【文献】
Membrane-bound PQQ-dependent dehydrogenase, glucose/quinate/shikimate family [Mesorhizobium opportunistum WSM2075],GenBank Accession no.AEH90831.1,2011年11月21日,URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/336031180?sat=17&satkey=25306921
【文献】
Quinoprotein glucose dehydrogenase [Rhodobacter sphaeroides ATCC 17025],Genbank Accession no.CP002279.1,2007年11月27日,URL,https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/145557608?sat=18&satkey=1747496
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
補酵素ピロロキノリンキノン型グルコース脱水素酵素及び補酵素ピロロキノリンキノン型グルコン酸脱水素酵素を電極触媒として電極材に固定したグルコース多段階酸化系酵素電極であって、
ここで、前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコース脱水素酵素は、以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなり、
(a)配列番号2、4、5、6、7、又は8に示すアミノ酸配列
(b)配列番号2、4、5、6、7、又は8に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するアミノ酸配列であって、補酵素ピロロキノリンキノンに依存するグルコース脱水素活性を有し、かつ前記電極材との間で直接又は電子メディエーターを介した電子伝達活性を有する、
そして、前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコン酸脱水素酵素は、以下の(e)又は(f)のアミノ酸配列からなる、
(e)配列番号10又は11に示すアミノ酸配列
(f)配列番号10又は11に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するアミノ酸配列であって、補酵素ピロロキノリンキノンに依存するグルコン酸脱水素活性を有し、かつ前記電極材との間で直接又は電子メディエーターを介した電子伝達活性を有する、グルコース多段階酸化系酵素電極。
前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコース脱水素酵素は、配列番号2、4、5、6、7、又は8に示すアミノ酸配列からなる請求項1又は2に記載のグルコース多段階酸化系酵素電極。
前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコン酸脱水素酵素は、ペレディバクター ハロトレランス由来である請求項1〜3の何れか一項に記載のグルコース多段階酸化系酵素電極。
【背景技術】
【0002】
近年、酵素や微生物が持つエネルギー変換システムを利用したバイオ燃料電池の開発が進められている。バイオプロセスを利用するバイオ燃料電池は、緩和な条件かつ高い選択性を有し、燃料として糖やアルコール等の環境中に存在する多様な物質を利用できるという利点を有する。そのため、安全で環境負荷が小さいことから、携帯型機器や体内埋込型機器等の小型電子機器の電源等として更なる発展が期待されている。近年、バイオ燃料電池の性能向上を目指し、安定性向上、電極素材の最適化、電極/酵素間の電子の移動の効率化等の観点から研究開発が進められている。
【0003】
特に、燃料としてグルコースを用いるバイオ燃料電池が着目されている。グルコースは、極めて安定した物質であることから取扱いが容易であり、かつ生物由来であるため環境負荷が小さなクリーンなエネルギー源となり得る。そして、生命を維持する上で最も重要なエネルギー源であり、生体内の温和な条件下で多段階酸化を受けて二酸化炭素と水にまで分解され、最大限のエネルギー変換が行われる。この生体内でのエネルギー変換系は酵素の働きにより進行するが、これを如何にして生体外で模擬できるかがバイオ燃料電池の開発における課題となり、様々な研究がなされてきた。最も研究されているのがグルコースの2電子酸化系である。例えば、グルコースを酸化する際に酸素を電子受容体として利用することができるグルコース酸化酵素は、グルコースに対する選択性が高く、かつ安定性も高いことから、これを利用した電極触媒が多々報告されている。しかしながら、酸素を電子受容体として利用するため、溶存酸素の影響によって出力が低下する等の問題がある。そのため、近年は、酸素以外の化合物を電子受容体として利用するグルコース脱水素酵素を電極触媒として利用したバイオ燃料電池が開発されている。
【0004】
グルコース脱水素酵素は、グルコースを酸化してグルコノラクトンを生成する反応を触媒する酵素であり、種々の起源由来の酵素が知られている。そして、補酵素要求性に基づき複数のグループに分類され、例えば、補酵素ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(Nicotinamide adenine dinucleotide、以下 「NAD」と称する場合がある)型グルコース脱水素酵素、補酵素フラビンアデニンジヌクレオチド(Flavin adenine dinucleotide、以下「FAD」と称する場合がある)型グルコース脱水素酵素、補酵素ピロロキノリンキノン(Pyrroloquinoline quinone、以下「PQQ」と称する場合がある)型グルコース脱水素酵素が存在する。なかでも、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素は触媒活性が高く、溶存酸素の影響も受けないことからバイオ燃料電池の電極触媒として非常に有望であると考えられている。
【0005】
そして、上述したようにバイオ燃料電池開発における課題である生体内での最大限のエネルギー変換系を生体外で模擬し、グルコースから最大限かつ効率よく電気エネルギーを生成するためには、一連の多段階酸化反応に関与する酵素が必要となる。上述のグルコース脱水素酵素の反応産物であるグルコノラクトンは非酵素的にグルコン酸に加水分解される。かかるグルコン酸の脱水素反応を触媒するグルコン酸脱水素酵素についても、種々の起源由来及びグループの酵素が知られている(非特許文献1〜5)。
【0006】
グルコン酸脱水素酵素として、例えば、非特許文献1には、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)由来のグルコン酸脱水素酵素が開示され、その物性が検討されている。そして、この酵素は、補酵素NAD非依存性であること、界面活性剤存在下で3つの構成部分に解離する特徴を有する(分子量66,000及び 50,000はフラビンタンパク質及びシトクロム c1、22,000は機能未知)ことが報告されている。非特許文献2及び3には、補酵素FAD依存性のシュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens) FM-1由来のグルコン酸脱水素酵素が開示されている。そして、非特許文献2は、当該酵素をメディエーター(ベンゾキソン)と組み合わせてカーボン電極材に固定し、当該メディエーターを介したバイオエレクトロカタリシス反応によりグルコン酸を検出するバイオセンサーへの利用に関する。非引用文献3には、当該酵素をカーボン電極材に固定した酵素電極、及び当該酵素電極が直接的なバイオエレクトロカタリシス反応が可能であること開示されている。非特許文献4には、グルコノバクター・フラツリイ(Gluconobacter frateurii)NBRC 3271由来のグルコン酸脱水素酵素が開示されている。かかる酵素を、金電極材に固定し、直接バイオエレクトロカタリシス反応が可能な酵素電極を構築したことが記載されている。非特許文献5には、グルコノバクター・サブオキシダンス(Gluconobacter suboxydans)由来のグリセロール脱水素酵素について開示があり、かかる酵素がグルコン酸脱水素活性を有すること、及び補酵素としてPQQを要求することが記載されている。
【0007】
更に、野生型のグルコン酸脱水素酵素のアミノ酸配列に改変を加えることによって、酵素活性及び耐熱性が向上した改変体についても報告がある(特許文献1)。具体的には、特許文献1には、大腸菌K-12株由来のグルコン酸脱水素酵素のアミノ酸配列を改変することにより、酵素活性が120%以上向上した改変体について開示されている。
【0008】
また、一連のグルコースの多段階酸化反応に関与する酵素の種類及び酵素触媒反応ネットワークを解明するための検討もなされていることが報告されている(特許文献2)。具体的には、特許文献2には、グルコースを二酸化炭素に代謝させる一連の化学反応を触媒する酵素の種類、及び酵素触媒反応ネットワークが開示されている。
【0009】
ここで、バイオ燃料電池の構築において、電極触媒として有望であると考えられている補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素をグルコース酸化の第1段階目として選択して酵素触媒反応ネットワーク構成するためには、第2段階目の酵素は第1段目の補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素との組み合わせにより多段階酸化反応が生じることが要求される。更に、電極触媒として機能するためには、各段階における酵素が触媒活性を発現する際に基質と酵素間で行われる電子授受を電極に導けること、即ち、酵素と電極材との間で電子伝達を伴ったバイオエレクトロカタリス反応が生じることが必要となる。
【0010】
しかしながら、酵素が電極材との間で電子伝達を伴ったバイオエレクトロカタリス反応が生じるか否かは、当該酵素の立体構造や当該酵素と電極材との相性に依存するため予測困難であった。したがって、バイオエレクトロカタリス反応について何らの開示もない非特許文献1のシュードモナス・エルギノーサ由来のグルコン酸脱水素酵素が、カーボン電極材等の電極材との間で、直接又は電子メディエーターを介した電子伝達を伴うグルコン酸脱水素反応が生じるか否かを理解することは困難であった。更に、当該グルコン酸脱水素酵素が補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素との組み合わせにより多段階酸化反応が生じるか否かに関しても不明であった。
【0011】
同様に、非特許文献2〜5、及び特許文献1に記載のグルコース脱水素酵素に関しても、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素との組み合わせにより多段階酸化反応が生じるか否かに関しても不明であった。特に、非特許文献2及び3に記載のシュードモナス・フルオレッセンス由来のグルコン酸脱水素酵素は補酵素としてFADを要求し、特許文献1の酵素は補酵素としてNADを要求することから、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素との組み合わせにより多段階酸化反応が生じる可能性は極めて低いと考えられる。また、非特許文献4のグルコノバクター・フラツリイ由来のグルコン酸脱水素酵素に関しても補酵素要求性が不明であったことから、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素との多段階酸化反応が生ずるか否か理解することはできなかった。
【0012】
また、特許文献2に記載のグルコース多段階反応ネットワークは、補酵素FAD型酵素のネットワークであり、補酵素PQQ型の酵素には何ら関連がなく、かかるネットワークを補酵素PQQ型酵素に適応させることはできなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−154846号
【特許文献2】特開2009−22248号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】K Matsushita, E Shinagawa, O Adachi, M Ameyama, Membrane-bound D-gluconate dehydrogenase from Pseudomonas aeruginosa. Purification and structure of cytochrome-binding form, J Biochem, 1979 , 85, 1173-1181.
