特許第6263595号(P6263595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6263595電池パックの保護部材用熱可塑性エラストマー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263595
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】電池パックの保護部材用熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 2/10 20060101AFI20180104BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20180104BHJP
   C08L 25/10 20060101ALI20180104BHJP
   C08L 23/12 20060101ALI20180104BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20180104BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20180104BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20180104BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20180104BHJP
   C08L 47/00 20060101ALI20180104BHJP
【FI】
   H01M2/10 L
   H01M2/02 K
   C08L25/10
   C08L23/12
   C08K3/22
   C08K3/34
   C08K3/26
   C08K3/38
   C08L47/00
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-220119(P2016-220119)
(22)【出願日】2016年11月11日
(62)【分割の表示】特願2013-198441(P2013-198441)の分割
【原出願日】2013年9月25日
(65)【公開番号】特開2017-59542(P2017-59542A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2016年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000250384
【氏名又は名称】リケンテクノス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184653
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 寧
(72)【発明者】
【氏名】坂元克司
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−179658(JP,A)
【文献】 特開2002−322324(JP,A)
【文献】 特開平09−031267(JP,A)
【文献】 特開2000−084908(JP,A)
【文献】 特開平08−253655(JP,A)
【文献】 特開2008−024882(JP,A)
【文献】 特開2006−002085(JP,A)
【文献】 特開2008−291100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 2/02−10
C08K 3/22
C08K 3/26
C08K 3/34
C08K 3/38
C08L 23/12
C08L 25/10
C08L 47/00
C08L 9/06−08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体の水素添加物85〜98質量%と、成分(b)ポリプロピレン樹脂15〜2質量%とからなり、ここで成分(a)と成分(b)との合計は100質量%である、熱可塑性樹脂100質量部;及び成分(c)水酸化マグネシウム250〜350質量部;を含む熱可塑性エラストマー組成物からなる電池パックの保護部材。
【請求項2】
上記成分(a)が、JIS K7244−4:1999に従い測定した引張法による動的固体粘弾性特性の試験において、損失正接のピーク温度が単一のピークとして−50℃〜0℃の範囲に観察されることを特徴とする請求項1記載の電池パックの保護部材。
【請求項3】
上記熱可塑性エラストマー組成物が、更に成分(d)熱伝導性充填材を、成分(a)と成分(b)との合計100質量部に対し、70〜90質量部含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の電池パックの保護部材。
【請求項4】
