(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、SCRのNH3吸着量には上限があり、尿素添加弁から尿素水が過剰噴射されると、SCRからスリップしたNH3が大気に放出されるため好ましくない。そのため、従来は、尿素添加弁に過剰噴射を引き起こす故障等が発生した場合は、尿素噴射を完全停止させる処置を行っている。しかしながら、ディーゼル・パティキュレイト・フィルタ(Diesel Particulate Filter:以下、DPF)の強制再生時等、排気温度が高温になる状態で尿素噴射を停止させると、尿素添加弁が熱害の影響を受けて破損する可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、尿素添加弁の熱害による破損を効果的に防止することができる噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明の噴射制御装置は、内燃機関の排気通路内に配置された排気浄化触媒よりも排気上流側に添加剤を噴射する噴射弁の噴射制御装置であって、前記噴射弁の添加剤噴射が過剰噴射になるか否かを判定する過剰噴射判定手段と、前記過剰噴射判定手段が前記噴射弁を過剰噴射になると判定した場合に、前記噴射弁に間欠噴射を指示する噴射指示手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
前記噴射弁が弁開固着状態にあるか否かを判定する開固着判定手段をさらに備え、前記噴射指示手段は、前記開固着判定手段が前記噴射弁を弁開固着状態にあると判定した場合に、前記噴射弁に間欠噴射を指示するものであってもよい。
【0009】
前記噴射指示手段は、前記過剰噴射判定手段が前記噴射弁を過剰噴射になると判定し、且つ前記開固着判定手段が前記噴射弁を弁開固着状態にないと判定した場合に、前記噴射弁に所定の噴射間隔の第1間欠噴射を指示し、前記過剰噴射判定手段が前記噴射弁を過剰噴射になると判定し、且つ前記開固着判定手段が前記噴射弁を弁開固着状態にあると判定した場合に、前記噴射弁に前記第1間欠噴射よりも噴射間隔が長い第2間欠噴射を指示するものであってもよい。
【0010】
前記噴射指示手段は、前記噴射弁に前記第1間欠噴射を実行させた後、前記過剰噴射判定手段が前記噴射弁を過剰噴射にならないと判定した場合又は、前記噴射弁に前記第2間欠噴射を実行させた後、前記開固着判定手段が前記噴射弁を弁開固着状態にないと判定し、且つ前記過剰噴射判定手段が前記噴射弁を過剰噴射にならないと判定した場合に、前記噴射弁に前記内燃機関の運転状態に応じた噴射量を指示するものであってもよい。
【0011】
前記第1間欠噴射の噴射量は、前記内燃機関が高負荷になるほど多く設定され、前記第2間欠噴射の噴射量は、前記第1間欠噴射の噴射量よりも少なく設定されてもよい。
【0012】
前記噴射弁が添加剤として尿素水を噴射するものであり、前記排気浄化触媒が尿素水から加水分解されて生成されるアンモニアを還元剤として排気中の窒素化合物を浄化する選択的還元触媒であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の噴射制御装置によれば、尿素添加弁の熱害による破損を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る噴射制御装置を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0016】
図1に示すように、ディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)10の排気マニホールド10bには、排気を大気に導出する排気通路11が接続されている。この排気通路11には、排気上流側から順に、排気流量センサ20、前段後処理装置30、排気温度センサ21、後段後処理装置40、NOxセンサ27等が設けられている。なお、
図1中において、符号22はエンジン回転センサ、符号23はアクセル開度センサ、符号24は車速センサ、符号25は外気温センサ、符号26は冷却水温センサを示している。
