(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
プラスチックの成形法として溶融樹脂を金型キャビティ内に射出し、金型キャビティで冷却固化して成形する射出成形方法は、複雑な形状の成形品や薄肉の成形品などを成形できるため、広く実用されている。
ところで、このような射出成形法において、オレフィン系樹脂に代表される結晶性樹脂を用いて成形を行った場合には、反りが発生し易いという問題がある。即ち、冷却固化時の結晶化による収縮が大きく、これが反りの原因となっている。このような反りの発生は、有底筒状形状の成形品の開口端部において顕著である。例えば、各種回路などを備えた電子機器は箱型形状の筐体に収容されて使用に供されるが、筐体内部への電子機器の収納や筐体自身を構造物へ嵌合する場合、上記のような反りの発生はかなり深刻な問題である。
【0003】
ところで、射出成形法において、冷却固化時の収縮等による変形などを回避するために、保圧をかけるという手段が一般に採用されている。即ち、金型キャビティ内に溶融樹脂を射出充填し、金型キャビティ内に空隙が存在しないように溶融樹脂で満杯になった後も、射出シリンダー内のスクリューを作動させて溶融樹脂を金型キャビティ内に押し込み、樹脂圧により、冷却固化時の収縮を緩和させるというものである。しかるに、かかる手段では、成形体の内部に空隙が形成されるという不都合を防止できるものの、一方向からの高い圧力によって残留ひずみなどが大きくなり、反りの増大につながったり、高い保圧はバリの原因となってしまい、開口端を有する有底筒状形状においての反りの発生を有効に防止することはできない。
【0004】
また、特許文献1には、圧縮可能な機構を備えた金型を用いて射出成形する成形方法が提案されている。
かかる方法は、シェル金型とコア金型とから形成される金型キャビティ内に溶融樹脂を充填した後、射出充填のためのスクリューによる加圧を停止し、金型に付設された圧縮機構(該特許文献ではロッド)を稼働させ、金型キャビティ内に充填された溶融樹脂をゲート側に押し戻し、この後、該圧縮機構による加圧を停止し、再びスクリュー可動させ、保圧しながら冷却固化するというものであり、該圧縮機構による加圧と保圧(樹脂圧)による加圧とにより金型キャビティ内での樹脂の配向を消失させ、この結果、反りの発生を防止できるというものである。
【0005】
しかしながら、上記のようなスクリューと圧縮機構の動作を逐次的に切り替える工程は制御が複雑になり装置全体のコストが大きくなってしまう。また金型に圧縮機構を付設する必要がありこれもコスト増加の要因となる。
【0006】
さらに、スライド可能な可動金型(スライドコア)を用いて射出成形する成形方法については、特許文献2、3でも提案されているが、該特許文献は充填とともにスライド部材を後退させる必要がある。これは充填中に樹脂に高い圧力を加えることが目的であり、樹脂の充填容量とスライドの後退量の調整のために樹脂の充填圧力を利用しているが、これは薄肉かつL/tが大きい成形品では充填圧力が端部まで届かずスライド部材を移動せしめるだけの圧力を加えられないこと、またスライド部材のストロークが長くなり成形品に対して大きな金型構成になることが挙げられる。
事実、特許文献2及び3の成形方法では本特許の実施例に記載されるような薄肉かつL/tの大きな寸法の成形品では端部に配置したスライド部材を射出圧力によって動かす事が出来なかった。また、これら特許文献は、大型肉厚成形品についての空隙(ボイド)の発生を防止することを目的としており、反り防止を目的とするものではない。
【0007】
また、特許文献4では、樹脂を射出し金型内へ樹脂を充満させた後に成形品全体をスライドコアを用いて樹脂を圧縮する手法が提案されているが、この手法では成形品全体を加圧するためスライドコアを圧縮方向に稼働させる力が大きくなってしまうことが挙げられる。
つまり特許文献4の手法は、該特許文献にもあるようにプリフォームといわれる小型かつ比較的粘度が小さい樹脂の成形品に向いており、大型の成形品や繊維状充填剤を含有した比較的粘度が大きい樹脂の成形品を圧縮するためには推進力の大きな圧縮機構が必要となってくる。
この大きな推進力を持ち合わせていない射出成形機や金型では射出成形機や金型内へ圧縮機構を追加する必要がありコストの増加へつながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、箱型に代表される有底筒状形状を有しており、その開口端における反りが有効に防止された射出成形品及び装置や金型の構成を複雑化・大型化することなく該射出成形品を得ることが出来る成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の
