特許第6264498号(P6264498)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6264498-減衰定数の推定方法 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6264498
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】減衰定数の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20180115BHJP
   G01V 1/30 20060101ALI20180115BHJP
   G01N 29/11 20060101ALI20180115BHJP
   G01N 29/44 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   G01H17/00 Z
   G01V1/30
   G01N29/11
   G01N29/44
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2017-181584(P2017-181584)
(22)【出願日】2017年9月21日
【審査請求日】2017年9月21日
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593100330
【氏名又は名称】株式会社システムアンドデータリサーチ
(72)【発明者】
【氏名】中村 豊
【審査官】 素川 慎司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−111075(JP,A)
【文献】 特開2004−37313(JP,A)
【文献】 特開2002−228540(JP,A)
【文献】 特開平8−35916(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104142326(CN,A)
【文献】 豊田尭博, 鷹野澄,弱い地震動を用いた建物の減衰定数の推定:東京大学の建物を対象として,地震研究所彙報,日本,Bull. Earthq. Res. Inst. Univ. Tokyo,2013年,Vol.88(2013),pp.1-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G01V 1/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減衰定数の推定方法において、
少なくとも一つの反射面と少なくとも一つの自由境界面を持つ媒質で、
該反射面のうちインピーダンスのコントラストが高い該媒質の反射面と、該媒質の自由境界面との間で、
波動が該媒質の該自由境界面に向かう方向に伝播し、
該波動が該自由境界面において反射する場合に、
該媒質の該自由境界面と該媒質内の該反射面との間の該反射面を含まない一点を観測点とし、
該波動を該観測点における時系列の振動波形として計測し、
計測された時系列の該振動波形のある時点における振動波形に対して、
該時点から一定測定サンプリング時間経過した時点の振動波形に距離減衰を考慮した波形と、
該時点から一定測定サンプリング時間さかのぼった時点の振動波形に距離減衰を考慮した波形と、
を加算して半分にした振動波形を、
該一定測定サンプリング時間を変動させて複数算出し、
まず、
複数算出された該振動波形の距離減衰を考慮した項目を無視し、
複数算出された該振動波形と、該媒質内の該自由境界面から見て該観測点よりも遠方にある一点において計測した時系列の振動波形と、の差を比較し、
該振動波形の差が最小となる場合の該一定測定サンプリング時間を、
該媒質の該観測点と、該媒質内の該自由境界面から見て該観測点よりも遠方にある該一点と、の間の二点間の波動伝播時間とし、
次に、
複数算出された該振動波形の距離減衰を考慮した項目を有効にして、
該波動伝播時間を与える該一定測定サンプリング時間における算出された該振動波形と、
該媒質内の該自由境界面から見て該観測点よりも遠方にある一点において計測した時系列の振動波形と、
の差を最小にするときの減衰定数を、
該媒質の該ある時点における減衰定数とすることを特徴とする、
減衰定数の推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の減衰定数の推定方法における媒質について、
反射面のうちインピーダンスのコントラストが高い該媒質の反射面と、該媒質の自由境界面との間で、
波動が該媒質の該自由境界面に向かう方向に伝播し、
該波動が該自由境界面において反射する場合に、
該媒質の該自由境界面と該媒質内の該反射面との間の該反射面を含まない一点を観測点とし、
該波動を該観測点における時系列の振動波形として計測し、
計測された時系列の該振動波形のある時点における振動波形に対して、
該時点から一定測定サンプリング時間経過した時点の振動波形に距離減衰を考慮した波形と、
該時点から一定測定サンプリング時間さかのぼった時点の振動波形に距離減衰を考慮した波形と、
を加算して半分にした振動波形を、
該一定測定サンプリング時間を変動させて複数算出し、
まず、
複数算出された該振動波形の距離減衰を考慮した項目を無視し、
複数算出された該振動波形が最小となる場合の該一定測定サンプリング時間を、
該媒質の該自由境界面と該媒質内の該反射面との間の波動伝播時間とし、
次に、
複数算出された該振動波形の距離減衰を考慮した項目を有効にして、
該波動伝播時間を与える該一定測定サンプリング時間における算出された該振動波形を最小にするときの減衰定数を、
該媒質の該ある時点における減衰定数とすることを特徴とする、
減衰定数の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は媒質を伝播する波動の減衰定数の推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
媒質の減衰定数を求める方法としては、カーブフィット法、ハーフパワー法、1/√2法、位相勾配法などの周波数応答を用いる方法や、振動波形そのものを比較する方法などがある(非特許文献1参照)。いずれの方法の場合も、一定時間の振動観測を行い、その記録をオフライン処理するため、リアルタイムに減衰定数を求めることができず、構造物の被災状況などをただちに検出することができなかった。
【0003】
