【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、温室効果ガスの排出抑制が可能で安全性にも優れたあらたなエネルギー源確保が急務となっている昨今、我が国においては洋上風力発電が有望視されているが、その沈設方法については、周辺海域の水深が比較的大きいことから、サクションアンカーを用いた浮体式の導入が検討されている。
【0006】
しかしながら、従来のサクションアンカーは、主として粘性地盤への沈設が想定されているところ、日本周辺の海底地盤は、砂質地盤で構成されている場合が多く、粘性地盤よりも引抜き抵抗が十分でない懸念があるという問題を生じていた。
【0007】
一方、上述したサクション構造体
は防波堤などの港湾構造物の基礎として利用されており、上述したと同様の手順でサクション構造体を海底に設置した後、該サクション構造体の上にケーソンを据え付けるようにすれば、予め海底に捨石マウンドを敷設してからケーソンを載置する従来の構築方法に比べ、サクションアンカーと同様、短工期での施工や強度の向上が期待できるが、このようなスカートサクション基礎においても、波、風、地震等による水平力で引き起こされる転倒に抵抗するためには、サクション構造体に十分な引抜き抵抗が必要になるため、サクションアンカーと同様の懸念が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、砂質地盤であっても十分な引抜き抵抗を確保することが可能なサクション構造体を提供することを目的とする。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るサクション構造体は請求項1に記載したように、筒状周壁部とその一端を塞ぐ天板部とで構成するとともに該天板部に排水孔を形成し
てなり、前記筒状周壁部が水底地盤に貫入され前記天板部が水底直上に位置する形で該水底地盤に沈設されるようになっているサクション構造体において、
前記筒状周壁部が前記水底地盤に貫入された状態において引抜き力が作用したとき、該引抜き力に対する抵抗力が前記水底地盤から作用するように、前記筒状周壁部の周面に、鍔状、リブ状、螺旋状その他の凸部を設けたものである。
【0010】
また、本発明に係るサクション構造体は、前記凸部を前記筒状周壁部の他端近傍に設けたものである。
【0011】
また、本発明に係るサクション構造体は、前記凸部を前記筒状周壁部の周面のうち、少なくとも外周面に設けたものである。
【0012】
また、本発明に係るサクション構造体は、係留手段を連結可能な連結部を前記天板部の上面に設けたものである。
【0013】
また、本発明に係るサクション構造体は、前記天板部の上面を、護岸、防波堤、橋梁の主塔その他の港湾構造物又は海洋構造物が載置可能となるように構成したものである。
【0014】
本発明に係るサクション構造体においては、筒状周壁部が水底地盤に貫入された状態において引抜き力が作用したとき、該引抜き力に対する抵抗力が水底地盤から作用するように、筒状周壁部の周面に、鍔状、リブ状、螺旋状その他の凸部を設けてあり、水底地盤に沈設する際には、従来と同様、筒状周壁部の開口側が下方となるように水底に設置した後、天板部に形成された排水孔を介して内部の水を排水する。
【0015】
このようにすると、サクション構造体の自重(浮力分は除く)及びその内外で生じる水圧差が、筒状周壁部を水底地盤に貫入する際の押込み力となるが、その水圧差は同時に、筒状周壁部の周囲に拡がる水底から該筒状周壁部の下端を回り込んでその内側の水底へと向かう浸透流を水底地盤内に生じさせ、それによって地盤の有効応力が低下して筒状周壁部下端での貫入抵抗が小さくなるので、筒状周壁部の周面に設けた凸部が水底地盤への貫入の妨げとなるおそれはない。
【0016】
一方、筒状周壁部の水底地盤への根入れ完了に伴って排水操作を停止した後は、上述した浸透流も消滅し、水底地盤は元の状態に戻る。
【0017】
そのため、かかる状態でサクション構造体に引抜き力が作用すると、凸部を筒状周壁部の内周面に設けた構成においては、筒状周壁部の内部に水底地盤の土砂が中詰めされた状態で引き抜かれるため、土砂が中詰めされずに水底地盤に残置される場合と比べれば、筒状周壁部に中詰めされた土砂の重量があらたな抵抗力として加わるため(内周面での周面摩擦力は除外)、引抜きに対するサクション構造体の耐力をある程度向上させることが可能となる。
【0018】
