特許第6263872号(P6263872)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263872
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】コンクリート構造物の補修方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 41/71 20060101AFI20180115BHJP
   C04B 28/04 20060101ALI20180115BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20180115BHJP
   C04B 22/06 20060101ALI20180115BHJP
   C04B 22/14 20060101ALI20180115BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20180115BHJP
   C04B 22/08 20060101ALI20180115BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20180115BHJP
   C04B 24/06 20060101ALI20180115BHJP
   C04B 20/00 20060101ALI20180115BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   C04B41/71
   C04B28/04
   C04B24/26 F
   C04B22/06 Z
   C04B22/14 B
   C04B16/06 E
   C04B16/06 A
   C04B22/08 Z
   C04B22/10
   C04B24/06 A
   C04B20/00 B
   E04G23/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-132986(P2013-132986)
(22)【出願日】2013年6月25日
(65)【公開番号】特開2015-6965(P2015-6965A)
(43)【公開日】2015年1月15日
【審査請求日】2016年4月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】橋村 雅之
(72)【発明者】
【氏名】戸田 靖彦
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−306367(JP,A)
【文献】 特開2007−197301(JP,A)
【文献】 特開2008−037704(JP,A)
【文献】 特開平10−251590(JP,A)
【文献】 特開昭61−068363(JP,A)
【文献】 特開2004−217486(JP,A)
【文献】 特公昭51−022012(JP,B1)
【文献】 特開2008−115062(JP,A)
【文献】 特開2008−247669(JP,A)
【文献】 特開2007−269508(JP,A)
【文献】 特開2012−214355(JP,A)
【文献】 特開2003−049522(JP,A)
【文献】 特開2015−006965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物の一部を除去した箇所に、プライマーを施工するプライマー施工工程と、
当該箇所に表面被覆材と水とを配合し混練して調製したモルタル組成物を施工するモルタル施工工程と、を有するコンクリート構造物の補修方法であって、
前記表面被覆材は、ポルトランドセメント、細骨材、樹脂粉末、膨張材、合成樹脂繊維、凝結調整剤及び消泡剤を含み、
前記細骨材は、最大粒子径が1700μm未満であり、粒子径が1180μm以上且つ1700μm未満である粒子の質量割合が0.5〜6質量%であり、粒子径が600μm以上且つ1180μm未満である粒子の質量割合が60〜85質量%であり、粒子径が300μm以上且つ600μm未満である粒子の質量割合が10〜30質量%であり、粒子径が150μm以上且つ300μm未満である粒子の質量割合が0.1〜10質量%であり、
ポルトランドセメント100質量部に対して、細骨材100〜300質量部、樹脂粉末5〜20質量部、膨張材3〜15質量部、消泡剤0.2〜0.6質量部である、
コンクリート構造物の補修方法。
【請求項2】
前記合成樹脂繊維は、繊維長2.0〜8.0mmのポリアミド合成繊維であり、
ポルトランドセメント100質量部に対して、合成樹脂繊維0.01〜1.0質量部である、
請求項1に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項3】
前記凝結調整剤は、凝結促進剤及び凝結遅延剤からなり、
前記凝結促進剤は、アルミン酸ナトリウムであり、前記凝結遅延剤は、酒石酸ナトリウムと重炭酸ナトリウムとの併用であり、ポルトランドセメント100質量部に対し、凝結促進剤0.01〜2.00質量部、凝結遅延剤0.5〜3.5質量部である、
請求項1又は請求項2に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項4】
前記プライマーは、合成樹脂エマルジョンを水で希釈したものであり、前記合成樹脂エマルジョンは、(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を主成分とし、該合成樹脂エマルジョン中の不揮発成分が10〜50質量%であり、該合成樹脂エマルジョン中の合成樹脂成分の粒子径が20〜90nmである、
請求項1〜3のいずれか1項記載のコンクリート構造物の補修方法。
【請求項5】
前記膨張材は生石灰−石膏系膨張材であり、生石灰含有量が20〜40質量%である、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のコンクリート構造物の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築分野の各種工事に用いられるコンクリート構造物の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種構造物に用いられるコンクリートは、本来耐久性に優れたものであるが、構造や使用環境によってその一部が劣化する場合がある。このような劣化は、コンクリート構造物の強度低下や欠損等の原因となるため、修復する必要がある。修復の際には、劣化箇所を除去或いは浸透性プライマー等で補強した後に、モルタル組成物などの表面被覆材を施工する補修方法が用いられる。また、使用環境が開水路のような水利施設の場合、水流や土砂等による摩耗に対する抵抗性を有する表面被覆材を施工する補修方法が用いられる。
【0003】
特許文献1には、粗度係数が0.013未満であり、補修後のコンクリート水路の高い通水量力が維持できるとして、セメント100質量部、平均粒径0.5mm以下の細骨材を50〜400質量部、セメント混和用ポリマーを1〜20質量部及び粉末状繊維0.1〜3.0質量部の割合で配合されてなるポリマーセメントモルタルが開示されている。
