(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明が以下の実施の形態に限定される訳ではない。また、説明を明確にするため、以下の記載及び図面は、適宜、簡略化されている。
【0014】
<実施の形態1>
まず、
図1を参照して、実施の形態1に係る自由鋳造装置(引上式連続鋳造装置)について説明する。
図1は、実施の形態1に係る自由鋳造装置を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、実施の形態1に係る自由鋳造装置は、溶湯保持炉(保持炉)101、形状規定部材102、支持ロッド106,107、アクチュエータ108、冷却部109、送風部116、及び、引上機115を備えている。なお、
図1には、構成要素の位置関係を説明するために便宜的に右手系xyz座標が示されている。
図1におけるxy平面は水平面を構成し、z軸方向が鉛直方向である。より具体的には、z軸のプラス方向が鉛直上向きとなる。
【0015】
溶湯保持炉101は、例えばアルミニウムやその合金などの溶湯M1を収容し、溶湯M1が流動性を有する所定の温度に保持する。
図1の例では、鋳造中に溶湯保持炉101へ溶湯を補充しないため、鋳造の進行とともに溶湯M1の表面(つまり湯面)は低下する。他方、鋳造中に溶湯保持炉101へ溶湯を随時補充し、湯面を一定に保持するような構成としてもよい。ここで、溶湯保持炉101の設定温度を上げると凝固界面SIFの位置を上げることができ、溶湯保持炉101の設定温度を下げると凝固界面SIFの位置を下げることができる。なお、当然のことながら、溶湯M1はアルミニウム以外の金属やその合金であってもよい。
【0016】
形状規定部材102は、例えばセラミックスやステンレスなどからなり、湯面上に配置されている。形状規定部材102は、外部形状規定部材103と、内部形状規定部材104と、により構成されている。外部形状規定部材103は、鋳造する鋳物M3の外部の断面形状を規定し、内部形状規定部材104は、鋳造する鋳物M3の内部の断面形状を規定する。
図1に示した鋳物M3は、水平方向の断面(以下、横断面と称す)の形状が管状の中空鋳物(つまりパイプ)である。
【0017】
図1の例では、外部形状規定部材103及び内部形状規定部材104は、それらの下側の主面(下面)が湯面に接触するように配置されている。それにより、溶湯M1の表面に形成される酸化膜や溶湯M1の表面に浮遊する異物の鋳物M3への混入が抑制される。一方、外部形状規定部材103及び内部形状規定部材104は、それらの下面が湯面に接触しないように設置されてもよい。具体的には、外部形状規定部材103及び内部形状規定部材104は、それらの下面が湯面から所定の距離(例えば0.5mm程度)だけ離間するように配置されてもよい。それにより、外部形状規定部材103及び内部形状規定部材104では、熱変形や溶損が抑制されるため、耐久性が向上する。
【0018】
図2は、
図1に示す形状規定部材102の平面図である。ここで、
図1の形状規定部材102の断面図は、
図2のI−I断面図に相当する。
図2の例では、外部形状規定部材103は、例えば矩形状の平面形状を有し、中央部に円形状の開口部を有している。内部形状規定部材104は、円形状の平面形状を有し、外部形状規定部材103の開口部の中央部に配置されている。外部形状規定部材103と内部形状規定部材104との間の間隙が、溶湯が通過する溶湯通過部105となる。なお、
図2におけるxyz座標は、
図1と一致している。
【0019】
ここで、
図2には、冷却部109のノズル先端部114も示されている。ノズル先端部114は、内部形状規定部材104の中央部に配置されている。ノズル先端部114には、平面視して溶湯通過部105に向けて開口する複数の冷却ガス吹き出し口114aが設けられている。
【0020】
引上機115は、スタータ(導出部材)STを把持し、スタータSTを溶湯M1に浸漬させたり、溶湯M1に浸漬されたスタータSTを引き上げたりする。
【0021】
図1に示すように、溶湯M1は、浸漬されたスタータSTと結合した後、その表面膜や表面張力により外形を維持したままスタータSTに追従して引き上げられ、形状規定部材102の溶湯通過部105を通過する。溶湯M1が形状規定部材102の溶湯通過部105を通過することにより、溶湯M1に対し形状規定部材102から外力が印加され、鋳物M3の断面形状が規定される。ここで、溶湯M1の表面膜や表面張力によってスタータST(又は、スタータSTに追従して引き上げられた溶湯M1が凝固して形成された鋳物M3)に追従して湯面から引き上げられた溶湯を保持溶湯M2と呼ぶ。また、鋳物M3と保持溶湯M2との境界が凝固界面SIFである。
