(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物が、アジピン酸ジグリシジルエステル、長鎖二塩基酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルおよびヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1つである、請求項1または2に記載のエポキシ樹脂組成物。
脂環式エポキシ樹脂化合物が、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
さらに、主発光ピーク波長が550nm以下である発光素子から発光される光の少なくとも一部を吸収して蛍光を発光することが可能な蛍光物質を含有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1〜4に記載のエポキシ樹脂組成物は、粘度が高く、硬化速度が速い。そのため、特許文献1〜4に記載のエポキシ樹脂組成物は、日中作業時間内での室温放置における増粘倍率が高くなり、作業性が悪くなるおそれがある。また、特許文献1〜4に記載のエポキシ樹脂組成物は、高輝度のLED用途において、加熱条件下での無色透明性(耐熱着色性)が十分ではない。
【0010】
特許文献5に記載のエポキシ樹脂組成物は、このような問題点を改善し、低粘度で作業性が向上している。また、特許文献5に記載のエポキシ樹脂組成物は、一般的な脂環式酸無水物を用いた組成物と比べて、UV照射下での無色透明性(耐光着色性)および耐熱着色性が大幅に改善され、一般の光電変換素子の封止材料に用いられる樹脂(以下「封止樹脂」とも記す。)に求められる水準(150℃120時間または180℃48時間)に対しては十分な耐熱着色性を示す。しかし、昨今のLEDの更なるハイパワー化、高電流化の影響から、封止樹脂にかかる温度が高くなる傾向にある。その結果、近年、封止樹脂は、より高い水準(代表例として150℃1000時間)の耐熱着色性が要求されている。このような状況下、特許文献5に記載のエポキシ組成物は耐熱着色性が十分ではない場合があり、改善の余地がある。
【0011】
本発明の目的は、下記(1)〜(3)の特性を有し、例えば、青色LED、白色LED等の光電変換素子の封止材料として好適なエポキシ樹脂組成物およびその硬化物を提供することにある。
(1)調合後の粘度が低く、室温放置における増粘倍率が低くて、作業性に優れること。
(2)硬化促進剤を添加しなくても硬化性が良好であること。
(3)得られる硬化物が無色透明で、耐クラック性に優れ、長時間の光照射および150℃1000時間での加熱下での着色が少ないこと。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、特定量のシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物(H−TMAn)を含む酸無水物と、特定量の脂環式エポキシ樹脂化合物およびグリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物を含むエポキシ樹脂とを含み、酸無水物とエポキシ樹脂との濃度を特定の範囲とした樹脂組成物が、上記の目的を達成できることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下のエポキシ樹脂組成物、その硬化物および発光ダイオードを提供する。
1. 酸無水物(A)およびエポキシ樹脂(B)を含有し、
(a)酸無水物(A)がシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物を30〜90質量%含有し、
(b)エポキシ樹脂(B)が脂環式エポキシ樹脂化合物を30〜90質量%含有し、グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物を含有し、
(c)下記の式(1)で表わされる酸無水物とエポキシ樹脂との配合当量比が0.4〜0.7の範囲である、エポキシ樹脂組成物。
酸無水物とエポキシ樹脂との配合当量比=(X+Y)/Z (1)
X:酸無水物(A)中に含まれる酸無水物基の官能基数
Y:酸無水物(A)中に含まれるカルボキシル基の官能基数
Z:エポキシ樹脂(B)中に含まれるエポキシ基の官能基数
2. エポキシ樹脂(B)におけるグリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物の含有量が10〜60質量%である、上記1のエポキシ樹脂組成物。
3. グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物が、アジピン酸ジグリシジルエステル、長鎖二塩基酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルおよびヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1つである、上記1または2のエポキシ樹脂組成物。
4. 脂環式エポキシ樹脂化合物が、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートである、上記1〜3のいずれかのエポキシ樹脂組成物。
5. さらに、ヒンダードフェノール系酸化防止剤を0.1〜5質量%含有する、上記1〜4のいずれかのエポキシ樹脂組成物。
6. さらに、リン系硬化促進剤を0.01〜5質量%含有する、上記1〜5のいずれかのエポキシ樹脂組成物。
7. さらに、主発光ピーク波長が550nm以下である発光素子から発光される光の少なくとも一部を吸収して蛍光を発光することが可能な蛍光物質を含有する、上記1〜6のいずれかのエポキシ樹脂組成物。
8. 上記1〜7のいずれかのエポキシ樹脂組成物を硬化して得られるエポキシ樹脂硬化物。
