(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バルーン用チューブは、前記切断面の内側が4角形、6角形および8角形から選択される何れかの外接円を有する多角形で構成される、請求項1または2に記載の拡張用バルーンの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、経皮的血管形成術は血管内腔の狭窄部や閉塞部などを拡張治療し、冠動脈や末梢血管などの血流の回復または改善を目的として広く用いられている。経皮的血管形成術に使用されるバルーンカテーテルは、シャフトの先端部に内圧調節により膨張・収縮自在の拡張用バルーンを接合してなるものであり、該シャフトの内部にはガイドワイヤが挿通される内腔(ガイドワイヤルーメン)と、バルーン内圧調整用の圧力流体を供給するルーメン(インフレーションルーメン)とがシャフトの長軸方向に沿って設けられている構造が一般的である。
【0003】
このようなバルーンカテーテルを用いたPTCA(percutaneous transluminal coronary angioplasty)の一般的な術例は以下のとおりである。
まず、ガイドカテーテルを大腿動脈、上腕動脈、橈骨動脈等の穿刺部位から挿通し大動脈を経由させて冠状動脈の入口にその先端を配置する。次に、前記ガイドワイヤルーメンに挿通したガイドワイヤを冠状動脈の狭窄部位を越えて前進させ、このガイドワイヤに沿ってバルーンカテーテルを挿入してバルーンの位置を狭窄部に一致させる。次いで、インデフレーター等のデバイスを用いてインフレーションルーメンを経由して圧力流体をバルーンに供給し、バルーンを膨張させることで当該狭窄部を拡張治療する。
また、体内管腔に複数の狭窄部が存在する場合、拡張用バルーンをある部位で膨らませ収縮した後、再度、別の部位にバルーンを通過させ(リクロス)、拡張することがある。
【0004】
拡張用バルーンの構造は、円柱状の直管部とその両端の円錐状のテーパーからなる。一旦膨張させたバルーンを再度収縮させると、バルーンの直管部とテーパー部には翼部と溝部が交互に形成され、それら形状がバルーンの先端から基端まで長手方向に延在した折り畳み形状となる。このとき、一対の対向した翼部が放射方向に延在した扁平現象、すなわち翼部が2枚となるウィンギング形状がみられることがある。このような形状をしたバルーンは狭窄部への挿入が困難となる。従って、バルーンが折り畳まれたときの望ましい形状は翼部の枚数が多いこと(3枚以上)である。これにより、放射方向への寸法が短くなるため、折り畳み時のプロファイル径を小径化でき、通過性が容易になる。これを目的としてバルーンの折り畳み方法が種々提案されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、バルーン断面において膜厚分布をもたせ、その薄肉部分と厚肉部分の剛性差によってバルーンの折り畳みを制御する方法が開示されている。しかしながら、このようにバルーン断面に膜厚分布を形成した上で、バルーンの耐圧強度を担保しようとしたとき、バルーン用チューブの薄肉部分の膜厚をバルーンに必要な耐圧強度に合わせた設定となるため、バルーン用チューブの厚肉部分が極端に厚肉にならざるを得ず、結果として全体的に厚肉のバルーンとなり、バルーン折り畳み時のプロファイル径が大きくなってしまう。全体的に薄肉のバルーンとするためには、バルーンの薄肉部分の膜厚を薄く必要があるが、前述の通り耐圧強度が担保できなくなってしまう。
【0006】
一方、バルーン部の初期の狭窄部への通過性の他、バルーンを拡張した後、再度同じ又は他の狭窄部に再挿入する際の通過性(リクロス性)も重要である。特許文献1のバルーンは、初期の狭窄部への通過性が損なわれるという点で決してカテーテルとしての挿入操作性が高いとは言えなかった。また、バルーンに膜厚差によるばらつきが大きいため、安定的にバルーンの折り畳みを制御することが困難であり、リクロス性が損なわれるという大きな課題があった。さらに、ブロー成形前のバルーン用チューブに過度な厚み差を付与しなければならないため、バルーン用チューブの作製や当該バルーン用チューブを用いたバルーンの作製が非常に困難であるため、バルーン用チューブやバルーンの成形収率が低下することも問題であった。
