特許第6264054号(P6264054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6264054積層ガラスセラミックス焼結体および積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6264054
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】積層ガラスセラミックス焼結体および積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/01 20060101AFI20180115BHJP
   C03B 19/06 20060101ALI20180115BHJP
   C03C 8/14 20060101ALI20180115BHJP
   G06F 3/041 20060101ALI20180115BHJP
   G06F 3/0354 20130101ALI20180115BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20180115BHJP
   B32B 18/00 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   C04B35/01
   C03B19/06 C
   C03C8/14
   G06F3/041 460
   G06F3/041 660
   G06F3/0354 453
   B32B7/02 103
   B32B18/00 B
【請求項の数】14
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-8928(P2014-8928)
(22)【出願日】2014年1月21日
(65)【公開番号】特開2015-137195(P2015-137195A)
(43)【公開日】2015年7月30日
【審査請求日】2016年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080621
【弁理士】
【氏名又は名称】矢野 寿一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162020
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】加納 邦彦
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−069355(JP,A)
【文献】 特表2013−545170(JP,A)
【文献】 特開2002−373540(JP,A)
【文献】 特開2013−254522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00−35/84
G06F 3/041−3/047
C03B 19/06
B32B 18/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一ガラスセラミックス焼結体層と、第二ガラスセラミックス焼結体層と、前記第一ガラスセラミックス焼結体層と第二ガラスセラミックス焼結体層との間に配置された絵柄層とが積層一体化されてなり、
前記第一ガラスセラミックス焼結体層が可視光を透過してなり、
前記第一ガラスセラミックス焼結体層は、質量百分率でガラスを30〜70%、セラミックスを70〜30%含み、
前記セラミックスは、アルミナ、ムライト、ジルコン、ジルコニア、コージエライトの群から選択される一種類以上のセラミックスであり、
前記絵柄層により、絵柄および/または文字が形成されてな
前記絵柄層が、第一ガラスセラミックス焼結体層の表面から深さ方向に20[μm]を超え、且つ400[μm]以下の位置に形成され、
三点曲げ試験によって計測される曲げ強度が、200[MPa]以上である、
ことを特徴とする、積層ガラスセラミックス焼結体。
【請求項2】
前記第二ガラスセラミックス焼結体層は、可視光の透過率が前記第一ガラスセラミックス焼結体層よりも低い、
ことを特徴とする、請求項1に記載の積層ガラスセラミックス焼結体。
【請求項3】
少なくとも一方の表面は段差を有し、
該段差が20[μm]以下である、
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の積層ガラスセラミックス焼結体。
【請求項4】
前記絵柄層が、ガラスおよび無機顔料からなり、
質量百分率で、ガラスが70〜99.8%、無機顔料が0.2〜30%である、
ことを特徴とする、請求項1〜請求項の何れか一項に記載の積層ガラスセラミックス焼結体。
【請求項5】
前記第一ガラスセラミックス焼結体層は、無機顔料を含有しない、
ことを特徴とする、請求項1〜請求項の何れか一項に記載の積層ガラスセラミックス焼結体。
【請求項6】
前記絵柄層が、少なくとも一方の表面から視認可能である、
ことを特徴とする、請求項1〜請求項の何れか一項に記載の積層ガラスセラミックス焼結体。
【請求項7】
携帯電子機器の外装として用いられる、
ことを特徴とする、請求項1〜請求項の何れか一項に記載の積層ガラスセラミックス焼結体。
【請求項8】
ノートパソコンのタッチパッドとして用いられる、
ことを特徴とする、請求項1〜請求項の何れか一項に記載の積層ガラスセラミックス焼結体。
【請求項9】
ガラス粉末およびセラミック粉末を含む第二のグリーンシートの表面に絵柄および/または文字を形成する絵柄層となる絵柄部をスラリー状の絵柄材料を塗布することにより形成し、該絵柄部を配置した第二のグリーンシート上に、絵柄部を挟み込むように、ガラス粉末およびセラミック粉末を含む第一のグリーンシートを積層する積層工程と、
積層して得られたグリーンシート積層体を、積層方向に圧着する圧着工程と、
圧着した前記グリーンシート積層体を焼結する焼結工程と
を備える、
