特許第6265098号(P6265098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265098
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】ワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/00 20060101AFI20180115BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20180115BHJP
   H01B 3/46 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   H01B7/00 306
   H01B7/02 Z
   H01B7/00 301
   H01B3/46 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-206880(P2014-206880)
(22)【出願日】2014年10月8日
(65)【公開番号】特開2016-76414(P2016-76414A)
(43)【公開日】2016年5月12日
【審査請求日】2017年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】濱口 隆彰
(72)【発明者】
【氏名】松井 克文
【審査官】 神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭60−105078(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
H01B 3/46
H01B 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の周囲がシリコーンゴムを含む被覆材で絶縁被覆されているシリコーン被覆電線が、モールド樹脂により埋設されているモールド部を備えているワイヤーハーネスであり、
前記モールド部は、前記シリコーン被覆電線の表面に形成されたプライマー層を介して、接着剤により前記モールド樹脂と前記シリコーン被覆電線が接着しているものであり、
前記接着剤がポリオレフィン系樹脂を含有するポリオレフィン系接着剤であり、
前記プライマー層が金属アルコキシドを含有するプライマー組成物から形成されたものであることを特徴とするワイヤーハーネス。
【請求項2】
前記プライマー組成物の金属アルコキシドがチタンアルコキシドであることを特徴とする請求項1に記載のワイヤーハーネス。
【請求項3】
前記モールド樹脂が、ポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のワイヤーハーネス。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系接着剤のポリオレフィン系樹脂が、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【請求項5】
前記シリコーン被覆電線のシリコーンゴムが、ポリジメチルシロキサンが100質量部に対し、無機フィラーが10〜300質量部、架橋剤が0.5〜30質量部、色素剤が0.1〜10質量部含有するシリコーンゴム組成物から形成されたものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ、モータ間に設置されるワイヤーハーネスに関し、詳しくは、シリコーン被覆電線がモールド樹脂により埋設されているモールド部を有するワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車等のインバータ、モータ間を接続するワイヤーハーネスは、ACハーネスと呼ばれることもある。ACハーネスは、被覆電線の端末にモールド樹脂で成形されたコネクタが接続された形態を有する。被覆電線の端末はモールド樹脂により周囲が覆われて、モールド樹脂に被覆電線が埋設されたモールド部として形成される。被覆電線は、例えば被覆材としてシリコーンゴムを用いたシリコーン被覆電線が用いられる。
【0003】
