(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1装置は、前記負荷設備を停止させる手段、及び前記負荷設備の入口付近において前記蒸気管に配置されたバルブを閉にする手段の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸気管の損失計測システム。
前記第4装置は、前記蒸気製造装置に対する給水量を測定する手段、前記蒸気製造装置における燃料使用量を測定する手段、及び前記実質的な閉空間における蒸気流量を直接的に測定する手段、の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の蒸気管の損失計測システム。
前記第1工程は、前記負荷設備を停止させる工程、及び前記負荷設備の入口付近において前記蒸気管に配置されたバルブを閉にする工程の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項5又は6に記載の蒸気管の損失計測方法。
前記第4工程は、前記蒸気製造装置に対する給水量を測定する工程、前記蒸気製造装置における燃料使用量を測定する工程、及び前記実質的な閉空間における蒸気流量を直接的に測定する工程、の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載の蒸気管の損失計測方法。
【背景技術】
【0002】
産業分野における工場において、蒸気は、生産工程での加熱や空調の加熱・加湿まで幅広い用途に用いられている。蒸気は、45℃程度の低温域から170℃程度の高温域まで幅広い温度帯をカバーすることが可能であり、いわば使い勝手の良い熱媒体である。そのため、工場の多くの場所に蒸気配管が敷設され、集中設置されたボイラーから各生産工程等に蒸気が送られるのが一般的である。
【0003】
図6は、工場に敷設される蒸気系統の一般的な概念図を示す。ボイラーなどの蒸気製造装置で製造された蒸気は蒸気ヘッダに送られ、生産工程における加熱や空調の加熱・加湿等の用途に用いられる。各種用途に用いられた蒸気はドレンとして回収され、還水槽等に集約された後、ボイラーに再度給水される。また、配管途中には、配管からの放熱に伴う蒸気の凝縮で生じたドレンを排出するスチームトラップが複数配置されている。
【0004】
図6に示す蒸気系統において、投入した燃料エネルギーに対して以下の4つの損失(ロス)の存在が考えられる。(1)ボイラーのロス:ボイラーの使用燃料流量に対するボイラーにて製造される熱量を算出することにより明らかとなるロス(いわゆるボイラー効率に伴うロス)、(2)送気時(配管)のロス:配管からの放熱等によって配管上のスチームトラップから排出されるロス、あるいはバルブや配管損傷部からのリーク蒸気によるロス、(3)負荷設備後のトラップのロス:ドレンを回収するためのスチームトラップからの漏洩によるロス、(4)回収のロス:ドレンを返送するための配管からのロスで、例えば還水槽が大気開放型である場合等にポンプキャビテーション発生防止のために補給する水等により温度低下することによるロス。これら(1)−(4)のロスを、ボイラーへの投入燃料から差し引いたエネルギーが生産工程や空調設備にて有効に活用されたエネルギーとなる。
【0005】
送気時(配管)のロス(以下「配管ロス」)は次の3種類のロスを含む。(1)ドレンロスは、配管からの放熱に伴い配管内蒸気が凝縮・ドレン化しスチームトラップから排出されるロスである。(2)トラップリークロスは、スチープトラップにて捕捉されたドレンが排出される際に配管内蒸気が同時に漏洩するロスである。(3)配管等リークロスは、蒸気配管、バルブ、フランジ等を含む配管系統に物理的損傷等があり、蒸気が漏洩するロスである。
【0006】
配管ロスの計測方法として以下がある。すなわち、配管入口側(ボイラー出口直後)及び配管出口側(各種負荷設備直前)のそれぞれに蒸気流量計を設置し、その計測結果の比較に基づきロスを算出する。しかしながら、この方法では、蒸気流量計を直接配管に設置することで計測可能となるから、配管出口側が複雑な構成であると、流量計を複数設置する必要が生じる。また、新規設置に際して既存の蒸気配管を切断する必要がある。さらに、湿り分(ドレン)がスチームトラップからすべて取り除かれるとは限らないために湿り度の評価が不十分となる可能性がある。