ことを特徴とする、積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項10】
前記絵柄部を配置した第二のグリーンシートの前記絵柄部上に積層する第一のグリーンシートの厚みが50[μm]を超え、且つ600[μm]以下である、
ことを特徴とする、請求項に記載の積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項11】
前記絵柄部が、ガラス粉末および無機顔料粉末を含有する材料からなり、
質量比で、ガラス粉末:無機顔料粉末が70〜99.8:0.2〜30である、
ことを特徴とする、請求項または請求項10に記載の積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項12】
前記第一のグリーンシートは、無機顔料粉末を含有しない、
ことを特徴とする、請求項〜請求項11の何れか一項に記載の積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項13】
前記絵柄部が、スクリーン印刷で形成される、
ことを特徴とする、請求項〜請求項12の何れか一項に記載の積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法。
【請求項14】
前記絵柄部が、前記グリーンシート積層体における最外層のグリーンシートと、最外層のグリーンシートに隣接するグリーンシートとの間に配置される、
ことを特徴とする、請求項〜請求項13の何れか一項に記載の積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絵柄や文字などが印刷された、積層ガラスセラミックス焼結体および積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯機器の分野においては、ノートパソコンに付属されるタッチパッドなどのような、直接指先で触れることで利用者の直感的な操作を可能にするユーザーインターフェースが増加している。
前記タッチパッドの構成部材としては、特許文献1に開示されているように、従来から樹脂、ガラス、金属等からなる基板が用いられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−254522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、樹脂製基板からなるタッチパッドの場合、タッチパッドを操作する際の指先との摩擦により表面の摩耗が進行するため、長期間に亘って該表面の平面度を維持することが困難である。その結果、タッチパッドに対して指先が滑りにくくなり、タッチパッドの操作性が悪化し易いという問題があった。
このようなことから、携帯機器の分野においては、例えばタッチパッド表面のような指先との摩擦が生じる部位について、長期間に亘って平面度を維持することができるように耐磨耗性の向上を図ることが求められていた。
【0005】
一方、タッチパッドにおいては、従来から、意匠性の向上や商品情報の伝達などを目的とする絵柄や文字などを、その表面に施工することが考えられているが、以下の理由により、未だ実現には至っていない。
即ち、例えタッチパッドの表面上に絵柄や文字などを施工したとしても、タッチパッド操作時の指先との摩擦によって、絵柄や文字などが剥がれ落ちたり、タッチパッド操作時の指先の感触によって、絵柄や文字などの境界線上の段差を感じ取ってしまい、タッチパッドの操作に不快感を生じさせたりする等の理由が挙げられる。
このようなことから、携帯機器の分野においては、例えばタッチパッドの表面のような指先との摩擦が生じる部位について、操作時における指先との摩擦によって剥がれ落ちが生じたり、操作時の指先の感触に不快感を生じさせたりすることがない、絵柄や文字などによる意匠性の向上を図ることが求められていた。
【0006】
なお、携帯機器の分野において、指先や手のひらとの摩擦によって、表面上に施工された図柄や文字などが損傷される可能性のある部材は、タッチパッドに代表されるような操作部の部材に限定されるものではない。
例えば、携帯電話や携帯ゲーム機などの携帯機器においては、携帯機器を操作する際、外装となる筐体が握持されることから、該筐体の表面上に施工された絵柄や文字などが、指先や手のひらとの摩擦によって損傷することが多かった。
このような、手のひらや指先によって握持される外装のような部位についても、長期使用による手のひらや指先との摩擦によって剥がれ落ちたりすることがない、絵柄や文字などによる意匠性の向上や耐磨耗性の向上を図ることが求められていた。
【0007】
さらに言えば、電化製品においては、近年、機能とあわせて、その意匠性(デザイン性)が優先されることも多く、容易に多様なデザインが施工可能な部材、およびその製造方法の開発が求められていた。
【0008】
本発明は、以上に示した現状の問題点を鑑みてなされたものであり、例えば、携帯機器の分野におけるタッチパッドや外装の表面などのように、指先や手のひらなどとの摩擦が生じる部位に用いた際に、優れた耐磨耗性を実現し、且つ長期間に亘って意匠性を保持することができる積層ガラスセラミックス焼結体および積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、本発明の請求項1に係る積層ガラスセラミックス焼結体は、第一ガラスセラミックス焼結体層と、第二ガラスセラミックス焼結体層と、前記第一ガラスセラミックス焼結体層と第二ガラスセラミックス焼結体層との間に配置された絵柄層とが積層一体化されてなり、前記第一ガラスセラミックス焼結体層が可視光を透過してなり、前記第一ガラスセラミックス焼結体層は、質量百分率でガラスを30〜70%、セラミックスを70〜30%含み、前記セラミックスは、アルミナ、ムライト、ジルコン、ジルコニア、コージエライトの群から選択される一種類以上のセラミックスであり、前記絵柄層により、絵柄および/または文字が形成されてなり、前記絵柄層