(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セラミックス基板の一方の面に回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面に純度99%以上のアルミニウムからなる金属層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記パワーモジュール用基板の前記金属層に固相拡散接合され、線膨張率が15×10−6/K以上22×10−6/K以下の銅又は銅合金からなるヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、前記ヒートシンクの最大長さをLとし、前記ヒートシンクの反り量をZとし、前記ヒートシンクの接合面側に凸状の変形を正の反り量とした場合に、25℃におけるLとZの比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲内とされ、280℃まで加熱した際における前記比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲とされ、その加熱後25℃まで冷却した際の前記比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲内とされることを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板。
25℃から280℃まで温度変化させた場合において、前記比率Z/Lの最大値と最小値との差ΔZ/Lが0.015以下とされることを特徴とする請求項1記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板。
請求項1又は2に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造する方法であって、前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを接合する際に、前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを積層し、この積層体を曲率半径1000mm以上6000mm以下の凸面又は凹面が対向面に形成された二枚の加圧板の対向面間に挟んで前記ヒートシンクの接合面を凹状の反りとする変形を生じさせた状態で加熱し、前記変形を生じさせた状態で冷却することを特徴とするヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュールとして、窒化アルミニウムを始めとするセラミックス基板上にアルミニウム板が接合されるとともに、他方の片側にアルミニウム板を介してアルミニウム系のヒートシンクが接合されたヒートシンク付パワーモジュール用基板が用いられている。
【0003】
従来、ヒートシンク付パワーモジュール用基板は、次のように製造されてきた。
まず、セラミックス基板表面に、セラミックス基板とアルミニウム板との接合に適するろう材を介して、セラミックス基板の一方の面及び他方の面にアルミニウム板を積層し、所定の圧力で加圧しながら、ろう材が溶融する温度以上まで加熱し冷却することにより、セラミックス基板と両面のアルミニウム板とを接合してパワーモジュール用基板を製造する。
【0004】
次に、パワーモジュール用基板の他方の面側のアルミニウム板に、そのアルミニウム板とヒートシンクとの接合に適するろう材を介してヒートシンクを積層し、所定の圧力で加圧しながら、ろう材が溶融する温度以上まで加熱し冷却する。これにより、アルミニウム板とヒートシンクとを接合してヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造することができる。
また、このように構成されるヒートシンク付パワーモジュール用基板の一方の面側に接合されたアルミニウム板は、回路層として形成され、この回路層上にはんだ材を介してパワー素子等の電子部品が搭載される。
【0005】
ところが、セラミックス基板とアルミニウム板のような熱膨張係数の異なる部材の接合においては、接合後の冷却時における熱収縮により反りが発生する。
この反り対策として、特許文献1では、チップや端子、放熱板等のはんだ付け等をするときの高温時における反り量と、セラミックス回路基板を室温に戻したときの反り量を制御することが記載されている。
【0006】
また、特許文献2では、セラミックス基板をたわませながら回路用金属板と金属放熱板とを接合し、回路用金属板が凹面となる反りを有する回路基板を製造することとしている。一般的に、回路用基板を用いてモジュールを形成する際には、モジュールを平面的になるようにヒートシンクに接合し、固定部品に固定して用いられる。そこで、回路基板の回路用金属板側に凹面となる反りを形成しておくことで、回路基板を平坦に固定した際に回路基板に圧縮応力が残留し、モジュールへの組立時やその実使用下においてクラックの発生、成長を低減することができることが記載されている。
