【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る第1態様は、試料を熱分析するための方法に関する。この方法は、
・試料温度を変化させる温度プログラムに従って、試料を温度調整するステップと、
・温度プログラムの過程で、試料温度を測定するステップと、
・温度プログラムの過程で、温度(T)に応じて異なる試料における少なくとも1つの物理的特性を測定するステップとを含む。
【0011】
上述した課題を解決するため、本発明に係るこの方法は、試料の温度測定が、
・試料の第1表面領域を電磁励起ビームで照射し、該照射により、試料の第2表面領域から放出される熱放射強度を検出するステップと、
・検出された熱放射強度を評価することにより、試料の温度伝導率を算出するステップと、
・試料における温度伝導率の温度依存的な変化を表すデータを使用することにより、算出された温度伝導率に基づいて試料温度を算出するステップとを含むことにより特徴付けられる。
【0012】
本発明に係る方法が含む各ステップ、即ち、試料の第1表面領域を電磁励起ビームで照射するステップと、試料の第2表面領域から放出される熱放射強度を検出するステップと、検出された熱放射強度を評価することにより、試料の温度伝導率を算出するステップとの組み合わせは、以下において「フラッシュ法」と称する。
【0013】
このように、本発明の根底にある考えは、従来技術において「フラッシュ法」とも称されることの多い手法により、試料の温度伝導率を算出し、試料における温度伝導率の温度依存的な変化を表す(例えば文献又は他の測定で既知の)データを使用することにより、算出された温度伝導率に基づいて試料温度を推定することである。
【0014】
試料の温度調整は、例えば、加熱及び/又は冷却を制御可能な試料チャンバ内にて行うことができる。測定中の試料は、試料チャンバ内における試料ホルダの収容部に収容される。
【0015】
試料チャンバ内における熱分析のための電気加熱手段及び/又は冷却手段は、例えば、プログラム制御方式の制御ユニット、例えばマイクロコントローラにより制御することができる。この場合、使用される温度プログラム、即ち温度に関する特定の時間変化は、加熱又は冷却出力を単純に制御することにより、又は加熱若しくは冷却出力を、試料の温度測定に基づいて制御することにより実現することができる。
【0016】
一実施形態において、試料の温度変化は、温度プログラムの過程で、少なくとも100 K、特に少なくとも200 Kに亘って変化させる。
【0017】
温度プログラムにより、基礎的な温度変化、即ち時間変化との関連で線形的な温度変化が提供されるか、又は時間変化との関連で他の温度変化が提供される。ほぼ一定の温度変化率を有する基礎的な温度変化の代替又は付加として、(例えば正弦波状の)温度変化も温度プログラムの過程で提供可能である。
【0018】
温度プログラムの過程においては、試料の温度測定の他に、試料における少なくとも1つの更なる物理的特性も測定される。この物理的特性としては、(例えば上述のフラッシュ法により測定される)温度伝導率に加えて、いわゆる熱機械分析又は膨張率測定において、試料に作用する力及び/又は寸法(例えば試料の長さ又は厚さ)も一例として含まれる。更に、試料表面における(光学的な)反射率も一例として含まれる。
【0019】
本明細書で使用される用語「温度伝導率」とは、温度降下に起因する熱伝導による温度及び/又は熱の空間分布に関して、時間的及び/又は空間的変化を定量化する物理的特性を表す。この場合、以下に定義される狭義の温度伝導率αが含まれる:
α=λ/p×c
ここに、
λは、試料の熱伝導率を表し、
pは、試料の密度を表し、
cは、比熱容量を表している。
【0020】
この場合、上述した定義に含まれる熱伝導率λは、温度勾配に応じた熱流密度の比例係数である:
dQ/dt=λ×A×(ΔT/L)
ここに、
dQ/dtは、熱流を表し、
Aは、熱流が流れる断面積を表し、
Lは、熱流が流れる層厚を表し、
ΔTは、厚さLを有する層におけるエッジ面の間の温度差を表している。
【0021】
ここで留意すべきことは、上記の定義による「温度伝導率α」と数学的に関連する変数、例えば上記の定義による「熱伝導率λ」は、本発明において「温度伝導率」として使用され得ることである。
【0022】
この点で本発明にとって重要なことは、検出された熱放射強度により算出された温度伝導率と、本発明による温度の算出(較正)に際して使用されるデータが表す温度伝導率とが、同じ定義又は物理的意味を有するということである。
【0023】
フラッシュ法における照射は、好適には、温度プログラムの過程において、1つ又は一連の励起パルス、例えば100 ms未満、特に50 ms未満の持続時間を有するパルスによって行われる。