【0007】
配管ロスの他の計測方法としてサーモグラフィなどの特殊な装置を用いた方法がある。しかしながら、この方法は、装置が高価である、計測結果の分析・評価に専門技術を要する、配管表面温度の計測精度が不十分となる傾向にある、蒸気管又は保温材の熱伝導率の評価が比較的困難である、などの課題を有する。
これに対し、蒸気管の内部空間を実質的に閉空間とした無負荷状態とし、この状態において蒸気管内の蒸発量を計測することで蒸気配管ロスを計測する方法が提供されている(例えば、特許文献1参照)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、損失計測システム1を示す概略図である。
図1において、蒸気管10は、蒸気製造装置20(ボイラーなど)と負荷設備30との間に配設される。蒸気製造装置20からの蒸気が蒸気管10を流れ、負荷設備30に送られる。負荷設備30において、蒸気又は蒸気の熱が利用される。負荷設備30から排出された蒸気はドレンとして回収され、還水槽25に集約された後、蒸気製造装置20に再度給水される。蒸気管10は、不図示の保熱手段によって保熱されている。公知の様々な保熱手段が適用可能である。保熱手段は、例えば、蒸気管10の外面を覆う保温材を有する。
【0016】
蒸気管10には、配管等での放熱に伴う蒸気の凝縮で生じたドレンを排出する複数のスチームトラップST1、ST2、ST3が配置されている。
図1において、スチームトラップSTnの数は3である。スチームトラップSTnの数は、設備仕様に応じて様々である。蒸気管10内で凝縮して生じたドレンの少なくとも一部がスチームトラップST1、ST2、ST3に捕捉される。公知の様々なスチームトラップが適用可能である。通常、スチームトラップST1、ST2、ST3は、捕捉したドレンを適宜排出可能な構造を有する。
【0017】
蒸気管10における蒸気製造装置20とスチームトラップST1との間には、流量センサ42及び圧力センサ(第3装置)44が配設されている。少なくとも圧力センサ44の計測結果が制御ユニット(第2装置)40に送られる。蒸気製造装置20を含む蒸気供給システムにおいては、圧力センサ44の計測結果に基づいて、蒸気管10の内部圧力が一定となるように、蒸気の供給を制御可能である。
【0018】
蒸気管10における負荷設備30の入口付近(最終のスチームトラップST3と負荷設備30との間)には、バルブ(第1装置)27が配設されている。バルブ27を開とすることにより、蒸気製造装置20からの蒸気が負荷設備30に入力可能となる。バルブ27を閉とすることにより、蒸気製造装置20からの蒸気の負荷設備30への入力が遮断される。
【0019】
また、還水槽25付近には、蒸気製造装置20への給水量を計測する流量センサ46が配設されている。流量センサ46の計測結果は制御ユニット40に送られる。制御ユニット(第4装置)40は、流量センサ46の計測結果に基づいて、蒸気管10における配管ロスを計測することができる。また、本実施形態において、制御ユニット(第5装置)40は、後述のように、蒸気管における蒸気の流動状態に対応した放熱に関する情報を用いて配管ロスの計測値を補正することができる。損失計測システム1は、バルブ27、流量センサ42、圧力センサ44、流量センサ46、及び制御ユニット40を含むことができる。
【0020】
図2は、制御ユニット40を示す模式図である。
図2において、計算装置50は、例えばコンピュータシステムである。制御ユニット40は、計算装置50に加え、入力装置127、及び表示装置(出力装置)128を有する。計算装置50は、A/D変換器等の変換器123、CPU(演算処理手段)124、及びメモリ125等を有する。損失計測システム1のセンサ(流量センサ46等)などから送られる測定データが、必要に応じて変換器123等で変換され、CPU124に取り込まれる。また、初期設定値、及び仮データなどが入力装置127などを介して計算装置50に取り込まれる。表示装置128は、入力されたデータに関する情報、及び計算に関する情報などを表示することができる。
