(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第三ブレーキが、前記第一の連結部材の前記設置面に増設され、前記設置面が形成された前記連結部位を介して、前記第三プラネタリ機構の前記リングギヤの回転を制動する、請求項1の変速装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、変速装置には、用途の変更などに伴ってさらなる多段化が要求されることがある。このような場合には、クラッチやブレーキなどの係合要素を追加して、作動させる係合要素の組み合わせである係合パターンを増加することによって、前進10速段を超える多段変速を可能とする変速装置のレイアウトを設計することが可能である。しかし、部品の流用性などを勘案すると、新たにレイアウトを設計するよりは既存の変速装置に係合要素を追加するのみでさらなる多段化が可能となる方が好ましい。
【0006】
そこで、特許文献1において、ブレーキを増設してさらなる多段化を図るものとする。ブレーキを増設する場合には、要素間の要素同士を連結する連結部材のうちハウジングとの間に他の部材を介在させておらず、且つ何れかの要素に常時連結されており、既に他のブレーキを設けられているものを除いた連結部材が対象となる。そうすると、特許文献1のFig2において、第二遊星歯車セットのサンギヤ(14A)とクラッチ(30)の一端を連結する連結部材(42)にブレーキを増設すると、当該連結部材(42)を介してサンギヤの回転を制動する係合パターンを増加することができる。
【0007】
上記のような構成において、増加した係合パターンによって増加する変速段は3速段となる。しかし、隣り合う変速段に移行する際に切り換える係合要素の最大数を2とすると、増加する変速段は2速段となる。これは、特許文献1におけるレイアウトの設計が、変速装置のさらなる多段化を見通した拡張性の側面からはなされておらず、所定の要求性能などの側面からなされたものであることに起因するためと考えられる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来とは相違するレイアウトによって、多段変速を可能とするとともに、拡張性を向上できる変速装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る変速装置は、ハウジングと、サンギヤ、リングギヤ、キャリアの3要素を有するプラネタリ機構であって、前記ハウジングに回転軸線周りに回転可能に支承された第一、第二、第三、および第四プラネタリ機構と、前記要素同士を選択的に連結可能な第一、第二、第三、および第四クラッチと、前記第一プラネタリ機構の前記サンギヤの回転を制動する第一ブレーキと、前記第四プラネタリ機構の前記リングギヤの回転を制動する第二ブレーキと、前記プラネタリ機構の前記要素同士を連結する連結部材であって、前記第三クラッチが配置される第一の連結部材と、前記プラネタリ機構の前記要素同士を連結する連結部材であって、前記第二プラネタリ機構の前記リングギヤと前記第三プラネタリ機構の前記キャリアを連結する第二の連結部材と、前記第一プラネタリ機構の前記キャリアに常時連結し、前記ハウジングに前記回転軸線周りに回転可能に支承された入力軸と、前記第四プラネタリ機構の前記キャリアに常時連結し、前記ハウジングに前記回転軸線周りに回転可能に支承された出力軸と、を備え、前記入力軸が配置された入力側から前記出力軸が配置された出力側に向かって前記回転軸の軸方向において第一、第二、第三、および第四位置を定め、前記第一プラネタリ機構は前記第一位置および前記第二位置の一方に配置されるとともに前記第二プラネタリ機構は他方に配置され、前記第三プラネタリ機構は前記第三位置に配置され、前記第四プラネタリ機構は前記第四位置に配置され、前記第一プラネタリ機構の前記リングギヤは、前記第三プラネタリ機構の前記サンギヤおよび前記第四プラネタリ機構の前記サンギヤに常時連結され、前記第二プラネタリ機構の前記リングギヤは、前記第三プラネタリ機構の前記キャリアに常時連結され、前記第三プラネタリ機構の前記キャリアは、前記第四プラネタリ機構の前記リングギヤに常時連結され、前記第一クラッチは、前記第一プラネタリ機構の前記サンギヤと前記第二プラネタリ機構の前記サンギヤとを選択的に連結する位置に配置され、前記第二クラッチは、前記第一プラネタリ機構の前記キャリアと前記第二プラネタリ機構の前記サンギヤとを選択的に連結する位置に配置され、前記第三クラッチは、前記第二プラネタリ機構の前記キャリアと前記第三プラネタリ機構の前記リングギヤとを選択的に連結する位置に配置され、前記第四クラッチは、前記第一プラネタリ機構の前記リングギヤと前記第二プラネタリ機構の前記キャリアとを選択的に連結する位置に配置され、前記第一の連結部材は、前記第二の連結部材よりも外周側に配置され、前記第一の連結部材のうち前記第三プラネタリ機構の前記リングギヤと前記第三クラッチを連結する連結部位には、前記ハウジングの内周面と対向し、且つ前記連結部位の回転を制動する第三ブレーキを増設可能な設置面が形成されている。