【0004】
特許文献2には、ひび割れ抵抗性、躯体との一体化、耐摩耗性が向上した、セメント100質量部、平均粒径0.8〜2.5mmの細骨材を150〜600質量部、セメント混和用ポリマーを1〜20質量部、膨張材を1〜20質量部、収縮低減剤を0.5〜10質量部、長繊維を0.1〜3.0質量部及び微粉末繊維を0.1〜3.0質量部の割合で含有するポリマーセメントモルタルが開示されている。
【0005】
特許文献3には、水流や土砂等による摩耗を著しく低減し、表面強度の低下も起こらないとして、セメント100質量部と、最大粒子径が1.2mm以下で密度が3.0g/cm以上の骨材が10〜40質量%及び最大粒子径が1.2mm以下で粒子径0.105mm未満の骨材が2〜20質量%の密度が3.0g/cm未満の骨材60〜90質量%からなる平均粒子径が0.5mmを超え1.0mm以内の混合骨材100〜130質量部と、膨張材2〜10質量部と、ポリマーエマルジョン(固形分換算で)1〜10質量部とを含有する耐摩耗性材料が開示されている。
【0006】
特許文献4には、補修材層全体に良好な防水性能を付与して機械的強度を健全に維持できるとして、1立方メートル当たり、ポルトランドセメント300〜900kg、砂400〜1200kg、ポリマー樹脂10〜120kg、繊維長5〜20mm、太さ10〜200μmの合成樹脂繊維10〜60kgの配合比で配合したセメントモルタル中に、該セメントに対し0.5〜10重量%のアルキルアルコキシシラン又はアルキルシラノールを配合した補修材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−197301号公報
【特許文献2】特開2008−037704号公報
【特許文献3】特開2009−114002号公報
【特許文献4】特開2011−148695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、優れた施工性や初期硬化特性、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、且つ水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性等の諸特性をバランス良く有するために、表面被覆材を用いた補修方法のさらなる改良が必要とされている。
【0009】
そこで、本発明は、優れた施工性や初期硬化特性を有するとともに、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、さらに水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有するモルタル硬化体を形成することが可能な、表面被覆材を用いたコンクリート構造物の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明者らは、ポルトランドセメント、細骨材、樹脂粉末、膨張材、合成樹脂繊維、凝結調整剤及び消泡剤を含む表面被覆材を用いたコンクリート構造物の補修方法によって、優れた施工性や初期硬化特性を有するとともに、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、さらに水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、コンクリート構造物の一部を除去した箇所に、プライマーを施工するプライマー施工工程と、当該箇所に表面被覆材と水とを配合し混練して調製したモルタル組成物を施工するモルタル施工工程と、を有するコンクリート構造物の補修方法であって、表面被覆材は、ポルトランドセメント、細骨材、樹脂粉末、膨張材、合成樹脂繊維、凝結調整剤及び消泡剤を含み、細骨材は、最大粒子径が1700μm未満であり、粒子径が1180μm以上且つ1700μm未満である粒子の質量割合が0.1〜10質量%であり、粒子径が600μm以上且つ1180μm未満である粒子の質量割合が40〜90質量%であり、粒子径が300μm以上且つ600μm未満である粒子の質量割合が5〜35質量%であり、粒子径が150μm以上且つ300μm未満である粒子の質量割合が15質量%以下であり、ポルトランドセメント100質量部に対して、細骨材100〜300質量部、樹脂粉末5〜20質量部、膨張材3〜15質量部である、コンクリート構造物の補修方法を提供する。
【0012】
本発明のコンクリート構造物の補修方法によれば、優れた施工性や初期硬化特性を有するモルタル組成物を調製することができる。また、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、さらに水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有するモルタル硬化体を形成することができる。つまり、本発明のコンクリート構造物の補修方法に用いられる表面被覆材と水とを配合し混練してモルタル組成物を調製し、これをコンクリート構造物の表面等に施工し、硬化させて一体化することで、一体化するための十分な圧縮強度、及び優れた耐水砂噴流摩耗性を有するコンクリート構造物を得ることができる。このように、本発明のコンクリート構造物の補修方法において、モルタル硬化体が一体化するための十分な圧縮強度や優れた耐水砂噴流摩耗性を備える理由は必ずしも明らかではないがその理由の一つとして、本発明者らは表面被覆材に含まれる各成分が相互に作用するとともに、特に特定の細骨材との組み合わせによって生じる作用が耐水砂噴流摩耗性の向上に寄与しているものと考えている。
【0013】
本発明のコンクリート構造物の補修方法の好ましい態様[(1)〜(4)]を以下に示す。本発明では、これらの態様を適宜組み合わせることがより好ましい。
【0014】
(1)本発明のコンクリート構造物の補修方法に用いられる表面被覆材は、合成樹脂繊維が、繊維長2.0〜8.0mmのポリアミド合成繊維であり、ポルトランドセメント100質量部に対して、樹脂繊維0.01〜1.0質量部であることが好ましい。これにより、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることが可能となる。また、モルタル硬化体の耐クラック性をより向上することが可能となる。
【0015】
(2)本発明のコンクリート構造物の補修方法に用いられる表面被覆材は、凝結調整剤が、凝結促進剤及び凝結遅延剤からなり、凝結促進剤は、アルミン酸ナトリウムであり、ポルトランドセメント100質量部に対し、凝結促進剤0.01〜2.00質量部、凝結遅延剤0.5〜3.5質量部であることが好ましい。これにより、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることが可能となる。また、モルタル硬化体の初期硬化特性をより向上することが可能となる。
【0016】