シリコーンゴムは難接着物であることが知られており、一般的には、接着剤としてシリコーン系接着剤が用いられることが多い。しかし、シリコーン系接着剤は、インサート成形時に、成形樹脂によって流れ出しが起こってしまうため、モールド成形に適応させることができない。そのため、インサート成形に適応することが可能な接着剤が用いられる。しかし一般的なインサート成形用接着剤は、シリコーンゴムとの接着性が悪い。
【0004】
例えば、シリコーンゴムと熱可塑性樹脂とを一体化させるインサート成形の際に接着剤の接着性を向上させるために、シリコーンゴムをプラズマ処理、もしくはトロイ処理等により、前処理した後、プライマー及び接着剤を塗布する方法が公知である(例えば特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−244652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記特許文献1に記載されている手法では、接着剤を塗布するまでの前処理は、工数が多く手間がかかり、使用する材料の種類も多くなってしますという問題があった。
【0007】
本発明の解決しようとする課題は、上記問題点を解決しようとするものであり、シリコーン被覆電線が樹脂モールドされたモールド部を有するワイヤーハーネスにおいて、モールド部のシリコーン被覆電線のシリコーンゴムとモールド樹脂との間の接着性に優れたワイヤーハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明のワイヤーハーネスは、
導体の周囲がシリコーンゴムを含む絶縁層で被覆されているシリコーン被覆電線が、モールド樹脂により埋設されているモールド部を備えているワイヤーハーネスであり、
前記モールド部は、前記シリコーン被覆電線の表面に形成されたプライマー層を介して、接着剤により前記モールド樹脂と前記シリコーン電線が接着しているものであり、
前記接着剤がポリオレフィン系樹脂を含有するポリオレフィン系接着剤であり、
前記プライマー層が金属アルコキシドを含有する組成物から形成されたものであることを要旨とするものである。
【0009】
本発明のワイヤーハーネスにおいて、前記プライマーの金属アルコキシドがチタンアルコキシドであることが好ましい。
【0010】
本発明のワイヤーハーネスにおいて、前記モールド樹脂が、ポリエステル系樹脂又はポリアミド系樹脂であることが好ましい。
【0011】
本発明のワイヤーハーネスにおいて、前記接着剤のポリオレフィン系樹脂が、マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂であることが好ましい。
【0012】
本発明のワイヤーハーネスにおいて、前記シリコーン被覆電線のシリコーンゴムが、ポリジメチルシロキサンが100質量部に対し、無機フィラーが10〜300質量部、架橋剤が0.5〜30質量部、色素剤が0.1〜10質量部含有する組成物から形成されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のワイヤーハーネスは、導体の周囲がシリコーンゴムを含む絶縁層で被覆されているシリコーン被覆電線が、モールド樹脂により埋設されているモールド部を備え、前記モールド部は、前記シリコーン被覆電線の表面に形成されたプライマー層を介して、接着剤により前記モールド樹脂と前記シリコーン電線が接着しているものであり、前記接着剤がポリオレフィン系樹脂を含有するポリオレフィン系接着剤であり、前記プライマー層が金属アルコキシドを含有する組成物から形成されたものであるから、シリコーンゴムにプライマー層を形成する処理の前に、プラズマ処理、トロイ処理等の表面処理を行わなくても、モールド部のシリコーン被覆電線のシリコーンゴムとモールド樹脂との間の接着性が良好であり、防水性に優れたワイヤーハーネスが得られる。
【0014】
本発明のワイヤーハーネスは、特にプラズマ処理、トロイ処理等の表面処理が不要であるから、工数が増加せず、接着作業が容易である。また、接着剤としてシリコーン接着剤等を用いずに、ポリオレフィン系接着剤を用いることが可能であり、作業性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は本発明のワイヤーハーネスの一例を示す断面図である。
図2図2図1のワイヤーハーネスのモールド部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。図1に示すように、本発明のワイヤーハーネス1は、導体21の周囲がシリコーンゴムを含む被覆層22で絶縁被覆されているシリコーン被覆電線2がモールド樹脂5に埋設されているモールド部4を備えている。