【0007】
また、特許文献2には、押出成形によってリブを形成させたバルーン用チューブを用いることでバルーンの内面(厚み方向)に少なくとも3つのリブ(溝)を形成させ、バルーンの折り畳みを制御する方法が開示されている。しかし、特許文献1同様、バルーン用チューブの薄い側のリブ部の膜厚をバルーンに必要な耐圧強度に合わせた設定とするため、厚い側の膜厚は極端に厚い膜厚となる。結果として全体的にバルーンが厚肉となるためバルーン折り畳み時のプロファイル径が大きくなり、バルーン部の初期の狭窄部通過性やリクロス性が損なわれるという点で大きな課題があった。
【0008】
また、特許文献3には少なくとも長軸方向に連続した複数の縦溝とそれに対応した同数の翼部とが予め金型により形状付けられ、凹溝と凸条とで形成されたスクロール状断面に対応した翼部と縦溝とをバルーンに付与することで、バルーンの折り畳みを制御する方法が開示されている。しかし、当該発明のように、翼部と縦溝を形成すると安定的な折り畳み癖は実現できるが、安定した折り畳み癖を達成できる形状にすると、拡張時のバルーン形状が略円形にならず、臨床では使用不可能なものになってしまう問題があった。また、形状付けに使用するバルーン用金型が非常に複雑な形状であるために、製品開発に多大な時間を浪費し、製造コストも非常に高くなってしまう点で改善の余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の問題に鑑み、本発明が解決しようとするところは、バルーンカテーテルに用いられる拡張用バルーンにおいて、バルーンの膜厚ムラがなく、且つ安定的な折り畳み制御ができるバルーンの製造方法を提供することにある。また、バルーン用チューブからバルーン製造までの工程が簡便で、バルーン用チューブ及びバルーンの成形収率が良い製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前述の課題解決のために、鋭意検討を行なった結果、外側が円形で内側が多角形の切断面を有するバルーン用チューブを用い、これを二軸延伸ブロー成形して得られるバルーンは、その直管部に膜厚ムラがなく、しかも、このバルーンを用いると、折り畳み制御が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、バルーンカテーテルに用いられる拡張用バルーンの製造方法であって、軸方向に直交するバルーン用チューブ切断面の外側が
直径R1の円形で、内側が
直径R2の外接円を有する多角形であ
り、R1/R2が1.3以上2.8以下であるバルーン用チューブを得るステップと、前記バルーン用チューブを金型に配置し、二軸延伸ブロー成形してバルーンを得るステップとを含
み、前記バルーンは直管部を有し、該直管部の膜厚が略均一であり、物性の異なる部分が前記バルーンの周方向に交互に形成されている、拡張用バルーンの製造方法に関する。
【0013】
また本発明は、前記バルーン用チューブが、前記切断面の外側が円形、内側が3または4の倍数の外接円を有する多角形で構成される、前記拡張用バルーンの製造方法に関する。
【0014】
また本発明は、前記バルーン用チューブが、前記切断面の外側が円形、内側が4角形、6角形および8角形から選択される何れかの外接円を有する多角形で構成される、前記拡張用バルーンの製造方法に関する。
【0015】
また本発明は、前記の外接円を有する多角形が、正多角形である、前記拡張用バルーンの製造方法に関する。
【0016】
また本発明は、前記バルーン用チューブの切断面の外側と内側の形状が軸方向全長に亘り形成されている、前記拡張用バルーンの製造方法に関する。