上記成分(d)が、酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、窒化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項3に記載の電池パックの保護部材。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の電池パックの保護部材を含む電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物に関する。更に詳しくは難燃性、熱伝導性、電気絶縁性、耐薬品性、及び低温柔軟性に優れ、電池パックの保護部材として好適に用いることのできる熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、柔軟であり、かつゴム弾性が要求される部材としては、加硫ゴムが用いられている。しかし、マテリアルリサイクルができないなど、環境面の問題から熱可塑性エラストマーへの代替が進んでいる。スチレン・ブタジエン‐ブロックコポリマー(SBS)やスチレン・イソプレン‐ブロックコポリマー(SIS)などのポリスチレン系熱可塑性エラストマーの水素添加物を用いた熱可塑性エラストマー組成物は、従来から知られている(例えば、特許文献1〜4)が、電池パック保護部材の厳しい諸要求特性を満たすようなものは得られていない。
【0003】
電池パックは、単電池を複数個接続した電池であり、組電池とも呼ばれる。ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、及びリチウムイオン二次電池などの二次電池は、しばしばこのような電池パックとして機器に取り付けて使用される。近年、電池パックは、定格電圧や定格負荷電流のより高い機器にも使用されるようになっている。また充電仕様の急速充電化や電池パックの機器への収納固定仕様の省スペース化が進むなど、電池パックの使用環境、状態、及び方法は厳しさを増している。そのため電池パックの保護部材についても、諸要求特性をより高いレベルで満たすことが求められている。
【0004】
電池パックにはハード型とソフト型とがある。ハード型の電池パックでは、単セルをいくつか組み合わせたものが、プラスチックケース収納ケースに収納されている。ソフト型の電池パックでは、単セルをいくつか組み合わせたものが、シュリンクチューブでカバーされている。ソフト型には、ハード型よりも、省スペースであるというメリットがある。そのためソフト型電池パックの保護部材として用いることのできる熱可塑性エラストマー組成物が求められている。
【0005】
また近年、リチウムイオン二次電池が蓄電池の主流として普及している。リチウムイオン二次電池は、他の蓄電池と比較して急速充電、及び大電流放電が可能という特徴を有するが、充放電時の発熱が安全対策上の問題となっている。そのためリチウムイオン二次電池本体だけでなく、電池パックの保護部材についても、耐熱性を有し、発熱や畜熱を抑制し、更には放熱を促進することが求められている。
【0006】
また電池パックの保護部材には、落下時の衝撃による蓄電池本体の破損を防止する目的から、柔軟であり、かつゴム弾性を有することが求められている。特にリチウムイオン二次電池の電池パックは、近年、電気自動車、ハイブリッド自動車、航空機関係、各種モーター駆動関係などへの搭載も活発化しており、その保護部材には、低温環境下でも柔軟であり、かつゴム弾性を失わないことが求められている。
【0007】
またリチウムイオン二次電池は、充放電時の充電器の発熱異常や外部短絡による電池の異常発熱による発火対策として、温度ヒューズ、電流ヒューズ、及びサーミスタなどの安全対策付属部品を電池パックに内蔵する対策が進んでいるが、電池パックの保護部材についても、難燃性が求められている。
【0008】
またリチウムイオン二次電池は、使用される環境、状態、及び方法によっては、電解液等が分解してガスの発生する可能性がある。電池内部でのガスの発生は、電池の破裂や電解液の外部漏洩へと繋がり、発煙・発火へと誘導される危険性もある。そのため電池パックの保護部材についても、耐電解液溶解性や難燃性が求められている。
【0009】
更に、環境負荷の少ない電池を開発するという観点から、電池パックの保護部材についてもノンハロゲン化が求められている。
【0010】
また「電気、電子部品等の放熱用部材に有用な熱伝導性エラストマー組成物」として、「スチレン系エラストマーを主体とするエラストマー組成物に、有機系カップリング剤で表面被覆された水酸化アルミニウムからなる熱伝導性充填材および/または不活性化させた酸化マグネシウムであるマグネシアクリンカーを無機物および/または有機物で表面被覆した酸化マグネシウムからなる熱伝導性充填材を配合し、エラストマーの熱伝導性を向上させる」技術が提案されている(特許文献5)。しかし、電池パックの保護部材、特にリチウムイオン二次電池の電池パック保護部材の厳しい諸要求特性を満たすようなものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭58−132032号公報
【特許文献2】特開昭58−145751号公報
【特許文献3】特開昭59−53548号公報
【特許文献4】特開昭62−48757号公報
