【実施例】
【0059】
上記ブレージングシートの実施例を以下に説明する。なお、本発明のブレージングシート及びその製造方法並びにろう付方法の態様は以下の実施例の態様に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【0060】
本例においては、以下の手順により表1及び表2に示すブレージングシート(供試材1〜31)を準備した。まず、表1及び表2に示す化学成分を有する心材、中間材、ろう材及びMg拡散抑制層の元板を準備した。
【0061】
心材の元板については、連続鋳造により造塊した鋳塊を、縦寸法、横寸法及び厚さが所定の寸法となるように面削した。なお、縦寸法及び横寸法は163mmとした。ろう材の元板については、連続鋳造により造塊した鋳塊を所定の厚さとなるまで熱間圧延した後、縦寸法及び横寸法が心材の元板と同一になるように切断した。中間材及びMg拡散抑制層の元板については、連続鋳造により造塊した鋳塊を厚さ3mmまで熱間圧延した後、所定の厚さとなるまで冷間圧延した。その後、縦寸法及び横寸法が心材の元板と同一になるように切断した。
【0062】
これらの元板を表1及び表2に示す積層構造の通りに重ね合わせ、常法によりクラッド圧延を行って厚さ0.4mmの軟質クラッド板とした。以上により、供試材1〜31を作製した。なお、本例において準備した供試材は、いずれも心材の片面にろう材等が積層された、いわゆる片面ブレージングシートである。
【0063】
Mg拡散抑制層を有しない供試材については、中間材中のMg含有量M[%]及び中間材の厚さt
i[μm]の値を用い、下記式(1)’により得られるt
fmin[μm]の値を表1及び表2に示した。
t
fmin=10.15×ln(M×t
i)+3.7 ・・・(1)’
【0064】
また、Mg拡散抑制層を有する供試材については、中間材中のMg含有量M[%]、中間材の厚さt
i[μm]及びMg拡散抑制層の厚さの合計t
m[μm]の値を用い、下記式(2)’により得られるt
fmin[μm]の値を表1及び表2に示した。
t
fmin=10.15×ln(M×t
i)+3.7−t
m ・・・(2)’
【0065】
上記式(1)’及び式(2)’により得られるt
fminの値は、450℃から600℃までの昇温時間が12分となる昇温速度において、被接合部の温度が570℃に達した時点でのブレージングシート表面のMg濃度を0.20%以下とするために必要なろう材の厚さの最小値に相当する値である。各供試材のろう材の厚さt
fがt
fminの値以上の場合には、上記式(1)または上記式(2)の関係が満たされている。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
(実施例1)
本例は、上記の供試材を用いて隙間充填試験を行った例である。隙間充填試験用の試験体(
図1参照)は、以下の方法により作製した。まず、供試材から、幅25mm、長さ60mmの水平板2を採取した。また、水平板2とは別に、JIS A3003合金よりなる幅25mm、長さ約55mm、厚さ1mmの垂直板3を準備した。アセトンを用いて水平板2及び垂直板3を脱脂した後、これらを
図1に示すように組みつけて試験体1を作製した。
【0069】
図1に示すように、垂直板3は、水平板2に対して直交する向きに配置されており、垂直板3の長手方向の一端31が水平板2のろう材21に当接している。また、垂直板3の長手方向の他端32と水平板2との間には、直径1.6mmのステンレス鋼製丸線よりなるスペーサー4が挟持されている。より具体的には、スペーサー4は、垂直板3が水平板2に当接する位置(一端31)から水平方向に55mm離れている。また、試験体1を上面視したときに、垂直板3の他端32は、スペーサー4及び水平板2の長手方向の端部201と一致するように配置されている。
【0070】
表3に示す一部の試験体については、水平板2を脱脂した後、垂直板3を組み付ける前に、ろう材21の表面にフッ化物系フラックスを塗布し、大気中で乾燥させた。フラックスとしては、KFとAlF
3とを含むKF−AlF
3系フラックスまたはCsFを含むCsF系フラックスのいずれかを使用した。また、フラックス塗布前の質量と塗布・乾燥後の質量とを電子天秤により測定し、両者の差をフラックスの塗布量とした。
【0071】
ろう付加熱には内容積0.4m
3の予熱室とろう付室を備えた二室型炉からなる窒素ガス炉を使用した。予熱室にて試験体の温度が450℃に達したところで試験体をろう付室に移動し、到達温度600℃でろう付接合した。ろう付け条件としては、窒素ガス炉の各室に30m
3/hの窒素ガスを送り込み、450℃に達してから600℃に達するまでの所要時間が約12分となる条件で昇温した。なお、加熱終了時のろう付室の酸素濃度は7〜10ppmであった。ろう付室にて試験体の温度が600℃に到達したら直ちに試験体を予熱室に移動させ、予熱室にて570℃まで冷却後に試験体を取り出して大気中で冷却した。
【0072】
