(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記インサート本体は、焼結合金よりなる台金部に、この台金部よりも高硬度の超高圧焼結体よりなる上記切刃部が接合されて形成されており、上記堤状部は、上記台金部に一体に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の刃先交換式フライス。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、このような耐摩耗性のあるパッドや摩耗損傷保護具を、高速で回転する工具本体から脱落しないようにチップポケットに取り付けるには、特許文献1に記載されているように、パッドの端部を鉤状に膨らませてチップポケットや工具本体先端の座に嵌め込むようにしたり、特許文献2に記載されているように、摩耗損傷保護具に保護具嵌合部を設けるとともにチップポケットには取付け部嵌合部を設けて、これらを噛み合わせるようにしたりしなければならず、このような座や取付け部嵌合部を設けるためにチップポケットにもある程度のスペースが必要となる。
【0006】
しかしながら、近年では、上述のような被削材の切削加工における加工効率をさらに高めるため、工具本体に取り付けられるフライス用インサートの数を増やして多刃化を図ることが求められており、そのような刃先交換式フライスでは、周方向に隣接するインサート取付座同士の間隔や、この間隔部分に形成されてインサート取付座の工具回転方向側に開口するチップポケットの大きさも制限されざるを得ない。従って、このように多刃化を図る上では、特許文献1、2に記載されたようにパッドや保護具を高速回転でも脱落しないように取り付けてチップポケットの損傷を防ぐのは困難となる。
【0007】
本発明は、このような背景の下になされたもので、上述のようにチップポケットにパッドや保護具を取り付けるスペースを要することなく、刃先交換式フライスの多刃化を図りつつ、高速回転切削加工において生成される切屑によるチップポケットの損傷を防ぐことが可能
な刃先交換式フライスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の
刃先交換式フライスは、
軸線回りに回転させられる工具本体の先端部外周に形成されたインサート取付座に、フライス用インサートが着脱可能に取り付けられた刃先交換式フライスであって、上記フライス用インサートは多角形板状のインサート本体を備え、このインサート本体の多角形面のコーナ部に、該多角形面上にすくい面を有する切刃部が設けられているとともに、この切刃部の上記すくい面を間にして上記多角形面の上記コーナ部を臨む位置には、該多角形面から突出する堤状部が、この多角形面に対向する方向から見て上記コーナ部に交差する該多角形面の2つの辺稜部に交差する方向に延びるように形成されて
おり、上記工具本体の先端部外周には、上記インサート取付座の工具回転方向側に開口するチップポケットが形成されるとともに、上記インサート取付座は、工具回転方向後方側を向いて上記インサート本体の上記多角形面と対向する取付座壁面を備え、上記フライス用インサートは、上記コーナ部を上記工具本体の先端外周側に突出させるとともに、上記切刃部のすくい面を工具回転方向に向けて、上記堤状部が上記チップポケットの底面と上記取付座壁面との交差稜線部に沿って延びるように取り付けられることを特徴とする。
【0010】
このように上記構成のフライス用インサートが取り付けられた刃先交換式フライスにおいて、このフライス用インサートの工具本体先端外周側に突出するコーナ部に設けられた切刃部によって生成される切屑は、インサート本体の上記多角形面上に設けられたこの切刃部のすくい面を擦過しつつ流出する。そして、この切刃部のすくい面を間にして多角形面の上記コーナ部を臨む位置には、該多角形面から突出する堤状部が、多角形面に対向する方向から見て上記コーナ部に交差する多角形面の2つの辺稜部、すなわち上記切刃部の切刃に交差する方向に延びている。
【0011】
このため、工具本体を高速で回転させて切削加工を行ったときに、切屑が切刃部の上記切刃から高速で生成されて流出しても、この切屑は、多角形面から突出した堤状部に乗り上げ、あるいはこの堤状部に沿って該堤状部が延びる方向に案内されるようにして排出される。従って、この堤状部の工具本体内周側に位置することになるチップポケットの底面に対して切屑は、堤状部に乗り上げたときには該底面と間隔をあけて排出され、また堤状部に案内されたときには底面に摺接すること自体がなくなるので、切屑の摺接によるチップポケットの摩耗によって工具本体が損傷するのを防ぐことができる。