【特許文献5】特開2011-207962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、ハロゲン系難燃剤を用いることなくUL94V0試験においてV−0の難燃性を有し、熱伝導性、電気絶縁性、耐薬品性(耐電解液溶解性)、低温柔軟性(脆性破壊温度)に優れ、電池パック、特にソフト型電池パックの保護部材として好適に用いることのできる熱可塑性エラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、電池パックの安全対策に必要な特性に着目し、鋭意検討を行った結果、基本となる高分子材料として、特定の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体の水素添加物、及びポリプロピレン樹脂を含み、非ハロゲン系難燃剤として水酸化マグネシウムを含有する熱可塑性エラストマー組成物が課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、成分(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体の水素添加物85〜98質量%と、成分(b)ポリプロピレン樹脂15〜2質量%とを含み、ここで成分(a)と成分(b)との合計は100質量%である、熱可塑性樹脂100質量部;及び成分(c)水酸化マグネシウム250〜350質量部;を含む電池パックの保護部材用熱可塑性エラストマー組成物である。
【0015】
本発明の第2の発明は、上記成分(a)が、JIS K7244−4:1999に従い測定した引張法による動的固体粘弾性特性の試験において、損失正接のピーク温度が単一のピークとして−50℃〜0℃の範囲に観察されることを特徴とする第1の発明に記載の熱可塑性エラストマー組成物である。
【0016】
本発明の第3の発明は、更に成分(d)熱伝導性充填材を、成分(a)と成分(b)との合計100質量部に対し、70〜90質量部含むことを特徴とする第1の発明又は第2の発明に記載の熱可塑性エラストマー組成物である。
【0017】
本発明の第4の発明は、上記成分(d)が、酸化マグネシウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、窒化ホウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする第1〜3の発明の何れか1に記載の熱可塑性エラストマー組成物である。
【0018】
本発明の第5の発明は、第1〜4の発明の何れか1に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなる電池パック用保護部材である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ハロゲン系難燃剤を用いることなくUL94V0試験においてV−0の難燃性を有し、熱伝導性、電気絶縁性、耐薬品性(耐電解液溶解性)、及び低温柔軟性(脆性破壊温度)に優れており、電池パック、特にソフト型電池パックの保護部材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物について、組成物を構成する各成分、製造方法、及び実施方法を説明する。
【0021】
成分(a)芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のランダム共重合体の水素添加物(必須成分)
本発明の成分(a)として用いる芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物のランダム共重合体の水素添加物は、芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体を水素添加した物質である。
【0022】
上記成分(a)の上記芳香族ビニル化合物の含有量は、柔軟な成形品を得るという観点から、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下である。また成形品の形状安定性、押出成形加工性、及び耐電解液溶解性の観点から、成分(a)の芳香族ビニル化合物の含有量は、好ましくは5質量%以上である。
【0023】
上記芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、t−ブチルスチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン、ビニルトルエン、p−第3ブチルスチレンなどのうちから1種又は2種以上が選択でき、中でもスチレンが好ましい。
【0024】
上記共役ジエン化合物としては、例えば、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンなどのうちから1種又は2種以上が選ばれ、中でもブタジエン、イソプレン、及びブタジエンとイソプレンとの組合せが好ましい。
【0025】
上記成分(a)は、長期熱安定性の観点から、上記共役ジエン化合物に基づく脂肪族二重結合の少なくとも90モル%以上が水素添加されたものが好ましい。
