(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
配列番号1の塩基配列を含むプライマーと配列番号2の塩基配列を含むプライマーとからなる、又は配列番号1の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むプライマーと配列番号2に対して相補的な塩基配列を含むプライマーとからなる、Enterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.を検出するためのプライマーセット。
上記核酸増幅反応は定量ポリメラーゼ連鎖反応であり、当該定量ポリメラーゼ連鎖反応の結果から上記環境試料に存在する上記Enterobacter sp.を定量することを特徴とする請求項2記載のEnterobacter sp.の検出方法。
上記環境試料は土壌試料であり、上記核酸増幅反応では当該土壌試料から抽出した核酸を使用することを特徴とする請求項2記載のEnterobacter sp.の検出方法。
【背景技術】
【0002】
医薬品、食品及び環境等さまざまな試料から微生物を検出し、検出された微生物を同定することは、衛生管理や品質管理、微生物の移動性及び生残性を検証する上で非常に重要な技術である。一般的には、上述のような試料を用いた培養法が行われているが、培養に係る各種操作(滅菌処理、培地調整、培養操作など)が必要であり、煩雑な処理であるとともに迅速に結果を知ることができない。
【0003】
現在、ポリメラーゼ連鎖反応に代表される遺伝子工学的手法や、免疫学的手法を利用することで、培養法よりも迅速且つ簡易に微生物を検出及び/又は同定することが提案されている。例えば、細菌については16s rDNAの一部を増幅し、真菌については28s rDNAの一部を増幅し、酵母については26s rDNAの一部を増幅し、それぞれ得られた核酸断片の塩基配列から微生物の同定を行ってる。よって、検出対象の微生物が特定されていれば、当該検出対象の微生物における16s rDNA等を特異的に増幅するプライマーセットを設計し、当該プライマーセットを用いた核酸増幅反応により検出対象の微生物の有無或いは検出対象の微生物を定量することができる。
【0004】
ところで、石油の増進回収法(Microbial Enhanced Oil Recovery: MEOR)に利用される目的で単離された微生物としてEnterobacter sp. CJF-002株が知られている(特許文献1、非特許文献1及び非特許文献2)。Enterobacter sp. CJF-002株は、糖基質を栄養源として増殖し、代謝産物として菌体外にバイオポリマー(非水溶性のセルロース誘導体)を生成する(特許文献2及び3)。特許文献4には、Enterobacter sp. CJF-002株が地盤中にバイオポリマーを産生することを促進し、これにより液状化防止や止水といった地盤改良を行うことが開示されている(非特許文献3及び4)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、Enterobacter sp. CJF-002株が属するEnterobacter属細菌は、属内において16s rDNAの配列同一性が高いため、上述したような16s rDNAを利用することでEnterobacter sp. CJF-002株を検出・同定或いは定量することが困難であった。したがって、Enterobacter sp. CJF-002株を特異的に検出する手法の開発が望まれていた。
【0008】
そこで、本発明は、Enterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.を特異的に検出することができるプライマーセット及び当該プライマーセットを用いたEnterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.の検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、Enterobacter sp. CJF-002株のセルロース合成酵素遺伝子(cesA遺伝子)の所定の領域を増幅する一対のプライマーセットを使用することで、Enterobacter sp. CJF-002株を特異的に検出できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は以下を包含する。
(1)配列番号1の塩基配列を含むプライマーと配列番号2の塩基配列を含むプライマーとからなる、又は配列番号1の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むプライマーと配列番号2に対して相補的な塩基配列を含むプライマーとからなる、Enterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.を検出するためのプライマーセット。
(2)環境試料から抽出した核酸を鋳型とし、上記(1)記載のプライマーセットにより核酸増幅反応を行う工程と、上記プライマーセットにより増幅された核酸断片を検出する工程とを含み、上記核酸断片が検出された場合に上記環境試料に、Enterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.が存在すると判断するEnterobacter sp.の検出方法。