(3)本発明のコンクリート構造物の補修方法に用いられるプライマーは、合成樹脂エマルジョンを水で希釈したものであり、該合成樹脂エマルジョンは、主成分が(メタ)アクリル酸アルキル共重合物であり、固形分が10〜50質量%であり、粒子径が20〜90nmであることが好ましい。これにより、コンクリート構造物との一体化がより確実となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、さらに水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有するモルタル硬化体を形成可能で、且つ優れた施工性や初期硬化特性を有するモルタル組成物、及びそのようなモルタル組成物を調製することが可能な表面被覆材を用いたコンクリート構造物の補修方法を提供することができる。
【0018】
本発明のモルタル硬化体は、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、さらに水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有することからコンクリート構造物と一体化することで、長期耐久性の向上及びライフサイクルコストの低減などに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】劣化コンクリート除去工程後のコンクリート構造物の一例を示す模式図である〔(a)側壁部の断面図及び(b)側壁部及び底部の斜図〕。
図2図1のコンクリート構造物の側壁面上や底面上にプライマー層が形成されたコンクリート構造物の模式図である。
図3】大きな欠損部に断面修復材を施工した後のコンクリート構造物の模式図である。
図4】モルタル施工第一工程後のコンクリート構造物の模式図である。
図5】メッシュシート敷設工程後のコンクリート構造物の模式図である。
図6】モルタル施工第二工程後のコンクリート構造物の模式図である。
図7】水砂噴流試験装置に用いる供試体を示す模式図である。
図8】供試体中央部の計測範囲を拡大した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<補修方法>
本発明のコンクリート構造物の補修方法の好適な実施形態について以下に説明する。本実施形態のコンクリート構造物の補修方法は、コンクリート構造物の劣化部を含む部分を除去する劣化コンクリート除去工程と、除去した箇所に、プライマーを施工するプライマー施工工程と、当該箇所に表面被覆材と水とを配合し混練して調製したモルタル組成物を施工するモルタル施工工程と、を有するコンクリート構造物の補修方法(補修工法)である。以下、各工程の詳細について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
劣化コンクリート除去工程は、コンクリート構造物の劣化部(脆弱部)を含む部分を除去する工程である。具体的には、まず、外観観察や打音法等の調査によって、劣化したコンクリート部(劣化部)を特定する。次に、劣化部の領域によってハンマー、ハンドブレーカ、ショットブラスト又はウォータージェット等を適宜選択して、劣化部を含む部分を除去する。そして、劣化部を含む部分を除去した後のコンクリート構造物の表面の接着強度が1N/mm以上であることを確認して、次工程に移ることが好ましく。接着強度が1N/mmに満たない場合は、再度劣化部を除去することが好ましい。
【0022】
図1は、本実施形態のコンクリート構造物の補修方法が適用される劣化コンクリート除去工程後のコンクリート構造物の一例を示す模式図である。図1(a)はコンクリート構造物の側壁部10aの断面図であり、図1(b)は側壁部10a及び底部10bの斜図である。また、一例として側壁部10aは大きな欠損部11を有している。ここで、大きな欠損部とは、補修後のコンクリート構造物の表面より20mm以上深く欠損した部分をいう。
【0023】
プライマー施工工程は、図2に示すように劣化コンクリート除去工程後のコンクリート構造物の側壁面上や底面上にプライマー(吸水調整剤)を施工し、プライマー層12を形成する工程である。具体的には、側壁部10a及び底部10bを大きな欠損部11を含めて覆うようにプライマーを塗布した後、当該プライマーを乾燥してプライマー層12を形成する。当該面上に塗布されたプライマーの一部はコンクリート構造物に浸透し、残りは当該面上を覆うことが好ましい。これにより、コンクリート構造物の側壁面や底面が浸透したプライマーにより強固になるとともに、当該面上を覆うようにプライマー層が形成され、接着性が向上し、吸水調整機能を効果的に発揮することができる。
【0024】
プライマーとしては、合成樹脂エマルジョンを水で希釈したものを好適に用いることができる。合成樹脂エマルジョンとしては、(メタ)アクリル酸アルキル共重合体を主成分とするものが好ましく、特にメタクリル酸メチルとアクリル酸n−ブチルとの共重合体を主成分とすることが好ましい。
【0025】
合成樹脂エマルジョン中の不揮発分(固形分)の濃度は、ハンドリング性や安定性の面から、10〜50質量%の範囲であることが好ましく、20〜45質量%であることが特に好ましい。合成樹脂エマルジョンの粘度は、コンクリート構造物への浸透性や成膜性の面から、100〜500mPa・sの範囲であることが好ましく、200〜400mPa・sであることが特に好ましい。合成樹脂エマルジョン中の合成樹脂成分の粒子径は、コンクリート構造物への浸透性や成膜性の面から、20〜90nmの範囲であることが好ましく、30〜80nmであることがより好ましく、40〜70nmであることが特に好ましい。
【0026】
プライマーの調製は、合成樹脂エマルジョン1質量部に対して水2〜3.5質量部で希釈することが好ましい。また、プライマーの塗布量は、100〜200g/mが好ましい。プライマーの塗布にあたっては、刷毛、ローラー又はリシンガン等を適宜選択して用いることができる。プライマーの養生期間は、1〜2時間程度であり、プライマー層形成の目安としては、触診でプライマー層が湿っていなければよい。
【0027】
図3は、プライマー施工工程後において、図2の大きな欠損部11に断面修復材の硬化体13が形成されたコンクリート構造物の模式図である。図2に示すようにコンクリート構造物が大きな欠損部11を有する場合は、モルタル施工工程の前に、市販の断面修復材を用いて大きな欠損部11を補修し、断面修復材の硬化体13を形成することが好ましい。あるいは、図1の劣化コンクリート除去工程後において、コンクリート構造物の大きな欠損部11の部分のみにプライマーを塗布した後、当該プライマーを乾燥してプライマー層を形成させ、プライマー層が形成された大きな欠損部11を市販の断面修復材を用いて補修し、断面修復材の硬化体13を形成した後に、断面修復材の硬化体面上を含むコンクリート構造物の側壁面上や底面上にプライマーを施工し、プライマー層を形成してもよい。市販の断面修復材の養生期間は、当該市販品の施工要領書に準拠するが、鏝あるいは指等で押さえて硬化体表面が沈み込まない程度に硬化していれば、次工程に移行することができる。
【0028】
モルタル施工工程は、図4に示すようにプライマー層12が形成された、及び/又は断面修復材が施工された、コンクリート構造物の側壁面上や底面上に、表面被覆材と水とを配合し混練して調製したモルタル組成物14aを施工する工程である。モルタル組成物14aは、表面被覆材と水とを所定の比率で配合し混練して調製する。混練は、ミキサ等を用いて均一な状態になるまで行う。ミキサは、ハンドミキサー又はモルタルミキサ等を適宜選択して用いることができる。ここで用いる表面被覆材及びモルタル組成物については、後述する。
