特許第6263645号(P6263645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263645
(24)【登録日】2017年12月22日
(45)【発行日】2018年1月17日
(54)【発明の名称】クロファラビンの合成方法
(51)【国際特許分類】
   C07H 19/19 20060101AFI20180104BHJP
   C07H 1/00 20060101ALI20180104BHJP
   C12P 19/40 20060101ALI20180104BHJP
   A61K 31/7076 20060101ALN20180104BHJP
   A61P 35/02 20060101ALN20180104BHJP
【FI】
   C07H19/19
   C07H1/00
   C12P19/40
   !A61K31/7076
   !A61P35/02
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-564008(P2016-564008)
(86)(22)【出願日】2015年4月22日
(65)【公表番号】特表2017-513884(P2017-513884A)
(43)【公表日】2017年6月1日
(86)【国際出願番号】EP2015058713
(87)【国際公開番号】WO2015162175
(87)【国際公開日】20151029
【審査請求日】2016年11月8日
(31)【優先権主張番号】14165627.2
(32)【優先日】2014年4月23日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】512324454
【氏名又は名称】シンバイアス ファーマ アー・ゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100114889
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 義弘
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ザブドキン アレキサンドル
(72)【発明者】
【氏名】マトヴィエンコ ヴィクトル
(72)【発明者】
【氏名】マトヴィイエンコ イアロスラヴ
(72)【発明者】
【氏名】シプチェンコ ヴォロディームィル
【審査官】 三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】 欧州特許出願公開第02404926(EP,A1)
【文献】 ILJA V FATEEV ET AL,THE CHEMOENZYMATIC SYNTHESIS OF CLOFARABINE AND RELATED 2'-DEOXYFLUOROARABINOSYL NUCLEOSIDES: THE ELECTRONIC AND STEREOCHEMICAL FACTORS DETERMINING SUBSTRATE RECOGNITION BY E.COLI NUCLEOSIDE PHOSPHORYLASES,BEILSTEIN J. ORG. CHEM.,2014年 7月22日,VOL:10,PAGE(S):1657 - 1669,URL,http://dx.doi.org/10.3762/bjoc.10.173
【文献】 BURNS C. et al,Novel 6-alkoxypurine 2',3'-dideoxynucleosides as inhibitors of the cytopathic effect of the human immunodeficiency virus,JOURNAL OF MEDICINAL CHEMISTRY,1993年,vol.36, no,3,p.378-384
【文献】 BONATE P. et al,Discovery and development of clofarabine: a nucleoside analogue for treating cancer,NATURE REVIEWS. DRUG DISCOVERY,2006年,vol. 5, no. 10,p.855-863
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07H 1/00−99/00