【0007】
さらに、特許文献3には、セラミックス回路基板とヒートシンクとのはんだリフロー時に生じる反りは、金属放熱板と金属回路板の体積比、及び厚さ比が主たる支配要因であり、これらの構成を適当な範囲とすることで加熱中に好ましい反り形状を実現することができることが記載されている。
このように、回路基板に生じる反りは、セラミックス基板を中立軸として金属層を形成するヒートシンク側のアルミニウム板とヒートシンクの板厚の調整により、抑制できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、パワーモジュール用基板に望まれるのは、パワーモジュールとしての要求仕様を満たすための反りを低減することである。特許文献1に記載のように、パワーモジュール用基板として反りを制御したとしても、パワーモジュールとして反りを低減できなければならない。また、パワーモジュール用基板とヒートシンクとが接合されたヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、通常の製造時は、回路層を上側として凸状の反りが発生する。
ところが、使用時においては、ヒートシンク付パワーモジュール用基板を冷却器にグリース等を介して締結する際に、ヒートシンク付パワーモジュール用基板と冷却器との密着性を良好に維持する観点から、冷却器側に対して凹状の反り(回路層側に凸状の反り)であることよりも、凸状の反りであることが望まれる。また、冷却器への締結後においても、半導体素子のはんだ付け等の熱処理過程において、ヒートシンク付パワーモジュール用基板の反り変形が少ないことが望まれる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、ヒートシンク付パワーモジュール用基板製造時に生じる反りを低減するとともに、熱処理過程における反りの発生を抑制することができるヒートシンク付パワーモジュール用基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、セラミックス基板の一方の面に回路層が配設され、前記セラミックス基板の他方の面に純度99%以上のアルミニウムからなる金属層が配設されたパワーモジュール用基板と、前記パワーモジュール用基板の前記金属層に
固相拡散接合され、線膨張率が15×10
−6/K以上22×10
−6/K以下の銅又は銅合金からなるヒートシンクと、を備えたヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、前記ヒートシンクの最大長さをLとし、前記ヒートシンクの反り量をZとし、前記ヒートシンクの接合面側に凸状の変形を正の反り量とした場合に、
25℃におけるLとZの比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲内とされ、280℃まで加熱した際における前記比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲とされ、その加熱後25℃まで冷却した際の前記比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲内とされることを特徴とする。
【0012】
比率Z/Lが、上記温度設定時において−0.015未満又は0.01を超える場合では、半導体素子等の電子部品を回路層へはんだ付けする工程において、はんだや半導体素子の位置ずれを引き起こしやすい。また、半導体素子自体の破壊や熱サイクルによるはんだ接合部や基板の信頼性低下を招くおそれがある。
一方、比率Z/Lが、上記温度設定時において−0.015以上0.01以下の範囲内にあるヒートシンク付パワーモジュール用基板は、製造時に生じる反りが低減され、熱処理過程によるパワーモジュールの反り変形が抑制されていることから、半導体素子のはんだ付け工程における作業性の向上や、熱サイクル負荷による基板信頼性を改善することができる。
【0013】
また、金属層が比較的変形抵抗の小さい純度99%以上のアルミニウムで形成されているので、熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板に発生する熱応力を緩和することができ、セラミックス基板に割れが生じることを抑制できる。
さらに、ヒートシンクは、金属層を形成するアルミニウムよりも低い線膨張率の銅又は銅合金により形成されているので、セラミックス基板及び金属層との熱膨張差による応力を緩和する効果をより高めることができる。また、高熱伝導性を有する銅の特性から、優れた放熱特性を発揮させることができる。
【0014】
本発明のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、25℃から280℃まで温度変化させた場合において、前記比率Z/Lの最大値と最小値との差ΔZ/Lが0.015以下とされるとよい。
