(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、優れた圧電特性を発現するとともに、変位量の向上を図ることが可能な圧電素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、優れた圧電特性を発現するとともに、変位量の向上を図り得る圧電素子について、調査研究を行った。その結果、本発明者らは、以下の事実を見出した。
【0006】
圧電セラミックの各結晶粒は、形状の変化を伴い分極される。圧電基板上には、電極が配置されている。このため、圧電基板における電極との界面及び界面近傍に位置する結晶粒(以下、単に、「界面近傍に位置する結晶粒」と称する)は、電極により、形状の変化が抑制されることとなり、その分極が阻害されてしまう懼れがある。分極が阻害された結晶粒が存在していると、圧電素子(圧電基板)では、発現する圧電特性の低下は否めない。すなわち、界面近傍に位置する結晶粒の分極の阻害が軽減されれば、圧電素子は、優れた圧電特性を発現することとなる。
【0007】
一対の電極により圧電基板に電界を印加し、圧電素子を駆動する際に、圧電基板は変位しようとするものの、電極自体は変位しようとはしない。このため電極は、圧電基板の変位を阻害するように作用し、圧電素子の変位量が小さくなってしまう懼れがある。すなわち、圧電基板の変位の阻害が軽減されれば、圧電素子は、変位量の向上が図られることとなる。
【0008】
そして、本発明者らは、更なる調査研究を行い、以下の事実を見出し、本発明を想到するに至った。
【0009】
圧電基板の主面が梨地面であり、梨地面に沿って梨地面上に形成されている電極は、結晶粒が分極される際に、界面近傍に位置する結晶粒の変形の阻害を軽減する。圧電素子が駆動される際に、梨地面上に形成された上記電極は、圧電基板の変位の阻害を軽減する。
【0010】
そこで、本発明に係る圧電素子は、互いに対向する一対の主面を有し且つ圧電セラミックからなる圧電基板と、一対の主面上に配置されている一対の電極と、を備え、一対の主面は、自然面且つ梨地面であり、一対の電極は、自然面且つ梨地面である主面に沿って主面上に形成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る圧電素子では、各電極は、自然面且つ梨地面である主面に沿って主面上に形成されているので、電極自体が、梨地面に沿った山谷を有する形状を呈する。このため、各電極は、主面に平行な方向での電極自身の変形を許容しやすく、各電極は、界面近傍に位置する結晶粒の変形の阻害を軽減するとともに、圧電基板の変位の阻害を軽減する。この結果、圧電特性が優れるとともに、変位量の向上を図ることができる。本発明では、一対の主面が自然面であることから、圧電基板の主面を構成している結晶粒が脱落(剥離)し難い。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた圧電特性を発現するとともに、変位量の向上を図ることが可能な圧電素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には、同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0015】
まず、
図1を参照して、本実施形態に係る圧電素子1の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る圧電素子の断面構成を模式的に示す断面図及びその一部拡大図である。
【0016】
圧電素子1は、
図1に示されるように、圧電基板3と、一対の電極5,6と、を備えている。圧電素子1は、たとえば、磁気ディスクを備えたディスク装置などに適用される。すなわち、デュアル・アクチュエータ方式のディスク装置において、ボイスコイルモータ以外の第二のアクチュエータとして、圧電素子1が用いられる。圧電素子1は、矩形板状を呈している。圧電素子1の厚さは、たとえば、45μm〜200μmに設定される。
【0017】
圧電基板3は、互いに対向する一対の主面3a,3bと、一対の主面3a,3bを連結するように一対の主面3a,3bの対向方向に延びる側面3cと、を有している。本実施形態では、圧電基板3は、矩形板状を呈している。したがって、圧電基板3は、4つの側面3cを有している。圧電基板3の厚さは、たとえば、40μm〜200μmに設定される。
【0018】
一対の主面3a,3bは、
