【文献】
A. Dadgar, 外10名,Bright, Crack-Free InGaN/GaN Light Emitters on Si(111),PHYSICA STATUS SOLIDI A,2002年,Vol. 192, No. 2,pp. 308-313
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明の各実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
なお、図面は模式的または概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。
なお、本願明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0008】
(第1の実施形態)
図1(a)及び
図1(b)は、第1の実施形態に係る半導体ウェーハを示す模式図である。
図1(a)は、本実施形態の半導体ウェーハ110を示す模式的断面図である。
図1(b)は、半導体ウェーハ110におけるAl組成比(C
Al)を例示するグラフ図である。
【0009】
図1(a)及び
図1(b)に表したように、本実施形態に係る半導体ウェーハ110は、基板10と、AlNバッファ層22と、下地層24と、第1高Ga組成層30と、高Al組成層42と、低Al組成層44と、中間部50と、第2高Ga組成層60と、を含む。
【0010】
ここで、基板10の第1面10aに対して垂直な軸をZ軸とする。Z軸に対して垂直な1つの軸をX軸方向とする。Z軸とX軸とに対して垂直な方向をY軸とする。本願明細書において、「積層」とは、互いに接して重ねられる場合の他に、間に他の層が挿入されて重ねられる場合も含む。また、「上に設けられる」とは、直接接して設けられる場合の他に、間に他の層が挿入されて設けられる場合も含む。また、「面内方向」はXY平面方向である。
【0011】
基板10の熱膨張係数は、窒化物半導体の熱膨張係数よりも小さい。
基板10は、例えば、シリコン(Si)基板、炭化シリコン(SiC)基板、酸化亜鉛(ZnO)基板、ガリウムリン(GaP)基板及びインジウムリン(InP)基板のいずれかである。基板10の熱膨張係数は、窒化物半導体の熱膨張係数と同じか、大きくても良い。基板10は、例えば、サファイア、ガリウム砒素(GaAs)でもよい。
【0012】
基板10には、例えば、Si基板が用いられる。基板10は、例えば、Si(111)基板である。ただし、実施形態において、基板10の面方位は、(111)面でなくても良く、例えば、(11n)(n:整数)で表される面方位や(100)面でも良い。(110)面の基板10を用いると、例えば、シリコン基板と窒化物半導体層との格子不整合が小さくなるため好ましい。
【0013】
また、基板10として、酸化物層を含む基板を用いることができる。例えば、基板10としては、SOI(Silicon On Insulator)基板を用いることができる。
【0014】
以下、窒化物半導体のc軸は、積層方向(Z軸)に実質的に平行である。窒化物半導体のa軸は、Z軸に対して実質的に垂直である。
【0015】
AlNバッファ層22は、基板10の第1面10aの上に設けられる。AlNバッファ層22は、窒化物半導体を結晶成長するための核形成層である。例えば、AlNバッファ層22におけるIII族元素のAl組成比は1である。AlNバッファ層22には、例えば窒化アルミニウム(AlN)が用いられる。
【0016】
AlNとシリコンとの化学反応は生じ難い。基板10に接して、AlNを含むAlNバッファ層22を設けることで、シリコンとガリウムとの反応によって生じるメルトバックエッチングなどが抑制される。
【0017】
AlNバッファ層22の厚さは、例えば20nm(ナノメートル)以上400nm以下が好ましく、例えば約100nmである。
【0018】
下地層24は、AlNバッファ層22の上に設けられる。下地層24は、Al及びGaを含む窒化物半導体を含む。下地層24におけるIII族元素中のAl組成比は、例えば0.1以上0.9以下が好ましい。より好ましくは、0.2以上0.6以下である。Al組成比は、III族元素の原子の個数に占めるAl元素の原子の個数の割合である。下地層24の厚さは、例えば100nm以上500nm以下が好ましく、例えば約250nmである。
【0019】
下地層24のうち基板10側のAl組成比は、下地層24の上側(後述する第1高Ga組成層30側)のAl組成比よりも高くてもよい。例えば、下地層24は複数層を有していても良い。例えば、下地層24は、AlNバッファ層22の上に設けられた第1層と、第1層の上に設けられた第2層と、第2層の上に設けられた第3層と、を有する。この場合、第1層のAl組成比は、第3層のAl組成比よりも高い。
【0020】
下地層24により、メルトバックエッチングの抑制効果が増大する。また、下地層24内に圧縮応力が形成され、結晶成長後の降温過程において窒化物半導体と基板10との間の熱膨張係数の差によって生じる引っ張り応力が低減される。これにより、クラックの発生が抑制される。
【0021】
互いに組成が異なる複数の窒化物半導体層を積層した場合に、上に積層する窒化物半導体層(例えば、下地層24)は、下に形成された窒化物半導体層(例えば、AlNバッファ層22)の第1面10aに平行な第1軸の格子間隔(格子の長さ)に整合するように形成される。このため、窒化物半導体層の実際の第1軸の格子間隔は、無歪みの第1軸の格子間隔(格子定数)とは異なる。
【0022】
以下において、窒化物半導体の無歪みの第1軸の格子間隔を「格子定数」とする。形成した窒化物半導体層の実際の第1軸の格子の長さを「格子間隔」とする。格子定数は、例えば、物性定数である。「格子間隔」は、例えば、形成された窒化物半導体素子に含まれる窒化物半導体層における実際の格子の長さのことである。格子間隔は、例えば、X線回折測定から求められる。