【非特許文献2】IKEDA T., MIKI K., FUSHIMI F., SENDA M., Amperometric D-Gluconate Sensor Using D-Gluconate Dehydrogenase and Electron Mediator, Agricultural and Biological Chemistry, 52(6), 1988, 1557-1563
【非特許文献3】IKEDA T., FUSHIMI F., MIKI K., SENDA M., Amperometric Bioelectrocatalysis at Electrodes Modified with D-Gluconate Dehydrogenase, Agricultural and Biological Chemistry, 52(10), 1988, 2655-2658.
【非特許文献4】Tsujimura, S., Abo, T., Matsushita, K., Ano, Y., and Kano, K., Direct Electron Transfer Reaction of D-Gluconate 2-Dehydrogenase Adsorbed on Bare and Thiol-modified Gold Electrodes, Electrochemistry, 76, 2008, 549-551.
【非特許文献5】Kazunobu Matsushita, Yoshikazu Fujii, Yoshitaka, Hirohide Toyama, Masako Shinjoh, Noribumi Tomiyama, Taro Miyazaki, Teruhide Sugisawa, Tatsuo Hoshino, Osao Adachi1, 5-Keto-D-Gluconate Production Is Catalyzed by a Quinoprotein Glycerol Dehydrogenase, Major Polyol Dehydrogenase, in Gluconobacter Species, APPLIED AND ENVIRONMENTAL MICROBIOLOGY, 69, 2003, 1959-1966
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明は上記従来技術の問題点を鑑みてなされたものであり、グルコース等の燃料から最大限かつ効率よく電気エネルギーを生成することができる酵素電極、当該酵素電極の製造方法、及び当該酵素電極を利用したバイオ燃料電池を提供することを発明が解決しようとする課題とするものである。特には、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素からの多段階酸化反応を利用することでグルコース等の燃料から効率よく電気エネルギーを生成することができる酵素電極、当該酵素電極の製造方法、及び当該酵素電極を利用したバイオ燃料電池を提供することを発明が解決しようとする課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
そこで、発明者らは上記課題を達成するべく、鋭意研究を行った結果、特定の補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素と補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素を組み合わせて電極触媒とすることで、電極上でグルコース等の燃料からの多段階酸化反応を生じさせることに成功した。さらに、各段階の触媒反応によって発生する電子を電極に取り出すことにも成功した。これにより、燃料から取り出せる電子数を、単段階の酵素触媒反応から取り出せる電子数と比べて倍増させることを可能にした。かかる知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0017】
即ち、以下の〔1〕〜〔8〕に示す発明を提供する。
〔1〕補酵素ピロロキノリンキノン型グルコース脱水素酵素及び補酵素ピロロキノリンキノン型グルコン酸脱水素酵素を電極触媒として電極材に固定したグルコース多段階酸化系酵素電極であって、
ここで、前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコース脱水素酵素は、以下の(a)
又は(b)のアミノ酸配列からなり、
(a)配列番号2、4、5、6、7、又は8に示すアミノ酸配列
(b)配列番号2、4、5、6、7、又は8に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するアミノ酸配列であって、補酵素ピロロキノリンキノンに依存するグルコース脱水素活性を有し、かつ前記電極材との間で直接又は電子メディエーターを介した電子伝達活性を有
し、
そして、前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコン酸脱水素酵素は、以下の(e)
又は(f)のアミノ酸配列からなり、
(e)配列番号10又は11に示すアミノ酸配列
(f)配列番号10又は11に示すアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換、及び/又は付加を有するアミノ酸配列であって、補酵素ピロロキノリンキノンに依存するグルコン酸脱水素活性を有し、かつ前記電極材との間で直接又は電子メディエーターを介した電子伝達活性を有する
、グルコース多段階酸化系酵素電極。
なお、前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコース脱水素酵素は、
(c)配列番号2、4、5、6、7、又は8に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、補酵素ピロロキノリンキノンに依存するグルコース脱水素活性を有し、かつ前記電極材との間で直接又は電子メディエーターを介した電子伝達活性を有する、アミノ酸配列からなるものであってもよい。
前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコン酸脱水素酵素は、
(g)配列番号10又は11に示すアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、補酵素ピロロキノリンキノンに依存するグルコン酸脱水素活性を有し、かつ前記電極材との間で直接又は電子メディエーターを介した電子伝達活性を有する、アミノ酸配列からなるものであってもよい。
〔2〕前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコース脱水素酵素は、アシネトバクター カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)由来である。
〔3〕前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコース脱水素酵素は、配列番号2、4、5、6、7、又は8に示すアミノ酸配列からなる。
〔4〕前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコン酸脱水素酵素は、ペレディバクター ハロトレランス(Pelagibacterium halotolerans)由来である。
〔5〕前記補酵素ピロロキノリンキノン型
グルコン酸脱水素酵素は、配列番号10又は11に示すアミノ酸配列からなる。
〔6〕前記電極材が、カーボン電極材である。
〔7〕前記電極材に対して、前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコース脱水素酵素及び前記補酵素ピロロキノリンキノン型グルコン酸脱水素
酵素を固定する工程を有する、本発明のグルコース多段階酸化系酵素電極の製造方法。
〔8〕本発明のグルコース多段階酸化系酵素電極をアノード側電極として含むバイオ燃料電池。
【0018】
上記〔1〕〜〔6〕の構成によれば、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素及び補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素による2段階のグルコース酸化系を電極反応に共役させた酵素電極を提供することができる。これにより、グルコース脱水素酵素のみを電極触媒とする従来の酵素電極と比べて、グルコース等の燃料から取り出せる電子数が1分子当たり2電子から4電子と倍増する。これにより、酵素電極の出力を向上させることができ、酵素電極の高性能化を図ることができる。更に、グルコン酸脱水素反応の後段を酸化を担える酵素を含めることにより、電極上でグルコースの多段階酸化系を構築でき、燃料から取り出せる電子数を飛躍的に増加せることも可能となる等、バイオ燃料電池への応用等の実用性の高い技術を提供することができる。
【0019】
特に、上記〔2〕及び〔3〕の構成によれば、ここで固定する補酵素PQQ型グルコ−ス脱水素酵素は、電極材との間で電子伝達を伴うグルコースの脱水素反応を安定的かつ円滑に進行することができる。したがって、補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素と組み合わせて電極材上に固定することにより、安定したグルコース等の燃料の多段階酸化反応が進行する。これにより、安定した出力を確保することができ、更なる酵素電極の高性能化を図ることができる。
【0020】