9. 上記8のエポキシ樹脂硬化物で発光素子が封止されている発光ダイオード。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエポキシ樹脂組成物は下記(1)〜(3)の効果を奏する。
(1)調合後の粘度が低く、日中作業時間内での室温放置における増粘倍率が低いので、作業性が良好である。
(2)硬化促進剤を添加しなくても硬化性が良好である。
(3)得られる硬化物が無色透明で、耐クラック性に優れ、長時間の光照射および150℃1000時間の加熱下でも着色が極めて少ない。
【0015】
また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、特定の硬化促進剤を使用することで、増粘速度は上昇するものの、さらに加熱による着色が少なく、耐熱着色性に優れる硬化物を得ることができる。
【0016】
さらに、本発明のエポキシ樹脂組成物は、上記のような効果を奏することから、例えば、青色LED、白色LED等の光電変換素子の封止材料や、コーティング材料、塗料、接着剤および各種の成型品、絶縁部材、装飾材料などで、より耐熱着色性が要求される用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態(以下「本実施形態」とも記す。)について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明はその実施の形態のみに限定されない。
【0018】
≪エポキシ樹脂組成物≫
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、特定組成の酸無水物(A)とエポキシ樹脂(B)とを含有する。
【0019】
<酸無水物(A)>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物に用いる酸無水物(A)は、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物を30〜90質量%含有する。酸無水物(A)がシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物を30〜90質量%含有すると、得られるエポキシ樹脂組成物の硬化物は、耐クラック性に優れる。
【0020】
酸無水物(A)において、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物(以下「H−TMAn」とも記す。)の含有量は、30〜90質量%であり、40〜90質量%であることが好ましく、50〜90質量%であることがより好ましい。
【0021】
酸無水物(A)において、H−TMAnの含有量が30質量%以上であると、H−TMAnが本来有する硬化物への付与性能(耐クラック性)がより一層発現し、また、H−TMAnの含有量が90質量%以下であると、得られるエポキシ樹脂組成物は、低粘度化し、作業性が一段と改善される。
【0022】
酸無水物(A)において、H−TMAnの含有量は、30〜90質量%の範囲で、エポキシ樹脂組成物の用途や要求性能に応じて適宜選択することができる。例えば、エポキシ樹脂組成物の硬化物の耐クラック性を重視すれば、酸無水物(A)におけるH−TMAnの含有量を40質量%以上とすることが好ましく、50質量%以上とすることがより好ましく、60質量%以上とすることがさらに好ましい。また、酸無水物(A)におけるH−TMAnの含有量の上限は、エポキシ樹脂組成物の粘度の観点から、85質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。
【0023】
なお、本実施形態において、エポキシ樹脂組成物中の酸無水物(A)におけるH−TMAnの含有量は、核磁気共鳴(NMR)やガスクロマトグラフィー(GC)による成分分析で測定することができる。
【0024】
本実施形態に用いる酸無水物(A)は、H−TMAn以外の酸無水物を含有していてもよい。H−TMAn以外の酸無水物としては、特に限定されないが、例えば、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルナジック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸二無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメリテート、グリセリン(アンヒドロトリメリテート)モノアセテート、ドデセニル無水コハク酸、脂肪族二塩基酸ポリ無水物、クロレンド酸無水物等が挙げられる。
【0025】
特に、エポキシ樹脂組成物の低粘度化および作業性改善、ならびにその硬化物の耐クラック性および耐光性を考慮すれば、H−TMAn以外の酸無水物として、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等の低粘度で、2重結合を含まない酸無水物を使用することが好ましい。これらの酸無水物は、単独または複数の酸無水物を混合して、例えば、H−TMAnの希釈のために使用することができる。
【0026】
<エポキシ樹脂(B)>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物で使用するエポキシ樹脂(B)は、脂環式エポキシ樹脂化合物を30〜90質量%含有し、グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物を含有する。エポキシ樹脂(B)が脂環式エポキシ樹脂化合物を30〜90質量%含有すると、エポキシ樹脂組成物の硬化物は、耐熱着色性に優れる。一方、エポキシ樹脂(B)がグリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物を含有すると、エポキシ樹脂組成物の硬化物は、柔軟性が高まり、ヒートショックによるクラック発生などを抑制することができる。
【0027】
