特許第6264503号(P6264503)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6264503粒子分別装置を備えた膜分離方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6264503
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】粒子分別装置を備えた膜分離方法および装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/18 20060101AFI20180115BHJP
   C02F 1/44 20060101ALI20180115BHJP
   B04C 9/00 20060101ALI20180115BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20180115BHJP
   B01D 21/26 20060101ALI20180115BHJP
   C02F 3/12 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B01D61/18
   C02F1/44 C
   B04C9/00
   B01D21/01 B
   B01D21/26
   C02F3/12 N
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-519590(P2017-519590)
(86)(22)【出願日】2017年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2017013691
【審査請求日】2017年4月11日
(31)【優先権主張番号】10201610914Y
(32)【優先日】2016年12月28日
(33)【優先権主張国】SG
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】野口 寛
(72)【発明者】
【氏名】タオ グイヘ
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 輝武
(72)【発明者】
【氏名】福崎 康博
(72)【発明者】
【氏名】リー インジ
(72)【発明者】
【氏名】イエン ジャー ティン
(72)【発明者】
【氏名】チュア セン チャイ
(72)【発明者】
【氏名】ウエット バーナード
【審査官】 菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−504185(JP,A)
【文献】 特開2007−000727(JP,A)
【文献】 特開2013−237130(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−65/00
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固液分離のための膜分離装置と、
製造された少なくとも二つの分別固液混合体の流出口を有する粒子分別装置と
を備え、
粒経範囲が0.03〜0.4μmのサブミクロン粒子を含む大きさの異なる粒子を含んだ液体は、前記膜分離装置による膜分離の前に前記粒子分別装置に供され、
前記分別固液混合体の第一の分別水は前記粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの一つの流出口から前記膜分離装置に供され、当該第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記液体よりも低減されている
水処理装置。
【請求項2】
固液分離のための膜分離装置と、
製造された少なくとも二つの第一の分別固液混合体の流出口を有する第一の粒子分別装置と、
製造された少なくとも二つの第二の分別固液混合体の流出口を有する第二の粒子分別装置と、
を備え、
粒経範囲が0.03〜0.4μmのサブミクロン粒子を含む大きさの異なる粒子を含んだ液体は、前記膜分離装置による膜分離の前に前記第一の粒子分別装置に供され、
前記第一の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの一つの流出口からの前記第一の分別固液混合体の第一の分別水は前記膜分離装置に供され、当該第一の分別固液混合体の第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記液体よりも低減されており、
前記第一の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの他の流出口からの前記第一の分別固液混合体の第二の分別水が前記第二の粒子分別装置に供され、
