(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の積層フィルムについて詳細に説明する。
【0013】
本発明は、基材フィルムとしてポリエステルフィルムの少なくとも一面に樹脂層(X)が積層された積層フィルムである。
【0014】
(1)樹脂層(X)
本発明の積層フィルムの樹脂層(X)は、樹脂層(X)の厚みが80nm以上であることが必要である。樹脂層(X)の厚みを80nm以上とすることで、樹脂層(X)にオリゴマー析出抑制性や離型性を付与することが可能となる。また樹脂層(X)の厚みの上限は、積層フィルムのハンドリング性の観点からは1000nm以下であることが必要である。樹脂層(X)の厚みは、より好ましくは、200nm以上、900nm以下であり、さらに好ましくは、300nm以上、800nm以下である。樹脂層(X)の厚みが80nm未満の場合、硬度を十分高めることができず、オリゴマー析出抑制が不十分である。また、厚みが1000nmを越えると生産性が悪化する場合がある。
【0015】
また、本発明の積層フィルムの樹脂層(X)を形成する樹脂(α)はガラス転移点温度が50℃以上である樹脂であることが必要である。樹脂(α)をガラス転移点温度が50℃以上である樹脂とすることで、樹脂層(X)の硬度が高くなるため、樹脂層(X)にオリゴマー析出抑制性や擦り傷抑制性が付与されるだけでなく、樹脂層(X)は有機溶剤や樹脂などの浸透や浸食が抑制されるため、良好な離型性を発現させることができる。より好ましくは、60℃以上であり、さらに好ましくは、70℃以上である。ガラス転移温度の上限は、特に規定されないが、樹脂層(X)の取り扱い性、加工性の観点から実質的に80℃以下が好ましい。ガラス転移温度が50℃未満の場合、硬度を十分高めることができず、オリゴマー析出抑制が不十分となる場合がある。
【0016】
本発明の積層フィルムの樹脂層(X)を形成する樹脂(α)が、水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)と、メチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)を含む樹脂組成物から得られる樹脂であると、樹脂(α)をガラス転移点温度が50℃以上である樹脂とすることができる。また、水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)のガラス転移点温度は50℃以上であることが好ましい。樹脂(A)のガラス転移点温度が50℃以上であると、樹脂(α)のガラス転移点温度をより高い温度とすることができる。
【0017】
さらに、本発明の積層フィルムの樹脂層(X)は、表面自由エネルギーが40mN/m以上、50mN/m未満であることが必要である。樹脂層(X)の表面自由エネルギーを40mN/m以上とすることで、離型フィルムとして使用した際に、樹脂層(X)上に塗布する塗布層のはじきを抑制することができる。一方、樹脂層(X)の表面自由エネルギーを50mN/m未満にすることで、離型フィルムとして使用した際に、樹脂層(X)に良好な離型性を付与することができる。
【0018】
また、本発明の積層フィルムは、樹脂層(X)を有する面のうち、少なくとも一面の中心線粗さSRaが8nm以上12nm以下、十点平均粗さSRzが400nm以下であることが必要である。光学フィルムを溶液法で製造する際の支持体として本発明のフィルムを用い、樹脂層(X)を有する面に光学樹脂溶液をキャストする場合、キャスト面の粗さSRaがこの範囲より大きいと、光学フィルムを支持体から剥離する時の剥離力が重くなって光学フィルム表面に剥離のダメージが発生する。逆に、キャスト面の粗さSRaがこの範囲より小さいと剥離力が軽くなりすぎ光学樹脂フィルムが製造時に自然剥離するなどの不具合が発生する場合があり、製膜や加工時の搬送工程で擦り傷が発生する場合がある。また、SRzが400nmより大きいと、光学フィルムに凹凸が転写し、透明性が損なわれる。
【0019】
また、本発明の積層フィルムは、中心線粗さSRaが8nm以上12nm以下、十点平均粗さSRzが400nm以下を満たす面の反対側の面の中心線粗さSRaが1nm以上3nm以下、十点平均粗さSRzが50nm以下であることが好ましい。一般に、光学フィルムを溶液製膜でプラスチックフィルムを支持体として用いて製造する場合、均一な表面性・膜厚を有する光学フィルムを得るためには、走行中の支持体フィルムに光学樹脂溶液がキャストされる瞬間には、支持体フィルムに振動を与えないことが必須となる。そのため、光学樹脂溶液のキャスト部では、支持体フィルムの樹脂溶液がキャストされる反対面(以下、裏面と称す)に支持体フィルムと等速で回転する平滑な金属ロールなどを当てる必要があり、その様な金属ロールをバックアップロールと呼ぶ。このとき、支持体フィルムの裏面の粗さが大きすぎると支持体フィルムとバックアップロールの密着性が弱くなり、樹脂溶液をキャストする際に支持体フィルムが樹脂溶液で膨潤し、局所的に支持体フィルムがバックアップロールから浮いてしまうことで、光学フィルムの膜厚が不均一になってしまう場合がある。
【0020】
本発明の積層フィルムの粗さは、例えば、基材フィルムであるポリエステルフィルムや樹脂層(X)に、顔料、染料、有機又は無機の粒子を含有させて積層フィルムの表面に微小な突起が形成させる方法やポリエステルフィルムの製造工程の途中でエンボス加工を行う方法などによって調整することが出来るが、これに限定されるものではない。
【0021】
本発明の積層フィルムの樹脂層(X)は、樹脂(α)を用いてなるものであり、該樹脂(α)が、水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)と、メチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)を含む樹脂組成物から得られる樹脂であると、樹脂層(X)に良好な離型性、擦り傷発生抑制性、オリゴマー析出抑制性を付与することができる。また、樹脂層(X)を形成する樹脂(α)が、水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)と、メチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)を含む樹脂組成物から得られる樹脂であると、樹脂層(X)の表面自由エネルギーを容易に40mN/m以上、50mN/m未満とすることができる。樹脂(A)は親水性基である水酸基を有しており、メラミン化合物(B)はメチロール基及び/又はアルコキシメチル基に起因する親水性のエーテル基を有しているおり、また、樹脂(A)は疎水性の官能基であるアクリロイル基を有しているので、樹脂(A)、メラミン化合物(B)の官能基の数や重量比などを設定することで、樹脂層(X)の表面自由エネルギーを調整することができる。
【0022】
さらに、樹脂(A)は、少なくとも以下の(a)〜(c)の化合物を用いて重合されてなるアクリル樹脂であることが好ましい。
(a)〜(c)の化合物を用いることで、メラミン化合物(B)と得られる樹脂層(X)の表面自由エネルギーを40mN/m以上、50mN/m未満の範囲に調整することができる。
・アクリル酸エステル化合物及び/又はメタクリル酸エステル化合物(a)
・水酸基を有するエチレン系不飽和化合物(b)
・式(3)で示される化学構造(ウレタン構造)と多官能アクリロイル基を有する化合物(c)
本発明の積層フィルムは樹脂層(X)の鉛筆硬度が「F」以上であることが必要である。より好ましくは、鉛筆硬度「H」以上である。樹脂層(X)の鉛筆硬度を「F」以上とすることで製膜や加工時の搬送工程で擦り傷の発生を抑制することができる。鉛筆硬度を上記範囲とする方法は、積層フィルムの樹脂層(X)を有する面の中心線粗さSRaを本願規定の範囲とし、本願規定の樹脂層(X)を積層することで得ることが可能となる。
【0023】
本発明の積層フィルムは150℃で1時間熱処理した時の、樹脂層(X)を有する面に析出した表面オリゴマー量が1.0mg/m
2以下であることが好ましい。析出する表面オリゴマー量を1.0mg/m
2以下とすることで、積層フィルムの樹脂層(X)上に形成される光学樹脂フィルムへのオリゴマーの混入を抑制することができ、光学樹脂フィルム中の異物を少なくすることができる。析出する表面オリゴマー量は、0.75mg/m
2以下であることがより好ましく、さらに好ましくは、0.40mg/m
2以下である。表面オリゴマー量を上記範囲とする方法は、樹脂層(X)の厚みを本願規定の範囲とし、鉛筆硬度を本願規定の範囲とすることで得ることが可能となる。
【0024】
本発明の積層フィルムは、ポリエステルフィルムの少なくとも一面に、樹脂(α)を用いてなる樹脂層(X)が設けられた積層フィルムであるが、積層フィルムの両面に樹脂層(X)を設けることがより好ましい。両面に樹脂層(X)を設けることによって、裏面の析出オリゴマーも減少するため、樹脂層(X)の上に光学樹脂を塗布し乾燥後そのまま巻き取った場合、裏面から光学樹脂フィルムに析出オリゴマーが付着することを防ぐことが出来る。なお、樹脂(α)の詳細については後述する。
【0025】
また、本発明の積層フィルムの樹脂層(X)を形成する樹脂は、樹脂(α)と、水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)と、メチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)を合計した含有量が、樹脂層(X)を形成する樹脂全体に対して70質量%以上であることが好ましい。樹脂層(X)を形成する樹脂中の樹脂(α)と、樹脂(A)、メラミン化合物(B)の合計含有量を70質量%以上とすることで、擦り傷の防止やオリゴマーの析出を抑制することができる。
【0026】
樹脂(α)は、水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)と、メチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)を用いてなる樹脂組成物から得られる樹脂である。樹脂(A)およびメラミン化合物(B)を用いてなる樹脂組成物を加熱すると、樹脂(A)のアクリロイル基同士が架橋して、架橋構造が形成されたり、樹脂(A)の水酸基とメラミン化合物(B)のメチロール基やアルコキシメチル基が架橋して、架橋構造(後述する式(1)で示される構造)が形成されたり、メラミン化合物(B)のメチロール基やアルコキシメチル基が相互に架橋して、架橋構造(後述する式(2)で示される構造)が形成されたりする。樹脂(A)のアクリロイル基同士、樹脂(A)の水酸基とメラミン化合物(B)のメチロール基またはアルコキシメチル基、メラミン化合物(B)のメチロール基同士の架橋反応は、反応性が高いため、樹脂(α)は、多くの架橋構造を有する樹脂となる。樹脂(A)の水酸基、アクリロイル基の数、メラミン化合物(B)のメチロール基やアルコキシメチル基の数を増やすと、より緻密な架橋構造を形成した樹脂(α)を得ることが可能となる。
