特許第6265025号(P6265025)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265025
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】エストロゲン様作用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/736 20060101AFI20180115BHJP
   A61P 5/30 20060101ALI20180115BHJP
   A61P 5/24 20060101ALI20180115BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20180115BHJP
   A61P 15/12 20060101ALI20180115BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20180115BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20180115BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20180115BHJP
   A23L 33/105 20160101ALN20180115BHJP
   A61K 127/00 20060101ALN20180115BHJP
   A61K 133/00 20060101ALN20180115BHJP
【FI】
   A61K36/736
   A61P5/30
   A61P5/24
   A61P15/00
   A61P15/12
   A61P19/10
   A61K8/9789
   A61Q19/00
   !A23L33/105
   A61K127:00
   A61K133:00
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-87915(P2014-87915)
(22)【出願日】2014年4月22日
(65)【公開番号】特開2015-205840(P2015-205840A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2016年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124349
【弁理士】
【氏名又は名称】米田 圭啓
(72)【発明者】
【氏名】飯盛 幸二
(72)【発明者】
【氏名】林 伸二
(72)【発明者】
【氏名】河原塚 悠
【審査官】 鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−195504(JP,A)
【文献】 再公表特許第2011/099570(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00−36/9068
A61K 8/00−8/99
A61P 5/24
A61P 5/30
A61P 15/00
A61P 15/12
A61P 19/10
A61Q 19/00
A23L 33/105
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽光桜(Cerasus ‘Yoko’)の葉または花の抽出物を含有するエストロゲン様作用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物抽出物からなる新規なエストロゲン様作用剤に関する。更に詳しくは、陽光桜(Cerasus ‘Yoko’)の葉または花の抽出物を含有する高活性なエストロゲン様作用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エストロゲンは、卵胞ホルモンまたは女性ホルモンとも呼ばれ、発情ホルモンに特有な生物学的作用をもつ天然物質あるいは合成物質の総称を表わす用語として用いられている。一般には、エストロン、エストラジオール、エストリオールが知られており、特にエストラジオールは哺乳類に普通にみられる卵胞ホルモンのうち最も有効なものであり、卵巣、胎盤、睾丸、副腎皮質などで生成される。
【0003】
エストロゲンは、ステロイドホルモンの一種であり、その受容体を介して生理作用を示し、その受容体は生殖器や乳腺のみならず全身の細胞に存在し、その働きは多岐に渡っている。エストロゲンの作用については、一般的には、乳腺細胞の増殖促進、卵巣排卵制御、脂質代謝制御、インスリン作用、血液凝固作用、中枢神経(意識)女性化、LDL(low density lipoprotein )の減少とVLDL(very low density lipoprotein)・HDL(high density lipoprotein)の増加による動脈硬化抑制などが知られている。
【0004】
一方で、加齢や閉経などによってエストロゲンが不足すると、月経異常、更年期障害、骨粗鬆症、肌の弾力性の低下などを引き起こすと言われており、それらを治療する方法としては、ビタミン剤などの投与、エストロゲン投与によるホルモン療法などが知られている。
しかしながら、エストロゲン投与によるホルモン療法には、副作用があることからその投与の調整が非常に難しいという問題があり、また医師の管理化で行わなければならないという問題もあった。
【0005】