【0017】
前段後処理装置30は、触媒ケース30a内に上流側から順に、酸化触媒(Diesel Oxidation Catalyst:以下、DOC)31と、DPF32とを配置して構成されている。また、DOC31よりも上流側の排気通路11には、燃料添加弁33が設けられている。
【0018】
燃料添加弁33は、電子制御ユニット(以下、ECU)50から入力される指示信号に応じて、排気通路11内に未燃燃料(主にHC)を噴射する。なお、エンジン10の多段噴射によるポスト噴射を用いる場合は、この燃料添加弁33を省略してもよい。
【0019】
DOC31は、例えば、コーディエライトハニカム構造体等のセラミック製担体表面に触媒成分を担持して形成されている。DOC31は、燃料添加弁33又はポスト噴射によってHCが供給されると、これを酸化して排気温度を上昇させる。
【0020】
DPF32は、例えば、多孔質性の隔壁で区画された多数のセルを排気の流れ方向に沿って配置し、これらセルの上流側と下流側とを交互に目封止して形成されている。DPF32は、排気中のPMを隔壁の細孔や表面に捕集すると共に、PM堆積量が所定量に達すると、これを燃焼除去するいわゆる強制再生が実行される。強制再生は、燃料添加弁33又はポスト噴射によってDOC31に未燃燃料(HC)を供給し、DPF32に流入する排気温度をPM燃焼温度(例えば、約500〜600℃)まで昇温することで行われる。
【0021】
後段後処理装置40は、ケース40a内に収容されたSCR41を備えて構成されている。また、SCR41よりも上流側の排気通路11には、尿素添加弁42が設けられている。
【0022】
尿素添加弁42は、例えば公知の電磁弁であって、ECU50から入力される指示信号に応じて開閉動作することで、SCR41よりも上流側の排気通路11内に、尿素水タンク43内から尿素水ポンプ44によって圧送される尿素水を噴射する。噴射された尿素水は排気熱により加水分解されてNH3に生成され、下流側のSCR41に還元剤として供給される。
【0023】
SCR41は、例えば、ハニカム構造体等のセラミック製担体表面にゼオライト等を担持して形成されており、多孔質性の隔壁で区画された多数のセルを備えて構成されている。SCR41は、還元剤として供給されるNH3を吸着すると共に、吸着したNH3で通過する排気ガス中からNOxを選択的に還元浄化する。
【0024】
ECU50は、エンジン10や燃料添加弁33、尿素添加弁42等の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。これら各種制御を行うため、ECU50には、各種センサ20〜27のセンサ信号が入力される。
【0025】
また、ECU50は、
図2に示すように、正常時噴射制御部51と、尿素過剰噴射判定部52と、弁開固着判定部53と、間欠噴射制御部54と、故障判定部55とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、一体のハードウェアであるECU50に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0026】
正常時噴射制御部51は、本発明の噴射指示手段の一例であって、エンジン10の運転状態に応じた最適な基本噴射モードQ
_0で尿素添加弁42の尿素噴射を制御する。この基本噴射モードQ
_0は、尿素添加弁42に過剰噴射や弁開固着等が生じていない正常作動時に選択される。以下、基本噴射モードQ
_0の噴射量設定手順の一例を説明する。
【0027】
まず、各種センサ20〜23等で検出されるエンジン10の運転状態に基づいて、エンジン10から排出されるNOx排出量を推定する。なお、SCR41よりも上流側にNOxセンサ(不図示)を配置する場合は、このNOxセンサのセンサ値を直接用いてもよい。
【0028】
さらに、推定したエンジン10のNOx排出量及びNOxセンサ27のセンサ値に基づいて、SCR41のNOx浄化率に相当するNH3消費量を推定すると共に、このNH3消費量からSCR41の現在のNH3実吸着量を推定する。また、排気温度センサ21のセンサ値(SCR内部温度)から、SCR41の現在のNH3吸着可能量を推定する。そして、これらNH3実吸着量及びNH3吸着可能量に基づいてSCR41のNH3目標吸着量を設定すると共に、このNH3目標吸着量を達成するのに必要な尿素供給量を基本噴射モードQ