図1に示されるような山谷を有する梨地面である。一対の主面3a,3bは、自然面でもある。自然面は、ブラスト処理及び研磨処理などの表面処理(機械的な加工処理)が施されていない面である。すなわち、自然面は、焼成により成長した結晶粒の形状に起因した形状を呈する面である。自然面は、焼成により成長した結晶粒により構成されることから、結晶粒が密集した比較的緻密な面でもある。このように、一対の主面3a,3bは、自然面として、山谷を有する形状を呈している。
【0019】
圧電基板3は、圧電セラミックからなる。圧電セラミックとしては、PZT[Pb(Zr,Ti)O
3]、PT[PbTiO
3]、PLZT[(Pb,La)(Zr,Ti)O
3]、又はチタン酸バリウム[BaTiO
3]などが挙げられる。
【0020】
一対の電極5,6は、一対の主面3a,3b上に配置されている。一対の電極5,6は、梨地面である一対の主面3a,3bに沿って一対の主面3a,3b上に形成されているので、梨地面に沿った山谷を有する形状を呈する。すなわち、各電極5,6の表面も、対応する主面3a,3bの形状が反映された、梨地面である。
【0021】
一対の電極5,6は、たとえば、スパッタリング法又は蒸着法などにより一対の主面3a,3b上に形成されている。一対の電極5,6は、一対の主面3a,3b全体を覆っている。側面3cは、一対の電極5,6で覆われていない。一対の電極5,6は、圧電基板3に電界を印加するための電極として機能する。一対の電極5,6は、たとえば、Ni−Cr合金、Au、Ni、Cu、又はPtなどからなる。電極5,6は、複数の電極層からなっていてもよい。この場合、Ni−Cr合金からなる電極層上に、Auからなる電極層が積層されていてもよい。一対の電極5,6の厚さは、たとえば、100nm〜400nmに設定される。
【0022】
圧電基板3の側面3cは、樹脂(不図示)で覆われていてもよい。この場合、樹脂は、側面3c全体を覆うように配置されていてもよい。樹脂の材料には、エポキシ樹脂などが用いられる。
【0023】
次に、上述した圧電素子1の製造過程について説明する。
【0024】
まず、圧電基板3を構成する圧電セラミック粉(原料粒子)にバインダや有機溶剤などの成分を加え、セラミックペーストを得る。次に、得られたセラミックペーストを用いて、一対の主面が梨地面とされたグリーンシートを形成する。グリーンシートの厚みは、たとえば、15μm〜100μmに設定される。
【0025】
一対の主面が梨地面とされたグリーンシートは、
図2に示された過程により形成することができる。
図2は、グリーンシートの製造過程の一例を説明するための図である。
【0026】
図2の(a)に示されるように、表面が梨地面とされた基材(たとえば、PETフィルムなど)BM上で、セラミックペーストをシート状に成形し、一方の主面のみが梨地面とされた複数のグリーンシートG1を得る。セラミックペーストの成形は、たとえば、ドクターブレード法を用いることができる。ここでは、一方の主面のみが梨地面とされたグリーンシートを切断して、複数のグリーンシートG1を得てもよい。
【0027】
次に、
図2の(b)に示されるように、一方の主面のみが梨地面とされた2枚のグリーンシートG1を用意し、他方の主面同士が当接するように、2枚のグリーンシートG1を重ね合わせる。すなわち、2枚のグリーンシートG1は、梨地面とされた主面の裏面同士が当接するように重ね合わさせる。これにより、
図2の(c)に示されるように、一対の主面が梨地面とされたグリーンシートG2が得られる。グリーンシートG2は、2枚のグリーンシートG1からなる積層体として構成されている。
【0028】
一対の主面が梨地面とされたグリーンシートは、
図3に示された過程により形成してもよい。
図3は、グリーンシートの製造過程の一例を説明するための図である。
【0029】
図3の(a)及び(b)に示されるように、得られたセラミックペーストからグリーンシートG3を形成した後、プレス加工により、グリーンシートG3の一対の主面を梨地状に成形し、一対の主面が梨地面とされたグリーンシートG4を得てもよい。ここでは、成型面が梨地面とされた一対の金型Dを用い、一対の金型DでグリーンシートG3をプレスすることにより、一対の主面が梨地面とされたグリーンシートG4を得てもよい。また、
図3の(c)に示されるように、押し出し成型機EMを用い、一対の主面が梨地面とされたグリーンシートG4を形成してもよい。グリーンシートG4は、いずれの場合も、1枚のグリーンシートからなる。
【0030】
次に、一対の主面が梨地面とされたグリーンシートを所定の形状(たとえば、正方形状など)に成形した後、脱バインダ処理を施す。脱バインダ処理は、たとえば、成形されたグリーンシートを安定化ジルコニアで構成されたセッターに載置した状態で施される。続いて、脱バインダ処理が施されたグリーンシートを焼成し、圧電基板母材を得る。焼成は、たとえば、グリーンシートを載置した状態でセッターをマグネシア質の匣鉢に入れ、1000〜1200℃程度の温度で2〜4時間程度行われる。これにより、一対の主面が梨地面とされた圧電基板母材が得られる。