(3)上記核酸増幅反応は定量ポリメラーゼ連鎖反応であり、当該定量ポリメラーゼ連鎖反応の結果から上記環境試料に存在する上記Enterobacter sp.を定量することを特徴とする(2)記載のEnterobacter sp.の検出方法。
(4)上記環境試料は土壌試料であり、上記核酸増幅反応では当該土壌試料から抽出した核酸を使用することを特徴とする(2)記載のEnterobacter sp.の検出方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るプライマーセットは、Enterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.におけるセルロース合成酵素遺伝子(cesA遺伝子)の所定の領域を特異的に増幅することができる。したがって、本発明に係るプライマーセットを利用することによって、Enterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.を特異的に検出することができる。
【0012】
また、本発明に係るEnterobacter sp.の検出方法は、上述したプライマーセットを利用することで、環境試料中のEnterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.の存否を高精度に判断することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)プライマーセット
本発明に係るプライマーセットは、核酸増幅反応に利用されると、Enterobacter sp. CJF-002株のセルロース合成酵素遺伝子(cesA遺伝子)における所定の領域を特異的に増幅するものである。本発明に係るプライマーセットは、配列番号1の塩基配列を含むプライマーと配列番号2の塩基配列を含むプライマーとの組み合わせとすることできる。また、本発明に係るプライマーセットは、配列番号1の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むプライマーと配列番号2に対して相補的な塩基配列を含むプライマーとの組み合わせとすることもできる。
【0015】
ここで、「配列番号1の塩基配列を含むプライマー」とは、配列番号1の塩基配列のみからなるオリゴヌクレオチド、若しくは配列番号1の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドであって全体が24〜30塩基長、好ましくは24〜27塩基長、より好ましくは24〜25塩基長のオリゴヌクレオチドを意味する。例えば、配列番号1の塩基配列を含み全体が24〜30塩基長であるオリゴヌクレオチドは、配列番号1の塩基配列(23塩基長)の5’末端及び/又は3’末端に、合計で1〜7塩基が付加された塩基配列となる。この1〜7塩基は、上記セルロース合成酵素遺伝子(cesA遺伝子)の塩基配列に基づいて適宜設計することができる。
【0016】
また、「配列番号2の塩基配列を含むプライマー」とは、同様に、配列番号2の塩基配列のみからなるオリゴヌクレオチド、若しくは配列番号2の塩基配列を含むオリゴヌクレオチドであって全体が24〜30塩基長、好ましくは24〜27塩基長、より好ましくは24〜25塩基長のオリゴヌクレオチドを意味する。
【0017】
さらに、「配列番号1の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むプライマー」とは、同様に、配列番号1の塩基配列に対して相補的な塩基配列のみからなるオリゴヌクレオチド、若しくは配列番号1の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むオリゴヌクレオチドであって全体が24〜30塩基長、好ましくは24〜27塩基長、より好ましくは24〜25塩基長のオリゴヌクレオチドを意味する。
【0018】
さらにまた、「配列番号2の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むプライマー」とは、同様に、配列番号2の塩基配列に対して相補的な塩基配列のみからなるオリゴヌクレオチド、若しくは配列番号2の塩基配列に対して相補的な塩基配列を含むオリゴヌクレオチドであって全体が24〜30塩基長、好ましくは24〜27塩基長、より好ましくは24〜25塩基長のオリゴヌクレオチドを意味する。
【0019】
なお、配列番号1又は2の塩基配列(相補的塩基配列を含む)以外の塩基配列を含むプライマーについては、標的のDNA配列に安定してアニーリングできるようTm値が適切な範囲となるように設計する。プライマーのTm値を計算するには、例えばnearest neighbor法を用いることができる。
【0020】
配列番号1又は2の塩基配列(相補的塩基配列を含む)以外の塩基配列を含むプライマーについては、プライマー内部に3塩基以上相補しないように設計することが好ましい。プライマー内部で相補的結合(二次構造)を形成することを防止するためである。さらに一対のプライマー間で相補的配列がないように設計することが好ましい。プライマー同士でハイブリダイズすることを防止するためである。特に、一対のプライマーの3’末端配列同士が相補しないように設計することが好ましい。プライマーダイマーの形成を防止するためである。
【0021】
(2)検出対象Enterobacter sp.
