特許第6263853号(P6263853)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263853
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】繊維構造物
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/277 20060101AFI20180115BHJP
   D06M 13/268 20060101ALI20180115BHJP
   D06M 13/238 20060101ALI20180115BHJP
   D06M 15/41 20060101ALI20180115BHJP
   A41D 7/00 20060101ALI20180115BHJP
   D06M 101/38 20060101ALN20180115BHJP
   D06M 101/32 20060101ALN20180115BHJP
   D06M 101/34 20060101ALN20180115BHJP
【FI】
   D06M15/277
   D06M13/268
   D06M13/238
   D06M15/41
   A41D7/00 Z
   D06M101:38
   D06M101:32
   D06M101:34
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-71459(P2013-71459)
(22)【出願日】2013年3月29日
(65)【公開番号】特開2014-194098(P2014-194098A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2016年3月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】柄澤 留美
(72)【発明者】
【氏名】竹田 恵司
【審査官】 佐藤 玲奈
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−137253(JP,A)
【文献】 特開2012−097125(JP,A)
【文献】 特開2010−150693(JP,A)
【文献】 特開2017−036529(JP,A)
【文献】 特開平08−296175(JP,A)
【文献】 特開平03−279472(JP,A)
【文献】 特開昭55−071729(JP,A)
【文献】 特開2007−270374(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/093568(WO,A1)
【文献】 特開2002−294563(JP,A)
【文献】 特許第5890400(JP,B2)
【文献】 特許第5698262(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00 − 15/715
A41D 7/00
D06M 101/32
D06M 101/34
D06M 101/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン弾性糸を含む合成繊維からなる繊維構造物であって、該繊維表面に固着したスルホン基含有化合物および多価フェノール系化合物から選ばれた少なくとも1種を介して炭素数6以下のフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル誘導体とフッ化モノマーとのフッ素重合体、メラミン樹脂および水分散型多官能性イソシアネート架橋剤から選ばれた少なくとも一種が付着した撥水性を有する繊維構造物であって、該炭素数6以下のフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル誘導体が一般式CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOCOCR=CH2で(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは1〜6の整数であり、aは1〜4の整数であり、bは1〜3の整数であり、cは1〜3の整数である)で示される化合物であり、該重合体が付着した該繊維構造物の保水率が繊維構造物重量の90%以下であり、かつ高速液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)で測定したときのパーフルオロオクタン酸および/またはパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が5ng/g未満であることを特徴とする繊維構造物。