【0010】
このような構成によると、4つのクラッチと2つのブレーキのうち3つの係合要素を作動させることによって、少なくとも前進10速段、後進1速段の多段変速を得られる。また、各前進段では、作動させる3つの係合要素のうち1つを切り換えることによって、隣り合う変速段に移行することができる。さらに、第一の連結部材に形成された設置面に第三ブレーキを増設することにより係合パターンを増加して、各プラネタリ機構や係合要素などの他の部材を変更することなく変速段をさらに多段化できる。よって、変速装置は、従来とは相違するレイアウトによって多段階の変速を可能とするとともに、変速装置の拡張性を向上できる。
【0011】
請求項2に係る変速装置は、前記第三ブレーキが、前記第一の連結部材の前記設置面に増設され、前記設置面が形成された前記連結部位を介して、前記第三プラネタリ機構の前記リングギヤの回転を制動する。
【0012】
このような構成によると、変速装置は、4つのプラネタリ機構をクラッチとブレーキを合わせた7つの係合要素を複合的に作動させることによって、さらに多段階の変速を可能とする。この構成において、増加した係合パターンによって増加する変速段は前進5速段、後進1速段となる。なお、隣り合う変速段に移行する際に切り換える係合要素の数が何れの変速段においても1または2である。よって、変速装置は、拡張性を向上しつつ、実際に第三ブレーキを増設した場合にも運用状態における高い制御性を確保することができる。
【0013】
請求項3に係る変速装置において、前記プラネタリ機構の前記要素同士を連結する連結部材であって、前記第一プラネタリ機構の前記キャリアと前記入力軸を連結する第三の連結部材を備え、前記第一プラネタリ機構は、前記第一位置に配置されるとともに前記第一ブレーキよりも前記入力側に配置され、前記第三の連結部材は、前記入力軸の回転駆動力を前記変速装置の外周側に出力可能な外部出力部材に常時連結されている。
【0014】
このような第一および第二プラネタリ機構の位置関係によると、第一プラネタリ機構のキャリアと入力軸を常時連結する第三の連結部材は、第一プラネタリ機構の外周側を通り、キャリアの出力側に連結される。このように、入力軸の回転を伝達する連結部材の一部がプラネタリ機構の外周側に位置することを利用して、例えばその一部に外部出力部材を設ける構成とすることができる。これにより、外部出力部材は、変速装置が成立させている何れの変速段においても入力軸と一体的に回転することになり、出力軸とは別に回転駆動力を出力することが可能となる。
【0015】
請求項4に係る変速装置において、前記第二プラネタリ機構は、前記第一位置に配置され、前記第一の連結部材において前記設置面が形成された前記連結部位は、前記第一位置から前記第三位置までの前記回転軸の軸方向間に延在するように形成されている。
【0016】
このような第一および第二プラネタリ機構の位置関係によると、第一の連結部材は、第二プラネタリ機構のキャリアと第三プラネタリ機構のリングギヤを連結するように回転軸線方向に延在することになる。そこで、第一の連結部材において設置面を形成される連結部位を、第二プラネタリ機構が配置される軸方向位置(第一位置)から第三プラネタリ機構が配置される軸方向位置(第三位置)まで延在するように形成する。これにより、上記の連結部位の外周面がハウジングの内周面と対向する軸方向長さを、長くすることができる。よって、設置面を形成する軸方向範囲を長くすることができるので、第三ブレーキを増設するための設置面の配置に係る設計自由度を向上できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の変速装置を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。実施形態において、変速装置は、車両に搭載されたエンジンが出力する回転駆動力を変速する装置として用いられる。車両は、変速装置により変速された回転駆動力が図示しない差動装置などを介して車両の駆動輪に伝達されて、変速装置において成立した所定の変速段で前進または後進するように構成されている。
【0019】
<実施形態>
(変速装置の構成)
変速装置1の構成について
図1を参照して説明する。変速装置1は、ハウジングHに回転軸線L周りに回転可能に支承された4つのプラネタリ機構P1〜P4と、複数の要素同士を選択的に連結可能な4つのクラッチC1〜C4と、所定の要素の回転を制動する2つのブレーキB1,B2と、各要素を連結する連結部材51〜56,61,62,71,81,82と、外部出力部材91と、入力軸Nと、出力軸Tとを備えて構成される。入力軸Nおよび出力軸Tは、ハウジングHに回転軸線L周りに回転可能に支承されている。
