【文献】
Short JJ, et al.,Oncolytic adenoviruses targeted to cancer stem cells,Molecular Cancer Therapeutics,2009年 8月,Vol. 8, No. 8,p. 2096-2102
【文献】
Naujok O, et al., Selective Removal of Undifferentiated Embryonic Stem Cells from Differentiation Cu
【文献】
Database GenBank,[online],Accession No. DQ836361, <http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/DQ836361>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする遺伝子のプロモーターが癌細胞または未分化細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターで置換されているウイルスベクターを含有してなる、多能性幹細胞から分化誘導された細胞集団内に残存する未分化細胞および/または腫瘍化の原因となる細胞を選択的に殺傷する殺傷剤。
癌細胞または未分化細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターがAuroraキナーゼ、がん胎児性抗原(CEA)、低酸素応答性領域(HRE)、Grp78、L−プラスチン、ヘキソキナーゼII、Oct3/4、Nanog、Sox2、Cripto、Dax1、ERas、Fgf4、Esg1、Rex1、Zfp296、UTF1、GDF3、Sall4、Tbx3、Tcf3、DNMT3L、DNMT3B、miR−290クラスターまたはmiR−302クラスターのプロモーターである、請求項1または2に記載の剤。
少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする遺伝子のプロモーターが未分化細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターで置換されているウイルスベクターを含有してなる、多能性幹細胞から分化誘導された細胞集団内に残存する未分化細胞および/または腫瘍化の原因となる細胞を選択的に殺傷する殺傷剤。
未分化細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターがOct3/4、Nanog、Sox2、Cripto、Dax1、ERas、Fgf4、Esg1、Rex1、Zfp296、UTF1、GDF3、Sall4、Tbx3、Tcf3、DNMT3L、DNMT3B、miR−290クラスターまたはmiR−302クラスターのプロモーターである、請求項4または5に記載の剤。
更に、少なくとも1つの他のウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターが、哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターで置換されていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の剤。
少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1A、E1AΔ24、E1B、およびE1BΔ55Kから選択される因子である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の剤。
幹細胞から分化誘導された細胞集団に請求項1〜11のいずれか1項に記載の剤を生体外で接触させることにより、該細胞集団内に残存する未分化細胞および/または腫瘍化の原因となる細胞を殺傷することを特徴とする、腫瘍化リスクの低減された分化細胞の製造方法。
請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法により得られる有効量の分化細胞を、該分化細胞の移植を必要とする非ヒト哺乳動物に移植すること、あるいは、幹細胞から誘導された分化細胞集団を移植されたか、もしくは移植される非ヒト哺乳動物に、有効量の請求項1〜11のいずれか1項に記載の剤を投与することを特徴とする、腫瘍化リスクが低減された細胞移植療法。
幹細胞から分化誘導された細胞集団に請求項1〜11のいずれか1項に記載の剤を接触させ、該細胞集団内に残存する未分化細胞および/または腫瘍化の原因となる細胞の殺傷の程度を検定することを特徴とする、幹細胞からの分化誘導における腫瘍化リスクの評価方法。
請求項12〜14のいずれか1項に記載の方法により得られる分化細胞と、被検物質とを接触させる工程、および該細胞における目的の薬効または毒性の発現を検定する工程を含む、被検物質の薬効または毒性試験方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、未分化細胞および/または腫瘍化の原因となる細胞、特に幹細胞から分化誘導された細胞集団内に残存する未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞を選択的に殺傷する薬剤を提供する。ここで「未分化細胞」とは、未分化状態(多能性もしくは多分化能)を保持し、かつ生体内に移植された後に腫瘍化(本発明においては、奇形腫形成および発癌の両方を含む概念として用いる)する潜在的能力を有する細胞であれば特に制限されないが、典型的には、移植された場合にその未分化性(多分化能)のために無秩序に分化して目的細胞以外の細胞種が腫瘤を形成するような細胞であり、具体的には、アルカリフォスファターゼ染色陽性、SSEA3染色陽性、SSEA4染色陽性、Tra-1-60染色陽性、Tra-1-81染色陽性、Oct3/4、Nanog、Sox2、Cripto、Dax1、ERas、Fgf4、Esg1、Rex1、Zfp296、UTF1、GDF3、Sall4、Tbx3、Tcf3、DNMT3L、DNMT3Bの遺伝子発現、miR-290クラスターのmiRNA、miR-302クラスターのmiRNAの発現等の未分化マーカーの発現によって特徴付けられる。形態学的には分化した形態を呈する細胞であっても、未分化マーカーの発現を認める細胞は、本発明においては未分化細胞に包含される。
一方、「腫瘍化の原因となる細胞」(以下、腫瘍化原因細胞と略記する場合がある)とは、分化状態に拘泥されず腫瘍化する潜在的能力を有する細胞を意味するが、典型的には、癌化する能力を有する細胞であり、具体的には、例えばiPS細胞作製時に導入されたがん遺伝子(c-Myc等)の再活性化や導入遺伝子の染色体への組込みによる異常(遺伝子破壊やがん遺伝子の活性化)、人工的なリプログラミングに伴う不十分および/または不安定な初期化により生じる染色体異常などの原因により癌化するか、癌化するリスクの高い細胞である。
【0019】
これらの未分化マーカーを発現する細胞(未分化細胞)では、TERTやサバイビンをはじめとする癌細胞で特異的に発現する遺伝子も発現しており、一方、ある程度分化した細胞から癌化した細胞(腫瘍化原因細胞)では、上記の未分化マーカーとなる遺伝子(未分化細胞特異的遺伝子)も発現しているので、該癌特異的遺伝子もしくは未分化細胞特異的遺伝子のプロモーターの制御下に細胞毒性因子をコードする核酸を配置した発現ベクターを、当該未分化細胞や腫瘍化原因細胞を含む細胞集団に接触させれば、未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞のみで該細胞毒性因子が発現して未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞を選択的に殺傷除去することができる。
【0020】
即ち、本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤は、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターが癌細胞または未分化細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターで置換されていること、ならびに/あるいは、細胞毒性因子をコードする核酸が癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子のプロモーターに機能的に連結した発現カセットを含むことを特徴とする。
癌細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターとしては、未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞において特異的に該細胞を殺傷するのに十分な量の細胞毒性因子の発現を指示できるプロモーター活性を発揮し得るものであれば特に制限はないが、例えば、種々の癌で特異的に発現が認められる遺伝子のプロモーター、具体的には、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)プロモーター(Takakura, M. et al., Cancer Res., 59: 551-557, 1999)、サバイビン(survivin)プロモーター、Auroraキナーゼプロモーター、低酸素応答性領域(HRE)プロモーター、Grp78プロモーター、L-プラスチンプロモーターおよびヘキソキナーゼIIプロモーターなどが挙げられる。好ましくはTERTプロモーター、サバイビンプロモーター、Auroraキナーゼプロモーターである。
未分化細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターとしては、未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞において特異的に該細胞を殺傷するのに十分な量の細胞毒性因子の発現を指示できるプロモーター活性を発揮し得るものであれば特に制限はないが、例えば、種々の幹細胞で特異的に発現が認められる遺伝子のプロモーター、具体的には、Oct3/4、Nanog、Sox2、Cripto、Dax1、ERas、Fgf4、Esg1、Rex1、Zfp296、UTF1、GDF3、Sall4、Tbx3、Tcf3、DNMT3L、DNMT3B、miR-290クラスター、miR-302クラスター等の遺伝子のプロモーターなどが挙げられる。好ましくはOct3/4プロモーター、Nanogプロモーター、Sox2プロモーター等であるが、それらに限定されない。
【0021】
マウスおよびヒトのサバイビン遺伝子のプロモーターは単離されており、その配列情報は開示されている(例えば、Li, F. and Altieri, D.C., Cancer Res., 59: 3143-3151,1999; Li, F. and Altieri, D.C., Biochem. J., 344: 305-311, 1999を参照)。
本発明の発現ベクターに用いられるサバイビンプロモーターとしては、ヒトサバイビン遺伝子または他の哺乳動物(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)におけるそのオルソログ遺伝子のプロモーター、好ましくはヒトまたはマウス由来のサバイビン遺伝子のプロモーター、より好ましくはヒトサバイビン遺伝子のプロモーターである。処置対象である哺乳動物に応じて、それと同種のサバイビンプロモーターを用いることが好ましいが、標的未分化細胞に対する十分な殺傷効果を与える程度のプロモーター活性を発揮し得る限り、異種プロモーターを用いてもよい。例えば、ヒト未分化細胞の殺傷用ベクターとして、マウスサバイビン遺伝子のプロモーターを含むベクターを用いることができる。
【0022】
サバイビンプロモーターのヌクレオチド配列長は、標的未分化細胞特異的で、かつ当該細胞に対して十分な殺傷効果を発揮する程度に、下流に連結された遺伝子の転写を活性化し得る限り特に制限されない。例えば、マウスサバイビン遺伝子プロモーターの場合、翻訳開始点を+1として-173〜-19位のヌクレオチド配列(配列番号1に示されるヌクレオチド配列中1124〜1278番目のヌクレオチド配列)、ヒトサバイビン遺伝子プロモーターの場合、翻訳開始点を+1として-173〜-1位のヌクレオチド配列(配列番号2に示されるヌクレオチド配列中1296〜1468番目のヌクレオチド配列)を含んでいれば、目的の特異性および転写活性が得られうる。従って、好ましくは、本発明のベクターに用いられるサバイビンプロモーターは、配列番号1に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1124〜1278番目のヌクレオチド配列、または配列番号2に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1296〜1468番目のヌクレオチド配列を含む。サバイビンプロモーターのヌクレオチド配列長の上限も特に制限はないが、5’上流域の長さが大きくなりすぎると却ってプロモーターの転写活性や特異性に好ましくない影響を与える場合がある。例えば、ヒトサバイビン遺伝子プロモーターの場合、翻訳開始点を+1として約-6000〜-1位のヌクレオチド配列であれば、目的の特異性および転写活性が得られうるが、好ましくはプロモーターの5’末端は-3000位より下流、より好ましくは-1500位より下流である。他の哺乳動物由来のサバイビンプロモーターを用いる場合も、種々の長さのプロモーターの下流にレポーター遺伝子を繋いだベクターを作製し、標的未分化細胞に導入してレポーターの発現を指標にして該プロモーター活性を評価することにより、該プロモーターの好適な配列長の範囲を決定することができる。
