(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記めっき皮膜が、ニッケル、銅、銀、金、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト及びこれらの合金からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の製造方法。
【背景技術】
【0002】
家電や輸送機器などの製品に用いられる回路の基材として、従来、紙フェノール基材、紙エポキシ基材、ガラスエポキシ基材、セラミック基材などが用いられている。これらの基材は、電気的特性、機械的特性、価格がそれぞれ異なるため、製品に求められる性能やコストに応じて使い分けられている。現在、回路の基板としてガラス基材が注目されていて、ガラス基板の表面に金属皮膜パターンを形成する試みがなされている。ガラス基材は、従来用いられている基材に比べて、優れた熱安定性を有し、しかも安価であるという利点がある。
【0003】
特許文献1には、被メッキ対象物である絶縁性基板の表面にエネルギ・ビームを照射し、このエネルギ・ビームの照射を基板表面の所定部分に行った後、化学メッキの際に析出核となる物質を化合物の状態で含有する液体を上記絶縁性基板の表面に接触させ、前記基板を洗浄して残存する前記流体を除去し、次いで前記エネルギ・ビームの照射面を所定の化学メッキ液と接触させて前記被着物質部分に化学メッキにより金属を析出させる選択的メッキ方法が記載されている。これにより、複雑かつ微細な金属析出パターンを製作することができるとされている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のめっき方法においては、ガラス基材の表面に金属皮膜パターンを形成することについての記載も示唆もなかった。
【0005】
特許文献2には、絶縁体の表面に金属配線を形成する金属配線形成方法において、レーザー光としてパルス幅がピコ秒オーダーのピコ秒レーザー光またはフェムト秒オーダーのフェムト秒レーザー光を、前記レーザー光の波長に対して透明かつ銀イオンを含有する絶縁体の表面に照射し、該照射領域において銀イオンを銀原子に還元して該照射領域に銀原子を生成し、前記レーザー光を照射されて該照射領域に銀原子が生成された前記絶縁体を所定の温度に維持した無電解めっき液に所定時間浸し、該銀原子を触媒核として金属を析出させることにより前記絶縁体に金属膜を堆積して金属配線を形成する金属配線形成方法が記載されている。実施例には、絶縁体として感光性ガラスを用いた例が記載されている。これにより、簡単な処理で、かつ少ない工程数により金属配線を形成することができるとされている。
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載のめっき方法では、特殊なガラス基材を使用しなければならず、当該ガラス基材は従来用いられている基材に比べて高価なので、この基材を用いた回路を広く普及させるには限界がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、ガラス基材の表面にめっき皮膜パターンが形成されためっき品の製造方法に関する。本発明の製造方法は、以下の第1〜第4工程を備える。以下、各工程について説明する。
【0017】
第1工程において、パルスレーザーをガラス基材の表面の一部に照射する。第1工程で用いられるガラス基材の種類は特に限定されず、ソーダライムガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどが挙げられる。これらのガラス基材は、めっき品の用途に応じて適宜選択できる。コストを重視する場合には、ソーダライムガラスが好適である。熱安定性を重視する場合には、石英ガラスやホウケイ酸ガラスが好適であり、石英ガラスがより好適である。ガラス基材に含まれる不純物の量が少ないことを重視する場合には、石英ガラスやホウケイ酸ガラスが好適であり、石英ガラスがより好適である。ガラス基材の厚さは特に限定されないが通常0.02〜5mmである。形状も特に限定されない。また、熱処理により機械的強度を向上させたガラス基材を用いることもできる。このようなガラス基材としては、ガラスを加熱した後、急激に冷却することにより表層付近に圧縮応力を発生させることで得られる物理強化ガラスや、ガラスを加熱しつつイオン交換処理によりガラス表層にイオン半径が大きいアルカリイオンを導入し、ガラス表層付近に圧縮応力を発生させることで得られる化学強化ガラスが挙げられる。
【0018】
