(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6264150
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】パワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュール用基板
(51)【国際特許分類】
H01L 23/13 20060101AFI20180115BHJP
H01L 23/36 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
H01L23/12 C
H01L23/36 C
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-70471(P2014-70471)
(22)【出願日】2014年3月28日
(65)【公開番号】特開2015-192122(P2015-192122A)
(43)【公開日】2015年11月2日
【審査請求日】2016年9月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩和
【審査官】
秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−004356(JP,A)
【文献】
特開2010−238753(JP,A)
【文献】
特開2013−030609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/13
H01L 23/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に回路層が形成され、他方の面に金属層がろう付け接合されたパワーモジュール用基板であって、前記金属層の側面から延出するつば部が該金属層の側面の全周にわたって形成されており、前記つば部は、前記金属層の側面と接続された基端部から先端部までの延出長さが、前記金属層の側面と前記基端部との接続位置から前記金属層の前記セラミックス基板への接合面とは反対面までの距離よりも大きく設けられ、前記つば部の先端部が前記金属層の前記反対面の周縁を覆うように設けられていることを特徴とするパワーモジュール用基板。
【請求項2】
請求項1記載のパワーモジュール用基板の前記金属層にヒートシンクがろう付け接合され、前記つば部の先端部が前記ヒートシンクに接触して設けられていることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記つば部と前記金属層の側面と前記ヒートシンクとに囲まれる空間部を埋めるようにしてろう材が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュール用基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のパワーモジュール基板として、セラミックス基板の一方の面に回路層が積層されるとともに、他方の面に金属層が積層されたものが知られており、この回路層の上に半導体チップ等の電子部品がはんだ付けされ、金属層にヒートシンクが接合されることにより、パワーモジュールとして用いられる。
【0003】
この種のパワーモジュール用基板の製造方法では、セラミックス基板の一方の面にろう材を介して回路層を積層するとともに、セラミックス基板の他方の面にろう材を介して金属層を積層し、これらを積層方向に加圧した状態で加熱することにより、セラミックス基板と回路層及び金属層とを接合する。そして、金属層のセラミックス基板が接合されている面とは反対側の面に、ろう材を介してヒートシンクを積層し、積層方向に加圧するとともに加熱して、金属層とヒートシンクとを接合することにより、ヒートシンク付パワーモジュール用基板が製造される。
【0004】
また、金属層とヒートシンクとの接合方法としては、例えば特許文献1又は特許文献2に記載されるように、高価な設備が不要であり、比較的容易に安定したろう付けが可能なフッ化物系のフラックスを用いたフラックスろう付け法が適用されている。
このフラックスろう付け法では、フッ化物系のフラックスをろう材面に塗布してろう材面の酸化物を除去することにより、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを非酸化性雰囲気中で加熱して接合することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012‐28472号公報
【特許文献2】特開2012‐49436号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、金属層とヒートシンクとの接合にフラックスを用いたろう付け法を用いると、フラックスの余剰分が放熱層の側面を伝って、もしくはフラックスが蒸発して、セラミックス基板と金属層との接合部を浸食し、接合部に剥離を生じさせるそれがある。