【0027】
つまり、本発明において、樹脂層(X)を形成する樹脂は、アクリロイル基同士の架橋構造を有することが好ましい。また、樹脂層(X)を形成する樹脂は、式(1)で示される、水酸基とメラミン化合物の窒素原子に結合するメチロール基もしくは水酸基とメラミン化合物の窒素原子に結合するアルコキシメチル基との架橋構造(化学構造)を有することが好ましい。また、樹脂層(X)を形成する樹脂は、式(2)で示される、メラミン化合物の窒素原子に結合するメチロール基同士、メラミン化合物の窒素原子に結合するメチロール基とアルコキシメチル基、メラミン化合物の窒素原子に結合するアルコキシメチル基同士の架橋構造を有することが好ましい。また、より緻密な架橋構造を形成した樹脂(α)を得るためには、樹脂(α)は、水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)と、メチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)を150℃以上に加熱して得られる樹脂組成物であることが好ましい。
【0030】
このように、樹脂層(X)を形成する樹脂や樹脂(α)は緻密な架橋構造を有するため、樹脂層(X)の硬度を飛躍的に高めることができる。加えて、搬送工程や加工工程において擦り傷が付きづらく、加熱後のオリゴマーの析出が少ない積層フィルムとすることができる。特に、本発明の積層フィルムは150℃で1時間加熱処理せしめても、オリゴマー析出量の指標となるヘイズの変化率は0.3%以下、より好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは、0.05%以下にとどまる。そのため、本発明の積層フィルムは、離型フィルムとして好適に供せられる。樹脂層(X)や樹脂(α)は緻密な架橋構造を有するため有機溶剤や樹脂などの浸透や侵食が抑制され、良好な離型性を発現できるだけでなく、オリゴマー析出抑制性や擦り傷抑制性に優れるため、離型フィルムから剥離された製品の品質、特に欠点の数を大幅に減らし表面の平滑性を極めて良好な状態にできる。
【0031】
本発明の積層フィルムの樹脂層(X)は樹脂(α)を用いてなるものである必要がある。前述した条件を満たす積層フィルムであれば特に製造方法は問わない。樹脂(α)を用いてなる樹脂層を有する積層フィルムは、水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)とメチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)を用いてなる樹脂組成物をポリエステルフィルム(基材フィルム)の少なくとも一面に塗布し、特に150℃以上に加熱することによって製造することができる。
【0032】
(2)樹脂(α)および架橋構造
本発明に用いる樹脂(α)は前述したように、水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)とメチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)を用いてなる樹脂組成物から得られる樹脂である。特に、樹脂(α)が、水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)と、メチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)を150℃以上に加熱されることによって得られると緻密な架橋構造を形成するため好ましい。樹脂(α)などについて以下に詳しく説明する。
【0033】
本発明の積層フィルムにおいて、樹脂(α)はガラス転移点温度が50℃以上である樹脂であることが好ましい。樹脂(α)のガラス転移点温度を50℃以上である樹脂とすることで、樹脂層の硬度が高くなり、樹脂層にオリゴマー析出抑制性や擦り傷抑制性が付与されるだけでなく、樹脂層に有機溶剤や樹脂などの浸透や浸食が抑制される効果を付与することができる。樹脂(α)をガラス転移点温度が50℃以上とするには、ガラス転移温度が50℃以上である樹脂(A)とメラミン化合物(B)を用いてなる樹脂組成物を150℃以上に加熱して得ることなどが挙げられる。
【0034】
樹脂層(X)の硬度やオリゴマーの析出抑制性、離型性などを向上させるために、樹脂層(X)を形成する樹脂や樹脂(α)は以下の構造を有することが好ましい。
【0035】
まず、樹脂(α)は、アクリロイル基同士の架橋により得られる構造を有することが好ましい。つまり、樹脂層(X)を形成する樹脂は、アクリロイル基同士の架橋により得られる構造を有することが好ましい。かかる架橋構造は、アクリロイル基を有する樹脂(A)を加熱することによって、形成させることができる。
【0036】
次に、樹脂(α)は式(1)に示す構造を有することが好ましい。
【0038】
式(1)に示す構造は、水酸基とメラミン化合物の窒素原子に結合するメチロール基またはアルコキシメチル基の架橋により得られる構造である。つまり、樹脂層(X)を形成する樹脂は、水酸基とメラミン化合物の窒素原子に結合するメチロール基またはメラミン化合物の窒素原子に結合するアルコキシメチル基の架橋により得られる式(1)の化学構造を有することが好ましい。かかる架橋構造は、水酸基を有する樹脂(A)とメチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)を加熱することによって、形成させることができる。樹脂層(X)を形成する樹脂や樹脂(α)が式(1)に示す構造を有することで、樹脂層(X)に高い硬度とオリゴマー析出抑制性、離型性を持たせることができる。
【0039】
さらに、樹脂(α)は式(2)に示す構造を有することが好ましい。
【0041】
式(2)に示す構造は、メラミン化合物の窒素原子に結合するメチロール基同士、メラミン化合物の窒素原子に結合するメチロール基とアルコキシメチル基、メラミン化合物の窒素原子に結合するアルコキシメチル基同士の架橋により得られる構造である。つまり、樹脂層(X)を形成する樹脂は、メラミン化合物の窒素原子に結合するメチロール基同士、メラミン化合物の窒素原子に結合するメチロール基とアルコキシメチル基、メラミン化合物の窒素原子に結合するアルコキシメチル基同士の架橋により得られる式(2)の化学構造を有することが好ましい。かかる架橋構造は、メチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)を加熱することによって、形成させることができる。樹脂層(X)を形成する樹脂や樹脂(α)は式(2)に示す構造を有することで、樹脂層(X)に高い硬度とオリゴマー析出抑制性、離型性を持たせることができる。
【0042】
加えて、樹脂(α)は式(3)に示す構造を有することが好ましい。
【0044】
式(3)に示す構造は、ウレタン構造である。つまり、樹脂層(X)を形成する樹脂は、式(3)の化学構造を有することが好ましい。かかる構造は、例えば、水酸基とアクリロイル基に加えてウレタン構造を持つ樹脂(A)を用いることなどによって、樹脂(α)に導入することができる。樹脂層(X)を形成する樹脂や樹脂(α)は式(3)に示す構造を有することで、樹脂層(X)に伸縮性や弾性を持たせることができる。すなわち、樹脂(α)が形成される際に(アクリロイル基同士の架橋構造や式(1)および(2)で示される架橋構造が形成される際に)、樹脂層(X)にクラックが発生したり、カールが発生したりすることがあるが、樹脂層(X)を形成する樹脂や樹脂(α)が式(3)の構造を有することにより、クラックやカールの発生を抑制することができる。
【0045】
本発明において、樹脂(A)とメラミン化合物(B)を用いて樹脂(α)を得る場合、樹脂層(X)を形成するための樹脂組成物(樹脂(A)とメラミン化合物(B)の混合物)において、樹脂(A)とメラミン化合物(B)の質量比は、樹脂(A)の質量を100質量部としたとき、メラミン化合物(B)の質量は30質量部以上、100質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、メラミン化合物(B)の質量が30質量部以上、60質量部以下である。メラミン化合物(B)の質量を30質量部以上とすることで、樹脂(α)に式(2)の構造を十分に持たせることができる。その結果、樹脂層(X)の硬度を高めるだけでなく、オリゴマーの析出を大幅に抑制させることが可能となる。また、樹脂層(X)の離型性が高まり、さらには、可撓性、強靭性、耐溶剤性も高まる。一方、メラミン化合物(B)の質量を100質量部以下とすることで、式(2)の構造が形成される際に発生する硬化収縮を抑制することができる。その結果、樹脂層(X)でのクラックの発生が抑制され、オリゴマー析出抑制性や離型性を発現させることができる。
(3)水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)
本発明において用いられる、水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)とは、少なくとも1つ以上の水酸基と、1つ以上のアクリロイル基を有する樹脂である。本発明において、アクリロイル基はメタクリロイル基を含むものである。
【0046】