前記第二の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうち一つの流出口からの前記第二の分別固液混合体の第一の分別水は前記膜分離装置に供され、当該第二の分別固液混合体の第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記第一の分別固液混合体の第二の分別水よりも低減されている
水処理装置。
【請求項3】
固液分離のための膜分離装置と、
前記膜分離装置による膜分離を行う前の前処理のための反応槽と、
少なくとも二つの分別固液混合体の流出口を有する粒子分別装置と、
を備え、
粒経範囲が0.03〜0.4μmのサブミクロン粒子を含む大きさの異なる粒子を含んだ液体は、前記膜分離装置による膜分離の前に前記粒子分別装置に供給され、
前記分別固液混合体の第一の分別水は前記粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの一つの流出口から前記膜分離装置または前記前処理のための反応槽に供され、当該第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記液体よりも低減されている
水処理装置。
【請求項4】
固液分離のための膜分離装置と、
前記膜分離装置による膜分離を行う前の前処理のための反応槽と、
製造された少なくとも二つの第一の分別固液混合体の流出口を有する第一の粒子分別装置と、
製造された少なくとも二つの第二の分別固液混合体の流出口を有する第二の粒子分別装置と、
を備え、
粒経範囲が0.03〜0.4μmのサブミクロン粒子を含む大きさの異なる粒子を含んだ液体は前記膜分離装置による膜分離の前に前記第一の粒子分別装置に供給され、
前記第一の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの一つの流出口からの前記第一の分別固液混合体の第一の分別水は前記膜分離装置に供され、当該第一の分別固液混合体の第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記液体よりも低減されており、
前記第一の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの他の流出口からの前記第一の分別固液混合体の第二の分別水は前記第二の粒子分別装置に供され、
前記第二の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうち一つの流出口からの前記第二の分別固液混合体の第一の分別水は前記膜分離装置または前記前処理のための反応槽に供され、当該第二の分別固液混合体の第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記第一の分別固液混合体の第二の分別水よりも低減されている
水処理装置。
【請求項5】
前記粒子分別装置は、少なくも一つのハイドロサイクロンを有する
請求項1から4のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項6】
前記膜分離を行う前の前処理のための反応槽は、生物学的処理プロセスを含む
請求項3または4に記載の水処理装置。
【請求項7】
前記膜分離を行う前の前処理のための反応槽は、凝集処理のような物理化学処理プロセスを含む
請求項3から5のいずれか1項に記載の水処理装置。
【請求項8】
膜分離装置を用いた固液分離のための膜分離工程と、
少なくとも二つの分別固液混合体の流出口を有する粒子分別装置を用いて当該分別固液混合体を製造する分別工程と
を有し、
粒経範囲が0.03〜0.4μmのサブミクロン粒子を含む大きさの異なる粒子を含んだ液体は前記膜分離装置内の膜による前記膜分離工程に供される前に前記分別工程に供され、
前記分別固液混合体の第一の分別水は前記膜分離装置に供され、当該第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記液体よりも低減されている
水処理方法。
【請求項9】
膜分離装置を用いた固液分離のための膜分離工程と、
少なくとも二つの第一の分別固液混合体の流出口を有する第一の粒子分別装置を用いて当該第一の分別固液混合体を製造する第一の分別工程と、
少なくとも二つの第二の分別固液混合体の流出口を有する第二の粒子分別装置を用いて当該第二の分別固液混合体を製造する第二の分別工程と
を有し、
粒経範囲が0.03〜0.4μmのサブミクロン粒子を含む大きさの異なる粒子を含んだ液体は前記膜分離工程の前に前記第一の分別工程に供され、