【0023】
第1高Ga組成層30は、下地層24の上に設けられる。第1高Ga組成層30は、窒化物半導体を含む。第1高Ga組成層30におけるIII族元素中のAl組成比は例えば0.01以下である。第1高Ga組成層30には、例えば窒化ガリウム(GaN)が用いられる。
【0024】
第1高Ga組成層30の厚さは、例えば100ナノメートル以上5マイクロメートル以下である。
【0025】
高Al組成層42は、第1高Ga組成層30の上に設けられる。高Al組成層42は、窒化物半導体を含む。高Al組成層42のGa組成比は、第1高Ga組成層30のGa組成比よりも低い。例えば、高Al組成層42におけるIII族元素中のGa組成比は0.01以下である。高Al組成層42には、Al
x1Ga
1−x1N(0<x1≦1)が用いられる。例えば高Al組成層42にはAlNが用いられる。
【0026】
高Al組成層42の厚さは、2nm以上50nm以下である。
【0027】
低Al組成層44は、高Al組成層42の上に設けられる。低Al組成層44は、窒化物半導体を含む。低Al組成層44のGa組成比は、第1高Ga組成層のGa組成比よりも低い。低Al組成層44のAl組成比は、高Al組成層42のAl組成比よりも低い。なお、低Al組成層44はInを含んでいても良い。
【0028】
低Al組成層44には、Al
y1Ga
1−y1N(0<y1<1、y1<x1)が用いられる。低Al組成層44におけるIII族元素中のAl組成比は、0.2以上0.9以下である。また、低Al組成層44の厚さは、10nm以上50nm以下である。
【0029】
高Al組成層42及び低Al組成層44には、アクセプタ又はドナーなどの不純物がドーピングされていない。高Al組成層42及び低Al組成層44における不純物濃度は、1×10
18cm
−3以下である。これにより、低Al組成層44の歪みが不純物によって影響されない。
【0030】
次に、中間部50について説明する。
図2は、第1の実施形態に係る半導体ウェーハを示す図である。
図2は、半導体ウェーハ110の断面SEM(Scanning Electron Microscopy)像を示している。
【0031】
図2に表したように、中間部50は、低Al組成層44の上に設けられる。中間部50におけるSi、Mg及びBのいずれか
の濃度は、高Al組成層42
における濃度及び低Al組成層44
における濃度よりも高い。中間部50は、SiN、MgN及びBNのいずれかを含む。中間部50がこれらの材料によって形成されるとき、窒化物半導体は中間部50の上には直接エピタキシャル成長しない。
【0032】
中間部50の厚さは、例えば高Al組成層42の厚さよりも薄い。断面SEM像においては、中間部50は高Al組成層42及び低Al組成層44よりも薄い層として観察される。
【0033】
中間部50の厚さは、例えば0.2原子層以上3nm以下に相当する。中間部50は、実質的に第1高Ga組成層30の上を部分的に覆っている。中間部50の厚さは厳密には測定できないが、中間部50の厚さは中間部50の形成条件と形成時間によって調整される。中間部50の厚さは、例えばSIMS測定のSi濃度プロファイルから見積もることができる。中間部50の厚さが0.2原子層以上3nm以下であるとき、第2高Ga組成層60が下層の結晶性に基づいてエピタキシャル成長する。また、後述する第2高Ga組成層60の転位密度が低下する。
【0034】
図3(a)、
図3(b)及び
図3(c)は、第1の実施形態に係る半導体ウェーハを示す図である。
図3(a)は、後述する第2高Ga組成層60の成長段階における断面SEM像である。
図3(b)は、後述する第2高Ga組成層60の成長段階における斜視SEM像である。
図3(c)は、第2高Ga組成層60の成長段階における模式的断面図である。図中の矢印は、第2高Ga組成層60の成長方向を示している。
【0035】
図3(a)及び
図3(b)に表したように、後述する第2高Ga組成層60は、中間部50の上に島状に成長する。第2高Ga組成層60は、島状部60aが大きくなることにより成長する。
【0036】
図3(a)及び
図3(b)から、中間部50は例えば以下のように設けられる。
図3(c)に表したように、中間部50は、例えば不連続に設けられる。中間部50は、高Al組成層42が露出した複数の開口部50aを有する。中間部50は、例えば島状に設けられる。
【0037】
第2高Ga組成層60は、中間部50の開口部50aを介して、島状に成長すると考えられる。これにより、第2高Ga組成層60がGaNの格子間隔よりも小さい格子間隔を有する低Al組成層44の上に成長するにもかかわらず、成長中に第2高Ga組成層60に印加される圧縮歪みは小さくなる。この結果、成長後に第2高Ga組成層60は引っ張り歪み、または小さい圧縮歪みを有する。
【0038】
次に、第2高Ga組成層60について説明する。
第2高Ga組成層60は、中間部50の上に設けられる。第2Ga組成層60は、窒化物半導体を含む。第2高Ga組成層60のGa組成比は、低Al組成層44のGa組成比よりも高い。第2高Ga組成層60におけるIII族元素中のAl組成比は例えば0.01以下である。第2高Ga組成層60には、例えば窒化ガリウム(GaN)が用いられる。
【0039】
第2高Ga組成層60の厚さは、例えば100ナノメートル以上5マイクロメートル以下である。
【0040】
第2高Ga組成層60の引っ張り歪みは、第1高Ga組成層30の引っ張り歪みよりも大きい。または、第2高Ga組成層60の圧縮歪みは、第1高Ga組成層30の圧縮歪みよりも小さい。または、第2高Ga組成層60は引っ張り歪みを有し、第1高Ga組成層30は圧縮歪みを有する。これにより、第2高Ga組成層60における転位密度が低下する。