【0023】
ヒトのTERT遺伝子のプロモーターは単離されており、その配列情報は開示されている(例えば、Cong, Y.S. et al., Hum. Mol. Genet., 8(1): 137-142, 1999を参照)。
本発明の発現ベクターに用いられるTERTプロモーターとしては、ヒトTERT遺伝子または他の哺乳動物(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)におけるそのオルソログ遺伝子のプロモーター、好ましくはヒトまたはマウス由来のTERT遺伝子のプロモーター、より好ましくはヒトTERT遺伝子のプロモーターである。処置対象である哺乳動物に応じて、それと同種のTERTプロモーターを用いることが好ましいが、標的未分化細胞に対する十分な殺傷効果を与える程度のプロモーター活性を発揮し得る限り、異種プロモーターを用いてもよい。例えば、ヒト未分化細胞の殺傷用ベクターとして、マウスTERT遺伝子のプロモーターを含むベクターを用いることができる。
【0024】
TERTプロモーターのヌクレオチド配列長は、標的未分化細胞特異的で、かつ当該細胞に対して十分な殺傷効果を発揮する程度に、下流に連結された遺伝子の転写を活性化し得る限り特に制限されない。例えば、ヒトTERT遺伝子プロモーターの場合、翻訳開始点を+1として-145〜-1位のヌクレオチド配列(配列番号3に示されるヌクレオチド配列中3852〜3996番目のヌクレオチド配列)を含んでいれば、目的の特異性および転写活性が得られうる。従って、好ましくは、本発明のベクターに用いられるTERTプロモーターは、配列番号3に示されるヌクレオチド配列中少なくとも3852〜3996番目のヌクレオチド配列を含む。TERTプロモーターのヌクレオチド配列長の上限も特に制限はないが、5’上流域の長さが大きくなりすぎると却ってプロモーターの転写活性や特異性に好ましくない影響を与える場合がある。例えば、ヒトTERT遺伝子プロモーターの場合、翻訳開始点を+1として約-4000〜-1位のヌクレオチド配列であれば、目的の特異性および転写活性が得られうるが、好ましくはプロモーターの5’末端は-3000位より下流、より好ましくは-2000位より下流である。他の哺乳動物由来のTERTプロモーターを用いる場合も、種々の長さのプロモーターの下流にレポーター遺伝子を繋いだベクターを作製し、標的未分化細胞に導入してレポーターの発現を指標にして該プロモーター活性を評価することにより、該プロモーターの好適な配列長の範囲を決定することができる。
【0025】
本発明の発現ベクターに用いられるAuroraキナーゼプロモーターとしては、Auroraキナーゼファミリーに属する遺伝子由来のプロモーターであれば特に制限はないが、例えば、ショウジョウバエAurora-A、-Bおよび-C遺伝子の哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)オルソログが挙げられる。好ましくはヒトまたは他の哺乳動物由来のAuroraキナーゼA遺伝子またはAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーター、より好ましくはヒトAuroraキナーゼA遺伝子またはヒトAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーターである。処置対象である哺乳動物に応じて、それと同種のAuroraキナーゼプロモーターを用いることが好ましいが、標的未分化細胞に対する十分な殺傷効果を与える程度のプロモーター活性を発揮し得る限り、異種プロモーターを用いてもよい。例えば、ヒト未分化細胞の殺傷用ベクターとして、マウスAuroraキナーゼ遺伝子のプロモーターを含むベクターを用いることができる。
【0026】
Auroraキナーゼプロモーターのヌクレオチド配列長は、標的未分化細胞特異的で、かつ当該細胞に対して十分な殺傷効果を発揮する程度に、下流に連結された遺伝子の転写を活性化し得る限り特に制限されない。例えば、ヒトAuroraキナーゼA遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-124〜+354位のヌクレオチド配列(配列番号4に示されるヌクレオチド配列中1363〜1840番目のヌクレオチド配列)、ヒトAuroraキナーゼB遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-185〜+361位のヌクレオチド配列(配列番号5に示されるヌクレオチド配列中1595〜2140番目のヌクレオチド配列)を含んでいれば、目的の特異性および転写活性が得られうる。従って、好ましくは、本発明の発現ベクターに用いられるヒトAuroraキナーゼプロモーターは、配列番号4に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1363〜1840番目のヌクレオチド配列、または配列番号5に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1595〜2140番目のヌクレオチド配列を含む。Auroraキナーゼプロモーターのヌクレオチド配列長の上限も特に制限はないが、5’上流域の長さが大きくなりすぎると却ってプロモーターの転写活性や特異性に好ましくない影響を与える場合がある。例えば、ヒトAuroraキナーゼA遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-1486〜+354位のヌクレオチド配列(配列番号4に示されるヌクレオチド配列)、ヒトAuroraキナーゼB遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-1779〜+361位のヌクレオチド配列(配列番号5に示されるヌクレオチド配列)であれば、目的の特異性および転写活性が得られうる。従って、好ましい一実施態様においては、本発明の発現ベクターに用いられるヒトAuroraキナーゼプロモーターの5’末端として、配列番号4に示されるヌクレオチド配列中1〜1363番目のヌクレオチド、または配列番号5に示されるヌクレオチド配列中1〜1595番目のヌクレオチドが挙げられる。他の哺乳動物由来のAuroraキナーゼプロモーターを用いる場合も、同様にして好ましい領域を選択することができる。
【0027】
本発明における癌細胞または未分化細胞で特異的に発現する遺伝子のプロモーターはまた、天然の哺乳動物由来の癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子のプロモーターとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸であって、該天然プロモーターと実質的に同一の特性を有する核酸を包含する。「実質的に同一の特性」とは、標的の未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞に特異的な遺伝子発現を駆動する性質を意味し、転写活性の程度は同等(例えば、約0.5〜約2倍)であることが好ましいが、当該未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞に対して十分な殺傷効果を発揮できる程度の遺伝子発現を駆動し得る限り、量的要素は異なっていてもよい。例えば、ヒトAuroraキナーゼAまたはBプロモーターの場合、配列番号4または5に示されるヌクレオチド配列の相補鎖配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得る核酸が挙げられる。このような核酸としては、例えば、配列番号4または5に示されるヌクレオチド配列と約80%以上、好ましくは約90%以上、より好ましくは約95%以上、特に好ましくは約97%以上、最も好ましくは約98%以上の相同性を有するヌクレオチド配列を含有する核酸などが挙げられる。本明細書におけるヌクレオチド配列の相同性は、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST (National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool) を用い、以下の条件 (期待値=10; ギャップを許す; フィルタリング=ON; マッチスコア=1; ミスマッチスコア=-3) にて計算することができる。
【0028】
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning, 2nd ed. (J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989) に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行なうことができる。ストリンジェントな条件としては、(1) 洗浄に低イオン強度および高温、例えば、50℃で0.015 M 塩化ナトリウム/0.0015 M クエン酸ナトリウム/0.1% 硫酸ドデシルナトリウムを使用し、(2) ホルムアミドのような変性剤、例えば、0.1% ウシ血清アルブミン/0.1% フィコール/0.1% ポリビニルピロリドン/750 mM 塩化ナトリウム、75 mMクエン酸ナトリウムを含む50 mM リン酸ナトリウム緩衝液 (pH 6.5) とともに、50% (v/v) ホルムアミドを42℃で使用することを特徴とする反応条件が例示される。あるいは、ストリンジェントな条件は、50% ホルムアミド、5xSSC (0.75 M NaCl、0.075 M クエン酸ナトリウム)、50 mM リン酸ナトリウム (pH 6.8)、0.1% ピロ燐酸ナトリウム、5xデンハート溶液、超音波処理鮭精子DNA (50 mg/ml)、0.1% SDS、及び10% 硫酸デキストランを42℃で使用し、0.2xSSC及び50% ホルムアルデヒドで55℃で洗浄し、続いて55℃でEDTAを含有する0.1xSSCからなる高ストリンジェント洗浄を行うものであってもよい。当業者は、プローブ長等のファクターに応じて、ハイブリダイゼーション反応および/または洗浄時の温度、緩衝液のイオン強度等を適宜調節することにより、容易に所望のストリンジェンシーを実現することができる。
【0029】
癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターは、ヒトまたは他の哺乳動物(例:サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)由来の細胞・組織から抽出したゲノムDNAより、公知の当該遺伝子プロモーター配列(例えば、サバイビンプロモーターの場合、Li, F. and Altieri, D.C., Cancer Res., 59: 3143-3151, 1999; Li, F. and Altieri, D.C., Biochem. J., 344: 305-311, 1999参照; TERTプロモーターの場合、Cong, Y.S. et al., Hum. Mol. Genet., 8(1): 137-142, 1999参照; Auroraキナーゼプロモーターの場合、Tanaka, M. et al., J. Biol. Chem., 277(12): 10719-26, 2002; Kimura, M. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 316: 930-6, 2004参照)からなる核酸をプローブとして該プロモーター領域を含むゲノムDNAをクローニングし、DNA分解酵素、例えば、適当な制限酵素を用いて所望の部分プロモーター配列を含むDNA断片に切断、ゲル電気泳動で分離後、所望のバンドを回収してDNAを精製することにより調製することができる。あるいは、上記細胞の粗抽出液もしくはそこから単離したゲノムDNAを鋳型として、公知の癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーター配列を基に合成したプライマーを用いたPCRにより、当該プロモーター部分配列を増幅、単離することもできる。癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターのヌクレオチド配列が未知の哺乳動物については、該癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子のcDNA配列をクエリーとして該動物のゲノムDNAに対してBLAST検索を行うことにより、該動物の癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーター領域のヌクレオチド配列を入手することができる。
また、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターは、公知の当該プロモーター配列(例えば、Auroraキナーゼプロモーターの場合、配列番号4または5で表されるヌクレオチド配列)を基に、そのヌクレオチド配列の全部または一部を含む核酸を、市販のDNA/RNA自動合成装置を用いて化学合成することによっても得ることができる。