【0018】
また本発明は、前記二軸延伸ブロー成形における拡張率が4以上9以下である、前記拡張用バルーンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の製造方法によれば、バルーンの直管部の膜厚が略均一であり、且つ安定的な折り畳み制御が可能なバルーンを提供することができる。また、本発明の製造方法により得られるバルーンは、全体的にバルーン折り畳み時のプロファイル径を小径化することが可能である。また本発明によれば、バルーン用チューブからバルーン製造までの工程が簡便であり、バルーン用チューブ及びバルーンの成形収率が高いため、低コストでバルーンを製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、
図1〜6を参照しながら説明する。なお、これらの図に示す実施形態は、本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明はこれらの図で示す実施形態に限定されるものではない。
【0022】
本発明で用いる拡張用バルーンの材質としては、特に限定は無いが、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタンエラストマー、ポリアミドエラストラマーなどの高分子材料が挙げられる。また、これら高分子材料を2つ以上混合させたブレンド材料でも良い。また、バルーンの材質の硬度としては、特に限定は無いが、安定的な折り畳み癖の実現の観点から、ショア硬度は、55D〜74Dであるのが好ましい。また、この範囲のショア硬度の材質であれば拡張用バルーンを無理なく成形でき、55Dより低い場合はゴム性が出る傾向にあり、74Dより高い場合は硬くて膨らみにくい傾向にある。
【0023】
図1は一般的なバルーンカテーテルの全体簡略図である。本発明の製造方法で得られる拡張用バルーンは、例えば、このようなバルーンカテーテルに用いられる。本図に示すバルーンカテーテル1は、拡張用バルーン2と、長軸方向に伸びるカテーテルシャフト3と、ハブ11とを備え、バルーンカテーテル1の遠位部には拡張用バルーン2が配置され、バルーンカテーテル1の近位部にはハブ11が配置される。カテーテルシャフト3は、二重管構造を有し、拡張用バルーン2の近位部に接合され、近位部に延びる外管3aと、外管3aの内腔部に配置され、拡張用バルーン2の内腔部を貫通して近位側から遠位側に延びる内管3bとからなる。本図では図示しないが、バルーンカテーテル1は、内管3bの近位端は外管3aの側壁を貫通して開口部を形成する、ラピッドエクスチェンジ型である。内管3bは、遠位端部から近位端部に亘り連通する内腔部が設けられ、ガイドワイヤが挿通可能になっている。外管3aは遠位端部から近位端部に亘り連通する内腔部を有し、内腔部により拡張用バルーン2の内腔部からハブ11を介して外部と連通している。尚、バルーンカテーテル1は、このようなラピッドエクスチェンジ型に限らず、内管が外管の全長に亘り存在するオーバーザワイヤ型でもよいし、カテーテルシャフトが二重管構造を有さないものでもよい。
【0024】
図2は一般的な拡張用バルーンの外観構造を示す図であり、拡張用バルーン2は外形が円柱状の直管部4とその両端にある円錐状のテーパー(遠位側:5a、近位側:5b)、円錐状のテーパー5から連続する円柱状のスリーブ部(遠位側:12a、近位側:12b)から構成されている。本図では、拡張用バルーン2の遠位側スリーブ部12aにおいて
図1に示す内管3bの遠位側と接合され、拡張用バルーン2の近位側スリーブ部12bにおいて外管3aの遠位側と接合される。そのため、遠位側スリーブ部12aの内外径は近位側スリーブ部12bの内外径より小さくなっているが、バルーンカテーテルの構造により適宜変更することができる。また、直管部の内外径、テーパー部のテーパー角などもバルーンカテーテルの用途等に応じて適宜変更することができる。
