特許第6265172号(P6265172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6265172
(24)【登録日】2018年1月5日
(45)【発行日】2018年1月24日
(54)【発明の名称】引上式連続鋳造装置
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/04 20060101AFI20180115BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20180115BHJP
   B22D 11/124 20060101ALI20180115BHJP
【FI】
   B22D11/04 115
   B22D11/00 H
   B22D11/124 Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-120515(P2015-120515)
(22)【出願日】2015年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-1084(P2017-1084A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2016年11月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 直晋
(72)【発明者】
【氏名】福田 時春
(72)【発明者】
【氏名】久野 真弘
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】岩田 靖
(72)【発明者】
【氏名】杉山 義雄
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−104468(JP,A)
【文献】 特開2013−244500(JP,A)
【文献】 特開2015−093308(JP,A)
【文献】 特開昭60−056448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00−11/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯を保持する保持炉と、
前記溶湯の湯面上に設置され、前記湯面から導出された前記溶湯が通過することにより、鋳造する中空鋳物の断面形状を規定する形状規定部材と、
凝固界面近傍の前記中空鋳物の内周面に冷却ガスを吹き付けることにより、前記中空鋳物と当該凝固界面を介して連続する前記湯面から導出された前記溶湯、を冷却する冷却部と、を備えた引上式連続鋳造装置であって、
前記冷却部から吹き出された前記冷却ガスの流れる流路と前記形状規定部材の上面との間の空間において発生する負圧領域に対して送風する送風部をさらに備え
前記送風部の送風口は、前記中空鋳物の内部において前記冷却部よりも上方に設けられ、下方の前記負圧領域に向けて送風する、引上式連続鋳造装置。
【請求項2】
溶湯を保持する保持炉と、
前記溶湯の湯面上に設置され、前記湯面から導出された前記溶湯が通過することにより、鋳造する中空鋳物の断面形状を規定する形状規定部材と、
凝固界面近傍の前記中空鋳物の内周面に冷却ガスを吹き付けることにより、前記中空鋳物と当該凝固界面を介して連続する前記湯面から導出された前記溶湯、を冷却する冷却部と、を備えた引上式連続鋳造装置であって、
前記冷却部から吹き出された前記冷却ガスの流れる流路と前記形状規定部材の上面との間の空間において発生する負圧領域に対して送風する送風部と、
前記負圧領域の圧力を測定する圧力センサと、をさらに備え、
前記送風部は、前記圧力センサの測定結果に応じた流量で送風する、引上式連続鋳造装置。
【請求項3】
前記送風部の送風口は、前記中空鋳物の内部において前記冷却部よりも上方に設けられ、下方の前記負圧領域に向けて送風する、請求項に記載の引上式連続鋳造装置。
【請求項4】
前記送風部の送風口は、前記負圧領域に接する部材に配置され、当該負圧領域に向けて開口している、請求項に記載の引上式連続鋳造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は引上式連続鋳造装置及び引上式連続鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、鋳型を要しない引上式の連続鋳造方法が開示されている。特許文献1に示すように、溶融金属(溶湯)の表面(すなわち湯面)にスタータを浸漬させた後、当該スタータを引き上げると、溶湯の表面膜や表面張力によりスタータに追従して溶湯も導出される。ここで、湯面近傍に設置された形状規定部材を介して、溶湯を導出し、冷却することにより、所望の断面形状を有する鋳物を連続鋳造することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−248657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は以下の課題を見出した。