【0020】
また、この変速装置1において、車両の制御ECU2は、各クラッチC1〜C4、各ブレーキB1,B2からなる係合要素の作動状態を、制御信号に基づいて制御する。そして、本実施形態においては、上記の係合要素のうち3つの係合要素を作動させることによって、入力軸Nから入力される回転駆動力を、前進10速段および後進1速段の何れかに変速して、出力軸Tから出力可能な構成となっている。変速装置1における係合要素の作動状態と成立する変速段に関する詳細については後述する。
【0021】
各プラネタリ機構P1〜P4は、サンギヤ、リングギヤ、キャリアの3要素を有する。ここで、変速装置1において、回転軸線L方向に入力軸Nが配置された入力側(
図1の左側)から出力軸Tが配置された出力側(
図1の右側)に向かう4つの位置を、第一、第二、第三、および第四位置D1〜D4とする。第一位置D1および第二位置D2の何れか一方に第一プラネタリ機構P1が配置され、他方に第二プラネタリ機構P2が配置される。本実施形態においては、
図1に示すように、第一位置D1に第一プラネタリ機構P1、第二位置D2に第二プラネタリ機構P2が配置されている。また、第三位置D3に第三プラネタリ機構P3が配置され、第四位置D4に第四プラネタリ機構P4が配置されている。
【0022】
また、プラネタリ機構の3要素を表記するため、サンギヤに関しては各プラネタリ機構の符号”P1,P2,P3,P4”に対して符号’s’を、リングギヤに関しては各プラネタリ機構の符号”P1,P2,P3,P4”に対して符号’r’を、キャリアに関しては各プラネタリ機構の符号”P1,P2,P3,P4”に対して符号’c’を付加して示す。即ち、第一プラネタリ機構P1では、3要素をサンギヤP1s、リングギヤP1r、およびキャリアP1cのように示す。その他の第二、第三、および第四プラネタリ機構P2,P3,P4の3要素についても同様に示す。
【0023】
各クラッチC1〜C4は、複数の要素同士を選択的に連結可能な係合要素である。本実施形態においては、各クラッチC1〜C4は、常開型であり、供給される油圧によって作動する油圧式としている。例えば、制御ECU2が制御指令に基づいて油圧ポンプを作動することにより、入力軸NやハウジングHに形成された油路を介して、油圧ポンプから各クラッチC1〜C4に油圧が供給される。各クラッチC1〜C4は、供給された油圧により複数のクラッチ板(不図示)を接触させることにより、対象の要素間の要素同士で駆動力が伝達されるように要素同士を連結する。そして、各クラッチC1〜C4は、上記の油圧ポンプによる油圧の供給が遮断されると、クラッチ板同士を離間させて、対象の要素間の要素同士で駆動力が伝達されないように要素同士を離脱させる。各クラッチC1〜C4が配置される位置については後述する。
【0024】
各ブレーキB1,B2は、ハウジングHに設けられ、所定の要素の回転を制動する係合要素である。本実施形態においては、各クラッチC1〜C4と同様に、ハウジングHに形成された油路から供給される油圧によって作動する油圧式としている。例えば、制御ECU2が制御指令に基づいて油圧ポンプを作動することにより、入力軸NやハウジングHに係止された油路を介して、油圧ポンプから各ブレーキB1,B2に油圧が供給される。各ブレーキB1,B2は、供給された油圧によりディスク(不図示)にパッド(不図示)を押圧させることにより、対象とする所定の要素の回転を制動する。そして、各ブレーキB1,B2は、油圧ポンプによる油圧の供給が遮断されると、ディスクからパッドを離間させて、所定の要素の回転を許容する。
【0025】
第一ブレーキB1は、連結部材であるP1sB1部材51によって、第一プラネタリ機構P1のサンギヤP1sと連結されている。つまり、第一ブレーキB1は、制動対象である第一プラネタリ機構P1のサンギヤP1sの回転を制動する。第二ブレーキB2は、連結部材であるP4rB2部材81によって、第四プラネタリ機構P4のリングギヤP4rと連結されている。つまり、第二ブレーキB2は、制動対象である第四プラネタリ機構P4のリングギヤP4rの回転を制動する。
【0026】
入力軸Nは、クラッチ装置などを介して車両のエンジンの回転駆動力を変速装置1に入力する軸部材である。この入力軸Nは、連結部材であるP1cN部材52(本発明の「第三の連結部材」に相当する)によって、第一プラネタリ機構P1のキャリアP1cに常時連結されている。P1cN部材52の一端は、変速装置1における出力側(
図1の右側)から、キャリアP1c対して連結している。P1cN部材52の他端は、入力軸Nの外周に対して固定されている。
【0027】