C12P 1/00−41/00
A61K 31/33−33/44
A61P 1/00−43/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)2-クロロアデニンと式1の化合物:
との間の酵素的グリコシル基転移によって2-クロロアデノシンを調製する段階であって、式中、R1がそれぞれ式2または式3:
のプリンまたはピリミジン塩基であり、ここでR2およびR3が、-H、-NH2、-OH、および-CH3からなる群より独立に選択され、かつR4が-Hおよび-CH3からなる群より選択される、段階;
(b)2-クロロアデノシンのヒドロキシル基を部分的に保護して、式4の化合物および式5の化合物:
の混合物を得る段階であって、式中、R5が独立にヒドロキシル保護基である、段階;
(c)式4の化合物を式5の化合物へ異性化する段階;
(d)式5の化合物から式6の化合物:
を調製する段階であって、式中、OR6が脱離基である、段階;
(e)式6の化合物をフッ素化して式7の化合物:
とする段階;ならびに
(f)式7の化合物を脱保護してクロファラビンを得る段階
を含む、クロファラビンの生成のための方法。
【請求項2】
段階(a)のグリコシル基転移が、プリンヌクレオシドホスホリラーゼを、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼとウリジンホスホリラーゼとの組み合わせを用いることにより行われる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
段階(e)のフッ素化が、フッ素化剤を用いることにより行われる、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
フッ素化剤が、フッ化水素酸およびフッ化水素酸と有機ルイス塩基との混合物からなる群より選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
有機ルイス塩基がアミンである、請求項4記載の方法。
【請求項6】
R1ウリジンである、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
R5ベンゾイルである、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
OR6トリフルオロメタンスルホネートである、請求項1〜7のいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、高収率で、望まれないα-N9立体異性体の形成を伴わない、クロファラビンの産生法を目的とする。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
クロファラビン(系統的IUPAC名:5-(6-アミノ-2-クロロ-プリン-9-イル)-4-フルオロ-2-(ヒドロキシル-メチル)オキソラン-3-オール)は、様々な型の白血病、特に急性リンパ芽球性白血病の処置に用いられる、プリンヌクレオチド代謝拮抗薬である。
【0003】
いくつかのクロファラビン産生法が当技術分野において現在確立されている。合成経路は典型的にはプリン誘導体とアラビノフラノシルフラグメントとの間のカップリング反応に基づいている。フッ素原子導入の方法に応じて、これらの合成スキームは次の2つの群に分けることができる:(i)フッ素原子がリボフラノースフラグメントに含まれ、カップリング段階で分子に導入される方法;(ii)フッ素原子が、前に得たヌクレオシドの化学的変換によって、カップリング段階の後に導入される方法。
【0004】
米国特許第5,034,518号(特許文献1)は、Montgomeryらによって開発された、クロファラビンを産生するための最初の合成スキームを開示している。合成経路を図1に示す。簡単に言うと、1-ブロモ-2-フルオロ-糖1を2,6-ジクロロプリン2とカップリングさせ、続いてアミノ化および脱保護段階を実施する。このカップリング段階により、生成物3のα-およびβ-アノマーの混合物が生成される。クロマトグラフィによる分離後に、所望のβ-アノマーをわずか32%の収率で単離することができる。この方法の主な欠点は、事実上、所望の生成物の全収率が低く(1から13%)、出発原料である臭化物1の安定性が低く、かつα-異性体の存在により、カップリング反応生成物3の精製が難しいことである。