特許文献1に記載の連続鋳造方法において、中空形状の鋳物(中空鋳物)を鋳造する場合がある。この場合、凝固界面近傍の中空鋳物の外周面及び内周面に冷却ガスを吹き付けて、湯面から導出された溶湯を間接的に冷却することにより、湯面から導出された溶湯の凝固を促進させることができる。しかしながら、凝固界面近傍の中空鋳物の内周面に冷却ガスを吹き付けると、その気流の影響により、吹き出された冷却ガスの流れる流路と形状規定部材の上面との間の空間に負圧領域が発生し、湯面から導出された溶湯がその負圧に引っ張られて中空鋳物の内側に流れ込んでしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、上記を鑑みなされたものであって、湯面から導出された溶湯が中空鋳物の内側に流れ込むのを抑制することが可能な引上式連続鋳造装置及び引上式連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る引上式連続鋳造装置は、溶湯を保持する保持炉と、前記溶湯の湯面上に設置され、前記湯面から導出された前記溶湯が通過することにより、鋳造する中空鋳物の断面形状を規定する形状規定部材と、凝固界面近傍の前記中空鋳物の内周面に冷却ガスを吹き付けることにより、前記中空鋳物と当該凝固界面を介して連続する、前記湯面から導出された前記溶湯、を冷却する冷却部と、を備えた引上式連続鋳造装置であって、前記冷却部から吹き出された前記冷却ガスの流れる流路と前記形状規定部材の上面との間の空間において発生する負圧領域に対して送風する送風部をさらに備えるものである。それにより、負圧領域の負圧状態が緩和されるため、湯面から導出された溶湯が中空鋳物の内側に流れ込むのを抑制することができる。
【0007】
前記送風部の送風口は、前記中空鋳物の内部において前記冷却部よりも上方に設けられ、下方の前記負圧領域に向けて送風することが好ましい。それにより、ノズルを保持炉内に設置する必要が無くなるため、送風部の設置が容易になる。
【0008】
前記送風部の送風口は、前記負圧領域に接する部材に配置され、当該負圧領域に向けて開口していることが好ましい。それにより、より正確に負圧領域に風を送り込むことが可能になるため、より確実に負圧領域の負圧状態が緩和される。
【0009】
前記負圧領域の圧力を測定する圧力センサをさらに備え、前記送風部は、前記圧力センサの測定結果に応じた流量で送風することが好ましい。それにより、負圧領域の負圧状態を緩和するのに適した流量の風を送り込むことが可能になるため、より正確に負圧領域の負圧状態が緩和される。
【0010】
本発明の一態様に係る引上式連続鋳造方法は、保持炉に保持された溶湯の湯面から前記溶湯を導出して、中空鋳物の断面形状を規定する形状規定部材を通過させることにより、前記中空鋳物を鋳造する引上式連続鋳造方法であって、凝固界面近傍の前記中空鋳物の内周面に冷却ガスを吹き付けることにより、前記中空鋳物と当該凝固界面を介して連続する、前記湯面から導出された前記溶湯、を冷却するステップと、吹き出された前記冷却ガスの流れる流路と前記形状規定部材の上面との間の空間において発生する負圧領域に対して送風するステップと、を備えるものである。それにより、負圧領域の負圧状態が緩和されるため、湯面から導出された溶湯が中空鋳物の内側に流れ込むのを抑制することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、湯面から導出された溶湯が中空鋳物の内側に流れ込むのを抑制することが可能な引上式連続鋳造装置及び引上式連続鋳造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態1に係る自由鋳造装置を模式的に示す断面図である。
図2図1に示す形状規定部材の平面図である。
図3】比較例に係る自由鋳造装置の課題を説明するための図である。
図4】比較例に係る自由鋳造装置の課題を説明するための図である。
図5図1に示す自由鋳造装置の一部を示す拡大断面図である。
図6】実施の形態1に係る自由鋳造方法を示すフローチャートである。
図7】冷却ガスの流量と、負圧領域の圧力と大気圧との差圧と、の関係を示す図である。
図8】実施の形態2に係る自由鋳造装置を模式的に示す断面図である。
図9】実施の形態3に係る自由鋳造装置の一部を示す拡大断面図である。
図10図9に示す形状規定部材周辺を示す平面図である。
図11図9に示す自由鋳造装置の変形例の一部を示す拡大断面図である。