成形方法によれば、結晶性熱可塑性樹脂溶融物を射出成形して得られる射出成形品であって、有底筒状形状を有しており且つ開口端部の形状が矩形であり、該矩形状開口端部において、下記式(1):
θ=tan
−1[ω/(M/2)] (1)
式中、ωは反り量を示し、
Mは、前記開口端部での幅を示す、
で表される反り角度θが−1.5〜1.5度の範囲にあることを特徴とする射出成形品が
得られる。
本発明の
成形方法で得られる射出成形品においては、
(1)前記矩形状開口端部の肉厚をt及び該矩形状開口端部と底部との間隔をLとしたとき、L/tが20以上であること、
(2)前記結晶性熱可塑性樹脂溶融物が繊維状充填材を含有していること、
(3)前記結晶性熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂であること、
が好ましい。
【0011】
本発明によれば
、金型キャビティ内に結晶性熱可塑性樹脂の溶融物を射出充填することにより、開口端部の形状が矩形状である有底筒状の射出成形品を成形する方法において、
前記金型キャビティは、コア型、シェル型及び前記開口端部の形状に対応する面を有するスライド部材とにより形成され、該スライド部材を後退下限で待機せしめた後に該金型キャビティ内が結晶性熱可塑性樹脂の溶融物で充満した後、保圧をかけながら該スライド部材のみを押し込んで該溶融物を圧縮することを特徴とする成形方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の射出成形法に得られる射出成形品は、有底筒状形状を有しており、その開口端部の形状は、箱型形状のように矩形である。即ち、開口端部が矩形であるとき、この部分に反りが発生し易いばかりか、発生した反りは、目視で明確に観察され、商品価値を著しく低下させ、しかも、成形体内部への各種機器の挿入が困難となるなどの不都合も生じてしまう。
しかるに、本発明においては、前記式(1)で定義される開口端部での反り角度θが−1.5〜1.5度の範囲にあり、極めて小さく、上記のような不都合は有効に回避されている。
特に、本発明においては、矩形状開口端部の肉厚(t)と矩形状開口端部と底部との間隔(L)との比(L/t)が20以上と極めて大きく、反りが発生し易いような形状を有している場合、開口端部での反りを有効に防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<射出成形体>
本発明の射出成形体の代表的な形態を示す
図1を参照して、この射出成形体1は、有底筒状形状を有しており、その開放端部10の形状は矩形状となっている。
このような射出成形体1において、開放端部10の反対側の面は、閉じられた面(底部)となっている。
かかる射出成形体1の形態は、開放端部10の形状が矩形となっている有底筒状形状であればよく、例えば、
図1の例では、各面がフラットな平面となっている箱型形状を有しているが、このような形態に限定されず、各面が曲面となっていたり、各面が傾斜していたり、或いは各面に段差が形成されているような形態であってもよい。
【0015】
このような開放端部10の形状が矩形状となっている射出成形体1においては、その開放端部10における反りが有効に抑制されている。
具体的に説明すると、
図2を参照して、本発明の射出成形体では、開放端部10における下記式(1)で表される反り角度θが−1.5〜1.5度、特に−1.0〜1.0度の範囲にあり、反りが有効に抑制されている。
θ=tan
−1[ω/(M/2)] (1)
式中、ωは反り量を示し、
Mは、前記開口端部での幅を示す。
【0016】
即ち、このような矩形状の開放端部10を有する射出成形体1では、開放端部10の反対側の面や側面からの溶融樹脂の射出充填により成形されるが、この場合、開放端部10となる側が射出圧により十分に加圧されなかったり圧力が不均一となり、このため、冷却時の収縮を十分に抑制できず、この結果、密度分布が生じてしまい、反りが発生してしまう。しかも、この開放端部10は矩形状であるため、その反りが外部から明瞭に観察されてしまい、その外観特性が損なわれてしまう。さらに、この射出成形体1が
図1のような箱型形状である場合、反りが大きいと、成形体内部への各種機器の挿入が困難となったり挿入できたとしても隙間なく収容することができず、ガタツキや内部へ挿入した機器への干渉などを生じ易くなってしまう。また成形品自体を別部材へ取り付ける際に取付部の寸法が合わないなどの問題が生じる。