【0030】
一実施態様において、本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤は、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下にある細胞毒性因子をコードする核酸を含む発現ベクターを有効成分として含有する。本発明の発現ベクターに用いられる、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下にある細胞毒性因子をコードする核酸は、例えば、該核酸が転写(および翻訳)された場合に、直接的もしくは間接的に、細胞に対して死、もしくは少なくとも増殖阻害をもたらす限り、いかなるタンパク質またはRNAをコードするものであってもよい。例えば、細胞毒性因子として、アポトーシス誘導遺伝子(Fasなど)、イオンチャネル(ナトリウムチャネルなど)の構成タンパク質をコードする遺伝子、プロドラッグを毒物に変換することによって細胞を傷害しうるタンパク質の遺伝子(自殺遺伝子)(HSV-チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼなど)、初期化遺伝子に対するアンチセンス核酸(Oct3/4に対するアンチセンス核酸、Nanogに対するアンチセンス核酸など)、アポトーシス促進作用または細胞増殖抑制作用のあるmiRNA若しくはそのmimic、あるいはアポトーシス抑制作用または細胞増殖促進作用のあるmiRNAのアンチセンス核酸、アプタマー、リボザイム等が挙げられる。
【0031】
細胞毒性因子をコードする核酸は、それを産生する細胞・組織から自体公知の方法によりcDNAとして単離することができ、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの下流に機能的に連結することができる。癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下にある細胞毒性因子をコードする核酸を含む発現カセットは、好ましくは該核酸または遺伝子の下流に適当なポリアデニレーション配列を含む。
本発明の、細胞毒性因子をコードする核酸と機能的に結合した癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターを含む発現カセットを有するベクターは、ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸が癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーター、あるいは癌細胞特異的遺伝子および未分化細胞特異的遺伝子のプロモーターとは異なる外来性プロモーターの制御下に置かれていてもよい。例えば、癌細胞特異的遺伝子および未分化細胞特異的遺伝子のプロモーターとは異なる外来性プロモーターとして、哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターを使用する場合、サイトメガロウイルス (CMV) 由来プロモーター (例: CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 由来プロモーター (例: HIV LTR)、ラウス肉腫ウイルス (RSV) 由来プロモーター (例: RSV LTR)、マウス乳癌ウイルス (MMTV) 由来プロモーター (例: MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス (MoMLV) 由来プロモーター (例: MoMLV LTR)、単純ヘルペスウイルス (HSV) 由来プロモーター (例: HSVチミジンキナーゼ(TK) プロモーター)、SV40由来プロモーター (例: SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス(EBV) 由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス (AAV) 由来プロモーター (例: AAV p5プロモーター)、アデノウイルス (AdV) 由来プロモーター (Ad2またはAd5主要後期プロモーター) など、ならびにβ-アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質の遺伝子プロモーターなどの構成的プロモーターを用いることができる。癌細胞特異的遺伝子および未分化細胞特異的遺伝子のプロモーターとは異なる外来性プロモーターとしては、標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞が混在する分化細胞で特異的に発現が亢進している因子のプロモーターや誘導性プロモーターを用いることもできる。腫瘍化の原因となる未分化細胞は完全に未分化な状態を維持しているとは限らず、ある程度分化が進んだ状態でなお未分化な特性を保持する場合も多い。そのような細胞では分化マーカーと未分化マーカーとが共に発現しているので、これらのいずれかのマーカー遺伝子のプロモーターを利用することができる。
分化細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターとしては、例えば、肝臓などに特異的なアルブミンおよびα-フェトプロテインのプロモーター、前立腺に特異的な前立腺特異的抗原(PSA)のプロモーター、筋肉や脳など様々な臓器に特異的なミトコンドリア型クレアチンキナーゼ(MCK)のプロモーター、ならびに、脳などの神経系に特異的なミエリン塩基性タンパク質(MB)、グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)および神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーターなどを例示できる。また、誘導性プロモーターとしては、例えば、メタロチオネイン-1遺伝子プロモーターなどを用いることができる。メタロチオネイン-1遺伝子プロモーターを用いた場合、金、亜鉛、カドミウム等の重金属、デキサメサゾン等のステロイド、アルキル化剤、キレート剤またはサイトカインなどの誘導物質を、所望の時期に標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞の存在する位置(移植部位)に局所投与することにより、任意の時期に標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞にウイルスタンパク質などの細胞毒性因子の発現を誘導することができる。
【0032】
また、別の態様において、本発明は、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターが癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターで置換されていることを特徴とする標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞特異的増殖型ウイルスベクター(conditionally replicating virus:CRV)に関する(以下、「癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーター依存性CRV」ともいう)。即ち、本発明は、標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞において特異的に(分化細胞や非癌化細胞よりも優位に)増殖することを特徴とするベクターに関する。これらのウイルスベクターは、標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞で特異的にウイルスの増殖を引き起こすだけでなく、増幅された結果、該標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞を殺傷(溶解)する。さらに、溶解した細胞から放出されたウイルスは周辺のベクター未導入の未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞に感染し、このステップが繰り返されることで、最終的には細胞集団内のすべての未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞に本発明のベクターが導入され、未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞の殺傷除去効果を得ることができる。
【0033】
本発明の癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーター依存性CRVは、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸を癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下におくことにより構築することができる。「ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸」とは、ウイルスの構造タンパク質などの、ウイルスが自己複製を行うために必須のタンパク質のいずれかをコードする核酸、またはウイルスがアッセンブリを行うために必須のタンパク質のいずれかをコードする核酸を意味する。より具体的には、ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸は、用いるウイルス種によって異なるが、例えばアデノウイルスの場合、感染初期から転写が開始されて、後のウイルスタンパク質の転写制御に働く初期遺伝子(Early gene)であるE1A、E1B、E2およびE4、または後述のRb結合領域欠損型E1A(E1AΔ24)、p53結合領域欠損型E1B(E1BΔ55K)などが挙げられる。特にE1Aは、アデノウイルスの感染後最初に転写され、E1Aの発現がなければその後のウイルス複製が起こらないことより、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターで標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞特異的にウイルス増殖制御を行なう目的に非常に適している遺伝子であるが、ウイルスの複製に必須のその他の初期遺伝子を制御することでも同様の効果を得ることができる。また、アデノウイルスの構造遺伝子をコードする核酸の後期遺伝子(Late gene)のL1、L2、L3、L4およびL5などは、感染後の細胞分裂が起こる後期に転写されて、ウイルス構造を構成するタンパク質であるが、これらの後期遺伝子を癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターで発現制御しても、標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞特異的にウイルス増殖制御を行なうことができる。このように、本発明の癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーター依存性増殖型ウイルスベクターにおいて癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターで発現制御されるウイルスタンパク質をコードする遺伝子は、ウイルスの複製またはアッセンブリに必須のウイルス遺伝子であれば、いずれのものでもよい。アデノウイルス以外のウイルスベクターを用いる場合、例えば、アデノ随伴ウイルスの場合であれば、p5プロモーターの制御下にあるRep78およびRep68、p19プロモーターの制御下にあるRep52およびRep40など、単純ヘルペスウイルスの場合であれば、ICP0、ICP4、ICP22、ICP27等の初期遺伝子産物、チミジンキナーゼなど、センダイウイルスの場合であれば、Nタンパク質、Pタンパク質、Lタンパク質などがそれぞれ挙げられる。
【0034】
かかる癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーター依存性増殖型ウイルスベクターは、ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸の内因性プロモーターを癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターで置換することにより得ることができる。好ましくは、本発明の増殖型ウイルスベクターがアデノウイルスベクターの場合、E1Aおよび/またはE1Bをコードする核酸、より好ましくは少なくともE1Aをコードする核酸が癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下におかれる。
【0035】