【0012】
そして、さらにこの堤状部はフライス用インサートに設けられているので、刃先交換式フライスのチップポケットにパッドや保護具を取り付ける場合のように、このチップポケットに取り付け用の座や取付け部嵌合部を設ける必要がない。このため、チップポケットに大きなスペースを設ける必要もなくなって、工具本体の周方向に隣接するインサート取付座同士の間隔を狭めることができ、多刃化を図ってさらなる加工効率の向上を促すことが可能となる。
【0013】
ここで、上記インサート本体が、焼結合金よりなる台金部に、この台金部よりも高硬度の超高圧焼結体よりなる上記切刃部が接合されて形成されている場合には、上記堤状部を上記台金部に一体に形成することにより、ダイヤモンド焼結体やcBN焼結体等の高硬度な超高圧焼結体によって切刃部の寿命を確保しつつ、この超高圧焼結体よりは低硬度であるものの硬質な超硬合金等の焼結合金よりなる台金部に一体形成することで堤状部の切屑接触による摩耗も抑制して、インサート寿命が費えるまで確実にチップポケットへの切屑摺接を防ぐことができる。また、このような焼結合金よりなる台金部は、この焼結合金の原料粉末をプレス成形した圧粉体を焼結して製造されるので、このプレス成形の際に堤状部も一体に成形することができる。
【0014】
さらに、この堤状部の上記コーナ部を向く側面を、該コーナ部から離間するに従い上記多角形面から突出する傾斜面とすることにより、切屑が堤状部を乗り越える際や堤状部に沿って案内される際の抵抗を低減することができる。このため、堤状部の摩耗を確実に抑制することができるとともに、工具本体を高速回転させて切削加工を行う場合でも回転駆動力が必要以上に大きくなるのを防ぐことが可能となる。
【0015】
さらにまた、このようなフライス用インサートを取り付けた刃先交換式フライスにおいては、上記堤状部が上記工具本体の後端側に向かうに従い外周側に向けて延びるように配設することにより、特に当該刃先交換式フライスが正面フライスである場合に、上記切刃のうち工具本体先端側に配置される正面切刃によって生成された切屑を、より確実にチップポケットに摺接させることなく工具本体の後端外周側に案内して排出することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように、本発明によれば、刃先交換式フライスのチップポケットに大きなスペースを必要とせずに、切屑の摺接によるチップポケットの摩耗や工具本体の損傷を防ぐことができ、この工具本体の周方向に隣接するインサート取付座同士の間隔を小さくして多刃化を図ることにより、加工効率の一層の向上を促進することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1ないし
図4は、本発明の
刃先交換式フライスの一実施形態に取り付けられるフライス用インサートを示すものであり、
図5ないし
図11は、
このフライス用インサートを取り付けた本発明の刃先交換式フライスの一実施形態を示すものである。本実施形態のフライス用インサートは、そのインサート本体1が多角形板状、具体的には略長方形板状をなしており、超硬合金等の硬質な焼結合金よりなるこのような長方形板状の台金部2と、インサート本体1の表裏の多角形面1A、1Bのうちの一方の第1の多角形面1Aの1つのコーナ部Cにおいて台金部2に接合された、台金部2よりもさらに高硬度なダイヤモンド焼結体やcBN焼結体等の超高圧焼結体よりなる切刃部3とを備えている。
【0019】
図2に示すように、インサート本体1は、この第1の多角形面1Aの上記コーナ部Cに交差する2つの辺稜部のうちの短辺に連なる側面1Cが、該コーナ部Cに向かうに従い長方形板状のインサート本体1の長手方向に突出するように傾斜しているとともに、コーナ部Cに交差する第1の多角形面1Aの長辺に連なる側面1Dは、コーナ部C側の部分が短辺の延びる方向に一段突出するような段状をなしている。また、台金部2における第1の多角形面1Aのコーナ部Cには、この第1の多角形面1Aからインサート本体1の厚さ方向(
図3において左右方向。
図4においては上下方向)に凹んだ凹部2Aが形成されており、この凹部2Aに上記切刃部3が、ロウ付け等により、または台金部2と一体焼結されることにより接合されている。