(測定方法)20×20cmに切った繊維構造物の中央に直径11.2cmの円を描き、該円の面積が80%拡大されるように伸張し、撥水度試験(JIS L 1092)に使用する試験片保持枠に取り付け、スプレー試験(JIS L 1092)を行った後、保持枠から取り外し、20℃×53%RHの環境下で風乾する。同繊維構造物を10枚準備し、1枚ずつ重量を測定したものを「処理前重量」とする。
洗濯機(JIS C 9606)に30Lの水を入れ(水温;25〜29℃)、前記繊維構造物10枚を水中に入れ「強条件」で10分間回転させた後、水中から一枚ずつ取り出し、拡布状態で15度程度傾けて10秒間待って、繊維構造物についた水滴を落とし、重量を測定したものを「処理後重量」とし、下記式により保水率を測定する。
保水率(%)=((処理後重量−処理前重量)/処理前重量)×100
【請求項2】
該フッ素重合体がフッ素元素を含まない撥水性化合物と混在し繊維表面に固着していることを特徴とする請求項1に記載の繊維構造物。
【請求項3】
該フッ素重合体が炭素数6以下の直鎖状パーフルオロアルキル基含有化合物と混在し繊維表面に固着していることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維構造物。
【請求項4】
該合成繊維がポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の撥水性を有する繊維構造物。
【請求項5】
請求項1〜のいずれかに記載の繊維構造物からなる水着。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境問題に配慮したフッ素系撥水剤を使用し、且つ高い撥水性と水中に浸漬した場合に濡れにくい、低保水率を示す優れた撥水性繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維製品からなる衣料用品、産業資材用品に撥水性、撥油性を付与するのには、古くからフッ素系化合物からなる撥水・撥油剤が広く使用されている。
しかしながら、かかるフッ素系撥水撥油剤に生活環境、生物に影響を及ぼす可能性のある化合物、例えばパーフルオロオクタン酸(以降PFOA)、パーフルオロオクタンスルホン酸(以降PFOS)等が含まれていることが判明しており、かかる化合物を含まないフッ素系撥水撥油剤を使用した繊維製品が要望されている。
PFOAは、フッ素系撥水剤の製造過程において、微量の不純物として撥水剤中に混入するとされるが、メカニズムについては明確ではない。ポリフルオロアルキル基の炭素数が8以上の場合、何かの影響で分解された場合、PFOAが発生する可能性があるということから、分解してもPFOAが発生しえない炭素数6以下のポリフルオロアルキル機を有するフッ素系撥水剤が使用されることが多くなってきており、PFOA非含有フッ素系撥水剤と架橋剤とを付与し、熱処理した撥水撥油性布帛や(特許文献1)、PFOAおよび/またはPFOSの濃度が5ng/g未満であるフッ素系撥水化合物が単繊維表面に固着しており、更に層状に該フッ素系化合物を固着させるなど、2層構造としたもの(特許文献2)などが提案されている。しかしながら、これらはいずれも炭素数8以上のPFOAを含有するフッ素系撥水剤と比較すると撥水性能が低いものであった。
これらを、いかにして性能向上させるかということでトリアジン環含有化合物皮膜を介して層状にPFOAおよび/またはPFOSの量が5ng/g未満の撥水剤を固着させる方法(特許文献3)、PFOAの濃度が5ng/g未満のフッ素系撥水剤とPFOAの濃度が5ng/gを越えるフッ素系撥水剤を混合し、両者混合物が5ng/g未満であるフッ素系撥水剤を使用した方法(特許文献4)などが提案されている。
トリアジン環のような硬い被膜を形成すると、フッ素系撥水剤の接着性を高めても、撥水剤自身の性能が低く、性能向上にはつながらず、また、C8以上のフッ素系撥水剤と混合しても、逆にC8以上の撥水剤の性能の足を引っ張るだけで、性能向上にはならないのが現状である。
同じく撥水性能を向上させる目的で、トリアジン環含有化合物皮膜の代わりにスルフォン化フェノールホルムアルデヒド低縮合物および尿素樹脂を浸漬処理した後、フッ素系撥水剤で撥水加工する方法が提案されている(特許文献5)。しかしながらかかる特許文献に記載されているフッ素系撥水剤はPFOAを含有しているものであって、環境に配慮したものとは言えないものであった。
また、炭素数6以下の直鎖状パーフルオロアルキル基含有化合物以外のPFOA非含有フッ素系撥水剤を繊維に使用したものとしてフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体にフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンを重合させたフッ素重合体が繊維表面改質剤として提案されている(特許文献6)。しかしながら、該重合体を繊維に固着させただけでは保水率を低減させることは難しく、特にポリウレタン繊維を含むような繊維布帛に適用した場合、ポリウレタン繊維表面に撥水剤が付着しにくい傾向にあり、更に保水率を低減させることは困難となるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−270374号公報