【0017】
シリコーン被覆電線2の端部には接続端子3が接続されていて、シリコーン被覆電線2の端部と接続端子3との接続部が、モールド樹脂5から形成されたコネクタハウジング内に埋設されていて、モールド(成形)コネクタとして形成されている。
【0018】
コネクタハウジングは、シリコーン被覆電線2と接続端子3の接続部分がコネクタハウジング3の内部のキャビテイ内に収容されるように配置されて、ポリブチレンテレフタレート等の成形樹脂(モールド樹脂5)を用いてインサート成形を行うことにより、シリコーン被覆電線2と接続端子3の接続部が成形樹脂中に埋設されている。
【0019】
図2図1のワイヤーハーネスのモールド部の拡大図である。図2に示すようにモールド部4は、シリコーン被覆電線2の被覆層22が、プライマー層6を介して接着剤7によりモールド樹脂から形成されるコネクタハウジング5と接着している。接着剤は、コネクタハウジングのモールド樹脂5と被覆電線2の被覆材22の接合面の端部Cからコネクタハウジングの内部に水分が浸入するのを防止している。尚、図1では、プライマー層、接着剤の記載を省略した。
【0020】
本発明は、プライマー層6のプライマー組成物として、金属アルコキシドを含む点に大きな特徴がある。金属アルコキシドを含むプライマーを用いてプライマー層を形成することにより、ポリオレフィン系接着剤のシリコーン被覆電線2に対する接着性を大きく向上させることができた。プライマー層6に含まれる金属アルコキシドは、シリコーン電線の被覆材22のシリコーンゴムの中のポリジメチルシロキサン、シリカ等に由来する水酸基と化学的に結合し、被覆材22の表面を改質する。シリコーン電線2の被覆材22表面がプライマー層6によって改質されるため、ポリオレフィン系接着剤7との接着性が向上する。
【0021】
例えばチタンアルコキシドは、シランカップリング剤等と比較すると、反応性が1000倍ほど高いとされているように、金属アルコキシドの反応性は非常に高い。そのため、プライマー層がシリコーン被覆電線の被覆材と強固に結合することで、金属アルコキシド以外の他のプライマーを用いた場合と比較して、顕著な接着性向上効果が得られるものと予想される。このようにポリオレフィン系接着剤と被覆材のシリコーンゴムの接着性が良好になるため、シリコーン被覆電線とモールド樹脂との接着性が向上する。また、接着剤7としてポリオレフィン系接着剤を用いても、十分な接着が可能である。
【0022】
プライマー層6の厚さは、接着剤7によりシリコーン被覆電線2とモールド樹脂5とが十分接着すればよく、時に限定されない。プライマー層6の好ましい厚さは、乾燥膜厚で、0.1〜120μmの範囲内であり、好ましくは、5〜80μmの範囲内である。
【0023】
プライマー層6を形成するためのプライマー組成物は、主成分として金属アルコキシドを含有するものが用いられる。金属アルコキシドは各種の金属アルコキシドを用いることができ、例えば、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド、アルミニウムアルコキシド等が挙げられる。金属アルコキシドは、一般に入手が容易であり、接着性向上効果が良好な点から、チタンアルコキシドを用いるのが好ましい。
【0024】
プライマー組成物は、金属アルコキシドは、モノマーの状態で使用してもよいが、水等と反応させてオリゴマーの状態としたチタンアルコキシドオリゴマー等の金属アルコキシドオリゴマーを使用するのが好ましい。アルコキシドオリゴマーは、オリゴマー化の際に、チタンキレート等の金属キレート、チタンアシレート等の金属アシレート等を併用してもよい。金属アルコキシドオリゴマーとすることで、製膜性、濡れ性、安定性、密着性等が向上する。
【0025】
金属アルコキシドとして、一般に入手可能な化合物を以下に示す。
上記チタンアルコキシドとしては、テトライソプロピルチタネート(TPT)、テトラノルマルブチルチタネート(TBT)、ブチルチタネートダイマー(DBT)、テトラオクチルチタネート(TOT)、ターシャリーアミルチタネート、テトラターシャリーブチルチタネート(TTBT)、テトラステアリルチタネート(TST)等が挙げられる。
【0026】
