろう付との両方に使用可能なブレージングシートの開発が強く望まれていた。さらに、このようなブレージングシートは、フラックスを部分的に塗布して行う、いわば部分的なフラックスレスろう付だけではなく、フラックスを被接合部全体に塗布する完全なフラックスろう付、及び、フラックスを一切塗布せずに行う完全なフラックスレスろう付のいずれのろう付にも使用することができ、非常に広い用途に適用可能なものとなる。
【0010】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、フラックスを使用して行うろう付と、フラックスを使用せずに行うろう付との両方に適用可能なブレージングシート及びその製造方法、並びにこのブレージングシートを用いて行うろう付方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、不活性ガス雰囲気中においてフラックスを使用して行うろう付及びフラックスを使用せずに行うろう付の両方に適用可能なブレージングシートであって、
Mn:0%(質量%、以下同じ)超1.8%以下のMnを含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる心材と、
Mg:0.40〜3.0%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、上記心材上に積層された中間材と、
Si:6.0〜13.0%を含有し、Mg:0.050%未満に規制され、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有し、上記中間材上に積層されたろう材とを有し、
上記中間材中のMg含有量をM[%]、上記中間材の厚さをti[μm]、上記ろう材の厚さをtf[μm]としたときに、下記式(1)の関係を満たしている、ブレージングシートにある。
f≧10.15×ln(M×ti)+3.7 ・・・(1)
【0012】
本発明の他の態様は、上記の態様のブレージングシートの製造方法であって、
上記心材と、上記心材上に積層された中間材と、上記中間材上に積層されたろう材とを備えた積層構造のクラッド板を準備し、
該クラッド板を酸またはアルカリによりエッチングする、ブレージングシートの製造方法にある。
【0013】
本発明の更に他の態様は、上記の態様のブレージングシートを有するアルミニウム構造体のろう付方法であって、
上記ブレージングシートを含む上記アルミニウム構造体と、該アルミニウム構造体における被接合部の一部に塗布されたフッ化物系フラックスとを有する被処理物を組み立て、
不活性ガス雰囲気中において上記被処理物をろう付する、アルミニウム構造体のろう付方法にある。
【発明の効果】
【0014】
上記ブレージングシートは、上記心材の片面または両面に、上記特定の化学成分を有する上記中間材及び上記ろう材を有している。そして、上記中間材中のMg含有量M[%]、上記中間材の厚さti[μm]及び上記ろう材の厚さtf[μm]としたときに、上記式(1)の関係を満たしている。上記ブレージングシートは、単に上記心材、上記中間材及び上記ろう材の化学成分を規定しただけでなく、上記式(1)の関係を満たすように上記中間材中のMg含有量M[%]、上記中間材の厚さti[μm]及び上記ろう材の厚さtf[μm]を設定することにより、フラックスが部分的に塗布された被処理物のろう付性を向上させることができる。
【0015】
即ち、上記ブレージングシートを含むアルミニウム構造体のろう付を行う場合には、まず、上記ブレージングシートを含む上記アルミニウム構造体と、該アルミニウム構造体における被接合部の一部に塗布されたフッ化物系フラックスとを有する被処理物が組み立てられる。この被処理物を不活性ガス雰囲気中において加熱すると、上記中間材中のMgが上記ブレージングシートの表面に向かって徐々に拡散する。
【0016】
上記被接合部の温度がフッ化物系フラックスの融点である562℃程度に到達すると、上記フラックスが溶融し、酸化皮膜を破壊し始める。上記ブレージングシートは、上記ろう材の厚さを上記特定の範囲とすることにより、上記フラックスが溶融し始めた時点で表面に到達しているMgの量を、従来のブレージングシートより低減することができる。そのため、上記フラックスが塗布された上記被接合部においては、上記フラックスとMgとの反応を抑制することができる。その結果、良好なフィレットを形成することができる。
【0017】
一方、上記ろう材中においては、上記中間材から進入した高濃度のMgが上記ろう材中のSiとともにAl−Mg−Si三元共晶を形成する。そのため、上記フラックスの融点よりもわずかに高い565℃程度の温度で、上記ろう材が局部的に溶融し始める。更に温度が上昇して570〜577℃に到達すると、上記ろう材中のMg拡散の速度が飛躍的に速くなる。