前記第一の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの一つの流出口からの前記第一の分別固液混合体の第一の分別水は前記膜分離工程に供され、当該第一の分別固液混合体の第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記液体よりも低減されており、
前記第一の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの他の流出口からの前記第一の分別固液混合体の第二の分別水は前記第二の粒子分別装置に供され、
前記第二の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうち一つの流出口からの前記第二の分別固液混合体の第一の分別水は前記膜分離工程に供され、当該第二の分別固液混合体の第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記第一の固液混合体の第二の分別水よりも低減されている
水処理方法。
【請求項10】
膜分離装置を用いた固液分離のための膜分離工程と、
前記膜分離工程の前の前処理工程と、
少なくとも二つの分別固液混合体の流出口を有する粒子分別装置を用いて当該分別固液混合体を製造する分別工程と
を有し、
粒経範囲が0.03〜0.4μmのサブミクロン粒子を含む大きさの異なる粒子を含んだ液体は前記膜分離工程の前に前記分別工程に供され、
前記分別工程における粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの一つの流出口からの前記分別固液混合体の第一の分別水は前記膜分離工程または前記前処理工程に供され、当該第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記液体よりも低減されている
水処理方法。
【請求項11】
固液分離のための膜分離工程と、
前記膜分離工程の前の前処理工程と、
少なくとも二つの第一の分別固液混合体の流出口を有する第一の粒子分別装置を用いて当該第一の分別固液混合体を製造する第一の分別工程と、
少なくとも二つの第二の分別固液混合体の流出口を有する第二の粒子分別装置を用いて当該第二の分別固液混合体を製造する第二の分別工程と
を有し、
粒経範囲が0.03〜0.4μmのサブミクロン粒子を含む大きさの異なる粒子を含んだ液体は前記膜分離工程の前に前記第一の粒子分別装置に供され、
前記第一の粒子分別装置からの前記第一の分別固液混合体の第一の分別水は当該第一の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの一つの流出口から前記膜分離工程または前記前処理工程に供され、当該第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記液体よりも低減されており、
前記第一の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの他の流出口からの前記第一の分別固液混合体の第二の分別水は前記第二の粒子分別装置に供され、
前記第二の粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうち一つの流出口からの前記第二の分別固液混合体の第一の分別水は前記膜分離工程または前記前処理工程に供され、当該第二の分別固液混合体の第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記第一の分別固液混合体の第二の分別水よりも低減されている
水処理方法。
【請求項12】
前記膜分離工程の前の前処理工程は、生物学的処理プロセスを含む
請求項10または11に記載の水処理方法。
【請求項13】
前記膜分離工程の前の前処理工程は、凝集処理のような物理化学的処理プロセスを含む
請求項10または11に記載の水処理方法。
【請求項14】
前記粒子分別装置は、少なくも一つのハイドロサイクロンを有する
請求項8から13のいずれか1項に記載の水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上水原水や生活排水、工業排水などの各種排水を膜分離処理する方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上水処理及び排水処理分野において膜分離プロセスが広く利用されている。上水処理では原水に凝集剤が添加され、その後、膜ろ過することにより汚濁物質やクリプトスポリジウム等の病原体を除去することができる。
【0003】
一方、下水処理においては、活性汚泥プロセスが広く利用されている。下水を活性汚泥に接触させると、汚泥中の微生物が溶解物質を消費し、下水を浄化できる。活性汚泥は、沈殿や後処理により処理水から分離される。膜分離プロセスは活性汚泥プロセスの流出水に適用されることにより汚濁物質や病原体が除去される。