図12図11に示す形状規定部材周辺を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0014】
<実施の形態1>
まず、図1を参照して、実施の形態1に係る自由鋳造装置(引上式連続鋳造装置)について説明する。図1は、実施の形態1に係る自由鋳造装置を模式的に示す断面図である。図1に示すように、実施の形態1に係る自由鋳造装置は、溶湯保持炉(保持炉)101、形状規定部材102、支持ロッド106,107、アクチュエータ108、冷却部109、送風部116、及び、引上機115を備えている。なお、図1には、構成要素の位置関係を説明するために便宜的に右手系xyz座標が示されている。図1におけるxy平面は水平面を構成し、z軸方向が鉛直方向である。より具体的には、z軸のプラス方向が鉛直上向きとなる。
【0015】
溶湯保持炉101は、例えばアルミニウムやその合金などの溶湯M1を収容し、溶湯M1が流動性を有する所定の温度に保持する。図1の例では、鋳造中に溶湯保持炉101へ溶湯を補充しないため、鋳造の進行とともに溶湯M1の表面(つまり湯面)は低下する。他方、鋳造中に溶湯保持炉101へ溶湯を随時補充し、湯面を一定に保持するような構成としてもよい。ここで、溶湯保持炉101の設定温度を上げると凝固界面SIFの位置を上げることができ、溶湯保持炉101の設定温度を下げると凝固界面SIFの位置を下げることができる。なお、当然のことながら、溶湯M1はアルミニウム以外の金属やその合金であってもよい。
【0016】
形状規定部材102は、例えばセラミックスやステンレスなどからなり、湯面上に配置されている。形状規定部材102は、外部形状規定部材103と、内部形状規定部材104と、により構成されている。外部形状規定部材103は、鋳造する鋳物M3の外部の断面形状を規定し、内部形状規定部材104は、鋳造する鋳物M3の内部の断面形状を規定する。図1に示した鋳物M3は、水平方向の断面(以下、横断面と称す)の形状が管状の中空鋳物(つまりパイプ)である。
【0017】
図1の例では、外部形状規定部材103及び内部形状規定部材104は、それらの下側の主面(下面)が湯面に接触するように配置されている。それにより、溶湯M1の表面に形成される酸化膜や溶湯M1の表面に浮遊する異物の鋳物M3への混入が抑制される。一方、外部形状規定部材103及び内部形状規定部材104は、それらの下面が湯面に接触しないように設置されてもよい。具体的には、外部形状規定部材103及び内部形状規定部材104は、それらの下面が湯面から所定の距離(例えば0.5mm程度)だけ離間するように配置されてもよい。それにより、外部形状規定部材103及び内部形状規定部材104では、熱変形や溶損が抑制されるため、耐久性が向上する。
【0018】
図2は、図1に示す形状規定部材102の平面図である。ここで、図1の形状規定部材102の断面図は、図2のI−I断面図に相当する。図2の例では、外部形状規定部材103は、例えば矩形状の平面形状を有し、中央部に円形状の開口部を有している。内部形状規定部材104は、円形状の平面形状を有し、外部形状規定部材103の開口部の中央部に配置されている。外部形状規定部材103と内部形状規定部材104との間の間隙が、溶湯が通過する溶湯通過部105となる。なお、図2におけるxyz座標は、図1と一致している。
【0019】
ここで、図2には、冷却部109のノズル先端部114も示されている。ノズル先端部114は、内部形状規定部材104の中央部に配置されている。ノズル先端部114には、平面視して溶湯通過部105に向けて開口する複数の冷却ガス吹き出し口114aが設けられている。
【0020】
引上機115は、スタータ(導出部材)STを把持し、スタータSTを溶湯M1に浸漬させたり、溶湯M1に浸漬されたスタータSTを引き上げたりする。
【0021】
図1に示すように、溶湯M1は、浸漬されたスタータSTと結合した後、その表面膜や表面張力により外形を維持したままスタータSTに追従して引き上げられ、形状規定部材102の溶湯通過部105を通過する。溶湯M1が形状規定部材102の溶湯通過部105を通過することにより、溶湯M1に対し形状規定部材102から外力が印加され、鋳物M3の断面形状が規定される。ここで、溶湯M1の表面膜や表面張力によってスタータST(又は、スタータSTに追従して引き上げられた溶湯M1が凝固して形成された鋳物M3)に追従して湯面から引き上げられた溶湯を保持溶湯M2と呼ぶ。また、鋳物M3と保持溶湯M2との境界が凝固界面SIFである。
【0022】
支持ロッド106は、外部形状規定部材103を支持し、支持ロッド107は、内部形状規定部材104を支持する。支持ロッド106,107は何れもアクチュエータ108に連結されている。
【0023】