チタンキレートとしては、チタンアセチルアセトネート、チタンテトラアセチルアセトネート、チタンエチルアセトアセテート、リン酸チタン化合物、チタンオクチレングリコレート、チタンエチルアセトアセテート、チタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート化合物、チタン−1,3−プロパンジオキシビス(エチルアセトアセテート)、ドデシルベンゼンスルホン酸チタン化合物、等の溶剤系キレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネート、チタンジエタノールアミネート、チタンアミノエチルアミノエタノレート等の水系キレートが挙げられる。
【0027】
チタンアシレートとしては、チタンイソステアレート等が挙げられる。
【0028】
ジルコニウムアルコキシドとしては、ノルマルプロピルジルコネート(NPZ)、ノルマルブチルジルコネート(NBZ)等が挙げられる。
【0029】
ジルコニウムキレートとしては、ジルコニウムテトラアセチルアセトネート、ジルコニウムモノアセチルアセトネート、ジルコニウムエチルアセトアセテート、塩化ジルコニル化合物、ジルコニウムラクテートアンモニウム塩等が挙げられる。
【0030】
ジルコニウムアシレートとしては、オクチル酸ジルコニウム化合物、ステアリン酸ジルコニウム等が挙げられる。
【0031】
金属アルコキシドオリゴマーは、市販品を用いることができる。チタンアルコキシドオリゴマーの市販品として、例えば、松本ファインケミカル社製、製品名「オルガチックスPC‐200」(主成分はチタンアルコキシド系オリゴマー)、「オルガチックスPC‐620」(チタンオリゴマー+密着性向上剤)等が挙げられる。
【0032】
プライマー組成物には、接着性等を阻害しない範囲で、金属アルコキシド以外の成分を添加してもよい。
【0033】
プライマー組成物は、組成物を適当な粘度に調節するために、溶剤で希釈して使用することができる。溶剤は、金属アルコキシドの溶解性や成膜性等に応じて適宜用いられる。例えば溶剤としては、メタノール、エタノール、1‐ブタノール、イソプロパノール等のアルコール、アセトン、トルエン等の一般的な溶剤を用いることができる。
【0034】
上記コネクタハウジングを構成するモールド樹脂5は、特に限定されず、この種ワイヤーハーネスのコネクタハウジング等に用いられる各種モールド用樹脂を用いることができる。
【0035】
モールド樹脂5として具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のポリアミド等のポリアミド系樹脂が挙げられる。モールド樹脂は、上記樹脂を1種単独で使用しても、2種以上を混合して使用しても、いずれでもよい。
【0036】
モールド樹脂5は、ポリエステル系樹脂、又はポリアミド樹脂を用いるのが好ましい。ポリエステル系樹脂はポリブチレンテレフタレートを用いるのが好ましい。
【0037】
上記モールド樹脂5には、樹脂成形に用いられる一般的な添加剤を添加してもよい。上記添加剤としては、例えば、硬化剤、硬化触媒、無機充填剤、酸化防止剤、金属不活性化剤(銅害防止剤)、紫外線吸吸収剤、紫外線隠蔽剤、難燃助剤、加工助剤(滑剤、ワックス等)、カーボンブラック、その他の着色顔料、可とう性付与剤、耐衝撃性付与剤、有機充填剤、希釈剤(溶剤等)、搖変剤、消泡剤、レべリング剤等を挙げることができる。モールド樹脂に添加される添加剤は、ACハーネスとしての性能を持たせるために、耐候性、耐熱性、耐寒性等の性能を有するものが好ましい。
【0038】
上記シリコーン被覆電線2とモールド樹脂5を接着するための接着剤6は、ポリオレフィン系樹脂を含有するポリオレフィン系接着剤が用いられる。ポリオレフィン系接着剤は、ホットメルト接着剤である。すなわち、モールド樹脂の成形時の熱により溶融して、モールド樹脂と接着する。
【0039】
接着剤6のポリオレフィン系樹脂は、ポリマー主鎖もしくは側鎖にカルボニル基を有するものが好ましく、例えば、マレイン酸変性ポリオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0040】
ワイヤーハーネスを製造するには、先ずシリコーン被覆電線2の端末に被覆材22を皮剥ぎして露出させた導体21に、接続端子3を接続する。接続端子3は圧着、溶接等で導体21と接合することができる。シリコーン被覆電線22のモールド部4となる所定の位置に、プライマー層6、接着剤7を順次形成する。
【0041】