【0004】
さらに、活性汚泥と膜分離法を組み合わせた膜分離活性汚泥法(以下、MBR)が広く利用されている。MBRシステムでは、活性汚泥の性状によらず、活性汚泥を安定分離できるメリットがある。また、MBRシステムは、設備の設置スペースを縮小できる利点も有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許9242882 B2明細書
【発明の概要】
【0006】
上水および排水処理のための膜分離プロセスでは、膜ファウリングの抑制が重要な課題となっている。膜ファウリングは、十分な量の処理水が得られなくなる他、膜の寿命を短くさせ、ランニングコストを増加させる問題がある。主要な膜ファウリング物質は、例えば、MBRシステムにおいては、コロイド状物質やサブミクロン粒子が考えられる。コロイド状物質には微生物由来の生物代謝物質も含まれている。微生物環境を良好に保つことで、生物代謝物質の放出を抑制することができるが、急激な水質変動などにより生物代謝を良好に保つことができなくなる懸念がある。
【0007】
凝集剤をMBRシステムに添加することにより、コロイド状物質や有機や無機の微小粒子を除去することができるが、処理コストが増加する問題がある。
【0008】
特許文献1には、重力式分離装置によって引き抜き汚泥中のコロイド状物質や微小粒子を除去することで膜ファウリングが抑制できる可能性について述べられている。しかしながら、同文献には、この重力式分離装置の利用時のコロイド状物質や微小粒子の低減率などの実証データが示されていない。そのため、同文献には、ファウリングの抑制のために、コロイド状物質や微小粒子のいずれかまたはこれら両者を低減する必要があるかどうかが明らかにされていない。
【0009】
また、前記文献には、微生物処理プロセスから汚泥を引き抜いて、沈降性の高い大きな粒子を分離して当該処理プロセスに戻すことの記載がある。そして、その残留物は、大きな粒子が分離された後、廃棄または固形処理プロセスに供給することの記載がある。この場合、引き抜き汚泥量を増やすと、処理プロセス中の微生物濃度が低下して処理効率が低下することになる。このことは、膜分離によって得られる処理水の生産効率が低下して回収率を低下させる結果にもなる。さらに、生物学的処理プロセス中の汚泥濃度を維持するためには、引き抜き微生物量が限定されるため、この同文献の方法により膜ファウリングを抑制するには長期的な時間を要する。
【0010】
そこで、本発明は、膜分離プロセスにおける膜ファウリングを効果的に抑制することを目的とする。
【0011】
本発明は、粒子分別装置を備えて被処理水からサブミクロン粒子を選択的に除去することにより膜ファウリングを抑制する。
【0012】
膜ファウリング物質の解析を詳細に行った結果、膜分離装置において、サブミクロン粒子を系外に排出し大きな粒子を系内に保持すれば、被処理水からコロイド状物質を除去しなくても膜ファウリングを効果的に抑制できることが見出された。
【0013】
そこで、本発明の一態様は、水処理装置であって、固液分離のための膜分離装置と、製造された少なくとも二つの分別固液混合体の流出口を有する粒子分別装置とを備え、サブミクロン粒子を含む大きさの異なる粒子を含んだ液体は、前記膜分離装置による膜分離の前に前記粒子分別装置に供され、前記分別固液混合体の第一の分別水は前記粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの一つの流出口から前記膜分離装置に返送され、当該第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記液体よりも低減されている。
【0014】
以上の本発明によれば、膜分離装置からサブミクロン粒子を選択的に除去排出し、大きな粒子および残留水を膜分離装置に返送することで、サブミクロン粒子の除去と共に系外排出される排出水の量を最小限に抑えながら、膜ファウリングの抑制効果を得ることができる。これにより、膜分離装置における膜ろ過水の生産量を増加させることができる。
【0015】
さらに、本発明によれば、粒子分別装置に供される膜分離プロセスからの引き抜き水の量を増加させても、排出水の量を最小限に抑えることができる。したがって、前記膜分離装置からの引き抜き水量を増加させることで、膜分離装置中のサブミクロン粒子を高速で除去することができる。これにより、膜ファウリングの抑制効果が迅速に得られる。
【0016】