【0041】
本実施形態では、半導体ウェーハ110が上記構成を有することにより、第2高Ga組成層60における転位密度は、2×10
9/cm
2以下である。転位密度の例については後述する。
【0042】
次に、半導体ウェーハ110における結晶歪みについて説明する。
【0043】
半導体ウェーハ110における結晶歪みは、例えば以下のようにラマン分光分析によって判定される。
図4は、半導体ウェーハの特性を例示するグラフ図である。
図4は、半導体ウェーハ110のラマン分光結果を例示している。同図においては、GaNに対応するラマンスペクトルが表されている。
図4の横軸は、ラマンシフトRS(波数、cm
−1)である。
図4の縦軸は、ラマン散乱の強度Ir(任意単位)である。
【0044】
図4に表したように、応力が印加されていない(無歪みの)ときのGaNにおいて、ラマンシフトRSのピーク波数PKは、568cm
−1である。例えば、半導体ウェーハ110の第1高Ga組成層30において、ラマンシフトRSのピーク波数PKは、567.6cm
−1である。第1高Ga組成層30におけるラマンシフトRSのピーク波数は、応力が印加されていないときのGaNのラマンシフトRSのピーク波数PKよりもわずかに低波数側にシフトしている。第1高Ga組成層30は、面内方向におけるわずかな引っ張り歪みを有する。
【0045】
例えば、半導体ウェーハ110の第2高Ga組成層60において、強度IrがピークとなるラマンシフトRSは、565.9cm
−1である。第2高Ga組成層60におけるラマンシフトRSのピーク波数は、応力が印加されていないときのGaNのラマンシフトRSのピーク波数PKよりも明らかに低波数側にシフトしている。第2高Ga組成層60は、面内方向における引っ張り歪みを有する。第2高Ga組成層60のラマンピークの低波数側へのシフト量は、第1高Ga組成層30のシフト量よりも大きい。上述のように、第2高Ga組成層60の引っ張り歪みは、第1高Ga組成層30の引っ張り歪みよりも大きい。
【0046】
また、半導体ウェーハ110における結晶歪みは、例えば以下のようにX線回折測定によっても判定される。
図5は、半導体ウェーハの特性を例示するグラフ図である。
図5は、X線回折測定によって測定した(11−24)面の逆格子マッピング像の一例である。
図5の横軸は、積層方向に対して垂直な方向の(11−20)面の格子間隔の逆数Qxである。Qxは、a軸の格子間隔の逆数に比例する値である。
図5の縦軸は、積層方向に対して平行な方向の(0004)面の格子間隔の逆数Qzである。Qzは、c軸の格子間隔の逆数に比例する値である。
測定値の精度を高めるために、例えば、GaN層の歪みをラマン分光から求めて、測定されるピーク位置を補正してもよい。例えば、成長中のウェーハの反り変化からAlNバッファ層の歪みを算出し、測定されるピーク位置の補正をしてもよい。
【0047】
図5に表したように、無歪みのGaNの(11−24)面の回折ピークPgと、無歪みのAlNの(11−24)面の回折ピークPaと、が示されている。これらの点を結んだ点線Lagは、ベガード則に従う場合において、無歪みのAlGaNにおけるAl組成比に対応した格子間隔の逆数の特性を表す。
【0048】
ここで、結晶のピークがこの点線Lagよりも下に表れている場合、その結晶は、圧縮歪みを有する。一方、結晶のピークがこの点線よりも上に表れている場合、その結晶は、引っ張り歪みを有する。
【0049】
図5には、AlNバッファ層22の回折ピークP22と、第1高Ga層30の(11−24)面の回折ピークP30と、高Al組成層42の(11−24)面の回折ピークP42と、低Al組成層44の(11−24)面の回折ピークP44と、第2高Ga層60の(11−24)面の回折ピークP60と、が例示されている。
【0050】
例えば、回折ピークP30は、回折ピークPgとほぼ同じ位置に表れている。したがって、第1高Ga層30は層全体の平均としてほぼ無歪みである。この場合、結晶成長後の降温過程において第1高Ga層30と基板10との間の熱膨張係数の差によって生じる引っ張り応力が抑制される。これにより、クラックの発生が抑制される。
【0051】
例えば、回折ピークP60は、点線Lagよりも上側に表れている。したがって、第2高Ga層60は、引っ張り歪みを有する。また、回折ピークP60のQxは、回折ピークP30のQxよりも低い。したがって、第2高Ga組成層60の引っ張り歪みは、第1高Ga組成層30の引っ張り歪みよりも大きい。
【0052】
また、例えば、回折ピークP42は、点線Lagよりも上側に表れている。したがって、高Al組成層42は圧縮歪みを有する。
【0053】
図5において、例えば、回折ピークPaと回折ピークP42とのQxの差は、回折ピークPgと回折ピークP60とのQxの差よりも大きい。高Al組成層42の引っ張り歪みは、第1高Ga組成層30の引っ張り歪み及び第2高Ga組成層60の引っ張り歪みよりも大きい。
【0054】
例えば、回折ピークP44は、点線Lagより上に位置する。低Al組成層44の引っ張り歪みは、高Al組成層42の引っ張り歪みよりも小さい。回折ピークP42と回折ピークP44のQxは近い値になっている。すなわち、高Al組成層42と低Al組成層44の、(11−20)面の格子間隔の大きさは近い。例えば、低Al組成層44は無歪みである。
【0055】
図6は、半導体ウェーハの特性を例示するグラフ図である。
図6では、低Al組成層のAl組成が、概ね0.4〜0.6のウェーハについて示している。
図6の横軸は、高Al組成層42の格子間隔と、前記高Al組成層42と同一組成の窒化物半導体の無歪みの格子間隔との差の、前記無歪みの格子間隔に対する比率S(以下、引っ張り歪みS)(%)である。