【0024】
照射は、フラッシュランプ、例えば(ハロゲンフラッシュランプ)又は(好適にはパルス状に作動する)レーザーにより行うことができる。
【0025】
電磁励起ビームは、例えば、スペクトルの大部分が可視領域及び/又は赤外領域の電磁波を有することができる。
【0026】
照射は、例えば、試料の第1表面領域に亘って均一な照射電流密度により行うことができる。第1表面領域は、円形とすることができると共に、プレート状試料の平坦側に設けることができるか、又は平坦側(全体)により形成することができる。試料の第2表面領域は、好適には、第1表面領域とは同一ではなく、第1表面領域に対向するよう設けられる。
【0027】
プレート状試料が使用される場合、第1及び第2表面領域は、好適には、試料の互いに対向する平坦側に配置されるか又はこれら平坦側により形成される。
【0028】
第2表面領域から放出される熱放射強度の検出は、例えば、(好適には)イメージング検出器によって、又は(より好適には)熱放射を累積的に検出する赤外線(IR)検出器によって行うことができる。
【0029】
試料と熱放射強度を検出するために使用される検出器との間、及び/又は、試料と試料を照射するために使用される照射源(フラッシュランプ又はレーザー)との間には、光学システム、特に少なくとも1つの屈折素子及び/又は少なくとも1つの反射素子を含む光学撮像システムを設けることができる。これにより、励起ビーム及び/又は検出される熱放射に関して、フラッシュ法の精度を高めるビームガイドが有利に実現される。
【0030】
一実施形態において、本発明に係る方法は、(例えば円形の)プレート状試料に対して実施する。この場合、プレート状試料は、その表面に亘って見た場合に均一な厚さ(例えば0.1〜6 mm)を有するものとする。
【0031】
試料の材料には、金属材料又は半導体材料を使用することができる。本発明は、特に、温度伝導率αが1×10
-6m
2/sを超える範囲、例えば、1×10
-6m
2/s〜約5×10
-4m
2/sの範囲を有する試料において適している。
【0032】
検出された熱放射強度を評価することにより、試料における温度伝導率の算出をする場合、フラッシュ法に関する従来技術に既知の全ての方法を有利に利用することができる。温度伝導率の算出においては、原則的に、試料における少なくとも温度伝導率をモデルパラメータとして含み、かつ試料を記述する物理・数学的モデルが使用される。即ち、この物理・数学的モデルを使用すれば、時間に応じて(時間依存的に)測定される熱放射強度の変化に基づいてモデルパラメータとしての「温度伝導率」(及び/又は該温度伝導率の算出を可能にする少なくとも1つのモデルパラメータ)を、数学的曲線あてはめ(equalizing calculation、「フィット」)によって算出することができる。試料における温度伝導率の算出は、好適には、プログラム制御方式のデータ処理ユニット、特に制御ユニットにより実施される。このような制御ユニットは、例えば、熱分析をするための装置において制御可能な(全ての)素子を制御するために設けられる。
【0033】
試料における温度伝導率の温度依存的な変化を表すデータを使用することにより、算出された温度伝導率に基づいて試料温度を算出することも、プログラム制御方式のデータ処理ユニット、例えば、上述した制御ユニットにより有利に行うことができる。算出に使用されるこのユニットは、好適には、(例えば、フラッシュ法に使用される温度プログラム及び照射源の制御に必要なプログラムコードに加えて)ストレージを含み、該ストレージ内に、試料温度を算出するために必要なデータが記録される。これらデータは、例えば、(デジタル式の)「検索表」として記録することができるため、特定の温度伝導率に関連する(例えば文献から予め算出された)温度を読み出すことが可能である。
【0034】
試料の熱分析においては稀ではあるが、試料に関して算出された温度伝導率と、関連する温度とが互いに明確に割り当てられず、従って温度プログラムの過程で、同じ温度伝導率に複数の異なる温度が割り当てられることがある。この場合、試料温度の算出時に、適切な方法により試料温度の「概算」をし、この概算を基準として、正確な温度を温度伝導率に明確に割り当てれば十分である。概算をするための従来の温度測定機器とは別に、温度の概算は、温度プログラムの特性又は制御により実現することもできる。
【0035】
上述したように、試料を熱分析するための第1態様に係る方法は、
・試料温度を変化させる温度プログラムに従って、試料を温度調整するステップと、
・温度プログラムの過程で、試料の温度を測定するステップと、
