特許第6264776号(P6264776)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6264776
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】サクション構造体
(51)【国際特許分類】
   E02D 27/52 20060101AFI20180115BHJP
   E02D 5/80 20060101ALI20180115BHJP
   E02D 27/32 20060101ALI20180115BHJP
   E02B 3/12 20060101ALI20180115BHJP
   E02B 3/06 20060101ALI20180115BHJP
   E01D 19/02 20060101ALI20180115BHJP
   B63B 21/27 20060101ALN20180115BHJP
【FI】
   E02D27/52 Z
   E02D5/80 Z
   E02D27/32 A
   E02B3/12
   E02B3/06 301
   E01D19/02
   !B63B21/27
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-166196(P2013-166196)
(22)【出願日】2013年8月9日
(65)【公開番号】特開2015-34430(P2015-34430A)
(43)【公開日】2015年2月19日
【審査請求日】2016年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100099704
【弁理士】
【氏名又は名称】久寶 聡博
(72)【発明者】
【氏名】増井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】林 秀郎
【審査官】 神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−003292(JP,A)
【文献】 特開2000−170182(JP,A)
【文献】 特開平10−025738(JP,A)
【文献】 特開2004−116075(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/52
E01D 19/02
E02B 3/06
E02B 3/12
E02D 5/80
E02D 27/32
B63B 21/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状周壁部とその一端を塞ぐ天板部とで構成するとともに該天板部に排水孔を形成してなり、前記筒状周壁部が水底地盤に貫入され前記天板部が水底直上に位置する形で該水底地盤に沈設されるようになっているサクション構造体において、
前記筒状周壁部が前記水底地盤に貫入された状態において引抜き力が作用したとき、該引抜き力に対する抵抗力が前記水底地盤から作用するように、前記筒状周壁部の周面に、鍔状、リブ状、螺旋状その他の凸部を設けたことを特徴とするサクション構造体。
【請求項2】
前記凸部を前記筒状周壁部の他端近傍に設けた請求項1記載のサクション構造体。
【請求項3】
前記凸部を前記筒状周壁部の周面のうち、少なくとも外周面に設けた請求項1又は請求項2記載のサクション構造体。
【請求項4】
係留手段を連結可能な連結部を前記天板部の上面に設けた請求項1乃至請求項3のいずれか一記載のサクション構造体。
【請求項5】
前記天板部の上面を、護岸、防波堤、橋梁の主塔その他の港湾構造物又は海洋構造物が載置可能となるように構成した請求項1乃至請求項3のいずれか一記載のサクション構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてサクションアンカーやスカートサクション基礎として海底地盤等に沈設されるサクション構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
浮体式の海洋構造物を海上の所定位置に保持するためには、ワイヤーやチェーンで構成された係留索あるいは係留鎖を介して海底のアンカーに係留し、あるいはテンドンと呼ばれる緊張索を介してアンカーに係留する必要があるが、このようなアンカーとしてサクションアンカーが知られている。
【0003】