本発明では、パルスレーザーを用いることが重要である。パルスレーザーを用いると、ガラスのような透明基材であっても多光子吸収を起こさせることが可能になる。多光子吸収は、レーザーのピークパワー(W)が大きいほど起こりやすくなる。同じエネルギーであればピークパワー(W)はパルス幅が短くなるほど大きくなるため、パルス幅は短い方が好ましい。かかる観点から、パルスレーザーのパルス幅(秒)は、1×10
−4秒以下であることが好ましく、1×10
−7秒以下であることがより好ましく、1×10
−9秒以下であることがさらに好ましく、1×10
−10秒以下であることが特に好ましい。このように、パルス幅を極めて短くすることでレーザーのピークパワーを非常に高くすることができ、多光子吸収を起こさせることができる。パルスレーザーのパルス幅の下限値は特に限定されないが通常1×10
−18秒以上であり、好適には、1×10
−15秒以上である。そして、レーザーの加工点(焦点)がガラス基材の表面になるように設定すれば、ガラス基材の表面を加工することが可能になる。
【0019】
加工点での平均出力が0.01〜1000Wであることが好ましい。加工点での平均出力が0.01W未満の場合、密着性の良好なめっき皮膜を得ることができないおそれがある。一方、加工点での平均出力が1000Wを超える場合、ガラス基材へのダメージが大きくなる。パルスレーザーの繰り返し周波数は特に限定されないが通常、1kHz〜1000MHzである。
【0020】
レーザーの種類も特に限定されず、YAGレーザー、ファイバーレーザー、半導体レーザーなどの固体レーザー;炭酸ガスレーザー、エキシマレーザーなどの気体レーザーを用いることができる。パルスレーザーの波長は特に限定されず、用いるガラス基材の種類などにより適宜設定することができ、通常は100〜12000nmである。パルス発振が容易である観点から、YAGレーザーが好ましく、ネオジムYAGレーザーがより好ましい。ネオジムYAGレーザーでは、基本波(第1高調波)と呼ばれる1064nmのレーザー光が発生する。波長変換装置を用いることにより、第2高調波と呼ばれる波長532nmのレーザー光、第3高調波と呼ばれる波長355nmのレーザー光、第4高調波と呼ばれる266nmのレーザー光を得ることができる。本発明の製造方法では上記第1〜4高調波を目的に応じて適宜選択できる。
【0021】
そして、パルスレーザーをガラス基材の表面の一部に照射する。ガラス基材へのパルスレーザーの照射方法は特に限定されないが、例えば
図1に示す方法が挙げられる。
図1はパルスレーザーの照射方法の一例を示した図である。
図1に示すように、ガラス基材の表面に照射エリアを設定する。後の工程において、パルスレーザーを照射した領域、すなわち、この照射エリアにのみ選択的にめっき皮膜が形成されることになる。そして、Stで示されているポイントからx方向(
図1において右方向)に所定の走査速度でレーザーを照射した後、y方向(
図1において上方向)に所定間隔レーザーを移動させて、−x方向(
図1において左方向)に所定の走査速度でレーザーを照射した後、再びy方向に所定間隔レーザーを移動させる。照射スポット径はレーザーのビーム径に対応するが、照射スポットは相互に重なる必要はなく、照射スポットの間に間隔があってもかまわない。この方法において、走査速度及び間隔(ピッチ間隔)を適宜調節することにより、単位面積当たりのレーザー照射量を調節することができる。
【0022】
めっき皮膜の密着性の観点から、パルスレーザーが照射されたガラス表面の算術平均粗さ(Ra)は、0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。一方、Raの値が大きすぎるとめっき品の強度が低下するおそれがあるので、Raは、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。本明細書におけるRaは、JIS B 0601(2001)に準拠した方法で得られる値である。
【0023】
次に、第2工程において、ガラス基材の表面に無電解めっき触媒を付着させる。無電解めっき触媒としては特に限定されず、無電解めっき液に対して触媒作用を有する金属元素を含有するものであればよい。当該金属元素としては、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、亜鉛(Zn)、金(Au)、白金(Pt)、スズ(Sn)などが挙げられる。これらの金属元素は、第4工程で用いる無電解めっき液の種類により適宜選択できる。そして、ガラス基材を上記金属元素を含む水溶液で処理した後に還元剤を含む水溶液で処理して、無電解めっき触媒を活性化させることができる。
【0024】