また、上記〔4〕及び〔5〕の構成によれば、ここで固定する補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素は、電極材との間で電子伝達を伴うグルコン酸の脱水素反応を安定的かつ円滑に進行することができる。したがって、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素と組み合わせて電極材上に固定することにより、安定したグルコース等の燃料の多段階酸化反応が進行する。これにより、安定した出力を確保することができ、更なる酵素電極の高性能化を図ることができる。
【0021】
上記〔6〕の構成によれば、電極材としてカーボン電極材を使用した酵素電極を提供することができる。補酵素PQQ型グルコ−ス脱水素酵素及び補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素は、カーボン電極との間で電子伝達を伴った触媒反応を安定的かつ円滑に進められることから、更なる酵素電極の高性能化を図ることができる。そして、カーボン電極材は、広い電位窓を有し安定した電極性能を発揮し得る。また、多孔性材料でもあることから電極表面積も広く、これを有効に利用することにより高効率の酵素電極を構築できる。
【0022】
上記〔7〕の構成によれば、本発明のグルコース多段階酸化系酵素電極の製造方法を提供することができる。そして、当該方法は、電極材に対して、補酵素ピロロキノリンキノン型グルコース脱水素酵素及び補酵素ピロロキノリンキノン型グルコン酸脱水素酵
素を固定するという簡便な方法である。そして、固定に際して、各酵素の固定比率を容易に変更することができ、酵素の反応速度等を考慮して固定比率を容易に設定することができ、これにより高性能な多段階酸化系酵素電極を簡単かつ容易に製造することができる。また、酵素の種類の増減も容易に行うことができ、グルコン酸脱水素反応の後段の酸化を担う酵素を含ませた多段階酸化系酵素電極を製造する際に利用することができる。
【0023】
上記〔8〕の構成によれば、燃料から取り出せる電子数が増加するため、高容量及び高出力の発電を効率的に行うことができことから、高性能なバイオ燃料電池を提供することができる。また、従来型のバイオ燃料電池の構造を利用しつつ、発電効率の向上を図れることから、バイオ燃料電池の小型化を図れる等、その利用価値は高い。更に、グルコン酸脱水素反応の後段の酸化を担える酵素を含めた多段階酸化系酵素電極を利用することにより、グルコースの更なる多段階酸化系を利用したバイオ燃料電池を構築でき、かかるバイオ燃料電池構築の基礎となる実用性の高い技術を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.グルコース多段階酸化系酵素電極
本発明の一実施の形態は、グルコースの多段階酸化系を利用する酵素電極に関する。本発明の酵素電極は、補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素及び補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素を電極触媒とする。これにより、電極上でグルコース等の燃料からの多段階酸化反応が進行し、各段階の触媒反応によって発生する電子を電極に取り出すことができる。そして、燃料から取り出せる電子数を、単段階の酵素触媒反応単独から取り出せる電子数と比べて倍増させるが可能になる。
【0026】
本発明の酵素電極で利用される酵素は、補酵素PQQ型酵素である。補酵素PQQ型酵素は、その触媒活性の発現にPQQを補酵素として要求する酵素である。そして、これまでに見出されている補酵素PQQ型酵素は、その種類及び分布において非常に限定的であることが知られており、全体でも20種類を超えない。補酵素PQQ型酵素は酵素から電極へ直接電子移動が可能であるとされ、燃料電池の電極触媒として利用した場合には電極構造の簡素化を図れることから有利である。さらに、上記したように、NAD等の他の補酵素依存型の酵素と比較して、反応速度が非常に早く、かつ、溶存酸素の影響を受けにくいという利点をも有している。しかしながら、酵素の種類が限定されており、また、組み換え発現が困難なものもあった。また実際の電極との電子伝達が可能か否かについては、当該酵素の立体構造や当該酵素と電極材との相性に大きく依存するため、その利用は制限されたものであった。
【0027】
本発明の酵素電極で利用される酵素は、具体的には、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素と補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素である。これは、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素が第1段階目の酵素触媒反応を、補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素が第1段階目で生じた反応産物を基質として、第2段階目の酵素触媒反応を行う多段階反応系を構築したものである。
【0028】
ここで、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素は、PQQを補酵素として、グルコース等を基質として、グルコースの脱水素反応を触媒する能力を有する酵素である。詳細には、補酵素PQQの存在下に、典型的にはグルコースに作用してグルコノラクトンを生成する反応を触媒する。
【0029】
補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素は、上記性質を有する限り何れの生物由来のものであってもよい。具体的には、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素としては、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)由来の補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素が好ましい。特には、アシネトバクター・カルコアセティカス(Acinetobacter calcoaceticus)由来のグルコース脱水素酵素(GENBANK ACCESSION No : X15871、Cleton-Jansen,A.M., Goosen,N., Vink,K. and van de Putte,P.他著、「Cloning, characterization and DNA sequencing of the gene encoding the Mr 50,000 quinoprotein glucose dehydrogenase from Acinetobacter calcoaceticus(アシネトバクター・カルコアセティカス由来のMr 50,000のキノプロテイン グルコース脱水素酵素をコードする遺伝子のクローニング、特徴付け、及びDNAシークエンシング)」、JOURNAL Mol. Gen. Genet.、第217巻、第2〜3巻、第430〜436頁、1989年)が好ましく例示される。この酵素は、Acinetobacter細菌のペリプラズム画分に存在しており、酸化により得られた電子を呼吸鎖に渡すことでエネルギー生産に関与している。反応速度が非常に速く、また溶存酸素の影響を受けにくいという特徴があるため酵素電極として利用価値が非常に高い酵素である。そのため自己血糖測定器に広く利用され、またグルコースを燃料とした酵素電池の酵素触媒としての応用が期待されている。
【0030】
上記した通り酵素の由来は特に制限されない。したがって、天然に存在する生物体、特にはアシネトバクター・カルコアセティカスから適当なタンパク質の単離精製技術により精製された天然由来のものであってよく、また遺伝子工学的手法により組み替え体として製造されたものあるいは化学的に合成されたものあってもよい。
【0031】
遺伝子工学的手法により製造する場合には公知の方法を利用することができる。 具体的には、所望の酵素遺伝子の塩基配列を基にして作成したDNAをプローブとして用いるハイブリダイゼーション法により、生物体由来のゲノムDNA、全RNAから逆転写反応によって合成したcDNA等から所望の酵素をコードする核酸分子を調製することができる。多くの酵素のアミノ酸配列及びそれをコードする遺伝子の塩基配列は公知であり、GenBank、EMBL、DDBJ等の遺伝子配列データベースから取得することができる。一例として、上述のアシネトバクター・カルコアセティカス由来のグルコース脱水素酵素(GENBANK ACCESSION No : 15871)の配列情報を配列表の配列番号1(塩基配列)及び配列番号2(アミノ酸配列)に示す。また、ここで提示する配列番号3(塩基配列)及び配列番号4(アミノ酸配列)をも利用することができる。ここで用いられるプローブは、所望の酵素と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。このようなプローブとしては、所望の酵素をコードする核酸分子の塩基配列に基づき、この塩基配列の連続する10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。そして、プローブは必要に応じて適当な標識が付されていてよく、このような標識として放射線同位体、蛍光色素等が例示される。
【0032】
また、所望の酵素遺伝子の塩基配列を基にして作成したプライマーとして用いるPCRによっても同様に、生物体由来のゲノムDNA、cDNAを鋳型として所望の酵素をコードする核酸分子を調製することができる。PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、所望の酵素をコードする核酸配列と相補的な配列を含むオリゴヌクレオチドであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法、既に標的となる核酸が取得されている場合にはその制限酵素断片等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいてプライマーの設計を行う。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。このようなプライマーとしては、所望の増幅領域を挟んで設計され、10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
