特許第6265083号(P6265083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ツムラの特許一覧

特許6265083チョレイマイタケとナラタケの共生方法、及びその方法を用いたチョレイマイタケの栽培方法
<>
  • 特許6265083-チョレイマイタケとナラタケの共生方法、及びその方法を用いたチョレイマイタケの栽培方法 図000006
  • 特許6265083-チョレイマイタケとナラタケの共生方法、及びその方法を用いたチョレイマイタケの栽培方法 図000007
  • 特許6265083-チョレイマイタケとナラタケの共生方法、及びその方法を用いたチョレイマイタケの栽培方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265083
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】チョレイマイタケとナラタケの共生方法、及びその方法を用いたチョレイマイタケの栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 18/00 20180101AFI20180115BHJP
   A01G 18/60 20180101ALI20180115BHJP
【FI】
   A01G1/04 Z
   A01G1/04 104A
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-173166(P2014-173166)
(22)【出願日】2014年8月27日
(65)【公開番号】特開2016-47025(P2016-47025A)
(43)【公開日】2016年4月7日
【審査請求日】2017年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003665
【氏名又は名称】株式会社ツムラ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100101904
【弁理士】
【氏名又は名称】島村 直己
(72)【発明者】
【氏名】菊地 原
(72)【発明者】
【氏名】中出 啓子
【審査官】 門 良成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−319104(JP,A)
【文献】 特開昭62−220113(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0318773(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
広葉樹由来の木材粉砕物を含有する菌床にナラタケを接種し、ナラタケが根状菌糸束を形成した後、当該根状菌糸束形成部の上部にチョレイマイタケを接種し、その上部に広葉樹由来の木材粉砕物を被せて培養することを含むチョレイマイタケとナラタケの共生方法。
【請求項2】
広葉樹由来の木材粉砕物を含有する菌床にナラタケを接種し、ナラタケが根状菌糸束を形成した後、当該根状菌糸束形成部の上部に広葉樹由来の木材粉砕物と混合したチョレイマイタケを接種し培養することを含むチョレイマイタケとナラタケの共生方法。
【請求項3】
広葉樹由来の木材粉砕物を含有する菌床にナラタケを接種し、ナラタケが根状菌糸束を形成した後、当該根状菌糸束形成部の上部にチョレイマイタケを接種し、その上部に広葉樹由来の木材粉砕物を被せて7〜17℃で培養する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法によって共生させたチョレイマイタケとナラタケを広葉樹原木に接着させてともに土壌中に埋設し、栽培することを含むチョレイマイタケの栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョレイマイタケとナラタケの共生方法、及びその方法を用いたチョレイマイタケの栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チョレイマイタケ(Polyporus umbellatus)は、サルノコシカケ科に属する菌類であり、その菌核(猪苓:チョレイ)は、古来より生薬として利用され、五苓湯、猪苓湯などの漢方処方に配合されてきた。
【0003】