サクションアンカーは、筒状周壁部とその一端を塞ぐ天板部とで構成されたサクション構造体をアンカーとして利用するものであって、沈設の際には、筒状周壁部の開口側が下方となるようにサクション構造体を海底に設置した後、筒状周壁部内の水を排水してその内外で水圧差を生じさせ、その水圧差を押込み力として筒状周壁部を海底地盤に貫入することができるようになっているものであり、サクション構造体を設置するための起重機船やサクション力を与える排水ポンプさえあれば、それ以外は特殊な施工機械を使用せずに施工可能であるとともに、水平力に対しては、筒状周壁部の外周面に作用する海底地盤からの受動土圧が抵抗力となるため、工期短縮が可能でかつ強度特性に優れたアンカー方式として、北海油田の石油掘削プラットホーム等で採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−25738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、温室効果ガスの排出抑制が可能で安全性にも優れたあらたなエネルギー源確保が急務となっている昨今、我が国においては洋上風力発電が有望視されているが、その沈設方法については、周辺海域の水深が比較的大きいことから、サクションアンカーを用いた浮体式の導入が検討されている。
【0006】
しかしながら、従来のサクションアンカーは、主として粘性地盤への沈設が想定されているところ、日本周辺の海底地盤は、砂質地盤で構成されている場合が多く、粘性地盤よりも引抜き抵抗が十分でない懸念があるという問題を生じていた。
【0007】
一方、上述したサクション構造体防波堤などの港湾構造物の基礎として利用されており、上述したと同様の手順でサクション構造体を海底に設置した後、該サクション構造体の上にケーソンを据え付けるようにすれば、予め海底に捨石マウンドを敷設してからケーソンを載置する従来の構築方法に比べ、サクションアンカーと同様、短工期での施工や強度の向上が期待できるが、このようなスカートサクション基礎においても、波、風、地震等による水平力で引き起こされる転倒に抵抗するためには、サクション構造体に十分な引抜き抵抗が必要になるため、サクションアンカーと同様の懸念が生じる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたもので、砂質地盤であっても十分な引抜き抵抗を確保することが可能なサクション構造体を提供することを目的とする。
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係るサクション構造体は請求項1に記載したように、筒状周壁部とその一端を塞ぐ天板部とで構成するとともに該天板部に排水孔を形成してなり、前記筒状周壁部が水底地盤に貫入され前記天板部が水底直上に位置する形で該水底地盤に沈設されるようになっているサクション構造体において、
前記筒状周壁部が前記水底地盤に貫入された状態において引抜き力が作用したとき、該引抜き力に対する抵抗力が前記水底地盤から作用するように、前記筒状周壁部の周面に、鍔状、リブ状、螺旋状その他の凸部を設けたものである。
【0010】
また、本発明に係るサクション構造体は、前記凸部を前記筒状周壁部の他端近傍に設けたものである。
【0011】
また、本発明に係るサクション構造体は、前記凸部を前記筒状周壁部の周面のうち、少なくとも外周面に設けたものである。
【0012】
また、本発明に係るサクション構造体は、係留手段を連結可能な連結部を前記天板部の上面に設けたものである。
【0013】
また、本発明に係るサクション構造体は、前記天板部の上面を、護岸、防波堤、橋梁の主塔その他の港湾構造物又は海洋構造物が載置可能となるように構成したものである。
【0014】
本発明に係るサクション構造体においては、筒状周壁部が水底地盤に貫入された状態において引抜き力が作用したとき、該引抜き力に対する抵抗力が水底地盤から作用するように、筒状周壁部の周面に、鍔状、リブ状、螺旋状その他の凸部を設けてあり、水底地盤に沈設する際には、従来と同様、筒状周壁部の開口側が下方となるように水底に設置した後、天板部に形成された排水孔を介して内部の水を排水する。
【0015】
このようにすると、サクション構造体の自重(浮力分は除く)及びその内外で生じる水圧差が、筒状周壁部を水底地盤に貫入する際の押込み力となるが、その水圧差は同時に、筒状周壁部の周囲に拡がる水底から該筒状周壁部の下端を回り込んでその内側の水底へと向かう浸透流を水底地盤内に生じさせ、それによって地盤の有効応力が低下して筒状周壁部下端での貫入抵抗が小さくなるので、筒状周壁部の周面に設けた凸部が水底地盤への貫入の妨げとなるおそれはない。