が、第一ガラスセラミックス焼結体層の表面から深さ方向に20[μm]を超え、且つ400[μm]以下の位置に形成され、三点曲げ試験によって計測される曲げ強度が、200[MPa]以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明の請求項2に係る積層ガラスセラミックス焼結体は、前記第二ガラスセラミックス焼結体層は、可視光の透過率が前記第一ガラスセラミックス焼結体層よりも低いことを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項3に係る積層ガラスセラミックス焼結体は、少なくとも一方の表面は段差を有し、該段差が20[μm]以下であることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体は、前記絵柄層が、ガラスおよび無機顔料からなり、質量百分率で、ガラスが70〜99.8%、無機顔料が0.2〜30%であることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体は、前記第一ガラスセラミックス焼結体層は、無機顔料を含有しないことを特徴とする。
【0016】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体は、前記絵柄層が、少なくとも一方の表面から視認可能であることを特徴とする。
【0018】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体は、携帯電子機器の外装として用いられることを特徴とする。
【0019】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体は、ノートパソコンのタッチパッドとして用いられることを特徴とする。
【0020】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法は、ガラス粉末およびセラミック粉末を含む第二のグリーンシートの表面に絵柄および/または文字を形成する絵柄層となる絵柄部をスラリー状の絵柄材料を塗布することにより形成し、該絵柄部を配置した第二のグリーンシート上に、絵柄部を挟み込むように、ガラス粉末およびセラミック粉末を含む第一のグリーンシートを積層する積層工程と、積層して得られたグリーンシート積層体を、積層方向に圧着する圧着工程と、圧着した前記グリーンシート積層体を焼結する焼結工程とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の請求項10に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法は、前記絵柄部を配置した第二のグリーンシートの前記絵柄部上に積層する第一のグリーンシートの厚みが50[μm]を超え、且つ600[μm]以下であることを特徴とする。
【0022】
本発明の請求項11に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法は、前記絵柄部が、ガラス粉末および無機顔料粉末を含有する材料からなり、質量比で、ガラス粉末:無機顔料粉末が70〜99.8:0.2〜30であることを特徴とする。
【0023】
本発明の請求項12に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法は、前記第一のグリーンシートは、無機顔料粉末を含有しないことを特徴とする。
【0024】
本発明の請求項13に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法は、前記絵柄部が、スクリーン印刷で形成されることを特徴とする。
【0025】
本発明の請求項14に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法は、前記絵柄部が、前記グリーンシート積層体における最外層のグリーンシートと、最外層のグリーンシートに隣接するグリーンシートとの間に配置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0027】
本発明の請求項1に係る積層ガラスセラミックス焼結体によれば、その表面が第一ガラスセラミックス焼結体層からなるため、優れた耐磨耗性を実現することができる。
また、絵柄層は、第一ガラスセラミックス焼結体層を通して視認可能であり、外部より直接触れられることはない。よって、例えば、指先等との摩擦によって、この絵柄層が剥がれ落ちることがなく、長期間に亘って意匠性を保持することができる。
また、本発明の請求項1に係る積層ガラスセラミックス焼結体によれば、絵柄層が、第一ガラスセラミックス焼結体層の表面から深さ方向に20[μm]を超え、且つ400[μm]以下の位置に形成されているため、絵柄層に対して、より良好な表面からの視認性を確保することができる。
さらに、本発明の請求項1に係る積層ガラスセラミックス焼結体によれば、三点曲げ試験によって計測される曲げ強度が、200[MPa]以上であるため、例えば、落下時や、不意の外部からの衝撃などに耐え得る剛性を確保することができる。
【0028】
本発明の請求項2に係る積層ガラスセラミックス焼結体によれば、絵柄層に対して、表面からの良好な視認性を確保することができる。
【0029】
本発明の請求項3に係る積層ガラスセラミックス焼結体によれば、例えば、ノートパソコンのタッチパッドなどのような、指先で撫でるようにして操作するユーザーインターフェースに用いられたとしても、表面に存在する段差を気にすることなく、タッチパッドの操作を行うことができる。
【0031】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体によれば、絵柄層に含有されるガラスの割合が大きいことから、絵柄層の熱膨張係数を、ガラスセラミックス焼結体層の熱膨張係数と、略同程度とすることができる。