【特許文献2】特開2010−150693号公報
【特許文献3】特開2007−247090号公報
【特許文献4】特開2007−247096号公報
【特許文献5】特開平10―77579号公報
【特許文献6】特開2012−97125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題点に鑑み、環境問題に配慮したフッ素系撥水剤を使用し、且つ高い撥水性と水中に浸漬した場合に濡れにくい優れた撥水撥油性能を有する繊維構造物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を解決するために、次の手段を採用するものである。
(1)ポリウレタン弾性糸を含む合成繊維からなる繊維構造物であって、該繊維表面に固着したスルホン基含有化合物および多価フェノール系化合物から選ばれた少なくとも1種を介して炭素数6以下のフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル誘導体とフッ化モノマーとのフッ素重合体、メラミン樹脂および水分散型多官能性イソシアネート架橋剤から選ばれた少なくとも一種が付着した撥水性を有する繊維構造物であって、高速液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)で測定したときのパーフルオロオクタン酸および/またはパーフルオロオクタンスルホン酸の濃度が5ng/g未満であることを特徴とする繊維構造物。
(2)該フッ素重合体が一般式 CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOCOCR=CH2 で(ここで、Rは水素原子またはメチル基であり、nは1〜6の整数であり、aは1〜4の整数であり、bは1〜3の整数であり、cは1〜3の整数である)で示される化合物であって、該重合体が付着した該繊維構造物の保水率が繊維構造物重量の90%以下であることを特徴とする請求項1に記載の撥水性を有する繊維構造物。
(測定方法)20×20cmに切った繊維構造物の中央に直径11.2cmの円を描き、該円の面積が80%拡大されるように伸張し、撥水度試験(JIS L 1092)に使用する試験片保持枠に取り付け、スプレー試験(JIS L 1092)を行った後、保持枠から取り外し、20℃×53%RHの環境下で風乾する。同繊維構造物を10枚準備し、1枚ずつ重量を測定したものを「処理前重量」とする。
【0006】
洗濯機(JIS C 9606)に30Lの水を入れ(水温;25〜29℃)、前記繊維構造物10枚を水中に入れ「強条件」で10分間回転させた後、水中から一枚ずつ取り出し、拡布状態で15度程度傾けて10秒間待って、繊維構造物についた水滴を落とし、重量を測定したものを「処理後重量」とし、下記式により保水率を測定する。
【0007】
保水率(%)=((処理後重量−処理前重量)/処理前重量)×100
(3)該フッ素重合体がフッ素元素を含まない撥水性化合物と混在し繊維表面に固着していることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維構造物。
(4)該フッ素重合体が炭素数6以下の直鎖状パーフルオロアルキル基含有化合物と混在し繊維表面に固着していることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維構造物。
(5)該合成繊維がポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の撥水性を有する繊維構造物。
(6)請求項1〜5のいずれかに記載の繊維構造物からなる水着。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、撥水性、水中での低濡れ性に優れ、かつ、製造工程でのPFOAの環境(排水)への放出や繊維構造物からのPFOAの発生を抑えることのできる環境に優しい撥水性繊維構造物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、前記課題について鋭意検討した結果、繊維表面に固着したスルホン基含有化合物、多価フェノール系化合物から選ばれた少なくとも1種を介して特定のフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体を一部に含む重合体とメラミン樹脂および水分散型多官能イソシアネート系架橋剤を繊維表面に固着させることで、かかる課題を一挙に解決することを究明したものである。