【0031】
図4を参照し、圧電基板母材(圧電基板)の主面(表面)の形状を説明する。
図4は、圧電基板母材(圧電基板)の主面(表面)の形状を説明するための模式図である。
図4中では、(a)は、主面が梨地面でなく且つ自然面である圧電基板母材(圧電基板)の断面構成を示している。同じく(b)は、主面が梨地面且つ自然面である圧電基板母材(圧電基板3)の断面構成を示している。同じく(c)は、主面が研磨面である圧電基板母材(圧電基板)の断面構成を示している。
【0032】
図4中の(a)に示されるように、梨地面でなく且つ自然面である主面は、焼成により成長した結晶粒の形状に起因して、山谷を有する形状を呈する。
図4中の(b)に示されるように、梨地面且つ自然面である主面は、自然面の山谷が強調された形状を呈する。
図4中の(c)に示されるように、研磨処理された研磨面は、自然面の山の部分が削り取られて、山谷が均されたような形状を呈する。
【0033】
得られた圧電基板母材の各主面に対して、それぞれ電極膜を形成する。各電極膜は、たとえば、Ni−Cr合金、Au、Ni、Cu、又はPtなどからなる。各電極膜は、スパッタリング法又は蒸着法などにより圧電基板母材に形成される。各電極膜は、圧電基板母材の自然面且つ梨地面である各主面に沿って各主面上に形成され、梨地面に沿った山谷を有する形状を呈する。圧電基板母材は、個片化された状態の複数の圧電基板3が繋がった状態である。各電極膜は、個片化された状態の複数の各電極5,6が繋がった状態である。
【0034】
以上の過程により、圧電基板母材及び電極膜を備える圧電素子基板が得られる。次に、圧電素子基板に分極処理を行う。分極処理では、たとえば、100℃の温度下で、電界強度2kV/mmの電圧を5分間印加する。
【0035】
次に、分極処理後の圧電素子基板をダイサーなどの切断機で製品形状に加工する。これにより、圧電基板3及び各電極5,6を備え且つ個片化された圧電素子1が得られる。
【0036】
次に、
図5を参照して、上述した圧電素子1の作用及び効果を対比例と比較して説明する。ここでは、対比例を、圧電基板の一対の主面が梨地面でなく且つ自然面である圧電素子としている。また、圧電素子基板ではなく、圧電素子に分極処理が施されるとして説明する。
図5は、本実施形態に係る圧電素子の分極状態を対比例と比較して説明する図である。
図5中、(a)は、
図1に示された圧電素子の分極処理前における自発分極の状態を説明する図である。同じく、(b)は、対比例における分極状態を説明する図である。同じく、(c)は、
図1に示された圧電素子の分極処理後における分極状態を説明する図である。
図5では、図面を簡略化するため、圧電基板の各主面は平面として示されている。
【0037】
図5中の(a)に示されるように、圧電基板3は、圧電セラミックの多結晶体であり、複数の結晶粒8を含んでいる。分極処理前の圧電素子1は、各結晶粒8の自発分極の方向がランダムである。すなわち、結晶粒8ごとに自発分極の方向が、自然発生的にあらゆる方向を向いて揃っていないため、この状態で電圧を印加しても、各結晶粒8は自身の自発分極の向きに変位しようとして変位が相互に打ち消し合い、全体として変位が生じ難い。分極処理前の圧電素子1は、厚さD
0、厚さ方向に直交する方向での長辺の長さL
0である。
【0038】
図5中の(b)に示されるように、対比例の圧電素子11は、互いに対向する一対の主面13a,13b及び4つの側面13cを有し且つ圧電セラミックからなる圧電基板13と、各主面13a,13b上に配置されている一対の電極15,16と、を備えている。各主面13a,13bは、自然面である。一対の電極15,16は、自然面である各主面13a,13bに沿って各主面13a,13b上に形成されている。圧電基板13は、圧電セラミックの多結晶体であり、複数の結晶粒18を含んでいる。圧電素子11は、圧電基板13の各主面13a,13bが梨地面ではなく、自然面である点で、本実施形態の圧電素子1と主に相違し、それ以外の点で共通する。
【0039】
圧電素子11では、図示しないが、分極処理前は、
図5中の(a)に示された圧電素子1と同様に、圧電セラミックの各結晶粒18の自発分極の方向がランダムで、全体として変位が生じ難い状態である。分極処理前の圧電素子11は、厚さD
0、長辺の長さL
0である。分極処理は、一対の電極15,16間に電圧を印加し、圧電基板13に電界を印加することにより行われる。その結果、各結晶粒18の変形を伴いながら、