【0005】
米国特許第6,949,640号(特許文献2)は、(i)プリンのNH-型の代わりに、2-クロロ-6-置換-プリンを強塩基(NaHなどの)処理することで生成される塩を使用すること、および(ii)O-アセチル誘導体1の代わりに2-デオキシ-2-フルオロ-3,5-ジ-O-ベンゾイル-α-D-アラビノフラノシル臭化物4を使用することを含む、前述の合成経路の改変を開示している(この合成経路を図2に示す)。これらの改変により、クロファラビンの全収率を化合物4から約40%に高めることができた。しかし、合成スキームは、生成が難しい臭化物4の安定性が低く、カップリング段階でアノマーの混合物が生成し、所望の生成物を分離するために難しいカラムクロマトグラフィを必要とすることが障害となる。
【0006】
Montgomeryらの方法の更なる改変が米国特許第6,680,382号(特許文献3)に開示されており、さらに図3に示す。この改変は、2,6-ジクロロプリンのナトリウム塩の代わりに、2-クロロアデニン5をt-BuOKで処理して得た2-クロロアデニンのカリウム塩を使用すること、溶媒の三元混合物(例えば、tert-アミルアルコール、CH2Cl2、CH3CN)を使用すること、および溶媒から水を完全に除去するためにCaH2を加えることを含む。カップリング段階で極性の低い溶媒を用いることにより、反応の立体選択的進行(アノマーβのαに対する比が最大15:1)を達成することができた。加えて、出発原料である2-クロロアデニンにアミノ基が存在することで、カップリング反応生成物のアミノ化段階を回避することができた。その結果、精製したクロファラビンのフッ素化糖4からの全収率は約32%である。しかし、フッ素化糖4(1-O-アセチル-2,3,5-トリ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノースから4段階で得た)は生成が難しく、安定性が低いという、この方法の2つの欠点がまだ残っている。
【0007】
米国特許公報第2012/0010397号(特許文献4)に開示される方法は、上で参照したクロファラビン調製法の第二の群に関する。これを図4に示す。2',3',5'-トリ-O-ベンゾイル-2-クロロアデノシン8を、糖6およびTMS保護2-クロロアデニン7をカップリングさせることによる第一段階で得る。ヒドラジン水和物によるさらなる脱ベンゾイル化により、3',5'-および2',5''-ジ-O-ベンゾイル誘導体の混合物が生成される。2',5'-ジ-O-ベンゾイル誘導体の3',5'-誘導体9への異性化の後、化合物9の無水トリフリン酸処理によりトリフレート10を得る。トリフレート10は、そのフッ素化および脱保護の後に、最終生成物クロファラビンを生じる。しかし、この方法の欠点は、6と7との間のカップリング段階で生成する多数の異性体(分離が困難)(β-N9、α-N7、β-N7異性体)、高毒性のヒドラジン水和物の使用、精製したクロファラビンの全収率が15%しかないことである。
【0008】
したがって、確立された合成スキームの制限を克服する、クロファラビンの改善された合成法がまだ必要とされている。特に、生成物の高収率をもたらし、望まれない立体異性体の生成を含まない、合成スキームが必要とされている。
【0009】
したがって、本発明の目的は、そのようなクロファラビンの産生法を提供することである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第5,034,518号
【特許文献2】米国特許第6,949,640号
【特許文献3】米国特許第6,680,382号
【特許文献4】米国特許公報第2012/0010397号
【発明の概要】
【0011】
1つの局面において、本発明は、以下の段階を含むクロファラビンの生成のための方法に関する:
(a)2-クロロアデニンと式1:
の化合物との間の酵素的グリコシル基転移によって2-クロロアデノシンを調製する段階であって、式中、R1がそれぞれ式2または式3:
のプリンまたはピリミジン塩基であり、ここでR2およびR3が、-H、-NH2、-OH、および-CH3からなる群より独立に選択され、かつR4は-Hおよび-CH3からなる群より選択される、段階;
(b)2-クロロアデノシンのヒドロキシル基を部分的に保護して、式4の化合物および式5の化合物:
(式中、R5は独立にヒドロキシル保護基である)の混合物を得る段階;
(c)式4の化合物を式5の化合物へ異性化する段階;
(d)式5の化合物から式6の化合物:
(式中、OR6は脱離基である)を調製する段階;
(e)式6の化合物をフッ素化して式7の化合物:
とする段階;ならびに
(f)式7の化合物を脱保護してクロファラビンを得る段階。
【0012】
好ましい態様において、段階(a)のグリコシル基転移は、プリンヌクレオシドホスホリラーゼを、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼとウリジンホスホリラーゼとの組み合わせを用いることにより行われる。
【0013】
さらなる好ましい態様において、段階(e)のフッ素化を、フッ素化剤を用いることにより行う。好ましくは、フッ素化剤は、フッ化水素酸およびフッ化水素酸と有機ルイス塩基との混合物からなる群より選択される。特に好ましくは、有機ルイス塩基(フッ化水素酸に混合して使用)はアミンである。
【0014】
さらに好ましい態様において、置換基R1はピリミジン塩基、例えばウリジンであり;かつ/または置換基R5はヒドロキシル保護基、例えばベンゾイルであり;かつ/または置換基OR6は脱離基、例えばトリフルオロメタンスルホネートである。
以下に、本発明の基本的な諸特徴および種々の態様を列挙する。
[1]
(a)2-クロロアデニンと式1の化合物:
との間の酵素的グリコシル基転移によって2-クロロアデノシンを調製する段階であって、式中、R1がそれぞれ式2または式3:
のプリンまたはピリミジン塩基であり、ここでR2およびR3が、-H、-NH2、-OH、および-CH3からなる群より独立に選択され、かつR4が-Hおよび-CH3からなる群より選択される、段階;
(b)2-クロロアデノシンのヒドロキシル基を部分的に保護して、式4の化合物および式5の化合物:
の混合物を得る段階であって、式中、R5が独立にヒドロキシル保護基である、段階;
(c)式4の化合物を式5の化合物へ異性化する段階;
(d)式5の化合物から式6の化合物:
を調製する段階であって、式中、OR6が脱離基である、段階;
(e)式6の化合物をフッ素化して式7の化合物:
とする段階;ならびに
(f)式7の化合物を脱保護してクロファラビンを得る段階
を含む、クロファラビンの生成のための方法。
[2]
段階(a)のグリコシル基転移が、プリンヌクレオシドホスホリラーゼを、またはプリンヌクレオシドホスホリラーゼとウリジンホスホリラーゼとの組み合わせを用いることにより行われる、[1]記載の方法。
[3]
段階(e)のフッ素化が、フッ素化剤を用いることにより行われる、[1]または[2]記載の方法。
[4]
フッ素化剤が、フッ化水素酸およびフッ化水素酸と有機ルイス塩基との混合物からなる群より選択される、[3]記載の方法。
[5]
有機ルイス塩基がアミンである、[4]記載の方法。
[6]
R1がピリミジン塩基、例えばウリジンである、[1]〜[5]のいずれか一項記載の方法。
[7]
R5がヒドロキシル保護基、例えばベンゾイルである、[1]〜[6]のいずれか一項記載の方法。
[8]
OR6が脱離基、例えばトリフルオロメタンスルホネートである、[1]〜[7]のいずれか一項記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】米国特許第5,034,518号に開示される、クロファラビン産生のための合成スキームを示す。
図2】米国特許第6,949,640号に開示される、クロファラビン産生のための合成スキームを示す。
図3】米国特許第6,680,382号に開示される、クロファラビン産生のための合成スキームを示す。
図4】米国特許公報第2012/0010397号に開示される、クロファラビン産生のための合成スキームを示す。
図5】本発明のクロファラビン産生のための合成スキームを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
発明の詳細な説明
本発明は、2-クロロアデノシンから出発した場合、酵素的グリコシル基転移、ベンゾイル化、異性化、スルホン酸エステル形成(すなわち、スルホニル化)、フッ素化、および脱保護の段階を含む反応カスケードを実施することにより、望まれない立体異性体を同時に生成することなく、クロファラビンを高収率で産生することになり、したがって確立された方法の主な欠点を回避し、より効率的で、困難の少ない合成スキームを提供するという、予想外の知見に基づいている。