【0022】
支持ロッド106は、外部形状規定部材103を支持し、支持ロッド107は、内部形状規定部材104を支持する。支持ロッド106,107は何れもアクチュエータ108に連結されている。
【0023】
アクチュエータ108は、支持ロッド106,107を介して、外部形状規定部材103及び内部形状規定部材104を上下方向(z軸方向)に移動させることができる。それにより、鋳造の進行による湯面の低下とともに、形状規定部材102を下方向に移動させることができる。
【0024】
冷却部109は、冷却ガス(例えば空気、窒素、アルゴンなど)をスタータSTや鋳物M3に吹き付けることで、間接的に保持溶湯M2を冷却する部である。冷却ガスの流量を増やすと凝固界面SIFの位置を下げることができ、冷却ガスの流量を減らすと凝固界面SIFの位置を上げることができる。なお、冷却部109も、上下方向(鉛直方向;z軸方向)及び水平方向(x軸方向及びy軸方向)に移動可能となっている。そのため、例えば、鋳造の進行による湯面の低下とともに、形状規定部材102の下方向の移動に合わせて、冷却部109を下方向に移動することができる。あるいは、引上機115や形状規定部材102の水平方向の移動に合わせて、冷却部109を水平方向に移動することができる。
【0025】
より具体的には、冷却部109は、冷却ガス供給部110と、ノズル111,112と、ノズル先端部113,114と、により構成される。冷却部109は、冷却ガス供給部110により供給された冷却ガスを、それぞれノズル111,112を介してノズル先端部113,114から吹き出す。
【0026】
ノズル先端部113は、鋳物M3の外側に鋳物M3の外周面を囲むようにして設けられている。ノズル先端部113に設けられた複数の冷却ガス吹き出し口は、凝固界面SIF近傍の鋳物M3の外周面に向けて開口している。ノズル先端部113は、複数の冷却ガス吹き出し口から吹き出された冷却ガスを、凝固界面SIF近傍の鋳物M3の外周面に吹き付ける。
【0027】
ノズル先端部114は、鋳物M3の内側(本例では、内部形状規定部材104の中央部)に設けられている。ノズル先端部114に設けられた複数の冷却ガス吹き出し口114aは、凝固界面近傍SIFの鋳物M3の内周面に向けて開口している。ノズル先端部114は、複数の冷却ガス吹き出し口114aから吹き出された冷却ガスを、凝固界面SIF近傍の鋳物M3の内周面に吹き付ける。
【0028】
スタータSTに連結された引上機115により鋳物M3を引き上げつつ、冷却ガスによりスタータSTや鋳物M3を冷却することにより、凝固界面SIF近傍の保持溶湯M2が上側(z軸方向プラス側)から下側(z軸方向マイナス側)へ順次凝固し、鋳物M3が形成されていく。引上機115による引上速度を速くすると凝固界面SIFの位置を上げることができ、引上速度を遅くすると凝固界面SIFの位置を下げることができる。
【0029】
また、引上機115を水平方向(x軸方向やy軸方向)に移動させながら引き上げることにより、保持溶湯M2を斜め方向に導出することができる。そのため、鋳物M3の長手方向の形状を自由に変化させることができる。なお、引上機115を水平方向に移動させる代わりに、形状規定部材102を水平方向に移動させることにより、鋳物M3の長手方向の形状を自由に変化させてもよい。
【0030】
送風部116は、凝固界面SIF近傍の鋳物M3の内周面に冷却ガスを吹き付けることにより発生する負圧領域Xに対して送風する部である。負圧領域Xの詳細については後述する。
【0031】
より具体的には、送風部116は、風供給部117と、ノズル118と、ノズル先端部119と、により構成される。送風部116は、風供給部117により供給された風(空気、又は、冷却ガスと同じ種類のガス等)を、ノズル118を介してノズル先端部119から送風する。
【0032】
ノズル先端部119は、引上機115付近からノズル118によって中空形状の鋳物M3の内側(筒内)に吊るされるようにして配置されている。ノズル先端部119に設けられた複数の送風口119aは、冷却部109のノズル先端部114の上方に位置し、下方の負圧領域Xに向けて開口しており、負圧領域Xに対して送風する。上述のような送風部116の配置の場合、ノズル118を溶湯保持炉101内に設置する必要が無いため、送風部116の設置が容易である。
【0033】
以下、
図3〜
図5を用いて、負圧領域Xの発生による課題及び送風部116を用いることによる効果を説明する。
【0034】
図3及び
図4は、比較例に係る自由鋳造装置の課題を説明するための図である。
図3及び
図4に示す自由鋳造装置には、送風部116が設けられていない。
