(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6263873
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】杭頭部の補強構造
(51)【国際特許分類】
E02D 5/30 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
E02D5/30 Z
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-134776(P2013-134776)
(22)【出願日】2013年6月27日
(65)【公開番号】特開2015-10349(P2015-10349A)
(43)【公開日】2015年1月19日
【審査請求日】2016年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】515277300
【氏名又は名称】ジャパンパイル株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷水 剛克
(72)【発明者】
【氏名】尾古 健太郎
【審査官】
大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−307512(JP,A)
【文献】
特開2010−261181(JP,A)
【文献】
特開2009−243238(JP,A)
【文献】
実開昭60−022531(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/22−5/80,27/00−27/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレストレスが導入された中空既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部を補強するための補強構造において、
新たな杭頭の上端面に配置され、杭内径よりも内径が小さい内周部分を有する環状の補強板と、
前記補強板の内周部分の下面に同一円周上に位置するように間隔を置いて固定され、杭頭内中空部に延びるように垂下して設けられた複数の補強棒と、
前記補強棒が埋設されるように前記杭頭内中空部に充填される中詰めコンクリートと
によって構成されることを特徴とする杭頭部の補強構造。
【請求項2】
前記杭頭部の外周面に、前記杭頭部の被覆補強部材が設けられていることを特徴とする請求項1記載の杭頭部の補強構造。
【請求項3】
前記被覆補強部材は円筒形部材であり、
前記被覆補強部材と前記杭頭部の前記外周面との間に接着材が充填されており、
前記被覆補強部材は前記杭頭部の前記外周面に接着していることを特徴とする請求項2記載の杭頭部の補強構造。
【請求項4】
前記被覆補強部材は、円筒形を周方向に分割した複数の円弧状の円弧部材からなり、互いに隣接する前記円弧部材どうしは連結されていることを特徴とする請求項2記載の杭頭部の補強構造。
【請求項5】
前記被覆補強部材は、前記杭頭部の前記外周面に巻き付けられる繊維シートからなることを特徴とする請求項2記載の杭頭部の補強構造。
【請求項6】
前記補強棒の下端部に前記中詰めコンクリートを受け止めるためのせき板が取り付けられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1記載の杭頭部の補強構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、杭頭部の補強構造に関し、より詳細には既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部を補強する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
既製杭の施工において、高止まりが発生する場合がある。この高止まりは、例えば、杭を所定深度まで施工できない場合や、杭の支持地盤の不陸が大きく、必要な杭長に対して設定杭長が長い場合などに発生する。このような高止まりが発生した場合には、杭頭部をカットオフすることにより、所定の高さレベルに調整している。
【0003】
プレストレスが導入された既製コンクリート杭(PC杭、PHC杭、PRC杭等)の場合、杭頭部をカットオフすると端板が欠損することにより、プレストレスが所定の長さ範囲で低下し、曲げ耐力及びせん断耐力等の杭耐力が低下する。このような杭耐力の低下を補うための補強として、杭頭内中空部に鉄筋を配筋する対策が採られている(例えば特許文献1参照)。そして、その鉄筋を杭頭カットオフ面よりも上方に延伸して、パイルキャップに定着させている。
【0004】
ところで、近年、既製コンクリート杭の杭頭処理技術として、杭頭をパイルキャップに剛接合するのではなく、パイルキャップ下面に設けた凹部に杭頭部を嵌入させるのみの半剛接合方式が採用されている(例えば特許文献2参照)。この半剛接合方式は、地震時において杭頭部に作用する水平力が緩和されるので、杭の折損を防ぐことができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010ー261181号公報
【特許文献2】特開2004ー162259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、杭頭部をカットオフした場合、杭頭内中空部に配筋した鉄筋をパイルキャップまで延伸して補強する上記従来方法は、上記半剛接合方式に適用できない。
【0007】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の杭耐力を向上させ、半剛接合方式に適用することが可能な杭頭部の補強構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、中空既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部を補強するための補強構造において、
新たな杭頭の上端面に配置され、杭内径よりも内径が小さい内周部分を有する環状の補強板と、
前記補強板の内周部分
の下面に
同一円周上に位置するように間隔を置いて
固定され、杭頭内中空部に延びるように垂下して設けられた複数の補強棒と、