【0007】
そこで、特許文献1では、金属層の側面に多孔質部を設けておき、フラックスの余剰分を金属層の側面を伝わる際に多孔質部に吸収させることで、接合部へのフラックスの到達を防止することが提案されている。また、特許文献2では、金属層の側面に設けた高酸素濃度部とフラックスとを反応させることにより、セラミックス基板と金属層との接合へのフラックスの到達を防止することが提案されている。
しかし、金属層の側面を伝うフラックスの到達を防止することができるとしても、加熱炉内などの閉じられた空間においては、蒸発したフラックスがセラミックス基板と金属層との接合部へ接触することを完全に防ぐことは難しく、接合部の剥離を確実に防止することは困難である。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、セラミックス基板と金属層との接合部に剥離を生じさせることなく金属層とヒートシンクとを接合して、接合信頼性を高めることができるパワーモジュール用基板及びヒートシンク付パワーモジュール用基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、セラミックス基板の一方の面に回路層が形成され、他方の面に金属層がろう付け接合されたパワーモジュール用基板であって、前記金属層の側面から延出するつば部が該金属層の側面の全周にわたって形成されており、前記つば部は、前記金属層の側面と接続された基端部から先端部までの延出長さが、前記金属層の側面と前記基端部との接続位置から前記金属層の前記セラミックス基板への接合面とは反対面までの距離よりも大きく設けられ
、前記つば部の先端部が前記金属層の前記反対面の周縁を覆うように設けられていることを特徴とする。
【0010】
金属層の側面に設けられたつば部は、金属層とヒートシンクとの接合時において、金属層とヒートシンクとの接合部の周縁を覆うようにして被せられた状態で配置される。これにより、金属層とヒートシンクとの接合部から流れ出たフラックスだけではなく、蒸発したフラックスを、金属層の側面及びつば部とヒートシンクとにより囲まれた空間部内に閉じ込めることができ、フラックスがセラミックス基板と金属層との接合部に侵入することを防止することができる。
したがって、セラミックス基板と金属層との接合部に剥離を生じさせることなく、金属層とヒートシンクとを接合することができ、パワーモジュール用基板の接合信頼性を高めることができる。
なお、金属層のつば部は、金属層とヒートシンクとの接合時において、その金属層とヒートシンクとの接合部の周縁を覆うようにして被せられた状態に配置することが可能であればよい。例えば、金属層をセラミックス基板と接合する前の状態では、つば部を金属層の側面に対して垂直に延出された状態に形成しておく。そして、セラミックス基板と金属層との接合時の加熱により、つば部は自重によって先端部側が垂れ下がった状態になることにより、金属層とヒートシンクとの接合部の周縁を覆うスカート状に設けることもできる。また、予めプレス加工により、つば部をヒートシンクとの接合面側に折り曲げた状態に変形させておくこともできる。
【0011】
そして、本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、上記のパワーモジュール用基板の前記金属層にヒートシンクがろう付け接合され、前記つば部の先端部が前記ヒートシンクに接触していることを特徴とする。
【0012】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板において、前記つば部と前記金属層の側面と前記ヒートシンクとに囲まれる空間部を埋めるようにしてろう材が設けられているとよい。
金属層とヒートシンクとの接合時において、金属層の側面及びつば部とヒートシンクとで囲まれた空間部内にろう材を留めることができるので、このろう材が充填された状態で金属層とヒートシンクとを接合することができる。したがって、金属層とヒートシンクとの接触面積を増加させることができ、放熱性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、セラミックス基板と金属層との接合部にフラックスが侵入することを防止することができるので、セラミックス基板と金属層との接合部に剥離を生じさせることなく金属層とヒートシンクとを接合することができ、パワーモジュール用基板の接合信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る実施形態のパワーモジュール用基板を用いて製造されたパワーモジュールを示す断面図である。
【
図2】ヒートシンク付パワーモジュール用基板の要部断面図である。
【
図3】パワーモジュール用基板の製造方法を説明する断面図であって、(a)各部材の接合前、(b)が接合後の状態を示す。
【
