(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263641
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】L−リジン生産能が向上したコリネバクテリウム微生物、及びそれを利用したL−リジン生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20180104BHJP
C12P 13/08 20060101ALI20180104BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20180104BHJP
C12R 1/15 20060101ALN20180104BHJP
【FI】
C12N1/21
C12P13/08 A
!C12N15/00 AZNA
C12R1:15
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-557862(P2016-557862)
(86)(22)【出願日】2014年12月8日
(65)【公表番号】特表2017-502688(P2017-502688A)
(43)【公表日】2017年1月26日
(86)【国際出願番号】KR2014011984
(87)【国際公開番号】WO2015088204
(87)【国際公開日】20150618
【審査請求日】2016年6月7日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0155634
(32)【優先日】2013年12月13日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513178894
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダン コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100169579
【弁理士】
【氏名又は名称】村林 望
(72)【発明者】
【氏名】モーン,ジュン オク
(72)【発明者】
【氏名】パーク,サン ヒー
(72)【発明者】
【氏名】フー,ラン
(72)【発明者】
【氏名】リー,クワン ホー
【審査官】
松岡 徹
(56)【参考文献】
【文献】
RAMOS Angelina et al.,Altered morphology produced by ftsZ expression in Corynebacterium glutamicum ATCC 13869,Microbiology,2005年,vol. 151,page. 2563-2572
【文献】
VALBUENA Noelia et al.,Morphological changes and proteome response of Corynebacterium glutamicum to a partial depletion of FtsI,Microbiology,2006年,vol. 152,page. 2491-2503
【文献】
Applied and Environmental Microbiology,2009年 1月,vol. 75, no. 2,page. 419-427
【文献】
Appl Microbiol Biotechnol,2007年,vol. 76,page. 615-623
【文献】
The Journal of Microbiology,2012年,vol. 50, no. 5,page. 860-863
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
UniProt/PDB/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隔膜形成開始因子タンパク質が不活性化されたことを特徴とするL−リジン生産能が向上したコリネ型微生物であって、前記隔膜形成開始因子タンパク質は、糸状温度感受性B(FtsB)タンパク質である、微生物。
【請求項2】
前記隔膜形成開始因子タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列を有することを特徴とする請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記コリネ型微生物はコリネバクテリウムグルタミクム(C.glutamicum)であることを特徴とする請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
請求項1に記載の微生物を培養し、培養物内にL−リジンを生産する段階と、