【0020】
切刃部3は、一定の厚さの略直角三角形平板状をなしていて、その三角形面を上記厚さ方向に向けるとともに、この三角形面の直角角部を上記コーナ部Cに位置させて上記凹部2Aに接合されており、第1の多角形面1A側に向けられた三角形面の上記コーナ部Cに交差する2つの辺稜部に、この三角形面をすくい面3Aとする切刃が形成されている。これらの切刃のうち、第1の多角形面1Aの上記短辺に沿った切刃は刃先交換式フライスに取り付けられたときにその先端側に向けられる正面刃3Bとされ、上記長辺に沿った切刃は外周側に向けられる外周刃3Cとされる。
【0021】
切刃部3が接合される凹部2Aの上記厚さ方向を向く底面は、切刃部3の上記すくい面3Aと略同形同大の三角形状をなしており、
図3に示すように上記長辺に沿って側面1Cから離間するに従い、上記厚さ方向に後退するように僅かに傾斜している。従って、これに伴い、切刃部3のすくい面3Aおよび外周刃3Cも上記長辺に沿って側面1Cから離間するに従い上記厚さ方向に後退するように傾斜している。
【0022】
なお、
図2に示すように上記厚さ方向に第1の多角形面1Aに対向する方向から見た平面視において、外周刃3Cは上記長手方向に延びる直線状をなしているのに対して、正面刃3Bは僅かに鈍角に一段折れ曲がった折れ線状をなしており、そのコーナ部Cに交差する部分が同平面視において外周刃3Cと略直交するように形成されている。また、正面刃3Bのコーナ部Cとは反対側の部分は、同平面視において上述のように傾斜した側面1Cに沿って延びている。
【0023】
さらに、インサート本体1の上記側面1C、1Dのうち、これら正面刃3Bと外周刃3Cに連なる部分は、それぞれ正面刃3Bおよび外周刃3Cの逃げ面とされている。これらの逃げ面は、
図3および
図4に示すように第1の多角形面1Aからインサート本体1裏側の、上記表裏の多角形面のうちの他方である第2の多角形面1Bに向かうに従い、インサート本体1の内側に僅かに後退するように傾斜しており、正面刃3Bと外周刃3Cに逃げ角が与えられるように形成されている。なお、側面1Cは、全体的にこのような逃げ角が与えられるように傾斜している。
【0024】
また、これらの側面1Cと側面1Dのうち外周刃3Cに連なる部分以外の、上記コーナ部Cの対角線上に位置するコーナ部に交差する第1の多角形面1Aの長辺に連なる側面1Eと短辺に連なる側面1F、および側面1Dのうち短辺の延びる方向に後退した部分は、上記厚さ方向に延びる平坦面とされて、上記平面視においては
図2に示したように隣接するもの同士で互いに垂直な方向に延びている。ただし、これら隣接する側面1E、1F、および側面1Dの後退した部分の交差稜線部は面取りされるとともに、第1の多角形面1Aと側面1Eとの交差稜線部も面取りされている。
【0025】
そして、切刃部3の上記すくい面3Aを間にして第1の多角形面1Aの上記コーナ部Cを臨む位置には、第1の多角形面1Aから突出する堤状部4が、第1の多角形面1Aに対向する方向から見てコーナ部Cに交差する第1の多角形面1Aの上記2つの辺稜部に交差する方向に延びるように形成されている。従って、この堤状部4は、本実施形態では台金部2に形成され、特に上述のように超硬合金等の焼結合金よりなるこの台金部2に一体に形成されている。なお、堤状部4は、インサート本体1の上記厚さ方向に第1の多角形面1Aに対向する方向から見て、コーナ部Cに交差する上記2つの辺稜部の二等分線に垂直な直線に対して±30°の範囲で傾斜する方向に延びて該辺稜部に交差するように形成されるのが望ましい。
【0026】
また、本実施形態の堤状部4は、該堤状部4が延びる方向に直交する断面が等脚台形状をなしており、すなわち第1の多角形面1Aから突出するに従い互いに近づく一対の側面4A、4Bと、堤状部4の突端にあって上記厚さ方向に垂直に延びる頂面4Cとを備えている。これにより、堤状部4の上記コーナ部Cを向く側面4Aは、該コーナ部Cから離間するに従い第1の多角形面1Aから突出する傾斜面とされる。
【0027】
さらに、この堤状部4は、台金部2の凹部2Aの上記底面から第1の多角形面1Aに向けて立ち上がる該凹部2Aの壁面に沿って延びており、第1の多角形面1Aのコーナ部Cに交差する上記長辺には、段状をなすこの長辺の段差部に交差している。なお、この段差部に交差する堤状部4の端部は、段差部側に向かうに従い第2の多角形面1B側に向かって傾斜するように面取りされている。また、この堤状部4は、側面1Cには、上述のように傾斜した台金部2における該側面1Cにそのまま交差している。