【0016】
一方、筒状周壁部の水底地盤への根入れ完了に伴って排水操作を停止した後は、上述した浸透流も消滅し、水底地盤は元の状態に戻る。
【0017】
そのため、かかる状態でサクション構造体に引抜き力が作用すると、凸部を筒状周壁部の内周面に設けた構成においては、筒状周壁部の内部に水底地盤の土砂が中詰めされた状態で引き抜かれるため、土砂が中詰めされずに水底地盤に残置される場合と比べれば、筒状周壁部に中詰めされた土砂の重量があらたな抵抗力として加わるため(内周面での周面摩擦力は除外)、引抜きに対するサクション構造体の耐力をある程度向上させることが可能となる。
【0018】
また、凸部を筒状周壁部の外周面に設けた構成においては、凸部によって筒状周壁部の外周面に周辺土砂が一体化されるため、筒状周壁部の外周面が水底地盤から離脱して引き抜かれる従来構成の場合と比べれば、筒状周壁部の外周面に一体化された地盤領域の重量があらたな抵抗力として加わるが、該地盤領域とその周囲の水底地盤との境界面(せん断面)における摩擦力が十分な大きさを有しており、この摩擦力があらたな抵抗力として加わるため、筒状周壁部の外周面が水底地盤から離脱しようとする際に生じる従来構成の周面摩擦力を差し引いても、引抜きに対するサクション構造体の耐力は大幅に向上する。
【0019】
具体的に説明すると、凸部を設ける筒状周壁部の周面としては、
(a) 内周面のみ
(b) 外周面のみ
(c) 内周面及び外周面
の3つの形態が想定されるが、凸部が存在しない従来構成において、引抜き時に筒状周壁部だけが水底地盤から抜け出す形で引抜き破壊する場合には(以下、引抜き破壊モードI)、内周面及び外周面に作用する周面摩擦力及びサクション構造体の自重が引抜きに対する抵抗力となるだけである。
【0020】
この場合、(a)の構成を選択すれば、引抜き破壊モードは、筒状周壁部の内部に水底地盤の土砂が中詰めされた状態で筒状周壁部が水底地盤から引き抜かれるモード(以下、引抜き破壊モードII)に移行し、上述したように筒状周壁部に中詰めされた土砂の重量があらたな抵抗力として加わるため(内周面での周面摩擦力は除外)、引抜きに対するサクション構造体の耐力をある程度向上させることができるとともに、筒状周壁部の外周面に凸部が形成されないことから、サクション構造体の全体寸法を抑えることが可能となり、搬送その他の取り扱いを容易にすることができる。
【0021】
一方、(c)の構成を選択すれば、引抜き破壊モードは、筒状周壁部の内部に水底地盤の土砂が中詰めされかつ筒状周壁部の外周面に水底地盤の土砂が一体化した状態で該筒状周壁部が水底地盤から引き抜かれる引抜き破壊モード(以下、引抜き破壊モードIII)へと移行し、(a)の構成による作用に加えて、上述したように筒状周壁部の外周面に一体化された地盤領域の重量があらたな抵抗力として加わるのみならず、該地盤領域とその周囲の水底地盤との境界面(せん断面)における摩擦力が十分な大きさを有しており、この摩擦力があらたな抵抗力として加わるため、引抜きに対するサクション構造体の耐力を大幅に向上させることが可能となる。
【0022】
また、凸部が存在しない従来構成において引抜き破壊モードが引抜き破壊モードIIである場合、(b)の構成を選択すれば、引抜き破壊モードは引抜き破壊モードIIIへと移行し、上述したように筒状周壁部の外周面に一体化された地盤領域の重量があらたな抵抗力として加わるのみならず、該地盤領域とその周囲の水底地盤との境界面(せん断面)における摩擦力が十分な大きさを有しており、この摩擦力があらたな抵抗力として加わるため、引抜きに対するサクション構造体の耐力を十分に向上させることが可能となる。
【0023】
凸部は、サクション構造体に引抜き力が作用したときに該引抜き力に対する抵抗力が水底地盤から作用する限り、具体的にどのように構成するかは任意であって、例えば、鍔状、リブ状、螺旋状に構成することが可能であるし、必ずしも全周にわたって連続的に構成する必要はなく、離散的に配置するようにしてもかまわない。
【0024】
また、凸部は、筒状周壁部のうち、端部近傍を除く中間部位に設けるようにしてもかまわないが、筒状周壁部の他端近傍、すなわち天板部の反対側に位置する端部近傍に設けた構成とするならば、サクションによる貫入作業を行っている間、浸透流による有効応力低下が最も大きい箇所に凸部が常に位置することになるため、貫入抵抗を確実に小さくすることができるとともに、貫入が完了した状態においては、水底から最も深い位置に凸部が埋設されることになるため、筒状周壁部に一体化される周辺土砂の重量が最大となり、引抜きに対する耐力を十分に高めることが可能となる。
