(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施の形態の説明]
最初に、本発明の実施態様を列記して説明する。
(1) 本発明の一態様に係るコア片は、巻線を巻回してなるコイルの内外に配置される磁性コアを構成するコア片であって、上記コイルの磁束に直交すると共に、樹脂部が接合される端面を備え、上記端面は、複数の溝がループを形成することなく交差した交差溝を備える。
【0013】
上記交差溝とは、一つの連続する溝(以下、第一溝と呼ぶ)に対して、別の溝(以下、第二溝と呼ぶ)の一部が第一溝に重なり合っており、かつ第二溝の両端が第一溝を突き抜けるように交差した溝をいう。一つの交差溝における交差する溝の個数(2個以上)、各溝の形状(直線状でも曲線状でもよい)、各溝の大きさは適宜選択できる。
【0014】
上記のコア片は、以下の理由によって、その端面に接合される樹脂部との接合強度が高められて接合性に優れる。
上記のコア片における樹脂部が接合される端面に複数の溝が設けられているため、このコア片と樹脂との接触面積が、溝が無い場合(特許文献1など)に比較して大きい。複数の溝があっても交差していない場合、例えば直線状の溝が並列している場合では、コア片に接合された樹脂部が溝の形成方向に沿って剥離する恐れがある。即ち、交差していない溝では、特定の方向の接合性に劣るといえる。一方、交差した溝では、各溝の形成方向が異なるため、ある溝の形成方向に沿った樹脂部の剥離を別の溝によって防止できる。従って、特定の交差溝を備えることで、上記のコア片とこのコア片の端部に接合される樹脂部とにおける任意の方向の接合強度を効果的に高められる。
【0015】
かつ、上記のコア片は、リアクトルなどの磁気部品に用いられた場合に、以下の理由によって、渦電流の発生を低減できる。
例えば、格子溝のような交差部分を有する溝であれば、上述の樹脂部の剥離を防止できると期待される。しかし、格子溝では、4本の溝で囲まれる矩形枠がループとなる。コア片においてコイルの磁束に直交するように配置される一面に、このようなループを有する溝を備える場合、このループに沿って渦電流が生じ易くなる。ここで、コア片として、金属粒子間に絶縁材が介在する圧粉成形体を利用すると、金属粒子間が絶縁されるため、渦電流を低減できる。しかし、このような圧粉成形体を用いても、溝の形成時に絶縁材が除去されて隣り合う金属粒子同士が導通した状態になり得る。即ち、ループを有する溝では、ループに沿って導通可能になり、ループに応じた渦電流が発生し得る。上記のコア片は、ループを有しないという特定の交差溝をコイルの磁束に直交する端面に備えるため、リアクトルなどの磁気部品に用いられた場合に、溝に起因する渦電流を低減でき、低損失な磁気部品の提供に寄与する。
【0016】
(2) 上記のコア片の一例として、金属粒子と上記金属粒子間に介在する絶縁材とを備える圧粉成形体である形態が挙げられる。
【0017】
上記形態は、金属粒子間が絶縁材によって絶縁されるため、リアクトルなどの磁気部品に用いられた場合に渦電流を低減できる。かつ、溝の形成時に溝部分の絶縁材が除去され得るものの、ループを有さない特定の交差溝であるため、溝部分(導通部分)に起因する渦電流を低減できる。
【0018】
(3) 上記のコア片の一例として、上記磁性コアのうち、上記コイル内に配置される部分を構成する形態が挙げられる。
【0019】
上記形態は、その端面に溝を備えるものの、上記特定の交差溝であるため、リアクトルなどの磁気部品に用いられた場合に溝に起因する渦電流を低減できる。また、上記形態は、上記特定の交差溝を備える端面に接合された樹脂部をギャップとして利用できる。ここで、磁性コアが複数のコア片とギャップとを備える場合、磁性コアにおけるコイル内に配置される部分を構成するコア片間にギャップを設けることが多い。そのため、上記形態のコア片をコイル内に配置する場合には、ギャップ材を省略できる。また、上記端面に接合された樹脂部は、上記特定の交差溝によって強固に接合されているため、剥離に起因するギャップ長の変動などを防止できる。更に、上記端面に接合された樹脂部が隣り合うコア片間の接合材としても機能する場合には、複数のコア片の一体性を高められて、リアクトルなどの使用時に生じ得る振動や騒音を低減し易いと期待される。従って、上記形態は、1.リアクトルなどの部品点数を低減して、リアクトルなどの製造性の向上に寄与できる、2.リアクトルなどのギャップ長の安定に寄与すると期待される、3.リアクトルなどの振動や騒音の低減にも寄与すると期待される。