本発明の射出成形体1では、反り角度θが極めて小さな範囲内にあり、上記のような不都合を有効に回避できることとなる。
【0017】
尚、
図2では、開放端部10の中央部が凹んだ形態での反りを示しており、この場合での反り量ωは正の値であり、したがって反り角度θの値も正となる。また、開放端部10の中央部が突出した形態での反りの場合には、反り量ωは負の値であり、したがって反り角度θの値は負となる。上記の反り角度θの範囲から理解されるように、本発明では、何れの形態の反りも有効に抑制されている。
【0018】
再び
図1に戻って、上記のような形態を有する本発明の射出成形体1においては、矩形状開口端部の肉厚tと矩形状開口端部と底部との間隔L(奥行に相当)との比(L/t)が20以上、特に50以上の範囲にあるとき、本発明による反り防止効果はより顕著に現れる。上記で説明したように、このような形状の射出成形体1は、開放端部10の反対側の面(底部)や側面からの溶融樹脂の射出充填により成形されるため、開口端部10と底部との間隔(L)が大きいほど、射出圧が開放端部10側に十分加わらなかったり、不均一となってしまい、密度分布を生じてしまい、反りを生じ易く、開放端部10の肉厚tが小さいほど、密度分布が反りとなって現れやすくなる。即ち、上記の比(L/t)が大きいほど、反りが大きく現れることとなるが、本発明では、このような形態においても、反り角度が小さく、反りが有効に防止されているわけである。
【0019】
また、本発明において、上述した射出成形体1は、結晶性熱可塑性樹脂を用いて成形されるものである。
結晶性熱可塑性樹脂とは、固体状態で結晶化した部分を有しているものであり、融点及び軟化点を有しており、さらに、DSC測定の昇温時において、結晶化による発熱ピークを示すという点で、融点を有しておらず、結晶化による発熱ピークも示さない非晶性樹脂とは異なっている。即ち、このような結晶性熱可塑性樹脂を用いて成形される射出成形体1では、射出成形に際しての冷却固化工程で熱収縮に加えて結晶化による収縮が生じるため、反りが発生し易い。しかるに、本発明の射出成形体は、このような結晶性熱可塑性樹脂により成形されていながら、反りが有効に抑制されており、反り角度θが前述した小さな範囲にある。
【0020】
上記のような結晶性熱可塑性樹脂としては、種々の熱可塑性樹脂を挙げることができ、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン等のオレフィン系樹脂;ポリスチレン等のスチレン系樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル等のビニル系樹脂;ナイロン6、ナイロン6−6等のポリアミド樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂などを例示することができる。勿論、これらの樹脂は、結晶性が損なわれない限り、他のモノマー成分が共重合されたものであってもよい。
本発明において、好適に使用される結晶性熱可塑性樹脂は、高い結晶性を示すという観点から、オレフィン系樹脂及びポリエステル樹脂であり、中でもポリプロピレンが好適である。
【0021】
さらに本発明は、結晶性熱可塑性樹脂中に、繊維の配向の影響によって反りが大きくなると一般的に言われている繊維状の充填材が配合されて補強されていても効果を発揮する。即ち、このような繊維状の充填材には、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アラミド繊維などが代表的であり、このような繊維状充填材が配合されたものは、強化プラスチック(FRP)として実用されており、特にガラス繊維が配合されているガラス繊維強化プラスチック(GFRP)は、補強効果が極めて高く、各種電子機器を収容する筐体等の用途にも適している。
しかるに、このような繊維状の充填材が配合されている場合でも開放端部10での反り角度θが小さな範囲にあり、反りの発生が有効に防止され、本発明の効果が有効に発揮される。
【0022】
さらに、上記の結晶性熱可塑性樹脂には、繊維状充填材以外にも、それ自体公知の配合剤、例えば、離型剤、酸化防止剤、界面活性剤、顔料等が成形性を損なわない範囲で配合されていてよい。
【0023】
<成形方法>
上述した開口端部10での反り角度θが小さな範囲内に抑制されている本発明の射出成形体は、
図3に示すプロセスで成形される。
【0024】
即ち、上記の射出成形体1の成形に用いる金型は、
図3(a)及び(b)に示されているように、コア型20と、スライド可能に設けられているスライド型21と、シェル型23とから構成されている。