【0025】
このような拡張用バルーン2を用い、例えば
図1に示すバルーンカテーテル1を組立て、拡張用バルーン2を一旦拡張させた後、収縮させると、
図3に示すように、直管部とテーパー部全体に、翼部6と溝部7が交互に形成された折り畳み形状ができる。このとき、狭窄部への通過性や操作性に有利となるのは、収縮したときに形成される翼部の枚数を増やすこと(翼部の枚数が3枚以上)、つまり、翼部6がカテーテルシャフトを中心として放射方向へ伸びる長さを短くし、折り畳み時のプロファイル径(以下、特にことわらない限り、単に「プロファイル径」と称する。)を小さくすることである。また、拡張用バルーンの直管部に極端な膜厚ムラがないこともプロファイル径を小さくする上では重要となる。したがって、前記の通過性や操作性をより向上するためには、周方向に膜厚が略均一であるバルーンの折り畳み形状を安定的に制御し、プロファイル径を小さくし、且つプロファイル径を安定的に保つことが必要不可欠である。
【0026】
これを実現する方法として、本発明では、バルーンのブロー成形で使用するバルーン用チューブを作製する際、チューブ切断面の外側(外周形状)を円形、内側(内周形状)を外接円を有する多角形とし、当該バルーン用チューブを二軸延伸ブロー成形する方法を採用した。即ち、本発明では、拡張用バルーンを製造するに際し、軸方向に直交する切断面の外側が円形で、内側が外接円を有する多角形であるバルーン用チューブを得るステップ(ステップ1)を行い、次いで、このバルーン用チューブを金型に配置し、二軸延伸ブロー成形してバルーンを得るステップ(ステップ2)を行う。
【0027】
先ず、ステップ1において、軸方向に直交する切断面の外側が円形で、内側が多角形であるバルーン用チューブを成形する。本発明で用いるバルーン用チューブの内側の形状は、このような外接円を有する多角形であれば特に限定は無いが、バルーンの直管部の膜厚を略均一にし易くする観点から、正多角形であることが好ましい。また、同様の観点から、この外接円は、外側の円形の中心と同心円であることが好ましい。本発明において「正多角形」という場合、多角形の全ての内角が厳密に同じで、全ての辺の長さが厳密に同じであることを要求するものではなく、若干変動することを許容する。
尚、以下では、バルーン用チューブの内側の形状が正多角形である場合を実施形態として説明するが、本発明の効果が得られる範囲で種々の多角形を採用することができることは勿論のことである。
また、多角形の角数は特に限定は無いが、後述するように、特定の角数にするのが好ましい。
【0028】
図4は本発明で用いるバルーン用チューブの第1実施形態を示す斜視図である。本実施形態では、バルーン用チューブ8aの軸方向に直交する切断面の外側が円形で、内側が正3角形である。また、本例では、バルーン用チューブ8aの軸(長さ)方向の全長に亘り、外側13aが円形で、内側14aが正3角形の切断面を有する。また、本実施形態では、内側の正3角形の各頂点は軸(長さ)方向で同じ位置であるが、バルーンにした時の翼部をバルーンの軸方向に平行ではなく、螺旋状に形成させるため、前記正3角形の各頂点の位置を軸方向で連続的に変化させてもよい。
図5は、
図4のB−B切断面における断面図を示す図である。
図5に示すように、本実施形態では、切断面の外側13aの外周形状が円形で、内側14aの内周形状が正3角形である。また、内側14aである正3角形は、外側13aの円の中心と同心円である内側の外接円15aにその各頂点部9aが内接するように形成される。外接円15aの直径は、拡張用バルーンの膜厚等を考慮して適宜決定することができるが、略均一な膜厚のバルーンを作製する観点からは、外側の円の直径(R1)と外接円の直径(R2)の比(R1/R2;R1をR2で除した値)は、1.3以上2.8以下が好ましい。
【0029】