図5は、
図1に示す自由鋳造装置の一部を示す拡大断面図である。
【0035】
図3に示すように、ノズル先端部114に設けられた複数の冷却ガス吹き出し口114aから吹き出された冷却ガスの流れる流路(図中の黒い矢印)と、内部形状規定部材104の上面と、の間の空間は、冷却ガスの気流の影響で、大気圧よりも低い圧力値を示す負圧状態となる。この負圧状態の空間を負圧領域Xと称している。
【0036】
図4に示すように、送風部116が設けられていない場合、負圧領域Xに接する保持溶湯M2が負圧に引っ張られて中空形状の鋳物M3の内側に流れ込んでしまう場合がある。これを回避するためには、冷却ガスの流量を少なくして負圧領域Xの発生を抑制せざるを得ない。しかしながら、冷却ガスの流量を少なくすると、保持溶湯M2の凝固に時間がかかってしまい、鋳物M3の生産性が低下してしまう。
【0037】
それに対し、
図5に示すように、送風部116が設けられた場合、送風部116から負圧領域Xに対して送風されることで、負圧領域Xの負圧状態が緩和される。つまり、負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧が小さくなる。そのため、冷却ガスの流量を減らさなくても、保持溶湯M2が中空形状の鋳物M3の内側に流れ込むのを抑制することができる。
【0038】
続いて、
図1及び
図6を参照して、実施の形態1にかかる自由鋳造方法について説明する。
図6は、実施の形態1にかかる自由鋳造方法を示すフローチャートである。
【0039】
まず、引上機115によりスタータSTを降下させ、外部形状規定部材103と内部形状規定部材104との間の溶湯通過部105を通して、スタータSTの先端部(下端部)を溶湯M1に浸漬させる(ステップS101)。
【0040】
次に、所定の速度でスタータSTの引き上げを開始する。ここで、スタータSTが湯面から離間しても、溶湯M1は、表面膜や表面張力によってスタータSTに追従して湯面から引き上げられ(導出され)保持溶湯M2を形成する。
図1に示すように、保持溶湯M2は、形状規定部材102の溶湯通過部105に形成される。つまり、形状規定部材102により、保持溶湯M2に形状が付与される(ステップS102)。
【0041】
次に、スタータSTや鋳物M3は、冷却部109から吹き出される冷却ガスによって冷却される(ステップS103)。それにより、保持溶湯M2が間接的に冷却されて上側から下側に向かって順に凝固し、鋳物M3が成長していく(ステップS104)。このようにして、鋳物M3を連続鋳造することができる。
【0042】
ここで、ノズル先端部114に設けられた複数の冷却ガス吹き出し口114aから吹き出された冷却ガスの流れる流路と、内部形状規定部材104の上面と、の間の空間には、冷却ガスの気流の影響により負圧領域Xが発生する。そこで、送風部116から負圧領域Xに対して送風する(ステップS103)。それにより、負圧領域Xの負圧状態が緩和される。つまり、負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧が小さくなる。それにより、保持溶湯M2が中空形状の鋳物M3の内側に流れ込むのを抑制することができる。
【0043】
図7は、冷却ガスの流量と、負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧と、の関係を示す図である。
図7を参照すると、冷却ガスの流量がゼロの場合、負圧領域Xは発生しない(差圧はゼロである)が、冷却ガスの流量が増加するほど、負圧領域Xの負圧は大きくなる(負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧は大きくなる)。また、冷却ガスの流量が一定である場合、冷却ガス吹き出し口114aの面積が小さいほど、冷却ガスの流速が速くなるため、負圧領域Xの負圧は大きくなる。ここで、送風部116は、例えば
図7に示す情報に基づいて負圧領域Xの圧力を推定し、風量を調整してもよい。
【0044】
このように、本実施の形態にかかる自由鋳造装置は、中空形状の鋳物M3の内周面に吹き付けられる冷却ガスの影響で発生する負圧領域Xに対して送風する送風部116を備える。それにより、本実施の形態にかかる自由鋳造装置は、負圧領域Xの負圧状態を緩和することができるため、保持溶湯M2が中空形状の鋳物M3の内側に流れ込むのを抑制することができる。
【0045】
<実施の形態2>
図8は、実施の形態2に係る自由鋳造装置を模式的に示す断面図である。
図8に示す自由鋳造装置では、
図1に示す自由鋳造装置と比較して、送風部116が負圧領域Xの圧力に応じた風量で送風するフィードバック機能をさらに有する。なお、