図6の縦軸は、刃状転位の密度Dm(以下、転位密度Dm)(cm
−2)である。この転位密度Dmは、X線回折ロッキングカーブ測定によって得られたX線回折スペクトルの半値幅から算出される。
【0056】
図6に表したように、転位密度Dmは、引っ張り歪みの比率Sに対して下に凸である。この結果から、高Al組成層42の引っ張り歪みに対する、高Al組成層42の引っ張り歪みと、第2高Ga組成層60の引っ張り歪みと、の差の比率Sは、0.6%以上1.4%以下であることが好ましい。比率Sが上記範囲であることにより、転位密度Dmが低下する。これに対し、第1高Ga組成層30及び第2高Ga組成層の引張歪みは最大でも0.3%程度である。第1高Ga組成層30及び第2高Ga組成層の引張歪みが0.3%以上になると、クラックの密度が増大し、実用に適さない。このように、高Al組成層42の引っ張り歪みは、第1高Ga組成層30の引っ張り歪み及び第2高Ga組成層60の引っ張り歪みよりも大きい。
【0057】
図7は、半導体ウェーハの特性を例示するグラフ図である。
図7では、高Al組成層の引っ張り歪みの比率Sが、概ね0.9〜1.2%のウェーハについて示している。
図7の横軸は、低Al組成層44(Al
y1Ga
1−y1N)のAl組成y1である。
図7の縦軸は、転位密度Dm(cm
−2)である。この転位密度Dmは、X線回折ロッキングカーブ測定によって得られたX線回折スペクトルの半値幅から算出される。
図7に表したように、転位密度Dmは、低Al組成層44のAl組成y1に対して下に凸である。この結果から、低Al組成層44のAl組成は、0.2以上0.8以下が好ましく、0.2以上0.7以下がさらに好ましい。低Al組成層44のAl組成が上記範囲であることにより、転位密度Dmが低下する。
【0058】
次に、参考例と対比しながら、第1の実施形態に係る半導体ウェーハ110の特性について説明する。
図8(a)、
図8(b)及び
図8(c)は、参考例に係る半導体ウェーハを示す図である。
図8(a)は、第1参考例の半導体ウェーハ191を示す図である。
図8(b)は、第2参考例の半導体ウェーハ192を示す図である。
図8(c)は、第3参考例の半導体ウェーハ193を示す図である。
【0059】
図8(a)に表したように、第1参考例の半導体ウェーハ191は、中間部50、高Al組成層42及び低Al組成層44を含まない点で、半導体ウェーハ110とは異なる。第1参考例において、第2高Ga組成層60は、第1高Ga組成層30と接する。
【0060】
図8(b)に表したように、第2参考例の半導体ウェーハ192は、高Al組成層42及び低Al組成層44を含まない点で、半導体ウェーハ110とは異なる。第2参考例において、中間部50は、第1高Ga組成層30に接する。
【0061】
図8(c)に表したように、第3参考例の半導体ウェーハ193は、低Al組成層44を含まない点で、半導体ウェーハ110とは異なる。第3参考例において、中間部50は、高Al組成層42に接する。
【0062】
ここで、以下の条件で作製した半導体ウェーハ110、及び、第1〜第3参考例の半導体ウェーハ191〜193において、刃状転位の密度を比較する。
【0063】
半導体ウェーハ110の作製条件は、以下である。
基板10として、(111)面のSi基板が用いられる。
AlNバッファ層22には、AlNが用いられる。AlNバッファ層22の厚さは120nmである。
下地層24は、Al
0.5Ga
0.5Nの第1層と、Al
0.3Ga
0.7Nの第2層と、Al
0.15Ga
0.85Nの第3層と、を有する。下地層24の全体の厚さは、550nmである。
第1高Ga組成層30には、GaNが用いられる。第1高Ga組成層30の厚さは、400nmである。
高Al組成層42には、AlNが用いられる。高Al組成層42の厚さは12nmである。
低Al組成層44には、Al
0.5Ga
0.5Nが用いられる。低Al組成層44の厚さは25nmである。
中間部50は、Siを含む層である。中間部50は、SiNを含んでも良い。中間部50の厚さは、例えば0.2原子層相当〜3nmである。
第2高Ga組成層60には、GaNが用いられる。第2高Ga組成層60の厚さは、2マイクロメートル(μm)である。
【0064】
第1〜第3参考例の半導体ウェーハ191〜193のそれぞれの構成は、上記の相違点を除いて、半導体ウェーハ110の構成と同様である。
【0065】
以上の条件で作製した半導体ウェーハ110、及び、第1〜第3参考例の半導体ウェーハ191〜193のそれぞれにおいて、X線回折ロッキングカーブ測定によって得られるX線回折スペクトルの半値幅から算出された刃状転位の密度は以下の通りである。
第1参考例の半導体ウェーハ191における刃状転位の密度は、7.5×10
9cm
−2である。
第2参考例の半導体ウェーハ192における刃状転位の密度は、1.5×10
9cm
−2である。
第3参考例の半導体ウェーハ193における刃状転位の密度は、1.5×10
9cm
−2である。
これに対して、半導体ウェーハ110の刃状転位の密度は、4.7×10
8cm
−2である。このように、本実施形態の半導体ウェーハ110では、刃状転位密度は、低い。
【0066】
第1参考例では、第1高Ga組成層30で発生した刃状転位は、第2高Ga組成層60まで伝搬する。したがって、第1参考例の刃状転位密度は高い。
【0067】
第2参考例では、第1高Ga組成層30で発生した刃状転位は、中間部50で遮られる。これにより、第2参考例の刃状転位の密度は、第1参考例の刃状転位の密度よりも低い。
【0068】
第3参考例においても、刃状転位の密度は、第1参考例の刃状転位の密度よりも低い。
【0069】
これに対して、本発明者らは、半導体ウェーハ110がさらに以下のような構成を有することにより、刃状転位の密度が顕著に低下することを見いだした。