また、具体的な建物の減衰定数を算出した例としては、東北大学工学部の人間・環境系研究棟について、東北地方太平洋沖地震の観測波形を用いて、構造の非線形性に伴う動的特性の非定常性を分析するために、拡張カルマンフィルターを用いたシステム同定を行い、等価1自由度系の固有振動数と減衰定数を評価した例がある(非特許文献2参照)。カルマンフィルターは原理的には逐次処理を行うことができるが、結果を得るためには多くのパラメタを推定する必要があり、さらに結果も離散的になるためスムージングなどを行わないと全体的な傾向が分からない。このため、やはりリアルタイムに減衰定数を求めることができず、また建物などによってパラメタを設定する必要があるなど一般的に適用することができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】日本建築学会(編)「建築物の減衰」(丸善)、2000年10月1日、P.65−125
【0005】
【非特許文献2】源栄正人他「東北地方太平洋沖地震における被災建物の振幅依存振動特性の長期モニタリング」、日本地震工学会論文集第12巻、第5号(特集号)、P.117−132、2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本件発明が解決しようとする課題は、構造物などの劣化を評価するために減衰定数を求めようとする際に、リアルタイム処理ができないことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
自由境界面と内部に反射面を持つ媒質を考える。なお、複数の自由境界面や反射面がある場合には、インピーダンスのコントラストの高い反射面と自由境界面の組み合わせについて考える。
【0008】
この媒質内を、波動が自由境界面へ向かう方向に伝播して自由境界面において反射した場合に、その波動を、組み合わせた反射面と自由境界面の間で、自由境界面を含み反射面を含まない媒質内の一点の観測点において時系列の振動波形として測定する。
この測定した時系列の波形をfw(t)とする。fw(t)について、ある測定時点tにおいて、サンプリング時間をΔtさかのぼった振動波形に距離減衰の効果を加味した波形と、Δt経過した振動波形に距離減衰の効果を加味した波形を加算して、さらに半分にしたものを、Δtを連続的に変動させて算出しておく。すなわち式1を、Δtを変動させて複数算出する。ここで、αは距離減衰定数(1/m)、xは自由境界面からの距離を示す。さらに、αを減衰定数の単位Δの定数m倍、すなわちα=mΔとする。
【0009】

【数1】
【0010】
一方で、前記観測点よりも自由境界面から見て媒質の内側の一点においてもその波動を測定する。この時系列の波形をgw(t)とする。
【0011】
fw’(t)は波動を測定した前記観測点から伝播時間がΔtの地点における波動と考えることができるので、fw’(t)とgw(t)の差が最小となる場合のΔtが前記観測点と自由境界面から見て前記観測点よりも媒質の内側の一点の間の伝播時間となる。
【0012】
また、gw(t)が得られていない場合には、fw’(t)が最小となる場合がこの波動の反射面における波動と考えることができる。すなわち、Δtが自由境界面と反射面の間の伝播時間となる。
【0013】
このようにして波動の伝播時間を算出するが、減衰定数は不明なため、まずはαを0として上記の操作により波動伝播時間を算出する。続いて、さらにmを変動させることでfw’(t)とgw(t)との差、あるいはfw’(t)そのものが最小になる値を求める。この最小になった時のαがこの媒質のこの時点における減衰定数となる。
【0014】
なお、この操作は波動の観測サンプリングごとに逐次行うことができるため、リアルタイム処理が可能である。
【0015】
また、時系列の振動波形において、連続するサンプリングデータを補間することで、サンプリング間隔よりも短い時間差の波動伝播時間を推定し、さらに減衰定数を推定することができる。なお、補間の方法は、たとえば直線的に二つのサンプリングデータ間を補間するなど、その方法に限定はない。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、自由境界面と反射面を持つ媒質に伝わる波動を、この媒質内の二点あるいは一点で測定することでリアルタイムに波動伝播時間を求め、それからその媒質の減衰定数もリアルタイムに推定することができる。このため、従来の方法では二点で観測を行い限られたデータ長の波形を用いて複雑な処理を行う必要があったものを、非常に長いデータ長の観測波形であっても観測された波動を逐次処理し、連続的に減衰定数を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の手法により求めた減衰定数を、非特許文献2で求めた減衰定数と比較して示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態を示す。
【実施例】
【0019】
本発明の手法を、非特許文献2と同様に東北大学工学部の人間・環境系研究棟で観測された東北地方太平洋沖地震の観測波形に適用した実施例を示す。
本発明の手法によると、図1に示すような減衰定数の時系列の変動をリアルタイムに得ることができる。なお、図1は非特許文献2の拡張カルマンフィルターを適用して求めた減衰定数とそれを平滑化したものに、本発明の手法により求めた減衰定数を重ね書きしたものである。この図から、本発明の手法による減衰定数は非特許文献2の方法による減衰定数とよく一致しており、本発明の手法の有効性を示している。



【符号の説明】
【0020】
1 減衰定数を示す軸
2 時間軸(単位:秒)
11 本発明の手法により求めた減衰定数
21 非特許文献2による拡張カルマンフィルターを適用して求めた減衰定数
22 非特許文献2による拡張カルマンフィルターを適用して求めた減衰定数を平滑化したもの
【要約】
【課題】
本件発明が解決しようとする課題は、構造物などの劣化を評価するために減衰定数を求めようとする際に、リアルタイム処理ができないことである。
【解決方法】
自由境界面と内部に反射面を持つ媒質を考える。この媒質内を、波動が自由境界面へ向って伝播し反射する場合に、それを自由境界面を含む媒質内の観測点で測定する。つぎに、測定した波形fw(t)に対して、以下のfw’(t)をΔtを連続的に変動させて算出する。
【数1】
このfw’(t)と媒質内の他の点で測定した振動波形との差、あるいはfw’(t)そのものが最小になるときの減衰定数がここで求めようとする減衰定数となる。
この際、まず減衰定数の項を無視して伝播時間に相当するΔtを算出し、それから減衰定数を求めることを特徴とする。
【選択図】 図1
図1