【0021】
CPU124は、測定データ、及びメモリ125に記憶された情報に基づき、蒸気管の損失に関する計算を実行することができる。例えば、流量センサ46の測定結果を用いて、蒸気管10の放熱損失(配管ロス)を算出し、該算出した配管ロスを後述のように補正することができる。以下、蒸気管10の損失に関する算出手法の一例を示す。
【0022】
本計測方法は、蒸気を製造するボイラーなどの蒸気製造装置20への給水量に着目したものである。蒸気製造装置20で製造された蒸気は、損失(ロス)を発生させながら種々の負荷にて仕事をした後に回収される。本計測方法では、(1)負荷設備30を停止する、(2)負荷設備30の直前でバルブ27を閉じるなど、負荷設備30内に蒸気が流入しないようにする。すなわち、蒸気管10の内部空間を主とする実質的な閉空間を作る。以下、この状態を適宜に「無負荷」と呼ぶ。蒸気製造装置20は、蒸気管10内の圧力を一定に保つように蒸気を供給する。これは、蒸気管10で蒸発して蒸気管10から抜けた分、すなわち放熱による蒸気のドレン分の蒸気を供給することである。スチームトラップST1、ST2、ST3からは適宜ドレンが排出される。蒸気製造装置20を通常時と同様に稼動させれば給水された分が配管でのロスとなる。
【0023】
計測では、実質的な閉空間での蒸発量に関する値として、蒸気製造装置20への給水量を測定し、得られた給水量と製造した蒸気性状等より式(1)に基づいて蒸気配管でのロスを算出する。
【0024】
Q=F
w×(h
s−C
0T
c)/S …(1)
【0025】
ここで、
Q :蒸気配管ロス量(kW)
F
w:給水量(計測値)(kg)
h
s:製造蒸気の飽和蒸気エンタルピ(kJ/kg)
T
c:計測時外気温(環境温度)(℃)
S :計測時間(s)
C
0:水の比熱(kJ/kg・℃)
【0026】
ここで、無負荷時(負荷設備への蒸気供給ゼロ時)に蒸気配管圧力を一定とするためにボイラーより供給した蒸気量は、蒸気配管での放熱により凝縮したドレン量、または配管・バルブよりリークした蒸気量と基本的にはイコールである。すなわち、無負荷時にボイラー発生蒸気量を計量することで,蒸気配管における損失熱量を把握することが可能であると考えられる。
しかしながら、無負荷時と通常運転時では、管内熱伝達率が大きく異なることが想定される。
【0027】
そこで、無負荷時と通常運転時の管内熱伝達率を用いて総合熱伝達率への影響度を検討する。
【0028】
放熱にかかる基本式を以下の式(2)に示す。
【0030】
ここで、
q:単位配管長あたりの放散熱量(W/m)、
T
0:配管内部温度(管内蒸気温度)(℃)、
T
1:外気温度(大気温度)(℃)、
α
1:管内熱伝達率(W/m
2/℃)、
α
2:保温材表面から大気への熱伝達率(W/m
2/℃)、
λ
1:保温の熱伝導率(W/m/℃)
r
0:配管内径(m)、
r
1:配管外径(m)、
r
2:保温外径(断熱材外径)(m)、である。
【0031】
無負荷時(流れのない状態)においては、蒸気流速が低くほぼゼロとみなすことができる。一方、通常運転時においては、蒸気流速が高く、管内にて流速が生じている。また、通常運転時の蒸気管10においては、放熱により凝縮したドレンが管壁に液膜となって付着した環状流となっている。管壁に付着した液膜の厚さは蒸気管10内の流速によって変動する。
【0032】
ここで、通常運転時における蒸気管10内の蒸気の流動状態(環状流)について説明する。
図3は、下向き環状流の平均液膜厚さに関するグラフである。
図4は、一般速度分布による無次元熱伝達率に関するグラフである。
図3において、横軸はレイノルズ数を示し、縦軸は液膜の厚さを示している。
図4において、横軸はレイノルズ数を示し、縦軸は管内熱伝達率(W/m