このような内側が正多角形であるバルーン用チューブを作製する方法としては、例えば、所望の正多角形のバルーン用チューブの切断面に対応する形状の押出ダイ(金型)を用いて押出成形することで作製できる。また、別の作製方法として、正多角形の芯材にバルーン用チューブを被せ、さらにその上に熱収縮チューブを被せた後、熱風を熱収縮チューブにかけることで、バルーン用チューブが収縮し、内側が芯材と同型の形状を有し、外側が円形を有したチューブを得ることもできる。ただし、簡便さやブロー成形の収率の観点から、押出成形によりバルーン用チューブを作製するほうが好ましい。
【0030】
次いで、ステップ2において、バルーン用チューブ8aをバルーン用金型に配置し、二軸延伸ブロー成形によりバルーン用チューブ8aを軸方向と径方向に延伸することにより、目的の拡張用バルーンを作製できる。バルーン用金型のキャビティの形状は、バルーンが例えば
図1、2に示した外形のバルーン2の場合、即ち、外形が円柱状の直管部4、外形が略円錐状のテーパ部5a、5b、外形が円柱状のスリーブ部12a、12bであるバルーンの場合は、このバルーンの外形に対応した形状を有する。使用可能な金型としては、例えば開閉可能な対をなす構造を有し、閉じた時にバルーンの外形に対応する形状を有するように、対をなす各金型に凹形状を設けたものが挙げられる。
ブロー成形時の拡張率(バルーン用金型の内径/バルーン用チューブ内径;バルーン用金型の内径をバルーン用チューブ内径で除した値)としては、特に限定は無いが、バルーンの直管部の膜厚を略均一にする観点からは、バルーンの直管部に相当する部分において、4以上が好ましく、6以上がより好ましい。また、安定的にブロー成形を行う観点から、9以下が好ましく、8以下がより好ましい。ここで、「バルーン用金型の内径」とは、バルーンの直管部に対応するキャビティの内径を意味し、「バルーン用チューブ内径」とは、正多角形の場合は、正多角形の外接円を意味する。
なお、二軸延伸は加熱条件下で行っても良いし、また、複数回行っても良い。また、軸方向の延伸は径方向の延伸と同時に行っても良いし、その前後に行っても良い。
【0031】
このようにして得られた拡張用バルーンは、外側が円形で内側が多角形の切断面であるバルーン用チューブを二軸延伸することで、直管部の内側も略円形になっており、かつ、直管部の膜厚は周方向に略均一になっている。本発明において、「略均一」とは、変動係数(標準偏差/平均値)が6.0%以内であることを指す。変動係数がこの程度であれば、バルーンが折り畳まれたときのプロファイル径に何ら支障をきたすものではなく、安定したプロファイル径を維持できる。
【0032】
また、二軸延伸ブロー成形を行った後に、拡張用バルーンの形状や寸法を安定させるために、アニーリング処理を実施しても良い。
【0033】
図4ないし
図5(a)に示すバルーン用チューブ8aから製造された拡張用バルーンを用いて組立てたバルーンカテーテルにおいて、拡張用バルーンを一旦拡張し、収縮させると正3角形由来の各頂点部9aが翼部、辺部10aが外心(例えば
図3では、カテーテルシャフト3bの外表面。)まで縮むことで溝部となるような折り畳み形状が形成され、それらがバルーンの長手方向に延在する。頂点部9aが翼部、辺部10aが溝部を形成するのは、ブロー成形中にバルーン用チューブが径方向へ膨張する際、前記のブロー成形時の拡張率が頂点部9aと辺部10aとで異なるためである。一般的に、ブロー成形時の拡張率を変化させると、バルーン強度やバルーン伸び特性が変化するようになり、バルーン物性(分子配向や結晶化度等)に大きく影響する。したがって、これら拡張率の違いによるバルーン物性変化により、頂点部が翼部、辺部が溝部となりうる。例えば、
図5(a)に示す断面形状を有するバルーン用チューブ8aをブロー成形すると、得られる拡張用バルーンの直管部の断面構造は、
図5(b)に模式的に示すように、
図5(a)の頂点部9a及び辺部10aに対応するバルーンの断面部分がそれぞれ符号16及び17で示す物性の異なる断面部分を構成する。そして、これらがバルーンの周方向に交互に形成され、かつ、バルーンの長さ方向に連続して延在することで、バルーンを収縮させた時には、