培養物からL−リジンを回収する段階とを含むことを特徴とするL−リジンを生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−リジンの生産能が向上したコリネバクテリウム属微生物、及びそれを利用したL−リジンを生産する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物は、L−アミノ酸生産に多用されて射るグラム陽性の微生物である。L−アミノ酸、特に、L−リジンは、動物飼料、ヒト医薬品及び化粧品の産業に使用されており、コリネバクテリウム菌株を利用した発酵によって生成されている。
【0003】
コリネバクテリウム菌株を利用したL−アミノ酸の製造方法を改善するために、多くの試みが行われている。そのうち、組み換えDNA技術を利用して、特定遺伝子を破壊させたり減衰発現させたりすることによってL−アミノ酸を生産するコリネバクテリウム菌株を改良する研究があった。また、それぞれのL−アミノ酸生合成に係わる遺伝子を増幅させ、L−アミノ酸生成に及ぶ効果を研究し、L−アミノ酸生産コリネバクテリウム菌株を改良する研究も多く行われてきた。また、他のバクテリア由来の外来遺伝子を導入する場合もある。
【0004】
しかし、前記従来方法によっても、依然としてL−リジンの生産能が向上した菌株は、変わりなく要求されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一様相は、L−リジン生産能が向上したコリネ型微生物を提供するものである。
【0006】
本発明の他の様相は、前記微生物を利用したL−リジンを生産する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一様相は、隔膜形成開始因子(septum formation initiator)タンパク質が不活性化された、L−リジン生産能が向上したコリネ型微生物を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明による隔膜形成開始因子タンパク質をコーディングする遺伝子が不活性化された微生物によれば、前記微生物のL−リジン生産能力を向上させることができる。
【0009】
本発明によるL−リジンを生産する方法によれば、L−リジンを高い生産性で生産することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、用語「隔膜形成開始因子(septum formation initiator)」は、コリネ型微生物の細胞分裂過程において形成される細胞内部を区分する膜状構造物、すなわち、隔膜の形成を開始するのに必要な因子を指す。従って、細胞分裂は、前記隔膜形成開始因子の存在下で行われる。隔膜形成開始因子の存在下で、隔膜は、細胞中央近傍の周辺部で陥入され、細胞質を二つに分けることができる。その後、細胞外膜の合成が伴い、細胞分裂が起こる。前記隔膜形成開始因子タンパク質は、表1及び2に表示されたタンパク質のうち一つでもある。
【0013】
隔膜形成開始因子は、糸状温度感受性(Fts:filamentous temperature sensitive)タンパク質を含んでもよい。前記糸状温度感受性タンパク質は、divisiom形成に関与するタンパク質であり、微生物の細胞分裂過程において、必要なものである。糸状温度感受性タンパク質は、FtsB、FtsA、FtsZ、FtsEX、FtsK、FtsQ、FtsW、FtsI、またはそれらの組み合わせを含んでもよいが、望ましくは、FtsBである。FtsBは、配列番号1のアミノ酸配列、またはそれと70%相同性、望ましくは、80%相同性、さらに望ましくは、90%相同性、最も望ましくは、95%相同性を有するアミノ酸配列を有するものでもある。前記用語「相同性」は、2つのアミノ酸配列間の同一性を示すものであり、点数(score)、同一性(identity)、類似度(similarity)などの媒介変数(parameter)を計算するBLAST 2.0を利用する、当業者に周知の方法によって決定される。
【0014】
糸状温度感受性タンパク質をコーディングする遺伝子は、ftsA、ftsB、ftsZ、ftsEX、ftsK、ftsQ、ftsW、ftsI、またはそれらの組み合わせをコーディングする核酸でもある。
【0015】
前記ftsB遺伝子は、コリネ型微生物の細胞分裂に関与する遺伝子であり、ftsZ、ftsEX、ftsK、FtsQ、ftsW及びクラスBHMW−PBPsと共に、divisomeを形成することができる。前記ftsB遺伝子は、配列番号1のアミノ酸配列をコーディングする核酸でもある。前記ftsB遺伝子は、例えば、NCBI許可番号NCg10936遺伝子でもある。用語「NCBI許可番号NCg10936遺伝子」とは、コリネバクテリウムグルタミクム菌株由来の配列番号2のヌクレオチド配列を有するものだけではなく、コリネバクテリウム属に属する微生物に存在する遺伝子であって、前記NCBI許可番号NCg10936遺伝子産物と実質的に同一産物を発現する遺伝子をいう。本発明において、「実質的に同一」とは、NCBI許可番号NCg10936遺伝子産物と同一種類の活性及び調節のメカニズムを有するものをいう。
【0016】