第1の実施形態の半導体ウェーハ110において、低Al組成層44は、高Al組成層42の上に設けられる。第2高Ga組成層60の引っ張り歪みは、第1高Ga組成層30の引っ張り歪みよりも大きい。これにより、半導体ウェーハ110における刃状転位の密度は、第1〜第3参考例の半導体ウェーハ191〜193における刃状転位の密度よりも顕著に低くなる。
【0070】
第1の実施形態において、第2高Ga組成層60は、低Al組成層44及び中間部50の上に、孤立した島状結晶として成長する。複数の島状結晶は、第2高Ga組成層60の成長が終わるまでに互いに合体し、1つの連続した層となる。このような成長をした場合、第2高Ga組成層60の成長中に印加される圧縮歪みは小さくなるとともに、転位密度は顕著に低減する。成長後は、基板との熱膨張係数差により第2高Ga組成層60はより大きい引っ張り歪みを有する。
【0071】
高Al組成層42は、完全に緩和せず、成長中に0.6%以上1.4%以下の引っ張り歪みを受けている。このため、高Al組成層42の下に接する層、例えば第1高Ga組成層30との格子不整合率が小さくなる。このため、高Al組成層42と第1高Ga組成層30との界面から高Al組成層42内に発生し、高Al組成層42から上の層へ伝播する転位が少なくなる。
【0072】
さらに、0.6%以上1.4%以下の引っ張り歪みを受けた高Al組成層42の上に、Al組成0.2以上0.8以下の低Al組成層を成長すると、低Al組成層44が成長中にうける歪みが小さくなり、低Al組成層44の平坦な表面が得られる。このため、低Al組成層44及び中間部50の上に成長する第2高Ga組成層60が、孤立した島状結晶として成長しやすくなるとともに、下から伝播する転位が、第2高Ga組成層60内に伝播しにくくなる。
【0073】
第3参考例では、低Al組成層44を含まないため、平坦性の悪い高Al組成層42の表面に中間部50を形成している。これにより、中間部50の転位を遮る効果が弱くなると考えられる。また、平坦性の悪い高Al組成層42及びその上に形成された中間部50の上に成長する第2高Ga組成層60は、島状結晶になりにくく平坦化しやすい。このため、転位密度が低減されず、成長中に圧縮歪みがかかりやすい。
【0074】
第2参考例では、低Al組成層44及び高Al組成層42を含まない。このため、第2高Ga組成層60は、島状結晶になりにくく平坦化しやすい。これは、中間部50の下地となる層が、第1高Ga組成層30であり、第2高Ga組成層60との格子間隔の差が小さいためと考えられる。このため、転位密度が低減されにくい。
【0075】
一般に、本実施形態で高Al組成層42と呼んでいる高Ga組成層中に挿入されるAl含有層は、主としてクラックを抑制するために用いられる。すなわち、Al含有層の上の高Ga組成層に成長中に圧縮応力を印加するために用いられる。このため、高Ga組成層において、Al含有層の下側での引っ張り歪みは、Al含有層の上側での引っ張り歪みよりも大きい。
【0076】
しかしながら、本実施形態では、高Al組成層42、低Al組成層44、及び中間部50を用い、その上の第2高Ga組成層60を圧縮歪みの小さい島状結晶層として成長することにより、転位密度を顕著に低減した。本実施形態では、第2高Ga組成層60の引っ張り歪みは、第1高Ga組成層30の引っ張り歪みよりも大きくなる。
【0077】
さらに、一般に、高Al組成層42に対応する層は「中間層」と呼ばれ(本実施形態の中間部50とは異なる)、実質的に緩和していることが開示されている。しかしながら、本実施形態の高Al組成層42は、大きな引っ張り歪みを有している。これにより、低Al組成層44が平坦に形成され、第2高Ga組成層60が島状結晶として成長しやすくなり、転位密度が顕著に低減したと考えられる。
【0078】
一方で、本実施形態は、第2高Ga組成層60が引っ張り歪みを有するため、クラックが入りやすい傾向にある。第1高Ga組成層30及び下地層24の圧縮歪みを大きくすることにより、クラックを抑制できる。圧縮歪みの大きさにも依存するが、第1高Ga組成層30と下地層24の膜厚の合計を、第2高Ga組成層60の膜厚以上とすること、成長後の基板の反りを概略フラットにすることで、クラックを抑制できる。このため、第2高Ga組成層60の引っ張り歪みは第1高Ga組成層30の引っ張り歪みよりも大きくなる。
【0079】
(第2の実施形態)
図9は、第2の実施形態に係る窒化物半導体層の製造方法を示すフローチャートである。
図10は、第2の実施形態における成長温度を示すグラフ図である。同図において、昇温過程、及び降温過程は、省略されている。
【0080】
図9に表したように、第2の実施形態に係る窒化物半導体層の製造方法は、AlNバッファ層の形成(ステップS101)と、下地層の形成(ステップS102)と、第1高Ga組成層の形成(ステップS103)と、高Al組成層の形成(ステップS104)と、低Al組成層の形成(ステップS105)と、中間部の形成(ステップS106)と、第2高Ga組成層の形成(ステップS107)と、を含む。ここでいう窒化物半導体層とは、少なくとも第2高Ga組成層60を含む。以下詳細を説明する。
【0081】
まず、
図10に表したように、時刻t
1から時刻t
2において、AlNバッファ層の形成(ステップS101)を行う。基板10の上に、第1成長温度T
g1でAlNバッファ層22が形成される。第1成長温度T
g1は、例えば、500℃以上1000℃以下である。例えば、第1成長温度T
g1は、600℃である。
【0082】
次に、時刻t
2から時刻t
3において、下地層の形成(ステップS102)を行う。AlNバッファ層22の上に、第2成長温度T
g2でAl及びGaを含む窒化物半導体を含む下地層24が形成される。第2成長温度T
g2は、500℃以上1200℃以下である。例えば、第2成長温度T