25℃から280℃までの温度変化において比率Z/Lの最大値と最小値との差ΔZ/Lが0.015以下とされ、変形が抑制されているので、より一層、半導体素子のはんだ付け工程における作業性の向上や、熱サイクル負荷による基板信頼性を改善することができる。
【0015】
本発明は、上記ヒートシンク付パワーモジュール用基板を製造する方法であって、前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを接合する際に、前記パワーモジュール用基板と前記ヒートシンクとを積層し、
この積層体を曲率半径1000mm以上6000mm以下の凸面又は凹面が対向面に形成された二枚の加圧板の対向面間に挟んで前記ヒートシンクの接合面を凹状の反りとする変形を生じさせた状態で加熱し、前記変形を生じさせた状態で冷却することを特徴とする。
【0016】
ヒートシンクを金属層に対し降伏応力が高く、線膨張率が15×10
−6/K以上22×10
−6/K以下の銅又は銅合金により形成し、ヒートシンクとパワーモジュール用基板との接合時において、ヒートシンクとパワーモジュール用基板との積層体を、その積層方向のヒートシンクとは反対側を上側とする凹状の反りを生じさせた状態とする。銅又は銅合金からなるヒートシンクとアルミニウムからなるパワーモジュール用基板の金属層とを共晶温度以下で所定時間加熱した後に冷却することで、積層方向の加圧状態を開放した後も、回路層を上側として凹状に反る、あるいは凸状でも反り量が小さい接合体が得られる。この場合、接合温度域において、各部材が最大限膨張した状態で凹状の変形を生じさせることができる。
そして、このようにして接合されたヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、製造時に生じる反り変形を低減することができるとともに、熱処理過程における反り変形を抑制することができ、素子はんだ付け工程における作業性の向上や、熱サイクル負荷による基板信頼性を改善することができる。これにより、構造の自由度が増大し、さらにパワーモジュール全体の薄肉化に寄与することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ヒートシンク付パワーモジュール用基板製造時に生じる反りを低減するとともに、熱処理過程における反りの発生を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に、本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板100を示す。このヒートシンク付パワーモジュール用基板100は、パワーモジュール用基板10と、パワーモジュール用基板10に接合されたヒートシンク30とから構成される。
また、ヒートシンク付パワーモジュール用基板100は、
図1又は
図2に示すように、ヒートシンクの最大長さをLとし、ヒートシンクの反り量をZとし、前記ヒートシンクの接合面側に凸状の変形を正の反り量とした場合に、LとZとの比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲内とされ、280℃まで加熱した際における比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲とされ、その加熱後25℃まで冷却した際の比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲内とされるものである。比率Z/Lについての詳細は、後述する。
【0020】
そして、このヒートシンク付パワーモジュール用基板100に対して、
図3に示すように、さらにパワーモジュール用基板10の表面に半導体チップ等の電子部品20が搭載されることにより、パワーモジュールが製造される。
【0021】
ヒートシンク付パワーモジュール用基板100の製造工程においては、まずパワーモジュール用基板10を製造し、このパワーモジュール用基板10をヒートシンク30の天板32にろう付けすることにより、ヒートシンク付パワーモジュール用基板100を製造する。
【0022】
パワーモジュール用基板10は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11に積層された回路層12、金属層13とを備える。そして、パワーモジュール用基板の回路層12の表面に電子部品20がはんだ付けされる。また、他方の金属層13の表面にはヒートシンク30が取り付けられる。
【0023】
セラミックス基板11は、例えばAlN(窒化アルミニウム)、Si
3N
4(窒化珪素)等の窒化物系セラミックス、もしくはAl
2O
3(アルミナ)等の酸化物系セラミックスにより形成され、本実施形態ではAlNを用いた。また、セラミックス基板11の厚さは0.2〜1.5mmの範囲内に設定されており、本実施形態では0.635mmに設定されている。
【0024】
回路層12は、純度99質量%以上のアルミニウムが用いられ、JIS規格では1000番台のアルミニウム、特に1N90(純度99.9質量%以上:いわゆる3Nアルミニウム)又は1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。また、回路層12には、アルミニウム以外にもアルミニウム合金や、銅又は銅合金を用いることもできる。