【0033】
ここで、相補的とは、プローブ又はプライマーと標的核酸分子とが塩基対合則に従って特異的に結合し安定な二重鎖構造を形成できることを意味する。ここで、完全な相補性のみならず、プローブ又はプライマーと標的核酸分子が互いに安定な二重鎖構造を形成し得るのに十分である限り、いくつかの核酸塩基のみが塩基対合則に沿って適合する部分的な相補性であっても許容される。その塩基数は、標的核酸分子を特異的に認識するために十分に長くなければならないが、長すぎると逆に非特異的反応を誘発するので好ましくない。したがって、適当な長さはGC含量等の標的核酸の配列情報、並びに、反応温度、反応液中の塩濃度等のハイブリダイゼーション反応条件など多くの因子に依存して決定される。
【0034】
更に、常法のホスホルアミダイト法等のDNA合成法を利用して、所望の酵素をコードする核酸分子を化学的に合成することができる。
【0035】
そして、得られた核酸分子用いて、当業者に公知の遺伝子組換え技術により所望の酵素を製造することができる。
【0036】
具体的には、所望の酵素をコードする核酸分子を適当な発現ベクター中に挿入し、これを宿主に導入することによって形質転換体を作製する。ここで、利用可能なベクターとしては、外来DNAを組み込め、かつ宿主細胞中で自律的に複製可能なものであれば特に制限はない。したがって、ベクターは、外来遺伝子を挿入できる少なくとも1つの制限酵素部位の配列を含むものである。例えば、プラスミドベクター(pEX系、pUC系、及びpBR系等)、ファージベクター(λgt10、λgt11、及びλZAP等)、コスミドベクター、ウイルスベクター(ワクシニアウイルス、及びバキュロウイルス等)等が包含される。そして、ベクターは、外来遺伝子がその機能を発現できるように組み込まれ、機能発現に必要な他の既知の塩基配列が含まれていてもよい。例えば、プロモータ配列、リーダー配列、シグナル配列、並びにリボソーム結合配列等が挙げられる。プロモータ配列としては、例えば、宿主が大腸菌の場合にはlacプロモータ、trpプロモータ等が好適に例示される。しかしながら、これに限定するものではなく既知のプロモータ配列を利用できる。更に、宿主において表現型選択を付与することが可能なマーキング配列等をも含ませることができる。このようなマーキング配列としては、薬剤耐性、栄養要求性などの遺伝子をコードする配列等が例示される。具体的には、カナマイシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子等が例示される。
【0037】
ベクターへの外来遺伝子の挿入は、例えば、適当な制限酵素で所望の酵素をコードする核酸分子を切断し、適当なベクターの制限酵素部位、又はマルチクローニング部位に挿入して連結する方法などを用いることができるが、これに限定されない。連結に際しては、DNAリガーゼを用いる方法等、既知の方法を利用できる。また、DNA Ligation Kit(タカラバイオ社)等の市販のライゲーションキットを利用することもできる。
【0038】
形質転換体の作製に際して宿主となる細胞としては、外来遺伝子を効率的に発現できる宿主細胞であれば、特に制限はない。原核生物細胞を好適に利用でき、特には大腸菌を利用することができる。その他、枯草菌、バシラス属細菌、シュードモナス属細菌等をも利用できる。大腸菌としては、例えば、E.coli DH5α、E.coli BL21、E.coli JM109等を利用できる。更に、原核生物に限定されず真核生物細胞を利用することが可能である。例えば、サッカロマイセス・セルビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の酵母、Sf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞、COS-7細胞等の動物細胞等を利用することも可能である。形質転換法としては、塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソームフェクション法、マイクロインジェクション法等を既知の方法を利用することができる。
【0039】
続いて、得られた形質転換体を、導入された核酸分子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養し、所望の酵素を製造する。培養は、常法に準じて行うことができ、宿主細胞の栄養生理学的性質を勘案して、培養条件を選択すればよい。使用される培地としては、宿主細胞が資化し得る栄養素を含み、形質転換体におけるタンパク質の発現を効率的に行えるものであれば特に制限はない。したがって、宿主細胞の生育に必要な炭素源、窒素源その他必須の栄養素を含む培地であることが好ましく、天然培地、合成培地の別を問わない。例えば、炭素源として、グルコース、デキストラン、デンプン等が、また、窒素源としては、アンモニウム塩類、硝酸塩類、アミノ酸、ペプトン、カゼイン等が挙げられる。他の栄養素としては、所望により、無機塩類、ビタミン類、抗生物質等とを含ませることができる。宿主細胞が大腸菌の場合には、LB培地、M9培地等が好適利用できる。また、培養形態についても特に制限はないが、大量培養の観点から液体培地が好適に利用できる。
【0040】
所望の組換えベクターを保持する宿主細胞の選別は、例えば、マーキング配列の発現の有無により行なうことができる。例えば、マーキング配列として薬剤耐性遺伝子を利用する場合には、薬剤耐性遺伝子に対応する薬剤含有培地で培養することによって行うことができる。
【0041】
形質転換体の培養物から、所望の酵素を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いることができる。精製は、上記形質転換体の培養物から、所望の酵素の存在する画分に応じて、一般的なタンパク質の単離精製方法に準じた手法を適用すればよい。具体的には、所望の酵素が宿主細胞外に生産される場合には、培養液をそのまま使用するか、遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を除去して培養上清を得る。続いて、培養上清に、公知のタンパク質精製方法を適宜選択することにより、単離精製することができる。例えば、硫酸アンモニウム沈殿、透析、SDS-PAGE電気泳動、ゲル濾過、疎水、陰イオン、陽イオン、アフィニティークロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー等の公知の単離精製技術を単独、又は適宜組み合わせて適用することができる。特にアフィニティークロマトグラフィーを利用する場合、所望の酵素をヒスチジンタグ(His Tag)等のタグペプチドとの融合タンパク質として発現させて、かかるタグペプチドに対する親和性を利用することが好ましい。また、所望の酵素が宿主細胞内で産生される場合には、培養物を遠心分離、濾過等の手段により宿主細胞を回収する。続いて、リゾチーム処理などの酵素的破砕方法、又は超音波処理、凍結融解、浸透圧ショック等の物理的破砕方法等により、宿主細胞を破砕する。破砕後、遠心分離、濾過等の手段により可溶化画分を収集する。得られた可溶化画分を、前述の細胞外に生産できる場合と同様に処理することにより単離精製することができる。
【0042】
また、アミノ酸配列が公知である酵素については、化学的合成技術によっても製造することができる。例えば、所望の酵素のアミノ酸配列の全部、又は一部を、ペプチド合成機を用いて合成し、得られるポリペプチドを適当な条件の下で、再構築することにより調製することもできる。
【0043】
さらに、天然に存在する野生型の補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素の他、野生型の補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列において、特定の位置のアミノ酸が、特定の他のアミノ酸に置換された改変体であってもよい。ただし、改変型の補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素は、野生型と同等若しくは増強したグルコースに対する反応性を有するものであることが好ましい。そして、このグルコース脱水素反応は、電極材との間で、直接又は電子メディエーターを介した電子伝達を伴うことも必要となる。ここで、野生型とは、自然界より分離される標準的な補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列において、意図的若しくは非意図的に変異が生じていないものを意味する。したがって、変異部位を有しない限り、天然由来だけでなく、遺伝子組換え体のように人為的手段により生じたものを含める。
【0044】
ここで、改変とは、改変の基礎となるタンパク質のアミノ酸配列のうち、1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入および付加の少なくとも1つからなる改変が生じていることを意味する。複数とは、好ましくは数個のアミノ酸である。そして、「1又は複数のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び付加の少なくとも1つからなる改変」とは、改変の基礎となるタンパク質をコードする遺伝子に対する公知のDNA組換え技術、点変異導入方法等によって、欠失、置換、挿入又は付加することができる程度の数のアミノ酸が、欠失、置換、挿入又は付加されることを意味し、これらの組み合わせをも含む。例えば、このような改変体は、改変の基としたタンパク質のアミノ酸配列に対して、アミノ酸レベルで70%以上、好ましくは80% 以上、更に好ましくは90%以上の相同性を保持するものとすることができる。