エポキシ樹脂(B)において、脂環式エポキシ樹脂化合物の含有量は30〜90質量%であり、グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物の含有量は10〜60質量%であることが好ましい。
【0028】
従って、エポキシ樹脂(B)は、脂環式エポキシ樹脂化合物およびグリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物のみから構成される場合と、その他のエポキシ樹脂化合物を更に含有する場合とがある。エポキシ樹脂(B)における脂環式エポキシ樹脂化合物とグリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物との合計含有量は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。また、エポキシ樹脂(B)における脂環式エポキシ樹脂化合物とグリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物との合計含有量の上限値は、特に限定されないが、例えば、100質量%である。エポキシ樹脂(B)における脂環式エポキシ樹脂化合物とグリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物との合計含有量が前記範囲内であると、エポキシ樹脂組成物の硬化物は、耐熱着色性および耐クラック性により一層優れる。
【0029】
脂環式エポキシ樹脂化合物とは、その分子内に脂環を有し、且つ、その環を形成するC−C結合の一部がエポキシ環と共有されているエポキシ樹脂である。脂環式エポキシ樹脂化合物としては、特に限定されないが、例えば、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジエポキサイド等が挙げられる。中でも、低粘性及び経済性の観点から、3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートが好適に使用される。
【0030】
グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物とは、その分子内にグリシジルエステル部位を有するエポキシ樹脂である。グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物としては、特に限定されないが、例えば、アジピン酸ジグリシジルエステル、長鎖二塩基酸ジグリシジルエステルなどの脂肪族系、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステルなどの芳香族系、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルなどの脂環系等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ樹脂組成物の粘度やその硬化物の耐着色性の面から、アジピン酸ジグリシジルエステル、長鎖二塩基酸ジグリシジルエステル、テトラヒドロフタル酸ジグリシジルエステルおよびヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルからなる群より選ばれる少なくとも1つであることが好ましく、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルがより好ましい。
【0031】
エポキシ樹脂(B)において、脂環式エポキシ樹脂化合物の含有量は30〜90質量%であり、40〜85質量%であることが好ましく、50〜80質量%であることがより好ましい。エポキシ樹脂(B)において、脂環式エポキシ樹脂化合物の含有量が多いほど、エポキシ樹脂組成物の硬化物の耐着色性を高めることができ、脂環式エポキシ樹脂化合物の含有量が前記下限値以上であると、エポキシ樹脂組成物の硬化物は、より一層耐熱着色性に優れる。また、エポキシ樹脂(B)において、脂環式エポキシ樹脂化合物の含有量が前記上限値以下であると、エポキシ樹脂組成物の硬化物は、柔軟となり、ヒートショックに対するクラック発生を抑制でき、また、耐熱着色性もより一層良好となる。
【0032】
一方、エポキシ樹脂(B)中のグリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物は、エポキシ樹脂組成物の硬化物の柔軟性を高め、ヒートショックによるクラック発生などを抑制することができる。エポキシ樹脂(B)において、グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物の含有量は10〜60質量%であることが好ましく、15〜50質量%であることがより好ましく、20〜40質量%であることがさらに好ましい。エポキシ樹脂(B)において、グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物の含有量が前記下限値以上であると、エポキシ樹脂組成物の硬化物は、より一層耐クラック性に優れる。また、エポキシ樹脂(B)において、グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物の含有量が前記上限値以下であると、エポキシ樹脂組成物の硬化物は、より一層耐熱着色性に優れる。
【0033】
なお、本実施形態において、エポキシ樹脂組成物又はその硬化物中のエポキシ樹脂(B)における脂環式エポキシ樹脂化合物またはグリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物の含有量は、核磁気共鳴(NMR)やガスクロマトグラフィー(GC)による成分分析で測定することができる。
【0034】