【0020】
(4) 本発明の一態様に係るリアクトルは、巻線を巻回してなるコイルと、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載のコア片を含む複数のコア片を備える磁性コアと、上記交差溝を備えるコア片の上記端面に接合された樹脂部とを備える。換言すれば、このリアクトルは、巻線を巻回してなるコイルと、複数のコア片を備える磁性コアと、上記複数のコア片のうち、少なくとも一つのコア片における上記コイルの磁束に直交する端面に接合された樹脂部とを備え、上記端面に複数の溝がループを形成することなく交差した交差溝を備える。
【0021】
上記のリアクトルは、樹脂部が接合される端面に上述の特定の交差溝を備えるコア片を構成要素とするため、このコア片と、その端面に接合された樹脂部との接合強度が高く、コア片と樹脂部との接合性に優れる。かつ、上記のリアクトルは、コア片におけるコイルの磁束に直交する端面に備える溝が、上述のようにループを有しない特定の交差溝であるため、溝に起因する渦電流を低減でき、低損失である。
【0022】
(5) 上記のリアクトルの一例として、上記端面に接合された樹脂部が隣り合う上記コア片間に介在されてギャップを形成する形態が挙げられる。
【0023】
コア片間に介在される樹脂部がギャップとなる。そのため、上記形態は、ギャップ材を省略できて部品点数が少なく、製造性に優れる。また、この樹脂部は、上述のように特定の交差溝によってコア片に強固に接合されているため、剥離に起因するギャップ長の変動などを防止できる。更に、この樹脂部が隣り合うコア片同士を接合する場合には、複数のコア片の一体性を高められて、振動や騒音を低減し易いと期待される。
【0024】
(6) 上記のリアクトルの一例として、上記複数のコア片のうち、少なくとも一つのコア片の外周を覆う樹脂モールド部を備え、上記端面に接合された樹脂部が上記樹脂モールド部の一部である形態が挙げられる。
【0025】
上記形態は、上記特定の交差溝を備えるコア片と樹脂モールド部との接合強度が高められ、樹脂モールド部が強固に接合される。この樹脂モールド部によって、上記形態は、コア片の機械的保護、環境からの保護などを図ることができる。また、樹脂モールド部を備える被覆コア片がコイル内に配置される場合には、コイルと磁性コアとの間の絶縁性を高められる。かつ、コア片の端面に接合された樹脂部を樹脂モールド部の形成時に同時に、かつ容易に形成できるため、上記形態は、製造工程数を低減できて、生産性にも優れる。
【0026】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るコア片及びリアクトルを具体的に説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。
【0027】
[実施形態1]
図1〜
図6を参照して、実施形態1のコア片31m及びこのコア片31mを備えるリアクトル1を説明する。
図1〜
図6に示すコア片31mに備える交差溝35A〜35Eは、分かり易いように誇張して示し、実際の大きさとは異なる場合がある。また、
図2では、一方(手前側)の内側コア部品310のミドル樹脂モールド部310mの一部を切欠いて、コア片31mの端面31eの一部が露出した状態を示す。
【0028】
(リアクトル)
・全体構成