【0028】
一方、この堤状部4からコーナ部Cとは反対側の第1の多角形面1A上には、上記厚さ方向に垂直な平面部5が形成されている。言い換えれば、インサート本体1の上記厚さ方向は、この平面部5に垂直な方向である。また、正面刃3Bは、上記コーナ部Cに交差する部分が上記厚さ方向に垂直、すなわち平面部5に平行に延びており、特に本実施形態では平面部5の延長面上に位置するように配設されている。
【0029】
これに対して、インサート本体1の上記第2の多角形面1Bには、第1の多角形面1Aの切刃が設けられた辺稜部の裏側に位置する該第2の多角形面1Bの辺稜部に向かうに従い、上記平面部5に向けて近づくように傾斜する第1の傾斜平面6が形成されている。本実施形態では、上記切刃のうち外周刃3Cの裏側に位置する第2の多角形面1Bの辺稜部に向かうに従い、第1の傾斜平面6が平面部5に向けて近づくように傾斜しているとともに、第2の多角形面1Bの全体がこのような第1の傾斜平面6とされており、この第1の傾斜平面6は、平面部5と側面1Eに直交する断面(側面1Fに平行な断面)において平面部5に対して一定の傾斜角αをなすように形成されている。
【0030】
また、上記第1の多角形面1Aには、これら平面部5と第1の傾斜平面6とに直交する断面、すなわち本実施形態では平面部5と側面1Eに直交する断面(側面1Fに平行な断面)において、上記平面部5に対する第1の傾斜平面6の傾斜の向きとは逆向きに傾斜する第2の傾斜平面7が形成されている。この第2の傾斜平面7も、上記断面において平面部5に対して一定の傾斜角βをなすように形成されており、この第2の傾斜平面7が平面部5に対してなす傾斜角βは、
図11に示すように第1の傾斜平面6が平面部5に対してなす傾斜角αよりも大きくされている。
【0031】
ここで、本実施形態では、第1の多角形面1Aに凹所8が形成されており、第2の傾斜平面7はこの凹所8の底面に形成されている。凹所8は、平面部5の中央に、インサート本体1の上記長手方向、すなわち外周刃3Cが延びる方向に長く延びるように形成されていて、その平面部5から上記厚さ方向への深さが側面1E側から側面1D側に向かうに従い漸次深くなるように形成されることにより、該凹所8の底面である第2の傾斜平面7が第1の傾斜平面6の傾斜の向きと逆向きに傾斜するように形成される。
【0032】
また、凹所8は、その平面部5への開口部がD字状をなして平面部5上で1周する閉じた形状に形成されていて、すなわちインサート本体1の側面1C〜1Fに開口してはおらず、底面である第2の傾斜平面7は側面1E側で平面部5と交差している。従って、凹所8には、側面1C、1D、1F側に第2の傾斜平面7から第1の多角形面1Aの平面部5に向かう壁面8A〜8Cが形成されることになり、このうち側面1F側の壁面8Cは、上記断面に垂直な方向においてコーナ部Cとは反対側に位置することになる。
【0033】
このように構成されたフライス用インサートが取り付けられる本実施形態の刃先交換式フライスは、軸線Oを中心とした概略円板状の工具本体11を備え、この工具本体11の先端部外周には、上記フライス用インサートが着脱可能に取り付けられるインサート取付座12が形成されている。本実施形態の刃先交換式フライスは、このような工具本体11がツールホルダ13を介して工作機械の主軸に取り付けられ、軸線O回りに工具回転方向Tに高速回転されつつ該軸線Oに垂直な方向に送り出されることにより、上記フライス用インサートの切刃部3の主として正面刃3Bによって被削材に平面部を切削加工する、刃先交換式の正面フライスである。
【0034】
インサート取付座12は、工具本体の11の先端面と外周面とに開口して軸線O方向後端側に延びるスリット状に形成されており、工具回転方向T後方側を向く第1の取付座壁面12Aと、工具回転方向Tを向く第2の取付座壁面12Bと、工具本体11の内周側においてこれら第1、第2の取付座壁面12A、12B間に位置して外周側を向く取付座底面12Cとを備えている。本実施形態の刃先交換式フライスは、このようなインサート取付座12が工具本体11に24箇所と多数、等間隔に形成された多刃の刃先交換式フライスでもある。
【0035】