【0029】
コンクリート構造物の劣化部(施工面積)が10m以下の場合は、モルタル組成物は左官工法で施工を行うのが好ましい。左官工法では、左官職人が鏝板に適量のモルタル組成物を載せ、金鏝等を用いてコンクリート構造物の側壁面上や底面上に塗りつける。モルタル組成物14aを塗りつける厚みは5mmを超えて20mm以内であることが好ましい。また、施工面積が10mを超えるような場合は、吹き付け工法で施工を行うのが好ましい。吹き付け工法では、市販の吹き付け用モルタルポンプを用いて施工することができる。
【0030】
なお必要に応じて、モルタル施工工程にてモルタル組成物14aを施工し、当該モルタル組成物14aが硬化する前に、図5に示すようにメッシュシート15を敷設し、モルタル組成物14aの表面部とメッシュシート15が馴染む(メッシュシート15がモルタル組成物14aの表面部に入り込んで一体化する)ように、鏝等を用いてメッシュシート15全面を押さえるメッシュシート敷設工程を行うこともできる。
【0031】
メッシュシートは、市販の2軸や3軸のメッシュシートを用いることができる。特にガラス繊維のストランドを撚り合わせて束ねた紡績糸の縦糸及び横糸の交角が略直角になるように2軸の網目状に織り上げた2軸メッシュシートを好適に用いることができる。
【0032】
上述のメッシュシート敷設工程の後に、図6のようにその上面に上述のモルタル組成物14bを施工し、モルタル組成物14a、14bにメッシュシート15を内在させることで、モルタル組成物を硬化させてモルタル硬化体を形成させた際のひび割れ抵抗性をより向上させることができる。
【0033】
以上述べたような補修方法により、補修されたコンクリート構造物を得ることができる。この方法によって得られるモルタル硬化体は、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、さらに水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有する。このため、本実施形態の補修方法によって補修されたコンクリート構造物は、耐久性に優れる。したがって、劣化したコンクリート構造物の補修方法として好適である。
【0034】
また、本実施形態の補修方法は、特定の表面被覆材を用いていることから、施工性や初期効果特性に優れるモルタル組成物を得ることができる。また、本実施形態の補修方法に用いられるモルタル組成物は、左官工法又は吹き付け工法を用いたコンクリート構造物の補修方法に好適に用いることができる。
【0035】
<表面被覆材>
次に本実施形態のコンクリート構造物の補修方法に用いられる表面被覆材の一例を説明する。本実施形態のコンクリート構造物の補修方法に用いられる表面被覆材は、コンクリートの補修に用いるセメント系表面被覆材である。本実施形態の表面被覆材は、ポルトランドセメント、細骨材、樹脂粉末、膨張材、合成樹脂繊維、凝結調整剤及び消泡剤を含む表面被覆材である。
【0036】
ポルトランドセメントは、水硬性材料として一般的なものであり、いずれの市販品も使用することができる。これらのなかでも、JIS R 5210:2009「ポルトランドセメント」で規定されるポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0037】
細骨材としては、珪砂、川砂、陸砂、海砂、砕砂等の砂類から選択したものを好適に用いることができる。
【0038】
細骨材は、最大粒子径が1700μm未満であり、粒子径が1180μm以上且つ1700μm未満である粒子の質量割合が0.1〜10質量%であり、粒子径が600μm以上且つ1180μm未満である粒子の質量割合が40〜90質量%であり、粒子径が300μm以上且つ600μm未満である粒子の質量割合が5〜35質量%であり、粒子径が150μm以上且つ300μm未満である粒子の質量割合が15質量%以下である。
【0039】
また細骨材は、最大粒子径が1700μm未満であり、粒子径が1180μm以上且つ1700μm未満である粒子の質量割合が0.2〜9質量%であり、粒子径が600μm以上且つ1180μm未満である粒子の質量割合が45〜88質量%であり、粒子径が300μm以上且つ600μm未満である粒子の質量割合が7〜33質量%であり、粒子径が150μm以上且つ300μm未満である粒子の質量割合が13質量%以下であることが好ましく、
最大粒子径が1700μm未満であり、粒子径が1180μm以上且つ1700μm未満である粒子の質量割合が0.3〜8質量%であり、粒子径が600μm以上且つ1180μm未満である粒子の質量割合が55〜87質量%であり、粒子径が300μm以上且つ600μm未満である粒子の質量割合が8〜32質量%であり、粒子径が150μm以上且つ300μm未満である粒子の質量割合が12質量%以下であることがより好ましく、
最大粒子径が1700μm未満であり、粒子径が1180μm以上且つ1700μm未満である粒子の質量割合が0.4〜7質量%であり、粒子径が600μm以上且つ1180μm未満である粒子の質量割合が58〜86質量%であり、粒子径が300μm以上且つ600μm未満である粒子の質量割合が9〜31質量%であり、粒子径が150μm以上且つ300μm未満である粒子の質量割合が0.1〜11質量%であることがさらに好ましく、
最大粒子径が1700μm未満であり、粒子径が1180μm以上且つ1700μm未満である粒子の質量割合が0.5〜6質量%であり、粒子径が600μm以上且つ1180μm未満である粒子の質量割合が60〜85質量%であり、粒子径が300μm以上且つ600μm未満である粒子の質量割合が10〜30質量%であり、粒子径が150μm以上且つ300μm未満である粒子の質量割合が0.1〜10質量%であることが特に好ましい。
【0040】
細骨材の粒子径の質量割合を上記範囲とすることによって、優れた施工性を有するモルタル組成物が得られるとともに、水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0041】
細骨材の粒子径は、JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定することができる。また、本明細書において、「粒子径が600μm以上であり且つ1180μm未満である粒子の質量割合」とは、篩目1180μmの篩いを用いたときに篩目1180μmの篩いを通過し、且つ、篩目600μmの篩を用いたとき、篩目600μmの篩上に残る粒子の細骨材全体に対する質量割合をいう。
【0042】
本実施形態の表面被覆材における細骨材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対して、100〜300質量部であり、好ましくは100〜200質量部であり、より好ましくは110〜180質量部であり、さらに好ましくは115〜160質量部であり、特に好ましくは120〜150質量部である。