後述の実施例は、MBRシステムの事例であるが、本発明はMBRシステムに限定されることなく、サブミクロン粒子と大きな粒子を含む粒子成分を含み、コロイド状物質などのファウリング物質を含む水を処理する膜分離システムに広く応用できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、膜分離プロセスから処理対象水からサブミクロン粒子を除去し、大型の粒子および残留水を膜分離プロセスに返送することで、排出水の量を最小限に抑えながら、膜ファウリングの抑制効果を得ることができる。このことは、膜分離による膜ろ過水の生産量の増加につながり、回収率が増加する。
【0018】
また、本発明によれば、膜分離プロセスから引き抜いて粒子分別装置へ供給する水量を増加させても、膜分離プロセスへの返送する水量を多くすることができるので、排出水の量を最小限に抑えることができる。これにより、膜分離プロセスからサブミクロン粒子を高速で除去できると共に膜ファウリングの抑制効果が迅速に得られる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施例1の概要図。
図2】本発明の実施例2の概要図。
図3】本発明の実施例3の概要図。
図4】比較例の概要図。
図5】実施例1の膜ろ過過程における膜間差圧(TMP)の経日的な変化。
図6】比較例1の膜ろ過過程における膜間差圧(TMP)の経日的な変化。
図7】実施例1における引き抜き水、粒子分別装置による第一分別水10および第二分別水11の粒度分布測定結果。
図8】実施例1における粒子分別装置の運転前後のコロイド状物質(全有機炭素)濃度の経日的な変化。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下の実施例を説明しながら本発明の詳細について述べる。
【0021】
図1は、水中のサブミクロン粒子を選択的に除去する粒子分別装置9を備えた水処理装置の実施例1の処理フローを示す。本実施例の水処理装置は、粒子分別装置9と膜分離装置とを備える。前記膜分離装置は、反応槽2、膜分離槽3および循環槽6を備える。
【0022】
流入水1は、前処理装置である反応槽2に供給され、その後、膜分離槽3に供給される。反応槽2では、実施例1で活性汚泥を用いた生物学的処理プロセスが利用されている。反応槽2の処理プロセスは、活性汚泥を用いた生物学的処理プロセス、凝集処理のような物理化学的処理プロセス、オゾン処理のような酸化処理プロセスのいずれか、または、これらを組み合わせたプロセス、若しくは、膜ろ過プロセスの前処理に必要な他のプロセスから選択することができる。
【0023】
膜分離槽3では分離膜モジュール4によってろ過されたろ過水が生産水5として生産される。上水処理システムの場合には、この生産水5は、必要な後処理を施した後、飲料水として利用される。また、公共下水や工業排水の処理の場合には、生産水5は必要に応じて後処理を行った後、再生水として利用されるか、処理水として放流される。
【0024】
膜分離槽3にて利用される分離膜モジュール4としては、公称孔径0.04μmのUF膜(限外ろ過膜)を使用したものが挙げられる。分離膜モジュール4には、MF膜(精密ろ過膜)、UF膜、NF膜(ナノろ過膜)またはそれらの組み合わせたものも利用できる。分離膜モジュール4は、浸漬式、加圧式のいずれの方式も採用できる。加圧式のモジュールが採用される場合には、複数のモジュールを組み合わせたシステムが膜分離槽3の代わりに利用される。
【0025】
膜分離槽3からろ過前の水が循環槽6に供され、この循環槽6からの引き抜き水8は、循環槽6内のポンプ7により粒子分別装置9に移送される。引き抜き水8は、循環槽6を用いることなく、膜分離槽3から直接引き抜いてもよい。また、引き抜き水8は、膜分離槽3と反応槽2との間に循環ラインを適用すれば、反応槽2から引き抜くこともできる。
【0026】
引き抜き水8内のサブミクロン粒子は粒子分別装置9により第一分別水10中に分別される。前記分別された後の残りの粒子は第二分別水11に含まれる。第二分別水11には大きな粒子が含まれる。サブミクロン粒子を完全に第一分別水10に分別する必要はなく、第二分別水11に前記大きな粒子とサブミクロン粒子の両方が含まれていてもよい。第一分別水10は前記膜分離装置から系外に排出される。第二分別水11は反応槽2に返送される。
【0027】
第一分別水10内のサブミクロンの粒子を除去することにより、前記膜分離装置内のサブミクロンの粒子の濃度を低減させることができる。その結果、大きな粒子を前記膜分離装置内に保持できる。
【0028】
実施例1の実証試験では、粒子分別装置にハイドロサイクロンを利用した。本発明のハイドロサイクロンとしては、特許文献1に記載の公知のものやその改良したものが適用できる。ここで、粒子分別装置は、湿式分級により粒子分別を行う装置である。その方式は粒子の沈降速度差を利用した重力分級、遠心力場での沈降速度差を利用した遠心分級などに分類される。また、粒子分別装置としては、遠心分級を利用したハイドロサイクロンや遠心分級機、重力分級を利用したハイドロセパレータやデカンターなどが挙げられる。これらは単体または複数さらには組み合わせて粒子分別装置として利用することができる。