アクチュエータ108は、支持ロッド106,107を介して、外部形状規定部材103及び内部形状規定部材104を上下方向(z軸方向)に移動させることができる。それにより、鋳造の進行による湯面の低下とともに、形状規定部材102を下方向に移動させることができる。
【0024】
冷却部109は、冷却ガス(例えば空気、窒素、アルゴンなど)をスタータSTや鋳物M3に吹き付けることで、間接的に保持溶湯M2を冷却する部である。冷却ガスの流量を増やすと凝固界面SIFの位置を下げることができ、冷却ガスの流量を減らすと凝固界面SIFの位置を上げることができる。なお、冷却部109も、上下方向(鉛直方向;z軸方向)及び水平方向(x軸方向及びy軸方向)に移動可能となっている。そのため、例えば、鋳造の進行による湯面の低下とともに、形状規定部材102の下方向の移動に合わせて、冷却部109を下方向に移動することができる。あるいは、引上機115や形状規定部材102の水平方向の移動に合わせて、冷却部109を水平方向に移動することができる。
【0025】
より具体的には、冷却部109は、冷却ガス供給部110と、ノズル111,112と、ノズル先端部113,114と、により構成される。冷却部109は、冷却ガス供給部110により供給された冷却ガスを、それぞれノズル111,112を介してノズル先端部113,114から吹き出す。
【0026】
ノズル先端部113は、鋳物M3の外側に鋳物M3の外周面を囲むようにして設けられている。ノズル先端部113に設けられた複数の冷却ガス吹き出し口は、凝固界面SIF近傍の鋳物M3の外周面に向けて開口している。ノズル先端部113は、複数の冷却ガス吹き出し口から吹き出された冷却ガスを、凝固界面SIF近傍の鋳物M3の外周面に吹き付ける。
【0027】
ノズル先端部114は、鋳物M3の内側(本例では、内部形状規定部材104の中央部)に設けられている。ノズル先端部114に設けられた複数の冷却ガス吹き出し口114aは、凝固界面近傍SIFの鋳物M3の内周面に向けて開口している。ノズル先端部114は、複数の冷却ガス吹き出し口114aから吹き出された冷却ガスを、凝固界面SIF近傍の鋳物M3の内周面に吹き付ける。
【0028】
スタータSTに連結された引上機115により鋳物M3を引き上げつつ、冷却ガスによりスタータSTや鋳物M3を冷却することにより、凝固界面SIF近傍の保持溶湯M2が上側(z軸方向プラス側)から下側(z軸方向マイナス側)へ順次凝固し、鋳物M3が形成されていく。引上機115による引上速度を速くすると凝固界面SIFの位置を上げることができ、引上速度を遅くすると凝固界面SIFの位置を下げることができる。
【0029】
また、引上機115を水平方向(x軸方向やy軸方向)に移動させながら引き上げることにより、保持溶湯M2を斜め方向に導出することができる。そのため、鋳物M3の長手方向の形状を自由に変化させることができる。なお、引上機115を水平方向に移動させる代わりに、形状規定部材102を水平方向に移動させることにより、鋳物M3の長手方向の形状を自由に変化させてもよい。
【0030】
送風部116は、凝固界面SIF近傍の鋳物M3の内周面に冷却ガスを吹き付けることにより発生する負圧領域Xに対して送風する部である。負圧領域Xの詳細については後述する。
【0031】
より具体的には、送風部116は、風供給部117と、ノズル118と、ノズル先端部119と、により構成される。送風部116は、風供給部117により供給された風(空気、又は、冷却ガスと同じ種類のガス等)を、ノズル118を介してノズル先端部119から送風する。
【0032】
ノズル先端部119は、引上機115付近からノズル118によって中空形状の鋳物M3の内側(筒内)に吊るされるようにして配置されている。ノズル先端部119に設けられた複数の送風口119aは、冷却部109のノズル先端部114の上方に位置し、下方の負圧領域Xに向けて開口しており、負圧領域Xに対して送風する。上述のような送風部116の配置の場合、ノズル118を溶湯保持炉101内に設置する必要が無いため、送風部116の設置が容易である。
【0033】
以下、図3図5を用いて、負圧領域Xの発生による課題及び送風部116を用いることによる効果を説明する。
【0034】
図3及び図4は、比較例に係る自由鋳造装置の課題を説明するための図である。図3及び図4に示す自由鋳造装置には、送風部116が設けられていない。図5は、図1に示す自由鋳造装置の一部を示す拡大断面図である。
【0035】
図3に示すように、ノズル先端部114に設けられた複数の冷却ガス吹き出し口114aから吹き出された冷却ガスの流れる流路(図中の黒い矢印)と、内部形状規定部材104の上面と、の間の空間は、冷却ガスの気流の影響で、大気圧よりも低い圧力値を示す負圧状態となる。この負圧状態の空間を負圧領域Xと称している。
【0036】