【0043】
表面被覆材中の細骨材の含有量を上記範囲とすることによって、優れた施工性を有するモルタル組成物が得られるとともに、水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0044】
樹脂粉末としては、公知の製造方法で製造されたものを用いることができる。例えば、水性ポリマーディスパージョンを噴霧する方法、又はフリーズドライなどの方法で溶媒を除去し、乾燥して得られる再乳化形樹脂粉末を用いることが好ましい。再乳化形樹脂粉末は、ブロッキング防止剤が再乳化形樹脂粉末の表面に付着しているものであってもよい。
【0045】
樹脂粉末としては、主成分としてスチレン/アクリル共重合系樹脂を含むものが好ましく、総モノマー基準で、スチレン及び少なくとも1種のアルキル(メト)アクリレートを合計で50質量%以上含有し、且つ総モノマー基準で、エポキシド基含有エチレン系不飽和コモノマーを基礎とするコポリマーを0.1〜50質量%含有するものが好ましい。また、上記コポリマーのコモノマー単位は、反応性エポキシド基を含むことがより好ましい。これによって、コンクリート構造物とモルタル硬化体との一体化がより向上する。
【0046】
樹脂粉末のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは−10〜22℃であり、より好ましくは0〜21℃さらに好ましくは5〜20℃特に好ましくは10〜20℃である。
【0047】
樹脂粉末のガラス転移温度(Tg)が上述の範囲であると、コンクリート構造物とモルタル硬化体との一体化がより向上する。なお、本明細書におけるガラス転移温度は、DSC法により測定することができる。具体的には、まず、試験片を室温から3℃/分の速度で昇温させ、示差走査熱量計にて吸熱量を測定し、吸熱曲線を得る。次に、得られた吸熱曲線のベースラインと変曲点(上に凸の曲線が下に凸の曲線に変わる点)における接線との交点からガラス転移温度(Tg)を求めることができる。
【0048】
本実施形態の表面被覆材における樹脂粉末の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、5〜20質量部であり、好ましくは6〜17質量部であり、さらに好ましくは7〜14質量部であり、特に好ましくは8〜12質量部である。
【0049】
表面被覆材中の樹脂粉末の含有量を上記範囲とすることによって、優れた施工性を有しつつ、コンクリート構造物とモルタル硬化体との一体化が優れたものとなる。
【0050】
膨張材としては、生石灰−石膏系膨張材、石膏系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材等を用いることができる。このうち、収縮補償効果とともに反応時の水和発熱によって低温環境下の強度増強効果を有する生石灰を有効成分として含む生石灰−石膏系膨張材を好適に用いることができ、この場合生石灰−石膏系膨張材中の生石灰含有量は特に限定されないが、生石灰含有量が高いもの(100質量%を含む)では水和反応が急激に進行することがあるので20〜40質量%の含有量が好ましく、25〜35質量%の含有量がより好ましい。
【0051】
本実施形態の表面被覆材における膨張材の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、3〜15質量部であり、好ましくは4〜12質量部であり、さらに好ましくは5〜10質量部であり、特に好ましくは6〜9質量部である。
【0052】
表面被覆材中の膨張材の含有量を上記範囲とすることによって、適正な膨張性が発現され、モルタル硬化体の収縮を抑制することができる。また、それとともに、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有するモルタル硬化体を得ることができる。
【0053】
合成樹脂繊維としては、ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール及びポリ塩化ビニルなどの合成樹脂成分からなる合成樹脂繊維を用いることができる。これらの中から選択される一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。特に、ポリアミド合成繊維の中でもポリカプラミド繊維は分散性やクラック防止の面で好ましい。
【0054】
合成樹脂繊維の繊維長は、表面被覆材との混合時のハンドリング性やモルタル組成物中での分散性の点から好ましくは2.0〜8.0mmであり、より好ましくは3.0〜7.0mmであり、さらに好ましくは3.5〜6.5mmであり、特に好ましくは4.0〜6.0mmである。
【0055】
本実施形態の表面被覆材における合成樹脂繊維の含有量は、ポルトランドセメント100質量部に対し、好ましくは0.01〜1.0質量部であり、より好ましくは0.05〜0.5質量部であり、さらに好ましくは0.1〜0.4質量部であり、特に好ましくは0.15〜0.35質量部である。
【0056】
表面被覆材中の合成樹脂繊維の繊維長及び添加量を上記範囲とすることによって、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることが可能となる。また、モルタル硬化体の耐クラック性をより向上することが可能となる。
【0057】
凝結調整剤は、水硬性成分の水和反応を調整するために用いられる。凝結調整剤としては、水硬性成分の水和反応を促進する凝結促進剤と水硬性成分の水和反応を遅延する凝結遅延剤があり、使用する水硬性成分の配合に応じてこれらの成分や添加量を適宜選択する。
【0058】
凝結遅延剤としては、公知の水和を遅延する成分を用いることができる。一例として、オキシカルボン酸類等の有機酸や、グルコース、マルトース、デキストリン等の糖類、重炭酸ナトリウムやリン酸ナトリウム等を、それぞれの成分を単独で又は2種以上の成分を併用して用いることができる。
【0059】
オキシカルボン酸類は、オキシカルボン酸及びこれらの塩を含む。オキシカルボン酸としては、例えば、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、グリコール酸、乳酸、ヒドロアクリル酸、α−オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸等の脂肪族オキシ酸、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、没食子酸、マンデル酸及びトロパ酸等の芳香族オキシ酸を挙げることができる。
【0060】
オキシカルボン酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩(具体的にはナトリウム塩及びカリウム塩等)及びアルカリ土類金属塩(具体的にはカルシウム塩、バリウム塩及びマグネシウム塩等)を挙げることができ、ナトリウム塩がより好ましい。また、特に、酒石酸ナトリウムが、凝結遅延効果、入手容易性及び価格の面から好ましく、重炭酸ナトリウムと併用することが更に好ましい。
【0061】