自然界から採取された猪苓は、ほとんどの場合ナラタケと共存していることが報告されており(非特許文献1)、チョレイマイタケはナラタケと共生することで自然界で安定的に栄養源を得ていると考えられる。そのため猪苓の栽培化は、チョレイマイタケとナラタケの共生が鍵となると考えられる。中国等で行われている猪苓の圃場栽培では、すでにこの共生関係を利用した猪苓の栽培が行われている(非特許文献2)。中国の圃場栽培法では、ナラタケを接種したナラ材のほだ木を地中に伏せ込み、培養した後に種となるチョレイマイタケの菌核を接種して、ナラタケと共生させた後、肥大させ収穫するというものである。この方法はほだ木にナラタケを接種し蔓延させるまでに半年〜1年、チョレイマイタケの菌核接種後チョレイマイタケとナラタケが共生するまでに半年〜1年、共生後チョレイマイタケの菌核の肥大に2年〜3年という計4年近くの長い時間がかかる。
【0004】
特許文献1には、チョレイマイタケの菌核を短期間で効率よく増殖させるため、チョレイマイタケを植物病原性の低いナラタケと共生させ培養するチョレイマイタケの圃場栽培方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、土壌中でナラタケとチョレイマイタケを共生させた場合の共生率が40%〜50%であり、これがチョレイの単位面積当たりの収量が落ちる一因である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−319104号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kikuchi G. and Yamaji H. (2010) Identification of Armillaria species associated with Polyporus umbellatus using ITS sequences of nuclear ribosomal DNA. Mycoscience 51(5): 366-372
【非特許文献2】Kyung-Da Choi, Kyung-Tae Lee, Jae Ouk Shim, Youn-Su Lee, Tae-Soo Lee, Sang Sun Lee, Shun-Xing Guo and Min Woong Lee (2003) A New Method for Cultivation of Sclerotium of Grifola umbellata Mycobiology 31(2): 105-112
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、ナラタケとチョレイマイタケの共生率を上げて、チョレイマイタケの栽培期間を短縮するとともに単位面積当たりの収量を上げることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決すべく、チョレイマイタケとナラタケの共生工程に着目して鋭意検討した結果、ナラタケの根状菌糸束の形成後に、上部にチョレイマイタケを接種し、その上部に広葉樹由来の木材粉砕物を被せて培養することにより、従来法に比較して共生率を大幅に高めて、しかも冬場に共生させることにより栽培期間を短縮できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)広葉樹由来の木材粉砕物を含有する菌床にナラタケを接種し、ナラタケが根状菌糸束を形成した後、当該根状菌糸束形成部の上部にチョレイマイタケを接種し、その上部に広葉樹由来の木材粉砕物を被せて培養することを含むチョレイマイタケとナラタケの共生方法。
(2)広葉樹由来の木材粉砕物を含有する菌床にナラタケを接種し、ナラタケが根状菌糸束を形成した後、当該根状菌糸束形成部の上部に広葉樹由来の木材粉砕物と混合したチョレイマイタケを接種し培養することを含むチョレイマイタケとナラタケの共生方法。
(3)広葉樹由来の木材粉砕物を含有する菌床にナラタケを接種し、ナラタケが根状菌糸束を形成した後、当該根状菌糸束形成部の上部にチョレイマイタケを接種し、その上部に広葉樹由来の木材粉砕物を被せて7〜17℃で培養する前記(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法によって共生させたチョレイマイタケとナラタケを広葉樹原木に接着させてともに土壌中に埋設し、栽培することを含むチョレイマイタケの栽培方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チョレイマイタケとナラタケの共生期間が短縮され、チョレイマイタケの栽培期間も短縮することができる。また、チョレイマイタケとナラタケの共生率を高めることにより単位面積当たりの収量を上げることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1はナラタケの根状菌糸束の大鋸屑占有率と、チョレイマイタケとナラタケの共生との関係の模式図を示す。