【0017】
本発明を、特定の態様に関し、一定の図面を参照しながら、以下に記載するが、本発明は、それらに限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されると理解されるべきである。記載する図面は概略図および典型例にすぎず、非限定的と考えられるべきである。
【0018】
「含む」なる用語が本記載および特許請求の範囲において用いられる場合、他の要素または段階を除外するものではない。本発明の目的のために、「からなる」なる用語は「含む」なる用語の好ましい態様であると考えられる。以下、ある群が少なくとも一定数の態様を含むと定義される場合、これは、好ましくはこれらの態様だけからなる群を開示すると理解されるべきでもある。
【0019】
単数形の名詞に言及する時に不定冠詞または定冠詞、例えば、「a」、「an」または「the」が用いられる場合、特に記載がないかぎり、これはその名詞の複数形を含む。
【0020】
本発明の文脈において数値が示される場合、当業者であれば、問題の特徴の技術的効果は、典型的には±10%、好ましくは±5%の所与の数値の偏差を含む、正確度の間隔の範囲内で保証されることを理解するであろう。
【0021】
さらに、本記載および特許請求の範囲における第一、第二、第三、(a)、(b)、(c)などの用語は、類似の要素を区別するために用いられ、必ずしも順序または時系列を記載するために用いられるものではない。そのように用いられる用語は適切な状況下では交換可能であり、本明細書において記載する本発明の態様は、本明細書において記載または例示される以外の順序で実施可能であることが理解されるべきである。
【0022】
用語のさらなる定義は、以下にその用語が用いられる文脈において示されることになる。以下の用語または定義は、本発明の理解を助けるためにのみ提供される。これらの定義は、当業者によって理解されるよりも小さい範囲を有すると解釈されるべきではない。
【0023】
1つの局面において、本発明は、以下の段階を含むクロファラビンの産生法に関する:
(a)2-クロロアデニンと式1の化合物:
との間の酵素的グリコシル基転移によって2-クロロアデノシンを調製する段階であって、式中、R1がそれぞれ式2または式3:
のプリンまたはピリミジン塩基であり、ここでR2およびR3が、-H、-NH2、-OH、および-CH3からなる群より独立に選択され、かつR4が-Hおよび-CH3からなる群より選択される、段階;
(b)2-クロロアデノシンのヒドロキシル基を部分的に保護して、式4の化合物および式5の化合物:
(式中、R5は独立にヒドロキシル保護基である)の混合物を得る段階;
(c)式4の化合物を式5の化合物へ異性化する段階;
(d)式5の化合物から式6の化合物:
(式中、OR6は脱離基である)を調製する段階;
(e)式6の化合物をフッ素化して式7の化合物:
とする段階、ならびに
(f)式7の化合物を脱保護してクロファラビンを得る段階。
【0024】
本発明の方法を図5に模式的にまとめている。以下、化合物の番号は図5において用いる呼称に対応する。
【0025】
好ましくはプリンヌクレオシドホスホリラーゼ(PNP)およびウリジンホスホリラーゼ(UP)などの酵素を用いる、2-クロロアデニン(II)と、リボースを含む任意のヌクレオシド、好ましくはウリジン(I)(容易に溶解し、容易に入手可能であるため)との間の酵素的グリコシル基転移反応によって、2-クロロアデノシン(III)を得る。この反応は可逆的である。平衡を生成物(III)へとシフトさせるために、1.5〜5当量、好ましくは3.3当量の過剰のウリジンを用いる。反応は40〜70℃の温度、好ましくは58〜61℃の温度で実施され得る。
【0026】
酵素的グリコシル基転移の立体特異性により、グリコシル化の唯一の生成物はβ-アノマー(III)である。2-クロロアデノシンを、出発試薬(I)、(II)およびウラシル(副生成物)から、例えば、低圧分取クロマトグラフィを用いて精製してもよい。典型的には、2-クロロアデノシンが吸着剤によって保持されることを可能にする条件が選択され、その一方で、大部分の不純物はカラム上に保持されなかった。これは、「吸着」および「洗浄」段階のみを含むことにより、精製工程を単純化することを可能にした。
【0027】