【0026】
上記成分(a)は、JIS K7244−4:1999に従い測定した動的固体粘弾性の試験において、引張損失正接のピーク温度が単一のピークとして−50℃〜0℃の範囲に観察されるものが好ましい。このような成分(a)を用いることにより難燃性、熱伝導性、電気絶縁性、耐薬品性(耐電解液溶解性)、及び低温柔軟性(脆性破壊温度)をバランスよく発現することができる。
【0027】
上記成分(a)のゲル浸透クロマトグラフィ(以下、GPCと略すことがある。)により測定したポリスチレン換算の質量平均分子量は、好ましくは5,000〜1,000,000であり、より好ましくは10,000〜350,000であり、多分散度(Mw/Mn)の値は、好ましくは10以下である。成分(a)の質量平均分子量や多分散度が上記の範囲にあると、押出成形加工性が良好である。
【0028】
上記成分(a)の市販例としては、JSR株式会社の「ダイナロン1320P(商品名)」(水添スチレン−ブタジエンランダム共重合体、質量平均分子量=30万、Mw/Mn=1.1)等をあげることができる。
【0029】
成分(b)ポリプロピレン樹脂(必須成分)
本発明の成分(b)は、例えば、プロピレン単独重合体;プロピレンと他の少量のα−オレフィン、例えばエチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等との共重合体(ブロック共重合体、ランダム共重合体)などのポリプロピレン樹脂であり、耐薬品性(耐電解液溶解性)の保持に重要な役割を担う。成分(b)は、耐薬品性(耐電解液溶解性)の観点から、示差走査熱量計(DSC)により測定した融点(Tm)が120〜167℃のものが好ましい。またメルトマスフローレートが0.1〜10g/10分の範囲のものは、本発明の組成物中における上記成分(a)の分散を良好にし、組成物の耐熱性を改良し、なおかつ本発明の組成物から得られる成形品の外観を良好にする効果を有するため、好ましい。
【0030】
なお本明細書において、メルトマスフローレート(MFR)は、特別な条件についての記載がない限り、ASTM D‐1238に従い、230℃、荷重21.18Nの条件で測定した値である。また示差走査熱量計(DSC)により測定した融点(Tm)とは、株式会社パーキンエルマージャパンのDiamond DSC型示差走査熱量計を使用して、230℃で5分間保持し、10℃/分で−10℃まで冷却し、−10℃で5分間保持し、10℃/分で230℃まで昇温するプログラムで測定されるセカンド融解曲線(最後の昇温過程で測定される融解曲線)における、最も高い温度側のピークトップ融点をいう。
【0031】
上記成分(a)と上記成分(b)との割合は、難燃性、熱伝導性、電気絶縁性、耐薬品性(耐電解液溶解性)、低温柔軟性(脆性破壊温度)、及び押出成形加工性をバランスよく発現させる観点から、特に柔軟性、押出成形加工性、耐薬品性の観点から、成分(a)85〜98質量%と成分(b)15〜2質量%である。ここで両者の和は100質量%である。好ましくは成分(a)85.5〜97.5質量%、と成分(b)14.5〜2.5質量%である。
【0032】
成分(c)水酸化マグネシウム(必須成分)
本発明の成分(c)は、水酸化マグネシウムであり、組成物に難燃性を付与するために重要な役割を担う。また組成物の熱伝導性を向上させる効果も有する。水酸化マグネシウムは、通常の難燃剤、例えばハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤よりも電気絶縁性に優れているため、電池パック保護部材向け樹脂組成物の難燃性付与に好適である。水酸化マグネシウムには種々の粒子径のものや表面処理されたものが市販されているが、本発明の成分(c)としては、いずれの性状の水酸化マグネシウムを用いてもよい。
【0033】
上記成分(c)の配合量は、成分(a)と成分(b)の合計100質量部に対し、難燃性や熱伝導性と組成物や成形品の製造性とのバランスの観点から、250〜350質量部の範囲である。好ましくは260〜325質量部である。
【0034】
成分(d)熱伝導性充填材(任意成分)
熱伝導性充填材は、通常、導電性を有するものと電気絶縁性を有するものとに分類することができる。また樹脂への混合性を考慮した各種の表面処理タイプがあり、目的に応じて使い分けられている。更に形状としては、粉状、繊維状、鱗片状等がある。これらの中で電池パック保護部材に求められる特性から、本発明の任意成分(d)としては、高い電気絶縁性を有する熱伝導性充填材が好ましい。また熱伝導性の異方性の問題から非繊維状のものが好ましい。より好ましくは粉状である。具体的には、成分(d)としては、珪酸マグネシウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、窒化ホウ素などが好ましい。成分(d)としては、これらの1種又は2種以上を好ましく用いることができる。
【0035】
上記成分(d)を用いる場合、その配合量は、電気絶縁性と熱伝導性とのバランスの観点から、成分(a)と成分(b)との合計100質量部に対し、70〜90質量部が好ましい。より好ましくは75〜85質量部である。
