【文献】
Igawa, T. et al.,Engineering the variable region of therapeutic IgG antibodies,mAbs,2011年,Vol. 3,pp. 243-252
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
抗体の重鎖可変領域のアミノ酸配列及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列がそれぞれ、配列番号10及び配列番号2;配列番号11及び配列番号2、或いは、配列番号12及び配列番号2である、抗HER2完全ヒト抗体。
ヒトIgGの重鎖定常領域及び軽鎖定常領域をさらに含み;好ましくは、ヒトIgGがIgG1であり、より好ましくは、ヒトIgG重鎖定常領域のアミノ酸配列が配列番号5であり、ヒトIgG軽鎖定常領域のアミノ酸配列が配列番号6である、請求項1に記載の抗HER2完全ヒト抗体。
請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗HER2完全ヒト抗体及び1つ又は複数の付加的なHER2陽性腫瘍治療剤を含み、前記1つ又は複数の付加的なHER2陽性腫瘍治療剤がハーセプチン又はペルツズマブである、組み合わせ薬剤。
対象のHER2陽性腫瘍、弱陽性腫瘍又は陰性腫瘍を治療するための薬剤の調製における、請求項1〜3のいずれか一項に記載の抗HER2完全ヒト抗体の使用であって、好ましくは、前記HER2陽性腫瘍が、HER2陽性の乳がん、胃がん、肺がん、肺非小細胞がん、骨のがん、膵臓がん、皮膚がん、頭頸部がん、皮膚又は眼内メラノーマ、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門がん、大腸がん、卵管がん、子宮体がん、子宮頸がん、膣がん、外陰がん、ホジキン病、食道がん、小腸がん、内分泌系のがん、甲状腺がん、副甲状腺がん、副腎がん、軟部組織のがん、尿道がん、陰茎がん、前立腺がん、膀胱がん、腎臓又は尿道がん、腎細胞がん、腎盂がん、中皮腫、肝細胞がん、胆嚢がん、慢性又は急性白血病、リンパ細胞リンパ腫、中枢神経系(CNS)がん、脊髄腫瘍、脳幹の神経膠腫、多形性神経膠芽細胞腫、星細胞腫、神経鞘腫、上衣腫、髄芽腫、髄膜腫、扁平上皮癌及び下垂体腺腫から選択される、使用。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1A】
図1Aは組み換え全長抗ヒトHER2抗体GB235−019の重鎖発現ベクター(293−VH−CH)の構造の図を示し;
図1Bは組み換え全長抗ヒトHER2抗体GB235−019の軽鎖発現ベクター(293−VL−CL)の構造の図を示す図である。5’末端EcoR I制限部位を含むシグナルペプチド遺伝子断片、重鎖可変領域(VH)遺伝子断片及びTGA転写終結コドン及び3’末端BamH I制限部位を含む重鎖定常領域(CH)遺伝子断片を、それぞれ、対応するテンプレート及びプライマーを用いたPCR法により得て(詳細は実施例5を参照のこと)、その3つの断片をオーバーラッピングPCR法により連結し、GB235−019抗体の重鎖全長遺伝子断片を得た。同じアプローチにより、シグナルペプチド、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を含む、GB235−019抗体の軽鎖全長遺伝子断片を得た。重鎖全長遺伝子断片及び軽鎖全長遺伝子断片はEcoR I及びBamH Iを用いた制限酵素切断処理により形成させた付着末端を用いてpGEM−Tベクターにそれぞれクローニングした。
【
図1B】
図1Aは組み換え全長抗ヒトHER2抗体GB235−019の重鎖発現ベクター(293−VH−CH)の構造の図を示す図であり、
図1Bは組み換え全長抗ヒトHER2抗体GB235−019の軽鎖発現ベクター(293−VL−CL)の構造の図を示す図である。5’末端EcoR I制限部位を含むシグナルペプチド遺伝子断片、重鎖可変領域(VH)遺伝子断片及びTGA転写終結コドン及び3’末端BamH I制限部位を含む重鎖定常領域(CH)遺伝子断片を、それぞれ、対応するテンプレート及びプライマーを用いたPCR法により得て(詳細は実施例5を参照のこと)、その3つの断片をオーバーラッピングPCR法により連結し、GB235−019抗体の重鎖全長遺伝子断片を得た。同じアプローチにより、シグナルペプチド、軽鎖可変領域(VL)及び軽鎖定常領域(CL)を含む、GB235−019抗体の軽鎖全長遺伝子断片を得た。重鎖全長遺伝子断片及び軽鎖全長遺伝子断片はEcoR I及びBamH Iを用いた制限酵素切断処理により形成させた付着末端を用いてpGEM−Tベクターにそれぞれクローニングした。
【
図2】
図2は、組み換え全長抗ヒトHER2抗体GB235−019のSDS−PAGE電気泳動の写真を示す図である。精製したGB235−019及びハーセプチン対照サンプルを50mMジチオスレイトールの還元条件下における10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。その結果、GB235−019抗体及びハーセプチン抗体の両方は、それぞれ抗体の重鎖及び軽鎖である分子量50KDa及び25KDaを有する2つのバンドを示した。
【
図3A】
図3A及び
図3BはGB235−019の還元分子量の解析結果を示す図である。GB235−019抗体はジチオスレイトールの還元条件下においてウォーターズ H−クラス・バイオ超高速液体クロマトグラフ(Waters H−Class Bio ultra high performance liquid chromatograph)により解析し、質量分析計からのオリジナルシグナルはPROMASSソフトウェアを用いてデコンヴォリューションを行い、対応する測定分子量を得た。重鎖(G0Fグリカン型を含むFc)の理論的分子量を、GPMAW6.0ソフトウェアを用いて計算すると50416.7Daであり、軽鎖の理論的分子量は23120.8Daであった。
図3Aの結果は、GB235−019抗体の軽鎖の測定分子量は理論的分子量と一致していることを示しており、軽鎖にグリコシル化が起きていないことを意味している。
図3Bの結果は、GB235−019抗体の重鎖の測定分子量は理論的分子量と大きく異なっている(>1500Da)ことを示している。理論的配列と並べることにより、Fc領域に加えてFabフレームワーク領域もまた、理論的N−グリコシル化部位(Asn−Thr−Ser)を有することが見出された。
【
図3B】
図3A及び
図3BはGB235−019の還元分子量の解析結果を示す図である。GB235−019抗体はジチオスレイトールの還元条件下においてウォーターズ H−クラス・バイオ超高速液体クロマトグラフ(Waters H−Class Bio ultra high performance liquid chromatograph)により解析し、質量分析計からのオリジナルシグナルはPROMASSソフトウェアを用いてデコンヴォリューションを行い、対応する測定分子量を得た。重鎖(G0Fグリカン型を含むFc)の理論的分子量を、GPMAW6.0ソフトウェアを用いて計算すると50416.7Daであり、軽鎖の理論的分子量は23120.8Daであった。
図3Aの結果は、GB235−019抗体の軽鎖の測定分子量は理論的分子量と一致していることを示しており、軽鎖にグリコシル化が起きていないことを意味している。
図3Bの結果は、GB235−019抗体の重鎖の測定分子量は理論的分子量と大きく異なっている(>1500Da)ことを示している。理論的配列と並べることにより、Fc領域に加えてFabフレームワーク領域もまた、理論的N−グリコシル化部位(Asn−Thr−Ser)を有することが見出された。
【
図4】
図4はGB235−019突然変異体抗体のSDS−PAGE電気泳動の写真を示す図である。精製した突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75A並びにハーセプチン対照サンプルを50mMジチオスレイトールの還元条件下における10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動に供した。その結果、GB235−019突然変異体抗体及びハーセプチン抗体の全ては、それぞれ抗体の重鎖及び軽鎖である分子量50KDa及び25KDaを有する2つのバンドを示した。
【
図5A】
図5A、
図5B及び
図5CはGB235−019突然変異体抗体の還元分子量の解析結果を示す図である。突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aはジチオスレイトールの還元条件下においてウォーターズ H−クラス・バイオ超高速液体クロマトグラフにより解析し、質量分析計により検出されたオリジナルシグナルはPROMASSソフトウェアを用いてデコンヴォリューションを行い、対応する測定分子量を得た。重鎖(G0Fグリカン型を含むFc)の理論的分子量を、GPMAW6.0ソフトウェアを用いて計算すると50416.7Daであった。
図5Aは、GB235−019N73D突然変異体抗体の重鎖の測定分子量は理論的分子量と一致していることを示しており、重鎖にはグリコシル化が起きていないことを意味している。
図5B及び
図5Cは、突然変異体抗体GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの重鎖の測定分子量は理論的分子量ととても良く一致している(1Da未満の差異)ことを示しており、Fabフレームワーク領域内のN−グリコシル化部位が取り除かれたことを意味している。
【
図5B】
図5A、
図5B及び
図5CはGB235−019突然変異体抗体の還元分子量の解析結果を示す図である。突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aはジチオスレイトールの還元条件下においてウォーターズ H−クラス・バイオ超高速液体クロマトグラフにより解析し、質量分析計により検出されたオリジナルシグナルはPROMASSソフトウェアを用いてデコンヴォリューションを行い、対応する測定分子量を得た。重鎖(G0Fグリカン型を含むFc)の理論的分子量を、GPMAW6.0ソフトウェアを用いて計算すると50416.7Daであった。
図5Aは、GB235−019N73D突然変異体抗体の重鎖の測定分子量は理論的分子量と一致していることを示しており、重鎖にはグリコシル化が起きていないことを意味している。
図5B及び
図5Cは、突然変異体抗体GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの重鎖の測定分子量は理論的分子量ととても良く一致している(1Da未満の差異)ことを示しており、Fabフレームワーク領域内のN−グリコシル化部位が取り除かれたことを意味している。
【
図5C】
図5A、
図5B及び
図5CはGB235−019突然変異体抗体の還元分子量の解析結果を示す図である。突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aはジチオスレイトールの還元条件下においてウォーターズ H−クラス・バイオ超高速液体クロマトグラフにより解析し、質量分析計により検出されたオリジナルシグナルはPROMASSソフトウェアを用いてデコンヴォリューションを行い、対応する測定分子量を得た。重鎖(G0Fグリカン型を含むFc)の理論的分子量を、GPMAW6.0ソフトウェアを用いて計算すると50416.7Daであった。
図5Aは、GB235−019N73D突然変異体抗体の重鎖の測定分子量は理論的分子量と一致していることを示しており、重鎖にはグリコシル化が起きていないことを意味している。
図5B及び
図5Cは、突然変異体抗体GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの重鎖の測定分子量は理論的分子量ととても良く一致している(1Da未満の差異)ことを示しており、Fabフレームワーク領域内のN−グリコシル化部位が取り除かれたことを意味している。
【
図6】