従って、絵柄層とガラスセラミック焼結体層との界面等に亀裂や破損などが発生することを防止することができる。
【0032】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体によれば、絵柄層に対して、さらに良好な表面からの視認性を確保することができる。
【0033】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体によれば、意匠性の向上や商品情報の伝達等を、十分に図ることができる。
【0035】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体によれば、優れた耐磨耗性、および長期間に亘る意匠性を付与することが可能な携帯電子機器の外装を提供することができる。
【0036】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体によれば、優れた耐磨耗性、および長期間に亘る意匠性を付与することが可能なノートパソコンのタッチパッドを提供することができる。
【0037】
本発明の請求項に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法によれば、表面がガラスセラミックス焼結体層より形成されるため、優れた耐磨耗性を有する積層ガラスセラミックス焼結体を得ることができる。
また、得られる積層ガラスセラミックス焼結体において、絵柄層は、第一ガラスセラミックス焼結体層を通して視認可能であり、外部より直接触れられることはない。よって、本発明における製造方法によれば、例えば、指先等との摩擦によって、これらの絵柄層が剥がれ落ちることがなく、長期間に亘って意匠性を保持することが可能な積層ガラスセラミックス焼結体を得ることができる。
【0038】
本発明の請求項10に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法によれば、得られる積層ガラスセラミックス焼結体において、絵柄層に対して、より良好な表面からの視認性を確保することができる。
【0039】
本発明の請求項11に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法によれば、絵柄部に含有されるガラス粉末の割合が大きいことから、焼結した絵柄層の熱膨張係数を、ガラスセラミックス焼結体層の熱膨張係数と、略同程度とすることができる。
従って、例えば焼結中において、ガラスセラミックス焼結体層と、絵柄層との熱膨張率の差によって、絵柄層とガラスセラミックスとの界面等に亀裂や破損などが発生することを防止することができる。
【0040】
本発明の請求項12に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法によれば、得られる積層ガラスセラミックス焼結体において、絵柄層に対して、さらに良好な表面からの視認性を確保することができる。
【0041】
本発明の請求項13に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法によれば、得られる積層ガラスセラミックス焼結体において、一般的なスクリーン印刷によって、連続的且つ大量に、グリーンシートに絵柄部を印刷することができるため、製造コストを抑制することができる。
【0042】
本発明の請求項14に係る積層ガラスセラミックス焼結体の製造方法によれば、得られる積層ガラスセラミックス焼結体において、絵柄層を、隣接するガラスセラミックス焼結体層の間に確実に配置しつつ、外部からの良好な視認性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の一実施形態に係る積層ガラスセラミックス焼結体を示した側面断面図。
図2】積層ガラスセラミックス焼結体を形成する際の各工程を示した図であり、(a)は積層工程におけるグリーンシートの状態を示した側面断面図、(b)は圧着工程におけるグリーンシートの状態を示した側面断面図、(c)は焼結工程にて焼結された積層ガラスセラミックス焼結体の状態を示した側面断面図。
【発明を実施するための形態】
【0044】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0045】
[積層ガラスセラミックス焼結体1]
先ず、本発明を具現化する、積層ガラスセラミックス焼結体1の構成について、図1を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては便宜上、図1の上下方向を積層ガラスセラミックス焼結体1の上下方向と規定して記述する。
【0046】
本実施形態の積層ガラスセラミックス焼結体1は、複数枚のガラスセラミックス焼結体層11・11・・・と、絵柄および/または文字を表現する絵柄層12とが積層一体化されて、積層ガラスセラミックス焼結体1の内部に絵柄層12が形成されたものである。
具体的には、例えば、絵柄層12は、積層ガラスセラミックス焼結体1の、積層ガラスセラミックス焼結体1における一方(本実施形態においては上方)の最外層に位置するガラスセラミックス焼結体層11(以下、適宜「第一ガラスセラミックス焼結体層11A」と記載)に対応する部分と、第一ガラスセラミックス焼結体層11Aに隣接するガラスセラミックス焼結体層11(以下、適宜「第二ガラスセラミックス焼結体層11B」と記載)に対応する部分との間に形成されている。
なお、第二ガラスセラミックス焼結体層11Bは、一層で形成しても良いし、複数のラスセラミックス焼結体層11の積層体であっても良い。
【0047】
第一ガラスセラミックス焼結体層11Aは透光性を有しており、積層ガラスセラミックス焼結体1の内部に配置される前記絵柄層12を、積層ガラスセラミックス焼結体1の表面から視認することができる。