本実施形態の表面被覆材における凝結遅延剤の含有量(併用した場合は合計した含有量)は、ポルトランドセメント100質量部に対して、
好ましくは0.5〜3.5質量部、より好ましくは1.0〜2.8質量部、さらに好ましくは1.4〜2.4質量部、特に好ましくは1.5〜2.3質量部である。
【0062】
表面被覆材中の凝結遅延剤の含有量を上記範囲とすることによって、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることが可能となる。また、モルタル硬化体の初期硬化特性をより向上することが可能となる。
【0063】
凝結促進剤としては、公知の凝結を促進する成分を用いることができる。例えば、凝結促進効果を有する塩化物、亜硝酸塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、アルミン酸塩、及び有機酸塩等を好適に用いることができ、これらを単独又は複数組み合わせて使用することができる。
【0064】
硫酸塩の一例としては、硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、及び硫酸リチウムなどが挙げられ、炭酸塩の一例としては、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、及び炭酸リチウムなどが挙げられ、アルミン酸塩の一例としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、及びアルミン酸リチウムなどが挙げられ、有機酸塩の一例としては、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、及びアクリル酸カルシウムなどが挙げられる。特に、アルミン酸ナトリウムは速硬性の面で好ましい。
【0065】
本実施形態の表面被覆材における凝結促進剤は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.01〜2.00質量部、より好ましくは0.05〜1.80質量部、さらに好ましくは0.08〜1.60質量部、特に好ましくは0.10〜1.50質量部である。
【0066】
表面被覆材中の凝結促進剤の含有量を上記範囲とすることによって、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることが可能となる。また、モルタル硬化体の初期硬化特性をより向上することが可能となる。
【0067】
消泡剤は、モルタルやコンクリートに使用できるものであれば、市販の何れのものでも使用できるが、例えば鉱油系、シリコーン系、アルコール系、ポリエーテル系などの合成物質又は植物由来の天然物質などを用いることができる。
【0068】
本実施形態の表面被覆材における消泡剤は、ポルトランドセメント100質量部に対して、好ましくは0.05〜0.8質量部、より好ましくは0.1〜0.7質量部、さらに好ましくは0.15〜0.65質量部、特に好ましくは0.2〜0.6質量部である。
【0069】
表面被覆材中の消泡剤の含有量を上記範囲とすることによって、より優れた施工性を有するモルタル組成物を得ることが可能となる。また、モルタル硬化体の強度特性をより向上することが可能となる。
【0070】
本実施形態の表面被覆材は、本発明の特性を損なわない範囲で、さらに、炭酸カルシウム微粉末、収縮低減剤、作業性改良材などを好適に添加することができる。
【0071】
炭酸カルシウム微粉末は、通常の市販のものを好適に用いることができる。これらのうち、白色度の高い炭酸カルシウム微粉末(寒水石粉末)を用いることが好ましい。炭酸カルシウム微粉末を適量添加することで、施工性の改善や強度特性の向上が期待できる。
【0072】
収縮低減剤は、公知の収縮低減剤を好適に添加することができる。収縮低減剤としては、アルキレンオキシド重合物を化学構造の骨格に有するものなどが好ましい。例えばポリプロピレングリコール、ポリ(プロピレン・エチレン)グリコールなどのポリアルキレングリコール類、ポリオキシアルキレンエーテル類及び炭素数1〜6のアルコキシポリ(プロピレン・エチレン)グリコールなどの一般に公知のものから好適に選択して添加することができる。収縮低減剤を適量添加することで、モルタル硬化体の寸法安定性の向上が期待できる。
【0073】
作業性改良材としては、ケイ酸塩鉱物に属するカオリナイト、モンモリロナイト、アタパルジャイト、セリサイト、クロライト、タルクなどの粘土鉱物が挙げられる。この粘度鉱物を適量添加することで、施工における鏝塗り作業において、モルタル組成物と鏝との摩擦を適度に低減する作用や、吹き付け作業において、モルタル組成物とホース内壁との摩擦を適度に低減する作用が期待できる。
【0074】
本実施形態の表面被覆材は、コンクリート構造物の補修に好適に用いることができる。本実施形態の表面被覆材を用いて優れた施工性や初期硬化特性を有するモルタル組成物を調製することができる。また、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、さらに水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有するモルタル硬化体を形成することができる。
【0075】
<モルタル組成物>
本実施形態のコンクリート構造物の補修方法に用いられるモルタル組成物は、上述の表面被覆材と水とを配合し混練することによって調製することができる。本発明のモルタル組成物の好適な実施形態を以下に説明する。本実施形態のモルタル組成物は、コンクリート構造物の補修に好適に用いることができる。モルタル組成物を調製する際に、水の配合量を適宜変更することによって、モルタル組成物のフロー値及び単位容積質量を調整することができる。このように水の配合量を変更することによって、用途に適したモルタル組成物を調製することができる。ここで、フロー値とは、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠して測定される値であり、単位容積質量とは、JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に記載の試験方法に準拠して測定される値(単位:kg/L)である。
【0076】
水の配合量は、表面被覆材100質量部に対し、好ましくは9〜20質量部であり、より好ましくは10〜19質量部であり、さらに好ましくは11〜18質量部であり、特に好ましくは12〜17質量部である。
【0077】
本実施形態のモルタル組成物の20℃におけるフロー値は、好ましくは135〜195mmであり、より好ましくは140〜190mmであり、さらに好ましくは145〜185mmであり、特に好ましくは150〜180mmである。
【0078】
フロー値を上記範囲とすることによって、より優れた施工性(良好な鏝塗り性や吹き付け性)を有するモルタル組成物とすることができる。
【0079】
本実施形態のモルタル組成物の20℃における単位容積質量は、好ましくは2.00〜2.35kg/Lであり、より好ましくは2.05〜2.28kg/Lであり、さらに好ましくは2.10〜2.23kg/Lであり、特に好ましくは2.13〜2.20kg/L(Lはリットルを表す)である。