本発明に係るプライマーセットを用いて検出する対象は、Enterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.である。すなわち、検出対象のセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.とは、Enterobacter sp. CJF-002株が属するEnterobacter sp.を意味する。より好ましくは、検出対象セルロース合成機能を有するEnterobacter sp.とは、Enterobacter sp. CJF-002株である。なお、Enterobacter sp. CJF-002株とは、子孫(例えば、CJF-002株の継代培養微生物等)を含む意味である。
【0022】
Enterobacter sp. CJF-002株は、特許第3896564号に開示されるように、平成12年3月29日付けで日本国茨城県つくば市東1丁目1番3号に住所を有する通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所特許微生物寄託センターに、微生物の表示(寄託者が付した識別のための表示)「Enterobacter sp. CJF-002」、受託番号「FERM P-17799」として寄託されている。また、Enterobacter sp. CJF-002株は平成14年11月1日に、受託番号「FERM BP-8227」として原寄託よりブダペスト条約に基づく寄託に移管されている。
【0023】
Enterobacter sp. CJF-002株は、特許第3896564号に開示されるように、例えばセルロースおよびセルロースを主鎖とするヘテロ多糖を含むもの、1,2結合、1,3結合及び1,6結合などのα-あるいはβ-結合を有するグルカンを含むバクテリアセルロースを産生することができる。このバクテリアセルロースは、ヘテロ多糖の場合、セルロース以外の構成成分には、特に制限されないが、通常マンノース、フラクトース、ガラクトース、ラムノースなどの六単糖、キシロース、アラビノース等の五単糖、ウロン酸など有機酸などが含まれる。なおこれらの多糖は、単一物質であってもよいし、また2種以上の多糖が水素結合などにより混在していてもよい。
【0024】
このように、Enterobacter sp. CJF-002株とは異なる菌株であっても、Enterobacter sp. CJF-002株と同じセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.として分類される細菌は、検出対象のEnterobacter sp.となる。Enterobacter sp. CJF-002株とは異なる菌株であって検出対象のEnterobacter sp.としては、例えばEnterobacter sp. CJF-002株を例えばNTG(ニトロソグアニジン)などの変異剤を利用した化学的処理や放射線照射などの各種の物理的処理など、公知の方法によって変異処理することにより創製される各種の変異株が含まれる。変異剤を用いる化学的変異処理方法としては、例えばBio Factors, Vol. 1, p.297-302 (1988)および J. Gen. Microbiol, Vol.135, p.2917-2929(1989) などに記載されている方法を挙げることができる。
【0025】
(3)Enterobacter sp.の検出方法
上述した本発明に係るプライマーセットは如何なる目的、態様で使用することができる。すなわち、本発明に係るプライマーセットは、なんら限定されるものではなく、上述したEnterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.を検出する如何なる態様において使用することができる。
【0026】
一例として、本発明に係るプライマーセットは、微生物を利用した石油の増進回収法(MEOR)や地盤改良の目的で使用したEnterobacter sp. CJF-002株を環境から検出する態様に使用することができる。より詳細には、Enterobacter sp. CJF-002株は、特許第5022293号に開示されるように、その代謝産物によって地盤の液状化抵抗を高める地盤改良工法に利用される。このとき、本発明に係るプライマーセットを利用することによって、土壌や地下水に存在するEnterobacter sp. CJF-002株を検出することができる。
【0027】
すなわち、Enterobacter sp. CJF-002株を使用した環境(土壌や地下水)試料(環境試料)を採取し、本発明に係るプライマーセットを用いて環境試料におけるEnterobacter sp. CJF-002株の存在を判断することができる。これにより、地盤改良工法に使用したEnterobacter sp. CJF-002株の移動性や生残性を判定することができる。
【0028】