特に、積層ガラスセラミックス焼結体1の一方(上方)の表面から前記絵柄層12を視認する場合は、積層ガラスセラミックス焼結体1の表面と絵柄層12との間に一層の透光性を有する第一ガラスセラミックス焼結体層11Aが存在するだけであるので、例えば、前記絵柄層12との間に四層のガラスセラミックス焼結体層11・11・11・11が存在する、積層ガラスセラミックス焼結体1の他方(本実施形態においては下方)の表面から視認する場合に比べて、良好に視認することができる。
ここで、第一ガラスセラミックス焼結体層11Aは、無機顔料を含有させないことにより透光性を損ないにくい。
【0048】
なお、第二ガラスセラミックス焼結体層11Bの可視光透過率は、特に、限定されるものではないが、第一ガラスセラミックス焼結体層11Aの可視光透過率よりも低くしてもよい。
また、絵柄層12が有色の絵柄層12からなる場合、第二ガラスセラミックス焼結体層11Bは白色の層、または絵柄層12とは異なる色の層からなることが好ましい。
また、絵柄層12が白色の絵柄層12からなる場合、第二ガラスセラミックス焼結体層11Bは有色の層からなることが好ましい。
ここで、第二ガラスセラミックス焼結体層11Bが無機顔料を含有してなると、隠蔽性に優れるため、第二ガラスセラミックス焼結体層11Bを不透視とする場合であっても、積層ガラスセラミックス焼結体1を薄くすることができ、これを使用した電子機器等の軽量化が図れる。
また、絵柄層12の輪郭部分が明確になり、絵柄層12を、ガラスセラミックス焼結体層11Aの表面からより明確に視認することができる。
【0049】
このように、絵柄層12は、積層ガラスセラミックス焼結体1の表面から視認可能であるにもかかわらず、外部より直接触れられることはない。
よって、例えば、指先等との摩擦によって、これらの絵柄層12が剥がれ落ちることもなく、長期間に亘って意匠性を保持することができる。
【0050】
なお、絵柄層12の視認性の程度は、絵柄層12上に形成されているガラスセラミックス焼結体層11の厚み、即ち、積層ガラスセラミックス焼結体1の表面から絵柄層12までの距離(図1における寸法T)に影響される。
【0051】
即ち、積層ガラスセラミックス焼結体1の表面から絵柄層12までの距離が大きくなりすぎると、絵柄層12の視認性が低下しやすくなる。
一方、積層ガラスセラミックス焼結体1の表面から絵柄層12までの距離が小さくなりすぎると、手のひらや指先との摩擦により絵柄層12が剥離しやすくなる。
【0052】
このようなことから、絵柄層12の良好な視認性を確保するには、絵柄層12を少なくとも一方の表面(本実施形態においては、第一ガラスセラミックス焼結体層11Aの外側面)から深さ方向に、20[μm]を超え、且つ400[μm]以下(20[μm]<T≦400[μm])となる位置に形成することが好ましい。
より詳しくは、第一ガラスセラミックス焼結体層11Aの外側面から深さ方向に、20[μm]を超え、且つ200[μm]以下(20[μm]<T≦200[μm])となる位置に、絵柄層12を形成することが、より好ましい。
【0053】
また、本実施形態の積層ガラスセラミックス焼結体1は、一方の表面(本実施形態においては上面)において、絵柄等12が形成されている部分に対応する箇所が盛り上がることにより突部11aが形成されている。
つまり、絵柄層12の厚みが積層ガラスセラミックス焼結体1の表面形状に影響を与え、絵柄層12が形成された部分に対応する箇所に、絵柄層12の厚みに応じた突部11aが形成されている。
【0054】
積層ガラスセラミックス焼結体1の表面において、突部11aの突出寸法が大きいと、積層ガラスセラミックス焼結体1の表面を指先で触れながら撫でたときの感触に悪影響を及ぼす。
【0055】
このようなことから、表面を指先で触れながら撫でたときの良好な感触を確保するためには、突部11aが形成されている部分と形成されていない部分との間の段差寸法(図1における寸法H)を、20[μm]以下(H≦20[μm])となるように設定することが好ましい。
より詳しくは、段差寸法Hを15[μm]以下(H≦15[μm])となるように設定することが、より好ましい。
そして、この段差寸法(H)は、後述するグリーンシート20の表面に形成する絵柄部21の厚みが焼成後に20[μm]以下となるように形成することで、容易に調整できる。
【0056】
なお、本実施形態において、絵柄層12は、第一ガラスセラミック焼結体層11Aと第二ガラスセラミック焼結体層11Bとの間に配置されているが、これに限るものではなく、他のガラスセラミック焼結体層11・11間に配置することも可能である。
但し、この場合においても、積層ガラスセラミックス焼結体1の表面から絵柄層12までの距離(T)、突部11aが形成されている部分と形成されていない部分との間の段差寸法(H)を上述の範囲内とすることが好ましい。
【0057】
また、本実施形態の積層ガラスセラミックス焼結体1は、複数のガラスセラミックス焼結体層11・11・・・と、絵柄層12とが積層一体化されてなるため、高い強度を有することができる。
具体的には、三点曲げ試験によって計測される曲げ強度を、200[MPa]以上とすることができる。
【0058】
さらに、上述したように、本実施形態の積層ガラスセラミックス焼結体1は、指先等との摩擦によって、これらの絵柄層12が剥がれ落ちることもなく、高い強度を有するため、例えば、ノートパソコンに付属されるタッチパッドのような、耐磨耗性を必要とする部位において、従来の樹脂製基板に替わって構成部材や、携帯電子機器の外装などのような、耐磨耗性に加えて意匠性を必要とする部位の構成部材として用いることができる。
【0059】
なお、上述のガラスセラミックス焼結体層11は、ガラスとセラミックを含み、ガラスとセラミックの含有割合は、ガラスやセラミックの種類やガラスセラミックス焼結体の厚みによって適宜調整すればよいが、質量百分率で、ガラスを30〜70%、セラミックを30〜70%となるように調整することが好ましい。
【0060】
ところで、ガラスセラミックス焼結体層11を構成するガラスは、少なくとも、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化ホウ素(B23)、およびアルカリ土類金属酸化物を含有するガラスからなる。