【0010】
本発明のスルホン基含有化合物とは、α−オレフィンスルホン化物の塩やフェノールホルマリン樹脂のスルホン化物、イソフタル酸ジメチルスルホン酸ナトリウム塩などが挙げられる。より好ましくは平均炭素数12〜30であるα−オレフィンスルホン化物の塩である。また、本発明の多価フェノール系化合物としては、たとえば天然タンニンやノボラック型、レゾール型などのフェノールホルマリン樹脂のスルホン化物で代表される合成タンニンが挙げられる。
【0011】
これらは、アミノ基に対し親和性を有するためポリアミド繊維に限定され使用されるが、その他の合成繊維であるポリエステルやポリウレタン弾性繊維、ポリプロピレン繊維などに対しても皮膜を形成させることができ、かかる皮膜を介することによりフッ素重合体の付着性が向上し、更にはフッ素重合体が繊維表面に均一に付着するため撥水性が向上するものである。
【0012】
該スルホン基含有化合物、多価フェノール系化合物を繊維に固着させる方法としては特に限定されるものではないが、好ましくは該スルホン基含有化合物や多価フェノール系化合物を含有した水溶液(以下、前処理と略称する)に繊維構造物を浸漬処理するのが好ましく、該化合物を含有した繊維重量に対し、固形分で1〜10重量%が好ましく、より好ましくは2〜5重量%程度である。1重量%より少ないと効果が十分に発揮されず、また10重量%を超えると、風合いが硬くなる傾向にある。該前処理液はpHを2〜6に調整することが該効果を得るためには好ましい。pH調整には酢酸、マレイン酸、塩酸、硫酸、ギ酸などの酸を使用すればよく、特に限定されることはない。
該繊維構造物と該前処理液との浴比(重量比)は特に限定されるものではないが、繊維構造物1に対し前処理液10〜50の範囲が好ましい。
前処理温度は40〜100℃が好ましく、より好ましくは50〜90℃であり処理時間は10〜60分が好ましい。本発明に使用される重合体は、炭素数6以下のフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル誘導体とフッ化モノマーとの重合体である。フッ化モノマーとしてはフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンが挙げられる。
炭素数6以下のフルオロアルキル基含有(メタ)アクリル誘導体としては具体的には一般式CnF2n+1(CH2CF2)a(CF2CF2)b(CH2CH2)cOHで表されるフルオロアルキルアルコールをアクリル酸またはメタクリル酸とエステル化反応させることにより製造される化合物が挙げられる。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸またはメタクリル酸を示している(以下、同じ)。このフルオロアルキルアルコールは、これに対応するフルオロアルキルアイオダイドから製造されるが、製造方法については、特に限定されるものではない。
【0013】
本発明はかかる重合体とメラミン樹脂、水分散型多官能イソシアネート系架橋剤から選ばれた少なくとも一種を含むものである。
【0014】
かかるメラミン樹脂とは、トリメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンなどが挙げられる。
【0015】
また、かかる水分散型多官能イソシアネート系架橋剤とは分子中に2個以上のイソシアネート官能基を含む有機化合物であれば特に限定されるものではなく、トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニールメタンジイソシアネート、水素添加ジフェニールメタンジイソシアネート、トリフェニールトリイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジクロヘキシルメタンジイソシアネート等が挙げられる。より好ましくは、トリメチロールプロパントリレンジイソシアネートアダクト、フリセリントリレンジイソシアネートアダクトなどにブロッキング化化合物(イソシアネートアダクトとともに70〜200℃に加熱することで、イソシアネート基を再生させる化合物)である、フェノール、マロン酸ジエチルエステル、メチルエチルケトオキシム、重亜硫酸ソーダ、ε−カプロラクタムなどを反応させた多官能ブロックイソシアネート架橋剤である。
【0016】
これらメラミン樹脂は、フッ素重合体の固形分に対し1〜40重量%、多官能イソシアネート系架橋剤はかかるフッ素重合体の固形分に対し、1〜10重量%の割合で混合されていることが好ましい。
【0017】
本発明は、特定のフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体を一部に含む重合体とフッ素元素を含まない撥水性化合物とが混在し、繊維表面に付着していても良い。
【0018】