図2図2はチョレイマイタケとナラタケの共生部分の状態を示す光学顕微鏡写真である。
図3図3は、菌床上部のナラタケの根状菌糸束形成部を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
チョレイマイタケは、土中に黒褐色の不整塊状の菌核を形成し、菌核から子実体を生じるが、本発明では、この菌核を培養に用いる。本発明に用いるチョレイマイタケの菌核は、大きさ、重量、産地等、特に限定されるものではないが、直径2〜10cm程度のものが好ましく、これより大きな菌核をいくつかに分割して用いてもよい。
【0015】
本発明に用いるナラタケとしては、ハラタケ目キシメジ科ナラタケ属に属するものであれば特に制限はないが、チョレイマイタケとの共生率及び菌核の増殖率の点で、植物病原性の低いナラタケが好ましい。本明細書において、「植物病原性」とは、ナラタケの菌糸が健全に生育する樹木に寄生し、枯死又は衰弱させることを意味する。ナラタケ属菌には、性質の異なる種が多く存在し、前記の意味で植物病原性の高いものと低いものが存在することが知られている。このような植物病原性の低いナラタケとして、具体的には、アルミラリア・シナピナ(Armillaria sinapina)、アルミラリア・ガリカ(Armillaria gallica)、アルミラリア・セピスティペス(Armillaria cepistipes) 、アルミラリア・カルベッセンス(Armillaria calvescens)などが挙げられる。
【0016】
本発明においては、「広葉樹由来の木材粉砕物を含有する菌床」にナラタケを接種する。
【0017】
前記広葉樹としては、特に制限はないが、例えば、ブナ、コナラ、カエデ、クヌギ、サクラ、シイ類、ヤナギ類、ニレ類などが挙げられる。また、アカマツ等の針葉樹由来の木材粉砕物を加えてもよい。針葉樹由来の木材粉砕物は木材粉砕物全体の30%未満、好ましくは10%未満であることが好ましい。
【0018】
前記木材粉砕物としては、特に制限はないが、例えば、大鋸屑、チップ、チップダスト、削り屑、樹皮の細切物、樹皮の削り屑などが挙げられる。
【0019】
前記木材粉砕物の粒度は通常長径が約0.1mm〜100mm、好ましくは約1mm〜5mmである。
【0020】
本発明に用いるナラタケは、自然より採取されたナラタケをそのまま用いてもよいし、きのこ生産用として加川椎茸(株)等で販売されているナラタケ種菌を用いてもよい。更にそれらをPDA培地等で事前培養して用いてもよい。前記木材粉砕物にナラタケを接種する方法は、常法により行うことができ、例えば、前記の木材粉砕物からなる菌床に、予め培地で培養したナラタケを接種し、これを一定期間培養(例えば、室温、3〜4ヶ月間、暗条件)することによってナラタケが菌床に茶褐色の針状の根状菌糸束を形成する(図3)。
【0021】
前記の木材粉砕物を含有する菌床にナラタケを接種する場合、菌床に用いる木材粉砕物としては、大鋸屑、チップが好ましく、前記菌床は、木材粉砕物の他、必要に応じて、各種の栄養源、例えば、炭素源や窒素源として小麦フスマ、スクロース、米糠等を含有してもよい。菌床の水分含量は、通常50〜80重量%、好ましくは55〜65重量%に調整する。
【0022】
前記菌床は、前記木材粉砕物に各種の栄養源を入れ、水を加えて混合し、例えば、直径15cm、高さ12cm程度の大きさの菌床塊を作成して用いてもよい(特公平8−13225号公報)。この菌床塊には接種穴を開けておくことが好ましい。
【0023】
ナラタケは無菌培養が可能であることから、ここで用いる菌床は、雑菌の繁殖を防ぐ点から、滅菌処理することが好ましい。
【0024】
広葉樹由来の木材粉砕物を含有する菌床にナラタケを接種後、通常5〜32℃、好ましくは20〜25℃で、通常70〜110日間、好ましくは約3〜4ヶ月間培養することによってナラタケが根状菌糸束を形成する。
【0025】
本発明においては、前記のようにしてナラタケが根状菌糸束を形成した後、当該根状菌糸束形成部の上部に、(i)チョレイマイタケを接種し、その上部に広葉樹由来の木材粉砕物を被せて培養するか、(ii)広葉樹由来の木材粉砕物と混合したチョレイマイタケを接種し培養する。
【0026】
ここで、ナラタケが根状菌糸束を形成した状態とは、白色、茶褐色又は暗褐色の針金状の根状菌糸束が剣山状に菌床上部に立ち上がった状態を意味し、立ち上がった根状菌糸束の上部にチョレイマイタケを接種する。