【0080】
単位容積質量を上記範囲とすることによって、モルタル組成物の良好な施工性(良好な鏝塗り性や吹き付け性)を維持しつつ、コンクリート構造物と一体化するための適度な圧縮強度とより十分な接着性を兼ね備えたモルタル硬化体を得ることができる。
【0081】
また、施工性における鏝塗り性の指標として1)切れ、2)送り、3)伸び、4)離れ、がある。
1)切れとは、コンクリート構造物の施工面にモルタル組成物を塗りつける際、モルタル組成物が鏝に残らずに施工面に塗りつけられるかどうかを表し、モルタル組成物が鏝に残らない方が良い。
2)送りとは、モルタル組成物を施工面に塗りつける際の鏝に掛かる力(塗りつけに必要な力)の加減を表し、軽い力で鏝塗りできる方が良い。
3)伸びとは、モルタル組成物を施工面に塗りつける際に、1回の鏝塗りで途切れずに塗りつけることができる面積を表し、途切れずに広い面積塗りつけられる方が良い。
4)離れとは、モルタル組成物を施工面に塗りつけて鏝を施工面から離す際のべたつき(粘着性)を表し、べたつかず、軽い力で鏝を離すことができる方が良い。
鏝塗り性のそれぞれの指標を5段階(1〜5:大きい数字の方が良好とする)で表した場合、好ましくは3以上であり、より好ましくは4以上であり、特に好ましくは5以上である。
【0082】
鏝塗り性の指標が上記の値以上であることによって、優れた施工性を有するモルタル組成物とすることができる。
【0083】
さらに、コンクリート構造物の補修施工においては、優れた施工性や適度な施工可能時間を有するとともに、速やかに次工程へ移行するための優れた初期硬化特性が必要となることから、本実施形態のモルタル組成物の20℃におけるモルタル組成物の硬化時間は、好ましくは0−45〜4−00であり、より好ましくは0−50〜3−40であり、さらに好ましくは0−55〜3−20であり、特に好ましくは1−00〜3−00である。ここで、硬化時間とは、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に記載の凝結試験に準拠して測定される終結の値であり、0−45とは、45分を表し、4−00とは、4時間00分を表す。
【0084】
硬化時間を上記範囲とすることによって、適度な施工可能時間を有するとともに、速やかに次工程へ移行することができる。
【0085】
本実施形態のモルタル組成物は、コンクリート構造物の補修に好適に用いることができ、優れた施工性や適度な施工可能時間を有するとともに、速やかに次工程へ移行するための優れた初期硬化特性を有する。
【0086】
<モルタル硬化体>
本実施形態のコンクリート構造物の補修方法に用いられるモルタル硬化体は、上述のモルタル組成物を硬化させることによって得ることができる。本発明のモルタル硬化体の好適な実施形態を以下に説明する。本実施形態のモルタル硬化体は、コンクリート構造物の補修に好適に用いることができる。すなわち、上述のモルタル組成物が硬化して形成される本実施形態のモルタル硬化体は、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、さらに水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有する。ここで、圧縮強度とは、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠して測定される値であり、耐水砂噴流摩耗性とは、島根大学所有の水砂噴流摩耗試験装置を用いて、材齢28日の供試体及び標準モルタル(JISモルタル〔JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準拠〕)に砂を含む高圧水を噴射し、5時間後及び/又は10時間後のそれぞれの摩耗深さを所定の点数計測し、その平均摩耗深さの相対比(供試体の平均摩耗深さ/標準モルタルの平均摩耗深さ)の値である。水砂噴流摩耗試験方法の詳細については、後述のモルタル硬化体の物性の評価方法にて説明する。
【0087】
本実施形態のモルタル硬化体の材齢28日の気中及び水中の圧縮強度は、好ましくは30N/mm以上であり、より好ましくは35N/mm以上であり、さらに好ましくは40N/mm以上であり、特に好ましくは45N/mm以上である。
【0088】
圧縮強度が上記の値以上であることにより、モルタル硬化体は、コンクリート構造物と一体化するに際し、十分な圧縮強度を有する。
【0089】
本実施形態のモルタル硬化体の材齢28日の耐水砂噴流摩耗性(平均摩耗深さの相対比)は、測定時間5時間後、又は5時間後且つ10時間後において、好ましくは1.50以下であり、より好ましくは1.45以下であり、さらに好ましくは1.40以下であり、特に好ましくは1.35以下である。
【0090】
標準モルタル相対比が上記の値以下であることにより、モルタル硬化体は、水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有する。
【0091】
本実施形態のモルタル硬化体は、コンクリート構造物の補修に好適に用いることができ、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、さらに水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有する。
【0092】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0093】
以下に実験例を挙げて本発明の内容をより詳細に説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0094】
(実験例)
[使用材料]
以下(1)〜(8)に示す原材料を準備した。
(1)ポルトランドセメント
・普通ポルトランドセメント(宇部三菱セメント社製、ブレーン比表面積=3300cm/g)
(2)細骨材(JIS篩を使用して測定した細骨材の粒度構成を表1に示す。)
・A(7号珪砂)
・B(6号珪砂)
・C(5号珪砂)
・D(4号珪砂)
【0095】
【表1】
【0096】
(3)樹脂粉末
・スチレン/アクリル共重合系再乳化形樹脂粉末(ガラス転移温度=15℃)
(4)膨張材
・生石灰−石膏系膨張材(太平洋マテリアル社製、生石灰含有量=30質量%)
(5)合成樹脂繊維
・ポリカプラミド繊維(繊維長=5mm)
(6)凝結調整剤
・促進剤(アルミン酸ナトリウム)
・遅延剤A(酒石酸ナトリウム)
・遅延剤B(重炭酸ナトリウム)
(7)消泡剤
・鉱油系消泡剤〔鉱油、特殊非イオン性界面活性剤を含む〕
(8)炭酸カルシウム微粉末
・寒水石粉末(粒子径が300μm以上である粒子無し、粒子径が150μm以上であり且つ300μm未満である粒子の質量割合=15.2質量%、粒子径が75μm以上であり且つ150μm未満である粒子の質量割合=35.6質量%)
【0097】
炭酸カルシウム微粉末の粒子径は、JIS Z 8801−1:2006「試験用ふるい−第1部:金属製網ふるい」に規定される呼び寸法の異なる数個の篩いを用いて測定した。また、本明細書において、「粒子径が150μm以上であり且つ300μm未満である粒子の質量割合」とは、篩目300μmの篩いを用いたときに篩目300μmの篩いを通過し、且つ、篩目150μmの篩を用いたとき、篩目150μmの篩上に残る粒子の炭酸カルシウム微粉末全体に対する質量割合をいう。