【0025】
本発明に係るサクション構造体は、海底地盤をはじめ、湖沼の水底地盤に沈設することが可能である。
【0026】
また、本発明に係るサクション構造体は、水平力及び引抜き力に対し、十分な抵抗力を保有した状態で水底地盤に沈設する必要がある全ての構造物に適用可能であるが、典型的にはサクションアンカー又はスカートサクション基礎への適用が想定されるものであり、前者の場合には、係留手段を連結可能な連結部を天板部の上面に設ける構成とし、後者の場合には、天板部の上面を、護岸、防波堤、橋梁の主塔といった港湾構造物又は海洋構造物が例えばケーソンの形で載置可能となるように構成すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本実施形態に係るサクションアンカー1の図であり、(a)は鉛直断面図、(b)はA−A線方向から見た矢視図。
図2】本実施形態に係るサクションアンカー1を沈設する様子を示した施工図。
図3】本実施形態に係るサクションアンカー1の作用を、従来のサクションアンカーとの比較で示した説明図。
図4】鍔状突起4が海底地盤14に及ぼす支圧の範囲について別の例を示した鉛直断面図。
図5】変形例に係るサクションアンカー1bとその作用を、従来のサクションアンカーとの比較で示した説明図。
図6】変形例に係るサクションアンカー1cとその作用を、従来のサクションアンカーとの比較で示した説明図。
図7】鍔状突起4の変形例を示した図。
図8】スカートサクション基礎73の図であり、(a)は鉛直断面図、(b)はB−B線に沿う鉛直断面図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係るサクション構造体の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0029】
図1は、本発明に係るサクション構造体をサクションアンカーに適用した例を示したものである。同図でわかるように、本実施形態に係るサクションアンカー1は、筒状周壁部3とその一端を塞ぐ天板部2とで構成してあり、筒状周壁部3は円筒形に、天板部2は円形にそれぞれ形成してある。
【0030】
サクションアンカー1は、鉄筋コンクリート、プレストレストコンクリート、鋼材その他の材料で適宜構成することが可能であり、水平力及び引抜き力に対して要求される強度や耐力に応じて、例えば直径を数m〜10m程度、高さをその3〜4倍程度に設定すればよい。
【0031】
天板部2には排水孔5を形成してあり、該排水孔にサクションホース7の先端を接続するとともにその基端側に接続されたサクションポンプ(図示せず)を作動させることで、筒状周壁部3と天板部2で囲まれた内側空間6に拡がる水を排水できるようになっている。
【0032】
筒状周壁部3の他端、すなわち天板部2と反対側の端部には、凸部としての鍔状突起4を外方に延設してある。
【0033】
図2は、本実施形態に係るサクションアンカー1を海底地盤14に沈設する様子を示した施工図である。サクションアンカー1を海底地盤14に沈設するには、同図(a)に示すようにまず、筒状周壁部3の開口側が下方となるようにサクションアンカー1を海底11に設置する。
【0034】
設置作業は、起重機船12に搭載したクレーン(図示せず)を適宜用いればよい。
【0035】
次に、天板部2の排水孔5とサクションポンプ13とをサクションホース7を介して連通接続し該サクションポンプを作動させることにより、サクションアンカー1の内側空間6に拡がる水を排水する。
【0036】
このようにすると、サクションアンカー1の内側空間6及びそれに連通するサクションホース7内の水は、周辺海域よりもδhだけ水位が低下し、その水位低下に相当する水圧差δPは、サクションアンカー1の自重(浮力分は除く)とともに、サクションアンカー1の筒状周壁部3を海底地盤14に貫入する押込み力となる。
【0037】
ここで、水圧差δPは同時に、筒状周壁部3の周囲に拡がる海底11から該筒状周壁部の下端を回り込んでその内側の海底へと向かう浸透流を海底地盤14内に生じさせ、それによって海底地盤14の有効応力が低下して筒状周壁部3下端での貫入抵抗が小さくなる。
【0038】
そのため、筒状周壁部3は、その下端外周面から外方に延設された鍔状突起4に妨げられることなく、同図(b)に示すように海底地盤14に貫入される。
【0039】
筒状周壁部3の海底地盤14への貫入が完了した後は、サクションポンプ13による排水操作を終了するが、それに伴って上述した浸透流も消滅するため、海底地盤14は元の状態に戻る。