本明細書において、用語「不活性化(inactivation)」は、細胞または酵素が、比較可能な同一種の細胞、またはその本来の酵素において測定される活性レベルを示さないことを意味する。前記比較可能な同一種の細胞は、組み換えまたは変形のような操作が行われていない細胞でもある。前記微生物において、隔膜形成開始因子タンパク質の不活性化は、隔膜形成開始因子をコーディングするポリペプチドの活性が除去されたということを意味する。また、前記微生物は、L−リジンを生産するのに十分なほどに、隔膜形成開始因子タンパク質の活性が不活性化されている。
【0017】
前記不活性化は、組み換え方法によって引き起こされたものでもある。前記組み換え方法は、相同組み換え(homologous recombination)を含んでもよい。前記相同組み換え方法は、前記遺伝子の一部配列を含むベクターを、前記微生物に形質転換し、選別マーカー産物の存在下で培養する場合、前記遺伝子の一部配列と、前記微生物内の内在的遺伝子と相同組み換えを起こすことができる。ベクターは、配列番号4のNCBI許可番号NCg10936遺伝子断片を含むpDZ−ftsB、または配列番号6のNCBI許可番号NCg10936遺伝子断片を含むpDZ−ftsBW140*ベクターでもある。前記相同組み換えによって、前記微生物内の前記内在的遺伝子が組み換えられ、組み換えられた遺伝子のうち、前記マーカーを含む組み換え体だけが、選別マーカーによって選別される。前記相同組み換え方法によって、内在的NCBI許可番号NCg10936遺伝子が不活性化されたコリネバクテリウム属微生物を得ることができる。
【0018】
前記微生物において、タンパク質活性の不活性化は、遺伝子の塩基、ヌクレオシド、ヌクレオチド、またはそれらの組み合わせの欠失、置換、付加、逆転、またはそれらの組み合わせによって引き起こされたものでもある。具体的には、前記タンパク質活性の不活性化方法は、例えば、遺伝子ノックアウッ接近法、アンチセンス技術またはRNAi技術を利用することができる。また、各遺伝子の初期コピーを欠失させたり、突然変異体に初期コピーを置換させたり、弱いプローモーターから初期コピーを発現させたりする方法を含んでもよい。また、前記タンパク質をコーディングする遺伝子のプローモーターを置換したり、ランダムに、または標的突然変異誘発法によって突然変異を導入したり、前記遺伝子を破壊またはノックアウトさせたりすることができる。また、不安定化要素を、mRNAに導入したり、または遺伝子変形を導入したりして、RNAのリボゾーム結合部位(RBS)を変異させる方法を含んでもよい。
【0019】
遺伝子の不活性化がNCBI許可番号NCg10936遺伝子の一部分と、選別マーカーを含むベクターとをコリネバクテリウム属微生物に形質転換させ、抗生物質の存在下で培養して選別することによって達成される。
【0020】
前記選別マーカーは、ベクターに形質転換された細胞を選別するために具現されたものでもある。前記選別マーカーは、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性、または表面タンパク質の発現のような選択可能表現型を付与するマーカーでもある。
【0021】
コリネ型微生物は、コリネバクテリウムグルタミクム(C.glutamicum)、コリネバクテリウムアンモニアゲネス(C.ammoniagenes)、コリネバクテリウムシュードツベルクローシス(C.pseudotuberculosis)、コリネバクテリウムエフィシエンス(C.efficiens)、コリネバクテリウムシュードジェニタリウム(C.pseudogenitalium)、コリネバクテリウムジェニタリウム(C.genitalium)、コリネバクテリウムアコレンス(C.accolens)、コリネバクテリウムアミコラツム(C.amycolatum)、コリネバクテリウムマツルショッティ(C.matruchotii)、コリネバクテリウムカゼイ(C.casei)、コリネバクテリウムリボピロフラバム(C.lipophiloflavum)、コリネバクテリウムツベルロステアリクム(C.tuberculostearicum)、コリネバクテリウムジェイケイウム(C.jeikeium)、コリネバクテリウムパウロメタボルム(C.paurometabolum)、及びそれらの野生型から製造されたL−リジン生産変異体からなる群から選択される。望ましくは、コリネバクテリウムグルタミクムでもある。前記コリネバクテリウムグルタミクムは、受託番号KCCM11016P,KCCM10770P,KCCM11347PまたはCJ3Pである。
【0022】
本明細書において、用語「コリネ型微生物」は、L−リジン生成能を有するコリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物でもある。前記微生物は、例えば、L−リジン生成能を有するコリネバクテリウム属微生物において、隔膜形成開始因子タンパク質をコーディングする遺伝子を不活性化させるように、突然変異を導入させてL−リジン生産能が向上したものでもある。前記「L−リジン生成能を有する」は、前記微生物が培地で培養される場合、培地内に、L−リジンを生産して分泌する能力を有することを意味する。前記微生物は、野生型または親菌株より大量に培養培地にL−リジンを生産して蓄積させることができる微生物でもある。