g2は、1050℃である。下地層24のAl組成比は、例えば0.1以上0.9以下が好ましく、より好ましくは、0.2以上0.6以下である。下地層24は、例えばAl
0.5Ga
0.5Nの第1層と、Al
0.3Ga
0.7Nの第2層と、Al
0.15Ga
0.85Nの第3層と、を有する。下地層24の全体の厚さは、例えば550nmである。
【0083】
次に、時刻t
3から時刻t
4において、第1高Ga組成層の形成(ステップS103)を行う。下地層24の上に窒化物半導体を含む第1高Ga組成層30を形成する。例えば、第1高Ga組成層30は、GaNである。
【0084】
第1高Ga組成層30の成長温度である第3成長T
g3(第1温度)は、例えば1000℃以上1200℃以下が好ましく、例えば約1130℃である。
【0085】
第1高Ga組成層30におけるa軸の格子間隔が小さいほど、第1高Ga組成層30に加わる圧縮応力が大きくなり好ましい。
【0086】
第1高Ga組成層30におけるa軸の格子間隔は、例えば、アンモニア分圧によって変化する。例えば、アンモニア分圧が大きいほど、第1高Ga組成層30におけるa軸の格子間隔が小さくなる。アンモニア分圧は、例えば、0.2以上、0.5以下が好ましい。
【0087】
また、第1高Ga組成層30におけるa軸の格子間隔は、例えば、V族原子の原料ガスとIII族原子の原料ガスとの比(V/III比)によって変化する。例えば、V/III比が大きいほど、第1高Ga組成層30におけるa軸の格子間隔が小さくなる。V/III比は、例えば、4000以上、15000以下が好ましい。
【0088】
次に、時刻t
4から時刻t
5において、高Al組成層の形成(ステップS104)を行う。第1高Ga組成層30の上に、窒化物半導体を含む高Al組成層42が形成される。高Al組成層42のGa組成比は、第1高Ga組成層30のGa組成比よりも低い。
【0089】
高Al組成層42の成長温度である第4成長温度T
g4(第2温度)は、第3成長温度T
g3よりも低い。
【0090】
第4成長温度T
g4は、例えば500℃以上1100℃以下であり、より好ましくは、700℃以上1050℃以下である。第4成長温度T
g4は、例えば約800℃である。
【0091】
第4成長温度T
g4が500℃よりも低いと、不純物が取り込まれ易い。また、立方晶AlGaNなどが成長され、結晶転位が過度に生じてしまう。そして、高Al組成層42の結晶品質が過剰に劣化してしまう。第4成長温度T
g4が1100℃よりも高いと、高Al組成層42にクラックが生じてしまう可能性がある。
【0092】
高Al組成層42の引っ張り歪みは、第1高Ga組成層30の引っ張り歪み及び第2高Ga組成層60の引っ張り歪みよりも大きいことが好ましい。例えば、以下のような条件により、高Al組成層42が形成されることが好ましい。
例えば、アンモニア分圧は、0.01以上、0.2以下が好ましく、より好ましくは、0.02以上0.15以下である。
例えば、V/III比は、1000以上、40000以下が好ましく、より好ましくは、2000以上20000以下である。この様な条件により、高Al組成層42は引っ張り歪みを有しながら成長する。これは、成長中の基板の反りモニターにより確認される。成長後は、基板との熱膨張係数差により、さらに引っ張り歪みを受ける。室温で観測される引っ張り歪みは、無歪みの状態を基準として、0.6%以上1.4%以下である。
【0093】
次に、時刻t
5から時刻t
6において、低Al組成層の形成(ステップS105)を行う。高Al組成層42の上に、窒化物半導体を含む低Al組成層44を形成する。低Al組成層44のGa組成比は、第1高Ga組成層30のGa組成比よりも低い。低Al組成層44のAl組成比は、高Al組成層42のAl組成比よりも低い。
【0094】
低Al組成層44の成長温度である第5成長温度T
g5は、第4成長温度T
g4よりも高い温度である。第5成長温度T
g5は、例えば800℃以上1200℃以下が好ましく、例えば1130℃である。
【0095】
低Al組成層44は、Al組成が0.2以上0.8以下となるよう形成される。これにより、低Al組成層44は高Al組成層42の格子間隔と同じか、もしくは近い格子間隔で高Al組成層42の上に成長する。例えば、低Al組成層44は、無歪みかもしくは歪みの小さい状態で成長し、これにより低Al組成層44は平坦な表面が得られる。
【0096】
次に、時刻t
6から時刻t
7において、中間部の形成(ステップS106)を行う。低Al組成層44の上に、中間部50が形成される。中間部50におけるSi、Mg及びBのいずれか
の濃度は、高Al組成層42
における濃度及び低Al組成層44
における濃度よりも高い。中間部50は、SiN、MgN及びBNのいずれかを含む。
【0097】
中間部50の成長温度である第6成長温度T
g6は、500℃以上1200℃以下である。例えば、第6成長温度T
g6は、1000℃である。
【0098】
中間部50の厚さは、例えば0.2原子層以上3nm以下に相当する。例えば、Si原料ガスの流量又は成膜時間を制御することで、中間部50の厚さが制御される。
【0099】
中間部50は、例えば、ステップS101からステップS105までを行った装置と同一の装置において形成される。これにより、導入ガスを切り替えるだけで中間部50が形成される。
【0100】
次に、時刻t
7から時刻t
8において、第2高Ga組成層の形成(ステップS107)を行う。中間部50の上に、窒化物半導体を含む第2高Ga組成層60が形成される。第2高Ga組成層60のGa組成比は、低Al組成層44のGa組成比よりも高い。第2高Ga組成層60は、例えばGaNである。
【0101】
第2高Ga組成層60の成長温度である第7成長温度T
g7は、第4成長温度T