【0029】
粒子分別装置によって大きな粒子を保持することにより膜ファウリングを効果的に抑制することができる。膜分離槽中のサブミクロン粒子の濃度が減少すれば、サブミクロン粒子が膜細孔内に侵入することを防ぐことができ、膜ファウリングを抑制できる。さらに、膜分離槽内に前記大きな粒子が優勢に存在すれば、これら大きな粒子で主に構成されるケーキ層が膜表面に形成され、このケーキ層がコロイド状物質やサブミクロン粒子が膜細孔内に侵入するのを防止する。このことにより、膜分離槽内にコロイド状物質が残っていても膜ファウリングを効果的に抑制できる。粒子分別装置を備えた膜分離装置として、実施例1は粒子分別装置で粒子を2つの分別水に分別したが、実施例2は3つの分別水に分別する方式とした。図2は実施例2の概要を示す。実施例2の処理フローは、粒子分別装置により引き抜き水を3つの分配水に分別する以外は実施例1の態様と同じである。
【0030】
循環槽6からの引き抜き水8は、粒子分別装置9において、第一分別水10、第二分別水11および第三分別水12の3つの分別水に分別される。サブミクロン粒子は主に第三分別水12に含まれ、それより大きな粒子は第二分別水11に主に含まれる。第一分別水10は、第二分別水11および第三分別水12と分別されたものであり、粒子の含有量はかなり小さい。主にサブミクロン粒子を含む第三分別水12は膜分離装置から排出される。第二分別水11と第一分別水10は反応槽2に返送される。このように、前記大きな粒子は前記膜分離装置に保持される。
【0031】
3つの分別水に分別する粒子分別装置としては、3相型のハイドロサイクロンを利用することができる。2相型のハイドロサイクロンでは、中心部に上向流が、内壁周辺に下降流が形成される。大きな粒子は下降流に分別されてハイドロサイクロンの下部から取り出され、残りの粒子は上昇流に含まれ、上部からオーバーフローとして流出する。
【0032】
実施例2にて利用される3相型のハイドロサイクロンには、ハイドロサイクロンの上昇流の途中に配管が設けられる。中間サイズの粒子がこの配管に分別され、第三の分別水として取り出しが可能となっている。サブミクロン粒子は、前記三相型のハイドロサイクロンの中間流にて分別できるようになっており、前記膜分離装置から排出される。
【0033】
前記大きな粒子を含む第二分別水と、この第二分別水と分別されたサブミクロン粒子を含んだ第一分別水は、前記膜分離装置に返送することで、当該膜分離装置の引き抜き水に対する返送水の割合を実施例1よりも大きくすることができる。このことにより、排出水の量を低く抑えることができ、膜分離装置で生産される生産水の量を増加させることができる。
【0034】
さらに、実施例2では粒子分別装置へ供給する膜分離プロセスからの引き抜き水の量を増加させても、排出水の量を最小限にすることができる。そして、膜分離装置からの引き抜き水量を増加させることで、膜分離装置からサブミクロン粒子を高速で除去することができる。これにより、膜ファウリングの抑制効果を短時間で得ることができる。
【0035】
図3は、2つの粒子分別装置を備えた実施例3の膜分離装置の処理フローを示す。
【0036】
実施例3の処理フローは、二つの粒子分別装置により引き抜き水を分別すること以外は、実施例1と同じとなっている。
【0037】
循環槽6からの引き抜き水8は、粒子分別装置9により第一分別水10と第二分別水11に分別される。サブミクロン粒子は主に第一分別水10に含まれ、それより大きな粒子は第二分別水11に含まれる。第二分別水11は反応槽2に返送される。第一分別水10は、さらに、第三分別水15と第四分別水16に分別される。第一分別水10に含まれるサブミクロン粒子は、粒子分別装置14により第三分別水15中に主に分別される。
【0038】
残りは第四分別水16となるが、この第四分別水16には粒子はほとんど含まれない。サブミクロン粒子を主に含む第三分別水15は前記膜分離装置から排出されるが、第四分別水16は反応槽2に返送される。
【0039】
さらに、図3に示された実施例3の処理フローのように、粒子分別装置14に供される前の第一分別水10に凝集剤などの薬剤を添加することができる。第一分別水10に凝集剤を添加することにより、第一分別水10中のサブミクロン粒子は、粒子分別装置14により容易に分別できる。凝集剤、フロック形成剤、その他薬剤が本目的に利用できる。
【0040】
大きな粒子を含む第二分別水11と、この第二分別水11と分別されたサブミクロン粒子を含んだ第四分別水16は、前記膜分離装置に返送されることにより、当該膜分離装置の引き抜き水に対する返送水の割合を実施例1よりも大きくすることができる。これにより、排出水の量を低く抑えることができ、前記膜分離装置からの生産水の量を増加させることができる。