金属層13は、純度99質量%以上のアルミニウムが用いられ、JIS規格では1000番台のアルミニウム、特に1N99(純度99.99質量%以上:いわゆる4Nアルミニウム)を用いることができる。
本実施形態においては、回路層12及び金属層13は、純度が99.99%以上のアルミニウム(いわゆる4Nアルミニウム)の圧延板からなるアルミニウム板とされ、その厚さは0.2mm〜3.0mmに設定されており、回路層12が0.6mm、金属層13が2.1mmの厚さとされている。
【0025】
そして、これら回路層12及び金属層13とセラミックス基板11とは、例えばろう付けにより接合される。ろう材としては、Al‐Si系、Al‐Ge系、Al‐Cu系、Al‐Mg系又はAl‐Mn系等の合金が使用される。
【0026】
なお、パワーモジュールを構成する電子部品20は、回路層12の表面に形成されたNiめっき(不図示)上に、Sn‐Ag‐Cu系、Zn‐Al系、Sn‐Ag系、Sn‐Cu系、Sn‐Sb系もしくはPb‐Sn系等のはんだ材を用いて接合される。
図1中の符号21が、そのはんだ接合層を示す。また、電子部品20と回路層12の端子部との間は、アルミニウムからなるボンディングワイヤ(不図示)により接続される。
【0027】
パワーモジュール用基板10に接合されるヒートシンク30は、金属層13に対し降伏応力が高く、線膨張率が低い(15×10
−6/K以上22×10
−6/K以下)銅又は銅合金により形成される。例えば、C1100合金やC1020合金等が用いられる。本実施形態ではC1020合金(線膨張率17.7×10
−6/K)を用いている。
ここで、ヒートシンクとしては、板状の放熱板、内部に冷媒が流通する冷却器、フィンが形成された冷液、空冷放熱器、ヒートパイプなど、熱の放散によって温度を下げることを目的とした金属部品が含まれる。
【0028】
次に、ヒートシンク付パワーモジュール用基板100の製造方法を説明する。
まず、回路層12及び金属層13として、それぞれ99.99質量%以上の純アルミニウム圧延板を準備し、これらの純アルミニウム圧延板を、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面にそれぞれろう材を介して積層し、加圧・加熱することによって、セラミックス基板11の一方の面及び他方の面に純アルミニウム圧延板が接合されたパワーモジュール用基板10を製造する。なお、このろう付け温度は、600℃〜655℃に設定される。
【0029】
このように構成されたパワーモジュール用基板10にヒートシンク30を接合するには、まず、
図4に示すように、二枚の加圧板110とその四隅に設けられた支柱111によって構成された治具112を用いて、加圧板110間にヒートシンク30及びパワーモジュール用基板10を配置する。
治具112の二枚の加圧板110は、ステンレス鋼材の表面にカーボン板が積層されたものであり、それぞれ加圧板110の対向する面110a,110bが、ヒートシンク30のパワーモジュール用基板10との接合面30aを凹状とするような曲率半径Rが1000mm以上6000mm以下とされる曲面を有する凹面又は凸面に形成されている。本実施形態では、曲率半径Rが1000mm以上6000mm以下とされているので、製造時に生じる反りが低減され、熱処理過程によるパワーモジュールの反り変形を抑制することが可能である。
そして、支柱111の両端には螺子が切られており、加圧板110を挟むようにナット113が締結されている。また、支柱111に支持された天板114と加圧板110と間に加圧板110を下方に付勢するばね等の付勢手段115が備えられており、加圧力は、この付勢手段115とナット113の締付けによって調整される。
【0030】
そして、本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造工程においては、パワーモジュール用基板10及びヒートシンク30を治具112に取り付けた状態とすることにより、ヒートシンク付パワーモジュール用基板100に発生する反りを抑制することができる。
【0031】
まず、下側に配置される凹面110aを有する加圧板110の上にヒートシンク30を載置し、その上にパワーモジュール用基板10を重ねて載置して、これらヒートシンク30とパワーモジュール用基板10との積層体を凸面110bを有する加圧板110との間で挟んだ状態とする。この際、ヒートシンク30とパワーモジュール用基板10との積層体は、加圧板110の凹凸面により厚み方向に加圧され、ヒートシンク30の接合面30aを凹状の反りとする変形を生じさせた状態とされる。そして、ヒートシンク30とパワーモジュール用基板10との積層体を加圧状態で、銅とアルミニウムの共晶温度未満で加熱することにより、ヒートシンク30とパワーモジュール用基板10の金属層13とを固相拡散接合により固着する。