・温度プログラムの過程で、温度に応じて異なる試料における少なくとも1つの物理的特性を測定するステップとを含む。
本発明に係る方法の第2態様では、試料温度の測定は、
・試料に隣接するよう更なる試料を配置することにより、試料及び更なる試料を共に温度調整するステップと、
・更なる試料の第1表面領域を電磁励起ビームで照射し、該照射により、更なる試料の第2表面領域から放出される熱放射強度を検出するステップと、
・検出された熱放射強度を評価することにより、更なる試料の温度伝導率を算出するステップと、
・更なる試料における温度伝導率の温度依存的な変化を表すデータを使用することにより、算出された温度伝導率に基づいて試料の温度を算出するステップとを含む。
【0036】
第2態様に係る方法の利点は、上述した第1態様に係る方法とは異なり、試料における温度伝導率の温度依存的な変化を表すデータが必要ないことである。
【0037】
本発明に係る第2態様における基本的な考えは、同一の温度調整において、(少なくとも)1個の「更なる試料」を「実際の」試料、即ち熱分析で分析すべき試料と共に分析することにより、更なる試料を試料温度の測定をするためのいわば手段とすることである。この場合、更なる試料における温度伝導率の温度依存的な変化が既知であるか、又は判明していれば十分である(第2態様に係る方法において、試料及び更なる試料は常に同一温度を有することが前提条件である)。
【0038】
同一の温度調整に「更なる試料」を使用すること、更なる試料における温度伝導率の温度依存性を表すデータが提供されることを別にすれば、第1態様に係る方法に関して上述した点は全て、本発明の第2態様に係る方法に関しても同様に適用することができる。このことは、特に、個々のステップを実施するための上述した装置における素子及びこれら素子の技術的特徴にも該当する。
【0039】
この場合に留意すべき唯一のことは、第2態様に係る方法にも適用されるフラッシュ法が、更なる試料(そして場合によってのみ試料)に確実に適用されることである。これにより、更なる試料を保持するために設けられる試料ホルダは、使用される励起ビーム源及び熱放射検出器に関して、照射及び検出が更なる試料(にのみ)行われるよう配置することが可能となる。
【0040】
第2態様に係る方法の更なる発展形態においては、温度プログラムの過程で、試料チェンジャーにより、同一の温度調整で使用される複数個の試料の間で(好適には自動制御可能な)交換が行われるため、(1個の)照射源及び(1個の)熱放射検出器を使用し、選択された試料を順次にフラッシュ法に基づいて分析することができる。この実施形態の実現においては、いわゆる試料チェンジャー、例えばリボルバのように回転可能な試料ホルダが使用される。回転可能な試料ホルダは、複数個の試料を同時に収容するための複数の収容部を有し、これら複数個の試料の1個を、試料チェンジャーの回転位置に応じて、照射装置及び検出器の間のビーム経路内に移動させることができる。
【0041】
このような試料チェンジャーを使用すれば、同一の測定過程又は温度プログラムで、(フラッシュ法を含む)熱分析を(少なくとも)1個の「試料」に関して有利に分析することができると共に、フラッシュ法を実施するための手段を使用して(少なくとも)1個の「更なる試料」をフラッシュ法で分析することにより、(少なくとも)1個の試料温度を測定することができる。
【0042】
試料チェンジャーの制御は、例えば、上述したプログラム制御方式の制御ユニットにより行うことができる。
【0043】
(同じ材料又は異なる材料)よりなる「更なる試料」が複数個使用されると共に、場合によって異なるデータが使用されるフラッシュ法に基づいて「試料の」温度が算出されるケースにおいては、試料温度の算出時に有利な冗長性が得られる。この冗長性に基づいて最終的に算出される温度は、例えば、「更なる試料」における個々の測定結果による平均値として算出される。
【0044】
本発明に係る第3態様においては、試料を熱分析するための装置内にて、試料温度を測定するために使用される(例えば従来の)温度測定機器を較正するための方法が提供される。この方法は、
・試料を、熱分析をするための装置内に配置するステップと、
・試料温度を変化させる温度プログラムに従って、試料を温度調整するステップと、
・温度プログラムの過程で、試料温度を測定機器により測定するステップと、
・温度プログラムの過程で、試料温度を以下のサブステップ、即ち、
(i)試料の第1表面領域を電磁励起ビームで照射し、該照射により、試料の第2表面領域から放出される熱放射強度を検出するサブステップと、
(ii)検出された熱放射強度を評価することにより、試料の温度伝導率を算出するサブステップと、