細胞内に導入された本発明の癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーター依存性CRVは、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターが活性化されない環境下(分化細胞や非癌化細胞)では増殖できないため、当該細胞は傷害を受けない。一方、本発明の癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーター依存性CRVが、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターが活性化される環境(標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞)内に侵入すると、そこでウイルスが増殖し、ウイルスタンパク質の細胞毒性により細胞が傷害される。溶解した細胞から放出されたウイルスは周辺のベクター未導入の未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞に次々と感染し、同様のステップが繰り返される。こうして、最終的には細胞集団内のすべての未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞に本発明の増殖型ウイルスベクターが導入され得る。
【0036】
ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸の少なくとも1つが癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下におかれていれば、ウイルスの増殖またはアッセンブリは癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターが活性化される環境下に限定されるので、他のウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸は癌細胞特異的遺伝子および未分化細胞特異的遺伝子のプロモーターとは異なる任意の外来性プロモーターの制御下に置かれてよい。例えば、癌細胞特異的遺伝子および未分化細胞特異的遺伝子のプロモーターとは異なる外来性プロモーターとして、哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターを使用する場合、サイトメガロウイルス (CMV) 由来プロモーター (例: CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス (HIV) 由来プロモーター (例: HIV LTR)、ラウス肉腫ウイルス (RSV) 由来プロモーター (例: RSV LTR)、マウス乳癌ウイルス (MMTV) 由来プロモーター (例: MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス (MoMLV) 由来プロモーター (例: MoMLV LTR)、単純ヘルペスウイルス (HSV) 由来プロモーター (例: HSVチミジンキナーゼ(TK) プロモーター)、SV40由来プロモーター (例: SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス(EBV) 由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス (AAV) 由来プロモーター (例: AAV p5プロモーター)、アデノウイルス (AdV) 由来プロモーター (Ad2またはAd5主要後期プロモーター)など、ならびにβ-アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質の遺伝子プロモーターなどの構成的プロモーターを用いることができる。癌細胞特異的遺伝子および未分化細胞特異的遺伝子のプロモーターとは異なる外来性プロモーターとしては、標的未分化細胞または腫瘍化原因細胞が混在する分化細胞で特異的に発現が亢進している因子のプロモーターや誘導性プロモーターを用いることもできる。分化細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターとしては、例えば、肝臓などに特異的なアルブミンおよびα−フェトプロテインのプロモーター、前立腺に特異的な前立腺特異的抗原(PSA)のプロモーター、筋肉や脳など様々な臓器に特異的なミトコンドリア型クレアチンキナーゼ(MCK)のプロモーター、ならびに、脳などの神経系に特異的なミエリン塩基性タンパク質(MB)、グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)および神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーターなどを例示できる。また、誘導性プロモーターとしては、例えば、メタロチオネイン−1遺伝子プロモーターなどを用いることができる。メタロチオネイン−1遺伝子プロモーターを用いた場合、金、亜鉛、カドミウム等の重金属、デキサメサゾン等のステロイド、アルキル化剤、キレート剤またはサイトカインなどの誘導物質を、所望の時期に標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞の存在位置(移植部位)に局所投与することにより、任意の時期に標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞にウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質の発現を誘導することができる。
また、2以上のウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸を癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下におく場合、用いるプロモーターは同一のプロモーターであってもよいし、異なるものであってもよい。例えば、TERTプロモーターとサバイビンプロモーターとを、1つのベクター内で併用することもできる。また、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーター依存性CRVが、更に細胞毒性因子をコードする核酸と機能的に結合した癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターを含む発現カセットを備えていてもよい。
【0037】
本発明のウイルスベクターは、ウイルスタンパク質の、分化細胞や非癌化細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域を欠損させてもよい。例えば、分化細胞や非癌化細胞でのアデノウイルス増殖のためには、細胞周期を回すためにRbやp53を不活性化することが必要であるが、未分化細胞および腫瘍化原因細胞ではすでに細胞周期が回っている状態にあるので、未分化細胞および腫瘍化原因細胞でのアデノウイルスの増殖には、E1AのRb結合領域やE1Bのp53結合領域は必要ではない。したがって、例えばアデノウイルスの場合、E1A24KDaの領域を欠損させ(E1AΔ24)、E1B55KDaの領域を欠損させ(E1BΔ55)、またはE1B19KDaの領域を欠損させる(E1BΔ19)ことにより、未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞特異的なウイルスの増殖が可能になる。このタイプのウイルスベクターの場合、ウイルスの複製に必要なタンパク質をコードする核酸が癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下におかれていなくても未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞特異的な増殖を起こすことができる。したがって、本発明は、ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードするいずれの核酸も癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下になく、分化細胞または非癌化細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域(例えば、E1A24KDaの領域、E1B55KDaの領域、および/またはE1B19KDaの領域)が欠損したウイルスベクターであって、癌細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下に細胞毒性因子をコードする核酸が機能的に結合されたベクターを含む。もちろん、分化細胞や非癌化細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域(例えば、E1A24KDaの領域、E1B55KDaの領域、および/またはE1B19KDaの領域)を欠損させたウイルスタンパク質をコードする核酸が、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下におかれてもよいし、該欠損ウイルスタンパク質以外のウイルスの複製に必要なタンパク質をコードする核酸のいずれかが、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下におかれてもよい。
本発明のベクターは、宿主細胞で自律増幅するための複製起点や、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子 (テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等) をさらに含有することもできる。
【0038】
本発明のベクターは、ウイルスベクターであっても非ウイルスベクターであってもよいが、好ましくはアデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス等のウイルスベクターである。アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能であり、導入遺伝子の宿主染色体への組込みが極めて稀である等の利点を有する。特に、パッケージングシグナル (ψ) 以外のアデノウイルスゲノムのほぼ全長を導入遺伝子に置換したgutted (gutless) ベクターの開発によって、第一世代ベクターにおける免疫原性の問題が解消され、それに伴い導入遺伝子発現の長期持続性が実現された。同様に、アデノ随伴ウイルスも、比較的遺伝子導入効率が高く、非分裂細胞にも導入可能で、動物実験で生体内投与により導入遺伝子の発現が長期にわたって持続することが知られているので、本発明におけるウイルスベクターとして好ましい。
【0039】
本発明の好ましい一実施形態では、本発明者らが開発した多因子がん特異的増殖制御型組換えアデノウイルス系(m-CRA;特開2005-046101号及び国際公開第2005/012536号)の一部として、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターを用いる。m-CRAの構築に好適に用いられるプラスミドベクターの例を、
図1に提示する。図中で、プラスミドベクターP1のうち、プロモーターAおよび/またはプロモーターBとして癌細胞特異的遺伝子プロモーターを用い、プラスミドベクターP2のプロモーターC(細胞毒性因子の発現を制御する)として、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターもしくは別の標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞特異的プロモーターまたは構成的プロモーター等の他の任意のプロモーターを用いることができる。標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞特異的プロモーターとしては、未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞でのみ特異的に発現する上記の各種プロモーターを例示できる。プロモーターCに制御される細胞毒性因子としては、上記した各種細胞毒性因子を例示できる。
後述の実施例に示した具体的な実施形態では、TERTまたはサバイビンプロモーターと機能的に連結したE1A遺伝子(24KDa領域を欠損していてもよい)、および構成的プロモーター(CMVプロモーターなど)と機能的に連結したE1B遺伝子(19KDaまたは55KDa領域を欠損していてもよい)を含むプラスミドベクターP1、構成的プロモーター(CMVプロモーターなど)と機能的に連結されたレポーター遺伝子(細胞毒性因子のモデル系として)を含むプラスミドベクターP2、ならびにE1領域を欠失するアデノウイルスゲノム(ファイバー遺伝子内に標的細胞特異的な変異を有していてもよい)を含むバックボーンプラスミドP3が提供される。これら3種のプラスミドを適宜組み合わせ、CreリコンビナーゼloxPシステムを用いてプラスミド融合と、各プラスミドに搭載された薬剤耐性遺伝子とoriを利用した目的プラスミドの選択により、TERTまたはサバイビンプロモーター-E1A発現カセット、構成的プロモーター-E1B発現カセットおよび構成的プロモーター-細胞毒性因子発現カセットを搭載した、未分化細胞特異的増殖型アデノウイルス(CRA)ベクタープラスミドを作製する。続いて該ベクターを用いて、E1Aを相補する細胞株(例:293細胞)にトランスフェクションすることにより、CRAベクターを作製することができる。