次いで、得られた2-クロロアデノシンを、好ましくは、ピリジン存在下、塩化ベンゾイルでベンゾイル化する。この反応において、塩化ベンゾイルを、式(III)のトリオール化合物に基づき、1.8〜2.5当量の範囲、好ましくは2.3当量の量で用いてもよい。反応は-10〜20℃の温度、好ましくは0〜5℃の温度で実施してもよい。
【0028】
副生成物として、最大35%までの2',3',5'-トリ-O-ベンゾイル-2-クロロアデノシン(IV)が生成され得る。しかし、この副生成物の存在は、続く異性化段階を妨害せず、3',5'-ジ-O-ベンゾイル誘導体の結晶化中に容易に分離し得る。したがって、出発化合物2-クロロアデノシンのほぼ全量が、最終的に3',5'-ジ-O-ベンゾイル誘導体を生成することになる。
【0029】
続いて、2',5'-ジ-O-ベンゾイル異性体(V)の3',5'-ジ-O-ベンゾイル異性体(VI)への異性化を実施する。ヌクレオシドの2'から3'位への好ましいベンゾイル基の移動は当技術分野において確立されている(特に、Maruyama, T. et al. (1999) Chem. Pharm. Bull. 47, 966-970参照)。好ましくは、異性化反応は、メタノール中、激しく撹拌しながら、40〜45時間煮沸することにより実施する。反応混合物の熱時ろ過後に得られた結晶が>98%(HPLC)の純度を有する一方、ほとんどすべての不純物は母液中に残り、これから2-クロロアデノシンを再処理後に単離してもよい。
【0030】
続く式VIの化合物のスルホニル化を、塩基としてピリジンを用いて、Tf2Oでの処理により実施する。この反応において、無水トリフリン酸を、式(VI)の化合物に基づき、1.3〜2.0当量の範囲、好ましくは1.6当量の量で用いてもよい。溶媒は、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルムなどの有機溶媒、好ましくはジクロロメタンであってもよい。反応は-20〜30℃の温度、好ましくは-10〜0℃の温度で実施してもよい。
【0031】
次の段階において、フルオロ誘導体(VIII)を、例えば塩基としてジイソプロピルエチルアミンを用いて、トリフレート(VII)のNEt3*3HF、TBAFまたはTBAF*(t-BuOH)4などのフッ素化剤、好ましくはNEt3*3HFでの処理により得てもよい。溶媒は、例えば、酢酸エチル、テトラクロロメタン、トルエン、アセトニトリル、好ましくはトルエンであってもよい。反応を、0〜100℃の温度、好ましくは35〜40℃の温度で実施してもよい。得られた保護クロファラビンを、酢酸エチルおよびメタノールの混合物から結晶化してもよい。前述の条件下で、結晶化後の反応生成物の収率は約60%である。
【0032】
最後に、保護クロファラビンを緩和な条件下で脱保護する。これらの緩和な条件(30℃で30分)により、いかなる副反応も伴わずに反応を実施することができる。生成した安息香酸メチルを、塩化メチレンでの抽出により分離し、水相中に含まれるクロファラビンを、低圧分取クロマトグラフィと、続く結晶化により精製する。得られたクロファラビンは高純度を有し、検出可能な量の不純物を含まない。クロファラビンの全収率は約30〜40%である。
【0033】
本発明を、図面および以下の実施例によってさらに記載するが、これらは本発明の具体的態様を例示するためにすぎず、いかなる様式でも特許請求する対象を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0034】
実施例1a: 2-クロロアデニンおよびウリジンからの2-クロロアデノシン(III)の調製
400gのウリジンおよび150gのKH2PO4を、水(52l)およびDMSO(1.8l)の混合物中に58〜61℃で撹拌しながら溶解した。得られた溶液に、2-クロロアデニン(85g)、水(7l)、およびKOH(120g)から調製した溶液の第一の部分(0.75l)を加えた。得られた混合物のpHをKOH水溶液で7.1〜7.2に調節した。ウリジンホスホリラーゼの溶液およびプリンヌクレオシドホスホリラーゼの溶液を58〜61℃で撹拌しながら加えた。2-クロロアデニン溶液の残りの第二の部分を反応混合物に、58〜61℃で、pHをHCl水溶液により7.1〜7.2の範囲に維持し、3時間かけて撹拌しながら連続的に加えた。その後、反応混合物を58〜61℃で1時間撹拌し、NaOHを加えてpHを11に調節した。