リアクトル1は、巻線2wを螺旋状に巻回してなるコイル2と、コイル2の内外に配置されて閉磁路を形成する磁性コア3とを備える。磁性コア3は、複数の柱状のコア片31m,32mを備え、コイル2内に複数のコア片31mが配置される。コア片31mは、コイル2の軸方向に直交に配置される端面31eと、コイル2の軸方向に平行に配置される周面とを備える。コイル2が励磁されると、コイル2の磁束がコア片31mの端面31eに直交にするように通過する。このコア片31mの端面31eには、樹脂部(ここではミドル樹脂モールド部310m(
図2)の一部)が接合される点、特定の形状の交差溝35Aを備える点を特徴の一つとする。以下、より詳細に説明する。
【0029】
・コイル
コイル2は、
図1,
図2に示すように1本の連続する巻線2wを螺旋状に巻回して形成された一対の筒状の巻回部2a,2bと、巻線2wの一部から形成されて両巻回部2a,2bを接続する連結部2rとを備える。各巻回部2a,2bは、各軸方向が平行するように並列(横並び)されている。この例では、巻線2wは、平角線の導体(銅など)と、この導体の外周を覆う絶縁被覆(ポリアミドイミドなど)とを備える被覆平角線(いわゆるエナメル線)であり、巻回部2a,2bはエッジワイズコイルである。巻線2wの両端部2e,2eはいずれも、巻回部2a,2bから適宜な方向に引き出されて、その先端の導体部分に端子金具8,8が接続される。コイル2は、端子金具8を介して電源などの外部装置(図示せず)に電気的に接続される。
【0030】
・磁性コア
磁性コア3は、コイル2(巻回部2a,2b)内に配置される部分と、コイル2が実質的に配置されず、コイル2から突出した部分とを備える。この例の磁性コア3は、磁路を構築する部分が樹脂で覆われたコア部品、具体的には2個の内側コア部品310,310と2個の外側コア部品320,320とを構成要素とする。
図2に示すように、内側コア部品310は、磁路を構築するミドル本体部31と、ミドル樹脂モールド部310mとを備える。外側コア部品320は、磁路を構築するサイド本体部32と、サイド樹脂モールド部320mとを備える。磁性コア3は、横並びされた一対の内側コア部品310,310を繋ぐように一対の外側コア部品320,320が組み付けられて、ミドル本体部31,31、サイド本体部32,32が環状に配置され、コイル2を励磁したときに閉磁路を形成する。
【0031】
・・ミドル本体部
ミドル本体部31は、
図2の破線円内に示すように、軟磁性材料によって構成された複数のコア片31m,…と、コア片31mよりも比透磁率が小さい材料(例えば、アルミナなどの非磁性材)からなるギャップ材31gとが交互に積層されて柱状(この例では角部を丸めた直方体状)に形成されている。この例では、コア片31mとギャップ材31gとは接着剤370によって接合されている。このミドル本体部31の外形に沿って、その外周全体を覆うようにミドル樹脂モールド部310mが設けられている。樹脂モールド部310mの一部、具体的にはミドル本体部31の各端面(ここではコア片31mの端面31e)を覆う平板状の樹脂層372は、樹脂層372が接合されたミドル本体部31のコア片31mと、このコア片31mに隣り合うサイド本体部32のコア片32mとの間に介在されて、ギャップとして機能する。即ち、この例のリアクトル1は、異なる材料から構成された複数のギャップ(ギャップ材31g及び樹脂層372)を備える。また、コア片31mの端面31eはギャップを形成する面といえる。コア片31m、ギャップ材31gの個数は適宜変更できる。
【0032】
接着剤370及び樹脂層372は、コア片31mにおけるコイル2の磁束に直交する端面31eに接合された樹脂部37を構成する。
【0033】
・・サイド本体部
サイド本体部32は、軟磁性材料によって構成されたコア片32mである。この例に示すコア片32mは、一対の内側コア部品310,310が接続される内端面32eが平面であり、上面及び下面が内端面32eから外方に向かって断面積が小さくなるドーム状(変形台形状)である。コア片32mの内端面32eも、コイル2の磁束に直交する端面である。内端面32eのうち、内側コア部品310,310が接続される領域を除いて、サイド本体部32の外形に沿ってサイド本体部32の外周を覆うようにサイド樹脂モールド部320mが設けられている。