図6は組み換え全長抗ヒトHER2 GB235−019突然変異体抗体のヒトHER2抗原との結合を示す図である。ELISAプレートをヒトHER2抗原でコートし、さまざまな濃度のGB235−019WT、GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75A抗体並びにハーセプチン及びペルツズマブをプレート上にコートした抗原分子と結合させ、結合抗体はHRP標識化ヤギ抗ヒトIgG Fc抗体を用いて検出した。
図6の結果は、突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aと同様にGB235−019WT抗体がヒトHER2抗原に特異的に結合する能力を有することを示している。
【
図7A】
図7Aは、組み換え全長抗ヒトHER2 GB235−019突然変異体抗体のBT−474細胞の増殖におけるイン・ビトロ阻害効果を示す図である。高レベルのP−HER2を発現するHER2陽性BT−474乳がん細胞は、6日間、ヘレグリン−αを補填した完全培地中でインキュベーションした。細胞はハーセプチンと同様に、GB235−019WT並びに別途に投与したGB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aを含む突然変異体抗体GB235−019WT抗体で、各々単独にさまざまな濃度で処理した。細胞生存率はアラマーブルーを用いて決定した。完全培地内のヘレグリン−αの添加はBT−474細胞の増殖を誘導したという結果を示した。BT−474細胞は別途に投与されたハーセプチンに抵抗性となり、GB235−019WT抗体及び別途に投与された突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの効果は、各々単独に使用された場合に顕著ではなかった。
【
図7B】
図7Bは、BT−474細胞内におけるヘレグリン−α誘導性のハーセプチンへの抵抗性が組み換え全長抗ヒトHER2抗体により反転されたことを示すイン・ビトロ実験結果を示す図である。高レベルのP−HER2を発現するHER2陽性BT−474乳がん細胞は、6日間、ヘレグリン−αを補填した完全培地中でインキュベーションした。細胞はその後、GB235−019WT抗体並びにGB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aを含む突然変異体抗体の各々ハーセプチンと組み合わせた組み合わせ投与により処理した。細胞生存率はアラマーブルーを用いて決定した。完全培地内のヘレグリン−αの添加はBT−474細胞の増殖を誘導したという結果を示した。BT−474細胞は別途に投与されたハーセプチンに抵抗性となり、GB235−019WT抗体並びに突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの各々とハーセプチンと組み合わせての組み合わせ投与は、ヘレグリン−α誘導性増殖を、ヘレグリン−α誘導の前のものよりも低いレベルにまで、濃度依存的に著しく減少するように阻害した。突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75AはGB235−019WTのものと等価な効果を有していた。
【
図8】
図8は乳がん細胞株BT−474における組み換え全長抗ヒトHER2抗体のシグナル伝達に対する阻害効果を示す図である。P−HER2を高発現するHER2陽性BT−474乳がん細胞を、0.1%ウシ胎仔血清培地内の飢餓培養に24時間供した。その後、GB235−019WT抗体及びGB235−019N73D突然変異体抗体の各々の20μg/mlを加え、20μg/mlのハーセプチン及び20μg/mlのペルツズマブを別途に投与した。BT−474細胞をそれらの抗体で6時間処置した後、最終濃度100ng/mlのヘレグリン−αを加え、10分間誘導し、その時間でサンプルを取得した。細胞可溶化物をイムノブロッティングに供し、HER3、Akt及びERKの全体及びそのリン酸化物をそれぞれ対応する抗体を用いて検出した。
図8の結果は、ヘレグリン−α未添加の対照群と比較すると、ヘレグリン−αはBT−474細胞内においてHER3リン酸化の上方制御を引き起こすことを示している。別途に投与したGB235−019WT及びGB235−019N73DはBT−474細胞内のヘレグリン−α誘導性のHER3リン酸化の上方制御を顕著に阻害し、ヘレグリン−αによって誘導されたHER3リン酸化の上方制御を完全に反転させた。GB235−019N73D突然変異体抗体の効果はGB235−019WT抗体のものと同様であった。ペルツズマブもまたヘレグリン−αによって誘導されたBT−474細胞内におけるHER3リン酸化の上方制御を完全に阻害した。ヘレグリン−αによって誘導されたBT−474細胞内のHER3リン酸化の上方制御についてのハーセプチンの阻害効果もまた顕著である。また、別途に投与したGB235−019WT抗体及びGB235−019N73D突然変異体抗体はヘレグリン−αによって誘導されたAktリン酸化の上方制御を阻害しなかった一方で、ペルツズマブはヘレグリン−αによってそのように誘導されたAktリン酸化の上方制御を顕著に阻害した。別途に投与したGB235−019N73D突然変異体抗体及びGB235−019WT抗体はヘレグリン−αによって誘導されたERK1/2リン酸化の上方制御を顕著に阻害した。GB235−019N73D突然変異体抗体の効果はGB235−019WT抗体のものと同様である。
【
図9】
図9は、乳がんMCF7細胞シグナル伝達における組み換え全長抗ヒトHER2抗体の阻害効果を示す図である。低レベルのHER2及び高レベルのHER3を発現するが、P−HER2及びP−HER3を発現しないHER2陰性MCF7乳がん細胞は、0.1%ウシ胎仔血清培地内で24時間、飢餓培養に供した。その後、GB235−019WT抗体及び突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの各々の20μg/mlを加え、20μg/mlのハーセプチン及び20μg/mlのペルツズマブを別途に投与した。MCF7細胞をそれらの抗体で6時間処置した後、最終濃度100ng/mlのヘレグリン−αを加え、10分間誘導し、その時間でサンプルを取得した。細胞可溶化物をイムノブロッティングに供し、HER3、Akt及びERKの全体及びそのリン酸化物をそれぞれ対応する抗体を用いて検出した。
図9の結果は、ヘレグリン−αを加えない対照群と比較して、ヘレグリン−αはMCF7細胞内においてHER3リン酸化の上方制御を誘導することを示している。別途に投与したGB235−019WT抗体並びに突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aはヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞におけるHER3リン酸化の上方制御を顕著に阻害した。別途に投与したハーセプチン及びペルツズマブもまたヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞におけるHER3リン酸化の上方制御を顕著に阻害した。別途に投与したGB235−019WT抗体並びに突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aはヘレグリン−αにより誘導されたAktリン酸化の上方制御を顕著に阻害し、別途に投与したペルツズマブはヘレグリン−αにより誘導されたAktリン酸化の上方制御を完全に反転させた。別途に投与した突然変異体抗体GB235−019N73D及びGB235−019N73Qはヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞におけるERK1/2リン酸化の上方制御を顕著に阻害し、別途に投与したGB235−019WT抗体及びGB235−019S75A突然変異体抗体はヘレグリン−αにより誘導されたERK1/2リン酸化の上方制御を弱く阻害した。別途に投与したペルツズマブはヘレグリン−αにより誘導されたERK1/2リン酸化の上方制御を完全に反転させた。
【
図10】
図10は、3つの突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの分子サイズ排除クロマトグラフィーのクロマトグラムを示す図である。3つの突然変異体抗体の各々の30μgを、それらのそれぞれの純度を決定するために分子サイズ排除クロマトグラフィー(SEC−HPLC)に供した。GB235−019N73D抗体の主要ピークの純度は88.3%であり、GB235−019N73Q抗体のものは89.7%であり、GB235−019S75A抗体のものは93.1%であった。
【
図11】
図11は、3つの突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの画像化キャピラリー等電点電気泳動の電気泳動図を示す図である。3つの突然変異体抗体はそれぞれ画像化キャピラリー等電点電気泳動(imaging capillary isoelectric focusing;iCIEF)に供し、それぞれの主要ピークの等電点(pI)及び荷電アイソマーの純度を決定した。3つの突然変異体抗体の全ては比較的に高い測定等電点を有しており、それらは9.4から9.6の範囲内であった。GB235−019N73Dの等電点は、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aのものよりも約0.1低く、その主要ピーク純度は比較的に最も高かった。
【
図12】
図12は、3つの突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの還元キャピラリーゲル電気泳動の電気泳動図を示す図である。3つの突然変異体抗体は、還元キャピラリーゲル電気泳動解析(rCE−SDS)にそれぞれ供し、それらのそれぞれの純度(軽鎖及び重鎖のパーセンテージの合計)を決定した。3つの突然変異体抗体の全ては低分子量及び高分子量の特定の不純物を有していた。GB235−019N73Dは比較的に最も低い不純物の含有量であり、その純度は軽鎖及び重鎖(LC+HC)の合計に関して最も高かった。
【
図13】
図13は、3つの突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの示差走査熱量測定の測定図を示す図である。3つの突然変異体抗体は、示差走査熱量測定(DSC)にそれぞれ供し、それぞれのTm値(50%の生物学的分子がその温度においてアンフォールド状態にあることを意味する、相転移温度)を決定した。3つの分子のTm1は互いに異なっている。GB235−019N73QのTm1は比較的に最も低い値であるが、一方でGB235−019N73QのTm1はGB235−019S75Aの値と近い。Tm値が高ければ高いほどに、温度安定性は良い。Tm1の差異は突然変異がなんらかの効果をCH2ドメインにいくらかの程度、及ぼしたことを意味している。GB235−019N73D及びGB235−019S75Aは、GB235−019N73Qよりもより良い温度安定性を有していた。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の技術的解決法は下記の特定の例によりさらに説明されるが、本発明はそれらに限定されない。
【0023】
実施例1 完全ヒトscFvファージライブラリーからのヒトHER2−Fcに特異的に結合するクローンのスクリーニング
ELISA技術の抗原−抗体結合の特異性を利用して、ヒトHER2(細胞外ドメイン)−Fc融合タンパク質(hHER2−Fcと略する)抗原をELISAプレート上にコートし、コートした抗原に特異的に結合したファージを洗浄し、ピックアップした。ヒトHER2−Fc(Sino Biological Inc.から購入したもの、カタログ番号:10004−H02H)抗原はPBS(0.01M Na
2HPO
4・12H
2O+0.002M KH
2PO