【0061】
二酸化ケイ素(SiO2)は、ガラスのネットワークフォーマーであり、その含有量は質量百分率で40%〜60%である。
二酸化ケイ素(SiO2)の含有量が40%より少なくなると、軟化点が低くなりすぎて焼結開始温度が低くなり、バインダー成分が飛散する前に焼結が始まるため、緻密な焼結体が得られなくなる。また、焼結体を再加熱すると、変形し易くなる。
一方、二酸化ケイ素(SiO2)の含有量が60%より多くなると、軟化点が高くなりすぎて、1000[℃]以下の温度で焼結し難くなる。
【0062】
酸化ホウ素(B23)は、ガラス化を容易にする成分であり、その含有量は、質量百分率で20%〜40%である。
酸化ホウ素(B23)の含有量が20%より少なくなると、ガラス化し難くなるとともに、1000[℃]以下の温度で緻密な焼結体が得られなくなる。
一方、酸化ホウ素(B23)が40%より多くなると、耐水性が低下する。
【0063】
酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)および酸化バリウム(BaO)のアルカリ土類金属酸化物は、ガラスの溶融性を向上させる成分であり、その含有量は、質量百分率で5%〜20%である。
アルカリ土類金属酸化物が5%より少なくなると、溶融性が悪くなる。
一方、アルカリ土類金属酸化物が20%より多くなると、熱膨張径数が大きくなりすぎる。
【0064】
なお、本実施形態におけるガラス成分は一例であって、これに限定されるものではなく、例えば、酸化アルミニウム(Al23)や、二酸化ジルコニウム(ZrO2)など、他の成分をさらに含有させてもよいし、全く異なる成分によって構成してもよい。
【0065】
ガラスセラミックス焼結体層11を構成するセラミックとしては、例えば、アルミナ、ムライト、ジルコン、ジルコニア、コージエライトなどの群から選択される、一種以上のセラミックを用いることができる。
【0066】
また、積層ガラスセラミックス焼結体1の内部に形成される絵柄層12は、ガラスと無機顔料を含み、ガラスと無機顔料の含有割合は、ガラスや無機顔料の種類により適宜調整すればよく、質量百分率で、ガラスを70〜99.8%、無機顔料を0.2〜30%となる範囲内で調整することが好ましい。
なお、絵柄12の視認性を向上させるには、無機顔料の含有割合を多くすれば良い。
【0067】
絵柄層12を構成するガラスとしては、前述した、ガラスセラミックス焼結体層11を構成するガラスと同じものを用いることができる。
絵柄層12を構成するガラスと、ガラスセラミックス焼結体層11を構成するガラスとを同じにすることで、絵柄層12とガラスセラミックス焼結体層11との熱膨張係数を容易に近似させることができるため、絵柄層12とガラスセラミックス焼結体層11との界面での剥離が生じにくく、反りの小さい積層ガラスセラミックス焼結体1を得ることができる。
【0068】
絵柄層12を構成する無機顔料は、Co−Cr−Al系、Fe−Mn系、Co−Si系、Co−Al系等の青色顔料、Co−Si−Al系、Ni−Mn−Fe−Co系、Co−Cr−Fe系、Cu−Cr−Mn系、Co−Cr−Ni系等の黒色顔料、Fe−Cr−Zn系等の茶色顔料、Ti−Sb−Cr系等の赤黄色顔料、Ti−Sb−Ni系等の黄色顔料、Co−Al−Cr系等の青緑顔料、およびTiO2、ZrO2、Al23等の白色顔料の群から選択された一種以上の無機顔料からなる。
また、これら無機顔料は、必要に応じて、第二ガラスセラミックス焼結体層11Bに含有させることができる。
【0069】
[積層ガラスセラミックス焼結体1の製造方法]
次に、積層ガラスセラミックス焼結体1の製造方法について、図2を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては便宜上、図2の上下方向を積層ガラスセラミックス焼結体1の上下方向と規定して記述する。
【0070】
先ず始めに、ガラスセラミックス焼結体層11となるグリーンシート20を作製する。
具体的には、前述したガラスとなるガラス粉末および前述したセラミックとなるセラミック粉末を、所定の混合比で混合し、さらに、バインダー、可塑剤、および溶剤等を加えて混合することにより、スラリー状のガラスセラミックス材料を調製する。
ガラス粉末とセラミック粉末の質量比は、ガラス粉末:セラミック粉末が30〜70:30〜70となるように調整することが好ましい。
【0071】
なお、バインダーとしては、例えば、エチルセルロース樹脂やポリビニルブチラール樹脂やメタアクリル酸樹脂等を用いることができる。
また、可塑剤としては、例えば、フタル酸ジブチル等を用いることができる。
さらに、溶剤としては、例えば、ターピネオール、ブタノール、トルエン、メチルエチルケトン等を用いることができる。
【0072】
そして、調製したスラリー状のガラスセラミックス材料を、ドクターブレード法によって帯状のポリエステルフィルム上に連続的に塗布し、乾燥させ、所定の寸法に裁断し、複数の枚葉形状に形成する。
こうして、複数枚のグリーンシート20・20・・・を作製する。
【0073】
次に、作製したグリーンシート20の表面に絵柄部21を形成する。
具体的には、前述したガラスとなるガラス粉末および前述した無機顔料となる無機顔料粉末を、所定の混合比で混合し、さらに、バインダー、可塑剤、および溶剤等を加えて混合することにより、スラリー状の絵柄材料を調製する。
ガラス粉末と無機顔料粉末の質量比は、ガラス粉末:無機顔料粉末が70〜99.8:0.2〜30となるように調整することが好ましい。
なお、ガラス粉末、バインダー、可塑剤、および溶剤等は、前述したグリーンシートを作製する際に用いたものと同じものを用いることができる。
【0074】
その後、上述のようにして作製したグリーンシート20の表面にスラリー状の絵柄材料を塗布し、乾燥させて、グリーンシート20の表面に絵柄部21を形成する。