【0035】
得られた2-クロロアデノシンを含む溶液を、分取クロマトグラフィにより精製し、続いて生成物を水中での結晶化により単離して、表題化合物120gを得た。2-クロロアデノシンの典型的純度は>99%で、2-クロロアデニンからの収率は>85%であった。
【0036】
実施例1b: 2-クロロアデニンおよびグアノシンからの2-クロロアデノシン(III)の調製
229gのグアノシンおよび75gのKH2PO4を、水(52l)およびDMSO(1.8l)の混合物中に58〜61℃で撹拌しながら溶解した。得られた溶液に、2-クロロアデニン(42g)、水(7l)、およびKOH(60g)から調製した溶液の第一の部分(0.75l)を加えた。得られた混合物のpHをKOH水溶液で7.1〜7.2に調節した。プリンヌクレオシドホスホリラーゼの溶液を反応混合物に58〜61℃で撹拌しながら加えた。2-クロロアデニン溶液の残りの第二の部分を反応混合物に、58〜61℃で、pHをHCl水溶液により7.1〜7.2の範囲に維持し、3時間かけて撹拌しながら連続的に加えた。その後、反応混合物を58〜61℃で1時間撹拌し、NaOHを加えてpHを11に調節した。
【0037】
得られた2-クロロアデノシンを含む溶液を、低圧逆相カラムクロマトグラフィにより精製し、続いて生成物を水中での結晶化により単離して、表題化合物53gを得た。2-クロロアデノシンの典型的純度は>99%で、2-クロロアデニンからの収率は>70%であった。
【0038】
実施例2:2-クロロアデノシンのベンゾイル化
ピリジン(7.5l)中の2-クロロアデノシン(750g)の溶液を-5〜0℃まで冷却した。その後、アセトニトリル(1440ml)中の塩化ベンゾイル(720g)の溶液を反応混合物に、撹拌し、冷却しながら、ゆっくり加えた。それにより、反応混合物の内部温度は5℃よりも高くなるべきではない。混合物を同じ条件下で30分間インキュベートした。その後、溶媒を60℃の温度、減圧下で蒸発させた。残渣をCH2Cl2に溶解し、1M H2SO4水溶液、飽和NaHCO3水溶液、および水で逐次洗浄した。有機相を減圧下で蒸発させて、2-クロロ-9-(2',5'-ジ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノシル)-アデニンおよび2-クロロ-9-(3',5'-ジ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノシル)-アデニン(HPLCにより両方合わせて全体で約65%)、ならびに2',3',5'-トリ-O-ベンゾイル-2-クロロアデノシン(HPLCにより約30%)の混合物を得た。
【0039】
実施例3:2-クロロ-9-(2',5'-ジ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノシル)-アデニン(V)の2-クロロ-9-(3',5'-ジ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノシル)-アデニン(VI)への異性化
実施例2で調製した2-クロロ-9-(2',5'-ジ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノシル)-アデニンおよび2',3',5'-トリ-O-ベンゾイル-2-クロロアデノシンの混合物を、25lのMeOHに加えた。得られた混合物を、激しく撹拌しながら40〜45時間還流した。その後、混合物を減圧下で熱時ろ過し、ろ過ケークをMeOHで洗浄した。2',3',5'-トリ-O-ベンゾイル-2-クロロアデノシンおよび2-クロロ-9-(2',5'-ジ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノシル)-アデニンを含むろ液を、加水分解により2-クロロアデノシンを得るための再処理にかけた。固体を減圧下、50℃で乾燥して、880gの2-クロロ-9-(3',5'-ジ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノシル)-アデニンを、HPLC純度>98%で得た。
【0040】
実施例4:2-クロロ-9-(3',5'-ジ-O-ベンゾイル-2'-O-トリフルオロメチルスルホニル-β-D-リボフラノシル)-アデニン(VII)の調製