【0036】
成分(e)ポリフェニレンエーテル樹脂 (任意成分)
ポリフェニレンエーテル樹脂は、耐熱性、電気的特性、及び耐薬品性に優れたエンジニアリングプラスチックであり、ポリスチレンと完全相溶することは公知であるが、一方で、流動性が悪く成形加工が困難であるという欠点を有しているため、成形加工性、流動性、及び耐衝撃性の改良を目的として、ポリスチレン系樹脂を配合したスチレン変性ポリフェニレンエーテル樹脂として使用されるのが一般的である。本発明の組成物に、更に上記成分(e)を、成分(a)と成分(b)との合計100質量部に対し、2〜8質量部含ませることにより、耐薬品性(耐電解液溶解性)、特に高温の電解液に対する耐溶解性を高めることができる。成分(e)としては、ポリフェニレンエーテル樹脂を用いてもよく、スチレン変性ポリフェニレンエーテル樹脂を用いてもよい。
【0037】
本発明の熱可性エラストマー組成物には、所望に応じて、上記成分(c)及び上記成分(d)以外の無機充填材類を配合することができる。無機充填材は成形品の圧縮永久歪みなど一部の物性を改良する効果のほかに、増量による経済上の利点を有する。上記無機充填剤としては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、マイカ、クレー、硫酸バリウム、天然けい酸、合成けい酸(ホワイトカーボン)、酸化チタン、カーボンブラックなどをあげることができ、本発明の目的に反しない限度において、その配合量は任意に設定可能である。
【0038】
なお本発明の熱可性エラストマー組成物には、上記の成分の他に、所望に応じて、さらに各種のブロッキング防止剤、シール性改良剤、ゴム用軟化剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、結晶核剤、着色剤等を含ませることができる。
【0039】
上記酸化防止剤としては、例えば、2,6‐ジ‐tert‐p‐ブチル‐p‐クレゾール、2,6‐ジ‐tert‐ブチルフェノール、2,4‐ジメチル‐6‐tert‐ブチルフェノール、4,4‐ジヒドロキシジフェニル、トリス(2‐メチル‐4‐ヒドロキシ‐5‐tert‐ブチルフェニル)ブタンなどのフェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等をあげることができる。これらの中で、フェノール系酸化防止剤、ホスファイト系酸化防止剤が好ましい。
【0040】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記成分(a)〜(c)、及びその他の任意成分を、任意の順序で又は同時に、溶融混練することにより製造することができる。溶融混練の方法は特に制限はなく、公知の方法を使用し得る。例えば、単軸押出機、二軸押出機、ロール、ミキサー又は各種のニーダー等を使用し得る。ミキサーやニーダーを使用する場合には、例えば、排出温度170〜240℃の条件で溶融混練を行うことが好ましい。二軸混練機を使用する場合には、例えば、スクリュー回転数50〜500rpm、混練温度170〜240℃で溶融混練を行うことが好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
実施例1〜14、比較例1〜8
20L容量加圧ニーダーを使用し、表1〜3の何れか1に示す配合比の配合物を、排出温度175℃の条件で溶融混練した。得られた組成物を、二軸押出機を使用し、ダイス設定温度210℃の条件でストランド状に押出し、水槽を使用して水冷し、カッティングすることにより、円柱状のペレットを得た。続いて得られたペレットを用い、加熱プレス機を使用し、温度220℃、予熱時間3分、加圧時間3分の条件で熱プレス後、直ちに温度30℃、加圧時間3分の条件で冷プレスして厚み1mmのプレスシートを得た。また同様にして2mm、3mm、6mmの各厚みのプレスシートをそれぞれ得た。以上の工程の製造性を下記の基準で評価した。また下記の試験(1)〜(8)を行った。結果を表1〜3の何れか1に示す。
〇:特に問題なく、各厚みのプレスシートを得ることができた
×:加圧ニーダーにおける溶融混練が過負荷で安定しない、造粒ができないなど、上記工程中の少なくとも何れか1において不具合があった。
【0043】
測定方法
(1)絶縁性:
JIS K6271法に従い、サンプルとして上記で得た1mm厚のプレスシートを用い、二重リング法で測定した。
(評価基準)絶縁抵抗率は10の14乗Ωcm以上を合格とした。
【0044】
(2)熱伝導性:
測定装置として京都電子工業株式会社製、「Kemtherm QTM―D3(商品名)」を使用し、サンプルとして上記で得た1mm厚のプレスシートを用い、25℃(室温)の条件で、JIS R2616に規定の熱線法により測定を行った。熱伝導の方向は試験片の厚さ方向である。
(評価基準)0.80W/(m・K)以上を合格とした。
【0045】
(3)難燃性:
UL94V0に従い測定した。サンプルには上記で得た1mm厚のプレスシートを用いた。
(評価基準)V−0水準であることを合格とした。
【0046】
(4)押出成形加工性:
40mm単軸押出機に圧縮比(CR)2.7のスクリュウ、及び7mm外径、1mm厚のチューブ成形金型を装着した装置を使用し、スクリュウ回転15r.p.m、金型出口樹脂温度230℃、引落率(得られたチューブの厚みに対する金型の厚み寸法の割合として算出する。)1.3の条件で、チューブの押出成形加工を行った。以下の基準で押出成形加工性と成形品の外観を評価した。
押出成形加工性:
○;偏肉が無く、寸法通りのものが得られる。
△;吐出ムラ(サージング)が若干認められ、部分的に偏肉が発生する。
×;吐出ムラ(サージング)が顕著に認められ、偏肉が激しい。
成形品(チューブ)の外観:
〇:チューブ表面に肌荒れ等の外観不良は認められない。
△;チューブ表面に部分的に肌荒れ等の外観不良が認められる。
×;チューブ表面に顕著な肌荒れ等の外観不良が認められる。
【0047】
(5)耐薬品性:
ヘキサフルオロリン酸リチウム水溶液(リチウム塩濃度1モル/リットル)に、上記で得た1mm厚プレスシートを、温度80℃で2時間、浸漬した後のプレスシートの状態を目視観察した。また成分(e)を含むサンプルについては、100℃で2時間浸漬する条件でも同様の試験を行った。評価基準は以下の通りである。
○:全く変化なし
△:シート形状が若干変化、もしくは膨潤が認められる、
×:シートの一部が溶解した
【0048】
(6)硬さ:
JIS K6253 (HDA 15秒後)に準拠し測定を行った。サンプルには、上記で得た6mm厚プレスシートを用いた。
(評価基準)90°未満を合格とした。
【0049】
(7)動的固体粘弾性特性:
JIS K7244−4:1999に従い、サンプルには上記で得た2mm厚プレスシートから10mm×40mmの大きさに打ち抜いたものを用い、−60℃で10分間保持し、昇温速度4℃/分で100℃まで昇温する温度プログラムで測定した。
〇:引張損失正接(tanδ)のピークが単一のピークとして−50℃〜0℃に観測される。
×:上記良好(〇)評価以外の場合。
【0050】
(8)脆化温度
JIS K7216−1980に従い測定した。サンプルには上記で得た2mm厚プレスシートからA形に打ち抜いたものを用いた。
(評価基準)−5℃以下を合格とした。
【0051】
使用した原材料
成分(a):
(a1)JSR株式会社の芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物とのランダム共重合体の水素添加物(HSBR)「ダイナロン1320P(商品名)」、スチレン含有量10質量%、重量平均分子量300,000、JIS K7244−4:1999に従い測定した動的固定粘弾性特性の試験において、引張損失正接のピークが単一のピークとして−25℃近辺に観察される。
【0052】
比較成分(a’):
(a’1)デュポン・ダウ・エラストマージャパンのポリオレフィン系エラストマー樹脂(エチレン・オクテン−1ランダム共重合体)「エンゲージ8150(商品名)」。
【0053】
成分(b):
(b1)日本ポリプロ株式会社のポリプロピレン樹脂(PP)「FW4BT(商品名)」、融点139℃、メルトマスフローレート6.5g/10分。
【0054】
比較成分(b’):
(b’1)旭化成ケミカルズ株式会社の高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)「サンテックB470(商品名)」。
【0055】
成分(c):
(c1)神島化学工業株式会社の合成水酸化マグネシウム「マグシーズS−6(商品名)」、平均粒子径1.0μm、粒子表面をシラン化合物と脂肪酸とで処理。
(c2)神島化学工業株式会社の天然水酸化マグネシウム「EP3−A(商品名)」、平均粒子径7.1μm。
【0056】
比較成分(c’):
(c’1)昭和電工株式会社の水酸化アルミニウム「H42M(商品名)」、平均粒子径1.0μm、粒子表面をシラン化合物と脂肪酸とで処理。
【0057】
成分(d):
(d1)日本タルク株式会社の珪酸マグネシウム(MgSi10(OH))「タルクP−4(商品名)」、平均粒子径4.5μm。
(d2)神島化学工業株式会社の酸化マグネシウム「スターマグSL−WR(商品名)」。
(d3)神島化学工業株式会社の炭酸マグネシウム「MSPS(商品名)」。
(d4)電気化学工業株式会社の窒化ホウ素「SGB(商品名)」。
【0058】
成分(e):
(e1)旭化成ケミカルズ株式会社のスチレン変性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPO)「ザイロンX9102(商品名)」。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
表1又は2に示すように、本発明の組成物は、難燃性、熱伝導性、電気絶縁性、耐薬品性、低温柔軟性、製造性、及び押出成形加工性をバランスよく発現しており、電池パックの保護部材として、好適に用いることができる。一方、表3に示すように、比較例は、難燃性、熱伝導性、電気絶縁性、耐薬品性、低温柔軟性、製造性、及び押出成形加工性の少なくとも何れか1に劣っており、電池パックの保護部材として用いることはできない。