次に、第3工程において、前記ガラス基材において、前記パルスレーザーが照射されていない箇所に付着した前記触媒を選択的に失活させるか又は前記触媒を選択的に除去する。
【0025】
第3工程において前記触媒を除去する方法は特に限定されず、ガラス基材に対して超音波処理を施す方法やガラス基材の表面を流水で洗浄する方法を挙げることもできる。しかしながら、パルスレーザーが照射されていない箇所に付着した触媒を、より選択的に失活させる又は除去する観点から、前記触媒を失活させる化合物を含有する液にガラス基材を接触させる方法又は前記触媒を除去する化合物を含有する液にガラス基材を接触させる方法が好ましい。液にガラス基材を接触させる方法としては、触媒を失活させる化合物を含有する液にガラス基材を浸す方法、触媒を除去する化合物を含有する液にガラス基材を浸す方法、触媒を失活させる化合物を含有する液をガラス基材に塗布する方法、触媒を除去する化合物を含有する液をガラス基材に塗布する方法が挙げられる。
【0026】
第3工程において、触媒を失活させる化合物を含有する液にガラス基材を接触させる場合には、当該化合物が硫黄化合物であることが好ましい。本発明者らは、パラジウム触媒を付着させたガラス基材を用意し、硫黄化合物を含有する液に浸す前のガラス基材表面の化学組成と、硫黄化合物を含有する液に浸した後のガラス基材表面の化学組成とを、光電子分光装置(XPS)を用いて分析した。その結果、硫黄化合物を含有する液に浸した後も基材表面にはパラジウムが存在していることがわかった。また、硫黄化合物を含有する液に浸すことで、パラジウムに由来するピークの位置が変化することもわかった。本発明者らは、この結果は硫黄原子がパラジウムに配位したことを示すものであると考えていて、これによりパラジウム触媒が失活すると推定している。
【0027】
前記硫黄化合物が、チオカルボニル基、チオール基、スルフィド基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を有する化合物であることが好ましい。チオカルボニル基を有する硫黄化合物としては、チオ尿素などが挙げられる。チオール基を有する硫黄化合物としては、トリアジンチオール、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプト酢酸、チオシアン酸などが挙げられる。スルフィド基を有する硫黄化合物としては、ジメチルスルフィド、メチオニンなどが挙げられる。
【0028】
硫黄化合物を含有する液の濃度が低すぎると、触媒を選択的に失活させることができなくなるおそれがある。かかる観点から、硫黄化合物の濃度は、0.001ppm以上であることが好ましい。一方、硫黄化合物の濃度が高すぎると、パルスレーザーを照射した箇所に付着した触媒も失活するおそれがある。かかる観点から、硫黄化合物の濃度は、100ppm以下であることが好ましい。
【0029】
前記触媒を失活させる化合物を含有する液に用いられる溶媒は特に限定されず通常、水やアルコールである。触媒を失活させる化合物を含有する液にガラス基材を浸す場合、ガラス基材を浸す際の温度は特に限定されず通常、5〜90℃である。ガラス基材を浸す時間も特に限定されず通常、1秒〜30分である。触媒を失活させる化合物を含有する液をガラス基材に塗布する方法としては、ガラス基材に当該液をスプレー法により塗布する方法が挙げられる。
【0030】
第3工程において、触媒を除去する化合物を含有する液にガラス基材を接触させる場合には、当該化合物がキレート化合物又はシアン化物であることが好ましい。取り扱い性の観点から、前記触媒を除去する化合物が、アミノ酸、アミノアルコール、ポリアミン、ポリカルボン酸、ポリケトンからなる群から選択される少なくとも1種のキレート化合物であることが好ましい。アミノ酸としては、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリンなどが挙げられる。アミノアルコールとしては、トリエタノールアミンなどが挙げられる。ポリアミンとしては、エチレンジアミンなどが挙げられる。ポリカルボン酸としては、クエン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、酒石酸カリウムなどが挙げられる。ポリケトンとしては、アセチルアセトンなどが挙げられる。
【0031】
本発明者らは、パラジウム触媒を付着させたガラス基材を用意し、キレート化合物を含有する液に浸す前のガラス基材表面の化学組成と、キレート化合物を含有する液に浸した後のガラス基材表面の化学組成とを、光電子分光装置(XPS)を用いて分析した。その結果、キレート化合物を含有する液に浸すことにより、基材表面のパラジウム触媒が除去されていることがわかった。また、ガラス基材を浸した後の液を、ICP発光分析装置を用いて調べたところ、当該液にはパラジウムが含まれていることが分かった。