図2Bに示したm-CRAベクターは、E1Aの発現を制御するプロモーター(TERTまたはサバイビン)、E1B遺伝子(E1BΔ55K)の2因子でベクターの増殖が制御されているが、E1A遺伝子、E1Bの発現を制御するプロモーター、細胞毒性因子の発現を制御するプロモーター、細胞毒性因子、さらにはバックボーンのファイバー遺伝子を他の要素に置換することにより、さらに多因子による高度な増殖および発現制御が可能となる。
【0040】
本発明の非ウイルスベクターは、癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下にある細胞毒性因子をコードする核酸を含む発現カセットを含む。ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド (例: pBR322、pBR325、pUC12、pUC13)、枯草菌由来のプラスミド (例: pUB110、pTP5、pC194)、酵母由来プラスミド (例: pSH19、pSH15)、動物細胞発現プラスミド (例: pA1-11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neo) などを用いることができる。ここで「細胞毒性因子」とは上記と同義である。
本発明の非ウイルスベクターは、上記の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製起点などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素 (dhfr) 遺伝子 [メソトレキセート (MTX) 耐性]、アンピシリン耐性(Amp
r) 遺伝子、ネオマイシン耐性 (Neo
r) 遺伝子 (G418耐性) 等が挙げられる。
非ウイルスベクターを使用する場合、該ベクターの導入は、ポリL-リジン-核酸複合体などの高分子キャリアーを用いるか、リポソームに被包して行うことができる。リポソームはリン脂質からなる数10〜数100 nmの粒径のカプセルで、その内部に癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下にある細胞毒性因子をコードする核酸を含むプラスミド等のベクターを封入できる。あるいは、パーティクルガン法を用いてベクターを標的細胞に直接導入することもできる。
【0041】
本発明の少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターが癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターで置換されていることを特徴とする標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞特異的増殖型ウイルスベクター、あるいは癌細胞または未分化細胞特異的遺伝子プロモーターの制御下にある細胞毒性因子を含むベクターは、標的未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞で特異的に増殖させあるいは該細胞毒性因子を発現させることができるので、必要に応じて薬理学的に許容し得る担体とともに混合して注射剤などの種々の製剤形態とした後に、未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤、好ましくは、幹細胞、特に多能性幹細胞から分化誘導された細胞集団内に残存する未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞を選択的に殺傷する薬剤として用いることができる。ここで薬理学的に許容し得る担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤; 液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
【0042】
賦形剤の好適な例としては、乳糖、白糖、D-マンニトール、D-ソルビトール、デンプン、α化デンプン、デキストリン、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム、プルラン、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムなどが挙げられる。
滑沢剤の好適な例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、コロイドシリカなどが挙げられる。
結合剤の好適な例としては、α化デンプン、ショ糖、ゼラチン、アラビアゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、白糖、D-マンニトール、トレハロース、デキストリン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。
崩壊剤の好適な例としては、乳糖、白糖、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースなどが挙げられる。
溶剤の好適な例としては、注射用水、生理的食塩水、リンゲル液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油などが挙げられる。
溶解補助剤の好適な例としては、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D-マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどが挙げられる。
懸濁化剤の好適な例としては、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、 モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤、例えばポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子、ポリソルベート類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油などが挙げられる。
等張化剤の好適な例としては、塩化ナトリウム、グリセリン、D-マンニトール、D-ソルビトール、ブドウ糖などが挙げられる。
緩衝剤の好適な例としては、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液などが挙げられる。
無痛化剤の好適な例としては、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
防腐剤の好適な例としては、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸などが挙げられる。
抗酸化剤の好適な例としては、亜硫酸塩、アスコルビン酸塩などが挙げられる。
着色剤の好適な例としては、水溶性食用タール色素(例: 食用赤色2号および3号、食用黄色4号および5号、食用青色1号および2号などの食用色素)、水不溶性レーキ色素 (例:前記水溶性食用タール色素のアルミニウム塩など)、天然色素 (例: β-カロチン、クロロフィル、ベンガラなど) などが挙げられる。
甘味剤の好適な例としては、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテーム、ステビアなどが挙げられる。
【0043】
本発明のベクターを含有する未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤の投与は、幹細胞から分化誘導された細胞集団にベクター導入を行い、一定期間培養して残存する未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞を殺傷除去した後に、得られた分化細胞を患者に移植するex vivo法と、幹細胞から分化誘導された細胞集団とは別個に、患者に投与するin vivo法のいずれかで行われるが、患者体内に内在する幹細胞をも殺傷するリスクがあるので、in vivo法の場合、該製剤の投与は、例えば、細胞移植部位への局所注入、本発明のベクターを組み込んだインプラントの細胞移植部位への移植などにより行うことが望ましい。ex vivo法の場合、標的細胞へのベクターの導入は、マイクロインジェクション法、リン酸カルシウム共沈殿法、PEG法、エレクトロポレーション法等により行うことができる。in vivo法の場合、本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤の投与は、細胞移植に先立って行ってもよいし、細胞移植と同時もしくは移植後に行ってもよい。
【0044】
本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤を用いることができる、未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞が残存するおそれのある分化細胞集団は、例えば、以下のようにして提供される。
【0045】
(a)幹細胞
分化細胞を誘導するソースとなる幹細胞は、多能性もしくは多分化能と、未分化状態を保持したまま増殖できる自己複製能とを有する細胞であれば特に限定されず、ES細胞、iPS細胞、始原生殖細胞に由来する胚性生殖(EG)細胞、精巣組織からのGS細胞の樹立培養過程で単離されるmultipotent germline stem(mGS)細胞、骨髄から単離されるmultipotent adult progenitor cell(MAPC)等の多能性幹細胞や、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞、神経幹細胞、血管内皮前駆細胞等の組織幹細胞が例示されるが、好ましくは多能性幹細胞であり、より好ましくはES細胞およびiPS細胞である。ES細胞は体細胞から核初期化されて生じたES細胞であってもよい。幹細胞の由来する動物種はいずれかの幹細胞が樹立されているか、樹立可能である、任意の哺乳動物であってよく、例えば、ヒト、マウス、サル、ブタ、ラット、イヌ等が挙げられるが、好ましくはヒトまたはマウスである。
【0046】
(b)多能性幹細胞の製造方法
iPS 細胞は、ある特定の核初期化物質を、核酸又はタンパク質の形態で体細胞に導入することによって作製することができる。
本明細書中で使用する「体細胞」は、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、サル、ブタ、ラット等)由来の生殖細胞以外のいかなる細胞であってもよく、例えば、角質化する上皮細胞(例、角質化表皮細胞)、粘膜上皮細胞(例、舌表層の上皮細胞)、外分泌腺上皮細胞(例、乳腺細胞)、ホルモン分泌細胞(例、副腎髄質細胞)、代謝・貯蔵用の細胞(例、肝細胞)、境界面を構成する内腔上皮細胞(例、I型肺胞細胞)、内鎖管の内腔上皮細胞(例、血管内皮細胞)、運搬能をもつ繊毛のある細胞(例、気道上皮細胞)、細胞外マトリックス分泌用細胞(例、線維芽細胞)、収縮性細胞(例、平滑筋細胞)、血液と免疫系の細胞(例、Tリンパ球)、感覚に関する細胞(例、桿細胞)、自律神経系ニューロン(例、コリン作動性ニューロン)、感覚器と末梢ニューロンの支持細胞(例、随伴細胞)、中枢神経系の神経細胞とグリア細胞(例、星状グリア細胞)、色素細胞(例、網膜色素上皮細胞)、およびそれらの前駆細胞 (組織前駆細胞) 等が挙げられる。細胞の分化の程度や細胞を採取する動物の齢などに特に制限はなく、未分化な前駆細胞 (体性幹細胞も含む) であっても、最終分化した成熟細胞であっても、同様に本発明における体細胞の起源として使用することができる。ここで未分化な前駆細胞としては、例えば神経幹細胞、造血幹細胞、間葉系幹細胞、歯髄幹細胞等の組織幹細胞(体性幹細胞)が挙げられる。
【0047】
核初期化物質は、ES細胞に特異的に発現している遺伝子もしくはES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子、またはその遺伝子産物であれば良く、特に限定されないが、例えば、Oct3/4, Klf4, Klf1, Klf2, Klf5, Sox2, Sox1, Sox3, Sox15, Sox17, Sox18, c-Myc, L-Myc, N-Myc, TERT, SV40 Large T antigen, HPV16 E6, HPV16 E7, Bmil, Lin28, Lin28b, Nanog, EsrrbまたはEsrrgが例示される。これらの核初期化物質は、iPS細胞樹立の際には、組み合わされて使用されてもよい。例えば、上記核初期化物質を、少なくとも1つ、2つもしくは3つ含む組み合わせであり、好ましくは4つを含む組み合わせである。
上記の各核初期化物質のマウスおよびヒトcDNAのヌクレオチド配列は、WO 2007/069666に記載のNCBI accession numbersを参照すること、またL-Myc、Lin28、Lin28b、EsrrbおよびEsrrgのマウスおよびヒトのcDNA配列情報については、それぞれ下記NCBI accession numbersを参照することにより取得できる。当業者は、当該cDNA配列またはアミノ酸配列情報に基づいて、常法により所望の核初期化物質を調製することができる。
遺伝子名 マウス ヒト
L-Myc NM_008506 NM_001033081
Lin28 NM_145833 NM_024674