【0034】
・・材質
この例では、コア片31m,32mはいずれも、金属粒子と、金属粒子間に介在する絶縁材とによって実質的に構成される圧粉成形体である。ミドル樹脂モールド部310m,サイド樹脂モールド部320mの構成樹脂は、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂である。その他、上記構成樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂、液晶ポリマー(LCP)、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン10T、ナイロン9T、ナイロン6T、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂などの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0035】
圧粉成形体は、代表的には、鉄や鉄合金(Fe−Si合金、Fe−Ni合金など)といった金属の粉末と、適宜バインダ(樹脂など)や潤滑剤とを含む原料粉末を成形した後、成形に伴う歪みの除去などを目的とした熱処理を施して得られる。金属粉末に絶縁処理を施した被覆粉末や、金属粉末と絶縁材とを混合した混合粉末を原料粉末に用いることで、成形後、金属粒子間に絶縁材が介在する圧粉成形体が得られる。代表的には、圧粉成形体は、金属粒子が絶縁被覆で覆われた被覆粉末から構成される。成形には、一般に、貫通孔を有するダイと、貫通孔に挿入されてダイの内周面を含む成形空間に充填された原料粉末を圧縮する上パンチ及び下パンチとが利用される。圧粉成形体における上パンチ及び下パンチが形成した押圧面は、代表的には、金属粒子間に絶縁材が介在して、電気絶縁性に優れる面である。このような押圧面をコア片31m,32mにおけるコイル2の磁束に直交に配置される面とすると、リアクトル1はコイル2に起因する渦電流を低減できる。
【0036】
・・交差溝
コイル2内に配置されるミドル本体部31に備える各コア片31mの各端面31e,31eにそれぞれ、複数の交差溝35Aを備える。交差溝35Aは、複数の溝がループを形成することなく交差している。この例では、各交差溝35Aはいずれも同一形状であり、同一長さの2本の直線状の溝が直交した+形状である。溝の交差角度は直交に限らず、適宜変更でき、鈍角(鋭角)にすることができる。交差角度に関する点は、後述の交差溝35B〜35Eなどについても同様である。
【0037】
図1,
図2に示す複数の交差溝35Aは、所定の間隔をあけて整列配置されており、コア片31mの端面31eの全体に亘って万遍なく形成されている。具体的には、ある横列をつくる隣り合う交差溝35A,35Aの間に、この横列の上又は下に位置する別の横列をつくる交差溝35Aが位置している。即ち、各列の交差溝35Aの位置が左右方向にずれている。複数の交差溝35Aの配置は適宜変更できる。例えば、ある横列をつくる交差溝35Aの位置と、この横列の上又は下に位置する別の横列をつくる交差溝35Aの位置とが、左右方向
及び上下方向に揃っている形態などとすることができる。交差溝35Aの個数によって、その他の配置もとり得る。複数の交差溝の配置に関する点は、後述の交差溝35B〜35Eなどについても同様である。
【0038】
・・・交差溝の形状
図3〜
図6を参照して、その他の交差溝の形状を具体的に説明する。
図3に示す交差溝35Bは、同一長さの3本の直線状の溝が等しい交差角度で交差した*形状である(交差角度:60°)。このように1個の交差溝をつくる溝の個数を3個以上とすることができる。
【0039】