【0018】
そして、上記フラックスが塗布されていない上記被接合部においては、上記フラックスによるろう付が開始された後に大量のMgが上記ブレージングシートの表面に到達し、上記被接合部に存在する酸化皮膜が一気に脆弱化される。その結果、上記フラックスを用いることなく良好なフィレットを形成することができる。
【0019】
このように、上記ブレージングシートによれば、上記フラックスが部分的に塗布されたアルミニウム構造体のろう付において、上記フラックスが塗布されている上記被接合部及び塗布されていない上記被接合部の両方のろう付性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1における、隙間充填試験用の試験体の側面図である。
図2】実施例2における、中空部材を備えた試験体の平面図である。
図3図2のIII−III線矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
上記ブレージングシートにおいて、上記中間材及び上記ろう材は、心材の少なくとも片面に設けられていればよい。心材における、上記中間材及びろう材が設けられていない側の面には、公知のろう材や犠牲陽極材などを設けてもよい。
【0022】
また、上記中間材及び上記ろう材を心材の両面に設けることもできる。この場合には、各面において、上記式(1)を満たすように中間材中のMg含有量M[%]、上記中間材の厚さti[μm]及び上記ろう材の厚さtf[μm]を設定することが好ましい。
【0023】
<心材>
上記心材は、例えば、Mg:0.20〜0.80%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有していてもよい。心材中のMgは、ろう付の加熱によりブレージングシートの表面へ向かって拡散し、Mgによる酸化皮膜の破壊をより促進することができる。その結果、フラックスが塗布されていない被接合部におけるろう付性をより向上させることができる。
【0024】
また、心材中のMgは、570℃以上の温度領域における材料表面へのMg拡散量の増大に有効であり、特に、昇温速度が遅い場合においてMg拡散量の増大に顕著に影響する。
【0025】
上記の効果を十分に得る観点からは、心材中のMg量を0.20%以上とすることが好ましい。一方、Mg量が過度に多い場合には、含有量に見合った効果を得ることが難しい。更に、この場合には、ブレージングシート表面へのMgの拡散量が過度に多くなることを回避するために、中間材あるいはろう材の化学成分が制限を受けるおそれがある。これらの問題を回避する観点から、心材中のMg量を0.80%以下とすることが好ましい。
【0026】
また、心材は、Mn(マンガン):1.8%以下を含んでいる。心材は、必要に応じて、Si:1.2%以下、Fe(鉄):1.0%以下、Cu(銅):1.5%以下、Zn(亜鉛):0.8%以下、Ti(チタン):0.2%以下、Zr(ジルコニウム):0.5%以下のうち1種または2種以上を更に含有しても良い。これらの元素は、例えば、ろう付後のアルミニウム構造体において要求される機械特性等に応じて適宜選択することができる。
【0027】
<中間材>
中間材は、心材上に積層されており、Mg:0.40〜3.0%を含み、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有している。
【0028】
・Mg(マグネシウム):0.40〜3.0%
中間材中のMg量を上記特定の範囲とすることにより、フラックスが塗布されている被接合部及び塗布されていない被接合部の両方におけるろう付性を向上させることができる。中間材中のMg量が0.40%未満の場合には、ブレージングシート表面に到達するMg量が不足するため、フラックスが塗布されていない被接合部のろう付性が低下するおそれがある。一方、中間材中のMg量が3.0%を超える場合には、ブレージングシート表面に到達するMg量が過度に多くなるため、フラックスが塗布されている被接合部におけるろう付性の悪化を招く。
【0029】
中間材は、必要に応じて、Si、Zn、Be及びBiのうち1種または2種以上を更に含んでいてもよい。
【0030】
・Si(シリコン):3.0〜12.0%
中間材中にSiを添加することにより、加熱温度が570℃以上の温度領域において中間材内のMg拡散速度を増大させる、及び、中間材をろう材と同時に溶融させることによりろう材の溶融開始と同時に大量のMgをブレージングシート表面に供給する、という効果を得ることができる。これらの効果は、フラックスが塗布されていない被接合部のろう付性の向上に有効であり、特に加熱速度が速い場合には卓越した効果を発揮する。