4+0.14M NaCl+0.002M KCl,pH=8.6)により5μg/mlに希釈し、ELISAプレートに100μl/ウェルにて加え、4℃、一晩コートした。プレートはPBST(0.05%のTween 20を含むPBS緩衝液)で4回洗浄し、その後5%BSA(アメリカ合衆国、Amresco Inc.から購入したもの、カタログ番号:0332−100g、溶液はPBSである)を300μl/ウェルにて、37℃、1時間、ブロッキングを行った。プレートはPBSTにて2回、再洗浄した。7×10
10の独立したクローンを含む完全ヒトscFvファージ抗体ライブラリーの懸濁液(複数の健康な個体のリンパ細胞からの抗体可変領域遺伝子を人工的に合成した重鎖CDR3遺伝子と組み合わせることにより、EUREKA(北京)Biotechnology Ltd.により構築されたもの)を、ELISAプレートに100μl/ウェルにて加え、37℃で2時間、インキュベーションを行った。インキュベーションが終了した後に、ELISAプレートのウェルの中のファージ懸濁液は吸引された。その後、PBSTを各々のウェルに300μl/ウェルにて加え、ウェルの内容物を5分間の間、充分に流し去り、コートした抗原に特異的に結合していないファージを除去した。0.1%BSA(アメリカ合衆国、Amresco Inc.、カタログ番号:0332−100g、溶液はPBSである)を含む0.2Mグリシン−HCl(pH=2.2)溶出液を加え、室温で10分間、インキュベーションを行った。その後、コートした抗原に特異的に結合したファージを溶出するために、ウェル中の内容物を充分に流し去った。溶出したファージ懸濁液は1M Tris−HCl(pH9.1)緩衝液で中和した。溶出したファージは(約0.3から0.4であるOD600の値で示される)対数増殖期における1mLのバクテリアTG1(アメリカ合衆国、Lucigen Inc.、カタログ番号:60500−0)に加え、得られたバクテリア溶液は37℃、1時間、静置することにより感染させた。10μlの感染バクテリア溶液を10倍連続希釈に供し、10倍、100倍、1000倍希釈をプレーティングし、カウントした。90μlの感染バクテリア溶液を最終濃度10%グリセリンのグリセリン中、−80℃にて保存した。残りの感染バクテリア溶液は全て150mm 2×YT−A固体プレート(17g/Lのトリプトン、10g/Lの酵母エキス、5g/Lの塩化ナトリウム、15g/Lの寒天及び100μg/mlのアンピシリン)上にプレーティングし、37℃、一晩培養した。5mlの2×YT−A−10%グリセリン培地を150mmプレートに一晩加えた。プレートは滅菌した播種ロッドを用いて、残留バクテリア溶液がプレート上から無くなるまで、静かに掻爬した。第2回目の増幅段階において、適切な量の掻爬したバクテリア溶液を5mlの2×YT−AMP−グルコース液体培地(17g/Lのトリプトン、10g/Lの酵母エキス、5g/Lの塩化ナトリウム、2%のグルコース及び100μg/mlのアンピシリン)(OD600は好ましくは約0.05から0.1である)に加え、37℃、200rpmで対数増殖期まで培養した(OD600は約0.3から0.4である)。その後、バクテリアの総数の20倍の量のM13K07ヘルパーファージ(アメリカ合衆国、NEB Inc.から購入したもの、カタログ番号:N0315S)を加え、37℃、1時間、感染を行った。感染後、1500g、5分間で回収したバクテリアのペレットを2×YT−AMP−Kana培地(17g/Lのトリプトン、10g/Lの酵母エキス、5g/Lの塩化ナトリウム、50μg/mlのカナマイシン及び100μg/mlのアンピシリン)に再懸濁させ、30℃、200rpm、一晩培養し、組み換えファージの増幅及び調製を完結させた。第2段階のピックアップ及び第3段階の増幅及びピックアップは同じ要領で実行された。バクテリアコロニーを5mlの2×YT−AMP−グルコース液体培地(17g/Lのトリプトン、10g/Lの酵母エキス、5g/Lの塩化ナトリウム、2%のグルコース及び100μg/mlのアンピシリン)へ移し、37℃、200rpm、一晩培養した。プラスミドはプラスミド抽出キット(アメリカ合衆国、Qiagen Inc.から購入したもの、カタログ番号:12943)を用いて抽出し、塩基配列決定法により同定し、−80℃にて保存した。
【0024】
実施例2 酵素結合性免疫吸着検定法(ELISA)を用いたヒトHER2−Fcに特異的に結合するファージの免疫反応性の同定
酵素結合性免疫吸着検定法(ELISA)を用いて、実施例1において得られたヒトHER2−Fcに特異的に結合するファージの免疫反応性をさらに同定した。ヒトHER2−Fc抗原(Sino Biological Inc.から購入したもの、カタログ番号:10004−H02H)をPBS(pH=8.6)により、2μg/mlに希釈し、ELISAプレートに100μl/ウェルにて加え、4℃、一晩コーティングを行った。プレートはPBSTを用いて4回洗浄し、その後、5%BSA(アメリカ合衆国、Amresco社から購入したもの、カタログ番号:0332−100g、溶液はPBSである)を300μl/ウェルにて加え、37℃、1時間、ブロッキングを行った。プレートは再びPBSTを用いて2回洗浄し、その後、ファージクローンの懸濁液を100μl/ウェルにて加え、37℃で、2時間、インキュベーションを行った。プレートはPBSTを用いて4回洗浄した。HRP標識化抗M13K07ファージ抗体(アメリカ合衆国、GE Inc.から購入したもの、カタログ番号:27−9421−01、PBSTを用いて1:5000希釈、100μl/ウェル)を加え、室温で、1時間、インキュベーションを行った。プレートはPBSTを用いて4回洗浄し、その後、可溶単一成分基質3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(Tiangen Co., Ltd.から購入したもの、カタログ番号:PA107−01)を100μl/ウェルにて加え、室温で15分間、可視化のためにインキュベーションを行った。停止溶液(1M硫酸)を50μl/ウェルにて加え、450/570nm波長の吸光度を多機能ELISAプレート(アメリカ合衆国、バイオラッド社、モデル680マイクロリーダー)上で読み取った。
【0025】
結果として、3回の繰り返しスクリーニングの後、ヒトHER2−Fc抗原に結合し得る総数1312のscFVファージクローンが得られ、その中で、scFVファージの499クローンがヒトHER2−Fc抗原に特異的に結合し得ることが示された。DNA塩基配列決定法により、これらのクローンの内、102個のscFvがDNA配列及びアミノ酸配列の両方において異なることが明らかになった(表1に示される)。
【0027】
実施例3 ELISAを用いた102個のヒトHER2−Fc特異的scFvの、種間交差反応性、及びHERファミリーメンバー間の分子間交差反応性の検出
102個のヒトHER2−Fc特異的scFvの、種間交差反応性、及びHERファミリーメンバー間の分子間交差反応性を、ELISAを用いて検出した。コーティングのためのヒトHER2−Fc抗原をサルHER2−Fc(Sino Biological Inc.から購入したもの、カタログ番号:90295−C02H)、マウスHER2−Fc(Sino Biological Inc.から購入したもの、カタログ番号:50714−M02H)、ヒトHER1−Fc(Sino Biological Inc.から購入したもの、カタログ番号:10001−H02H)、ヒトHER3−Fc(Sino Biological Inc.から購入したもの、カタログ番号:10201−H05H)及びヒトHER4−Fc(Sino Biological Inc.から購入したもの、カタログ番号:10363−H02H)に置き換えること以外は実施例2と同様の手順に従った。それぞれの抗原はPBS(pH=8.6)により2μg/mlに希釈し、100μl/ウェルにてELISAプレートに加え、コーティングを4℃、一晩行った。プレートはPBSTを用いて4回洗浄し、その後、5%BSA(アメリカ合衆国、Amresco社から購入したもの、カタログ番号:0332−100g、溶液はPBSである)を300μl/ウェルにて加え、37℃で、1時間、ブロッキングを行った。プレートは再びPBSTを用いて2回洗浄し、その後、ScFvファージの102クローンの懸濁液を100μl/ウェルにて加え、37℃で、2時間、インキュベーションを行った。プレートはPBSTを用いて4回洗浄した。HRP標識化抗M13K07ファージ抗体(アメリカ合衆国、GE Inc.から購入したもの、カタログ番号:27−9421−01、PBSTを用いて1:5000希釈、100μl/ウェル)を加え、室温で、1時間、インキュベーションを行った。プレートはPBSTを用いて4回洗浄し、その後、可溶単一成分基質3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(Tiangen Co., Ltd.から購入したもの、カタログ番号:PA107−01)を100μl/ウェルにて加え、室温で15分間、可視化のためにインキュベーションを行った。停止溶液(1M硫酸)を50μl/ウェルにて加え、450/570nm波長の吸光度を多機能ELISAプレート(アメリカ合衆国、バイオラッド社、モデル680マイクロリーダー)上で読み取った。
【0028】
ScFvファージの96クローンがサルHER2−Fcに交差反応性を示し、20クローンがマウスHER2−Fcに交差反応性を示すという結果が示された。102クローンのいずれもヒトHER1−Fc、ヒトHER3−Fc及びヒトHER4−Fcには交差反応性を示さなかった(表2に示す)。
【0030】
実施例4 102クローンのScFvファージの親和性ランキング
102クローンのScFvファージの親和性ランキングをELISAによって行った。最初の濃度が25μg/mlであるヒトHER2−Fc抗原を、PBS緩衝液を用いた10倍希釈に供し、8つの濃度勾配を得た。希釈液はそれぞれ102クローンのScFvファージと共に、室温で4時間インキュベーションし、平衡に達しさせた。その後、得られた混合液を2μg/mlのヒトHER2−Fc抗原(pH=8.6 PBS、4℃、一晩、100μl/ウェル)で予めコートしたELISAプレートに加え、ELISAプレートは5%BSA(アメリカ合衆国、Amresco Inc.から購入したもの、カタログ番号:0332−100g、溶液はPBSである)を用いて捕獲されなかったScFv抗体が結合することから遮蔽するようにした。HRP標識化抗M13ファージ抗体(アメリカ合衆国、GE Inc.、カタログ番号:27−9421−01、PBSTにより1:5000希釈、100μl/ウェル)を加え、検出を実施例2と同様の手順にて実行した。102の陽性クローンの親和性ランキングをIC50値の観点で行った(IC50値がより低ければ、より高い親和性を示す)。
【0031】
結果として、102クローンのScFvファージのIC50値の分布の領域が明らかになり、その中で4クローンがハーセプチンよりも高い親和性を示した。
【0033】
実施例5 GB235−019組み換え全長IgG1アイソタイプ抗体のための真核生物発現ベクターの構築
組み換え全長IgG1アイソタイプ抗体GB235−019(組み換え全長抗体配列019クローンはGB235−019と命名された)のための真核生物発現ベクターをScFvファージの102クローン塩基配列から構築した。完全ヒトScFvファージライブラリーからのスクリーニングにより得られたWG1−019単鎖抗体クローン(ScFvファージライブラリーからのスクリーニングにより得られた単鎖抗体配列クローンはWG1−019と命名された)のヌクレオチド配列は配列番号9であり、配列番号3(配列番号1のアミノ酸配列をコードするもの)及び配列番号4(配列番号2のアミノ酸配列をコードするもの)のヌクレオチド配列をそれぞれ有する重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を含む。シグナルペプチドはMELGLSWIFLLAILKGVQCのアミノ酸配列とATGGAGTTGGGACTGTCTTGGATTTTCCTGTTGGCTATTCTGAAAGGTGTGCAGTGTのヌクレオチド配列を有していた(Shanghai Generay Biotech Co, Ltdにより合成したもの)。
【0034】