図4に示す交差溝35Cは、1本の直線状の溝に複数の直線状の溝が交差している。また、交差溝35Cは、比較的長い溝に複数の短い溝(ここでは同一長さの溝)が交差している(交差角度:90°)。交差溝35Cは、いわば、交差溝35Aをつくる1本の溝が、連続する長い溝になった形状である。このように1個の交差溝をつくる溝の個数をより多くしたり、各溝の長さを異ならせたりすることができる。この例では、複数の交差溝35Cは、長い溝の長手方向が上下方向に延びるように並行された縦並び配置であるが、長い溝の長手方向が左右方向に延びるように並列された横並び配置とすることもできる。
【0040】
図5に示す交差溝35Dは、直線状の溝が渦巻きを描くように連続して設けられており、渦巻きをつくる各辺にそれぞれ、複数の直線状の溝が交差している(交差角度:90°)。上記各辺は、コア片31mの端面31eの周縁から中央に向かって長さが順次短くなっている。また、上記各辺に交差する各溝は、同一長さであり、短い溝である。交差溝35Dは、いわば、交差溝35Cの長い溝の長さを適宜変更して、渦巻き状に配置した形状である。このように1個の交差溝をつくる溝の個数をより多くしたり、各溝の長さを異ならせたり、更には連続する長い溝を備えたりすることができる。この例では、矩形状の渦巻きであるが、円形状の渦巻きにすることもできる。
【0041】
図6に示す交差溝35Eは、∩形状の溝(又はC字状の溝)に複数の直線状の溝(ここでは同一長さの短い溝)が交差している(交差角度:90°)。このように1個の交差溝をつくる溝の個数をより多くしたり、各溝の長さを異ならせたり、連続する長い溝を備えたり、更には曲線溝と直線溝とを備えるなど各溝の形状を異ならせたりすることができる。この例では、∩形状の溝に対して、3個の短い溝が等しい間隔で交差した形状を示すが、上記間隔は適宜変更できる。
【0042】
図1〜
図6に示すコア片31mの端面31eに備える交差溝35A〜35Eは、例示である。その他、交差溝は、≠、×、Ψ、※、жなど種々の形状とすることができる。また、コア片31mにおける一つの端面31eに備える複数の交差溝は、
図1などに示すようにその全てが同一形状である他、異なる形状を含むことができる。
【0043】
・・・溝の大きさ
交差溝35Aなどを構成する各溝(第一溝、第二溝、…)の深さ、幅、長さは適宜選択できる。
図3に例示するように、溝の幅wとは、コア片31mの端面31eを平面視したときに溝の外形をつくる輪郭線のうち、溝の端部をつくる線の長さとし、溝の長さLとは、上記輪郭線のうち、交差角をつくる線の長さとする。各溝の深さが深いほど、又は溝の幅wや長さLが大きいほど、樹脂部37との接触面積が多く、樹脂部37との接合強度を高められると考えられる。但し、深過ぎたり、幅wや長さLが大き過ぎたりすると、磁性成分が減少したり、溝加工時間が長くなってコア片31mの生産性の低下、引いてはリアクトル1の生産性の低下を招いたりする。この点から、各溝の深さは、10μm以上200μm以下、更に30μm以上150μm以下が好ましいと考えられる。この例では、各溝の深さは、50μm以上120μm以下である。溝の幅wや長さLは、コア片31mの端面31eの大きさや、溝の形状などによって選択するとよい。
【0044】
・・・溝の占有率
コア片31mの一つの端面31eを平面視したときに複数の交差溝35Aの合計面積が端面31eの面積に占める割合(以下、占有率と呼ぶ)は、適宜選択できる。占有率が高いほど、端面31eと樹脂部37との接合強度を高められることから、10%以上、15%以上、更に20%以上が好ましいと考えられる。上述の磁気特性と生産性とを考慮すると、占有率は80%以下、70%以下、更に50%以下が好ましいと考えられる。
【0045】
図1,
図2に示す例では、コア片31mの一つの端面31eに存在する複数の交差溝35Aの大きさ(溝の深さ、幅、長さ)がいずれも等しいが、大きさが異なる交差溝を備えることができる。この場合、同じ形状の交差溝であって、大きさのみが異なる形態、異なる形状の交差溝であって、大きさも異なる形態のいずれでもよい。
【0046】