2/℃)を示しており、実線は乱流液膜の傾向を示し、点線は層流液膜の傾向を示している。なお、本実施形態における通常運転時では、
図4における層流液膜の場合が適用される。また、
図3、4において、τとは、蒸気管10を流れる蒸気流が管壁に付着した液膜表面に及ぼすせん断力である。なお、せん断力τは、下式(3)で示される。
【0034】
ここで、
c
f:気液境界における摩擦係数、
γ
v:蒸気の比重量、
g:重力加速度、
u
v:蒸気流速、
u
l:液膜流速、である。
【0035】
図3に示したように、液膜の厚さはレイノルズ数(すなわち、蒸気の流速)にほぼ比例してOR線形的に大きくなることが分かる。これはせん断力τの大きさによらず共通の傾向である。また、
図4に示されるように、層流液膜の場合、レイノルズ数の増加に伴って管内熱伝達率が低下することが分かる。
【0036】
すなわち、通常運転時(流れのある状態)においては、レイノルズ数の増加(蒸気の流速の増加)に伴って液膜の厚さが増加する。管壁に付着した液膜は熱抵抗となるため、液膜の厚さが増すと熱抵抗が大きくなる。その結果、上記式(2)のα
1で規定される管内熱伝達率は影響を受ける。すなわち、通常運転時(流れのある状態)においては、流速によって変動する放熱特性を考慮した管内熱伝達率を用いる必要がある。
【0037】
そこで、本実施形態に係る評価方法では、上述の式(1)で示した無負荷時における蒸気配管ロスQの計測結果を補正することで、無負荷時における蒸気配管ロスQの計測結果(補正後の計測値)をそのまま通常運転時の配管ロスの結果として用いることを可能としている。
【0038】
本実施形態において、上記補正に用いる補正係数は、蒸気管10内における蒸気の流動状態に対応した放熱に関する情報に基づいて規定される。具体的に、後述のように、通常運転時における理論上の放熱量qrおよび無負荷状態における理論上の放熱量qmの比(qr/qm)によって規定される。
【0039】
以下、上記補正係数の算出方法について説明する。
まず、通常運転時(流れのある状態)における理論上での蒸気管10の放熱量qrを規定する。この場合、蒸気の流動状態に関する情報としてレイノルズ数(蒸気の流速)を計算で求める。レイノルズ数は、例えば、配管径、蒸気の流速、密度、および粘度等から求まる。
【0040】
続いて、上述のように計算で求めたレイノルズ数と
図4に示したグラフとを用いて、管内熱伝達率を求める。ここで、
図4に示したグラフは、せん断力によって管内熱伝達率が異なる。そこで、蒸気流速および液膜流速に関する値を用い、上記の式(3)に基づいてせん断力τを算出する。そして、算出したせん断力τに対応した管内熱伝達率を
図4に示したグラフから求め、求めた管内熱伝達率を上記式(2)のα
1と置き換える。
【0041】
これにより、上記式(2)から通常運転時における理論上の放熱量qrが導きだれる。
【0042】
次に、無負荷状態(流れのない状態)における理論上での蒸気管10の放熱量qmを規定する。この場合、まず、蒸気管10における蒸気の流動状態に関する情報として、レイノルズ数(蒸気の流速)を求める。無負荷状態においては、液膜の膜厚がほぼゼロとみなすことができる。
図3に示したグラフから液膜がほぼゼロとなるレイノルズ数を外挿することができる。
【0043】
続いて、上述のように外挿したレイノルズ数と
図4に示したグラフとを用いて、管内熱伝達率を求める。ここで、
図4に示したグラフは、せん断力によって管内熱伝達率が異なる。無負荷状態は配管内の流れがないため、蒸気流速および液膜流速の差から算出されるせん断力τはほぼゼロとみなすことができる。そこで、
図4に示したグラフからせん断力τ=0に対応した管内熱伝達率を求め、求めた管内熱伝達率を上記式(2)のα
1と置き換える。
【0044】
これにより、上記式(2)から無負荷状態における理論上の放熱量qmが導き出される。
【0045】
本実施形態では、上述のようにして算出した、通常運転時における理論上の放熱量qrおよび無負荷状態における理論上の放熱量qmの比(qr/qm)を補正係数として用いる。
【0046】