【0098】
(9)流動化剤
・変成ポリカルボン酸流動化剤
【0099】
上述の材料(1)〜(9)を用いて表2に示す割合でNo.1〜9の各配合を調製した。
【0100】
【表2】
【0101】
[モルタル組成物の調製]
表2に示す配合割合で調製したNo.1〜9の各配合100質量部に対して、表3に示す水量を配合して混練し、各配合のモルタル組成物を調製した。混練は、温度20℃、相対湿度65%の条件下で、ホバートミキサーを用いて低速で3分間行った。
【0102】
[モルタル組成物及びモルタル硬化体の物性の評価方法]
調製したNo.1〜9の各配合のモルタル組成物のフロー値、単位容積質量、鏝作業性、硬化時間、及びモルタル硬化体の圧縮強度(気中及び水中)、水砂噴流摩耗を測定した。測定結果は表3及び表4に示す通りであった。また、各測定は以下に示す方法で行った。
【0103】
(1)フロー値の測定方法
JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠してフロー値を測定した。
(2)単位容積質量の測定方法
JIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に記載の試験方法に準拠して単位容積質量を測定した。
(3)鏝作業性の測定方法
温度20℃、相対湿度65%の条件下で、ラスカットを配置した壁面にモルタル組成物をステンレス製鏝で、約10mm程度の厚みで塗り付け、鏝塗り作業性時のモルタル組成物の切れ、送り、伸び、離れの4項目について評価した。
〔1〕切れ(鏝残り) 5:大変良好、4:良好、3:普通、2:やや不良、1:不良
〔2〕送り(重さ) 5:大変良好、4:良好、3:普通、2:やや不良、1:不良
〔3〕伸び(塗り面積)5:大変良好、4:良好、3:普通、2:やや不良、1:不良
〔4〕離れ(べたつき)5:大変良好、4:良好、3:普通、2:やや不良、1:不良
(4)硬化時間の測定方法
JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に記載の凝結試験方法に準拠して終結を測定し、硬化時間とした。
(5)圧縮強度の測定方法
JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に記載の試験方法に準拠して材齢7日及び28日の圧縮強度を測定し、脱型後に水中で養生した供試体より得られた値を水中養生での圧縮強度とした。また、脱型後に温度20℃、相対湿度65%の気中で養生した供試体より得られた値を気中養生での圧縮強度とした。
(6)水砂噴流摩耗の測定方法
モルタル組成物を温度23℃、相対湿度50%で28日間養生して得られた供試体(195×145×40mm)を、島根大学所有の水砂噴流摩耗試験装置の回転ドラムに取り付け、ドラムの回転数30rpmで、上部に設置された噴射口から供試体に2.0MPa、88.9L/min(リットル/min)の珪砂混入圧力水を噴射した。試験機に投入する珪砂は3L(試験機内水量280L)とし、粒子径は0.61〜1.18mmとした。試験前と試験時間5時間後と10時間後に、レーザー変位計(繰り返し精度0.5μm)を摩耗深さ方向に使用することで実施した。計測範囲は図1に示すように、供試体中央部の濃灰色と淡灰色の範囲(50×75mm)とし、図2に示すように、測線を供試体の短辺に平行に約10mm間隔で設定し、測線上では0.5mm間隔で供試体表面形状(摩耗深さ)を測定した。また、平均摩耗深さの算出範囲は図2の濃灰色の範囲(50×25mm)とした。比較となる標準モルタルは、材齢約1000日のJISモルタルを使用し、得られた平均摩耗深さを、平成24年農業農村工学会大会講演会講演要旨集p822−823「配合の異なるモルタルおよび補修材料の耐摩耗特性」の記載に基づいて、材齢28日の標準モルタルの平均摩耗深さに換算した。得られた平均摩耗深さから平均摩耗深さの相対比(材齢28日の供試体の平均摩耗深さ/材齢28日の標準モルタルの平均摩耗深さ換算値)を算出した。
【0104】
【表3】
【0105】
表3に示す通り、No.1〜9のモルタル硬化体は、フロー値、単位容積質量、鏝作業性、硬化時間、及び圧縮強度(気中及び水中)共に好ましい値を示した(No.5及びNo.8の単位容積質量、硬化時間及び圧縮強度は未計測)。
【0106】
【表4】
【0107】
表4に示すとおり、細骨材Aを含むNo.1、及び細骨材Aと炭酸カルシウム微粉末を含むNo.2は、5時間後の平均摩耗深さの相対比がそれぞれ4.07、及び3.08と1.50よりも大きい値となった。
細骨材Bを含むNo.3、細骨材Bと炭酸カルシウム微粉末を含むNo.4及びNo.6、及び細骨材Bと炭酸カルシウム微粉末と流動化剤を含むNo.5は、5時間後の平均摩耗深さの相対比がそれぞれ3.33、2.95、3.00、及び2.15と1.50よりも大きい値となった。
細骨材Cと炭酸カルシウム微粉末を含むNo.7、及び細骨材Cと炭酸カルシウム微粉末と流動化剤を含むNo.8は、5時間後の平均摩耗深さの相対比がそれぞれ1.85、及び1.76と1.50よりも大きい値となった。
細骨材Dと炭酸カルシウム微粉末を含むNo.9は、5時間後の平均摩耗深さの相対比が1.20と1.50以下の良好な値となった。
さらに、10時間後の平均摩耗深さの相対比も1.28と1.50以下の良好な値となった。
【0108】
得られた水砂噴流摩耗試験の結果より、表面被覆材に含まれる各成分が相互に作用するとともに、特定の粒度構成を有する細骨材との組み合わせによって優れた耐水砂噴流摩耗性が得られることが確認された。
【0109】
以上のことから、本発明のコンクリート構造物の補修方法に用いられる表面被覆材は、優れた施工性や初期硬化特性を有するモルタル組成物を調製することができると共に、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、さらに水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有するモルタル硬化体を形成可能であることが確認された。また、上述のモルタル硬化体は、コンクリート構造物と一体化するための十分な圧縮強度を有し、さらに水流や土砂等による摩耗に対する優れた抵抗性(耐水砂噴流摩耗性)を有することからコンクリート構造物と一体化することで、長期耐久性の向上及びライフサイクルコストの低減などに寄与することができる。したがって、劣化したコンクリート構造物の補修方法として好適である。
【符号の説明】
【0110】
10a…側壁部、10b…底部、11…大きな欠損部、12…プライマー層、13…断面修復材の硬化体、14a…モルタル組成物、14b…モルタル組成物、15…メッシュシート
図1
図2
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図5
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図8