該フッ素元素を含まない撥水性化合物としては、パラフィン系化合物、脂肪族アマイド系化合物、アルキルエチレン尿素系化合物、シリコーン系化合物であり、公知の化合物を使用することができ、これらの1種または2種以上を混合しても良い。該重合体とフッ素元素を含有しない撥水性化合物の重量混合比は特に限定されるものではないが、該重合体1に対して0.001〜1であり、好ましくは0.01〜0.5である。0.001より少ないと撥水性の耐久性が認めにくい場合があり、1.0を越えるとむしろ耐久性が低下する場合がある。
【0019】
また本発明は特定のフルオロアルキルアルコール(メタ)アクリル酸誘導体を一部に含む重合体と炭素数6以下の直鎖状パーフルオロアルキル基含有化合物とが混在し繊維表面に固着していても良い。
【0020】
該炭素数6以下の直鎖状パーフルオロアルキル基含有化合物とは、PFOA、PFOSの量を高速液体クロマトグラフ−質量分析計(LC−MS)で測定したときに、定量下限の5ng/g未満である化合物であり、旭硝子(株)製のフッ素系撥水撥油剤であるアサヒガードE−082、E−081、日華化学(株)製のNKガードS−55や住友スリーエム(株)製のスコッチガードPM3622、PM490、PM930などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明の繊維構造物に使用する繊維は特に限定するものではないが、特に合成繊維が好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらを主成分とした共重合ポリエステル系繊維に代表されるポリエステル系合成繊維、ナイロン6やナイロン6,6に代表されるポリアミド系合成繊維などの合成繊維を用いることができる。また本発明の繊維構造物は、ポリウレタン弾性繊維が複合されていることが好ましい。
【0022】
ポリウレタン弾性繊維は繊維構造物に対し、15〜50%、さらに好ましくは20%〜40%複合されていることがこのましく、他の合成繊維の糸状でポリウレタン弾性繊維をカバーリングされている構造の織物、編物が好ましい。
【0023】
本繊維構造物は、水着に好適に用いられる。
【0024】
水着として使用することで、泳いだ際にも水中での濡れ性が抑制され、特に競泳水着として使用した際には、競泳中の水着の濡れが抑制され且つ、水抵抗も低減されるものである。
【実施例】
【0025】
以下、実施例により、本発明の繊維構造物について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。実施例中の品質評価は、次の方法で実施した。
(PFOAおよびPFOSの量)
次の条件で測定し、ng/gで表示した。
装置:LC−MS/MSタンデム型質量分析計TSQ−7000(サーモエレクトロン)
高速液体クロマトグラフLC−10Avp(島津製作所)
カラム:Capcellpak C8 100mm×2mmi.d.(5μm)
移動層:A;0.5mmol/L酢酸アンモニウム
B;アセトニトリル
流速:0.2mL/min、試料注入量:3μL
イオン化電圧:4.5kv、イオンマルチ:1300v
イオン化法:ESI−Negative
(撥水性)
JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法」(1998年)に規定される方法でスプレー法により評価を行い、級判定を行った。
(保水率)
20×20cmに切った繊維構造物の中央に直径11.2cmの円を描き、該円の面積が80%拡大されるように伸張し、撥水度試験(JIS L 1092)に使用する試験片保持枠に取り付け、スプレー試験(JIS L 1092)を行った後、保持枠から取り外し、20℃×53%RHの環境下で風乾する。同繊維構造物を10枚準備し、1枚ずつ重量を測定したものを「処理前重量」とする。
【0026】
洗濯機(JIS C 9606)に30Lの水を入れ(水温;25〜29℃)、前記繊維構造物10枚を水中に入れ「強条件」で10分間回転させた後、水中から一枚ずつ取り出し、拡布状態で15度程度傾けて10秒間待って、繊維構造物についた水滴を落とし、重量を測定したものを「処理後重量」とし、下記式により保水率を測定する。
【0027】
保水率(%)=((処理後重量−処理前重量)/処理前重量)×100
(試験用基布1)
33デシテックス、10フィラメントのナイロン66加工糸で78デシテックスのポリウレタン弾性繊維をカバーリングした糸を経糸に、33デシテックス、10フィラメントのナイロン66加工糸で55デシテックスのポリウレタン弾性繊維をカバーリングした糸を緯糸に使用したナイロン78%、ポリウレタン22%織物を作成し、通常の精練、染色を行いタテ密度179×ヨコ密度180本/インチの織物としたものを試験用基布1とした。
(試験用基布2)