また、エポキシ樹脂(B)は、上記脂環式エポキシ樹脂化合物およびグリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物以外のその他のエポキシ樹脂化合物を含有していてもよい。その他のエポキシ樹脂化合物としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル等のエポキシ基を1個もったグリシジルエーテル等が挙げられる。また、これらのエポキシ樹脂の核水添化物である核水添化エポキシ樹脂が挙げられる。
【0035】
エポキシ樹脂(B)において、その他のエポキシ樹脂化合物の含有量は、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。エポキシ樹脂(B)において、その他のエポキシ樹脂化合物の含有量の下限値は、特に限定されないが、例えば、0質量%である。その他のエポキシ樹脂化合物は上記含有量の範囲内で単独でまたは2種以上を適宜混合して使用することができる。特に、核水添化エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂組成物の硬化物の無色透明性を良好にするので、より好ましく使用される。
【0036】
<酸無水物(A)とエポキシ樹脂(B)との配合量>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、酸無水物(A)とエポキシ樹脂(B)との配合量は、下記の式(1)で表わされる酸無水物とエポキシ樹脂との配合当量比が0.4〜0.7の範囲となる量である。
【0037】
酸無水物とエポキシ樹脂との配合当量比=(X+Y)/Z (1)
X:酸無水物(A)中に含まれる酸無水物基の官能基数
Y:酸無水物(A)中に含まれるカルボキシル基の官能基数
Z:エポキシ樹脂(B)中に含まれるエポキシ基の官能基数
【0038】
上式(1)において、酸無水物(A)の当量は酸無水物(A)中に含まれる酸無水物基の官能基数Xとカルボキシル基の官能基数Yとの合計量となる。これは1つの酸無水物基が1つのエポキシ基と反応し、1つのカルボキシル基が1つのエポキシ基と反応すると考えられるためである。
【0039】
例えば、酸無水物(A)がシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物(H-TMAn)の場合は、1分子中に酸無水物基の官能基数が1で、カルボキシル基の官能基数が1であるので酸無水物の当量は2となる。また、エポキシ樹脂(B)が3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレートの場合は、1分子中にエポキシ基の官能基数が2であるのでエポキシ樹脂の当量は2となる。グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物の場合も同様である。
【0040】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、酸無水物(A)中に含まれる酸無水物基の官能基数Xは、(各酸無水物化合物の酸無水物基の官能基数)×(該酸無水物化合物のモル分率)の合計量となり、酸無水物(A)中に含まれるカルボキシル基の官能基数Yは、(各酸無水物化合物のカルボキシル基の官能基数)×(該酸無水物化合物のモル分率)の合計量となる。また、本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、エポキシ樹脂(B)中に含まれるエポキシ基の官能基数Zは、(各エポキシ樹脂化合物のエポキシ基の官能基数)×(該エポキシ樹脂化合物のモル分率)の合計量となる。
【0041】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、上記の式(1)で表わされる酸無水物とエポキシ樹脂との配合当量比は0.4〜0.7の範囲であり、0.4〜0.6の範囲であることが好ましく、0.4〜0.5の範囲であることがより好ましい。
【0042】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、上記の式(1)で表わされる酸無水物とエポキシ樹脂との配合当量比が前記下限値以上であると、硬化物の耐熱着色性が向上し、一方、該配合当量比が前記上限値以下であると、未反応の酸無水物の残留が抑制され、硬化物の耐熱着色性が良好となる。
【0043】
なお、本実施形態において、エポキシ樹脂組成物又はその硬化物中の上記の式(1)で表わされる酸無水物とエポキシ樹脂との配合当量比は、エポキシ樹脂の当量(エポキシ当量)と硬化剤の当量(酸無水物当量)とをそれぞれ測定し、該測定値より算出することができる。また、エポキシ当量は、JIS K7236に準じて、0.1mol/Lの過塩素酸酢酸標準液を用いた電位差測定により求めることができる。さらに、酸無水物当量は、核磁気共鳴(NMR)やガスクロマトグラフィー(GC)による成分分析を行い、該分析結果に基づき算出することができる。
【0044】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、酸無水物(A)とエポキシ樹脂(B)との合計含有量は、70〜100質量%であることが好ましく、80〜100質量%であることがより好ましく、90〜100質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、酸無水物(A)とエポキシ樹脂(B)との配合量を上記の酸無水物とエポキシ樹脂との配合当量比の範囲としつつ、エポキシ樹脂(B)における脂環式エポキシ樹脂化合物、グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物およびその他のエポキシ樹脂化合物の配合量を調整することにより、酸無水物(A)とエポキシ樹脂(B)とを調合した直後のエポキシ樹脂組成物の30℃における粘度を5Pa・s以下とすることができ、また、調合後、常温で7時間放置した後のエポキシ樹脂組成物の増粘倍率〔(7時間後のエポキシ樹脂組成物の粘度)/(調合直後のエポキシ樹脂組成物の粘度)〕を3倍以下とすることができる。