【0031】
上記の効果を十分に得る観点からは、中間材中のSi量を3.0%以上とすることが好ましい。一方、Si量が過度に多い場合には、含有量に見合った効果を得ることが難しい上、粗大Si粒が生成しやすくなる。これらの問題を回避する観点から、Si量は12.0%以下とすることが好ましい。
【0032】
・Zn(亜鉛):0.90〜6.0%
中間材中にZnを添加することにより、中間材を犠牲陽極材として機能させ、ひいてはろう付後の耐食性を向上させることができる。中間材中のZn量を0.90%以上とすることにより、耐食性の向上効果を十分に得ることができる。一方、Znの量が過度に多い場合には、中間材の融点が低下するため、溶融ろうの浸透が起こり易くなる。その結果、ろう付性の悪化を招くおそれがある。ろう付性の悪化を回避する観点からは、Zn量6.0%以下とすることが好ましい。
【0033】
なお、中間材中にSiが含まれている場合には、中間材がろう材としても機能することがある。このとき、中間材中に更にZnが含まれていると、溶融ろうが高濃度のZnを含有することになる。そのため、このろうによって形成されたフィレットにおいて優先腐食が発生し、耐食性の低下を招くおそれがある。このような問題を回避するため、中間材中にSi及びZnのいずれか一方が含まれている場合には、他方の添加を避けることが好ましい。
【0034】
・Be(ベリリウム):0.050〜0.20%
中間材中のBeは、ろう付時の加熱中にブレージングシート表面へ向かって拡散し、Al23より構成された酸化皮膜中に独自の酸化物を形成することができる。この酸化物は、酸化皮膜を脆弱化する効果を有している。Be量を0.050%以上とすることにより、上記酸化物による効果を十分に得ることができ、ひいてはろう付性をより向上させることができる。一方、Be量が過度に多い場合には、上記酸化物の量が過度に多くなり、かえってろう付性の悪化を招くおそれがある。このような問題を回避する観点から、Be量は0.20%以下とすることが好ましい。
【0035】
・Bi(ビスマス):0.050〜0.30%
中間材中のBiは、ろう付時の加熱中にブレージングシート表面へ向かって拡散する。そして、溶融ろうが形成された際に、その表面張力を低下させる作用を有している。Bi量を0.050%以上とすることにより、溶融ろうの表面張力を十分に低下させることができ、ひいてはろう付性をより向上させることができる。一方、Bi量が過度に多い場合には、ブレージングシートの製造過程において、表面に強固な酸化皮膜が形成される、あるいは、ろう付加熱中の再酸化が生じ易くなるおそれがある。そのため、Bi量が過度に多い場合には、かえってろう付性の悪化を招くおそれがある。ろう付性の悪化を回避する観点から、Bi量は0.30%以下とすることが好ましい。
【0036】
<ろう材>
ろう材は、中間材上に積層されており、Si:6.0〜13.0%を含有し、Mg:0.050%未満に規制され、残部がAl及び不可避的不純物からなる化学成分を有している。
【0037】
・Si:6.0〜13.0%
ろう材中のSi量を上記特定の範囲とすることにより、ろう付加熱時に十分な量の溶融ろうを生成することができる。ろう材中のSi量が6.0%未満の場合には、生成する溶融ろうの量、及び流動可能なろうの量が不足するため、健全なフィレットを形成することが難しくなる。一方、ろう材中のSi量が13.0%を超える場合には、ろう材中に粗大な初晶Si粒が形成され、ブレージングシートに溶融穴を生じやすくなる。また、この場合には、材料の圧延製造時に割れが発生しやすくなる。
【0038】
・Mg:0.050%未満
ろう材中に存在するMgは、ろう付加熱中にフラックスと容易に反応し、フラックスが塗布された被接合部のろう付性の悪化を招く。当該被接合部のろう付性を向上させるためには、ろう材中のMg量を0.050%未満に規制する必要がある。
【0039】
・Bi:0.004〜0.20%
ろう材は、必要に応じてBi:0.004〜0.20%を更に含有していてもよい。この場合には、ろう付性をより向上させることができる。なお、ろう材中のBiの作用効果及びその限定理由は、中間材中のBiと同様である。
【0040】
上記ブレージングシートにおいては、心材、中間材及びろう材の化学成分を上述した範囲とした上で、更に、上記中間材中のMg含有量M[%]、上記中間材の厚さti[μm]及び上記ろう材の厚さtf[μm]が下記式(1)の関係を満たしている。