図4に示すように、送風部116が設けられていない場合、負圧領域Xに接する保持溶湯M2が負圧に引っ張られて中空形状の鋳物M3の内側に流れ込んでしまう場合がある。これを回避するためには、冷却ガスの流量を少なくして負圧領域Xの発生を抑制せざるを得ない。しかしながら、冷却ガスの流量を少なくすると、保持溶湯M2の凝固に時間がかかってしまい、鋳物M3の生産性が低下してしまう。
【0037】
それに対し、図5に示すように、送風部116が設けられた場合、送風部116から負圧領域Xに対して送風されることで、負圧領域Xの負圧状態が緩和される。つまり、負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧が小さくなる。そのため、冷却ガスの流量を減らさなくても、保持溶湯M2が中空形状の鋳物M3の内側に流れ込むのを抑制することができる。
【0038】
続いて、図1及び図6を参照して、実施の形態1にかかる自由鋳造方法について説明する。図6は、実施の形態1にかかる自由鋳造方法を示すフローチャートである。
【0039】
まず、引上機115によりスタータSTを降下させ、外部形状規定部材103と内部形状規定部材104との間の溶湯通過部105を通して、スタータSTの先端部(下端部)を溶湯M1に浸漬させる(ステップS101)。
【0040】
次に、所定の速度でスタータSTの引き上げを開始する。ここで、スタータSTが湯面から離間しても、溶湯M1は、表面膜や表面張力によってスタータSTに追従して湯面から引き上げられ(導出され)保持溶湯M2を形成する。図1に示すように、保持溶湯M2は、形状規定部材102の溶湯通過部105に形成される。つまり、形状規定部材102により、保持溶湯M2に形状が付与される(ステップS102)。
【0041】
次に、スタータSTや鋳物M3は、冷却部109から吹き出される冷却ガスによって冷却される(ステップS103)。それにより、保持溶湯M2が間接的に冷却されて上側から下側に向かって順に凝固し、鋳物M3が成長していく(ステップS104)。このようにして、鋳物M3を連続鋳造することができる。
【0042】
ここで、ノズル先端部114に設けられた複数の冷却ガス吹き出し口114aから吹き出された冷却ガスの流れる流路と、内部形状規定部材104の上面と、の間の空間には、冷却ガスの気流の影響により負圧領域Xが発生する。そこで、送風部116から負圧領域Xに対して送風する(ステップS103)。それにより、負圧領域Xの負圧状態が緩和される。つまり、負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧が小さくなる。それにより、保持溶湯M2が中空形状の鋳物M3の内側に流れ込むのを抑制することができる。
【0043】
図7は、冷却ガスの流量と、負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧と、の関係を示す図である。図7を参照すると、冷却ガスの流量がゼロの場合、負圧領域Xは発生しない(差圧はゼロである)が、冷却ガスの流量が増加するほど、負圧領域Xの負圧は大きくなる(負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧は大きくなる)。また、冷却ガスの流量が一定である場合、冷却ガス吹き出し口114aの面積が小さいほど、冷却ガスの流速が速くなるため、負圧領域Xの負圧は大きくなる。ここで、送風部116は、例えば図7に示す情報に基づいて負圧領域Xの圧力を推定し、風量を調整してもよい。
【0044】
このように、本実施の形態にかかる自由鋳造装置は、中空形状の鋳物M3の内周面に吹き付けられる冷却ガスの影響で発生する負圧領域Xに対して送風する送風部116を備える。それにより、本実施の形態にかかる自由鋳造装置は、負圧領域Xの負圧状態を緩和することができるため、保持溶湯M2が中空形状の鋳物M3の内側に流れ込むのを抑制することができる。
【0045】
<実施の形態2>
図8は、実施の形態2に係る自由鋳造装置を模式的に示す断面図である。図8に示す自由鋳造装置では、図1に示す自由鋳造装置と比較して、送風部116が負圧領域Xの圧力に応じた風量で送風するフィードバック機能をさらに有する。なお、図8におけるxyz座標は、図1と一致している。
【0046】
具体的には、図8に示す自由鋳造装置は、負圧領域X内に設けられた圧力センサ120をさらに備える。圧力センサ120は、負圧領域Xの圧力を測定する。そして、送風部116は、圧力センサ120の測定結果に応じた風量で負圧領域Xに対して送風する。例えば、送風部116は、負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧が小さい場合に風量を少なくし、負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧が大きい場合に風量を多くする。