【0046】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物をLED等の光電変換素子の封止材料として使用する際に、エポキシ樹脂組成物の粘度が5Pa・sを超える場合や、上記の増粘倍率が3倍を超える場合には、高粘度のエポキシ樹脂組成物を使用すること、および日中作業時間中にエポキシ樹脂組成物がさらに高粘度化することにより、作業性が悪化する。上記の増粘倍率は2倍以内であると作業性の面でより好ましい。
【0047】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、
酸無水物(A)およびエポキシ樹脂(B)を含有させ、
(a)酸無水物(A)中にシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物を30〜90質量%含有させ、
(b)エポキシ樹脂(B)中に脂環式エポキシ樹脂化合物を30〜90質量%含有させ、グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物を含有させ、
(c)下記の式(1)で表わされる酸無水物とエポキシ樹脂との配合当量比を0.4〜0.7の範囲とすることにより、下記(1)〜(3)の効果を奏する。
【0048】
また、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、酸無水物(A)において、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物(H−TMAn)の含有量を30〜90質量%とし、エポキシ樹脂(B)において、脂環式エポキシ樹脂化合物の含有量を30〜90質量%とし、グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物の含有量を10〜60質量%とすることにより、より一層下記(1)〜(3)の効果を奏する。
【0049】
(1)得られるエポキシ樹脂組成物は、調合後の粘度が低く、日中作業時間内での室温放置における増粘倍率が低いことから作業性に優れている。
(2)得られるエポキシ樹脂組成物の硬化物は、無色透明で、耐クラック性があり、長時間の光照射および150℃1000時間の加熱下でも着色が極めて少ない。
(3)硬化促進剤を添加しなくても硬化性が良好である。また、特定の硬化促進剤を使用することで、エポキシ樹脂組成物の増粘速度は上昇するものの、さらに加熱による着色が少なく、耐熱着色性に優れる硬化物が得られる。
【0050】
上記(1)〜(3)の効果を奏するエポキシ樹脂組成物は、例えば、青色LED、白色LED等の光電変換素子の封止材料として好適である。
【0051】
<酸化防止剤>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、高い耐熱着色性が求められる場合には、酸化防止剤を含有させることが好ましい。酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤(メルカプトプロピオン酸誘導体など)、リン系酸化防止剤(HCAなど)などが挙げられる。特にヒンダードフェノール系酸化防止剤が有効である。ヒンダードフェノール系酸化防止剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、n-オクタデシル3−(3,5−ジ-tert-ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコールビス[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2,6-ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール(BHT)が挙げられる。
【0052】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、酸化防止剤の含有量は、0.1〜5質量%であることが好ましく、0.1〜4質量%であることがより好ましく、0.1〜3質量%であることがさらに好ましい。酸化防止剤の含有量を前記下限値以上とすることにより、エポキシ樹脂組成物の硬化物の耐熱着色性が向上する。また、酸化防止剤の含有量を前記上限値以下とすることにより、エポキシ樹脂組成物の硬化物は、酸化防止剤のブリードによる透明性が失われることがなくなる。
【0053】
<蛍光物質>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、白色LEDの発光素子を封止する材料に用いる場合には、主発光ピーク波長が550nm以下である発光素子から発光される光の少なくとも一部を吸収して蛍光を発光することが可能な蛍光物質を含むことが好ましい。このような蛍光物質は、発光ダイオード(LED)と組み合わせると、様々な色を発光することができる。例えば、黄色蛍光体と青色LEDとを組み合わせると、白色を発光することができる。
【0054】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、蛍光物質の含有量は、0.01〜30質量%であることが好ましく、0.01〜20質量%であることがより好ましく、0.1〜10質量%であることがさらに好ましい。
【0055】
<硬化促進剤>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、硬化促進剤を使用しなくても硬化するためコスト面でのメリットがあるが、硬化促進剤を添加することにより、さらにエポキシ樹脂組成物の硬化物の耐熱着色性を改善することができる。より耐熱着色性が要求されるLED等の光電変換素子の封止材料では、耐熱着色性の要求水準に応じて硬化促進剤を適宜使用できる。
【0056】