f≧10.15×ln(M×ti)+3.7 ・・・(1)
【0041】
上記式(1)は、以下の考え方に基づいて決定された関係式である。
一般的なフラックスろう付条件、即ち、KFとAlF3とを含むフッ化物系フラックスを3〜5g/m2程度塗布した条件においては、ろう材中のMg量が0.20%以下であればろう付が可能であることが知られている。また、上記フラックスの溶融温度は562℃であり、溶融開始後、数秒程度で酸化皮膜の破壊効果を発揮することも知られている。本発明者らは、これらの事項から、被接合部の温度が570℃に達した時点における、ブレージングシート表面のMg濃度が0.20%以下であれば、フラックスはその機能を発揮することができると推定した。
【0042】
ブレージングシート表面に到達するMg量は、材料因子の中では、主として中間材に含有されるMg量と、中間材の厚さと、ろう材の厚さによって決定されると考えられる。材料因子としては、心材に含有されるMg量の影響も考えられるが、心材中のMgは、ろう材に到達するまでに中間材を経由する必要がある。そのため、心材中のMg量が極度に多くない限り、570℃までの段階での影響は比較的少ない。
【0043】
また、加熱因子としては、450℃以上の温度領域における昇温速度がMg量に影響すると考えられる。昇温速度が速い場合には、温度上昇に要する時間が短くなるため、昇温速度が速い場合に比べて表面に到達するMg量が少なくなる。また、量産設備におけるろう付時の加熱条件は、450℃に達してから600℃に達するまでの昇温時間が12分程度、あるいはそれよりも短くなるように設定されていることが多い。
【0044】
従って、450℃から600℃までの昇温時間が12分となる昇温速度において、被接合部の温度が570℃に達した時点でのブレージングシート表面のMg濃度が0.20%以下となるように各層を構成することにより、加熱速度によらずフラックスとMgの過剰な反応を避けることが可能であると考えられる。本発明者らは、以上の考え方に基づき、450℃から600℃までの昇温時間を12分とし、中間材中のMg含有量M[%]及び中間材の厚さti[μm]を種々変更したときの拡散シミュレーションを実施し、570℃におけるブレージングシート表面のMg濃度が0.20%以下となるろう材の厚さtf[μm]を算出した。上記式(1)は、これら多数の拡散シミュレーションの結果に基づいて決定された関係式である。
【0045】
ろう材の厚さtf[μm]が上記式(1)を満たさない場合には、フラックスが溶融し始める時点において、ブレージングシート表面に到達しているMg量が過度に多くなるため、フラックスがMgと反応して消費される。その結果、フラックスが塗布された被接合部におけるろう付性が悪化する。
【0046】
上記ブレージングシートは、更に、上記中間材と上記ろう材との間及び/または上記ブレージングシートの最表面に配置されたMg拡散抑制層を有していてもよい。この場合には、中間材からブレージングシート表面へのMgの拡散量をより低減することができる。その結果、Mgとフラックスとの反応によるろう付性の悪化をより確実に回避することができる。
【0047】
Mg拡散抑制層は、Mg:0.050%未満、Si:0.050%未満に規制されたアルミニウム材から構成されていることが好ましい。Mg拡散抑制層中のMg量が過度に多い場合には、そのMgがろう材へ拡散することにより、Mg拡散抑制層の効果が損なわれるおそれがある。また、Mg拡散抑制層中のSi量が過度に多い場合には、Mg拡散抑制層におけるMgの拡散速度が早くなるため、Mg拡散抑制層の効果が損なわれるおそれがある。Mg拡散抑制層中のMg量を0.050%未満、Si量を0.050%未満とすることにより、Mg拡散抑制層の効果を十分に得ることができる。
【0048】
なお、Mg拡散抑制層中には、Mg及びSi以外の元素が存在していてもよいが、Cu等の融点を低下させる作用を有する元素は、Mgの拡散速度の増大を回避する観点から好ましくない。
【0049】
Mg拡散抑制層の厚さの合計は、ろう材の厚さの15%以下であることが好ましい。この場合には、ろう材が溶融した後に、Mg拡散抑制層を速やかに溶融ろう中に溶解させることができる。その結果、ろう材が溶融した後のMgの拡散速度を向上させ、フラックスが塗布されていない被接合部において、十分なろう付性を容易に確保することができる。
【0050】