続いて、制御ユニット4は、上記補正係数(qr/qm)を掛けて、上記式(1)で算出した蒸気配管ロスQを補正する。
【0047】
ここで、蒸気配管ロスQの計測では、トラップチェッカーを用いてドレン排出と同時にスチームトラップから排出される蒸気量すなわちトラップリークロスも計測している。そのため、蒸気配管ロスQは、ドレンロスおよびトラップリークロスを含んでいる。
【0048】
なお、トラップリークロスを含む蒸気配管ロスQの全体に上記補正係数を掛けても良いし、蒸気配管ロスQからトラップリークロス分を除いたものに上記補正係数を掛けても良い。
【0049】
以上説明したように、本実施形態によれば、無負荷時の蒸発量計測により、蒸気配管ロスを計測することができる。この場合において、蒸気管10内における蒸気の流動状態における放熱特性(液膜による管内熱伝達率に対する影響が蒸気の流速(レイノルズ数)によって変化する特性)に関する情報に基づいて算出した補正係数により配管ロスが補正される。よって、無負荷計測で計測された配管ロスは、通常運転に伴う流速の変動による影響が的確に補正された高精度なものとなる。したがって、本実施形態に係る測定方法によれば、蒸気配管ロスを精度良く測定することができる。
また、本実施形態の測定方法のように無負荷時蒸発量に基づく損失計算は処理が簡素であることから、設備の改造が不要になるといった利点も有する。
【0050】
なお、上記説明では、通常運転時における理論上の放熱量qrを求める場合において、計算で求めたレイノルズ数を初期値として用いる場合を例に挙げたが、本発明はこれに限定されない。例えば、蒸気管10の管壁に付着した液膜の膜厚を超音波センサ等により計測した値を初期値として利用しても良い。
【0051】
この場合、測定した液膜の厚さと
図3に示したグラフとからレイノルズ数が求まる。ここで、
図3に示したグラフは、せん断力によってレイノルズ数が異なる。そこで、せん断力τの初期値をゼロとしてレイノルズ数を求める。
【0052】
続いて、液膜の厚さから求めたレイノルズ数から
図4に示したグラフを用いて管内熱伝達率を求める。ここで、
図4に示したグラフにおいても、せん断力によって管内熱伝達率が異なるものの、レイノルズ数と同様に、せん断力τの初期値をゼロとして仮の管内熱伝達率を求める。
【0053】
このようにして求めた仮の管内熱伝達率を上記式(2)のα1と置き換えることで、上記式(2)から仮の放熱量を求める(ステップS1)。続いて、仮の放熱量から蒸気配管内のドレン流量を算出する。ドレン流量を算出するには、下式(4)が用いられる。
【0055】
ここで、
q´:仮の放熱量(W/m)、
l :蒸気配管の長さ(m)、
Δh :管内圧力における凝縮熱(蒸発熱;J/Kg)
G :ドレン流量(Kg/s)
【0056】
すなわち、仮の放熱量q´が求まれば、既知であるl、Δhから、ドレン流量Gが求まる。
【0057】
続いて、仮の放熱量q´から求めたドレン流量Gを用いて、無負荷状態における蒸気配管内のせん断力τを求めなおす。上記式(3)に示したように、せん断力τは、蒸気流速および液膜流速の差から算出される。ここで、蒸気流速は、流量センサ42に基づいて算出した配管全体の流量を例えばスチームトラップST1,ST2,ST3までの距離で比例配分することで求められる。また、液膜流速は、ドレン流量Gから算出可能である。すなわち、上記式(3)を用いることでせん断力τを求め直すことができる(ステップS2)。
【0058】
続いて、上述のようにして求め直したせん断力τおよび液膜の厚さを用いて、レイノルズ数、管内熱伝達率およびせん断力τを求め直す(ステップS3)。すなわち、上記ステップS1からステップS3をせん断力τが一定値に収束するまで順次繰り返す。
【0059】
このようにして通常運転時における蒸気管10内のせん断力τを精度良く算出することができる。よって、精度良く算出されたせん断力τと、液膜厚さの測定値とを用いることで通常運転時における蒸気の流動状態における放熱特性(液膜が存在することによる熱抵抗の増加)を考慮した管内熱伝達率を求める。このようにして求めた管内熱伝達率を上記式(2)のα