第1の取付座壁面12Aは、本実施形態では軸線Oを含む平面に沿って延びる平面状に形成されるとともに、取付座底面12Cは、この第1の取付座壁面12Aと垂直に交差して軸線Oと平行に延びる平面状に形成されている。また、第2の取付座壁面12Bは、軸線Oと平行で、工具本体11の外周側に向かうに従い第1の取付座壁面12Aに近づくように傾斜する平面状に形成され、この第2の取付座壁面12Bが第1の取付座壁面12Aに対してなす傾斜角は、
図11に示すように軸線Oに直交する断面において一定で、フライス用インサートの第1の傾斜平面6が平面部5に対してなす傾斜角αと等しくされている。
【0036】
さらに、各インサート取付座12の工具回転方向T側の工具本体11外周面から第1の取付座壁面12Aにかけてはネジ孔12Dが形成されており、このネジ孔12Dにはインサート本体1を押圧して取り付けるための押圧手段としてのクランプネジ14がねじ込まれている。このネジ孔12Dは、その中心線に直交する平面が、やはり
図11に示すように軸線Oに直交する断面において一定の傾斜角で第1の取付座壁面12Aに交差して、工具本体11の外周側に向かうに従い工具回転方向T後方側に延びるようにされており、この傾斜角はインサート本体1の第2の傾斜平面7が平面部5に対してなす傾斜角βと等しくされている。また、クランプネジ14のインサート取付座12側に向けられる先端面はネジ孔12Dの上記中心線に直交する平面状とされている。
【0037】
さらにまた、工具本体11の先端部外周には、各インサート取付座12の工具回転方向T側で、上記ネジ孔12Dの外周面への開口部よりも先端側に、チップポケット15が形成されている。このチップポケット15は、本実施形態では、工具本体11の先端面と外周面との交差稜線部を、工具回転方向T後方側に向かうに従い後端内周側に向けて幅広となる三角形面取り状に切り欠くようにして形成されている。
【0038】
また、こうして切り欠かれたチップポケット15の三角形面取り状の底面15Aは、インサート取付座12の第1の取付座壁面12Aに交差しており、従って、この第1の取付座壁面12Aと底面15Aとの交差稜線部は、工具本体11の後端側に向かうに従い外周側に向かうように斜めに延びることになる。そして、この交差稜線部が軸線Oに垂直な平面に対してなす角度は、フライス用インサートの第1の多角形面1Aに対向する方向から見て堤状部4が正面刃3Bに対してなす角度と等しくされている。また、この底面15Aと第1の取付座壁面12Aとの交差角は、インサート本体1の堤状部4のコーナ部Cとは反対側を向く側面4Bと平面部5との交差角と等しくされている。
【0039】
さらに、このチップポケット15の底面15Aには、工具本体11内に穿設されたクーラント孔15Bが開口している。このクーラント孔15Bは、工具本体11内から上記ツールホルダ13内の供給路を介して工作機械の主軸側に設けられたクーラント供給孔に連通しており、切削加工時には工作機械側から供給された切削油剤等のクーラントが、後述するようにインサート取付座12に取り付けられたフライス用インサートの切刃部3のすくい面3Aに向けて供給可能とされている。
【0040】
一方、各インサート取付座12の後端側には、工具本体11の外周面に開口して後端側に延びる凹溝11Aが形成されており、スリット状のインサート取付座12の後端は、この凹溝11Aに開口していて、これらの凹溝11Aにはフライス用インサートのインサート本体1の軸線O方向の位置を調整する調整機構16がそれぞれ備えられている。この調整機構16は、
図10に示すように両端部にピッチが異なる第1、第2ネジ部17A、17Bが同軸に形成されて、このうち第1ネジ部17Aが凹溝11Aの先端側を向く壁面に形成されたネジ孔に軸線Oと平行にねじ込まれる軸部材17と、この軸部材17の工具本体11先端側に向けられた第2ネジ部17Bにねじ込まれるナット部材18とを備えている。
【0041】
ここで、本実施形態では、軸部材17の第1ネジ部17Aのピッチが第2ネジ部17Bのピッチよりも大きくされるとともに、ネジ径も第1ネジ部17Aが第2ネジ部17Bより大きくされている。また、軸部材17の第1、第2ネジ部17A、17B間の外周面とナット部材18の外周面には作業用工具が係止可能な被係止部17C、18Aが形成されており、この被係止部17C、18Aは本実施形態ではレンチ等が挿入可能な孔とされている。さらに、ナット部材18の工具本体11先端側に向けられる先端面18Bは、この先端側に膨出する凸形状とされている。
【0042】