Mg拡散抑制層が設けられている場合には、その厚みの分、被接合部の温度が570℃に達した時点でのブレージングシート表面のMg濃度が低くなる。本発明者らは、中間材中のMg含有量M[%]及び中間材の厚さti[μm]に加えてMg拡散抑制層の厚みtm[μm]を種々変更したときの拡散シミュレーションを実施した。その結果、Mg拡散抑制層が存在する場合には、下記式(2)の関係を満たすことにより、570℃におけるブレージングシート表面のMg濃度を0.20%以下とすることができることを見出した。なお、下記式(2)における記号tfは、ろう材の厚み[μm]である。
f≧10.15×ln(M×ti)+3.7−tm ・・・(2)
【0051】
上記ブレージングシートは、例えば、その積層構造を構成する各層の元板を準備し、これらをクラッド接合することにより、作製することができる。また、心材、中間材及びろう材を含む積層構造のクラッド板を準備した後、該クラッド板を酸またはアルカリによりエッチングしてもよい。この場合には、クラッド板の製造過程において、その表面に形成された厚くて強固な酸化皮膜を除去し、自然酸化皮膜に置き換えることができる。この自然酸化皮膜は、フラックスやMg等によって容易に破壊される。そのため、ろう付性をより向上することができる。
【0052】
クラッド板のエッチングは、ろう付の前であれば、どの段階で行ってもよい。例えば、クラッド板の製造直後にエッチングを行ってもよいし、クラッド板を所望の形状に成形加工した後にエッチングを行ってもよい。
【0053】
また、エッチングを行った後、ブレージングシート表面に圧延油などを薄く塗布してもよい。この場合には、エッチングの後に、例えば結露による材料表面の酸化等によりブレージングシートが劣化することをより長期間に渡って抑制することができる。
【0054】
上記ブレージングシートを用いて行うろう付においては、まず、ブレージングシートを含むアルミニウム構造体と、このアルミニウム構造体における被接合部の一部に塗布されたフッ化物系フラックスとを有する被処理物の組み立てを行う。フラックスを塗布する前に、必要に応じてブレージングシートのエッチングを行ってもよい。この場合には、エッチングにより置き換えられた自然酸化皮膜がより脆弱な状態でろう付を行うことができる。そのため、より確実にろう付性を向上させることができる。
【0055】
アルミニウム構造体の具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、アルミニウム構造体は、上記ブレージングシートから構成され、そのろう材同士が当接している当接部を備えた中空部材を有していてもよい。前述のとおり、従来のフラックスレスろう付法においては、中空部材をろう付したときに、その外表面においてフィレット切れなどの接合不良が発生しやすいという問題があった。
【0056】
これに対し、上記ブレージングシートを用いることにより、例えば中空部材の当接部などの、フィレット切れが発生しやすい部分に予めフラックスを塗布してろう付を行うことができる。その結果、フラックスレスろう付法によるフラックス残渣の低減という利点を活かしつつろう付性を改善することができる。
【0057】
フラックスの塗布は、アルミニウム構造体を組み立てた後に行ってもよい。また、アルミニウム構造体の構成部品に予めフラックスを塗布し、これを用いてアルミニウム構造体を組み立てることもできる。フラックスの塗布量は、例えば、3〜5g/m2とすることができる。
【0058】
上記被処理物を組み立てた後、不活性ガス雰囲気中において被処理物をろう付する。ろう付時の雰囲気、昇温速度及びろう付温度等の諸条件は、公知の条件から適宜選択することができる。
【実施例】
【0059】
上記ブレージングシートの実施例を以下に説明する。なお、本発明のブレージングシート及びその製造方法並びにろう付方法の態様は以下の実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0060】
本例においては、以下の手順により表1及び表2に示すブレージングシート(供試材1〜31)を準備した。まず、表1及び表2に示す化学成分を有する心材、中間材、ろう材及びMg拡散抑制層の元板を準備した。
【0061】
心材の元板については、連続鋳造により造塊した鋳塊を、縦寸法、横寸法及び厚さが所定の寸法となるように面削した。なお、縦寸法及び横寸法は163mmとした。ろう材の元板については、連続鋳造により造塊した鋳塊を所定の厚さとなるまで熱間圧延した後、縦寸法及び横寸法が心材の元板と同一になるように切断した。中間材及びMg拡散抑制層の元板については、連続鋳造により造塊した鋳塊を厚さ3mmまで熱間圧延した後、所定の厚さとなるまで冷間圧延した。その後、縦寸法及び横寸法が心材の元板と同一になるように切断した。
【0062】