【0023】
一具体例による隔膜形成開始因子タンパク質をコーディングする遺伝子が不活性化されたコリネ型微生物は、糸状温度感受性タンパク質のうち一つであるFtsBの活性が不活性され、前記コリネ型微生物の細胞分裂が阻害される一方、相対的にL−リジン生産能が向上する。
【0024】
他の様相は、本発明の微生物を培養し、培養物中でL−リジンを生産する段階と、培養物からL−リジンを回収する段階と、を含む、L−リジンを生産する方法を提供する。前記微生物については、前述の通りである。
【0025】
前記微生物の培養は、当業界に知られた適当な培地及び培養条件によって行われる。かような培養過程は、選択される微生物によって、容易に調整して使用することができる。前記培養方法は、回分式、連続式及び流加式の培養からなる群から選択される一つ以上の培養を含んでもよい。
【0026】
前記培養に使用される培地は、特定微生物の要求条件を満足させることができる培地でもある。前記培地は、炭素源、窒素源、微量元素成分、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される培地でもある。
【0027】
前記炭素源は、炭水化物、脂肪、脂肪酸、アルコール、有機酸、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される炭素源でもある。前記炭水化物は、ブドウ糖、ショ糖、乳糖、果糖、マルトース、澱粉、セルロース、及びそれらの組み合わせでもある。前記脂肪は、大豆油、ひまわり油、ヒマシ油、ココナツオイル、及びそれらの組み合わせでもある。前記脂肪酸は、パルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸、またはそれらの組み合わせでもある。前記アルコールは、グリセロールまたはエタノールでもある。前記有機酸は、酢酸を含んでもよい。
【0028】
前記窒素源は、有機窒素源、無機窒素源、またはそれらの組み合わせを含んでもよい。前記有機窒素源は、ペプトン、酵母抽出物、肉汁、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液(CSL)、大豆ミール、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。前記無機窒素源は、尿素、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0029】
前記培地は、リン、金属塩、アミノ酸、ビタミン、前駆体、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるものを含んでもよい。前記リンの供給源は、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、またはそれらに相応するナトリウム含有塩を含んでもよい。前記金属塩は、硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄でもある。
【0030】
前記培地、またはそれをなす個別成分は、回分式、連続式または流加式の培養で添加される。
【0031】
前記培養方法において、培養物のpHを調整することができる。前記pHの調整は、前記培養物に、水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸または硫酸を添加して行われる。また、前記培養方法は、気泡生成抑剤を含んでもよい。前記気泡生成抑剤は、消泡剤の使用を介して行われる。前記消泡剤は、脂肪酸ポリグリコールエステルを含んでもよい。また、前記培養方法は、培養物内へのガス注入を含んでもよい。前記ガスは、培養物の好気状態を維持するためのいなかるガス含んでもよい。前記ガスは、酸素または酸素含有ガスでもある。前記酸素含有ガスは、空気を含む。前記培養において、培養物の温度は、20ないし45℃、例えば、22ないし42℃、または25ないし40℃である。培養期間は、所望のL−リジンの生成量を獲得するまで持続する。
【0032】
本発明の方法において、培養は、バッチ工程、注入バッチ及び反復注入バッチ工程のような連続式または回分式によって行われる。かような培養は、方法は当業界に周知されており、任意の方法が使用されもする。L−アミノ酸は、陰イオン交換クロマトグラフィ、及び後続として、ニンヒドリン誘導体化によって分離されて分析される。
【0033】
以下、本発明について、下記の実施例によって詳細に説明する。ただし、下記実施例は、本発明を例示するものであるのみ、本発明の内容が下記実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0034】
