(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6264086
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ステアリングホイール及び自動車
(51)【国際特許分類】
B62D 1/06 20060101AFI20180115BHJP
【FI】
B62D1/06
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-31982(P2014-31982)
(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公開番号】特開2015-157506(P2015-157506A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2017年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】306009581
【氏名又は名称】タカタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健
【審査官】
神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−043736(JP,A)
【文献】
実開昭60−087861(JP,U)
【文献】
特開2008−049980(JP,A)
【文献】
特開2005−312728(JP,A)
【文献】
特開2000−053000(JP,A)
【文献】
特開2007−008268(JP,A)
【文献】
米国特許第09159221(US,B1)
【文献】
特開2007−176021(JP,A)
【文献】
特表2014−501191(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/175075(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/00 − 1/28
B60K 37/00
B68F 1/00 − 3/04
C14B 1/00 − 99/00
C14C 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面が皮革で覆われたホイール部を備え、該ホイール部が、直進状態において上部となる位置にセンターマークを有するステアリングホイールであって、
該皮革は、センターマーク及びそれに隣接する領域において一連一体となっており、
該センターマークは、ホイール部上部を巻回する複数条の溝を有し、
該溝は、前記皮革に凹設されたものであり、
該溝同士の間の領域の外観が該センターマークに隣接する領域の外観と異なることを特徴とするステアリングホイール。
【請求項2】
請求項1記載のステアリングホイールであって、前記溝同士の間の領域の色が前記センターマークに隣接する領域の色と異なることを特徴とするステアリングホイール。
【請求項3】
請求項1又は2記載のステアリングホイールであって、前記溝内に、溝方向に沿って糸による縫目が形成されていることを特徴とするステアリングホイール。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載のステアリングホイールであって、前記ホイール部は、芯金と、該芯金を取り巻く発泡樹脂よりなる下地層と、該下地層を取り巻く前記皮革とを有しており、
前記センターマークを設けた部分にあっては、該下地層の外面が平坦であることを特徴とするステアリングホイール。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のステアリングホイールを備えた自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のステアリングホイールに係り、特にセンターマークを有するステアリングホイールに関する。また、本発明は、このステアリングホイールを有する自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車を直進させる状態(直進状態)におけるステアリングホイールのホイール部の上部にマークを設けることが特許文献1に記載されている。
図10は特許文献1の
図1に示されるステアリングホイールの斜視図であり、直進状態におけるステアリングホイール20のホイール部21の上部にマーク22が設けられている。このマーク22は、運転者に覚醒作用を与えるためのものである。
【0003】
このような覚醒用のマークとは別に、ラリー等の競技用自動車のステアリングホイールには、直進状態におけるホイール部の上部にセンターマークを付すことがある。このセンターマークは、運転者がステアリングホイールの操舵角度を容易に認識できるようにするためのものであり、マスキングテープを貼ることにより設けられることが多い。
【0004】
このようなセンターマークは、競技用自動車以外のスポーツタイプ等の自動車(特に高級車)にも、アクセサリーを兼ねて設けられることがある。外面が皮革で構成されたホイール部にセンターマークを設けた従来例を
図8,9に示す。このホイール部30は、芯金(図示略)と、該芯金を取り巻く発泡ウレタン層31と、該発泡ウレタン層31を取り巻く最表面の皮革32,33を有する。皮革33はセンターマーク位置に配置されたものであり、皮革32とは色が異なっている。皮革32,33は、端縁の縫代部32a,33aが重ね合され、縫糸34によって縫合されている。