尚、図では示されていないが、スライド型21は、エジェクタ等の押圧部材によって押し込み可能となっている。このスライド型21の先端面が前述した射出成形体1の開口端部10に対応する面となっている。
また、シェル型23は、割型構造を有しており、分割可能な割型23a,23bにより形成され、その割面(突合せ面)はAで示されている。
さらに、コア型20及びシェル型23(割型23a)等は、熱交換器等により適切な温度に保持されている。
【0025】
即ち、上記のような型部材により、金型キャビティ25が形成され、このキャビティ25内に、前述した結晶性樹脂にガラス繊維等の繊維状充填材や他の配合剤が適宜添加された樹脂組成物の溶融物30を、射出機(図示せず)によりゲート27から充填し、冷却された樹脂溶融物30を冷却固化することにより成形が行われる。
【0026】
上記のようにして成形するに際して、本発明においては、スライド型21は、初期状態で後退位置にあり、このときのキャビティ25は、目的とする射出成形体1よりも大容積に設定されている。
尚、
図3(a)及び(b)において、目的とする射出成形体1に対応するキャビティ25の形態は、シェル23の割型23aによって形成されるキャビティ25の形態(即ち、キャビティ25の端部が割型23a,23bの割面Aに対応しているキャビティの形態)が目的とする射出成形体1に対応している。
【0027】
上記のようにスライド型21が後退位置に設定されてキャビティ25が形成されている初期状態において、
図3(a)に示されているように、溶融樹脂30の射出充填が開始される。
【0028】
このようにして溶融樹脂30が充填されていき、キャビティ25が満杯になった後に
図3(b)に示されているように、スライド型21が前進し、大きなキャビティ25内に押し込まれていく。この状態でも、射出機からは溶融樹脂の射出充填が継続して行われている。即ち、この段階では、スライド型21による圧縮と溶融樹脂の射出充填による保圧(樹脂圧による加圧)との両方が行われる。
このようにして、スライド型21による圧縮と保圧との両方を行いながら、最終的にスライド型21は、割面Aの位置まで押し込まれ、ここで停止する。即ち、このように圧縮と保圧とが行われて、最終的に目的とする射出成形体1に対応する大きさのキャビティ25が形成され、スライド型21が停止した状態で溶融樹脂は冷却固化されていき、最後にスライド型21の押圧を停止し、スライド型21を初期位置に後退させると同時に、割型23aと23bとを離し、得られた射出成形体1を取り出すことにより、成形が完了する。
【0029】
上述した説明から理解されるように、本発明では、キャビティ25を目的とする射出成形体1よりも大きく設定しておき、このキャビティ25が溶融樹脂30で満杯になったときにスライド型21のみを前進させて圧縮と溶融樹脂30の過剰充填による保圧とを同時に行うという点に顕著な特徴を有するものであり、このような手段を採用することにより反りの発生を有効に抑制でき、開口端部10での反り角度θを前述した小さな範囲内に制御することが可能となる。また、スライド型21のみの前進なので選択的に反り発生部分を圧縮する事ができ、これにより比較的推進力の小さな圧縮機構でも反り部分へ十分な圧力を負荷させる事が出来る。
即ち、前述した特許文献2〜3では、スライド型のような部材を備えた可動金型を使用して射出成形が行われているものの、充填とともにスライド部材を後退させ金型容積を広げており本発明で示されるような複雑な形状をした薄肉成形品ではスライド部材を後退させる圧力が足りないどころか、金型構成の長大化、複雑化につながってしまう。
【0030】
本発明においては、溶融樹脂30の充填開始から圧縮及び保圧の開始、さらには圧縮の停止(スライド型21が割面Aに対応する部分に到達するとき)までの時間を短時間とするのがよい。つまり、目的とする射出成形体1の大きさ(奥行Lや開口端部10での厚みtの大きさなど)や樹脂材料によっても異なるが、完全に固化するより前に圧縮する必要がある。即ち、キャビティ25内に溶融樹脂30が導入された時点から溶融樹脂30の冷却が始まっている。このため、上記の時間が長いと、圧縮及び保圧の過程で溶融樹脂の固化が始まってしまい、圧縮力及び保圧力が効果的に溶融樹脂30に伝達されず、圧力ムラなどが生じてしまい、反り防止効果が半減してしまうこととなる。よって、樹脂材料、成形条件によってこの時間を適切に設定する必要がある。
【0031】
また、上記の時間を短縮し且つスライド型21による圧縮を効果的に行うため、初期状態のキャビティ25の容積は、射出成形体1の容積(割面Aまでのキャビティ25の容積に相当)の0.5〜20%程度の大きさとし、さらに初期状態(