本発明において、樹脂(A)が水酸基とアクリロイル基を有するとは、樹脂(A)がメラミン化合物(B)と共に加熱することによって樹脂(α)を形成せしめることができれば、どのような形態で有していても良い。例えば、樹脂(A)が水酸基を有する重合体とアクリロイル基を有する重合体を有する樹脂であっても良く、水酸基とアクリロイル基を繰り返し単位とする重合体を有する樹脂であっても良い。中でも樹脂(A)は、アクリル酸エステル化合物及び/又はメタクリル酸エステル化合物(a)と、水酸基を有するエチレン系不飽和化合物(b)と、式(3)で示される化学構造(ウレタン構造)と多官能アクリロイル基を有する化合物(c)を用い、これらを重合することによって得られる重合体を有する樹脂であることが好ましい。緻密な架橋構造を形成させる点で、(a)から形成された炭化水素鎖に(b)及び(c)がランダムにグラフト重合されている重合体を有することがより好ましい。これらのモノマー((a)、(b)及び(c))を用いて重合された樹脂(A)は、メラミン化合物(B)と共に加熱することによって、前述した樹脂(α)を形成せしめることができる。特に150℃以上に加熱すると、緻密な架橋構造を有する樹脂(α)が得られるため好ましい。以下、化合物(a)、(b)及び(c)について説明する。
【0047】
アクリル酸エステル化合物及び/又はメタクリル酸エステル化合物(a):
化合物(a)は、樹脂(A)の主骨格を形成するモノマーである。化合物(a)の具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸i−オクチル、アクリル酸t−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸i−オクチル、メタクリル酸t−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のアクリル酸及び/またはメタクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステルやその他、アクリル酸シクロヘキシル等のシクロ炭素数5〜12のシクロアルキルエステル、アクリル酸ベンジル炭素数7〜12のアラルキルエステルなどを挙げることができる。
【0048】
化合物(a)、(b)及び(c)を用いて、樹脂(A)を重合する場合、化合物(a)の質量は、(a)〜(c)の化合物の質量の合計を100質量部としたときに、55質量部以上、98質量部以下であることが好ましい。化合物(a)の質量(仕込み量)を上記の数値範囲内とすることで、樹脂(A)を効率よく重合することができる。
【0049】
水酸基を有するエチレン系不飽和化合物(b):
化合物(b)は、水酸基を有することが必要である。かかる化合物(b)をモノマーとして用いることにより、樹脂(A)に水酸基を持たせることができる。
【0050】
化合物(b)の具体例としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、アクリル酸2−ヒドロキシブチル、アクリル酸3−ヒドロキシブチル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、2−ヒドロキシプロピルアリルエーテル、2−ヒドロキシブチルアリルエーテル、アリルアルコール、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸3−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシブチル、メタクリル酸3−ヒドロキシブチル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、2−ヒドロキシエチルメタアリルエーテル、2−ヒドロキシプロピルメタアリルエーテル、2−ヒドロキシブチルメタアリルエーテルなど分子内に1つ以上の水酸基を含む不飽和化合物が好ましい。
【0051】
また化合物(b)は、カルボキシル基を有していても良い。
【0052】
化合物(a)、(b)及び(c)を用いて、樹脂(A)を重合する場合、化合物(b)の質量は、(a)〜(c)の化合物の質量の合計を100質量部としたときに、1質量部以上、30質量部以下であることが好ましい。化合物(b)の質量(仕込み量)を、1質量部以上にすることで、樹脂(A)に十分な量の水酸基を持たせることができる。また、化合物(b)の質量を30質量部以下とすることで、樹脂(A)を効率よく重合することができる。化合物(b)の質量が30重量部を超えると、後述する方法によって樹脂組成物を含む塗液を調製する際に、水系溶媒(E)に水分散化または水溶化した樹脂(A)がゲル化したり、凝集したりしてしまい、好適に使用することが困難になる場合がある。
【0053】
式(3)で示される化学構造(ウレタン構造)とアクリロイル基を有する化合物(c):
本発明において用いられる、化合物(c)は、アクリロイル基を有することが必要である。また、化合物(c)が有するアクリロイル基が多官能であると、樹脂(α)に緻密な架橋構造を形成させることができるため好ましい。化合物(c)が有するアクリロイル基の数は2以上、15以下であることが好ましい。本発明において、アクリロイル基はメタクリロイル基を含むものである。かかる化合物(c)をモノマーとして用いることにより、樹脂(A)にアクリロイル基を持たせることができる。また、化合物(c)は多官能アクリロイル基以外に分子内にウレタン構造を有することが好ましい。かかる化合物(c)をモノマーとして用いることにより、樹脂(A)にアクリロイル基とウレタン構造を持たせることができる。
【0054】
化合物(c)は、具体的には、多価アルコールと、イソシアネートモノマー及び/又は有機ポリイソシアネートとを反応させて得られる化合物と、水酸基を有するアクリレートモノマー及び/又は水酸基を有するメタクリレートモノマーとを、無溶剤下もしくは有機溶剤下で反応させ合成することで得られるウレタンアクリレート化合物が好ましい。
【0055】
多価アルコールとしてはアクリルポリオール類、ポリエステルポリオール類、ポリカーボネートポリオール類、エチレングリコール、プロピレングリコールなどが挙げられる。イソシアネートモノマーとしてはトリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどが挙げられ、有機ポリイソシアネートはイソシアネートモノマーから合成されるアダクトタイプ、イソシアヌレートタイプ、ビュレットタイプのポリイソシアネートなどが挙げられる。水酸基を有するアクリレートモノマーとしては、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、イソシアヌル酸エチレンオキシド変性ジアクリレート、ペンタエリスリトールトリ及びテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレートなどが挙げられる。水酸基を有するメタクリレートモノマーとしては、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピルなどが上げられる。また、化合物(c)には、メチロール基やアルコキシメチル基が含有されていてもよい。
【0056】
化合物(a)、(b)及び(c)を用いて、樹脂(A)を重合する場合、化合物(c)の質量は、(a)〜(c)の化合物の質量の合計を100質量部としたときに、1質量部以上、15質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、5質量部以上、15質量部以下であり、さらに好ましくは、10質量部以上、15質量部以下である。化合物(c)の質量を1質量部以上にすることで、樹脂(A)に十分な量のアクリロイル基やウレタン構造を持たせることができる。(c)の質量が1質量部未満の場合、架橋構造が十分形成されず、硬度が低下し、表面オリゴマーが増加する場合がある。
【0057】
一方、化合物(c)の質量が15質量部を超えると、以下の現象が起こることがあり、好ましくない。すなわち、化合物(c)の質量が15質量部を超えると、樹脂(A)が過剰な量のアクリロイル基を有するので、樹脂(α)を得るために樹脂(A)を熱すると、アクリロイル基同士の架橋構造が非常に多く形成される。その結果、著しい硬化収縮が引き起こされ、樹脂層(X)にクラックが発生することがある。また、樹脂(α)を得るために樹脂(A)を熱しても、樹脂(α)の硬度を十分に高めることができず、樹脂層(X)の硬度に劣ることがある。
【0058】
(4)水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A)の製造方法
本発明において用いられる樹脂(A)の製造方法としては、特に限定されることなく公知の技術を適用することができるが、モノマーとして、化合物(a)、(b)及び(c)を用いることが好ましい。さらに、樹脂(A)の製造方法としては、化合物(a)、(b)及び(c)を用いて水系溶媒(E)中で乳化重合により製造することが好ましい。水系溶媒(E)を用いることで、水系溶媒(E)を用いた樹脂組成物を含む塗液の調整が容易となる。また乳化重合により樹脂(A)を製造することで、樹脂(A)の機械的分散安定性が優れるので好ましい。
【0059】
本発明で用いられる乳化剤は、アニオン系乳化剤、及びノニオン系乳化剤のいずれの乳化剤でも特に限定されず、単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
アニオン系乳化剤としては、例えば、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類やドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類などが挙げられる。またノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類やポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル類などが挙げられる。
【0061】
乳化重合に際しては、通常、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩類、t-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、p-メンタンヒドロパーオキシドなどの有機過酸化物類、過酸化水素などの重合開始剤が使用される。これら重合開始剤も1種又は複数種併用のいずれの態様でも利用できる。
【0062】
また乳化重合に際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラート金属塩等の還元性有機化合物;チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸アンモニウム等の還元性無機化合物などが使用できる。
【0063】