【0047】
それにより、本実施の形態にかかる自由鋳造装置は、負圧領域Xの負圧状態を緩和するのに適した流量の風を負圧領域Xに送り込むことが可能になるため、より正確に負圧領域Xの負圧状態を緩和することができる。
【0048】
<実施の形態3>
図9は、実施の形態3に係る自由鋳造装置の一部を示す拡大断面図である。図10は、図9に示す形状規定部材102周辺を示す平面図である。なお、図9及び図10におけるxyz座標は、図1と一致している。
【0049】
図9に示す自由鋳造装置では、図1に示す自由鋳造装置と比較して、送風部116に設けられたノズル先端部(及び送風口)の配置位置が異なる。
【0050】
図9に示す自由鋳造装置は、送風部116として、風供給部117、ノズル121及び複数のノズル先端部122を備える。ノズル121の一部は、溶湯M1内に設置されている。溶湯M1内に設置されたノズル121は、内部形状規定部材104の下面からその内部を通過して上面まで延在し、複数のノズル先端部122に接続される。図10を参照すると、複数のノズル先端部122は、負圧領域Xに接する部材の一つである内部形状規定部材104の上面に、冷却部109のノズル先端部114を囲むように設けられている。そして、複数のノズル先端部122のそれぞれに設けられた複数の送風口122aは、負圧領域Xに向けて開口している。
【0051】
図9に示す自由鋳造装置のその他の構成については、図1に示す自由鋳造装置の場合と同様であるため、その説明を省略する。
【0052】
それにより、本実施の形態にかかる自由鋳造装置は、より正確に負圧領域Xに風を送り込むことが可能になるため、より確実に負圧領域Xの負圧状態を緩和することができる。
【0053】
図9に示す自由鋳造装置の変形例)
図11は、図9に示す自由鋳造装置の変形例の一部を示す拡大断面図である。図12は、図11に示す形状規定部材102周辺を示す平面図である。なお、図11及び図12におけるxyz座標は、図1と一致している。
【0054】
図11に示す自由鋳造装置では、図9に示す自由鋳造装置と比較して、送風部116に設けられたノズル先端部(及び送風口)の配置位置が異なる。
【0055】
図11に示す自由鋳造装置は、送風部116として、風供給部117、ノズル123及びノズル先端部124を備える。ノズル123の一部は、溶湯M1内に設置されている。溶湯M1内に設置されたノズル123は、内部形状規定部材104の下面からその内部を通過して上面まで延在し、ノズル先端部124に接続される。ここで、送風部116のノズル先端部124は、冷却部109のノズル先端部114を形成する円柱状の部材を共用している。図11及び図12を参照すると、複数の送風口124aは、負圧領域Xに接する部材の一つであるノズル先端部114,124を形成する円柱状の部材、の側面に設けられ、負圧領域Xに向けて開口している。
【0056】
図11に示す自由鋳造装置のその他の構成については、図9に示す自由鋳造装置の場合と同様であるため、その説明を省略する。
【0057】
それにより、本実施の形態にかかる自由鋳造装置は、より正確に負圧領域Xに風を送り込むことが可能になるため、より確実に負圧領域Xの負圧状態を緩和することができる。
【0058】
以上のように、上記実施の形態1乃至3にかかる自由鋳造装置は、中空形状の鋳物M3の内周面に吹き付けられる冷却ガスの影響で発生する負圧領域Xに対して送風する送風部116を備える。それにより、上記実施の形態1乃至3にかかる自由鋳造装置は、負圧領域Xの負圧状態を緩和することができるため、保持溶湯M2が中空形状の鋳物M3の内側に流れ込むのを抑制することができる。
【0059】
上記実施の形態では、円筒形状の鋳物を鋳造する場合を例に説明したが、これに限られない。角筒形状等のその他の中空形状の鋳物を鋳造する場合にも、本発明を適用可能である。
【0060】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0061】
101 溶湯保持炉
102 形状規定部材
103 外部形状規定部材
104 内部形状規定部材
105 溶湯通過部
106 支持ロッド
107 支持ロッド
108 アクチュエータ
109 冷却部
110 冷却ガス供給部
111 ノズル
112 ノズル
113 ノズル先端部
114 ノズル先端部
114a 冷却ガス吹き出し口
115 引上機
116 送風部
117 風供給部
118 ノズル
119 ノズル先端部
119a 送風口
120 圧力センサ
121 ノズル
122 ノズル先端部
122a 送風口
123 ノズル
124 ノズル先端部
124a 送風口
M1 溶湯
M2 保持溶湯
M3 鋳物
SIF 凝固界面
ST スタータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12