出力軸Tは、入力軸Nと同軸上に配置され、変速された回転駆動力を車両の差動装置などを介して駆動輪に出力する軸部材である。出力軸Tは、連結部材であるP4cT部材82によって、第四プラネタリ機構P4のキャリアP4cに常時連結されている。P4cT部材82の一端は、変速装置1における出力側から、キャリアP4cに対して連結している。P4cT部材82の他端は、出力軸Tの外周に対して固定されている。
【0028】
また、第一プラネタリ機構P1のリングギヤP1rは、連結部材であるP1rP3sP4s部材53によって、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sおよび第四プラネタリ機構P4のサンギヤP4sに常時連結されている。P1rP3sP4s部材53の一端は、リングギヤP1rの外周側に連結している。P1rP3sP4s部材53の他端は、各サンギヤP3s,P4sの内周に対して連結している。これにより、第一プラネタリ機構P1のリングギヤP1r、第三および第四プラネタリ機構P3,P4のサンギヤP3s,P4sは、常に一体的に回転するように構成されている。
【0029】
第二プラネタリ機構P2のリングギヤP2rは、連結部材であるP2rP3c部材61(本発明の「第二の連結部材」に相当する)によって、第三プラネタリ機構P3のキャリアP3cに常時連結されている。また、第三プラネタリ機構P3のキャリアP3cは、連結部材であるP3cP4r部材71によって、第四プラネタリ機構P4のリングギヤP4rに常時連結されている。各連結部材61,71により、第二プラネタリ機構P2のリングギヤP2r、第三プラネタリ機構P3のキャリアP3c、第四プラネタリ機構P4のリングギヤP4rは、常に一体的に回転するように構成され、また第二ブレーキB2の作動によって回転を一斉に制動される。
【0030】
第一クラッチC1は、第一プラネタリ機構P1のサンギヤP1sと第二プラネタリ機構P2のサンギヤP2sを選択的に連結する位置に配置される。連結部材P1sP2s部材54は、各サンギヤP1s,P2sの要素間の要素同士を連結する。第一クラッチC1は、連結部材P1sP2s部材54に設けられている。P1sP2s部材54は、第一連結部位54aと第二連結部位54bとにより構成される。第一連結部位54aの一端は、サンギヤP1sの内周側から、サンギヤP1sに対して連結している。第一連結部位54aの他端は、第一クラッチC1の外周側から、第一クラッチC1に対して連結している。第一連結部位54aは、上記のP1sB1部材51と一体的に形成されている。第二連結部位54bの一端は、第一クラッチC1の内周側から、第一クラッチC1に対して連結している。第二連結部位54bの他端は、サンギヤP2sの内周側から、サンギヤP2sに対して連結している。
【0031】
第二クラッチC2は、第一プラネタリ機構P1のキャリアP1cと第二プラネタリ機構P2のサンギヤP2sとを選択的に連結する位置に配置される。連結部材P1cP2s部材55は、キャリアP1cとサンギヤP2sの要素間の要素同士を連結する。第二クラッチC2は、連結部材P1cP2s部材55に設けられている。P1cP2s部材55は、第三連結部位55aと第四連結部位55bとにより構成される。第三連結部位55aの一端は、変速装置1における入力側から、キャリアP1cに対して連結している。第三連結部位55aの他端は、第二クラッチC2の内周側から、第二クラッチC2に対して連結している。第四連結部位55bの一端は、第二クラッチC2の外周側から、第二クラッチC2に対して連結している。第四連結部位55bの他端は、サンギヤP2sの内周側から、サンギヤP2sに対して連結している。第四連結部位55bは、上記のP1sP2s部材54の第二連結部位54bと一体的に形成されている。
【0032】
第三クラッチC3は、第二プラネタリ機構P2のキャリアP2cと第三プラネタリ機構P3のリングギヤP3rとを選択的に連結する位置に配置される。連結部材P2cP3r部材62は、キャリアP2cとリングギヤP3rの要素間の要素同士を連結する。第三クラッチC3は、連結部材P2cP3r部材62に設けられている。連結部材P2cP3r部材62は、各プラネタリ機構P1〜P4の要素同士を連結する。連結部材P2cP3r部材62は、本発明の「第一の連結部材」に相当する。P2rP3c部材61(第二の連結部材)は、第二プラネタリ機構P2のリングギヤP2rと第三プラネタリ機構P3のキャリアP3cを連結する。P2cP3r部材62は、P2rP3c部材61よりも外周側に配置されている。
【0033】