【0032】
上記シアン化物としては、シアン化カリウムやシアン化ナトリウムなどが挙げられる。
【0033】
キレート化合物又はシアン化物の濃度が低すぎると、触媒を選択的に除去することができなくなるおそれがある。かかる観点から、キレート化合物又はシアン化物の濃度は、0.001M以上であることが好ましい。一方、キレート化合物又はシアン化物の濃度が高すぎると、パルスレーザーを照射した箇所に付着した触媒も除去されるおそれがある。かかる観点から、キレート化合物又はシアン化物の濃度は、3M以下であることが好ましい。
【0034】
前記触媒を除去する化合物を含有する液に用いられる溶媒は特に限定されず通常、水やアルコールである。ガラス基材を浸す際の温度は特に限定されず通常、5〜90℃である。ガラス基材を浸す時間も特に限定されず通常、1秒〜30分である。触媒を除去する化合物を含有する液をガラス基材に塗布する方法としては、ガラス基材に当該液をスプレー法により塗布する方法が挙げられる。
【0035】
第4工程において、第3工程の後に無電解めっきを行い、前記パルスレーザーを照射した領域にのみ選択的にめっき皮膜を形成する。このとき、前記めっき皮膜が、ニッケル、銅、銀、金、パラジウム、白金、ロジウム、ルテニウム、スズ、鉄、コバルト及びこれらの合金からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。ここで、上記合金は、これらの少なくとも1種の金属元素を50質量%以上含有する合金のことをいう。
【0036】
第4工程で用いられる無電解めっきとしては、無電解ニッケルめっき、無電解銅めっき、無電解銀めっき、無電解金めっき、無電解パラジウム、無電解白金めっき、無電解ロジウムめっき、無電解ルテニウムめっき、無電解スズめっき、無電解鉄めっき、無電解コバルトめっき又はこれらの無電解合金めっきが挙げられる。ここで、上記無電解合金めっきは、これらの少なくとも1種の金属元素を50質量%以上含有する無電解めっきのことをいう。無電解めっきの種類を変えてこの工程を複数回行ってもよい。
【0037】
以上説明したように、本発明の製造方法によれば、特殊なガラス基材を用いることなくガラス基材の表面に所望のめっき皮膜パターンを正確に形成することができる。後述する実施例でも実証されているように、パルスレーザーによりパターンを形成してその後に無電解めっき処理をすると、レーザーを照射した領域にめっき皮膜を形成することができた。しかしながら、第3工程を行わなかった場合、レーザーを照射した領域だけでなく、レーザーを照射しなかった領域にもめっき皮膜が形成された(比較例1)。本発明の製造方法を用いれば、レーザーが照射されていない箇所に付着した触媒を選択的に失活させるか又は選択的に除去することができるので、レーザーを照射した領域にのみ選択的にめっき皮膜を形成することができる。
【0038】
また、本発明の製造方法で形成されためっき皮膜は優れた密着性を有する。近年、製品の軽量化や高性能化にともなって、めっき品に要求される性能も厳しくなっていて、皮膜パターンがより微細なめっき品が求められている。しかしながら、パターンのピッチが微細になるとめっき皮膜のより高度な密着性が要求されるようになる。したがって、微細な皮膜パターンを有するめっき品を得る場合、本発明の製造方法を用いることのメリットは大きい。
【0039】
本発明の製造方法における第4工程の後に、さらに他の工程を備えてもよい。当該他の工程としては、電解めっき工程や各種表面処理工程が挙げられる。電解めっきとしては、電解ニッケルめっき、電解銅めっき、電解銀めっき、電解金めっき、電解パラジウムめっき、電解スズめっき、電解鉄めっき、電解ビスマスめっき、電解白金めっき、電解ロジウム、電解ルテニウム、電解亜鉛めっき又はこれらの電解合金めっきが挙げられる。ここで、上記無電解合金めっきは、これらの少なくとも1種の金属元素を50質量%以上含有する電解めっきのことをいう。各種表面処理工程としては、コールドスプレー法により金属を吹き付ける工程や金属ペーストを塗布する工程が挙げられる。このとき用いられる金属は、銅、スズ、金、銀、ニッケル、鉄、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、インジウム、亜鉛、アルミニウム、タングステン、クロム、マグネシウム、チタン、シリコン又はこれらの合金などである。これらの他の工程は複数回行ってもよく、工程は同じであっても異なっていてもかまわない。また第4工程の後に、熱処理によりガラス基材の機械的強度を向上させることもできる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