図9のように、皮革32,33の縫代部32a,33aが裏側に突出するので、発泡ウレタン層31には予め溝状の凹部35を形成しておき、縫代部32a,33aを凹部35に納め込むようにしている。これにより、ホイール部30の外面が縫代部32a,33aの部分で盛り上ることが防止される。
【0005】
皮革32,33の色が異なると共に、皮革32,33の継目に沿ってホイール部の巻回方向に凹筋36が表われることにより、ホイール部上部には独特な美感を有したセンターマークが形成される。
【0006】
なお、このようにセンターマーク用皮革33を用い、これを皮革32に縫合することは、かなりコストがかかるので、このような皮革33の縫着によるセンターマークを有するステアリングホイールは、高級車に用いられることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−8268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8,9のように、色の異なる皮革32,33を縫合することは、製作に手間がかかり、コスト高となる。また、
図9のように、凹部35を形成するように発泡ウレタン層31を発泡成形する場合、金型として内面に凹部35形成用の凸部を有したものを用いることになり、金型コストが嵩む。さらに、この凸部によって発泡樹脂の流れが妨げられ、成形不良が生じて成形歩留りが低下し、これによってもコスト高となる。
【0009】
本発明は、このような問題点を解消し、センターマークを容易に形成することができるステアリングホイールと、このステアリングホイールを備えた自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のステアリングホイールは、ホイール部を有するステアリングホイールであって、直進状態における該ホイール部の上部にセンターマークが設けられており、該ホイール部の外面が皮革で覆われているステアリングホイールにおいて、該皮革は、センターマーク及びそれに隣接する領域において一連一体となっており、該センターマークは、ホイール部上部を巻回する複数条の溝を有し、該溝は、前記皮革に凹設されたものであり、該溝同士の間の領域の外観が該センターマークに隣接する領域の外観と異なることを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様では、前記各領域の色が異なることにより、前記各領域の外観が異なるものとなっている。
【0012】
前記溝内に、溝方向に沿って糸による縫目が形成されていることが好ましい。
【0013】
前記ホイール部は、芯金と、該芯金を取り巻く発泡樹脂よりなる下地層と、該下地層を取り巻く前記皮革とを有しており、前記センターマークを設けた部分にあっては、該下地層の外面が平坦であることが好ましい。
【0014】
第2発明のステアリングホイールは、ホイール部を有するステアリングホイールであって、直進状態における該ホイール部の上部にセンターマークが設けられており、該ホイール部の外面が皮革で覆われているステアリングホイールにおいて、該センターマークは、前記皮革の表面に加飾を施して形成したものであることを特徴とする。
【0015】
前記加飾としては、塗装、印刷、熱加工及びエンボス加工の少なくとも1種が好適である。
【発明の効果】
【0016】
第1発明のステアリングホイールにあっては、センターマークは、皮革の外面から凹陥する複数条の溝と、該溝同士の間の、周囲とは外観の異なる領域とを有している。この皮革の裏面に
図9のような縫代部は生じない。このため、発泡ウレタン層などの下地層に凹部を設けることが不要である。また、下地層に凹部を設けることが不要であるので、皮革と発泡ウレタン層との間にヒータを設けることも容易となる。
【0017】
このセンターマークは、縫合なしに製造されるものであり、低コストで形成することができる。また、皮革の外面には、前記
図8の凹筋36と同様に溝が存在し、あたかも皮革を縫い継いだかのように視覚され、高級な美観となる。
【0018】
この溝を複数条設け、溝同士の間の皮革の色等の外観を周囲と異ならせることにより、前記
図8の高級仕様のホイール部と同様の美観を得ることができる。
【0019】
特に、この溝内に糸による縫目を設けることにより、皮革同士が縫合されたものであるように視覚され、美観がさらに向上する。
【0020】
第2発明のステアリングホイールにあっては、センターマークを、塗装、印刷、熱加工、エンボス加工などの簡便な加飾手法によって低コストに設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】第1の実施の形態に係るステアリングホイールの斜視図である。
【
図2】
図1のステアリングホイールの一部の拡大図である。
【
図3】(a)図は
図1のステアリングホイールのIII矢視図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【
図4】
図3のIV−IV線に沿うホイール部表面付近の断面斜視図である。
【
図5】第2の実施の形態に係るステアリングホイールのホイール部の上部を示す正面図である。
【
図7】第3の実施の形態に係るステアリングホイールのホイール部の上部を示す正面図である。
【
図8】従来のステアリングホイールのホイール部の上部を示す正面図である。
【
図10】従来のステアリングホイールの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、