GB235−019組み換え全長抗体は重鎖定常領域及び軽鎖定常領域を有し、それぞれが配列番号7(配列番号5のアミノ酸配列をコードするもの)及び配列番号8(配列番号6のアミノ酸配列をコードするもの)のヌクレオチド配列を有していた(Shanghai Generay Biotech Co, Ltdにより合成したもの)。
【0035】
プライマーはGB235−019組み換え全長IgG1アイソタイプ抗体の重鎖及び軽鎖についての真核生物発現ベクターを構築するために設計され、それらのプライマーは下記の通りである:
1−1:5’−GAATTCGCGGCCGCATGGAGTTGGGACTG−3’
2−3:5’−CTGGGTCATCTGGATGTCACACTGCACACCTTTC−3’
3−3:5’−GAAAGGTGTGCAGTGTGACATCCAGATGACCCAG−3’
4−4:5’−GATGGTGCAGCCACAGTACGTTTGATCTCCACCTTG−3’
5−2:5’−ATCAAACGTACTGTGGCTGCACCATC−3’
6−1:5’−GTTTAAACGGATCCCTAACACTCTCCCCTGTTG−3’
7−7:5’−GTACCAGCTGGACCTC ACACTGCACACCTTTC−3’
8−7:5’−GAAAGGTGTGCAGTGTGAGGTCCAGCTGGTAC−3’
9−1:5’−GATGGGCCCTTGGTGGAGGCTGAGGAGACGGTCAC−3’
10−1:5’−ACCGTCTCCTCAGCCTCCACCAAGGGCCCATC−3’
11−1:5’−GTTTAAACGGATCCTCATTTACCGGGAGACAGGGAG−3’
【0036】
合成したシグナルペプチド配列をテンプレートとして、並びに1−1及び2−3をプライマーとして使用し、PCR法による増幅によりEcoR I制限部位を含む遺伝子断片を得て、「SPL−GB235−019」と命名した;合成した軽鎖可変領域配列、配列番号4をテンプレートとして、並びに3−3及び4−4をプライマーとして使用し、PCR法による増幅により軽鎖可変領域遺伝子断片を得て、「VL−GB235−019」と命名した;並びに、合成した軽鎖定常領域配列、配列番号8をテンプレートとして、並びに5−2及び6−1をプライマーとして使用し、PCR法による増幅によりTGA停止コドン及びBamH I制限部位を含む重鎖定常領域遺伝子断片を得て、「CL−GB235−019」と命名した。SPL−GB235−019、VL−GB235−019、及びCL−GB235−019遺伝子断片をテンプレートとして、並びに1−1及び6−1をプライマーとして使用し、オーバーラッピングPCR法による増幅によりGB235−019抗体の軽鎖全長遺伝子断片を得た (Higuchi Rら A general method of in vitro preparation and specific mutagenesis of DNA fragments: study of protein and DNA interactions. Nucleic Acids Research, 1988, 16(15):7351−67)。
【0037】
同様に、合成したシグナルペプチド配列をテンプレートとして、並びに1−1及び7−7をプライマーとして使用し、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応法)法による増幅によりEcoR I制限部位を含む遺伝子断片を得て、「SPH−GB235−019」と命名した;合成した重鎖可変領域配列、配列番号3をテンプレートとして、並びに8−7及び9−1をプライマーとして使用し、PCR法による増幅により重鎖可変領域遺伝子断片を得て、「VH−GB235−019」と命名し、さらに、合成した重鎖定常領域配列、配列番号7をテンプレートとして、並びに10−1及び11−1をプライマーとして使用し、PCR法による増幅によりTGA停止コドン及びBamH I制限部位を含む重鎖定常領域遺伝子断片を得て、「CH−GB235−019」と命名した。SPH−GB235−019、VH−GB235−019、及びCH−GB235−019遺伝子断片をテンプレートとして、並びに1−1及び11−1をプライマーとして使用し、オーバーラッピングPCR法による増幅によりGB235−019抗体の重鎖全長遺伝子断片を得た。
【0038】
上述の重鎖及び軽鎖全長遺伝子断片は、遺伝子断片の5’末端にEcoRI制限部位を含み、断片の3’末端にTGA停止コドン及びBamHI制限部位を含むようにpGEM−Tベクター(アメリカ合衆国、Promega Inc.から購入したもの、カタログ番号:A3600)にクローニングされた。DNA塩基配列決定の後、正しいものとして塩基配列決定されたクローンはEcoRI(アメリカ合衆国、NEB Inc.から購入したもの、カタログ番号:R0101S)及びBamHI(アメリカ合衆国、NEB Inc.から購入したもの、カタログ番号:R0136S)を用いて、37℃、4時間にて二重切断処理し、目的の遺伝子断片を回収した。上述の切断処理により得られた抗体の重鎖全長遺伝子断片及び軽鎖全長遺伝子断片は293ベクター(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:K8300−01)にクローニングした。DNA塩基配列決定法により同定した後、首尾よく構築された全長抗体重鎖真核生物発現ベクター又は全長抗体軽鎖真核生物発現ベクターを含むクローンが得られた。
【0039】
図1Aは組み換え全長抗ヒトHER2抗体重鎖(293−VH−CH)発現ベクターの構造の図を示し;
図1Bは組み換え全長抗ヒトHER2抗体軽鎖(293−VL−CL)発現ベクターの構造の図を示す。
【0040】
実施例6 GB235−019抗体の真核生物細胞内での一過性形質移入発現及びその精製
実施例5において構築したGB235−019抗体についての組み換えベクターの発現のために、フリースタイル293F細胞(アメリカ合衆国、Invitrogen社から購入したもの、カタログ番号:R790−07)を共形質移入する方法を使用することができる。形質移入の24時間前に、フリースタイル293F細胞を6×10
5細胞/mlに継代培養し、温度自動調節器付きシェーカー上で135rpm、37℃、8% CO
2の条件下で、形質移入の日に(血球数計測法による)細胞密度が1.2〜1.5×10
6細胞/mlとなるように培養した。細胞はフリースタイル293培地(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.、カタログ番号:12338−018)を用いて、密度が1×10
6細胞/mlとなるように希釈した。最良の形質移入を確実にするためには(トリパンブルー染色法による)細胞生存度が95%を超えるべきである。
【0041】
形質移入のための試薬、フリースタイル・マックス試薬(FreeStyle Max Reagent;アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:16447−500)を均一に混合するために4回、穏やかに反転させた。各々315μgの重鎖及び軽鎖発現ベクタープラスミドを、形質移入のための培養液OptiPRO SFM(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:12309−050)にそれぞれ加えた。OptiPRO SFMを用いて容量を10mlに補充し、混合液は均一になるように混合させた。他の遠心チューブ内に、625μlのフリースタイル・マックス試薬を10mlとなるまでOptiPRO SFMを用いて希釈した。チューブは均一に混合するために穏やかに反転させた。希釈したプラスミド及び希釈したフリースタイル・マックス試薬を均一になるように混合させ、室温で15分間インキュベーションした。得られた20mlの混合溶液は、500mlのフリースタイル293F培地(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:12338−018)を含む振盪フラスコ内にゆっくりと加えた。振盪フラスコは温度自動調節機能付きシェーカー上で7日間培養させた(135rpm、37℃、8% CO
2)。培養物は冷却遠心機内で9000rpm、20分間、遠心分離させ、その後のタンパク質精製のために上澄み液を回収した。
【0042】
GB235−019抗体を含む上述のフリースタイル293F細胞上澄み液を遠心分離した。IgG1アイソタイプ抗体をプロテインAカラム(アメリカ合衆国、GE Healthcare Bio−Sciences Inc.から購入したもの、カタログ番号:17−5080−02)を用いて捕獲し、50mMクエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液(pH3.3)を用いて溶出させた。溶出液を回収し(0.5ml)、100μlの1Mトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン塩酸(Tris−HCl)緩衝液(pH11.0)を加えることにより、中性に中和させた。その後、溶出液は10K透析膜(Shanghai Generay Biotech Co, Ltdから購入したもの、カタログ番号:M1915)に対してリン酸緩衝溶液PBS(0.01 M Na
2HPO
4・12H
2O+0.002M KH
2PO
4+0.14M NaCl+0.002M KCl, pH=7.2)で透析し、タンパク質含有量をOD280nmにて決定した。得られた溶液は滅菌するために0.22μmフィルター(ドイツ連邦共和国、Millipore Inc.から購入したもの、カタログ番号:GVHP01300)を通して濾過し、濾液は−80℃にて保存した。精製により得られたGB235−019抗体はその純度及び分子量を最終濃度50mMジチオスレイトールの還元条件下における10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動により決定した。
【0043】
図2の結果は、完全な還元条件下において、GB235−019抗体がそれぞれ分子量50KDa及び25KDaを有する2つのバンドを示し、抗体の重鎖及び軽鎖についてのバンドであることを示している(ロシュ社(Roche Corp.)から購入したハーセプチンを陽性対照として供した)。これらの結果は、構築したGB235−019抗体が正しい構造を有し、その分子量が理論値と一致することを示している。
【0044】
実施例7 GB235−019抗体の還元分子量
10μgのGB235−019抗体中にジチオスレイトールを最終濃度20mMになるように加え、混合液を水槽に37℃で、30分間インキュベーションし、全ての鎖間ジスルフィド結合を破壊した。分離した軽鎖及び重鎖は質量分析計を組み合わせた逆相クロマトグラフィーを用いて解析した。ウォーターズ H−クラス・バイオ超高速液体クロマトグラフィー(アメリカ合衆国、Waters Inc.)を使用して、クロマトグラフィーカラム:PLRP−S 300Å, 3.0μm、2.1×150mm(アメリカ合衆国、Agilent Inc.から購入したもの、カタログ番号:1912−3301)で;移動相:A(水)、B(アセトニトリル)及びC(1%トリフルオロ酢酸)で、4分後に35%Bである勾配を20分後に42%Bに変化させた。ここでC相は10%に維持し、流速は0.3mL/分、及び添加量は20μgである。サーモLTQ−Orbitrapディスカバリー(Thermo LTQ−Orbitrap Discovery)質量分析計(アメリカ合衆国、Thermo Fisher社)を使用した。ここでスプレイング電圧(spraying voltage)は3.7 KVであり、チューブレンズは230Vであり、キャピラリー温度は300℃であり、分解能は30000であり、質量−電荷比の範囲は1000から3000である。重鎖(GOFグリカン型を含むFc)の理論的分子量を、GPMAW6.0ソフトウェアを用いて計算すると50416.7Daであり、軽鎖の理論的分子量は23120.8Daであった。質量分析計から生成されたオリジナルシグナルはPROMASSソフトウェアを用いてデコンヴォリューションを行い、対応する測定分子量を得た。
【0045】