実施例1
[レーザー照射]
(ガラス基材)
ガラス基材として縦76mm×横26mm×厚さ1.1mmのソーダライムガラス(「松波スライドグラス S7213」)を準備した。
【0042】
(加工方法)
コヒレント・ジャパン株式会社製のパルス発振全固体レーザー「Talisker HE」を用いた。
波長:355nm
平均出力:2W
加工点での平均出力:0.8W
パルス幅:20ピコ秒
周波数:50kHz
【0043】
そして、
図1に示す方法により、ガラス基材にパルスレーザーを照射した。具体的には、ガラス基材の表面に20mm×10mmの照射エリアを設定した。この照射エリアにおいて、Stで示されているポイントからx方向に走査速度100mm/秒で照射エリアの右端までパルスレーザーを照射した。そして、パルスレーザーをy方向に15μm移動させて、−x方向に走査速度100mm/秒で照射エリアの左端までパルスレーザーを照射した。これを繰り返すことにより、上記照射エリア全体にパルスレーザーを照射した。
【0044】
パルスレーザー照射後、ガラス基材の表面を観察したところ、
図1に示されるように、スポット(凹部)が連なったように加工されていることがわかった。1つのスポット径を測定したところ、スポット径は約15μmであった。
【0045】
[無電解めっき]
(前処理)
レーザー加工されたガラス基材を、50℃に保温した水酸化カリウム水溶液(濃度:50g/L)に5分間浸した。その後、ガラス基材をイオン交換水で洗浄した。次いで、ガラス基材を、50℃に保温したコンディショニング液(濃度:50mL/L、上村工業株式会社製「スルカップ THRU−CUP MTE−1−A」)に5分間浸した。その後、ガラス基材をイオン交換水で洗浄した。
【0046】
(無電解めっき触媒付着処理)
前処理されたガラス基材を、室温のパラジウム触媒液(濃度:50mL/L、上村工業株式会社製「アクチベーター A−10X」)に1分間浸した。その後、ガラス基材をイオン交換水で3回洗浄した。
【0047】
(活性化処理)
パラジウム触媒を付着させたガラス基材を、50℃に保温した次亜リン酸ナトリウム水溶液(濃度:0.27M)に30秒間浸漬し、パラジウム触媒を活性化させた。その後、ガラス基材をイオン交換水で洗浄した。
【0048】
(触媒失活処理)
活性化処理されたガラス基材を、50℃に保温したチオ尿素水溶液(濃度:0.1ppm)に1分間浸して、パルスレーザーが照射されていない箇所に付着したパラジウム触媒を選択的に失活させた。その後、ガラス基材をイオン交換水で3回洗浄した。
【0049】
(無電解Niめっき処理)
ガラス基材を、75℃に保温したpH4.4の無電解Niめっき液に35分間浸漬して、無電解Niめっき処理をして、ガラス基材の表面に膜厚5μmの無電解Niめっき層を形成した。その後、基材をイオン交換水で3回洗浄した。無電解Niめっき液の組成は下記の通りである。
・日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社(EEJA)製「ELN240 M2」:150mL/L
・日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社(EEJA)製「ELN240 M1」:50mL/L
・日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社(EEJA)製「ELN240 R3」:6mL/L
【0050】
(置換Auめっき処理)
Niめっき層が形成されたガラス基材を、55℃に保温した金めっき液(EEJA製「PRECIOUSFAB IGS8000SPF」)に10分間浸漬して、Niめっき層の上に、厚さ0.05μmの置換Auめっき層を形成してめっき品を得た。
【0051】
[評価]
(表面観察)
得られためっき品の表面をマイクロスコープで観察した。得られた画像を
図2に示す。
図2の1はガラス基材であり、2は置換金めっき皮膜である。
図2に示されるように、「触媒失活処理」を行うことにより、パルスレーザーを照射した領域にのみ選択的にめっき皮膜が形成された。
【0052】
(密着性試験)
密着性試験はJIS H8504に記載されているはんだ付け試験方法に従い行った。このときのL形金具は板厚0.5mmの無酸素銅板であった。そして、はんだ付け部の面積が5mm×5mになるように、指定された形状にプレス成型した後、下地として膜厚3μmのニッケルめっきを施し、膜厚0.05μm金めっきを施した。一方、めっき品の表面にはんだを塗布(φ8mm×t0.2mm)した後、300℃で1分間加熱した。そして、L形金具とめっき品とをはんだ付けをして試験片を得た。得られた試験片をインストロン社製引張試験機「3382床置き型試験システム」に取り付けて、密着性試験を行った。はんだは、Tarutin Kester社製の鉛フリーはんだペースト「TSC-254-5042SF 12-1」を用いた。