これらの元板を表1及び表2に示す積層構造の通りに重ね合わせ、常法によりクラッド圧延を行って厚さ0.4mmの軟質クラッド板とした。以上により、供試材1〜31を作製した。なお、本例において準備した供試材は、いずれも心材の片面にろう材等が積層された、いわゆる片面ブレージングシートである。
【0063】
Mg拡散抑制層を有しない供試材については、中間材中のMg含有量M[%]及び中間材の厚さti[μm]の値を用い、下記式(1)’により得られるtfmin[μm]の値を表1及び表2に示した。
fmin=10.15×ln(M×ti)+3.7 ・・・(1)’
【0064】
また、Mg拡散抑制層を有する供試材については、中間材中のMg含有量M[%]、中間材の厚さti[μm]及びMg拡散抑制層の厚さの合計tm[μm]の値を用い、下記式(2)’により得られるtfmin[μm]の値を表1及び表2に示した。
fmin=10.15×ln(M×ti)+3.7−tm ・・・(2)’
【0065】
上記式(1)’及び式(2)’により得られるtfminの値は、450℃から600℃までの昇温時間が12分となる昇温速度において、被接合部の温度が570℃に達した時点でのブレージングシート表面のMg濃度を0.20%以下とするために必要なろう材の厚さの最小値に相当する値である。各供試材のろう材の厚さtfがtfminの値以上の場合には、上記式(1)または上記式(2)の関係が満たされている。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
(実施例1)
本例は、上記の供試材を用いて隙間充填試験を行った例である。隙間充填試験用の試験体(図1参照)は、以下の方法により作製した。まず、供試材から、幅25mm、長さ60mmの水平板2を採取した。また、水平板2とは別に、JIS A3003合金よりなる幅25mm、長さ約55mm、厚さ1mmの垂直板3を準備した。アセトンを用いて水平板2及び垂直板3を脱脂した後、これらを図1に示すように組みつけて試験体1を作製した。
【0069】
図1に示すように、垂直板3は、水平板2に対して直交する向きに配置されており、垂直板3の長手方向の一端31が水平板2のろう材21に当接している。また、垂直板3の長手方向の他端32と水平板2との間には、直径1.6mmのステンレス鋼製丸線よりなるスペーサー4が挟持されている。より具体的には、スペーサー4は、垂直板3が水平板2に当接する位置(一端31)から水平方向に55mm離れている。また、試験体1を上面視したときに、垂直板3の他端32は、スペーサー4及び水平板2の長手方向の端部201と一致するように配置されている。
【0070】
表3に示す一部の試験体については、水平板2を脱脂した後、垂直板3を組み付ける前に、ろう材21の表面にフッ化物系フラックスを塗布し、大気中で乾燥させた。フラックスとしては、KFとAlF3とを含むKF−AlF3系フラックスまたはCsFを含むCsF系フラックスのいずれかを使用した。また、フラックス塗布前の質量と塗布・乾燥後の質量とを電子天秤により測定し、両者の差をフラックスの塗布量とした。
【0071】
ろう付加熱には内容積0.4m3の予熱室とろう付室を備えた二室型炉からなる窒素ガス炉を使用した。予熱室にて試験体の温度が450℃に達したところで試験体をろう付室に移動し、到達温度600℃でろう付接合した。ろう付け条件としては、窒素ガス炉の各室に30m3/hの窒素ガスを送り込み、450℃に達してから600℃に達するまでの所要時間が約12分となる条件で昇温した。なお、加熱終了時のろう付室の酸素濃度は7〜10ppmであった。ろう付室にて試験体の温度が600℃に到達したら直ちに試験体を予熱室に移動させ、予熱室にて570℃まで冷却後に試験体を取り出して大気中で冷却した。
【0072】
以上によりろう付を行った試験体の隙間充填長さ及びフィレット外観を評価した。表3の「隙間充填長さ」の欄には、各試験体1において、水平板2と垂直板3との間にろう22が充填された長さ(図1、符号L参照)を記載した。また、表3の「フィレット形状」の欄には、フィレットが均一な形状である場合には記号「A+」、フィレット形状はやや不均一だが、連続してフィレットが形成されている場合には記号「A」、フィレット形状が不安定あるいは垂直材の左右でフィレット長さが異なる場合には記号「B」、フィレット未形成あるいは顕著なフィレット切れが発生した場合には記号「C」を記載した。なお、記号「B」及び記号「C」は、実用には問題があるレベルであるため、不合格と判定した。
【0073】
【表3】
【0074】
試験体A1は、標準的な条件によりフラックスろう付を行った例である。試験体A1においては、KF−AlF3系フラックスをろう材面に3g/m2塗布することによって、長さ15mmの均一なフィレットを形成することができた。