Lin28b NM_001031772 NM_001004317
Esrrb NM_011934 NM_004452
Esrrg NM_011935 NM_001438
【0048】
これらの核初期化物質を、核酸の形態で体細胞へ導入する場合、発現ベクターを用いてもよい。本発明における、発現ベクターは、例えば、プラスミド、人工染色体ベクター、およびウイルスベクターが挙げられる。人工染色体ベクターとしては、例えばヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)などが含まれる。また、ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 85, 348-62, 2009)などが例示される。また、プラスミドとしては、哺乳動物細胞用プラスミドを使用しうる(Science, 322:949-953, 2008およびWO 2009/032456)。本発明において発現ベクターは、プラスミド、人工染色体ベクターなどは、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクション、遺伝子銃法などの手法により体細胞内へ導入することができ、ウイルスベクターの場合は、感染により体細胞内へ導入することができる。発現ベクターには、核初期化物質が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、内部リボソーム進入部位(IRES)、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができる。
【0049】
使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。なかでも、EF1αプロモーター、CAGプロモーター、MoMuLV LTR、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが挙げられる。
さらに、必要に応じて、薬剤耐性遺伝子(例えばカナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子など)、チミジンキナーゼ遺伝子、ジフテリアトキシン遺伝子などの選択マーカー配列、緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質、βグルクロニダーゼ(GUS)、FLAGなどのレポーター遺伝子配列などを含むことができる。また、上記発現ベクターには、体細胞への導入後、核初期化物質をコードする遺伝子もしくはプロモーターとそれに結合する核初期化物質をコードする遺伝子を共に切除するために、それらの前後にLoxP配列を有してもよい。別の好ましい一実施態様においては、トランスポゾンを用いて染色体に導入遺伝子を組み込んだ後に、プラスミドベクターもしくはアデノウイルスベクターを用いて細胞に転移酵素を作用させ、導入遺伝子を完全に染色体から除去する方法が用いられ得る。好ましいトランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac等が挙げられる(Kaji, K. et al., Nature, 458: 771-775 (2009)、Woltjen et al., Nature, 458: 766-770 (2009) 、WO 2010/012077)。さらに、上記発現ベクターには、染色体への組み込みがなくとも複製されて、エピソーマルに存在するように、リンパ指向性ヘルペスウイルス(lymphotrophic herpes virus)、BKウイルスおよび牛乳頭腫(Bovine papillomavirus)の起点とその複製に係る配列を含んでいてもよい。例えば、EBNA-1およびoriPもしくはLarge TおよびSV40ori配列を含むことが挙げられる(WO 2009/115295、WO 2009/157201およびWO 2009/149233)。また、複数の核初期化物質を同時に導入するために、ポリシストロニックに発現させる発現ベクターを用いてもよい。ポリシストロニックに発現させるためには、遺伝子をコードする配列の間は、IRESまたはピコルナウイルス(口蹄病ウイルス(FMDV)、馬鼻炎Bウイルス(ERAV)、Thosea asigna ウイルス(TaV)等)由来2A配列により結合されていてもよい(Science, 322:949-953, 2008; BMC Biology, 6:40, 2008; WO 2009/092042およびWO 2009/152529)。
【0050】
核初期化物質をタンパク質の形態で導入する場合、例えばリポフェクション、細胞膜透過性ペプチドとの結合、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入してもよい。
【0051】
核初期化に際して、iPS細胞の誘導効率を高めるために、上記の因子の他に、例えば、ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNAおよびshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool
TM (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-azacytidine)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNAおよびshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNAおよびshRNA)(Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、Wnt signaling activator(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、LIFまたはbFGFなどのサイトカイン、ALK5阻害剤(例えば、SB431542)(Nat Methods, 6: 805-8 (2009))、mitogen-activated protein kinase signalling阻害剤、glycogen synthase kinase-3阻害剤(PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、miR-291-3p、miR-294、miR-295などのmiRNA (R.L. Judson et al., Nat. Biotech., 27:459-461 (2009))、等を使用することができる。
iPS細胞誘導のための培養培地としては、例えば(1) 10〜15% FBS又はノックアウト血清リプレースメント(KSR)を含有するDMEM、DMEM/F12又はDME培地(これらの培地にはさらに、LIF、penicillin/streptomycin、puromycin、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)、(2) bFGF又はSCFを含有するES細胞培養用培地、例えばマウスES細胞培養用培地(例えばTX-WES培地、トロンボX社)又は霊長類ES細胞培養用培地(例えば霊長類(ヒト&サル)ES細胞用培地、リプロセル、京都、日本)、などが含まれる。このとき、iPS細胞の誘導効率を高めるために、低タンパク質培地もしくは細胞周期停止剤含有培地を用いても良い(WO 2010/004989)。
【0052】
培養法の例としては、例えば、37℃、5% CO
2存在下にて、10% FBS含有DMEM又はDMEM/F12培地上で体細胞と核初期化物質 (核酸又はタンパク質) を接触させ約4〜7日間培養し、その後、細胞をフィーダー細胞 (例えば、マイトマイシンC処理マウス胎仔線維芽細胞(MEF)、STO細胞、SNL細胞等) 上にまきなおし、体細胞と核初期化物質の接触から約10日後からbFGF含有霊長類ES細胞培養用培地で培養し、該接触から約30〜約45日又はそれ以上ののちにiPS様コロニーを生じさせることができる。また、iPS細胞の誘導効率を高めるために、5-10%と低い酸素濃度の条件下で培養してもよい(WO 2010/013845)。
【0053】
あるいは、その代替培養法として、フィーダー細胞 (例えば、マイトマイシンC処理MEF、STO細胞、SNL細胞等) 上で10% FBS含有DMEM培地(これにはさらに、LIF、ペニシリン/ストレプトマイシン、ピューロマイシン、L-グルタミン、非必須アミノ酸類、β-メルカプトエタノールなどを適宜含むことができる。)で培養し、約25〜約30日又はそれ以上の後にES様コロニーを生じさせることができる。
上記培養の間には、培養開始2日目以降から毎日1回新鮮な培地と培地交換を行う。また、核初期化に使用する体細胞の細胞数は、限定されないが、培養ディッシュ100cm
2あたり約5×10
3〜約5×10
6細胞の範囲である。
【0054】
マーカー遺伝子として薬剤耐性遺伝子を含む遺伝子を用いた場合は、対応する薬剤を含む培地(選択培地)で培養を行うことによりマーカー遺伝子発現細胞を選択することができる。またマーカー遺伝子が蛍光タンパク質遺伝子の場合は蛍光顕微鏡で観察することによって、発光酵素遺伝子の場合は発光基質を加えることによって、また発色酵素遺伝子の場合は発色基質を加えることによって、マーカー遺伝子発現細胞を検出することができる。
【0055】
ES細胞の作製方法としては、例えば、哺乳動物の胚盤胞ステージにおける内部細胞塊を培養する方法(例えば、Manipulating the Mouse Embryo A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press (1994) を参照)、体細胞核移植によって作製された初期胚を培養する方法(Wilmut et al., Nature, 385, 810 (1997); Cibelli et al., Science, 280, 1256 (1998); 入谷明ら, 蛋白質核酸酵素, 44, 892 (1999); Baguisi et al., Nature Biotechnology,17, 456 (1999); Wakayama et al., Nature, 394, 369 (1998); Wakayama et al., Nature Genetics, 22, 127 (1999); Wakayama et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96, 14984 (1999); RideoutIII et al., Nature Genetics, 24, 109 (2000))などが挙げられるが、これらに限定されない。また、ES細胞は、所定の機関より入手でき、さらには市販品を購入することもできる。例えば、ヒトES細胞であるKhES-1、KhES-2、KhES-3、KhES-4およびKhES-5は、京都大学再生医科学研究所より入手可能である。
体細胞核移植による場合、体細胞の種類や体細胞を採取するソースは上記iPS細胞の場合に準ずる。
EG細胞は、常法に従って始原生殖細胞を単離し、これをLIF、bFGFおよびSCFの存在下で培養することにより誘導することができる。また、mGS細胞はWO 2005/100548に記載される方法に従って、精巣細胞から作製することができる。多能性成体前駆細胞(MAPC)はJ. Clin. Invest. 109:337-346 (2002) に記載される方法に従って、骨髄から単離することができる。
種々の組織幹細胞は、それぞれ自体公知の手法によって単離・培養することができる。
【0056】
(c)幹細胞から各種体細胞への分化誘導
幹細胞から各種体細胞への分化誘導は、自体公知の任意の方法により実施することができる。例えば、ヒトES細胞を放射線照射したC3H10T1/2細胞株と共培養して嚢状構造体(ES-sac)を誘導することにより造血前駆細胞に分化させることができる(Blood, 111: 5298-306, 2008)。ES細胞からの神経幹細胞・神経細胞の分化誘導法としては、胚様体形成法(Mech Div 59(1) 89-102, 1996)、レチノイン酸法(Dev Biol 168(2) 342-57, 1995)、SDIA法(Neuron 28(1) 31-40, 2000)、NSS法(Neurosci Res 46(2) 241-9, 2003)など様々な方法が知られている。ES細胞から心筋細胞への誘導方法としては、これまでにレチノイン酸、TGFβ1、FGF、dynorphin B、アスコルビン酸、一酸化窒素、FGF2とBMP2、Wnt11、PP2、Wnt3a/Wnt阻害剤などの因子を培地に添加する方法や、Nogginによる心筋分化誘導法(Nat Biotechnol 23(5) 611, 2005)などが報告されている。さらに、SDIA法およびSFEB法によるES/iPS細胞からの網膜細胞の分化誘導法(Nat Neurosci 8 288-96, 2005)なども知られているが、これらに限定されない。また、造血幹細胞から各種造血細胞への分化誘導法、血管内皮前駆細胞から血管細胞への分化誘導法、神経幹細胞からの各種神経細胞への分化誘導法、間葉系幹細胞からの脂肪細胞や筋管細胞などの分化誘導法など、組織幹細胞から体細胞への分化誘導法も当該技術分野において周知である。
【0057】