プライマー層6の形成は、プライマーを塗布し、常温又は加熱により乾燥させることで形成することができる。接着剤7は、加熱溶融した接着剤を塗工することで、形成することができる。
【0042】
コネクタハウジングは、インサート成形等により形成することができる。具体的には、プライマー層6、接着剤7を設けたシリコーン被覆電線2と接続端子3をコネクタハウジングの金型の所定の位置に配置して、加熱溶融したモールド樹脂5を金型内に注入して、成形を行う。冷却後、モールド樹脂5から形成されたコネクタハウジングを型から取り出して、接続端子3とシリコーン電線2の一部がモールド樹脂5の内部に埋設されたコネクタハウジングを有するワイヤーハーネス1が得られる。
【0043】
シリコーン被覆電線2の被覆材22は、未架橋シリコーンゴムと有機過酸化物等のラジカル発生剤を架橋剤として含むシリコーンゴム組成物から形成される。被覆材22は、シリコーンゴム組成物を導体の周囲に押出して被覆を形成した後、加熱等の手段により被覆のシリコーンゴムを架橋処理せせて架橋シリコーンゴムとして形成されている。
【0044】
上記シリコーンゴム組成物には、無機フィラー、着色剤等の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、例えば電線被覆材に用いられる、一般的な顔料、充填剤、酸化防止剤、老化防止剤等が挙げられる。
【0045】
シリコーンゴム組成物に用いられる未架橋シリコーンゴムは、架橋剤を混練した後、加熱架橋させることで弾性体となるミラブル型(加熱架橋型)、或いは架橋前は液状である液状ゴム型のいずれを用いてもよい。液状ゴム型シリコーンゴムは、室温付近で架橋が可能な室温架橋型(RTV)と、混合後100℃付近で加熱すると架橋する低温架橋型(LTV)がある。
【0046】
シリコーンゴム組成物は、直鎖状のオルガノポリシロキサンを主原料(生ゴム)として、補強充填剤、増量充填剤等の無機フィラー、分散促進剤、色素材、その他添加剤等を配合することができる。
【0047】
上記無機フィラーとしては、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化チタン、酸性白土、マイカ、シリカ、タルク等が挙げられる。
【0048】
上記色素材としては、各種の顔料、染料等を用いることができる。
【0049】
シリコーンゴム組成物は、例えば、ポリジメチルシロキサンが100質量部に対し、無機フィラーが10〜300質量部、架橋剤が0.5〜30質量部、色素材が0.1〜10質量部含む配合比とすることができる。
【0050】
シリコーン被覆電線2の導体21は、銅、銅合金等の銅系金属を用いることが一般的であるが、銅以外にもアルミニウム、マグネシウム等を用いることができる。また導体21は、銅に他の金属として鉄、ニッケル、マグネシウム、シリコン等の、通常、導体として広く使用されている金属を添加してもよい。導体21は、単線、複数線、複数線の集合体を用いることができる。複数の単線の集合体は、撚線でもよい。
【0051】
シリコーン被覆電線2の導体21の径や被覆材22の厚み等は、特に限定されず、適宜決めることができる。また被覆材22は、単層であっても、2層以上の複数層から構成しても、いずれでもよい。
【0052】
本発明ワイヤーハーネスは、自動車、電子・電気機器に使用されるワイヤーハーネスに利用することができる。特に高い耐熱性と難燃性を要求される用途に好適である。例えば自動車用のハイブリッド車や電気自動車のエンジンとバッテリを繋ぐパワーケーブル等のような高電圧、大電流の用途等に好適である。
【実施例】
【0053】
〔実施例1〜4、比較例1〜6〕
金属アルコキシドを含むプライマーを用いた場合と金属アルコキシドを含まないプライマーを用いた場合のシリコーンゴムと成形樹脂の接着性について試験を行った。表1に実施例、比較例で使用したプライマーの構成、試験片の構成を記載した。表1に示すように実施例1〜4は金属アルコキシドを含むプライマーを用いた。比較例1〜6は、金属アルコキシドを含まないプライマーを用いた。プライマーの評価は、シリコーンゴム板(クラベ社製、大きさ40mm×19.5mm×1.6mmt)を準備し、表1に示す各種プライマーを用いてシリコーンゴムの表面にプライマー処理した後、プライマー処理面に接着剤を塗布し、成型樹脂を用いてインサート成形し(樹脂温度:250℃、金型温度:80℃)、引張せん断接着試験用のシングルラップ接合の試験片を作製した。この試験片を用いて、引張せん断接着試験を行った。試験の結果を表1に示す。