そこで近年、特許文献1および2に開示されているように、ホルモンであるエストロゲンよりも安全なエストロゲン様作用を有する植物の抽出物を用いて女性ホルモンバランスを調整することにより、それぞれ、骨粗鬆症、婦人科疾患などの予防・治療、皮膚の老化防止を試みる提案がなされている。
しかしながら、これら特許文献に記載の抽出物においては、安定して十分な効果を得られるものが無いのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−158574号公報
【特許文献2】特開2007−191452号公報
【特許文献3】特開2004−67590号公報
【特許文献4】特開2011−225505号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】薬学雑誌, 130, 989-997, 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような事情に鑑み、従来のものに比べ高活性なエストロゲン様作用剤を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、様々な植物抽出物についてエストロゲン様作用を調べた結果、陽光桜の葉または花抽出物がエストロゲン様作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明は、陽光桜(Cerasus ‘Yoko’)の葉または花の抽出物を含有するエストロゲン様作用剤である。
【0010】
なお、桜に関しては、ソメイヨシノ(Prunus x yedoensis Matsum )樹皮の抽出物およびヤマザクラ(Prunus jamasakura Siebold ex Koidzumi )樹皮の抽出物が女性ホルモン産生促進作用を有することが報告されている(特許文献3)。しかしながら、これら抽出物は、本発明で用いられる陽光桜(Cerasus ‘Yoko’)の葉または花の抽出物と作用の種類、桜の品種、抽出部位の点で異なる。
また、桜の樹皮の抽出物がエストロゲン受容体β(ERβ)結合能(エストロゲン様作用)を有することが報告されている(特許文献4および非特許文献1)。しかしながら、これら抽出物は、本発明で用いられる陽光桜(Cerasus ‘Yoko’)の葉または花の抽出物とは、抽出部位の点で異なる。
すなわち、本発明で用いられる陽光桜(Cerasus ‘Yoko’)の葉または花の抽出物については、エストロゲン様作用に関する報告例がないことから、かかる抽出物がエストロゲン様作用を有することを見出して完成された本発明のエストロゲン様作用剤は新規性かつ進歩性を具備するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエストロゲン様作用剤は、従来のエストロゲン様作用剤に比べ高活性なエストロゲン様作用を有する。本発明のエストロゲン様作用剤を用いることによって、月経異常、更年期障害、骨粗鬆症、肌の弾力性の低下などのエストロゲンの不足に起因する症状を防止または改善することを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明のエストロゲン様作用剤は、陽光桜(Cerasus ‘Yoko’)の葉または花の抽出物を含有する。
【0013】
〔陽光桜の葉または花抽出物〕
本発明に用いられる陽光桜は、バラ科サクラ属に属する落葉性の植物であり、学名はCerasus ‘Yoko’と呼ばれている。カンヒザクラ(Prunus campanulata)に天城吉野(Prunus x yedoensis‘Amagi-yoshino ’)を交配した栽培品種(1981年に種苗法による品種登録が行われている。)として作られ、「天地に恵みを与える太陽」という意味を持つ「陽光」と名づけられた。大輪で紅色の花が咲くので人目をよく引き、病気に強く、厳しい気候にも耐えうる特長を持ち、平和の象徴として国内だけでなく世界各地へ寄付されている桜として知られている。花は一重咲きで、その花径は3. 8〜4. 6cmであり、花弁数は5枚である。また、萼片に鋸歯はなく、萼筒は長鐘形で小花柄には毛が多い。葉は楕円形で、互い違いに生え(互生)、葉の先は尾状に尖り、縁には鋸歯がある。
【0014】
本発明に用いられる陽光桜の葉または花の抽出物は、陽光桜の葉もしくは花、または陽光桜の葉と花の混合物を、そのままもしくは乾燥させた後、各種溶媒にて抽出したものであり、抽出液そのもの、またはその濃縮物をいう。
抽出に用いられる溶媒としては、炭化水素化合物、エステル、ケトン、エーテル、ハロゲン化炭化水素、水溶性のアルコール類および水などが挙げられる。好ましくは水、低級アルコール、多価アルコールの中から選ばれる1種または2種以上の溶媒であり、更に好ましくは水、エタノール、1,3−ブチレングリコールの中から選ばれる1種または2種以上の溶媒である。抽出に用いられる溶媒の量は、陽光桜の葉の乾燥物もしくは花の乾燥物、またはこれら混合物1質量部に対して、例えば、1〜100質量部、好ましくは5〜40質量部である。
抽出物は、例えば、陽光桜の葉または花に抽出溶媒を加えて、室温にて1時間以上、好ましくは1日以上、特に好ましくは5〜10日間浸漬し、ろ過する抽出方法を採用することで抽出液として得ることができる。得られた抽出液は、そのまま用いてもよく、あるいは溶媒留去により濃縮したり、カラムクロマトグラフィーや溶媒分画等の処理により精製したりしてもよい。