このように構成された刃先交換式フライスの工具本体11に、上記フライス用インサートは、そのインサート本体1の第1の多角形面1Aおよび切刃部3のすくい面3Aを工具回転方向Tに向けるとともに、側面1Cを工具本体11の先端側に、側面1Dを外周側に向けて、工具本体11先端側からインサート取付座12に挿入される。ここで、インサート取付座12の第1、第2の取付座壁面12A、12B間の間隔は、インサート本体1の側面1Eを取付座底面12Cに密着させた状態で、第1の多角形面1Aの平面部5と第2の多角形面1B(第1の傾斜平面6)がこれら第1、第2の取付座壁面12A、12Bに対向して摺接しながら、インサート本体1を挿入可能な大きさとされている。
【0043】
また、工具本体11の外周面から取付座底面12Cまでのインサート取付座12の径方向の深さは、こうしてインサート本体1の側面1Eを取付座底面12Cに密着させた状態で、工具本体11の外周側に向けられた切刃部3の外周刃3Cが外周面から突出する大きさとされている。そして、このようにインサート取付座12に挿入されたインサート本体1の側面1Fが上記調整機構16のナット部材18の先端面18Bに当接したところで、インサート本体1は位置決めされて着座させられ、次いでネジ孔12Dにクランプネジ14をねじ込んで、インサート本体1の凹所8の底面である第2の傾斜平面7がクランプネジ14の先端面によって垂直に押圧されることにより、インサート本体1が工具本体11に固定される。
【0044】
このように固定された状態で、各インサート取付座12に取り付けられたフライス用インサートの切刃部3の正面刃3Bは、工具本体11の先端面から突出して軸線Oに垂直な1つの平面上に位置するように、上記調整機構16によって軸線O方向の位置が調整される。すなわち、本実施形態の調整機構16においては、被係止部17C、18Aに作業用工具を係止して軸部材17とナット部材18を回転し、軸部材17の第1ネジ部17Aの工具本体11へのねじ込み量と、第2ネジ部17Bへのナット部材18のねじ込み量とを調整することにより、ナット部材18の先端面18Bの軸線O方向の位置が設定されるので、この先端面18Bの位置を各インサート取付座12に備えられた調整機構16によって適宜設定することにより、正面刃3Bの位置も上述のように調整することができる。
【0045】
そして、こうして正面刃3Bの位置が調整されたフライス用インサートにおいては、第1の多角形面1Aに対向する方向から見て堤状部4が正面刃3Bに対してなす角度と、インサート取付座12の第1の取付座壁面12Aとチップポケット15の底面15Aとの交差稜線部が軸線Oに垂直な平面に対してなす角度と等しくされていることから、この堤状部4が上記交差稜線部に沿って平行に、工具本体11の後端側に向かうに従い外周側に向けて延びるように配置されることになる。なお、堤状部4は、そのコーナ部Cと反対側を向く側面4Bが、チップポケット15の底面15Aと密着していてもよく、また間隔をあけていてもよい。
【0046】
このようにフライス用インサートが取り付けられた刃先交換式フライスを高速回転させて切削加工を行うと、特に切刃部3の主として正面刃3Bによって平面部を切削加工する刃先交換式正面フライスである本実施形態では、この正面刃3Bにより生成された切屑がすくい面3Aに沿って工具本体11の後端側に高速で流出することになる。そして、この切屑が流出する正面刃3Bの後端側には、コーナ部Cに交差する正面刃3Bと外周刃3Cが形成された第1の多角形面1Aの2つの辺稜部に交差するように上記堤状部4が延びており、本実施形態では切屑は、この堤状部4に案内されるようにして工具本体11の後端外周側に排出されることになる。
【0047】
従って、本実施形態によれば、切屑がチップポケット15の底面15Aに摺接することが避けられ、高速で流出する切屑の摺接によって摩耗が促進されて工具本体11が損傷するのを防ぐことができる。また、切刃部3の主として外周刃3Cによって比較的大きな切り込みで被削材に壁面部を切削加工するような場合に、切屑は外周刃3Cから工具本体11の内周側に流出することになるが、このような場合でも切屑の流出方向には堤状部4が延びることになり、この堤状部4に乗り上げることにより切屑は底面15Aと間隔をあけるようにして排出されるため、やはり工具本体11の損傷を抑えることが可能となる。
【0048】