【0054】
試験に用いた成型樹脂の大きさは、大きさが30mm×10mm×厚さ2mmであり、接合部分であるオーバーラップ部の長さを20mmとした。成形樹脂は、実施例1、2、比較例1〜6は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT)を用い、実施例3、4は、ポリアミド樹脂を用いた。プライマーの塗布方法、実施例、比較例で使用した材料、接着試験方法の詳細は下記のお通りである。
【0055】
〔プライマーの塗布方法〕
プライマーは、ピペッター(M&S Instruments Trading Inc社の商品名「ピペットマン P−100」)を用いて、シリコーンゴム板の表面250mmに対して、20μLを滴下し、滴下後、ピペッターの先端を用いてプライマーを広げることで塗布した。塗布後、室温(23℃、湿度54%)で1時間乾燥した。
【0056】
〔接着強さ試験方法〕
上記試験片を用いて、JIS S6040に準じて引張せん断接着強さを測定した。また、引っ張りせん断接着試験後の破断面の破壊形態を観察して判定した。観察の結果、材料破壊の場合良好「○」とし、界面破壊の場合不良「×」とした。接着面が界面破壊すると、界面からモールド樹脂の内部に水が浸入し易くなり、防水性能が低下するため、破壊形態が界面破壊ではなく材料破壊となることは重要な点である。
【0057】
〔プライマーの組成〕
・チタンアルコキシド1:マツモトファインケミカル社製、商品名「X−1229」(チタンアルコキシドオリゴマーを主成分とする1液溶剤型プライマー、溶剤として、メタノール、2‐プロパノール、酢酸エチル等を含む)
・チタンアルコキシド2:マツモトファインケミカル社製、商品名「PC‐620」(チタンアルコキシドオリゴマーを主成分とする、A液、B液からなる2液溶剤型プライマー、溶剤として、1‐ブタノール、トルエン、メタノール等を含む)、試験はA液、B液を1:1の質量比で混合し、5質量%となるようにヘキサンで希釈して塗布液を調製した。
【0058】
・フェノール樹脂:セメダイン社製、商品名「3000PP」(フェノール樹脂2〜10%、溶剤:炭化水素系80〜90%、エステル系1〜10%)
・ポリオレフィン樹脂:セメダイン社製、商品名「PP―7F」(オレフィン系樹脂2〜10%、溶剤:炭化水素80〜90%、エステル系1〜10%)
・シアノ化合物:高圧ガス工業社製、商品名「シアノンプライマー Z831」(シアノ化合物2〜5質量%、溶剤:アルコール系41〜52質量%、炭化水素系45〜50質量%)
上記樹脂は、市販で入手できる形態のままでプライマーとして塗布した。
【0059】
・エポキシ系シランカップリング剤:モメンティブ社製、製品名「A−187」(3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
・アミノ系シランカップリング剤:モメンティブ社製、製品名「A−1100」(3‐アミノプロピルトリエトキシシラン)
・マレイン酸系シランカップリング剤:モメンティブ社製、製品名「A−1877」
上記シランカップリング剤は、5質量%ヘキサン溶液として、プライマーを調製した。
【0060】
〔成形樹脂〕
・PBT:ポリプラスチック社製、製品名「ジュラネックス330HR」
・PA6T:デュポン社製、製品名「ザイテルHTN51G35EF」(ポリフタルアミド樹脂)
【0061】
〔接着剤〕
・変性マレイン酸系接着剤、東亞合成社製、製品名「PPET1303S」
【0062】
【表1】
【0063】
表1に示すように、実施例1〜4はチタンアルコキシドオリゴマーを含むプライマーを用いたものであるから、接着強度も十分高く、破壊形態も材料破壊であり良好であった。これに対し、比較例1〜6は金属アルコキシドを含まないプライマーを用いたものであり、接着強度が低く、破壊形態も界面破壊であり不良であった。また、モールド樹脂として、PBTを用いた実施例1、2、ポリアミドを用いた実施例3、4のいずれも良好な結果であった。
【0064】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0065】
1 ワイヤーハーネス
2 シリコーン被覆電線
21 導体
22 被覆材
3 接続端子
4 モールド部
5 モールド樹脂(コネクタハウジング)
6 プライマー層
7 接着剤
図1
図2