実施例1:欠損によるftsB遺伝子不活性化組み換えベクター作製
米国国立保健院の遺伝子銀行(NIHGenbank)に報告された塩基配列に基づいて、ftsB遺伝子のヌクレオチド配列を確保した(配列番号2)。ftsBの開放解読ツール(open reading frame)が内部的に消失した遺伝子断片を作るために、前記配列番号2を基に、それぞれプライマー0936F1,09369R1,0936F2及び0936R2を作製した、それぞれを配列番号7ないし10と示した。
【0035】
ftsB遺伝子欠損による不活性化組み換えベクターを作製するために、pDZベクター(韓国登録特許0924065号参照)を使用し、その後、前述のように不活性化されるように作製された、ftsB遺伝子の変形された配列を有する核酸分子を、前記pDZベクターのマルチクローニングサイト部位に挿入させ、配列番号4の核酸配列を含むベクターpDZ−ΔftsBベクターを製造した。前記配列番号4の核酸配列は、配列番号3のアミノ酸配列を有するアミノ酸をコーディングする。
【0036】
コリネバクテリウムグルタミクムATCC 13032ゲノムDNAをテンプレートにして、プライマー0936F1−0936R1と0936F2−0936R2とを使用してPCRを行った。重合酵素は、PfuUltraTM高信頼DNAポリメラーゼ(stratagene)を使用し、PCR条件は、変性96℃、30秒;アニーリング53℃、30秒;及び重合反応72℃、2分を30回反復した。
【0037】
その結果、74bpと95bpとのftsB遺伝子部位を含んだ遺伝子2対である、ftsB−A及びftsB−Bを得た。増幅された産物は、Infusion cloning kit(Invitrogen)を使用してpDZベクターに接合し、pDZ−ΔftsBベクターを作製した。pDZ−ΔftsBは、135bp ftsBのXbaI両末端を含むものであり、ftsBの内部的遺伝子408bpが消失した断片を含む。
【0038】
実施例2:終結コドン変異導入によるftsB遺伝子不活性化組み換えベクター作製
終結コドン変異導入によるftsB遺伝子不活性化組み換えベクターを作製するために、前記pDZベクターを使用し、ftsB遺伝子開放解読ツールにおいて140番目のアミノ酸であるトリプトファン対応コドンを終結コドンで置換させるためのプライマーを作製した。0936F1と0936R3とを対にするプライマーと、0936F3と0936R2とを対にするプライマーとを使用し、実施例1と同一方法のPCRで増幅してpDZベクターに接合し、ベクターpDZ−ftsB W140*を作製した。前記0936F3及び0936R3のプライマー配列は、配列番号11及び12とそれぞれ示した。前記作製ベクターに接合されたfts遺伝子のアミノ酸は、配列番号5の配列を有し、核酸は、配列番号6のヌクレオチド配列を有する。
【0039】
実施例3:ftsB遺伝子不活性化変異株の作製
前記実施例1,2で作製した組み換えベクターを、それぞれ電気パルス法を利用して、L−リジン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016P(旧寄託番号KFCC10881、韓国登録特許0159812号、韓国登録特許0397322号参照)に形質転換させた(Appl. Microbiol. Biotechnol. (1999)52: 541-545による形質転換法を利用)。カナマイシン(kanamycin)25mg/Lを含んだ選別培地において、染色体上の同遺伝子と、相同性によって、挿入された菌株を選別した。ベクターの、首尾よく行われた染色体挿入は、X−gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガルラクトシド)を含んだ固体培地で、青色を示すか否かということを確認することによって可能であった。一次染色体挿入された菌株を、栄養培地で振盪培養(30℃、8時間)した後、それぞれ10
−4から10
−10まで希釈し、X−galを含んでいる固体培地に塗抹した。ほとんどのコロニーが青色を示すのに反し、低い比率で示される白色のコロニーを選別することにより、二次交差(crossover)によって、ftsB遺伝子が不活性化された菌株をそれぞれ選別した。
【0040】
欠損によるftsB遺伝子不活性化変異株を選別するために、遺伝子特異的プライマー対である配列番号7及び配列番号10の0936F1−0936R2を、プライマーで使用してPCRを行った。目的部位に対する塩基配列分析を介して最終確認し、欠損によるftsB遺伝子欠損による不活性化変異株KCCM11016P−ΔftsBを作製した。終結コドン変異導入によるftsB遺伝子不活性化変異株を選別するために、配列番号7及び配列番号10の0936F1−0936R2を対にするプライマーを使用してPCRを行った。目的部位に対する塩基配列分析を介して最終確認し、終結コドン変異導入によるftsB遺伝子不活性化変異株KCCM11016P−ftsBW140*を作製した。