図1〜4を参照して第1発明の実施の形態について説明する。
【0023】
このステアリングホイール1のホイール部2は、ステアリングホイール1を周回する芯金3と、該芯金3を覆う発泡合成樹脂層(この実施の形態では発泡ウレタン層4)と、この発泡ウレタン層4を覆い、ホイール部2の最表面を形成する皮革5とを有する。皮革5は、発泡ウレタン層4を一巻きし、縫合糸6によって縫い合わせたものである。皮革5は、ホイール部2をステアリング軸心回り方向に連続して1周している。
【0024】
直進状態(自動車を直進させる姿勢)におけるホイール部2の上部にセンターマーク10が設けられている。この実施の形態では、センターマーク10は、皮革5に凹設された2条の溝11,11と、溝11,11内に溝長手方向に設けられた糸による縫目12とを有する。溝11,11は、ホイール部2の巻回方向に延在する。この巻回方向とは、ホイール部2を運転者が握ったときの指の方向である。
【0025】
溝11,11間の領域の皮革5aの外観は、該センターマーク10に隣接する領域の皮革5bの外観と異なる。この外観としては、色の他、表面粗さなどが挙げられるが、色が好適である。色が異なるとは、色彩及び明度の少なくとも一方が異なることをいう。皮革の色を異ならせるには染色のほか、塗装などの技法を用いることができる。
【0026】
この実施の形態では、
図4のように、皮革の裏面にも、溝11と対応する位置に、裏溝13がホイール部巻回方向に延在しており、縫目12を構成する糸は、溝11と裏溝13との間に縫い込まれている。
【0027】
縫目は裏溝13から非突出となっており、皮革5の裏面からは突出しない。ただし、裏溝13は設けなくてもよい。
【0028】
皮革5としては、牛革などの天然皮革のほか、人工皮革を用いることができる。溝11及び裏溝13は、型押しなどの手法によって形成されることが好ましい。溝11の深さは0.2〜1.0mm特に0.4〜0.8mm程度が好ましい。溝11の幅は1.0〜2.5mm特に1.2〜2.0mm程度が好ましい。溝11,11間の距離は3〜20mm特に6〜10mm程度が好ましい。
【0029】
このように構成されたステアリングホイール1のセンターマーク10は、溝11,11及び周囲の皮革5bと異色の皮革5aを有するものであり、
図8,9の従来の高級車仕様のステアリングホイールと同等の高級感、美観を有する。溝11,11間の領域5aの色を隣接領域5bの色よりも高明度のもの特に白色又は白色系の色とすることにより、センターマーク10が目立ち易いものとなる。
【0030】
特に、この実施の形態では、溝11,11に縫目12を設けているので、あたかも皮革同士が縫合されたものであるように視覚されると共に、縫目それ自体が独特の意匠感をかもし出し、高級感、美観が顕著なものとなる。
【0031】
このステアリングホイール1にあっては、このセンターマークは、皮革同士の縫合なしに製造できる。また、皮革5の裏面に
図9の縫代部のような突出部は存在しないので、発泡ウレタン層4の表面に凹部を設ける必要はなく、発泡ウレタン層4の外面は平坦なもので足りる。従って、成形用金型が該凹部形成用の凸部を有しないものとなり、金型コストが低くなると共に、発泡ウレタン層4の製造歩留りが高くなる。このようなことから、このステアリングホイール1は、製造コストが低いものとなる。
【0032】
また、発泡ウレタン層4の外面を平坦とすることにより、皮革5と発泡ウレタン層4との間にヒータを設けることも容易となる。
【0033】
上記実施の形態では、縫目12を設けているが、
図5,6に示すステアリングホイール1Aのように縫目12を設けなくてもよい。この場合、皮革5の裏面に裏溝13を設けることは不要である。ステアリングホイール1Aのその他の構成はステアリングホイール1と同一である。
【0034】
図1〜6のステアリングホイール1,1Aでは、2条の溝11,11を設けているが、3条以上の溝を設け、溝同士の間の領域の皮革の色をセンターマーク以外の領域の皮革の色と異ならせてもよい。また、センターマーク内において、溝同士の間の領域相互間で色を異ならせてもよい。
【0035】
図7は、第2発明の実施の形態に係るステアリングホイール1Bのホイール部2’の上部の正面図である。この実施の形態においても、皮革5は、ホイール部2をステアリングカラム軸心回り方向に連続して1周している。このホイール部2’では、皮革5に加飾を施すことにより、センターマーク10’を設けている。この加飾としては、塗装、印刷、レーザー光線等による熱加工、加圧スタンプによるエンボス加工などの1又は2以上が例示される。これらの加飾は極めて安価に行うことができ、センターマーク形成コストが低いものとなる。センターマーク10’は、センターマーク内において2以上の色の異なる領域が形成されるように設けられてもよい。
【0036】
上記実施の形態は、いずれも本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態とされてもよい。
【0037】
例えば、センターマークには、幾何学模様、縞状模様、文字、ロゴマーク等を印刷してもよい。印刷工法としては、シルクスクリーン印刷、タンポ印刷、インクジェット印刷、レーザーカラープリント等が例示される。
【符号の説明】
【0038】
1,1A,1B,20 ステアリングホイール
2,2’,21,30 ホイール部
3 芯金
4,31 発泡ウレタン層
5,32,33 皮革
10,10’ センターマーク
11 溝
12 縫目
13 裏溝
22 マーク