44デシテックス、36フィラメントのカチオン可染ポリエステルで44デシテックスのポリウレタン弾性繊維をカバーリングしカチオン可染ポリエステル65%、ポリウレタン35%のトリコットを作成し、通常の精練、染色を行いウェル50×コース40本/インチの編物としたものを試験用基布2とした。
(実施例1)
試験用基布1を液流染色機を使用し、前処理として下記に示した加工液で浴比1:20に調整し、常温から80℃まで2℃/分で昇温し、30分間浴中処理した。次いで50℃まで降温した後、廃液、水洗、脱水後にピンテンターを使用し140℃で乾燥した。
・ナイロンフィックス501(センカ(株) 製 多価フェノール系縮合物):5%owf
かかる基布1を使用し、下記に示した加工液に浸漬し、絞り率91%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。
【0028】
得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに、保水率が低く優れた撥水性を示す繊維構造物が得られた。また、PFOA含有量についても5ng/g未満であり、環境的にも優れた繊維構造物である。
・CF(CF(CHCF)(CFCF(CHCH)OCOH=CH
のフッ素重合体乳化分散液(固形分30%) : 100g/L
・ベッカミンM−3(大日本インキ化学工業(株)製 メラミン樹脂) :3g/L
・ベッカミンACX(大日本インキ化学工業(株)製 触媒):2g/L
・スーパーフレッシュJB7200
((株)京絹化成 製 水分散型多官能性イソシアネート架橋剤 : 5g/L
(実施例2)
試験用基布2を液流染色機を使用し、前処理および撥水加工について実施例1と同様の処理を行った。
得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに、保水率が低く優れた撥水性を示す繊維構造物が得られた。また、PFOA含有量についても5ng/g未満であり、環境的にも優れた繊維構造物である。
(実施例3)
試験用基布2を液流染色機を使用し、前処理として下記に示した加工液で浴比1:20に調整し、常温から70℃まで2℃/分で昇温し、30分間浴中処理した。次いで50℃まで降温した後、廃液、水洗、脱水後にピンテンターを使用し140℃で乾燥した。
・TR−AN((株)京絹化成 製 スルホン基含有化合物) : 5%owf
・酢酸(純分90%品) : 2g/L
かかる基布2を使用し、実施例1と同様の処理を行った。
【0029】
得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに、保水率が低く優れた撥水性を示す繊維構造物が得られた。また、PFOA含有量についても5ng/g未満であり、環境的にも優れた繊維構造物である。
(実施例4)
実施例3の前処理を行った基布2を使用し、下記に示した加工液に浸漬し、絞り率40%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに、保水率が低く優れた撥水性を示す繊維構造物が得られた。
【0030】
また、PFOA含有量についても5ng/g未満であり、環境的にも優れた繊維構造物である。
・CF(CF(CHCF)(CFCF(CHCH)OCOH=CH
のフッ素重合体乳化分散液(固形分30%) : 100g/L
・SM8706
(東レ・ダウコーニング(株) 製 シリコーン系撥水剤、固形分33%) :5g/L
・ベッカミンM−3
(大日本インキ化学工業(株)製 メラミン樹脂、固形分80%) :3g/L
・ベッカミンACX(大日本インキ化学工業(株)製 触媒) :2g/L
・NKアシストV
(日華化学(株)製、水分散型多官能性イソシアネート架橋剤、固形分40%):5g/L
(実施例5)
実施例1の前処理を行った基布1を使用し、下記に示した加工液に浸漬し、絞り率91%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに、保水率が低く優れた撥水性を示す繊維構造物が得られた。
【0031】
また、PFOA含有量についても5ng/g未満であり、環境的にも優れた繊維構造物である。
・CF(CF(CHCF)(CFCF(CHCH)OCOH=CHのフッ素重合体乳化分散液(固形分30%) : 100g/L
・パラヂウムECO200
(大原パラヂウム化学(株) 製 パラフィン系撥水剤、固形分20%) :20g/L
・ベッカミンM−3
(大日本インキ化学工業(株)製 メラミン樹脂、固形分80%) :3g/L
・ベッカミンACX(大日本インキ化学工業(株)製 触媒) :2g/L
・メイカネートBX
(明成化学工業(株)製 水分散型多官能性イソシアネート架橋剤、固形分20%):5g/L
(実施例6)
実施例1の前処理を行った基布1を使用し、下記に示した加工液に浸漬し、絞り率91%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに、保水率が低く優れた撥水性を示す繊維構造物が得られた。