・・・交差溝の形成方法
交差溝35A〜35Eなどの形成には、例えば、レーザ光の照射といったレーザ加工を利用できる。照射条件は、溝の大きさが所望の値となるように適宜選択できる。この例ではレーザ加工を利用している。その他の溝の形成方法として、切削工具による切削加工などが挙げられる。ここで、上述の圧粉成形体の一面にレーザ加工などで溝を設けると、金属粒子間に介在する絶縁材が除去され得る。従って、上述の押圧面に溝を形成した場合、溝部分は導通し得る。しかし、ループを有さない特定の交差溝35Aなどでは、交差する各溝がループをつくらず途切れているため、溝に沿ったループ状の渦電流が流れない。そのため、上記押圧面をコア片31mにおけるコイル2の磁束に直交するように配置される面とし、この面(ここでは端面31e)に交差溝35Aなどを備えることで、コイル2の励磁時、端面31eにコイル2の磁束が通過しても、交差溝35Aなどに沿ってループ状に渦電流が流れることを防止できる。
【0047】
(リアクトルの製造方法)
図2を主に参照して、リアクトル1の製造方法の一例を説明する。
まず、コア片31mの各端面31e,31eにそれぞれ、複数の交差溝35Aを設ける。交差溝35Aを備えるコア片31mの端面31eとギャップ材31gとを接着剤370によって接合し、ミドル本体部31を形成する。
図2では、接着剤370として、シート材を示すが、端面31e又はギャップ材31gの一面に接着剤370を塗布してもよい。
【0048】
用意したミドル本体部31,31、別途作製したサイド本体部32,32を中子とし、内側コア部品310,310、外側コア部品320,320をインサート成形などの射出成形によって製造する。得られた内側コア部品310をみると、ミドル本体部31の各端部に位置するコア片31m,31mの各端面31e,31eにはそれぞれ、ミドル樹脂モールド部310mの一部(樹脂層372)が接合され、ミドル本体部31の中間に位置するコア片31mの両端面31e,31eにはそれぞれ、接着剤370が接合されている。
【0049】
そして、内側コア部品310,310、別途作製したコイル2、外側コア部品320,320を組み付けて、環状の磁性コア3を形成すると共に、コイル2を磁性コア3によって支持する。各内側コア部品310,310の端面310e,310eと外側コア部品320の内端面(サイド本体部32の内端面32e)とを接着剤(図示せず)などで接合してもよい。上記の工程により、リアクトル1が得られる。
【0050】
(作用効果)
実施形態1のコア片31mは、その端面31eに特定の形状の交差溝35A(35B〜35Eなど)を複数備えることで、この端面31eに樹脂部37が接合された場合に強固に接合できる。また、このコア片31mの端面31eがコイル2の磁束に直交するように配置された場合に、渦電流の発生を低減できる。実施形態1のリアクトル1は、磁性コア3に備える複数のコア片31m,32mのうち、コイル2の磁束に直交する端面31eに特定の形状の交差溝35A(35B〜35Eなど)が複数設けられたコア片31mを備えることで、コア片31mと樹脂部37との強固な接合と、渦電流の発生の低減とを両立できる。
【0051】
詳しくは、1.複数の交差溝35Aなどによって、コア片31mの端面31eと、端面31eに接合された樹脂部37(ここでは接着剤370及び樹脂層372)との接触面積が多い点、2.交差溝35Aなどをつくるある溝における樹脂部37の剥離を、別の溝によって抑制できる点から、コア片31mと樹脂部37との接合強度が高く、接合性に優れる。かつ、交差溝35Aなどがループを形成しない特定の形状であるため、上述のようにコア片31mの端面31eにコイル2の磁束が通過しても、渦電流が発生し難い。
【0052】
特に実施形態1のリアクトル1では、コア片31mの両端面31e,31eに複数の交差溝35Aなどを備えて樹脂部37が強固に接合されるため、ミドル本体部31の一体化を十分に高められて、使用時に振動や騒音を低減し易いと期待される。
【0053】