(iii)試料における温度伝導率の温度依存的な変化を表すデータを使用することにより、算出された温度伝導率に基づいて試料温度を算出するサブステップとにより測定するステップと、
・試料温度に関する2つの測定結果を比較することにより、温度測定機器を較正するステップとを含む。
【0045】
本発明の第3態様に係る方法は、試料温度を測定するための温度測定機器を使用する点、並びに温度測定機器を較正するための最終ステップを実施する点以外は、上述した第1及び第2態様に係る方法に含まれるステップと同様のステップを含む。これらステップは、有利に実施することができる。
【0046】
従って、例えば、試料を収容するための1個の収容部を有すると共に、装置における温度調整可能な試料チャンバ内に配置された試料ホルダを使用すれば試料を配置することができる。この試料に基づいて温度測定機器の較正をする場合、該試料における温度伝導率の温度依存的な変化を表すデータが必要になる。ただし、温度測定機器が既に較正されていれば、(上記データを必要とすることなく)同じ装置により、(既知又は未知の)試料を熱分析することができる。
【0047】
代替的に、試料の交換は、例えば、少なくとも2つ以上の収容部を有すると共に、制御可能な試料チェンジャーにより行うことができる。この代案では、複数個の試料を(1つ)の測定過程(温度プログラム)で熱分析することができるため有利である。この場合、既に較正された温度測定機器を温度プログラムの過程で使用することもできるし、又は温度測定機器の較正がまだ行われていないか或いは較正した後に時間が経ち過ぎている場合には、温度測定機器を較正することもできる(この較正では、複数個の試料の少なくとも1個が、フラッシュ法による付加的な温度測定に使用される試料として、温度プログラムが終了した後に温度測定機器を後発的に較正するために使用される)。
【0048】
本発明に係る第4態様においては、試料の熱分析及び/又は温度測定機器を較正するための手段を備える装置が提供される。
【0049】
これら手段(装置における素子)の具体的な構成に関しては、上述した実施形態の全てが包含される。
【0050】
熱分析をするための装置の例示的な実施形態において、該装置は、
・試料チャンバを備え、該チャンバ内に収容された試料ホルダにより(少なくとも)1個の試料がチャンバ内に配置され、
・加熱手段及び/又は冷却手段を含む温度調整手段を備え、これにより試料温度を経時的に変化させる温度プログラムに従って試料が温度調整され、
・温度プログラムの過程で、試料温度の他に、試料における少なくとも1つの物理的特性を測定するための(任意の)温度測定機器を備え、
・試料の第1表面領域を電磁励起ビームで照射するための照射源を備え、
・照射に起因して、試料の第2表面領域から放出される熱放射強度を検出する検出器を備え、
・検出された熱放射強度を評価することにより、試料の温度伝導率を算出するための評価ユニット、特に、(例えば装置における制御可能な全素子を制御する制御ユニットの一部として構成された)プログラム制御方式の評価ユニットを備え、該評価ユニットは、好適には、(少なくとも1個の)試料における温度伝導率の温度依存的な変化を表すデータを記録するためのストレージを含むと共に、このデータを使用することにより、算出された温度伝導率に基づいて試料温度が算出されるよう構成される。
【0051】
本発明の第1態様に係る方法は、特に装置におけるこの実施形態により実施することができる。
【0052】
(第1態様に係る方法を実施するための代替又は付加として)第2態様に係る方法を実施するためには、(少なくとも)1個の「更なる試料」を収容するための更なる試料ホルダ、及び/又は、複数の収容部を有するマルチプル試料ホルダ(特に変位可能又は回転可能な試料チェンジャー)が必要である。更に、(少なくとも)1個の「更なる試料」おいては、照射源、検出器及び評価ユニットにより、フラッシュ法を適用して試料温度の算出が可能でなければならない。
【0053】
(第1態様及び/又は第2態様に係る方法を実施するための代替又は付加として)第3態様に係る方法を実施するためには、装置は、較正すべき温度測定機器(例えば、少なくとも1個の熱素子及び/又は少なくとも1個の抵抗温度計)を必要とする。原則的には、(1個の)試料を収容するための1個の試料ホルダがあれば十分ではあるが、第3態様に係る方法においても、マルチプル試料ホルダ又は制御可能な試料チェンジャーの使用が有利である。
【0054】
本発明に係る第5態様においては、プログラムコードを含むコンピュータプログラム製品が提供される。このプログラムコードにより、本明細書に記載の方法がデータ処理ユニット上、特に、装置における上述の制御ユニット上で実行される。