(d)分化細胞集団と本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤との接触
上記のようにして得られる幹細胞から分化誘導された細胞集団と、本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤との接触(ex vivo法)は、通常の細胞へのベクター導入法に準じて行うことができる。
一方、in vivo法における本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤の投与量は、ベクターの種類、標的細胞におけるプロモーター活性、細胞毒性因子の種類、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、例えば、ウイルスベクターとして未分化細胞または腫瘍化原因細胞特異的増殖型アデノウイルスを用いる場合、従来のがん遺伝子治療の臨床試験において、ウイルス粒子 (particle)で1x10
10〜10
12 particle/腫瘍を用いて安全性が確認されているため、同量が投与の目安となる(Molecular Therapy, 18: 429-434, 2010)。一方、非ウイルスベクターをリポソームに被包して用いる場合には、体重約4 kgのカニクイザルを用いた臨床研究では666 μgのDNAを静脈投与して安全性が確認されているため同量が目安となる。例えば成人1回投与量は約2〜約10 mgで、好ましくは約5〜約8 mgである。
【0058】
上記のようにして得られる、未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞が殺傷除去された均一な分化細胞は、常套手段にしたがって医薬上許容される担体と混合するなどして、注射剤、懸濁剤、点滴剤等の非経口製剤として製造される。当該非経口製剤に含まれ得る医薬上許容される担体としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液(例えば、D-ソルビトール、D-マンニトール、塩化ナトリウムなど)などの注射用の水性液を挙げることができる。本発明の移植療法剤は、例えば、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩化ベンザルコニウム、塩酸プロカインなど)、安定剤(例えば、ヒト血清アルブミン、ポリエチレングリコールなど)、保存剤、酸化防止剤などと配合しても良い。本発明の移植療法剤を水性懸濁液剤として製剤化する場合、上記水性液に約1×10
6〜約1×10
8細胞/mLとなるように、分化細胞を懸濁させればよい。
本発明の移植療法剤は、細胞の凍結保存に通常使用される条件で凍結保存された状態で提供され、用時融解して用いることもできる。その場合、血清もしくはその代替物、有機溶剤(例、DMSO)等をさらに含んでいてもよい。この場合、血清もしくはその代替物の濃度は、特に限定されるものではないが約1〜約30% (v/v)、好ましくは約5〜約20% (v/v)であり得る。有機溶剤の濃度は、特に限定されるものではないが0〜約50% (v/v)、好ましくは約5〜約20% (v/v) であり得る。
【0059】
本発明はまた、幹細胞から分化誘導された細胞集団に本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤を接触させ、該細胞集団内に残存する未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞の殺傷の程度を検定することによる、幹細胞からの分化誘導における腫瘍化リスクの評価方法を提供する。後述の実施例に示されるとおり、形態学的には分化した形態を呈する細胞であっても、RT-PCR解析によると未分化マーカーの発現を依然として認めるものが少なくない。本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤は、そのような形態学的には分化細胞と判断されるが未分化状態をある程度保持している細胞をも殺傷し得るので、当該殺傷の程度を検定することにより、ある方法によって分化誘導された細胞集団が移植後に腫瘍化するリスクが高いか否かを、分化/未分化マーカーの発現解析を行うことなく評価することができる。
【0060】
本発明はまた、幹細胞から分化誘導された細胞集団に本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤を接触させることにより得られる、残存する未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞が低減された分化細胞(目的細胞)を、当該目的細胞において病態を発現する疾患のメカニズムの解明や治療薬の開発などといった、基礎研究並びに創薬研究・開発のための各種細胞実験への利用に関する。
かかる目的において、好ましくは目的細胞を誘導するための幹細胞もしくはその由来となる体細胞は、目的の疾患に罹患した患者由来の細胞であることが望ましい。例えば、患者由来の体細胞や細胞バンクの疾患細胞から疾患特異的ヒトiPS細胞を樹立する方法は、Nature, 461: 402-406, 2009 (家族性自律神経失調症); Science, 321: 1218-1221, 2008 (ALS); Cell, 134: 877-886, 2008 (ADA-SCID、Shwachman-Bodian-Diamond syndrome、ゴーシェ病III型、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、パーキンソン病、ハンチントン病、I型糖尿病、ダウン症候群); Cell, 136: 964-977, 2009 (パーキンソン病); Nature, 457(7227): 277-280, 2009 (脊髄性筋萎縮症); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106: 9826-9830, 2009 (サラセミア); Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106: 15768-15773, 2009 (I型糖尿病); Cell, 143(4): 527-539, 2010 (レット症候群); Nature. 465(7299): 808-812, 2010 (LEOPARD症候群) 等に記載されている。
得られた疾患特異的ヒトiPS細胞から疾患標的組織あるいは細胞へ分化誘導することにより、その病態を初期から経時的に解析することができる。また、健常者から樹立した正常iPS細胞との間で、分化過程における遺伝子発現や細胞機能を比較検討することにより、疾患に関する臨床的知見の検証や、疾患に関与する分子の探索が可能となる。
上記のような疾患のメカニズム解明等の研究に関し、本発明はまた、幹細胞から分化誘導された細胞集団に本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤を接触させることにより得られる、残存する未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞が低減された分化細胞を含有してなる生物学的研究用試薬を提供する。当該試薬は、上記移植療法剤と同様に、当該分化細胞に必要に応じて薬理学的上許容される各種添加剤を配合して製造することができる。
さらに、ヒトiPS細胞から分化誘導し、本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤を接触させて残存する未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞を低減させた分化細胞に化合物ライブラリーを接触させ、目的の疾患に対する治療効果の指標となる細胞機能の変化を測定することにより、当該疾患に対して治療活性を有する化合物を医薬品候補化合物として選択することができる。例えば、ヒトiPS細胞から神経細胞を分化誘導し(例えばProc. Natl. Acad. Sci. USA, 105: 5856, 2008参照)、本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤を用いて未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞を殺傷除去した後、当該神経細胞に被検物質を接触させ、神経細胞死、神経突起伸長、電気生理などに関した機能アッセイを行うことにより、神経機能の改善効果を示した被検物質を神経変性疾患等の治療薬候補として選択することができる。さらに、選択的な分化培養法により得られた各種成熟神経(ドーパミン神経、アセチルコリン神経等)を用いて神経伝達物質に関したアッセイ系を構築することもできる。
また、前記疾患特異的ヒトiPS細胞を利用した薬効評価系として、例えば、遺伝性の変異を有するALS患者やAD患者等から疾患特異的iPS細胞を樹立し、病態(例えば、Aβ産生異常、タウ蓄積異常、神経変性等)を反映する神経細胞へと分化させ、本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤を用いて未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞を殺傷除去した後、当該神経細胞に被検物質を接触させ、当該病態の改善の有無やその程度を指標として、孤発性のALSやADの治療薬の候補化合物を選択することもできる。
【0061】
一方、薬物の毒性評価試験の中で創薬の比較的初期の段階から細胞評価系を用いた心毒性や肝毒性の予測が行われている。薬剤による重篤な副作用の1つにQT延長に伴う心室性不整脈があるが、QT延長の主なメカニズムとしてHERGチャネルの阻害が知られており、HERGチャネルを発現させた動物培養細胞を用いて電気生理学的に薬物の心毒性を評価する方法が広く活用されている(Biophys. J., 74: 230, 1998)。しかしながら、より生理的な条件を反映したiPS細胞由来の心筋細胞を用いれば、効率的でより精度の高い心毒性評価が可能となる。例えば、ヒトiPS細胞から心筋細胞を分化誘導し(例えばCirculation, 118: 498, 2008参照)、本発明の未分化細胞/腫瘍化原因細胞殺傷剤を用いて未分化細胞および/または腫瘍化原因細胞を殺傷除去した後、当該心筋細胞コロニーから拍動領域をピックアップして多電極測定機器の電極上に配置し、被検物質の存在下で細胞外電位測定を行い、QT間隔の延長の有無やその程度を検定することにより、QT延長作用を示した被検物質を心毒性を有する物質であるとして、医薬品候補から除外することができる。
【0062】
本発明を以下の実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
参考例1 ES/iPS細胞における癌細胞特異的遺伝子の発現
(1)FACSによる未分化細胞の分取
Rock阻害剤(10 μM Y27632)で一晩処理したヒトES細胞(KhES1: 京都大学より譲渡)、ヒトiPS細胞(201B7、253G1: 以上、理研セルバンク)をトリプシン処理し単細胞へ分散した。細胞数のカウント後、必要量の細胞を遠心し(1,000rpm、5 min) 、10 μM Y27632を含むPBSで再懸濁した。Alexa Fluor(登録商標)488 anti-human SSEA4 (BioLegend)とAlexa Fluor(登録商標)647 anti-human TRA-1-81 (BioLegend) の二種類の未分化細胞標識抗体を用い細胞懸濁液100 μl (1×10
6cell) あたり5 μlの標識抗体を加え氷上で30分間静置して、細胞のラべリングを行った。10 μM Y27632を含むPBSで2回洗浄したのち、10 μM Y27632を含むES/iPS用培地に懸濁し、両抗体に標識されたiPS/ES細胞を未分化細胞として分取した。分取した細胞は直ちに遠心し(1,000rpm、 7 min)、新しい培地に再懸濁し、MEF細胞と共培養を行った。細胞分取には、BD FACSAria
TM IIを用いた。
(2)RT-PCR解析
(1)で調製した細胞から以下の方法でtotal RNAを抽出した。細胞をPBSで洗浄、上清を除去した後Sepazol RNA I (nacalai tesque) を2 ml加え、ボルテックスミキサーで激しく撹拌し、5分間室温で静置した。クロロホルム200 μlを加えて転倒混和し、室温で3分間静置した。そして、4℃、12,000 gで15分間遠心し、水相(上相)を別のサンプルに移し、イソプロパノールを加えて混和し、室温で10分間静置した。再度、4℃、12,000 gで15分間遠心し、残った沈殿に75%エタノールを1-2 ml 加えて撹拌し、沈殿を十分懸濁させ、再度、4℃、12,000 gで15分間遠心し、上清を除き、得られた沈殿を5分間ほど自然乾燥した。DEPC水を加え、60℃で15分間加熱した後、4℃で静置した。次に、PrimerScript