g4よりも高い。第7成長温度T
g7は、例えば1000℃以上1200℃以下が好ましく、例えば約1130℃である。
【0102】
図3(a)及び
図3(b)に表したように、第2高Ga組成層60は、島状に成長する。第2高Ga組成層60は、島状部60aが大きくなることにより成長する。これにより、半導体ウェーハ110の転位密度が顕著に低くなる。
【0103】
第2高Ga組成層60の成長中の圧縮歪みは、第1高Ga組成層30の圧縮歪みよりも顕著に小さくなる。この結果、成長後の第2高Ga組成層60は引っ張り歪み、または小さい圧縮歪みを有する。成長後の第2高Ga組成層60の引っ張り歪みは、第1高Ga組成層30の引っ張り歪みよりも大きい。または、成長後の第2高Ga組成層60の圧縮歪みは、第1高Ga組成層30の圧縮歪みよりも小さい。または、成長後の第2高Ga組成層60は引っ張り歪みを有し、第1高Ga組成層30は圧縮歪みを有する。
【0104】
第2高Ga組成層60の成長条件は、例えば、第1高Ga組成層30の成長条件と同様である。低Al組成層44及び中間部50の上に成長することにより、第2高Ga組成層60は、上記した歪みを有する。
【0105】
以上の工程により、半導体ウェーハ110が形成される。
【0106】
(第3の実施形態)
図11は第3の実施形態に係る半導体ウェーハを示す模式図である。
本実施形態に係る半導体ウェーハ120は、基板10と、AlNバッファ層22と、下地層24と、第1圧縮応力蓄積層30と、高Al組成層42と、低Al組成層44と、中間部50と、第2高Ga組成層60と、を含む。
【0107】
第3の実施形態に係る半導体ウェーハ120は、第1の実施形態における第1高Ga組成層30に替えて、第1圧縮応力蓄積層301を備える。第1圧縮応力蓄積層301は、下地層24と高Al組成層42との間に設けられる。第1圧縮応力蓄積層301は、例えば4層の高Ga組成層30a、30b、30c及び30dと、例えば3層の高Al組成層40a、40b及び40cと、を交互に積層した構造である。
【0108】
高Ga組成層30aは、下地層24の上に設けられる。高Ga組成層30aは、窒化物半導体を含む。高Ga組成層30aにおけるIII族元素中のAl組成比は例えば0.01以下である。高Ga組成層30aには、例えば窒化ガリウム(GaN)が用いられる。
高Ga組成層30aの厚さは、例えば300nm以上2μm以下が好ましく、例えば400nmである。高Ga組成層30aには、圧縮応力が印加される。高Ga組成層30aが厚くなるにしたがい、圧縮応力が小さくなる。高Ga組成層30aは、圧縮応力が維持できる範囲で厚くしてもよい。
【0109】
高Al組成層40aは、高Ga組成層30aの上に設けられる。高Al組成層40aは、窒化物半導体を含む。高Al組成層40aのGa組成比は、高Ga組成層30aのGa組成比よりも低い。例えば、高Al組成層40aにおけるIII族元素中のGa組成比は0.01以下である。高Al組成層40aには、Alx1Ga1−x1N(0<x1≦1)が用いられる。例えば高Al組成層40aにはAlNが用いられる。高Al組成層40aの厚さは、2nm以上50nm以下であり、例えば12nmである。
【0110】
高Ga組成層30bは、高Al組成層40aの上に設けられる。高Ga組成層30bは、窒化物半導体を含み、高Ga組成層30aと同じ組成で良く、例えばGaNが用いられる。高Ga組成層30bは、高Ga組成層30aと同じ厚さで良く、例えば400nmである。高Ga組成層30bには、高Ga組成層30aと同様に圧縮応力が印加される。
【0111】
以降、同様に、高Al組成層40b、高Ga組成層30c、高Al組成層40c、高Ga組成層30d、の順に積層する。これにより、第1圧縮応力蓄積層301には、圧縮応力が蓄積される。本実施形態では、高Ga組成層30a、30b、30c及び30dの厚さ、及び高Al組成層40a、40b及び40cの厚さを同じとしたが、圧縮応力が得られる範囲で変えてもよい。
【0112】
第1圧縮応力蓄積層301の上に、第1の実施形態と同様に、高Al組成層42、低Al組成層44、中間部50、第2高Ga組成層60、が順に設けられる。
第2高Ga組成層60の引っ張り歪みは、高Ga組成層30dの引っ張り歪みよりも大きい。または、第2高Ga組成層60の圧縮歪みは、高Ga組成層30dの圧縮歪みよりも小さい。または、第2高Ga組成層60は引っ張り歪みを有し、高Ga組成層30dは圧縮歪みを有する。これにより、第2高Ga組成層60における転位密度が低下する。
【0113】
本実施形態の半導体ウェーハ120の刃状転位の密度は、4.8×108cm−2である。本実施形態の半導体ウェーハ120においては、高Al組成層42の下の圧縮歪みの層が半導体ウェーハ110に比べて厚い。このため、半導体ウェーハ110に比べて、クラックの抑制されたウェーハが容易に作製される。
【0114】
なお、本実施形態では、第1圧縮応力蓄積層301として、4層の高Ga組成層と、3層の高Al組成層と、を交互に積層した構造を例を示したが、これらの層数以外であってもよい。第1圧縮応力蓄積層301は、複数の高Ga組成層と、複数の高Al組成層と、が交互に積層された構造であればよい。
【0115】
(第4の実施形態)
図12は、第4の実施形態に係る半導体素子を示す模式図である。
実施形態に係る半導体素子130は、半導体発光素子、半導体受光素子、及び、電子デバイスなどの半導体装置を含む。半導体発光素子は、例えば、発光ダイオード(LED)及びレーザダイオード(LD)などを含む。半導体受光素子は、フォトダイオード(PD)などを含む。電子デバイスは、例えば、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)、電界トランジスタ(FET)及びショットキーバリアダイオード(SBD)などを含む。この例では、半導体素子130は、半導体発光素子である。