【0040】
なお、サクションポンプ13による排水完了後は、サクションアンカー1が筒状周壁部3の開口側以外から外部と連通しないように排水孔5を閉じる。
【0041】
図3は、サクションアンカー1を沈設した後、該サクションアンカーに引抜き力が作用した場合のサクションアンカー1の作用を示した説明図である。同図(a)に示したように、サクションアンカー1の天板部2の上面には連結部32を設けてあるとともに、該連結部には、洋上風力発電等の浮体構造物(図示せず)から延びる係留手段としての係留索31が連結してあり、サクションアンカー1は、浮体構造物の係留アンカーとして機能する。
【0042】
ここで、浮体構造物が波力や風力を受けると、サクションアンカー1には、係留索31を介して引張力が作用するが、該引張力のうち、水平方向成分については、筒状周壁部3の外周面に作用する海底地盤14からの受動土圧が抵抗力となって、サクションアンカー1を安定に保持する。
【0043】
一方、鉛直上向きの成分、すなわち引抜き力に対しては、筒状周壁部3の下端に設けられた鍔状突起4の上方に拡がる領域であって筒状周壁部3の外径を内径とし、鍔状突起4の直径を外径とする円筒状の地盤領域33が、筒状周壁部3に一体化される。
【0044】
すなわち、鍔状突起4が存在しない従来構成の場合、引抜きによる破壊時のモードが引抜き破壊モードIIであるときには、同図(b)に示すように、中詰め土砂の重量、サクションアンカーの自重(いずれも浮力分は除く)及び外周面に作用する周面摩擦力が引抜きに対する抵抗力となるが、本実施形態の場合においては、同図(c)に示すように、円筒状の地盤領域33が筒状周壁部3に一体化され、引抜き破壊モードは引抜き破壊モードIIIへと移行する。
【0045】
そして、本実施形態においては、筒状周壁部3の外周面に一体化された地盤領域33の重量があらたな抵抗力として加わるのみならず、該地盤領域とその周囲の海底地盤14との境界面(せん断面)における摩擦力が十分な大きさを有しており、この摩擦力があらたな抵抗力として加わる。
【0046】
なお、図3(b),(c)においては、引抜き破壊の違いがよくわかるように引抜き破壊後の様子を描いてあるが、引抜き力とそれに応答した抵抗力との関係は、引抜き破壊前の状態で説明するものとする(以下、同様)。
【0047】
以上説明したように、本実施形態に係るサクションアンカー1によれば、鍔状突起4によって筒状周壁部3に一体化される地盤領域33の重量分のみならず、地盤領域33とその周囲の海底地盤14との境界面(せん断面)における摩擦力から外周面における周面摩擦力を差し引いた分が引抜き時の抵抗力に上乗せされるため、引抜きに対するサクションアンカー1の耐力を十分に向上させることが可能となる。
【0048】
そのため、サクションアンカー1の高さや本数を抑えることが可能となり、製造から運搬さらには沈設に至るコストを大幅に軽減することができる。
【0049】
また、本実施形態に係るサクションアンカー1によれば、鍔状突起4を筒状周壁部3の他端近傍、すなわち天板部2の反対側に位置する端部近傍に設けた構成としたので、サクションによる貫入作業を行っている間、浸透流による有効応力低下が最も大きい箇所に鍔状突起4が常に位置することになるため、貫入抵抗を確実に小さくすることができるとともに、貫入が完了した状態においては、海底11から最も深い位置に鍔状突起4が埋設されることになるため、筒状周壁部3に一体化される周辺土砂である地盤領域33の重量や地盤領域33とその周囲の海底地盤14との境界面における摩擦力が最大となり、かくして引抜きに対する耐力を十分に高めることが可能となる。
【0050】
本実施形態では、引抜き破壊時において、海底地盤14内に形成されるせん断面が鍔状突起4の先端縁部から鉛直上方に形成されるものとしたが、これは、引抜き時における鍔状突起4の海底地盤14への支圧範囲が概ね鍔状突起4の上方のみに限定されると考えた場合であり、図4に示すように、鍔状突起4の先端縁部から斜め上方に延びる面まで支圧が及ぶと考えることができる場合には、引抜き破壊時に筒状周壁部3に一体化される地盤領域は、円筒状の地盤領域33ではなく、逆円錐台状の地盤領域33′となり、この場合には引抜きに対する抵抗力が大幅に増加する。
【0051】