硬化促進剤としては、特に限定されないが、例えば、ベンジルジメチルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルシクロヘキシルアミン等の3級アミン類;1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類;トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等の有機リン系化合物;テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の4級ホスホニウム塩類;1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等やその有機酸塩等のジアザビシクロアルケン類;オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫やアルミニウムアセチルアセトン錯体等の有機金属化合物類;テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩類;三弗化ホウ素、トリフェニルボレート等のホウ素化合物;塩化亜鉛、塩化第二錫等の金属ハロゲン化物が挙げられる。
【0057】
更には、硬化促進剤として、特に限定されないが、例えば、高融点イミダゾール化合物、ジシアンジアミド、アミンをエポキシ樹脂等に付加したアミン付加型促進剤等の高融点分散型潜在性促進剤;イミダゾール系、リン系、ホスフィン系促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性促進剤;アミン塩型潜在性硬化促進剤、ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩等の高温解離型の熱カチオン重合型の潜在性硬化促進剤等に代表される潜在性硬化促進剤も使用することができる。
【0058】
これらの中ではリン系硬化促進剤が好ましい。リン系硬化促進剤の具体例としては、特に限定されないが、例えば、トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等の有機リン系化合物、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムブロマイド等の4級ホスホニウム塩類が挙げられる。このようなリン系硬化促進剤を用いると、耐熱着色性に優れた硬化物が得られるため、より好ましい。
【0059】
これらの硬化促進剤は単独または2種以上を混合して使用することができる。
【0060】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物において、硬化促進剤の含有量は、0.01〜5質量%であることが好ましく、0.05〜4質量%であることがより好ましく、0.1〜3質量%であることがさらに好ましく、0.1〜1質量%であることが特に好ましい。
【0061】
硬化促進剤の含有量を前記下限値以上とすることにより、エポキシ樹脂組成物の硬化物の耐熱着色性が向上する。また、硬化促進剤の含有量を前記上限値以下とすることにより、エポキシ樹脂組成物を得る際のコストが低くなり、エポキシ樹脂組成物増粘粘度の上昇を抑制でき、作業性が向上する。
【0062】
<その他の添加剤>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、エチレングリコール、プロピレングリコール等脂肪族ポリオール、脂肪族または芳香族カルボン酸化合物、フェノール化合物等の炭酸ガス発生防止剤、ポリアルキレングリコール等の可撓性付与剤、可塑剤、滑剤、シラン系等のカップリング剤、無機充填剤の表面処理剤、難燃剤、着色剤、帯電防止剤、レベリング剤、イオントラップ剤、摺動性改良剤、各種ゴム、有機ポリマービーズ等の耐衝撃性改良剤、揺変性付与剤、界面活性剤、表面張力低下剤、消泡剤、沈降防止剤、光拡散剤、紫外線吸収剤、離型剤、導電性充填剤、粘度調整用低粘度溶剤等の添加剤を、得られるエポキシ樹脂組成物およびその硬化物の特性を損なわない範囲で含有させることができる。
【0063】
<保存方法>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、2つ以上の成分、例えば酸無水物(A)を含む成分とエポキシ樹脂(B)を含む成分に分けて保存しておき、硬化前にこれらを調合してもよい。また、各成分を配合したエポキシ樹脂組成物として保存し、そのまま硬化に供してもよい。各成分を配合したエポキシ樹脂組成物として保存する場合には、低温(通常−40〜15℃)で保存することが好ましい。
【0064】
≪エポキシ樹脂硬化物≫
本実施形態のエポキシ樹脂硬化物は、上述のエポキシ樹脂組成物を硬化して得られる。
【0065】
上述のエポキシ樹脂組成物の硬化方法は、特に限定されず、例えば、密閉式硬化炉や連続硬化が可能なトンネル炉等の従来公知の硬化装置による硬化方法を採用することができる。当該硬化の際の加熱方法は、特に限定されず、例えば、熱風循環、赤外線加熱、高周波加熱等、従来公知の方法を採用することができる。硬化温度および硬化時間は、80〜250℃で30秒〜10時間の範囲が好ましい。硬化物の内部応力を低減したい場合は、80〜120℃、0.5〜5時間の条件で前硬化した後、120〜180℃、0.1〜5時間の条件で後硬化することが好ましい。短時間硬化を目的とする場合は150〜250℃、30秒〜30分の条件で硬化することが好ましい。
【0066】
上述のエポキシ樹脂組成物は、硬化時の重量保持率(硬化前のエポキシ樹脂組成物重量に対する、硬化物重量の割合)が97%以上となることが好ましい。前記の低粘度酸無水物化合物(即ちH−TMAn以外の酸無水物化合物)の種類および量、ならびに酸無水物(A)とエポキシ樹脂(B)との配合割合を適切に選択することにより、重量保持率の高いエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0067】
≪発光ダイオード≫
本実施形態の発光ダイオードは、上述のエポキシ樹脂硬化物で発光素子が封止されている発光ダイオードである。