図3Aの結果は、GB235−019抗体の軽鎖の測定分子量は理論的分子量と一致していることを示しており、軽鎖のグリコシル化が起きていないことを意味している。
図3Bの結果は、測定したGB235−019抗体の重鎖の分子量は理論的分子量と大きく異なっている(>1500Da)ことを示している。理論的配列と比較することにより、Fc領域に加えてFabフレームワーク領域もまた理論的N−グリコシル化部位(Asn−Thr−Ser)を有しており、付加的な分子量の原因となることが見出された。
【0046】
実施例8 重鎖のFab末端におけるN−連結グリカンの突然変異特徴配列を有するGB235−019についての真核生物発現ベクターの構築
保存的なN−グリコシル化部位はAsn−X−Thr/Serであり、ここでXはProを除く任意のアミノ酸である。N−連結グリカンはAsn−X−Ser/Thr特徴的配列のAsn残基に結合していた(Imperiali B, O’Connor SE. Effect of N−linked glycosylation on glycopeptide and glycoprotein structure. Curr Opin Chem Biol 3 (6): 643−649)。実施例5において得られた全長抗体GB235−019のFabフレームワーク領域3のAsn73位はN−グリコシル化部位であった。保存的なN−グリコシル化部位はAsn−X−Ser/Thrのユニーク配列に変異を入れることにより取り除いた(Walsh G. Biopharmaceutical benchmarks−2003. Nat Biotechnol, 2003, 21:865−870)。IgBLAST配列比較により、生殖細胞系列遺伝子におけるAsp−Thr−Serの組み合わせの存在が明らかになった。ヌクレオチド配列比較により示されたように、Asnに対応するコドン「AAC」はAsnをAspに変化させるように「GAC」と変異させることもできた。Asn及びGlnの両方はアミド型のアミノ酸であり、Glnが側鎖にAsnよりも1つ多いメチル基を有する点でそれらは互いに保存的な置換である。同様に、Asnに対応するコドン「AAC」はAsnをGlnに変化させるように「CAG」と変異させることもできた。IgBLASTにより、生殖細胞系列遺伝子内でSerの位置におけるAlaの存在が明らかになった。生殖細胞系列ヌクレオチド配列比較により、Serに対応するコドン「TCC」は、SerをAlaに置き換えるために「GCC」に変異させることもできた。
【0047】
N−連結グリカンの突然変異特徴配列を有するGB235−019Fab断片についての突然変異体抗体のための重鎖発現ベクターは、実施例5においてテンプレートとして得られた全長重鎖真核生物発現ベクターを用いた点突然変異により生成された(Kunkel, T. Aら ”Rapid and efficient site−specific mutagenesis without phenotypic selection. Proc. Natl. Acad. Sci, 1985(82):488−492)。GB235−019抗体の重鎖内のAsn73(N73)をAsp73(D73)への突然変異、GB235−019抗体の重鎖内のAsn73(N73)をGln73(Q73)への突然変異、及びGB235−019抗体の重鎖内のSer75(S75)をAla75(A75)への突然変異の3つの突然変異計画を立案した。GB235−019抗体のFab末端のN−連結グリカンの特徴配列における上述の点突然変異を有するGB235−019抗体についての重鎖発現ベクターを構築するためのプライマーを設計した。それらのプライマーは下記の通りである:
12−1:5’−GTCACCATGACCAGGGACACCTCCAT−3’
12−2:5’−ATGGAGGTGTCCCTGGTCATGGTGAC−3’
13−1:5’−GTCACCATGACCAGGCAGACCTCCATAAGC−3’
13−2:5’−GCTTATGGAGGTCTGCCTGGTCATGGTGAC−3’
14−1:5’−CATGACCAGGAACACCGCCATAAGCAC−3’
14−2:5’−GTGCTTATGGCGGTGTTCCTGGTCATG−3’
【0048】
実施例5において得られた293−VH−CH発現ベクターをテンプレートとして、並びに12−1及び12−2をプライマーとして用いて、PCR法による増幅によりPCR生成物を得た。2μlのDpn I(アメリカ合衆国、NEB Inc.から購入したもの、カタログ番号:1235A)を20μlのPCR生成物に加え、37℃、1時間の切断処理を行った。PCR生成物精製キット(アメリカ合衆国、Axygen Inc.から購入したもの、カタログ番号:AP−PCR−50)を用いて、PCR生成物を精製した。精製したPCR生成物は、熱ショック法(42℃、90秒)により、DH5α大腸菌コンピテント細胞(Tiangen Co., Ltd.から購入したもの、カタログ番号:CB101)内に形質転換させた。DNA塩基配列決定法による同定の後、突然変異体抗体重鎖の真核生物発現ベクターが得られ、「293−VH−CH−N73D」と命名した(配列番号10及び配列番号13のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列をそれぞれ有する重鎖可変領域を含む)。同様に、13−1及び13−2をプライマーとして使用し、PCR法による増幅によりPCR生成物を得た。2μlのDpnI(アメリカ合衆国、NEB Inc.から購入したもの、カタログ番号:1235A)を20μlのPCR生成物に加え、37℃、1時間の切断処理を行った。PCR生成物精製キット(アメリカ合衆国、Axygen Inc.から購入したもの、カタログ番号:AP−PCR−50)を用いて、PCR生成物を精製した。精製したPCR生成物は、熱ショック法(42℃、90秒)により、DH5α大腸菌コンピテント細胞(Tiangen Co., Ltd.から購入したもの、カタログ番号:CB101)内に形質転換させた。DNA塩基配列決定法による同定の後、突然変異体抗体重鎖の真核生物発現ベクターが得られ、「293−VH−CH−N73Q」と命名した(配列番号11及び配列番号14のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列をそれぞれ有する重鎖可変領域を含む)。また同様に、14−1及び14−2をプライマーとして使用し、PCR法による増幅によりPCR生成物を得た。2μlのDpnI(アメリカ合衆国、NEB Inc.から購入したもの、カタログ番号:1235A)を20μlのPCR生成物に加え、37℃、1時間の切断処理を行った。PCR生成物精製キット(アメリカ合衆国、Axygen Inc.から購入したもの、カタログ番号:AP−PCR−50)を用いて、PCR生成物を精製した。精製したPCR生成物は、熱ショック法(42℃、90秒)により、DH5α大腸菌コンピテント細胞(Tiangen Co., Ltd.から購入したもの、カタログ番号:CB101)内に形質転換させた。DNA塩基配列決定法による同定の後、突然変異体抗体重鎖の真核生物発現ベクターが得られ、「293−VH−CH−S75A」と命名した(配列番号12及び配列番号15のアミノ酸配列及びヌクレオチド配列をそれぞれ有する重鎖可変領域を含む)。
【0049】
実施例9 真核生物細胞におけるGB235−019突然変異体抗体の一過性形質移入発現及びその精製
実施例8において構築した突然変異体抗体についての組み換えベクターの発現は、実施例6におけるものと同じ手順によって行った。293−VH−CH−N73D、293−VH−CH−N73Q及び293−VH−CH−S75Aは、フリースタイル293F細胞(アメリカ合衆国、Invitrogen社から購入したもの、カタログ番号:R790−07)に共形質移入するためにそれぞれ293−VL−CLと共に使用した。
【0050】
形質移入フリースタイル・マックス試薬のための試薬(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:16447−500)は均一に混合するために、4回、穏やかに反転させた。各々315μgの重鎖及び軽鎖発現ベクタープラスミドを、形質移入のための培養液OptiPRO SFM(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:12309−050)にそれぞれ加えた。OptiPRO SFMを用いて容量を10mlに補充し、混合液は均一になるように混合させた。他の遠心チューブ内に、625μlのフリースタイル・マックス試薬を10mlとなるようにOptiPRO SFMを用いて希釈した。チューブは均一に混合するために穏やかに反転させた。希釈したプラスミド及び希釈したフリースタイル・マックス試薬は均一になるように混合させ、室温で15分間インキュベーションした。得られた20mlの混合溶液は、500mlのフリースタイル293F培地(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:12338−018)を含む振盪フラスコ内にゆっくりと加えた。振盪フラスコは温度自動調節機能付きシェーカー上で7日間培養させた(135rpm、37℃、8% CO
2)。培養液は冷却遠心機内で9000rpm、20分間、遠心分離させ、その後のタンパク質精製のために上澄み液を回収した。突然変異体抗体を精製する方法は実施例6におけるものと同じである。得られた突然変異体抗体は滅菌するために0.22μmフィルター(Millipore Inc.から購入したもの、カタログ番号:GVHP01300)を通して濾過し、濾液は−80℃にて保存した。精製により得られた突然変異体抗体は、それぞれGB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aと命名された。突然変異体抗体は、その純度及び分子量を最終濃度50mMジチオスレイトールの還元条件下における10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動により決定した。
【0051】
図4の結果は、完全な還元条件下において、GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75A抗体の各々がそれぞれ分子量50KDa及び25KDaを有する2つのバンドを示し、それぞれの抗体の重鎖及び軽鎖についてのバンドであることを示している(ロシュ社から購入したハーセプチンを陽性対照として供した)。これらの結果は、構築したGB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75A抗体が正しい構造を有し、その分子量が理論値と一致することを示している。
【0052】
実施例10 組み換え全長GB235−019突然変異体抗体の還元分子量の解析
実施例9において得られた突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの還元分子量を解析する方法は実施例7のものと同じである。10μgのGB235−019突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの各々にジチオスレイトールを最終濃度20mMになるように加え、突然変異体抗体を水槽にて37℃で、30分間インキュベーションし、全ての鎖間ジスルフィド結合を破壊した。分離した軽鎖及び重鎖は質量分析計を組み合わせた逆相クロマトグラフィーを用いて解析した。ウォーターズ H−クラス・バイオ超高速液体クロマトグラフィー(アメリカ合衆国、Waters Inc.)を使用して、クロマトグラフィーカラム:PLRP−S 300Å, 3.0μm、2.1×150mm(アメリカ合衆国、Agilent Inc.から購入したもの、カタログ番号:1912−3301)で;移動相:A(水)、B(アセトニトリル)及びC(1%TFA)、4分後に35%Bから20分後に42%Bへの勾配にした、ここでC相は10%に維持し、流速は0.3mL/分、及び添加量は20μgである。サーモLTQ−Orbitrapディスカバリー(Thermo LTQ−Orbitrap Discovery)質量分析計(アメリカ合衆国、Thermo Fisher Inc.)を使用した。ここでスプレイング電圧は3.7KVであり、チューブレンズは230Vであり、キャピラリー温度は300℃であり、分解能は30000であり、質量−電荷比の範囲は1000から3000である。3つの突然変異体抗体の重鎖(GOFグリカン型を含むFc)の理論的分子量を、GPMAW6.0ソフトウェアを用いて計算すると、GB235−019S75Aについては50400.7Da、GB235−019N73Dについては50417.7Da及びGB235−019 N73Qについては50430.7Daであった。質量分析計から収集されたオリジナルシグナルはPROMASSソフトウェアを用いてデコンヴォリューションを行い、対応する測定分子量を得た。