1と置き換えることで、上記式(2)から通常運転時における理論上の放熱量qrを算出するようにしても良い。
【0060】
また、上記実施形態において、バルブの開閉制御は自動でもよく手動でもよい。定期的なロス計測を実行し、配管系統の損傷や保温性能の劣化の検証を実施することもできる。
【0061】
なお、上記の説明では、実質的な閉空間での蒸発量に関する値として、蒸気製造装置20への給水量を測定している。代替的に、実質的な閉空間での蒸発量に関する値として、蒸気製造装置20における燃料使用量を測定することができる。さらに代替的に、実質的な閉空間での蒸発量に関する値として、実質的な閉空間における蒸気流量を直接的に測定することができる。
【0062】
図5は、損失計測システムの変形例を示している。
図5において、複数の負荷設備30A、30B、30Cに応じた複数の蒸気ライン10A、10B、10Cが設けられている。負荷設備30Aに対応する蒸気ライン10Aは、複数のスチームトラップSTA1、STA2、STA3と、流量センサ42Aと、バルブ27Aとを含む。同様に、負荷設備30Bに対応する蒸気ライン10Bは、複数のスチームトラップSTB1、STB2、STB3と、流量センサ42Bと、バルブ27Bとを含み、負荷設備30Cに対応する蒸気ライン10Cは、複数のスチームトラップSTC1、STC2、STC3と、流量センサ42Cと、バルブ27Cとを含む。バルブ27A、27B、27Cはそれぞれ、蒸気ライン10A(10B、10C)における負荷設備30A(30B、30B)の入口付近(最終のスチームトラップSTA3(STB3、STC3)と負荷設備30A(30B、30B)との間)に配設されている。
【0063】
図5において、すべてのバルブ27A、27B、27Cを閉とすることにより、蒸気系統全体の損失を計算することができる。この場合、実質的な閉空間での蒸発量に関する値として、流量センサ46によって蒸気製造装置20への給水量を測定し、得られた給水量と製造した蒸気性状等より蒸気配管でのロスを算出し、上述の補正係数を用いて補正することができる。あるいは、実質的な閉空間での蒸発量に関する値として、蒸気製造装置20における燃料使用量を測定することにより、蒸気配管でのロスを算出することができる。
【0064】
また、バルブ27Aを閉、バルブ27B、27Cを開とすることにより、負荷設備30B、30Cの稼動中に、負荷設備30Aに対応する蒸気ラインの損失を計算することができる。この場合、実質的な閉空間での蒸発量に関する値として、流量センサ42Aによって対象の蒸気ラインにおける蒸気流量を直接的に測定することにより、その蒸気ラインでのロスを算出することができる。
【0065】
なお、計測結果から求められた単位配管長あたりの放熱量q(W/m)は計測地点での配管径や保温径の下での値であるため、配管径等が異なる場合には補正をかけてもよい。
【0066】
蒸気系統における蒸気管のサイズや保温厚さは、負荷設備の蒸気条件(使用蒸気量、圧力、温度)により異なる場合がある。このような場合にも、ある蒸気管の放熱量が既知であれば、配管サイズ、保温厚さ、配管内部温度、および外気温度の相違に基づく補正を施すことにより放熱量を求めることが可能である。既知の放熱量から、別の配管サイズ及び保温厚さに対応した放熱量を算出するための補正計算式(5)を以下に示す。この式(5)は上記の理論式(2)から導き出すことができる。
補正計算式(4)において、q’’:別の配管における単位長さ当たりの放熱量(W/m)、r1’:別の配管の配管外径(m)、r2’:別の配管の保温外径(断熱材外径)(m)、T0’:別の配管の配管内部温度(供給蒸気温度)(℃)、T1’:別の配管の外気温度(大気温度)(℃)、である。
【0068】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこの実施形態に限定されることはない。上記説明において使用した数値は一例であって、本発明はこれに限定されない。本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。