【0116】
半導体素子130は、第3の実施形態における半導体ウェーハ120の上で形成される。半導体素子130は、機能層70を含む。
【0117】
機能層70は、例えば、n形半導体層72と、発光層74と、p形半導体層76と、を含む。n形半導体層72は、半導体ウェーハ120の上に設けられる。
【0118】
発光層74は、n形半導体層72の上に設けられる。発光層74は、例えば、GaNの複数の障壁層と、障壁層の間に設けられInGaN(例えば、In
0.15Ga
0.85N)層と、を含む。発光層74は、MQW(Multi-Quantum Well)構造、または、SQW(Single-Quantum Well)構造を有する。
【0119】
p形半導体層76は、発光層74の上に設けられる。その他、p電極(不図示)がp形半導体層76の上に設けられていても良い。また、n電極(不図示)がn形半導体層72に接して設けられていても良い。
【0120】
機能層70の厚さは、例えば1マイクロメートル(μm)以上5μm以下が好ましく、例えば約3.5μmである。
【0121】
半導体素子130は、基板10が除去された状態で使用される場合がある。また、半導体素子130は、例えば、基板10から第1圧縮応力蓄積層301までの層が除去された状態で使用される場合がある。半導体素子130は、機能層70の一部が除去された状態で使用される場合がある。
【0122】
また、半導体素子130は、例えば、窒化ガリウム(GaN)系HEMT(High Electron Mobility Transistor)の窒化物半導体素子に用いることができる。このときは、機能層70は、例えば、不純物を含まないアンドープのAl
z1Ga
1−z1N(0≦z1≦1)層と、アンドープまたはn形のAl
z2Ga
1−z2N(0≦z2≦1、z1<z2)層と、の積層構造を有する。
【0123】
第4の実施形態によれば、半導体素子130の機能層70は、半導体ウェーハ120の上で形成される。半導体ウェーハ120の転位密度は低減されている。これにより、半導体素子130の動作特性が向上する。半導体素子130が半導体発光素子である場合、発光効率が向上する。半導体素子130が電子デバイスである場合、キャリア移動度又は応答速度が向上する。なお、半導体素子130の機能層70は、半導体ウェーハ110の上で形成されてもよい。
【0124】
以上の実施形態によれば、転位密度が低い半導体ウェーハ半導体素子及び窒化物半導体層の製造方法を提供することができる
【0125】
実施形態において、半導体層の成長には、例えば、有機金属気相堆積(Metal-Organic Chemical Vapor Deposition: MOCVD)法、有機金属気相成長(Metal-Organic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)法、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法、及び、ハライド気相エピタキシー法(HVPE)法などを用いることができる。
【0126】
例えば、MOCVD法またはMOVPE法を用いた場合では、各半導体層の形成の際の原料には、以下を用いることができる。Gaの原料として、例えばTMGa(トリメチルガリウム)及びTEGa(トリエチルガリウム)を用いることができる。Inの原料として、例えば、TMIn(トリメチルインジウム)及びTEIn(トリエチルインジウム)などを用いることができる。Alの原料として、例えば、TMAl(トリメチルアルミニウム)などを用いることができる。Nの原料として、例えば、NH
3(アンモニア)、MMHy(モノメチルヒドラジン)及びDMHy(ジメチルヒドラジン)などを用いることができる。Siの原料としては、SiH
4(モノシラン)、Si
2H
6(ジシラン)などを用いることができる。
【0127】
なお、本明細書において「窒化物半導体」とは、B
xIn
yAl
zGa
1−x−y−zN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦z≦1,x+y+z≦1)なる化学式において組成比x、y及びzをそれぞれの範囲内で変化させた全ての組成の半導体を含むものとする。またさらに、上記化学式において、N(窒素)以外のV族元素もさらに含むもの、導電形などの各種の物性を制御するために添加される各種の元素をさらに含むもの、及び、意図せずに含まれる各種の元素をさらに含むものも、「窒化物半導体」に含まれるものとする。
【0128】
なお、本願明細書において、「垂直」及び「平行」は、厳密な垂直及び厳密な平行だけではなく、例えば製造工程におけるばらつきなどを含むものであり、実質的に垂直及び実質的に平行であれは良い。
【0129】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0130】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0131】
その他、本発明の実施の形態として上述した半導体ウェーハ、半導体素子及び窒化物半導体層の製造方法を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての半導体ウェーハ、半導体素子及び窒化物半導体層の製造方法も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0132】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0133】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。