また、本実施形態では、従来構成における引抜き破壊モードが引抜き破壊モードIIであることを想定したが、従来構成における引抜き破壊モードが引抜き破壊モードI、すなわち引抜き破壊時に筒状周壁部だけが海底地盤から引き抜かれるモードである場合には、サクションアンカー1に代えて、図5(a)に示すように筒状周壁部3とその一端を塞ぐ天板部2とで構成して該筒状周壁部の他端に鍔状突起4を外方に延設するとともに、同じく凸部としての環状突起4bを内方に延設してなるサクションアンカー1bを用いることができる。
【0052】
鍔状突起4及び環状突起4bが存在しない従来構成の場合、引抜きによる破壊時のモードが引抜き破壊モードIであるときには、図5(b)に示すように、サクションアンカーの自重(浮力分は除く)及び内外周面に作用する周面摩擦力が引抜きに対する抵抗力となるだけであるが、本変形例の場合においては、同図(c)に示すように、環状突起4bにより、筒状周壁部3の内側空間6に海底地盤14の土砂が中詰め土砂として保持されるとともに、鍔状突起4により、円筒状の地盤領域33が筒状周壁部3に一体化されるため、引抜き破壊モードは、引抜き破壊モードIIIへと移行する。
【0053】
したがって、環状突起4bによって筒状周壁部3に中詰めされた土砂の重量があらたな抵抗力として加わるとともに、上述の実施形態と同様、鍔状突起4によって筒状周壁部3に一体化される地盤領域33の重量分のみならず、地盤領域33とその周囲の海底地盤14との境界面(せん断面)における摩擦力から外周面における周面摩擦力を差し引いた分が引抜き時の抵抗力に上乗せされるため、引抜きに対するサクションアンカー1の耐力を大幅に向上させることが可能となる。
【0054】
なお、図5に示した変形例の鍔状突起4を省略し、図6に示したサクションアンカー1cを採用することも可能である。
【0055】
かかる構成においては、引抜き破壊モードは、引抜き破壊モードIから引抜き破壊モードIIへ移行するにとどまるものの、上述したように筒状周壁部3に中詰めされた土砂の重量があらたな抵抗力として加わるため(内周面での周面摩擦力は除外)、引抜きに対するサクション構造体の耐力をある程度向上させることができるとともに、筒状周壁部3の外周面に凸部が形成されないことから、サクションアンカー1cの全体寸法を抑えることが可能となり、搬送その他の取り扱いを容易にすることができる。
【0056】
また、本実施形態では、鍔状突起4を、筒状周壁部3に直交する方向に延設したが、これに代えて、図7(a)に示すように、筒状周壁部3と反対の側に斜めに延設してなる鍔状突起4cとしてもかまわないし、図示しないが、筒状周壁部3と同一の側に斜めに延設してなる鍔状突起を採用することも可能である。
【0057】
また、本実施形態では、鍔状突起4を、筒状周壁部3の全周にわたって設けるようにしたが、これに代えて、図7(b)に示すように、弓状の突片4dを互いに離間するように筒状周壁部3の下端外周面に沿って外方に複数延設するようにしてもかまわない。
【0058】
なお、凸部を斜めに延設して構成する上述の変形例と凸部を複数の突片で構成する上述の変形例は、環状突起4bについても同様に適用することが可能であるとともに、それらの変形例を任意に組み合わせることも可能である。
【0059】
また、本実施形態及びその変形例では、本発明に係るサクション構造体をサクションアンカーとして利用する場合について説明したが、上述したサクションアンカー1,1b,1c及びそれらの変形例はいずれも、スカートサクション基礎として利用することが可能である。
【0060】
図8は、一例としてサクションアンカー1cと同一構成のスカートサクション基礎73を上述の実施形態と同様に海底地盤14に沈設した例であって、スカートサクション基礎73を列状に複数配置するとともに、該スカートサクション基礎の配置列に沿うようにその天板部2の上にケーソン71を載置して防波堤としてあり、ケーソン71は、スカートサクション基礎73の天板部2であって陸地側に立設されたずれ止め72にその脚部を当接させてある。
【0061】
かかる構成においても、スカートサクション基礎73は、サクションアンカー1cと同様、引抜きに対して大きな抵抗力を有するため、波浪によるケーソン71の転倒を未然に防止することができる。
【符号の説明】
【0062】
1,1b,1c サクションアンカー(サクション構造体)
2 天板部
3 筒状周壁部
4 鍔状突起(凸部)
4b 環状突起(凸部)
4c 鍔状突起(凸部)
4d 突片(凸部)
5 排水孔
14 海底地盤(水底地盤)
31 係留索(係留手段)
32 連結部
73 スカートサクション基礎(サクション構造体)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8