【0053】
図5Aは、GB235−019N73Dの重鎖の測定分子量は理論的分子量と一致していることを示しており、重鎖のグリコシル化が起きていないことを意味している。
図5B及び
図5Cは、突然変異体抗体GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの重鎖の測定分子量は理論的分子量ととても良く一致している(1Da未満の差異)ことを示しており、Fabフレームワーク領域内のN−グリコシル化部位が取り除かれたことを意味している。
【0054】
ヒトIgGの重鎖のFcセグメントにおけるCH2領域内には保存的なN−連結グリコシル化部位Asn297がある。Asn297に連結している多糖鎖は抗体の4次構造及びFcセグメントの温度安定性を維持させ、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)、補体依存性細胞傷害活性(CDC)及び半減期を、それぞれIgG分子のFcRs、C1q及びFcRnへの結合に影響を与えることにより制御し得る。
【0055】
ヒトIgG FabのN−グリコシル化修飾は、抗体の抗原への結合機能に明確な促進又は阻害効果を有するかもしれない。グリコシル化修飾が起きる場所への微小な変化は、多糖鎖の引き続いてのプロセシング及び抗体の抗原への結合活性にまったく異なる効果を及ぼし、抗体の生成プロセスにおける品質管理を複雑化させるかもしれない。突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75AはGB235−019野生型抗体に点突然変異を与えて得られた。3つの突然変異体抗体は、GB235−019野生型抗体内の重鎖FabのN−連結グリカン(Asn−Thr−Ser)についての特異的部位を変化させた。3つの突然変異体抗体の還元分子量の決定により、重鎖Fabにおけるグリコシル化が起きていないことが明らかになり、生成プロセスにおける品質管理に有用であると思われる。3つの突然変異体抗体については、生物学的活性解析及び物理化学解析によりさらに検証を行った。
【0056】
実施例11 組み換え全長GB235−019野生型抗体及び突然変異体抗体の免疫学的活性の同定
GB235−019野生型抗体(GB235−019WT)及び突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75AのヒトHER2抗原への結合能を、ELISA結合アッセイを用いて下記の手順により検証した。ヒトHER2抗原(Sino Biological Inc.から購入したもの、カタログ番号:10004−H08H)を、PBSを用いて1μg/mlに希釈し、ELISAプレートに100μl/ウェルにて加え、4℃、一晩コーティングを行った。プレートはPBSTを用いて4回洗浄し、その後、5%BSA(アメリカ合衆国、Amresco社から購入したもの、カタログ番号:0332−100g、溶液はPBSである)を300μl/ウェルにて加え、室温で1時間、ブロッキングを行った。プレートを、PBSTを用いて4回洗浄した後、GB235−019WT抗体及び突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの各々、並びにペルツズマブ(Roche Corp.から購入したもの)及びハーセプチン(Roche Corp.から購入したもの)のそれぞれを5μg/mlから始めて、5倍希釈に供し、7つの濃度勾配を得た。各々の希釈液はELISAプレートに100μl/ウェルにて加え、室温で1時間インキュベーションした。プレートはPBSTを用いて4回洗浄し、その後HRP標識化ヤギ抗ヒトIgG Fc抗体(アメリカ合衆国、CalBiochem Inc.から購入したもの、カタログ番号:AP113A−K)を、PBS緩衝液を用いて1:10000に希釈し、ELISAプレートに100μl/ウェルにて加え、室温で1時間、インキュベーションを行った。プレートはPBSTを用いて4回洗浄し、その後、可溶単一成分基質3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン(Tiangen Co., Ltd.から購入したもの、カタログ番号:PA107−01)を100μl/ウェルにて加え、室温で15分間、可視化のためにインキュベーションを行った。停止溶液(1M硫酸)を50μl/ウェルにて加え、450/630nm波長の吸光度をM5多機能ELISAプレート(アメリカ合衆国、Molecular Devices Inc.)上で読み取った。
【0057】
図6の結果は、突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75AがヒトHER2抗原に、濃度依存的及び飽和性の様式で特異的に結合する能力を有することを示した。突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aは、GB235−019WT抗体と同様の結合能を顕著な差異無く有していた。
【0058】
実施例12 組み換え全長GB235−019突然変異体抗体はイン・ビトロで乳がんBT−474細胞の増殖活性を阻害した
乳がんBT−474細胞は中程度レベルのHER2及びHER3並びに高レベルのP−HER2を発現するが、P−HER3は発現しない(Richard M. Neve. Acollection of breast cancer cell lines for the study of functionally distinct cancer subtypes. CANCER CELL, 2006, 515−527)。本明細書において上記に定義したように、乳がんBT−474細胞はHER2陽性腫瘍細胞である。ヘレグリン−α(アメリカ合衆国、R&D Inc.から購入したもの、カタログ番号:296−HR)を補填した完全培地を用いた増殖阻害アッセイにおいて、対数増殖期のBT−474細胞を96ウェル培養プレート内で10%のウシ胎仔血清(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:A10491)を含むRPMI1640完全培地(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:10099−141)内で5000細胞/ウェルにて、37℃、5% CO
2中で24時間、培養した。GB235−019WT抗体及び突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aを別途に、並びにハーセプチンと組み合わせて投与することにより阻害アッセイを行った。別途投与グループ内において、GB235−019WT抗体及びGB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75A突然変異体抗体並びにペルツズマブ及びハーセプチンをそれぞれ加えた(最終操作濃度、75、18.8、4.7、1.2、0.29、0.07、0.018、0.005、0.0011、及び0μg/ml);並びに組み合わせ投与グループにおいて、上記の用量のGB235−019WT、GB235−019N73D、GB235−019N73Q、GB235−019S75A及びペルツズマブの各々はハーセプチンと組み合わせて投与した。2時間の上記のような抗体処置の後、最終操作濃度100ng/mlのヘレグリン−α溶液を加えた。ここでウェルにはヘレグリン−α溶液の添加が無いウェルも含めている。プレートはさらに37℃、5% CO
2中、6日間、培養した。アラマーブルー(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:DAL1100)をBT−474細胞の生存率を検出するために加え、544/590nmにおける蛍光度をM5多機能ELISAプレートリーダー(アメリカ合衆国、Molecular Devices Inc.)上で読み取った。
【0059】
アッセイの結果は、組み換え全長抗HER2突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aがイン・ビトロにおいて、ヘレグリン−αによって誘導されたHER2陽性BT−474細胞のハーセプチン抵抗性を反転させたことを示した。
図7Aにおける結果は、ヘレグリン−αの完全培地への添加によりBT−474細胞の増殖を誘導したことを示した。BT−474細胞は別途に投与されたハーセプチンに非感受性となり、突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aは、別途に投与した場合、GB235−019WT抗体の効果と同様に、阻害効果を示さなかった。
図7Bにおける結果は、突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aは、各々がハーセプチンと組み合わせて投与された場合に、ヘレグリン−α誘導性増殖を阻害したことを示した。3つの突然変異体抗体の各々をハーセプチンと組み合わせて投与した場合、ヘレグリン−αにより誘導されたBT−474細胞の増殖を阻害しただけではなく、濃度依存的に、ヘレグリン−α誘導の前のものよりも低いレベルにまで著しく阻害した。突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aは、GB235−019WT抗体のものと、顕著な差異無く同様の効果を有していた。
【0060】
実施例13 組み換え全長抗ヒトHER2 GB235−019突然変異体抗体による乳がんBT−474細胞シグナル伝達のイン・ビトロ阻害
対数増殖期のBT−474細胞は6ウェル培養プレート中で10%ウシ胎仔血清(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:10099−141)を含むRPMI1640完全培地(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:A10491)内に1.8×10
5細胞/ウェルにて、37℃で、5%CO
2中、24時間、培養した。次の日、培地を廃棄し、0.1%ウシ胎仔血清(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:10099−141)を含む低血清培養用培地を代わりに使用し、24時間、インキュベーションした。
【0061】
その後、各々20μg/mlのGB235−019WT及びGB235−019N73D 突然変異体抗体、ハーセプチン並びにペルツズマブを別途に投与した。BT−474細胞を抗体で6時間処理した後、ヘレグリン−α(アメリカ合衆国、R&D Inc.から購入したもの、カタログ番号:296−HR)を15分間の誘導のために最終濃度100ng/mlで加えた。ここでウェルにはヘレグリン−αを添加しないブランク対照ウェルを含めている。プレートは反応を停止するために4℃で事前に冷却したPBSで1度洗浄した。その後、120μlのLDS(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:NP0007)をプレートに加え、プレートを氷上に置いた。細胞可溶化物を即座に回収し、後の使用のために−80℃にて保存した。
【0062】