【0027】
ここで用いる広葉樹由来の木材粉砕物としては、前記と同様のものを用いることができるが、水分含量は、通常50〜80重量%、好ましくは55〜65重量%に調整する。ここで用いる木材粉砕物は、必要に応じて、前記の各種の栄養源と混合した菌床として用いてもよいが、チョレイマイタケとナラタケの共生割合を高めるためには各種栄養源を含まない木材粉砕物であることが好ましい。ここで用いる木材粉砕物を滅菌し、無菌状態にするとチョレイマイタケの菌核に付着している特定の雑菌が増殖し、チョレイマイタケの生育に悪影響を与える可能性があることから、チョレイマイタケの生育を阻害する雑菌の繁殖を抑える点で、滅菌処理しないことが好ましい。
【0028】
前記(ii)における広葉樹由来の木材粉砕物と混合したチョレイマイタケは、広葉樹由来の木材粉砕物にチョレイマイタケを接種した後に培養し、木材粉砕物中にチョレイマイタケの菌核を形成させたものであってもよい。
【0029】
チョレイマイタケとナラタケを共生させる際の温度は、栽培法により異なり、広葉樹由来の木材粉砕物を含有する菌床にナラタケを接種する室内栽培では、好ましくは7〜17℃、更に好ましくは10〜16℃である。
【0030】
なお、本発明においては、チョレイマイタケとナラタケとが共生しているとは、ナラタケの菌糸がチョレイマイタケの菌核内に入り込み、ナラタケの根状菌糸束の一端を持ち上げた時、根状菌糸束からチョレイマイタケの菌核が離れない程度に強固に結びついた状態であることをいうものとする。
【0031】
ナラタケとチョレイマイタケの共生によるチョレイの肥大は、以下の1〜3の段階を経て進行する。
【0032】
なお、実施例に記載のチョレイマイタケとナラタケの共生状態は以下の1〜3を意味する。
【0033】
1 接着
チョレイマイタケの菌核にナラタケが侵入するため、菌核外部にナラタケの根状菌糸束が接着する段階。
【0034】
2 共生・肥大開始
ナラタケがチョレイマイタケの菌核を溶解しながら内部に侵入する段階。
【0035】
3 肥大進行
チョレイとナラタケが共生し、ナラタケから栄養分を得て、チョレイマイタケが肥大する段階。
【0036】
前記のようにして処理することにより、通常半年〜1年でチョレイマイタケとナラタケを共生させることができる。
【0037】
このようにして共生させたチョレイマイタケとナラタケを広葉樹原木とともに土壌中に埋設し、栽培することによりチョレイマイタケを短期間で栽培することができる。
【0038】
通常、冬場のような低温の土壌環境中ではナラタケもチョレイマイタケも生育を停止する。そのため、本発明では、冬場に室内で共生させた後に、夏場土壌中で生育させることが可能であるため、効率よくチョレイマイタケの菌核を肥大させることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]室内共生条件の確認
(材料)
ナラタケ:アルミラリア・ガリカ(Armillaria gallica)(静岡県産)
チョレイマイタケの菌核(猪苓):中国山西省産の購入種菌核及び日本各地より採取してきた種菌核(青森県産、北海道産、茨城県産)を用いた。
木材粉砕物:広葉樹(ブナ、コナラ、カエデ)と針葉樹(アカマツ)を混合した大鋸屑
【0041】
(方法)
ナラタケの培養
1)菌床 大鋸屑:小麦フスマ=5:1にスクロース2%を入れて混合し、最終的に大鋸屑の水分含量が60〜65%になるように調整した後、1.7kgの菌床を作成した。
2)滅菌処理は105℃で120分間行った。
3)接種するナラタケには事前にPDA培地で培養したアルミラリア・ガリカを用いた。アルミラリア・ガリカはナラタケの中でも病原性が低いことが分かっていることから、圃場での大規模栽培時に環境負荷が少ないことが利点である。
4)植菌後20〜25℃の気槽恒温器内にて約3ヶ月間培養を行った。
5)菌床の大部分にナラタケの菌糸が生育し、菌床上部に根状菌糸束の伸長が確認された時点で、チョレイマイタケの菌核を菌床上部のナラタケの根状菌糸束形成部へ接種した。その後、1)で菌床を作成する際に使用した大鋸屑を水分含量が60〜65%になるように調整して、接種したチョレイマイタケの菌核の上に載せ、菌核全体を完全に覆った。
6)前記5)の状態で4℃、10℃、14℃、18℃、20℃、22℃、24℃の恒温器を準備し、各温度の共生状態を確認した(図1参照)。
【0042】
調査項目
1)共生状態の観察(チョレイマイタケの肥大率調査)
2)共生の有無(顕微鏡観察)
【0043】
(結果)