更に、乳化重合に際しては連鎖移動剤を使用することができる。このような連鎖移動剤としては、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、2−エチルヘキシルチオグリコレート、2−メルカプトエタノール、トリクロロブロモメタン等を挙げることができる。本発明の樹脂(A)の乳化重合において好適に採用される重合温度は約30〜100℃である。
【0064】
(5)メチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B)
本発明で用いることのできるメラミン化合物(B)は、1分子中にトリアジン環、及びメチロール基及び/又はアルコキシメチル基をそれぞれ1つ以上有している必要がある。かかるメラミン化合物(B)を用いることで、樹脂(α)に式(2)に示したメチロール基同士、メチロール基とアルコキシメチル基、アルコキシメチル基同士の架橋構造を持たせることができる。
【0065】
このメラミン化合物(B)は、具体的には、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロールメラミン誘導体に、低級アルコールとしてメチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等を脱水縮合反応させてエーテル化した化合物などが好ましい。
【0066】
メチロール化メラミン誘導体としては、例えばモノメチロールメラミン、ジメチロールメラミン、トリメチロールメラミン、テトラメチロールメラミン、ペンタメチロールメラミン、ヘキサメチロールメラミンを挙げることができる。
【0067】
(6)メチロール基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、アルコキシシラン基、オキサゾリン基、カルボキシル基およびカルボジイミド基からなる群から選ばれる1つ以上の官能基を有する化合物(C):
本発明では、樹脂層(X)を形成する樹脂に、樹脂(α)、樹脂(A)およびメラミン化合物(B)以外に、メチロール基、アミノ基、イソシアネート基、エポキシ基、アルコキシシラン基、オキサゾリン基、カルボキシル基およびカルボジイミド基からなる群から選ばれる1つ以上の官能基を有する化合物(C)を含有させることができる。化合物(C)の質量は、樹脂層(X)を形成する樹脂全体を100質量%とした際に、30質量%以下であることが好ましい。化合物(C)の質量が30質量%以下であることで、樹脂(α)の効果である樹脂層(X)硬度、オリゴマー析出抑制性、離型性などの優れた性質を維持しながら、各種インキやハードコート剤などとの接着性や耐湿熱接着性、可撓性、強靭性などの特性を向上させることができる。
【0068】
メチロール基を有する化合物は、具体的にメチロール基を有する不飽和カルボン酸アミドであるN−メチロールアクリルアミド、及びN−メチロールメタクリルアミド等を1種、または2種以上で使用するのが好ましい。
【0069】
アミノ基を有する化合物としては、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノエチル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、アクリル酸ブチルアミノエチル、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸ブチルアミノエチルなどのアミノアルキルエステル類やアミノエチルアクリルアミド、ジメチルアミノメチルアクリルアミド、メチルアミノプロピルアクリルアミド、アミノエチルメタクリルアミド、ジメチルアミノメチルメタクリルアミド、メチルアミノプロピルメタクリルアミド等のカルボン酸アミノアルキルアミド類などが挙げられる。
【0070】
イソシアネート基を有する化合物としては、1,3−又は1,4−フエニレンジイソシアネート、2,4−又は2,6−トリレンジイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、4,4−ジフエニルメタンジイソシアネート、3,3−ジメチルジフエニルメタン−4,4−ジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物や1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,8−オクタメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート化合物、またはこれらイソシアネートの2量体または3量体やこれらイソシアネートと、例えばエチレングリコール、トリメチロールプロパン等の2価または3価のポリオールとのアダクト体などを例示できる。
【0071】
エポキシ基を有する化合物としては、アクリル酸グリシジル、アクリル酸3、4−エポキシシクロヘキシルメチル、グリシジルアリルエーテル、グリシジルビニルエーテル、3、4−エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸3、4−エポキシシクロヘキシルメチル、グリシジルメタアリルエーテルなどが挙げられる。
【0072】
アルコキシシランを有する化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(βメトキシエトキシ)シラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。
【0073】
オキサゾリン基を有する化合物としては、オキサゾリン基またはオキサジン基を1分子当たり少なくとも1つ以上有するものであれば特に限定されないが、付加重合性オキサゾリン基含有モノマーが好ましく、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンを挙げることができる。
【0074】
カルボキシル基を有する化合物としては、分子内に1つ以上のカルボキシル基を含む不飽和化合物であれば特に限定はされないが、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸などを挙げることができる。
【0075】
カルボジイミド基を有する化合物としては、例えば、下記式(4)で表されるカルボジイミド構造を1分子当たり少なくとも1つ以上有するものであれば特に限定されないが、耐湿熱接着性などの点で、1分子中に2つ以上を有するポリカルボジイミド化合物が特に好ましい。特に、ポリエステル樹脂やアクリル樹脂などのポリマーの末端や側鎖に、複数個のカルボジイミド基を有する、高分子型のイソシアネート化合物を用いると、本発明の樹脂層(X)をポリエステルフィルム上に設け、積層フィルムとしたときに、樹脂層(X)の硬度向上やオリゴマー析出抑制性だけでなく、各種インキやハードコート剤などとの接着性や耐湿熱接着性、可撓性、強靭性が高まり好ましく用いることができる。
−N=C=N− (4)
カルボジイミド化合物の製造は公知の技術を適用することができ、一般的には、ジイソシアネート化合物を触媒存在下で重縮合することにより得られる。ポリカルボジイミド化合物の出発原料であるジイソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族、脂環式ジイソシアネートなどを用いることができ、具体的にはトリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジイソシアネートなどを用いることができる。更に本発明の効果を消失させない範囲において、ポリカルボジイミド化合物の水溶性や水分散性を向上するために、界面活性剤を添加することや、ポリアルキレンオキシド、ジアルキルアミノアルコールの四級アンモニウム塩、ヒドロキシアルキルスルホン酸塩などの親水性モノマーを添加しても用いてもよい。
【0076】
また他の化合物、例えば、アジリジン化合物、アミドエポキシ化合物、チタンキレートなどのチタネート系カップリング剤、メチロール化あるいはアルキロール化した尿素系化合物、アクリルアミド系化合物などを任意で用いることもできる。
【0077】
(7)ポリエステルフィルム
本発明の積層フィルムにおいて、基材フィルムとなるポリエステルフィルムについて詳しく説明する。ポリエステルとは、エステル結合を主鎖の主要な結合鎖とする高分子の総称であって、エチレンテレフタレート、プロピレンテレフタレート、エチレン−2,6−ナフタレート、ブチレンテレフタレート、プロピレン−2,6−ナフタレート、エチレン−α,β−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4‘−ジカルボキシレートなどから選ばれた少なくとも1種の構成成分を主要構成成分とするものを好ましく用いることができる。本発明では、ポリエステルフィルムとしてポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。またポリエステルフィルムに熱や収縮応力などが作用する場合には、ポリエステルフィルムとして耐熱性や剛性に優れたポリエチレン−2,6−ナフタレートを用いることが特に好ましい。
【0078】
上記ポリエステルフィルムは、二軸配向されたものであるのが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムとは、一般に、未延伸状態のポリエステルシート又はフィルムを長手方向および長手方向に直行する幅方向に各々2.5〜5倍程度延伸され、その後、熱処理を施されて、結晶配向が完了されたものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。ポリエステルフィルムが二軸配向していない場合には、積層フィルムの熱安定性、特に寸法安定性や機械的強度が不十分であったり、平面性の悪いものとなるので好ましくない。
【0079】
また、ポリエステルフィルム中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機系易滑剤、顔料、染料、有機又は無機の粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などがその特性を悪化させない程度に添加されていてもよい。特に、顔料、有機又は無機の粒子を添加すると、積層フィルムの表面を粗くすることができ、積層フィルムに擦り傷抑制性や離型性、易滑性を付与することができるため好適に用いることができる。顔料、有機又は無機の粒子は、単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0080】
ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されるものではなく、用途や種類に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は好ましくは10〜500μm、より好ましくは38〜250μm、最も好ましくは75〜150μmである。また、ポリエステルフィルムは、共押出しによる複合フィルムであってもよいし、得られたフィルムを各種の方法で貼り合わせたフィルムであっても良い。
【0081】
本発明の積層フィルムは、光学フィルム用の離型フィルムとして好適に用いることができる。光学用フィルムとは、例えば、フラットディスプレイパネル用光学フィルム、反射防止フィルム、配向フィルム、偏光フィルム、位相差フィルム、視野角向上フィルム、輝度向上フィルム、電磁波シールドフィルム、遮光フィルム、特定周波数選択遮断フィルム、光学ローパスフィルターフィルム、レンズフィルターフィルムなどが挙げられ、これら光学フィルムの製造工程で用いられる離型フィルムとして用いることができる。中でも、位相差フィルムの離型フィルムとして好適に用いられる。
【0082】
(8)樹脂層(X)の形成方法
本発明では、樹脂(A)とメラミン化合物(B)とを含有する樹脂組成物をポリエステルフィルムの少なくとも一面の上に設け、その後に加熱し、ポリエステルフィルム上に樹脂(α)を含む樹脂層(X)を形成させることが好ましい。特に加熱温度を150℃以上にすることで、式(1)〜(3)の構造を有する樹脂層(X)を効率よく形成させることができるため好ましい。これによって、傷つき抑制性、オリゴマー析出抑制性、離型性に優れる積層フィルムを得ることができる。
【0083】
また前記樹脂組成物中において、樹脂(A)とメラミン化合物(B)の含有量の合計は、樹脂組成物中の固形分に対して、70質量%以上であることが好ましい。樹脂(A)とメラミン化合物(B)の含有量の合計を、70質量%以上にすることで、150℃以上に加熱した際に効率的に式(1)〜(3)の構造を有する樹脂層を形成させることが可能となる。一方、樹脂(A)とメラミン化合物(B)以外の化合物(C)やその他の各種添加剤は、樹脂組成物中の固形分に対して含有量の合計が、30重量%未満とすることが好ましい。化合物(C)やその他の各種添加剤の含有量の合計を、30重量%未満とすることにより、前述した樹脂(A)とメラミン化合物(B)から得られる式(1)〜(3)の構造を有する樹脂層の形成を阻害することなく、また、樹脂層の各種インキやハードコート剤などとの接着性や耐湿熱接着性、可撓性、強靭性などの特性を向上させることができる。
【0084】
樹脂(A)とメラミン化合物(B)とを含有する樹脂組成物をポリエステルフィルム上に設ける際に、溶媒を用いても良い。すなわち、樹脂(A)とメラミン化合物(B)を溶媒に溶解または分散せしめて、塗液とし、これをポリエステルフィルムに塗布しても良い。塗布後に、溶媒を乾燥させ、且つ加熱を施すことで樹脂(α)が積層されたフィルムを得ることができる。特に加熱温度を150℃以上にすることが好ましい。また本発明では、溶媒として水系溶媒(E)を用いることが好ましい。水系溶媒を用いることで、加熱工程での溶媒の急激な蒸発を抑制でき、均一な樹脂層(X)を形成できるだけでなく、環境負荷の点で優れているためである。
【0085】
ここで、水系溶媒(E)とは水、または水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類など水に可溶である有機溶媒が任意の比率で混合させているものを指す。
【0086】
樹脂組成物のポリエステルフィルムへの塗布方法はインラインコート法、オフコート法のどちらでも用いることができるが、好ましくはインラインコート法である。インラインコート法とは、ポリエステルフィルムの製造の工程内で塗布を行う方法である。具体的には、ポリエステル樹脂を溶融押し出ししてから二軸延伸後熱処理して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法を指し、通常は、溶融押出し後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)ポリエステルフィルム(Aフィルム)、その後に長手方向に延伸された一軸延伸(一軸配向)ポリエステルフィルム(Bフィルム)、またはさらに幅方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)ポリエステルフィルム(Cフィルム)の何れかのフィルムに塗布する。
【0087】
本発明では、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムのAフィルム、Bフィルム、の何れかのフィルムに、樹脂組成物を塗布し、溶媒を蒸発させ、その後、ポリエステルフィルムを一軸方向又は二軸方向に延伸し、加熱し、ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させるとともに、樹脂層(X)を設ける方法を採用することが好ましい。この方法によれば、ポリエステルフィルムの製膜と、樹脂組成物の塗布と溶媒の乾燥、および加熱(すなわち、樹脂層(X)の形成)を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットがある。また、塗布後に延伸を行うために樹脂層(X)の厚みをより薄くすることが容易である。
【0088】
中でも、長手方向に一軸延伸されたフィルム(Bフィルム)に、樹脂組成物を塗布し、溶媒を乾燥させ、その後、幅方向に延伸し、150℃以上に加熱する方法が好ましい。未延伸フィルムに塗布した後、二軸延伸する方法に比べ、延伸工程が1回少ないため、延伸による樹脂層(X)の欠陥や亀裂が発生を抑制することができる。
【0089】
一方、オフラインコート法とは、上記Aフィルムを一軸又は二軸に延伸し、加熱処理を施しポリエステルフィルムの結晶配向を完了させた後のフィルム、またはAフィルムに、フィルムの製膜工程とは別工程で樹脂組成物を塗布する方法である。本発明では、上述した種々の利点から、インラインコート法により設けられることが好ましい。
【0090】
よって、本発明において最良の樹脂層(X)の形成方法は、水系溶媒(E)を用いた樹脂組成物を、ポリエステルフィルム上にインラインコート法を用いて塗布し、水系溶媒(E)を乾燥させ、加熱することによって形成する方法である。
【0091】
(8)樹脂組成物を含む塗液の調整方法
樹脂組成物を含む塗液を作成する場合、溶媒は水系溶媒(E)を用いることが好ましい。樹脂組成物を含む塗液は、必要に応じて水分散化または水溶化した樹脂(A)、メラミン化合物(B)および水系溶媒(E)を任意の順番で所望の重量比で混合、撹拌することで作製することができる。次いで必要に応じて易滑剤や無機粒子、有機粒子、界面活性剤、酸化防止剤、熱開始剤などの各種添加剤を、樹脂組成物により形成される樹脂層(X)の特性を悪化させない範囲で任意の順番で混合、撹拌することができる。混合、撹拌する方法は、容器を手で振って行ったり、マグネチックスターラーや撹拌羽根を用いたり、超音波照射、振動分散などを行うことができる。
【0092】
(9)塗布方式
ポリエステルフィルムへの樹脂組成物の塗布方式は、公知の塗布方式、例えばバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法等の任意の方式を用いることができる。
【0093】
(10)積層フィルム製造方法
本発明の積層フィルムの製造方法について、ポリエステルフィルムとして、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称する)フィルムを用いた例を挙げて説明する。まず、必要に応じて顔料、染料、有機又は無機の粒子を添加したPETのペレットを十分に真空乾燥した後、押出機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出し、冷却固化せしめて未延伸(未配向)PETフィルム(Aフィルム)を作製する。このフィルムを80〜120℃に加熱したロールで長手方向に2.5〜5.0倍延伸して一軸配向PETフィルム(Bフィルム)を得る。このBフィルムの片面に所定の濃度に調製した、樹脂(A)とメラミン化合物(B)を含む樹脂組成物を有する塗液を塗布する。この時、塗布前にPETフィルムの塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、PETフィルム上への樹脂組成物の塗布性が向上するため、濡れ性を向上させ、樹脂組成物のはじきを防止し、均一な塗布厚みを達成することができる。
【0094】
塗布後、PETフィルムの端部をクリップで把持して80〜130℃の予熱ゾーンへ導き、塗液の溶媒を乾燥させる。乾燥後幅方向に1.1〜5.0倍延伸する。引き続き150〜250℃の熱処理ゾーンへ導き1〜30秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させるとともに、樹脂(α)を含む樹脂層(X)の形成を完了させる。この加熱工程(熱処理工程)で、必要に応じて幅方向、あるいは長手方向に3〜15%の弛緩処理を施してもよい。かくして得られた積層フィルムは、擦り傷を防止し、加熱処理を伴う加工工程でポリエステルフィルムから析出するオリゴマーに対して、オリゴマー抑制に優れた離型フィルムとなる。
【0095】
(特性の測定方法および効果の評価方法)
本発明における特性の測定方法、および効果の評価方法は次のとおりである。
【0096】
(1)全光線透過率・ヘイズの測定
一辺が5cmの正方形状の積層フィルムサンプルを3点(3個)準備する。次にサンプルを常態(23℃、相対湿度50%)において、40時間放置する。それぞれのサンプルを日本電色工業(株)製濁度計「NDH5000」を用いて、全光線透過率の測定はJIS「プラスチック透明材料の全光線透過率の試験方法」(K7361−1、1997年版)、ヘイズの測定はJIS「透明材料のヘーズの求め方」(K7136 2000年版)に準ずる方式で実施する。それぞれの3点(3個)の全光線透過率およびヘイズの値を平均して、積層フィルムの全光線透過率およびヘイズの値とする。
【0097】
(2)樹脂層(X)厚みの測定
積層フィルムをRuO