前記補強棒が埋設されるように前記杭頭内中空部に充填される中詰めコンクリートと
によって構成されることを特徴とする杭頭部の補強構造にある。
【0009】
上記補強構造において、前記杭頭部の外周面に、前記杭頭部の被覆補強部材が設けられている構成を採用することができる。この場合、前記被覆補強部材は円筒形部材であり、前記被覆補強部材と前記杭頭部の前記外周面との間に接着材が充填されており、前記被覆補強部材は前記杭頭部の前記外周面に接着している構成を採用することができる。
【0010】
あるいは、前記被覆補強部材は、円筒形を周方向に分割した複数の円弧状の円弧部材からなり、互いに隣接する前記円弧部材どうしは連結されている構成を採用することもできる。さらに、前記被覆補強部材は、前記杭頭部の前記外周面に巻き付けられる繊維シートからなる構成を採用することもできる。
【0011】
また、上記補強構造において、前記補強棒の下端部に前記中詰めコンクリートを受け止めるためのせき板が取り付けられている構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の杭耐力が向上し、半剛接合方式に適用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】この発明の第1実施形態を示し、(a)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の平面図、(b)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の杭軸方向断面図である。
【
図2】この発明の第2実施形態を示し、(a)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の斜視図、(b)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の軸方向断面図である。
【
図3】第2実施形態によって補強された杭頭部を持つ既製杭を半剛接合方式に適用した場合の作用効果を示す断面図である。
【
図4】この発明の第3実施形態を示し、(a)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の斜視図、(b)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の軸方向断面図である。
【
図5】第3実施形態で用いる円弧部材を示す斜視図である。
【
図6】補強鉄筋の下端部にせき板を取り付けた例を示す杭頭部の下部の軸方向断面図である。
【
図7】補強板にリブを取り付けた例を示す、補強板の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、この発明の第1実施形態を示し、(a)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の平面図、(b)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の杭軸方向断面図である。既製杭1はプレストレスが導入されたプレストレストコンクリート杭(PC杭)であり、
図1に示す杭頭部2は既製杭1の元の杭頭部をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部である。杭体3にはプレストレス導入のためのPC鋼棒4が埋め込まれているが、元の杭頭部がカットオフされたため、PC鋼棒4の端部が固定されていた金具、いわゆる端板(図示しない)が欠損し、杭頭部2は杭耐力が低下している。
【0015】
杭頭部2を補強するための構造は、杭頭部2の上端面(カットオフ面)に配置される補強板5と、この補強板5の下面に固定され、杭頭内中空部6に延びる複数の補強棒である補強鉄筋7と、杭頭内中空部6に充填される中詰めコンクリート8とによって構成される。
【0016】
補強板5は鋼材で作られる環状のものであり、その外径は杭体3の外径とほぼ等しく、内径は杭体3の内径よりも小さくなっている。したがって、補強板5の内周部分5aは杭頭の上端面から杭頭内方側にせり出している。複数の補強鉄筋7は補強板5の内周部分5aの下面に、同一円周上に位置するように間隔を置いて固定されている。補強鉄筋7は溶接により、あるいは補強鉄筋7に雄ねじを形成するとともに、この雄ねじが螺着されるねじ穴を補強板5に形成することにより、補強板5に固定することができる。これらの補強鉄筋7を取り囲むようにフープ鉄筋9が設けられている。なお、補強鉄筋7の長さLsは、Ls=50φ(プレストレス低下範囲)+35d(定着長)とされる。ただし、φはPC鋼棒4の径、dは補強鉄筋7の径である。
【0017】
補強板5及び補強鉄筋7の杭頭部2への取り付けの前に、杭頭部2の上端面(カットオフ面)は平滑化処理される。この平滑化処理は、例えば、杭頭部2の上端面に無収縮モルタルを薄く盛り付け、硬化させることによって行われる。
【0018】
平滑化処理後、補強板5に取り付けられた補強鉄筋7を杭頭内中空部6に挿入し、補強板5を杭頭部2の上端面に載置する。そして、杭頭内中空部6に中詰めコンクリート8を充填し、硬化させる。これにより、中詰めコンクリート8を介して、補強鉄筋7及び補強板5が杭頭部2と一体化される。補強板5は杭頭の上端面に単に載置されている。
【0019】
上記のような補強構造によれば、杭頭部2に水平力が作用すると杭体3及び中詰めコンクリート8に曲げ応力やせん断応力が発生するが、補強鉄筋7はこれらの応力を補強板5を介して杭体3に軸方向の圧縮力として伝達するので、水平力に十分対抗することができ、杭頭部2の杭耐力を向上させることができる。したがって、元の杭頭部をカットオフした既製杭1であっても、新たな杭頭部2に上記のような補強構造を設けることにより、半剛接合方式に適用可能となる。
【0020】
図2は、この発明の第2実施形態を示し、(a)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の斜視図、(b)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の軸方向断面図である。この実施形態は、上記第1実施形態で示した補強構造に加えて、既製杭21の杭頭部2の外周面を被覆するとともに杭耐力を補強する被覆補強部材を設けたものである。被覆補強部材は、この実施形態では鋼製の円筒形部材10からなる。