共生試験 植付け開始時より197〜218日目(約半年後)、338〜362日目(約1年後)の調査を行った。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
4℃ではナラタケの生育が遅く、1年間でチョレイマイタケとナラタケの接着が確認されなかった。
【0046】
10〜14℃では半年〜1年で共生することが確認された。
10℃ではナラタケの生育が遅いが根状菌糸束の生育は1年で菌床の約9割程度まで蔓延した。菌床を調査した結果、5菌床全てで一部共生肥大及び共生肥大が見られた(表1、共生肥大◎、一部共生肥大○)。
【0047】
10℃におけるチョレイマイタケの最大肥大率は培養約1年で121%、培養約半年で110%であった。
【0048】
14℃ではナラタケの根状菌糸束が1年で菌床の約9割〜9割5分程度まで蔓延した。菌床を調査した結果、8菌床全てで一部共生肥大及び共生肥大が見られた(表1、共生肥大◎、一部共生肥大○)。
【0049】
14℃における最大肥大率は培養約1年で166%、培養約半年で約103%であった。
【0050】
18℃ではナラタケの菌糸生育が旺盛で、1菌床でチョレイマイタケの菌核とナラタケの接着を確認したが、共生したものはなかった(表1、接着確認△)。
【0051】
20℃以上でもナラタケの菌糸生育が旺盛で、内部のチョレイマイタケの菌核は腐敗し、共生しなかった(表1、接着確認△、共生せず×)。
【0052】
以上の結果から、室内栽培では10〜14℃の温度帯がチョレイマイタケとナラタケを共生させるのに適する温度であることが分かった。考察として、ナラタケの根状菌糸束の生育を程よく抑えることがチョレイマイタケ共生系構築に必要だと考えている。
【0053】
更に、共生部分の様子を観察した(図2)。肥大が確認されたチョレイマイタケのナラタケとの接着部分をスライスし、光学顕微鏡にて観察を行った。ナラタケはチョレイマイタケの中で黒褐変化した仕切りの中に存在していることが確認された。
【0054】
[実施例2]規模を拡大したチョレイマイタケとナラタケの室内共生
(実験方法)
1.材料
ナラタケ:アルミラリア・ガリカ(Armillaria gallica)静岡県産
チョレイマイタケの菌核(猪苓):中国山西省産
【0055】
2.大鋸屑菌床の作成
大鋸屑にはカエデ、ブナ、コナラ、クヌギを等量で混合したものに、水を適量加えて水分含量を55〜75%程度に調整したものを105℃で120分間滅菌処理して菌床を作成し、実施例1と同様の方法でナラタケを菌床中で生育させ、菌床上部に根状菌糸束が形成するまで培養した。
【0056】
3.チョレイマイタケの植菌
ナラタケの蔓延した菌床袋を開封し、根状菌糸束形成部にカエデ、ブナ、コナラ、クヌギを等量で混合し水を適量加えて水分含量を65〜75%程度に調整した未滅菌の大鋸屑とチョレイマイタケの菌核を混合したものを、厚さ20cm程度になるように接種した。チョレイマイタケの菌核の接種量は200g、100g、25gの3種類とした。通気口を除き密封し、ダンボールに入れて倉庫内で保管した。培地の温度は概ね10℃〜14℃であった。
【0057】
菌床が乾燥しすぎないように灌水し、12月〜3月の計4ヶ月共生させた結果、ナラタケの生育は良好であり、チョレイマイタケとナラタケの共生が、接種したチョレイマイタケの菌核の90%以上で確認された。
【0058】
[実施例3]室内共生後の土壌栽培
(内容)
実施例1と同様の方法(但し、共生温度は14℃〜15℃)で室内での共生により得られたナラタケとチョレイマイタケを共生させた種菌を土壌中に埋設して原木栽培を行った。
【0059】
(実験方法)
(1)青森県の圃場に、約15cmの深さの穴を掘り、(コナラ)原木(直径3cm〜5cm、長さ60cm)を長方形の四辺となるように並べた。原木の間にナラタケとチョレイマイタケを共生させた菌床をそのまま設置し、上部に原木(直径3cm〜5cm、長さ30cm)を並べて菌床を覆い、土壌を載せて埋設した。
【0060】
10ヶ月経過後、埋設した原木を掘り起したところ、接種時より肥大したチョレイマイタケの菌核が得られた。
【0061】
(2)青森県の圃場に、約15cmの深さの穴を掘り、(コナラ)原木(直径3cm〜5cm、長さ60cm)を平行に並べた。実施例1に記載の方法(共生温度は14℃〜15℃)で共生させたナラタケとチョレイマイタケを菌床から取り出し、2〜4個に分割し、原木の間に接種した。上部に土壌を載せて埋設した。
【0062】
10ヶ月経過後、埋設した原木を掘り起したところ、接種時より肥大したチョレイマイタケの菌核が得られた。
図1
図2
図3