【0075】
なお、絵柄部21を形成する方法としては、グリーンシート20の表面に絵柄部21を、連続的且つ大量に印刷することができ製造コストを抑制することができるスクリーン印刷法を用いることが好ましい。
【0076】
そして、以上の手順によって得られた複数のグリーンシート20・20・・・を用いて、積層ガラスセラミックス焼結体1を形成する。
具体的には、図2(a)に示すように、所定枚数(例えば、本実施形態においては三枚)のグリーンシート20・20・20を積層し、これらのグリーンシート20・20・20の上面に、スクリーン印刷法で絵柄部21が形成されたグリーンシート20(以下、適宜「第二グリーンシート20B」と記載)を印刷面が上面となる姿勢で積層し、さらに、第二グリーンシート20Bの上面に、最外層に位置するグリーンシート20(以下、適宜「第一グリーンシート20A」と記載)を積層する。
このように、まず、5枚のグリーンシート20・20・・・を積層することによりグリーンシート積層体を構成する積層工程が行われる。
【0077】
なお、焼結後に得られる積層ガラスセラミックス焼結体1において、積層ガラスセラミックス焼結体1の内部に形成された絵柄層12を、積層ガラスセラミックス焼結体1の一方の表面から視認できるようにするには、絵柄部21の上面に積層するグリーンシート20(本実施形態においては第一グリーンシート20A)の厚み寸法(図2における寸法t)を、50[μm]を超え、且つ600[μm]以下(50[μm]<t≦600[μm])となるように調整することが好ましい。
より詳しくは、第一グリーンシート20Aの厚み寸法(t)を、50[μm]を超え、且つ500[μm]以下(50[μm]<t≦500[μm])となるように調整することがより好ましい。
【0078】
このようにすることで、積層ガラスセラミックス焼結体1の表面から絵柄層12までの距離(図1における寸法T)を、20[μm]を超え、且つ400[μm]以下となるように調整することが可能となる。
【0079】
また、積層ガラスセラミックス焼結体1の表面に形成される突部11aの段差寸法(図1における寸法H)を小さくするには、グリーンシート20の表面に形成する絵柄部21の厚み寸法(図2(a)における寸法h1)を、30〜40[μm]となるように調整することが好ましい。
【0080】
このようにすることで、焼結時に、絵柄部21が厚み方向に収縮して、絵柄層12の厚み寸法(図2(c)における寸法h2)を約20[μm]以下とすることができ、積層ガラスセラミックス焼結体1の表面における突部11aの段差寸法Hを、20[μm]以下(H≦20[μm])に調整し易くなる。
【0081】
なお、本実施形態では、絵柄部21は、第一グリーンシート20Aと第二グリーンシート20Bとの間に配置されているが、これに限るものではなく、他のグリーンシート20・20間に配置することも可能である。
但し、この場合においても、絵柄部21の上面に積層するグリーンシート20の厚み寸法(t)、グリーンシート20の表面に形成する絵柄部21の厚み寸法(h1)を上述の範囲内とすることが好ましい。
【0082】
次に、図2(b)に示すように、五枚のグリーンシート20を積層した後、図示せぬ治具等によって積層方向に圧着することにより、グリーンシート積層体を得る圧着工程が行われる。
【0083】
さらに、圧着状態にある前記グリーンシート積層体を焼結する焼結工程が行われる。
つまり、図2(b)に示すように、圧着状態にあるグリーンシート積層体を大気中で毎分1[℃]の速度で昇温し、500[℃]の温度で2時間保持することにより、各グリーンシート20中のバインダー、可塑剤等の有機物質を除去する。
【0084】
その後、グリーンシート積層体を毎分1[℃]の速度で900[℃]〜1000[℃]まで昇温し、1時間保持することにより焼結させ、図2(c)に示す積層ガラスセラミックス焼結体1を得る。
【0085】
[検証実験]
次に、本実施形態における積層ガラスセラミックス焼結体1において、最外層に位置する第一ガラスセラミックス焼結体層11Aの厚み寸法(つまり、積層ガラスセラミックス焼結体1の内部に配置される前記絵柄層12から積層ガラスセラミックス焼結体1の表面までの寸法)T[μm]、および積層ガラスセラミックス焼結体1の表面の突部11aの段差寸法H[μm]について適切な範囲を設定するために、本発明者が行った検証実験について説明する。
【0086】
本発明者は、ガラスセラミックス焼結体の材料となるガラスセラミックス材料および絵柄材料について、以下の手順により調製した。
先ず、ガラス粉末として、質量百分率で、二酸化ケイ素(SiO2)が50%、酸化ホウ素(B23)が30%、およびアルカリ土類金属酸化物(MgO、CaO、SrO、およびBaOの合量)が12%、酸化アルミニウム(Al23)が5%、二酸化ジルコニウム(ZrO2)が3%となるようにガラス原料を調合した後、これを白金坩堝に投入し、1400〜1500℃の温度で、3〜6時間溶融した。
【0087】
次に、水冷ローラーによって、溶融したガラスを薄板状に引き伸ばした後、粗砕し、ボールミルによって水を加えながら湿式粉砕することによって、平均粒径が1.5〜3.0[μm]のガラス粉末を形成した。
【0088】
その後、このようにして形成されたガラス粉末を用いて、ガラスセラミックス材料および絵柄材料を得た。
【0089】
なお、ガラスセラミックス材料は、上記のガラス粉末とセラミック粉末を用いて作製した。
具体的には、セラミック粉末としてアルミナ粉末を用い、ガラス粉末とアルミナ粉末との質量比が50:50となるように、ガラス粉末にアルミナ粉末を添加し、混合して得た混合粉末に、エチルセルロースをバインダーとして、ジブチルフタレートを可塑剤として、ターピネオールを溶剤として加えて混練して、スラリー状のガラスセラミックス材料を作製した。
【0090】
また、絵柄材料は、上記のガラス粉末と無機顔料粉末を用いて作製した。