【0021】
補強板25の外径は杭体3の外径よりも僅かに大きく作られ、この補強板25の外周に円筒形部材10の上端部が溶接等により固着されている。したがって、補強板25の内周部分25aに取り付けられた補強鉄筋7を杭頭内中空部6に挿入すると、円筒形部材10が杭頭部2の外周を覆うこととなり、円筒形部材10の内周面と杭頭部2の外周面との間には微細な空隙11が形成される。
【0022】
円筒形部材10の上端部には、当該円筒形部材10を軸直交方向に貫通する注入穴12が周方向に間隔を置いて複数設けられている。また円筒形部材10の下端部内周には杭頭部2の外周面との間を閉塞するシールリング13が設けられている。注入穴12から接着材30を空隙11に注入することにより、円筒形部材10が杭頭部2と一体化される。接着材30としては、セメントミルク等を用いることができる。
【0023】
この第2実施形態による補強構造によれば、第1実施形態による補強構造の作用効果に加えて、杭頭部2の外周が円筒形部材10によって被覆されているので、水平力に対する杭耐力を向上させることができる。
なお、本実施形態では、杭体3の上端部に円筒形部材10を取り付けた後で、杭体3と円筒形部材10との間に接着材を注入する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、予め杭体3の外周面や円筒形部材10の内周面に接着材を塗布し、その後、杭体3の上端部に円筒形部材10を取り付けてもよい。
また、本実施形態では、補強板25の外径を杭体3の外径よりも僅かに大きくすることで、円筒形部材10の内径も杭体3の外径よりも僅かに大きくした場合について説明したが、これに限定されるものではなく、補強板25の外径及び円筒形部材10の内径を杭体3の外径とほぼ等しくし、円筒形部材10を加熱して膨張させて内径を拡げた後、杭体3の上端部に円筒形部材10を取り付けてもよい。
【0024】
図3は、第2実施形態によって補強された杭頭部2を持つ既製杭21を半剛接合方式に適用した場合の作用効果を示す断面図である。
図3に示すように、半剛接合方式においては、パイルキャップPの下端面側に設けた凹部14に杭頭部2が嵌入配置されるが、地震時に水平力が作用した場合、杭頭部2の上端部が圧壊するおそれがある(
図3において、鎖線Cは圧壊線を示す)。しかしながら、この実施形態のように杭頭部2の外周を円筒形部材10で補強することにより、このような圧壊が生じることを防止する。
【0025】
図4は、この発明の第3実施形態を示し、(a)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の斜視図、(b)は既製杭をカットオフすることによって生じた新たな杭頭部の軸方向断面図である。この実施形態では、既製杭31の杭頭部2の外周を被覆補強する部材が、円筒形を周方向に分割してなる円弧状の複数の円弧部材15からなっている。この実施形態の円弧部材15は円筒形を周方向に2分割したものである。
【0026】
円弧部材15は
図5に示すように、周方向の両端部に半径方向外側を向くように折曲された継手部16、16を有している。これらの継手部16、16には複数のボルト挿入穴17が形成されている。複数の円弧部材15は杭頭部2の外周に全体として円筒形となるように配置される。そして、互いに隣接する円弧部材15、15の継手部16、16どうしを重ね合わせ、ボルト挿入穴17に挿入されるボルト18及びナット(図示しない)により継手部16、16どうしを緊締し、杭頭部2の外周面を締め付ける。これにより、複数の円弧部材15が全体として円筒形となって杭頭部2に固定される。この第3実施形態によっても杭頭部2の外周が補強されるので、第2実施形態と同様の効果が得られる。
なお、本実施形態では、一対の継手部16、16を有する円弧部材15を用いた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、隣接する円弧部材15どうしに跨るように配置された円弧状の板状部材を設け、当該板状部材と各円弧部材15とをそれぞれボルト18で連結することとしても良い。要は、隣接する円弧部材15を隙間なく連結可能であればよい。
【0027】
杭頭部2の被覆補強部材としては、上記第2、第3実施形態で示した部材に限らず、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などの繊維シートを用いることができる。この繊維シートはエポキシ樹脂などを用いて杭頭部2の外周に貼り付け、巻き付けられる。
【0028】
図6に示すように、上記各実施形態において、補強鉄筋7の下端部に中詰めコンクリートを受け止めるためのせき板19を取り付けると良い。せき板19は、杭体3の内径とほぼ等しい外径を有する円板である。このせき板19を補強鉄筋7に取り付けるには、例えば、せき板19に設けた穴20に補強鉄筋7の下端部を通し、この下端部に設けた雄ねじ部にナット23を螺着する。せき板19は溶接によって補強鉄筋7に取り付けるようにしてもよい。このようなせき板19を設けることにより、杭頭内中空部6が必要以上に長い場合、せき板19よりも下方に中詰めコンクリート8が落下することがなく、中詰めコンクリート8を過不足なく充填することができる。
【0029】
上記実施形態は例示にすぎず、この発明は種々の改変あるいは構造要素の付加が可能である。例えば、
図7に示すように、補強板5の内周部分5aの下面に、補強鉄筋7、7間に位置するように複数のリブ22を設けるようにしてもよい。これにより、杭頭部2に水平力が作用した際に、補強板5が変形することを確実に防止することができる。
【0030】
なお、上記各実施形態ではPC杭をカットオフした場合の杭頭部の補強構造について説明したが、これに限定されるものではなく、この発明の補強構造はプレストレスが導入された既製コンクリート杭、例えばPHC杭、PRC杭等をカットオフした場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0031】
1 既製杭
2 杭頭部
3 杭体
4 PC鋼棒
5 補強板
6 杭頭中空部
7 補強鉄筋(補強棒)