具体的には、先ず、土壌等の環境試料から核酸成分(主としてDNA)を抽出する。土壌からの核酸を抽出する方法は、特に限定されず、従来公知の手法を適用することができる。例えば、土壌から微生物画分を回収した後に当該画分からDNA を抽出する間接抽出法-菌体回収法、或いは土壌中で溶菌し核酸を回収する直接抽出法-直接溶菌法が挙げられる。なお、環境試料から抽出したDNAを環境DNAと称する場合もある。
【0029】
次に、環境試料から抽出した核酸を鋳型とし、本発明に係るプライマーセットにより核酸増幅反応を行う。核酸増幅反応としては、上述した本発明に係るプライマーセットを用いて、Enterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.のセルロース合成酵素遺伝子(cesA遺伝子)の所定の領域を増幅できるものであれば如何なる方法でも良い。特に、環境試料に含まれるセルロース合成機能を有するEnterobacter sp. を定量的に評価する場合には、所謂定量ポリメラーゼ連鎖反応により増幅断片を得ることが好ましい。なお、核酸増幅反応としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に限定されず、LAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)等を適用することもできる。
【0030】
なお、定量ポリメラーゼ連鎖反応としては、アガロースゲル電気泳動を用いて定量する方法、SYBRグリーンを用いて核酸増幅反応と同時に蛍光強度を測定して定量する方法、増幅断片にハイブリダイズできる蛍光プローブ用いて核酸増幅反応と同時に蛍光強度を測定して定量する方法などを使用することができる。
【0031】
また、セルロース合成酵素遺伝子(cesA遺伝子)の所定の領域を増幅する際、増幅後の領域を識別できるように標識を付加する方法でも良い。このとき、増幅された核酸を標識する方法としては、特に限定されないが、例えば核酸増幅反応に使用するプライマーをあらかじめ標識しておく方法を使用してもよいし、核酸増幅反応に標識ヌクレオチドを基質として使用する方法を使用してもよい。標識物質としては、特に限定されないが、放射性同位元素や蛍光色素、あるいはジゴキシゲニン(DIG)やビオチンなどの有機化合物などを使用することができる。
【0032】
またこの反応系は、本発明に係るプライマーセット、核酸増幅・標識に必要な緩衝剤、耐熱性DNAポリメラーゼ、標識ヌクレオチド三燐酸(具体的には蛍光標識等を付加したヌクレオチド三燐酸)、ヌクレオチド三燐酸および塩化マグネシウム等を含む反応系とすることができる。
【0033】
Enterobacter sp.を定量する際には、核酸増幅反応により得られた増幅断片とプローブとのハイブリダイゼーション反応を行い、各プローブにハイブリダイズした核酸の量を、例えば標識を検出することにより測定する手法を用いることもできる。プローブにハイブリダイズした増幅核酸は、例えば、既知量のDNAを含む試料を用いて検量線を作成することにより、定量することができる。
【0034】
以上のように、本発明に係るプライマーセットを用いた核酸増幅反応により核酸断片が増幅されれば、環境試料中にEnterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.が存在すると判断できる。また核酸増幅反応により増幅した核酸断片を定量することによって、環境試料中に存在するセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.を定量することができる。
【0035】
特に、本発明に係るプライマーセットは、Enterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.を特異的に検出することができる。すなわち、本発明に係るプライマーセットは、Enterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter sp.以外のEnterobacter属細菌や大腸菌、真菌、酵母、ウイルス、昆虫などから抽出した核酸からは非特異的な増幅断片を生じない。これにより、本発明に係るプライマーセットを利用することによって、環境中のEnterobacter sp. CJF-002株を含むセルロース合成機能を有するEnterobacter spの存在を高精度に検出することができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を用いて本発明を更に詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1] 実環境試料を用いた定量性評価
本実施例では、
図1に示すように、cesA遺伝子を対象とした定量PCR法の、実環境中における有用性を評価するため、Enterobacter sp. CJF-002株細胞を含む環境試料(土壌)から抽出したDNA用いて、定量PCR法による菌数測定を実施した。この際、DNAを抽出した試料に含まれるCJF-002株の細胞数を計数し、定量PCR法による定量結果と比較した。