この固相拡散接合によるヒートシンク30とパワーモジュール用基板10の金属層13との接合は、金属層13のアルミニウム原子と、ヒートシンク30の銅原子とが相互拡散することによって、拡散層(図示略)を形成して接合される。なお、固相拡散接合は、真空雰囲気中で、荷重0.3MPa〜10MPa、加熱温度400℃以上548℃未満の加熱温度で5分〜240分保持することにより行う。
【0032】
次に、これらヒートシンク30とパワーモジュール用基板10との接合体を、治具112に取り付けた状態、つまり、変形を生じさせた状態で、常温(25℃)まで冷却する。
この場合、ヒートシンク30とパワーモジュール用基板10との接合体は、治具112によって厚み方向に加圧され、ヒートシンク30の接合面30aを凹状の反りとする変形を生じさせた状態で拘束されている。このため、冷却に伴う接合体の形状は見かけ上は変化がないように見えるが、応力に抗して加圧され、冷却時に反りとしての変形が出来ない状態に拘束されている結果、塑性変形が生じることとなる。
【0033】
このようにして製造されたヒートシンク付パワーモジュール用基板100は、ヒートシンク30が金属層13に対し降伏応力の高い材料により形成されていることから反りが抑制され、ヒートシンク30の最大長さをLとし、ヒートシンク30の反り量をZとし、ヒートシンク30の接合面30a側に凸状の変形を正の反り量とした場合に、25℃におけるLとZの比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲内とされ、280℃まで加熱した際における比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲とされ、その加熱後25℃まで冷却した際の比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲内とされる。
【0034】
比率Z/Lが、上記温度設定時において−0.015未満又は0.01を超える場合では、半導体素子を回路層12へはんだ付けする工程において、はんだや半導体素子の位置ずれを引き起こしやすい。また、半導体素子自体の破壊や熱サイクルによるはんだ接合部や基板の信頼性低下を招くおそれがある。
一方、比率Z/Lが、上記温度設定時において−0.015以上0.01以下の範囲内にあるヒートシンク付パワーモジュール用基板は、製造時に生じる反りが低減され、熱処理過程によるパワーモジュールの反り変形が抑制されることから、半導体素子のはんだ付け工程における作業性の向上や、熱サイクル負荷による基板信頼性を改善することができる。
【0035】
このように、本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、ヒートシンク30を金属層13に対し降伏応力の高く、低熱膨張の材料により形成し、ヒートシンク30とパワーモジュール用基板10との接合時において、ヒートシンク30とパワーモジュール用基板10との積層体を、その積層方向のヒートシンク30とは反対側を上側とする凹状の反りを生じさせた状態とし、接合温度域で所定時間保持した後に冷却することで、厚み方向(積層方向)の加圧状態を開放した後も、回路層12を上側として凹状に反る、あるいは凸状でも反り量が小さい接合体が得られる。この場合、接合温度域において、各部材が最大限膨張した状態で凹状の変形を生じさせることができる。なお、本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板は、25℃から280℃の温度領域において、反り量が直線的に変化する。
このようにして接合されたヒートシンク付パワーモジュール用基板100においては、製造時に生じる反り変形を低減することができるとともに、熱処理過程における反り変形を抑制することができ、半導体素子をはんだ付けする工程における作業性の向上や、熱サイクル負荷による基板信頼性を改善することができる。これにより、構造の自由度が増大し、さらにパワーモジュール全体の薄肉化に寄与することができる。
【0036】
なお、本実施形態のヒートシンク付パワーモジュール用基板においては、金属層13が比較的変形抵抗の小さい純度99%以上のアルミニウムで形成されているので、熱サイクル負荷時におけるセラミックス基板に発生する熱応力を緩和することができ、セラミックス基板に割れが生じることを抑制できる。
また、ヒートシンク30が、金属層13よりも線膨張率が低い銅又は銅合金(15×10
−6/K以上22×10
−6/K以下)により形成されているので、セラミックス基板11及び金属層13との熱膨張差による応力を緩和する効果をより高めることができる。
【実施例】
【0037】
次に、本発明の効果を確認するために行った実施例及び比較例について説明する。
前述したヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造工程において、パワーモジュール用基板とヒートシンクの積層方向への加圧荷重をそれぞれ変更し、パワーモジュール用基板とヒートシンクとを接合したヒートシンク付パワーモジュール用基板の試料を複数製造した。各試料の接合条件は、実施例1〜7及び比較例2では、凹凸面の曲率半径Rが表1に記載の加圧板を用い、比較例1では平板の加圧板を用いて接合を行った。