【0045】
このような改変体は自然又は人工の突然変異により生じた突然変異体の中から上記活性を有するタンパク質をスクリーニングすることにより取得できる。或いは、改変の基となる野生型の補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素をコードする核酸分子に対して公知の方法で改変を施すことによっても取得できる。例えば、改変の基となるタンパク質をコードする核酸分子に変異部位を挿入する方法としては、部位特異的突然変異誘発法、PCR法等を利用して変異を導入するPCR突然誘発法、あるいは、トランスポゾン挿入突然変異誘発法などの公知の変異導入技術を利用することができる。また、市販の変異導入用キット(例えば、QuikChange(登録商標) Site-directed Mutagenesis Kit(Stratagene社製))を利用してもよい。
【0046】
具体的には、改変の基礎とするタンパク質をコードする核酸分子を鋳型として、所望の改変(欠失又は置換)を施した配列を含むオリゴヌクレオチドをプライマーとしてPCRを行うことによって取得することが、好ましく例示される。ここで、改変体の調製において、PCRを利用する場合に用いられるプライマーは、改変の基礎とするタンパク質をコードする核酸分子と相補的な配列を含み、かつ所望の変異が挿入できるように設計されたものであり、常法に基づいて調製することができる。例えば、ホスホアミダイト法等に基づく化学合成法等が利用可能である。化学合成法に基づきプライマーを調製する場合には、合成に先立って標的核酸の配列情報に基づいて設計される。プライマーの設計は、所望の領域を増幅するように、例えばプライマー設計支援ソフト等を利用して設計することができる。プライマーは合成後、HPLC等の手段により精製される。また、化学合成を行う場合には市販の自動合成装置を利用することも可能である。このようなプライマーとしては、10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは約20〜50の塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
【0047】
また、目的とする改変体のアミノ酸配列が定めれば、それをコードする適当な塩基配列を決定でき、常法のホスホルアミダイト法等の核酸合成技術を利用して目的とする改変体をコードする核酸分子を化学的に合成することができる。
【0048】
また、このような改変体は自然又は人工の突然変異により生じた突然変異体の中から、理化学的性質をスクリーニングすることにより取得できる。さらには、化学的合成技術によっても製造することができる。例えば、改変体のアミノ酸配列の全部、又は一部を、ペプチド合成機を用いて合成し、得られるポリペプチドを適当な条件の下で、再構築することにより調製することができる
【0049】
当業者は、アミノ酸配列の改変に際して、その酵素活性を保持する改変を容易に予測することができる。具体的には、例えばアミノ酸置換の場合には、タンパク質構造保持の観点から極性、電荷、親水性、若しくは疎水性等の点で置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換することができる。このような置換は保守的置換として当業者には周知である。具体例を挙げると、例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンは、共に非極性アミノ酸に分類されるため、互いに似た性質を有する。また、非荷電性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、グルタミンが挙げられる。また、酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸が挙げられる。また、塩基性アミノ酸としては、リジン、アルギニン、ヒスチジンが挙げられる。これらの各グループ内のアミノ酸置換は、タンパク質の機能が維持されるとして許容される。また、その後の精製、固相への固定等の便宜のため、アミノ酸配列のN、又はC末端にヒスチジンタグ(His-tag)、FLAGタグ(FLAG-tag)等を付加したものも好適に例示される。このようなタグペプチドの導入は常法により行なうことができる。また、酵素活性の消失を引き起こさない範囲内で、C末端側若しくはN末端側のアミノ酸残基を切断した切断型でもよい。更に、グルコシル化等の化学修飾を付加してもよい。
【0050】
そして、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素の改変体としては、本発明者らが見出し特開2012-039949号に記載する高濃度基質条件下での反応性が改善された補酵素PQQ型グルコースデヒドロゲナーゼ改変体等が例示される。かかる改変体の配列情報を配列表の配列番号5、6、7、及び8として開示する。更に、当該改変体の特定のアミノ酸に上記したような改変が生じている改変部位を有するものであっても、上記補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素の性質を有する限り、本発明の酵素電極として利用することができる。
【0051】
補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素は、グルコースの脱水素反応により生じたグルコノラクトンが非酵素的に加水分解され生成するグルコン酸等を基質とし、PQQを補酵素として要求して、グルコン酸の脱水素反応を触媒する能力を有する酵素である。詳細には、補酵素PQQの存在下に、典型的にはグルコン酸に作用して5-ケトグルコン酸を生成する反応を触媒する。
【0052】
補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素は、上記性質を有する限り何れの生物由来のものであってもよい。具体的には、補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素としては、ペレディバクター・ハロトレランス(Pelagibacterium halotolerans)由来の補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素が好ましい。特には、ペレディバクター・ハロトレランス B2由来のグリセロール脱水素酵素(broad-specificity glycerol dehydrogenase, subunit SldA [Pelagibacterium halotolerans B2]:NCBI Reference Sequence: YP_004898488.1(GenBank)、Huo,Y.Y., Cheng,H., Han,X.F., Jiang,X.W., Sun,C., Zhang,X.Q., Zhu,X.F., Liu,Y.F., Li,P.F., Ni,P.X. and Wu,M.著、 Complete Genome Sequence of Pelagibacterium halotolerans B2T、 JOURNAL J. Bacteriol. 194 (1), 197-198 (2012))として知られる酵素が好ましく例示される。かかる酵素は、補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素であることが知られている(YP_004898488.1(GenBank)を参照のこと)。その塩基配列及びアミノ酸配列の一例を、それぞれ配列番号9、10に示す。また、上記配列番号10に示すアミノ酸配列にHis tagを付加したものが例示され、そのアミノ酸配列を配列番号11に示す。そして、
図1に、下記実施例にて実際に構築した酵素発現プラスミドに導入された配列番号9の塩基配列と、グルコン酸脱水素酵素のアミノ酸配列である配列番号11のアミノ酸配列を示す。
【0053】
上記した通り、補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素の由来は特に制限されない。したがって、天然に存在する生物体、特にはペレディバクター・ハロトレランスから適当なタンパク質の単離精製技術により精製された天然由来のものであってよく、また遺伝子工学的手法により組換え体として製造されたものあるいは化学的に合成されたものあってもよい。遺伝子工学的手法については、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素と同様の手法を用いることができる。
【0054】
さらに、天然に存在する野生型の補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素の他、野生型の補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素のアミノ酸配列において、特定の位置のアミノ酸が、特定の他のアミノ酸に置換された改変体であってもよい。ただし、改変型の補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素は、野生型と同等若しくは増強したグルコン酸に対する反応性を有するものであることが好ましい。そして、改変体は、電極材との間で直接又は電子メディエーターを介した電子伝達を伴ったバイオエレクトロカタリシス反応を行えることも必要となる。ここで、野生型とは、自然界より分離される標準的な補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素のアミノ酸配列において、意図的若しくは非意図的に変異が生じていないものを意味する。したがって、変異部位を有しない限り、天然由来だけでなく、遺伝子組換え体のように人為的手段により生じたものを含める。かかる改変体の定義及び作製方法については、上述の補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素と同様である。