[変形例1−1]
実施形態1では、コア片31mの両端面31e,31eに交差溝35Aなどを備える形態を説明した。コア片31mの一方の端面31eに樹脂部37が接合されない場合には、他方の端面31eにのみ交差溝35Aなどを備えることができる。
【0054】
[変形例1−2]
実施形態1では、ミドル本体部31に含むコア片31m,…の全てが、交差溝35Aなどを備える形態を説明した。ミドル本体部31に含む複数のコア片31m,…のうち、一部のコア片が交差溝35Aなどを備えていない形態とすることができる。この場合、例えば、交差溝35Aなどを備えていないコア片の両側に、このコア片を挟むように交差溝35Aなどを備えるコア片31m,31mを備えると、交差溝35Aなどを備えるコア片31m,31mが樹脂部37を強固に保持できる。そのため、複数のコア片31m,…の一体性をある程度高められると期待される。
【0055】
[変形例1−3]
実施形態1では、樹脂部37が接着剤370及びミドル樹脂モールド部310mの一部(樹脂層372)で構成される形態を説明した。ギャップ材31g及び接着剤370を省略して、樹脂部が樹脂モールド部310mの一部で構成される形態とすることができる。即ち、コア片31m,31m間のギャップ、コア片31m,32m間のギャップを全て樹脂モールド部310mの一部によって構成することができる。この場合、例えば、樹脂モールド部310mの形成にあたり、成形型に、交差溝35Aなどを設けたコア片31mを、所定の間隔をあけて配置して、隣り合うコア片31m,31m間に樹脂が充填されるようにすることで、樹脂ギャップを容易に形成できる。この場合に、コア片31mの両端面31e,31eに交差溝35Aなどを備えると、コア片31m,31m間に介在される樹脂部を強固に接合できて好ましい。また、この場合、コア片31m,31m間に介在される樹脂部は、上述のギャップに加えて、コア片31m,31m同士を接合する接着剤(接合材)としても機能する。この樹脂モールド部310mによってコア片31m,31m同士が強固に接合されるため、ミドル本体部31の一体化を十分に高められて、リアクトルの使用時に振動や騒音を低減し易いと期待される。
【0056】
[変形例1−4]
実施形態1では、コイル2内に配置されるコア片31mにのみ交差溝35Aなどを備える形態を説明した。コイル2が配置されないコア片32mにも交差溝35Aなどを備えることができる。この場合、コア片32mの内端面32eに交差溝35Aなどを備えるとよい。そして、内端面32eと内側コア部品310の端面310eとの接合に上述のように接着剤を用いると、この接着剤が、コア片32mにおけるコイル2の磁束に直交する内端面32eに接合された樹脂部の一部となる。
【0057】
又は、サイド樹脂モールド部320mの被覆領域を変更し、内端面32eを含むコア片32mの外周全体を樹脂モールド部320mによって覆うことができる。この場合、樹脂モールド部320mの一部であって、コア片32mの内端面32eを覆う平板状の樹脂層が、コイル2の磁束に直交する内端面32eに接合された樹脂部となる。
【0058】
変形例1−4の形態は、磁性コア3に備えるコア片31m,32mのいずれもが、コイル2の磁束に直交する端面(31e,32e)に樹脂部を備えることになる。
【0059】
[変形例1−5]
実施形態1では、複数のコア片31mとギャップ材31gとを積層したミドル本体部31をミドル樹脂モールド部310mで一体に覆った形態を説明した。その他、コア片31mごとに樹脂モールド部を形成した被覆コア片を複数備える形態とすることができる。各被覆コア片はそれぞれ、コア片31mの両端面31e,31eに交差溝35Aなどを備えると共に、樹脂モールド部の一部(平板状の樹脂層)が接合されている。これらの被覆コア片を組み付けた場合、隣り合う被覆コア片間には、各被覆コア片のコア片31mの一方の端面31eに接合された樹脂モールド部の一部、即ち二つの樹脂層が介在されて一つのギャップになる。従って、この形態は、ギャップ材31gを省略でき、部品点数を低減できる。