【0068】
上述のエポキシ樹脂硬化物は、無色透明で、耐クラック性があり、長時間加熱下での着色が少なく、例えば、発光ダイオードの封止材料、特に青色LED、白色LEDの封止材料等として好適に用いることができる。
【0069】
≪その他の用途≫
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、前記用途に限定されるものではなく、例えば、その他のLED、半導体レーザー等の発光素子、光導電素子、フォトダイオード、太陽電池、フォトトランジスタ、フォトサイリスタ等の受光素子、フォトカプラー、フォトインタラプター等の光結合素子で代表される光電変換素子の絶縁封止材料、液晶等の接着剤、光造形用の樹脂、更にプラスティック、ガラス、金属等の表面コーティング剤、装飾材料等の透明性を要求される用途にも用いることができる。
【0070】
また、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、例えば、ポッティング、注型、フィラメントワインディング、積層等の従来公知の方法で2mm以上の厚みの絶縁封止や成型物にも適用可能である。具体的には、例えば、モールド変圧器、モールド変成器(変流器(CT)、零層変流器(ZCT)、計器用変圧器(PT)、設置型計器用変成器(ZPT))、ガス開閉部品(絶縁スペーサ、支持碍子、操作ロッド、密閉端子、ブッシング、絶縁柱等)、固体絶縁開閉器部品、架空配電線自動化機器部品(回転碍子、電圧検出要素、総合コンデンサ等)、地中配電線機器部品(モールドジスコン、電源変圧器等)、電力用コンデンサ、樹脂碍子、リニアモーターカー用コイル等の重電関係の絶縁封止材、各種回転機器用コイルの含浸ワニス(発電器、モーター等)等にも用いることができる。
【0071】
さらに、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、例えば、フライバックトランス、イグニッションコイル、ACコンデンサ等のポッティング樹脂、LED、ディテクター、エミッター、フォトカプラー等の透明封止樹脂、フィルムコンデンサー、各種コイルの含浸樹脂等の弱電分野で使用される絶縁封止樹脂としても用いることができる。
【0072】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、その他、積層板や絶縁性が必ずしも必要でない用途として、例えば、各種FRP成型品、各種コーティング材料、接着剤、装飾材料等にも用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下に実施例および比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定して解釈されるものではない。
【0074】
なお、以下の実施例および比較例において、得られたエポキシ樹脂組成物およびその硬化物の物性測定およびその評価を次のように行った。
【0075】
(1)エポキシ樹脂組成物の粘度
エポキシ樹脂組成物の粘度は、動的粘弾性測定装置(ティー・エイ・インスツルメント社製 ARES)を用い、25mmΦアルミプレートでプレート間距離0.05mm、炉内温度30℃にて測定した。
【0076】
また、エポキシ樹脂組成物の増粘倍率は、エポキシ樹脂組成物の調合直後の粘度に対する、蓋付きガラス製スクリュービン内でエポキシ樹脂組成物を室温(15〜27℃)にて7時間経過させた後のエポキシ樹脂組成物の粘度の比率とした。
【0077】
〔調合直後の粘度評価〕
○:調合直後の粘度が5Pa・s以下のエポキシ樹脂組成物。
×:調合直後の粘度が5Pa・sを超えるエポキシ樹脂組成物。
【0078】
〔増粘倍率の評価〕
【0079】
◎:増粘倍率が2倍以下のエポキシ樹脂組成物。
○:増粘倍率が2倍を超え3倍以下のエポキシ樹脂組成物。
×:増粘倍率が3倍を超えるエポキシ樹脂組成物。
【0080】
(2)耐熱着色性試験
所定量の試料(エポキシ樹脂組成物)をビーカー内で攪拌機にて混合し、エポキシ樹脂組成物中の溶存不活性ガスを真空にて脱気した。その後、エポキシ樹脂組成物を50mm角深さ3mmのシリコーン型に注型し、熱風乾燥機内にて100℃3時間の前硬化の後、150℃2時間の後硬化を行ない、硬化物を得た。
【0081】
得られた硬化物を150℃で1000時間加熱した。加熱前および加熱後の硬化物について、分光光度計〔島津製作所(株)製分光光度計UV−3100〕にて光線透過率を測定し、別途測定した屈折率より計算される表面反射率とから1mm厚み相当の400nmの光線透過率を求めた。そして、加熱処理による光線透過率の維持率を下記式より求めた。
【数1】
【0082】
(3)耐UV着色性試験(耐光性試験)
耐熱着色性試験と同様にして得られた硬化物を、大日本プラスチックス株式会社製 アイ・スーパー・UVテスター SUV−W11の試験炉内に設置し、55℃/50RH%の条件下、波長範囲295〜450nm(360〜380nmに最高強度ピークを有する)の光を照射面光強度68mW/cm
2にて120時間UV照射した。
【0083】
照射前および照射後の硬化物について、分光光度計〔島津製作所(株)製分光光度計UV−3100〕にて光線透過率を測定し、別途測定した屈折率より計算される表面反射率とから1mm厚み相当の400nmの光線透過率を求めた。そして、UV照射による光線透過率の維持率を下記式より求めた。
【数2】
【0084】
(4)耐クラック性試験
所定量の試料(エポキシ樹脂組成物)をビーカー内で攪拌機にて混合し、エポキシ樹脂組成物中の溶存イナートガスを真空にて脱気した。その後、エポキシ樹脂組成物を表面実装型発光ダイオードに流し込み、熱風乾燥機内にて100℃3時間の前硬化を行い、次いで150℃2時間の後硬化を行い、硬化物を得た。さらに、該硬化物で封止した発光ダイオードを得た。
【0085】