【0055】
さらに、酵素としては、更に、ケト-グルコン酸の酸化を触媒する酵素等、一連のグルコース酸化における多段階酸化のグルコン酸の脱水素反応より後段の酸化を触媒する酵素を含めることができる。例えば、5-ケト-D-グルコン酸を酒石酸に酸化する反応を触媒する酵素が挙げられる。
【0056】
電極材としては、導電性基材を用いる。例えば、カーボンクロス、カーボンフェルト、カーボンペーパー、グラファイト、グラッシーカーボン等のカーボン電極材、アルミニウム、銅、金、白金、銀、ニッケル、パラジウム等の金属又は合金、SnO2、In2O3、WO3、TiO2等の導電性酸化物等、従来公知の材質の導電性の物質を使用することができる。特には、広い電位窓を有し安定した電極性能を発揮し得るカーボン電極材が好ましい。また、カーボン電極材は多孔性材料でもあることから電極表面積も広く、これを有効に利用することにより高効率の酵素電極を構築できる。そして、これらの基材を単層又は2種以上の積層構造をもって構成してもよい。さらに大きさ及び形状等は特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜調整することができる。
【0057】
電極材上への酵素の固定は、公知の方法によって行うことができる。例えば、物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定する担体結合法を利用することができる。また、グルタルアルデヒドなどの二価性官能基をもつ架橋試薬で架橋固定する架橋法をも利用できる。更には、アルギン酸、カラギーナン等の多糖類、導電性ポリマー、酸化還元ポリマー、光架橋性ポリマー等の網目構造をもつポリマー、透析膜等の半透性膜内に封入して固定する包括法等をも利用することができる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。また、電極材上に形成した親水性ポリマー樹脂層に、酵素溶液、任意には電子メディエーターや補酵素等の電極触媒として機能を発現するために必要な物質を染み込ませる等の手段により固定するように構成してもよい。
【0058】
そして、酵素の固定に際して、好ましくは、グルコース脱水素酵素及びグルコン酸脱水素酵素等の酵素類を予め混合して固定されるが、何れかの酵素を先に固定した後、順次他の酵素を固定してもよい。好ましくは、酵素は、局在することなく電極材に均一に分散して固定することが好ましい。酵素の固定比率は、均等であっても、任意の比率であってよい。例えば、グルコースの多段階反応において律速段階となる反応を触媒する酵素の固定比率を大きくすることが好ましく、また、後段の反応を触媒する酵素の固定比率を大きくしてもよい。したがって、グルコース脱水素酵素及びグルコン酸脱水素酵素を固定する場合に、グルコン酸脱水素酵素の比率を高くすることが好ましい。
【0059】
酵素は、補酵素PQQを含むホロ酵素の状態で固定することが好ましい。しかしながら、アポ酵素の形態で固定し、PQQを別の層として、又は、使用に際して適当な緩衝液にPQQを溶解させた形態で供給してよい。また、その他の、酵素の触媒活性の発現のために必要な物質、例えばカルシウムイオン等を、別の層として、又は、使用に際して適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。
【0060】
また、必要に応じて、酵素反応と電極間の電子伝達を媒介する電子メディエーターを電極材に固定することができる。電子メディエーターの固定は、酵素と混合して固定してもよいし、酵素の固定の前、若しくは後に固定してもよい。
【0061】
電子メディエーターは、酵素等の生体触媒の反応に応じて酸化又は還元される低分子の酸化還元物質であり、生体触媒とカーボン基材間の電子移動を媒介する。したがって、電子メディエーターは、酵素等の生体触媒と電子を授受することができる共に、カーボンクロスとも電子を授受することができる物質である限り何れも使用することができる。そして、電子メディエーターは、一重結合と二重結合が交互に並んだπ共役系化合物であることが好ましい。例えば、電子メディエーターは、特に限定されるものではないが、例えば、5-メチルフェナジニウムメチルスルファート(フェナジンメトスルファート:PMS)、5-エチルフェナジニウムメチルスルファート(フェナジンエトスルファート:PES)等、のフェナジン系化合物、フェノチアジン系化合物、フェリシアン化カリウム等のフェリシアン化物、フェロセンやジメチルフェロセン、フェロセンカルボン酸等のフェロセン系化合物、ナフトキノン、アントラキノン、ハイロドキノン、ピロロキノリンキノン等のキノン系化合物、シトクロム系化合物、ベンジルビオロゲンやメチルビオロゲン等のビオロゲン系化合物、ジクロロフェノールインドフェノール等のインドフェノール系化合物等が挙げられる。フェナジン系化合物の1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルスルファート(以下、「mPMS」と称する場合がある)が特に好ましく例示できる。
【0062】
例えば、本発明の酵素電極を、グルコースを燃料とするバイオ燃料電池のアノード側電極として利用した場合には、まず、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素によってグルコースが酸化されグルコノラクトンとなる第1段目の酵素触媒反応が起こる。その際に、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素はグルコースから電子を受け取る。続いて、グルコノラクトンが加水分解されて生成されたグルコン酸が補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素によって酸化され5-ケトグルコン酸となる第2段階目の酵素触媒反応が起こる。そして、各段階の反応において酵素によって取り出された各電子が電極材に伝達される。これにより、グルコース1分子から取り出せる電子数を2電子から4電子と倍増させることができる。
【0063】
このように構成することにより、補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素及び補酵素PQQ型グルコン酸脱水素酵素による2段階のグルコース酸化系を電極反応に共役させた酵素電極を提供することができる。これにより、グルコース脱水素酵素のみを電極触媒とする従来の酵素電極と比べて、グルコース等の燃料から取り出せる電子数が1分子当たり2電子から4電子と倍増する。これにより、酵素電極の出力を向上させることができ、酵素電極の高性能化を図ることができる。また、更に、さらに、グルコン酸脱水素反応の後段を酸化を担える酵素を含めることにより、電極上でグルコースの多段階酸化系を構築でき、燃料から取り出せる電子数を飛躍的に増加せることも可能となる等、バイオ燃料電池への応用等の実用性の高い技術を提供することができる。
【0064】
2.グルコース多段階酸化系酵素電極の製造方法
本発明の他の実施の形態は、上述した本発明の酵素電極の製造方法である。
本発明の酵素電極の製造方法は、電極材上にグルコース脱水素酵素とグルコン酸脱水素酵素を固定する工程を有する。
【0065】
グルコース脱水素酵素とグルコン酸脱水素酵素の電極材上への固定は、公知の手段を利用して行うことができる。例えば、物理的吸着、イオン結合,共有結合を介して固定する担体結合法を利用することができる。また、グルタルアルデヒドなどの二価性官能基をもつ架橋試薬で架橋固定する架橋法をも利用できる。更には、アルギン酸、カラギーナン等の多糖類、導電性ポリマー、酸化還元ポリマー、光架橋性ポリマー等の網目構造をもつポリマー、透析膜等の半透性膜内に封入して固定する包括法等をも利用することができる。また、これらを組み合わせて用いてもよい。また、電極材上に形成した親水性ポリマー樹脂層に、酵素溶液、任意には電子メディエーターや補酵素等の電極触媒として機能を発現するために必要な物質を染み込ませる等の手段により固定するように構成してもよい。
【0066】
そして、酵素の固定に際して、好ましくは、グルコース脱水素酵素及びグルコン酸脱水素酵素等の酵素類を予め混合して固定されるが、何れかの酵素を先に固定した後、順次他の酵素を固定してもよい。好ましくは、酵素は、局在することなく電極材に均一に分散して固定することが好ましい。酵素の固定比率は、均等であっても、任意の比率であってよい。例えば、グルコースの多段階反応において律速段階となる反応を触媒する酵素の固定比率を大きくすることが好ましく、後段の反応を触媒する酵素の固定比率を大きくしてもよい。したがって、グルコース脱水素酵素及びグルコン酸脱水素酵素を固定する場合に、グルコン酸脱水素酵素の比率を高くすることが好ましい。
【0067】
酵素は、補酵素PQQを含むホロ酵素の状態で固定することが好ましい。しかしながら、アポ酵素の形態で固定し、PQQを別の層として、又は、使用に際して適当な緩衝液にPQQを溶解させた形態で供給してよい。また、その他の、酵素の触媒活性の発現のために必要な物質、例えばカルシウムイオン等を、別の層として、又は、使用に際して適当な緩衝液に溶解させた形態で供給するように構成してもよい。
【0068】
また、必要に応じて、酵素反応と電極間の電子伝達を媒介する電子メディエーターを電極材に固定することができる。電子メディエーターの固定は、酵素と混合して固定してもよいし、酵素の固定の前、若しくは後に固定してもよい。
【0069】