【0032】
また、PFOA含有量についても5ng/g未満であり、環境的にも優れた繊維構造物である。
・CF(CF(CHCF)(CFCF(CHCH)OCOH=CH
のフッ素重合体乳化分散液(固形分30%) : 50g/L
・アサヒガードE−082
(旭硝子(株) 製 炭素数6以下フッ素系撥水剤、固形分20%) : 50g/L
・ベッカミンM−3
(大日本インキ化学工業(株)製 メラミン樹脂、固形分80%) :3g/L
・ベッカミンACX(大日本インキ化学工業(株)製 触媒) :2g/L
・スーパーフレッシュJB7200
((株)京絹化成製 水分散型多官能性イソシアネート架橋剤、固形分40%):5g/L
(実施例7)
実施例3の前処理を行った基布2を使用し、絞り率40%で実施例6と同様の加工を行った。得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示すとともに、保水率が低く優れた撥水性を示す繊維構造物が得られた。また、PFOA含有量についても5ng/g未満であり、環境的にも優れた繊維構造物である。
(比較例1)
実施例1の前処理を行った基布1を使用し、下記に示した加工液に浸漬し、絞り率70%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度を示し、また保水率も低く抑えられているものの、PFOAは5ng/gを越える量が検出され、環境的に問題となるものであった。
・マックスガードF247((株)京絹化成製
炭素数6以上を含有するフッ素系撥水剤、固形分20%):100g/L
・ベッカミンM−3
(大日本インキ化学工業(株)製 メラミン樹脂、固形分80%) :3g/L
・ベッカミンACX(大日本インキ化学工業(株)製 触媒) :2g/L
・スーパーフレッシュJB7200
((株)京絹化成製 水分散型多官能性イソシアネート架橋剤、固形分40%):5g/L
(比較例2)
前処理を行わない試験用基布1を使用し、実施例1と同様の撥水加工を行った。得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度は示すものの、保水率が高く、水中に浸漬した場合に布帛全体が濡れた状態となり撥水性としての性能は低いものであった。PFOA含有量については5ng/g未満であり、環境的には優れた繊維構造物である。
(比較例3)
実施例1の前処理を行った基布1を使用し、下記に示した加工液に浸漬し、絞り率70%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は撥水度が低く、保水率が高く、水中に浸漬した場合に布帛全体が濡れた状態となり撥水性としての性能は低いものであった。PFOA含有量については5ng/g未満であり、環境的には優れた繊維構造物である。
・アサヒガードE−081
(旭硝子(株) 製 炭素数6以下フッ素系撥水剤、固形分30%) : 100g/L
・ベッカミンM−3
(大日本インキ化学工業(株)製 メラミン樹脂、固形分80%) :3g/L
・ベッカミンACX(大日本インキ化学工業(株)製 触媒) :2g/L
・スーパーフレッシュJB7200
((株)京絹化成製 水分散型多官能性イソシアネート架橋剤、固形分40%):5g/L
(比較例4)
実施例2の前処理を行った基布1を使用し、下記に示した加工液に浸漬し、絞り率91%になるようマングルで絞り、130℃で乾燥した後、170℃で1分間セットした。得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は撥水度は低く、保水率が高く、水中に浸漬した場合に布帛全体が濡れた状態となり撥水性としての性能は低いものであった。PFOA含有量については5ng/g未満であり、環境的には優れた繊維構造物である。
・SM8706
(東レ・ダウコーニング(株) 製 シリコーン系撥水剤、固形分33%):30g/L
(比較例5)
前処理を行わない試験用基布2を使用し、実施例1と同様の撥水加工を行った。得られた加工布について、撥水度および保水率を測定した結果を表1に示す。得られた加工布は高い撥水度は示すものの、保水率が高く、水中に浸漬した場合に布帛全体が濡れた状態となり撥水性としての性能は低いものであった。PFOA含有量については5ng/g未満であり、環境的には優れた繊維構造物である。
【0033】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、環境問題に配慮したフッ素系撥水剤を使用し、且つ高い撥水性と水中に浸漬した場合に濡れにくい優れた撥水撥油性能を有する繊維構造物が得られるものである。また、優れた低保水性であるため水着として使用した場合に非常に良好な撥水性を示すものである。