図3(a))から停止(
図3(b))までのスライドコアの移動量は形状や材料によって調整するのがよい。
【0032】
本発明においては、上記のようにしてスライド型21の樹脂に加える圧力を30〜200MPaの範囲に調整しつつ、溶融樹脂30の温度低下による収縮に追随することが好ましく、また溶融樹脂30の押し込み(過剰充填)による保圧力は5〜70MPaの範囲とすることが好ましい。これにより開口端部10での樹脂に加わる圧力を均等に印加でき、反りの発生を防止し、開口端部10での反り角度が小さな範囲に抑制された射出成形体1を得ることができる。
【0033】
尚、一般的には、スライド型21の前進を停止した際、同時に保圧も解除されるが、勿論、引き続き保圧をかけることも可能である。本発明では、スライド型21の前進による圧縮と保圧とが同時に行われていればよい。
また、圧縮停止後、型内の溶融樹脂30が適切な温度まで降温し、固化した段階で、型から成形体1を取り出せばよい。
【0034】
上記の方法による本発明の射出成形体1は、反り角度θが極めて小さい範囲に制御されているため、内部に各種電子機器が収容搭載される筐体として好適に使用される。
【実施例】
【0035】
本発明を次の実験例で説明する。
尚、以下の実験例では、
図1に示す箱型形状を有しており、且つ開口端部10での幅Mが76mm、開口端部10での縦寸法(高さ)が20mm、厚みtが1.5mm、及び奥行Lが76mmの成形品を射出成形した。
射出成形機としては、東芝機械エンジニアリング(株)製射出成形機EC−100SXを使用し、下記の成形条件を採用した。
射出充填時間(初期状態のキャビティ25が満杯になるまでの時間):1.7秒
保圧時間:8.0秒
保圧力:50MPa
冷却時間(保圧解除後、型から成形体を取り出すまでの時間):8.0秒
金型温度(コア型20、スライド型21及びシェル型23の温度):40℃
【0036】
<実施例1>
成形用樹脂として、ポリプロピレン(プライムポリマー(株)製MA3)を用意した。
上記の樹脂を用い、
図3に示す成形金型(初期キャビティ容積が射出成形体1の1.0%)を使用して上記の条件で射出成形を行い、射出充填後、保圧を加えた下記の条件でスライド型21を前進させて圧縮を行った。
圧縮量(スライド型21の前進距離):2mm
圧縮力:30kN
尚、圧縮力は、エジェクタピンによる設定押込力である。また、圧縮速度は適宜設定した。
【0037】
スライド型21の前進を停止して圧縮を停止した後、射出機のスクリューを稼働して保圧をかけたまま冷却を行い、冷却完了後に割型23a,23bを開き、スライド型21を後退して成形体を取り出した。
得られた成形体について、開口端部10での反り角度θを以下の方法により測定し、その結果を表1に示した。
【0038】
反りの測定;
反り量が正の場合(開口端部10の中央部が凹んだ形状)には、マイクロメータ(ミツトヨ社製MHN3−25MJB)を使用し、反り量が負の場合(開口端部10の中央部が突出した形状)には、コントレーサ(東京精密社製1600DH)を使用して反り量を測定し、開口端部10の幅Mから反り角度θを算出した。
【0039】
<実施例2>
成形用樹脂として、ガラス繊維強化ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製LR−23C)を用意した。
授記の成形用樹脂を使用し、下記の圧縮条件を採用した以外は実施例1と同様にして射出成形を行った。得られた成形体の反り角度θを測定し、その結果を表1に示す。
圧縮量(スライド型21の前進距離):2mm
圧縮力:30kN
【0040】
<比較例1>
初期状態のキャビティ25の容積を射出成形体1の容積に対応させ、スライド部材21の前進による圧縮を行わなかった以外は、実施例1と同様にして射出成形を行った。得られた成形体の反り角度θを測定し、その結果を表1に示す。
【0041】
<比較例2>
初期状態のキャビティ25の容積を射出成形体1の容積に対応させ、スライド部材21の前進による圧縮を行わなかった以外は、実施例2と同様にして射出成形を行った。得られた成形体の反り角度θを測定し、その結果を表1に示す。
【0042】
[表1]
実施例1(PP):−0.81度
実施例2(ガラス繊維強化PP):0.89度
比較例1(PP):2.66度
比較例2(ガラス繊維強化PP):1.62度
【0043】
以上の結果から理解されるように、圧縮と保圧とを同時に行うことにより、反り角度θは−0.9〜+0.9度の範囲に制御され、反りが有効に抑制されていることが判る。