図8におけるxyz座標は、
図1と一致している。
【0046】
具体的には、
図8に示す自由鋳造装置は、負圧領域X内に設けられた圧力センサ120をさらに備える。圧力センサ120は、負圧領域Xの圧力を測定する。そして、送風部116は、圧力センサ120の測定結果に応じた風量で負圧領域Xに対して送風する。例えば、送風部116は、負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧が小さい場合に風量を少なくし、負圧領域Xの圧力と大気圧との差圧が大きい場合に風量を多くする。
【0047】
それにより、本実施の形態にかかる自由鋳造装置は、負圧領域Xの負圧状態を緩和するのに適した流量の風を負圧領域Xに送り込むことが可能になるため、より正確に負圧領域Xの負圧状態を緩和することができる。
【0048】
<実施の形態3>
図9は、実施の形態3に係る自由鋳造装置の一部を示す拡大断面図である。
図10は、
図9に示す形状規定部材102周辺を示す平面図である。なお、
図9及び
図10におけるxyz座標は、
図1と一致している。
【0049】
図9に示す自由鋳造装置では、
図1に示す自由鋳造装置と比較して、送風部116に設けられたノズル先端部(及び送風口)の配置位置が異なる。
【0050】
図9に示す自由鋳造装置は、送風部116として、風供給部117、ノズル121及び複数のノズル先端部122を備える。ノズル121の一部は、溶湯M1内に設置されている。溶湯M1内に設置されたノズル121は、内部形状規定部材104の下面からその内部を通過して上面まで延在し、複数のノズル先端部122に接続される。
図10を参照すると、複数のノズル先端部122は、負圧領域Xに接する部材の一つである内部形状規定部材104の上面に、冷却部109のノズル先端部114を囲むように設けられている。そして、複数のノズル先端部122のそれぞれに設けられた複数の送風口122aは、負圧領域Xに向けて開口している。
【0051】
図9に示す自由鋳造装置のその他の構成については、
図1に示す自由鋳造装置の場合と同様であるため、その説明を省略する。
【0052】
それにより、本実施の形態にかかる自由鋳造装置は、より正確に負圧領域Xに風を送り込むことが可能になるため、より確実に負圧領域Xの負圧状態を緩和することができる。
【0053】
(
図9に示す自由鋳造装置の変形例)
図11は、
図9に示す自由鋳造装置の変形例の一部を示す拡大断面図である。
図12は、
図11に示す形状規定部材102周辺を示す平面図である。なお、
図11及び
図12におけるxyz座標は、
図1と一致している。
【0054】
図11に示す自由鋳造装置では、
図9に示す自由鋳造装置と比較して、送風部116に設けられたノズル先端部(及び送風口)の配置位置が異なる。
【0055】
図11に示す自由鋳造装置は、送風部116として、風供給部117、ノズル123及びノズル先端部124を備える。ノズル123の一部は、溶湯M1内に設置されている。溶湯M1内に設置されたノズル123は、内部形状規定部材104の下面からその内部を通過して上面まで延在し、ノズル先端部124に接続される。ここで、送風部116のノズル先端部124は、冷却部109のノズル先端部114を形成する円柱状の部材を共用している。
図11及び
図12を参照すると、複数の送風口124aは、負圧領域Xに接する部材の一つであるノズル先端部114,124を形成する円柱状の部材、の側面に設けられ、負圧領域Xに向けて開口している。
【0056】
図11に示す自由鋳造装置のその他の構成については、
図9に示す自由鋳造装置の場合と同様であるため、その説明を省略する。
【0057】
それにより、本実施の形態にかかる自由鋳造装置は、より正確に負圧領域Xに風を送り込むことが可能になるため、より確実に負圧領域Xの負圧状態を緩和することができる。
【0058】
以上のように、上記実施の形態1乃至3にかかる自由鋳造装置は、中空形状の鋳物M3の内周面に吹き付けられる冷却ガスの影響で発生する負圧領域Xに対して送風する送風部116を備える。それにより、上記実施の形態1乃至3にかかる自由鋳造装置は、負圧領域Xの負圧状態を緩和することができるため、保持溶湯M2が中空形状の鋳物M3の内側に流れ込むのを抑制することができる。
【0059】
上記実施の形態では、円筒形状の鋳物を鋳造する場合を例に説明したが、これに限られない。角筒形状等のその他の中空形状の鋳物を鋳造する場合にも、本発明を適用可能である。
【0060】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。