図4】ヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法を説明する断面図であって、(a)がパワーモジュール用基板とヒートシンクとの接合前、(b)が接合後の状態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態のパワーモジュール用基板10を用いたパワーモジュール1を示している。この
図1のパワーモジュール1は、パワーモジュール用基板10の表面に搭載された半導体チップ等の電子部品20と、裏面に取り付けられたヒートシンク30とを備えている。
【0016】
また、パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11の一方の面に積層された回路層12と、セラミックス基板11の他方の面に積層された金属層13とを備え、これらセラミックス基板11と回路層12及び金属層13とは、ろう付け接合されている。そして、このパワーモジュール用基板10の金属層13の表面にヒートシンク30が接合されることにより、ヒートシンク付パワーモジュール用基板50が構成される。なお、ヒートシンク付パワーモジュール用基板50の回路層12の表面に、電子部品20がはんだ付けされ、パワーモジュール1が構成される。
【0017】
セラミックス基板11は、AlN(窒化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化珪素)、Al
2O
3(アルミナ)等のセラミックス材料により形成され、例えば0.2mm〜1mmの厚みとされる。
回路層12は、純度99.00質量%以上の純アルミニウム又はアルミニウム合金もしくはA3003等の純度95質量%以上のアルミニウム合金、もしくは無酸素銅やタフピッチ銅等の純銅又は純合金により形成され、例えば0.1mm〜3mmの厚みとされる。
【0018】
金属層13は、純度99.00質量%以上の純アルミニウム、アルミニウム合金又は純度95質量%以上のアルミニウム合金により形成されており、例えば0.4mm〜1.6mmの厚みとされる。また、金属層13の側面13aの厚み方向の中央部には、その側面13aから延出して設けられるつば部15が、金属層13の側面13aの全周にわたって形成されている。つば部15は、金属層13の両面から離れて形成されており、金属層13の厚みよりも薄く設けられ、例えば0.2mm〜0.4mmの厚みに形成される。また、つば部15は、
図2に示すように、金属層13の側面13aと接続された基端部から先端部までの延出長さ15Lが、金属層13の側面13aと基端部との接続位置から金属層13のセラミックス基板11への接合面とは反対面までの距離13Mよりも大きく設けられている。なお、金属層13の側面13aとつば部15の基端部との接続位置は、つば部15の厚み方向の中心位置を基準とする。すなわち、距離13Mは、金属層13のセラミックス基板11への接合面とは反対面から、つば部15の基端部の厚み方向における中心位置までの距離である。
【0019】
そして、本実施形態のパワーモジュール用基板10における各部材の好ましい組み合わせ例としては、セラミックス基板11が厚み0.635mmのAlN、回路層12が厚み1mmの純アルミニウム板(純度99.99質量%以上の4N‐Al)、金属層13が厚み1.6mmのアルミニウム板で構成される。なお、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13とは、Al−Si系、Al−Ge系、Al−Cu系、Al−Mg系、Al‐Si‐Mg系またはAl−Mn系等の合金のろう材により、ろう付け接合される。
【0020】
また、ヒートシンク30は、アルミニウム合金により形成され、例えば6000番系のアルミニウム合金により厚み0.3mm以上5mm以下の平板状に形成される。そして、パワーモジュール用基板10の金属層13とヒートシンク30とは、例えばAl‐Si系合金のろう材により、ろう付け接合される。
なお、ヒートシンク30の形状は特に限定されるものではなく、平板状の放熱板、フィンが形成された平板状の放熱板等の適宜の形状のものが含まれる。
【0021】
次に、ヒートシンク付パワーモジュール用基板50の製造方法を説明する。
まず、
図3(b)に示すように、セラミックス基板11に回路層12及び金属層13をろう付け接合する。具体的には、
図3(a)に示すように、セラミックス基板11の両面に、それぞれろう材箔14を介在させて回路層12及び金属層13を積層し、これらの積層体を、
図3(b)に示すように加圧した状態のまま真空中で加熱することにより、セラミックス基板11と回路層12及び金属層13とをろう付けして、パワーモジュール用基板10を製造する。なお、このろう付け温度は、アルミニウム及びアルミニウム合金の場合は620℃〜融点未満、純銅又は銅合金の場合には、620℃〜850℃に設定される。
【0022】
そして、このセラミックス基板11と回路層12及び金属層13とを接合する際に、金属層13のつば部15が、
図3(a)に示す垂直に延出した状態から、