また、各ヒートシンク付パワーモジュール用基板を構成するパワーモジュール用基板10としては、68mm×28mm、厚み0.4mmの4N‐Alからなる回路層12と、68mm×22mm、厚み0.4mmの表1に記載の材質からなる金属層13とが、70mm×30mm、厚み0.635mmのAlNからなるセラミックス基板11にAl‐Si系ろう材により接合されたものを用いた。ヒートシンク30は、表1に記載の材質からなる100mm×40mm、厚み3mmの矩形板を用いた。
【0038】
そして、これらのヒートシンク付パワーモジュール用基板の試料について、「温度変化による反り量の変化」、「はんだ位置ずれ」、「素子位置ずれ」、「素子割れ」をそれぞれ評価した。
また、反り量の測定は、25℃(常温)時、280℃加熱時及び280℃まで加熱後の25℃冷却時(25℃冷却時)に測定を行った。そして、各時点におけるヒートシンク裏面の平面度の変化を、モアレ式三次元形状測定機を使用して計測したものを反り量として評価した。反り量は、ヒートシンク30の接合面30a側に凸状の変形を正の反り量とした。
【0039】
はんだ位置ずれは、各試料の回路層12上に、はんだ(Sn‐Ag‐Cu系、融点約220℃)を載せて、融点直下(200℃)まで加熱することにより、はんだの載置位置の変化の有無を、試料を30個製作して確認した。0.2mm以上の位置ずれが生じた場合を「NG」とし、0.2mm未満の位置ずれの場合は「OK」と評価した。
また、素子位置ずれは、素子を回路層12にはんだ付けした後に、そのはんだ付け位置を計測することにより、位置ずれ発生の有無を、試料を30個製作して確認した。そして、0.2mm以上の位置ずれが生じた場合を「NG」とし、0.2mm未満の位置ずれの場合は「OK」と評価した。
素子割れは、素子を回路層12にはんだ付けした後、配線を施した試料を30個製作し、素子が正常動作する場合を「OK」と評価し、正常動作しなかった場合を「NG」と評価した。
表1に結果を示す。表1において「○」はOK比率90%以上、「×」は「OK」比率90%未満であることを示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1からわかるように、25℃における比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲内とされ、280℃まで加熱した際における比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲とされ、その加熱後25℃まで冷却した際の比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲内とされる実施例1〜7の試料においては、「はんだ位置ずれ」、「素子位置ずれ」、「素子割れ」のいずれの評価においても良好な結果が得られた。
一方、加圧荷重を0MPaとした比較例1においては、25℃、25℃冷却時における比率Z/Lが、−0.015以上0.01以下の範囲から外れる結果となった。
また、加圧板の曲率半径Rを500mmとした比較例2では、25℃における比率Z/Lが−0.015以上0.01以下の範囲から外れる結果となり、素子位置ずれや素子割れが発生した。
【0042】
以上説明したように、本発明に係るヒートシンク付パワーモジュール用基板100においては、製造時に生じる反り変形を低減することができるとともに、熱処理過程における反り変形を抑制することができ、素子はんだ付け工程における作業性の向上や、熱サイクル負荷による基板信頼性を改善することができる。
【0043】
なお、通常、反りは三次元的に生じるため、矩形板の場合、対角線の長さが最大長さLである。また、反り量Zは、その最大長さの部分のZ方向の最大値と最小値との差である。
【0044】
なお、本発明は、上記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、セラミックス基板と回路層及び、セラミックス基板と金属層との接合を、TLP接合法(Transient Liquid Phase Diffusion Bonding)と称される過渡液相接合法によって接合してもよい。
この過渡液相接合法においては、回路層又は金属層の表面に蒸着させた銅層を、回路層又は金属層とセラミックス基板との界面に介在させて行う。加熱により、回路層又は金属層とアルミニウム中に銅が拡散し、回路層又は金属層の銅層近傍の銅濃度が上昇して融点が低下し、アルミニウムと銅との共晶域にて接合界面に金属液相が形成される。この金属液相が形成された状態で温度を一定に保持しておくと、金属液相がセラミックス基板と反応するとともに、銅がさらにアルミニウム中に拡散することに伴い、金属液相中の銅濃度が徐々に低下して融点が上昇し、温度を一定に保持した状態で凝固が進行する。これにより、回路層又は金属層とセラミックス基板との強固な接合が得られる。