以上によりろう付を行った試験体の隙間充填長さ及びフィレット外観を評価した。表3の「隙間充填長さ」の欄には、各試験体1において、水平板2と垂直板3との間にろう22が充填された長さ(
図1、符号L参照)を記載した。また、表3の「フィレット形状」の欄には、フィレットが均一な形状である場合には記号「A+」、フィレット形状はやや不均一だが、連続してフィレットが形成されている場合には記号「A」、フィレット形状が不安定あるいは垂直材の左右でフィレット長さが異なる場合には記号「B」、フィレット未形成あるいは顕著なフィレット切れが発生した場合には記号「C」を記載した。なお、記号「B」及び記号「C」は、実用には問題があるレベルであるため、不合格と判定した。
【0073】
【表3】
【0074】
試験体A1は、標準的な条件によりフラックスろう付を行った例である。試験体A1においては、KF−AlF
3系フラックスをろう材面に3g/m
2塗布することによって、長さ15mmの均一なフィレットを形成することができた。
【0075】
試験体A2〜A20の結果から、上記特定の積層構造を備えた供試材2〜5、供試材8〜11及び供試材20〜23は、フラックスが塗布された場合、及び、フラックスが塗布されていない場合のいずれについても、実用上問題のない水準のフィレットを形成可能であることが理解できる。
【0076】
具体的には、供試材2、3及び9〜11は、試験体A3、A4、A6及びA13〜A15に示すように、標準的なフラックス塗付条件において、通常のフラックスろう付(試験体A1)とほぼ同等の良好なフィレットを形成した。
供試材5は、試験体A9に示すように、KF−AlF
3系フラックスを7g/m
2塗布することで良好なフィレットを形成した。
【0077】
供試材8は、試験体A11及びA12に示すように、CsF系のフラックスを7g/m
2塗布することで、KF−AlF
3系フラックスよりも隙間充填長さが向上し、フィレット形状も安定した。これは、中間材中のMg量が比較的多い供試材8では、KF−AlF
3系フラックスとMgとの反応が起こりやすかったことが原因と考えられる。CsF混合系のフラックスはコストがやや高いが、中間材のMg含有量が多い供試材8に限らず、本発明に係るブレージングシート全般に対して有効に作用すると考えられる。
また、供試材8は、中間材中のMg量が比較的多いため、試験体A10に示すように、フラックスを塗布しない条件において、エッチングを行わなくても良好なフィレットを形成した。
【0078】
一方、供試材24は、中間材中のMg量が少ないため、試験体A21に示すように、フラックスを塗布しない場合のろう付性が不十分となった。
供試材25は、中間材中のMg量が多いため、フラックスの塗布量を標準条件より多くしてもフラックスの機能が損なわれた。その結果、試験体A22に示すように、KF−AlF
3系フラックスを塗布した場合に顕著なフィレット切れを生じた。
【0079】
また、供試材25は、試験体A23に示すように、KF−AlF
3系フラックスに比べてMgとの反応が起こりにくいCsF系フラックスを塗布しても、フィレット形成状態が合格レベルに到達しなかった。
供試材25は、t
fminの値がろう材の厚さよりも大きい。そのため、ろう材表面に到達したMgとの反応によってフラックスが消耗して濡れ性が劣ったことに加えて、その反応によって生じた固形物がフィレットの形成を妨げたためにろう付性が悪化したと考えられる。
【0080】
供試材28は、ろう材中のBi量が多いため、試験体A24に示すように、フィレットの形成状態が不均一となった。また、表には記載しないが、供試材28は、ろう付後のろう材表面に黒色の変色が生じた。
供試材29は、t
fminの値がろう材の厚さよりも大きいため、試験体A25に示すように、KF−AlF
3系フラックスを7g/m
2塗布しても合格レベルの接合性は得られなかった。
【0081】
供試材30は、最表面に厚いMg拡散抑制層が配置されているため、Mg拡散障壁層が溶解しきれずに残留した。その結果、試験体A26に示すように、フィレット形成が阻害された。
供試材31は、中間材とろう材の間に厚いMg拡散抑制層が配置されているため、中間材からブレージングシート表面へのMg拡散のタイミングが遅くなった。その結果、試験体A27に示すように、合格レベルの接合性が得られなかった。
【0082】
(実施例2)
本例は、上記の供試材を用いて中空部材を作製し、この中空部材を備えたアルミニウム構造体のろう付性を評価した例である。本例の試験体は、以下の方法により作製した。供試材にプレス加工を施し、
図2及び
図3に示す円形カップ61を作製した。カップ61の直径は30mmとし、カップ61の底部611における中央に、直径5mmの通気孔612を形成した。カップ61の外周縁部にはフランジ613を形成した。また、カップ61は、ろう材が内側となるように形成した。
【0083】
このカップ61とは別に、JIS A3003合金からなるコルゲートフィン7を準備した。
【0084】
カップ61及びコルゲートフィン7を脱脂した後、2枚のカップ61及びコルゲートフィン7を組み合わせ、