【0041】
さらに、実施例3では、実施例2と同様に膜分離装置から粒子分別装置への引き抜き水の量を増加させても、排出水の量を最小限にすることができる。膜分離装置からの引き抜き水量を増加させることにより、サブミクロン粒子を高速で除去することができる。これにより、膜ファウリングの抑制効果を短時間で得ることができる。図4は、比較例の処理フローを示したものである。
【0042】
比較例の処理フローは、引き抜き水8が粒子分別装置を介さずに返送水16と排出水17に分けられること以外は、実施例1と同様の処理フローである。引き抜き水8中の粒子は、返送水16に対する排出水17の比率によって分けられる。したがって、大きな粒子に対するサブミクロン粒子の比率は変化しない。このため、引き抜き水8を返送水16と排出水17に分けても、膜分離装置中の粒子分布は変化することはない。
【0043】
以下、実施例の方法の有効性を実証する試験データを比較例のデータと比較して示す。
【0044】
実施例1において、活性汚泥を用いた生物学的処理プロセスを反応槽2に採用し、膜分離槽3では浸漬式のUF膜による膜ろ過プロセスを採用した。前記UF膜には公称孔径0.04μmの浸漬型膜を用いた。粒子分別装置9として、ハイドロサイクロンを用いた。反応槽2、膜分離槽3の容積は、それぞれ400m3、50m3とした。反応槽2中の活性汚泥濃度を2,000mg/Lに保つために、引き抜き水8を膜分離槽3から平均量36m3/日で引き抜いた。この値よりも引き抜き水量を増やした場合には、活性汚泥濃度が低下し、生物学的な処理能力が低下することになる。
【0045】
引き抜き水8をハイドロサイクロンに送り、このハイドロサイクロンの上部から取り出された上昇流を第一分別水10として装置外に排出した。それ以外の分別水をハイドロサイクロンの下降流として取り出し、第二分別水11として反応槽2に返送した。反応槽2内の活性汚泥濃度を適切な値に維持するには第一分別水10と第二分別水11の水量の比率が1:4であることが望ましいものとなった。つまり、引き抜き水8の20%を膜分離装置外に排出し、排出量は日平均量36m3/日となった。排出した汚泥を含む分別水は消化プロセスに供した。
【0046】
図5は実施例1の実証期間中におけるTMP(膜間差圧)の変化を示す。粒子分別装置として利用したハイドロサイクロンは試験14日目に運転を開始した。当初から49日目まではTMPが上昇したが、49日目以降はほぼ一定となった。つまり、ハイドロサイクロンの運転開始から約35日後にTMPが一定となり、この期間に膜ファウリングが抑制されたことを示唆している。本検証期間中にハイドロサイクロンの運転を開始したこと以外は、運転条件は試験期間中に変更なかった。これらの結果から、ハイドロサイクロンの利用によって膜ファウリングが抑制されることが実証された。
【0047】
図6は、図4に示した粒子分別装置を使用しなかった比較例におけるTMPの変化を示す。当初から50日までTMPが緩やかに上昇した。そして、50日目以降にはTMPが急激に上昇して、膜ファウリングが速くなった。つまり、比較例による試験では、試験期間中にTMPは上昇し続け、ファウリングが常時進行していたことがわかる。これらの結果から、ハイドロサイクロンを膜分離装置とともに利用することで膜ファウリングが抑制されることが実証された。
【0048】
ハイドロサイクロンによる膜ファウリングの抑制のメカニズムを解明するために、実施例1の実証試験期間中に採取したハイドロサイクロンの分別水中の粒子の粒径分布を調べた。粒度分布測定には、動的光散乱法による粒子径測定装置(Malvern社製、型式:Zetasizer Nano ZS 3600)を用いた。併せて、試験期間中の膜分離槽中のコロイド状物質の濃度変化を調べた。コロイド状物質の濃度は、コロイド状物質のTOC(全有機炭素)として、1.5μm濾紙のろ過水のTOCと、0.04μm膜のろ過水のTOCとの差分から求めた。
【0049】
図7は粒径分布の測定結果を示す。循環槽6からの引き抜き水8においては、2つの大きなピークが認められた。粒径範囲が0.03から0.2μm,ピーク0.1μmのサブミクロンの粒子群である。もう一つは粒径範囲が0.3から2μm,ピーク0.9μmの大きな粒子群である。これらと類似のピークがハイドロサイクロンの下降流である第二分別水11にも認められた。その大きな粒子のピークは引き抜き水8のものよりも高くなっており、反応槽2に返送された第二分別水11では水中の前記大きな粒子の濃度が増加したことを示している。
【0050】