具体的には、無機顔料粉末としてCo−Cr−Al系青色顔料粉末を用い、ガラス粉末とCo−Cr−Al系青色顔料粉末との質量比が99.5:0.5となるように、ガラス粉末に無機顔料粉末を添加し、混合して得た混合粉末に、ポリビニルブチラールをバインダーとして、ジブチルフタレートを可塑剤として、ブタノールを溶剤として加えて混練して、スラリー状の絵柄材料を作製した。
【0091】
続いて、本発明者は、積層ガラスセラミックス焼結体を、以下の手順によって形成した。
先ず、作製したスラリー状のガラスセラミックス材料を用いて、ドクターブレード法により、厚み寸法が約150[μm]のグリーンシートを複数枚成形し、さらに厚み寸法が約50[μm]、約100[μm]、約200[μm]、約300[μm]、約400[μm]、および約580[μm]のグリーンシートも各々成形した。
また、厚み寸法が約150[μm]のグリーンシートにおいては、作製したスラリー状の絵柄材料をスクリーン印刷することにより、絵柄部を形成したグリーンシートも所定の枚数分用意した。
【0092】
そして、絵柄材料がスクリーン印刷されていない厚み寸法が約150[μm]のグリーンシートを三枚積層した後、その上面に、絵柄部(15μm)を形成した厚み寸法が約150[μm]のグリーンシートを絵柄部が上面に向く姿勢で積層し、さらに、その上面に、厚み寸法が約50[μm]、約100[μm]、約200[μm]、約300[μm]、約400[μm]、約580[μm]の最上層のグリーンシートを積層し、実施例1〜6のグリーンシート積層体をそれぞれ作製した。
また、比較例1として、最上層のグリーンシートを積層しないグリーンシート積層体も作製した。
【0093】
その後、各グリーンシート積層体を積層方向に圧着しつつ、900℃の温度で20分間焼成することによって、実施例1〜6および比較例1の積層ガラスセラミックス焼結体を形成した。
【0094】
こうして得られた複数の積層ガラスセラミックス焼結体について、絵柄層の剥離性、第一ガラスセラミックス焼結体層の透過状態、表面段差寸法、表面段差の感触、曲げ強度について評価し、「表1」に示す評価結果を得た。
【0095】
なお、絵柄層の剥離性については、次のような耐磨耗性試験を行い評価した。
即ち、番手#3000のサンドペーパーを用いて、絵柄層が形成された側の積層ガラスセラミックス焼結体の表面を荷重1.0kg、片道10mm/秒の速度で1000回往復した後、絵柄の剥離の有無を目視で観察し評価した。
その評価結果を、絵柄層が剥離しなかったものを「○」、絵柄層が一部でも剥離したものを「×」によって表1中に示すこととした。
【0096】
また、第一ガラスセラミックス焼結体層の透過状態については、絵柄層が形成された側から積層ガラスセラミックス焼結体を目視で観察し評価した。
その評価結果を、明確に絵柄層を識別できたものを「◎」、「◎」の場合ほど明確ではないものの絵柄層を識別できたものを「○」、絵柄層が薄くしか見えないものの絵柄を識別できたものを「△」によって、表1中に示すこととした。
【0097】
表面段差寸法については、絵柄層が形成された側の積層ガラスセラミックス焼結体の表面における絵柄層の輪郭部(即ち、積層ガラスセラミックス焼結体の上面の突部)の段差寸法H(図1を参照)を測定した。
具体的には、マイクロメーターを用いて、各積層ガラスセラミックス焼結体の厚み寸法を、絵柄層のある部分(図1における寸法H2)と、絵柄層のない部分(図1における寸法H1)とに分けてそれぞれ測定し、これらの測定値の差をもって、表面段差寸法(H=H2−H1)とした。
【0098】
また、表面段差の感触については、絵柄層が形成された側の積層ガラスセラミックス焼結体の表面を、指先で触れながら撫でたときの感触を評価した。
その評価結果を、段差を感じることなく指先で撫でることができたものを「○」、段差を感じたものの指先で撫でた際に引っ掛かりを感じることなく撫でることができたものを「△」、段差の存在が明確であって段差に引っ掛かりを感じたものを「×」によって、表1中に示すこととした。
【0099】
曲げ強度P(単位[MPa])については、各積層ガラスセラミックス焼結体を、平面視にて40[mm]×10[mm]の矩形状に加工し、その後、絵柄層を形成した焼結体表面が下向きになるように各試料を配置し、30[mm]のスパンによる三点曲げ試験によって、曲げ強度を測定した。
【0100】
【表1】
【0101】
表1に示すように、実施例1〜6については、絵柄層を形成した焼結体表面から絵柄層までの距離Tが30〜360[μm]であり、耐磨耗試験を行っても絵柄層が剥がれず、携帯電子機器の外装や、ノートパソコンのタッチパッドなどに用いた場合でも、手のひらや指先との摩擦による絵柄および/または文字などの剥離を防止できることが予想される。
また、第一ガラスセラミックス焼結体層の透過状態も、絵柄層を識別可能なものであった。
【0102】
さらに、表面段差寸法Hは20[μm]以下であり、表面段差の感触についても、段差を感じない、もしくは、段差を感じても、指先で撫でた際に引っ掛かりを感じないものであった。
【0103】
また、曲げ強度は、270[MPa]以上あり、携帯電子機器の外装や、ノートパソコンのタッチパッドなどに用いた場合でも、例えば、落下時や、不意の外部からの衝撃などに耐え得ることができるものであった。
【0104】
これに対して、比較例1については、表面に絵柄層が形成されたものであるため、耐磨耗試験を行うと絵柄層が剥離し、携帯電子機器の外装や、ノートパソコンのタッチパッドなどに用いた場合、手のひらや指先との摩擦による絵柄および/または文字などの剥離を防止できないことが予想される。
【0105】
また、表面段差寸法Hは25[μm]であり、表面段差の感触についても、焼結体表面を指先で触れながら撫でた際に、引っ掛かりを感じるものであった。
【符号の説明】
【0106】
1 積層ガラスセラミックス焼結体1
11 ガラスセラミックス焼結体層
11A 第一ガラスセラミックス焼結体層
11B 第二ガラスセラミックス焼結体層
11a 突部
12 絵柄層
20 グリーンシート
21 絵柄部
図1
図2