この発光ダイオードを60℃60%RHにて144時間経過後、リフロー炉〔古河電気工業株式会社製XNB-738PC(C)〕で最大260℃、230〜260℃の温度範囲で40秒の熱履歴を3回かけた。
【0086】
以上の操作を各硬化物について10サンプルずつ行い、熱履歴後の発光ダイオードの硬化物における剥離およびクラックの発生状況から耐クラック性を次のように評価した。
【0087】
〔耐クラック性の評価〕
○:剥離またはクラックの発生が0サンプルの硬化物
△:剥離またはクラックの発生が1サンプルの硬化物
×:剥離またはクラックの発生が2サンプル以上の硬化物
【0088】
実施例および比較例において、エポキシ樹脂組成物の原料として以下の各成分を用いた。
【0089】
(1)酸無水物(A)
・シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物〔三菱ガス化学(株)製、以下「H−TMAn」とも記す。〕
・ヘキサヒドロ無水フタル酸およびメチルヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物〔新日本理化(株)製、MH700G、以下「無水フタル酸混合物」とも記す。〕
・メチルヘキサヒドロ無水フタル酸〔新日本理化(株)製、MH、以下「MeHHPA」とも記す。〕
【0090】
(2)エポキシ樹脂(B)
(2−1)脂環式エポキシ樹脂化合物
・3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート〔株式会社ダイセル製、CEL2021P〕
【0091】
(2−2)グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物
・ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル〔阪本薬品工業(株)製、SR−HHPA〕
【0092】
(2−3)直鎖エポキシ樹脂化合物
・ヘキサン−1,6−ジグリシジルエーテル〔阪本薬品工業(株)製、SR−16H〕
【0093】
(3)酸化防止剤
・ヒンダードフェノール系酸化防止剤:AO−50〔株式会社ADEKA製、以下「AO−50」とも記す。〕
・ヒンダードフェノール系酸化防止剤:2,6-ビス(1,1−ジメチルエチル)−4−メチルフェノール〔関東化学株式会社製、以下「BHT」とも記す。〕
【0094】
(4)硬化促進剤
・第四級ホスホニウムのブロマイド塩〔サンアプロ社製、以下「U−CAT5003」とも記す。〕
【0095】
(5)蛍光物質
・セリウムをドープしたイットリウムアルミニウム酸化物〔Y
3Al
5O
12:Ce、黄色蛍光体。〕
【0096】
[実施例1]
H−TMAn〔三菱ガス化学(株)製〕79.0質量部、ヘキサヒドロ無水フタル酸およびメチルヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物〔新日本理化(株)製 MH700G〕21.0質量部、脂環式エポキシ樹脂化合物〔3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート:株式会社ダイセル製 CEL2021P〕172質量部、グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物であるヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル〔阪本薬品工業(株)製SR−HHPA〕73.9質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤AO−50(株式会社ADEKA製)2.8質量部、および第四級ホスホニウムのブロマイド塩であるサンアプロ社製「U−CAT5003」0.80質量部を混合し、エポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物およびその硬化物の物性測定およびその評価を、前記の方法により行った。結果を第1表に示す。
【0097】
[実施例2〜16および比較例1〜9]
原料成分の種類および割合を表1〜3に示すとおりに変更した以外は実施例1と同様にしてエポキシ樹脂組成物を得た。得られたエポキシ樹脂組成物およびその硬化物の物性測定およびその評価を、前記の方法により行った。結果を表1〜3に示す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
【表3】
【0101】
上記の表1〜3から次のことが分かった。
【0102】
酸無水物(A)およびエポキシ樹脂(B)を含有し、また、酸無水物(A)がシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸−1,2−無水物を30〜90質量%含有し、エポキシ樹脂(B)が脂環式エポキシ樹脂化合物を30〜90質量%含有し、グリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物を含有し、さらに、酸無水物とエポキシ樹脂との配合当量比が0.4〜0.7の範囲であるエポキシ樹脂組成物は、調合後の粘度が低く、室温放置における増粘倍率が低くて、作業性に優れ、また、硬化促進剤を添加しなくても硬化物を得ることができ、硬化性が良好であることがわかった。さらに、その硬化物は、無色透明で、耐クラック性に優れ、長時間の光照射および150℃1000時間での加熱下での着色が少ないことが分かった。
【0103】
特に、酸無水物(A)におけるH−TMAnの含有量を30〜90質量%に制御し、エポキシ樹脂(B)における脂環式エポキシ樹脂化合物の含有量を30〜90質量%に制御し、エポキシ樹脂(B)におけるグリシジルエステル型エポキシ樹脂化合物の含有量を10〜60質量%に制御し、酸無水物とエポキシ樹脂との配合当量比を0.4〜0.7とすることで、耐熱着色性および耐UV着色性により一層優れ、エポキシ樹脂組成物の作業性が良く、耐クラック性により一層優れた硬化物が得られることが分かった。