回収した細胞可溶化物は、ヘレグリン−α(R&D Inc.から購入したもの、カタログ番号:296−HR)により誘導されたSK−BR−3細胞内のHER−3、Akt及びERK1/2リン酸化への抗体の効果を決定するために、最終濃度50mMのジチオスレイトール(Sangon Inc.から購入したもの、カタログ番号:D0281)の還元条件下においてウェスタンブロッティング解析に供した。ウェスタンブロッティングは下記のように行った。電気泳動後のゲル上のタンパク質を電気泳動転写法(300mA、80分間)によりNC膜(アメリカ合衆国、Pall Inc.から購入したもの、カタログ番号:S80209)上に転写し、5%の乾燥スキムミルク(Sangon Inc.から購入したもの、カタログ番号:NB0669)によりブロッキングした。その後、1:1000に希釈したウサギ1次抗体P−HER3 Y1289(アメリカ合衆国、Cell Signaling Technology Inc.から購入したもの、カタログ番号:8017)、1:1000に希釈したウサギ1次抗体HER3(アメリカ合衆国、Cell Signaling Technology Inc.から購入したもの、カタログ番号:12708)、1:1000に希釈したウサギ1次抗体P−AktS473(アメリカ合衆国、Cell Signaling Technology Inc.から購入したもの、カタログ番号:4060)、1:1000に希釈したウサギ1次抗体Akt(アメリカ合衆国、Cell Signaling Technology Inc.から購入したもの、カタログ番号:4691)、1:500に希釈したウサギ1次抗体P−ERK1/2(アメリカ合衆国、Cell Signaling Technology Inc.から購入したもの、カタログ番号:4370)、1:1000に希釈したウサギ1次抗体ERK1/2(アメリカ合衆国、Cell Signaling Technology Inc.から購入したもの、カタログ番号:4695)及び1:5000に希釈したウサギ1次抗体GAPDH(アメリカ合衆国、Cell Signaling Technology Inc.から購入したもの、カタログ番号:5174)をそれぞれ加え、4℃、一晩インキュベーションを行った。NC膜を1×TBSTを用いて3回洗浄し、その後1:10000に希釈したHRP標識化ヤギ抗ウサギ抗体(アメリカ合衆国、MERCK Inc.から購入したもの、カタログ番号:401315)を加えた。NC膜を再び1×TBSTを用いて3回洗浄し、その後ECL(アメリカ合衆国、PerkinElmer Inc.から購入したもの、カタログ番号:NEL104001EA)を可視化のために加えた。シグナルを記録するためにフィルム(Kodak Inc.から購入したもの、カタログ番号:FF057)を露光させた。
【0063】
乳がんBT−474細胞は高レベルのP−HER2を発現するが、P−HER3を発現しない、ハーセプチンに感受性の細胞株である。
図8の結果は、ヘレグリン−αを加えない対照群と比較することにより、ヘレグリン−αはBT−474細胞内におけるHER3リン酸化の上方制御を引き起こすことを示している。別途に投与したGB235−019WT抗体及びGB235−019N73D突然変異体抗体は、ヘレグリン−αによって誘導されたBT−474細胞内におけるHER3リン酸化の上方制御を顕著に阻害し、ヘレグリン−αによって誘導されたHER3リン酸化の上方制御を完全に反転させ、GB235−019N73D突然変異体抗体はGB235−019WT抗体のものと同様の効果を有していた。ペルツズマブもまたヘレグリン−αによって誘導されたBT−474細胞内におけるHER3リン酸化の上方制御を完全に阻害し、ハーセプチンもまたヘレグリン−αによって誘導されたBT−474細胞内におけるHER3リン酸化の上方制御を顕著に阻害した。
【0064】
別途に投与したGB235−019WT抗体及びGB235−019N73D突然変異体抗体はヘレグリン−αによって誘導されたAktリン酸化の上方制御を阻害しなかった。別途に投与したペルツズマブはヘレグリン−αによって誘導されたAktリン酸化の上方制御を顕著に阻害した。別途に投与したGB235−019N73D突然変異体抗体及びGB235−019WT抗体はヘレグリン−αによって誘導されたERK1/2リン酸化の上方制御を顕著に阻害し、GB235−019N73D突然変異体抗体はGB235−019WT抗体のものと同様の効果を有していた。
【0065】
実施例14 組み換え全長抗ヒトHER2 GB235−019突然変異体抗体による乳がんMCF7細胞シグナル伝達のイン・ビトロ阻害
乳がんMCF7細胞は低レベルのHER2及び高レベルのHER3を発現するが、P−HER2及びP−HER3は発現しない(Richard M. Neve. A collection of breast cancer cell lines for the study of functionally distinct cancer subtypes. CANCER CELL, 2006: 515−527)。上記に定義したように、乳がんMCF7細胞はHER2陰性腫瘍細胞である。対数増殖期におけるMCF7細胞を6ウェル培養プレート中で10%ウシ胎仔血清(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:10099−141)を含むRPMI1640完全培地(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:A10491)内に1.8×10
5細胞/ウェルにて、24時間、培養した。次の日、培地を廃棄し、0.1%ウシ胎仔血清を含む低血清培養用培地を代わりに使用し、24時間、飢餓培養を行った。MCF7細胞を20μg/mlの各々のGB235−019WT抗体及び突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aで処置し、ペルツズマブ及びハーセプチンを別途に又はRPMI−0.1%ウシ胎仔血清培養液内に組み合わせて6時間、投与した。10分間の誘導のためにヘレグリン−α(アメリカ合衆国、R&D Inc.から購入したもの、カタログ番号:296−HR)を100ng/mlの操作最終濃度にて加えた。ここでウェルにはヘレグリン−αを添加しないブランク対照ウェルを含めている。反応を停止するために、プレートは予め4℃で冷却したPBSを用いて1度洗浄した。その後、120μlのLDS(アメリカ合衆国、Invitrogen Inc.から購入したもの、カタログ番号:NP0007)をプレートに加え、プレートは氷上に置いた。細胞可溶化物を即座に回収し、後の使用のために−80℃にて保存した。
【0066】
回収した細胞可溶化物を、HER3の下流のAkt及びERK1/2リン酸化に対するそれらの抗体の効果と同様に、ヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞内のHER−3リン酸化への抗体の効果を決定するために、最終濃度50mMのジチオスレイトールの還元条件下においてウェスタンブロッティング解析に供した。ウエスタンブロッティング解析は実施例13に記載のものと同じ手順で行った。
【0067】
図9は、GB235−019突然変異体抗体によるHER2陰性乳がんMCF7細胞シグナル伝達の阻害を示す図である。結果は、ヘレグリン−αを加えない対照群と比較することにより、ヘレグリン−αはMCF7細胞内におけるHER3リン酸化の上方制御を誘導することを示している。別途に投与したGB235−019WT抗体及び突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの各々はヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞におけるHER3リン酸化の上方制御を著しく阻害した;GB235−019N73Dはヘレグリン−αにより誘導されたHER3リン酸化の上方制御を完全に反転させた;別途に投与したハーセプチンもまたヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞におけるHER3リン酸化の上方制御を著しく阻害した;並びにペルツズマブはヘレグリン−αにより誘導されたHER3リン酸化の上方制御を完全に反転させた。別途に投与したGB235−019WT抗体及び突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの各々はヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞におけるAktリン酸化の上方制御を著しく阻害した;並びにペルツズマブはヘレグリン−αにより誘導されたAktリン酸化の上方制御を完全に反転させた。別途に投与したGB235−019WT抗体及び突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの各々はヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞におけるERK1/2リン酸化の上方制御を著しく阻害した;並びにペルツズマブはヘレグリン−αにより誘導されたERK1/2リン酸化の上方制御を完全に反転させた。したがって、本発明の抗体もまた、HER2陰性腫瘍を治療するために使用することができる。
【0068】
実施例15 GB235−019突然変異体抗体の分子サイズ排除クロマトグラフィー解析
GB235−019突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aを、それらの純度を決定するために分子サイズ排除クロマトグラフィー(SEC−HPLC)にそれぞれ供した。実験条件は下記の通りである:ウォーターズ2695液体クロマトグラフィー(アメリカ合衆国、Waters Inc.);連結したTSKゲル G3000SWXLクロマトグラフィーカラム(2カラム)(アメリカ合衆国、Waters Inc.から購入したもの);0.1Mリン酸緩衝液、0.1M塩化ナトリウム、pH7.0、1.0mL/min、30分間のアイソクラチック保持である移動相;各々の抗体30μgである添加量;及び280nmである検出波長。
【0069】
図10は、3つの突然変異体抗体の分子サイズ排除クロマトグラムを示す図である。含有量は少ないながらも、3つの抗体中には少量のポリマー及び分子の断片が存在している。表4は、分子サイズ排除クロマトグラフィーによる対応する抗体の純度の結果をまとめた表である。GB235−019N73D抗体の主要ピークの純度は88.3%であり、GB235−019N73Q抗体の主要ピークの純度は89.7%であり、GB235−019S75A抗体の主要ピークの純度は93.1%であり、3つの突然変異体抗体の全ての主要ピークは85%よりも高い値であった。
【0071】
実施例16 GB235−019突然変異体抗体の画像化キャピラリー等電点電気泳動解析(Imaging capillary isoelectric focusing analysis)
突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aはそれぞれ画像化キャピラリー等電点電気泳動(imaging capillary isoelectric focusing;iCIEF)に供し、それぞれの主要ピークの等電点(pI)及び荷電アイソマーの純度を決定した。実験条件は下記の通りである:プロテインシンプル(ProteinSimple) iCE280 キャピラリー等電点電気泳動装置(アメリカ合衆国、Protein Simple Inc.);iCIEFカートリッジ(アメリカ合衆国、Protein Simple Inc.から購入したもの);両性電解質溶液は、12μlのファーマライト(Pharmalyte)3−10(アメリカ合衆国、GE Inc.から購入したもの、カタログ番号:17045601)、0.5μlのpIマーカー5.85(アメリカ合衆国、GE Inc.から購入したもの、カタログ番号:17−0472−01)、0.5μlのpIマーカー9.77(アメリカ合衆国、GE Inc.から購入したもの、カタログ番号:17−0473−01)、