【0015】
〔エストロゲン様作用剤〕
本発明のエストロゲン様作用剤は、上記の陽光桜の葉または花抽出物を含有するものであり、医薬品、化粧品類または食品に利用することができ、例えば、軟膏、クリーム、スプレー、オイル、貼付剤、錠剤、キャンディーなどに利用することができる。本発明のエストロゲン作用剤を医薬として適用する場合は、月経異常、更年期障害、骨粗鬆症などのエストロゲンの不足に起因する症状の防止または改善において有効に用いることができる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。なお、%は質量%を表わす。
【0017】
〔実施例1:陽光桜葉抽出物の調製〕
乾燥した陽光桜の葉100gに1000gの50%エタノール水溶液を加えて室温で1週間抽出し、ろ過することにより陽光桜葉の抽出液を得た。この抽出液をロータリーエバポレーターで減圧下、60℃で乾燥濃縮し、陽光桜葉抽出物22.6g(乾固物)を得た。
【0018】
〔実施例2:陽光桜花抽出物の調製〕
乾燥した陽光桜の花100gに1000gの50%エタノール水溶液を加えて室温で1週間抽出し、ろ過することにより陽光桜花の抽出液を得た。この抽出液をロータリーエバポレーターで減圧下、60℃で乾燥濃縮し、陽光桜花抽出物33.2g(乾固物)を得た。
【0019】
〔比較例1:ソメイヨシノ葉抽出物の調製〕
乾燥したソメイヨシノ(Prunus x yedoensis Matsum )の葉100gに1000gの50%エタノール水溶液を加えて室温で1週間抽出し、ろ過することによりソメイヨシノ葉の抽出液を得た。この抽出液をロータリーエバポレーターで減圧下、60℃で乾燥濃縮し、ソメイヨシノ葉抽出物21.3g(乾固物)を得た。
【0020】
〔比較例2:サトザクラ花抽出物の調製〕
乾燥したサトザクラ(Prunus lannesiana )の花100gに1000gの50%エタノール水溶液を加えて室温で1週間抽出し、ろ過することによりサトザクラ花の抽出液を得た。この抽出液をロータリーエバポレーターで減圧下、60℃で乾燥濃縮し、サトザクラ花抽出物20.8g(乾固物)を得た。
【0021】
〔比較例3:陽光桜樹皮抽出物の調製〕
乾燥した陽光桜の樹皮100gに1000gの50%エタノール水溶液を加えて60℃で10時間抽出し、ろ過することにより陽光桜樹皮の抽出液を得た。この抽出液をロータリーエバポレーターで減圧下、60℃で乾燥濃縮し、陽光桜樹皮抽出物4.6g(乾固物)を得た。
【0022】
〔比較例4:プエラリアミリフィカ根抽出物の調製〕
乾燥したプエラリアミリフィカ(Pueraria mirifica )の根100gに1000gの50%エタノール水溶液を加えて室温で1週間抽出し、ろ過することによりプエラリアミリフィカ根の抽出液を得た。この抽出液をロータリーエバポレーターで減圧下、60℃で乾燥濃縮し、プエラリアミリフィカ根抽出物4.0g(乾固物)を得た。
【0023】
〔比較例5:大豆抽出物の調製〕
乾燥した大豆(Glycine max )100gに1000gの50%エタノール水溶液を加えて室温で1週間抽出し、ろ過することにより大豆の抽出液を得た。この抽出液をロータリーエバポレーターで減圧下、60℃で乾燥濃縮し、大豆抽出物10.2g(乾固物)を得た。
【0024】
〔実施例1〜2、比較例1〜5:エストロゲン様作用活性の測定〕
上記の陽光桜葉抽出物、陽光桜花抽出物、ソメイヨシノ葉抽出物、サトザクラ花抽出物、陽光桜樹皮抽出物、プエラリアミリフィカ根抽出物、大豆抽出物を用いて、下記の方法によりエストロゲン様作用活性を測定した。その結果を表1に示す。
なお、陽光桜葉抽出物および陽光桜花抽出物と比較して、ソメイヨシノ葉抽出物、およびサトザクラ花抽出物は品種の点で異なり、陽光桜樹皮抽出物は抽出部位の点で異なる。更に、プエラリアミリフィカ根抽出物、および大豆抽出物は、エストロゲン様作用活性を有することで知られる抽出物である。
【0025】
〔エストロゲン様作用活性の測定〕
エストロゲン様作用活性を、エストロゲン依存性細胞の増殖に対する影響を調べる方法(Invitrocell. Dev. Biol. 28A, 595-602, 1992)で、測定した。すなわち、ヒト乳がん細胞由来MCF−7細胞(理研細胞バンク、JCRB0134)を5%FBS(チャコール・デキストラン処理)、1mMピルビン酸ナトリウムを含有するEagle's MEM (フェノールレッド除去)を用いて、2.5×10個/mLの細胞密度で浮遊させた細胞懸濁培地0.2mLを96穴培養プレートに播種した。24時間培養後、表1に記載の設定濃度になるように培地で調整した各試料溶液20μLを96穴培養プレートに添加した。6日間培養後、MTT還元法にて生細胞数の測定を行った。エストロゲン様作用活性は、試料無添加で培養した生細胞数に対する、試料添加で培養した生細胞数の割合(相対値%)で表わした。
【0026】
【表1】
【0027】
表1に示す結果から、陽光桜の葉および花抽出物(実施例1および2)は、比較例1〜5と比較して、濃度依存的に高いエストロゲン様作用活性を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明のエストロゲン様作用剤は、月経異常、更年期障害、骨粗鬆症、肌の弾力性の低下などのエストロゲンの不足に起因する症状の防止、改善において有効に用いることができる。本発明のエストロゲン様作用剤は、医薬品、化粧品類または食品などの任意の製品に配合して用いることができる。