また、P2cP3r部材62は、第五連結部62aと第六連結部位62bとにより構成される。第五連結部位62aの一端は、変速装置1における入力側から、キャリアP2cに対して連結している。第五連結部位62aの他端は、第三クラッチC3の内周側から、第三クラッチ3に対して連結している。第六連結部位62bの一端は、第三クラッチC3の外周側から、第三クラッチC3に対して連結している。第六連結部位62bの他端は、リングギヤP3rの外周側から、リングギヤP3rに対して連結している。本実施形態において、第六連結部位62bは、変速装置1の回転軸線L方向に延伸する筒状部を有する。第六連結部位62bの筒状部には、ハウジングHの内周面Haと対向する設置面62b1(
図1の斜線部)が形成されている。第六連結部位62bの回転を制動する第三ブレーキB3は、設置面62b1に増設することができる。
【0034】
このように、ハウジングHの内周面Haと第六連結部位62bとの間には、他の部材が介在させていない。そして、第六連結部位62bは、第三プラネタリ機構P3のリングギヤP3rに常時連結している。このため、第六連結部位62bは、第一、第二ブレーキB1,B2の作動により制動されない構成となっている。連結部材に関するこのような構成を採用することにより、係合要素としてのブレーキを増設することにより変速装置のさらなる多段化を図る場合において、増設したブレーキの制動によって係合パターンを増加させることができる。
【0035】
本実施形態では、第六連結部位62bに関する上記した連結部材の構成に加えてブレーキの増設を考慮し、P2cP3r部材62を、P2rP3c部材61よりも外周側に配置するように構成している。なお、P2rP3c部材61およびP2cP3r部材62は、対象とする要素同士を連結するという同一の機能を何れも有するものであるため、P2rP3c部材61を、P2cP3r部材62よりも外周側に配置するように構成することもできる。ブレーキを増設された構成の詳細については後述する。
【0036】
第四クラッチC4は、第一プラネタリ機構P1のリングギヤP1rと第二プラネタリ機構P2のキャリアP2cとを選択的に連結する位置に配置される。連結部材P1rP2c部材56は、リングギヤP1rとキャリアP2cの要素間の要素同士を連結する。第四クラッチC4は、連結部材P1rP2c部材56に設けられている。P1rP2c部材56は、第七連結部位56aと第八連結部位56bとにより構成される。第七連結部材56aの一端は、リングギヤP1rの外周側から、リングギヤP1rに対して連結している。第七連結部材56aの他端は、第四クラッチC4の内周側から、第四クラッチC4に対して連結している。第七連結部位56aは、上記のP1rP3sP4s部材53と一体的に形成されている。第八連結部材56bの一端は、第四クラッチC4の外周側から、第四クラッチC4に対して連結している。第八連結部材56bの他端は、変速装置1の出力側から、キャリアP2cに対して連結している。
【0037】
外部出力部材91は、第一プラネタリ機構P1のキャリアP1cと入力軸Nを連結するP1cN部材52(第三の連結部材)に常時連結されている。外部出力部材91は、入力軸Nから入力される回転駆動力を変速装置1の外周側に出力可能に構成されている。ところで、変速装置1は、変速した回転駆動力の他に、例えばハウジングHの外周側に配置された車両の補機などに回転駆動力を出力することが要求されることがある。このような場合に、本実施形態のレイアウトにおいては、例えばハウジングH内の外周側に位置するP1sP2s部材54やP3cP4r部材71などに、回転駆動力の取り出しを目的とした部材を配置することが考えられる。
【0038】
しかし、成立する変速段によっては、連結部材54,71の回転数は入力軸Nの回転数と比較して大きく変動することがあり、また回転しない場合もある。そのため、連結部材54,71から回転駆動力の取り出しを行うことは好適でない。そこで、本実施形態においては、入力軸Nと第一プラネタリ機構P1のキャリアP1cを連結するP1cN部材52に、外部出力部材91を常時連結する構成としている。これにより、外部出力部材91は、変速装置における変速段の成否、および成立させている変速段に関わらず、入力軸Nと常に同じ回転数の回転駆動力を外部へ出力することが可能となる。
【0039】
なお、第一および第二プラネタリ機構P1,P2のレイアウトに関しては上述した構成のみに限定されない。例えば、連結される要素は変更せずに第一プラネタリ機構P1を第二位置D2に配置し、且つ、連結する要素は変更せずに第二プラネタリ機構P2を第一位置D1に配置する構成とすることもできる(
図8を参照)。また、例えば、本実施形態のように第一プラネタリ機構P1を第一位置D1に配置し、当該第一位置D1よりも変速装置1の入力側に第一ブレーキB1を配置する構成とすることもできる(
図7を参照)。ハウジングHの内周面とP1cN部材52の少なくとも一部との間に他の部材を介在させない構成を採用することにより、外部出力部材91をP1cN部材52に連結することができる。従って、第一プラネタリ機構P1を第一位置D1に配置し、第二プラネタリ機構P2および第一ブレーキB1よりも第一プラネタリ機構P1を入力側に配置する構成を採用することにより、変速装置1に外部出力部材91を設けることができる。