このように構成することにより、本発明のグルコース多段階酸化系酵素電極の製造方法を提供することができる。そして、当該方法は、電極材に対して、補酵素ピロロキノリンキノン型グルコース脱水素酵素及び補酵素ピロロキノリンキノン型グルコン酸脱水素酵素グルコース脱水素酵素を固定するという簡便な方法である。そして、固定に際して、各酵素の固定比率を容易に変更することができ、酵素の反応速度等を考慮して固定比率を容易に設定することができ、これにより高性能な多段階酸化系酵素電極を簡単かつ容易に製造することができる。また、酵素の種類の増減も容易に行うことができ、グルコン酸脱水素反応の後段の酸化を担う酵素を含ませた多段階酸化系酵素電極を製造する際に利用することができる。
【0070】
3.グルコース多段階酸化系酵素電極を利用したバイオ燃料電池
本発明のバイオ燃料電池は、本発明の酵素電極を含んで構成される。バイオ燃料電池は、酸化反応を行うアノード側電極と還元反応を行うカソード側電極を含み、アノード側電極とカソード側電極は外部回路で接続され、及び必要に応じてアノード側電極とカソード側電極を隔離する電解質層を含んで構成される。そして、本発明の酵素電極は、アノード側電極として備える。そして、燃料をアノード側電極側に供給することにより、グルコース脱水素酵素およびグルコン酸脱水素酵素により燃料を順次酸化することによって生じた電子を電極に取り出すと共に、プロトンを発生する。そして、この電子は、直接、又は酵素反応と電極間の電子伝達を仲介するための電子メディエーターを通してアノード側電極に受け渡たされる。そして、アノード側電極から外部回路を通ってカソード側電極に電子が受け渡されることによって電流が発生する。一方、アノード側電極側で発生したプロトンが電解質層を通って、カソード側電極側に移動し、外部回路を通してアノード側から移動してきた電子と反応し水を生成する。カソード側電極側は、酸素や過酸化水素等の酸化剤を還元して電子を伝達することのできる触媒を固定して構成されることが好ましく、アノード側電極側で発生したプロトンが酸素と反応することによって水を生成するように構成される。また、カソード側電極としては、例えば、ピルビン酸オキシダーゼ、ラッカーゼ等のマルチ銅酵素等の酵素が固定された電極を使用することもできる。
【0071】
燃料は、好ましくはグルコースであるが、グルコース脱水素酵素及びグルコン酸脱水素酵素により多段階酸化される限り、特に制限はない。電極触媒として利用したグルコース脱水素酵素及びグルコン酸脱水素酵素の種類に応じて、適宜選択されるものである。例えば、グリセロール等の有機酸類を燃料とすることができる。燃料は、好ましくは液体として供給され、適当な緩衝液中に溶解させた形態で供給することもできる。また、酵素電極に固定した酵素が補酵素PQQを含まないアポ酵素の形態で固定した場合には、PQQを別の層として、又は、適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。また、その他の、酵素の触媒活性の発現のために必要な物質、例えばカルシウムイオンを、別の層として、又は、適当な緩衝液に溶解させた形態で供給してよい。更に、必要に応じて、電子メディエーターを供給することができる。電子メディエーターの供給形態も特に制限はなく、酵素がその触媒機能の発現し得るように適宜供給される。
【0072】
電解質層としては、電子伝達能を有さず、プロトンの輸送が可能な電解質であれば、何れの物質をも利用することができる。
【0073】
このように構成することにより、燃料から取り出せる電子数が増加するため、高容量及び高出力の発電を効率的に行うことができことから、高性能なバイオ燃料電池を提供することができる。また、従来型のバイオ燃料電池の構造を利用しつつ、発電効率の向上を図れることから、バイオ燃料電池の小型化を図れる等、その利用価値は高い。更に、グルコン酸脱水素反応の後段の酸化を担える酵素を含めた多段階酸化系酵素電極を利用することにより、グルコースの更なる多段階酸化系を利用したバイオ燃料電池を構築でき、かかるバイオ燃料電池構築の基礎となる実用性の高い技術を提供するものである。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により、本願発明をさらに詳細に説明する。しかしながら、本願発明は以下の実施例に限定されるものではなく、様々な実施形態が可能であることは明確に理解されるべきである。
【0075】
実施例1.グルコン酸脱水素酵素の作製
本実施例では、グルコン酸脱水素酵素を取得するため、ペレディバクター・ハロトレランス B2由来のグリセロールデヒドロゲナーゼの塩基配列に基づいて、酵素を組換え生産し、その物性(分子量及び構造)を確認した。
【0076】
ペレディバクター・ハロトレランス B2由来のグリセロールデヒドロゲナーゼ(NCBI Reference Sequence: YP_004898488.1)をコードする塩基配列(配列番号9)をタンパク質発現プラスミドpET22bの制限酵素サイトNde-I/Hind-III間にクローニングし、酵素発現プラスミドを作製した。この発現プラスミドをタンパク質発現大腸菌株(低温タンパク質発現用大腸菌(アジレント・テクノロジー(株)、製品名ArcticExpress (DE3) Competent Cells))に形質転換し、製造業者の標準プロトコルに従ってタンパク質の発現を行い、イソプロピル チオ--βガラクトピラノシド(isopropyl thio-β-galactoside、IPTG) による酵素発現誘導を行って酵素発現菌体を作製した。なお、当初、発現大腸菌株としてBL21(DE3)pLysSを使用して培養温度を15〜37℃で試みたが、タンパク質の発現を確認することができなかった。発現菌体を20 mM Tris-HCl pH7.5に懸濁し、0.4%の界面活性剤(ポリオキシエチレンアクリルエーテル、Polyoxyethylene acyl ether)を加え溶菌し、超音波破砕処理後に遠心分離(42,000×g 30分間)し、菌体の細胞破砕液を得た。
【0077】
次に、ヒスチジンタグ融合タンパク質精製用金属アフィニティー担体(TALON)による精製を行った。具体的には、TALONをオープンカラムに適当量充填し、結合/洗浄緩衝液(50 mM NaH
2PO
4、300 mM NaCl、5 mM イミダゾール、pH 7.4)で洗浄後、細胞破砕液に300 mM NaClを加えカラムにアプライした。結合/洗浄緩衝液で洗浄後、溶出緩衝液(50 mM NaH
2PO
4、300 mM NaCl、150 mM イミダゾール、 pH 7.4)で酵素を溶出した。溶出に用いた塩類(イミダゾールやNaCl)を除去するため、透析緩衝液(50 mM Tris-HCl、150 mM NaCl、10% グリセロール、2 mM DTT, pH8.0)で透析を行った。最後に、精製酵素の確認のために、タンパク質可溶化液を加え、12.5% アクリルアミドゲルで電気泳動後にCBB染色して酵素を可視化した。
【0078】
シュードモナス(Pseudomonas)由来のグルコン酸脱水素酵素についても同様に電気泳動を行った。ここで、使用したシュードモナス由来のグルコン酸脱水素酵素は、上記先行技術文献1に記載のものであり、シグマ社(G7275)から購入した。
【0079】
結果を
図2に示す。
図2は、タンパク質の電気泳動パターンを示し、レーン1は、ペレディバクター由来の精製酵素、レーン2は分子量マーカー、レーン3は、市販のシュードモナス由来のグルコン酸脱水素酵素の結果を示す。かかる結果より、ペレディバクターからの精製酵素が確認され、また、そのアミノ酸配列からの推定をも考慮して、分子量が約89.2 kDa(矢印)であることが確認された。市販のシュードモナス由来の酵素は、分子量が約66 kDa、50 kDa、22 kDa(矢印、上から)の3つのサブユニットからなることが確認された。ペレディバクター由来の精製酵素は、市販のシュードモナス由来の酵素と比較して単純な構造体であることが判明した。なお、ここで、得られた精製酵素のアミノ酸配列を配列番号11として示す。また、上記したとおり、BL21(DE3)pLysSを使用してグルコン酸脱水素酵素の発現を試みたが、タンパク質の発現を確認することができなかった。そして、他のグルコン酸脱水素酵素の発現例もなく、ArcticExpress(DE3) Competent Cellsを用いてグルコン酸脱水素酵素の組換え発現できたことが、本発明の完成に貢献した。
【0080】
実施例2.グルコン酸脱水素活性の確認
実施例1で取得した精製酵素の酵素活性を確認するため、グルコン酸の脱水素活性を測定した。
【0081】
実施例1にて取得した精製酵素を透析緩衝液(25 mM PIPES pH6.5)で透析した後、酵素活性を測定した。酵素活性の測定は、酵素基質(グルコン酸)存在下での2,6-ジクロロフェノール-インドフェノールの還元による退色を確認することにより行った。
【0082】
反応混合液の組成は以下の通りである。280μl の 100 mM 酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)、2μlの1 mg/ml PQQ、3μl の1 M塩化マグネシウム(MgCl
2)、3μlの1 M塩化カルシウム(CaCl
2)、7μlの25 mM DCIP、 20 μlの基質溶液 (0.5 M)、及び1μlの酵素溶液 (2 mg/ml)。
【0083】
上記反応混合液を、反応温度25℃で反応させ、吸光度計を用いて波長600 nmの吸光度変化を測定した。また、市販のシュードモナス由来のグルコン酸脱水素酵素(2 mg/ml)についても、同様に酵素活性を測定した。そして、ネガティブコントロールとして、酵素の保存緩衝液(50 mM PIPES pH6.5)1μlについても波長600 nmの吸光度変化を測定した。
【0084】
結果を
図3に示す。
