【実施例1】
【0043】
図1は、会計処理システムの構成を示す図である。会計処理システム1は、証憑3を入力し出力仕訳データ4を出力するシステムであり、証憑入力部11、仕訳判定部12、学習部13及び結果出力部14を備えている。
【0044】
証憑入力部11は、証憑3を入力し仕訳要素21を出力する。なお、仕訳要素21は、後述する仕訳データ22に含まれる。証憑入力部11は、仕訳要素21以外のデータを有さない状態の仕訳データ22(実質的に仕訳要素21)を出力してもよい。
【0045】
仕訳判定部12は、仕訳要素21を入力し、それに基づいて勘定科目を決定して出力仕訳データ4を出力する。仕訳判定部12は、仕訳AI121、仕訳AI補助システム122及び精度判断部123を備えている。
【0046】
図2は、仕訳データを示す図である。仕訳データ22a,22b、学習仕訳データ23及び出力仕訳データ4は、全て
図2に示す構成である。なお、具体的なデータフォーマットについては適宜に設定してよく、仕訳データ22a,22b、学習仕訳データ23及び出力仕訳データ4において相違していてもよい。これらを総括して仕訳データ22として説明する。
【0047】
仕訳データ22は、仕訳要素21と勘定科目とを含むデータである。仕訳要素として、金額、取引先、摘要及び日付を含む。ここで、金額は、会計処理の上で必須である。また、取引先及び摘要は、仕訳判定部12が勘定科目を生成するため少なくとも一方が必須である、ただし、勘定科目を生成できる限りにおいて一方のみであって両方でなくともよい。また日付は必ずしも必要でないが、年度の区分、月毎あるいは四半期毎の集計のために存在することが好ましい。図中、31a、31bは、それぞれ、1枚の証憑3に対応するデータを示す。
【0048】
仕訳AI121は、学習結果121aに基づいて仕訳を行う(勘定科目を生成する)AIである。本実施例では、仕訳要素21をベクトル化し、ニューラルネットワークに基づく学習を行ったものとするが、いかなる形態であってもよい。各種の公知の手法を用いることができる。例えば、ベクトル化されたデータに対する数学的なクラスタリングを用いても、ファジイ制御を用いてもよい。仕訳AI121は、仕訳要素21を入力し、仕訳データ22aを出力する。
【0049】
仕訳AI補助システム122は、ルール122aに基づいて仕訳を行うプログラムである。本実施例では、後述する形式のルール122aをデータとして読み込んで処理するものとするが、任意の形態であってよい。例えば、ルール122aを仕訳AI補助システム122のサブルーチンプログラムとして構成してもよい。
【0050】
図3は、ルールを示す図である。ルール122aは、番号付けられたルールの集合データである。各々のルールは、図中の各行に示す通り、条件122a1と勘定科目122a2から構成される。条件122a1が充足された場合に勘定科目122aを設定するためのものである。
【0051】
図において、条件122a1を複数の数式として示しているが、これらの数式の全てが充足された場合に条件が充足されたものとする。ここで、集合の要素記号「∈」は、取引先が会計処理システム1の有するデータベース(非図示)において飲食店に分類されていることを示す。条件122a1のデータ形式は任意である。図のように数式を示すテキストであってもよく、例えばスクリプト言語のようにプログラム形式の記述であってもよい。
【0052】
勘定科目122a2は、条件122a1が充足された場合に仕訳データ22bに設定される勘定科目である。図中の空欄は、その勘定科目を仕訳データ22aから変更しないことを示す。仕訳AI補助システム122は、仕訳データ22aを入力し、仕訳データ22bを出力する。
【0053】
精度判断部123は、仕訳データ22aを仕訳AI補助システム122に処理させるか否かを決定する。精度判断部123によって仕訳AI補助システム122に処理させないと判断された仕訳データ22aは、出力仕訳データ4として出力される。精度判断部123によって仕訳AI補助システム122に処理させると判断された仕訳データ22aは、仕訳AI補助システム122によって処理され、その結果の仕訳データ22bが出力仕訳データ4として出力される。なお、図中、精度判断部123を分岐として描いているが、分岐を主機能とするプログラムである。
【0054】
学習部13は、学習仕訳データ23に基づいて学習を行い、その結果を学習結果121aとして出力する。学習の処理については、仕訳AI121に合わせた公知の処理を用いればよい。学習処理は、実際に行われた仕訳における仕訳要素及び勘定科目を用いる教師付き学習とすることができる。ただし、仕訳要素のみを用いる教師なし学習で仕訳要素を分類し勘定科目を別途付与することも可能である。
【0055】