【0060】
[変形例1−6]
実施形態1では、磁性コア3が4個のコア部品(内側コア部品310,310,外側コア部品320,320)を備える形態を説明した。その他、一方のミドル本体部31と一方のサイド本体部32とがL状に組み付けられて樹脂モールド部に一体に保持されたL字コア部品を一組備える形態、2個のミドル本体部31,31と一方のサイド本体部32とがU状に組み付けられて樹脂モールド部に一体に保持されたU字コア部品と、1個の外側コア部品とを備える形態などとすることができる。
【0061】
(その他の構成など)
図1に示すリアクトル1では、ミドル樹脂モールド部310mやサイド樹脂モールド部320mで構成される以下の係合部、取付部325、仕切り部を備える。係合部、取付部325、及び仕切り部の少なくとも一つを省略できる。
【0062】
・内側コア部品310と外側コア部品320との係合部
この例では、ミドル樹脂モールド部310mは、ミドル本体部31の周面を覆う部分のうち、端面310e近傍に厚さが薄い領域を備える。サイド樹脂モールド部320mは、外側コア部品320の内端面から突出して設けられた2個の筒部を備える。上記薄い領域と筒部とが係合部として機能する。
・設置対象にリアクトル1を取り付ける取付部325(
図1,
図2)
この例では、サイド樹脂モールド部320mは、外方に突出する突片を有する。突片にはボルト孔325hが設けられており、この突片が取付部325に利用される。
・巻回部2a,2b間に介在される仕切り部
この例では、サイド樹脂モールド部320mは、外側コア部品320の内端面から突出し、かつ上記2個の筒部間に設けられた板片を備える。この板片が仕切り部として機能し、両巻回部2a,2b同士の絶縁を確保する。
【0063】
その他、実施形態1、変形例のリアクトルは、以下の部材を備えることができる。これらの部材の少なくとも一つを省略することもできる。
【0064】
・・センサ
温度センサ、電流センサ、電圧センサ、磁束センサなどのリアクトル1の物理量を測定するセンサ(図示せず)を備えることができる。
・・放熱板
コイル2の外周面の任意の箇所に放熱板(図示せず)を備えることができる。例えば、コイル2の設置面(ここでは下面)に放熱板を備えると、コンバーターケースなどの設置対象にコイル2の熱を、放熱板を介して良好に伝えられて放熱性を高められる。放熱板の構成材料は、アルミニウムやその合金といった金属や、アルミナなどの非金属などの熱伝導性に優れるものを利用できる。放熱板をリアクトル1の設置面(ここでは下面)全体に設けてもよい。放熱板は、例えば、後述の接合層によってコイル2と磁性コア3との組物に固定できる。
・・接合層
リアクトル1の設置面(ここでは下面)のうち、少なくともコイル2の設置面(ここでは下面)に接合層(図示せず)を備えることができる。接合層を備えることで、設置対象又は上述の放熱板を備える場合には放熱板にコイル2を強固に固定でき、コイル2の動きの規制、放熱性の向上、設置対象又は上記放熱板への固定の安定性などを図ることができる。接合層の構成材料は、絶縁性樹脂、特にセラミックスフィラーなどを含有して放熱性に優れるもの(例えば、熱伝導率が0.1W/m・K以上、更に1W/m・K以上、特に2W/m・K以上)が好ましい。具体的な樹脂は、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、不飽和ポリエステルなどの熱硬化性樹脂や、PPS樹脂、LCPなどの熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0065】
なお、本発明は、これらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。例えば、巻回部が一つのみのコイルを備えるリアクトルとすることができる。例えば、上述の特定の交差溝を備えるコア片をリアクトル以外の磁気部品の磁性コアの構成要素に利用できる。