そして、こうしてチップポケット15の摩耗による工具本体11の損傷を防止する堤状部4が、工具本体11ではなくフライス用インサートのインサート本体1に設けられているので、このようなフライス用インサートを取り付けた刃先交換式フライスでは、チップポケット15自体にパッドや保護具を取り付ける場合のように取り付け用のスペースを必要とすることがない。このため、工具本体11の周方向に隣接するインサート取付座12の間隔を小さくしてその数を増やすことができるので、1つの工具本体11に取付可能なフライス用インサートの数も増やして上述のように多刃化を図ることができ、高速切削加工と併せてさらなる加工効率の向上を促すことが可能となる。
【0049】
また、本実施形態のフライス用インサートでは、インサート本体1が、超硬合金等の硬質焼結合金よりなる台金部2に、ダイヤモンド焼結体やcBN焼結体等の高硬度な超高圧焼結体よりなる切刃部3が接合されて形成されており、堤状部4はこのうちの台金部2に一体に形成されている。このため、切刃部3の寿命を確保しつつ、堤状部4に案内されたり乗り上げたりすることによって切屑が接触しても、堤状部4自体が摩耗するのを抑制することができて、インサート本体1の寿命が費えるまで確実に工具本体11の損傷を防止することができるとともに、台金部2に製造される圧粉体を焼結合金の原料粉末からプレス成形によって成形する際に堤状部4も一体に成形できるので、上述のような効果を奏するフライス用インサートの製造を簡略化することもできる。ただし、インサート本体1は切刃部3を含めた全体が超硬合金等の硬質焼結合金によって形成されていてもよい。
【0050】
さらに、本実施形態では、流出した切屑が接触することになる、切刃部3のコーナ部C側を向く堤状部4の側面4Aが、このコーナ部Cから離間するに従い第1の多角形面1Aから突出する傾斜面とされており、これにより切屑の接触による抵抗を低減することができる。従って、このような切屑の接触による堤状部4の摩耗を一層確実に抑制するとともに、工具本体11を高速回転させるときの回転駆動力が必要以上に大きくなるのも防ぐことができる。なお、側面4Aはインサート本体1の厚さ方向に延びていてもよいが、この厚さ方向に対する側面4Aの傾斜が大きくなりすぎると切屑を確実に案内したりすることができなくなるおそれがあるので、厚さ方向に対して0°〜45°の傾斜とされるのが望ましい。また、同様に、堤状部4の厚さ方向の突出高さは、例えば正面刃3Bからの突出高さとして0.5mm〜2.0mm程度とされるのが望ましい。
【0051】
さらにまた、本実施形態の刃先交換式フライスでは、フライス用インサートにこのような堤状部4が形成されることにより、インサート本体1の平面部5とインサート取付座12の第1の取付座壁面12Aとの間に、切屑は勿論、微細な切粉などのゴミなどが進入するのも防止することができる。また、工具本体を工作機械から取り外して正面刃3Bの軸線O方向の位置を揃えるプリセット作業時に、工具本体11の先端面を上向きにしてインサート本体1をインサート取付座12に挿入すると、堤状部4が第1の取付座壁面12Aとチップポケット15の底面15Aとの交差稜線部に当接したところでインサート本体1が簡易的に位置決めされるので、この状態から調整機構16によってインサート本体1の位置を微調整することにより、プリセット時間の短縮を図ることもできる。
【0052】
一方、本実施形態のフライス用インサートでは、インサート本体1が表裏に第1、第2の多角形面1A、1Bを有し、第1の多角形面1Aには平面部5が設けられるとともに、第2の多角形面1Bには、外周刃3Cの裏側に位置する辺稜部に向かうに従い平面部5に向けて近づくように傾斜する第1の傾斜平面6が形成され、第1の多角形面1Aにはさらに、平面部5と第1の傾斜平面6とに直交する断面において平面部5に対する第1の傾斜平面6の傾斜の向きとは逆向きに傾斜する第2の傾斜平面7が形成されている。
【0053】
また、このようなフライス用インサートが取り付けられる刃先交換式フライスのインサート取付座12は、工具回転方向T後方側を向いて上記第1の多角形面1Aの平面部5と対向する第1の取付座壁面12Aと、工具回転方向Tを向いて上記第1の傾斜平面6が密着する第2の取付座壁面12Bと、これら第1、第2の取付座壁面12A、12B間に延びる取付座底面12Cとを備えている。そして、このようなインサート取付座12に、上記フライス用インサートは、外周刃3Cを工具本体11の外周側に向けるとともに切刃部3のすくい面3Aを工具回転方向Tに向けて着座させられた上で、押圧手段としてのクランプネジ14によって第2の傾斜平面7を押圧することにより取り付けられている。