4を用いて染色する。次に、積層フィルムを凍結させた後、フィルム厚み方向に切断し、樹脂層(X)断面観察用の超薄切片サンプルを10点(10個)得る。それぞれのサンプル断面をTEM(透過型電子顕微鏡:(株)日立製作所製H7100FA型)にて1万〜100万倍で観察し、断面写真を得る。その10点(10個)のサンプルの樹脂層(X)厚みの測定値を平均して、積層フィルムの樹脂層(X)厚みとする。
【0098】
(3)樹脂(α)のガラス転移点温度(Tg)測定
積層フィルムを5mg量り取る。次に量り取った積層フィルムを温度変調示差走査熱量計(TMDSC)Q1000(TA Instrumnets社製)にて測定を実施する。温度変調示差走査熱量計では、全体のDSCシグナル(全熱流)をガラス転移など、発熱と吸熱が起こる可逆的な熱成分と、エンタルピー緩和、硬化反応、脱溶媒などの不可逆な熱成分とに分離できる。測定で得られた全体の示差走査熱量シグナルより、可逆成分である、樹脂(α)のガラス転移点由来のシグナルを抽出し、樹脂(α)のガラス転移点とする。ここで、積層フィルムの基材フィルムであるポリエステルフィルムを形成するポリエステルのガラス転移点を事前に測定しておくことで、ポリエステルフィルムを形成するポリエステルと樹脂(α)のガラス転移点とを区別することができる。
【0099】
(4)樹脂層(X)の表面自由エネルギー算出
積層フィルムを室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置後した。その後、同雰囲気下で、積層フィルムの樹脂層(X)側表面に対して、純水、エチレングリコール、ホルムアミド、ジヨードメタンの4種の溶液のそれぞれの接触角を、接触角計CA−D型(協和界面科学(株)社製)により、それぞれ5点測定する。5点の測定値の最大値と最小値を除いた3点の測定値の平均値をそれぞれの溶液の接触角とする。
【0100】
次に、得られた4種類の溶液の接触角を用いて、畑らによって提案された「固体の表面自由エネルギー(γ)を分散力成分(γSd)、極性力成分(γSp)、および水素結合力成分(γSh)の3成分に分離し、Fowkes式を拡張した式(拡張Fowkes式)」に基づく幾何平均法により、本発明の分散力、極性力、及び分散力と極性力の和である表面エネルギーを算出する。
【0101】
具体的な算出方法を示す。各記号の意味について下記する。γSLは固体と液体の界面での張力である場合、数式(1)が成立する。
【0102】
γSL: 樹脂層(X)と表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギー
γS : 樹脂層(X)の表面自由エネルギー
γL : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギー
γSd:
(X(X)の表面自由エネルギーの分散力成分
γSp: 樹脂層(X)の表面自由エネルギーの極性力成分
γSh: 樹脂層(X)の表面自由エネルギーの水素結合力成分
γLd : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの分散力成分
γLp : 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの極性力成分
γLh: 表1に記載の既知の溶液の表面自由エネルギーの水素結合力成分
γSL=γS+γL−2(γSd・γLd)
1/2−2(γSp・γLp)
1/2−2(γSh・γLh)
1/2 ・・・ 数式(1)。
【0103】
また、平滑な固体面と液滴が接触角(θ)で接しているときの状態は次式で表現される(Youngの式)。
【0104】
γS=γSL+γLcosθ ・・・ 数式(2)。
【0105】
これら数式(1)、数式(2)を組み合わせると、次式が得られる。
(γSd・γLd)
1/2+(γSp・γLp)
1/2+(γSh・γLh)
1/2=γL(1+cosθ)/2 ・・・ 数式(3)。
【0106】
実際には、水、エチレングリコール、ホルムアミド、及びジヨードメタンの4種類の溶液に接触角(θ)と、表1に記載の既知の溶液の表面張力の各成分(γLd、γLp、γLh)を数式(3)に代入し、4つの連立方程式を解く。その結果、固体の表面自由エネルギー(γ)、すなわち樹脂層(X)表面の表面自由エネルギーが算出される。
【0107】
(5)樹脂層(X)の鉛筆硬度測定
「HEIDON−14DR」(新東科学株式会社製)を用いて、積層フィルムの樹脂層(X)側表面に、各硬度別の鉛筆が接触するように設置する。次にJIS「引っかき硬度(鉛筆法)」(K5600−5−4、2008年度版)に準じて、加重750g、速度30mm/分、移動距離10mmにて鉛筆を移動させる。積層フィルムの樹脂層(X)側表面に長さ3mm以上のキズ跡が生じるまで、順次鉛筆の硬度を上げて測定を実施する。積層フィルムの樹脂層(X)側表面にキズ跡が生じる手前の鉛筆の硬度を樹脂層(X)の鉛筆硬度とする。
【0108】
(6)傷つき抑制性評価(擦過試験評価)
積層フィルムの樹脂層(X)表面が上面になるように平面へ固定する。次に、ステンレス製金属棒(SUS304、長さ10cm、直径1cm)を用いて、樹脂層(X)表面に100gの一定加重を加えながら、回転させずに10cm/sの速度で距離10cmを一直線に擦りつける。擦りつけた部分を光学顕微鏡にて倍率100〜500倍で観察し、樹脂層(X)表面に発生した擦りキズの数をカウントし、以下のとおり評価する。短辺幅が20μm以上の擦りキズが5本以下を良好である「○」と評価する。
◎:樹脂層(X)表面に短辺幅が20μm以上の擦りキズが1本以下。
○:樹脂層(X)表面に短辺幅20μm以上の擦りキズが2本以上、5本以下。
△:樹脂層(X)表面に短辺幅20μm以上の擦りキズが6本以上、10本以下。
×:樹脂層(X)表面に短辺幅20μm以上の擦りキズが10本を越える。
【0109】
(7)オリゴマー析出抑制性評価(加熱処理評価)
積層フィルムサンプルを金属枠に固定し、150℃(風量ゲージ「7」)に設定したエスペック(株)製熱風オーブン「HIGH−TEMP−OVEN PHH−200」に、オーブン内の床に対して立てて入れ1時間加熱し、その後空冷で1時間放置した。積層フィルムサンプルの樹脂層(X)を有する面を外側にして、50mm×50mm×30mmの直方体アルミ製治具の50mm×50mm面にフィルムを貼り付け、端を治具に沿って折り曲げ固定した。この治具をフィルム面を下にして深さ5mmの位置までジメチルホルムアミド溶媒に3分間浸し、表面析出オリゴマーを抽出した。
【0110】
次に標準溶液として、ポリエチレンテレフタレートの環状オリゴマー(三量体純度89%)11.2mgを100mLメスフラスコに取り1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール/クロロホルム混合溶媒(=1/1)2mLに溶解後、クロロホルムで100mLに希釈したものを標準原液(三量体濃度100μg/mL)とした。この溶液をジメチルホルムアミドで順次希釈し、三量体濃度10μg/mL、1μg/mL、0.1μg/mLの標準溶液を調整した。
【0111】
上記表面オリゴマー抽出溶媒と標準溶液を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にて以下の条件で分析し、環状三量体量を測定し、オリゴマー量とし、以下のとおり評価した。
装置 : 島津製作所社製 LC−10A
カラム: Inertsil ODS−3
移動相: アセトニトリル/水=70/30
流速 : 1.5mL/分
検出器: UV242nm
注入量: 10μL
◎:オリゴマー量が0.4mg/m
2以下。
○:オリゴマー量が0.4mg/m
2を超えて0.7mg/m
2以下。
△:オリゴマー量が0.7mg/m
2を超えて1.0mg/m
2以下。
×:オリゴマー量が1.0mg/m
2を超える。
【0112】
(8)オリゴマー析出抑制性評価(Δヘイズ評価)
積層フィルムサンプルを金属枠に固定し、150℃(風量ゲージ「7」)に設定したエスペック(株)製熱風オーブン「HIGH−TEMP−OVEN PHH−200」に、オーブン内の床に対して立てて入れ1時間加熱し、その後空冷で1時間放置した。
【0113】
上記で得られたサンプルを一辺が5cm角の正方形状サンプルとし、3点(3個)準備する。次に日本電色工業(株)製濁度計「NDH5000」を用いて、JIS「透明材料のヘーズの求め方」(K7136 2000年版)に準ずる方式でヘイズ測定を実施する。得られた3点(3個)のヘイズ値を平均して、積層フィルムのヘイズ値(H(150))とする。
【0114】
次に(1)全光線透過率・ヘイズの測定で得られた常態(23℃、相対湿度50%)におけるヘイズ値(H(23))から下記式で、Δヘイズを求め、以下の通り判定した。
【0115】
Δヘイズ(%)=H(150)−H(23)
◎:Δヘイズが0.05%以下。
○:Δヘイズが0.05%を超えて0.1%以下。
△:Δヘイズが0.1%を超えて0.3%以下。
×:Δヘイズが0.3%を超える。
【0116】
(9)樹脂層(X)を形成する樹脂中の式(1)〜(3)の構造確認
樹脂層(X)を形成する樹脂中の式(1)〜(3)の構造の確認方法は、特に特定の手法に限定されないが、以下のような方法が例示できる。例えば、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)による式(1)〜(3)の構造に由来する重量ピークの有無を確認する。次に、フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)にて、式(1)〜(3)の構造が有する各原子間の結合に由来するピークの有無を確認する。さらに、プロトン核磁気共鳴分光(
1H−NMR)にて、式(1)〜(3)の構造が有する水素原子の位置に由来する化学シフトの位置と水素原子の個数に由来するプロトン吸収線面積を確認する。これらの結果を合わせて総合的に確認する。
【0117】
(9)離型性評価
積層フィルムの表面に、光学用樹脂として脂環式ポリオレフィン(JSR(株)アートンG)を濃度30重量%となるように溶解した塩化メチレン溶液を、乾燥後の光学樹脂厚みが100μmになるように、ダイコート方式で塗付後、オーブンに通し90℃の温度で10分間乾燥した後、そのシートから幅50mm、長さ200mmの短冊状のサンプルを切り出した。短冊状サンプルの長さ方向の一端の積層フィルムと光学樹脂を約30mm剥離して開き角180°で引張試験機にセットし、10mm/秒の速度で引っ張って連続的に剥離させ、剥離した光学樹脂フィルム及び積層フィルムの表面の剥離跡の有無を目視にて観察した。両者共に剥離跡が無いものを○、あるものを×とした。また、短冊状サンプルの長さ方向の一方を剥離する前に、自然に40mm以上剥離してしまう場合も密着性が弱すぎるとして×とした。