結果出力部14は、仕訳データ22a及び仕訳データ22bを結果24として出力する。いかなる仕訳データを出力するかについては、任意に設計してよい。本実施例では、仕訳AI補助システム122の処理によって仕訳データ22aと仕訳データ22bとが相違する場合に出力するものとする。このほか、例えば金額の大きな証憑についてユーザの確認を求めるために出力する等、任意に設計してよい。
【0056】
図4は、出力される結果を示す図である。ルール番号2のルールが適用され、仕訳データ22aが仕訳データ22bに修正されたこと、すなわち借方勘定科目が接待交際費とされたことを示している。なお「出力」は、ディスプレイに表示する、プリンターを用いて印刷する、データとして出力する、その他任意の方法でユーザに情報を伝達することができる。
【0057】
証憑3は、レシート等の印刷されたもの、電子化されたデータ、その他入力可能な伝票類である。印刷されたものとしては、例えば領収書、請求書、銀行通帳等が証憑3となる。電子化されたデータとしては、例えばオンラインバンキングのデータ、会計ソフトウェアの出力データが証憑3となる。
【0058】
出力仕訳データ4は、会計処理システム1の出力する仕訳データであり、会計ソフトウェア5に入力されるものである。仕訳データ22a及び仕訳データ22bと同一内容のデータである。なお、csv形式とする等、仕訳データ22a及び仕訳データ22bからのフォーマット変換を施して会計ソフトウェア5に合わせたものであってもよい。
【0059】
会計ソフトウェア5は出力仕訳データ4に基づいて、会計帳票を作成する。広く用いられているソフトウェアを使用することができる。
【0060】
以下、会計処理システム1の処理について説明する。
【0061】
図5は、証憑入力部の処理を示すフローチャートである。会計処理システム1への証憑3の入力は、証憑入力部11によって実行される。
【0062】
証憑3が印刷物である場合、証憑入力部11は、スキャナ等の光学的読取装置を用いて証憑3をスキャンする。その後、スキャンによって得られた画像データから仕訳要素を抽出する。仕訳要素は、テキストとして印刷されている(特に金額)場合や、ロゴなどのイメージとして印刷されている場合や、1次元又は2次元のバーコードとして印刷されている場合がある。いずれの場合についても、レシートなどを読み取って家計簿等を作成するために用いられる公知の手法によって仕訳要素21を抽出することができる。
【0063】
証憑3が電子データである場合、証憑入力部11は、電子データから仕訳要素を抽出する。
【0064】
なお、証憑3として会計ソフトウェア、クラウド会計、入力代行サービス、その他のデータを用いる場合等、証憑入力部11が必ずしも必要でない場合もある。
【0065】
以下、2の証憑31a及び31bが入力され、
図2に示す2の仕訳要素が抽出されたものとして説明する。
図2には勘定科目も示されているが、この段階では勘定科目は未決定である。
【0066】
抽出された仕訳要素21は、仕訳判定部12の仕訳AI121に入力される。仕訳AI121は、学習結果121aに基づいて仕訳を行う。仕訳AI121の行う仕訳については、出願人が特願2016−244741において開示した手法、あるいは公知の手法を用いることができるので、詳細な説明を省略する。仕訳AI121によって、
図2に示すように勘定科目が決定される。
【0067】
仕訳AI121の出力する仕訳データ22aは、精度判断部123に入力される。精度判断部123は、入力された仕訳データ22aに対して、それを仕訳AI補助システム122に処理させるか否かを判断する。仕訳AI121による判断が信頼できる場合には、それを検証するために仕訳AI補助システム122に処理させる必要に乏しいためである。
【0068】
精度判断部123は、仕訳AI補助システム122に処理させないと判断された仕訳データ22aを、出力仕訳データ4として出力する。
【0069】
図6は、精度判断部の処理を示すフローチャートである。精度判断部123は、仕訳AI121による判断が十分に信頼できない仕訳データ22aを抽出し、仕訳AI補助システム122に処理させる。
【0070】
図には、仕訳AI121による判断が十分に信頼できない場合として、「仕訳要素が要注意要素か」(仕訳要素に依存して、例えば経験的に仕訳の誤りが知られている場合にその仕訳要素を「要注意要素」と呼ぶ)、「学習仕訳データに相反記載があるか」(簿記のルールによれば2以上の勘定科目が認められる)の2つのものを記載しているが、これらに限定されず、任意に設定してよい。例えば、仕訳AI121が学習データの基づく判断の確信度を出力し、それに基づいてもよい。ユーザに依存して仕訳AI補助システム122に処理させるべき仕訳データ22aは変動する。また、精度判断部123を設けずに、全ての仕訳データ22aを仕訳AI補助システム122に処理させることとしてもよい。
【0071】