【0040】
(変速装置の動作)
続いて、上記のように構成された変速装置1の動作について
図2および
図3を参照して説明する。変速装置1において、制御ECU2は、各クラッチC1〜C4、各ブレーキB1,B2からなる6つの係合要素の作動状態を制御する。そして、変速装置1は、
図2の係合表に示すように、6つの係合要素のうち3つの係合要素を選択的に作動させることによって、前進10速段(
図2における1st、2nd、〜10th)および後進1速段(
図2におけるRev)を成立させる。
【0041】
より詳細には、
図2の係合表において、係合要素の作動状態がONである場合、対応する係合要素について’○’を付して示している。つまり、各クラッチC1〜C4が、対象とする要素間の要素同士を連結する作動状態であることを示している。また、各ブレーキB1,B2が、対象とする要素の回転を制動する作動状態であることを示している。
図2の係合表において、係合要素の作動状態がOFFである場合、対応する係合要素について’○’を付していない。これは、例えば、各クラッチC1〜C4が常閉型であっても同様である。
【0042】
変速装置1における第1速段は、係合表によると、第一クラッチC1、第四クラッチC4、および第二ブレーキB2の作動状態がONである。このような係合状態(係合パターン)では、先ず、第一クラッチC1により第一および第二プラネタリ機構P1,P2のサンギヤP1s,P2sが連結され、第一クラッチC1により第一および第二プラネタリ機構P1,P2のサンギヤP1s,P2sが一体的に回転する状態となる。そして、第四クラッチC4によりP1rP3sP4s部材53に第二プラネタリ機構P2のキャリアP2cが連結され、P1rP3sP4s部材53に第二プラネタリ機構P2のキャリアP2cが一体的に回転する状態となる。
【0043】
このとき、第二ブレーキB2により第二プラネタリ機構P2のリングギヤP2rの回転が制動されているので、キャリアP1cから入力された回転駆動力は歯数に応じた変速比で減速し、減速された回転駆動力は、P1rP3sP4s部材53を介して、第四プラネタリ機構P4のサンギヤP4sに伝達される。さらに、第二ブレーキB2により第四プラネタリ機構P4のリングギヤP4rの回転が制動されているので、サンギヤP4sから入力された回転駆動力は歯数に応じた変速比でさらに減速し、減速された回転駆動力は、P4cT部材82を介して、出力軸Tに回転駆動力を伝達される。
【0044】
変速装置1が第1速段から第2速段に移行するには、第一クラッチC1および第二ブレーキB2の作動状態を維持しつつ、作動させる係合要素を第四クラッチC4から第二クラッチC2に切り換える。このような係合状態では、第一および第二クラッチC1,C2により、第二プラネタリ機構P2のサンギヤP2sに対して、第一プラネタリ機構P1のサンギヤP1sおよびキャリアP1cが連結され、サンギヤP2sとサンギヤP1sとキャリアP1cが一体的に回転する状態となる。
【0045】
つまり、第一プラネタリ機構P1は、3要素のうち2要素が連結されると、残りの1要素とともにプラネタリ機構が全体として一体的に回転するロック状態となる。第一プラネタリ機構P1においては、キャリアP1cに入力された入力軸Nの回転駆動力が、P1rP3sP4s部材53を介して第四プラネタリ機構P4のサンギヤP4sに伝達される。そして、第二ブレーキB2により第四プラネタリ機構P4のリングギヤP4rの回転が制動されているので、サンギヤP4sから入力された回転駆動力は歯数に応じた変速比で減速し、減速された回転駆動力は、P4cT部材82を介して出力軸Tに回転駆動力を伝達される。
【0046】
このとき、各変速段における各プラネタリ機構P1〜P4の3要素の速度比は、
図3の速度線図で示される。この速度線図は、第三プラネタリ機構P3および第四プラネタリ機構P4の各要素を横軸方向にギヤ比(λ)に対応させた間隔(1:λ)で配置し、縦軸方向に各要素に対してその速度比を取ったものである。また、
図3では、第一および第二プラネタリ機構P1,P2の各要素を、上記の第三および第四プラネタリ機構P3,P4の各要素に対応させて横軸方向に表記している。これは、各係合要素の作動状態によって表記する位置が適宜変更されるので一部が重複している。その他に、縦軸方向に表記された速度比に対応する第一および第二プラネタリ機構P1,P2の各要素を同図の右側に表記している。
【0047】
このように、変速装置1は、6つの係合要素のうち3つの係合要素を選択的に作動させることによって、
図3の速度線図に示すように、それぞれ異なる変速比となる変速段を成立可能としている。また、変速装置1は、