【0075】
試験体A2〜A20の結果から、上記特定の積層構造を備えた供試材2〜5、供試材8〜11及び供試材20〜23は、フラックスが塗布された場合、及び、フラックスが塗布されていない場合のいずれについても、実用上問題のない水準のフィレットを形成可能であることが理解できる。
【0076】
具体的には、供試材2、3及び9〜11は、試験体A3、A4、A6及びA13〜A15に示すように、標準的なフラックス塗付条件において、通常のフラックスろう付(試験体A1)とほぼ同等の良好なフィレットを形成した。
供試材5は、試験体A9に示すように、KF−AlF3系フラックスを7g/m2塗布することで良好なフィレットを形成した。
【0077】
供試材8は、試験体A11及びA12に示すように、CsF系のフラックスを7g/m2塗布することで、KF−AlF3系フラックスよりも隙間充填長さが向上し、フィレット形状も安定した。これは、中間材中のMg量が比較的多い供試材8では、KF−AlF3系フラックスとMgとの反応が起こりやすかったことが原因と考えられる。CsF混合系のフラックスはコストがやや高いが、中間材のMg含有量が多い供試材8に限らず、本発明に係るブレージングシート全般に対して有効に作用すると考えられる。
また、供試材8は、中間材中のMg量が比較的多いため、試験体A10に示すように、フラックスを塗布しない条件において、エッチングを行わなくても良好なフィレットを形成した。
【0078】
一方、供試材24は、中間材中のMg量が少ないため、試験体A21に示すように、フラックスを塗布しない場合のろう付性が不十分となった。
供試材25は、中間材中のMg量が多いため、フラックスの塗布量を標準条件より多くしてもフラックスの機能が損なわれた。その結果、試験体A22に示すように、KF−AlF3系フラックスを塗布した場合に顕著なフィレット切れを生じた。
【0079】
また、供試材25は、試験体A23に示すように、KF−AlF3系フラックスに比べてMgとの反応が起こりにくいCsF系フラックスを塗布しても、フィレット形成状態が合格レベルに到達しなかった。
供試材25は、tfminの値がろう材の厚さよりも大きい。そのため、ろう材表面に到達したMgとの反応によってフラックスが消耗して濡れ性が劣ったことに加えて、その反応によって生じた固形物がフィレットの形成を妨げたためにろう付性が悪化したと考えられる。
【0080】
供試材28は、ろう材中のBi量が多いため、試験体A24に示すように、フィレットの形成状態が不均一となった。また、表には記載しないが、供試材28は、ろう付後のろう材表面に黒色の変色が生じた。
供試材29は、tfminの値がろう材の厚さよりも大きいため、試験体A25に示すように、KF−AlF3系フラックスを7g/m2塗布しても合格レベルの接合性は得られなかった。
【0081】
供試材30は、最表面に厚いMg拡散抑制層が配置されているため、Mg拡散障壁層が溶解しきれずに残留した。その結果、試験体A26に示すように、フィレット形成が阻害された。
供試材31は、中間材とろう材の間に厚いMg拡散抑制層が配置されているため、中間材からブレージングシート表面へのMg拡散のタイミングが遅くなった。その結果、試験体A27に示すように、合格レベルの接合性が得られなかった。
【0082】
(実施例2)
本例は、上記の供試材を用いて中空部材を作製し、この中空部材を備えたアルミニウム構造体のろう付性を評価した例である。本例の試験体は、以下の方法により作製した。供試材にプレス加工を施し、図2及び図3に示す円形カップ61を作製した。カップ61の直径は30mmとし、カップ61の底部611における中央に、直径5mmの通気孔612を形成した。カップ61の外周縁部にはフランジ613を形成した。また、カップ61は、ろう材が内側となるように形成した。
【0083】
このカップ61とは別に、JIS A3003合金からなるコルゲートフィン7を準備した。
【0084】
カップ61及びコルゲートフィン7を脱脂した後、2枚のカップ61及びコルゲートフィン7を組み合わせ、図2及び図3に示す試験体5を組み立てた。試験体5は、2枚のカップ61からなる中空部材6と、中空部材6の内部に配置されたコルゲートフィン7とを有している。中空部材6は、カップ61のフランジ613同士が当接した当接部60を有している。また、コルゲートフィン7は、各カップ61の底部611に当接している。
【0085】