_0の噴射量として設定する。
【0029】
尿素過剰噴射判定部52は、本発明の過剰噴射判定手段の一例であって、尿素添加弁42の尿素噴射が過剰になるか否かを判定する。尿素噴射が過剰になるか否かは、基本噴射モードQ
_0の噴射量を設定するために用いられる各種センサ20〜23の故障やエンジン10の故障等、過剰噴射を引き起こす可能性がある故障コードの発生有無等に基づいて判定される。
【0030】
弁開固着判定部53は、本発明の開固着判定手段の一例であって、尿素添加弁42が弁開固着状態に有るか否かを判定する。弁開固着の有無は、例えば、尿素添加弁42に出力される指示信号(パルス電流)の変化や、尿素水ポンプ44の出力増加等に基づいて判定される。
【0031】
間欠噴射制御部54は、本発明の噴射指示手段の一例であって、尿素添加弁42に過剰噴射や弁開固着が生じた際に、尿素添加弁42を熱害から保護するのに最適な第1間欠噴射モードQ
_1又は第2間欠噴射モードQ
_2を選択的に用いて尿素添加弁42の噴射量を制御する。
【0032】
より詳しくは、尿素添加弁42が弁開固着以外の理由によって過剰噴射を引き起こす可能性がある場合は、第1間欠噴射モードQ
_1が選択される。第1間欠噴射モードQ
_1の尿素噴射量・噴射間隔は、予めECU50に記憶された第1マップ54a及びエンジン10の運転状態を示す各種センサ20〜26のセンサ値に基づいて設定される。この第1マップ54aにおいて、尿素噴射量は、エンジン10の運転状態が高負荷になるほど多くなるように設定されている。
【0033】
なお、尿素添加弁42が過剰噴射を引き起こす状態では、正確な噴射量制御が困難なため、多量の噴射指示を行うとNH3スリップを引き起こす可能性がある。このため、第1間欠噴射モードQ
_1は、SCR41の現在のNH3吸着可能量に対して十分な余裕を確保できる噴射量で設定される。
【0034】
一方、尿素添加弁42が弁開固着状態にある場合は、第2間欠噴射モードQ
_2が選択される。第2間欠噴射モードQ
_2は、尿素添加弁42の弁開固着状態からの復帰を図るための尿素噴射であり、その尿素噴射量・噴射間隔は、予めECU50に記憶された第2マップ54b及び、エンジン10の運転状態を示す各種センサ20〜26のセンサ値に基づいて設定される。
【0035】
なお、弁開固着時は、尿素水ポンプ44によって圧送される尿素水が尿素添加弁42から恒常的に流れ出す可能性があり、第1間欠噴射モードQ
_1と同量の尿素噴射を指示すると多量のNH3スリップを引き起こす虞がある。そのため、
図3に示すように、第2間欠噴射モードQ
_2の噴射間隔は第1間欠噴射モードQ
_1よりも長く設定される。好ましくは、第1間欠噴射モードQ
_1の噴射間隔は例えば秒から分のオーダーで設定され、第2間欠噴射モードQ
_2の噴射間隔は例えば分のオーダーで設定される。また、
図3に示すように、第2間欠噴射モードQ
_2の尿素噴射量は第1間欠噴射モードQ
_1よりも少なく設定される。特に、第2間欠噴射モードQ
_2の尿素噴射量は、少なくとも尿素添加弁42に指示信号(パルス電流)を与えるものであれば良く、尿素添加弁の開固着時の尿素噴射においてもNH3スリップが発生しないように設定されている。
【0036】
故障判定部55は、第1間欠噴射モードQ
_1又は第2間欠噴射モードQ
_2を実行しても、尿素添加弁42の過剰噴射や弁開固着が解消しない場合(一時的な故障でない場合)に、尿素添加弁42を完全故障と判定する。完全故障の判定結果は、運転者に知らせるべく、図示しない運転室の表示装置に表示される。
【0037】
次に、
図4に基づいて、本実施形態の噴射制御装置による制御フローを説明する。なお、
図4のフローにおいて、フラグF
1は尿素添加弁42の過剰噴射を示す判定フラグであり、過剰噴射の可能性がある場合にオン(F
1=1)され、過剰噴射の可能性がない場合にオフ(F
1=0)される。また、フラグF