図2の係合表に示すように、作動させる3つの係合要素のうち1つを切り換えることによって、隣り合う変速段に移行可能である。また、変速装置1のレイアウトにおいては、入力軸Nに回転駆動力が入力されている場合には、入力軸Nに入力されている回転駆動力と同じ回転数の駆動力が、外部出力部材91から出力される。これは、変速装置1が所定の変速段を成立させている状態、および何れの係合要素も作動させずに出力軸Tから回転駆動力を出力しない状態の何れであっても同様である。
【0048】
(係合要素を増設された変速装置の構成)
続いて、係合要素としてブレーキを増設して、さらなる多段化を図った変速装置101の構成について、
図4〜
図6を参照して説明する。変速装置101は、上記の構成に加えて、第三ブレーキB3をさらに備えて構成される。この第三ブレーキB3は、P2cP3r部材62の第六連結部位62bにおける設置面62b1に増設される。ここで、P2cP3r部材62は、第一の連結部材である。第三ブレーキB3は、第六連結部位62bを介して、第三プラネタリ機構P3のリングギヤP3rの回転を制動する。
【0049】
なお、P2cP3r部材62の設置面62b1を、ブレーキの増設に対応できるように形成することにより、第三ブレーキB3を増設する場合、他の部材の交換や配置変更などを行わずに容易に増設することができる。また、第三ブレーキB3を増設する場合、係合要素の増設専用のハウジングを用いることにより、第三ブレーキB3を配置するスペースをハウジングHに確保したり、油圧を供給する油路をハウジングHに形成したりすることもできる。
【0050】
また、車両の制御ECU2は、制御対象である第三ブレーキB3の作動状態を制御する。これにより、第三ブレーキB3は、第一および第二ブレーキB1,B2と同様に、例えば、制御ECU2が制御指令に基づいて油圧ポンプを作動することにより、油圧が供給される。第三ブレーキB3は、供給された油圧によりディスク(不図示)にパッド(不図示)を押圧させることにより、対象とする第三プラネタリ機構P3のリングギヤP3rの回転を制動する。そして、第三ブレーキB3は、油圧ポンプによる油圧の供給が遮断されると、ディスクからパッドを離間させて、リングギヤP3rの回転を許容する。
【0051】
このように、係合要素として第三ブレーキB3が増設された変速装置101においては、各クラッチC1〜C4、各ブレーキB1〜B3からなる7つの係合要素が、制御ECU2により作動状態を制御される。そして、変速装置101は、
図5の係合表に示すように、7つの係合要素のうち3つの係合要素を選択的に作動させることによって、前進15速段(
図5における1st、2nd、〜15th)および後進2速段(
図5におけるRev.1、Rev.2)を成立させる。
【0052】
なお、
図5では、増設の前後における係合パターンを比較するため、増設前の10段変速(
図5の最上段の10thと示す列)と、増設後の15段変速(
図5の最上端の15thと示す列)との両方を表記している。また、第三ブレーキB3の増設によって増加した係合パターンは、
図5において背景に斜線を付された列に相当する。増加した係合パターンは、当然ながら第三ブレーキB3が作動状態となっている。
【0053】
また、各変速段における各プラネタリ機構P1〜P4の3要素の速度比は、
図6の速度線図で示される。この速度線図によると、第三ブレーキB3の作動により第三プラネタリ機構P3のリングギヤP3rが制動され、且つ、第三クラッチC3の作動により第二プラネタリ機構P2のキャリアP2cが制動された場合に、
図3の係合表と比較して、さらなる多段化が可能な係合パターンを増加させることができる。
【0054】
このように、変速装置101は、7つの係合要素のうち3つの係合要素を選択的に作動させることによって、
図6の速度線図に示すように、それぞれ異なる変速比となる変速段を成立可能としている。また、変速装置101は、
図5の係合表に示すように、作動させる3つの係合要素のうち1つまたは2つを切り換えることによって、隣り合う変速段に移行可能としている。つまり、変速装置101では、隣り合う変速段に移行する際に切り換える係合要素を2つまで許容するものとしている。
【0055】
(実施形態の構成による効果)
上記の変速装置1によると、4つのクラッチC1〜C4と2つのブレーキB1,B2のうち3つの係合要素を作動させることによって、前進10速段、後進1速段の多段変速を得られる。また、各前進段では、作動させる3つの係合要素のうち1つを切り換えることによって、隣り合う変速段に移行することができる。よって、変速装置1は、上記のようなレイアウトによって多段階の変速を可能とするとともに、運用状態における高い制御性を確保することができる。
【0056】