また、凸部を筒状周壁部の外周面に設けた構成においては、凸部によって筒状周壁部の外周面に周辺土砂が一体化されるため、筒状周壁部の外周面が水底地盤から離脱して引き抜かれる従来構成の場合と比べれば、筒状周壁部の外周面に一体化された地盤領域の重量があらたな抵抗力として加わるが、該地盤領域とその周囲の水底地盤との境界面(せん断面)における摩擦力が十分な大きさを有しており、この摩擦力があらたな抵抗力として加わるため、筒状周壁部の外周面が水底地盤から離脱しようとする際に生じる従来構成の周面摩擦力を差し引いても、引抜きに対するサクション構造体の耐力は大幅に向上する。
【0019】
具体的に説明すると、凸部を設ける筒状周壁部の周面としては、
(a) 内周面のみ
(b) 外周面のみ
(c) 内周面及び外周面
の3つの形態が想定されるが、凸部が存在しない従来構成において、引抜き時に筒状周壁部だけが水底地盤から抜け出す形で引抜き破壊する場合には(以下、引抜き破壊モードI)、内周面及び外周面に作用する周面摩擦力及びサクション構造体の自重が引抜きに対する抵抗力となるだけである。
【0020】
この場合、(a)の構成を選択すれば、引抜き破壊モードは、筒状周壁部の内部に水底地盤の土砂が中詰めされた状態で筒状周壁部が水底地盤から引き抜かれるモード(以下、引抜き破壊モードII)に移行し、上述したように筒状周壁部に中詰めされた土砂の重量があらたな抵抗力として加わるため(内周面での周面摩擦力は除外)、引抜きに対するサクション構造体の耐力をある程度向上させることができるとともに、筒状周壁部の外周面に凸部が形成されないことから、サクション構造体の全体寸法を抑えることが可能となり、搬送その他の取り扱いを容易にすることができる。
【0021】
一方、(c)の構成を選択すれば、引抜き破壊モードは、筒状周壁部の内部に水底地盤の土砂が中詰めされかつ筒状周壁部の外周面に水底地盤の土砂が一体化した状態で該筒状周壁部が水底地盤から引き抜かれる引抜き破壊モード(以下、引抜き破壊モードIII)へと移行し、(a)の構成による作用に加えて、上述したように筒状周壁部の外周面に一体化された地盤領域の重量があらたな抵抗力として加わるのみならず、該地盤領域とその周囲の水底地盤との境界面(せん断面)における摩擦力が十分な大きさを有しており、この摩擦力があらたな抵抗力として加わるため、引抜きに対するサクション構造体の耐力を大幅に向上させることが可能となる。
【0022】
また、凸部が存在しない従来構成において引抜き破壊モードが引抜き破壊モードIIである場合、(b)の構成を選択すれば、引抜き破壊モードは引抜き破壊モードIIIへと移行し、上述したように筒状周壁部の外周面に一体化された地盤領域の重量があらたな抵抗力として加わるのみならず、該地盤領域とその周囲の水底地盤との境界面(せん断面)における摩擦力が十分な大きさを有しており、この摩擦力があらたな抵抗力として加わるため、引抜きに対するサクション構造体の耐力を十分に向上させることが可能となる。
【0023】
凸部は、サクション構造体に引抜き力が作用したときに該引抜き力に対する抵抗力が水底地盤から作用する限り、具体的にどのように構成するかは任意であって、例えば、鍔状、リブ状、螺旋状に構成することが可能であるし、必ずしも全周にわたって連続的に構成する必要はなく、離散的に配置するようにしてもかまわない。
【0024】
また、凸部は、筒状周壁部のうち、端部近傍を除く中間部位に設けるようにしてもかまわないが、筒状周壁部の他端近傍、すなわち天板部の反対側に位置する端部近傍に設けた構成とするならば、サクションによる貫入作業を行っている間、浸透流による有効応力低下が最も大きい箇所に凸部が常に位置することになるため、貫入抵抗を確実に小さくすることができるとともに、貫入が完了した状態においては、水底から最も深い位置に凸部が埋設されることになるため、筒状周壁部に一体化される周辺土砂の重量が最大となり、引抜きに対する耐力を十分に高めることが可能となる。
【0025】
本発明に係るサクション構造体は、海底地盤をはじめ、湖沼の水底地盤に沈設することが可能である。
【0026】
また、本発明に係るサクション構造体は、水平力及び引抜き力に対し、十分な抵抗力を保有した状態で水底地盤に沈設する必要がある全ての構造物に適用可能であるが、典型的にはサクションアンカー又はスカートサクション基礎への適用が想定されるものであり、前者の場合には、係留手段を連結可能な連結部を天板部の上面に設ける構成とし、後者の場合には、天板部の上面を、護岸、防波堤、橋梁の主塔といった港湾構造物又は海洋構造物が例えばケーソンの形で載置可能となるように構成すればよい。