さらに、ハイドロサイクロンの上昇流である第一分別水10では、前記大きな粒子のピークはほとんど認められず、粒径範囲が0.03から0.4μm,ピーク0.1μmのサブミクロンの粒子が支配的となっていることがわかる。これらの結果から、ハイドロサイクロンによって、第一分別水10にサブミクロン粒子が分別され、第一分別水10を膜分離装置の外に排出することにより、当該膜分離装置の外にサブミクロン粒子をほぼ選択的に排出できることがわかった。
【0051】
ハイドロサイクロンの使用により分別排出されたサブミクロンの粒子のサイズは、0.03から0.4μmであり、膜分離装置で使用されたろ過膜の公称孔径0.04μmとよりもやや小さいか大きなサイズであった。レーザー散乱式の粒径分布装置の測定値は、粒子を球形に近似した値であり、また、粒子表面に結合粒子等が存在すると粒径が大きく測定される点に注意する必要がある。このため、膜孔径と同程度かやや大きい粒度の測定値である粒子であっても細孔内に侵入する可能性がある。これらの考察から、ハイドロサイクロンを用いてサブミクロン粒子を分別し、膜分離装置の外に排出することにより、膜ファウリングを抑制できると結論できる。
【0052】
図8は、図5の実施例1のTMP測定期間と同じ期間での膜分離槽内のコロイド状物質の濃度変化を示す。図8によれば、コロイド状物質の濃度は測定期間中に一定の範囲で推移し、ハイドロサイクロンの運転開始後もコロイド状物質の濃度の減少は認められないことがわかった。コロイド状物質は膜ファウリングの主要因の一つと考えられており、特許文献1に記載のようにハイドロサイクロンを用いてコロイド状物質を除去することにより膜ファウリングが抑制されると予想された。しかし、実際にはハイドロサイクロン運転後もコロイド状物質の濃度が変化しないことが明らかとなり、本発明によれば膜分離槽内のコロイド状物質濃度を低減させることなく膜ファウリングを抑制できることが立証された。
【0053】
コロイド状物質を低減させることなく膜ファウリングを抑制するメカニズムは以下のように説明できる。
【0054】
ハイドロサイクロンによりサブミクロンの粒子が膜分離装置から除外された後は膜分離槽においては大きな粒子が支配的に存在することになる。膜分離槽内に前記大きな粒子が支配的に存在すれば、主にこの大きな粒子から成るケーキ層が膜表面に形成される。そして、このケーキ層により膜細孔内へのコロイド状物質や小さな粒子の侵入が防止される。したがって、膜分離槽中にコロイド状物質が残留していても膜ファウリングの効果的な抑制が可能となる。
【0055】
図5に示されたように、ハイドロサイクロンの運転開始後約35日目になってからTMPのはじめて上昇が抑えられた。この時間遅れは、膜分離槽からの引き抜き水の割合が限定されており、膜分離槽からのサブミクロン粒子の除去に時間を要したことに因るものである。
【0056】
上述のように、反応槽および膜分離槽の容積の合計は450m3であり、ハイドロサイクロンで分別された排出水の排出速度は平均量36m3/日であった。総容積を排出速度で割った時間の3倍の時間(いわゆる滞留時間の3倍則)を計算すると38日となり、膜分離装置内の処理水量を排出するのに38日を要する計算になる。実証試験では、ハイドロサイクロンの運転後、ファウリングの抑制に35日を要しており、この所要期間は予測日数とほぼ一致している。
【0057】
実施例1における膜ファウリングの時間遅れを短縮するために発案されたものが実施例2と実施例3である。実施例2では、例えば、大きな粒子含む第二分別水と、この第二分別水と分別されたサブミクロン粒子を含んだ第一分別水を膜分離装置に返送することにより、膜分離装置からの引き抜き水に対する当該膜分離装置への返送水の割合が実施例1よりも大きくなる。これにより、系外に排出される排出水の量を低減させると共に、膜分離装置からの生産水を増加させることができる。さらに、実施例2は、膜分離装置から粒子分別装置への引き抜き水の量を増加させても、排出水の量を最小限に抑えることができる。したがって、膜分離装置からの引き抜き水の量を増加させることにより、膜分離装置からサブミクロン粒子を高速で除去することができる。これにより、短時間で膜ファウリングの抑制効果を得ることができる。
【要約】
提示された水処理装置は、固液分離のための膜分離装置と、製造された少なくとも二つの分別固液混合体の流出口を有する粒子分別装置とを備え、サブミクロン粒子を含む大きさの異なる粒子を含んだ液体は、前記膜分離装置による膜分離の前に前記粒子分別装置に供され、前記分別固液混合体の第一の分別水は前記粒子分別装置の少なくとも二つの流出口のうちの一つの流出口から前記膜分離装置に返送され、当該第一の分別水は前記サブミクロン粒子の含有量が前記液体よりも低減されている。この装置によれば膜ファウリングの抑制効果が迅速に達成される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8