TM II 1st strand cDNA synthesis kit (Takara)を用いて逆転写反応を行った。5 μgのtotal RNAをOligo dT primer(1 μl), dNTP mixture(1 μl), RNase free dH2O(up to 10 μl)に加え、これらの混合液を65℃で5分間静置した後、すぐに氷で冷却後、遠心し、5×PrimerScriptII Buffer(4 μl)、RNase Inhibitor(0.5 μl)、PrimerScriptIIRTase(1 μl)、RNase free dH2O(up to 20 μl)を加えて穏やかに撹拌した。42℃で30分静置し、95℃で5分間加熱した後氷上で冷却した。得られたcDNAを鋳型とし、EXTaq (Takara) を用いて、サバイビン、TERTそれぞれの遺伝子について発現の有無を確認した。GAPDHをコントロールとして用いた。その結果、サバイビン、TERTとも未分化細胞で発現していることが確認できた(
図3)。尚、今回用いたプライマーのセットとそれぞれのPCR条件(アニーリング温度、時間、cycle数)については表1の通りである。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例1 プロモーターアッセイと未分化細胞特異的な外来遺伝子発現
Rock阻害剤で一晩処理したヒトES細胞(KhES1)およびヒトiPS細胞(201B7、253G1)を6 well plateに3×10
5で播種した。翌日、1 wellあたりの細胞数を計測し、サバイビン、TERT、RSVおよびCMVプロモーターの制御下にあるlacZ遺伝子を搭載した非増殖型アデノウイルス(Ad.Survivn-LacZ、Ad.TERT-LacZ、Ad.RSV-LacZ、Ad.CMV-LacZ;
図2a)をMOI 10で感染させ、プロモーターアッセイを行った。
感染2日後に細胞をPBSで洗浄後、各細胞に5倍希釈したReporter Lysis Buffer 5X (Promega) 250 μl/well加え、室温で15分間静置した。スクレーパーで細胞を1.5 mlチューブに回収し、10-15秒の間ボルテックスで撹拌した後、4℃、15,000 rpm、2分間遠心した。得られた上清を用いてβ-Galactosidase測定を行った。タンパク定量は、0.1% BSAをStandardとして用いた。得られた各細胞の上清5 μlを96 well plateに入れ、4 倍希釈したBio Rad Protein Assay 試薬(Bio Rad Laboratories,Inc.)を100 μl加え、吸光度595 nmで測定した。段階希釈したBSAにより得られた検量線からタンパク量を算出した。β-Galactosidase測定では、Standardとして、10,000倍希釈したβ-Galactosidase (Promega)を段階希釈したものを用いた。各細胞の上清50 μlおよびStandard を96 well plateに入れ、Assay 2×Buffer(Promega)を50 μl加え、37℃、30分間インキュベートした。30分経過後直ちに、1 M sodium Carbonate(Promega) 150 μlを加えて反応を止め、420 nmでの吸光度を測定し、プロモーター活性を比較した。その結果、サバイビン、TERTプロモーターとも、未分化細胞において、ポジティブコントロールとして用いた恒常的プロモーター(RSVおよびCMVプロモーター)に匹敵するプロモーター活性を示した(
図4)。
これらの結果より、癌細胞特異的遺伝子のプロモーターを用いて未分化細胞特異的な外来遺伝子の発現が可能であることが明らかとなった。また、本発明者等の過去の詳細な研究により、例えばHSV-tk(Herpes simplex virus thymidine kinase)遺伝子などの細胞傷害性遺伝子は、RSVプロモーターの活性強度があれば必要十分以上の(RSVプロモーターの活性強度よりかなり低いプロモーター活性でも十分な)、細胞傷害効果を誘導できることが明らかとなっている(Hepatology. 2003 37(1):155-63.)。よって、上記の結果から、SurvivinやTERTなどの癌細胞特異的プロモーターにHSV-tk遺伝子などの細胞傷害性遺伝子を繋げれば、ES細胞やiPS細胞から分化誘導した細胞集団内に残存する未分化細胞を十分に殺傷できることは明らかである。
【0066】
実施例2 in vitroにおけるm-CRAの未分化細胞殺傷効果
Rock阻害剤で一晩処理したヒトES細胞(KhES1)およびヒトiPS細胞(201B7、253G1)を96 well plateに1 wellあたり4〜6x10
4で播種した。翌日、1 wellあたりの細胞数を計測後、二種類のm-CRA(TERT.m-CRA、Survivin.m-CRA;
図2b)または非増殖型アデノウイルスベクター(Ad.CA-EGFP;
図2a)を、それぞれMOI 3、またはMOI 10で感染させ、ウイルス感染1日後、2日後、3日後、4日後、7日後にWST-8により非感染細胞群に対するm-CRA感染細胞の生細胞の割合を計測した。
感染1日後では細胞へのウイルス導入はみられるものの、非増殖型ウイルス、m-CRAともに細胞傷害効果はみられなかった。感染2日後以降になると、非増殖型ウイルスと比較してm-CRAでは細胞傷害効果が顕著に見られ、m-CRA感染細胞では、生細胞数が減少していることが確認でき、有意な細胞傷害効果が確認できた(
図5−1〜5−3)。また、Survivin.m-CRAとTERT.m-CRAを比較すると、Survivin.m-CRAの方がより強い細胞傷害効果を示した。この結果は、サバイビンプロモーターの方がTERTプロモーターより活性が高いという参考例2のプロモーターアッセイ結果を反映していた。hES細胞(
図5−3)とhiPS細胞(
図5−1、5−2)との細胞傷害効果を比較すると、hiPS細胞の方がm-CRAによる細胞傷害効果が強く現れた。
【0067】
実施例3 サバイビンまたはTERTで増殖制御されるm-CRAを用いた未分化細胞の除去
ヒト多能性幹細胞の維持培養プロトコル(理化学研究所)に従い、matrigel上に、Rock阻害剤で一晩処理したKhES1、201B7株、253G1株を分散培養し、DMEM (10% FCS) で培養することにより自発的な分化を促した。1週間後にサバイビンまたはTERTで増殖制御されるm-CRA(TERT.m-CRA、Survivin.m-CRA;
図2b)をMOI 10で1時間感染させ、feeder細胞であるマイトマイシンC処理したMEF上に播きなおし、ES/iPS細胞用培地で培養することにより残存未分化細胞が増殖できる環境下に置いた。さらに約2週間後に培地を除去後、アルカリフォスファターゼ染色を行い、未分化細胞を選択的に染色した後、10%ホルマリンで固定し、肉眼下で未分化細胞のコロニー数を計測した。その結果を
図6に示す。
全ての細胞種において、ウイルス非感染群(No virus)には残存未分化細胞由来のコロニーが確認できたが、KhES1では平均35.5個(
図6a)と少ないのに対しiPS細胞群では375(201B7;
図6b)、195(253G1;
図6c)とその数に大きな差が見られた。Ad.dE1.3感染群においても残存未分化細胞のコロニーの出現が認められたが、その数はネガティブコントロール(No virus)の群と比較して有意に少ないものであった。一方、TERT.m-CRAおよびSurvivin.m-CRA感染群ではどの細胞種においてもAd.dE1.3感染群と比較して、有意に分化抵抗性細胞のコロニー出現数が少なく、ES細胞においてはTERT.m-CRA感染群には分化抵抗性細胞のコロニーの出現は確認できなかった。このことから、TERT.m-CRAおよびSurvivin.m-CRAはいずれも未分化細胞で増殖し、当該細胞を殺傷し得ることが明らかとなった。
【0068】
実施例4 自発的分化誘導後のES/iPS細胞におけるm-CRAの影響
実施例2では出現コロニー数のみで判断しているため、m-CRAが本当に分化抵抗性細胞のみを除去したかが不明である。そこで、m-CRAが分化抵抗性細胞のみに有効かどうかを確認するために分化後の細胞の遺伝子発現を確認し、さらにm-CRA感染実験を行った。7日間分化誘導を行ったiPS細胞(201B7株)およびES細胞(KhES-1株)、15日間分化誘導を行った201B7株およびKhES-1株、並びに20日間分化誘導を行ったKhES-1株の5種類の細胞よりtotal RNAを抽出し、cDNAへ逆転写し、Oct3/4およびNanog(未分化マーカー)、Nestin(外胚葉マーカー)、Brachyury(中胚葉マーカー)、並びにGATA4(内胚葉マーカー)についてRT-PCRを行った。また、内因性のコントロールとしてGAPDHを用いた。
これらの細胞は、顕微鏡下の確認では未分化の状態の細胞とは異なり、dishに張り付いて広がっており、分化した形態を示していた。また、RT-PCRにおいて、ほぼ全ての細胞種で分化マーカーの発現が確認できた。しかし、全ての細胞種において未分化マーカーであるOct3/4、Nanogの発現も認められた(
図7)。さらに、TERT、サバイビンの発現を確認した結果、TERTは発現の弱いものもあったが、サバイビンは全ての細胞種で発現が残っていた(
図7)。
未分化マーカーやTERT、サバイビンは、未分化細胞では発現が認められるが、分化するとその発現は消失する。従って、これらの遺伝子の発現が検出できたこと、各分化マーカーの遺伝子の発現も検出できたことから、7〜21日間自発的に分化誘導を行ったES/iPS分化細胞群の中には、未分化細胞が残存することが考えられる。25日間分化誘導を行ったKhES1にTERT.m-CRA、Survivin.m-CRA、及びAd.CApr-EGFPを感染させたところ、細胞は分化形態を示していたにもかかわらず、感染2日後にはm-CRAを感染させた細胞群でプラークが出現し始め、3日後にはほぼすべての細胞が死滅していた(
図8)。これは、bFGF非存在下での自発的な分化では、形態上は分化しているように見えるものの、内因性のTERT、サバイビンの遺伝子が残っており、m-CRAによる細胞傷害効果が見られたものと考えられる。
【0069】
実施例5 胚様体(EB)形成後の分化状態
実施例4の結果から、多能性幹細胞をbFGF非存在下で培養するという自発的な分化誘導では分化が十分ではなく、m-CRAの効果を検討するには不十分であった。そこで、より自然な分化方法に近いEB形成による分化誘導を行い、m-CRAの効果について検討した。
ROCK阻害剤で処理した各多能性幹細胞を、低接着の96 well plate上に1x10
4/wellずつ培養し、胚様体(EB)を形成させた。分化後7日目(Day7)にゼラチンコートした24 well plate上に1 wellあたり1つのEBを播種し、さらに分化を進めた。分化後15日目(Day15)にTERT.m-CRA、Survivin.m-CRA、Ad.CA-EGFPをMOI 10で1時間感染させ、感染後の細胞の様子を2週間観察した。Day0、7、15、22にtotal RNAを回収し、RT-PCRにより遺伝子の発現状況を確認した。
DNAの増幅にはHuman Pluripotent Stem Cell Assessment Primer Pair Panelにある以下のプライマーを用いた。外胚葉系のマーカーとしてTP63、内胚葉系のマーカーとしてGATA4、内因性コントロールとしてGAPDH。また、キットに含まれないTERT、サバイビン、未分化細胞のマーカーであるNanog、Oct4については以下のプライマーを使用した。
TERT;S-TERT 5’-GCCTTCAAGAGCCACGTC-3’(配列番号12)
AS-TERT 5’-AGGTGAGCCACGAACTGTC-3’(配列番号13)
Survivin;S-Surv 5’-CCAGTGTTTCTTCTGCTTCAA-3’(配列番号14)
AS-Surv 5’-GAATGCTTTTTATGTTCCTCTATG-3’(配列番号15)
Nanog;S-Nanog 5’-AGATGCCTCACACGGAGACT-3’(配列番号16)
AS-Nanog 5’-TTTGCGACACTCTTCTCTGC-3’(配列番号17)
Oct4;S-Oct4 5’-GCTAGAGCAAAACCCGGAGA-3’(配列番号18)
AS-Oct4 5’-CCACATCGGCCTGTGTATATC-3’(配列番号19)
また、PCRはアニーリング55℃、10秒、サイクル数は35回で行った。
【0070】
ウイルス感染の翌日(day16)よりKhES1由来の分化細胞では次々と拍動する細胞を確認した。また、253G1株由来の分化細胞ではday22より拍動する細胞が確認できるようになった。これらの拍動する細胞はウイルス感染の有無にかかわらず観察されたが、観察を続けたday31までに201B7株では拍動する細胞は見受けられなかった。分化細胞にはEGFPの発現が認められたことからm-CRAの感染は認められたが、EGFP陽性細胞数がほとんど増えていないことから、m-CRAは増殖していないことが分かった(
図9−1〜9−3)。さらにウイルス感染2-5日後(day17-20)には一部のEGFP陽性細胞、特にEB由来コロニーの周囲の細胞の死滅が観察されたが、コロニー中央付近の分化細胞は死滅していなかった。これらのことから、EB由来コロニーの周囲の細胞は分化が不十分であるが、m-CRAは分化が進んだ細胞には影響を与えないと考えられた。
RT-PCRを行った結果、KhES1においてはTERT.m-CRA感染群でポジティブコントロールに比べNanogやOct4の発現が低下していることが確認され、TERT.m-CRAにより残存未分化細胞が除去されていることが示唆された(
図10)。