2-クロロ-9-(3',5'-ジ-O-ベンゾイル-β-D-リボフラノシル)-アデニン(880g)をピリジン(0.8l)およびCH2Cl2(8l)の混合物に懸濁した。N2雰囲気下、CH2Cl2(1500ml)中の無水トリフリン酸(455ml)の溶液を反応混合物に、撹拌し、-10〜0℃で冷却しながら、ゆっくり加えた。反応混合物を同じ条件下で30分間インキュベートした。次いで、飽和NaHCO3水溶液を、得られた混合物のpHが7に調節されるまで、撹拌しながら加えた。有機相を分離し、水で洗浄し、減圧下で蒸発させて、HPLC純度>95%を有する表題生成物1000g(収率95%)を得た。
【0041】
実施例5:2-クロロ-9-(3',5'-ジ-O-ベンゾイル-2'-デオキシ-2'-フルオロ-β-D-アラビノ-フラノシル)-アデニン(VIII)の調製
実施例4で調製した2-クロロ-9-(3',5'-ジ-O-ベンゾイル-2'-O-トリフルオロメチルスルホニル-β-D-リボフラノシル)-アデニンを、5lのトルエンに懸濁した。N,N-ジイソプロピルエチルアミン(350ml)およびトリエチルアミン三フッ化水素酸塩(1.2l)を撹拌しながら逐次加えた。反応混合物を35〜40℃で48時間撹拌し、減圧下で蒸発させた。残渣を酢酸エチルで処理して、ろ過した。飽和NaHCO3水溶液をろ液に、得られた混合物のpHが7に調節されるまで、撹拌しながら加えた。有機相を分離し、水で洗浄し、減圧下で蒸発させた。残渣をメタノール(1.5l)に、60℃で撹拌しながら溶解した。得られた溶液を2〜6℃で2〜3時間、完全に沈澱するまで維持した。生成した沈澱をろ過し、メタノールで洗浄し、乾燥させて、HPLC純度>95%を有する表題生成物540g(収率60%)を得た。
【0042】
実施例6:2-クロロ-9-(2'-デオキシ-2'-フルオロ-β-D-アラビノフラノシル)-アデニン(すなわち、クロファラビン)の調製
実施例5で調製した2-クロロ-9-(3',5'-ジ-O-ベンゾイル-2'-デオキシ-2'-フルオロ-β-D-アラビノフラノシル)-アデニンを、1.5lのメタノールに懸濁した。30mlの10%MeONaメタノール溶液を加え、反応混合物を30℃で30分間撹拌した。その後、水(1.5l)およびCH2Cl2(1.5l)を反応混合物に加えた。10分間撹拌した後、水相を分離し、減圧下で約1.5lの量になるまで蒸発させた。得られたクロファラビンを含む溶液を、低圧分取カラムクロマトグラフィで精製し、続いて生成物を水/アセトン混合物中での結晶化により単離し、表題化合物260gを得た。クロファラビンの典型的純度は>99.9%で、全収率(6段階の後)は32%であった。
【0043】
本明細書において例示的に記載する本発明は、本明細書において具体的に開示していない、任意の要素、制限の非存在下で適切に実施してもよい。したがって、例えば、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「含む(containing)」などの用語は、拡張的かつ制限なしに読まれるべきである。加えて、本明細書において用いられる用語および表現は、記載のために用いられ、制限のために用いられるのではなく、そのような用語および表現の使用において、表示し、記載する特徴、またはその部分の任意の等価物を除外する意図はないが、特許請求する本発明の範囲内で様々な改変が可能であることが理解される。したがって、本発明を態様および任意の特徴によって具体的に開示してきたが、その中で具体化される本発明の改変および変化は当業者によって行われてもよく、そのような改変および変化は本発明の範囲内であると考えられることが理解されるべきである。
【0044】
本発明を本明細書において広く一般的に記載してきた。一般的開示の範囲内に入るより狭い種および亜属集団のそれぞれも、本発明の一部を形成する。これは、削除された材料が本明細書において具体的に挙げられているか否かに関わらず、その属から任意の対象を除くという条件または否定的な限定を伴う本発明の一般的記載を含む。
【0045】
他の態様は添付の特許請求の範囲内である。加えて、本発明の特徴または局面がマーカッシュグループによって記載される場合、当業者であれば、本発明が、それによって、マーカッシュグループの任意の個々の要素または要素のサブグループによっても記載されることを認識するであろう。
図1
図2
図3
図4
図5