本実施例では、証憑31bに係る仕訳データ22aについて、学習仕訳データ23に相反記載があり(飲食店への支出について、借方勘定科目が「会議費」のものと「接待交際費」のものとがあり)、証憑31bに係る仕訳データが仕訳AI補助システム122に処理させるものと判断されたとする。
【0072】
仕訳AI補助システム122に処理させるものと判断されなかった証憑31aに係る仕訳データ22aは、出力仕訳データ4として出力される。
【0073】
図7は、仕訳AI補助システムの処理を示すフローチャートである。仕訳AI補助システム122は、仕訳データ22aを検証し、必要に応じて修正して仕訳データ22bを出力する。
【0074】
仕訳AI補助システム122は、仕訳データ22aがルールの条件122a1に合致するか否かを、ルール毎に順に検証し、条件122a1に合致する仕訳データ22aについては、その勘定科目を、ルールの勘定科目122a2に修正する。むろん、仕訳データ22aの勘定科目がルールの勘定科目122a2と同一であれば、修正を必要としない。
【0075】
ここで、1のルールの条件122a1に合致する仕訳データ22aについては、それ以降のルールの適用を行わないので、ルール122は、摘要の優先順にルール番号を付与しておくものとする。
【0076】
ここで、
図3に示されたルールは、ルール番号1のルールが個別のユーザの事情に基づくものであり(手帳は顧客への贈答品としても購入され得るが、文具店Cからは社員の業務に使用する手帳を購入するので「事務用品費」である)、簿記のルールによれば2以上の勘定科目が認められるものについて、そのうち1の勘定科目を選択するものである。また、ルール番号2のルールが法令の取り決めによって要求されているものである。ルール番号2のルールについて、1人当たり5000円という法令の取り決め(特に「5000」という具体的な数値)を学習で定めることは容易でない。なお、取り決めは法令によるものに限られず、会社や税理士事務所等の個別の仕訳ルールによるものであってもよい。
【0077】
なお、ルール番号1のルールの変形として、文具店C以外の文具店について、勘定科目に「事務用品費」「消耗品費」の2つを含み、仕訳AI補助システム122がそれをユーザに提示して選択を求めることもできる。例えば、仕訳AIの信頼度が低く、かつ、ルールが厳密に定められない場合に、ユーザの判断を尊重するものである。
【0078】
修正された(又は修正されなかった)仕訳データ22bが出力され、出力仕訳データ4として出力される。本実施例では、証憑31bに係る仕訳データがるルール番号2のルールの条件に合致し、借方勘定科目が接待交際費に修正されている。
【0079】
会計ソフトウェア5が出力仕訳データ4に基づいて、会計帳票を作成する。
【0080】
以上詳細に説明したように、本実施例の会計処理システム1によれば、教師付き学習では精度を確保できない場合について、仕訳AI補助システム122を用いて精度を向上させることができ、高精度の自動仕訳を行うことができる。
【実施例2】
【0081】
本実施例は、会計処理システム1の実装方法に係るものである。会計処理システム1の構成は実施例1と同様であり、詳細な説明を省略する。
【0082】
ユーザが小規模の企業等である場合、統計的な精度を保つだけの学習仕訳データ23を準備することが困難である。そこで、学習仕訳データ23として、ユーザ自身の仕訳のみに限定せずに、他の者の仕訳をも使用して多数の仕訳を使用する。小規模の企業等がユーザの場合にも、学習仕訳データ23を準備して仕訳AI121を構築することができる。
【0083】
複数の企業の仕訳を使用すると、各々の企業の方針等に依存して、学習仕訳データに相反記載がある可能性が高い。しかし、仕訳AI補助システム122において個別のユーザの事情に基づくルール122aを処理することで、かかる問題を解決することができる。
【0084】
ここで、個別のユーザの事情は、システム提供者でなくユーザが知識を有することが多い。例えば
図3におけるルール番号1のルールである(手帳は顧客への贈答品としても購入され得るが、文具店Cからは社員の業務に使用する手帳を購入するので「事務用品費」である)。また、個別のユーザの事情は変化することもある。そこで、ルール122aを更新可能なデータとして保持し、ユーザが結果24を参照しつつ変更(更新、追加、削除)できるようにする。
【0085】
一方、
図3におけるルール番号2のルールのように法令の取り決めによって要求されているものは、システム提供者が事前に準備可能である。
【0086】
出願人の実験によれば、仕訳AI121の仕訳精度が略90%であるが、仕訳AI補助システム122を用いることで、ユーザの判断を求めることなく仕訳判定部12の精度は略98%となった。ユーザの判断を求めるのであれば、さらに高精度が期待される。
【0087】
以上詳細に説明したように、本実施例の会計処理方法は、小規模の企業等でも実装可能であり、小規模の企業等でも活用できる会計処理方法が提供される。