図5(b)の符号16の部分に、
図3に示す翼部6が形成され、符号17の部分に溝部7が形成され易くなる。
【0034】
図6〜8は、それぞれ、本発明で用いるバルーン用チューブの第2〜4実施形態における、軸方向に直交する切断面を示したものである。図示しないが、第1実施形態の
図4に示す斜視図と同様に、バルーン用チューブ8b、8c、8dの軸(長さ)方向の全長に亘り、外側がいずれも円形で、内側がそれぞれ正4角形、正6角形、正8角形の切断面を有する。また、第1実施形態の場合と同様に、前記正多角形の各頂点の位置を軸方向で連続して変化させてもよい。また、第2〜4実施形態のバルーン用チューブ8b、8c、8dをブロー成形すると、得られる拡張用バルーンの直管部の断面構造は、第1実施形態の場合と同様に、頂点部9b、9c、9d及び辺部10b、10c、10dに対応するバルーンの断面部分が、バルーンの周方向に交互に形成され、これらがバルーンの長さ方向に連続して延在し、バルーンを収縮させた時には、頂点部9b、9c、9dに対応する部分に翼部が形成され、辺部10b、10c、10dに対応する部分に溝部が形成される。
【0035】
図6、
図7、
図8のように、バルーン用チューブの切断面の外側13b、13c、13dが円形で、内側14b、14c、14dが正4角形、正6角形、正8角形であるバルーン用チューブ8b、8c、8dは、所望の正多角形のバルーン用チューブの切断面に対応する形状の押出ダイを用いることで、
図4ないし
図5(a)に示す第1実施形態の場合と同様に作製できる。また、これらバルーン用チューブを用いた二軸延伸ブロー成形も第1実施形態の場合と同様にして行うことができる。
【0036】
これらバルーン用チューブから作製した拡張用バルーンの折り畳み時に形成される翼部の枚数は、内側の形状に応じ、正3角形が3枚、正4角形が4枚、正6角形が3枚、正8角形が4枚を有し、正6角形以上になると各頂点数と同じ翼部の枚数を得られない傾向にある。正多角形の外接円(
図5(a)、
図6〜8中の符号15a、15b、15c、15d参照。)にできる円の大きさを一定としたとき、正6角形や正8角形のように頂点数が多くなると、各頂点間を結ぶ辺部の長さが短くなり、溝部を形成することが困難となる。そのため、隣接する2つの頂点が翼部になろうとするとき、どちらか一方の翼部が他方の翼部に取り込まれ、1枚の翼部が形成される。
【0037】
したがって、正6角形や正8角形は3ないし4の倍数の折り畳み枚数となるため、安定的な折り畳み制御が可能となるが、正5角形や正7角形のように3または4の倍数でない正多角形については、安定的な折り畳み制御が困難になる傾向にある。このように、本発明では、バルーン用チューブの軸方向に直交する切断面の内側が3または4の倍数の正多角形で構成されるのが好ましい。このうち、翼部の放射方向へ伸びる長さを短くする観点から、角数は4角以上が好ましい。
また、正9角形の翼部の枚数は3枚になる。これは、翼部間に2つの頂点が存在し、隣接する翼部だけでなく、さらに隣の翼部まで取り込まれることで1枚の翼部を形成する、若しくは翼部となる頂点の両隣の頂点が取り込まれることで1枚の翼部を形成することによる。正多角形の角数が大きくなると、このような折り畳まれ方となり、翼部1枚の寸法にばらつきが生じるため、プロファイル径の安定化が困難になる傾向にある。このように、プロファイル径の安定化の観点からは、前記切断面の内側の正多角形の角数は、8角以下が好ましい。
以上の観点から、バルーン用チューブの軸方向に直交する切断面の内側は、正4角形、正6角形または正8角形であるのがより好ましい。
【0038】