2は尿素添加弁42の弁開固着を示す判定フラグであり、弁開固着が生じた場合にオン(F
2=1)され、弁開固着が生じていない場合にオフ(F
2=0)される。
【0038】
ステップ(以下、ステップを単にSと記載する)100では、尿素添加弁42の尿素噴射が基本噴射モードQ
_0で制御される。S110では、尿素添加弁42が過剰噴射になるか否かが判定される。過剰噴射の可能性がある場合(Yes)はS120に進み、フラグF
1がオン(F
1=1)に設定される。一方、過剰噴射にならない場合(No)は、S130でフラグF
1がオフ(F
1=0)に設定されると共に、基本噴射モードQ
_0を維持すべくS100に戻される。
【0039】
S140では、尿素添加弁42が弁開固着状態に有るか否かが判定される。弁開固着状態に無い場合(No)は、S150でフラグF
2がオフ(F
2=0)に設定されると共に、S160で尿素添加弁42の尿素噴射が第1間欠噴射モードQ
_1で制御され、その後、本制御はS130に戻される。
【0040】
上述のS140で、尿素添加弁42が弁開固着状態に有ると判定された場合(Yes)は、S200でフラグF
2がオン(F
2=1)に設定されると共に、S210で尿素添加弁42の尿素噴射が第2間欠噴射モードQ
_2で制御される。
【0041】
S220では、尿素添加弁42が弁開固着状態に有る否かが再度判定される。第2間欠噴射モードQ
_2の実行によって弁開固着が解消された場合(No)は、S230でフラグF
2がオフ(F
2=0)に設定されてS110に戻される。一方、弁開固着が解消していない場合(Yes)は、S240に進む。
【0042】
S240では、第2間欠噴射モードQ
_2の実行から所定時間が経過したか否かが判定される。所定時間が経過している場合(Yes)は、第2間欠噴射モードQ
_2を継続しても弁開固着を解消できる見込みはないため、S250で尿素添加弁42は完全故障と判定される。所定時間が経過していない場合(No)は、第2間欠噴射モードQ
_2を継続すべく、S210に戻される。その後、上述のS100〜S250までの各制御ステップは、エンジン10のイグニッションキーOFF操作まで繰り返し実行される。
【0043】
次に、本実施形態に係る噴射制御装置の作用効果を説明する。
【0044】
従来装置では、尿素添加弁42に過剰噴射や弁開固着等の機械的故障が生じると、SCR41からのNH3スリップを防止すべく、尿素添加弁42の尿素噴射を完全停止させている。そのため、DPF32の強制再生時等、高排気温時に尿素添加弁42が熱害の影響を受けて破損する課題がある。
【0045】
これに対し、本実施形態の噴射制御装置は、DPF32の強制再生時等、高排気温状況下で尿素添加弁42に過剰噴射や弁開固着が生じた場合においても、第1間欠噴射モードQ
_1を実行することで、尿素添加弁42の冷却効果を維持できるように構成されている。
【0046】
したがって、本実施形態の噴射制御装置によれば、尿素添加弁42の熱害による破損を確実に防止することが可能になる。また、過剰噴射時に尿素噴射を完全停止させる従来装置に比べ、少量でも尿素噴射を実行することで、SCR41のNOx浄化作用を効果的に継続させることができる。また、DPF32の強制再生時等、高排気温状況下で弁開固着が生じた場合においても、第2間欠噴射モードQ
_2を実行することで、尿素添加弁42の冷却やSCR41のNOx浄化作用の効果と共に、尿素添加弁42の弁開固着状態からの復帰を図ることができる。
【0047】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0048】
例えば、第1間欠噴射モードQ
_1や第2間欠噴射モードQ
_2の適用は、尿素添加弁42に限定されず、燃料添加弁33の燃料噴射に適用することも可能である。この場合は、燃料添加弁33の熱害による故障を効果的に防止することができる。また、後段後処理装置40はSCR41に限定されず、NOx吸蔵還元型触媒(LNT)であってもよい。また、エンジン10はディーゼルエンジンに限定されず、ガソリンエンジン等の他の内燃機関にも広く適用することが可能である。