【0118】
(10)表面粗さ
3次元中心線平均粗さ(SRa)および3次元十点平均粗さ(SRz)は、光触針式3次元粗さ計ET−30HK(小坂研究所株式会社製)を用いて、測定長0.5mm、測定本数80本、カットオフ0.25mm、送りピッチ5μm、触針荷重10mg、スピード100μm/秒で測定した。
【実施例】
【0119】
(実施例1)
・水酸基とアクリロイル基を有する樹脂(A):
ステンレス反応容器に、メタクリル酸メチル(a)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(b)、ウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業(株)製、アートレジン(登録商標)UN−3320HA、アクリロイル基の数が6)(c)を表中の質量比で仕込み、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを(a)〜(c)の合計100質量部に対して2質量部を加えて撹拌し、混合液1を調製した。次に、攪拌機、環流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた反応装置を準備した。上記混合液1を60重量部と、イソプロピルアルコール200重量部、重合開始剤として過硫酸カリウム5重量部とを反応装置に仕込み、60℃に加熱し、混合液2を調製した。混合液2は60℃の加熱状態のまま20分間保持させた。次に、混合液1を40重量部とイソプロピルアルコール50重量部、過硫酸カリウム5重量部からなる混合液3を調製した。続いて、滴下ロートを用いて混合液3を2時間かけて混合液2へ滴下し、混合液4を調製した。その後、混合液4は60℃に加熱した状態のまま2時間保持した。得られた混合液4を50℃以下に冷却した後、攪拌機、減圧設備を備えた容器に移した。そこに、濃度25質量%のアンモニア水60重量部、及び純水900重量部を加え、60℃に加熱しながら減圧下にてイソプロピルアルコール及び未反応モノマーを回収し、純水に分散された樹脂(A)を得た。
【0120】
・メチロール基及び/又はアルコキシメチル基を有するメラミン化合物(B):
メチロール化メラミン((株)三和ケミカル製、ニカラック(登録商標)MX−035)を用いた。
【0121】
・樹脂組成物、及び樹脂組成物を含む塗液:
樹脂(A)、メラミン化合物(B)を質量比で、(A)/(B)=100/50となるように混合した。そこに、樹脂組成物のポリエステルフィルム上への塗布性を向上させるために、樹脂組成物にフッ素系界面活性剤(互応化学(株)製 プラスコート(登録商標)RY−2)を、樹脂組成物を含む塗液に対する含有量が0.06質量部になるよう添加した。
【0122】
・ポリエステルフィルム:
2種類の粒子(1次粒径0.3μmのシリカ粒子を4重量%、1次粒径0.8μmの炭酸カルシウム粒子を2重量%)を含有したPETペレット(極限粘度0.64dl/g)を充分に真空乾燥した後、押し出し機に供給し285℃で溶融した。次に、溶融したPETをT字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを90℃に加熱して長手方向に3.1倍延伸し、一軸延伸フィルム(Bフィルム)とした。
【0123】
・積層フィルム:
一軸延伸フィルムの片面に、樹脂組成物をバーコートを用いて塗布厚み約6μmで塗布した。続いて、樹脂組成物を塗布した一軸延伸フィルムの幅方向の両端部をクリップで把持して予熱ゾーンに導いた。予熱ゾーンの雰囲気温度を90℃〜100℃にし、樹脂組成物を含む塗液の溶媒を乾燥させた。引き続き、連続的に100℃の延伸ゾーンで幅方向に3.7倍延伸し、続いて235℃の熱処理ゾーンで20秒間熱処理を施し、樹脂(α)を形成せしめ、ポリエステルフィルムの結晶配向の完了した積層フィルムを得た。得られた積層フィルムにおいてPETフィルムの厚みは100μm、樹脂層(X)の厚みは約250nmであった。
【0124】
積層フィルムの樹脂層(X)を形成する樹脂については、ガスクロマトグラフ質量分析(GC−MS)により式(1)〜(3)の構造に由来する重量ピークの存在を確認した。次に、フーリエ変換型赤外分光(FT−IR)にて、式(1)〜(3)の構造が有する各原子間の結合に由来するピークの存在を確認した。最後に、プロトン核磁気共鳴分光(
1H−NMR)にて、式(1)〜(3)の構造が有する水素原子の位置に由来する化学シフトの位置とプロトン吸収線面積から水素原子の数を確認した。これらの結果を合わせて、樹脂層(X)中に式(1)〜(3)の構造を有していることを確認した。
【0125】
得られた積層フィルムの特性等を表に示す。傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0126】
(実施例2)
ポリエステルフィルムに含有する粒子を、1次粒径0.3μmのシリカ粒子を5.0重量%、1次粒径0.8μmの炭酸カルシウム粒子を2.5重量%に変更した以外は実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0127】
(実施例3)
ポリエステルフィルムに含有する粒子を1次粒径0.3μmのシリカ粒子を3.0重量%に変更した以外は実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0128】
(実施例4、5、6)
一軸延伸フィルムに対するバーコートによる樹脂組成物の塗布厚みを変更し、樹脂層(X)厚みを表に記載の厚みに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。樹脂層(X)の厚みを増加させたことにより、鉛筆硬度は向上したと考えられる。
【0129】
(実施例7、8)
樹脂(A)の質量比を表に記載の質量比に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較してアクリレート構造を有する樹脂(A)の組成を変更した実施例7、8では、鉛筆硬度はF以上、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0130】
(実施例9、10)
樹脂(A)、メラミン化合物(B)の質量比を表に記載した質量比に変更した以外は、実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して、メラミン化合物(B)の質量比を変更した実施例9、10では、鉛筆硬度はF以上、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0131】
(実施例11、12)
樹脂組成物中に、樹脂(A)、メラミン化合物(B)以外の成分として、2−ビニル−2−オキサゾリン(C)を樹脂(A)の質量部100部に対して、表に記載した質量部を添加した以外は、実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して、樹脂組成物中の樹脂(A)、及びメラミン化合物(B)、オキサゾリン基を有する化合物(C)の質量比を変更した実施例11、12では、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0132】
(実施例13)
樹脂(A)中の、化合物(c)をウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業(株)製、アートレジン(登録商標)UN−3320HA、アクリロイル基の数が6)を5質量部と、N−メチロールアクリルアミドを5質量部から得られた化合物(ウレタン構造と多官能アクリロイル基を有する化合物)に変更した以外は実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して、化合物(c)の組成を変更した実施例13では、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0133】
(実施例14)
樹脂(A)中の、化合物(c)をウレタンアクリレートオリゴマー(東洋ケミカルズ(株)製、Miramer(登録商標)HR3200、アクリロイル基の数が4)(ウレタン構造と多官能アクリロイル基を有する化合物)に変更した以外は実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して、化合物(c)の組成を変更した実施例14では、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0134】
(実施例15)
樹脂(A)中の、化合物(c)をウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業(株)製、アートレジン(登録商標)UN−3320HS、アクリロイル基の数が15)(ウレタン構造と多官能アクリロイル基を有する化合物)に変更した以外は実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して、化合物(c)の組成を変更した実施例15では、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0135】
(実施例16)
樹脂(A)、メラミン化合物(B)の質量比を表に記載した質量比に変更した以外は、実施例15と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例14と比較して、メラミン化合物(B)の質量比を変更した実施例16では、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0136】
(実施例17)
樹脂(A)中の、水酸基を有するエチレン系不飽和化合物(b)をアクリル酸2-ヒドロキシエチルに変更した以外は実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して、水酸基を有するエチレン系不飽和化合物(b)を変更した実施例17では、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0137】