2μlの500mM L−アルギニン(Sangon Inc.から購入したもの、カタログ番号:AB0205−100g)、2μlの200mM イミノ二酢酸(Sangon Inc.から購入したもの、カタログ番号:IB0530−100g)、70μlの1%メチルセルロース(Sangon Inc.から購入したもの、カタログ番号:MB0616−250g)及び113μlの5.3M尿素(Sangon Inc.から購入したもの、カタログ番号:UB0148−500g)を混合することにより調製した。添加溶液を180μlの両性電解質溶液を20μlの2.5mg/mLタンパク質溶液と混合することにより調製した。サンプルシステムは1500V、1分間、プレフォーカスさせ、3000V、10分間、フォーカスさせた。フォーカスパターンは280nmの検出波長でCCDカメラを用いて記録した。
【0072】
図11は、3つの突然変異体抗体の画像化キャピラリー等電点電気泳動の電気泳動図を示す図である。表5は、3つの突然変異体抗体の対応する主要ピークの等電点及び電荷アイソマーの純度の結果を要約した表である。3つの突然変異体抗体は、約9.4から9.6の範囲内の測定等電点を有していた。GB235−019N73Dの等電点は、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aのものよりも約0.1低く、その主要ピーク純度はそれぞれ最も高かった。
【0074】
実施例17 GB235−019突然変異体抗体のキャピラリーゲル電気泳動解析
突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aは、それぞれ還元キャピラリーゲル電気泳動解析(rCE−SDS)に供し、それぞれの純度(軽鎖及び重鎖のパーセンテージの合計)について決定した。実験条件は下記の通りである。SDS−MW解析キット(アメリカ合衆国、Beckman Inc.から購入したもの、カタログ番号:390953)及び非コーティングキャピラリーチューブ(Micro solv Inc.から購入したもの)を解析に使用した。100mM Tris−HCl、pH9.0、1% SDS(Sangon Inc.から購入したもの、カタログ番号:SB0485−100g)溶液をβ−メルカプトエタノール(アメリカ合衆国、Sigma Inc.から購入したもの、カタログ番号:M6250)と55:5の割合で混合させた。60μlの上述の混合溶液を40μlの2.5mg/mLサンプル溶液と混合させ、70℃の水槽に10分間インキュベーションした。サンプル添加は5KV、20秒間で行い、分離は15KV、30分間で行った。波長を214nmとして、UV検出器を使用した。
【0075】
図12は、3つの突然変異体抗体の還元キャピラリーゲル電気泳動の電気泳動図を示す図である。表6は、3つの突然変異体抗体の軽鎖及び重鎖の合計に関して、純度の結果を要約する表である。3つの突然変異体抗体の全ては少量の低分子量の不純物及び高分子量の不純物を含んでいた。GB235−019N73Dは比較的に最も低い不純物の含有量であり、軽鎖及び重鎖(LC+HC)の合計に関するその純度は最も高かった。
【0077】
実施例18 GB235−019突然変異体抗体の示差走査熱量測定解析
突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aは、示差走査熱量測定(DSC)にそれぞれ供し、それぞれのTm値(50%の生物学的分子がその温度においてアンフォールド状態にあることを意味する、相転移温度)を決定した。実験条件は下記の通りである。130μlの検出細胞容量を有するマイクロキャル(MicroCal) VP−キャピラリー DSC示差走査熱量測定器(アメリカ合衆国、GE Inc.)を使用した。3つの突然変異体抗体をPBS(0.01M Na
2HPO
4・12H
2O+0.002M KH
2PO
4+0.14M NaCl+0.002M KCl,pH=8.6)を用いて各々0.9mg/mLに希釈した。PBSはブランク対照として使用し、温度変化を30℃から95℃へと設定し、スキャニング速度を60℃/時に設定した。
【0078】
図13は3つのGB235−019突然変異体抗体の示差走査熱量測定の測定図を示す。上記3つの分子のTm1はさまざまである。GB235−019N73QのTm1は比較的に最も低い値であるが、一方でGB235−019N73QのTm1はGB235−019S75Aの値と近い。Tm値が高ければ高いほどに、温度安定性は良い。Tm1の差異は突然変異がなんらかの効果をCH2ドメインにいくらかの程度、及ぼしたことを意味している。GB235−019N73D及びGB235−019S75AはGB235−019N73Qよりもより良い温度安定性を有していた。
【0079】
我々は以前、完全ヒトscFVファージライブラリースクリーニング技術及び遺伝子エンジニアリング組み換え発現技術を用いて、抗ヒトHER2(Her−2/neu)完全ヒトモノクローナル抗体GB235−019を取得した(中国特許出願第201410705404.0号を参照することができる)。GB235−019は濃度依存性及び飽和性の様式でヒトHER2、サルHER2及びマウスHER2に結合することができたが、ヒトHER1、HER3及びHER4抗原には結合することができなかった。ハーセプチンと組み合わせてのGB235−019の投与は、HER3リガンドヘレグリン−αにより誘導されたBT−474細胞のハーセプチンに対する抵抗性を反転することができ、GB235−019の別途投与は、HER3リガンドヘレグリン−αにより誘導されたBT−474細胞におけるHER3リン酸化の上方制御を阻害した。また、ハーセプチンと組み合わせてのGB235−019の投与は、ペルツズマブと同様に、HER3リガンドヘレグリン−αにより引き起こされたSK−BR−3細胞のハーセプチンに対する抵抗性を反転させることができた。ハーセプチンと組み合わせてのGB235−019の投与は、マウスにおけるヒト乳がん(KPL−4)異種移植片の成長を顕著に阻害した。GB235−019のFabフレームワーク領域3におけるAsn73は、N−グリコシル化部位であり、還元分子量の決定により、GB235−019 Fab上には複雑な多糖鎖が存在していたことが見出された。ヒトIgG FabのN−グリコシル化修飾は、抗体の抗原に対する結合機能における明らかな促進又は阻害効果を有するかもしれない。グリコシル化修飾が起きた場所におけるわずかな変化は、多糖鎖の続いて起こるプロセシング及び抗体の抗原に対する結合活性に対してまったく異なる効果を生じ、抗体産生プロセスにおける品質管理を複雑化させるかもしれない。3つの突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aは、GB235−019野生型抗体において点突然変異を施して得られたものである。3つの突然変異体抗体は、GB235−019野生型抗体の重鎖FabのN−連結グリカンについての特徴配列(Asn−Thr−Ser)を変化させた。還元分子量の決定により、3つの突然変異体抗体は重鎖Fabにおいてグリコシル化されていないことが確認された。
【0080】
免疫学的活性の同定により、突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aは、ヒトHER2抗原に濃度依存的及び飽和性の様式で特異的に結合する能力を有することが明らかになった。突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aは、顕著な差異無く、GB235−019WT抗体のものと同様の結合能力を有していた。ハーセプチンと組み合わせた突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの各々の投与はヘレグリン−αにより誘導された増殖を阻害した。ハーセプチンと組み合わせた3つの突然変異体抗体の各々の投与は、ヘレグリン−αにより誘導されたBT−474細胞の増殖を阻害するだけではなく、ヘレグリン−α誘導の前のものよりも低いレベルへの低下を、濃度依存的に著しく阻害した。3つの突然変異体抗体もまた、GB235−019WT抗体のものと同様の効果を、顕著な差異無く有していた。GB235−019N73D突然変異体抗体を別途に投与すると、ヘレグリン−αにより誘導されたBT−474細胞におけるHER3リン酸化の上方制御を顕著に阻害し、GB235−019N73D突然変異体抗体の効果はGB235−019WT抗体のものと同様であった。GB235−019N73D突然変異体抗体及びGB235−019WT抗体の各々を別途に投与すると、ヘレグリン−αにより誘導されたBT−474細胞におけるERK1/2リン酸化の上方制御を顕著に阻害し、GB235−019N73D突然変異体抗体の効果はGB235−019WT抗体のものと同様であった。GB235−019WT抗体及び突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの各々を別途に投与すると、ヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞におけるHER3リン酸化の上方制御を著しく阻害し、GB235−019N73Dはヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞におけるHER3リン酸化の上方制御を完全に反転させた。GB235−019WT抗体及び突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの各々を別途に投与すると、ヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞におけるAktリン酸化の上方制御を著しく阻害した。GB235−019WT抗体及び突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの各々を別途に投与すると、ヘレグリン−αにより誘導されたMCF7細胞におけるERK1/2リン酸化の上方制御を著しく阻害したが、それは3つの突然変異体抗体の生物学的活性をさらに確証した。上述のことをまとめると、本発明の抗体はHER2陽性腫瘍の治療のみだけでなく、HER2陰性腫瘍の治療にも使用することができる。
【0081】
我々は突然変異体抗体GB235−019N73D、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aの物理的及び化学的特性を解析した。分子サイズ排除クロマトグラフィーにより3つの突然変異体抗体の解析により、GB235−019N73D抗体の主要ピークの純度は88.3%であり、GB235−019N73Q抗体の主要ピークの純度は89.7%であり、GB235−019S75A抗体の主要ピークの純度は93.1%であり、3つの突然変異体抗体の全ての主要ピークの純度は85%より高いことが明らかになった。画像化キャピラリー等電点電気泳動(iCIEF)により、それぞれの主要ピークの等電点(pI)及び3つの突然変異体抗体の荷電アイソマーの純度が明らかになった。3つの突然変異体抗体は、約9.4から9.6の範囲の測定等電点を有していた。GB235−019N73Dの等電点は、GB235−019N73Q及びGB235−019S75Aのものよりも約0.1低く、その主要ピークは比較的に最も高かった。還元キャピラリーゲル電気泳動解析(rCE−SDS)により、3つの突然変異体抗体のそれぞれの純度(軽鎖及び重鎖のパーセンテージの合計)が明らかになった。3つの突然変異体抗体の全ては少量の低分子量不純物及び高分子量不純物を有していた。GB235−019N73Dは比較的に最も低い不純物含有量であり、その純度は軽鎖及び重鎖の合計(LC+HC)の観点で最も高かった。示差走査熱量測定(DSC)により、3つの突然変異体抗体のそれぞれのTm値(50%の生物学的分子がその温度においてアンフォールド状態にあることを意味する、相転移温度)が明らかになった。3つの分子のTm1はさまざまであった。GB235−019N73QのTm1は比較的に最も低い一方で、GB235−019N73QのものはGB235−019S75Aのものと近い値であった。Tm値が高ければ高いほど、より良い温度安定性である。Tm1についての差異は、突然変異がCH2ドメインになんらかの効果を及ぼしたことを、ある程度示している。GB235−019N73D及びGB235−019S75AはGB235−019N73Qよりも良い温度安定性を有していた。