図3に引張試験後の画像を示す。
図3に示すように、めっき皮膜はガラスとともに剥がれた。
【0053】
実施例2
「無電解めっき触媒付着処理」において、パラジウム触媒液に浸漬させる時間を2分に変更し、「触媒失活処理」の代わりに「触媒除去処理」を行った。「触媒除去処理」では、室温のグリシン水溶液(濃度:0.05M)に活性化処理されたガラス基材を30秒間浸漬させた以外は実施例1と同様にしてめっき品を得て、その表面をマイクロスコープで観察した。得られた画像を
図4に示す。
図4の1はガラス基材であり、2は置換Auめっき皮膜である。
図4に示されるように、「触媒除去処理」を行うことにより、パルスレーザーを照射した領域にのみ選択的にめっき皮膜が形成された。そして、実施例1と同様にして密着性試験を行った。その結果、めっき皮膜はガラスとともに剥がれた。
【0054】
実施例3
ガラス基材を、76mm×26mm×1.1mmのホウケイ酸ガラス(「松波スライドグラス S1127」)に変えた以外は実施例1と同様にしてめっき品を得た。そして、実施例1と同様にして密着性試験を行った。その結果、めっき皮膜はガラスとともに剥がれた。
【0055】
実施例4
ガラス基材を縦70mm×横30mm×厚さ0.55mmの強化ガラス(AGC旭硝子製「Dragontrail(ドラゴントレイル)」)に変え、パルスレーザーの照射において、加工点での平均出力を1.1W、y方向への移動距離を6μm、走査速度を300mm/秒に変えた以外は実施例1と同様にガラス基材にパルスレーザーを照射した。「Dragontrail」は化学強化されたガラスであり、ガラス表面のNa
+をK
+に交換したものである。
【0056】
株式会社キーエンス製のカラー3Dレーザー顕微鏡「VK−9700」(観察倍率50倍)を用いて、JIS B 0601(2001)に準拠した方法により、パルスレーザーが照射された箇所の算術平均粗さ(Ra)を測定した。その結果、Raは0.41μmであった。
【0057】
表面粗さを測定した後、実施例2と同様にしてガラス基材の表面にめっき皮膜を形成させた。その結果、パルスレーザーを照射した領域にのみ選択的にめっき皮膜が形成された。そして、実施例1と同様にして密着性試験を行ったところ、めっき皮膜はガラスとともに剥がれた。
【0058】
実施例5
パルスレーザーの照射において、加工点での平均出力を1.1W、y方向への移動距離を10μm、走査速度を50mm/秒に変えた以外は実施例4と同様にしてガラス基材にパルスレーザーを照射した。そして、実施例4と同様にしてパルスレーザーが照射された箇所の算術平均粗さ(Ra)を測定した。その結果、Raは2.81μmであった。
【0059】
表面粗さを測定した後、実施例2と同様にしてガラス基材の表面にめっき皮膜を形成させた。その結果、パルスレーザーを照射した領域にのみ選択的にめっき皮膜が形成された。そして、実施例1と同様にして密着性試験を行ったところ、めっき皮膜はガラスとともに剥がれた。
【0060】
比較例1
「触媒失活処理」及び「置換Auめっき処理」を行わなかった以外は実施例1と同様にしてめっき品を得て、その表面をマイクロスコープで観察した。得られた画像を
図5に示す。
図5の31はパルスレーザーを照射した箇所に形成されたNiめっき皮膜であり、32はガラス基材表面のパルスレーザーを照射していない箇所に形成されたNiめっき皮膜である。
図5に示されるように、「触媒失活処理」又は「触媒除去処理」のいずれかを行わなければガラス基材の全面にめっき皮膜が形成された。また、パルスレーザーを照射していない箇所に形成されたNiめっき皮膜は、セロハンテープで容易に剥がれた。
【0061】
比較例2
パルスレーザーの照射において、加工点での平均出力を1W、y方向への移動距離を10μm、走査速度を300mm/秒に変えた以外は実施例4と同様にしてガラス基材にパルスレーザーを照射した。そして、実施例4と同様にしてレーザーが照射された箇所の算術平均粗さ(Ra)を測定した。その結果、Raは0.03μmであった。
【0062】
表面粗さを測定した後、実施例2と同様にしてガラスの表面にめっき皮膜を形成させた。その結果、パルスレーザーを照射した領域にのみ選択的にめっき皮膜が形成されていたが、そのめっき皮膜はセロハンテープで容易に剥がすことができるものであった。