【0041】
コリネバクテリウムグルタミクムに属する他の菌株での効果も確認するために、やはり前記のような方法で、KCCM10770P(韓国登録特許0924065号参照)、KCCM11347P(韓国登録特許1994−0001307参照)及びCJ3P(Binder et al., Genome Biology 2012, 13: R40)を親菌株にし、それぞれftsB遺伝子が欠損された菌株と、終結コドンが導入された菌株KCCM10770P−ΔftsB,KCCM11016P−ftsBW140*,KCCM11347P−ΔftsB,KCCM11347P−ftsBW140*,CJ3P−ΔftsB,CJ3P−ftsBW140*を作製した。
【0042】
実施例4:ftsB遺伝子不活性化菌株でのリジン生産
実施例3で作製されたL−リジン生産菌株であるコリネバクテリウムグルタミクムKCCM11016P−ftsB,KCCM11016P−ftsBW140*,KCCM10770P−ftsB,KCCM10770P−ftsBW140*,KCCM11347P−ftsB,KCCM11347P−ftsBW140,CJ3P−ftsB及びCJ3P−ftsBW140*を、L−リジン生産のために、下記のような方法で培養した。
【0043】
下記の種培地25mlを含む250mlコナーワッフルフラスコに、コリネバクテリウムグルタミクム親菌株、並びにKCCM11016P−ftsB、KCCM11016P−ftsBW140*、KCCM10770P−ftsB、KCCM10770P−ftsBW140*、KCCM11347P−ftsB、KCCM11347P−ftsBW140*、CJ3P−ftsB及びCJ3P−ftsBW140*をそれぞれ接種し、30℃で20時間200rpmで振盪培養した。その後、下記の生産培地24mlを含む250mlコナーワッフルフラスコに、前記培養された1mlの種培養液をそれぞれ接種し、30℃で120時間、200rpmで振盪培養した。前記種培地と生産培地との組成は、それぞれ下記のようである。
【0044】
種培地(pH7.0)
原糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KH
2PO
44g、K
2HPO
4 8g、MgSO
4・7H
2O 0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1,000μg、カルシウム−パントテン酸2,000μg、ニコチンアミド2,000μg(蒸溜水1リットル基準)
生産培地(pH7.0)
ブドウ糖100g、(NH
4)
2SO
440g、大豆タンパク質2.5g、トウモロコシ浸漬固形粉(corn steep solids)5g、尿素3g、KH
2PO
41g、MgSO
4・7H
2O 0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1,000μg、カルシウム−パントテン酸2,000μg、ニコチンアミド3,000μg、CaCO
330g(蒸溜水1リットル基準)。
【0045】
培養終了後、HPLCを利用した方法によって、L−リジンの生産量を測定した。コリネバクテリウムグルタミクム親菌株、並びにKCCM11016P−ftsB、KCCM11016P−ftsBW140*、KCCM10770P−ftsB、KCCM10770P−ftsBW140*、KCCM11347P−ftsB、KCCM11347P−ftsBW140、CJ3P−ftsB及びCJ3P−ftsBW140*に係わる培養液中のL−リジン濃度は、表3の通りである。表3の結果は、反復実験を行った平均値である。
【0046】
【表3】
【0047】
表3から分かるように、親菌株KCCM11016PからftsB遺伝子が欠損されるか、あるいは終結コドンが導入された場合、いずれもリジン生産が同一に約4%ずつ増加した。かような結果は、ftsB遺伝子自体の構造的変化によるものではなく、隔膜形成開始因子であるFtsBタンパク質の欠損によって、リジン濃度が上昇したことを意味する。さらに、他の種類の親菌株であるKCCM10770P、KCCM11347P及びCJ3Pにおいても、FtsBが不活性化された菌株が、野生型FtsB活性を有した親菌株対比で、平均リジン濃度が約4%上昇した。一方、菌体量は、FtsB不活性化された菌株が、親菌株対比で5%低下するということが分かった。前述の結果は、リジン生産菌株の細胞分裂を抑制して菌体量を制御することにより、リジン生成能を向上させることができるということを意味する。KCCM11016P−ftsBW140*(CA01−2274)を2013年9月27日に、韓国微生物保存センター(大韓民国ソウル西大門区弘済1洞ユーリムビル)に寄託番号KCCM11454Pで寄託した。
【0048】
寄託機関名:韓国微生物保存センター(国外)
受託番号:KCCM11454P
受託日:20130927
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]