図3(b)に示すように先端部側が垂れ下がった状態に形成される。具体的には、セラミックス基板11と金属層13とを接合する前の状態では、
図3(a)に示すように、つば部15は金属層13の側面13aに対して垂直に延出された状態に形成されている。ところが、セラミックス基板11と金属層13との接合の際に加熱されることで、
図3(b)に示すように、つば部15の先端部側が自重により垂れ下がる。この際、つば部15の延出長さ15Lが、金属層13の側面13aと基端部との接続位置から金属層13のセラミックス基板11への接合面とは反対面までの距離13Mよりも大きく設けられていることから、つば部15の先端部が加圧治具80の表面と接触して、つば部15の内側に空間部17を形成しつつ、つば部15は金属層13の下面(反対面)の周縁を覆うようにスカート状に設けられる。
【0023】
次に、このように構成されたパワーモジュール用基板10とヒートシンク30とをフラックスを用いてろう付け接合する。具体的には、フッ化物系(KAlF
4、K
2AlF
5、K
3AlF
6等)のフラックスをろう材面に塗布してろう材面の酸化物を除去し、非酸化性雰囲気(例えばN
2雰囲気)で580℃〜620℃に加熱して接合する。このときフラックスを塗布する領域は、つば部15の外周より内側となるようにする。なお、パワーモジュール用基板10の金属層13とヒートシンク30とを接合するろう材は、ヒートシンク30の表面に予めクラッドされているか、
図4(a)に示すように、ろう材箔16の形態でヒートシンク30に重ねられることにより供給される。
【0024】
そして、このパワーモジュール用基板10とヒートシンク30との接合の際に、パワーモジュール用基板10とヒートシンク30とを積層すると、金属層13のつば部15の先端部がヒートシンク30と接触することにより、つば部15が金属層13とヒートシンク30との接合部の周縁を覆うようにして被せられた状態で配置される。これにより、
図4(b)に示すように、金属層13の側面13a及びつば部15とヒートシンク30とにより、金属層13とヒートシンク30との接合部の周縁を囲む空間部17が形成される。したがって、金属層13とヒートシンク30との接合時において、余剰分のフラックスが流れ出した際に、フラックスが金属層13の側面13aを伝って這い上がろうとしても、つば部15で塞き止めることができ、フラックスを空間部17内に閉じ込めることができる。また、空間部17では、流れ出たフラックスだけではなく、蒸発したフラックスも閉じ込めることができるので、フラックスがセラミックス基板11と金属層13との接合部に侵入することを防止することができる。
【0025】
このように、本実施形態のパワーモジュール用基板10及びヒートシンク付パワーモジュール用基板50では、セラミックス基板11と金属層13との接合部にフラックスが侵入することを防止することができるので、セラミックス基板11と金属層13との接合部に剥離を生じさせることなく、パワーモジュール用基板10とヒートシンク30とを接合することができ、パワーモジュール用基板10の接合信頼性を高めることができる。
【0026】
なお、金属層13の側面13a及びつば部15とヒートシンク30とで囲まれた空間部17は、余剰分のフラックスが空間部17の外部へ流出するのを防ぐために、接合面から流れ出すフラックスの量に対して十分な空間を確保できる大きさに形成されている。このため、フラックスが空間部17の外部に流出して、セラミックス基板11と金属層13との接合部に侵入することはない。
また、金属層13とヒートシンク30との接合時において、空間部17内にろう材を留めることができるので、このろう材が充填された状態で金属層13とヒートシンク30とが接合されることで、つば部15とヒートシンク30ともろう付けされた状態となる。したがって、金属層13とヒートシンク50との接触面積を増加させることができ、放熱性を向上させることができる。
【0027】
また、上記実施形態では、金属層13のつば部15を、パワーモジュール用基板10の製造時における加熱により、スカート状に設けることとしたが、金属層13のつば部15は、金属層13(パワーモジュール用基板10)とヒートシンク30との接合時において、その先端部をヒートシンク30に接触させることにより、金属層13とヒートシンク30との接合部の周縁を覆うようにして被せられた状態に配置することが可能であればよい。
例えば、プレス加工により、予め金属層13のつば部15をヒートシンク30との接合面側に折り曲げた状態に変形させておくことで、セラミックス基板11との接合前にスカート状に形成しておくこともできる。
【0028】
なお、本発明は、上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 パワーモジュール
10 パワーモジュール用基板
12 回路層
13 金属層
13a 側面
14 ろう材箔
15 つば部
16 ろう材箔
17 空間部
20 電子部品
30 ヒートシンク
50 ヒートシンク付パワーモジュール用基板
80 加圧治具