表4及び表5に示す試験体のうち一部のものについては、試験体を組み立てた後、ろう付の前に、当接部における、外部空間に面するろう材の表面、または、当接部全体のいずれかにフッ化物系フラックスを塗布した。フラックスの塗布量は、フラックス塗布量が既知である標準試料を別途準備し、試験体におけるフラックスの塗布状態と標準試料におけるフラックスの塗布状態とを目視比較することにより推定した。
【0086】
この試験体を、実施例1と同様の方法によりろう付した。
【0087】
ろう付後の試験体を切断し、当接部60における、外部空間に面した外側フィレットF1(図3参照)及び中空部材6の内部に存在する内側フィレットF2(図3参照)の形状を目視により観察した。内側フィレットF2としては、具体的には、当接部60における、中空部材6の内部空間に面したフィレットと、コルゲートフィン7と底部611との間に形成されるフィレットとが含まれる。
【0088】
表4及び表5の「フィレット形状」の欄には、均一で大きなフィレットが形成されている場合には記号「A++」を、均一だがフィレットがやや小さい場合には記号「A+」を、小さいフィレットが連続して形成されている場合には記号「A」を、スティッチが発生した場合には記号「B」を、フィレット未形成あるいは顕著なフィレット切れの場合には記号「C」を記載した。なお、記号「B」及び記号「C」は、実用には問題があるレベルであるため、不合格と判定した。
【0089】
ここで、上記の「スティッチ」とは、均一なフィレットの中に点状の窪みが断続的に発生しており、縫い目のように見える状態をいう。スティッチの発生は、酸化皮膜の破壊が途中段階であったことを示している。
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
試験体B1は、標準的な条件によりフラックスろう付を行った例である。試験体B1においては、外側フィレットF1、即ち、当接部60における、外部空間に面する部分に形成されたフィレットが、内側フィレットF2に比べてやや小さくなった。
試験体B2に示すように、一般的なフラックスろう付においては、フラックス塗布量を標準量よりも多くすることにより、外側フィレットF1を改善することができる。
【0093】
これに対し、試験体B3〜B26の結果から、上記特定の積層構造を備えた供試材2〜23は、少なくとも当接部60における外部空間に面する部分にフラックスを塗布することにより、中空部材6の外部及び内部の両方に、実用上問題のない水準のフィレットを形成可能であることが理解できる。
【0094】
これらの供試材の中でも、特に、Mg拡散抑制層を有する供試材9及び供試材10は、試験体B10及びB11に示すように、Mg拡散抑制層がない以外は供試材9及び供試材10と同等の構成を有する供試材5に比べて、外側フィレットF1の形成状態を改善することができた。
また、ろう材の両面にMg拡散障壁層を有する供試材A11は、試験体B12に示すように、フラックス塗布量を3g/m2に減じても、概ね良好な状態の外側フィレットF1を形成することができた。
【0095】
一方、試験体B27〜B29に示したように、上記特定の積層構造を有するブレージングシート(供試材3、供試材5及び供試材8)であっても、フラックスを使用せずに中空部材のろう付を行う場合には、外側フィレットF1にスティッチが発生した。
上記特定の積層構造を有さない供試材24〜31においては、外側フィレットF1及び内側フィレットF2の少なくとも一方において、合格レベルの接合状態が得られなかった。
【0096】
(実施例3)
本例は、ろう付が完了した後のブレージングシートの耐食性を評価した例である。本例においては、供試材から採取した縦150mm、横50mmの試験体を、縦方向が鉛直方向となるようにしてろう付炉内に吊り下げ、実施例1と同様の条件でろう付を行った。ろう付が完了した後、溶融量が溜まった試験体の下部を切除した。
【0097】
その後、JIS Z2371に準拠した方法により塩水噴霧試験を行った。試験条件は、試験液:5%NaCl水溶液、pH:6.8、試験温度:35℃とした。試験後に発生した腐食部の断面観察を行い、耐食性を評価した。表6中の「耐食性」の欄には、耐食性が極めて良好であった場合には記号「A+」を、耐食性が良好であった場合には記号「A」を記載した。
【0098】
【表6】
【0099】
表6から理解できるように、上記特定の積層構造を有する供試材2〜23は、フラックスを塗付する場合及び塗布しない場合のいずれにおいても、標準的なフラックスろう付(試験体C1)と同等の耐食性を示した。
また、中間材中にZnが含有されている供試材18及び供試材19は、Znの犠牲防食効果により、耐食性がさらに向上した。
【符号の説明】
【0100】
1 試験体
2 水平板(ブレージングシート)
3 垂直板
21 ろう材
22 ろう
図1
図2
図3