図2及び
図3に示す試験体5を組み立てた。試験体5は、2枚のカップ61からなる中空部材6と、中空部材6の内部に配置されたコルゲートフィン7とを有している。中空部材6は、カップ61のフランジ613同士が当接した当接部60を有している。また、コルゲートフィン7は、各カップ61の底部611に当接している。
【0085】
表4及び表5に示す試験体のうち一部のものについては、試験体を組み立てた後、ろう付の前に、当接部における、外部空間に面するろう材の表面、または、当接部全体のいずれかにフッ化物系フラックスを塗布した。フラックスの塗布量は、フラックス塗布量が既知である標準試料を別途準備し、試験体におけるフラックスの塗布状態と標準試料におけるフラックスの塗布状態とを目視比較することにより推定した。
【0086】
この試験体を、実施例1と同様の方法によりろう付した。
【0087】
ろう付後の試験体を切断し、当接部60における、外部空間に面した外側フィレットF1(
図3参照)及び中空部材6の内部に存在する内側フィレットF2(
図3参照)の形状を目視により観察した。内側フィレットF2としては、具体的には、当接部60における、中空部材6の内部空間に面したフィレットと、コルゲートフィン7と底部611との間に形成されるフィレットとが含まれる。
【0088】
表4及び表5の「フィレット形状」の欄には、均一で大きなフィレットが形成されている場合には記号「A++」を、均一だがフィレットがやや小さい場合には記号「A+」を、小さいフィレットが連続して形成されている場合には記号「A」を、スティッチが発生した場合には記号「B」を、フィレット未形成あるいは顕著なフィレット切れの場合には記号「C」を記載した。なお、記号「B」及び記号「C」は、実用には問題があるレベルであるため、不合格と判定した。
【0089】
ここで、上記の「スティッチ」とは、均一なフィレットの中に点状の窪みが断続的に発生しており、縫い目のように見える状態をいう。スティッチの発生は、酸化皮膜の破壊が途中段階であったことを示している。
【0090】
【表4】
【0091】
【表5】
【0092】
試験体B1は、標準的な条件によりフラックスろう付を行った例である。試験体B1においては、外側フィレットF1、即ち、当接部60における、外部空間に面する部分に形成されたフィレットが、内側フィレットF2に比べてやや小さくなった。
試験体B2に示すように、一般的なフラックスろう付においては、フラックス塗布量を標準量よりも多くすることにより、外側フィレットF1を改善することができる。
【0093】
これに対し、試験体B3〜B26の結果から、上記特定の積層構造を備えた供試材2〜23は、少なくとも当接部60における外部空間に面する部分にフラックスを塗布することにより、中空部材6の外部及び内部の両方に、実用上問題のない水準のフィレットを形成可能であることが理解できる。
【0094】
これらの供試材の中でも、特に、Mg拡散抑制層を有する供試材9及び供試材10は、試験体B10及びB11に示すように、Mg拡散抑制層がない以外は供試材9及び供試材10と同等の構成を有する供試材5に比べて、外側フィレットF1の形成状態を改善することができた。
また、ろう材の両面にMg拡散障壁層を有する供試材A11は、試験体B12に示すように、フラックス塗布量を3g/m
2に減じても、概ね良好な状態の外側フィレットF1を形成することができた。
【0095】
一方、試験体B27〜B29に示したように、上記特定の積層構造を有するブレージングシート(供試材3、供試材5及び供試材8)であっても、フラックスを使用せずに中空部材のろう付を行う場合には、外側フィレットF1にスティッチが発生した。
上記特定の積層構造を有さない供試材24〜31においては、外側フィレットF1及び内側フィレットF2の少なくとも一方において、合格レベルの接合状態が得られなかった。
【0096】
(実施例3)
本例は、ろう付が完了した後のブレージングシートの耐食性を評価した例である。本例においては、供試材から採取した縦150mm、横50mmの試験体を、縦方向が鉛直方向となるようにしてろう付炉内に吊り下げ、実施例1と同様の条件でろう付を行った。ろう付が完了した後、溶融量が溜まった試験体の下部を切除した。
【0097】
その後、JIS Z2371に準拠した方法により塩水噴霧試験を行った。試験条件は、試験液:5%NaCl水溶液、pH:6.8、試験温度:35℃とした。試験後に発生した腐食部の断面観察を行い、耐食性を評価した。表6中の「耐食性」の欄には、耐食性が極めて良好であった場合には記号「A+」を、耐食性が良好であった場合には記号「A」を記載した。
【0098】
【表6】
【0099】
表6から理解できるように、上記特定の積層構造を有する供試材2〜23は、フラックスを塗付する場合及び塗布しない場合のいずれにおいても、標準的なフラックスろう付(試験体C1)と同等の耐食性を示した。
また、中間材中にZnが含有されている供試材18及び供試材19は、Znの犠牲防食効果により、耐食性がさらに向上した。