【0038】
<CJF-002株の培養>
Enterobacter sp. CJF-002株は、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構[JOGMEC]より入手した。Enterobacter sp. CJF-002株はLB (Luria-Bertani)培地を用いて37℃で12時間培養した。LB培地組成の組成を表1に示した。
【0039】
【表1】
【0040】
<土壌の調整>
CJF-002株の培養液を孔径0.2μmのフィルターでろ過し、フィルター上に細胞を補足した。細胞に含まれる核酸をアクリジンオレンジで染色し、蛍光顕微鏡により、培養液中の細胞数を計数した。1.5 ± 0.3 × 10
7 cells/g (湿重)、1.5 ± 0.3× 10
6 cells/g (湿重)および1.5 ± 0.3× 10
5 cells/g (湿重)になるようにCJF-002株の培養液を非滅菌土壌に添加した。なお、非滅菌土壌としては、大阪平野の沖積層(第一帯水層)から採取した砂試料を用いた。
【0041】
<プライマーセットの設計>
本実施例では、核酸増幅反応に使用するプライマーセットとして、以下の4組:1042F-1156R、997F-1073R、1668F-1740R、2358F-2461R及びCJFF-CJFRを設計した。これらプライマーの塩基配列を以下に示した。
1042F:TGGAATACCCGATAAGAAGTGAA(配列番号1)
1156R:CGGAGAGTCTGTCTGCACATATT(配列番号2)
997F:CAGCAGCAAAAATGCCAGT(配列番号3)
1073R:CAGCAGCAAAAATGCCAGT(配列番号4)
1668F:GACGGTGTTGGCGAAGAC(配列番号5)
1740R:TGAAAAATACCATTTACGCGTCAT(配列番号6)
2358F:GGCGGTCCCCAGGGTAG(配列番号7)
2461R:CCACGCTGGCAGCAATTG(配列番号8)
CJFF:AGCCATAACCGGATTCGG(配列番号9)
CJFR:TCTGCCTGGTTGCTGATCC(配列番号10)
【0042】
<核酸増幅反応>
純粋培養菌株からのDNA抽出にはISOPLANT II (株式会社ニッポンジーン)を用いた。土壌試料からのDNA抽出にはExtrap Soil DNA Kit Plus ver.2 (日鉄住金環境株式会社)を用いた。抽出したDNAを鋳型とし、PCRを行ったPCRにはExTaq (タカラバイオ株式会社)を用いた。PCRの反応液組成を表2、PCRの反応条件を表3、アニーリング反応温度を表4に示した。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
<定量PCR>
抽出したDNAを鋳型とし、定量PCRを行った。定量PCRにはTHUNDERBIRD
TM SYBR qPCR Mix (東洋紡株式会社)を用いた。定量PCRの反応液組成を表5、PCRの反応条件を表6に示した。
【0047】
【表5】
【0048】
【表6】
【0049】
<結果>
上述のように調整した3つの土壌サンプルに含まれる細胞数と、定量PCRにより定量された増幅断片数との関係を
図2及び表7に示した。
【0050】
【表7】
【0051】
図2及び表7から分かるように、土壌サンプルに含まれる細胞数と、cesA遺伝子数とは相関していることが明らかとなった。
【0052】
また、本実施例で行った核酸増幅反応において、非特異的な増幅産物の有無を確認するため、融解曲線分析を実施した。結果を
図3に示した。
図3から分かるように、実環境試料から抽出したDNA試料を用いた核酸増幅反応では、単一のピーク(単一のPCR増幅産物に相当する)のみ検出されたことが明らかとなった。この結果から、本発明に係るプライマーセットを使用した場合、非特異的PCR産物は生成していないと結論付けられた。
【0053】
さらに、近縁な既知株であるEnterobacter cloacae subsp. cloacae ATCC 13047株、Enterobacter aerogenes ATCC 13048株及びE. coli BL21株から核酸を抽出し、同様に核酸増幅反応を行った。その結果、設計したプライマーセットのうち1042F-1156Rの組み合わせでは、非特異的な増幅断片が確認されなかった(大腸菌を使用した実験結果のみ
図4に示した)。なお、997F-1073R、1668F-1740R、2358F-2461R及びCJFF-CJFRの各プライマーセットでは、上述した既知株から抽出した核酸を鋳型とした増幅反応により増幅断片が確認されており、これら既知株とEnterobacter sp. CJF-002株とを区別して検出することが困難となることが分かった。
【0054】
以上の結果から、本実施例で設計した1042F-1156Rを用いた定量PCR法によるcesA遺伝子の測定系は、原位置環境試料中におけるCJF-002株の定量に対して、有効なものと結論付けられた。