さらに、P2cP3r部材62(第一の連結部材)に形成された設置面62b1に第三ブレーキB3を増設することにより係合パターンを増加させ、これにより、変速段のさらなる多段化が可能である。また、第三ブレーキB3を増設する場合には、各プラネタリ機構P1〜P4や係合要素などの他の部材を変更することなく対応可能である。よって、係合要素の増設前における変速装置1は、従来とは相違するレイアウトにより多段階の変速を可能とし、さらに、変速装置の拡張性を向上させたものである。
【0057】
また、係合要素として第三ブレーキB3を増設した構成においては、増加した係合パターンによって増加する変速段は前進5速段、後進1速段となる。なお、隣り合う変速段に移行する際に切り換える係合要素の数は、何れの変速段においても1または2である。よって、第三ブレーキB3を増設した変速装置101は、運用状態における高い制御性を確保することができる。
【0058】
本実施形態では、変速装置1,101は、入力軸Nの回転を伝達するP1cN部材52の一部をプラネタリ機構の外周側に位置させるように構成し、P1cN部材52の一部に外部出力部材91を設ける構成を採用している。この構成より、変速装置1,101が成立させている何れの変速段においても、外部出力部材91を入力軸Nと一体的に回転させることができるため、入力軸Nの回転駆動力を、出力軸Tとは別に回転駆動力を出力することが可能となる。
【0059】
<実施形態の変形態様>
(第一変形態様)
上述した実施形態において、変速装置1,101のレイアウトの一例を説明したが、本発明はこれに限定されず他のレイアウトを採用することもできる。例えば
図7に示すように、第一プラネタリ機構P1を第一位置D1に配置し、第一ブレーキB1を、第一位置D1よりも変速装置1の入力側に配置するようにしてもよい。なお、このような構成では、入力軸Nと常に同じ回転数で回転する連結部材を、他の部材を介在させることなく最外側に位置させることができなくなるため、外部出力部材91を設けることはできない。しかし、このようなレイアウトによれば、P1cN部材52を含む各連結部材の形状を簡素化することができる。
【0060】
(第二変形態様)
上述した実施形態において、変速装置1,101の第一プラネタリ機構P1を第一位置D1に配置し、第二プラネタリ機構P2を第二位置D2に配置する例を説明したが、本発明はこれに限定されず他の配置とすることもできる。例えば、第一および第二プラネタリ機構P1,P2の配置に関して、上述したように連結される要素を変更することなく、第一プラネタリ機構P1を第二位置D2に配置し、第二プラネタリ機構P2を第一位置D1に配置するようにしてもよい。
【0061】
より具体的には、
図8に示すように、変速装置1,101の各プラネタリ機構P1〜P4などのレイアウトを構成することができる。このレイアウトは、一部の要素の配置が変更することのみにより構成することができ、また、互いに連結する要素を何れも変更せずに構成することができる。また、この変形態様では、P2cP3r部材62(第一の連結部材)において設置面62b1が形成された第六連結部位62bは、軸方向において、第一位置D1から第三位置D3までの間(回転軸の軸方向間)に延在するように形成されている。これにより、第六連結部位62bの外周面がハウジングHの内周面Haと対向する軸方向長さを、長くすることができる。よって、設置面62b1を形成する軸方向範囲を長くすることができるので、第三ブレーキB3を増設するための設置面62b1の配置に係る設計自由度を向上できる。
【符号の説明】
【0062】
1,101:変速装置、 2:制御ECU
P1:第一プラネタリ機構
P1s:サンギヤ、 P1r:リングギヤ、 P1c:キャリア
P2:第二プラネタリ機構
P2s:サンギヤ、 P2r:リングギヤ、 P2c:キャリア
P3:第三プラネタリ機構
P3s:サンギヤ、 P3r:リングギヤ、 P3c:キャリア
P4:第四プラネタリ機構
P4s:サンギヤ、 P4r:リングギヤ、 P4c:キャリア
C1:第一クラッチ、 C2:第二クラッチ
C3:第三クラッチ、 C4:第四クラッチ
B1:第一ブレーキ、 B2:第二ブレーキ、 B3:第三ブレーキ
N:入力軸、 T:出力軸、 H:ハウジング、 Ha:内周面
D1〜D4:第一位置〜第四位置
51:P1sB1部材、 52:P1cN部材(第三の連結部材)
53:P1rP3sP4s部材
54:P1sP2s部材、 54a:第一連結部位、 54b:第二連結部位
55:P1cP2s部材、 55a:第三連結部位、 55b:第四連結部位
56:P1rP2c部材、 56a:第七連結部位、 56b:第八連結部位
61:P2rP3c部材(第二の連結部材)
62:P2cP3r部材(第一の連結部材)
62a:第五連結部位、 62b:第六連結部位、 62b1:設置面
71:P3cP4r部材、 81:P4rB2部材、 82:P4cT部材
91:外部出力部材