【0054】
従って、インサート本体1の平面部5と第1の傾斜平面6との間隔と、インサート取付座12の第1、第2の取付座壁面12A、12B間の間隔が、工具本体11の外周側に向かうに従い漸次小さくなるのに加えて、これらの面が上記断面においてなす交差角よりも大きな交差角をなすようにして、第1、第2の傾斜平面6、7間の間隔も工具本体11の外周側に向かうに従い小さくなる。このため、インサート本体1を強固にインサート取付座12に取り付けることができ、上述のように工具本体11を高速回転させて切削加工を行っても、遠心力によってインサート本体1が工具本体11の外周側にずれ動いたり脱落したりしてしまうのを防ぐことができる。
【0055】
さらに、本実施形態では、平面部5と第1の傾斜平面6とに直交する断面において、第2の傾斜平面7が平面部5に対してなす傾斜角βが、第1の傾斜平面6が平面部5に対してなす傾斜角αよりも大きくされている。このため、同断面における平面部5と第1の傾斜平面6との交差角よりも第1、第2の傾斜平面6、7の交差角を一層大きなものとすることができるので、さらに確実にインサート本体1のずれや脱落を防止することが可能となる。
【0056】
また、本実施形態では、第1の多角形面1Aに凹所8が形成されており、この凹所8の底面に第2の傾斜平面7が形成されている。この点、例えば第1の多角形面1Aの平面部5に凸部を形成し、この凸部の突端面を上記断面において平面部5に対する第1の傾斜平面6の傾斜の向きとは逆向きに傾斜する第2の傾斜平面とすることも可能であるが、このような場合には、インサート本体1を工具本体11の先端側から挿入するために、この凸部が挿通可能な凹溝をインサート取付座12の第1の取付座壁面12Aに形成しなければならなくなり、隣接するインサート取付座12間の間隔を狭めることができなくなるおそれがあるのに対し、本実施形態ではそのような凹溝を形成する必要が無く、確実にインサート取付座12間の間隔を小さくして刃先交換式フライスの多刃化を図ることが可能となる。
【0057】
しかも、本実施形態では、この凹所8の第1の多角形面1A(平面部5)への開口部が平面部5上で1周する閉じた形状に形成されていて、インサート本体1の側面1C〜1Fに開口してはおらず、これに伴い、上記断面に垂直な方向においてコーナ部Cとは反対側には、この凹所8の底面である第2の傾斜平面7から上記第1の多角形面1Aに向かう壁面8Cが形成されることになる。このため、例えば工具本体11の先端面を下向きにしてクランプネジ14を緩めても、クランプネジ14が凹所8から抜け出るまでは壁面8Cがクランプネジ14の先端部に当たるため、インサート本体1がインサート取付座12から落下するのを防ぐことができ、落下によるインサート本体1の破損や紛失を防止することができる。
【0058】
また、この凹所8は、本実施形態では、長方形板状をなすインサート本体1の長手方向すなわち直線状の外周刃3Cが延びる方向に長く延びるように形成されており、例えば正面刃3Bに摩耗が生じたときに、インサート本体1の側面1Cを再研磨して正面刃3Bを研ぎ付け直しても、この凹所8が延びる範囲においては、上記調整機構16によってインサート本体1の軸線O方向の位置を調整した上で、クランプネジ14によりインサート本体1を固定することができる。このため、特に本実施形態のように切刃部3が高価な超高圧焼結体よりなるフライス用インサートにおいては、インサート寿命を延ばして資源の有効利用を図ることが可能となる。
【0059】
さらに、本実施形態の刃先交換式フライスは上述のような多刃のフライスであって、周方向に隣接するインサート取付座12間の間隔が小さくされており、1つのインサート取付座12の上記クランプネジ14がねじ込まれるネジ孔12Dと、このインサート取付座12の工具回転方向Tに隣接するインサート取付座12との間隔も小さくなる。すると、クランプネジ14をねじ込んでインサート本体1を固定する際に、その反力によってインサート取付座12間で工具本体11が微小に弾性変形し、工具回転方向Tに隣接したインサート取付座12に取り付けられたインサート本体1を工具回転方向T側に押し付ける作用が発生するので、一層安定してフライス用インサートを取り付けることができるとともに、クランプネジ14の径を小さくすることもできるので、さらに確実な多刃化を図ることが可能となる。