図5中の(b)に示されるような分極状態が得られる。分極処理後の圧電素子11は、厚さD
1(>D
0)、厚さ方向に直交する方向での長さL
1(<L
0)である。
【0040】
分極処理後の圧電素子11では、各結晶粒18の自発分極の方向が、各主面13a,13bの対向方向に平行な方向に概ね揃っている。しかしながら、界面近傍に位置する結晶粒18は、各電極15,16により形状の変形が抑制されることとなり、分極が阻害される。したがって、界面近傍に位置する結晶粒18では、他の各結晶粒18に比べて、自発分極の方向が揃い難い。このように分極が阻害され、自発分極の方向が揃っていない結晶粒18が存在していると、圧電素子11(圧電基板13)では、発現する圧電特性の低下は否めない。
【0041】
一対の電極15,16間に電圧を印加し、圧電基板13に微少電界を印加することにより、圧電素子11を駆動する際に、圧電基板13は変位しようとするものの、電極15,16自体は変位しようとはしない。このため、電極15,16は、圧電基板13の変位を阻害するように作用し、圧電素子1の変位量が小さくなってしまう懼れがある。
【0042】
これに対し、
図5中の(c)に示されるように、分極処理後の圧電素子1では、各結晶粒8の自発分極の方向が、界面近傍に位置する結晶粒8も含めて、各主面3a,3bの対向方向に平行な方向に概ね揃っている。これは、各電極5,6が、梨地面である各主面3a,3bに沿って各主面3a,3b上に形成されているためである。各電極5,6は、各主面3a,3bに平行な方向での各電極5,6自身の変形を許容しやすく、圧電素子1では、界面近傍に位置する結晶粒8の変形の阻害が軽減される。したがって、界面近傍に位置する結晶粒8においても、自発分極の方向が揃いやすい。分極処理後の圧電素子1は、厚さD
2(>D
1>D
0)、厚さ方向に直交する方向での長さL
2(<L
1<L
0)である。
【0043】
以上のように、本実施形態においては、各電極5,6は、自然面且つ梨地面である主面に沿って主面3a,3b上に形成されているので、電極5,6自体が、梨地面に沿った山谷を有する形状を呈する。このため、各電極5,6は、主面に平行な方向での電極5,6自身の変形を許容しやすく、各電極5,6は、界面近傍に位置する結晶粒8の変形の阻害を軽減するとともに、圧電基板3の変位の阻害を軽減する。この結果、圧電素子1は、圧電特性が優れるとともに、変位量の向上が図られている。
【0044】
本実施形態では、一対の主面3a,3bが自然面であることから、圧電基板3の主面を構成している結晶粒が脱落(剥離)し難い。このため、結晶粒の脱落に起因する各電極5,6の圧電基板3からの剥離を防ぐことができる。
【0045】
自然面は、一般に、密集した結晶粒の表面で構成される緻密な面である。このため、圧電素子基板を切断により個片化する際に、圧電基板母材の各主面が梨地面でなく且つ自然面である場合、切断の際の衝撃などにより、圧電基板母材の各主面及び当該各主面近傍に位置する結晶粒が粒内で破断される懼れがある。この場合、結晶粒が破断面で割れてしまい、結晶粒の破片が圧電基板母材から脱落することがある。個片化の際に割れない場合でも、圧電素子が駆動される際に、結晶粒の変形により、結晶粒が破断面で割れてしまい、電極を伴って、圧電基板から結晶粒の破片が脱落することもある。
【0046】
圧電基板母材の各主面が、梨地面且つ自然面であり、山谷を有する形状を呈しているため、圧電素子基板を切断により個片化する際に、切断の際の衝撃などにより、圧電基板母材の各主面及び当該各主面近傍に位置する結晶粒が粒内で破断される場合でも、粒内で破断される結晶粒数が減少する。これにより、結晶粒の破片の脱落が、個片化の際及び駆動の際のいずれにおいても抑制される。
【0047】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形し、又は他のものに適用したものであってもよい。
【0048】
圧電素子1(圧電基板3)は、矩形板状を呈しているとしたが、これに限られない。円板状や、円柱状、直方体状であってもよい。
【0049】
圧電基板3の厚さは、特に制限されない。圧電基板3の厚さが薄いほど、圧電基板3における界面近傍に位置する結晶粒8の占める割合が高まる。したがって、厚さが薄い圧電基板3を備える圧電素子1ほど、優れた圧電特性を発現するとともに、変位量の向上を図ることができるという効果が顕著となりやすい。圧電基板3の厚さが0.2mm以下のときに上記効果がより顕著となる。
【0050】
一対の主面が梨地面とされたグリーンシートは、3枚以上のグリーンシートが積層された積層体として構成されていてもよい。