本発明の製造方法により作製された拡張用バルーンは、末梢血管成形、冠状動脈血管成形及び弁膜成形を含む経皮的内腔手術によって血管内狭窄部を拡張する目的として使用される。経皮的内腔手術は、体外からバルーンカテーテルを挿入し治療部位までバルーンを進入させた後、バルーンを膨張させて狭窄部を拡張し、血流を回復させる。当該カテーテルを体外に取り出すときや再度、他の病変部へ進入させるときには、一旦拡張したバルーンを収縮させた時の折り畳み径(プロファイル径)が小さいと有利になる。
【実施例】
【0039】
以下に本発明に係る拡張用バルーンの製造方法の具体的な実施例及び比較例について詳説するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。なお、バルーン用チューブとバルーンの仕様の詳細を表1に記載する。
【0040】
(実施例1)
バルーン用チューブとして、デュロメーター硬度で72Dのポリアミドエラストマー(商品名:PEBAX7233SA01:アルケマ社製)を用いて、
図4ないし
図5(a)で示されるようにチューブ切断面の外側が円形、内側が正3角形から構成されるバルーン用チューブを押出成形により作製した。このとき、チューブ寸法はチューブの外径が0.98mm、チューブの内側を構成する正多角形の外接円(15a)の直径が0.44mmで、外側の円と外接円(15a)が同心円となるよう設計した。次いで、押出成形したバルーン用チューブをバルーン成形用金型内部(直管部に対応するキャビティの内径は3.00mm)にセットし、拡張率が6.8となるように二軸延伸ブロー成形を行い、直管部の外径が3.00mm、直管部の長さが15mm、遠位側と近位側テーパー部の長さがそれぞれ4mmの拡張用バルーンを5本作製した。
【0041】
(実施例2)
実施例1と同じ材料を用い、同じ寸法(外径、外接円(15b)の直径)を有する、
図6で示されるような切断面の外側が円形、内側が正4角形のバルーン用チューブを作製し、次いで、実施例1と同方法により同形状のバルーンを5本作製した。
【0042】
(実施例3)
実施例1と同じ材料を用い、同じ寸法(外径、外接円(15c)の直径)を有する、
図7で示されるような切断面の外側が円形、内側が正6角形のバルーン用チューブを作製し、次いで、実施例1と同方法により同形状のバルーンを5本作製した。
【0043】
(実施例4)
実施例1と同じ材料を用い、同じ寸法(外径、外接円(15d)の直径)を有する、
図8で示されるような切断面の外側が円形、内側が正8角形のバルーン用チューブを作製し、次いで、実施例1と同方法により同形状のバルーンを5本作製した。
【0044】
(比較例1)
実施例1と同じ材料を用い、同じ寸法(外径)をもって、切断面の外側、内側ともに円形のバルーン用チューブ(図示せず)を作製し、次いで、実施例1と同方法により同形状のバルーンを5本作製した。尚、実施例における外接円の直径と比較例1の内側の円形の直径を同じにした。
【0045】
(評価)
各実施例および比較例にて作製した拡張用バルーンを37℃水温中にて1.82Mpaで30秒間拡張した。その後、バルーンを収縮させ、折り畳まれたときに形成される翼部数を数えた。また、各実施例のバルーン直管部の中央部とその両端部の膜厚をマイクロメータにより周方向へ60°間隔で測定し、計18点の膜厚を算出した。また、この時、中央部とその両端部の測定点(3点)がバルーン軸方向に直線上に並ばないように、測定位置を周方向に10°〜20°ずらし、満遍なくバルーン全体を測定した。
【0046】
(評価結果)
表1より、実施例1及び3のバルーンを折り畳ませたときに形成される翼部数は3枚、実施例2及び4では4枚を示したのに対し、比較例では2枚であったため、全実施例においてプロファイル径の小径化を図ることができた。このとき、各実施例において作製したすべて(5本)のサンプルにおいて、同じ翼部枚を示したため、安定的に折り畳まれ形状が付与されることを確認した。さらに、各実施例のバルーン膜厚は、比較例と同程度の厚みであることも確認した。また、本発明に係る全実施例において、一連の成形工程は簡便であり、成形収率も極めて高かった。
【0047】
【表1】