図3のグラフの縦軸は波長600 nmの1分当たりの吸光度変化を示し、棒グラフ(1)はシュードモナス由来のグルコン酸脱水素酵素、棒グラフ(2)は酵素の保存緩衝液、棒グラフ(3)は精製酵素の結果を示す。測定結果に基づいて酵素の比活性を算出した結果、精製酵素が70ユニット/mg タンパク質、シュードモナス由来のグルコン酸脱水素酵素が50ユニット/mg タンパク質であった。なお、1ユニットはpH 5.5、25℃、1分間で、1μmolの2,6-ジクロロフェノール-インドフェノールが還元される酵素量を示す。かかる結果より、実施例1で取得したペレディバクター由来の精製酵素は、グルコン酸脱水素活性を有することが判明した。
【0085】
実施例3.酵素電極(グルコース脱水素酵素)の作製
本実施例では、酵素電極を作製し、当該酵素電極のバイオエレクトロカタリシス反応により得られる電流電圧曲線を作成した。ここでは、電極触媒としてグルコース酸化の第一段階目を触媒するグルコース脱水素酵素を使用した。
【0086】
酵素電極の作製にあたって、酵素を固定する電極材を、カーボンクロス(日本カーボンGF-20)上に、3%の親水ポリマー樹脂(東洋合成社、水溶性感光性樹脂BIOSURFINE(登録商標) AWP:Azide-unit Pendant Water-soluble Photopolymer)を15μl/cm
2で塗布して作製した。続いて、かかる電極材に、10 mg/mlのアシネトバクター・カルコアセティカス由来の補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素を50μl、及び1.8Mの電子メディエーター(1-メトキシ-5-メチルフェナジニウムメチルスルファート(1-methoxy-5- methyl phenazinium methylsulfate) mPMS)を0.2μlしみ込ませて酵素電極を作製した。なお、グルコース脱水素酵素は、特開2013−045647号の記載に基づいて調製した。詳細には、アシネトバクター・カルコアセティカスNBRC12552株由来のグルコース脱水素酵素遺伝子(GeneID:X15871)をベクターpET-22b(+)のマルチクローニング部位(NdeI/BamHI)に挿入した。酵素発現プラスミドを、大腸菌BL21(DE3)pLysS株に形質転換した大腸菌を培養(37℃)し、IPTG(isopropyl thio-β-galactoside) 添加して培養(27℃)することで、酵素を発現誘導した。具体的には、大腸菌を、吸光度OD
600=0.2になるまで培養し、0.05 mM IPTGを加え20 h培養した。発現菌体を回収し、20 mM Tris-HCl pH7.4に懸濁、0.4% Brij-58を加え、氷中で30分間放置した。次に、菌体を超音波破砕し、遠心分離(42,000 x g)後の上澄み液を分取した。ヒスチジンタグ融合タンパク質精製用金属アフィニティー担体(クロンテック、TALON)による精製は、担体をオープンカラムに適当量充填し、50 mM リン酸ナトリウム、0.3 M NaCl溶液で前洗浄後、発現菌体破砕液に0.3 M NaClを加えた後にカラムにアプライした。50 mM リン酸ナトリウム、5 mMイミダゾール、0.3 M NaCl溶液で洗浄後、50 mM リン酸ナトリウム、150 mMイミダゾール、0.3 M NaCl溶液で酵素を溶出した。溶出に用いた塩類を除去するため、25 mM Tris-HCl pH7.4緩衝液に対して透析した。透析サンプルは4 ℃、15000 rpmで5分間遠心分離し、分取した上清を20 mg/mL以上になるように再度濃縮した。グルコース脱水素酵素のPQQホロ化反応は、50 mgの酵素に対し、0.1 mMのCaCl
2, 0.3 mMのPQQ、25 mMのPIPES (pH6.5)で数時間反応させることによって行った。
【0087】
続いて、作製した酵素電極のバイオエレクトロカタリシス反応による応答電流を、サイクリックボルタンメトリー測定(CV)により測定した。具体的には、参照極(Ag/AgCl参照電極)、対極(φ0.5 mm白金ワイヤー)を、作用極である酵素電極を挟んだ測定用セル(BAS社、プレート電極評価セルキット)に差し込み、作用極を電極に接続して、電気化学測定装置(BAS社、600C)を用いて測定した。このときの測定液としては、1 Mリン酸ナトリウム pH7.0を用いた。測定パラメーターは、初期電位を-0.2 V、高電位を0.7 V、低電位を-0.2 V、電位走査速度を20 mV/秒とした。測定は3サイクルで行った。
【0088】
結果を
図4、5に示す。
図4のグラフは、3サイクルの酵素電極の応答電流値を示し、印加した電位(V)を横軸、応答電流値(mM)を縦軸とする電流電圧曲線である。そして、
図5の棒グラフは、各サイクルにおける酵素電極の応答電流値のピーク電流値(mM)を示す。かかる結果より、酵素電極による酸化還元電流が認められた。かかる酸化還元電流は、測定液にグルコースを添加していないため、電子メディエーターに由来するものである。したがって、測定中にメディエーターの顕著な電極脱離は生じておらず、酵素電極として利用できるものであることが確認された。
【0089】
実施例4.酵素電極(グルコース脱水素酵素)の電極性能の確認
本実施例は、酵素電極の電極性能を確認した。具体的には、グルコース酸化の第一段階目を触媒するグルコース脱水素酵素に関する電極性能を確認した。電極性能の確認は、当該酵素を電極触媒とする酵素電極のバイオエレクトロカタリシス反応により得られる応答電流を測定することにより行った。
【0090】
まず、グルコース脱水素酵素を電極触媒とする酵素電極を作製した。グルコース脱水素酵素としては、実施例3と同様にアシネトバクター・カルコアセティカス由来の補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素を使用した。酵素電極に50μlの緩衝液(25 mM PIPES pH6.5)をしみ込ませたこと以外は実施例3と同様に酵素電極を作製した。かかる緩衝液をしみ込ませることで、下記実施例5のグルコン酸脱水素酵素との併用の場合との比較がより正確なものとなる。そして、測定液として、1 Mリン酸ナトリウム pH7.0に最終濃度0.3Mとなるようにグルコースを添加したものを使用した以外は、実施例3と同様に応答電流の測定を行った。
【0091】
結果を
図6、7に示す。
図6のグラフは、3サイクルの酵素電極の応答電流値を示し、印加した電位(V)を横軸、応答電流値(mM)を縦軸とする電流電圧曲線である。そして、
図7の棒グラフは、各サイクルにおける酵素電極の応答電流値のピーク電流値(mM)を示す。かかる結果から、グルコース脱水素酵素が電極触媒として機能していることが確認できた。ただし、サイクル1ではピーク電流は30 mAであるが、サイクル2では13 mA、サイクル3では8 mAと電流値が低下している。この低下の理由は、電子メディエーターや酵素の電極から脱離に起因するものではなく、グルコースの酸化に伴い測定液中のグルコース濃度が低下したことより、グルコースの電極への拡散速度が低下したことに起因するものと推定できる。
【0092】
実施例5.酵素電極の(グルコース脱水素酵素及びグルコン酸脱水素酵素)の電極性能の確認
本実施例は、実施例4に続き、酵素電極の電極性能を確認した。具体的には、グルコース酸化の第一段階目を触媒するグルコース脱水素酵素及び第2段階目を触媒するグルコン酸脱水素酵素に関して電極性能を確認した。電極性能の確認は、当該酵素を電極触媒とする酵素電極のバイオエレクトロカタリシス反応により得られる応答電流を測定することにより行った。
【0093】
まず、グルコース脱水素酵素を電極触媒とする酵素電極を作製した。グルコース脱水素酵素としては、実施例3と同様にアシネトバクター・カルコアセティカス由来の補酵素PQQ型グルコース脱水素酵素を使用し、グルコン酸脱水素酵素としては、実施例1により取得した精製酵素を使用し、実施例3と同様にホロ化を行った。そして、酵素電極に50μlの精製酵素(10 mg/ml)をもしみ込ませたこと以外は実施例3と同様に酵素電極を作製した。そして、測定液として、1 Mリン酸ナトリウム pH7.0に最終濃度0.3Mとなるようにグルコースを添加したものを使用した以外は、実施例3と同様に応答電流の測定を行った。
【0094】
結果を
図8、9に示す。
図8のグラフは、3サイクルの酵素電極の応答電流値を示し、印加した電位(V)を横軸、応答電流値(mM)を縦軸とする電流電圧曲線である。そして、
図9の棒グラフは、各サイクルにおける酵素電極の応答電流値のピーク電流値(mM)を示す。かかる結果から、グルコース脱水素酵素及びグルコン酸脱水素酵素が電極触媒として機能していることが確認できた。そして、サイクル1ではピーク電流は33 mA、サイクル2では26 mA、サイクル3では21 mAであった。実施例4で得られたグルコース脱水素酵素のみでの電流値に比べて、グルコン酸脱水素酵素を添加することによりサイクル2以降のピーク電流が約2倍に向上していることが確認された。この向上の理由は、下記式で表すグルコース酸化の多段階酸化反応が進行したものと推定される。
【0095】
グルコース ⇒ グルコノラクトン ⇔ グルコン酸 ⇒ 5-ケトグルコン酸
【0096】
つまり、グルコースからグルコノラクトンへの酸化電流に、グルコン酸から5-ケトグルコン酸の酸化電流が加わったためと推定される。理論上、段階毎にグルコース1分子当たり2電子、合計4電子を取り出せることとなり、単段階で取り出される電子数の2倍となる。そして、上記結果もかかる理論に合致するものである。
【0097】
一方、実施例1の市販のシュードモナス由来のグルコンサン脱水素酵素については、グルコース脱水素酵素と組み合わせて、実施例5の記載と同じ方法で電極性能を確認した。その結果、グルコース脱水素酵素を加えた場合も、グルコンサン脱水素酵素のみのサクリリックボルタメトリーの波形と変化なく、グルコン酸の酸化電流は確認できなかった。