(実施例18)
樹脂(A)の質量比を表に記載の質量比に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。積層フィルムの樹脂層(X)を構成する樹脂について、GC−MS、FT−IR、
1H−NMRにて解析した結果、式(1)、(2)の構造を有していることは確認されたが、式(3)の構造は確認されなかった。樹脂(A)中に式(3)で示される化学構造(ウレタン構造)と多官能アクリロイル基を有する化合物(c)がない実施例18では、樹脂層(X)にクラックが発生したため、実施例1と比較して、ヘイズが上昇したが、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0138】
(実施例19)
ポリエステルフィルムの両面に樹脂組成物を塗布した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して、樹脂組成物を両面塗布した実施例19では、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。また、裏面側の150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量も1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0139】
(実施例20)
ポリエステルフィルムに粒子を実質的に含有しないようにし、替わりに、樹脂組成物を含む塗液に無機粒子として数平均粒子径300nmのシリカ粒子((株)日本触媒社製 シーホスター(登録商標)KE−W30)を樹脂(A)100質量部に対して5質量部添加した以外は実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して、粒子の添加方法を変更した実施例20では、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0140】
(実施例21)
2種類の粒子(1次粒径0.3μmのシリカ粒子を4重量%、1次粒径0.8μmの炭酸カルシウム粒子を2重量%)を含有したPETペレット(極限粘度0.64dl/g)と、実質的に粒子を含有しないようにしたPETペレット(極限粘度0.64dl/g)を準備し、それぞれ別々に真空中で乾燥する。乾燥後の原料をそれぞれ別々の押し出し機に投入して285℃で溶融し、共押出で2層構成に積層する。2層積層した溶融PETをT字型口金よりシート状に押し出し、静電印加キャスト法を用いて表面温度25℃の鏡面キャスティングドラムに巻き付けて冷却固化せしめた。この未延伸フィルムを90℃に加熱して長手方向に3.1倍延伸し、一軸延伸フィルム(Bフィルム)とした。この一軸延伸フィルムの粗面側(粒子を含んだPETが積層された面)に樹脂組成物を塗布した。
【0141】
その後の工程は、実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して、基材に粗滑2層構成のポリエステルフィルムを用い、その粗面側に樹脂組成物を塗布した実施例21では、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0142】
(実施例22)
2層構成のポリエステルフィルムの両面に樹脂組成物を塗布した以外は、実施例21と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例20と比較して、樹脂組成物を両面塗布した実施例22では、傷つき抑制性が「○」、離型性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。また、裏面側の150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量も1.0mg/m
2以下と良好な結果であった。
【0143】
(比較例1)
樹脂層(X)厚みを表に記載した厚みに変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して樹脂層(X)の厚みを減少させたところ、離型性は良好だったが、鉛筆硬度、傷つき抑制性、及び150℃1時間加熱処理後のオリゴマー析出量ともに不良であった。
【0144】
(比較例2〜4)
樹脂(A)の質量比を表に記載の質量比に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して、アクリレート構造を有する樹脂(A)の組成を変更した比較例2〜4ではいずれも鉛筆硬度、傷つき抑制性が不十分となった。また、離型性や150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が不良になる比較例も見られた。
【0145】
(比較例5)
樹脂(A)の質量比を表に記載の質量比に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。樹脂(A)中に水酸基を有するエチレン系不飽和化合物(b)がない比較例5では、樹脂組成物の水系溶媒への分散が不可能であったため、別途アニオン系界面活性剤にて強制分散させたものを用いた。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。比較例5では、鉛筆硬度、傷つき抑制性、離型性、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量ともに不良であった。積層フィルムの樹脂層(X)について、GC−MS、FT−IR、
1H−NMRにて解析した結果、式(2)、(3)の構造を有していることは確認されたが、式(1)の構造は確認されなかった。
【0146】
(比較例6)
樹脂組成物中に樹脂(A)、メラミン化合物(B)以外の成分として、オキサゾリン化合物(C)((株)日本触媒製“エポクロス”(登録商標)WS−500)を樹脂(A)の質量部100部に対して、表に記載した質量部を添加した以外は、実施例1と同様の方法で積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例と比較して樹脂組成物中に樹脂(A)、メラミン化合物(B)の含有量が低下した比較例6では、鉛筆硬度、傷つき抑制性、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量ともに不良であった。
【0147】
(比較例7)
樹脂(A)の質量比を表に記載の質量比に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して樹脂組成物中の樹脂(A)、及びメラミン化合物(B)の質量比を変更した比較例7では、鉛筆硬度、傷つき抑制性、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量ともに不良であった。
【0148】
(比較例8)
樹脂(A)の質量比を表に記載の質量比に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。実施例1と比較して樹脂組成物中の樹脂(A)、及びメラミン化合物(B)の質量比を変更した比較例8では離型性が不良であった。
【0149】
(比較例9)
ポリエステルフィルムに含有する粒子を、1次粒径0.3μmのシリカ粒子を6.5重量%、1次粒径0.8μmの炭酸カルシウム粒子を2.5重量%に変更した以外は実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。傷つき抑制性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量も良好であったが、離型性が不良となった。
【0150】
(比較例10)
ポリエステルフィルムに含有する粒子を、1次粒径0.3μmのシリカ粒子を3.5重量%、1次粒径0.8μmの炭酸カルシウム粒子を2.5重量%に変更した以外は実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。傷つき抑制性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量も良好であったが、離型性が軽すぎて不良となった。
【0151】
(比較例11)
ポリエステルフィルムに含有する粒子を、1次粒径0.3μmのシリカ粒子を5.0重量%、1次粒径0.8μmの炭酸カルシウム粒子を4.0重量%に変更した以外は実施例1と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。傷つき抑制性が「○」、及び150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量も良好であったが、離型性が不良となった。
【0152】
(比較例12)
樹脂組成物を含む塗液への無機粒子添加量を樹脂(A)100質量部に対して3質量部に変更した以外は実施例18と同様の方法で、積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの特性等を表に示す。傷つき抑制性が「○」、150℃1時間加熱処理後の析出オリゴマー量が1.0mg/m
2以下と良好であったが、離型性が軽すぎて「×」となった。
【0153】
【表1】
【0154】
【表2】
【0155】
【表3】
【0156】
【表4】
【0157】
【表5】
【0158】
なお、樹脂組成物を片面に塗布して得られた実施例、比較例においては、樹脂組成物を塗布した面を用いて測定したSRa、SRz、オリゴマー析出量の値を、SRa、SRz、オリゴマ析出量をとし、塗布した面と反対側の面を用いて測定したSRa、SRz、オリゴマ析出量の値を、裏面SRa、裏面SRz、裏面オリゴマ析出量として測定した。実施例18では、ある一方の面を用いて測定したSRa、SRz、オリゴマー析出量の値を、SRa、SRz、オリゴマ析出量をとし、その反対側の面を用いて測定したSRa、SRz、オリゴマ析出量の値を、裏面SRa、裏面SRz、裏面オリゴマ析出量として測定した。実施例21では、粒子が含有しているPET層に樹脂組成物を塗布した面を用いて測定したSRa、SRz、オリゴマー析出量の値を、SRa、SRz、オリゴマ析出量をとし、塗布した面と反対側の面を用いて測定したSRa、SRz、オリゴマ析出量の値を、裏面SRa、裏面SRz、裏面オリゴマ析出量として測定した。